電子式変速制御ユニット
【課題】スロットル弁全閉時にシフトダウン操作をした時の空走感および変速ショックを解消し、すべり摩耗によるベルトの寿命の短縮を極力抑制した電子式変速制御ユニットを提供する。
【解決手段】スロットルバルブのスロットル弁開度θが全閉状態でシフトダウンの入力があった全閉シフトダウン検出時は、全閉シフトダウン制御に入り、スロットル用アクチュエータを駆動制御して前記スロットルバルブを所要スロットル弁開度θ1で所要開弁時間Tthだけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて変速用アクチュエータを駆動し駆動プーリを作動してシフトダウン作動を行う電子式変速制御ユニット。
【解決手段】スロットルバルブのスロットル弁開度θが全閉状態でシフトダウンの入力があった全閉シフトダウン検出時は、全閉シフトダウン制御に入り、スロットル用アクチュエータを駆動制御して前記スロットルバルブを所要スロットル弁開度θ1で所要開弁時間Tthだけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて変速用アクチュエータを駆動し駆動プーリを作動してシフトダウン作動を行う電子式変速制御ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速用アクチュエータの駆動で変速されるベルト式無段変速機を内燃機関とともに備えたパワーユニットにおいて変速制御を行う電子式変速制御ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機は、駆動プーリと従動プーリとの間にVベルトを架渡し、駆動プーリへのVベルトの駆動側巻掛け径を変えることで、従動プーリへのVベルトの従動側巻掛け径が自ずと変化して変速比が変更されて無段階に変速が可能な変速機である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−079756号公報
【0004】
特許文献1に開示されたベルト式無段変速機は、自動二輪車に搭載され、駆動プーリが、駆動軸に固定される駆動プーリ固定半体と軸方向に移動自在にスプライン嵌合する駆動プーリ移動半体との間にVベルトが巻掛けられ、駆動プーリ移動半体の軸方向の移動で駆動側巻掛け径を変える。
後輪側の後方に位置する従動プーリは、従動軸に固定される従動プーリ固定半体とトルクカムを介して軸方向に移動可能でスプリングにより閉じ方向に付勢された従動プーリ移動半体との間にVベルトが巻掛けられ、駆動側巻掛け径に応じて従動側巻掛け径を変え変速する。
【0005】
駆動プーリ側の動力が従動プーリ側に伝達される通常走行時は、駆動プーリと従動プーリ間の上下のVベルトのうち上側となるベルト(上側ベルトと称する)を駆動プーリが巻き込むようにして引っ張り従動プーリに動力を伝達し、上側ベルトが緊張して駆動プーリ側に引っ張られることで、従動プーリ側のトルクカムに正トルクが作用して従動プーリはVベルトを挟む方向に側圧を生じスプリングの付勢力に加勢してVベルトの挟持を強めてVベルトの滑りを生じさせないようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
減速時には、駆動輪の回転による従動プーリの回転が、駆動プーリと従動プーリ間の下側となるベルト(下側ベルトと称する)を巻き込むようにして引っ張り駆動プーリに動力を伝達することになり、所謂エンジンブレーキが働く。
このとき、下側ベルトが緊張して従動プーリに巻き込まれるので、トルクカムには逆トルクが作用して従動プーリがVベルトを挟むのではなく逆に開く方向に側圧を生じてスプリングの付勢力を抑制してVベルトの挟持を弱める状態にある。
【0007】
このようなスロットル弁を全閉として減速しているとき、すなわち従動プーリが下側ベルトを引っ張り緊張させてエンジンブレーキが働いているときに、シフトダウン操作があると、シフトダウン作動により駆動プーリが開き(互いの駆動プーリ半体を離し)駆動側巻掛け径を小さくし、僅かに遅れて従動プーリが閉じ(互いの従動プーリ半体を近づけ)従動側巻掛け径を大きくし始めるが、その間に駆動プーリの開きで、駆動プーリのVベルトへの側圧が低下し、下側ベルトに発生した張力を駆動プーリへ伝達できなくなり、さらに従動プーリによる下側ベルトの張力によりベルトが回転方向に引かれる状態が発生するため、弛んでいた上側ベルトが瞬間的に引かれることで、駆動プーリとVベルトの間で瞬間的に滑りが発生する。
駆動プーリ側で滑りを生じると、緊張していた下側ベルトが緩み、そのため元々トルクカムが開く方向に側圧を生じて滑りを生じ易い状態にあった従動プーリ側も滑りを生じ、所謂「ギア抜け」とも呼ばれる空走感が発生することがある。
【0008】
この間、下側ベルトは緩み駆動プーリと従動プーリ間で弛みを生じており、その後、従動プーリがスプリングにより閉じると、滑りを生じていた従動プーリがVベルトを捉えて、従動プーリが弛んだ下側ベルトを巻き込むようにして引っ張り、緊張させて再びエンジンブレーキが働き始める。
この従動プーリがVベルトを捉えて下側ベルトを弛んだ状態から引っ張り緊張させるときに、軽い変速ショックを生じる。
また、駆動プーリおよび従動プーリの双方でVベルトの滑りが生じ、滑りによる摩耗がベルトの寿命を短くする原因となる場合がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、スロットル弁全閉時にシフトダウン操作をした時の空走感および変速ショックを解消し、すべり摩耗によるベルトの寿命の短縮を極力抑制した電子式変速制御ユニットを供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、
スロットルグリップ(211)の操作によるグリップ開度(φ)に応じてスロットル用アクチュエータ(23M)を駆動して内燃機関(E)の吸気通路に設けられたスロットルバルブ(23v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、
運転者が変速操作をするシフトスイッチ手段(217)の入力に基づき駆動プーリ(12)とトルクカム(180)を備える従動プーリ(13)との間にベルト(14)が架渡されたベルト式無段変速機(15)の前記駆動プーリ(12)を変速用アクチュエータ(28)の駆動で作動して前記ベルト(14)の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構と、
前記電子式スロットルバルブ機構と前記電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段(201)と、
を備える電子式変速制御ユニット(200)において、
前記変速制御手段(201)は、
前記スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの入力があった全閉シフトダウン検出時は、全閉シフトダウン制御に入り、前記スロットル用アクチュエータ(23M)を駆動制御して前記スロットルバルブ(23v)を所要スロットル弁開度(θ1)で所要開弁時間(Tth)だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動し前記駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うことを特徴とする電子式変速制御ユニットである。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、シフトダウン後の機関回転数(Nb)を上限機関回転数とし、同上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数(Nm)として所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)を設定し、設定された所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)とにより前記スロットルバルブ(23v)を開弁することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
全閉シフトダウン制御において、シフトダウン後の機関回転数(Nb)におけるパーシャルスロットル弁開度(θp)より小さいスロットル弁開度を前記所要スロットル弁開度(θ1)とすることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後に前記スロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ1)で前記所要開弁時間(Tth)開き、
前記スロットルバルブ(23v)の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動することを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後に前記スロットルバルブ(23v)を開き始め、所要スロットル弁開度(θ2)で開弁し、
前記所要開弁時間(Tth)以内の所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動し、
シフトダウン作動と同時に前記スロットルバルブ(23v)をシフトダウン作動前の前記所要スロットル弁開度(θ2)より大きい所要スロットル弁開度(θ3)で前記所要開弁時間(Tth)経過するまで開くことを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後から前記スロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ4)で所要開弁時間(Tth)の開閉を複数回行い、
前記スロットルバルブ(23v)の最初の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動することを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動が完了した時点で前記全閉シフトダウン制御を終了することを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作の入力があると、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動を通常速度より高速に設定することを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の発明は、請求項1から請求項7までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御において、加速操作の入力があると、全閉シフトダウン制御を中止することを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の発明は、
内燃機関(E)の吸気通路に設けられたスロットルバルブ(23v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、
前記スロットルバルブ(23v)を迂回するバイパス通路に設けられたアイドルエア制御バルブを制御するアイドルエア制御機構と、
駆動プーリ(12)とトルクカム(180)を備える従動プーリ(13)との間にベルト(14)が架渡されたベルト式無段変速機(15)の前記駆動プーリ(12)を変速用アクチュエータ(28)の駆動で作動して前記ベルト(14)の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構と、
前記アイドルエア制御機構と前記電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段と、
を備える電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段は、
前記スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの指示が入力されときは、全閉シフトダウン制御に入り、前記アイドルエア制御バルブを所要開弁時間だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて前記変速用アクチュエータを駆動し前記駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うことを特徴とする電子式変速制御ユニットである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載のパワーユニットによれば、スロットルバルブ(23v)を全閉として減速しており下側ベルトが緊張してエンジンブレーキが働いているときに、シフトダウンの指示があると、まずスロットルバルブ(23v)を所要スロットル弁開度(θ1,θ2)で所要開弁時間(Tth)だけ開き、駆動プーリの加速回転で駆動プーリ(12)がベルト(14)の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ(13)側ではトルクカム(180)によりベルト(14)を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態とし、同時にまたは遅れて変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動を行い駆動プーリ(12)を開くので、駆動プーリ(12)の移動にベルト(14)が速やかに追従し、駆動プーリ(12)側でのベルト(14)の滑りを最小限に抑えることができ、従動プーリ(13)側ではトルクカム(180)の作用により滑りを生じさせないまま従動プーリ(13)が閉じ始め、益々滑りが抑えられて下側ベルトを引っ張り、下側ベルトを緊張させてエンジンブレーキを再び働かせることができる。
【0021】
このように全閉シフトダウン検出時に、従動プーリ(13)は滑りを生じさせないままベルト(14)の下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、空走感を解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンさせることができる。
また、このとき従動プーリ(13)は弛んでいた下側ベルトを外周へ速やかに巻き込むことができるので、スプリング(129)による従動プーリ(13)の閉じ方向の移動は小さい抵抗で速やかに実行され、変速が速やかに完了する。
さらに、全閉シフトダウン時に、駆動プーリ(12)および従動プーリ(13)の双方でベルトの滑りが発生しないので、滑り摩耗によるベルトの寿命の短縮を極力抑制することができる。
【0022】
請求項2記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御に入ると、シフトダウン後の機関回転数(Nb)を上限機関回転数とし、同上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数(Nm)として所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)を設定し、この設定された所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)とによりスロットルバルブ(23v)を開弁するので、スロットルバルブ(23v)を最適開弁制御してシフトダウン完了までの間に不要な機関回転数の上昇を防止することができ、空走感を最小限に抑えて素早く滑らかにシフトダウンすることができる。
【0023】
請求項3記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御において、シフトダウン後の機関回転数(Nb)におけるパーシャルスロットル弁開度(θp)より小さいスロットル弁開度を所要スロットル弁開度(θ1)とすることで、機関出力が減速から加速に転じることがなく、機関回転数がシフトダウン後の変速段の機関回転数(Nb)を越えてオーバーシュートするのを防止して確実にシフトダウンすることができ、シフトダウン後の空走感も抑制することができる。
【0024】
請求項4記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御に入った直後にスロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ1)で所要開弁時間(Tth)開き、スロットルバルブ(23v)の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動するので、駆動プーリを開くシフトダウン作動をする前に、スロットルバルブ(23v)を開弁して駆動プーリ(12)が上側ベルトを緊張させ、従動プーリ(13)側でトルクカム(180)によりベルト(14)を挟む方向に側圧を十分増して滑りを確実に抑えた状態とすることができ、シフトダウン時の空走感を最小限に抑えることができる。
【0025】
請求項5記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後にスロットルバルブ(23v)を開き始め、駆動プーリ(12)の加速回転で駆動プーリ(12)がベルト(14)の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ(13)側ではトルクカム(180)によりベルト(14)を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態に確実にした短時間(Td)後に、遅れてシフトダウン作動を行い駆動プーリ(12)を開くので、従動プーリ(13)は滑りを生じさせないまま下側ベルトを引っ張り始め、さらにスロットルバルブ(23v)をシフトダウン作動前のスロットル弁開度(θ2)より大きいスロットル弁開度(θ3)だけ開くため、駆動プーリ(12)はさらに加速回転しベルト(14)の滑りは確実に抑えられ、よって空走感を確実に解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンしてエンジンブレーキを復帰させることができる。
全閉シフトダウン時に、駆動プーリ(12)および従動プーリ(13)の双方でベルト(14)の滑りが殆ど発生しないので、滑り摩耗によるベルト(14)の寿命の短縮を益々抑制することができる。
【0026】
請求項6記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後からスロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ4)で所要開弁時間(Tth)の開閉を複数回行い、スロットルバルブの最初の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動するので、より細かな機関回転数制御を行い、一層確実に目標機関回転数に到達できるので、機関回転数のオーバーシュートを確実に防止でき、シフトダウン後の空走感も抑制することができる。
【0027】
請求項7記載の電子式変速制御ユニットによれば、変速制御手段は、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動が完了した時点で前記全閉シフトダウン制御を終了するので、シフトダウン完了後の不要なスロットル作動を防止して、シフトダウン後の空走感の発生を抑制できるとともに、シフトダウン完了後のエンジンブレーキを妨げることがない。
【0028】
請求項8記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作の入力があると、変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動を通常速度より高速に設定するので、スロットルバルブ(23v)が開き機関回転数が一瞬上昇し、上側ベルトに張力が発生することで、緩みが生じた下側ベルトは従動プーリ(13)の外周に速やかに巻き込まれるようになっているため、ブレーキ操作の入力時にシフトダウン作動を通常速度より高速にしても、従動プーリ(13)は素早く追従して移動することができ、ブレーキ操作による減速に合せて早期にシフトダウンを完了させることができる。
シフトダウンが早期に完了することで、速やかに次の加速態勢に移行することを可能とする。
【0029】
請求項9記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御において、加速操作の入力があると、全閉シフトダウン制御を中止するので、全閉シフトダウン制御から通常のスロットル制御に速やかに戻し、運転者の意思に沿って円滑に加速態勢に移ることができ、違和感が抑えられる。
【0030】
請求項10記載の電子式変速制御ユニットによれば、スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの指示が入力されたときは、全閉シフトダウン制御に入り、アイドルエア制御バルブを所要開弁時間だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて変速用アクチュエータ(28)を駆動し駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うので、全閉シフトダウン検出時に、アイドルエア制御バルブの開弁で駆動プーリ(12)が上側ベルトを巻き込み緊張させることで、トルクカム(180)の作動で従動プーリ(13)は滑りを生じさせないままベルト(14)の下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、空走感を解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンさせることができる。
【0031】
このとき従動プーリ(13)は弛んでいた下側ベルトを外周へ速やかに巻き込むことができるので、スプリングによる従動プーリ(13)の閉じ方向の移動は小さい抵抗で速やかに実行され、変速が速やかに完了する。
さらに、全閉シフトダウン時に、駆動プーリ(12)および従動プーリ(13)の双方でベルトの滑りが発生しないので、滑り摩耗によるベルトの寿命の短縮を極力抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係るパワーユニットPを搭載した自動二輪車1の側面図である。
【図2】上記自動二輪車1の後部の拡大図である。
【図3】上記自動二輪車の後部に懸架されたパワーユニットPの上面図である。
【図4】上記パワーユニットPの側面図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】図4のB−B断面図である。
【図7】従動プーリ13及び動力系減速ギヤ機構16とその周辺部の拡大断面図である。
【図8】パワーユニットPの変速制御系の簡略ブロック図である。
【図9】変速制御手段が備える車速vと機関回転数nに基づく変速パターンマップである。
【図10】変速パターンマップの一部拡大図である。
【図11】実施例1の変速制御ルーチンのフローチャートである。
【図12】実施例1の全閉シフトダウン制御ルーチンのフローチャートである。
【図13】実施例1の変速制御のタイムチャートである。
【図14】実施例2の変速制御のタイムチャートである。
【図15】実施例3の変速制御のタイムチャートである。
【図16】実施例4の変速制御のタイムチャートである。
【図17】実施例5の変速制御ルーチンのフローチャートである。
【図18】実施例5の全閉シフトダウン制御ルーチンのフローチャートである。
【図19】実施例5の変速制御のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る一実施形態について図1ないし図13に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るパワーユニットPを搭載した自動二輪車1の側面図、図2は上記自動二輪車1の後部の拡大図である。
パワーユニットPは、内燃機関EとVベルト式無段変速機15が一体に構成されたものである。
図1において、この自動二輪車1の車体フレームFrは、フロントフォーク2を回動可能に支承するヘッドパイプ3と、同ヘッドパイプ3から後下がりに伸びるメインフレーム4と、一端がメインフレーム4の中間部に接続されて後上がりに伸びる左右一対のリヤフレーム5と、ヘッドパイプ3から下方に伸び後方へ曲がりメインフレーム4の下端に接続されるダウンフレーム6と、上記メインフレーム4の下端とリヤフレーム5の中間部とを接続するミドルフレーム7とから構成されている。
フロントフォーク2の下端には前輪WFが軸支され、フロントフォーク2の上部には操向ハンドル8が連結され、前輪の上方を覆うフロントフェンダ9が、フロントフォーク2に支持されている。メインフレーム4とダウンフレーム6の間に燃料タンク10が設けてある。
【0034】
図2を併せて参照して、リヤフレーム5とミドルフレーム7の両側面にピボットプレート150が固着されている。
同ピボットプレート150にピボット軸151を介して保持された懸架リンク152と、パワーユニットPと一体のエンジンハンガー39と、支持軸153を介して、パワーユニットPが、シリンダ軸線を若干前上がりにして揺動可能に懸架されている。
【0035】
パワーユニットPの後端ブラケット40とリヤフレーム5との間にはリヤクッション154が設けてある。
パワーユニットPの後部から右方へ突出する後車軸27に後輪WRが取り付けられ、パワーユニットPによって駆動される。
パワーユニットPの上方にはヘルメット155等を収納する収納ボックス156が設けられ、収納ボックス156の上方には乗車用シート157が配置されている。
【0036】
パワーユニットPの右側上方にはエアクリーナ158が設けてあり、インレットパイプ30に連なるスロットルボディ23に、連結管160を介して接続されている。
スロットルボディ23には、スロットルバルブ23vを回動してスロットル弁開度を設定するスロットル用電動モータ23Mおよびスロットルバルブ23vの回動軸の回動角度からスロットル弁開度θを検出するスロットルセンサ23Sが設けられている。
【0037】
図1において、車体フレームFrには、合成樹脂製の複数の部材を連ねた車体カバー161が取付けられ、パワーユニットPやその他の機器類を覆っている。
車両後部にリヤフェンダ162が設けてある。車両の右側に、エンジンの排気管163に連なるマフラ164が設けてある。
【0038】
図3は上記自動二輪車の後部に懸架されたパワーユニットPの上面図である。矢印Fは車両の前方を指している。車両の左右にリヤフレーム5、5が設けられ、連結フレーム165、166を介して互いに連結されている。
車両の中心線C−Cに沿って後輪WRが設けてある。車両の左側に伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34が設けてある。伝動ケースの前部は左側クランクケース32Aとなっている。
【0039】
左側クランクケース32Aと右側クランクケース33とによってクランクケース17が構成されている。車両の右側にエアクリーナ158が設けられ、連結管160を介してスロットルボディ23と連結されている。
クランクケース17の上方にスタータモータ60と、駆動プーリ制御用電動モータ28が設けてある。スタータモータ60は右側クランクケース33に取り付けてあり、駆動プーリ制御用電動モータ28は左側クランクケース32Aに取り付けてある。
エアクリーナ158の右側下方にマフラ164が設けてある。
【0040】
図4は上記パワーユニットPの側面図である。内部構造の一部が見える状態で描いてある。パワーユニットPの前部にエンジン11が構成され、エンジン11から後方へかけて、駆動プーリ12と、従動プーリ13と、これらに巻き掛けられている無端状Vベルト14からなるVベルト式無段変速機15が設けられ、その後部に動力系減速ギヤ機構16が設けてある。
【0041】
エンジン11は、4ストロークサイクルエンジンで、パワーユニットPの前部において、クランクケース17の前端面から前方へ順に、シリンダブロック18、シリンダヘッド19、シリンダヘッドカバー20が重ねられて、略水平に近い状態まで大きく前傾した姿勢となっている。
【0042】
シリンダヘッド19の上側の吸気ポート21に取り付けられるインレットパイプ30には、燃料噴射弁22が取付けられ、更に後方にはスロットルボディ23、及びエアクリーナ158(図1〜図3)が接続される。
シリンダヘッド19の下側の排気ポート24からは、下方に、排気管162(図1、図2)が延出し、後方へ屈曲し、マフラー164(図1、図3)に接続される。
クランクケース17の下部にはオイルフィルタ31が設けてある。
【0043】
Vベルト式無段変速機15において、駆動プーリ12の駆動軸はクランク軸25である。従動プーリ13の回転軸、即ち従動軸26は、動力系減速ギヤ機構16の入力軸となっている。動力系減速ギヤ機構16の出力軸は後車軸27であり、後輪WR(図1)が取付けられる。
クランク軸25の上方に、駆動プーリ制御用電動モータ28と駆動プーリ制御部減速ギヤ機構29が配置されている。
【0044】
図5は、図4のA−A断面図である。
パワーユニットPにおいて、左右方向に設けられる複数の回転軸を支持する殻体は、左側クランクケース32A、同左側クランクケース32Aの後方に一体に連なる伝動ケース32B、右側クランクケース33、伝動ケースカバー34、制御部ギヤカバー35(図6)、及び後部ギヤカバー36からなっている。伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34は前後長が長いものである。制御部ギヤカバー35は伝動ケースカバー34の上部に連なるものである。
【0045】
左側クランクケース32Aと右側クランクケース33とはクランクケース17を構成し、伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34と制御部ギヤカバー35(図6)と後部ギヤカバー36とは変速機ケース37を構成している。
変速機ケース37の中で、伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34に挟まれた部分は、Vベルト式無段変速機15を収容する変速機室38、左側クランクケース32Aと制御部ギヤカバー35とに挟まれた部分は駆動プーリ制御部減速ギヤ機構29の収容部、伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36とに挟まれた部分は動力系減速ギヤ機構16の収容部となっている。
クランクケース17の前端から、前方へ順にシリンダブロック18、シリンダヘッド19、及びシリンダヘッドカバー20が重ねて設けてある。
【0046】
図5において、クランク軸25は、左側クランクケース32Aと右側クランクケース33のジャーナル軸受42A、42Bを介して回転可能に支持され、さらにクランク軸25の左端は伝動ケースカバー34にボールベアリング43を介して回転可能に支持されている。
シリンダブロック18に形成されたシリンダ孔44にピストン45が摺動可能に嵌装されている。
【0047】
クランク軸25およびピストン45に、コンロッド46の両端が、それぞれクランクピン47およびピストンピン48を介して枢支され、ピストン45が往復動すると、それに伴ってクランク軸25が回転する。
ピストン45の上端面に向き合うシリンダヘッド19の底面には燃焼室49が形成され、シリンダヘッド19の側部から点火プラグ50が装着され、その先端が上記燃焼室49に臨んでいる。
【0048】
シリンダヘッド19とシリンダヘッドカバー20の間にクランク軸25と平行にカム軸51が支承され、カム軸51に設けられたカム51a、51bによって、吸気弁、排気弁が開閉駆動される。
クランク軸25の右部に設けられた駆動スプロケット52とカム軸51の右端に設けられた従動スプロケット53との間に巻き掛けられたカムチェーン54によって、カム軸51はクランク軸25によって回転駆動される。
【0049】
右側クランクケース33の右外側に右側クランクケースカバー55が設けてあり、同右側クランクケースカバー55の内面に固定されたステータ56と、クランク軸25に固定され上記ステータ56を囲むロータ57とから、発電機58が構成されている。発電機58に隣接してスタータ従動ギヤ59が設けてある。
これは、クランク軸25がスタータモータ60(図3、図4)からの回転駆動を受けるための歯車である。
【0050】
図5の右側クランクウエブ61Bに隣接してバランサ駆動ギヤ62が設けてある。
これは、左右のクランクウエブ61A、61Bの間隔部の上方で回転するバランサ63(図6)を駆動するためのものである。
【0051】
図5において、Vベルト式無段変速機15を収納する変速機室38は、伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34との間に設けられている。Vベルト式無段変速機15の駆動軸は、クランク軸25そのものであり、クランク軸25の左端部が左側クランクケース32Aから左方の変速機室38内に突出し、この突出部にVベルト式無段変速機15の駆動プーリ12が設けてある。
駆動プーリ12は駆動プーリ固定半体66と駆動プーリ可動半体67とを備えて構成されている。
【0052】
Vベルト式無段変速機15の従動軸26は、伝動ケースカバー34と伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36にそれぞれボールベアリング70A、70B、70Cを介して回転自在に支持されている。
この従動軸26に遠心クラッチ73を介してVベルト式無段変速機15の従動プーリ13が設けてある。従動プーリ13は従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75とを備えて構成されている。
【0053】
駆動プーリ12と従動プーリ13とに無端状Vベルト14が架渡され、駆動プーリ12の回転が従動プーリ13に伝達される。
従動プーリ13の回転数が所定回転数を越えると、従動プーリ13と従動軸26との間に設けられている遠心クラッチ73が接続状態となり、従動軸26が回転を始める。
従動軸26の回転トルクは、動力系減速ギヤ機構16を介して減速されて後車軸27へ伝達され、後車軸27に一体的に固定されている後輪WRの回転に供される。
【0054】
図6は、図4のB−B断面図である。左右のクランクウエブ61A、61Bの間隔部の上方に、ボールベアリング65、65で支持されたバランサ63が設けてある。
右側クランクウエブ61Bに隣接してクランク軸25に設けられたバランサ駆動ギヤ62とバランサ軸に固定されたバランサ従動ギヤ64を介して、上記バランサ63は回転駆動される。
【0055】
変速機室38に突出しているクランク軸25に設けられている駆動プーリ12は、駆動プーリ固定半体66と駆動プーリ可動半体67とからなっている。
クランク軸25の変速機室38内への突出部には、クランク軸25の中心部に近い側から、段差25aと段差25bで区切られた第1小径部25Aと、段差25bと軸端25cで区切られた第2小径部25Bが形成されている。
第1小径部25Aの軸端側の半分と第2小径部25Bの軸端側の半分にはそれぞれスプラインが設けてある。
【0056】
第1小径部25Aには、ボールベアリング76の内輪と、第1支持スリーブ77と、ガイドスリーブ78が嵌挿され、第2小径部25Bには、第2支持スリーブ79と、駆動プーリ固定半体66とカラー80が嵌装されている。
スリーブ77、78、79、及びカラー80はスチール製、駆動プーリ固定半体66はアルミ合金製である。上記各部材は、クランク軸25の端部のねじ孔にワッシャ81を介して螺入されたボルト82で締められ、クランク軸25方向に移動不能に固定される。上記部材のうち、ガイドスリーブ78は、その内面に形成されたスプラインを介してクランク軸25の第1小径部25Aのスプラインに嵌装されている。
【0057】
駆動プーリ固定半体66はその中心孔の内側のスプラインを介して第2小径部25Bのスプラインに嵌装されている。したがって、ガイドスリーブ78及び駆動プーリ固定半体66はクランク軸25に対して相対回転不能に固定され、クランク軸25と共に回転する。
クランク軸25の左端は、上記カラー80とボールベアリング43を介して伝動ケースカバー34に支持されている。カラー80にはフレッティング磨耗防止のためのグリス溝80aが設けられ、その両側に設けられたOリング溝80bにOリングが装着してある。
【0058】
駆動プーリ可動半体67は、中心のスチール製の可動半体ハブ部67Aと、アルミ合金製の傘状部67Bからなっている。
これは、あらかじめ製作されている可動半体ハブ部67Aの端部に傘状部67Bが鋳造によって一体的に形成されたものである。
【0059】
駆動プーリ可動半体ハブ部67Aの内周には、内方へ突出する突起状スプライン67iが形成され、ガイドスリーブ78の外周に形成された外周スプライン78eに嵌合している。
上記ガイドスリーブ78の外周スプライン78eは軸方向に長いスプラインであるから、上記突起状スプライン67iは、外周スプライン78eの溝の中で軸方向に摺動可能である。
したがって、駆動プーリ可動半体67は、クランク軸25に対しては相対回転不可であるが、軸方向には移動可能に保持される。ガイドスリーブ78の外周スプライン78eの溝にはグリースが塗布され、可動半体ハブ部67Aの突起状スプライン67iの摺動を円滑化している。
可動半体ハブ部67Aの両端部には、上記グリースの漏出防止と埃の侵入防止のためのシール83が設けてある。
【0060】
図6において、クランク軸25にボールベアリング76の内輪が軸方向移動不能に装着されている。
ボールベアリング外輪保持部材85は、上記ボールベアリング76の外輪を保持することによって、ボールベアリング外輪保持部材85自体が軸方向移動不能となっている。
ボールベアリング外輪保持部材85の外周のフランジ部に雌ネジ円筒部材86がボルト87によって一体化されている。雌ネジ円筒部材86のフランジ部の外周には、大径歯車88が形成されている。
【0061】
ボールベアリング外輪保持部材85と雌ネジ円筒部材86とボルト87と大径歯車88は一体となって定位置回転ネジ部材89を形成している。
定位置回転ネジ部材89は、クランク軸25の軸方向の定位置で、クランク軸25とは独立の回転を行うことができる。
定位置回転ネジ部材89の大径歯車88は、駆動プーリ制御用電動モータ28と駆動プーリ制御部減速ギヤ機構29によって回転駆動される。
【0062】
駆動プーリ12の可動半体ハブ部67Aの外周にはボールベアリング91の内輪が軸方向相対移動不能に装着され、雄ネジ円筒部材92が、上記ボールベアリング91の外輪を一体的に保持している。雄ネジ円筒部材92の外周の雄ネジ部は、上記雌ネジ円筒部材86の内周の雌ネジ部に係合している。
【0063】
雄ネジ円筒部材92のフランジ部92aには、雄ネジ円筒部材92の回り止め部として機能する環状部材93がボルト94を介して固定されている。
上記環状部材93の周囲の一部は後方に延び、その後方延出部93aは外端部で定位置回転ネジ部材89の大径歯車88の外側を回って右方へ延出し、回り止め部93bとなっている。
雄ネジ円筒部材92と環状部材93とはボルト94で一体化して軸方向移動ネジ部材95を形成している。
【0064】
上記回り止め部93bは、伝動ケース32Bの内面から変速機室38内に突出形成された一対のガイド片96、96に挟まれ、回転を規制されるとともにクランク軸方向の移動を案内される。
これによって、定位置回転ネジ部材89が回転した時、上記回り止め部93bが連なる軸方向移動ネジ部材95は、回転を規制された状態で、クランク軸方向の移動を案内され、クランク軸25の軸線方向に移動する。
上記定位置回転ネジ部材89と軸方向移動ネジ部材95とによって駆動プーリ可動半体を駆動するネジ式送り機構が構成されている。
【0065】
上記環状部材93にはその後方延出部93aの根元の近くに左ストッパ93cが一体形成されている。これは、軸方向移動ネジ部材95の右方移動の限界を検知するためのものである。
環状部材93から延出した回り止め部93bの先端には右ストッパ97がボルト98によって取り付けてある。
これは、軸方向移動ネジ部材95の左方移動の限界を検知するためのものである。
【0066】
上記定位置回転ネジ部材89は、駆動プーリ制御のための変速用電動モータ28と駆動プーリ制御部減速ギヤ機構29によって回転駆動される。
左側クランクケース32Aの左側に制御部ギヤカバー35が取り付けられ、これらのケース32とカバー35に挟まれた部分に制御部ギヤ室101が形成されている。
取付け板102を介して、電動モータ28が左側クランクケース32Aの右側外面に取り付けられ、同電動モータ28をモータケース103が覆っている。
上記電動モータ28の回転軸104に刻設されたピニオン105が制御部ギヤ室101の中に突入している。
電動モータ28は、左側クランクケース32Aの外側に装着されるので、電動モータ28のメインテナンス性が確保される。
【0067】
上記ピニオン105に噛み合う大径歯車106と、これに隣接する小径歯車107とが一体に構成された第1中間歯車108が、左側クランクケース32Aと制御部ギヤカバー35にボールベアリング109、109を介して回転可能に支持されている。
上記小径歯車107に噛み合う大径歯車110と、これに一体的に隣接する小径歯車111とが、回転軸112に嵌挿されて一体化された第2中間歯車113が、左側クランクケース32Aと制御部ギヤカバー35にボールベアリング114、114を介して回転可能に支持されている。
上記小径歯車111に、前述の定位置回転ネジ部材89の大径歯車88が噛み合っている。
図4に、上記ピニオン105の回転中心105c、第1中間歯車108の回転中心108c、第2中間歯車113の回転中心113cが示してある。
【0068】
第2中間歯車113の回転軸112の左端にはウオーム115が刻設されており、制御部ギヤカバー35のウオーム115の近傍にセンサ取付部35aが形成され、同センサ取付部35aに駆動プーリ変速位置センサ116が取り付けられている。
駆動プーリ変速位置センサ116は、突出した回転軸に嵌着されたウオームホイール116hがウオーム115と噛み合うようになっている。
駆動プーリ変速位置センサ116は、ウオーム115とウオームホイール116hの噛合いによって第2中間歯車113の回転量を検出し、これを基に駆動プーリ可動半体67の移動位置を検出するものである。
【0069】
図6において、電動モータ28が制御指令に応じて正方向に回転すると、ピニオン105、第1中間歯車108、第2中間歯車113を経由して動力が伝達され、定位置回転ネジ部材89が回転し、定位置回転ネジ部材89のねじ部に噛み合っている軸方向移動ネジ部材95のネジ部が、上記定位置回転ネジ部材89のねじ部からクランク軸方向の推力を受けるので、軸方向移動ネジ部材95はクランク軸25の軸線方向へ移動する。
上記軸方向移動ネジ部材95が受ける推力は、ボールベアリング91を介して駆動プーリ可動半体ハブ部67Aに伝わり、駆動プーリ可動半体67はクランク軸25の軸線方向へ移動し、駆動プーリ固定半体66との間隔を狭め、Vベルト14を外周方向へ移動させる。
電動モータ28が制御指令に応じて逆方向に回転すると、上記とは逆の過程によって、駆動プーリ固定半体66と駆動プーリ可動半体67との間隔が広がり、Vベルト14は中心方向へ移動する。
【0070】
図7は従動プーリ13及び動力系減速ギヤ機構16とその周辺部の拡大断面図である。
Vベルト式無段変速機15の駆動プーリ12に対応する従動プーリ13は、従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75とからなり、互いに対向して、ともに従動軸26に支持されている。
従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75は、それぞれスチール製の固定半体ハブ部74A及び可動半体ハブ部75Aの端にアルミ合金製の傘状部74B、75Bをリベット74C、75Cで取付けて一体化されている。
【0071】
従動軸26は、伝動ケースカバー34と伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36にそれぞれボールベアリング70A,70B、70Cを介して回転自在に軸支されている。
従動軸26の左側部分には小径部26Aが形成されていて、同小径部26Aにボールベアリング120、支持スリーブ121、カラー122が、この順に嵌合されて端部にナット123が螺着されて一体に締結されている。
支持スリーブ121は従動軸26にスプライン嵌合されている。
伝動ケースカバー34とカラー122との間に前記ボールベアリング70Aが介装されている。
【0072】
支持スリーブ121には遠心式クラッチ73の椀状のクラッチアウタ125の基部が溶接によって固着され、従動軸26と一体に回転するようになっている。
クラッチアウタ125の右方の従動軸26の外周には、従動プーリ固定半体ハブ部74Aがボールベアリング120とニードルベアリング124の介装により従動軸26に対して相対回転可能に支持されている。
【0073】
上記固定半体ハブ部74Aの左端に遠心式クラッチ73のクラッチインナ126の一部をなす支持プレート126Aがナット127により固定されている。
支持プレート126Aには枢軸126Bによりアーム126Cがその基端部を軸支されており、同アーム126Cの先端にクラッチシュー126Dが固着されている。
アーム126Cはクラッチシュー126Dがクラッチアウタ125の内周面から離れる方向にばね126Eにより付勢されている。
【0074】
このクラッチインナ126を支持する固定半体ハブ部74Aの外周には、従動プーリ可動半体75を支持する可動半体ハブ部75Aが、軸方向に摺動自在に設けられている。
可動半体ハブ部75Aのスリーブ部には螺旋状にガイド孔181が形成されていて、固定半体ハブ部74Aのスリーブ部に突設されたガイドピン182が上記螺旋状のガイド孔75aに摺動自在に係合してトルクカム180を構成している。
また、固定半体ハブ部74Aに一体に取り付けられた支持プレート126Aと可動半体ハブ部75Aとの間にコイルスプリング129 が介装されて、同コイルスプリング129 により可動半体ハブ部75Aは右方に、即ち可動半体傘状部75Bが固定半体傘状部74Bに接近する方向に付勢されている。
【0075】
加速時などに駆動プーリ12の回転によりVベルト14の上側ベルト(駆動プーリ12と従動プーリ13との間の上下のベルトのうち上側のベルト)が引っ張られ、従動プーリ13の従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75に正トルク(従動プーリ13の回転方向のトルク)が作用するとき、特に抵抗の大きい従動プーリ固定半体74とVベルト14に滑りを生じ、その場合、Vベルト14に追随しようとする従動プーリ可動半体75が従動プーリ固定半体74に対して相対的に回転するため、この従動プーリ可動半体75と従動プーリ固定半体74の相対回転がトルクカム180により従動プーリ可動半体75を従動プーリ固定半体74に近づけ、Vベルト14を挟みつける方向に側圧を加え、コイルスプリング129によるVベルト14の挟圧をさらに強化して滑りをより一層抑制することができる。
【0076】
なお、減速時にエンジンブレーキが働くようなときは、従動プーリ13がVベルト14の下側ベルトを引っ張ることになり、従動プーリ13の従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75に逆トルクが作用し、従動プーリ可動半体75が従動プーリ固定半体74に対して相対的に回転するが、加速時とは反対方向の相対回転であるため、トルクカム180により従動プーリ可動半体75を従動プーリ固定半体74から離れる方向に側圧が加わることになり、コイルスプリング129によるVベルト14の挟圧を弱め、滑りの抑制が若干弱められる。
【0077】
このような従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75の対向する傘状部74B、75Bの間にVベルト14が巻き掛けられ、駆動プーリ12側の巻掛け径に応じて従動プーリ13の巻掛け径が変化し無段変速が行われる。
【0078】
従動プーリ13の回転が所定回転数を超えると、遠心式クラッチ73のクラッチインナ126のクラッチシュー126Dがクラッチアウタ125の内周面に接して、クラッチインナ126とクラッチアウタ125とが一体に回転し、従動プーリ13から従動軸26に動力が伝達され、動力系減速ギヤ機構16に入力される。
【0079】
上記従動軸26から後車軸27に至る動力系減速ギヤ機構16は3本の回転軸に設けられた歯車群によって構成されている。
第1の軸は、Vベルト式無段変速機15の従動軸26の右半部であり、この軸26に小径歯車130が形成されている。
第2の軸は、伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36とにニードルベアリング131、131を介して回転自在に支持されている中間軸132であり、中間軸132に上記従動軸26の小径歯車130に噛合う大径歯車133が一体に嵌着されるとともに、その中間軸132自体に小径歯車134が一体に刻設されている。
第3の軸は、伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36とにボールベアリング135、135を介して回転自在に支持されている後車軸27であり、この後車軸27には上記中間軸132の小径歯車134に噛合う大径歯車136が嵌着されている。
この構成によって、従動軸26のトルクは、上記動力系減速ギヤ機構16を介して減速されて後車軸27に伝達される。後車軸27には、後輪WR(図1)が一体的に固定され、エンジンで発生し、変速機を経て伝達された駆動力によって回転駆動される。
【0080】
以上のように構成された本パワーユニットPにおいて、スロットルグリップ211の操作によるグリップ開度に応じてスロットル用電動モータ23Mを駆動して内燃機関Eの吸気通路に設けられたスロットルバルブ23vを作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、運転者が変速操作をするシフトスイッチ217の入力に基づきVベルト式無段変速機15の駆動プーリ12(駆動プーリ可動半体67)を変速用電動モータ28の駆動で作動してVベルト14の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構とが構成されている。
なお、このマニュアルモードのほかシフトスイッチによる変速操作が不要となるATモードを運転者は選択できるようになっている。
【0081】
図8は、パワーユニットPの変速制御系の簡単なブロック図であり、同図8を参照して、電子式スロットルバルブ機構はスロットルバルブ制御手段202により制御され、電子式ベルト無段変速機構はシフト作動制御手段203により制御され、電子式スロットルバルブ機構と電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段201は、スロットルバルブ制御手段202とシフト作動制御手段203を統括しており、変速制御手段201とスロットルバルブ制御手段202とシフト作動制御手段203により電子式変速制御ユニット200を構成している。
【0082】
スロットルバルブ制御手段202には、スロットルセンサ23Sが検出したスロットルバルブ23vのスロットル弁開度θを入力してフィードバック制御するとともに、グリップ開度センサ212,ブレーキスイッチ214,機関回転数nを検出する機関回転数センサ215,車速vを検出する車速センサ216、その他内燃機関Eの運転状態を検出するセンサから検出信号が入力される。
グリップ開度センサ212は、自動二輪車1の操向ハンドル8の右側ハンドルバーのスロットルグリップ211に設けられた角度センサであり、グリップ開度φを検出する。
ブレーキスイッチ214は、ブレーキレバー(またはブレーキペダル)213の操作を検出するスイッチである。
【0083】
シフト作動制御手段203には、前記駆動プーリ変速位置センサ116の検出した駆動プーリ可動半体67の移動位置を入力してフィードバック制御するとともに、運転者のシフトアップおよびシフトダウンの操作指示を検出するシフトスイッチ217および駆動プーリ12の回転数を検出する駆動プーリ回転数センサ218、従動プーリ13の回転数を検出する従動プーリ回転数センサ219からの検出信号が入力される。
シフトスイッチ217は、操向ハンドル8の左側ハンドルバーのグリップ付け根に設けられている。
【0084】
変速制御手段201は、図9に示すような車速vと機関回転数nに基づく変速パターンマップを備えている。
図9の変速パターンマップは、横軸を車速vとし縦軸を機関回転数nとする直角座標で示されている。
【0085】
駆動プーリ回転数に対する従動プーリ回転数の回転数比を変速比とし、マニュアルモードにおいては1速から7速までの各変速段をそれぞれ一定の回転数比に予め設定している。
すなわち、駆動プーリ可動半体67の軸方向位置(駆動プーリ変速位置)が1速から7速までの各変速段で決まっており、高速段ほど駆動プーリ可動半体67は駆動プーリ固定半体66に近い位置となる。
【0086】
図9の変速パターンマップには、1速から7速までの各変速段における機関回転数nと車速vとの関係が斜め上方に延びる各変速段曲線で示されている。
あるスロットル弁開度θで加速中にシフトアップしたときの例を、図9の変速パターンマップ中に、車速vと機関回転数nの関係のシフトアップ移動軌跡Su(太い実線)で示す。
【0087】
図9の変速パターンマップ中のシフトアップ移動軌跡Suを参照して、1速で加速中にシフトアップの入力があると、1速の変速段曲線に沿って上昇中に駆動プーリ可動半体67が駆動プーリ固定半体66に近づく方向に移動して駆動プーリ側のベルト巻掛け径を大きくし、従動プーリ13側が追従して巻掛け径を小さくし、変速比を大きくするので、駆動側が重くなり加速が抑えられ機関回転数nを減少しながら2速の変速段曲線に移り、今度は2速の変速段曲線に沿って上昇する。
これを繰り返すことで、3速、4速、…、7速とシフトアップしていく。
【0088】
同様に、スロットル弁開度θが全閉で減速中にシフトダウンしたときの例を、図9の変速パターンマップ中に、車速vと機関回転数nの関係のシフトダウン移動軌跡Sd(太い実線)で示す。
【0089】
図9の変速パターンマップ中のシフトダウン移動軌跡Sdを参照して、7速で減速中(エンジンブレーキ作動中)にシフトダウンの入力があると、7速の変速段曲線に沿って減少中に駆動プーリ可動半体67が駆動プーリ固定半体66から離れる方向に移動して駆動プーリ側のベルト巻掛け径を小さくし、従動プーリ13側が追従して巻掛け径を大きくし、変速比を小さくするので、駆動側が軽くなり減速が抑えられた状態で機関回転数nが上昇しながら6速の変速段曲線に移り、今度は6速の変速段曲線に沿って減少する。
これを繰り返すことで、5速、4速、…、1速とシフトダウンしてエンジンブレーキが順次大きく効くようになる。
【0090】
従来、このスロットル弁開度θが全閉で減速しているときに、シフトダウンの入力がありシフトダウン作動に入ると、エンジンブレーキが働き下側ベルトが緊張しているところで、駆動プーリ12が開くので、遅れて従動プーリが閉じるまでの間に、駆動プーリの開きで、駆動プーリのVベルトへの側圧が低下し、下側ベルトに発生した張力を駆動プーリへ伝達できなくなり、さらに従動プーリによる下側ベルトの張力によりベルトが回転方向に引かれる状態が発生するため、弛んでいた上側ベルトが瞬間的に引かれることで、駆動プーリとVベルトの間で瞬間的に滑りが発生する。
駆動プーリ側で滑りを生じると、緊張していた下側ベルトが緩み、そのため元々トルクカムが開く方向に側圧を生じて滑りを生じ易い状態にあった従動プーリ側も滑りを生じ、瞬間的に空走感が発生する場合があり、また再びエンジンブレーキが働き始めるときに軽い変速ショックを生じていた。
【0091】
本発明は、このスロットル弁全閉時にシフトダウン操作をした時の空走感および変速ショックを解消したものであり、その変速制御の実施例1を以下説明する。
本実施例1の制御フローチャートを図11および図12に示し、該制御における機関回転数n,駆動プーリ位置,スロットル弁開度θのタイムチャートを図13に示す。
【0092】
図11の変速制御ルーチンのフローチャートを参照して、まず全閉シフトダウン制御フラグFに「1」が立っているか否かを判別し、「0」ならばステップ2に進み、「1」が立っていればステップ8に飛ぶ。
当初、全閉シフトダウン制御フラグFは「0」であり、ステップ2に進み、シフトスイッチ217の操作でシフトダウンの入力があったか否かを判別し、シフトダウンの入力があればステップ3に進み、シフトダウンの入力がなければ、ステップ9に飛び、通常の変速制御を行う。
ステップ3に進むと、スロットルセンサ23sが検出したスロットル弁開度θが全閉(θ=0)か否かが判別され、全閉ならばステップ4に進み、全閉でなければステップ9に飛び、通常の変速制御を行う。
【0093】
したがって、シフトダウンの入力があったときにスロットル弁開度θが全閉(θ=0)である場合、すなわちスロットル弁開度θが全閉(θ=0)状態でシフトダウンの入力があった全閉シフトダウン検出時のみステップ4に進み、シフトダウン入力時の機関回転数Noを読込み、ステップ5で所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定する。
【0094】
このステップ5では、シフトダウン入力時の機関回転数Noと現変速段を、図9の変速パターンマップに照合して一段低いシフトダウン後の変速段の機関回転数Nbを予測し、このシフトダウン後の機関回転数Nbを上限機関回転数として上限機関回転数Nb以下の機関回転数を目標機関回転数Nmとし、この目標機関回転数Nmになるような所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定する。
【0095】
図10は、変速パターンマップの一部を示しており、同図10を参照して、スロットル弁開度θが全閉(θ=0)状態で減速しているときに、シフトダウンの入力があったとき、シフトダウン入力時の現変速段曲線上でシフトダウン入力時の機関回転数Noからシフトダウンを開始する点を求め、この点からシフトダウン作動したときに辿る移動軌跡を推測しシストダウン後の変速段曲線に移る機関回転数Nbを予測する。
【0096】
このシフトダウン後の機関回転数Nbを上限機関回転数として、上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数Nmとして所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定することで、スロットルバルブ23vを最適開弁制御してシフトダウン完了までの間に不要な機関回転数の上昇を防止することができる。
【0097】
この目標機関回転数になるような所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定するが、所要スロットル弁開度θ1は、シフトダウン後の機関回転数Nbにおけるパーシャルスロットル弁開度θpより小さいスロットル弁開度とする。
パーシャルスロットル弁開度θpより小さいスロットル弁開度を所要スロットル弁開度θ1とすることで、機関出力が減速から加速に転じることがなく、機関回転数がシフトダウン後の変速段の機関回転数Nbを越えてオーバーシュートするのを防止して確実にシフトダウンすることができる。
【0098】
以上のように、ステップ5で所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthが設定されると、ステップ6に進み、タイマtをスタートさせ、ステップ7で全閉シフトダウン制御フラグFに「1」を立て、ステップ8に進み、全閉シフトダウン制御に入る。
このように一度全閉シフトダウン制御に入ると、以後全閉シフトダウン制御フラグFが「0」となるまでステップ1からステップ8に飛んで直接全閉シフトダウン制御を続行する。
【0099】
全閉シフトダウン制御は、図12に示されたフローチャートに従って実行される。
まず、ステップ11で、スロットルブリップ211のグリップ開度センサ212が検出するグリップ開度φが0か否か、すなわちスロットルブリップ211の回動操作があり、運転者が加速の意思があるか否かを判別し、スロットルブリップ操作がなければ(φ=0)、ステップ12に進み、スロットルブリップ操作があれば(φ>0)、ステップ21に飛んで、タイマtを停止し、ステップ22で全閉シフトダウン制御フラグFを「0」にして戻るので、以後図11のフローチャートでステップ1、ステップ2、ステップ9と流れて全閉シフトダウン制御を中止して通常変速制御に入る。
【0100】
このように、全閉シフトダウン制御において、スロットルグリップ211の回動操作(加速操作)の入力があると、全閉シフトダウン制御を中止するので、全閉シフトダウン制御から通常のスロットル制御に速やかに戻し、運転者の意思に沿って円滑に加速態勢に移ることができ、違和感が抑えられる。
【0101】
ステップ11でスロットルブリップ操作がなく(φ=0)、ステップ12に進むと、ステップ6で全閉シフトダウン検出時にスタートしたタイマtの計時が、ステップ5で設定した所要開弁時間Tthに達したか否かを判別し、所要開弁時間Tthに達すれば(t≧Tth)、ステップ16に飛び、所要開弁時間Tthに至るまでは(t<Tth)、ステップ13に進む。
【0102】
ステップ13では、全閉シフトダウン検出時からの遅れ時間である所定遅れ時間Tdの経過を判別する。
この所定遅れ時間Tdは、所要開弁時間Tthよりは短い予め設定された時間であり、先のステップ5では、この所定遅れ時間Tdを考慮して、所定遅れ時間Tdより長い所要開弁時間Tthが設定される。
この所定遅れ時間Tdを経過すれば(t≧Td)、ステップ15に飛び、所定遅れ時間Tdを経過するまでは(t<Td)、ステップ14に進む。
【0103】
全閉シフトダウン検出時から所定遅れ時間Tdを経過するまでは(t<Td)、ステップ14に進み、スロットル用電動モータ23Mを駆動してスロットルバルブ23vを開き、ステップ5で設定した所要スロットル弁開度θ1まで開弁し、本制御ルーチンを抜ける。
そして、全閉シフトダウン検出時から所定遅れ時間Tdを経過すると(t≧Td)、ステップ13からステップ15に進み、スロットルバルブ23vは所要スロットル弁開度θ1の開弁を維持して、ステップ17に進む。
【0104】
なお、全閉シフトダウン検出時から所要開弁時間Tthに達すれば(t≧Tth)、ステップ12からステップ16に飛び、スロットルバルブ23vを閉じて、全閉状態に戻し、ステップ17に進む。
ステップ17では、ブレーキレバー213の操作がありブレーキスイッチ214がオンしたか否か、すなわちブレーキ入力があったか否かを判別している。
【0105】
ブレーキ入力がない場合は、ステップ18に進み、変速用電動モータ28を通常回転速度で駆動して駆動プーリ可動半体67を開き方向に通常速度で移動してシフトダウン作動を行い、ステップ20に進む。
ブレーキ入力があると、ステップ19に進み、変速用電動モータ28を高速回転速度で駆動して駆動プーリ可動半体67を開き方向に高速で移動してシフトダウン作動を行い、ステップ20に進む。
【0106】
このように、全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作があると、シフトダウン作動を通常速度より高速にしブレーキ操作による減速に合せて早期にシフトダウンを完了させることができる。
シフトダウンが早期に完了することで、速やかに次の加速態勢に移行することを可能とする。
【0107】
そして、ステップ20に進むと、シフトダウンが完了したか否かを判別する。
シフトダウンの完了は、シフトダウン作動が完了したことであり、変速用電動モータ28の駆動により駆動プーリ可動半体67をシフトダウン後の変速段位置まで移動し終えた状態である。
シフトダウンが完了するまでは、ステップ20からそのまま本ルーチンを抜け、シフトダウンが完了すると、ステップ21に進み、タイマtの計時を停止し、ステップ22で全閉シフトダウン制御フラグFを「0」にして本ルーチンを抜ける。
【0108】
シフトダウンが完了し、全閉シフトダウン制御フラグFが「0」となると、先のステップ1からステップ2に進み、新たにシフトダウンの入力がない限り、ステップ9に飛んで、通常の変速制御に入り、全閉シフトダウン制御は終了するので、シフトダウン完了後の不要なスロットル作動を防止して、シフトダウン後の空走感の発生を抑制できるとともに、シフトダウン完了後のエンジンブレーキを妨げることがない。
【0109】
本変速制御手段201は、以上のように変速制御に行う。
この変速制御を、図13のタイムチャートに示す機関回転数n,駆動プーリ位置,スロットル弁開度θの変化でみると、スロットル弁開度θが全閉(θ=0)で減速しエンジンブレーキが働いている状態で、シフトダウンの入力があると、その全閉シフトダウン検出時Toに、全閉シフトダウン制御に入り、まずスロットルバルブ23vを所要スロットル弁開度θ1まで開弁する(ステップ14)。
スロットルバルブ23vの開弁により機関回転数nが上昇している。
【0110】
駆動プーリ12の加速回転で駆動プーリ12がVベルト14の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ13側ではトルクカム180によりVベルト14を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態としている。
その後、ブレーキ入力がないものとして、全閉シフトダウン検出時Toから所定遅れ時間Tdだけ遅れて変速用電動モータ28を通常回転速度で駆動して駆動プーリ可動半体67を開き方向に通常速度で移動する(ステップ13,15,17,18)。
駆動プーリ位置は、図13で実線で示すように、高速段位置からシフトダウン後の低速段位置に通常速度で移動する。
【0111】
駆動プーリ12が上側ベルトを巻き込み緊張させている状態にあるので、駆動プーリ12が開き移動してもVベルト14が速やかに追従し、駆動プーリ12側でのVベルト14の滑りを最小限に抑えることができる。
他方、従動プーリ13側ではトルクカム180の作用により滑りを生じさせないまま従動プーリ13が閉じ始め、益々滑りが抑えられて下側ベルトを引っ張り、下側ベルトを緊張させてエンジンブレーキを再び働かせることができる。
【0112】
このように全閉シフトダウン検出時に、従動プーリ13は滑りを生じさせないままVベルト14の下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、空走感を解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンさせることができる。
また、このとき従動プーリ13は弛んでいた下側ベルトを外周へ速やかに巻き込むことができるので、コイルスプリング129による従動プーリ13の閉じ方向の移動は小さい抵抗で速やかに実行され、変速が速やかに完了する。
さらに、全閉シフトダウン時に、駆動プーリ12および従動プーリ13の双方でVベルト14の滑りが発生しないので、滑り摩耗によるベルトの寿命の短縮を極力抑制することができる。
【0113】
なお、駆動プーリ12の開き移動で変速比が大きくなることで、機関回転数nがさらに上昇している。
そして、全閉シフトダウン検出時Toから所要開弁時間Tth経過すると、それまで所要スロットル弁開度θ1で開弁していたスロットルバルブ23vを閉じる(ステップ16)。
【0114】
シフトダウン後の変速段の機関回転数Nbを予測し、このシフトダウン後の機関回転数Nbを上限機関回転数として上限機関回転数Nb以下の機関回転数を目標機関回転数Nmとし、この目標機関回転数Nmになるような所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定しているので、所要開弁時間Tthを経過したところで、機関回転数nは目標機関回転数Nmとなり、以後は変速比の変化に伴い機関回転数nは緩やかに上昇してシフトダウン後の変速段の機関回転数Nbに達する。
【0115】
このように所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定して制御することで、スロットルバルブ23vを最適開弁制御してシフトダウン完了までの間に不要な機関回転数の上昇を防止することができ、空走感を最小限に抑えて素早く滑らかにシフトダウンすることができる。
【0116】
全閉シフトダウン検出時Toから所要開弁時間Tth経過してスロットルバルブ23vを閉じると、機関回転数nの上昇は抑制されて緩やかとなり、オーバーシュートすることなくシフトダウン後の変速段曲線に移り、その機関回転数Nbに至る。
【0117】
全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作の入力があると、図13のタイムチャートで、駆動プーリ位置は、破線で示すように、高速段位置から低速段位置に急傾斜で移動することになり、機関回転数nも上昇がより促され、ブレーキ操作による減速に合せて早期にシフトダウンを完了させることができる。
なお、ブレーキ操作の入力を伴って全閉シフトダウン制御に入った場合は元より、全閉シフトダウン制御中にブレーキ操作の入力があった場合でも、ブレーキ操作の入力時から駆動プーリ可動半体67の移動速度を高速に変更してシフトダウン作動する。
【0118】
次に実施例2の変速制御について図14に基づいて説明する。
本実施例2の変速制御は、前記実施例1の変速制御ルーチン(図11参照)における所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定するステップ5で、所要開弁時間Tth以内で開弁する所要スロットル弁開度θ2とこれより大きい所要スロットル弁開度θ3を2つ設定する。
この所要開弁時間Tthと所要スロットル弁開度θ2,θ3は、シフトダウン後の機関回転数(Nb)を上限機関回転数とし、同上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数(Nm)として、この目標機関回転数(Nm)になるように設定されている。
【0119】
そして、全閉シフトダウン制御ルーチン(図12参照)における所要スロットル弁開度θ1までスロットルバルブ23vを開弁するステップ14で、所要スロットル弁開度θ2までの開弁とし、スロットルバルブ23vの所要スロットル弁開度θ1の開弁を維持するステップ15では、より大きい所要スロットル弁開度θ3までスロットルバルブ23vを開弁するものである。
【0120】
したがって、図14の本変速制御のタイムチャートに示すように、全閉シフトダウン制御に入ると、全閉シフトダウン制御に入った直後(To)にスロットルバルブ23vを所要スロットル弁開度θ2だけ開弁し、駆動プーリ12の加速回転で駆動プーリ12がVベルト14の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ13側ではトルクカム180によりVベルト14を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態に確実にした所定遅れ時間Td後に、遅れてシフトダウン作動を行い駆動プーリ12を開くので、従動プーリ13は滑りを生じさせないまま下側ベルトを引っ張り始め、さらにスロットルバルブ23vをシフトダウン作動前の所要スロットル弁開度θ2より大きい所要スロットル弁開度θ3だけ開くため、駆動プーリ12はさらに加速回転しVベルト14の滑りは確実に抑えられ、よって空走感を確実に解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンしてエンジンブレーキを復帰させることができる。
【0121】
全閉シフトダウン時に、駆動プーリ12および従動プーリ13の双方でVベルト14の滑りが殆ど発生しないので、滑り摩耗によるVベルト14の寿命の短縮を益々抑制することができる。
【0122】
実施例2では、所定遅れ時間Td後に所要スロットル弁開度θ3に一気に開弁したが、図15のタイムチャートで示す実施例3は、所要スロットル弁開度θ2から徐々に所要スロットル弁開度θ3までスロットルバルブ23vを開弁するようにしたものであり、その他の制御は実施例2と同じである。
【0123】
このように変速制御したときの様子を、図15のタイムチャートに示す。
シフトダウン作動と同時に行うスロットルドラム23vの開弁を徐々に行うので、機関回転数nを確実に目標機関回転数Nmに上昇させることができる。
【0124】
次に、全閉シフトダウン制御において、スロットルバルブ23vを複数回開閉する実施例4を、図16のタイムチャートに示し説明する。
本実施例4では、スロットルバルブ23vを2回開閉するとして、1回の所要スロットル弁開度θ4と開弁時間Tthおよび2回目の開閉時期を、シフトダウン後の変速段の機関回転数Nbを予測し、このシフトダウン後の機関回転数Nbを上限機関回転数として上限機関回転数Nb以下の機関回転数を目標機関回転数Nmとし、この目標機関回転数Nmになるように設定する。
【0125】
シフトダウンの入力があると、その全閉シフトダウン検出時Toに、全閉シフトダウン制御に入り、まずスロットルバルブ23vを所要スロットル弁開度θ4まで開弁する。
スロットルバルブ23vの開弁により機関回転数nが上昇している。
【0126】
この1回目のスロットルバルブ23vの開弁で、駆動プーリ12の加速回転で駆動プーリ12がVベルト14の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ13側ではトルクカム180によりVベルト14を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態としている。
【0127】
そして、所定遅れ時間Tdだけ遅れて駆動プーリ12を開き方向に移動するので、駆動プーリ12側でのVベルト14の滑りを最小限に抑え、従動プーリ13側では滑りを生じさせないまま従動プーリ13が閉じて、下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、空走感を解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンさせることができる。
【0128】
その後、2回目のスロットルバルブ23vの開閉を行うことで、機関回転数nを目標機関回転数Nmに速やかにかつ確実に到達させることができるので、機関回転数のオーバーシュートを確実に防止できる。
【0129】
次に、別の実施例5について図17,図18のフローチャートと図19のタイムチャートに基づき説明する。
本実施例5は、変速制御をできるだけ簡素化したものであり、全閉シフトダウン検出時に、スロットルバルブ23vを短時間開くと同時に、駆動プーリ12を開き始めるものである。
【0130】
図17の変速制御ルーチンでは、前記実施例1の図11に示された変速制御ルーチンの中の所要スロットル弁開度θ1で所要開弁時間Tthの設定に係るステップ4とステップ5がないだけである。
本実施例5では、所要スロットル弁開度θ5と所要開弁時間Tthとは予め決めている。
【0131】
そして、図18の全閉シフトダウン制御ルーチンに入ると、ステップ41で予め決めてある所要開弁時間Tthを経過したか否かを判別し、所要開弁時間Tthを経過するまでは(t<Tth)、ステップ42に進んでスロットルバルブ23vを予め決めておいた所要スロットル弁開度θ5に開弁し、略同時にステップ44に進んで変速用電動モータ28を駆動して駆動プーリ可動半体67を開き方向に移動してシフトダウン作動を行い、シフトダウン完了か否かを判断する(ステップ45)。
【0132】
所要開弁時間Tthを経過すると、ステップ41からステップ43に飛んで、スロットルバルブ23vを閉じて、ステップ44に進み、シフトダウン作動を継続し、シフトダウン作動を終えたところでシフトダウンは完了する。
このように、全閉シフトダウン制御に入ると、駆動プーリ12を開くと略同時に、スロットルバルブ23vを短時間Tthだけ開弁する極めて簡単な変速制御である。
【0133】
全閉シフトダウン制御に入ると、直後に駆動プーリ12を開くが、略同時にスロットルバルブ23vを開弁することで、駆動プーリ12の加速回転がVベルト14の上側ベルトの巻き込みが行われ、上側ベルトがある程度緊張するので、駆動プーリ12が開き移動してもVベルト14が何とか追従して、駆動プーリ12側でのVベルト14の滑りを幾らか抑えることが可能であり、他方、従動プーリ13側では上側ベルトの弱めの緊張でトルクカム180が十分働く状態になっていなくても、滑りを抑制して従動プーリ13が閉じ始め、下側ベルトを引っ張り、エンジンブレーキを再び働かせることが可能で、空走感を抑制し変速ショックを防止してシフトダウンさせることが可能である。
【0134】
以上の実施例では、全閉シフトダウン制御において、スロットルバルブ23を駆動して開弁していたが、スロットルバルブ23vを迂回するバイパス通路に設けられたアイドルエア制御バルブを駆動して開弁するようにしてもよい。
【0135】
すなわち、スロットルバルブ23vのスロットル弁開度が全閉状態でシフトダウンの指示が入力されときは、全閉シフトダウン制御に入り、アイドルエア制御バルブを所要開弁時間だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて変速用アクチュエータ28を駆動し駆動プーリ12を作動してシフトダウン作動を行うようにする。
【0136】
全閉シフトダウン検出時に、アイドルエア制御バルブの開弁で駆動プーリ12が上側ベルトを巻き込み緊張させることで、トルクカム180の作動で従動プーリ13は滑りを生じさせないままVベルト14の下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、簡単な制御構成で空走感および変速ショックを抑え可及的に滑らかにシフトダウンさせることができる。
【符号の説明】
【0137】
P…パワーユニット、E…内燃機関、12…駆動プーリ、13…従動プーリ、14…Vベルト、15…Vベルト式無段変速機、23…スロットルボディ、23M…スロットル用電動モータ、23s…スロットルセンサ、28…変速用電動モータ、29…制御部減速ギヤ機構、32A…左側クランクケース、32B…伝動ケース、33…右側クランクケース、34…伝動ケースカバー、35…制御部ギヤカバー、37…変速機ケース、38…変速機室、66…駆動プーリ固定半体、67…駆動プーリ可動半体、86…雌ネジ円筒部材、88…大径歯車、89…定位置回転ネジ部材、92…雄ネジ円筒部材、95…軸方向移動ネジ部材、129…コイルスプリング、116…駆動プーリ変速位置センサ、180…トルクカム、181…ガイド孔、182…ガイドピン、
200…電子式変速制御ユニット、201…変速制御手段、202…スロットルバルブ制御手段、203…シフト作動制御手段、
211…スロットルグリップ、212…グリップ開度センサ、213…ブレーキレバー、214…ブレーキスイッチ、215…機関回転数センサ、216…車速センサ、217…シフトスイッチ、218…駆動プーリ回転数センサ、219…従動プーリ回転数センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速用アクチュエータの駆動で変速されるベルト式無段変速機を内燃機関とともに備えたパワーユニットにおいて変速制御を行う電子式変速制御ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機は、駆動プーリと従動プーリとの間にVベルトを架渡し、駆動プーリへのVベルトの駆動側巻掛け径を変えることで、従動プーリへのVベルトの従動側巻掛け径が自ずと変化して変速比が変更されて無段階に変速が可能な変速機である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−079756号公報
【0004】
特許文献1に開示されたベルト式無段変速機は、自動二輪車に搭載され、駆動プーリが、駆動軸に固定される駆動プーリ固定半体と軸方向に移動自在にスプライン嵌合する駆動プーリ移動半体との間にVベルトが巻掛けられ、駆動プーリ移動半体の軸方向の移動で駆動側巻掛け径を変える。
後輪側の後方に位置する従動プーリは、従動軸に固定される従動プーリ固定半体とトルクカムを介して軸方向に移動可能でスプリングにより閉じ方向に付勢された従動プーリ移動半体との間にVベルトが巻掛けられ、駆動側巻掛け径に応じて従動側巻掛け径を変え変速する。
【0005】
駆動プーリ側の動力が従動プーリ側に伝達される通常走行時は、駆動プーリと従動プーリ間の上下のVベルトのうち上側となるベルト(上側ベルトと称する)を駆動プーリが巻き込むようにして引っ張り従動プーリに動力を伝達し、上側ベルトが緊張して駆動プーリ側に引っ張られることで、従動プーリ側のトルクカムに正トルクが作用して従動プーリはVベルトを挟む方向に側圧を生じスプリングの付勢力に加勢してVベルトの挟持を強めてVベルトの滑りを生じさせないようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
減速時には、駆動輪の回転による従動プーリの回転が、駆動プーリと従動プーリ間の下側となるベルト(下側ベルトと称する)を巻き込むようにして引っ張り駆動プーリに動力を伝達することになり、所謂エンジンブレーキが働く。
このとき、下側ベルトが緊張して従動プーリに巻き込まれるので、トルクカムには逆トルクが作用して従動プーリがVベルトを挟むのではなく逆に開く方向に側圧を生じてスプリングの付勢力を抑制してVベルトの挟持を弱める状態にある。
【0007】
このようなスロットル弁を全閉として減速しているとき、すなわち従動プーリが下側ベルトを引っ張り緊張させてエンジンブレーキが働いているときに、シフトダウン操作があると、シフトダウン作動により駆動プーリが開き(互いの駆動プーリ半体を離し)駆動側巻掛け径を小さくし、僅かに遅れて従動プーリが閉じ(互いの従動プーリ半体を近づけ)従動側巻掛け径を大きくし始めるが、その間に駆動プーリの開きで、駆動プーリのVベルトへの側圧が低下し、下側ベルトに発生した張力を駆動プーリへ伝達できなくなり、さらに従動プーリによる下側ベルトの張力によりベルトが回転方向に引かれる状態が発生するため、弛んでいた上側ベルトが瞬間的に引かれることで、駆動プーリとVベルトの間で瞬間的に滑りが発生する。
駆動プーリ側で滑りを生じると、緊張していた下側ベルトが緩み、そのため元々トルクカムが開く方向に側圧を生じて滑りを生じ易い状態にあった従動プーリ側も滑りを生じ、所謂「ギア抜け」とも呼ばれる空走感が発生することがある。
【0008】
この間、下側ベルトは緩み駆動プーリと従動プーリ間で弛みを生じており、その後、従動プーリがスプリングにより閉じると、滑りを生じていた従動プーリがVベルトを捉えて、従動プーリが弛んだ下側ベルトを巻き込むようにして引っ張り、緊張させて再びエンジンブレーキが働き始める。
この従動プーリがVベルトを捉えて下側ベルトを弛んだ状態から引っ張り緊張させるときに、軽い変速ショックを生じる。
また、駆動プーリおよび従動プーリの双方でVベルトの滑りが生じ、滑りによる摩耗がベルトの寿命を短くする原因となる場合がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、スロットル弁全閉時にシフトダウン操作をした時の空走感および変速ショックを解消し、すべり摩耗によるベルトの寿命の短縮を極力抑制した電子式変速制御ユニットを供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、
スロットルグリップ(211)の操作によるグリップ開度(φ)に応じてスロットル用アクチュエータ(23M)を駆動して内燃機関(E)の吸気通路に設けられたスロットルバルブ(23v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、
運転者が変速操作をするシフトスイッチ手段(217)の入力に基づき駆動プーリ(12)とトルクカム(180)を備える従動プーリ(13)との間にベルト(14)が架渡されたベルト式無段変速機(15)の前記駆動プーリ(12)を変速用アクチュエータ(28)の駆動で作動して前記ベルト(14)の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構と、
前記電子式スロットルバルブ機構と前記電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段(201)と、
を備える電子式変速制御ユニット(200)において、
前記変速制御手段(201)は、
前記スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの入力があった全閉シフトダウン検出時は、全閉シフトダウン制御に入り、前記スロットル用アクチュエータ(23M)を駆動制御して前記スロットルバルブ(23v)を所要スロットル弁開度(θ1)で所要開弁時間(Tth)だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動し前記駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うことを特徴とする電子式変速制御ユニットである。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、シフトダウン後の機関回転数(Nb)を上限機関回転数とし、同上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数(Nm)として所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)を設定し、設定された所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)とにより前記スロットルバルブ(23v)を開弁することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
全閉シフトダウン制御において、シフトダウン後の機関回転数(Nb)におけるパーシャルスロットル弁開度(θp)より小さいスロットル弁開度を前記所要スロットル弁開度(θ1)とすることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後に前記スロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ1)で前記所要開弁時間(Tth)開き、
前記スロットルバルブ(23v)の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動することを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後に前記スロットルバルブ(23v)を開き始め、所要スロットル弁開度(θ2)で開弁し、
前記所要開弁時間(Tth)以内の所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動し、
シフトダウン作動と同時に前記スロットルバルブ(23v)をシフトダウン作動前の前記所要スロットル弁開度(θ2)より大きい所要スロットル弁開度(θ3)で前記所要開弁時間(Tth)経過するまで開くことを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後から前記スロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ4)で所要開弁時間(Tth)の開閉を複数回行い、
前記スロットルバルブ(23v)の最初の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動することを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動が完了した時点で前記全閉シフトダウン制御を終了することを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作の入力があると、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動を通常速度より高速に設定することを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の発明は、請求項1から請求項7までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御において、加速操作の入力があると、全閉シフトダウン制御を中止することを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の発明は、
内燃機関(E)の吸気通路に設けられたスロットルバルブ(23v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、
前記スロットルバルブ(23v)を迂回するバイパス通路に設けられたアイドルエア制御バルブを制御するアイドルエア制御機構と、
駆動プーリ(12)とトルクカム(180)を備える従動プーリ(13)との間にベルト(14)が架渡されたベルト式無段変速機(15)の前記駆動プーリ(12)を変速用アクチュエータ(28)の駆動で作動して前記ベルト(14)の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構と、
前記アイドルエア制御機構と前記電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段と、
を備える電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段は、
前記スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの指示が入力されときは、全閉シフトダウン制御に入り、前記アイドルエア制御バルブを所要開弁時間だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて前記変速用アクチュエータを駆動し前記駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うことを特徴とする電子式変速制御ユニットである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載のパワーユニットによれば、スロットルバルブ(23v)を全閉として減速しており下側ベルトが緊張してエンジンブレーキが働いているときに、シフトダウンの指示があると、まずスロットルバルブ(23v)を所要スロットル弁開度(θ1,θ2)で所要開弁時間(Tth)だけ開き、駆動プーリの加速回転で駆動プーリ(12)がベルト(14)の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ(13)側ではトルクカム(180)によりベルト(14)を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態とし、同時にまたは遅れて変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動を行い駆動プーリ(12)を開くので、駆動プーリ(12)の移動にベルト(14)が速やかに追従し、駆動プーリ(12)側でのベルト(14)の滑りを最小限に抑えることができ、従動プーリ(13)側ではトルクカム(180)の作用により滑りを生じさせないまま従動プーリ(13)が閉じ始め、益々滑りが抑えられて下側ベルトを引っ張り、下側ベルトを緊張させてエンジンブレーキを再び働かせることができる。
【0021】
このように全閉シフトダウン検出時に、従動プーリ(13)は滑りを生じさせないままベルト(14)の下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、空走感を解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンさせることができる。
また、このとき従動プーリ(13)は弛んでいた下側ベルトを外周へ速やかに巻き込むことができるので、スプリング(129)による従動プーリ(13)の閉じ方向の移動は小さい抵抗で速やかに実行され、変速が速やかに完了する。
さらに、全閉シフトダウン時に、駆動プーリ(12)および従動プーリ(13)の双方でベルトの滑りが発生しないので、滑り摩耗によるベルトの寿命の短縮を極力抑制することができる。
【0022】
請求項2記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御に入ると、シフトダウン後の機関回転数(Nb)を上限機関回転数とし、同上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数(Nm)として所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)を設定し、この設定された所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)とによりスロットルバルブ(23v)を開弁するので、スロットルバルブ(23v)を最適開弁制御してシフトダウン完了までの間に不要な機関回転数の上昇を防止することができ、空走感を最小限に抑えて素早く滑らかにシフトダウンすることができる。
【0023】
請求項3記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御において、シフトダウン後の機関回転数(Nb)におけるパーシャルスロットル弁開度(θp)より小さいスロットル弁開度を所要スロットル弁開度(θ1)とすることで、機関出力が減速から加速に転じることがなく、機関回転数がシフトダウン後の変速段の機関回転数(Nb)を越えてオーバーシュートするのを防止して確実にシフトダウンすることができ、シフトダウン後の空走感も抑制することができる。
【0024】
請求項4記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御に入った直後にスロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ1)で所要開弁時間(Tth)開き、スロットルバルブ(23v)の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動するので、駆動プーリを開くシフトダウン作動をする前に、スロットルバルブ(23v)を開弁して駆動プーリ(12)が上側ベルトを緊張させ、従動プーリ(13)側でトルクカム(180)によりベルト(14)を挟む方向に側圧を十分増して滑りを確実に抑えた状態とすることができ、シフトダウン時の空走感を最小限に抑えることができる。
【0025】
請求項5記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後にスロットルバルブ(23v)を開き始め、駆動プーリ(12)の加速回転で駆動プーリ(12)がベルト(14)の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ(13)側ではトルクカム(180)によりベルト(14)を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態に確実にした短時間(Td)後に、遅れてシフトダウン作動を行い駆動プーリ(12)を開くので、従動プーリ(13)は滑りを生じさせないまま下側ベルトを引っ張り始め、さらにスロットルバルブ(23v)をシフトダウン作動前のスロットル弁開度(θ2)より大きいスロットル弁開度(θ3)だけ開くため、駆動プーリ(12)はさらに加速回転しベルト(14)の滑りは確実に抑えられ、よって空走感を確実に解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンしてエンジンブレーキを復帰させることができる。
全閉シフトダウン時に、駆動プーリ(12)および従動プーリ(13)の双方でベルト(14)の滑りが殆ど発生しないので、滑り摩耗によるベルト(14)の寿命の短縮を益々抑制することができる。
【0026】
請求項6記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後からスロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ4)で所要開弁時間(Tth)の開閉を複数回行い、スロットルバルブの最初の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動するので、より細かな機関回転数制御を行い、一層確実に目標機関回転数に到達できるので、機関回転数のオーバーシュートを確実に防止でき、シフトダウン後の空走感も抑制することができる。
【0027】
請求項7記載の電子式変速制御ユニットによれば、変速制御手段は、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動が完了した時点で前記全閉シフトダウン制御を終了するので、シフトダウン完了後の不要なスロットル作動を防止して、シフトダウン後の空走感の発生を抑制できるとともに、シフトダウン完了後のエンジンブレーキを妨げることがない。
【0028】
請求項8記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作の入力があると、変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動を通常速度より高速に設定するので、スロットルバルブ(23v)が開き機関回転数が一瞬上昇し、上側ベルトに張力が発生することで、緩みが生じた下側ベルトは従動プーリ(13)の外周に速やかに巻き込まれるようになっているため、ブレーキ操作の入力時にシフトダウン作動を通常速度より高速にしても、従動プーリ(13)は素早く追従して移動することができ、ブレーキ操作による減速に合せて早期にシフトダウンを完了させることができる。
シフトダウンが早期に完了することで、速やかに次の加速態勢に移行することを可能とする。
【0029】
請求項9記載の電子式変速制御ユニットによれば、全閉シフトダウン制御において、加速操作の入力があると、全閉シフトダウン制御を中止するので、全閉シフトダウン制御から通常のスロットル制御に速やかに戻し、運転者の意思に沿って円滑に加速態勢に移ることができ、違和感が抑えられる。
【0030】
請求項10記載の電子式変速制御ユニットによれば、スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの指示が入力されたときは、全閉シフトダウン制御に入り、アイドルエア制御バルブを所要開弁時間だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて変速用アクチュエータ(28)を駆動し駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うので、全閉シフトダウン検出時に、アイドルエア制御バルブの開弁で駆動プーリ(12)が上側ベルトを巻き込み緊張させることで、トルクカム(180)の作動で従動プーリ(13)は滑りを生じさせないままベルト(14)の下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、空走感を解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンさせることができる。
【0031】
このとき従動プーリ(13)は弛んでいた下側ベルトを外周へ速やかに巻き込むことができるので、スプリングによる従動プーリ(13)の閉じ方向の移動は小さい抵抗で速やかに実行され、変速が速やかに完了する。
さらに、全閉シフトダウン時に、駆動プーリ(12)および従動プーリ(13)の双方でベルトの滑りが発生しないので、滑り摩耗によるベルトの寿命の短縮を極力抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係るパワーユニットPを搭載した自動二輪車1の側面図である。
【図2】上記自動二輪車1の後部の拡大図である。
【図3】上記自動二輪車の後部に懸架されたパワーユニットPの上面図である。
【図4】上記パワーユニットPの側面図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】図4のB−B断面図である。
【図7】従動プーリ13及び動力系減速ギヤ機構16とその周辺部の拡大断面図である。
【図8】パワーユニットPの変速制御系の簡略ブロック図である。
【図9】変速制御手段が備える車速vと機関回転数nに基づく変速パターンマップである。
【図10】変速パターンマップの一部拡大図である。
【図11】実施例1の変速制御ルーチンのフローチャートである。
【図12】実施例1の全閉シフトダウン制御ルーチンのフローチャートである。
【図13】実施例1の変速制御のタイムチャートである。
【図14】実施例2の変速制御のタイムチャートである。
【図15】実施例3の変速制御のタイムチャートである。
【図16】実施例4の変速制御のタイムチャートである。
【図17】実施例5の変速制御ルーチンのフローチャートである。
【図18】実施例5の全閉シフトダウン制御ルーチンのフローチャートである。
【図19】実施例5の変速制御のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る一実施形態について図1ないし図13に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るパワーユニットPを搭載した自動二輪車1の側面図、図2は上記自動二輪車1の後部の拡大図である。
パワーユニットPは、内燃機関EとVベルト式無段変速機15が一体に構成されたものである。
図1において、この自動二輪車1の車体フレームFrは、フロントフォーク2を回動可能に支承するヘッドパイプ3と、同ヘッドパイプ3から後下がりに伸びるメインフレーム4と、一端がメインフレーム4の中間部に接続されて後上がりに伸びる左右一対のリヤフレーム5と、ヘッドパイプ3から下方に伸び後方へ曲がりメインフレーム4の下端に接続されるダウンフレーム6と、上記メインフレーム4の下端とリヤフレーム5の中間部とを接続するミドルフレーム7とから構成されている。
フロントフォーク2の下端には前輪WFが軸支され、フロントフォーク2の上部には操向ハンドル8が連結され、前輪の上方を覆うフロントフェンダ9が、フロントフォーク2に支持されている。メインフレーム4とダウンフレーム6の間に燃料タンク10が設けてある。
【0034】
図2を併せて参照して、リヤフレーム5とミドルフレーム7の両側面にピボットプレート150が固着されている。
同ピボットプレート150にピボット軸151を介して保持された懸架リンク152と、パワーユニットPと一体のエンジンハンガー39と、支持軸153を介して、パワーユニットPが、シリンダ軸線を若干前上がりにして揺動可能に懸架されている。
【0035】
パワーユニットPの後端ブラケット40とリヤフレーム5との間にはリヤクッション154が設けてある。
パワーユニットPの後部から右方へ突出する後車軸27に後輪WRが取り付けられ、パワーユニットPによって駆動される。
パワーユニットPの上方にはヘルメット155等を収納する収納ボックス156が設けられ、収納ボックス156の上方には乗車用シート157が配置されている。
【0036】
パワーユニットPの右側上方にはエアクリーナ158が設けてあり、インレットパイプ30に連なるスロットルボディ23に、連結管160を介して接続されている。
スロットルボディ23には、スロットルバルブ23vを回動してスロットル弁開度を設定するスロットル用電動モータ23Mおよびスロットルバルブ23vの回動軸の回動角度からスロットル弁開度θを検出するスロットルセンサ23Sが設けられている。
【0037】
図1において、車体フレームFrには、合成樹脂製の複数の部材を連ねた車体カバー161が取付けられ、パワーユニットPやその他の機器類を覆っている。
車両後部にリヤフェンダ162が設けてある。車両の右側に、エンジンの排気管163に連なるマフラ164が設けてある。
【0038】
図3は上記自動二輪車の後部に懸架されたパワーユニットPの上面図である。矢印Fは車両の前方を指している。車両の左右にリヤフレーム5、5が設けられ、連結フレーム165、166を介して互いに連結されている。
車両の中心線C−Cに沿って後輪WRが設けてある。車両の左側に伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34が設けてある。伝動ケースの前部は左側クランクケース32Aとなっている。
【0039】
左側クランクケース32Aと右側クランクケース33とによってクランクケース17が構成されている。車両の右側にエアクリーナ158が設けられ、連結管160を介してスロットルボディ23と連結されている。
クランクケース17の上方にスタータモータ60と、駆動プーリ制御用電動モータ28が設けてある。スタータモータ60は右側クランクケース33に取り付けてあり、駆動プーリ制御用電動モータ28は左側クランクケース32Aに取り付けてある。
エアクリーナ158の右側下方にマフラ164が設けてある。
【0040】
図4は上記パワーユニットPの側面図である。内部構造の一部が見える状態で描いてある。パワーユニットPの前部にエンジン11が構成され、エンジン11から後方へかけて、駆動プーリ12と、従動プーリ13と、これらに巻き掛けられている無端状Vベルト14からなるVベルト式無段変速機15が設けられ、その後部に動力系減速ギヤ機構16が設けてある。
【0041】
エンジン11は、4ストロークサイクルエンジンで、パワーユニットPの前部において、クランクケース17の前端面から前方へ順に、シリンダブロック18、シリンダヘッド19、シリンダヘッドカバー20が重ねられて、略水平に近い状態まで大きく前傾した姿勢となっている。
【0042】
シリンダヘッド19の上側の吸気ポート21に取り付けられるインレットパイプ30には、燃料噴射弁22が取付けられ、更に後方にはスロットルボディ23、及びエアクリーナ158(図1〜図3)が接続される。
シリンダヘッド19の下側の排気ポート24からは、下方に、排気管162(図1、図2)が延出し、後方へ屈曲し、マフラー164(図1、図3)に接続される。
クランクケース17の下部にはオイルフィルタ31が設けてある。
【0043】
Vベルト式無段変速機15において、駆動プーリ12の駆動軸はクランク軸25である。従動プーリ13の回転軸、即ち従動軸26は、動力系減速ギヤ機構16の入力軸となっている。動力系減速ギヤ機構16の出力軸は後車軸27であり、後輪WR(図1)が取付けられる。
クランク軸25の上方に、駆動プーリ制御用電動モータ28と駆動プーリ制御部減速ギヤ機構29が配置されている。
【0044】
図5は、図4のA−A断面図である。
パワーユニットPにおいて、左右方向に設けられる複数の回転軸を支持する殻体は、左側クランクケース32A、同左側クランクケース32Aの後方に一体に連なる伝動ケース32B、右側クランクケース33、伝動ケースカバー34、制御部ギヤカバー35(図6)、及び後部ギヤカバー36からなっている。伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34は前後長が長いものである。制御部ギヤカバー35は伝動ケースカバー34の上部に連なるものである。
【0045】
左側クランクケース32Aと右側クランクケース33とはクランクケース17を構成し、伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34と制御部ギヤカバー35(図6)と後部ギヤカバー36とは変速機ケース37を構成している。
変速機ケース37の中で、伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34に挟まれた部分は、Vベルト式無段変速機15を収容する変速機室38、左側クランクケース32Aと制御部ギヤカバー35とに挟まれた部分は駆動プーリ制御部減速ギヤ機構29の収容部、伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36とに挟まれた部分は動力系減速ギヤ機構16の収容部となっている。
クランクケース17の前端から、前方へ順にシリンダブロック18、シリンダヘッド19、及びシリンダヘッドカバー20が重ねて設けてある。
【0046】
図5において、クランク軸25は、左側クランクケース32Aと右側クランクケース33のジャーナル軸受42A、42Bを介して回転可能に支持され、さらにクランク軸25の左端は伝動ケースカバー34にボールベアリング43を介して回転可能に支持されている。
シリンダブロック18に形成されたシリンダ孔44にピストン45が摺動可能に嵌装されている。
【0047】
クランク軸25およびピストン45に、コンロッド46の両端が、それぞれクランクピン47およびピストンピン48を介して枢支され、ピストン45が往復動すると、それに伴ってクランク軸25が回転する。
ピストン45の上端面に向き合うシリンダヘッド19の底面には燃焼室49が形成され、シリンダヘッド19の側部から点火プラグ50が装着され、その先端が上記燃焼室49に臨んでいる。
【0048】
シリンダヘッド19とシリンダヘッドカバー20の間にクランク軸25と平行にカム軸51が支承され、カム軸51に設けられたカム51a、51bによって、吸気弁、排気弁が開閉駆動される。
クランク軸25の右部に設けられた駆動スプロケット52とカム軸51の右端に設けられた従動スプロケット53との間に巻き掛けられたカムチェーン54によって、カム軸51はクランク軸25によって回転駆動される。
【0049】
右側クランクケース33の右外側に右側クランクケースカバー55が設けてあり、同右側クランクケースカバー55の内面に固定されたステータ56と、クランク軸25に固定され上記ステータ56を囲むロータ57とから、発電機58が構成されている。発電機58に隣接してスタータ従動ギヤ59が設けてある。
これは、クランク軸25がスタータモータ60(図3、図4)からの回転駆動を受けるための歯車である。
【0050】
図5の右側クランクウエブ61Bに隣接してバランサ駆動ギヤ62が設けてある。
これは、左右のクランクウエブ61A、61Bの間隔部の上方で回転するバランサ63(図6)を駆動するためのものである。
【0051】
図5において、Vベルト式無段変速機15を収納する変速機室38は、伝動ケース32Bと伝動ケースカバー34との間に設けられている。Vベルト式無段変速機15の駆動軸は、クランク軸25そのものであり、クランク軸25の左端部が左側クランクケース32Aから左方の変速機室38内に突出し、この突出部にVベルト式無段変速機15の駆動プーリ12が設けてある。
駆動プーリ12は駆動プーリ固定半体66と駆動プーリ可動半体67とを備えて構成されている。
【0052】
Vベルト式無段変速機15の従動軸26は、伝動ケースカバー34と伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36にそれぞれボールベアリング70A、70B、70Cを介して回転自在に支持されている。
この従動軸26に遠心クラッチ73を介してVベルト式無段変速機15の従動プーリ13が設けてある。従動プーリ13は従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75とを備えて構成されている。
【0053】
駆動プーリ12と従動プーリ13とに無端状Vベルト14が架渡され、駆動プーリ12の回転が従動プーリ13に伝達される。
従動プーリ13の回転数が所定回転数を越えると、従動プーリ13と従動軸26との間に設けられている遠心クラッチ73が接続状態となり、従動軸26が回転を始める。
従動軸26の回転トルクは、動力系減速ギヤ機構16を介して減速されて後車軸27へ伝達され、後車軸27に一体的に固定されている後輪WRの回転に供される。
【0054】
図6は、図4のB−B断面図である。左右のクランクウエブ61A、61Bの間隔部の上方に、ボールベアリング65、65で支持されたバランサ63が設けてある。
右側クランクウエブ61Bに隣接してクランク軸25に設けられたバランサ駆動ギヤ62とバランサ軸に固定されたバランサ従動ギヤ64を介して、上記バランサ63は回転駆動される。
【0055】
変速機室38に突出しているクランク軸25に設けられている駆動プーリ12は、駆動プーリ固定半体66と駆動プーリ可動半体67とからなっている。
クランク軸25の変速機室38内への突出部には、クランク軸25の中心部に近い側から、段差25aと段差25bで区切られた第1小径部25Aと、段差25bと軸端25cで区切られた第2小径部25Bが形成されている。
第1小径部25Aの軸端側の半分と第2小径部25Bの軸端側の半分にはそれぞれスプラインが設けてある。
【0056】
第1小径部25Aには、ボールベアリング76の内輪と、第1支持スリーブ77と、ガイドスリーブ78が嵌挿され、第2小径部25Bには、第2支持スリーブ79と、駆動プーリ固定半体66とカラー80が嵌装されている。
スリーブ77、78、79、及びカラー80はスチール製、駆動プーリ固定半体66はアルミ合金製である。上記各部材は、クランク軸25の端部のねじ孔にワッシャ81を介して螺入されたボルト82で締められ、クランク軸25方向に移動不能に固定される。上記部材のうち、ガイドスリーブ78は、その内面に形成されたスプラインを介してクランク軸25の第1小径部25Aのスプラインに嵌装されている。
【0057】
駆動プーリ固定半体66はその中心孔の内側のスプラインを介して第2小径部25Bのスプラインに嵌装されている。したがって、ガイドスリーブ78及び駆動プーリ固定半体66はクランク軸25に対して相対回転不能に固定され、クランク軸25と共に回転する。
クランク軸25の左端は、上記カラー80とボールベアリング43を介して伝動ケースカバー34に支持されている。カラー80にはフレッティング磨耗防止のためのグリス溝80aが設けられ、その両側に設けられたOリング溝80bにOリングが装着してある。
【0058】
駆動プーリ可動半体67は、中心のスチール製の可動半体ハブ部67Aと、アルミ合金製の傘状部67Bからなっている。
これは、あらかじめ製作されている可動半体ハブ部67Aの端部に傘状部67Bが鋳造によって一体的に形成されたものである。
【0059】
駆動プーリ可動半体ハブ部67Aの内周には、内方へ突出する突起状スプライン67iが形成され、ガイドスリーブ78の外周に形成された外周スプライン78eに嵌合している。
上記ガイドスリーブ78の外周スプライン78eは軸方向に長いスプラインであるから、上記突起状スプライン67iは、外周スプライン78eの溝の中で軸方向に摺動可能である。
したがって、駆動プーリ可動半体67は、クランク軸25に対しては相対回転不可であるが、軸方向には移動可能に保持される。ガイドスリーブ78の外周スプライン78eの溝にはグリースが塗布され、可動半体ハブ部67Aの突起状スプライン67iの摺動を円滑化している。
可動半体ハブ部67Aの両端部には、上記グリースの漏出防止と埃の侵入防止のためのシール83が設けてある。
【0060】
図6において、クランク軸25にボールベアリング76の内輪が軸方向移動不能に装着されている。
ボールベアリング外輪保持部材85は、上記ボールベアリング76の外輪を保持することによって、ボールベアリング外輪保持部材85自体が軸方向移動不能となっている。
ボールベアリング外輪保持部材85の外周のフランジ部に雌ネジ円筒部材86がボルト87によって一体化されている。雌ネジ円筒部材86のフランジ部の外周には、大径歯車88が形成されている。
【0061】
ボールベアリング外輪保持部材85と雌ネジ円筒部材86とボルト87と大径歯車88は一体となって定位置回転ネジ部材89を形成している。
定位置回転ネジ部材89は、クランク軸25の軸方向の定位置で、クランク軸25とは独立の回転を行うことができる。
定位置回転ネジ部材89の大径歯車88は、駆動プーリ制御用電動モータ28と駆動プーリ制御部減速ギヤ機構29によって回転駆動される。
【0062】
駆動プーリ12の可動半体ハブ部67Aの外周にはボールベアリング91の内輪が軸方向相対移動不能に装着され、雄ネジ円筒部材92が、上記ボールベアリング91の外輪を一体的に保持している。雄ネジ円筒部材92の外周の雄ネジ部は、上記雌ネジ円筒部材86の内周の雌ネジ部に係合している。
【0063】
雄ネジ円筒部材92のフランジ部92aには、雄ネジ円筒部材92の回り止め部として機能する環状部材93がボルト94を介して固定されている。
上記環状部材93の周囲の一部は後方に延び、その後方延出部93aは外端部で定位置回転ネジ部材89の大径歯車88の外側を回って右方へ延出し、回り止め部93bとなっている。
雄ネジ円筒部材92と環状部材93とはボルト94で一体化して軸方向移動ネジ部材95を形成している。
【0064】
上記回り止め部93bは、伝動ケース32Bの内面から変速機室38内に突出形成された一対のガイド片96、96に挟まれ、回転を規制されるとともにクランク軸方向の移動を案内される。
これによって、定位置回転ネジ部材89が回転した時、上記回り止め部93bが連なる軸方向移動ネジ部材95は、回転を規制された状態で、クランク軸方向の移動を案内され、クランク軸25の軸線方向に移動する。
上記定位置回転ネジ部材89と軸方向移動ネジ部材95とによって駆動プーリ可動半体を駆動するネジ式送り機構が構成されている。
【0065】
上記環状部材93にはその後方延出部93aの根元の近くに左ストッパ93cが一体形成されている。これは、軸方向移動ネジ部材95の右方移動の限界を検知するためのものである。
環状部材93から延出した回り止め部93bの先端には右ストッパ97がボルト98によって取り付けてある。
これは、軸方向移動ネジ部材95の左方移動の限界を検知するためのものである。
【0066】
上記定位置回転ネジ部材89は、駆動プーリ制御のための変速用電動モータ28と駆動プーリ制御部減速ギヤ機構29によって回転駆動される。
左側クランクケース32Aの左側に制御部ギヤカバー35が取り付けられ、これらのケース32とカバー35に挟まれた部分に制御部ギヤ室101が形成されている。
取付け板102を介して、電動モータ28が左側クランクケース32Aの右側外面に取り付けられ、同電動モータ28をモータケース103が覆っている。
上記電動モータ28の回転軸104に刻設されたピニオン105が制御部ギヤ室101の中に突入している。
電動モータ28は、左側クランクケース32Aの外側に装着されるので、電動モータ28のメインテナンス性が確保される。
【0067】
上記ピニオン105に噛み合う大径歯車106と、これに隣接する小径歯車107とが一体に構成された第1中間歯車108が、左側クランクケース32Aと制御部ギヤカバー35にボールベアリング109、109を介して回転可能に支持されている。
上記小径歯車107に噛み合う大径歯車110と、これに一体的に隣接する小径歯車111とが、回転軸112に嵌挿されて一体化された第2中間歯車113が、左側クランクケース32Aと制御部ギヤカバー35にボールベアリング114、114を介して回転可能に支持されている。
上記小径歯車111に、前述の定位置回転ネジ部材89の大径歯車88が噛み合っている。
図4に、上記ピニオン105の回転中心105c、第1中間歯車108の回転中心108c、第2中間歯車113の回転中心113cが示してある。
【0068】
第2中間歯車113の回転軸112の左端にはウオーム115が刻設されており、制御部ギヤカバー35のウオーム115の近傍にセンサ取付部35aが形成され、同センサ取付部35aに駆動プーリ変速位置センサ116が取り付けられている。
駆動プーリ変速位置センサ116は、突出した回転軸に嵌着されたウオームホイール116hがウオーム115と噛み合うようになっている。
駆動プーリ変速位置センサ116は、ウオーム115とウオームホイール116hの噛合いによって第2中間歯車113の回転量を検出し、これを基に駆動プーリ可動半体67の移動位置を検出するものである。
【0069】
図6において、電動モータ28が制御指令に応じて正方向に回転すると、ピニオン105、第1中間歯車108、第2中間歯車113を経由して動力が伝達され、定位置回転ネジ部材89が回転し、定位置回転ネジ部材89のねじ部に噛み合っている軸方向移動ネジ部材95のネジ部が、上記定位置回転ネジ部材89のねじ部からクランク軸方向の推力を受けるので、軸方向移動ネジ部材95はクランク軸25の軸線方向へ移動する。
上記軸方向移動ネジ部材95が受ける推力は、ボールベアリング91を介して駆動プーリ可動半体ハブ部67Aに伝わり、駆動プーリ可動半体67はクランク軸25の軸線方向へ移動し、駆動プーリ固定半体66との間隔を狭め、Vベルト14を外周方向へ移動させる。
電動モータ28が制御指令に応じて逆方向に回転すると、上記とは逆の過程によって、駆動プーリ固定半体66と駆動プーリ可動半体67との間隔が広がり、Vベルト14は中心方向へ移動する。
【0070】
図7は従動プーリ13及び動力系減速ギヤ機構16とその周辺部の拡大断面図である。
Vベルト式無段変速機15の駆動プーリ12に対応する従動プーリ13は、従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75とからなり、互いに対向して、ともに従動軸26に支持されている。
従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75は、それぞれスチール製の固定半体ハブ部74A及び可動半体ハブ部75Aの端にアルミ合金製の傘状部74B、75Bをリベット74C、75Cで取付けて一体化されている。
【0071】
従動軸26は、伝動ケースカバー34と伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36にそれぞれボールベアリング70A,70B、70Cを介して回転自在に軸支されている。
従動軸26の左側部分には小径部26Aが形成されていて、同小径部26Aにボールベアリング120、支持スリーブ121、カラー122が、この順に嵌合されて端部にナット123が螺着されて一体に締結されている。
支持スリーブ121は従動軸26にスプライン嵌合されている。
伝動ケースカバー34とカラー122との間に前記ボールベアリング70Aが介装されている。
【0072】
支持スリーブ121には遠心式クラッチ73の椀状のクラッチアウタ125の基部が溶接によって固着され、従動軸26と一体に回転するようになっている。
クラッチアウタ125の右方の従動軸26の外周には、従動プーリ固定半体ハブ部74Aがボールベアリング120とニードルベアリング124の介装により従動軸26に対して相対回転可能に支持されている。
【0073】
上記固定半体ハブ部74Aの左端に遠心式クラッチ73のクラッチインナ126の一部をなす支持プレート126Aがナット127により固定されている。
支持プレート126Aには枢軸126Bによりアーム126Cがその基端部を軸支されており、同アーム126Cの先端にクラッチシュー126Dが固着されている。
アーム126Cはクラッチシュー126Dがクラッチアウタ125の内周面から離れる方向にばね126Eにより付勢されている。
【0074】
このクラッチインナ126を支持する固定半体ハブ部74Aの外周には、従動プーリ可動半体75を支持する可動半体ハブ部75Aが、軸方向に摺動自在に設けられている。
可動半体ハブ部75Aのスリーブ部には螺旋状にガイド孔181が形成されていて、固定半体ハブ部74Aのスリーブ部に突設されたガイドピン182が上記螺旋状のガイド孔75aに摺動自在に係合してトルクカム180を構成している。
また、固定半体ハブ部74Aに一体に取り付けられた支持プレート126Aと可動半体ハブ部75Aとの間にコイルスプリング129 が介装されて、同コイルスプリング129 により可動半体ハブ部75Aは右方に、即ち可動半体傘状部75Bが固定半体傘状部74Bに接近する方向に付勢されている。
【0075】
加速時などに駆動プーリ12の回転によりVベルト14の上側ベルト(駆動プーリ12と従動プーリ13との間の上下のベルトのうち上側のベルト)が引っ張られ、従動プーリ13の従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75に正トルク(従動プーリ13の回転方向のトルク)が作用するとき、特に抵抗の大きい従動プーリ固定半体74とVベルト14に滑りを生じ、その場合、Vベルト14に追随しようとする従動プーリ可動半体75が従動プーリ固定半体74に対して相対的に回転するため、この従動プーリ可動半体75と従動プーリ固定半体74の相対回転がトルクカム180により従動プーリ可動半体75を従動プーリ固定半体74に近づけ、Vベルト14を挟みつける方向に側圧を加え、コイルスプリング129によるVベルト14の挟圧をさらに強化して滑りをより一層抑制することができる。
【0076】
なお、減速時にエンジンブレーキが働くようなときは、従動プーリ13がVベルト14の下側ベルトを引っ張ることになり、従動プーリ13の従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75に逆トルクが作用し、従動プーリ可動半体75が従動プーリ固定半体74に対して相対的に回転するが、加速時とは反対方向の相対回転であるため、トルクカム180により従動プーリ可動半体75を従動プーリ固定半体74から離れる方向に側圧が加わることになり、コイルスプリング129によるVベルト14の挟圧を弱め、滑りの抑制が若干弱められる。
【0077】
このような従動プーリ固定半体74と従動プーリ可動半体75の対向する傘状部74B、75Bの間にVベルト14が巻き掛けられ、駆動プーリ12側の巻掛け径に応じて従動プーリ13の巻掛け径が変化し無段変速が行われる。
【0078】
従動プーリ13の回転が所定回転数を超えると、遠心式クラッチ73のクラッチインナ126のクラッチシュー126Dがクラッチアウタ125の内周面に接して、クラッチインナ126とクラッチアウタ125とが一体に回転し、従動プーリ13から従動軸26に動力が伝達され、動力系減速ギヤ機構16に入力される。
【0079】
上記従動軸26から後車軸27に至る動力系減速ギヤ機構16は3本の回転軸に設けられた歯車群によって構成されている。
第1の軸は、Vベルト式無段変速機15の従動軸26の右半部であり、この軸26に小径歯車130が形成されている。
第2の軸は、伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36とにニードルベアリング131、131を介して回転自在に支持されている中間軸132であり、中間軸132に上記従動軸26の小径歯車130に噛合う大径歯車133が一体に嵌着されるとともに、その中間軸132自体に小径歯車134が一体に刻設されている。
第3の軸は、伝動ケース32Bと後部ギヤカバー36とにボールベアリング135、135を介して回転自在に支持されている後車軸27であり、この後車軸27には上記中間軸132の小径歯車134に噛合う大径歯車136が嵌着されている。
この構成によって、従動軸26のトルクは、上記動力系減速ギヤ機構16を介して減速されて後車軸27に伝達される。後車軸27には、後輪WR(図1)が一体的に固定され、エンジンで発生し、変速機を経て伝達された駆動力によって回転駆動される。
【0080】
以上のように構成された本パワーユニットPにおいて、スロットルグリップ211の操作によるグリップ開度に応じてスロットル用電動モータ23Mを駆動して内燃機関Eの吸気通路に設けられたスロットルバルブ23vを作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、運転者が変速操作をするシフトスイッチ217の入力に基づきVベルト式無段変速機15の駆動プーリ12(駆動プーリ可動半体67)を変速用電動モータ28の駆動で作動してVベルト14の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構とが構成されている。
なお、このマニュアルモードのほかシフトスイッチによる変速操作が不要となるATモードを運転者は選択できるようになっている。
【0081】
図8は、パワーユニットPの変速制御系の簡単なブロック図であり、同図8を参照して、電子式スロットルバルブ機構はスロットルバルブ制御手段202により制御され、電子式ベルト無段変速機構はシフト作動制御手段203により制御され、電子式スロットルバルブ機構と電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段201は、スロットルバルブ制御手段202とシフト作動制御手段203を統括しており、変速制御手段201とスロットルバルブ制御手段202とシフト作動制御手段203により電子式変速制御ユニット200を構成している。
【0082】
スロットルバルブ制御手段202には、スロットルセンサ23Sが検出したスロットルバルブ23vのスロットル弁開度θを入力してフィードバック制御するとともに、グリップ開度センサ212,ブレーキスイッチ214,機関回転数nを検出する機関回転数センサ215,車速vを検出する車速センサ216、その他内燃機関Eの運転状態を検出するセンサから検出信号が入力される。
グリップ開度センサ212は、自動二輪車1の操向ハンドル8の右側ハンドルバーのスロットルグリップ211に設けられた角度センサであり、グリップ開度φを検出する。
ブレーキスイッチ214は、ブレーキレバー(またはブレーキペダル)213の操作を検出するスイッチである。
【0083】
シフト作動制御手段203には、前記駆動プーリ変速位置センサ116の検出した駆動プーリ可動半体67の移動位置を入力してフィードバック制御するとともに、運転者のシフトアップおよびシフトダウンの操作指示を検出するシフトスイッチ217および駆動プーリ12の回転数を検出する駆動プーリ回転数センサ218、従動プーリ13の回転数を検出する従動プーリ回転数センサ219からの検出信号が入力される。
シフトスイッチ217は、操向ハンドル8の左側ハンドルバーのグリップ付け根に設けられている。
【0084】
変速制御手段201は、図9に示すような車速vと機関回転数nに基づく変速パターンマップを備えている。
図9の変速パターンマップは、横軸を車速vとし縦軸を機関回転数nとする直角座標で示されている。
【0085】
駆動プーリ回転数に対する従動プーリ回転数の回転数比を変速比とし、マニュアルモードにおいては1速から7速までの各変速段をそれぞれ一定の回転数比に予め設定している。
すなわち、駆動プーリ可動半体67の軸方向位置(駆動プーリ変速位置)が1速から7速までの各変速段で決まっており、高速段ほど駆動プーリ可動半体67は駆動プーリ固定半体66に近い位置となる。
【0086】
図9の変速パターンマップには、1速から7速までの各変速段における機関回転数nと車速vとの関係が斜め上方に延びる各変速段曲線で示されている。
あるスロットル弁開度θで加速中にシフトアップしたときの例を、図9の変速パターンマップ中に、車速vと機関回転数nの関係のシフトアップ移動軌跡Su(太い実線)で示す。
【0087】
図9の変速パターンマップ中のシフトアップ移動軌跡Suを参照して、1速で加速中にシフトアップの入力があると、1速の変速段曲線に沿って上昇中に駆動プーリ可動半体67が駆動プーリ固定半体66に近づく方向に移動して駆動プーリ側のベルト巻掛け径を大きくし、従動プーリ13側が追従して巻掛け径を小さくし、変速比を大きくするので、駆動側が重くなり加速が抑えられ機関回転数nを減少しながら2速の変速段曲線に移り、今度は2速の変速段曲線に沿って上昇する。
これを繰り返すことで、3速、4速、…、7速とシフトアップしていく。
【0088】
同様に、スロットル弁開度θが全閉で減速中にシフトダウンしたときの例を、図9の変速パターンマップ中に、車速vと機関回転数nの関係のシフトダウン移動軌跡Sd(太い実線)で示す。
【0089】
図9の変速パターンマップ中のシフトダウン移動軌跡Sdを参照して、7速で減速中(エンジンブレーキ作動中)にシフトダウンの入力があると、7速の変速段曲線に沿って減少中に駆動プーリ可動半体67が駆動プーリ固定半体66から離れる方向に移動して駆動プーリ側のベルト巻掛け径を小さくし、従動プーリ13側が追従して巻掛け径を大きくし、変速比を小さくするので、駆動側が軽くなり減速が抑えられた状態で機関回転数nが上昇しながら6速の変速段曲線に移り、今度は6速の変速段曲線に沿って減少する。
これを繰り返すことで、5速、4速、…、1速とシフトダウンしてエンジンブレーキが順次大きく効くようになる。
【0090】
従来、このスロットル弁開度θが全閉で減速しているときに、シフトダウンの入力がありシフトダウン作動に入ると、エンジンブレーキが働き下側ベルトが緊張しているところで、駆動プーリ12が開くので、遅れて従動プーリが閉じるまでの間に、駆動プーリの開きで、駆動プーリのVベルトへの側圧が低下し、下側ベルトに発生した張力を駆動プーリへ伝達できなくなり、さらに従動プーリによる下側ベルトの張力によりベルトが回転方向に引かれる状態が発生するため、弛んでいた上側ベルトが瞬間的に引かれることで、駆動プーリとVベルトの間で瞬間的に滑りが発生する。
駆動プーリ側で滑りを生じると、緊張していた下側ベルトが緩み、そのため元々トルクカムが開く方向に側圧を生じて滑りを生じ易い状態にあった従動プーリ側も滑りを生じ、瞬間的に空走感が発生する場合があり、また再びエンジンブレーキが働き始めるときに軽い変速ショックを生じていた。
【0091】
本発明は、このスロットル弁全閉時にシフトダウン操作をした時の空走感および変速ショックを解消したものであり、その変速制御の実施例1を以下説明する。
本実施例1の制御フローチャートを図11および図12に示し、該制御における機関回転数n,駆動プーリ位置,スロットル弁開度θのタイムチャートを図13に示す。
【0092】
図11の変速制御ルーチンのフローチャートを参照して、まず全閉シフトダウン制御フラグFに「1」が立っているか否かを判別し、「0」ならばステップ2に進み、「1」が立っていればステップ8に飛ぶ。
当初、全閉シフトダウン制御フラグFは「0」であり、ステップ2に進み、シフトスイッチ217の操作でシフトダウンの入力があったか否かを判別し、シフトダウンの入力があればステップ3に進み、シフトダウンの入力がなければ、ステップ9に飛び、通常の変速制御を行う。
ステップ3に進むと、スロットルセンサ23sが検出したスロットル弁開度θが全閉(θ=0)か否かが判別され、全閉ならばステップ4に進み、全閉でなければステップ9に飛び、通常の変速制御を行う。
【0093】
したがって、シフトダウンの入力があったときにスロットル弁開度θが全閉(θ=0)である場合、すなわちスロットル弁開度θが全閉(θ=0)状態でシフトダウンの入力があった全閉シフトダウン検出時のみステップ4に進み、シフトダウン入力時の機関回転数Noを読込み、ステップ5で所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定する。
【0094】
このステップ5では、シフトダウン入力時の機関回転数Noと現変速段を、図9の変速パターンマップに照合して一段低いシフトダウン後の変速段の機関回転数Nbを予測し、このシフトダウン後の機関回転数Nbを上限機関回転数として上限機関回転数Nb以下の機関回転数を目標機関回転数Nmとし、この目標機関回転数Nmになるような所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定する。
【0095】
図10は、変速パターンマップの一部を示しており、同図10を参照して、スロットル弁開度θが全閉(θ=0)状態で減速しているときに、シフトダウンの入力があったとき、シフトダウン入力時の現変速段曲線上でシフトダウン入力時の機関回転数Noからシフトダウンを開始する点を求め、この点からシフトダウン作動したときに辿る移動軌跡を推測しシストダウン後の変速段曲線に移る機関回転数Nbを予測する。
【0096】
このシフトダウン後の機関回転数Nbを上限機関回転数として、上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数Nmとして所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定することで、スロットルバルブ23vを最適開弁制御してシフトダウン完了までの間に不要な機関回転数の上昇を防止することができる。
【0097】
この目標機関回転数になるような所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定するが、所要スロットル弁開度θ1は、シフトダウン後の機関回転数Nbにおけるパーシャルスロットル弁開度θpより小さいスロットル弁開度とする。
パーシャルスロットル弁開度θpより小さいスロットル弁開度を所要スロットル弁開度θ1とすることで、機関出力が減速から加速に転じることがなく、機関回転数がシフトダウン後の変速段の機関回転数Nbを越えてオーバーシュートするのを防止して確実にシフトダウンすることができる。
【0098】
以上のように、ステップ5で所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthが設定されると、ステップ6に進み、タイマtをスタートさせ、ステップ7で全閉シフトダウン制御フラグFに「1」を立て、ステップ8に進み、全閉シフトダウン制御に入る。
このように一度全閉シフトダウン制御に入ると、以後全閉シフトダウン制御フラグFが「0」となるまでステップ1からステップ8に飛んで直接全閉シフトダウン制御を続行する。
【0099】
全閉シフトダウン制御は、図12に示されたフローチャートに従って実行される。
まず、ステップ11で、スロットルブリップ211のグリップ開度センサ212が検出するグリップ開度φが0か否か、すなわちスロットルブリップ211の回動操作があり、運転者が加速の意思があるか否かを判別し、スロットルブリップ操作がなければ(φ=0)、ステップ12に進み、スロットルブリップ操作があれば(φ>0)、ステップ21に飛んで、タイマtを停止し、ステップ22で全閉シフトダウン制御フラグFを「0」にして戻るので、以後図11のフローチャートでステップ1、ステップ2、ステップ9と流れて全閉シフトダウン制御を中止して通常変速制御に入る。
【0100】
このように、全閉シフトダウン制御において、スロットルグリップ211の回動操作(加速操作)の入力があると、全閉シフトダウン制御を中止するので、全閉シフトダウン制御から通常のスロットル制御に速やかに戻し、運転者の意思に沿って円滑に加速態勢に移ることができ、違和感が抑えられる。
【0101】
ステップ11でスロットルブリップ操作がなく(φ=0)、ステップ12に進むと、ステップ6で全閉シフトダウン検出時にスタートしたタイマtの計時が、ステップ5で設定した所要開弁時間Tthに達したか否かを判別し、所要開弁時間Tthに達すれば(t≧Tth)、ステップ16に飛び、所要開弁時間Tthに至るまでは(t<Tth)、ステップ13に進む。
【0102】
ステップ13では、全閉シフトダウン検出時からの遅れ時間である所定遅れ時間Tdの経過を判別する。
この所定遅れ時間Tdは、所要開弁時間Tthよりは短い予め設定された時間であり、先のステップ5では、この所定遅れ時間Tdを考慮して、所定遅れ時間Tdより長い所要開弁時間Tthが設定される。
この所定遅れ時間Tdを経過すれば(t≧Td)、ステップ15に飛び、所定遅れ時間Tdを経過するまでは(t<Td)、ステップ14に進む。
【0103】
全閉シフトダウン検出時から所定遅れ時間Tdを経過するまでは(t<Td)、ステップ14に進み、スロットル用電動モータ23Mを駆動してスロットルバルブ23vを開き、ステップ5で設定した所要スロットル弁開度θ1まで開弁し、本制御ルーチンを抜ける。
そして、全閉シフトダウン検出時から所定遅れ時間Tdを経過すると(t≧Td)、ステップ13からステップ15に進み、スロットルバルブ23vは所要スロットル弁開度θ1の開弁を維持して、ステップ17に進む。
【0104】
なお、全閉シフトダウン検出時から所要開弁時間Tthに達すれば(t≧Tth)、ステップ12からステップ16に飛び、スロットルバルブ23vを閉じて、全閉状態に戻し、ステップ17に進む。
ステップ17では、ブレーキレバー213の操作がありブレーキスイッチ214がオンしたか否か、すなわちブレーキ入力があったか否かを判別している。
【0105】
ブレーキ入力がない場合は、ステップ18に進み、変速用電動モータ28を通常回転速度で駆動して駆動プーリ可動半体67を開き方向に通常速度で移動してシフトダウン作動を行い、ステップ20に進む。
ブレーキ入力があると、ステップ19に進み、変速用電動モータ28を高速回転速度で駆動して駆動プーリ可動半体67を開き方向に高速で移動してシフトダウン作動を行い、ステップ20に進む。
【0106】
このように、全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作があると、シフトダウン作動を通常速度より高速にしブレーキ操作による減速に合せて早期にシフトダウンを完了させることができる。
シフトダウンが早期に完了することで、速やかに次の加速態勢に移行することを可能とする。
【0107】
そして、ステップ20に進むと、シフトダウンが完了したか否かを判別する。
シフトダウンの完了は、シフトダウン作動が完了したことであり、変速用電動モータ28の駆動により駆動プーリ可動半体67をシフトダウン後の変速段位置まで移動し終えた状態である。
シフトダウンが完了するまでは、ステップ20からそのまま本ルーチンを抜け、シフトダウンが完了すると、ステップ21に進み、タイマtの計時を停止し、ステップ22で全閉シフトダウン制御フラグFを「0」にして本ルーチンを抜ける。
【0108】
シフトダウンが完了し、全閉シフトダウン制御フラグFが「0」となると、先のステップ1からステップ2に進み、新たにシフトダウンの入力がない限り、ステップ9に飛んで、通常の変速制御に入り、全閉シフトダウン制御は終了するので、シフトダウン完了後の不要なスロットル作動を防止して、シフトダウン後の空走感の発生を抑制できるとともに、シフトダウン完了後のエンジンブレーキを妨げることがない。
【0109】
本変速制御手段201は、以上のように変速制御に行う。
この変速制御を、図13のタイムチャートに示す機関回転数n,駆動プーリ位置,スロットル弁開度θの変化でみると、スロットル弁開度θが全閉(θ=0)で減速しエンジンブレーキが働いている状態で、シフトダウンの入力があると、その全閉シフトダウン検出時Toに、全閉シフトダウン制御に入り、まずスロットルバルブ23vを所要スロットル弁開度θ1まで開弁する(ステップ14)。
スロットルバルブ23vの開弁により機関回転数nが上昇している。
【0110】
駆動プーリ12の加速回転で駆動プーリ12がVベルト14の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ13側ではトルクカム180によりVベルト14を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態としている。
その後、ブレーキ入力がないものとして、全閉シフトダウン検出時Toから所定遅れ時間Tdだけ遅れて変速用電動モータ28を通常回転速度で駆動して駆動プーリ可動半体67を開き方向に通常速度で移動する(ステップ13,15,17,18)。
駆動プーリ位置は、図13で実線で示すように、高速段位置からシフトダウン後の低速段位置に通常速度で移動する。
【0111】
駆動プーリ12が上側ベルトを巻き込み緊張させている状態にあるので、駆動プーリ12が開き移動してもVベルト14が速やかに追従し、駆動プーリ12側でのVベルト14の滑りを最小限に抑えることができる。
他方、従動プーリ13側ではトルクカム180の作用により滑りを生じさせないまま従動プーリ13が閉じ始め、益々滑りが抑えられて下側ベルトを引っ張り、下側ベルトを緊張させてエンジンブレーキを再び働かせることができる。
【0112】
このように全閉シフトダウン検出時に、従動プーリ13は滑りを生じさせないままVベルト14の下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、空走感を解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンさせることができる。
また、このとき従動プーリ13は弛んでいた下側ベルトを外周へ速やかに巻き込むことができるので、コイルスプリング129による従動プーリ13の閉じ方向の移動は小さい抵抗で速やかに実行され、変速が速やかに完了する。
さらに、全閉シフトダウン時に、駆動プーリ12および従動プーリ13の双方でVベルト14の滑りが発生しないので、滑り摩耗によるベルトの寿命の短縮を極力抑制することができる。
【0113】
なお、駆動プーリ12の開き移動で変速比が大きくなることで、機関回転数nがさらに上昇している。
そして、全閉シフトダウン検出時Toから所要開弁時間Tth経過すると、それまで所要スロットル弁開度θ1で開弁していたスロットルバルブ23vを閉じる(ステップ16)。
【0114】
シフトダウン後の変速段の機関回転数Nbを予測し、このシフトダウン後の機関回転数Nbを上限機関回転数として上限機関回転数Nb以下の機関回転数を目標機関回転数Nmとし、この目標機関回転数Nmになるような所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定しているので、所要開弁時間Tthを経過したところで、機関回転数nは目標機関回転数Nmとなり、以後は変速比の変化に伴い機関回転数nは緩やかに上昇してシフトダウン後の変速段の機関回転数Nbに達する。
【0115】
このように所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定して制御することで、スロットルバルブ23vを最適開弁制御してシフトダウン完了までの間に不要な機関回転数の上昇を防止することができ、空走感を最小限に抑えて素早く滑らかにシフトダウンすることができる。
【0116】
全閉シフトダウン検出時Toから所要開弁時間Tth経過してスロットルバルブ23vを閉じると、機関回転数nの上昇は抑制されて緩やかとなり、オーバーシュートすることなくシフトダウン後の変速段曲線に移り、その機関回転数Nbに至る。
【0117】
全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作の入力があると、図13のタイムチャートで、駆動プーリ位置は、破線で示すように、高速段位置から低速段位置に急傾斜で移動することになり、機関回転数nも上昇がより促され、ブレーキ操作による減速に合せて早期にシフトダウンを完了させることができる。
なお、ブレーキ操作の入力を伴って全閉シフトダウン制御に入った場合は元より、全閉シフトダウン制御中にブレーキ操作の入力があった場合でも、ブレーキ操作の入力時から駆動プーリ可動半体67の移動速度を高速に変更してシフトダウン作動する。
【0118】
次に実施例2の変速制御について図14に基づいて説明する。
本実施例2の変速制御は、前記実施例1の変速制御ルーチン(図11参照)における所要スロットル弁開度θ1と所要開弁時間Tthを設定するステップ5で、所要開弁時間Tth以内で開弁する所要スロットル弁開度θ2とこれより大きい所要スロットル弁開度θ3を2つ設定する。
この所要開弁時間Tthと所要スロットル弁開度θ2,θ3は、シフトダウン後の機関回転数(Nb)を上限機関回転数とし、同上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数(Nm)として、この目標機関回転数(Nm)になるように設定されている。
【0119】
そして、全閉シフトダウン制御ルーチン(図12参照)における所要スロットル弁開度θ1までスロットルバルブ23vを開弁するステップ14で、所要スロットル弁開度θ2までの開弁とし、スロットルバルブ23vの所要スロットル弁開度θ1の開弁を維持するステップ15では、より大きい所要スロットル弁開度θ3までスロットルバルブ23vを開弁するものである。
【0120】
したがって、図14の本変速制御のタイムチャートに示すように、全閉シフトダウン制御に入ると、全閉シフトダウン制御に入った直後(To)にスロットルバルブ23vを所要スロットル弁開度θ2だけ開弁し、駆動プーリ12の加速回転で駆動プーリ12がVベルト14の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ13側ではトルクカム180によりVベルト14を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態に確実にした所定遅れ時間Td後に、遅れてシフトダウン作動を行い駆動プーリ12を開くので、従動プーリ13は滑りを生じさせないまま下側ベルトを引っ張り始め、さらにスロットルバルブ23vをシフトダウン作動前の所要スロットル弁開度θ2より大きい所要スロットル弁開度θ3だけ開くため、駆動プーリ12はさらに加速回転しVベルト14の滑りは確実に抑えられ、よって空走感を確実に解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンしてエンジンブレーキを復帰させることができる。
【0121】
全閉シフトダウン時に、駆動プーリ12および従動プーリ13の双方でVベルト14の滑りが殆ど発生しないので、滑り摩耗によるVベルト14の寿命の短縮を益々抑制することができる。
【0122】
実施例2では、所定遅れ時間Td後に所要スロットル弁開度θ3に一気に開弁したが、図15のタイムチャートで示す実施例3は、所要スロットル弁開度θ2から徐々に所要スロットル弁開度θ3までスロットルバルブ23vを開弁するようにしたものであり、その他の制御は実施例2と同じである。
【0123】
このように変速制御したときの様子を、図15のタイムチャートに示す。
シフトダウン作動と同時に行うスロットルドラム23vの開弁を徐々に行うので、機関回転数nを確実に目標機関回転数Nmに上昇させることができる。
【0124】
次に、全閉シフトダウン制御において、スロットルバルブ23vを複数回開閉する実施例4を、図16のタイムチャートに示し説明する。
本実施例4では、スロットルバルブ23vを2回開閉するとして、1回の所要スロットル弁開度θ4と開弁時間Tthおよび2回目の開閉時期を、シフトダウン後の変速段の機関回転数Nbを予測し、このシフトダウン後の機関回転数Nbを上限機関回転数として上限機関回転数Nb以下の機関回転数を目標機関回転数Nmとし、この目標機関回転数Nmになるように設定する。
【0125】
シフトダウンの入力があると、その全閉シフトダウン検出時Toに、全閉シフトダウン制御に入り、まずスロットルバルブ23vを所要スロットル弁開度θ4まで開弁する。
スロットルバルブ23vの開弁により機関回転数nが上昇している。
【0126】
この1回目のスロットルバルブ23vの開弁で、駆動プーリ12の加速回転で駆動プーリ12がVベルト14の上側ベルトを巻き込み、上側ベルトを緊張させることで、従動プーリ13側ではトルクカム180によりVベルト14を挟む方向に側圧を増して滑りを抑える状態としている。
【0127】
そして、所定遅れ時間Tdだけ遅れて駆動プーリ12を開き方向に移動するので、駆動プーリ12側でのVベルト14の滑りを最小限に抑え、従動プーリ13側では滑りを生じさせないまま従動プーリ13が閉じて、下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、空走感を解消し変速ショックを生じさせずに滑らかにシフトダウンさせることができる。
【0128】
その後、2回目のスロットルバルブ23vの開閉を行うことで、機関回転数nを目標機関回転数Nmに速やかにかつ確実に到達させることができるので、機関回転数のオーバーシュートを確実に防止できる。
【0129】
次に、別の実施例5について図17,図18のフローチャートと図19のタイムチャートに基づき説明する。
本実施例5は、変速制御をできるだけ簡素化したものであり、全閉シフトダウン検出時に、スロットルバルブ23vを短時間開くと同時に、駆動プーリ12を開き始めるものである。
【0130】
図17の変速制御ルーチンでは、前記実施例1の図11に示された変速制御ルーチンの中の所要スロットル弁開度θ1で所要開弁時間Tthの設定に係るステップ4とステップ5がないだけである。
本実施例5では、所要スロットル弁開度θ5と所要開弁時間Tthとは予め決めている。
【0131】
そして、図18の全閉シフトダウン制御ルーチンに入ると、ステップ41で予め決めてある所要開弁時間Tthを経過したか否かを判別し、所要開弁時間Tthを経過するまでは(t<Tth)、ステップ42に進んでスロットルバルブ23vを予め決めておいた所要スロットル弁開度θ5に開弁し、略同時にステップ44に進んで変速用電動モータ28を駆動して駆動プーリ可動半体67を開き方向に移動してシフトダウン作動を行い、シフトダウン完了か否かを判断する(ステップ45)。
【0132】
所要開弁時間Tthを経過すると、ステップ41からステップ43に飛んで、スロットルバルブ23vを閉じて、ステップ44に進み、シフトダウン作動を継続し、シフトダウン作動を終えたところでシフトダウンは完了する。
このように、全閉シフトダウン制御に入ると、駆動プーリ12を開くと略同時に、スロットルバルブ23vを短時間Tthだけ開弁する極めて簡単な変速制御である。
【0133】
全閉シフトダウン制御に入ると、直後に駆動プーリ12を開くが、略同時にスロットルバルブ23vを開弁することで、駆動プーリ12の加速回転がVベルト14の上側ベルトの巻き込みが行われ、上側ベルトがある程度緊張するので、駆動プーリ12が開き移動してもVベルト14が何とか追従して、駆動プーリ12側でのVベルト14の滑りを幾らか抑えることが可能であり、他方、従動プーリ13側では上側ベルトの弱めの緊張でトルクカム180が十分働く状態になっていなくても、滑りを抑制して従動プーリ13が閉じ始め、下側ベルトを引っ張り、エンジンブレーキを再び働かせることが可能で、空走感を抑制し変速ショックを防止してシフトダウンさせることが可能である。
【0134】
以上の実施例では、全閉シフトダウン制御において、スロットルバルブ23を駆動して開弁していたが、スロットルバルブ23vを迂回するバイパス通路に設けられたアイドルエア制御バルブを駆動して開弁するようにしてもよい。
【0135】
すなわち、スロットルバルブ23vのスロットル弁開度が全閉状態でシフトダウンの指示が入力されときは、全閉シフトダウン制御に入り、アイドルエア制御バルブを所要開弁時間だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて変速用アクチュエータ28を駆動し駆動プーリ12を作動してシフトダウン作動を行うようにする。
【0136】
全閉シフトダウン検出時に、アイドルエア制御バルブの開弁で駆動プーリ12が上側ベルトを巻き込み緊張させることで、トルクカム180の作動で従動プーリ13は滑りを生じさせないままVベルト14の下側ベルトを引っ張り始めエンジンブレーキを復帰させることができ、簡単な制御構成で空走感および変速ショックを抑え可及的に滑らかにシフトダウンさせることができる。
【符号の説明】
【0137】
P…パワーユニット、E…内燃機関、12…駆動プーリ、13…従動プーリ、14…Vベルト、15…Vベルト式無段変速機、23…スロットルボディ、23M…スロットル用電動モータ、23s…スロットルセンサ、28…変速用電動モータ、29…制御部減速ギヤ機構、32A…左側クランクケース、32B…伝動ケース、33…右側クランクケース、34…伝動ケースカバー、35…制御部ギヤカバー、37…変速機ケース、38…変速機室、66…駆動プーリ固定半体、67…駆動プーリ可動半体、86…雌ネジ円筒部材、88…大径歯車、89…定位置回転ネジ部材、92…雄ネジ円筒部材、95…軸方向移動ネジ部材、129…コイルスプリング、116…駆動プーリ変速位置センサ、180…トルクカム、181…ガイド孔、182…ガイドピン、
200…電子式変速制御ユニット、201…変速制御手段、202…スロットルバルブ制御手段、203…シフト作動制御手段、
211…スロットルグリップ、212…グリップ開度センサ、213…ブレーキレバー、214…ブレーキスイッチ、215…機関回転数センサ、216…車速センサ、217…シフトスイッチ、218…駆動プーリ回転数センサ、219…従動プーリ回転数センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットルグリップ(211)の操作によるグリップ開度(φ)に応じてスロットル用アクチュエータ(23M)を駆動して内燃機関(E)の吸気通路に設けられたスロットルバルブ(23v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、
運転者が変速操作をするシフトスイッチ手段(217)の入力に基づき駆動プーリ(12)とトルクカム(180)を備える従動プーリ(13)との間にベルト(14)が架渡されたベルト式無段変速機(15)の前記駆動プーリ(12)を変速用アクチュエータ(28)の駆動で作動して前記ベルト(14)の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構と、
前記電子式スロットルバルブ機構と前記電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段(201)と、
を備える電子式変速制御ユニット(200)において、
前記変速制御手段(201)は、
前記スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの入力があった全閉シフトダウン検出時は、全閉シフトダウン制御に入り、前記スロットル用アクチュエータ(23M)を駆動制御して前記スロットルバルブ(23v)を所要スロットル弁開度(θ1)で所要開弁時間(Tth)だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動し前記駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うことを特徴とする電子式変速制御ユニット。
【請求項2】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、シフトダウン後の機関回転数(Nb)を上限機関回転数とし、同上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数(Nm)として所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)を設定し、設定された所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)とにより前記スロットルバルブ(23v)を開弁することを特徴とする請求項1記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項3】
全閉シフトダウン制御において、シフトダウン後の機関回転数(Nb)におけるパーシャルスロットル弁開度(θp)より小さいスロットル弁開度を前記所要スロットル弁開度(θ1)とすることを特徴とする請求項2記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項4】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後に前記スロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ1)で前記所要開弁時間(Tth)開き、
前記スロットルバルブ(23v)の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動することを特徴とする請求項3記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項5】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後に前記スロットルバルブ(23v)を開き始め、所要スロットル弁開度(θ2)で開弁し、
前記所要開弁時間(Tth)以内の所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動し、
シフトダウン作動と同時に前記スロットルバルブ(23v)をシフトダウン作動前の前記所要スロットル弁開度(θ2)より大きい所要スロットル弁開度(θ3)で前記所要開弁時間(Tth)経過するまで開くことを特徴とする請求項3記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項6】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後から前記スロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ4)で所要開弁時間(Tth)の開閉を複数回行い、
前記スロットルバルブ(23v)の最初の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動することを特徴とする請求項3記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項7】
前記変速制御手段(201)は、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動が完了した時点で前記全閉シフトダウン制御を終了することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項8】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作の入力があると、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動を通常速度より高速に設定することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項9】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御において、加速操作の入力があると、全閉シフトダウン制御を中止することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項10】
内燃機関(E)の吸気通路に設けられたスロットルバルブ(23v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、
前記スロットルバルブ(23v)を迂回するバイパス通路に設けられたアイドルエア制御バルブを制御するアイドルエア制御機構と、
駆動プーリ(12)とトルクカム(180)を備える従動プーリ(13)との間にベルト(14)が架渡されたベルト式無段変速機(15)の前記駆動プーリ(12)を変速用アクチュエータ(28)の駆動で作動して前記ベルト(14)の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構と、
前記アイドルエア制御機構と前記電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段と、
を備える電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段は、
前記スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの指示が入力されときは、全閉シフトダウン制御に入り、前記アイドルエア制御バルブを所要開弁時間だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて前記変速用アクチュエータを駆動し前記駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うことを特徴とする電子式変速制御ユニット。
【請求項1】
スロットルグリップ(211)の操作によるグリップ開度(φ)に応じてスロットル用アクチュエータ(23M)を駆動して内燃機関(E)の吸気通路に設けられたスロットルバルブ(23v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、
運転者が変速操作をするシフトスイッチ手段(217)の入力に基づき駆動プーリ(12)とトルクカム(180)を備える従動プーリ(13)との間にベルト(14)が架渡されたベルト式無段変速機(15)の前記駆動プーリ(12)を変速用アクチュエータ(28)の駆動で作動して前記ベルト(14)の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構と、
前記電子式スロットルバルブ機構と前記電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段(201)と、
を備える電子式変速制御ユニット(200)において、
前記変速制御手段(201)は、
前記スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの入力があった全閉シフトダウン検出時は、全閉シフトダウン制御に入り、前記スロットル用アクチュエータ(23M)を駆動制御して前記スロットルバルブ(23v)を所要スロットル弁開度(θ1)で所要開弁時間(Tth)だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動し前記駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うことを特徴とする電子式変速制御ユニット。
【請求項2】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、シフトダウン後の機関回転数(Nb)を上限機関回転数とし、同上限機関回転数以下の機関回転数を目標機関回転数(Nm)として所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)を設定し、設定された所要スロットル弁開度(θ1)と所要開弁時間(Tth)とにより前記スロットルバルブ(23v)を開弁することを特徴とする請求項1記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項3】
全閉シフトダウン制御において、シフトダウン後の機関回転数(Nb)におけるパーシャルスロットル弁開度(θp)より小さいスロットル弁開度を前記所要スロットル弁開度(θ1)とすることを特徴とする請求項2記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項4】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後に前記スロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ1)で前記所要開弁時間(Tth)開き、
前記スロットルバルブ(23v)の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動することを特徴とする請求項3記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項5】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後に前記スロットルバルブ(23v)を開き始め、所要スロットル弁開度(θ2)で開弁し、
前記所要開弁時間(Tth)以内の所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動し、
シフトダウン作動と同時に前記スロットルバルブ(23v)をシフトダウン作動前の前記所要スロットル弁開度(θ2)より大きい所要スロットル弁開度(θ3)で前記所要開弁時間(Tth)経過するまで開くことを特徴とする請求項3記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項6】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御に入ると、
全閉シフトダウン制御に入った直後から前記スロットルバルブ(23v)を開弁し、所要スロットル弁開度(θ4)で所要開弁時間(Tth)の開閉を複数回行い、
前記スロットルバルブ(23v)の最初の開弁から所定遅れ時間(Td)だけ遅れて前記変速用アクチュエータ(28)を駆動してシフトダウン作動することを特徴とする請求項3記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項7】
前記変速制御手段(201)は、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動が完了した時点で前記全閉シフトダウン制御を終了することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項8】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御において、ブレーキ操作の入力があると、前記変速用アクチュエータ(28)によるシフトダウン作動を通常速度より高速に設定することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項9】
前記変速制御手段(201)は、全閉シフトダウン制御において、加速操作の入力があると、全閉シフトダウン制御を中止することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項記載の電子式変速制御ユニット。
【請求項10】
内燃機関(E)の吸気通路に設けられたスロットルバルブ(23v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構と、
前記スロットルバルブ(23v)を迂回するバイパス通路に設けられたアイドルエア制御バルブを制御するアイドルエア制御機構と、
駆動プーリ(12)とトルクカム(180)を備える従動プーリ(13)との間にベルト(14)が架渡されたベルト式無段変速機(15)の前記駆動プーリ(12)を変速用アクチュエータ(28)の駆動で作動して前記ベルト(14)の巻掛け径を変更し変速する電子式ベルト無段変速機構と、
前記アイドルエア制御機構と前記電子式ベルト無段変速機構とを制御して変速制御を行う変速制御手段と、
を備える電子式変速制御ユニットにおいて、
前記変速制御手段は、
前記スロットルバルブ(23v)のスロットル弁開度(θ)が全閉状態でシフトダウンの指示が入力されときは、全閉シフトダウン制御に入り、前記アイドルエア制御バルブを所要開弁時間だけ開く制御を行うとともに、同時または遅れて前記変速用アクチュエータを駆動し前記駆動プーリ(12)を作動してシフトダウン作動を行うことを特徴とする電子式変速制御ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−211680(P2012−211680A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78738(P2011−78738)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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