説明

電子機器

【課題】振動片の強度が向上し、耐衝撃特性を向上させることができる電子機器の提供。
【解決手段】電子機器に用いられる水晶振動片1は、水晶の結晶軸に対して所定の角度で切り出されたZ板がエッチング成形された振動片であって、基部10と、基部10からY軸方向に延びる一対の振動腕11と、基部10をX軸方向に切り欠いたX軸プラス方向切り欠き部12とX軸マイナス方向切り欠き部13とを備え、X軸プラス方向切り欠き部12は、基部10をX軸のマイナス側からプラス側へ切り欠き、X軸プラス方向切り欠き部12の幅が外周10bに近づくに連れて広がるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動片を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基部と、基部から突出して形成されている振動腕部(以下、振動腕という)とを有し、振動腕に溝部が形成されている振動片であって、基部に切り込み部(以下、切り欠き部という)が形成されている振動片が開示されている。
特許文献1の振動片は、基部に切り欠き部が形成されていることにより、振動腕から基部への振動漏れが減少し、CI(クリスタルインピーダンス)値およびQ値のばらつきの抑制が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−280870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記振動片は、通常、エッチングによって外形形状が形成されている。そして、水晶を基材とした振動片においては、水晶の結晶軸に対する方向によってエッチング速度が異なるエッチング異方性を有する。
このエッチング異方性に起因して、振動片は、基部の切り欠き部の先端部分が、オーバーエッチング(エッチング過多)されることによって、本来の位置より基部の中央側に入り込み、例えば、先端が尖ったくさびのような、応力が集中しやすい形状に形成されることがある。
これにより、振動片は、落下時などの衝撃が加わった際に、切り欠き部の先端部分に応力が集中し、その部分から破損する虞がある。
振動片が破損すると、該振動片が用いられている電子機器は、電子機器としての機能を発揮することができなくなる。即ち、耐衝撃特性の劣る電子機器となってしまう虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる電子機器は、振動片と、前記振動片を駆動させる回路部と、を備え、前記振動片は、水晶の結晶軸としての互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸に対して所定の角度で切り出されたZ板を基材とし、外形形状がエッチングによって形成され、切り欠き部が形成された基部と、前記基部から延びる振動腕と、を備え、前記切り欠き部は、前記基部を前記X軸のマイナス側からプラス側へ切り欠いたX軸プラス方向切り欠き部を含み、前記X軸プラス方向切り欠き部の前記Y軸方向における幅は、前記X軸プラス方向切り欠き部の前記X軸の前記マイナス側の端において最大であり、前記基部は、前記X軸プラス方向切り欠き部において、前記幅が前記X軸の前記マイナス側の前記端から前記X軸の前記プラス側へ向かって徐々に狭まる形状を有することを特徴とする。
【0007】
これによれば、電子機器に用いられている振動片は、基部にX軸のマイナス側からプラス側へ切り欠いたX軸プラス方向切り欠き部を含む切り欠き部を有している。
振動片は、上記方向に切り欠き部を設けることで、振動漏れをより効果的に抑制できる。そして、振動片は、基部に傾斜部を有することで、切り欠き部の先端部分におけるエッチングの進行度合いが変化し、オーバーエッチングを抑制できる。
この結果、振動片は、切り欠き部の先端部分における応力集中が緩和されることから、基部の強度が向上し、耐衝撃特性を向上させることができる。
従って、上記振動片を用いている電子機器は、耐衝撃特性を向上させることが可能となる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる電子機器において、前記基部は、前記X軸の前記マイナス側の前記端から前記X軸の前記プラス側へ向かって、前記X軸プラス方向切り欠き部の前記幅が狭まるように傾斜している傾斜部を有することを特徴とする。
【0009】
これによれば、電子機器に用いられている振動片の基部は、X軸のマイナス側の端からX軸の前記プラス側へ向かって、X軸プラス方向切り欠き部の幅が狭まるように傾斜している傾斜部を有している。振動片は、基部に傾斜部を設けることで、X軸プラス方向切り欠き部の先端部分におけるエッチングの進行度合いが変化し、オーバーエッチングを抑制できる。
この結果、振動片は、切り欠き部の先端部分における応力集中が緩和されることから、基部の強度が向上し、耐衝撃特性を向上させることができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる電子機器において、前記傾斜部は、前記切り欠き部において前記Y軸のプラス側に位置する一方の辺に接続され、前記一方の辺との成す角度が3度〜35度の範囲内であることが好ましい。
【0011】
これによれば、振動片は、Y軸のプラス側に位置する一方の辺と傾斜部との成す角度が3度〜35度の範囲内である。
振動片は、一方の辺と傾斜部との成す角度が上記範囲内であることにより、効果的にオーバーエッチングを抑制できる。なお、上記範囲は、発明者らが現物との整合性を検証した上でのエッチングのシミュレーションによる解析結果から得た知見である。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかる電子機器において、前記傾斜部は、前記切り欠き部において前記Y軸のマイナス側に位置する他方の辺に接続され、前記他方の辺との成す角度が10度〜30度の範囲内であることが好ましい。
【0013】
これによれば、振動片は、Y軸のマイナス側に位置する他方の辺と傾斜部との成す角度が10度〜30度の範囲内である。
振動片は、他方の辺と傾斜部との成す角度が上記範囲内であることにより、効果的にオーバーエッチングを抑制できる。なお、上記範囲は、発明者らが現物との整合性を検証した上でのシミュレーションによる解析結果から得た知見である。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかる電子機器において、前記切り欠き部は、前記基部を前記X軸のプラス側からマイナス側へ切り欠かれたX軸マイナス方向切り欠き部を含み、前記X軸プラス方向切り欠き部および前記X軸マイナス方向切り欠き部は、前記Y軸方向において同じ位置に形成されていることが好ましい。
【0015】
これによれば、振動片は、切り欠き部がX軸プラス方向切り欠き部と前記X軸マイナス方向切り欠き部との対で設けられ、振動腕の延びる方向に沿った基部の中心線を対称軸として、対称形状に形成されていることから、バランスのとれた振動を得ることができる。
【0016】
[適用例6]上記適用例にかかる電子機器において、前記振動腕を複数本備え、前記複数本の振動腕と、前記基部とを含んで音叉を構成することが好ましい。
【0017】
これによれば、振動片は、振動腕を複数本備え、複数本の振動腕と基部とを含んで音叉を構成することから、耐衝撃特性が向上した音叉型振動片を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態の振動片の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の断面図。
【図2】図1(a)の要部拡大図。
【図3】切り欠き部における傾斜部の角度と、先端部分のエッチング形状との関係を示す図。
【図4】第2の実施形態の振動片の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の断面図。
【図5】図4(a)の要部拡大図。
【図6】切り欠き部における傾斜部の角度と、先端部分のエッチング形状との関係を示す図。
【図7】第3の実施形態の振動子の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の断面図。
【図8】第4の実施形態の発振器の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の断面図。
【図9】本発明に係る電子機器の一例としての携帯電話機の概略を示す斜視図である。
【図10】本発明に係る電子機器の一例としての携帯電話機の回路ブロック図である。
【図11】本発明に係る電子機器の一例としてのパーソナルコンピューターの概略を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る電子機器に用いられる第1の実施形態の振動片の概略構成を示す模式図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は、図1(a)のA−A線での断面図である。図2は、図1(a)のB部拡大図である。
【0021】
図1に示すように、振動片としての水晶振動片1は、水晶の原石などから、水晶の結晶軸としての互いに直交するX軸、Y軸、Z軸に対して所定の角度で切り出されたZ板を基材とし、外形形状がフォトリソグラフィ技術を用いたエッチング(ウエットエッチング)によって形成された振動片である。なお、本実施形態のエッチングは、フッ化水素酸を含むエッチング溶液を用いて行われる。
ここで、Z板とは、切り出し面(主面10a)がZ軸に対して略直交したものをいい、このZ軸に直交した主面10aが、X軸のプラス側から見てY軸からZ軸の方向へ反時計回りまたは時計回りに0度〜数度の範囲で回転した状態で切り出されたものも含まれる。
水晶振動片1は、X軸が電気軸、Y軸が機械軸、Z軸が光軸となるように、水晶の単結晶から切り出される。
水晶振動片1は、X軸とY軸とからなるX−Y面を、X軸とY軸との交点(座標原点)からみてX軸回りに角度0度から5度傾けた面に沿うZ板を用いることができる。
なお、水晶振動片1は、水晶からの切り出し角度の誤差を、X軸、Y軸及びZ軸の各々につき多少の範囲(例えば、0度〜5度程度の範囲)で許容できる。
【0022】
水晶振動片1は、基部10と、基部10からY軸方向に延びる互いに略平行な一対の振動腕11と、基部10からX軸方向に突出し、振動腕11側に折れ曲がってY軸方向に延びる一対の支持部14とを備えている。そして、基部10には、X軸方向に切り欠かれた一対の切り欠き部(X軸のマイナス側からプラス側へ切り欠かれたX軸プラス方向切り欠き部12、X軸のプラス側からマイナス側へ切り欠かれたX軸マイナス方向切り欠き部13)が形成されている。
水晶振動片1は、基部10と、一対の振動腕11とを含んで音叉を構成することで、音叉型振動片となっており、支持部14の所定の位置に形成された図示しないマウント電極を介してパッケージなどの外部部材に固定されるようになっている。
【0023】
振動腕11は、基部10側に位置する腕部15と、腕部15よりも先端側に位置し、腕部15よりも幅が広い錘部16と、振動腕11の延びる方向(Y軸方向)に沿って形成され、一対の振動腕11の並ぶ方向(X軸方向)に切断した振動腕11の断面形状が、H字状となる溝部17とを有している。
水晶振動片1は、振動腕11に形成された図示しない励振電極に、マウント電極を経由して外部から駆動信号が印加されることにより、一対の振動腕11が、所定の周波数(例えば、32kHz)で矢印C方向及び矢印D方向に交互に屈曲振動(共振)する。
【0024】
ここで、一対の切り欠き部(X軸のマイナス側からプラス側へ切り欠いたX軸プラス方向切り欠き部12とX軸のプラス側からマイナス側へ切り欠かれたX軸マイナス方向切り欠き部13)について詳述する。
X軸プラス方向切り欠き部12は、基部10をX軸のマイナス側からプラス側へ切り欠いて形成されている。
そして、図2に示すように、基部10は、X軸プラス方向切り欠き部12において、切り欠き方向に沿った辺12a,12bの内、Y軸のプラス側に位置する一方の辺としての辺12aと、基部10の外周10bとの間に、X軸プラス方向切り欠き部12の幅が外周10bに近づくに連れて広がるように形成された傾斜部12cを有する。換言すれば、X軸プラス方向切り欠き部12は、X軸プラス方向切り欠き部のY軸方向における幅が、X軸プラス方向切り欠き部12のX軸のマイナス側の端である基部10の外周10bの位置において最大であり、X軸のマイナス側の端である外周10bからX軸のプラス側へ向かって徐々に狭まる形状となっている。
傾斜部12cは、上記のように、X軸プラス方向切り欠き部12においてY軸のプラス側に位置する辺12aに接続され、辺12aとの成す角度θが、3度〜35度の範囲内となるように形成されている。
一方、X軸マイナス方向切り欠き部13は、図1(a)に示すように、X軸プラス方向切り欠き部12と対になるように設けられ、振動腕11の延びる方向(Y軸方向)に沿った基部10の中心線10cを対称軸として、X軸プラス方向切り欠き部12と対称形状に形成されている。
【0025】
ここで、X軸プラス方向切り欠き部12における傾斜部12cの角度θと、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分のエッチング形状との関係について、発明者らのシミュレーションによる解析結果に基づいて説明する。
図3は、切り欠き部における傾斜部の角度と、先端部分のエッチング形状との関係を示す図である。
シミュレーションによって得られたエッチング形状については、3段階で評価し、応力が集中しやすい形状順に×:不良、○:良、◎:優良、で表している。エッチング形状は、○、◎の評価であれば、応力が集中し難く量産に適用できるものと判断される。
【0026】
図3に示すように、エッチング形状は、傾斜部12cの角度θが3度〜35度の範囲内で○以上であり、特に10度〜30度の範囲内で◎である。これに対して、エッチング形状は、傾斜部12cの角度θが0度、37度、40度で×である。
この解析結果によれば、傾斜部12cの角度θは、3度〜35度の範囲内が好ましく、10度〜30度の範囲内がより好ましい。また、角度θは、エッチング異方性の影響を踏まえた傾斜部12cの形成精度の観点からすれば、ほぼ30度とすることが特に好ましい。
【0027】
シミュレーションによるエッチング形状について詳述すると、図2の2点鎖線は、傾斜部12cがない場合(従来形状であって、図3の角度θが0度の場合)の先端部分の形状を示している。
この場合には、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分が、大きくオーバーエッチングされ、実線で示した本来の円弧状の形状より基部10の中央側に入り込み、先端が尖ったくさびのような、応力が集中しやすい形状に形成されている。
これに対して、傾斜部12cの角度θが3度〜35度の範囲内の場合には、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分におけるエッチングの進行度合いが変化し、オーバーエッチングが抑制され、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分が、実線で示した本来の円弧状の形状に近似した形状で形成されている。
【0028】
上述したように、第1の実施形態の水晶振動片1は、基部10をX軸方向に切り欠いたX軸プラス方向切り欠き部12とX軸マイナス方向切り欠き部13とが形成されている。そして、水晶振動片1は、基部10が、X軸プラス方向切り欠き部12において、X軸のマイナス側からプラス側への切り欠き方向に沿った辺12a,12bの内、Y軸のプラス側に位置する辺12aと、基部10の外周10bとの間に、X軸プラス方向切り欠き部12の幅が外周10bに近づくに連れて広がるように形成された傾斜部12cを有する。
【0029】
これによれば、水晶振動片1は、上記方向にX軸プラス方向切り欠き部12とX軸マイナス方向切り欠き部13とを設けることで、振動漏れをより効果的に抑制できる。
そして、水晶振動片1は、X軸プラス方向切り欠き部12に傾斜部12cを有することで、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分におけるエッチングの進行度合いが変化し、オーバーエッチングを抑制できる。
この結果、水晶振動片1は、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分における応力集中が緩和されることから、基部10の強度が向上し、耐衝撃特性を向上させることができる。
【0030】
また、水晶振動片1は、傾斜部12cと辺12aとの成す角度θが3度〜35度の範囲内であれば、効果的にオーバーエッチングを抑制でき、傾斜部12cと辺12aとの成す角度θが10度〜30度の範囲内であれば、より効果的にオーバーエッチングを抑制できる。
【0031】
また、前述では、傾斜部12cが直線形状の例で説明したがこれに限らず、例えば円弧状、階段状などであっても良い。換言するとX軸プラス方向切り欠き部12は、X軸プラス方向切り欠き部のY軸方向における幅が、当該X軸プラス方向切り欠き部のX軸のマイナス側の端(基部10の外周10b)において最大であり、X軸のマイナス側の端(基部10の外周10b)からX軸のプラス側へ向かって徐々に狭まる形状であればよい。
【0032】
また、水晶振動片1は、X軸プラス方向切り欠き部12とX軸マイナス方向切り欠き部13とが対で設けられ、振動腕11の延びる方向(Y軸方向)に沿った基部10の中心線10cを対称軸として、X軸プラス方向切り欠き部12とX軸マイナス方向切り欠き部13とが対称形状に形成されていることから、バランスのとれた屈曲振動を得ることができる。
【0033】
また、水晶振動片1は、振動腕11を一対(2本)備え、2本の振動腕11と基部10とを含んで音叉を構成することから、耐衝撃特性が向上した音叉型振動片を提供できる。
なお、水晶振動片1は、水晶のエッチング異方性によりX軸マイナス方向切り欠き部13の先端部分がオーバーエッチングされ難いことから、X軸マイナス方向切り欠き部13には傾斜部がなくてもよい。
【0034】
(第2の実施形態)
図4は、本発明に係る電子機器に用いられる第2の実施形態の振動片の概略構成を示す模式図であり、図4(a)は平面図、図4(b)は、図4(a)のE−E線での断面図である。図5は、図4(a)のF部拡大図である。
なお、第1の実施形態との共通部分については、同一符号を付して説明を省略し、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0035】
図4に示すように、振動片としての水晶振動片2は、X軸プラス方向切り欠き部12とX軸マイナス方向切り欠き部13との形状が第1の実施形態と異なる。
図5に示すように、水晶振動片2の基部10は、X軸プラス方向切り欠き部12において、切り欠き方向に沿った辺12a,12bの内、Y軸のマイナス側に位置する他方の辺としての辺12bと、基部10の外周10bとの間に、X軸プラス方向切り欠き部12の幅が外周10bに近づくに連れて広がるように形成された傾斜部12dを有する。換言すれば、X軸プラス方向切り欠き部12は、X軸プラス方向切り欠き部のY軸方向における幅が、X軸プラス方向切り欠き部12のX軸のマイナス側の端である基部10の外周10bの位置において最大であり、X軸のマイナス側の端である外周10bからX軸のプラス側へ向かって徐々に狭まる形状となっている。
傾斜部12dは、上記のように、X軸プラス方向切り欠き部12においてY軸のマイナス側に位置する辺12bに接続され、辺12bとの成す角度θ1が、10度〜30度の範囲内となるように形成されている。
一方、X軸マイナス方向切り欠き部13は、図4(a)に示すように、X軸プラス方向切り欠き部12と対になるように設けられ、振動腕11の延びる方向(Y軸方向)に沿った基部10の中心線10cを対称軸として、X軸プラス方向切り欠き部12と対称形状に形成されている。
【0036】
ここで、X軸プラス方向切り欠き部12における傾斜部12dの角度θ1と、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分のエッチング形状との関係について、発明者らのシミュレーションによる解析結果に基づいて説明する。
図6は、切り欠き部における傾斜部の角度と、先端部分のエッチング形状との関係を示す図である。
シミュレーションによって得られたエッチング形状については、2段階で評価し、応力が集中しやすい形状順に×:不良、○:良、で表している。エッチング形状は、○の評価であれば、応力が集中し難く量産に適用できるものと判断される。
【0037】
図6に示すように、エッチング形状は、傾斜部12dの角度θ1が10度〜30度の範囲内で○である。これに対して、エッチング形状は、傾斜部12dの角度θ1が0度で×である。
この解析結果によれば、傾斜部12dの角度θ1は、10度〜30度の範囲内が好ましいことがわかる。
【0038】
シミュレーションによるエッチング形状について詳述すると、図5の2点鎖線は、傾斜部12dがない場合(従来形状であって、図6の角度θ1が0度の場合)の先端部分の形状を示している。
この場合には、第1の実施形態と同様に、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分が、大きくオーバーエッチングされ、実線で示した本来の円弧状の形状より基部10の中央側に入り込み、先端が尖ったくさびのような、応力が集中しやすい形状に形成されている。
これに対して、傾斜部12dの角度θ1が10度〜30度の範囲内の場合には、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分におけるエッチングの進行度合いが変化し、オーバーエッチングが抑制され、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分が、実線で示した本来の円弧状の形状に近似した形状で形成されている。
【0039】
上述したように、第2の実施形態の水晶振動片2は、基部10が、X軸プラス方向切り欠き部12の切り欠き方向に沿った辺12a,12bの内、Y軸のマイナス側に位置する辺12bと、基部10の外周10bとの間に、X軸プラス方向切り欠き部12の幅が外周10bに近づくに連れて広がるように形成された傾斜部12dを有する。
そして、水晶振動片2は、傾斜部12dと辺12bとの成す角度θ1が、10度〜30度の範囲内となるように形成されている。
【0040】
これにより、水晶振動片2は、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分におけるエッチングの進行度合いが変化し、オーバーエッチングを抑制できる。
この結果、水晶振動片2は、X軸プラス方向切り欠き部12の先端部分における応力集中が緩和されることから、基部10の強度が向上し、耐衝撃特性を向上させることができる。
なお、水晶振動片2は、水晶のエッチング異方性によりX軸マイナス方向切り欠き部13の先端部分がオーバーエッチングされ難いことから、X軸マイナス方向切り欠き部13には傾斜部がなくてもよい。
【0041】
なお、上記各実施形態では、振動腕11の数を2本としたが、これに限定するものではなく、1本、または3本以上でもよい。
また、支持部14、錘部16、溝部17は、なくてもよい。また、振動腕11の屈曲振動の方向は、振動腕11の厚み方向(Z軸方向)であってもよい。また、傾斜部12cと傾斜部12dとは、併用されてもよい。
【0042】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態として、上記で説明した水晶振動片を備えた振動子について説明する。
図7は、第3の実施形態の振動子の概略構成を示す模式図であり、図7(a)は平面図、図7(b)は、図7(a)のG−G線での断面図である。
【0043】
図7に示すように、振動子としての水晶振動子5は、第1の実施形態の水晶振動片1と、水晶振動片1を収容するパッケージ80と、を備えている。
パッケージ80は、パッケージベース81、シームリング82、蓋体85などから構成されている。
パッケージベース81は、水晶振動片1を収容できるように凹部が形成され、その凹部に水晶振動片1の図示しないマウント電極と接続される接続パッド88が設けられている。
接続パッド88は、パッケージベース81内の配線に接続され、パッケージベース81の外周部に設けられた外部接続端子83と導通可能に構成されている。
【0044】
パッケージベース81の凹部の周囲には、シームリング82が設けられている。さらに、パッケージベース81の底部には、貫通穴86が設けられている。
水晶振動片1は、パッケージベース81の接続パッド88に導電性接着剤84を介して接着固定されている。そして、パッケージ80は、パッケージベース81の凹部を覆う蓋体85とシームリング82とがシーム溶接されている。
パッケージベース81の貫通穴86には、金属材料などからなる封止材87が充填されている。この封止材87は、減圧雰囲気内で溶融後固化され、パッケージベース81内が減圧状態を保持できるように、貫通穴86を気密に封止している。
水晶振動子5は、外部接続端子83を介した外部からの駆動信号により水晶振動片1が励振され、所定の周波数(例えば、32kHz)で発振する。
【0045】
上述したように、水晶振動子5は、耐衝撃特性が向上した水晶振動片1を備えていることから、耐衝撃特性を向上させることができる。
なお、水晶振動子5は、水晶振動片1に代えて水晶振動片2を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0046】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態として、上記で説明した水晶振動片を備えた発振器について説明する。
図8は、第4の実施形態の発振器の概略構成を示す模式図であり、図8(a)は平面図、図8(b)は図8(a)のJ−J線での断面図である。
【0047】
発振器としての水晶発振器6は、上記水晶振動子5の構成に回路素子をさらに備えた構成となっている。なお、水晶振動子5との共通部分については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
図8に示すように、水晶発振器6は、第1の実施形態の水晶振動片1と、水晶振動片1を発振させる発振回路を有する回路素子としてのICチップ91と、水晶振動片1及びICチップ91を収容するパッケージ80と、を備えている。
ICチップ91は、パッケージベース81の底部に固着され、金線などの金属ワイヤー92により他の配線と接続されている。
水晶発振器6は、ICチップ91の発振回路からの駆動信号により水晶振動片1が励振され、所定の周波数(例えば、32kHz)で発振する。
【0048】
上述したように、水晶発振器6は、耐衝撃特性が向上した水晶振動片1を備えていることから、耐衝撃特性を向上させることができる。
なお、水晶発振器6は、水晶振動片1に代えて水晶振動片2を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0049】
《電子機器》
上記で説明した各実施形態の水晶振動片は、各種の電子機器に適用することができ、得られる電子機器は、信頼性の高いものとなる。なお、本電子機器には、上記実施形態で説明した振動子および発振器を用いてもよい。
図9、および図10は、本発明の電子機器の一例としての携帯電話機を示す。図9は、携帯電話機の外観の概略を示す斜視図であり、図10は、携帯電話機の回路部を説明する回路ブロック図である。
この携帯電話機300は、上述の水晶振動片1または水晶振動片2を使用することができる。本例では、水晶振動片1を用いた例で説明する。また、水晶振動片1の構成、作用については、同一符号を用いるなどして、その説明を省略する。
図9に示すように携帯電話機300は、表示部であるLCD(Liquid Crystal Display)301、数字等の入力部であるキー302、マイクロフォン303、スピーカー311、図示しない回路部などが設けられている。
図10に示すように、携帯電話機300で送信する場合は、使用者が、自己の声をマイクロフォン303に入力すると、信号はパルス幅変調・符号化ブロック304と変調器/復調器ブロック305を経てトランスミッター306、アンテナスイッチ307を開始アンテナ308から送信されることになる。
【0050】
一方、他人の電話機から送信された信号は、アンテナ308で受信され、アンテナスイッチ307、受信フィルター309を経て、レシーバー310から変調器/復調器ブロック305に入力される。そして、変調又は復調された信号がパルス幅変調・符号化ブロック304を経てスピーカー311に声として出力されるようになっている。
このうち、アンテナスイッチ307や変調器/復調器ブロック305等を制御するためのコントローラー312が設けられている。
このコントローラー312は、上述の他に表示部であるLCD301や数字等の入力部であるキー302、更にはRAM313やROM314等も制御するため、高精度であることが求められる。また、携帯電話機300の小型化の要請もある。
このような要請に合致するものとして上述の水晶振動片1が用いられている。
なお、携帯電話機300は、他の構成ブロックとして、温度補償型水晶発振器レシーバー用シンセサイザー316、トランスミッター用シンセサイザー317などを有しているが説明を省略する。
【0051】
この携帯電話機300に用いられている上記水晶振動片1は、基部10に切り欠き部を設けることで、振動漏れをより効果的に抑制できる。さらに、水晶振動片1は、切り欠き部に傾斜部12cを設けることで、切り欠き部の先端部分におけるエッチングの進行度合いが変化し、オーバーエッチングを抑制できる。
この結果、水晶振動片1は、切り欠き部の先端部分における応力集中が緩和されることから、基部10の強度が向上し、耐衝撃特性を向上させることができる。
従って、水晶振動片1を用いている電子機器(携帯電話機300)は、安定した特性を有するとともに、耐衝撃特性を向上させることが可能となる。
【0052】
本発明の水晶振動片1を備える電子機器としては、図11に示すパーソナルコンピューター(モバイル型パーソナルコンピューター)400も挙げられる。パーソナルコンピューター400は、表示部401、入力キー部402などを備えており、その電気的制御の基準クロックとして上述の水晶振動片1が用いられている。
また、本発明の水晶振動片1を備える電子機器としては、前述に加え、例えばディジタルスチールカメラ、インクジェット式吐出装置(例えばインクジェットプリンター)、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシミュレーター等が挙げられる。
【0053】
以上、本発明の電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。また、本発明は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
例えば、前述した実施形態では、水晶振動片が振動部として2の振動腕を有する場合を例に説明したが、振動腕の数は、3つ以上であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態で説明した水晶振動片は、電圧制御水晶発振器(VCXO)、温度補償水晶発振器(TCXO)、恒温槽付水晶発振器(OCXO)等の圧電発振器の他、ジャイロセンサー等に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1,2…振動片としての水晶振動片、5…振動子としての水晶振動子、6…発振器としての水晶発振器、10…基部、10a…主面(切り出し面)、10b…外周(X軸プラス方向切り欠き部のX軸のマイナス側の端)、11…振動腕、12…切り欠き部としてのX軸プラス方向切り欠き部、12a…一方の辺としての辺、12b…他方の辺としての辺、12c,12d…傾斜部、13…切り欠き部としてのX軸マイナス方向切り欠き部、14…支持部、15…腕部、16…錘部、17…溝部、80…パッケージ、81…パッケージベース、82…シームリング、83…外部接続端子、84…導電性接着剤、85…蓋体、86…貫通穴、87…封止材、88…接続パッド、91…回路素子としてのICチップ、92…金属ワイヤー、300…電子機器としての携帯電話機、400…電子機器としてのパーソナルコンピューター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動片と、
前記振動片を駆動させる回路部と、を備え、
前記振動片は、
水晶の結晶軸としての互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸に対して所定の角度で切り出されたZ板を基材とし、外形形状がエッチングによって形成され、
切り欠き部が形成された基部と、
前記基部から延びる振動腕と、を備え、
前記切り欠き部は、前記基部を前記X軸のマイナス側からプラス側へ切り欠いたX軸プラス方向切り欠き部を含み、
前記X軸プラス方向切り欠き部の前記Y軸方向における幅は、前記X軸プラス方向切り欠き部の前記X軸の前記マイナス側の端において最大であり、
前記基部は、前記X軸プラス方向切り欠き部において、前記幅が前記X軸の前記マイナス側の前記端から前記X軸の前記プラス側へ向かって徐々に狭まる形状を有することを特徴とする電子機器。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器において、
前記基部は、前記X軸の前記マイナス側の前記端から前記X軸の前記プラス側へ向かって、前記X軸プラス方向切り欠き部の前記幅が狭まるように傾斜している傾斜部を有することを特徴とする電子機器。
【請求項3】
請求項2に記載の電子機器において、
前記傾斜部は、前記切り欠き部において前記Y軸のプラス側に位置する一方の辺に接続され、前記一方の辺との成す角度が3度〜35度の範囲内であることを特徴とする電子機器。
【請求項4】
請求項2に記載の電子機器において、
前記傾斜部は、前記切り欠き部において前記Y軸のマイナス側に位置する他方の辺に接続され、前記他方の辺との成す角度が10度〜30度の範囲内であることを特徴とする電子機器。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電子機器において、
前記切り欠き部は、前記基部を前記X軸のプラス側からマイナス側へ切り欠かれたX軸マイナス方向切り欠き部を含み、
前記X軸プラス方向切り欠き部および前記X軸マイナス方向切り欠き部は、前記Y軸方向において同じ位置に形成されていることを特徴とする電子機器。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の電子機器において、
前記振動腕を複数本備え、前記複数本の振動腕と、前記基部とを含んで音叉を構成することを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−119949(P2012−119949A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268087(P2010−268087)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】