説明

電子部品モジュールおよびその製造方法

【課題】モジュールの信頼性に影響を与えずに、電子部品の局所的な発熱を抑制可能な放熱構造を備えた電子部品モジュールおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】電子部品1の電極2と回路基板5の電極4とをはんだ3で接合した後、該電子部品1と該回路基板5との間にアンダーフィル材料を充填し、該アンダーフィル材料を硬化させてアンダーフィル8を形成した後、該電子部品1および/または回路基板5をオーバーコート材料で被覆し、該オーバーコート材料を硬化させてオーバーコート6を形成することにより、少なくとも上記2段階の工程で上記電子部品1における樹脂封止を行うことを特徴とする電子部品モジュールおよびその製造方法とする。上記第1の封止樹脂層はエポキシ樹脂からなり、上記第1の封止樹脂層の熱伝導率(λ)と第2の封止樹脂層の熱伝導率(λ)の関係は、λ≧λであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャント抵抗をはじめとする各種電子部品の局所的な発熱を抑制可能な放熱構造を具備した電子部品モジュールおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
[第1の課題]
図2に例示するように、従来から、電流検出用シャント抵抗1およびその他の電子部品を備える電子部品モジュール10’では、シャント抵抗1を回路基板5に実装した際には、シャント抵抗1と回路基板5の間に空隙部7が生じている。
【0003】
このような構造は、シャント抵抗に限らず、各種電子部品を回路基板上に実装するにあたって一般的によく用いられており、電子部品の電極2と基板5の電極4とをはんだ等により接合する現状の下では、電子部品と回路基板5の間にはどうしても空隙部7ができてしまう。
【0004】
ところで、上記したシャント抵抗1は、定常動作時には、同じ電子部品モジュール内に含まれる半導体チップその他の電子部品と同程度の表面温度にまで温度上昇する場合がある。ただ、従来の接合構造では、シャント抵抗1の両端電極2のみで回路基板5とはんだ接合されていることから、この経路のみが回路基板5への伝熱経路となる。したがって、このような従来構造の下では、シャント抵抗1の中央と両端の表面温度差が大きくなってしまうという問題があった。
【0005】
かかる問題を解消するには、シャント抵抗1と回路基板5との間に生じる空隙部7に何らかの伝熱材を挿入し、回路基板5との伝熱経路を新たに設けることでシャント抵抗1の発熱を抑制する手法が挙げられる。
【0006】
ここで、電子部品と基板との間の空隙部に接着剤を塗布して電子部品を仮止めした上で該基板を溶融はんだ槽に浸漬し、その基板を溶融はんだの噴流に接触させながら該溶融はんだ槽中を適宜通過させることによってはんだ付けを行う事例等は、既に公知である(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、この公知例等では、放熱構造を得ることを意図していないことは明白である。
【0007】
[第2の課題]
ところで、一般的な電子部品モジュールでは、回路基板表面の電子部品を被覆する封止樹脂によって、モジュールの長期信頼性が異なるという特徴がある。
通常、封止樹脂には、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂の2種類が使用されるが、以下の説明を参照しても理解されるように、エポキシ樹脂の場合、シリコーン樹脂よりも長期信頼性がある。一般的に、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂の特性は、エポキシ樹脂が硬いと理解されている一方、シリコーン樹脂は可撓性があり、低弾性でゲルに近い性状を有すると理解されている。
なおここでは、信頼性という用語を、電子部品と回路基板とを接合しているはんだに係る金属疲労または応力集中の緩和の程度を指標に使用する。
【0008】
例えば、封止樹脂にシリコーン樹脂を用いた場合、シリコーン樹脂中の電子部品、例えば半導体チップやシャント抵抗の線膨張係数と回路基板の線膨張係数とが異なるため、熱による膨張差をシリコーン樹脂では拘束することができず、はんだ付け部に応力集中が生じる。この応力集中を緩和するために、降伏点の低い(=クリープ変形しやすい)はんだとして高鉛入りはんだを使用する手法もある。
【0009】
しかし、近年の鉛フリー化の要請に伴い、高鉛入りはんだを使用する手法は現在では採り得ず、現実的ではない。
ここで、無鉛はんだは有鉛はんだよりも硬いため、応力集中を十分に緩和することができない。この応力集中は、ヒートサイクルまたはパワーサイクル試験による長期信頼性評価において、はんだ自身が温度変化のたびに塑性変形を繰り返し、はんだが疲労破壊(クラック)することに繋がる。
【0010】
一方、シリコーン樹脂よりもヤング率の高いエポキシ樹脂では、上記の電子部品の周囲がエポキシ樹脂で拘束されることから、電子部品のはんだ付け部付近は自由度がなくなり、はんだの金属疲労が緩和され、信頼性寿命が延びる。
【0011】
また、熱伝導率についてみれば、封止樹脂材料に使用され得るエポキシ樹脂とシリコーン樹脂とでは、エポキシ樹脂の方がシリコーン樹脂よりも高い。
【0012】
以上のことから、電流検出用シャント抵抗その他の電子部品が回路基板上に実装され、これらが封止樹脂により封止されてなる電子部品モジュールにおいては、i)電子部品の局所的な発熱の抑制と、ii)モジュールの信頼性、という2点の要望を十分満足し得る封止樹脂の選定、または電子部品モジュール自体の構造、が求められる。
【特許文献1】特開平10−117060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、モジュールの信頼性に影響を与えずに、電子部品の局所的な発熱を抑制可能な放熱構造を備えた電子部品モジュールおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、本願発明者は、電子部品の電極2と回路基板5の電極4とをはんだ3で接合した後、該電子部品と該回路基板5との間の空隙部にアンダーフィル材料を充填し、該アンダーフィル材料を硬化させてアンダーフィル8を形成した後、該電子部品および/または回路基板をオーバーコート材料で被覆し、該オーバーコート材料を硬化させてオーバーコート6を形成して、少なくとも上記2段階の工程で上記電子部品における樹脂封止を行うことによって上記課題を基本的に解決可能なことを見い出し、本発明を完成した。
【0015】
上記課題を解決可能な本発明の電子部品モジュールは、
少なくとも一点の電子部品と、
前記電子部品が実装される回路基板と、
前記電子部品および前記回路基板の上に被覆されてこれらを封止する封止樹脂とからなり、
前記電子部品の電極と前記回路基板上の電極とがはんだ接合されてなる電子部品モジュールであって、
前記封止樹脂が、少なくとも前記電子部品の表面上に被覆される第1の封止樹脂層と、前記電子部品と前記回路基板との間の空隙部に充填される第2の封止樹脂層とからなることを特徴とするものである。
【0016】
また、上記課題を解決可能な本発明の電子部品モジュールの製造方法は、
少なくとも一点の電子部品と、
前記電子部品が実装される回路基板と、
前記電子部品および前記回路基板の上に被覆されてこれらを封止する封止樹脂とからなり、
前記電子部品の電極と前記回路基板上の電極とがはんだ接合されてなる電子部品モジュールを製造するための方法であって、
前記電子部品の電極と前記回路基板の電極とをはんだで接合した後、前記電子部品と前記回路基板との間の空隙部にアンダーフィル材料を充填し、該アンダーフィル材料を硬化させて第2の樹脂封止層を形成する工程と、
前記第2の樹脂封止層が形成された後の前記電子部品および/または前記回路基板をオーバーコート材料で被覆し、該オーバーコート材料を硬化させて第1の樹脂封止層を形成する工程と、
を含み、
少なくとも、前記2段階の工程で前記電子部品に対する樹脂封止を行うことを特徴とするものである。
【0017】
なお、上記第1の封止樹脂層はエポキシ樹脂からなり、上記第1の封止樹脂層の熱伝導率(λ)と第2の封止樹脂層の熱伝導率(λ)の関係は、λ≧λなる関係にあることが好ましい。
【0018】
なお、本明細書において「電子部品」とは、電流検出用のシャント抵抗、半導体チップその他の回路基板上に実装される素子を指し示すものとする。
「電子部品モジュール」とは、上記電子部品、および上記電子部品が実装される回路基板、並びに上記電子部品および回路基板の上に被覆されてこれらを封止する封止樹脂とからなるものとする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電子部品と回路基板との間に樹脂を充填して封止樹脂層を2層構造にすることで、モジュールの信頼性に影響を与えずに電子部品の局所的な発熱を抑制可能な放熱構造を備えた電子部品モジュールおよびその製造方法を提供することができる。
【0020】
また本発明によれば、上記の封止樹脂層を、第1の封止樹脂層と第2の封止樹脂層との2層構造にすることで、第1の封止樹脂層に使用される樹脂材料と、第2の封止樹脂層に使用される樹脂材料を使い分けることも可能となり、各々の箇所に特化した材料の選定、開発も可能となる。
さらに、上記封止樹脂層としてより幅広い材料の活用も可能となる。
【0021】
好ましくは、第1の封止樹脂層と第2の封止樹脂層は、互いに異なる樹脂材料からなる。
一例によれば、上記第1の封止樹脂層はエポキシ樹脂からなり、上記第1の封止樹脂層の熱伝導率(λ)と第2の封止樹脂層の熱伝導率(λ)の関係は、λ≧λである。
このように、第1の封止樹脂層に第2の封止樹脂層よりも高い熱伝導率の樹脂材料を用いることで、空隙部に充填される樹脂層の低熱抵抗化が図れ、結果として電子部品の局所的な発熱を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例を用いて詳細に説明する。
【0023】
[実施例]
図1は、本発明の実施例による電子部品モジュールを示す断面図である。
本実施例では、回路基板5の電極4上にクリームはんだ3を印刷法により被覆形成し、そしてその上にシャント抵抗1を実装後、リフローにより、はんだ3を溶融した。
次に、シャント抵抗1と回路基板5の間に存する空隙部に樹脂(アンダーフィル材料)を充填・硬化し、第2の封止樹脂層(アンダーフィル)8を形成した。
さらに、シャント抵抗1の表面を被覆する樹脂(オーバーコート材料)を充填・硬化し、第1の封止樹脂層(オーバーコート)6を形成し、電子部品モジュール10を作製した。
なお、本実施例ではアンダーフィル材料およびオーバーコート材料の充填はいずれも、ディスペンサを用いて行った。
【0024】
上記構造において、第1の封止樹脂層と第2の封止樹脂層の組み合わせを表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
ここで、シリコーン樹脂は、市販のシリコーン樹脂(熱伝導率λ=0.15W/m・K)を用いた。エポキシ樹脂は、市販のエポキシ系樹脂(熱伝導率λ=0.30W/m・K)を用いた。
【0027】
[従来例との比較]
図2は、従来例による電子部品モジュールの断面図であり、シャント抵抗1と回路基板5との間の空隙部7に第2の封止樹脂層を形成せずに電子部品モジュール10’を作製したものである。従来例1は第1の樹脂層にシリコーン樹脂を充填したもの、従来例2は、第1の樹脂層にエポキシ樹脂を充填したものである。
ここで、上記各実施例と従来例との性能比較を行うべく、両者におけるシャント抵抗1の表面2箇所(中央部と端部)の温度を測定しつつ、ヒートサイクル試験を行った。その結果を下表2に示す。
【0028】
[シャント抵抗の表面温度の測定方法について]
なお、(定常動作時の)シャント抵抗の表面温度の測定方法として、次のような方法を採用した。すなわち、市販のシャント抵抗(3mΩ)の表面2箇所(中央部と端部)に、K型熱電対を樹脂にて固着し、周囲温度25℃の環境の下、消費電力2Wの条件下でこのシャント抵抗に通電し、(株)キーエンス製データ収集システムNR−1000にてシャント抵抗の中央部と両端部の表面温度を測定した。
【0029】
[ヒートサイクル試験について]
比較試験においては、同時に、シャント抵抗1の電極2の下方におけるはんだが受ける応力ストレスの影響を調査するために、ヒートサイクル試験(−40℃、30分 ⇔ 125℃、30分(1サイクル))による信頼性の評価を行なった。はんだクラックの検出に際しては、シャント抵抗1の過渡熱抵抗を測定し、過渡熱抵抗が増加した時をはんだクラックの発生と判定した。その結果を下表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
[評価結果]
表2から明らかなように、本発明の各実施例による電子部品モジュールのシャント抵抗の表面温度は、従来例に対して著しく低くなっている。これは、図1より明らかなように、各実施例では、シャント抵抗と回路基板の間の空隙部に樹脂が充填されたことにより、新たな伝熱経路が備えられたことによるものと考えられる。
【0032】
シャント抵抗の表面温度差に関しては、従来例1では最大45.5℃あったが、実施例4では18.0℃と、約28℃の改善結果が得られた。
【0033】
その他、表2からは、第1の封止樹脂層が第2の封止樹脂層の熱伝導率より大きいか同じの場合(λ≧λ)は、シャント抵抗の発熱抑制に効果的であることも認められる。
なお、実施例2として空隙部に第1の封止樹脂層よりも熱伝導率の大きな樹脂(λ<λ)を充填した。従来例より効果はあるものの実施例3および4よりは、わずかに効果が劣る結果であった。
【0034】
次に、同時に行ったヒートサイクル試験の結果について検討すると、表2に示すクラック発生サイクルの(発生)数値から明らかなとおり、はんだの信頼性に対しては、第1の封止樹脂層の与える影響が大きく、第2の封止樹脂層の存在は、特に顕著な影響を与えないものと考えられる。
第1の封止樹脂層に関し、シリコーン樹脂よりもヤング率の高いエポキシ樹脂を採用すると、シャント抵抗1の周囲がエポキシ樹脂で拘束されることから、シャント抵抗1には自由端がなくなり、はんだの金属疲労が緩和され、信頼性寿命が延びたものと考えられる。
【0035】
以上、一実施例を用いて本発明の詳細を説明したが、本発明は上記の構成に限定されず、種々の変形が可能である。
例えば、本実施例では、アンダーフィル材料およびオーバーコート材料の充填は、いずれもディスペンサを用いて行ったが、充填手段は特に限定されず、可能な限り隙間無く充填可能な手段であれば特に限定されない。
【0036】
また、本実施例では、シリコーン樹脂およびエポキシ樹脂として熱伝導率λ=0.15W/m・Kおよびλ=0.30W/m・Kのものを用いたが、各樹脂の熱伝導率は上記の数値に限定されない。
【0037】
電子部品についても、本実施例では典型的な電流検出用シャント抵抗としたが、特にこれに限定されず、発熱を伴う電子部品であればいずれも、本発明の構成を適用することで、有利な作用効果の恩恵を得ることが可能である。
【0038】
このように、本発明は、モジュールの信頼性に影響を与えずに、電子部品の局所的な発熱を抑制可能な放熱構造を備えた電子部品モジュールおよびその製造方法を提供する新規かつ有用なるものであることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例による電子部品モジュールを示す要部断面図である。
【図2】従来の電子部品モジュールを示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 シャント抵抗
2 シャント抵抗の電極
3 はんだ
4 回路基板の電極
5 回路基板
6 オーバーコート(第1の封止樹脂層)
7 空隙部
8 アンダーフィル(第2の封止樹脂層)
10、10’ 電子部品モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一点の電子部品と、
前記電子部品が実装される回路基板と、
前記電子部品および前記回路基板の上に被覆されてこれらを封止する封止樹脂とからなり、
前記電子部品の電極と前記回路基板上の電極とがはんだ接合されてなる電子部品モジュールであって、
前記封止樹脂が、少なくとも前記電子部品の表面上に被覆される第1の封止樹脂層と、前記電子部品と前記回路基板との間の空隙部に充填される第2の封止樹脂層とからなることを特徴とする電子部品モジュール。
【請求項2】
前記第1の封止樹脂層がエポキシ樹脂からなり、前記第1の封止樹脂層の熱伝導率(λ)と第2の封止樹脂層の熱伝導率(λ)とが、λ≧λなる関係にあることを特徴とする請求項1記載の電子部品モジュール。
【請求項3】
少なくとも一点の電子部品と、
前記電子部品が実装される回路基板と、
前記電子部品および前記回路基板の上に被覆されてこれらを封止する封止樹脂とからなり、
前記電子部品の電極と前記回路基板上の電極とがはんだ接合されてなる電子部品モジュールを製造するための方法であって、
前記電子部品の電極と前記回路基板の電極とをはんだで接合した後、前記電子部品と前記回路基板との間の空隙部にアンダーフィル材料を充填し、該アンダーフィル材料を硬化させて第2の樹脂封止層を形成する工程と、
前記第2の樹脂封止層が形成された後の前記電子部品および/または前記回路基板をオーバーコート材料で被覆し、該オーバーコート材料を硬化させて第1の樹脂封止層を形成する工程と、
を含み、
少なくとも、前記2段階の工程で前記電子部品に対する樹脂封止を行うことを特徴とする電子部品モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記第1の封止樹脂層がエポキシ樹脂からなり、前記第1の封止樹脂層の熱伝導率(λ)と第2の封止樹脂層の熱伝導率(λ)とが、λ≧λなる関係にあることを特徴とする請求項3記載の電子部品モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−294021(P2008−294021A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134972(P2007−134972)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】