説明

電気自動車用の制御装置

【課題】車両接近を歩行者に気付かせることのできる電気自動車用の制御装置を提案する。
【解決手段】複数の電力変換器(30,40,50)は、それぞれのキャリア周波数に基づいてスイッチング素子を駆動制御することにより所望の電力変換動作を行う。電気自動車用の制御装置(60)は、車速が所定値未満の場合に、複数の電力変換器(30,40,50)のキャリア周波数を同期させ、作動音の音圧を上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の電力変換器を制御するための電気自動車用の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料を電気化学プロセスによって酸化させることにより、酸化反応に伴って放出される化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する発電装置である。燃料電池を車載電源として搭載する電気自動車に関する特許文献として、例えば、特開2008−98134号が知られている。この種の電気自動車においては、燃料電池又はバッテリから供給される電力でトラクションモータを駆動し、走行推進力を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−98134号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電気自動車は、作動音(騒音)が小さいため、特に低速走行において、歩行者に気付かれ難い点が安全上の観点から指摘されている。
【0005】
そこで、本発明は、車両接近を歩行者に気付かせることのできる電気自動車用の制御装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係わる電気自動車用の制御装置は、キャリア周波数に基づいてスイッチング素子をスイッチング制御することにより電力変換動作を行う複数の電力変換器を制御するための電気自動車用の制御装置であって、車速が所定値未満の場合に複数の電力変換器のキャリア周波数を同期させる同期手段を備える。複数の電力変換器のキャリア周波数を同期させることにより、電気自動車の作動音の音圧が上がるため、低速走行時における車両の接近を歩行者に気付かせることができる。
【0007】
車両接近を歩行者に気付かせるためには、複数の電力変換器のキャリア周波数を可聴帯域で同期させるのが好ましい。
【0008】
複数の電力変換器は、例えば、燃料電池の出力電圧を所定の直流電圧に昇圧するための燃料電池用DC/DCコンバータ、バッテリに入出力される直流電圧を所定の直流電圧に昇降圧するためのバッテリ用DC/DCコンバータ、燃料電池又はバッテリから供給される直流電力を交流電力に変換するためのトラクションインバータのうち何れか二つ以上を含んでもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低速走行時において電気自動車の作動音の音圧を上げることができるため、車両の接近を歩行者に気付かせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係わる電気自動車の電力系の機能ブロック図である。
【図2】本実施形態に係わるFCコンバータの回路図である。
【図3】本実施形態に係わるFCコンバータのスイッチング制御信号の説明図である。
【図4】本実施形態に係わる電気自動車が発生する作動音の音圧レベルを上げるための処理を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態に係わるキャリア周波数の同期の例を示す説明図である。
【図6】本実施形態に係わるキャリア周波数の同期の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係わる電気自動車10の電力系の機能ブロックを示す。電気自動車10は、酸化ガスと燃料ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池20を主電源とし、充放電可能なバッテリ70を補助電源として、トラクションインバータ50に電力を供給し、トラクションモータ80を駆動する。燃料電池20は、例えば、高分子電解質型燃料電池であり、多数の単セルを積層してなるスタック構造を有している。単セルは、イオン交換膜からなる電解質膜の一方の面に形成された空気極と、電解質膜の他方の面に形成された燃料極と、空気極及び燃料極を両側から挟み込む一対のセパレータとを有する。バッテリ70は、余剰電力の貯蔵源、回生制動時の回生エネルギー貯蔵源、電気自動車10の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能する蓄電装置であり、例えば、二次電池(ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウム二次電池等)が好適である。
【0012】
燃料電池20の出力電圧は、燃料電池用の直流電圧変換器であるDC/DCコンバータ30(以下、FCコンバータ30と称する)によって所定の直流電圧に昇圧され、トラクションインバータ50に供給される。一方、バッテリ70の出力電圧は、バッテリ用の直流電圧変換器であるDC/DCコンバータ40(以下、バッテリコンバータ40と称する)によって所定の直流電圧に昇圧され、トラクションインバータ50に供給される。トラクションインバータ50は、燃料電池20とバッテリ70との両方又は何れか一方から供給される直流電力を交流電力(例えば、三相交流)に変換し、トラクションモータ80の回転トルクを制御する。トラクションモータ80は、例えば、三相交流モータであり、車両走行時には走行推進力を生成する一方、車両制動時には、モータジェネレータとして機能し、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回生電力を回収する。バッテリコンバータ40は、燃料電池20の余剰電力又はトラクションモータ80が回収した回生電力を降圧してバッテリ70に充電する。
【0013】
コントロールユニット60は、CPU、ROM、RAM及び入出力インタフェースを備える制御装置であり、燃料電池20の運転制御及び車載電力変換器(FCコンバータ30、バッテリコンバータ40、及びトラクションインバータ50)のスイッチング制御等を行う。例えば、コントロールユニット60は、イグニッションスイッチからの起動信号を受信すると、電気自動車10の運転を開始し、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号や、車速センサ90から出力される車速信号などを基に要求電力を求める。この要求電力は、車両走行電力と補機電力との合計値である。補機電力には、車載補機類(加湿器、エアコンプレッサ、水素ポンプ、及び冷却水循環ポンプ等)で消費される電力、車両走行に必要な装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、及び懸架装置等)で消費される電力、乗員空間内に配設される装置(空調装置、照明器具、及びオーディオ等)で消費される電力などが含まれる。コントロールユニット60は、燃料電池20とバッテリ70とのそれぞれの出力電力の配分を決定し、燃料電池20の発電電力が目標電力に一致するように燃料電池20への燃料ガス及び酸化ガスの供給量を制御するとともに、FCコンバータ30を制御して、燃料電池20の出力電圧を調整することにより、燃料電池20の運転ポイント(出力電圧、出力電流)を制御する。更に、コントロールユニット60は、アクセル開度に応じた目標トルクが得られるように、例えば、スイッチング指令として、U相、V相、及びW相の各交流電圧指令値をトラクションインバータ50に出力し、トラクションモータ80の出力トルク及び回転数を制御する。
【0014】
図2はFCコンバータ30の回路構成を示す。ここでは、FCコンバータ30の一例として、公知の直流チョッパを示す。FCコンバータ30は、キャリア周波数に応じて周期的にオン/オフを繰り返すスイッチング素子としてのトランジスタTrと、平滑用リアクトルLと、平滑用コンデンサCと、整流素子としてのダイオードDとを備える。トランジスタTrがオンになると、燃料電池20から供給されるエネルギーが平滑用リアクトルLに蓄積され、その蓄積されたエネルギーは、トランジスタTrがオフになると、ダイオードDを介して平滑用コンデンサCに転送される。この過程が繰り返されることで、平滑用コンデンサCに蓄積されるエネルギーが増大し、入力電圧E1に比較して出力電圧E2を高めることができる。ここで、入力電圧E1は、燃料電池20の出力電圧に相当し、出力電圧E2は、トラクションインバータ50に供給される。このような直流チョッパでは、トランジスタTrのスイッチング動作の1周期内に占めるオン期間とオフ期間との比率(デューティ比)に応じて昇圧の程度が定まる。デューティ比を調整するためには、例えば図3に示すように、キャリア波100とデューティ指令値110とを比較し、デューティ指令値110がキャリア波100を超えるときにトランジスタTrのオンを指令する一方、デューティ指令値110がキャリア波100以下のときにトランジスタTrのオフを指令するスイッチング制御信号120を生成し、スイッチング制御信号120に基づいてトランジスタTrをスイッチング制御すればよい。スイッチング周期をTとすれば、キャリア波100のキャリア周波数fは、f=1/Tの関係を満たす。
【0015】
なお、バッテリコンバータ40は、公知の直流チョッパ等で構成され、トラクションインバータ50は、公知のPWMインバータ等で構成される。何れも、キャリア周波数に同期してスイッチング素子を駆動制御することにより、所望の電力変換を行う。
【0016】
図4は電気自動車10が発生する作動音の音圧レベルを上げるための処理ルーチンを示すフローチャートである。本処理ルーチンは、一定のインターバルで繰り返し実行される。コントロールユニット60は、車速センサ90から出力される車速信号に基づいて、車速が所定値(例えば、20km/h)未満であるか否かを判定する(ステップ401)。車速が所定値以上の場合には(ステップ401;NO)、本処理ルーチンは終了する。車速が所定値未満の場合には(ステップ401;YES)、コントロールユニット60は、電気自動車10に搭載されている複数の電力変換器(FCコンバータ30、バッテリコンバータ40、及びトラクションインバータ50)のそれぞれのキャリア周波数を取得し(ステップ402)、キャリア周波数変更に伴う熱損失等を加味して、それらのキャリア周波数を同期させるか否かを判定する(ステップ403)。キャリア周波数を同期させない場合には(ステップ403;NO)、本処理ルーチンは終了する。キャリア周波数を同期させる場合には(ステップ403;YES)、コントロールユニット60は全ての電力変換器のうち少なくとも二つ以上の電力変換器のキャリア周波数を同期させる(ステップ404)。例えば、図5に示すように、FCコンバータ30のキャリア周波数をf1、バッテリコンバータ40のキャリア周波数をf2、トラクションインバータ50のキャリア周波数をf3としたとき、図6に示すように、f1及びf2を共に可聴帯域範囲内のキャリア周波数f4に変更する。ここで、f4はf1又はf2の何れか一方と同じキャリア周波数でもよく、或いはf1及びf2の何れとも異なるキャリア周波数でもよい。コントロールユニット60は、車速が所定値未満の場合に複数の電力変換器のキャリア周波数を同期させる同期手段として機能する。FCコンバータ30及びバッテリコンバータ40のキャリア周波数を同期させることにより、これらの作動音の音圧を上げることが可能となり、低速走行時における車両接近を歩行者に気付かせることができる。
【0017】
なお、キャリア周波数を同期させる電力変換器の組み合わせは、上述の例に限られるものではなく、FCコンバータ30、バッテリコンバータ40、及びトラクションインバータ50の何れか二つ以上であればよい。また、電力変換器の例は、上述の例に限られるものではなく、キャリア周波数に基づいてスイッチング素子を駆動制御することにより電力変換動作を行うものであればよい。また、電気自動車10の主電源として、燃料電池20を例示したが、燃料電池以外の公知の車載用発電機を主電源としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、キャリア周波数に基づいてスイッチング素子を駆動制御することにより電力変換動作を行う複数の電力変換器を備える電気自動車に有用である。
【符号の説明】
【0019】
10…電気自動車
30…FCコンバータ
40…バッテリコンバータ
50…トラクションインバータ
60…コントロールユニット
70…バッテリ
80…トラクションモータ
90…車速センサ
100…キャリア波
110…デューティ指令値
120…スイッチング制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア周波数に基づいてスイッチング素子をスイッチング制御することにより電力変換動作を行う複数の電力変換器を制御するための電気自動車用の制御装置であって、
車速が所定値未満の場合に前記複数の電力変換器のキャリア周波数を同期させる同期手段を備える、電気自動車用の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気自動車用の制御装置であって、
前記同期手段は、前記複数の電力変換器のキャリア周波数を可聴帯域で同期させる、電気自動車用の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電気自動車用の制御装置であって、
前記複数の電力変換器は、燃料電池の出力電圧を所定の直流電圧に昇圧するための燃料電池用DC/DCコンバータ、バッテリに入出力される直流電圧を所定の直流電圧に昇降圧するためのバッテリ用DC/DCコンバータ、前記燃料電池又は前記バッテリから供給される直流電力を交流電力に変換するためのトラクションインバータのうち何れか二つ以上を含む、電気自動車用の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−175765(P2012−175765A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33569(P2011−33569)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】