説明

電解銅箔および銅張積層板

【課題】圧延銅箔と同等またはそれ以上の柔軟性・屈曲性を有する電解銅箔を提供する。
【解決手段】電解銅箔に式1に示すLMP値が9000以上となる加熱処理を施した後の結晶構造がEBSPの分析で面に対する赤系・青系のいずれかの色調が80%以上を占める電解銅箔。式1:LMP=(T+273)*(20+Logt)ここで、20は銅の材料定数、Tは温度(℃)、tは時間(Hr)。また、該加熱処理を施した後のX線回析における(111)面の強度に対し、(331)面の相対強度が15以上である電解銅箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲性及び柔軟性に優れた電解銅箔に関するものである。
また、本発明は前記銅箔を使用した銅張積層板(以下CCLということがある)に関するもので、特に高密度・高機能用途に適した銅張積層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在電気機器製品の小型化において、携帯電話のヒンジ部の曲げ角度(R)がますます小さくなる傾向にある中で、CCLの屈曲特性に対する要望はますます厳しいものになってきている。
屈曲特性を向上させる上で重要な銅箔の特性としては、厚さ・表面平滑性・結晶粒の大きさ・結晶方位の同一性などが上げられる。また、電気製品の小型化に対し、高密度配線化が図られるために、できるだけスペースを有効活用することが重要な課題であり、CCLの変形が容易に可能なポリイミドフィルムの採用が不可欠となってきている。しかし、銅箔とポリイミドフィルムとの接着(積層)はなかなか難しく、ポリイミドフィルムに貼り付ける銅箔の接着強度・柔軟性は必要不可欠な特性になってきている。
【0003】
この特性を満足する銅箔としては、特別な製造工程で製箔された圧延銅箔で、(200)面の結晶方位が多く存在する圧延銅箔が現状において多く採用されている。
しかしながら、屈曲性の特性を向上させる要因は(200)面がいいというよりむしろ同一な結晶方位の結晶が多く存在することに要因があると考えられる。
現状では、上記したように圧延箔では(200)面の多く存在した銅箔がすべてであり、また電解銅箔にいたってはそれぞれの結晶方位が乱雑に存在する結晶構成になっており、従って圧延銅箔のような柔軟性・屈曲性を有する電解銅箔はなく、上記したように圧延銅箔と同等またはそれ以上の柔軟性・屈曲性を有する電解銅箔の出現が要望されていた。
このような要望に応えるためには電解銅箔の結晶配向が同一系のものが望ましいが、そのような銅箔は現状では開発されていないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明が解決しようとする課題は、圧延銅箔と同等またはそれ以上の柔軟性・屈曲性を有する電解銅箔を提供し、該電解銅箔を用いた柔軟性・屈曲性を有するCCLを提供することにある。特に、電解銅箔においては、該電解銅箔とポリイミドフィルムとを貼り付ける際にかかる熱履歴において、機械的特性・柔軟性が改良され、電気機器の小型化に対し対応できるCCL用の電解銅箔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電解銅箔は、電解銅箔に式1に示すLMP値(Larson-Miller parameter)が9000以上となる加熱処理を施した後の結晶構造がEBSP(Electron Backscatter Diffraction Pattern)の分析で面に対する赤系・青系のいずれかの色調が80%以上を占める電解銅箔である。
式1:LMP=(T+273)*(20+Logt)
ここで、20は銅の材料定数、Tは温度(℃)、tは時間(Hr)
【0006】
本発明の電解銅箔は、加熱処理を施した後の電解銅箔のX線回析における(111)面に対し(331)面の相対強度が15以上であることが好ましい。
【0007】
本発明の電解銅箔は、前記加熱処理を施した後の結晶構造が、結晶粒径5μm以上の結晶粒が70%以上で、X線回析において(111)面に対し(331)面の相対強度が15以上であることが望ましい。
【0008】
本発明の電解銅箔は、前記加熱処理を施した後の引張強さが20KN/cm以下であり、0.2%耐力が10KN/cm以下であることが望ましい。
【0009】
前記電解銅箔の断面に含まれる不純物は、銅箔断面の深さ方向のSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析における銅(Cu)との強度比で少なくとも塩素(Cl)は0.5%未満、窒素(N)は0.005%未満、硫黄(S)は0.005%未満であることが望ましい。
【0010】
前記電解銅箔の少なくとも片方の表面粗さが、Rz=1.5μm以下であることが好ましい。
また、前記電解銅箔の少なくとも片方の面に密着性・耐熱性・耐薬品性・防錆を目的とした表面処理層が設けられていることが好ましい。
【0011】
本発明の銅張積層板は、前記電解銅箔を絶縁基板に積層した銅張積層板である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、圧延銅箔と同等またはそれ以上の柔軟性・屈曲性を有する電解銅箔を提供することができる。また、本発明は該電解銅箔を用いた柔軟性・屈曲性を有するCCLに対応することができる。
特に、電解銅箔においては、該電解銅箔とポリイミドフィルムとを貼り付ける際にかかる熱履歴において、機械的特性、柔軟性が改良され、電気機器の小型化に対し対応できるCCL用の電解銅箔を、圧延銅箔に比べて安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1はEBSP同一系結晶範囲図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
通常電解銅箔は、電解製箔装置により製箔される。電解製箔装置は、回転するドラム状のカソード(表面はSUS又はチタン製)、該カソードに対して同心円状に配置されたアノード(鉛又は貴金属酸化物被覆チタン電極)からなり、該製箔装置に、電解液を供給させつつ両極間に電流を流して、該カソード表面に所定の厚さに銅を析出させ、その後該カソード表面から銅を箔状に剥ぎ取る。この段階の銅箔を本明細書では未処理銅箔ということがある。また該未処理銅箔の電解液と接していた面をマット面と呼び、回転するドラム状のカソードと接していた面を光沢面(シャイニー面)と呼ぶ。なお、上記は回転するカソードを採用した製箔装置につき説明したが、カソードを板状とする製箔装置で銅箔を製造することもある。
【0015】
本発明は、上記ドラム状のカソードまたは板状のカソードに銅を析出させて銅箔を製造する。銅を析出させるカソードの表面粗さは、Rz:0.1〜2.0μmのカソードを使用することにより、本発明電解銅箔のシャイニー面の表面粗さをRz:0.1〜2.0μmとすることができる。
電解銅箔の表面粗さRzを0.1μm以下の粗さとすることは、カソードの研磨技術などを考えると製造が難しく、また量産製造するには不可能であると考えられる。また、Rzを2.0μm以上の表面粗さとすると屈曲特性が非常に悪くなり、本発明が求める特性が得られなくなると同時にマット面の粗さを1.5μm以下にすることが難しくなるためである。
電解銅箔のマット面の粗さは、Rz:0.1〜1.5μmである。0.1μm以下の粗さは光沢めっきを行ったとしても非常に難しく現実的に製造は不可能である。また、上記したように電解銅箔の表面が粗いと屈曲特性が悪くなることから粗さの上限は1.5μmとすることが好ましい。
【0016】
シャイニー面及びマット面の粗さが、Rz:1μm以下となることが好適である。更に付け加えるとシャイニー面及びマット面の表面粗さRaが、Ra:0.3μm以下であることが好ましく、特にRa:0.2μm以下であると最適である。
また、上記電解銅箔の厚みは、3μm〜210μmであることが望ましい。厚さが2μm以下の銅箔はハンドリング技術などの関係上うまく製造することができず、現実的ではないからである。厚さの上限は現在の回路基板の使用状況からして210μm程度である。厚さが210μm以上の電解銅箔が回路基板用銅箔として使用されることは考え難く、また電解銅箔を使用するコストメリットもなくなるからである。
【0017】
また、上記電解銅箔を析出させる銅電解液としては、硫酸銅めっき液、ピロリン酸銅めっき液、スルファミン酸銅めっき液などがあるが、コスト面などを考えると硫酸銅めっき液が好適である。
【0018】
硫酸銅めっき液としては、硫酸濃度は20〜150g/l、特に30〜100g/lが好ましい。
硫酸濃度が20g/l未満となると電流が流れにくくなるので現実的な操業が困難となり、さらにめっきの均一性、電着性も悪くなる。硫酸濃度が150g/lを超えると銅の溶解度が下がるので十分な銅濃度が得られなくなり現実的な操業が困難となる。また、設備の腐食も促進される。
【0019】
銅濃度は40〜150g/l、特に60〜100g/lが好ましい。
銅濃度が40g/l未満となると電解銅箔の製造において現実的な操業が可能な電流密度を確保することが難しくなる。銅濃度を150g/lより上げるのは相当な高温が必要となり現実的ではない。
【0020】
電流密度は20〜200A/dm、特に30〜120A/dmが好ましい。電流密度が20A/dm未満となると電解銅箔の製造において生産効率が非常に低く現実的ではない。電流密度を200A/dmより上げるには相当な高銅濃度、高温、高流速が必要であり、電解銅箔製造設備に大きな負担がかかり現実的ではないためである。
【0021】
電解浴温度は25〜80℃、特に30〜70℃が好ましい。浴温が25℃未満となると電解銅箔の製造において十分な銅濃度、電流密度を確保することが困難となり現実的ではない。また、80℃より上げるのは操業上および設備上非常に困難で現実的ではない。
【0022】
本実施形態においては電解液に必要により塩素を添加する。
塩素濃度は1〜100ppm、特に10〜50ppmが好ましい。塩素濃度が1ppm未満となると後述する添加剤の効果を出すことが困難となり、100ppmを超えると正常なめっきが困難となる。
上記の電解条件は、それぞれの範囲から、銅の析出、めっきのヤケ等の不具合が起きないような条件に便宜調整して行う。
【0023】
電解銅箔を製造する硫酸銅めっき浴には、ジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物の一種以上もしくは1又は2以上のエーテル結合を有するジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物の一種以上、又はジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物の一種以上と1又は2以上のエーテル結合を有するジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物の一種以上を組み合わせたものと、2個の窒素原子を有するヘテロ環式化合物との反応生成物をレベラーとして添加する。
【0024】
ジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物の炭素数は一般に1〜30、好ましくは2〜18、さらに好ましくは4〜8である。具体的には、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,4−ジクロロ−2,3−ブタンジオール、1−ブロモ−3−クロロエタン、1−クロロ−3−ヨードエタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジクロロプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、1−ブロモ−3−クロロプロパン、1,3−ジブロモプロパン、1,2−ジクロロエタン、1−クロロ−3−ヨードプロパン、1,4−ジクロロ−2−ブタノール、1,2−ジブロモエタン、2,3−ジクロロ−1−プロパノール、1,4−ジクロロシクロヘキサン、1,3−ジヨードプロパン、1−ブロモ−3−クロロ−2−メチルプロパン、1,4−ジクロロブタン、1,4−ジブロモブタン、1,5−ジクロロ[3−(2−クロロエチル)]ペンタン、1,6−ジブロモヘキサン、1,8−ジクロロオクタン、1,10−ジクロロデカン、1,18−ジクロロオクタデカン等が挙げられる。これらの化合物を単独で又は複数組み合わせて用いる。
【0025】
1又は2以上のエーテル結合を有するジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物の炭素数は一般に4〜30、好ましくは4〜12、さらに好ましくは6〜10である。具体的には、2,2‘−ジクロロエチルエーテル、1,2−ビス(2−クロロエトキシ)エタン、ジエチレングリコールビス(2−クロロエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2−クロロエチル)エーテル、2,2’−ジクロロプロピルエーテル、2,2‘−ジクロロブチルエーテル、テトラエチレングリコールビス(2−ブロモエチル)エーテル、ヘプタエチレングリコールビス(2−クロロエチル)エーテル、トリデカエチレングリコールビス(2−ブロモエチル)エーテル等が挙げられる。これらの化合物を単独で又は複数組み合わせて用いる。
【0026】
2個の窒素原子を有するヘテロ環式化合物としては、ピペラジン、トリエチレンジアミン、2−メチルピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、ホモピペラジン、2−ピラゾリン、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、ヒスチジン、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、2−イミダゾリン、3−イミダゾリン、4−イミダゾリン、2−メチル−2−イミダゾリン、ピラゾール、1−メチルピラゾール、3−メチルピラゾール、1,3−ジメチルピラゾール、1,4−ジメチルピラゾール、1,5−ジメチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、ベンズイミダゾール、インダゾール、ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、ピリミジン、ピリダジン等が挙げられる。これらの化合物を単独で又は複数組み合わせて用いる。特に、2−ピラゾリン、ピラゾール、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−イミダゾリン、3−イミダゾリン、4−イミダゾリン、2−メチル−2−イミダゾリン等が好ましい。
本発明では、ジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物と1又は2以上のエーテル結合を有するジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物を組み合わせたものと2個の窒素原子を有するヘテロ環式化合物の反応生成物を用いることも出来る。さらには、上記の原料化合物にジメチルアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、等の脂肪族アミノ化合物、フェニレンジアミン等の芳香族アミノ化合物、スクシニルクロリド、グルタリルクロリド、フマリルクロリド、ジクロロキシリレン、フタロイルクロリド等の複数の反応性基を有する化合物を第三原料として加えて反応した生成物を用いることもできる。但し、エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンを第三反応成分に用いることは反応生成物の所期の効果が得られないという点で好ましくない。
【0027】
上記ジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物もしくは1又は2以上のエーテル結合を有するジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物と2個の窒素原子を有するヘテロ環式化合物との反応生成物を製造するための反応温度は室温から200℃、好ましくは50℃〜130℃である。
【0028】
上記ジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物もしくは1又は2以上のエーテル結合を有するジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物と2個の窒素原子を有するヘテロ環式化合物との反応生成物を製造するための反応時間は1時間〜100時間、好ましくは3時間〜50時間である。
【0029】
上記ジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物もしくは1又は2以上のエーテル結合を有するジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物と2個の窒素原子を有するヘテロ環式化合物との反応生成物を製造するための反応は溶媒なしで反応させることもできるが、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、t-ブタノール、1−ブタノール等のアルコール、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジメチルセロソルブ、ジエチルセロソルブ等が挙げられる。
【0030】
上記ジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物もしくは1又は2以上のエーテル結合を有するジ又はポリハロゲン化鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物と2個の窒素原子を有するヘテロ環式化合物との反応生成物を製造するための反応は、反応中にハロゲンを発生することがあるが、このハロゲンを含有したままで反応を進めてもよいが、好ましくは、公知の方法、例えばイオン交換にて除去する方法やアルカリ金属水酸化物等との反応にてアルカリ金属ハロゲン化物として不溶化して除去する方法等でハロゲンフリーの反応物とすることもできる。ハロゲンを含む反応生成物とするか、ハロゲンフリーの反応生成物とするかは、銅電解液としての性能に合わせて採用する。
【0031】
本実施形態で用いるブライトナーとしては、公知のものから適宜選択すればよいが、例えば3−メルカプトプロパンスルホン酸及びその塩、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド及びその塩、N,N−ジメチルジチオカルバミン酸(3−スルホプロピル)エステル、N,N−ジメチルジチオカルバミン酸(3−スルホエチル)エステル、3−(ベンゾチアゾリルチオ)エチルスルホン酸ナトリウム、ピリジニウムプロピルスルホベタイン等が挙げられる。
【0032】
銅電解液にポリマーを添加する場合においては、公知のものから適宜選択すればよいが、例えば分子量が200以上のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのコポリマー、それらの前記三種のグリコール類のC1〜C6アルキルモノエーテル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル等が挙げられる。特に分子量が500〜10万のものが好ましい。
【0033】
各添加剤の量は、0.1〜1000ppmの範囲内で量、比率を変えて添加する。
電解めっき液に添加する上記添加剤、特に上記レベラーは銅箔中に不純物として取り込まれない特性を有している。
【0034】
本発明の銅箔は前記式1に示すLMP値が9000以上となる加熱処理を施した後の結晶構造が、EBSPの分析で面に対する赤系・青系の色調のいずれかの範囲の色調が80%以上を占める銅箔であり、その範囲は図1に示す。ここで、色調とは、図1に示すように図の各点をA、B、CとしたときAとCの線をAP:CP=2:1に分割する点Pを設け、Pの点からACに垂直に線を引きABと交わった点をQとしてその線の右側を青系、左側を赤系として色調の定義を行った。
前記色調が80%未満であると結晶は再結晶し難い状況となり、熱処理を行った際結晶が大きくならず、また結晶方位の違う結晶がランダムに存在することとなり、その結果、結晶すべりなどが悪くなり屈曲性も悪くなる傾向を示すからである。
【0035】
上記銅箔のX線回析(X線解析のデーターは メーカ名:Rigaku 装置名:Geiger flex RAD-A (PC化)のX線回析装置を使用し測定を行った)で(111)面に対し(331)面の相対強度が15以上であり、かつ、EBSP分析で青系の色調(具体的には図1に記載した右側の青系の範囲をいう。)にて構成された結晶組織が全体の80%以上になる銅箔であることが好ましい。
【0036】
上記条件にて作成される電解銅箔は、めっき液及び添加剤成分から銅内に取り込まれる元素の内、少なくとも塩素(Cl)、窒素(N)、硫黄(S)は、銅箔断面の深さ方向における各部分のSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析における銅(Cu)との強度比で少なくとも塩素(Cl)は0.5%未満、窒素(N)は0.005%未満、硫黄(S)は0.005%未満であることが好ましい。また、酸素(O)、炭素(C)についても酸素(O)は1%未満、炭素(C)は0.1%未満であればなお好ましい。
【0037】
本発明の電解銅箔は全体において不純物が少なく、且つ部分的に多く存在しない銅箔である。上記で作成した銅箔は、式1に示すLMP値が9000以上となる加熱処理を施すことにより、各結晶粒の最大長さ5μm以上である結晶粒が70%以上存在する電解銅箔である。
式1:LMP=(T+273)*(20+Logt)
ここで、20は銅の材料定数、Tは温度(℃)、tは時間(Hr)
【0038】
結晶粒の最大長さの測定方法は銅箔断面の顕微鏡写真を撮影し、50μm×50μmの範囲内もしくはそれ同等の面積において、結晶粒の最大長さを測定し、その長さが5μm以上の結晶粒の占める面積を測定し、測定した面積が、断面全体の面積に対して何%であるかを算出する方法で確認する。
この加熱後に、前記したX線回析にて測定した(111)面に対し(331)面の相対強度が15以上となることが好ましい。
また、上記加熱処理を行った時、引張強さ20KN/cm以下であり、0.2%耐力は10KN/cm以下であることが好ましい。なお、耐力は8KN/cm以下であることが最適である。
【0039】
上記電解銅箔の少なくとも片方の面に、表面処理層を設ける。具体的にはアンカー効果による密着性の改善を目的とした粗化処理層、密着性・耐熱性・耐薬品性・防錆を目的とした表面処理層が挙げられる。なお、粗化処理層については表面処理層で目的の性能を達成できるなら必須の処理ではない。表面処理層の内、金属表面処理層としては、Ni、Zn、Cr、Si、Co、Mo、の単体、またはそれらの合金、または水和物が挙げられる。合金層として付着させる処理の一例としてはNi、Si、Co、Mo、の少なくとも1種類の金属または1種類の金属を含有する合金を付着させた後、Znを付着させCrを付着させる。金属表面処理層を合金として形成しない場合はNiまたはMo等エッチング性を悪くする金属については厚さを0.8mg/dm以下とすることが好ましい。なお、NiまたMoを合金で析出させる場合でもその厚さは、1.5mg/dm以下とすることが好ましい。また、Znについては付着量が多いとエッチング時に溶けてピール強度の劣化の原因になることがあるため2mg/dm以下であることが好ましい。
【0040】
上記金属表面処理層を設ける(付着させる)めっき液とめっき条件の一例を下記する。
〔Niめっき〕
NiSO・6HO 10〜500g/l
BO 1〜50g/l
電流密度 1〜50A/dm2
浴温 10〜70℃
処理時間 1秒〜2分
PH 2.0〜4.0
【0041】
〔Ni−Moめっき〕
NiSO・6HO 10〜500g/l
NaMo0・2HO 1〜50g/l
クエン酸3ナトリム2水和物 30〜200g/l
電流密度 1〜50A/dm2
浴温 10〜70℃
処理時間 1秒〜2分
PH 1.0〜4.0
【0042】
〔Mo−Coめっき〕
NaMo0・2HO 1〜 30g/l
CoSO・7HO 1〜 50g/l
クエン酸3ナトリム2水和物 30〜200g/l
電流密度 1〜50A/dm2
浴温 10〜70℃
処理時間 1秒〜2分
PH 1.0〜4.0
【0043】
〔Znめっき〕
酸化亜鉛 2〜40g/dm
水酸化ナトリウム 10〜300g/dm
温度 5〜60℃
電流密度 0.1〜10A/dm
処理時間 1秒〜2分
PH 1.0〜4.0
【0044】
〔Crめっき〕
CrO 0.5〜40g/l
PH 3.0以下
液温 20〜70℃
処理時間 1秒〜2分
電流密度 0.1〜10A/dm
PH 1.0〜4.0
【0045】
これら金属表面処理層上にシランを塗布する。塗布するシランについては一般的に使用されているアミノ系、ビニル系、シアノ基系、エポキシ系が挙げられる。特に貼り付けるフィルムがポリイミドの場合はアミノ系、またはシアノ基系シランがピール強度を上げる効果を示す。これらの処理を施した電解銅箔をフィルムに貼り付け銅張積層基板とする。
【0046】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(1)製箔
実施例1〜5、比較例1〜3
電解液組成等の製造条件を表1に示す。表1に示す組成の硫酸銅めっき液を活性炭フィルターに通して清浄処理し、同じく表1に示す添加剤を添加し所定の濃度とした後、表1に示す電流密度で回転ドラム式製箔装置により電解製箔し、厚さ18μmの未処理電解銅箔を製造した。
【0048】
【表1】

【0049】
作成した各実施例及び各比較例の未処理電解銅箔を3サンプルに分割し、そのうち1サンプルを使用して内部に含まれる不純物元素量、表面粗さを測定した。また、前記の未使用の1サンプルを使用して熱処理して断面結晶粒の観察、EBSPの分析、X線回析、引張試験を行った。最後に、残った未使用の1サンプルを使用してポリイミドシートと熱圧着し屈曲試験を行った。各測定・試験の詳細を以下に記す。
【0050】
〔不純物元素量の測定〕
実施例1〜5、比較例1〜3の未処理電解銅箔の内部の不純物元素量をSIMS分析において深さ方向に掘って測定した。測定元素は酸素(O)、炭素(C)、塩素(Cl),窒素(N)、硫黄(S)である。SIMS分析の測定条件は
1次イオン ::Cs+(5kV,100nA)
2次イオン :銅(Cu)63Cu・塩素(Cl)35Cl・窒素(N)14N+63Cu・硫黄(S)34・酸素(O)16・炭素(C)12
スパッタ領域 :200μm×400μm
で行った。未処理電解銅箔の表面は汚れや酸化被膜の影響があるので表面から深さ方向2μmまでスパッタ除去した後に測定を開始し、深さ4μmまで分析を行った。各測定元素の強度の平均値と銅の強度の平均値から強度比を算出した。強度比の算出結果を表2に示す。
【0051】
〔表面粗さの測定〕
各実施例及び各比較例の未処理電解銅箔の表面粗さRz、Raを接触式表面粗さ計を用いて測定した。表面粗さRz、RaとはJIS B 0601-1994「表面粗さの定義と表示」に規定されものでありRzは「十点平均粗さ」、Raは「算術平均粗さ」である。基準長さは0.8mmで行った。測定結果を表2に示す。
【0052】
〔加熱条件〕
各実施例及び各比較例の未処理電解銅箔を前記式1のLMP値が9000以上となる、320℃、1時間、窒素雰囲気中で加熱処理を行った。
【0053】
〔断面結晶粒の観察〕
各実施例及び各比較例の未処理電解銅箔を前記加熱条件で加熱処理した後、銅箔の断面を電子顕微鏡で撮影し、50μm×50μmの範囲内で結晶粒の最大長さが5μm以上の結晶が占める割合を測定・算出した。断面結晶粒の観察結果を表3に記載する。
【0054】
〔EBSP分析〕
前記したとおりである。EBSP分析結果を表3に記載する。
【0055】
〔X線回析による相対強度の算出〕
前記したとおりである。X線回析による相対強度の算出結果を表3に記載する。
【0056】
〔引張強さ〕
各実施例及び各比較例の未処理電解銅箔を前記加熱条件で加熱処理した後、長さ6インチ×幅0.5インチの試験片に裁断し引張試験機を用いて0.2%耐力、及びヤング率を測定した。なお、引張速度は50mm/minとした。引張試験結果を表4に記載する。
0.2%耐力とは、歪と応力の関係曲線において、歪が0%の点において曲線に接線を引き、その接線と平行に歪が0.2%の点に直線を引いたその直線と曲線が交った点の応力を断面積で割ったものである。引張試験結果を表4に記載する。
【0057】
〔屈曲性試験〕
各実施例及び各比較例の未処理電解銅箔と厚さ25μmのポリイミドフィルムを330℃、20分間の加熱条件でプレス圧着してポリイミドフィルム貼付電解銅箔を作成した。得られたポリイミドフィルム貼付電解銅箔を回路パターンにエッチングし、通電部を残して回路形成面に厚さ25μmのポリイミドカバーフィルムを300℃、20分間の加熱条件でプレス圧着してMIT屈曲試験サンプルを得た。得られたサンプルについて下記の条件にて回路が破断するまで屈曲試験を行った。
屈曲性の評価は、最低屈曲回数を示した比較例1の銅箔に屈曲回数を1としたときの倍数にて相対評価とした。屈曲試験結果を表4に記載する。
屈曲半径R :0.8mm
屈曲角度 :±135°
屈曲速度 :175回/分
荷重 :500g
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
表2から明らかなように実施例1〜5の不純物元素量は比較例に比べて少なく、表面粗さRzはマット面、シャイニー面ともに1.0μm以下であった。また、表3から明らかなように実施例1〜5は長さ5μm以上の結晶粒存在面積割合(%)は70%以上であり、EBSPの分析で単一(青系)の色調の割合が80%以上であり、X線回析における相対強度[(331)強度×100/(111)強度]は15以上を示している。さらに表4に示すように引張強さは20KN/cm以下、0.2%耐力は10KN/cm以下であり、屈曲回数は従来例の2倍以上となっている。
本実施例では、不純物の分布割合、結晶粒径、同一結晶方位系などの因果関係において多少屈曲特性の状態等は変わってはいるが、比較例の銅箔と比較すると明らかに屈曲特性が向上していることがわかる。
特に、耐力と屈曲性との間には相関関係が明らかにあり、不純物または結晶粒径の大きさが耐力を下げる原因となっていることが推定できる。
【0062】
本発明は上述したように、圧延銅箔と同等またはそれ以上の柔軟性・屈曲性を有する電解銅箔を提供することができる。
また、本発明は該電解銅箔を用いた柔軟性・屈曲性を有するCCLに対応することができる。
特に、電解銅箔においては、該電解銅箔とポリイミドフィルムとを貼り付ける際にかかる熱履歴において、機械的特性、柔軟性が改良され、電気機器の小型化に対し対応できるCCL用の電解銅箔を、圧延銅箔に比べて安価に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解銅箔に式1に示すLMP(Larson-Miller parameter)値が9000以上となる加熱処理を施した後の結晶構造がEBSP(Electron Backscatter Diffraction Pattern)の分析で面に対する赤系・青系のいずれかの色調が80%以上を占める電解銅箔。
式1:LMP=(T+273)*(20+Logt)
ここで、20は銅の材料定数、Tは温度(℃)、tは時間(Hr)
【請求項2】
前記加熱処理を施した電解銅箔の、X線回析における(111)面に対し(331)面の相対強度が15以上であることを特徴とする請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
前記加熱処理を施した後の結晶構造が、結晶粒径5μm以上の結晶粒が70%以上で、X線回析において(111)面に対し(331)面の相対強度が15以上である請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項4】
前記加熱処理を施した前記電解銅箔が、引張強さ20KN/cm以下であり、0.2%耐力が10KN/cm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の電解銅箔。
【請求項5】
前記電解銅箔の断面に含まれる不純物は、銅箔断面の深さ方向のSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析における銅(Cu)との強度比で少なくとも塩素(Cl)は0.5%未満、窒素(N)は0.005%未満、硫黄(S)は0.005%未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電解銅箔。
【請求項6】
前記電解銅箔の少なくとも片方の表面粗さが、Rz=1.5μm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の電解銅箔。
【請求項7】
前記電解銅箔の少なくとも片方の面に密着性・耐熱性・耐薬品性・防錆を目的とした表面処理層が設けられている請求項1〜6のいずれかに記載の電解銅箔。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の前記電解銅箔を絶縁基板に積層したことを特徴とする銅張積層板。

【図1】
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【公開番号】特開2010−37654(P2010−37654A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160836(P2009−160836)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】