説明

露光装置及び当該露光装置により作製されたナノインプリント用モールド

【課題】ロールを被覆するレジスト層上で隣接する露光マークの露光開始点を正確に制御し2次元的に自在な配置に大面積の露光パターンを作製可能な露光装置及び露光方法を提供することを目的の一とする。
【解決手段】レジスト層がロール表面を被覆してなるロール状の部材にレーザー光でパルス露光してレジスト層に複数の露光部からなる露光パターンを形成する露光装置において、ロール状部材をロールの中心を軸に回転させる回転制御部と、ロール状部材の回転方向における露光パターンをロール状部材の回転と同期した基準信号に基づいて制御し、ロール状部材の回転方向と垂直なロール長手方向に露光を繰り返す露光部とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置及び当該露光装置を用いて作製されたインプリント用モールドに関する。また、少なくともレジスト層が形成された基材からなるインプリント原版へのレーザーによる精密露光を可能とするインプリントモールド作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体、光学・磁気記録等の分野において高密度化、高集積化等の要求が高まるにつれ、数百〜数十nm以下の微細パターン加工技術が必須となっている。そこで、これら微細パターン加工を実現するためにマスク・ステッパー、露光、レジスト材料等の各工程の要素技術が盛んに研究されている。
【0003】
例えば、マスク・ステッパーの工程においては、位相シフトマスクと呼ばれる特殊なマスクを用い、光に位相差を与え、干渉の効果により微細パターン加工精度を高める技術や、ステッパー用レンズとウエハーとの間に液体を充填し、レンズを通過した光を大きく屈折させることにより、微細パターン加工を可能にする液浸技術などが検討されている。しかしながら、前者ではマスク開発に莫大なコストが必要なことや、後者では高価な装置が必要になることなど製造コストの削減は非常に困難である。
【0004】
一方、レジスト材料においても多くの検討が進められている。現在、最も一般的なレジスト材料は、紫外光、電子線、X線などの露光光源に反応する光反応型有機レジスト(以下、フォトレジストともいう。)である(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照のこと)。
【0005】
露光に用いられるレーザー光において、通常レンズで絞り込まれたレーザー光の強度は、ガウス分布形状を示す。このときスポット径は1/eで定義される。一般的にフォトレジストの反応は、E=hν(E:エネルギー、h:プランク定数、ν:波長)で表されるエネルギーを吸収することよって反応が開始される。従ってその反応は、光の強度には強く依存せず、むしろ光の波長に依存するため、光の照射された部分(露光マーク)は、ほぼ全て反応が生じることになる。従ってフォトレジストを使った場合は、スポット径に対して忠実に露光されることになる。
【0006】
光反応型有機レジストを用いる方法は、数百nm程度の微細なパターンを形成するには非常に有効な方法ではあるが、光反応を用いたフォトレジストを用いるため、さらに微細なパターンを形成するには、原理的に必要とされるパターンより小さなスポットで露光する必要がある。従って、露光光源として波長が短いKrFやArFレーザー等を使用せざるを得ない。しかしながら、これらの光源装置は非常に大型でかつ高価なため、製造コスト削減の観点からは改善の余地がある。さらに電子線、X線等の露光光源を用いる場合は、露光雰囲気を真空状態にする必要があるため、真空チェンバーを使用する必要があるため、コストや大型化の観点からかなりの制限がある。
【0007】
一方、ガウス分布を持つレーザー光を物体に照射すると、物体の温度もレーザー光の強度分布と同じガウス分布を示す。このときある温度以上で反応するレジスト、すなわち、熱反応型レジストを使うと、所定温度以上になった部分のみ反応が進むため、スポット径より小さな範囲を露光することが可能となる。すなわち、露光光源を短波長化することなく、スポット径よりも微細なパターンを形成することが可能となるので、熱反応型レジストを使うことで、露光光源波長の影響を小さくすることができる。
【0008】
近年可視光の波長と同等あるいは可視光の波長よりも小さな周期的な凹凸を基材上に形成することにより新規な光学特性を示す構造体が多く報告されている。光学フィルム分野を例にとるとワイヤーグリッド偏光子に用いられる溝形状凹凸やモスアイ型反射防止フィルムに用いられるコーン形状凹凸などを挙げることができる。これらはパターン形成方向と直交する方向に隣接するパターンの間で同期が取れている必要は全くない。
【0009】
ところが最近、表面プラズモン効果を利用したデバイスとしてカラーフィルター(非特許文献2を参照のこと)や偏光板(特許文献2を参照のこと)が提案されている。これらはパターン形成方向と直交する方向に隣接するパターンの間で同期が取れていることが非常に重要である。前記カラーフィルターではパターン形成方向と直交する方向に隣接するパターン間に互いに1/2周期ずらした構造が形成されている。このカラーフィルターの構造はガラス基材の上にサブミクロンオーダーの周期構造が形成されたAl、その上を覆うSiOからなっている。
【0010】
このような微細構造体は平板状の基材の上に形成されていた。例えばx方向、y方向に独立に精密移動可能なステージ(x−yステージ)上に平板基材を置きレーザーや電子ビームにより加工することで形成している。そのため、このようなシステムではx方向、y方向とも非常に高精度な同期を実現することは容易である。
【0011】
しかし加工面積を大きくし工業化するためには、1枚1枚の平板を電子ビームなどで加工するのではなく、ロール状基材を用いてその表面にパターンを形成しておき連続的にロールから別の基材へ転写するロールツーロールナノインプリントという方法を用いることが提案されている。ところがロール基材を用いた場合、x−yステージの様に隣接する露光部と同期の取れた露光パターンを形成することは非常に困難である。
【0012】
一般にロール基材上に微細構造体を作製するにはレジスト層を表面に被覆したロールをその中心軸を中心に回転させながら、ロール表面に光ピックアップから集光されたレーザー光をパルス状に照射してレジスト層をロール回転方向に周期的に露光し、ロール回転方向とは垂直なロール長手方向に露光を繰り返す形態が考えられる。
【0013】
しかし上記方法において数100nm以下のサイズの露光パターンを形成する際、レーザーのパルス発光をスリーブの回転と非同期で行うと(1)ロールの周長さが露光パターンのピッチの整数倍とならないため、ロール長手方向に露光を繰り返し行った時に露光開始位置の隣接するライン間で同期が取れない、(2)ロールはその長手方向で数μm程度の直径のバラツキが存在するため、ロール長手方向に露光を繰り返し行った時に露光開始位置の隣接するライン間で同期が取れない、(3)ロールの回転にはワウと呼ばれる揺らぎが存在するため、ロール長手方向及びロール回転方向に露光を繰り返し行った時に露光開始位置の同期が取れない、といった問題が発生するため実現に至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−144995号公報
【特許文献2】特開2007−272016号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】(株)情報機構 発刊 「最新レジスト材料」 P.59−P.76
【非特許文献2】独立行政法人物質・材料研究機構配布資料 (2009.3.26)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、ロールを被覆するレジスト層上で隣接する露光マークの露光開始点を正確に制御し2次元的に自在な配置に大面積の露光パターンを作製可能な露光装置及び露光方法を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、レジスト層が形成されたロール状の部材を回転させ、ロールの回転方向へ露光して形成される露光部のピッチが回転制御部の回転と同期した基準信号に基づいて露光位置を制御することによって隣接する露光ラインの露光開始点を正確に制御し2次元的に自在な配置に露光パターンを作製することが可能であることを見出し、本願発明を完成するに至った。具体的には、回転制御部の回転と同期したエンコーダーの出力信号、または予めロール状の部材上のレジストに露光しておいた露光パターンを再生専用光ピックアップで連続的に読み出した再生信号を基準として用い、隣接する露光ラインに形成される露光マークの露光開始点に設定した位相差を持たせて露光する。具体的には、以下のとおりである。
【0018】
本発明の露光装置の一態様は、レジスト層がロール表面を被覆してなるロール状の部材にレーザー光でパルス露光してレジスト層に複数の露光部からなる露光パターンを形成する露光装置であって、ロール状部材をロールの中心を軸に回転させる回転制御部と、ロール状部材の回転方向における露光パターンをロール状部材の回転と同期した基準信号に基づいて制御し、ロール状部材の回転方向と垂直なロール長手方向に露光を繰り返す露光制御部とを有する。
【0019】
本発明の露光装置の一態様において、基準信号が回転制御部の回転に同期したエンコーダーからの出力パルスであることが好ましい。
【0020】
本発明の露光装置の一態様において、基準信号が予めレジスト層に形成された参照露光パターンを再生することで生成されることが好ましい。
【0021】
本発明の露光装置の一態様において、少なくとも2個以上の光ピックアップにより参照露光パターンの再生とレジスト層の露光が同時に行われることが好ましい。
【0022】
本発明の露光装置の一態様において、基準信号が予め異なる複数の周期の種類に応じてレジスト層に形成された複数の参照露光パターンを再生することで生成されることが好ましい。
【0023】
本発明の露光装置の一態様において、異なる複数の基準信号に基づいて各々に予め設定された露光本数の露光ラインを形成することが好ましい。
【0024】
本発明の露光装置の一態様において、ロール部材の回転方向における露光部の長さ及び間隔の少なくとも一方が基準信号の出力パルスに対して複数個のパルス長で制御されることが好ましい。
【0025】
本発明の露光装置の一態様において、ロール長手方向に繰り返し露光される露光部の露光開始位置が、基準信号のスタートパルスからパルス数をカウントし、1種類のパルス数が露光開始パルスとして設定され、設定露光開始パルスの立ち上がりまたは立ち下がりのいずれか一方を基準としていることが好ましい。
【0026】
本発明の露光装置の一態様において、ロール長手方向に繰り返し露光される露光部の露光開始位置が、基準信号のスタートパルスからパルス数をカウントし、異なる2種類以上のパルス数が設定され1ライン毎に順次設定露光開始パルス数が1周毎に異なり、設定露光開始パルスの立ち上がりまたは立ち下がりのいずれか一方を基準としていることが好ましい。
【0027】
本発明の露光装置の一態様において、ロール回転方向に周期的に露光される露光パターンのピッチおよび露光部のサイズが50nm以上1μm以下であることが好ましい。
【0028】
本発明の露光装置の一態様において、ロール表面を被覆するレジスト層が熱反応型レジストからなることが好ましい。
【0029】
本発明の露光装置の一態様において、レーザーの波長が550nm以下であることが好ましい。
【0030】
本発明の露光装置の一態様において、レーザーが対物レンズにより収束されその焦点深度内にロール基材表面が存在するようにオートフォーカスされることが好ましい。
【0031】
本発明の露光装置の一態様において、レーザーが半導体レーザーであることが好ましい。
【0032】
本発明の露光装置の一態様において、レーザーがXeF、XeCl,KrF、ArF、Fエキシマレーザーであることが好ましい。
【0033】
本発明の露光装置の一態様において、レーザーがNd:YAGレーザーの2倍波、3倍波、4倍波であることが好ましい。
【0034】
本発明のロールツーロールナノインプリント用モールドは、上述した露光装置により作製されたものであることを特徴としている。
【0035】
本発明のロールツーロールナノインプリント用モールドの一態様において、モールドに形成された露光パターンのピッチおよび露光部のサイズが50nm以上1μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によると、レジスト層がロール表面を被覆してなるロール状部材を回転制御部で回転させ、当該回転制御部の回転と同期した基準信号に基づいて露光位置を制御し、ロールの回転方向とは垂直なロールの長手方向に露光を繰り返すことにより、ロールを被覆するレジスト上で隣接する露光マークの露光開始点を正確に制御しロール表面に自在な配置に大面積の露光パターンを作製することができる。
【0037】
また、本発明により、基準信号を基にロールの回転方向と直交するロールの長手方向に隣接する露光ラインに形成される露光マークの露光開始点を正確に制御しカラーフィルターなど様々な表面プラズモン効果を利用したデバイスを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る露光装置及び露光方法の一例を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態に係る露光装置及び露光方法の別の一例を説明する図である。
【図3】エンコーダー信号を基準信号として露光マークを形成する場合の模式図である。
【図4】ロール長手方向に繰り返し露光される露光部の露光開始位置が、基準信号のスタートパルスからパルス数をカウントし、1種類のパルス数が露光開始パルスとして設定された場合の模式図である。
【図5】ロール長手方向に繰り返し露光される露光部の露光開始位置が、基準信号のスタートパルスからパルス数をカウントし、異なる3種類のパルス数が設定され1ライン毎に順次設定露光開始パルス数が1周毎に異なる場合の模式図である。
【図6】再生専用光ピックアップで再生した信号を基準としスピンドルモーターの回転と同期した露光を行った実施例3で製造したロール状部材を被覆したレジスト層の露光パターンをAFMで観察した結果を示すAFM像である。
【図7】スピンドルモーターの回転と非同期でパルス露光を行った比較例2で製造したロール状部材を被覆したレジスト層の露光パターンをAFMで観察した結果を示すAFM像である。
【図8】露光ラインを再生専用光ピックアップで再生した信号を基準としスピンドルモーターの回転と同期した露光を行った実施例4で製造したロール状部材を被覆したレジスト層の露光パターンをAFMで観察した結果を示すAFM像である。
【図9】スピンドルモーターの回転と非同期でパルス露光を行った比較例3で製造したロール状部材を被覆したレジスト層の露光パターンをAFMで観察した結果を示すAFM像である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明について詳細に説明するが、初めに本明細書中で使用される言葉の定義を行う。
【0040】
「スタートパルス」とは、スピンドルモーターの回転と同期させたエンコーダーの出力パルス信号のうち、Z相信号の直後に発生するパルスを指す。エンコーダーはスタートパルスからパルス数のカウントを開始し、回転数制御を行う。
【0041】
「露光部」とは、露光のために発光された1パルスで形成された1つのマークを指す。また、「露光パターン」とは、ロールの周方向に露光された複数の露光部が形成する配列を示す。周方向に露光された1列を露光ラインと呼ぶ。
【0042】
本発明の実施形態の一例を図1に示す。図1に示す露光装置は、レジスト層がロール表面を被覆してなるロール状部材11を露光するものであり、少なくともロール状部材11を回転させる回転制御部13と、レジスト層にレーザー光を照射して露光する露光制御部12とを有している。
【0043】
回転制御部13は、ロール状部材11をロールの中心を軸に回転させる機能を有する装置で設ければよく、例えば、スピンドルモーター等を用いることができる。
【0044】
露光制御部12は、レジスト層をパルス状に露光(パルス露光)できる装置で設ければよく、例えば、光ピックアップ装置等を用いることができる。また、ロール状部材11の回転方向と垂直なロール長手方向に露光を繰り返すことにより、レジスト層の所望の箇所を露光することが可能となる。
【0045】
図1で示す露光装置では、ロール状部材11に形成される露光パターンが回転制御部13の回転(例えば、スピンドルモーターの回転)と同期した基準信号に基づいて制御されることにより、ロール状部材の回転方向において形成される露光部の位置を正確に制御すると共に、隣接する露光ラインの露光開始位置を正確に制御する。基準信号としては、スピンドルモーターの回転に同期したエンコーダーからの出力パルスを用いることができる。
【0046】
スピンドルモーターを回転させることで発生するエンコーダーの出力信号を基準として利用する場合には、1つの光ピックアップ装置を用いてロール状部材11の回転方向と直交するロールの長手方向において隣接する露光ラインに形成される露光部の露光開始点を正確に制御することが可能となる。2本以上の隣接する露光ラインに形成される露光部の露光開始点を正確に制御するためにはあらかじめ必要な本数に対してそれぞれエンコーダーからの出力パルスのカウント値を設定しておけばよい。
【0047】
具体的には、1本目の露光を設定したエンコーダーからの出力パルスのカウント値になった時に露光を開始し、1本目の露光を完了後、2本目の露光を別に設定したエンコーダーからの出力パルスのカウント値になった時に露光を開始する。同様にして3本目以降の露光ラインを順次露光し、露光開始点を設定した隣接する複数本の露光が終了したら、再度1本目と同じエンコーダーからの出力パルスのカウント値になった時に露光を行い2本目、3本目と順次繰り返していく。ロールの回転方向と直交するロールの長手方向に隣接する露光ラインの露光部の露光開始位置を揃えて露光する時はエンコーダーからの出力パルスのカウント値を1つだけ設定しておけばよい。
【0048】
図3はエンコーダー信号を基準信号として露光マークを形成する場合を模式的に示したものである。エンコーダー信号は露光マークのサイズおよび周期に一致したエンコーダー信号1のような信号でも良いし、また更に細かい周期のエンコーダー信号2の複数のパルスを1組として作成した基準信号を利用しても良い。
【0049】
エンコーダーの出力パルスのピッチが露光する露光部のピッチとうまく同期しない場合は、抵抗と可変コンデンサー等の組み合わせで作製した遅延回路により同期させることができる。
【0050】
本発明の実施形態の別の一例を図2に示す。図2に示す露光装置は、レジスト層がロール表面を被覆してなるロール状部材41を露光するものであり、少なくともロール状部材41を回転させる回転制御部44と、レジスト層に形成された露光部を読み取る読取り部42と、レジスト層にレーザー光を照射して露光する露光制御部43とを有している。つまり、図2に示す露光装置は、図1に示す露光装置に読取り部42を追加した構成となっている。
【0051】
読取り部42は、レジスト層に形成されたリファレンスとなる複数の参照露光部から形成された参照露光パターンを読み取れる装置で設ければよく、例えば、再生用光ピックアップ装置等を用いることができる。なお、再生用光ピックアップ装置を用いてレジスト層に形成された参照露光パターンを読み取る場合には、レジスト層に参照露光パターンが必要となるが、参照露光パターンは予め露光制御部43(露光用の光ピックアップ装置等)を用いてレジスト層を露光して形成しておくことができる。
【0052】
図2で示す露光装置では、予め形成しておいた参照露光パターンを再生用光ピックアップで連続的に読み出した再生信号を基準として用いることにより、隣接する露光ラインの露光開始点を正確に制御する。
【0053】
また、2個以上の光ピックアップ装置(再生用光ピックアップ装置と露光用光ピックアップ装置)を用いることにより、レジスト層の参照露光パターンの読み取りと、レジスト層への露光を同時に行うことができる。
【0054】
図2に示す場合も上記図1に示したエンコーダーを用いた時と同様、抵抗と可変コンデンサー等の組み合わせで作製した遅延回路により同期させることができる。
【0055】
図2で説明した露光において、予めレジスト層に形成される参照露光パターンは1種類に限られない。例えば、参照露光パターンを構成する参照露光部の長さや参照露光部間のピッチが異なる複数の周期に対応した露光ラインを複数形成しておくことができる。この場合、基準信号は、レジスト層に予め形成された異なる複数の露光ラインを読取り部42が読み込むことにより生成される。
【0056】
同一露光ライン上に作製される露光部のピッチは50nm以上1μm以下が好ましい。露光部のピッチが50nmよりも小さいと可視光波長域の光と相互作用しにくくなり、ピッチが1μmよりも大きいと幾何光学的な効果が強くなってしまう。いずれの場合も光の波長分離や偏光分離などの効果を得ることが出来ない。
【0057】
また、図1、図2に示す露光装置において、露光部長さ、露光部間隔は、基準信号のスタートパルスに対して複数個のパルス長で制御することができる。
【0058】
図4はロール長手方向に繰り返し露光される露光部の露光開始位置が、基準信号のスタートパルスからパルス数をカウントし、1種類のパルス数が露光開始パルスとして設定された場合を示している。この場合、ロール長手方向に繰り返し露光される露光マークは全てスタートパルスから決められたn個のパルスを開けた位置から露光が開始される。
【0059】
図5はロール長手方向に繰り返し露光される露光部の露光開始位置が、基準信号のスタートパルスからパルス数をカウントし、異なる2種類以上のパルス数が設定され1ライン毎に順次設定露光開始パルス数が1周毎に異なる場合を示している。図5は3種類のパルス数が設定された場合を表している。露光開始位置を示すスタートパルスからのパルス数はn個、n+2個、n+1個となっており、ロール長手方向N−2本目の露光マークがスタートパルスからn個目のパルスから、ロール長手方向N−1本目の露光マークがスタートパルスからn+2個目のパルスから、ロール長手方向N本目の露光マークがスタートパルスからn+1個目のパルスから露光が開始される。N+1本目からは再度n個、n+2個、n+1個の順にスタートパルスから露光開始位置がずれていく。
【0060】
ロール表面を被覆するレジスト層はフォトレジスト及び熱反応型レジストのいずれでも適応可能であるか、より微細構造を求める場合は熱反応型レジストからなることが好ましい。熱反応型レジストは集光されたレーザー光を吸収し、その温度分布はほぼガウス分布となる。反応温度以上に昇温された領域のみ化学的、物理的な変化を生じるため、レーザーのスポットサイズよりも小さな露光部を形成することが出来る。
【0061】
露光を行う光ピックアップに用いるレーザーは波長150nm以上550nm以下が好ましい。また装置の小型化および入手の容易さの観点からは半導体レーザーを使用することが好ましい。波長は350nm以上550nm以下であることが好ましい。波長が350nmより短い場合、レーザーの出力が小さくなりレジスト層を露光することができない。一方波長が550nmより長い場合、レーザーのスポット径を500nm以下にすることが出来ず小さな露光部を形成することが出来ない。
【0062】
一方、スポットサイズを小さくして小さな露光部を形成するためにはガスレーザーを使用することが好ましい。特にXeF、XeCl,KrF、ArF、Fのガスレーザーは波長が351nm、308nm、248nm、193nm、157nmと短く非常に小さなスポットサイズに集光することができるため好ましい。
【0063】
露光用レーザーとしてNd:YAGレーザーの2倍波、3倍波、4倍波を用いることができる。Nd:YAGレーザーの2倍波、3倍波、4倍波の波長はそれぞれ532nm、355nm、266nmであり、小さなスポットサイズを得ることが出来る。
【0064】
平板状の基材上に設けられたレジスト層に微細パターンを露光により形成する場合、平板状基材の精度が非常に高く初めに焦点深度内に基材表面があるようにレーザーの光学系を調整しておけば製造は容易である。一方、ロール状の基材上に設けられたレジスト層に微細パターンを形成する場合、ロールの寸法精度を高めることが非常に難しいこと、ロールのセンター軸とスピンドルモーターのセンター軸を一致させることが困難であることなどの理由から、露光に用いられるレーザーは対物レンズにより収束されロール状基材表面が焦点深度の中に絶えず存在するようにオートフォーカスがかけられていることが好ましい。
【0065】
以上のように本実施の形態で示した露光装置及び露光方法を用いることにより、ロールの周長さが露光部ピッチの整数倍とすることが可能となり、ロール長手方向に露光を繰り返し行うときであっても隣接するライン間で露光開始位置を正確に制御することができる。また、ロールの長手方向で数μm程度の直径のバラツキが存在する場合であっても、エンコーダー出力信号及び再生用ピックアップで読み出した再生信号は常時同期信号を出しているのと同じであるため、ロール長手方向に露光を繰り返し行うときであっても隣接するライン間で露光開始位置を正確に制御することができる。また、ロールの回転に揺らぎが存在する場合であっても、上記理由により、ロール長手方向に露光を繰り返し行うときであっても隣接するライン間で露光開始位置を正確に制御することができる。
【実施例】
【0066】
以下本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
スピンドルモーターの回転に同期したエンコーダーの出力パルス数がスピンドルモーター1回転の間に3×10個であるエンコーダーを用い、スピンドルモーターの回転と同期した露光を行った。直径40mmの熱反応型レジストが被覆されたロールを線速度0.7m/secで回転させ、オートフォーカスを掛けた状態で、ロール長手方向の露光ライン間隔を400nmとして、エンコーダーからの出力パルス1つにつき露光マークを1つ形成した。露光には波長405nmの半導体レーザーを用いた。本条件で形成した露光部の配列を原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した結果、ロール長手方向に露光部の露光開始位置がきれいに揃った、ロール回転方向のピッチが418nmの露光部が形成されていることを確認した。
【0068】
[実施例2]
直径40mmの熱反応型レジストが被覆されたロールを線速度0.7m/secで回転させ、スピンドルモーターのZ相信号を基準にライトゲートを作製し、周波数0.7MHz、duty50の信号をオートフォーカスを掛けた状態で、ロール1周に露光した。露光には波長405nmの半導体レーザーを用いた。この時、露光マーク部は未露光部分に比べ反射率が低下した。この露光ラインを再生専用光ピックアップで再生した信号を基準としスピンドルモーターの回転と同期した露光を行った。ロール長手方向の露光ライン間隔を400nmとして、再生した信号波形の立ち上がり毎に露光用光ピックアップからレーザーをパルス発光することで露光マークを形成した。本条件で形成した露光マークの配列をAFMにて観察した結果、ロール長手方向に露光マークの露光開始位置がきれいに揃った、ロール回転方向のピッチが1μmの露光マークが形成されていることを確認した。
【0069】
[実施例3]
直径40mmの熱反応型レジストが被覆されたロールを線速度0.7m/secで回転させ、スピンドルモーターのZ相信号を基準にライトゲートを作製し、周波数5.6MHz、duty50の信号をオートフォーカスを掛けた状態で、ロール1周に露光した。露光には波長405nmの半導体レーザーを用いた。この時、露光マーク部は未露光部分に比べ反射率が低下した。この露光ラインを再生専用光ピックアップで再生した信号を基準としスピンドルモーターの回転と同期した露光を行った。再生にも波長405nmの半導体レーザーを用いた。ロール長手方向の露光ライン間隔を500nmとして、再生した信号波形のパルス2個分の長さで露光用光ピックアップからレーザーをパルス発光し、その後パルス3個分パルス発光させないように露光マークを形成した。本条件で形成した露光マークの配列をAFMにて観察した結果を図6に示す。その結果、ロール長手方向に露光マークの露光開始位置がきれいに揃った、ロール回転方向のピッチが625nmで250nmの露光マークが形成されていることを確認した。
【0070】
[実施例4]
直径40mmの熱反応型レジストが被覆されたロールを線速度0.7m/secで回転させ、スピンドルモーターのZ相信号を基準にライトゲートを作製し、周波数5.6MHz、duty50の信号をオートフォーカスを掛けた状態でロール1周に露光した。露光には波長405nmの半導体レーザーを用いた。この時、露光マーク部は未露光部分に比べ反射率が低下した。この露光ラインを再生専用光ピックアップで再生した信号を基準としスピンドルモーターの回転と同期した露光を行った。ロール長手方向の露光ライン間隔を500nmとして、再生した信号波形のパルス4個分の長さで露光用光ピックアップからレーザーをパルス発光し、その後パルス3個分パルス発光させないように露光マークを形成した。本条件で形成した露光マークの配列をAFMにて観察した結果を図8に示す。その結果、ロール長手方向に露光マークの露光開始位置がきれいに揃った、ロール回転方向のピッチが875nmで500nmの露光マークが形成されていることを確認した。
【0071】
直径40mmの熱反応型レジストが被覆されたロールを線速度0.7m/secで回転させ、スピンドルモーターのZ相信号を基準にライトゲートを作製し、周波数11.2MHz、duty50の信号をオートフォーカスを掛けた状態でロール1周に露光した。露光には波長248nmのKrFレーザーを用いた。この時、露光マーク部は未露光部分に比べ反射率が低下した。この露光ラインを再生専用光ピックアップで再生した信号を基準としスピンドルモーターの回転と同期した露光を行った。再生にも波長248nmのKrFレーザーを用いた。ロール長手方向の露光ライン間隔を250nmとして、再生した信号波形のパルス2個分の長さで露光用光ピックアップからレーザーをパルス発光し、その後パルス3個分パルス発光させないように露光マークを形成した。本条件で形成した露光マークの配列をAFMにて観察した結果、ロール長手方向に露光マークの露光開始位置がきれいに揃った、ロール回転方向のピッチが312.5nmで125nmの露光マークが形成されていることを確認した。
【0072】
[比較例1]
直径40mmの熱反応型レジストが被覆されたロールを線速度0.7m/secで回転させ、スピンドルモーターのZ相信号を基準にライトゲートを作製し、周波数1.67MHz、duty50の信号をオートフォーカスを掛けた状態で、ロール長手方向の露光ライン間隔を400nmとして、スピンドルモーターの回転と全く同期させずに露光マークを形成した。露光には波長405nmの半導体レーザーを用いた。本条件で形成した露光マークの配列をAFMにて観察した結果、ロール長手方向に露光マークの露光開始位置がばらばらな、ロール回転方向のピッチが418nmの露光マークが形成されていることを確認した。
[比較例2]
直径40mmの熱反応型レジストが被覆されたロールを線速度0.7m/secで回転させ、スピンドルモーターのZ相信号を基準にライトゲートを作製し、周波数1.12MHz、パルス幅360nsecの信号をオートフォーカスを掛けた状態で、ロール長手方向の露光ライン間隔を500nmとして、スピンドルモーターの回転と全く同期させずに露光マークを形成した。露光には波長405nmの半導体レーザーを用いた。本条件で形成した露光マークの配列をAFMにて観察した結果を図7に示す。その結果ロール長手方向に露光マークの露光開始位置がばらばらな、ロール回転方向のピッチが625nmで250nmの露光マークが形成されていることを確認した。
[比較例3]
直径40mmの熱反応型レジストが被覆されたロールを線速度0.7m/secで回転させ、スピンドルモーターのZ相信号を基準にライトゲートを作製し、周波数0.80MHz、パルス幅715nsecの信号をオートフォーカスを掛けた状態で、ロール長手方向の露光ライン間隔を500nmとして、スピンドルモーターの回転と全く同期させずに露光マークを形成した。露光には波長405nmの半導体レーザーを用いた。本条件で形成した露光マークの配列をAFMにて観察した結果を図9に示す。その結果ロール長手方向に露光マークの露光開始位置がばらばらな、ロール回転方向のピッチが875nmで500nmの露光マークが形成されていることを確認した。
[比較例4]
直径40mmの熱反応型レジストが被覆されたロールを線速度0.7m/secで回転させ、スピンドルモーターのZ相信号を基準にライトゲートを作製し、周波数0.80MHz、パルス幅715nsecの信号をオートフォーカスを掛けない状態で、ロール長手方向の露光ライン間隔を500nmとして、スピンドルモーターの回転と全く同期させずに露光マークを形成した。露光には波長405nmの半導体レーザーを用いた。本条件で形成した露光マークの配列をAFMにて観察した結果、ロール長手方向に露光マークの露光開始位置がばらばらな、ロール回転方向のピッチが875nmで500nmの露光マークが形成されていることを確認した。またオートフォーカスが掛かっていないので、ロール長手方向に±10mmの範囲で、各露光マークの長さは500nm±20nmのばらつきがあった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の露光装置は、ナノプリント用モールドの作製装置として、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0074】
11 ロール状部材
12 露光制御部
13 回転制御部
41 ロール状部材
42 読取り部
43 露光制御部
44 回転制御部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジスト層がロール表面を被覆してなるロール状部材にレーザー光でパルス露光して前記レジスト層に複数の露光部からなる露光パターンを形成する露光装置であって、
前記ロール状部材を前記ロールの中心を軸に回転させる回転制御部と、
前記ロール状部材の回転方向における前記露光パターンを前記回転制御部の回転と同期した基準信号に基づいて制御し、前記ロール状部材の回転方向と垂直なロールの長手方向に露光を繰り返す露光制御部と、
を有することを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記基準信号が前記回転制御部の回転に同期したエンコーダーからの出力パルスであることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記基準信号が予め前記レジスト層に形成された参照露光パターンを再生することで生成されることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項4】
少なくとも2個以上の光ピックアップにより前記参照露光パターンの再生と前記レジスト層の露光が同時に行われることを特徴とする請求項3に記載の露光装置。
【請求項5】
前記基準信号が予め異なる複数の周期の種類に応じて前記レジスト層に形成された複数の参照露光パターンを再生することで生成されることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の露光装置。
【請求項6】
異なる複数の基準信号に基づいて各々に予め設定された露光本数の露光ラインを形成することを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記ロール部材の回転方向における前記露光部の長さ及び間隔の少なくとも一方が前記基準信号の出力パルスに対して複数個のパルス長で制御されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の露光装置。
【請求項8】
前記ロール長手方向に繰り返し露光される前記露光部の露光開始位置が、前記基準信号のスタートパルスからパルス数をカウントし、1種類のパルス数が露光開始パルスとして設定され、設定露光開始パルスの立ち上がりまたは立ち下がりのいずれか一方を基準としていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の露光装置。
【請求項9】
前記ロール長手方向に繰り返し露光される前記露光部の露光開始位置が、前記基準信号のスタートパルスからパルス数をカウントし、異なる2種類以上のパルス数が設定され1ライン毎に順次設定露光開始パルス数が1周毎に異なり、設定露光開始パルスの立ち上がりまたは立ち下がりのいずれか一方を基準としていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の露光装置。
【請求項10】
前記ロール部材の回転方向に周期的に露光される前記露光パターンのピッチ及び前記露光部のサイズが50nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の露光装置。
【請求項11】
前記ロール表面を被覆する前記レジスト層が熱反応型レジストからなることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の露光装置。
【請求項12】
前記レーザーの波長が550nm以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の露光装置。
【請求項13】
前記レーザーが対物レンズにより収束されその焦点深度内に前記ロール基材表面が存在するようにオートフォーカスされることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の露光装置。
【請求項14】
前記レーザーが半導体レーザーであることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の露光装置。
【請求項15】
前記レーザーがXeF、XeCl,KrF、ArF、Fエキシマレーザーであることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の露光装置。
【請求項16】
前記レーザーがNd:YAGレーザーの2倍波、3倍波、4倍波であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の露光装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の露光装置により作製されたロールツーロールナノインプリント用モールド。
【請求項18】
モールドに形成された露光パターンのピッチおよび露光部のサイズが50nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項17に記載のロールツーロールナノインプリント用モールド。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−118049(P2011−118049A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273679(P2009−273679)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】