説明

非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法及びその成膜装置

【課題】大気圧雰囲気下での炭化水素系ガスを原料とした、従来より高硬度の非晶質硬質炭素皮膜が得られる非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法及びその成膜装置を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】保持電極に基材を保持する基材保持工程と、大気圧雰囲気下において、印加電極を有する電極体を保持電極に対向させ、電極体と保持電極との間に炭化水素系ガスを含む原料ガスを供給し、電極体と保持電極との間に直流バイアス電圧を発生させながら、印加電極に交流電圧を印加して電極体と基材の表面との間でグロー放電プラズマを発生させ、排ガスを排気して、基材の表面に非晶質硬質炭素皮膜の成膜を行う成膜工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧雰囲気下での非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法及びその成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非晶質硬質炭素皮膜は、高硬度、低摩耗、低摩擦、表面平滑性に優れるという特徴を持ち、金型、工具、摺動部品などにコーティングされ利用されている。非晶質硬質炭素皮膜とはダイヤモンドと同じ結合状態の炭素原子を比較的多く含む非晶質な硬質炭素皮膜であり、一般的にダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜と呼ばれている。このDLC皮膜は、使用する原料や成膜方法によって皮膜の性質が異なることが知られている。DLC皮膜の成膜方法としては一般にプラズマCVD法やスパッタ法が用いられている。しかしプラズマCVD法やスパッタ法を用いた成膜方法では、広範囲にわたって均質なプラズマが得られず、均質な膜が形成できる領域は限られ大面積化が困難であった。また低圧環境下で行うため成膜速度が遅く、また真空容器を使ったバッチ式であるため生産性に難点があるなどの問題があった。
【0003】
DLC皮膜の成膜方法としての開示ではないが、プラズマCVD法やスパッタ法を用いた他の皮膜の成膜方法の上記難点を改良する方法として大気圧近傍での放電プラズマ処理による成膜方法が提案されている。しかし大気圧近傍での放電空間に導入される混合ガスの拡散は低圧環境下での混合ガスの拡散に比べて混合ガスの偏りが生じやすく、形成された皮膜が不均一になりやすい。
【0004】
またDLC皮膜の成膜方法において、炭化水素系ガスを原料ガスとするものは、基本的に成膜中に水素(H)が残存する。そのため炭化水素系ガスを原料ガスとして成膜したDLC皮膜は、その膜質の硬度が低い。
【0005】
特許文献1にDLC皮膜の成膜方法ではないが、基材搬送ロールを対極とした一対の上下電極間に大気圧下でプラズマ処理空間を形成し、基材搬送ロール上に設置された高分子フィルムなどの被処理物に均一な薄膜を連続的に施すプラズマ処理を行うプラズマ処理装置が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、特許文献1と同様に均一な大気圧プラズマ放電を形成可能な方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−97105号公報
【特許文献2】特開2006−249470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの大気圧下でのプラズマ処理方法において、炭化水素系ガスを原料とした非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法の開示はなく、また炭化水素系ガスを原料とした非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法の膜硬度が低いという課題を解決しているものはない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、炭化水素系ガスを原料ガスとし大気圧雰囲気下で行う、従来より高硬度の非晶質硬質炭素皮膜が得られる非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法及びその成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者等はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、基材を保持する保持電極に直流バイアス電圧をかけて成膜することによって、大気圧雰囲気下で、炭化水素系ガスを原料ガスとして、シリカ膜と同等の硬度を有する非晶質硬質炭素皮膜を形成できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
(非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法)
すなわち、本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法は、保持電極に基材を保持する基材保持工程と、大気圧雰囲気下において、印加電極を有する電極体を保持電極に対向させ、電極体と保持電極との間に炭化水素系ガスを含む原料ガスを供給し、電極体と保持電極の間に直流バイアス電圧を発生させながら、印加電極に交流電圧を印加して電極体と基材の表面との間でグロー放電プラズマを発生させ、排ガスを排出し、基材の表面に非晶質硬質炭素皮膜の成膜を行う成膜工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記成膜工程において、保持電極に直流バイアス電圧を印加することにより、電極体と保持電極の間に直流バイアス電圧を発生させて、保持電極に保持された基材が極性を持つ。そのためプラズマによってイオン化されたイオン種が基材の極性によって引きつけられ、イオン種の基材に対する衝突エネルギーが増加する。これにより基材表面での反応が活性化すると考えられる。
【0012】
またこのような衝突エネルギーの増加により、非晶質硬質炭素皮膜に残存する水素の割合が減って膜質の硬度が高くなると考えられる。そのため本方法を用いることにより従来より高硬度な非晶質硬質炭素皮膜を成膜することが出来る。
【0013】
また直流バイアス電圧は、DC200V〜10,000Vであることが好ましい。さらに、交流電圧は、周波数0.1kHz以上、電圧5kV〜50kVであることが好ましい。
【0014】
上記直流バイアス電圧がDC200Vより小さいとバイアスの効果が得られにくく、また電圧がDC10000Vより大きいと絶縁破壊が起こりやすくなる。
【0015】
印加電極に周波数0.1kHz以上、5kV〜50kVの交流電圧を印加することによって適切なグロー放電プラズマを発生できる。交流電圧が5kVより小さいと原料ガスのイオン化が進みにくく、交流電圧が50kVより大きいとアーク放電を起こしやすい。
【0016】
周波数は0.1kHz以上あれば良く、特に限定されない。
【0017】
また原料ガスはその混合比が不活性ガス/炭化水素系ガス=0/100〜99.9/0.1であることが好ましい。これによりプラズマを安定させることが出来、また高速処理することが出来る。不活性ガスに比べて炭化水素系ガスのほうがイオン化されにくいため、炭化水素系ガス比が不活性ガスに比べて小さい方がイオン化は進みやすい。
【0018】
電極体と保持電極との間は、その放電ギャップ距離が0.1mm〜5mmであることが好ましい。電極体と保持電極との間の放電ギャップ距離を0.1mm〜5mmとすることによって安定なガス流を作り、不要な放電が発生するのを抑制出来る。また放電ギャップ距離が0.1mmより小さいと部分的な異常放電が発生しやすく、放電ギャップ距離が5mmより大きいと、原料ガスをイオン化するのに高い投入電力が必要になる。
【0019】
これらの工程を組み合わせることによって、大気圧雰囲気下で炭化水素系ガスを原料ガスとして基材の表面に効率的に均一で、従来よりも高硬度な非晶質硬質炭素皮膜を成膜することが出来る。
【0020】
また保持電極は基材を加熱する加熱手段を配設され、成膜工程は、基材を50℃〜300℃に加熱しながら行ってもよい。基材が加熱されることにより、基材表面での反応が活性化される。この時、基材を50℃より低い温度で加熱しても基材表面上での反応の活性化がされにくく、300℃より高い温度にすると、成膜された膜が分解されやすくなり膜の硬度が低下する。
【0021】
また上記成膜工程において、原料ガスの供給及び排ガスの排気をガス流速が200mm/sec〜3,000mm/secとなるように行うことが好ましい。ガス流速が200mm/secより遅いと均一なガス流れを作りにくく、局所的な放電が発生しやすい。また、ドロップレット等の異物が発生し易く、膜質を低下させる。またガス流速が3,000mm/secより速いと、原料ガス成分は蒸着される前に排気されてしまい、膜の成膜速度が遅くなる。
【0022】
また上記基材保持工程において、基材の表面と保持電極の電極面とを略同一面状に保持することが好ましい。略同一面状とは、保持電極の電極面の平面や曲面に沿うような形状に基材が保持されていることを指す。この場合、成膜時の基材と相対する印加電極面とが放電ギャップ距離をおいて相対して沿う形状となっている。基材の表面が平面であれば、印加電極の電極面も平面形状となり、基材の表面が曲面であれば、印加電極の電極面も基材に沿った曲面となる。
【0023】
基材表面と保持電極の電極面とが略同一面状になるように基材が保持されていることによって放電空間内が安定なガス流を作り、不要な放電を発生するのを抑制出来る。
【0024】
また上記印加電極はその表面が誘電体に覆われていることが好ましい。印加電極の表面が誘電体に覆われていることによって、アーク放電への移行を抑制出来る。
【0025】
また上記成膜工程において、保持電極と電極体とは相対移動してもよい。この相対移動は、一方向に平行移動させるものであってもよいし、回転移動するものであってもよい。基材の形状にあうように保持電極と電極体とを相対移動させることによって、効率的に均一な皮膜を形成出来る。また保持電極と電極体とを相対移動させることによって、複数の基材を連続してプラズマ処理することが出来る。
【0026】
(非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置)
また本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置は、基材を保持する保持電極と、保持電極に対向して位置し、印加電極を有する電極体と、保持電極と電極体の間に高周波電界を印加させ大気圧雰囲気下でグロー放電プラズマを発生させる印加電極に印加する電圧印加手段と、電極体と保持電極との間に直流バイアス電圧を発生させる直流バイアス電圧印加手段と、保持電極と電極体の間に、基材の表面に非晶質硬質炭素皮膜を形成するための原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、保持電極と電極体の間から排ガスを排出する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0027】
また上記保持電極は、その背面に基材を加熱する加熱手段を配設されていてもよい。
【0028】
さらに原料ガス供給手段は、原料ガスを整流し、少なくとも基材雰囲気では原料ガスが層流状態となるように原料ガスを供給するためのガス供給ノズルを有し、排気手段は、原料ガスを整流し、少なくとも基材雰囲気では原料ガスが層流状態となるように原料ガスを排気するための排気ノズルを有してもよい。ガス供給ノズル及び排気ノズルによって原料ガスを層流状態とすることにより、基材雰囲気で均一なガスの流れを作ることができる。
【0029】
またさらに保持電極と電極体とを相対移動させる移動手段を有し、かつ電極体は複数の印加電極を有し、一つの印加電極と他の一つの印加電極との間に原料ガスを供給するガス供給口を配設し、かつガス供給口の印加電極をはさんだ少なくとも両側に排気口を配設してもよい。
【0030】
基材を保持する保持電極と電極体とが、相対移動出来ることにより、複数の基材を連続してプラズマ処理することが出来る。またガス供給口の印加電極をはさんだ少なくとも両側に排気口を配設されていることによって、より狭い範囲に均一なライン状のガス流を形成することが出来る。また大気圧雰囲気下では難しい原料ガスの対流が起こりやすくなり、原料ガスが均等に拡散され、基材の表面に非晶質硬質炭素皮膜を均一に成膜することが出来る。
【0031】
また印加電極はその表面が誘電体に覆われていることが好ましい。
【0032】
上記構成の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置とすることによって、大気圧雰囲気下で炭化水素系の原料ガスを用いて、基材に均一で硬度が従来より高い非晶質硬質炭素皮膜を成膜することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法及び成膜装置を用いることによって、大気圧雰囲気下において炭化水素系ガスを原料として、従来より高硬度であるシリカ膜と同等の硬度を有する非晶質硬質炭素皮膜を形成することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
(非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法)
本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法は、基材保持工程と、成膜工程とからなる。
【0035】
このうち基材保持工程は、保持電極に基材を保持する工程である。
【0036】
基材は、特に制限はない。例えば基材として、金属基材、高分子基材、ガラス基材、セラミック基材などが挙げられる。
【0037】
保持電極は基材を保持出来る形状を有する電極である。保持電極の材質は導電体で形成されていればよく、特に限定されない。例えば、材質としてアルミニウム、銅、真鍮等の金属材料、カーボン材料が挙げられる。保持電極に基材を保持するのは凹部を形成して保持しても良いし、複数の分割された保持電極に基材を挟持しても良いし、貫通孔を保持電極に形成して基材を挟持してもよい。また複数の凹部を形成し、複数の基材を保持しても良いし、両側から両面を開放状態で基材を保持しても良い。
【0038】
保持電極の形状は、基材の表面が曲面形状の場合は、それが略同一面状になるような曲面形状となってもよい。中でも印加電極と保持電極との間が平行平坦部を有する形状がより好ましく、両電極は略平面形状であるのが好ましい。
【0039】
また保持電極はその背面に基材を加熱できる加熱手段を配設していても良い。加熱手段は特に限定されず、市販の電熱ヒーターや赤外線ヒーターを用いることが出来る。基材の温度は特に制御される必要はないが、基材の温度が50℃〜300℃となっていると好ましい。また基材の温度が150℃〜250℃となっているとより好ましい。
【0040】
成膜工程は、大気圧雰囲気下において行われる。また、印加電極を有する電極体を保持電極に対向させ、電極体と保持電極との間に炭化水素系ガスを含む原料ガスを供給し、保持電極に直流バイアス電圧を印加することにより、電極体と保持電極の間に直流バイアス電圧を発生させながら、印加電極に交流電圧を印加して電極体と基材の表面との間でグロー放電プラズマを発生させ、排ガスを排気して、基材の表面に非晶質硬質炭素皮膜の成膜を行う。
【0041】
大気圧雰囲気下とは、成膜を大気圧開放環境下で行った時の圧力を指し、ガスの給排気による圧力変動の範囲を含む。具体的には0.5気圧(約50kPa)以上2気圧(約203kPa)以下の圧力を指す。
【0042】
印加電極は導電体で形成されていればよく、特に限定されない。例えば、材質としてアルミニウム、銅、真鍮等の金属材料が挙げられる。
【0043】
また印加電極は誘電体によって覆われている。これにより電圧印加時に絶縁破壊を起こしてアーク放電を発生するのを抑制できる。この時、誘電体は印加電極に接触して配置されていても良いし、印加電極に誘電体を溶射された電極を用いても良い。
【0044】
誘電体の材質は、誘電率が3以上あるものであれば良い。誘電体の材質として、ガラスや、二酸化珪素、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタンなどの金属酸化物、チタン酸バリウム等の複酸化物などが挙げられる。誘電体に誘電率が高い酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウムを用いることで効率的に電極間へエネルギーを注入することが出来る。
【0045】
印加電極の形状は成膜方法に応じた長さがあれば特に形状に限定されない。印加電極には電源が接続され印加される。電源は大気圧プラズマ放電で一般的に使用されている0.1kHz以上の周波数を持つ交流電源であれば良く、電源として交流パルス電源やRF電源を用いることが出来る。電源の電圧としては5kV〜50kVが好ましく、10kV〜30kVであるとより好ましい。
【0046】
印加電極を有する電極体と保持電極とは、その間に放電ギャップ距離をはさんで対向している。放電ギャップ距離は0.1mm〜5mmが好ましく、0.3〜2mmであることがより好ましい。この範囲で成膜工程を行うと、安定なガス流の保持とギャップ空間内の均一な放電が得られやすい。
【0047】
原料ガスは炭化水素系ガスを含んでいればよい。原料ガスは、雰囲気ガスとしての不活性ガスと反応ガスとしての炭化水素系ガスの混合ガスを混合比率0/100〜99.9/0.1で用いる。つまり炭化水素系ガスのみでもよいし、炭化水素系ガスと不活性ガスの混合ガスでもよい。より好ましくは、混合ガスの混合比率を不活性ガス/炭化水素系ガス=80/20〜99/1の範囲で用いる。この範囲で用いると雰囲気ガスによる安定放電と反応ガスの適切な分解による平滑表面、緻密膜形成など良質な膜特性が得られる。
【0048】
また反応ガスとして炭化水素系ガス以外に他の成分ガスを添加しても良い。膜の高機能化を目的に、金属、Si成分を含有するガスを同時に添加することも出来る。
【0049】
上記原料ガスの混合比率は、非晶質硬質炭素皮膜の成膜工程中、一定比率でも良いし、成膜工程中に混合比率を変化させても良い。混合比率を変化させた場合には、膜厚方向に膜物性の異なる機能性膜が形成できる。
【0050】
不活性ガスとしてはヘリウム、アルゴン、窒素を単体またはこれら2種以上の混合物を用いることが出来る。窒素ガスを用いるとより低コストになり好ましい。また低いエネルギーで高硬度な成膜を行うためにはヘリウムを用いると良い。
【0051】
炭化水素系ガスとしてはメタン、エタン、プロパンなどの飽和炭化水素のほかエチレン、アセチレン、ベンゼン等の不飽和炭化水素も含むことが出来る。中でも反応性が高いアセチレンを用いることが好ましい。
【0052】
このような原料ガスを原料ガス流速:200mm/sec〜3000mm/secで供給する。より好ましくは原料ガス流速:200mm/sec〜2000mm/secで供給する。また排気を原料ガス流速と同流速以上の条件で行うことが好ましい。排気を原料ガス流速と同等以上の速さで行うことにより原料ガスが均一に対流し、原料ガスが均等に拡散される。このような原料ガスの供給は、原料ガスを供給するボンベの制御弁によって制御できる。また排気は排気ポンプなどの制御弁によって制御できる。
【0053】
保持電極には直流バイアス電圧が印加される。この時、保持電極に直接印加されなくとも、結果的に保持電極が印加されている状態になっていればよい。つまり、印加電極に直流バイアス電圧を印加し、保持電極は接地されているという状態でもよい。
【0054】
この時の直流バイアス電圧は、DC200V〜10000Vが好ましく、1000V〜7000Vであることがより好ましい。
【0055】
そしてこのような条件で印加電極に交流電圧を印加して電極体と基材の表面との間でグロー放電プラズマを発生させることによって、基材の表面に非晶質硬質炭素皮膜が成膜される。その際、電極体と保持電極とは相対移動してもよい。移動速度は成膜速度により決められる。つまり電極体と保持電極とを必要な厚みの皮膜が出来る速度で相対移動してやればよい。
【0056】
(非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置)
また本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置は、保持電極と、電極体と、電圧印加手段と、直流バイアス電圧印加手段と、原料ガス供給手段と、排気手段と、を有する。
【0057】
保持電極、電極体は上記成膜方法で説明したものと同様である。
【0058】
電圧印加手段は、印加電極に印加する電源と、その電源に対応するコンデンサと、を含む。
【0059】
印加電極に接続される電源は上記成膜方法で説明したものと同様である。第一コンデンサは、後述する直流電源の直流成分を交流電源側へ流入させないために配設される。第一コンデンサは使用する交流電源の電圧に耐えうるものであれば特に限定されない。第一コンデンサとして市販のコンデンサが使用できる。
【0060】
また直流バイアス電圧印加手段は、保持電極に直流バイアス電圧を印加させるための直流電源と、第二コンデンサと、コイルとを有する。
【0061】
直流電源は、上記成膜方法で説明したものと同様である。第二コンデンサ及びコイルは、交流電源の高周波成分を直流電源側へ流入させないために配設される。第二コンデンサは使用する直流電源の電圧に耐えうるものであれば特に限定されない。第二コンデンサとして市販のコンデンサが使用できる。
【0062】
コイルは、交流電源の周波数に対応する仕様であれば良い。
【0063】
原料ガス供給手段は、原料ガスを電極体と保持電極の間に供給するためのガス供給ノズルまたはガス供給口を有する。また排気手段は排気ノズルまたは排気口を有する。
【0064】
ガス供給ノズルは、基材雰囲気では原料ガスが層流状態となるように整流した原料ガスをライン状に均一に流すように出来るものであれば特に限定されない。そのためガス供給ノズルは、非晶質硬質炭素皮膜を成膜する基材の幅よりも広い幅を有することが好ましい。
【0065】
同様に排気ノズルも非晶質硬質炭素皮膜を成膜する基材の幅よりも広い幅を有することが好ましい。
【0066】
またガス供給口は、一つの印加電極と他の一つの印加電極との間に原料ガスを供給するために配設され、かつガス供給口の印加電極をはさんだ少なくとも両側にガス排気口を配設するのが好ましい。ガス供給口及び排気口はスリット形状となっていてもよい。スリットの幅は放電ギャップ距離の1〜2倍程度が望ましい。スリット長さは非晶質硬質炭素皮膜を成膜する表面を被覆出来る程度の長さがあればよい。
【0067】
ガス供給ノズル及びガス供給口は原料ガスを供給するボンベ等につながっており、制御弁によって流速を制御されている。また排気ノズル及び排気口は排気ポンプ等につながっており排気ポンプによって吸引され原料ガスを排気している。
【0068】
また本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置は、更に移動手段を有しても良い。
【0069】
移動手段は保持電極と電極体とを相対移動させるものである。上記成膜方法で説明された相対移動が出来る移動手段であれば特に限定されない。例えば保持電極或いは電極体が移動手段を有していても良いし、保持電極或いはガス供給電極体が移動手段に設置されていても良い。移動方向は平行移動、回転移動など適宜選択できる。
【実施例】
【0070】
次に好ましい実施例を挙げ、図1〜図5を用いて本発明をより詳しく説明する。各実施例は非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法を説明するものであるが、同時に非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置の説明も兼ねる。
【0071】
[第一実施例]
図1は、本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置の第一実施例を示す模式説明図である。
【0072】
図1に記載の成膜装置100では、基材4の表面に非晶質硬質炭素皮膜を形成する方法を記載してある。保持電極6は平板形状であり、板状の基材4が一枚収容できる大きさの凹部が形成されており、基材4は保持電極6の表面高さと略同一の高さとなるように凹部に収容されている。
【0073】
保持電極6の基材4を収容した背面に、基材4を加熱する板状形状の加熱装置5が配設されている。加熱装置5は、板状のヒーターと熱電対とから成っている。
【0074】
板状の印加電極2は基材4に対向する面に誘電体3が被覆されている。保持電極6と印加電極2とは設定された放電ギャップ距離を介して平行に配設されている。
【0075】
保持電極6と印加電極2とは配線され、電圧印加手段20によって交流電圧を印加される。また印加電極2には、直流バイアス電圧印加手段30によって正の直流バイアス電圧が印加される。この場合、保持電極6は接地されている。これによって保持電極6側に相対的に正イオンが引きつけられやすい状態となる。また図1では印加電極2に正の直流バイアス電圧を印加する回路構成になっているが、保持電極6に直接負の直流バイアス電圧を印加する回路構成をとってもよい。
【0076】
電圧印加手段20は、高圧パルス電源1と第一コンデンサ10とからなる。また直流バイアス電圧印加手段30は、直流電源7と第二コンデンサ9と、フィルタ用コイル8とからなる。
【0077】
保持電極6と印加電極2との間に矢印Aの方向に原料ガスが供給され、矢印Bの方向にガスが排気される。これにより印加電極2と保持電極6との間は常に新しい原料ガスが一定方向に流れるようになっている。図示されていないが、矢印Aの方向に原料ガスを供給するために原料ガスの吹き出し口が原料ガスを供給するボンベ等につながっており、制御弁によって流速を制御されている。矢印Bの方向に排気するために、原料ガスの排気口が排気ポンプ等につながっており、排気ポンプによって吸引されて原料ガスを排気している。
【0078】
次に成膜方法について説明する。保持電極6と印加電極2とのギャップ間距離を0.1mm〜5mmとし、その間に原料ガスを:不活性ガス/炭化水素系ガスの混合比=0/100〜99.9/0.1、原料ガス流速:200mm/sec〜3000mm/secで供給する。同時に排気を原料ガスと同流速以上の速さで行う。このようにすることによって原料ガスが均一に対流し、原料ガスが均等に拡散される。
【0079】
基材4を保持する保持電極6は加熱装置5によって予め50℃〜300℃に加熱されている。基材4は加熱されることによって基材4の表面での成膜反応を促進させることが出来る。
【0080】
次いで大気圧雰囲気下において高圧パルス電源1によって印加電極2に5kV〜50kVの交流電圧が印加され、さらに直流電源7によってDC200V〜10000Vの正の直流バイアス電圧が印加される。そして印加電極2と保持電極6との間にグロー放電プラズマが発生する。直流バイアス電圧が印加されたため、基材4の表面には正のイオンが引きよせられやすくなり、その基材4の表面への衝突エネルギーが増加する。そのため基材4の表面でのプラズマ反応が活性化する。
【0081】
このような条件において、大気圧雰囲気下でプラズマ放電を行いながら原料ガスの供給、排気を行うことによって基材4の表面に非晶質硬質炭素皮膜が成膜される。このプラズマ処理を行う時間によって成膜される厚みが決まる。そのため、求められる厚みの非晶質硬質炭素皮膜が出来るまで、プラズマ処理を行えばよい。
【0082】
この第一実施例においては、本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置は、上記説明した保持電極6と、印加電極2を含む電極体と、電圧印加手段20と、直流バイアス電圧印加手段30と、加熱手段5と、原料ガス供給手段と、排気手段と、からなる。
【0083】
[第二実施例]
図2は、本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置の第二実施例の部分側断面図である。また図3は図2におけるX−X‘断面で切断した切断面からみた部分平面図である。
【0084】
図2及び図3は、本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置200の一部分を説明する。この成膜装置200の一部分では、保持電極と、印加電極を含む電極体と、加熱手段と、原料ガス供給手段と、排気手段とを示す。図2及び図3で図示された以外の部分は図1で説明したものと同様であるので説明を省く。
【0085】
図2及び図3に記載するように、縦30mm横30mm高さ3mmの板状の基材4は保持電極6の表面高さと略同一の高さとなるように凹部に収容されている。縦70mm横70mm高さ5mmの板状の保持電極6は耐熱構造材12に挟持されている。保持電極6の背面には加熱装置5が配置されている。
【0086】
この加熱装置5は板状のヒーターと熱電対からなり、基材4の温度を制御できる。また加熱装置5の背面には成膜処理後に基材4を冷却するために冷却装置11が配置されている。冷却装置11は水冷構造をなした治具が好適に使用できる。
【0087】
基材4はこのように加熱及び冷却されるため、基材4を挟持することになる耐熱構造材12は、絶縁性と300℃以上の耐熱性を有し、寸法変化の少ないセラミックスが好適に用いられる。
【0088】
板状の印加電極2は、耐熱構造材12に挟持される。印加電極2の基材4に対向する面には誘電体3が配設されている。この時、誘電体3にはアルミナの板を用いたが、印加電極2にセラミックス材を溶射した電極を用いれば、誘電体3を使用しなくても良い。印加電極2の背面には印加電極を低温に保つための冷却装置11が配設されている。
【0089】
印加電極2側の耐熱構造材12と保持電極6側の耐熱構造材12には、その相対する一端部にガス供給ノズル13が取り付けられている。また耐熱構造材12のガス供給ノズル13側と反対側の端部に排気ノズル14が取り付けられている。
【0090】
図3に見られるようにガス供給ノズル13及び排気ノズル14がとりつけられていない耐熱構造材の2端部に、スペーサー17が挟持されている。このスペーサー17の厚みによって電極間の放電ギャップ距離を設定できる。スペーサー17には、絶縁性と300℃以上の耐熱性を有するセラミックスが好適に用いられる。
【0091】
ガス供給ノズル13及び排気ノズル14は、ライン状に均一に原料ガスを供給するために、基材4よりも幅が広いノズルとなっている。この成膜装置200においてはガス供給ノズル13及び排気ノズル14はその幅が150mmである。
【0092】
ガス供給ノズル13は図示されていない原料ガスボンベに接続されており、原料ガスボンベの制御弁によって原料ガスの流速が制御される。また排気ノズル14は図示されていない排気ポンプに接続しており、排気ポンプによって排気速度を制御されている。
【0093】
ガス供給ノズル13より原料ガスが電極間に矢印Aの方向に導入される。均一な流れを作るために排気ノズル14の下流には、図示されていない流量計が設けられている。その流量計の数値をみながら排気ポンプの排気流速を調節出来る。
【0094】
この時、基材4の雰囲気下では、ガス供給ノズルによって整流された原料ガスが層流状態となっていると考えられる。
【0095】
このような成膜装置200を用い、大気圧雰囲気下でプラズマ処理をすることによって基材表面に硬質な非晶質硬質炭素皮膜を成膜することが出来る。また大気圧雰囲気下でプラズマ処理出来るため、真空装置を必要とせず、また成膜速度も速いため、設備コストやランニングコストが極めて安価な成膜装置となる。
【0096】
[第三実施例]
図4は、本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置の第三実施例の部分側断面図である。また図5は図4を上からみた部分平面図である。
【0097】
図4及び図5は、本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置300の一部分を説明する。この成膜装置300の一部分では、保持電極と、印加電極を含む電極体と、加熱手段と、原料ガス供給手段と、排気手段と、移動手段とを示す。
【0098】
成膜装置300は、複数の基材4を保持する保持電極6と電極体40との間にグロー放電プラズマを発生させ、保持電極6を図4に示す矢印Cの方向に移動させることにより基材4の表面に非晶質硬質炭素皮膜を形成する装置である。
【0099】
成膜装置300は図1で説明した回路構成と同様な回路構成を取ることが出来る。図4及び図5で図示された以外の部分は図1で説明したものと同様であるので説明を省く。
【0100】
保持電極6は複数の基材4を収容する複数の凹部を有する。保持電極6は図示されていない移動手段によって矢印Cの方向に平行移動する。保持電極6の移動をなめらかに行うために保持電極6の背面には耐熱性の潤滑剤15が配設される。潤滑剤15には、フィルム、シート、液体及び粉体が好適に用いられる。
【0101】
潤滑剤15を介して保持電極6の背面には、基材4を加熱するための加熱手段5が配設される。また矢印Cの方向において加熱手段5の下流に、成膜処理後に基材4を冷却するために冷却装置11が耐熱構造材12を介して配置されている。
【0102】
電極体40は、誘電体3に基材側の表面が覆われた複数の印加電極2と、印加電極2間に配設されたガス供給口130と、ガス供給口130の印加電極2をはさんだ少なくとも両側に配設される排気口140とから構成される。
【0103】
ガス供給口130及び排気口140はスリット形状となっている。スリットの幅は放電ギャップ距離の2倍程度が望ましい。スリット長さは非晶質硬質炭素皮膜を成膜する基材の表面を被覆出来る程度の長さであればよい。図4及び図5においては、ガス供給口130及び排気口140は幅1mm長さ150mmのスリット形状となっている。
【0104】
図示されていないが、ガス供給口130は原料ガスを供給するボンベ等につながっており、制御弁によって流速を制御されている。排気口140は図示されていない排気ポンプ等につながっており排気ポンプによって吸引され原料ガスを排気している。
【0105】
図4に原料ガスの流れを矢印で示した。ガス供給口130から保持電極6側に矢印Aの方向に吹き出された原料ガスはガス供給口130の両側に配設された排気口140から矢印Bの方向に吸い上げられる。このため、印加電極2と保持電極6との間は常に新しい原料ガスが一定方向に流れるようになっている。またより狭い範囲に均一なライン状のガス流を形成することが出来る。また大気圧雰囲気下では難しい原料ガスの対流が起こりやすくなり、原料ガスが均等に拡散され、基材の表面に非晶質硬質炭素皮膜を均一に成膜することが出来る。
【0106】
印加電極2は板状形状であり、長さは基材4の長さより長ければよく、幅、高さは特に限定されない。印加電極2の表面には保持電極6側の面に誘電体3が1mm厚みで被覆されている。2つの印加電極2はスリット状のガス供給口130と両側の2つの排気口140にはさまれた位置に配設されている。また印加電極2の背面には、印加電極2を低温に保つために冷却装置11が配設されている。印加電極2は耐熱構造材12によって保持され電極体40を形成している。
【0107】
図5に示すように保持電極6には、移動方向ではない相対する両端部にスペーサー16が配設されている。このスペーサー16の厚みによって電極間の放電ギャップ距離を設定できる。スペーサー16には、絶縁性と300℃以上の耐熱性を有するセラミックスが好適に用いられる。
【0108】
このような条件で保持電極6を矢印Cの方向に移動させながら、保持電極6に直流バイアス電圧をかけて、プラズマ放電を行い、原料ガスの供給、排気を行うことによって基材4の表面に非晶質硬質炭素皮膜が成膜される。また基材を加熱することによって表面での成膜反応を促進させることが出来る。また保持電極6を相対移動させることによって、複数の基材4が順次成膜される。保持電極6の移動速度によって、基材4に成膜される膜の厚みが決まる。そのため要求される膜厚になるような移動速度を用いればよい。
【0109】
このような成膜装置300を用い、大気圧雰囲気下でプラズマ処理をすることによって基材表面に硬質な非晶質硬質炭素皮膜を成膜することが出来る。また大気圧雰囲気下でプラズマ処理出来るため、真空装置を必要とせず、また成膜速度も速いため、および連続処理が可能なライン式装置であることから、設備コストやランニングコストが極めて安価な成膜装置となる。
【0110】
[試験例]
図1〜図3に示す方法を用いて、非晶質硬質炭素皮膜を成膜した。
【0111】
材質がハイス鋼SKH51である縦30mm横30mm厚み3mmの板を基材4として用いた。保持電極6は縦70mm横70mm厚み5mmの銅製の平板であり、基材4を保持できる凹部が形成されている。上記基材4はその凹部に保持されている。
【0112】
保持電極6の背面には加熱手段5として板状のヒーターと熱電対が配設されている。
【0113】
板状のヒーター及び熱電対は、坂口電熱製の高温面状発熱体「スーパーラピッド」及びシース熱電対を用いた。
【0114】
印加電極2は縦70mm、横70mm、厚み5mmの板形状であり、印加電極2の基材に相対する表面には、誘電体3として1mm厚みのアルミナ製の板が配設されている。
【0115】
ガス供給ノズル13及び排気ノズル14は共に、150mmの幅を有する。ガス供給ノズル13は原料ガスを供給するガスボンベと接続されている。また排気ノズル14は排気ポンプに接続されている。
【0116】
印加電極2には高圧パルス電源1が接続され印加される。また印加電極2には更に直流電源7から正の直流電圧が印加される。保持電極6は接地されている。
【0117】
直流電源7はグラスマンジャパンハイボルテージ製の直流高圧電源を用いた。
【0118】
基材温度200℃、放電ギャップ距離0.5mm、交流電源電圧20kV、交流電源周波数10kHz、直流電源電圧4000V、原料混合ガス比、ヘリウムガス:アセチレンガス=95:5一定、ガス流速1200mm/secの条件で行った。印加時間を制御することによって非晶質硬質炭素皮膜の膜厚の制御が出来た。これらの一連の成膜方法は大気圧開放環境下で行われ、ほぼ101kPaの環境下で成膜を行った。
【0119】
この結果、印加時間1分〜2分で基材に2μmの非晶質硬質炭素皮膜が均一に成膜出来た。これを試験例1とする。
【0120】
また比較例として上記成膜条件を変えて直流バイアス電圧をかけない場合の成膜を行った。
【0121】
基材温度30℃、直流電源電圧0V、ガス流速100mm/secとした以外は、上記成膜条件と同様に行った。この結果、印加時間1分〜2分で基材に2μmの非晶質硬質炭素皮膜が均一に成膜出来た。これを試験例2とする。
【0122】
この試験例1及び試験例2の膜の評価をおこなった。
【0123】
<膜硬度評価装置>
膜硬度は、ナノインデンテーション法により測定した。ナノインデンターには、原子間力顕微鏡(SHIMADZU社製SPM9500J2 )に取り付けたHYSITORON社製Toribo Scopeを用いた。なお、ナノインデンテーション法によれば、基材の影響を受けずに、薄膜そのものの硬度を測定することができる。
【0124】
試験例1において膜硬度は5±2GPa、試験例2の膜硬度は0.4±0.1GPaであり、試験例1が試験例2に比べて大幅に硬度が向上していることがわかった。
【0125】
<元素分析>
ERDA反跳粒子検出法及びRBS(ラザフォード後方散乱分析)によって元素組成比の分析を行った。
【0126】
試験例1では元素組成比(%)が炭素55%、水素41%、その他(酸素、窒素など)4%であったのに対して、試験例2では、元素組成比(%)が炭素41%、水素53%、その他(酸素、窒素など)6%であった。このことから試験例1は試験例2に比べて炭素の割合が増加していることがわかる。
【0127】
<結合>
FT−IRを用いて結合状態の分析をした。
【0128】
FT−IRの結果から、試験例2においてみられた炭素2重結合、C−H結合量が、試験例1では減少していることが確認された。結合として強固な炭素結合が多くなったと考えられる。
【0129】
測定された上記試験例1の膜硬度はSiO膜と同等の硬度を有する。従来これほど硬い膜は大気圧雰囲気下で炭化水素系ガスを原料にして成膜したものでは得られなかった。この硬度を有することで、高い摺動性能を示す部位にこの非晶質硬質炭素皮膜を適用することができる。また、SiO膜と同等の硬度を有することから、これまで樹脂等にシリカコーティングされてきたハードコート用途としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置の第一実施例を示す模式説明図である。
【図2】本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置の第二実施例の部分側断面図である。
【図3】図2におけるX−X‘断面で切断した切断面からみた部分平面図である。
【図4】本発明の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置の第三実施例の部分側断面図である。
【図5】図4を上からみた部分平面図である。
【符号の説明】
【0131】
1、高圧パルス電源、2、印加電極、3、誘電体、4、基材、5、加熱手段、
6、保持電極、7、直流電源、8、フィルタ用コイル、9、第二コンデンサ、
10、第一コンデンサ、11、冷却装置、12、耐熱構造材、13、ガス供給ノズル、
14、排気ノズル、15、潤滑剤、16、17、スペーサー、20、電圧印加手段、
30、直流バイアス電圧印加手段、40、電極体、100、200、300、成膜装置、
130、ガス供給口、140、排気口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持電極に基材を保持する基材保持工程と、
大気圧雰囲気下において、印加電極を有する電極体を前記保持電極に対向させ、該電極体と該保持電極との間に炭化水素系ガスを含む原料ガスを供給し、該電極体と該保持電極との間に直流バイアス電圧を発生させながら、該印加電極に交流電圧を印加して前記電極体と前記基材の表面との間でグロー放電プラズマを発生させ、排ガスを排出し、前記基材の表面に非晶質硬質炭素皮膜の成膜を行う成膜工程と、
を有することを特徴とする非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法。
【請求項2】
前記直流バイアス電圧は、DC200V〜10,000Vであり、前記交流電圧は、周波数0.1kHz以上、電圧5kV〜50kVであり、前記原料ガスはその混合比が不活性ガス/炭化水素系ガス=0/100〜99.9/0.1であり、該電極体と該保持電極との間は、その放電ギャップ距離が0.1mm〜5mmである請求項1に記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法。
【請求項3】
前記保持電極は前記基材を加熱する加熱手段を配設され、前記成膜工程において、前記基材は50℃〜300℃に加熱しながら成膜される請求項1または2に記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法。
【請求項4】
前記成膜工程において、該原料ガスの供給及び排ガスの排気はガス流速が200mm/sec〜3,000mm/secとなるように行われる請求項1〜3のいずれかに記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法。
【請求項5】
前記基材保持工程において、該基材の表面と該保持電極の電極面とは略同一面状に保持される請求項1〜4のいずれかに記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法。
【請求項6】
前記印加電極はその表面が誘電体に覆われている請求項1〜5のいずれかに記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法。
【請求項7】
前記成膜工程において、前記保持電極と前記電極体とは相対移動する請求項1〜6のいずれかに記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜方法。
【請求項8】
基材を保持する保持電極と、
前記保持電極に対向して位置し、印加電極を有する電極体と、
該保持電極と該電極体の間に高周波電界を印加させ大気圧雰囲気下でグロー放電プラズマを発生させる該印加電極に印加する電圧印加手段と、
該電極体と該保持電極との間に直流バイアス電圧を発生させる直流バイアス電圧印加手段と、
該保持電極と該電極体の間に、該基材の表面に非晶質硬質炭素皮膜を形成するための原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、
該保持電極と該電極体の間から排ガスを排出する排気手段と、
を有することを特徴とする非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置。
【請求項9】
前記成膜装置は、前記保持電極の背面に配設され基材を加熱する加熱手段を有する請求項8に記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置。
【請求項10】
前記原料ガス供給手段は、該原料ガスを整流し、少なくとも該基材雰囲気では該原料ガスが層流状態となるように原料ガスを供給するためのガス供給ノズルを有し、前記排気手段は、該原料ガスを整流し、少なくとも該基材雰囲気では該原料ガスが層流状態となるように原料ガスを排気するための排気ノズルを有する請求項8または9に記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置。
【請求項11】
前記保持電極と前記電極体とを相対移動させる移動手段を有し、かつ前記電極体は複数の印加電極を有し、一つの該印加電極と他の一つの該印加電極との間に原料ガスを供給するガス供給口を配設し、かつ該ガス供給口の印加電極をはさんだ少なくとも両側に排気口を配設する請求項8または9に記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置。
【請求項12】
前記印加電極はその表面が誘電体に覆われている請求項8〜11のいずれかに記載の非晶質硬質炭素皮膜の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−126734(P2010−126734A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299590(P2008−299590)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】