説明

駆動装置及び駆動方法

【課題】 大きな負荷がかかる起動時には、低回転域でも大きな回転力が得られる流体モータを使用して楽に起動させると共に電動モータの焼損を回避させ、起動後は電動モータにより安定して通常運転させ、よって、電動モータの起動時に必要であったスターデルタやリアクトル抵抗器等の付帯設備を不要又は小さくしてコストの低減、制御盤のコンパクト化、マグネットスイッチの接点寿命の長期化、電源設備容量の低下によるランニングコストの低減等を図ることができる駆動技術の提供。
【解決手段】 ジョークラッシャー1の駆動軸50に連結された電動モータM1及び流体モータM2と、起動時は流体モータにより駆動軸を駆動させ、この駆動軸が設定回転数に上昇したのを検出すると、流体モータから電動モータに切り替えて駆動軸を駆動させるように制御する制御装置51と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機器、主に破砕機(例えば、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、竪型破砕機、インパクトクラッシャー、コーンクラッシャー、ボールミル、ロッドミル等)を対象とした駆動装置及び駆動方法に関し、特に、起動時のモータ制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業機器としての破砕機としてジョークラッシャーが知られている(特許文献1参照)。
このジョークラッシャーは、本体枠に固定した固定歯に対して近接離反する動歯をスイングジョーに取付け、このスイングジョーの上部を本体枠に軸支した駆動軸の偏心部に取付け、この駆動軸の回転によりスイングジョーを揺動させることで動歯を固定歯に対して近接離反させ原料を破砕させるようになっている。
この場合、前記駆動軸には駆動手段として電動モータが連結され、この電動モータのみの駆動によって駆動軸を回転(駆動)させるようになっている。
【0003】
しかしながら、クラッシャーの駆動手段としてカゴ形電動モータを用いた場合、その起動時の過大な電流を抑えるためスターデルタやリアクトル抵抗器等を使用した起動方法が多く用いられるが、この方法では電圧を下げる分、起動トルクが下がる。
また、クラッシャーの破砕室に原料が入ったまま起動する場合には、トルク不足で起動できずに定格電量を越える電流が流れ続け、この結果、電動モータの焼損といったトラブルが生じることがある。
上記のような起動時における電動モータの焼損を回避するため、従来、起動トルクの減少が少ない巻線形電動モータを使用することもある。
このように、カゴ形電動モータでは焼損が頻繁に発生し、また、巻線形電動モータでは抵抗器等の付帯設備が必要になるため、コスト負担が増大してしまうし、これらを収容する制御盤の容積が大きくなり、コンパクト化の障害になっているという問題があった。
【特許文献1】特開平11−319592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電動モータと流体モータとを併用し、起動時には、低回転域でも大きな回転力(トルク)を得ることができると共に、電動モータのような焼損といったトラブルがない流体モータを利用し、一方、駆動軸が一定の回転数まで上昇したのちは、回転力が一定した電動モータに切り替えるという制御を行う技術である。
これにより、従来、電動モータに設けていたスターデルタやリアクトル抵抗器等の付帯設備を不要又は小さくしてコストの低減、及び制御盤のコンパクト化、マグネットスイッチの接点寿命の長期化を図る。
また、起動時には電動モータを停止又は空転させることにより電源設備容量を低下させ、かつ起動時に保護回路を作動させる制御を不要にすることができる駆動装置及び駆動方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明(請求項1)の駆動装置は、
産業機器を対象とした駆動装置(5)であって、
駆動軸(50)に連結された電動モータ(M1)及び流体モータ(M2)と、
起動時は流体モータ(M2)により駆動軸(50)を駆動させ、この駆動軸(50)が設定回転数に上昇したのを検出すると、流体モータ(M2)から電動モータ(M1)に切り替えて駆動軸(50)を駆動させるように制御する制御装置(51)と、
を備えている構成とした。
【0006】
また、本発明(請求項2)の駆動装置は、
請求項1記載の駆動装置において、産業機器が破砕機、又は選別機、又はフィーダ、又はコンベア、又はエレベータである構成とした。
【0007】
また、本発明(請求項3)の駆動装置は、
請求項2記載の駆動装置において、前記破砕機がジョークラッシャー(1)、又はロールクラッシャー、又は竪型破砕機、又はインパクトクラッシャー、又はコーンクラッシャー、又はボールミル、又はロッドミルである構成とした。
【0008】
また、本発明(請求項4)の駆動装置は、
請求項3記載の駆動装置において、前記破砕機が走行装置を備えた車体に搭載された自走式破砕機である構成とした。
【0009】
また、本発明(請求項5)の駆動方法は、
産業機器を対象とした駆動方法であって、
駆動軸(50)に電動モータ(M1)及び流体モータ(M2)を連結させ、
起動時は流体モータ(M2)により駆動軸(50)を駆動させ、この駆動軸(50)が設定回転数まで上昇したのを検出すると、流体モータ(M2)から電動モータ(M1)に切り替えて駆動軸(50)を駆動させるように制御させる構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の駆動装置(請求項1)及び駆動方法(請求項5)は、駆動軸に電動モータ及び流体モータを連結させている。
【0011】
そして、前記電動モータ及び流体モータの運転を制御装置によって制御させるもので、起動時は流体モータにより駆動軸を駆動させる。
この流体モータによる駆動軸の回転数が設定回転数まで上昇すると、流体モータを停止又は空転させて電動モータを起動させるもので、このように駆動手段を流体モータから電動モータに切り替えて駆動軸を駆動させるように制御させるものである。
【0012】
従って、大きな負荷がかかる起動時には、低回転域でも大きな回転力が得られる流体モータを使用するため、楽に起動させることができるし、電動モータのような焼損といったトラブルを回避できる。
また、起動後、設定回転数まで上昇すると、一定の回転力を有する電動モータにより安定して通常運転させることができる。
【0013】
これにより、スターデルタやリアクトル抵抗器等の付帯設備を不要又は小さくでき、コストの低減、及び制御盤のコンパクト化、マグネットスイッチの接点寿命の長期化を図ることができる。
【0014】
また、起動時は電動モータを停止又は空転させるため、電源設備容量を低下させてランニングコストの低減を図ることができるし、また、起動時にサーマルが働かないようにする制御が不要になるためモータの焼損を抑制できる。
【0015】
なお、通常運転に流体モータを使用すると、流体モータの駆動設備を大掛かりにする必要が生じ、コスト負担が増大したりメンテナンスに手間がかかるなどしたりして好ましくない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は産業機器としての破砕機であるジョークラッシャーを対象とした駆動装置の実施例を示す側面図、図2はその駆動装置を示す断面図である。
【0017】
前記ジョークラッシャー1の基本構成は、本体枠10に固定歯21が固定され、この固定歯21に対して近接離反することにより固定歯21との間の破砕室22で原料を挟圧して破砕する動歯23がスイングジョー24に取付けられている。
スイングジョー24の上部は、本体枠10に軸受11,11により軸支した駆動軸50の偏心軸部50aに軸受12,12を介して取付けられ、この偏心軸部50aの回転により揺動することで動歯23が固定歯21に対して近接離反し原料を破砕する。
【0018】
前記駆動軸50の両端にはフライホイル52,53が取付けられ、一方のフライホイル53(図2の右側フライホイル)が駆動用プーリ54に形成され、この駆動用プーリ54が動力伝達手段であるVベルト55を介して電動モータM1に連結されている。
なお、前記電動モータM1を駆動軸50の端部に直接に連結させた直結構造にしてもよいし、電動モータM1と駆動軸50の間に動力伝達を断続させるためのクラッチを設けてもよい。
また、電動モータM1としては、カゴ形電動モータや巻線形電動モータを使用できるが、安価でコンパクト化が可能なカゴ形電動モータを使用する方が有利である。
【0019】
また、前記ジョークラッシャー1の駆動軸50は、前記電動モータM1に加えて流体モータとしての油圧モータM2にも連結されている。
この実施例では、油圧装置(図示省略)に接続された油圧モータM2を本体枠10に固定させ、この油圧モータM2のモータ軸56を駆動軸50の一方のフライホイル52側の軸端に直接に連結させた直結構造になっている。
なお、前記油圧モータM2をベルト伝達や歯車伝達等の間接的動力伝達手段を使用して駆動軸50に連結させてもよいし、油圧モータM2と駆動軸50の間に動力伝達を断続させるためのクラッチを設けてもよい。
また、流体モータとしては油圧モータM2に限らず、液体モータ、気体モータ等を使用できる。
【0020】
このように、ジョークラッシャー1の駆動軸50が電動モータM1に連結されると共に、この駆動軸50は油圧モータM2にも連結されており、これにより、前記駆動軸50が電動モータM1又は油圧モータM2の何れか一方、又は電動モータM1と油圧モータM2の両方からの回転力で駆動可能に形成されている。
【0021】
前記電動モータM1及び油圧モータM2は制御装置51によって運転を制御される。
この制御装置51は、駆動対象となるジョークラッシャー1の起動に際しては油圧モータM2により駆動軸50を駆動させ、この油圧モータM2による駆動軸50の回転数を検出手段51aにより検出し、それが設定回転数に上昇したのを検出すると、油圧モータM2を停止又は空転させて電動モータM1のみにより駆動軸50を駆動させるという駆動手段の切り替え制御を行うものである。
【0022】
図3は本発明の駆動方法を示すフローチャート図である。
ジョークラッシャー1の起動に際しては、電動モータM1と油圧モータM2のうち、まず先に油圧モータM2を起動させる(ステップS1)。
このように、起動時等の大きな負荷がかかる時には、低回転域でも大きな回転力を得られる油圧モータM2を使用するため、起動を楽にさせることができるし、従来、電動モータでの起動に必要であったスターデルタやリアクトル抵抗器等の付帯設備を不要又は小さくできる。
【0023】
そして、油圧モータM2による起動後、駆動軸50の回転数を検出手段51aにより検出し(ステップS2)、それが設定回転数まで上昇すると、電動モータM1の回転を開始させると共に、油圧モータM2を停止又は空転させ(ステップS3)、電動モータM1の駆動力のみで通常運転させるものである。
【0024】
これにより、スターデルタやリアクトル抵抗器等の付帯設備を不要又は小さくでき、コストの低減、及び制御盤のコンパクト化、ランニングコストの低減、マグネットスイッチの接点寿命の長期化を図ることができる。
【0025】
なお、油圧モータM2による駆動で駆動軸50が設定回転数に達したか否かを検出するための検出手段51aとして実施例ではタイマーと油圧モータM2の流体圧センサを用い、油圧モータM2の回転開始後、一定時間(例えば30秒、60秒)内の流体圧が所定の圧力に達しているか否かで判断させている。
【0026】
検出手段51aとしては、タイマーと流体圧センサとの組み合わせに限らず、タイマー、流体圧センサ、流体流量センサ、駆動軸自体の回転数センサ等を単独、或いは組み合わせて使用できる。
【0027】
また、ジョークラッシャー1による破砕に際し、当初、破砕室22内に原料が入った閉塞状態になっていると、油圧モータであってもこれを破砕して排出させることが困難な場合がある。
【0028】
このような閉塞状態では、油圧モータM2の回転が上昇できないため、駆動軸50が設定回転数まで上昇せず、検出手段による検出ができない。
この場合は、図3のフローチャート図で示すように、油圧モータM2を停止又は空転(ステップS4)させてからこの油圧モータM2を逆転(Sステップ5)させて閉塞状態の解消を試みる。
【0029】
次に、この油圧モータM2の逆転状態における駆動軸50の回転数を検出し(ステップS6)、これが所定回転数(前記ステップS2での設定回転数よりも低い回転数に設定できる)に達すると、油圧モータM2を停止又は空転(ステップS7)させてから油圧モータM2を再び正転させる(Sステップ1)という当初の制御段階に戻す。
【0030】
前記油圧モータM2の逆転状態における駆動軸50の回転数検出(ステップS6)において、所定回転数を検出できないときは、その否検出回数をカウンターによってカウントし(ステップS8)、設定カウント(例えば5回)までは油圧モータM2の正転と逆転を繰り返すことで更に閉塞状態の解消を試みる。
【0031】
設定カウントを越えると、これ以上の試みは無理と判断してジョークラッシャーの運転を異常停止させるもので、これにより運転異常に迅速に対応し、他の手段によって閉塞状態を解消させることができる。
【0032】
また、前記油圧モータM2及び電動モータM1は、それぞれを単独で駆動させることができるし、油圧モータM2と電動モータM1の両者を同時に駆動させることも可能である。
例えば、電動モータM1による通常運転に際し、電動モータM1の負担が大きくなったような場合、電動モータM1を駆動させながら油圧モータM2を駆動させて電動モータM1の駆動を油圧モータM2で補助させることもできる。
【0033】
なお、前記スイングジョー24の上部は前記したように駆動軸50の偏心軸部50aに取付けられ、また、スイングジョー24の下端部はトッグルプレート60を介して本体枠10に支持されている。
【0034】
このトッグルプレート60の位置を前後方向に調節することにより、スイングジョー24に取付けた動歯23の位置を調整し、その動歯23と固定歯21との間の破砕室22の間隔を設定することができるようになっている。
このトッグルプレート60の位置調節に油圧モータM2の油圧装置を利用できるし、その他の油圧機器用のアクチュエータ(例えば、油圧シリンダ等)の駆動源として油圧モータM2の油圧装置を利用できる。
【0035】
実施例では、駆動対象として定置式のジョークラッシャーを例に挙げたが、自走式破砕機(例えば、自走式ジョークラッシャー)に本発明の駆動装置及び駆動方法を適用できる。
この場合、走行装置(クローラ走行装置又は車輪走行装置)を備えた車体に破砕機としてのジョークラッシャーを搭載させるもので、ジョークラッシャーの駆動軸50に電動モータM1及び流体モータ(油圧モータM2)を連結させると共に、この電動モータM1及び流体モータ(油圧モータM2)を制御装置51によって制御する構成は前記定置式と同様である。
【0036】
また、本発明の駆動装置及び駆動方法は、各種産業機器(例えば、破砕機、選別機、フィーダ、コンベア(ベルトコンベアやバケットコンベア等)、エレベータ)に適用できるもので、特に、コンクリート廃材、アスファルト廃材、岩石等を所定の大きさの建設用骨材に解砕するため等に使用する破砕機(ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、竪型破砕機、インパクトクラッシャー、コーンクラッシャー、ボールミル、ロッドミル)に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】産業機器としての破砕機であるジョークラッシャーを対象とした駆動装置の実施例を示す側面図
【図2】その駆動装置を示す断面図
【図3】本発明の駆動方法を示すフローチャート図
【符号の説明】
【0038】
1 ジョークラッシャー(破砕機)
10 本体枠
11 軸受
12 軸受
21 固定歯
22 破砕室
23 動歯
24 スイングジョー
50 駆動軸
50a 偏心軸部
51 制御装置
51a 検出手段
52 フライホイル
53 フライホイル
54 駆動用プーリ
55 Vベルト
56 モータ軸
60 トッグルプレート
M1 電動モータ
M2 油圧モータ(流体モータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機器を対象とした駆動装置(5)であって、
駆動軸(50)に連結された電動モータ(M1)及び流体モータ(M2)と、
起動時は流体モータ(M2)により駆動軸(50)を駆動させ、この駆動軸(50)が設定回転数に上昇したのを検出すると、流体モータ(M2)から電動モータ(M1)に切り替えて駆動軸(50)を駆動させるように制御する制御装置(51)と、
を備えていることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動装置において、産業機器が破砕機、又は選別機、又はフィーダ、又はコンベア、又はエレベータである駆動装置。
【請求項3】
請求項2記載の駆動装置において、前記破砕機がジョークラッシャー(1)、又はロールクラッシャー、又は竪型破砕機、又はインパクトクラッシャー、又はコーンクラッシャー、又はボールミル、又はロッドミルである駆動装置。
【請求項4】
請求項3記載の駆動装置において、前記破砕機が走行装置を備えた車体に搭載された自走式破砕機である駆動装置。
【請求項5】
産業機器を対象とした駆動方法であって、
駆動軸(50)に電動モータ(M1)及び流体モータ(M2)を連結させ、
起動時は流体モータ(M2)により駆動軸(50)を駆動させ、この駆動軸(50)が設定回転数まで上昇したのを検出すると、流体モータ(M2)から電動モータ(M1)に切り替えて駆動軸(50)を駆動させるように制御させることを特徴とする駆動方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−82595(P2010−82595A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257069(P2008−257069)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000150291)株式会社中山鉄工所 (35)
【Fターム(参考)】