説明

高周波スイッチモジュール

【課題】マルチバンドパワーアンプへ接続される小型の高周波スイッチモジュールを構成する。
【解決手段】高周波スイッチモジュール10は、アンテナANTに共通端子PIC0が接続する第1スイッチ素子11と、マルチバンドパワーアンプ40に共通入力端子PICt0が接続する第2スイッチ素子30を備える。第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt2は、第1のローパスフィルタ12を介して第1スイッチ素子11の個別端子PIC11に接続し、第2のローパスフィルタ13とハイパスフィルタ102の直列回路を介して第1スイッチ素子11の個別端子PIC12に接続する。第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt1は位相回路101とSAWデュプレクサ14を介して第1スイッチ素子11の個別端子PIC13に接続し、位相回路101とSAWデュプレクサ15を介して第1スイッチ素子11の個別端子PIC14に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の通信信号を共通アンテナで送受信する高周波モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、それぞれに異なる周波数帯域を利用した複数の通信信号を共通アンテナで送受信する高周波モジュールが各種考案されている。例えば、特許文献1に記載の高周波モジュールは、アンテナに分配器の共通端子が接続され、分配器の複数の個別端子にそれぞれスイッチ素子の共通端子が接続されている。そして、各スイッチ素子の個別端子に、それぞれ送信信号入力回路、受信信号出力回路、送受信兼用回路が接続されている。
【0003】
さらに、従来では、上述の分配器を省略し、スイッチ素子単体で送信信号入力回路、受信信号出力回路、送受信兼用回路のいずれかをアンテナへ接続する構成の高周波スイッチモジュールも考案されている。このような高周波スイッチモジュールでは、送信信号入力回路、受信信号出力回路、送受信兼用回路の数分だけ個別端子が必要となり、取り扱う通信信号数が増加するほど、スイッチ素子の個別端子数が増加する。
【0004】
ところで、現在、異なる複数の周波数帯域を利用する通信信号の送信信号を増幅可能なマルチバンドパワーアンプが多く開発されており、高周波スイッチモジュールにも、利用されている。このようなマルチバンドパワーアンプを用いる場合、マルチバンドパワーアンプで増幅された各送信信号を、上述の送信信号入力回路にそれぞれ個別に与えなければならない。
【0005】
図1は、マルチバンドパワーアンプを用いた従来の高周波スイッチモジュール10Pの回路構成図である。なお、ここでは、GSM850送信信号(約900MHz帯域)、GSM1800送信信号(約1.8〜約1.9GHz帯域)、GSM1900送信信号(約1.9GHz〜約2.0GHz帯域)、WCDMA−Band1送信信号(約2.1GHz帯域)、WCDMA−Band8(約900MHz帯域)送信信号を取り扱う高周波スイッチモジュールの例を示す。
【0006】
図1に示すように、従来の高周波スイッチモジュール10Pは、共通端子PIC0がアンテナANTに接続する送受切替を行うスイッチ素子11を備える。また、高周波スイッチモジュール10Pは、マルチバンドパワーアンプ40とスイッチ素子11との間に、送信信号切替用スイッチ素子30Pを備える。
【0007】
送信信号切替用スイッチ素子30Pの共通端子PICt0は、マルチバンドパワーアンプ40へ接続されている。これにより、マルチバンドパワーアンプ40で増幅された所定周波数帯域の送信信号は、スイッチ素子11の個別端子PIC11−PIC14へ伝送される。
【0008】
送信信号切替用スイッチ素子30Pの個別端子PICt1Pは、ローパスフィルタ12を介して、スイッチ素子11の個別端子PIC11へ接続されている。これにより、マルチバンドパワーアンプ40で増幅されたGSM850送信信号は、スイッチ素子11の個別端子PIC11へ伝送される。
【0009】
送信信号切替用スイッチ素子30Pの個別端子PICt2Pは、ローパスフィルタ13を介して、スイッチ素子11の個別端子PIC12へ接続されている。これにより、マルチバンドパワーアンプ40で増幅されたGSM1800送信信号およびGSM1900送信信号は、スイッチ素子11の個別端子PIC12へ伝送される。
【0010】
送信信号切替用スイッチ素子30Pの個別端子PICt3Pは、SAWデュプレクサ14を介して、スイッチ素子11の個別端子PIC13へ接続されている。これにより、マルチバンドパワーアンプ40で増幅されたWCDMA−BAND1送信信号は、スイッチ素子11の個別端子PIC13へ伝送される。
【0011】
送信信号切替用スイッチ素子30Pの個別端子PICt4Pは、SAWデュプレクサ15を介して、スイッチ素子11の個別端子PIC14へ接続されている。これにより、マルチバンドパワーアンプ40で増幅されたWCDMA−Band8送信信号は、スイッチ素子11の個別端子PIC14へ伝送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2010−528498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述のように、従来の高周波スイッチモジュール10Pでは、送信信号切替用スイッチ素子30Pとして、信号仕様が異なり、使用周波数帯域が離間している送信信号が存在すれば、その送信信号数分だけ、個別端子を備えなければならない。例えば、図1の例であれば、信号仕様が同じで使用周波数帯域が近いGSM1800送信信号およびGSM1900送信信号を1つの個別端子で出力しても、他の送信信号にはそれぞれ個別端子を設けなければならない。このため、通信信号数(送信信号数)が増加するほど、個別端子数が増加する。このような個別端子の増加は、スイッチ素子の大型化および高価格化につながり、ひいては高周波スイッチモジュールの大型化および高価格化を招いてしまう。
【0014】
したがって、本発明の目的は、通信信号数が多くても、高価格化されることなく小型での高周波スイッチモジュールを構成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、複数種類の送信信号を増幅するマルチバンドパワーアンプと、前記複数種類の送信信号を外部へ放射するアンテナとの間に接続される高周波スイッチモジュールに関する。高周波スイッチモジュールは、第1スイッチ素子、第2スイッチ素子、および位相回路を備える。
【0016】
第1スイッチ素子は、アンテナに共通端子が接続し、当該共通端子へ切り替えて接続される複数の個別端子を備える。第2スイッチ素子は、共通入力端子がマルチバンドパワーアンプに接続し、該共通入力端子へ切り替えて接続される複数の個別出力端子を備える。
【0017】
位相回路は、該第2スイッチ素子の第1個別出力端子と、第1スイッチ素子の第1個別端子および第2個別端子との間に接続されている。位相回路は、インダクタとキャパシタとを含んで構成されている。
【0018】
そして、位相回路のインダクタのインダクタンス値とキャパシタのキャパシタンス値は、第1個別出力端子から出力される第1送信信号(例えばWCDMA−Band1送信信号)に対して、第1個別端子側が略導通し、第2個別端子側が略開放するように設定される。さらに、位相回路のインダクタのインダクタンス値とキャパシタのキャパシタンス値は、第1個別出力端子から出力される第2送信信号(例えばWCDMA−Band8送信信号)に対して、第1個別端子側が略開放し、第2個別端子側が略導通するように設定されている。
【0019】
この構成では、マルチバンドパワーアンプに共通入力端子が接続する第2スイッチ素子に対して、送信信号毎に個別出力端子を設ける必要が無く、一部の個別出力端子を複数の送信信号の出力端子として共有しても、第1スイッチ素子の各個別端子に、各送信信号を個別に入力させることができる。
【0020】
また、この発明の高周波スイッチモジュールでは、次の構成を備えることが好ましい。
位相回路と第1個別端子との間に接続された、第1送信信号を有する第1通信システムの送受信を分配する第1のデュプレクサを備える。位相回路と第2個別端子との間に接続された、第2送信信号を有する第2通信システムの送受信を分配する第2のデュプレクサを備える。
【0021】
この構成では、第1送信信号および第2送信信号がそれぞれ位相回路およびデュプレクサを介するので、それぞれの特性調整条件を単体の場合よりも厳しくする必要がなくなる。これにより、位相回路と各デュプレクサの構成及び設計が容易になる。
【0022】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、次の構成であることが好ましい。
第2スイッチ素子は、第1送信信号と第2送信信号に対して、周波数帯域が異なる第3送信信号(例えばGSM1800送信信号やGSM1900送信信号)を出力する第2個別出力端子を備える。第1送信信号の周波数帯域と第2送信信号の周波数帯域は、第3送信信号の周波数帯域を挟んで離間した周波歌帯域からなる。
【0023】
この構成では、位相回路に入力される第1送信信号の周波数帯域と第2送信信号の周波数帯域とが離間するので、上述の位相関係(導通、開放の関係)を形成するためのインダクタンスおよびキャパシタンスの設定が実現しやすく容易になる。
【0024】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、次の構成であることが好ましい。
第2個別出力端子は、第3送信信号とは異なる周波数帯域の第4送信信号(例えばGSM850送信信号)を出力する。
第1スイッチ素子は、さらに第3個別端子と第4個別端子とを備える。第3個別端子は、第2個別出力端子に対して第3送信信号の周波数帯域を通過帯域とするローパスフィルタを介して接続する。第4個別端子は、第2個別出力端子に対して第4送信信号の周波数帯域を通過帯域とするローパスフィルタを介して接続する。
【0025】
第3送信信号と第4送信信号のうち周波数帯域が高い側の送信信号(上述の例であればGSM1800送信信号やGSM1900送信信号)を通過するローパスフィルタと第3個別出力端子との間に、周波数帯域が高い側の送信信号を通過帯域とするハイパスフィルタが接続されている。
【0026】
この構成では、第2スイッチ素子において、第3送信信号を出力する端子と第4送信信号を出力する端子が共通化され、第2スイッチ素子を小型化できる。そして、2つのローパスフィルタと、一方のローパスフィルタに接続するハイパスフィルタとを備えることにより、第3送信信号と第4送信信号とを第1スイッチ素子の各個別端子へ個別に入力させることができる。
【0027】
また、この発明の高周波スイッチモジュールのハイパスフィルタは、第3送信信号(例えばGSM1800送信信号やGSM1900送信信号)と第4送信信号(例えばGSM850送信信号)のうち周波数帯域が低い側の送信信号(上述の例であればGSM850送信信号)の周波数帯域を減衰極の周波数に略一致させるように設定することが好ましい。
【0028】
この構成では、より確実に、第3送信信号と第4送信信号とを第1スイッチ素子の各個別端子へ個別に入力させることができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、複数の周波数帯域の送信信号を増幅可能なマルチバンドパワーアンプに接続される構成であっても、高価格化されることなく小型で高周波スイッチモジュールを構成することにある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来の高周波スイッチモジュール10Pの回路構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る高周波スイッチモジュール10の回路構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る位相回路101の回路図である。
【図4】本発明の実施形態に係るハイパスフィルタ(HPF)102の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態に係る高周波スイッチモジュール10について、図を参照して説明する。図2は本実施形態に係る高周波スイッチモジュール10の回路構成図である。なお、本実施形態では、第1通信信号としてWCDMA−Band1通信信号を用い、第2通信信号としてWCDMA−Band8通信信号を用い、第3通信信号としてGSM1800通信信号もしくはGSM1900通信信号を用い、第4通信信号としてGSM850通信信号を用い、これらの通信信号を1つのアンテナANTで送受信する高周波スイッチモジュールについて説明する。
【0032】
まず、本実施形態の高周波スイッチモジュール10の全体の回路構成を説明する。高周波スイッチモジュール10は、第1スイッチ素子11、ローパスフィルタ12,13、SAWデュプレクサ14,15、SAWフィルタ16,17,18、アンテナ側整合回路20、第2スイッチ素子30、位相回路101、およびハイパスフィルタ102を備える。
【0033】
第1スイッチ素子11はFET等の半導体スイッチで形成されている。スイッチ素子11は、単一の共通端子PIC0、7個の個別端子PIC11−PIC17を備えるとともに、図示しない複数の駆動系信号入力端子およびグランド接続端子を備える。
【0034】
第1スイッチ素子11は、駆動系信号入力端子から入力される駆動電圧で起動し、複数の駆動信号の組合せに応じて、共通端子PIC0を、個別端子PIC11−PIC17のいずれかに切り替えて接続する。
【0035】
共通端子PIC0は、アンテナ側整合回路20を介してアンテナANTに接続されている。
【0036】
個別端子PIC11は、本発明の第4個別端子に相当し、第1のローパスフィルタ12を介して、第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt2に接続されている。この個別出力端子PICt2は、本発明の第2個別出力端子に相当する。
【0037】
個別端子PIC12は、本発明の第3個別端子に相当し、第2のローパスフィルタ13、ハイパスフィルタ102を介して、第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt2に接続されている。
【0038】
個別端子PIC13は、本発明の第1個別端子に相当し、SAWデュプレクサ14の送信側SAWフィルタSAWt1、位相回路101を介して、第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt1に接続されている。この個別出力端子PICt1は本発明の第1個別出力端子に相当する。なお、SAWデュプレクサ14の受信側SAWフィルタSAWr1は、受信信号出力端子Prx1に接続されている。
【0039】
個別端子PIC14は、本発明の第2個別端子に相当し、SAWデュプレクサ15の送信側SAWフィルタSAWt2、位相回路101を介して、第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt1に接続されている。なお、SAWデュプレクサ15の受信側SAWフィルタSAWr2は、受信信号出力端子Prx2に接続されている。
【0040】
個別端子PIC15は、SAWフィルタ16を介して受信信号出力端子Prx3に接続されている。個別端子PIC16は、SAWフィルタ17を介して受信信号出力端子Prx4に接続されている。個別端子PIC17は、SAWフィルタ18を介して受信信号出力端子Prx5に接続されている。
【0041】
第2スイッチ素子30は、上述の各個別出力端子PICt1,PICt2とともに共通入力端子PICt0を備える。第2スイッチ素子30にも、図示しない複数の駆動系信号入力端子およびグランド接続端子を備える。第2スイッチ素子30は、駆動系信号入力端子から入力される駆動電圧で起動し、複数の駆動信号の組合せに応じて、共通入力端子PICt0を、個別出力端子PICt1もしくは個別出力端子PICt2に切り替えて接続する。このように、第2スイッチ素子30は個別出力端子数が少ないので、小型化が容易であり、低コスト化も可能である。
【0042】
第2スイッチ素子30の共通入力端子PICt0は、各通信信号の送信信号を増幅するマルチバンドパワーアンプ40に接続されている。なお、マルチバンドパワーアンプ40は、単一のアンプで構成されても、出力信号の周波数帯域が異なる複数のアンプを用いて構成されても構わない。
【0043】
第1のローパスフィルタ12は、第1スイッチ素子11の個別端子PIC11と第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt2との間に直列接続されたインダクタGLt1とインダクタGLt2とを備える。
【0044】
インダクタGLt1にはキャパシタGCc1が並列接続されている。インダクタGLt1の個別端子PIC11側の端部はキャパシタGCu1を介してグランドに接続されている。
【0045】
インダクタGLt1とインダクタGLt2との接続点はキャパシタGCu2を介してグランドに接続されている。インダクタGLt2にはキャパシタGCc2が並列接続されている。インダクタGLt2の個別出力端子PICt2側の端部はキャパシタGCu3を介してグランドに接続されている。
【0046】
第1のローパスフィルタ12は、第4通信信号の送信信号(第4送信信号)の2次高調波の周波数および3次高調波の周波数が減衰帯域に設定され、第4送信信号の基本周波数を通過帯域とし、これより高い周波数を減衰帯域とする。
【0047】
第2のローパスフィルタ13は、第1スイッチ素子11の個別端子PIC12とハイパスフィルタ102との間に直列接続されたインダクタDLt1とインダクタDLt2とを備える。インダクタDLt1にはキャパシタDCc1が並列接続されている。
【0048】
インダクタDLt1とインダクタDLt2との接続点はキャパシタDCu2を介してグランドに接続されている。インダクタDLt2のハイパスフィルタ102側の端部は、キャパシタDCu3を介してグランドに接続されている。
【0049】
第2のローパスフィルタ13は、第3通信信号の送信信号(第3送信信号)の基本周波数を通過帯域とし、これより高い周波数を減衰帯域とする。
【0050】
SAWデュプレクサ14は、送信側SAWフィルタSAWt1と受信側SAWフィルタSAWr1とから構成される。送信側SAWフィルタSAWt1は、第1通信信号の送信信号(第1送信信号)の基本周波数帯域を通過帯域とし、当該通過帯域の低域側および高域側の双方を減衰帯域とする。受信側SAWフィルタSAWr1は、第1通信信号の受信信号(第1受信信号)の基本周波数帯域を通過帯域とし、当該通過帯域の低域側および高域側の双方を減衰帯域とする。
【0051】
SAWデュプレクサ15は、送信側SAWフィルタSAWt2と受信側SAWフィルタSAWr2とから構成される。送信側SAWフィルタSAWt2は、第2通信信号の送信信号(第2送信信号)の基本周波数帯域を通過帯域とし、当該通過帯域の低域側および高域側の双方を減衰帯域とする。受信側SAWフィルタSAWr2は、第2通信信号の受信信号(第2受信信号)の基本周波数帯域を通過帯域とし、当該通過帯域の低域側および高域側の双方を減衰帯域とする。
【0052】
SAWフィルタ16は、第4通信信号の受信信号(第4受信信号)の基本周波数帯域を通過帯域とし、当該通過帯域の低域側および高域側の双方を減衰帯域とする。
【0053】
SAWフィルタ17,18は、第3通信信号の受信信号(第3受信信号)の基本周波数帯域を通過帯域とし、当該通過帯域の低域側および高域側の双方を減衰帯域とする。例えば、SAWフィルタ17は、一方の第3通信信号であるGSM1800通信信号の受信信号の基本周波数帯域を通過帯域とし、当該通過帯域の低域側および高域側の双方を減衰帯域とする。一方、SAWフィルタ18は、他方の第3通信信号であるGSM1900通信信号の受信信号の基本周波数帯域を通過帯域とし、当該通過帯域の低域側および高域側の双方を減衰帯域とする。
【0054】
このような構成からなる高周波スイッチモジュール10において、各送信信号をアンテナANTから送信する場合には、次のような制御を行うが、本実施形態に示す位相回路101およびハイパスフィルタ102を備えることにより、単体のマルチバンドパワーアンプ40でいずれの送信信号を増幅しても、各送信信号を確実に区分してアンテナANTから送信することができる。
【0055】
(i)第1送信信号(WCDMA−Band1送信信号)を送信する場合
第1送信信号を送信する場合、第1スイッチ素子11は、個別端子PIC13と共通端子PIC0が接続される。また、第2スイッチ素子30は、共通入力端子PICt0と個別出力端子PICt1とが接続される。
【0056】
マルチバンドパワーアンプ40で増幅された第1送信信号は、第2スイッチ素子30を介して位相回路101へ入力される。
【0057】
図3は本実施形態に係る位相回路101の回路図である。位相回路101は、第2スイッチ素子30とSAWデュプレクサ14の送信側SAWフィルタSAWt1との間に接続されたキャパシタCpHを備える。キャパシタCpHのSAWデュプレクサ14側はインダクタLpHを介してグランドへ接続されている。
【0058】
また、位相回路101は、第2スイッチ素子30とSAWデュプレクサ15の送信側SAWフィルタSAWt2との間に接続されたインダクタLpLを備える。インダクタLpLのSAWデュプレクサ15側はキャパシタCpLを介してグランドへ接続されている。
【0059】
このような位相回路101において、各インダクタLpH,LpLのインダクタンスおよび各キャパシタCpH,CpLのキャパシタンスを適宜設定することで、第1送信信号の基本周波数に対して、第2スイッチ素子30からSAWデュプレクサ14の送信側SAWフィルタSAWt1を見て導通となり、第2スイッチ素子30からSAWデュプレクサ15の送信側SAWフィルタSAWt2を見て開放となるように、位相回路101を設定する。さらに、第2送信信号の基本周波数に対して、第2スイッチ素子30からSAWデュプレクサ14の送信側SAWフィルタSAWt1を見て開放となり、第2スイッチ素子30からSAWデュプレクサ15の送信側SAWフィルタSAWt2を見て導通となるように、位相回路101を設定する。
【0060】
このように設定された位相回路101を備えることで、第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt1から出力された第1送信信号は、SAWデュプレクサ14の送信側SAWフィルタSAWt1には伝送される。一方、この第1送信信号は、SAWデュプレクサ15の送信側SAWフィルタSAWt2には伝送されない。したがって、この正規の伝送経と異なる伝送線路にハイパワーの第1送信信号が伝送されないので、当該第1送信信号による高周波スイッチモジュール10の特性に及ぼす悪影響を抑制できる。
【0061】
このように位相回路101を通過した第1送信信号は、SAWデュプレクサ14の送信側SAWフィルタSAWt1を通過して、第1スイッチ素子11の個別端子PIC13へ入力される。このような経路で伝送されることにより、第1送信信号の各高次高調波の周波数はSAWデュプレクサ14の送信側SAWフィルタSAWt1で減衰され、第1スイッチ素子11の個別端子PIC13には伝送されない。さらに、第1送信信号の各高次高調波の周波数に対して、第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt1側から見て、位相回路101が略開放になるように設定すれば、第1スイッチ素子11の個別端子PIC13に入力される高次高調波をより一層抑圧することができる。
【0062】
このように第1スイッチ素子11まで伝送された第1送信信号は、第1スイッチ素子11の共通端子PIC0から出力され、アンテナANTへ伝搬され、外部へ送信される。
【0063】
(ii)第2送信信号(WCDMA−Band8送信信号)を送信する場合
第2送信信号を送信する場合、第1スイッチ素子11は、個別端子PIC14と共通端子PIC0が接続される。また、第2スイッチ素子30は、共通入力端子PICt0と個別出力端子PICt1とが接続される。
【0064】
マルチバンドパワーアンプ40で増幅された第2送信信号は、第2スイッチ素子30を介して位相回路101へ入力される。
【0065】
位相回路101は上述のように位相設定されているので、第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt1から出力された第2送信信号は、SAWデュプレクサ15の送信側SAWフィルタSAWt2には伝送される。一方、この第2送信信号は、SAWデュプレクサ14の送信側SAWフィルタSAWt1には伝送されない。したがって、この正規の伝送経と異なる伝送線路にハイパワーの第2送信信号が伝送されないので、当該第2送信信号による高周波スイッチモジュール10の特性に及ぼす悪影響を抑制できる。
【0066】
このように位相回路101を通過した第2送信信号は、SAWデュプレクサ15の送信側SAWフィルタSAWt2を通過して、第1スイッチ素子11の個別端子PIC14へ入力される。このような経路で伝送されることにより、第2送信信号の各高次高調波の周波数はSAWデュプレクサ15の送信側SAWフィルタSAWt2で減衰され、第1スイッチ素子11の個別端子PIC14には伝送されない。さらに、第2送信信号の各高次高調波の周波数に対して、第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt1側から見て、位相回路101が略開放になるように設定すれば、第1スイッチ素子11の個別端子PIC13に入力される高次高調波をより一層抑圧することができる。
【0067】
第1スイッチ素子11まで伝送された第2送信信号は、第1スイッチ素子11の共通端子PIC0から出力され、アンテナANTへ伝搬され、外部へ送信される。
【0068】
このように本実施形態の位相回路101を設けることで、上述の(i),(ii)の場合に示すように、マルチバンドパワーアンプ40の出力側に接続される第2スイッチ素子30の個別出力端子の数を、送信信号数よりも少なくすることができる。これにより、第2スイッチ素子30を小型化、低コスト化することができる。なお、この構成では、新たに位相回路101が追加されることになるが、当該位相回路101は、上述のように位相調整用のインダクタとキャパシタとで構成される。したがって、当該高周波スイッチモジュール10を積層体で構成すれば、当該積層体の内層電極パターンにより実現が可能であり、位相回路101の追加による高周波スイッチモジュール10の大型化や高コスト化には、殆どつながらない。
【0069】
また、上述のように、送信信号の伝送経路において、位相回路の後段にSAWフィルタが接続されているので、位相回路の位相調整量が、伝送したい送信信号に対して正確に導通で、遮断したい送信信号に対して正確に開放でなくても、上述の作用効果を十分に得ることができる。これにより、設計自由度が向上し、より小型化、低コスト化が容易になる。
【0070】
また、位相回路101を介することなく、SAWデュプレクサ14,15だけの回路では、本来伝送すべきでないハイパワーの送信信号や、入力される各送信信号の高調波が直接SAWデュプレクサ14,15に入力されるが、本実施形態のように位相回路101を介することで、SAWデュプレクサ14,15には、伝送すべき送信信号のみが入力されるので、SAWデュプレクサ14,15への悪影響を抑制し、SAWデュプレクサ14,15の破壊を防止できる。さらには、位相回路101の位相特性との関係を鑑みて、各SAWデュプレクサ14,15の送信側SAWフィルタSAWt1,SAWt2の減衰特性の設計を容易することができる。
【0071】
なお、上述の構成では、第1送信信号としてWCDMA−Band1送信信号(2.1GHz帯)を用い、第2送信信号としてWCDMA−Band8送信信号(900MHz帯)を用いたが、このように位相回路101を伝送する二種類の送信信号の周波数帯域が離間しているほど、上述の位相設定が容易であり、位相回路101を容易に実現することができる。
【0072】
(iii)第3送信信号(GSM1800送信信号もしくはGSM1900送信信号)を送信する場合
第3送信信号を送信する場合、第1スイッチ素子11は、個別端子PIC12と共通端子PIC0が接続される。また、第2スイッチ素子30は、共通入力端子PICt0と個別出力端子PICt2とが接続される。
【0073】
マルチバンドパワーアンプ40で増幅された第3送信信号は、第2スイッチ素子30を介して第1のローパスフィルタ12およびハイパスフィルタ102へ入力される。
【0074】
第1のローパスフィルタ12は、上述のように、第4送信信号(GSM850送信信号)の基本周波数を通過帯域とし、これより高周波数帯域を減衰帯域とするので、第3送信信号を遮断する。
【0075】
図4は本実施形態に係るハイパスフィルタ102の回路図である。ハイパスフィルタ102は、第2スイッチ素子30の個別出力端子PICt2と第2のローパスフィルタ13との間に、直列接続されたキャパシタCf1,Cf2を備える。キャパシタCf1とキャパシタCf2の接続点は、インダクタLf0とキャパシタCf0の直列回路を介して、グランドへ接続されている。
【0076】
このような構成のハイパスフィルタ102において、各キャパシタCf0,Cf1,Cf2のキャパシタンスおよびインダクタLf0のインダクタンスを適宜設定することで、第3送信信号の基本周波数を通過帯域とし、第4送信信号の基本周波数を減衰帯域に含むハイパスフィルタを構成する。
【0077】
したがって、第3送信信号はハイパスフィルタ102を通過し、第2のローパスフィルタ13へ入力される。第2のローパスフィルタ13は、上述のように第3送信信号の基本周波数を通過帯域とし、高次高調波の周波数帯域を減衰帯域とするので、第3送信信号は、第2のローパスフィルタ13を通過して、第1スイッチ素子11の個別端子PIC12へ入力される。第1スイッチ素子11まで伝送された第3送信信号は、第1スイッチ素子11の共通端子PIC0から出力され、アンテナANTへ伝搬され、外部へ送信される。
【0078】
(iv)第4送信信号(GSM850送信信号)を送信する場合
第4送信信号を送信する場合、第1スイッチ素子11は、個別端子PIC11と共通端子PIC0が接続される。また、第2スイッチ素子30は、共通入力端子PICt0と個別出力端子PICt2とが接続される。
【0079】
マルチバンドパワーアンプ40で増幅された第4送信信号は、第2スイッチ素子30を介して第1のローパスフィルタ12およびハイパスフィルタ102へ入力される。
【0080】
第1のローパスフィルタ12は、上述のように、第4送信信号(GSM850送信信号)の基本周波数を通過帯域とし、これより高周波数帯域を減衰帯域とするので、第4送信信号を伝送する。
【0081】
ハイパスフィルタ102は、上述のように第3送信信号の基本周波数を通過帯域とし、第4送信信号の基本周波数が減衰帯域に含まれるように設定されているので、第4送信信号はハイパスフィルタ102で遮断される。
【0082】
第4送信信号は、第1のローパスフィルタ12を通過して、第1スイッチ素子11の個別端子PIC11へ入力される。第1スイッチ素子11まで伝送された第4送信信号は、第1スイッチ素子11の共通端子PIC0から出力され、アンテナANTへ伝搬され、外部へ送信される。
【0083】
このように本実施形態のハイパスフィルタ102を設けることで、上述の(iii),(iv)の場合に示すように、マルチバンドパワーアンプ40の出力側に接続される第2スイッチ素子30の個別出力端子の数を、送信信号数よりもさらに少なくすることができる。これにより、第2スイッチ素子30をさらに小型化、低コスト化することができる。なお、この構成では、新たにハイパスフィルタ102が追加されることになるが、上述の位相回路101と同様に、高周波スイッチモジュール10の大型化や高コスト化には、殆どつながらない。
【0084】
また、上述のように、第1のローパスフィルタ13が第4送信信号の高調波の減衰とともに、第3送信信号の減衰機能も備えるので、ハイパスフィルタ102と対になるローパスフィルタを設けなくても、第3送信信号と第4送信信号を第1スイッチ素子11の個別端子PIC12,PIC11へそれぞれ個別に入力されることができる。これにより、高周波スイッチモジュール10をさらに小型化することができる。
【0085】
なお、上述の説明では、四種類の送信信号(通信信号)に利用する高周波スイッチモジュールを例に示したが、少なくとも三種類の送信信号(通信信号)に利用する高周波スイッチモジュールであれば、上述の構成を適用することができる。特に、三種類の送信信号を用いる場合には、上述のハイパスフィルタ102を有する送信回路を省略し、三種類の送信信号のうち、周波数帯域が最も離間した二組の送信信号を、単一の個別出力端子から出力するように回路構成すればよい。
【0086】
また、上述の説明では、減衰極を有するハイパスフィルタ102を用いた例を示したが、減衰極を形成しない、より簡素な構成のハイパスフィルタを用いてもよい。
【0087】
また、上述の説明で示した各通信信号の組合せは一例であり、上述の周波数帯域の工程関係を有する組合せであれば、他の通信信号であっても適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
10,10P:高周波スイッチモジュール、11:第1スイッチ素子、12,13:ローパスフィルタ、14,15:SAWデュプレクサ、16,17,18:SAWフィルタ、20:アンテナ側整合回路、30:第2スイッチ素子、101:位相回路、102:ハイパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の送信信号を増幅するマルチバンドパワーアンプと、前記複数種類の送信信号を外部へ放射するアンテナとの間に接続される高周波スイッチモジュールであって、
前記アンテナに共通端子が接続し、当該共通端子へ切り替えて接続される複数の個別端子を備える第1スイッチ素子と、
共通入力端子がマルチバンドパワーアンプに接続し、該共通入力端子へ切り替えて接続される複数の個別出力端子を備える第2スイッチ素子と、
該第2スイッチ素子の第1個別出力端子と、前記第1スイッチ素子の第1個別端子および第2個別端子との間に接続された位相回路と、を備え、
該位相回路は、
インダクタとキャパシタを含んで構成され、
前記インダクタのインダクタンス値と前記キャパシタのキャパシタンス値とが、
前記第1個別出力端子から出力される第1送信信号に対して、前記第1個別端子側が略導通し、前記第2個別端子側が略開放するように設定され、
前記第1個別出力端子から出力される第2送信信号に対して、前記第1個別端子側が略開放し、前記第2個別端子側が略導通するように設定されている、高周波スイッチモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波スイッチモジュールであって、
前記位相回路と前記第1個別端子との間に接続された、前記第1送信信号を有する第1通信システムの送受信信号を分配する第1のデュプレクサと、
前記位相回路と前記第2個別端子との間に接続された、前記第2送信信号を有する第2通信システムの送受信信号を分配する第2のデュプレクサと、を備える高周波スイッチモジュール。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高周波スイッチモジュールであって、
前記第2スイッチ素子は、
前記第1送信信号と前記第2送信信号に対して、周波数帯域が異なる第3送信信号を出力する第2個別出力端子を備え、
前記第1送信信号の周波数帯域と前記第2送信信号の周波数帯域は、前記第3送信信号の周波数帯域を挟んで離間した周波歌帯域からなる、高周波スイッチモジュール。
を備える、高周波スイッチモジュール。
【請求項4】
請求項3に記載の高周波スイッチモジュールであって、
前記第2個別出力端子は、前記第3送信信号とは異なる周波数帯域の第4送信信号を出力し、
前記第1スイッチ素子は、
前記第2個別出力端子に対して前記第3送信信号の周波数帯域を通過帯域とするローパスフィルタを介して接続する第3個別端子と、
前記第2個別出力端子に対して前記第4送信信号の周波数帯域を通過帯域とするローパスフィルタを介して接続する第4個別端子と、を備え、
前記第3送信信号と前記第4送信信号のうち周波数帯域が高い側の送信信号を通過するローパスフィルタと前記第3個別出力端子との間に、前記周波数帯域が高い側の送信信号を通過帯域とするハイパスフィルタが接続されている、高周波スイッチモジュール。
【請求項5】
請求項4に記載の高周波スイッチモジュールであって、
前記ハイパスフィルタは、前記第3送信信号と前記第4送信信号のうち周波数帯域が低い側の送信信号の周波数帯域を減衰帯域に含むように設定されている、高周波スイッチモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−186623(P2012−186623A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47901(P2011−47901)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】