説明

高周波電力増幅器

【課題】分岐部におけるロスの増加およびループ発振を防止できる高周波電力増幅器。
【解決手段】入力信号を2分配する分配器1と、分配器の出力の一方を第1分配器分岐部と第2分配器分岐部で2分配する第1分配器、第1分配器の出力を増幅した信号を第1合成器分岐部と第2合成器分岐部で合成する第1合成器を備えた第1高周波電力増幅部2と、分配器の出力の他方を第4分配器分岐部、第2分配器分岐部の隣の第3分配器分岐部で2分配する第2分配器、第2分配器の出力を増幅した信号を第4合成器分岐部、第2合成器分岐部の隣の第3合成器分岐部で合成する第2合成器を備えた第2高周波電力増幅部3と、第1合成器の出力と第2合成器の出力とを合成する合成器4と、第2分配器分岐部と第3分配器分岐部との間または第2合成器分岐部と第3分配器分岐部との間に設けられた安定化回路5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波を電力増幅する高周波電力増幅器に関し、特に、高周波電力増幅器の内部で発生するループ発振を抑止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電力増幅器は、大電力を得るために、通常、入力信号を複数の増幅素子で増幅した後に、増幅された信号を合成して出力する。このような高周波電力増幅器は、入力信号を複数の増幅素子に分配する分配器と、分配器で分配された信号を増幅する複数の増幅器と、複数の増幅素子の出力を合成する合成器とを備えている。
【0003】
図6は、2個の増幅素子を備えた従来の高周波電力増幅器の等価回路を示す図である。この高周波電力増幅器は、整合/分配回路(以下、単に「分配器」という)10、整合回路20、増幅回路30および整合/合成回路(以下、単に「合成器」という)40から構成されている。
【0004】
分配器10は、第1分配器分岐部11、第2分配器分岐部12および抵抗R2から構成されている。第1分配器分岐部11および第2分配器分岐部12は、例えばマイクロストリップ線路からなる伝送線路によって構成されている。第1分配器分岐部11の一端は入力端子INに接続され、他端は整合回路2に接続されている。また、第2分配器分岐部12の一端は入力端子INに接続され、他端は整合回路2に接続されている。入力端子INと、第1分配器分岐部11と、第2分配器分岐部12との接続点を「分配点」と呼ぶ。抵抗R2はオプションであり、第1分配器分岐部11と第2分配器分岐部12との間に設けられる。この分配器10は、入力端子INから入力された信号を第1分配器分岐部11と第2分配器分岐部12とに分配して整合回路2に送る。
【0005】
整合回路20は、インピーダンス整合をとるために設けられており、第1整合回路21と第2整合回路22とから構成されている。第1整合回路21は、インダクタンスL11、インダクタンスL21およびコンデンサC11から構成されている。インダクタンスL11は、第1分配器分岐部11とコンデンサC11とを結ぶボンディングワイヤのインダクタンス成分である。インダクタンスL21は、コンデンサC11と増幅回路3の第1増幅素子31(後述する)とを結ぶボンディングワイヤのインダクタンス成分である。コンデンサC11の一端は、インダクタンスL11を介して第1分配器分岐部11に接続されるとともに、インダクタンスL21を介して増幅回路30の第1増幅素子31に接続されており、他端は接地されている。
【0006】
同様に、第2整合回路22は、インダクタンスL12、インダクタンスL22およびコンデンサC12から構成されている。インダクタンスL12は、第2分配器分岐部12とコンデンサC12とを結ぶボンディングワイヤのインダクタンス成分である。インダクタンスL22は、コンデンサC12と増幅回路30の第2増幅素子32(後述する)とを結ぶボンディングワイヤのインダクタンス成分である。コンデンサC12の一端は、インダクタンスL12を介して第2分配器分岐部12に接続されるとともに、インダクタンスL22を介して増幅回路30の第2増幅素子32)に接続されており、他端は接地されている。
【0007】
増幅回路30は、第1増幅素子31と第2増幅素子32とから構成されている。第1増幅素子31は、例えばMESFETから構成されており、そのゲートは、第1整合回路21を介して第1分配器分岐部11に接続され、ソースは接地され、ドレインはインダクタンスL31を介して合成器40の第1合成器分岐部41(後述する)に接続されている。インダクタンスL31は、第1増幅素子31と第1合成器分岐部41とを結ぶボンディングワイヤのインダクタンス成分である。この第1増幅素子31は、第1分配器分岐部11から第1整合回路21を介して送られてくる信号を増幅し、インダクタンスL31を介して合成器40の第1合成器分岐部41に送る。
【0008】
同様に、第2増幅素子32は、例えばMESFETから構成されており、そのゲートは、第2整合回路22を介して第2分配器分岐部12に接続され、ソースは接地され、ドレインはインダクタンスL32を介して合成器40の第2合成器分岐部42(後述する)に接続されている。インダクタンスL32は、第2増幅素子32と第2合成器分岐部42とを結ぶボンディングワイヤのインダクタンス成分である。この第2増幅素子32は、第2分配器分岐部12から第2整合回路22を介して送られてくる信号を増幅し、インダクタンスL32を介して合成器40の第2合成器分岐部42に送る。
【0009】
合成器40は、第1合成器分岐部41、第2合成器分岐部42および抵抗R1から構成されている。第1合成器分岐部41および第2合成器分岐部42は、例えばマイクロストリップ線路からなる伝送線路によって構成されている。第1合成器分岐部41の一端はインダクタンスL31を介して第1増幅素子31に接続され、他端は出力端子OUTに接続されている。第2合成器分岐部42の一端はインダクタンスL32を介して第2増幅素子32に接続され、他端は出力端子OUTに接続されている。出力端子OUTと、第1合成器分岐部41と、第2合成器分岐部42との接続点を「合成点」と呼ぶ。抵抗R1は、第1合成器分岐部41と第2合成器分岐部42との間に設けられている。この合成器40は、増幅回路30から送られてくる信号を第1合成器分岐部41と第2合成器分岐部42とによって合成し、出力端子OUTから出力する。
【0010】
上記のように構成される高周波電力増幅器においては、入力端子INに入力された信号は、分配器10において2つの信号に分配される。分配された信号の一方は、第1整合回路21を介して第1増幅素子31に送られ、この第1増幅素子31において増幅された信号は、合成器40の第1合成器分岐部41に送られる。一方、分配された信号の他方は、第2整合回路22を介して第2増幅素子32に送られ、この第2増幅素子32において増幅された信号は、合成器40の第2合成器分岐部42に送られる。合成器40は、第1増幅素子31から第1合成器分岐部41に送られてきた信号と、第2増幅素子32から第2合成器分岐部42に送られてきた信号とを合成し、出力端子OUTから出力する。
【0011】
ところで、上述した従来の高周波電力増幅器では、仮に抵抗R1またはR2が存在しなければ、分配器1の第1分配器分岐部11→第1増幅素子31→合成器4の第1合成器分岐部41→合成点→合成器4の第2合成器分岐部42→第2増幅素子32→分配器1の第2分配器分岐部12→分配点→分配器1の第1分配器分岐部11→・・・という閉ループが形成されており、しばしばループ発振が起こるという問題がある。そこで、合成器40の第1合成器分岐部41と第2合成器分岐部42との間に抵抗R1を接続し、または、分配器10の第1分配器分岐部11と第2分配器分岐部12との間に抵抗R2を接続して発振を防ぐことが行われている。
【0012】
抵抗R1またはR2が発振の防止に最も有効に働く周波数は、合成点または分配点から抵抗の位置までの分岐長がλ/4となる周波数である。これは、ウィルキンソン回路を応用したものと見ることができる。抵抗R1の両端が接続された場所をそれぞれポートPa、ポートPbとすれば、ウィルキンソン回路はポートPaとポートPbとの間のアイソレーションを得る回路であるから、ポートPaに入った信号はポートPbに伝わらない。同様に、抵抗R2の両端が接続された場所をそれぞれポートPc、ポートPdとすれば、ウィルキンソン回路はポートPcとポートPdとの間のアイソレーションを得る回路であるから、ポートPcに入った信号はポートPdに伝わらない。すなわち、先の閉ループのループ利得をアイソレーションで打ち消すことになり、ループ発振を防止することができる。
【0013】
図6に示す構造を有する高周波電力増幅器は、増幅素子の数が2つであるので、合成器40の第1合成器分岐部41と第2合成器分岐部42とを隣り合った導体パターンで構成することができるので、合成器40の第1合成器分岐部41と第2合成器分岐部42との間の距離を短くすることができる。したがって、第1合成器分岐部41と第2合成器分岐部42との間を、抵抗体パターンから成る抵抗R1で接続することは容易である。同様に、分配器10の第1分配器分岐部11と第2分配器分岐部12とを隣り合った導体パターンで構成することができるので、分配器10の第1分配器分岐部11と第2分配器分岐部12との間の距離を短くすることができる。したがって、第1分配器分岐部11と第2分配器分岐部12との間を、抵抗体パターンから成る抵抗R2で接続することは容易である。
【0014】
図7は、4個の増幅素子を備えた従来の高周波電力増幅器の等価回路を示す図である。この高周波電力増幅器は、分配器100、第1高周波電力増幅部200、第2高周波電力増幅部300および合成器400から構成されている。第1高周波電力増幅部200および第2高周波電力増幅部300は、図6に示した高周波電力増幅器と同じであるが、抵抗R1および抵抗R2の記載は省略されている。これら抵抗R1および抵抗R2は、必要に応じて付加される。
【0015】
分配器100は、入力端子INから入力された信号を2つに分配し、この分配した信号の一方を第1高周波電力増幅部200に送り、他方を第2高周波電力増幅部300に送る。合成器400は、第1高周波電力増幅部200から送られてくる信号と、第2高周波電力増幅部300から送られてくる信号とを合成し、出力端子OUTから出力する。
【0016】
この高周波電力増幅器は、4個の増幅素子を備えているため、そのままでは分配器100の2つの分岐部の間の距離が大きくなり、その間を抵抗で接続することが難しくなるという問題がある。同様に、合成器400の2つの分岐部の間の距離が大きくなり、その間を抵抗で接続することが難しくなるという問題がある。
【0017】
そこで、合成器400は、合成点からλ/4の長さとなる位置で2つの分岐部が近づくように導体パターンを形成し、2つの分岐部が近づいた位置に抵抗R1を接続し、再度必要な幅まで分岐部を広げる導体パターンを形成して構成されている。同様に、分岐部100は、分岐点からλ/4の長さとなる位置で2つの分岐部が近づくように導体パターンを形成し、2つの分岐部が近づいた位置に抵抗R2を接続し、再度必要な幅まで分岐部を広げる導体パターンを形成して構成されている。
【0018】
図8は、4個の増幅素子を備えた従来の他の高周波電力増幅器の等価回路を示す図である。この高周波電力増幅器は、分配器500、第1高周波電力増幅部200、第2高周波電力増幅部300および合成器600から構成されている。第1高周波電力増幅部200および第2高周波電力増幅部300は、図6に示した高周波電力増幅器と同じであるが、抵抗R1および抵抗R2の記載は省略されている。これら抵抗R1および抵抗R2は、必要に応じて付加される。
【0019】
分配器500は、入力端子INから入力された信号を2つに分配し、この分配した信号の一方を第1高周波電力増幅部200に送り、他方を第2高周波電力増幅部300に送る。合成器600は、第1高周波電力増幅部200から送られてくる信号と、第2高周波電力増幅部300から送られてくる信号とを合成し、出力端子OUTから出力する。
【0020】
この高周波電力増幅器は、図7に示した高周波電力増幅器と同様の問題を解消するために、合成器600は、合成点からλ/4の長さとなる2つの分岐部の位置の間に、コンデンサC31、抵抗R1およびコンデンサC32から成る直列回路を、線路L41および線路L42を介して接続することにより構成されている。コンデンサC31は、線路L41のインダクタンス成分による位相の変化をキャンセルするように作用する。また、コンデンサC32は、線路L42のインダクタンス成分による位相の変化をキャンセルするように作用する。
【0021】
同様に、分配器500は、合成点からλ/4の長さとなる2つの分岐部の位置の間に、コンデンサC41、抵抗R2およびコンデンサC42から成る直列回路を、線路L51および線路L52を介して接続することにより構成されている。コンデンサC41は、線路L41のインダクタンス成分による位相の変化をキャンセルするように作用する。また、コンデンサC42は、線路L42のインダクタンス成分による位相の変化をキャンセルするように作用する。
【0022】
以上説明したような従来の高周波電力増幅器に関連する技術として、特許文献1は、アイソレーション特性を飛躍的に向上させた高周波電力分配器/合成器と、これを用いた高性能な電力増幅器とを開示している。この特許文献1に開示されている高周波電力分配器/合成器は、第1ノードと、第2ノードと、第3ノードと、第1ノードと第2ノードとに電気的に結合された第1伝送線路と、第1ノードと第3ノードとに電気的に結合された第2伝送線路と、第2ノードと第3ノードとに電気的に結合され、抵抗およびリアクタンスを有する移相器とを備え、第2ノードからみたときの抵抗およびリアクタンスの分布は、第3ノードからみたときの抵抗およびリアクタンスの分布に実質的に等しくなるように構成されている。
【0023】
また、特許文献2は、分配端子間の距離が離れることにより生じるアイソレーションの劣化を防止し、良好なアイソレーション特性を有するマイクロ波電力合成・分配回路を開示している。このマイクロ波電力合成・分配回路においては、第1伝送線路の一端を第1信号端子(分配端子)とし、第2伝送線路の一端を第2信号端子(分配端子)とし、第1伝送線路の他端と第2伝送線路の他端を接続し、その接続部を第3信号端子(合成端子)とする。第1信号端子と第2信号端子との間には、第1コンデンサ、抵抗(アイソレーション抵抗)、第2コンデンサが直列に接続され、第1伝送線路および第2伝送線路の長さは波長の約1/4で構成されている。
【特許文献1】特開平9−321509号公報
【特許文献2】特開平10−284912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、上述した従来の高周波電力増幅器では、分岐部を形成する導体パターンの長さが長くなるので、ロスが増えるという問題がある。
【0025】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、分岐部におけるロスの増加を防ぎつつ、ループ発振を防止できる高周波電力増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、入力信号を2つに分配する分配器と、分配器から送られてくる信号の一方を第1分配器分岐部と第2分配器分岐部とによって2つに分配する第1分配器、第1分配器の第1分配器分岐部と第2分配器分岐部とから送られてくる2つの信号をそれぞれ増幅する第1増幅回路、第1増幅回路から送られてくる2つの増幅された信号を第1合成器分岐部と第2合成器分岐部とによりそれぞれ受け取って合成する第1合成器を備えた第1高周波電力増幅部と、分配器から送られてくる信号の他方を第4分配器分岐部と第2分配器分岐部に隣り合うように設けられた第3分配器分岐部とによって2つに分配する第2分配器、第2分配器の第1分配器分岐部と第2分配器分岐部とから送られてくる2つの信号をそれぞれ増幅する第2増幅回路、第2増幅回路から送られてくる2つの増幅された信号を第4合成器分岐部と第2合成器分岐部に隣り合うように設けられた第3合成器分岐部とによりそれぞれ受け取って合成する第2合成器を備えた第2高周波電力増幅部と、第1合成器から送られてくる信号と第2合成器から送られてくる信号とを合成する合成器と、第2分配器分岐部と第3分配器分岐部との間、または、第2合成器分岐部と第3分配器分岐部との間に設けられた、第1コンデンサ、抵抗および第2コンデンサが直列に接続された安定化回路とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、合成器および分配器の分岐部の長さは増大しないので、ロスの増加を防ぐことができる。また、第2分配器分岐部と第3分配器分岐部との間、または、第2合成器分岐部と第3分配器分岐部との間に、第1コンデンサ、抵抗および第2コンデンサが直列に接続された安定化回路を備えたので、ループ発振を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明の実施例1に係る高周波電力増幅器の等価回路を示す図である。なお、この高周波電力増幅器は、「内部整合型電力増幅回路」とも呼ばれる。この高周波電力増幅器は、分配器1、第1高周波電力増幅部2、第2高周波電力増幅部3、合成器4および安定化回路5から構成されている。第1高周波電力増幅部2および第2高周波電力増幅部3は、図6に示した高周波電力増幅器と同じであるが、抵抗R1および抵抗R2の記載は省略されている。これら抵抗R1およびR2は、必要に応じて付加される。
【0030】
第1高周波電力増幅部2の分配器、増幅回路および合成器は、それぞれ本発明の第1分配器、第1増幅回路および第1合成器に対応し、第2高周波電力増幅部3の分配器、増幅回路および合成器は、それぞれ本発明の第2分配器、第2増幅回路および第2合成器に対応する。また、第2分配器の2つの分岐部は、本発明の第3分配器分岐部および第4分配器分岐部にそれぞれ対応し、第2合成器の2つの分岐部は、本発明の第3合成器分岐部および第4合成器分岐部にそれぞれ対応する。
【0031】
分配器1は、入力端子INから入力された信号を2つに分配し、この分配した信号の一方を第1高周波電力増幅部2に送り、他方を第2高周波電力増幅部3に送る。合成器4は、第1高周波電力増幅部2から送られてくる信号と、第2高周波電力増幅部3から送られてくる信号とを合成し、出力端子OUTから出力する。
【0032】
安定化回路5は、コンデンサC1、抵抗R1およびコンデンサC2が直列に接続されて構成されており、第1高周波電力増幅部2の第2合成器分岐部と第2高周波電力増幅部3の第3合成器分岐部との間に配置されている。コンデンサC1とコンデンサC2は、同一の容量を有する。
【0033】
ここで、安定化回路5は、コンデンサと抵抗とから成る直列回路ではなく、コンデンサ、抵抗およびコンデンサから成る直列回路にして、2つのコンデンサを用いているのは以下の理由による。すなわち、コンデンサや抵抗が理想的な集中定数素子であれば、コンデンサ、抵抗およびコンデンサから成る直列回路(以下、「C−R−C回路」という)は、半分の容量から成るコンデンサと抵抗とから成る直列回路(以下、「C/2−R回路」という)と等価であるから、敢えて2個のコンデンサを用いる必要はない。
【0034】
ところが、本発明に係る高周波電力増幅器が適用される高周波領域では、実際の抵抗素子には寄生容量成分などが存在し、実際のコンデンサ素子には寄生インダクタンス成分などが存在するので、C−R−C回路とC/2−R回路は等価にならない。増幅動作中は、回路の対称性から各分岐部の電位は等しく、安定化回路5に信号が流れないことが理想であるが、実際には上述した寄生成分のために僅かな信号が流れる。このとき、回路が対称でないと、抵抗R1における消費電力が増えるので、増幅回路としてロスが増えるという欠点が生じる。そこで、安定化回路5を、コンデンサ、抵抗およびコンデンサといった順番で接続することにより対称性を有するように構成し、ロスの増大を防いでいる。
【0035】
図8を参照して説明した従来の高周波電力増幅器と同様に、合成器4は、合成点からλ/4の長さとなる2つの分岐部の位置の間に、コンデンサC1、抵抗R1およびコンデンサC2から成る安定化回路5を、第1高周波電力増幅部2の第2合成器分岐部および第2高周波電力増幅部3の第3合成器分岐部の各一部を介して接続することにより構成されている。コンデンサC1は、第2合成器分岐部の一部のインダクタンス成分による位相の変化をキャンセルするように作用し、コンデンサC2は、第3合成器分岐部の一部のインダクタンス成分による位相の変化をキャンセルするように作用する。
【0036】
図2は、図1に示した高周波電力増幅器の回路の実装図である。分配器1、第1高周波電力増幅部2の分配器および第2高周波電力増幅部3の分配器は、入力側の誘電体基板61上に形成された導体パターンによる分布定数回路から構成されている。同様に、第1高周波電力増幅部2の合成器および第2高周波電力増幅部3の合成器は、出力側の第1誘電体基板68上に形成された導体パターンによる分布定数回路から構成されており、合成器4は、出力側の第2誘電体基板69上に形成された導体パターンによる分布定数回路から構成されている
第1高周波電力増幅部2および第2高周波電力増幅部3の整合回路を構成するコンデンサ62(図6に示すコンデンサC11およびコンデンサC12に対応する)と、第1高周波電力増幅部2の分配器および第2高周波電力増幅部3の分配器との間はボンディングワイヤ63により接続されている。また、コンデンサ62と増幅素子64(図6に示す増幅素子31および増幅素子32に対応する)との間はボンディングワイヤ65により接続され、さらに、増幅素子64と第1誘電体基板68との間は、ボンディングワイヤ67により接続されている。
【0037】
また、安定化回路5は、第1高周波電力増幅部2の第2合成器分岐部と第2高周波電力増幅部3の第3合成器分岐部との間に配置されている。図3は、安定化回路5の部分を拡大して示す図である。抵抗R1は、誘電体基板68上に形成された抵抗体パターンにより構成されている。抵抗R1の形成は、通常は、アルミナなどの誘電体基板上に、抵抗膜としてニクロムやクロムの薄膜を蒸着し、その上に金などの導体薄膜を蒸着後、金などの導体のめっきを所望の厚みだけ付ける。その後、エッチングにて所望の抵抗体パターンが形成される。
【0038】
図3に示す例では、抵抗膜が金パターンの下に全て存在しているが、抵抗が必要なところに部分的に膜付けするように構成することもできる。また、コンデンサC1およびコンデンサC2は、高誘電率基板の両面に導体パターンが形成された平行平板コンデンサから構成されており、一方の導体パターンからボンディングワイヤ70によって誘電体基板上の導体パターンに接続され、他方の導体パターンが誘電体基板上の抵抗体パターンに接続された導体パターン上に半田接合されている。
【0039】
なお、図3に示す安定化回路5では、コンデンサは別部品で構成したが、薄膜技術で誘電体基板上に形成するように構成することもできる。
【0040】
次に、上述した実施例1に係る高周波電力増幅器において、安定化回路5を抵抗R1のみで構成した場合と、コンデンサC1、抵抗R1およびコンデンサC2から成る直列回路で構成した場合とを比較する実験を行ったので、その結果を説明する。
【0041】
図4は、安定化回路5を抵抗R1のみで構成した場合の周波数とKファクタとの関係を示す図である。Kファクタは、回路のパラメータから算出される値であり、発振が起こるか否かを示す値である。このKファクタが「1」以下であれば、発振が起こって動作は不安定になる可能性があり、「1」より大きければ発振は起こらず動作は安定になる。抵抗R1の抵抗値を変化させてもKファクタは1以下であり、動作は不安定になる。
【0042】
図5は、安定化回路5をコンデンサC1、抵抗R1およびコンデンサC2から成る直列回路で構成した場合の周波数とKファクタとの関係を示す図であり、図5(a)は、コンデンサC1およびコンデンサC2を1pFとして抵抗R1の抵抗値を変化させた場合、図5(b)は、抵抗R1を12.5ΩとしてコンデンサC1およびコンデンサC2の容量を変化させた場合を示している。この図5により、使用される帯域内の安定化には、コンデンサC1およびコンデンサC2の容量が1pF、抵抗R1の抵抗値が12.5Ω程度であることが好ましいことが分かる。
【0043】
なお、上述した実施例1に係る高周波電力増幅器では、安定化回路5を、第1高周波電力増幅部2の第2合成器分岐部と第2高周波電力増幅部3の第3合成器分岐部との間に配置したが、第1高周波電力増幅部2の第2分配器分岐部と第2高周波電力増幅部3の第3分配器分岐部との間に配置するように構成することもできる。
【0044】
また、上述した実施例1に係る高周波電力増幅器では、4個の高周波電力増幅部を備えた場合について説明したが、本発明は、一般的に表すと、2のn乗個(nは2以上の整数)の高周波電力増幅部を備えて構成することができる。この場合、2のn乗個の高周波電力増幅部の各々の構成は、図1に示した実施例1のそれと同じであり、また、入力信号を2のn乗個の高周波電力増幅部に分配する完全2分岐状に配置された分配器群と、2のn乗個の高周波電力増幅部からの信号を合成する完全2分岐状に配置された合成器群とを備えて構成される。
【0045】
また、安定化回路は、2のn乗個の高周波電力増幅部のうちの中央に配置された2個の高周波電力増幅部の一方の第2分配器分岐部と他方の第1分配器分岐部との間、または、2個の高周波電力増幅部の一方の第2合成器分岐部と他方の第1合成器分岐部との間に、第1コンデンサ、抵抗および第2コンデンサが直列に接続されて構成される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、例えばマイクロ波を高い増幅率で増幅する場合に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例1に係る高周波電力増幅器の等価回路を示す図である。
【図2】図1に示した高周波電力増幅器の回路の実装図である。
【図3】図1に示す安定化回路の部分を拡大して示す図である。
【図4】本発明の実施例1に係る高周波電力増幅器において、安定化回路を抵抗のみで構成した場合の周波数とKファクタとの関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例1に係る高周波電力増幅器において、安定化回路をC−R−C回路で構成した場合の周波数とKファクタとの関係を示す図である。
【図6】従来の2個の増幅素子を備えた高周波電力増幅器の等価回路を示す図である。
【図7】従来の4個の増幅素子を備えた高周波電力増幅器の等価回路を示す図である。
【図8】従来の4個の増幅素子を備えた他の高周波電力増幅器の等価回路を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1…分配器、2…第1高周波電力増幅部、3…第2高周波電力増幅部、4…合成器、5…安定化回路、11…第1分配器分岐部、12…第2分配器分岐部、41…第1合成器分岐部、42…第2合成器分岐部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を2つに分配する分配器と、
前記分配器から送られてくる信号の一方を第1分配器分岐部と第2分配器分岐部とによって2つに分配する第1分配器、前記第1分配器の第1分配器分岐部と第2分配器分岐部とから送られてくる2つの信号をそれぞれ増幅する第1増幅回路、前記第1増幅回路から送られてくる2つの増幅された信号を第1合成器分岐部と第2合成器分岐部とによりそれぞれ受け取って合成する第1合成器を備えた第1高周波電力増幅部と、
前記分配器から送られてくる信号の他方を第4分配器分岐部と前記第2分配器分岐部に隣り合うように設けられた第3分配器分岐部とによって2つに分配する第2分配器、前記第2分配器の第1分配器分岐部と第2分配器分岐部とから送られてくる2つの信号をそれぞれ増幅する第2増幅回路、前記第2増幅回路から送られてくる2つの増幅された信号を第4合成器分岐部と前記第2合成器分岐部に隣り合うように設けられた第3合成器分岐部とによりそれぞれ受け取って合成する第2合成器を備えた第2高周波電力増幅部と、
前記第1合成器から送られてくる信号と前記第2合成器から送られてくる信号とを合成する合成器と、
前記第2分配器分岐部と前記第3分配器分岐部との間、または、前記第2合成器分岐部と前記第3分配器分岐部との間に設けられた、第1コンデンサ、抵抗および第2コンデンサが直列に接続された安定化回路と、
を備えたことを特徴とする高周波電力増幅器。
【請求項2】
前記分配器、第1分配器、第2分配器、第1合成器、第2合成器および合成器は、誘電体基板上に形成された導体パターンによる分布定数回路から構成されていることを特徴とする請求項1記載の高周波電力増幅器。
【請求項3】
前記抵抗は、誘電体基板上に形成された抵抗体パターンから構成されていることを特徴とする請求項2記載の高周波電力増幅器。
【請求項4】
前記第1コンデンサおよび第2コンデンサは、高誘電率基板の両面に導体パターンが形成された平行平板コンデンサから成り、該第1コンデンサおよび第2コンデンサの各々の一方の導体パターンは誘電体基板上の導体パターン上に半田で接合され、他方の導体パターンはボンディングワイヤで前記誘電体基板上の抵抗体パターンに接続された導体パターンに接続されていることを特徴とする請求項3記載の高周波電力増幅器。
【請求項5】
入力された信号を第1分配器分岐部と第2分配器分岐部によって2つに分配する分配器、前記分配器の第1分配器分岐部と第2分配器分岐部とから送られてくる2つの信号をそれぞれ増幅する増幅回路、前記増幅回路から送られてくる2つの増幅された信号を第1合成器分岐部と第2合成器分岐部とによりそれぞれ受け取って合成する合成器を、各々が備えた2のn乗個(nは2以上の整数)の高周波電力増幅部と、
入力信号を前記2のn乗個の高周波電力増幅部に分配する完全2分岐状に配置された分配器群と、
前記2のn乗個の高周波電力増幅部からの信号を合成する完全2分岐状に配置された合成器群と、
前記2のn乗個の高周波電力増幅部のうちの中央に配置された2個の高周波電力増幅部の一方の第2分配器分岐部と他方の第1分配器分岐部との間、または、前記2個の高周波電力増幅部の一方の第2合成器分岐部と他方の第1合成器分岐部との間に設けられた、第1コンデンサ、抵抗および第2コンデンサが直列に接続された安定化回路と、
を備えたことを特徴とする高周波電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−160449(P2008−160449A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346434(P2006−346434)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】