説明

高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット

【課題】光記録媒体の保護膜を形成するための高強度スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】モル%で、酸化ジルコニウムまたは酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、必要に応じて酸化イットリウム:0.1〜8.4%を含有し、残部:酸化アルミニウム、酸化ランタンまたは酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にAlSi13、LaSiOまたはInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザー光により情報の記録、再生、記録および再生、並びに消去を行うことのできる光記録媒体の保護膜を形成するための高強度を有するスパッタリングターゲット(以下、ターゲットと云う)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、光ディスクなどの光記録媒体を構成する保護膜(下部保護膜および上部保護膜を含む。以下、同じ)は代表的なものとして二酸化けい素(SiO2):20%を含有し、残部が酸化亜鉛(ZnS)からなる組成を有することが知られており、この組成を有する保護膜は二酸化けい素(SiO2):20%を含有し、残部が酸化亜鉛(ZnS)からなるZnS−SiO2系ホットプレス焼結体で構成した光記録媒体保護層形成用ターゲットを用いてスパッタリングことにより得られることが知られている。
【0003】
しかし、このZnS−SiO2系ホットプレス焼結体からなるターゲットは、レーザー光を記録膜に照射して繰り返し書き換えを行うと、ZnS−SiO2系ホットプレス焼結体からなるターゲットを構成するZnSのSが記録膜中に拡散し、繰り返し書き換えの性能を低下させると言う欠点があった。そのためにSを含まない保護膜の開発が進められており、Sを含まない保護膜の一例としてモル%で、

(イ)酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜、
(ロ)酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜、
(ハ)酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜、
(ニ)酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜、
(ホ)酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜、
(ヘ)酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜、
(ト)酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜、
(チ)酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜、

(リ)酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜、などが開発されている。さらに、この前記(イ)〜(リ)記載の成分組成を有する光記録媒体保護膜を形成するためのターゲットも開発されており、このターゲットは前記(イ)〜(リ)記載の光記録媒体保護膜と同一の成分組成を有するとされている(特許文献1参照)。
前記ターゲットは、前記(イ)〜(リ)記載の酸化物粉末を原料粉末として用意し、これら原料粉末を所定の割合に配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を成形したのち大気中または酸素雰囲気などの酸化性雰囲気中で焼成することにより作製する。
【特許文献1】特開2005−56545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記(イ)〜(リ)記載の酸化物粉末を原料粉末として用意し、これら原料粉末を所定の割合に配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を成形したのち酸化性雰囲気中において通常の条件で焼成することにより作製したターゲットは、高出力スパッタ中に割れが発生し、光記録媒体用保護膜を効率良く形成することができない。この発明は、高出力でスパッタしても割れることのない高強度の光記録媒体保護膜形成用ターゲットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは高出力スパッタしてもスパッタ中に割れることがない高強度光記録媒体保護膜形成用ターゲットを作製すべく研究を行った。

その結果、(a)酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、

酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、または
酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
ターゲット素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有するターゲットは、密度および強度が一段と向上し、高出力スパッタ中に割れが発生することはない、

(b)酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、または、
酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
ターゲット素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有するターゲットは、密度および強度が一段と向上し、高出力スパッタ中に割れが発生することはない、

(c)酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、

酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
ターゲット素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有するターゲットは、密度および強度が一段と向上し、高出力スパッタ中に割れが発生することはない、
InSiの組成を有する複合酸化物相が生成していないターゲットに比べて密度及び強度が格段に向上するという研究結果が得られたのである。
【0006】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、

(1)モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(2)モル%で、酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(3)モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(4)モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(5)モル%で、酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(6)モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(7)モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(8)モル%で、酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(9)モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有する高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0007】
この発明の高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットを製造するには、原料粉末として、酸化ジルコニウム粉末、イットリア安定化酸化ジルコニウム粉末、酸化ハフニウム粉末、非晶質二酸化ケイ素粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化ランタン粉末および酸化インジウム粉末を用意し、これら原料粉末を、前記(1)〜(9)記載の成分組成となるように配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末をプレス成形して得られた成形体を、酸素雰囲気中、通常の焼結温度よりも高い温度:1300℃以上で活性焼結することにより作製することができる。
【0008】
この発明の高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットを製造するにおいて、原料粉末として非晶質の二酸化ケイ素粉末を使用すること、雰囲気を酸素雰囲気にすること、温度:1300℃以上で焼成することが重要であり、結晶質の二酸化ケイ素粉末を使用すると、得られたターゲットに反りが発生したり強度が低下したりするので好ましくない。また、原料粉末として使用する酸化ジルコニウム粉末は、安定化または部分安定化された酸化ジルコニウム粉末であっても良い。この安定化または部分安定化された酸化ジルコニウム粉末としては、例えば、Y:1〜12モル%含む酸化ジルコニウム粉末が知られている。
【発明の効果】
【0009】
この発明の光記録媒体保護膜形成用のターゲットは、強度が一層向上するところから大型化することができ、高出力のスパッタを行ってもターゲットに割れが生じないので一層効率良く光記録媒体保護膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、この発明の光記録媒体保護膜形成用ターゲットを実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、平均粒径:0.2μmを有する純度:99.99%以上のZrO粉末、平均粒径:0.2μmを有する純度:99.99%以上のHfO粉末、平均粒径:0.2μmを有する純度:99.99%以上の非晶質SiO2粉末、平均粒径:1μmを有する純度:99.99%以上の結晶質SiO2粉末、平均粒径:0.5μmを有する純度:99.9%以上のIn23粉末、平均粒径:0.5μmを有する純度:99.9%以上のAl23粉末および平均粒径:0.5μmを有する純度:99.9%以上のLa23粉末を用意し、さらにY:3モル%含有した安定化ZrO粉末を用意した。
【0011】
実施例1
先に用意したZrO粉末、非晶質SiO2粉末、結晶質SiO2粉末およびAl23粉末を表1に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末をプレス成形し、得られた成形体を表1に示される条件で焼成することにより、いずれも直径:200mm×厚さ:6mmの寸法をもったZrO:30%、SiO2:20%を含有し、残部:Al23からなる組成を有する本発明ターゲット1および従来ターゲット1を作製した。この本発明ターゲット1および従来ターゲット1の切断面を研磨したのちX線回折およびEPMAにより観察し、素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成しているか否かを観察し、その結果を表1に示した。さらに本発明ターゲット1および従来ターゲット1の密度および抗折強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0012】
さらに、得られた本発明ターゲット1および従来ターゲット1を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置し、次いで、かかる状態で本発明ターゲット1および従来ターゲット1を用い、直流電源にて通常より高いスパッタ電力:9kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成し、この時ターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表1に示した。
【0013】
【表1】

【0014】
表1に示される結果から、成分組成が同じであっても素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している本発明ターゲット1は、素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成していない従来ターゲット1に比べて密度および強度が高く、さらにスパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0015】
実施例2
先に用意したHfO粉末、非晶質SiO2粉末、結晶質SiO2粉末およびAl23粉末を表2に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末をプレス成形し、得られた成形体を表2に示される条件で焼成することにより、いずれも直径:200mm×厚さ:6mmの寸法をもったHfO:30%、SiO2:20%を含有し、残部:Al23からなる組成を有する本発明ターゲット2および従来ターゲット2を作製した。この本発明ターゲット2および従来ターゲット2の切断面を研磨したのちX線回折およびEPMAにより素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成しているか否かを観察し、その結果を表5に示し、さらに本発明ターゲット2および従来ターゲット2の密度および抗折強度を測定し、その結果を表2に示した。
【0016】
さらに、得られた本発明ターゲット2および従来ターゲット2を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置し、次いで、かかる状態で本発明ターゲット2および従来ターゲット2を用い、直流電源にて通常より高いスパッタ電力:7kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成し、この時ターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表2に示した。
【0017】
【表2】

【0018】
表2に示される結果から、成分組成が同じであっても素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している本発明ターゲット2は、素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成していない従来ターゲット2に比べて密度および強度が高く、さらにスパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0019】
実施例3
先に用意したY:3モル%含有した安定化ZrO粉末、非晶質SiO2粉末、結晶質SiO2粉末およびAl23粉末を表3に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末をプレス成形し、得られた成形体を表3に示される条件で焼成することにより、いずれも直径:200mm×厚さ:6mmの寸法をもったZrO:30%、Y23:0.9%、SiO2:20%を含有し、残部:Al23からなる組成を有する本発明ターゲット3および従来ターゲット3を作製した。この本発明ターゲット3および従来ターゲット3の切断面を研磨したのちX線回折およびEPMAにより素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成しているか否かを観察し、その結果を表3に示した。さらに本発明ターゲット3および従来ターゲット3の密度および抗折強度を測定し、その結果を表3に示した。
【0020】
さらに、得られた本発明ターゲット3および従来ターゲット3を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置し、次いで、かかる状態で本発明ターゲット3および従来ターゲット3を用い、直流電源にて通常より高いスパッタ電力:9kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成し、この時ターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表3に示した。
【0021】
【表3】

【0022】
表3に示される結果から、成分組成が同じであっても素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している本発明ターゲット3は、素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成していない従来ターゲット3に比べて密度および強度が高く、さらにスパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0023】
実施例4
先に用意したZrO粉末、非晶質SiO2粉末、結晶質SiO2粉末およびLa23粉末を表4に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末をプレス成形し、得られた成形体を表4に示される条件で焼成することにより、いずれも直径:200mm×厚さ:6mmの寸法をもったZrO:30%、SiO2:20%を含有し、残部:La23からなる組成を有する本発明ターゲット4および従来ターゲット4を作製した。この本発明ターゲット4および従来ターゲット4の切断面を研磨したのちX線回折およびEPMAにより観察し、素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成しているか否かを観察し、その結果を表4に示した。さらに本発明ターゲット4および従来ターゲット4の密度および抗折強度を測定し、その結果を表4に示した。
【0024】
さらに、得られた本発明ターゲット4および従来ターゲット4を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置し、次いで、かかる状態で本発明ターゲット4および従来ターゲット4を用い、直流電源にて通常より高いスパッタ電力:9kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成し、この時ターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表4に示した。
【0025】
【表4】

【0026】
表4に示される結果から、成分組成が同じであっても素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している本発明ターゲット4は、素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成していない従来ターゲット4に比べて密度および強度が高く、さらにスパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0027】
実施例5
先に用意したHfO粉末、非晶質SiO2粉末、結晶質SiO2粉末およびLa23粉末を表2に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末をプレス成形し、得られた成形体を表5に示される条件で焼成することにより、いずれも直径:200mm×厚さ:6mmの寸法をもったHfO:30%、SiO2:20%を含有し、残部:La23からなる組成を有する本発明ターゲット5および従来ターゲット5を作製した。この本発明ターゲット5および従来ターゲット5の切断面を研磨したのちX線回折およびEPMAにより素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成しているか否かを観察し、その結果を表5に示し、さらに本発明ターゲット5および従来ターゲット5密度および抗折強度を測定し、その結果を表5に示した。
【0028】
さらに、得られた本発明ターゲット5および従来ターゲット5を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置し、次いで、かかる状態で本発明ターゲット5および従来ターゲット5を用い、直流電源にて通常より高いスパッタ電力:7kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成し、この時ターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表5に示した。
【0029】
【表5】

【0030】
表5に示される結果から、成分組成が同じであっても素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している本発明ターゲット5は、素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成していない従来ターゲット5に比べて密度および強度が高く、さらにスパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0031】
実施例6
先に用意したY:3モル%含有した安定化ZrO粉末、非晶質SiO2粉末、結晶質SiO2粉末およびLa23粉末を表6に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末をプレス成形し、得られた成形体を表6に示される条件で焼成することにより、いずれも直径:200mm×厚さ:6mmの寸法をもったZrO:30%、Y23:0.9%、SiO2:20%を含有し、残部:La23からなる組成を有する本発明ターゲット6および従来ターゲット6を作製した。この本発明ターゲット6および従来ターゲット6の切断面を研磨したのちX線回折およびEPMAにより素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成しているか否かを観察し、その結果を表6に示した。さらに本発明ターゲット6および従来ターゲット6の密度および抗折強度を測定し、その結果を表6に示した。
【0032】
さらに、得られた本発明ターゲット6および従来ターゲット6を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置し、次いで、かかる状態で本発明ターゲット6および従来ターゲット6を用い、直流電源にて通常より高いスパッタ電力:9kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成し、この時ターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表6に示した。
【0033】
【表6】

【0034】
表6に示される結果から、成分組成が同じであっても素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している本発明ターゲット6は、素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成していない従来ターゲット6に比べて密度および強度が高く、さらにスパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0035】

実施例7
先に用意したZrO粉末、非晶質SiO2粉末、結晶質SiO2粉末およびIn23粉末を表7に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末をプレス成形し、得られた成形体を表7に示される条件で焼成することにより、いずれも直径:200mm×厚さ:6mmの寸法をもったZrO:30%、SiO2:20%を含有し、残部:In23からなる組成を有する本発明ターゲット7および従来ターゲット7を作製した。この本発明ターゲット7および従来ターゲット7の切断面を研磨したのちX線回折およびEPMAにより観察し、素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成しているか否かを観察し、その結果を表7に示した。さらに本発明ターゲット7および従来ターゲット7の密度および抗折強度を測定し、その結果を表7に示した。
【0036】
さらに、得られた本発明ターゲット7および従来ターゲット7を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置し、次いで、かかる状態で本発明ターゲット7および従来ターゲット7を用い、直流電源にて通常より高いスパッタ電力:9kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成し、この時ターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表7に示した。
【0037】
【表7】

【0038】
表7に示される結果から、成分組成が同じであっても素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している本発明ターゲット7は、素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成していない従来ターゲット7に比べて密度および強度が高く、さらにスパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0039】
実施例8
先に用意したHfO粉末、非晶質SiO2粉末、結晶質SiO2粉末およびIn23粉末を表8に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末をプレス成形し、得られた成形体を表8に示される条件で焼成することにより、いずれも直径:200mm×厚さ:6mmの寸法をもったHfO:30%、SiO2:20%を含有し、残部:In23からなる組成を有する本発明ターゲット8および従来ターゲット8を作製した。この本発明ターゲット8および従来ターゲット8の切断面を研磨したのちX線回折およびEPMAにより素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成しているか否かを観察し、その結果を表8に示し、さらに本発明ターゲット8および従来ターゲット8の密度および抗折強度を測定し、その結果を表8に示した。
【0040】
さらに、得られた本発明ターゲット8および従来ターゲット8を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置し、次いで、かかる状態で本発明ターゲット8および従来ターゲット8を用い、直流電源にて通常より高いスパッタ電力:7kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成し、この時ターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表8に示した。
【0041】
【表8】

【0042】
表8に示される結果から、成分組成が同じであっても素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している本発明ターゲット8は、素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成していない従来ターゲット8に比べて密度および強度が高く、さらにスパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0043】
実施例9
先に用意したY:3モル%含有した安定化ZrO粉末、非晶質SiO2粉末、結晶質SiO2粉末およびIn23粉末を表9に示される配合組成となるように秤量しヘンシェルミキサーで均一に混合した後、この混合粉末をプレス成形し、得られた成形体を表9に示される条件で焼成することにより、いずれも直径:200mm×厚さ:6mmの寸法をもったZrO:30%、Y23:0.9%、SiO2:20%を含有し、残部:In23からなる組成を有する本発明ターゲット9および従来ターゲット9を作製した。この本発明ターゲット9および従来ターゲット9の切断面を研磨したのちX線回折およびEPMAにより素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成しているか否かを観察し、その結果を表9に示した。さらに本発明ターゲット9および従来ターゲット9の密度および抗折強度を測定し、その結果を表9に示した。
【0044】
さらに、得られた本発明ターゲット9および従来ターゲット9を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を1.5×10-3Torrのスパッタガス圧とした。また、厚さ:0.6mmのポリカーボネート基板をターゲットの間隔:70mmにて配置し、次いで、かかる状態で本発明ターゲット6および従来ターゲット6を用い、直流電源にて通常より高いスパッタ電力:9kWを印加することにより前記ポリカーボネート基板表面に厚さ:50nmを有する光記録媒体保護膜を形成し、この時ターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表9に示した。
【0045】
【表9】

【0046】
表9に示される結果から、成分組成が同じであっても素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している本発明ターゲット9は、素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成していない従来ターゲット9に比べて密度および強度が高く、さらにスパッタ中に割れが発生しないことが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有することを特徴とする高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
モル%で、酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有することを特徴とする高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化アルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にAlSi13の組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有することを特徴とする高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有することを特徴とする高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項5】
モル%で、酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有することを特徴とする高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項6】
モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化ランタンおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にLaSiOの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有することを特徴とする高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項7】
モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有することを特徴とする高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項8】
モル%で、酸化ハフニウム:10〜70%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有することを特徴とする高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項9】
モル%で、酸化ジルコニウム:10〜70%、酸化イットリウム:0.1〜8.4%、二酸化ケイ素:50%以下(0%を含まず)を含有し、残部:酸化インジウムおよび不可避不純物からなる組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット素地中にInSiの組成を有する複合酸化物相が生成している組織を有することを特徴とする高強度光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2007−327103(P2007−327103A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159303(P2006−159303)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】