説明

高温部材の擦動面のコーティング方法および高温部材と放電表面処理用電極

高温部の擦動面に高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の一方又は両方を放電表面処理する。高温硬質材(4)は、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Al、のいずれかまたはこれらの混合物である。高温で潤滑性を有する高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロム及び/又はCr(酸化クロム)及び/又はhBN(ヘキサ・ボロン・ナイトライド)を含有する。また、高温硬質材と、CrまたはhBNのうち少なくともいずれか一方を含む高温で潤滑性を有する高温潤滑材とを圧縮成型することによって形成される電極を放電表面処理用電極として使用する。

【発明の詳細な説明】
発明の背景
発明の技術分野
本発明は高温部材の擦動面のコーティング方法および高温部材と放電表面処理用電極に関する。
関連技術の説明
図1は、高温部材の例としてシュラウド付タービン翼をシュラウド側から見た模式図であり、図2はシュラウド部の別の斜視図である。
シュラウド付タービン翼は、翼部1、ダブテール部2及びシュラウド部3からなる。翼部1は、翼形断面を有し、燃焼ガスにより回転動力を発生する部分である。ダブテール部2は、翼部1の末端部に位置し、図示しないタービンディスクに固定され、回転動力をタービンディスクに伝達する部分である。シュラウド部3は、翼部先端に取付けられ、振動を抑制する、また先端でのガス漏れを低減する機能を有する。
この図のように、1枚又は複数枚の翼部1と一体に形成され、互いに密着して組み立てられる。密着面(当接面)が半径方向から見て単なる直線の場合と、この例のように中間に段付きを有する場合とがある。以下、中間に段付きを有する場合を「Zノッチ付き」と称する。
Zノッチ付きシュラウド部は、図1に二点鎖線で示すように隣接するシュラウド部同士がZノッチ3aの側面A、Bで互いに当接し、全体の位置を保持するようになっている。そのため、Zノッチ付きシュラウド部は、互いに連結することなく、高い位置保持能力を有する特徴がある。
しかし、タービン翼は、運転中高速回転し、周期的な変形及び振動を受けるばかりでなく、タービン翼を通過する高温の燃焼ガスに曝される。そのため、シュラウド部の側面A、Bは、高温において高い面圧を受けながら擦動し摩耗が激しい問題点がある。なお 擦動面A、Bは、決まった面でなく、一方をAそれに当接する面をBとしている。
従来、この問題点を解決するために、タービン翼のZノッチの隣と擦り合う面(側面A、B、以下「擦動面A、B」と呼ぶ)には、硬い耐熱・耐摩耗金属を肉盛溶接または溶射していた(例えば、[特許文献1])。
【特許文献1】 特開2001−152803号公報
しかし、肉盛溶接または溶射は、成層速度は高いものの、層の健全性・密着性、寸法精度、作業性が悪く、自動化が困難である問題点がある。また、前処理・後処理が不可欠でありコストが高い問題点があった。
一方、タービン高温部には、図3、図4に例示するような、嵌め合い部5が多数使用される。また圧縮機の静翼セグメントにおいても、図5に例示するような、擦動面が多数存在する。圧縮機の後段においては、運転中は高温になる。
このようなタービン高温部の嵌め合い部および圧縮機の擦動面は、運転時に擦れ合うので摩耗しやすく、高温耐摩耗材料をコーティングする必要がある。そのため、従来からその面に溶接または溶射で硬い材料を付けている。すなわち、溶接または溶射前に研磨またはブラストで部品の表面層を活性化し、次いでステライト系の合金を溶接または溶射などで肉盛し、溶接または溶射後に余肉の除去と寸法確保のために研削加工を行っている。しかし、嵌め合い部は、狭い溝状であり、溶接、あるいは溶射し難く、従来の材料では摩耗しやすい問題点があった。
一方、液中放電によって金属材料の表面をコーティングして、耐食性、耐磨耗性を与える技術は既に特許出願され公知となっている。その技術の骨子はつぎのとおりである。第一に、WC(タングステンカーバイド)とCoの粉末を混合して圧縮成形した電極で液中放電を行うことにより電極材料をワークに堆積させる。この後、別の電極(例えば、銅電極やグラファイト電極など)によって、ワークに堆積した電極材料に対して再溶融放電加工を行い、より高い硬度と高い密着力を得る方法である。以下、この従来技術について説明する。
まず、第2の従来技術について説明する(例えば、特許文献2参照)。WC−Coの混合圧粉体電極を用いて、ワーク(母材S50C)に液中で放電加工を行いWC−Coを堆積させる(1次加工)。ついで銅電極のようなそれほど消耗しない電極によって再溶融加工(2次加工)を行う。1次加工の堆積のままでは、硬度(ビッカース硬度)がHv=1410程度であり、また空洞も多い組織を有する被覆層であるが、2次加工の再溶融加工によって空洞が無くなり、硬度もHv=1750と向上した組織を有する被覆層が得られている。この第2の従来技術の方法によれば、鋼材に対しては硬くしかも密着度のよい被覆層が得られる。しかしながら、超硬合金のような焼結材料の表面には強固な密着力を有する被覆層を形成することは困難である。
つぎに、出願人による第3の従来技術によれば、Ti等の硬質炭化物を形成する材料を電極として、ワークである金属材料との間に放電を発生させると、再溶融の過程なしに強固な硬質膜をワークである金属表面に形成できることを明らかにした(例えば、特許文献3参照)。これは、放電により消耗した電極材料と加工液中の成分であるCが反応してTiC(炭化チタン)が生成することによるものである。また、さらに、TiH(水素化チタン)など、金属の水素化物の圧粉体電極によって、ワークである金属材料との間に放電を発生させると、Ti等の材料を使用する場合よりも速くそして密着性のよい硬質膜を形成することができることがわかった。さらに、TiH等の水素化物に他の金属やセラミックスを混合した圧粉体電極により、ワークである金属材料との間に放電を発生させると硬度、耐磨耗性等様々な性質をもった硬質被膜を素早く形成することができることがわかっている。
また、第4の従来技術によれば、予備焼結により強度の高い表面処理電極が製造できることがわかっている(例えば、特許文献4参照)。この第4の従来技術の一例として、WC粉末とCo粉末を混合した粉末からなる放電表面処理用電極を製造する場合について説明する。WC粉末とCo粉末を混合し圧縮成形してなる圧粉体は、WC粉末とCo粉末を混合して圧縮成形しただけでもよいが、ワックスを混入した後に圧縮成形すれば圧粉体の成形性が向上するためより望ましい。しかし、ワックスは絶縁性物質であるため、電極中に大量に残ると、電極の電気抵抗が大きくなるため放電性が悪化する。そこで、ワックスを除去することが必要になる。ワックスは圧粉体電極を真空炉に入れて加熱することで除去できる。この時、加熱温度が低すぎるとワックスが除去できず、温度が高すぎるとワックスがすすになってしまい、電極の純度を劣化させるので、ワックスが溶融する温度以上でかつワックスが分解してすすになる温度以下に加熱温度を保つ必要がある。つぎに、真空炉中の圧粉体を、高周波コイルなどにより加熱し、機械加工に耐えうる強度を与え、かつ硬化しすぎない程度に、例えば白墨程度の硬度となるまで焼成するが、炭化物間の接触部においては相互に結合を進行させるが本焼結にまで至らない弱い結合となるように比較的低い焼結温度で焼成している。このような電極で放電表面処理を行なうと、緻密で均質な被膜を形成できることが知られている。
つぎに、第5の従来技術によれば、電極材料として配合する材料を調整することで、被膜に様々な機能をもたせることができることも一部わかってきている(例えば、特許文献5参照)。この第5の従来技術には、電極に潤滑性を示す材料を混合することで被膜に潤滑性を付与できることが開示されている。
また、第6の従来技術には、ワークを陰極とし、WまたはWC、ステライト系合金、TiB(ホウ化チタン)、Cr(炭化クロム)などのいずれかを棒状の電極にして放電加工を行い、ワークの表面にWまたはWC、ステライト系合金、TiB、Crなどの固着層を形成し、その後、この固着層の表面に、WまたはWC、Cr、Co、Cr、Al、Yなどを溶射し、さらに、その後、この表面にプラズマ加工を施して耐磨耗性を得る方法が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
つぎに、第7の従来技術には、電極の消耗などを抑えるためにCrなどで形成した放電加工用電極が開示されている(例えば、特許文献7参照)。また、第8の従来技術は、電極材料として、WC,TaC,TiC,cBN(立方晶窒化ホウ素),ダイヤモンドなどの材料を用いて、大気中での放電により溶融した電極材料をワークに付着して、被膜を形成する方法を開示している(例えば、特許文献8参照)。さらに、第9の従来技術は、放電表面処理技術に関し、放電表面処理用の電極にBNなどの潤滑性材料を加えることで被膜に潤滑作用を持たせるというものである(例えば、特許文献9参照)。
【特許文献2】 特開平5−148615号公報(第3〜5頁)
【特許文献3】 特開平9−192937号公報(第9頁)
【特許文献4】 国際公開第99/58744号パンフレット(第18〜20頁)
【特許文献5】 国際公開第00/29157号パンフレット(第6〜7頁)
【特許文献6】 特開平8−81756号公報(第2〜3頁)
【特許文献7】 特開平3−66520号公報(第2頁)
【特許文献8】 特開平8−53777号公報(第3頁)
【特許文献9】 特開2001−279465号公報(第4〜5頁)
しかしながら、上述した第2〜第9の従来技術に開示されている放電表面処理では、潤滑材料などを添加することで機能性被膜を形成するというものも一部には存在するが、ほとんどは常温での耐磨耗に主眼をおいているために、TiCなどの硬質材料の被膜を被加工物表面に形成するものである。
一方、近年の高温環境下での耐磨耗性能、または、潤滑性能を持った被膜に対する要求が強くなっている。図6は、航空機用ガスタービンエンジンのタービンブレードの概略図を示している。この航空機用ガスタービンエンジンでは、図に示されるように複数のタービンブレード201が接触して固定されており、軸の回りを回転するように構成されている。航空機用ガスタービンエンジンの作動中にタービンブレード201が回転した際に、図に示したタービンブレード201同士の接触部分Aが高温環境下で激しく擦られたりたたかれたりする。このようなタービンブレードが使用されるような高温環境下(700℃以上)においては、上述した従来技術で用いていた耐磨耗被膜は硬度が落ちまたは酸化されてしまうために耐磨耗効果がほとんどないという問題点があった。また、第4および第8の従来技術による潤滑性を付与した被膜も、常温での使用によることを前提としており、常温での潤滑性と、航空機用のガスタービンエンジンに使用されるような700℃を超えるような高温環境下での潤滑性とでは、現象やメカニズムがまったく異なるものであり、これらの従来技術では、高温環境における潤滑性については考慮されていないという問題点があった。
発明の要約
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の第1の目的は、高温において高い面圧を受けながら擦動しても摩耗が少なく、かつ層の密着性、寸法精度、作業性を高め、自動化が可能となる高温部材の擦動面のコーティング方法および高温部材を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、高温環境下においても耐磨耗性および潤滑性を有する被膜を、放電表面処理方法によって被加工物上に形成することができる放電表面処理用電極を提供することにある。
上記第1の目的を達成するため、本発明によれば、高温環境下で他の部材と接触する擦動面に、高温硬質材(4)、または高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物の圧粉体の放電処理用電極を使用して、前記擦動面との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより前記放電表面処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質の皮膜を前記擦動面に形成することを特徴とする高温部材の擦動面のコーティング方法が提供される。
また、高温環境下で他の部材と接触する擦動面Aに高温硬質材(4)、または高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を放電表面処理(電気絶縁性の加工液中または気中で、放電表面処理用電極と被加工物との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより前記放電表面処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質が、前記被加工物の表面に皮膜を形成する放電表面処理方法)し、それに当接する擦動面Bに高温で潤滑性を有する材料(6)を溶接、溶射または放電表面処理する、ことを特徴とする擦動部のコーティング方法が提供される。
また、高温環境下で他の部材と接触する擦動面Aに、高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を、擦動面Aに当接する擦動面Bに、コーティングなし、高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を、放電表面処理する、ことを特徴とする擦動部のコーティング方法が提供される。
また、高温環境下で他の部材と接触する擦動面に、高温で潤滑性を有する材料(6)、をポーラスに放電表面処理し、その気孔に固体潤滑材(7)を充填することを特徴とする、擦動面のコーティング方法が提供される。
同時に、固体潤滑材(7)の材質と、固体潤滑材(7)を充填する方法が提供される。
さらに、前記高温で潤滑性を有する材料(6)を放電表面処理した後で、加熱処理してポーラスな組織を緻密にかつ強度を高くすることを特徴とする高温部材の擦動面のコーティング方法が提供される。
前記高温硬質材(4)は、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Al、のいずれかまたはこれらの混合物である。
また前記高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロム、及び/又は酸化クロム(Cr)、及び/又はhBNを含有する。
さらに前記高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロムを10%以上含有し、ニッケルを20%以上含有しない。
また、本発明によれば、高温環境下で他の部材と接触する擦動面に、高温硬質材(4)、または高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物の圧粉体の放電処理用電極を使用して、前記擦動面との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより前記放電表面処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質の皮膜を形成したことを特徴とする高温部材が提供される。
また、高温環境下で他の部材と接触する片方の擦動面に高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を放電表面処理し、片方の擦動面に高温で潤滑性を有する材料(6)を溶接、または溶射または放電表面処理した、ことを特徴とする高温部材が提供される。
また、高温環境下で他の部材と接触する片方の擦動面に、高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を、片方の擦動面に、コーティングなし、高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を放電表面処理した、ことを特徴とする高温部材が提供される。
また、高温部材の擦動面に、高温で潤滑性を有する材料(6)、をポーラスに放電表面処理し、その気孔に固体潤滑材(7)を充填することを特徴とする、高温部材が提供される。
固体潤滑材(7)は、酸化クロム(Cr),又は酸化クロム(Cr)と珪素(SiO)の混合物である。
さらに、前記高温で潤滑性を有する材料(6)を放電表面処理した後で、加熱処理してポーラスな組織を緻密にかつ強度を高くすることを特徴とする高温部材が提供される。
高温の環境下で使われるガスタービン部品において、高温耐摩耗性の優れた擦動面をもつタービン動翼、タービン静翼セグメント、圧縮機静翼セグメント、燃焼器、アフターバーナーの静止部品が提供される。
上記本発明の方法及び高温部材によれば、擦動面A、Bに高温硬質材(4)を放電表面処理することにより、擦動面A、Bの高温硬度を高めることができる。また、擦動面A、Bに高温で潤滑性を有する材料(6)を放電表面処理することにより、擦動面A、Bの高温での潤滑性を高めることができる。さらに、この両方を放電表面処理することにより、高温硬度と高温潤滑性を同時に高めることができる。
また、高温で潤滑性を有する材料(6)をポーラスに放電表面処理し、その気孔に固体潤滑材(7)を充填することにより、700℃以下の低温から700℃以上の高温まで安定した潤滑性を得ることができる。高温になってはじめて酸化され潤滑性を出すのではなく、含まれる材料自体が潤滑性を持っているので、700℃以下でも潤滑性があり、摩耗し難い。
また、前記高温で潤滑性を有する材料(6)を放電表面処理した後で、加熱処理してポーラスな組織を緻密に硬くすることができ、厚いコーティングにおいても、コーティング内強度を高めることができる。また、放電表面処理では、アモルファス金属組織化の傾向が見られるが、加熱処理により結晶化し組織が安定化し、運転時の寸法の変化を防ぐことができる。
また、放電表面処理は溶接と同等の膜の密着性を有し、溶接又は溶射に比べて寸法精度及び品質が安定し、及び作業性が高くコストが大幅に低いので、製造コストを大幅に低減できる。
さらに、放電表面処理は嵌め合い部のような、狭い溝状部分にも電極形状を変えるだけで容易に適用でき、強固な耐熱・耐摩耗膜を容易に成膜することができる。
本発明の好ましい実施形態によれば、前記高温硬質材(4)は、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Alのいずれかまたはこれらの混合物である。
これらの高温硬質材は後述するように常温で非常に高いビッカース硬さを有しており、かつ高温でも高い硬さを保持するため、高温部材の擦動面A、Bの高温硬度を大幅に高めることができる。
前記高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロム、及び/又は酸化クロム(Cr)、及び/又はhBNを含有する。前記高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロムを10%以上含有し、ニッケルを20%以上含有しない、のがよい。
クロムは、高温で酸化し酸化物を生成し潤滑性を発揮する。従って、高温部材の擦動面A、Bに、クロムを含有する被膜を生成ことにより高温での潤滑性を高め、耐摩耗性を従来と同等、或いはそれ以上に高めることができる。ニッケルを多く含むと、クロムの高温での酸化を阻害する。
図7、図8に示すようにクロムが10%以下では酸化クロムが少なく摩擦係数が大きい。ニッケルが20%以上では、酸化クロムができずらく摩擦係数が大きい。また酸化クロムとhBNは、それ自体で潤滑性をもつので、低温でも潤滑性を示す。
ポーラスなコーティング層の気孔に充填する固体潤滑材(7)は、酸化クロム、または酸化クロムと珪素の粉末を混合した材料が好ましい。高温になってはじめて酸化され潤滑性を出すのではなく、含まれる材料自体が潤滑性を持っているので、700℃以下でも潤滑性があり、摩耗し難い。
加熱処理してポーラスな組織を緻密に硬くするためには、1000℃で10分以上加熱するのがよい。これにより100MPa程度の引張り強度を得ることが出来、ポーラスな層内の剥離を防ぐことが出来る。
また、上記第2の目的を達成するため、この発明にかかる放電表面処理用電極は、加工油中で、放電表面処理用電極と被加工物との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより、前記放電処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質が、前記被加工物の表面に皮膜を形成する放電表面処理方法に使用される放電表面処理用電極において、
高温で高い硬度を有する高温硬質材の微粉末と、高温で酸化し潤滑性を持つようになる高温潤滑材の微粉末の混合物の圧粉体によって形成されることを特徴とする。
この発明によれば、高温で高い強度を有する高温硬質材と、高温で潤滑性を有する高温潤滑材の混合物によって形成される放電表面処理用電極を用いて放電表面処理方法によって形成された被加工物の表面には、700℃以上の高温環境下でも磨耗され難い被膜が形成される。
また、電気絶縁性加工液中または気中で、放電表面処理用電極と被加工物との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより、前記放電表面処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質が、前記被加工物の表面に皮膜を形成する放電表面処理方法に使用される放電表面処理用電極において、高温で酸化し潤滑性を持つようになる高温潤滑材によって形成されることを特徴とする放電表面処理用電極が提供される。
この発明によれば、高温で潤滑性を有する高温潤滑材によって形成される放電表面処理用電極を用いて放電表面処理方法によって形成された被加工物の表面には、700℃以上の高温環境下で潤滑性を発揮し摩耗され難い被膜が形成される。また固体潤滑材自体を含む放電表面処理用電極を用いて放電表面処理方法によって形成された被加工物の表面には、700℃以下の低温環境下でも潤滑性を発揮し摩耗され難い被膜が形成される。
また、高温で潤滑性を有する高温潤滑材によって形成される放電表面処理用電極を用いて放電表面処理方法によって形成された被加工物のポーラスな被膜に、固体潤滑材を充填させることにより、700℃以下の低温環境下でも潤滑性を発揮し摩耗され難い被膜が形成される。
本発明のその他の目的及び有利な特徴は、添付図面を参照した以下の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
図1は、シュラウド付タービン翼をシュラウド側から見た模式図である。
図2は、シュラウド部の斜視図である。
図3は、タービン高温部の嵌め合い部の模式図である。
図4は、タービンノズルの嵌め合い部の模式図である。
図5は、圧縮機静翼の嵌め合い部の模式図である。
図6は、航空機のガスタービンエンジンの一部を示す図である。
図7は、Crの含有量による、高温での摩擦係数の変化を示す図である。
図8は、Niの含有量による、高温での摩擦の増加を示す図である。
図9は、本発明による放電表面処理の模式図である。
図10は、Ni系とCo系の摩耗量を比較した図である。
図11は、高温におけるビッカース硬度を比較したものである。
図12は、高温酸化量の比較図である。
図13は、高温における酸化クロムのX線強度の比較図である。
図14Aと図14Bは、X線回折結果である。
図15は、Crの高温での低摩擦係数を示す図である。
図16は、ポーラスな組織に固体潤滑材を充填する模式図である。
図17は、この発明による放電表面処理用電極の作製手順を示すフローチャートである。
図18は、放電表面処理用電極を作製する成型器の断面を示す図である。
図19は、放電表面処理を行う装置の構成を示す模式図である。
好ましい実施例の説明
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
本発明の高温部材の擦動面のコーティング方法は、高温部材の擦動面A、Bの一方又は両方に高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の一方又は両方を放電表面処理するが、高温部材の擦動面A、Bの両方に高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の両方を放電表面処理するのが最も好ましい。
図9は、本発明による放電表面処理の模式図である。放電表面処理技術に関しては、例えば特開平7−197275号の「液中放電による金属材料の表面処理方法」に開示されている。酸化防止対策と通電・絶電サーボの感度を向上すれば、気中でも行うことも可能である。
図9において、8は放電電極、9は加工液、10は加工槽、11は取り付け具、12は電源である。図9において、取り付け具11に高温部材を固定し、高温部材の擦動面A(又はB)に近接して放電電極8を対峙させる。加工液9は少なくとも擦動面A(又はB)と放電電極8の一部を沈める高さまで満たされている。この状態で電源12により、放電電極8と擦動面A(又はB)との間で放電させ、高温部材の擦動面A(又はB)にのみコーティングするようになっている。
なお、図3の嵌め合い部のように狭い溝状部分の場合でも、この溝に適合するように放電電極8の形状を設定するだけで、同様に擦動面A(又はB)にのみコーテイングすることができる。
放電表面処理では、加工液中、またはアルゴンガス又は窒素などの気中に浸した高温部材と放電電極8とに電圧を印加することによって対峙した面でパルス状の放電を発生させ、この放電によって放電電極8の表面を剥離して溶融し、溶融した材料をシュラウド部3の擦動面A(又はB)に溶着させるが、油中で行うのが最も好ましい。
放電表面処理は、放電パルス数、あるいは放電処理時間に比例して被膜厚さが決定されるので、それらの条件を変更することによりコーティングの厚さを数μmで制御できるため、タービン動翼のような精密部品に最適なコーティング方法である。また、放電が発生する個所にのみ成膜されるので、コーティングしたい箇所に局部的に成膜でき、マスキング等の前処理が不要である。また、余肉除去及び寸法確保などの後処理も不要である。放電1パルス当たりの入熱が極めて小さいので、タービン動翼の熱変形もほとんど生じない。
本発明の方法では、放電電極8として、高温硬質材4及び/又は高温で潤滑性を有する材料6の粉末とを混合し圧縮成形したものを用いる。高温硬質材4は、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Alのいずれかまたはこれらの混合物であるのがよい。部品の使用温度が900℃以下ではTiCが、それ以上1,000℃以下ではcBNが、それ以上ではAl、ZrOが好ましい。
放電表面処理の電極に高温硬質材(4)を用いることにより、それらの材料が被膜となって非常に硬いファインセラミックス(例えば、cBNの場合、ビッカース硬さは4500)を擦動面に低コストでコーティングすることができる。
また、高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロム、又は酸化クロム、又はhBN、あるいはそれらを含有するコバルトを主成分とする合金を指す。このクロムを含有する材料は、クロムを10%以上含有し、ニッケルを20%以上含有しない、のがよい。
放電表面処理用の電極に高温で潤滑性を有する材料(6)を用いることにより、それらの材料が被膜となって高温での潤滑性を低コストで高めることができる。
従って、従来の肉盛溶接または溶射工程に比較すると大幅に加工コストが下がる。
以下、高温で潤滑性を有する材料(6)にクロムを含有する材料を用いることにより、高温での潤滑性を高めることができる点を詳述する。
図10はクロムを含むNi系合金とCo系合金の摩耗量を比較した図である。この図からコバルト系合金では700〜900℃の高温域で摩耗量が低下する。ただしニッケル系合金では高温域で急激に摩耗量が増大することがわかる。
図11は、高温におけるビッカース硬度を比較したものである。この図からNi系のインコネル713LCは高温でも相対的に硬度が高いことがわかる。しかし、Ni系のインコネル713LCは硬いにもかかわらず後述するように、高温では摩耗が激しいことがわかっている。
図12は高温酸化量の比較図である。インコネル材にはCrが含まれているが、高温においてあまり酸化せずCrができないため低摩耗にならない。これに対して、Co系合金では、Crが酸化してCrができるため、低摩耗となると考えられる。
図13は、高温における酸化クロムの量を示すX線強度の比較図である。金属表面に生成した酸化クロム量において、Co系は酸化物が700℃の温度から急増加する。コバルトはクロムの酸化を妨げない。これに対して、Ni系は温度が上がっても酸化クロム量は変化せず低い値である。このことから、酸化物の有無により図8に示したように摩耗量に大きな差が生じることがわかる。
図14Aと図14Bは、900℃に加熱後の材料のX線回折結果である。この図において図14AはNi系のインコネル713LC、図14BはCo系合金(X−40)である。この比較からも、Ni系合金では明らかにCrができないことがわかる。
また、図15は、Crの高温での摩擦係数を示す図である。この図から、Crは高温で低摩擦であり、特に300℃前後から摩擦係数が低下し、700℃前後で極めて小さくなることがわかる。
以上のCrの特性から、クロムを含有する高温で潤滑性を有する材料6を用いることにより、高温での潤滑性を高めることができることがわかる。また、同様にCrまたはhBNを含有する高温で潤滑性を有する材料6を用いることによっても、高温での潤滑性を高めることができる。
高温部材の擦動面Aおよび/またはBに、高温で潤滑性を有する材料6をポーラスに放電表面処理し、その気孔に固体潤滑材7を揮発液などに混ぜてはけ塗りなどで充填することにより、600℃以下でも潤滑性高めることができる。
また、加熱処理することでコーティング内の組織の拡散結合が進み、組織の緻密化と強度向上が実現される。
高温部材の擦動面Aおよび/またはBに、高温で潤滑性を有する材料(6)をポーラスに放電表面処理し、その気孔に固体潤滑材(7)を揮発液などに混ぜて刷け塗り、または軟質のラバーに混ぜて擦りつけて充填することにより、700℃以下でも潤滑性高めることができる。ポーラスな組織の空隙率は10%以上が好ましい。前記固体潤滑材(7)の例としては、酸化クロム(Cr)又は酸化クロム(Cr)と珪素の混合物が使われる。
一例としては、その気孔に固体潤滑材Crを充填すると、温度に拘わらず、潤滑性があり摩耗しなくなる。Siを混ぜたCrの固体潤滑材を充填すると、480℃では、摩耗が極めて少なくなる。Siが酸化しSiOができ、液状のガラスと固体潤滑材Crが相乗効果を出すようである。
表1は固体潤滑材の効果を示す試験結果であり、図16は、ポーラスな組織に固体潤滑材を充填する模式図である。
【表1】

ポーラスな組織は、引張り強度が小さく、剥がれの恐れがある。それを解決するには、高温に加熱し粒子間の拡散を促進して結合強度を増す。
表2は引張り強度の試験結果である。
【表2】

一例として、放電表面処理の層を1,000℃以上に10分以上加熱処理することでコーティング内の組織の拡散結合が進み、組織の緻密化と強度向上が実現される。
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
本発明における高温部材としてタービン翼を例として説明する。
表3はタービン翼の母材(インコネル713LC)、溶接による擦動面への肉盛材T、放電表面処理による擦動面へのコーティング材であるステライト系潤滑材の主成分表である。母材は、CrとCoの含有量が少ないが、肉盛材Tとステライト系潤滑材にはこれらの含有量が高いものを使用している。肉盛材Tとステライト系潤滑材は、高温で潤滑性を有する材料6に相当する。
【表3】

表4は、高温硬質材であるcBNおよび各種炭化物の常温でのビッカース硬さを示している。
これに対して、表3の母材、肉盛材T及びステライト系潤滑材は、300〜400程度の低いビッカース硬度であり、しかも600℃以上で急激に硬度が低下し、700〜800℃の高温では硬度が常温の1/2程度まで低下することが知られている。
【表4】

表5は、本発明の効果を確認するための擦動面の摩耗を試験するための試験条件であり、実際のジェットエンジンの運転条件に近い条件に設定されている。
【表5】

表6は試験結果の比較であり、試験材料と摩耗の程度を示している。
【表6】

この表において、処理番号1は、母材同士の場合であり、摩耗が過大で適用できない。処理番号2は従来例(肉盛溶接)であり、摩耗は少ないがコストが高い。この処理番号1と2は周知例である。ただし、480℃では、大きく摩耗する。
処理番号3はコストを下げるために、硬質なセラミックス系材料を電極に用いて放電表面処理(表6上ではEDC(Electrical Discharge Coating)と記す。)を適用し、高温での耐酸化性のよい硬いCr(クロムカーバイド)を両面に成膜した例である。従来の常識では、両面を硬くするほど摩耗が少なくなると考えられていたが、この結果から単に硬くするだけでは摩耗が過大となり適用できないことがわかった。
処理番号4は本発明の一例であり、Crの含有量が多い高温で潤滑性を有するステライト系材料を、3と同様に放電表面処理で両面に適用した例である。この場合、摩耗量が大幅に低下し適用可能であることがわかる。
さらに、上部試験片及び下部試験片に、ステライト系潤滑材をポーラスに放電表面処理し、その気孔に酸化クロム(Cr)又は酸化クロム(Cr)と珪素の混合物である固体潤滑材を、軟質のラバーに混ぜて擦りつけて充填することにより、700℃以下でも潤滑性高めることができる。ここでポーラスな組織の空隙率は10%以上が好ましい。
一例としては、その気孔に固体潤滑材Crを充填すると、温度に拘わらず、潤滑性があり摩耗しなくなる。Siを混ぜたCrの固体潤滑材を充填すると、480℃では、摩耗が極めて少なくなる。Siが酸化しSiOができ、液状のガラスと固体潤滑材Crが相乗効果を出すようである。
一方、ポーラスな組織は、引張り強度が小さく、剥がれの恐れがある。それを解決するには、高温に加熱し粒子間の拡散を促進して結合強度を増す。
一例として、放電表面処理の層を1,000℃以上に10分以上加熱処理することでコーティング内の組織の拡散結合が進み、組織の緻密化と強度向上が実現される。
処理番号5は本発明の別の例であり、一方に非常に硬いCr(クロムカーバイド)を放電表面処理し、他方は高温で潤滑性を有する肉盛材Tを肉盛溶接したものである。この結果、摩耗量が処理番号2と同等以下となっており、片方の溶接を省くことでコストダウンができることがわかった。
処理番号6−1は本発明の別例であり、cBNの硬質材のみを、3と同様に放電表面処理で両面に適用した例である。潤滑性がなくても極めて硬いcBNの場合、摩擦係数が大きく擦動時に振動が大きいことが観察されているが、摩耗量が大幅に低下し適用可能であることがわかる。
処理番号6−2は本発明の別例であり、TiCの硬質材のみを、3と同様に放電表面処理で両面に適用した例である。潤滑材がないにも拘わらず、摩擦係数が小さくしかも極めて硬いので、摩耗量が大幅に低下し適用可能であることがわかる。従来は、TiCは、700℃以上では酸化し高温では使用出来ないとされていたが、Ni合金の母材へのTiCのコーティングでは、高温摩耗試験の結果、1,000℃でも摩耗が小さく、高温耐摩耗性が優れていることがわかった。ただし、480℃では、摩耗が少し大きい。
表7にTiCの高温磨耗量を示す。
【表7】

処理番号7、8は本発明の別例であり、高温での耐酸化性のよい硬いCr及びcBNの硬質材と、Crを含む高温で潤滑性を有する材料の混合物を、3と同様に放電表面処理で両面に適用した例である。処理番号7のCrは硬く、高温潤滑性材も含んでいるにも拘わらず、摩耗している。処理番号8のcBNは極めて硬く、高温潤滑性材も含んでいるので、摩耗量が大幅に低下し適用可能であることがわかる。
このように、高温環境下では、常温で使用される通常の潤滑材の使用が不可能であるため、強度のある材料だけを電極に含ませるだけでは磨耗性についての対策は不十分であり、放電表面処理放電表面処理用電極の成分に高温環境下で強度のある材料に、潤滑性を発揮できる材料を含めてはじめて磨耗性に対する効果が現れることがわかる。
なお、上述した試験例では、Cr+Cr+Co、およびcBN+Cr+Coの粉末を配合した放電表面処理放電表面処理用電極の例を示したが、他にも高温強度を有する材料と高温で潤滑性を示す材料とを組合せたものであれば、どのようなものであってもよい。
また、高温で潤滑性を示す材料として、上述した試験例では、Crを放電表面処理放電表面処理用電極に入れているが、代わりにhBNなどの固体潤滑剤を混入してもよいのはもちろんである。hBNなどを直接電極に混入した場合には、通常の潤滑剤が使用できる温度以上で、Crが高温で酸化する温度以下の範囲の温度における潤滑に有効である。また、CrとhBNを同時に放電表面処理放電表面処理用電極の材料として混入することで、比較的低温から、700℃を超える高温までの広い範囲に渡って、潤滑性を有する被膜を形成することができる。
さらに、高温硬質材としていくつか例を挙げたが、この中でもCrは、他の材料を用いる場合と比較して、形成した被膜の表面の面粗さを著しく改善する働きを有するので、Crを高温硬質材として使用することが望ましい。放電表面処理放電表面処理で形成される被膜は、加工液中でのパルス放電によって形成されるため、表面が凸凹する傾向が強いが、Crを使用することによって、その表面粗さを抑え、表面を滑らかにすることが可能となる。
上述したように本発明の方法及び高温部材によれば、擦動面に高温硬質材(4)を放電表面処理することにより、擦動面の硬度を高めることができる。また、擦動面に高温で潤滑性を有する材料(6)を放電表面処理することにより、擦動面の高温で潤滑性を高めることができる。さらに、この両方を放電表面処理することにより、硬度と高温潤滑性を同時に高めることができる。
また、放電表面処理は溶接と同等の膜の密着性を有し、溶接又は溶射に比べて寸法精度及び品質が安定し、及び作業性が高いので、製造コストを大幅に低減できる。
さらに、放電による被膜生成のため、嵌め合い部のような、狭い溝状部分にも電極形状を変えるだけで容易に適用できる。
また、高温硬質材(4)に、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Al、のいずれかまたはこれらの混合物を用いることにより、高温部材の擦動面の高温硬度を大幅に高めることができる。
さらに、高温で潤滑性を有するクロム及び/又は酸化クロム及び/又はhBNを含有するものを用いることにより、、高温で潤滑性を発揮し、耐摩耗性を従来と同等以上に高めることができる。
上述したように、本発明の高温部材の擦動面のコーティング方法および高温部材は、高温において高い面圧を受けながら擦動しても摩耗が少なく、かつ膜の密着性、寸法精度、作業性を高め、放電による処理はNCで制御されるため自動化が可能となる、等の優れた効果を有する。
次に、この発明にかかる放電表面処理用電極の好適な実施の形態を詳細に説明する。
この発明では、放電表面処理方法によって被加工物の表面に形成された被膜が、高温環境下でも高い強度および潤滑性を有する電極材料を用いることを特徴とする。具体的には、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC(炭化珪素)、ZrC、VC、BC、Si、ZrO(酸化ジルコニウム)、Al(酸化アルミニウム)などから選択される高温環境下で高強度を有する高温硬質材と、高温環境下で酸化し潤滑性能を有する高温潤滑材とを混合することによって電極材料を形成する。
上述したように、この発明では、高温環境下で潤滑性を有する材料として、特にCrを用いることが望ましい。これは、Crが酸化したCrは、高温環境下で潤滑性を有するという性質によるものである。ただし、Crが酸化して潤滑性をもつCrになるためには条件があり、NiがCrの周囲に多く存在する環境では、CrはCrとはならず、そのため、高温環境下で潤滑性を発現しない。また、Crが酸化してCrになるには、700℃程度以上の温度が必要であり、それより低い温度では、被膜に含まれるCrは酸化しないので、潤滑性を示す効果は期待できない。したがって、Crを電極に混入することで潤滑性を期待できるのは、そのような高温で使用される部分(場合)に対してである。図10、11、12、13に、その裏付けのデータを示す。逆に、700℃以上の高温環境においては、通常の液体の潤滑剤は蒸発してしまい、また、通常の化学的に合成された潤滑剤は熱によって分解してしまうために、使用することができないので、Crによる潤滑効果は極めて意味のあるものとなる。
つぎに、この発明にかかる放電表面処理用電極について、高温硬質材としてcBNを、高温潤滑材としてCrを用いた場合を例に挙げて説明する。
図17は、この発明にかかる放電表面処理用電極の作製方法を示すフローチャートである。まず、cBNとステライト粉末とを重量比1対4の比率となるように秤量したものを混合し(ステップS1)、所定の形状を有する金型(ダイ)に入れた後に圧縮成型して圧紛体を得る(ステップS2)。なお、ステライトは、CoとCrを主成分とし、これらの他に数種類の成分を含む合金である。cBNの粒径は、2−4μm、ステライトは、1−3μmのものを使用した。
図18は、圧縮成型する際に使用される成型器の断面形状を示す図である。下パンチ104を金型(ダイ)105に形成されている孔の下部から挿入し、これらの下パンチ104と金型(ダイ)105で形成される空間に混合したcBN粉末101とステライト粉末102との混合物を充填する。その後、上パンチ103を金型(ダイ)105に形成されている孔の上部から挿入する。このようにcBN粉末とステライト粉末との混合物が充填された成型器の上パンチ103と下パンチ104の両側から圧力がかかるように加圧器等で圧縮成型することによって、放電表面処理用電極が作製される。なお、必要に応じて、圧縮成型された圧紛体を加熱処理する(ステップS3)ことも可能である。加熱処理することで、圧縮成型された電極の強度を増加させることができる。
上述したステップS1で、cBN粉末とステライト粉末とを混合する際に、ワックスを混入してもよい。このように、ワックスを粉末に混合した後に圧縮成形すると、圧粉体の成形性が向上するからである。ただし、ワックスは絶縁性物質であるため、電極中に大量に残留してしまうと、電極の電気抵抗が大きくなってしまうために放電性が悪化するので、ワックスを除去することが必要になる。ワックスを除去する方法として、ワックスを含む圧縮成型された圧粉体電極を真空炉に入れて加熱する方法がある。これにより、圧紛体中のワックスが除去される。なお、この真空炉で加熱する方法は上述したステップS3の工程に相当し、上述したように、加熱することで電極の強度が増加する。
図19は、この発明にかかる放電表面処理方法を実行する装置の概略を示すブロック図である。放電表面処理装置は、放電表面処理用電極21、加工槽24、加工液25、抵抗26、電源27、スイッチング素子28および制御回路29を有する。加工槽24には、絶縁性の油または水を主体とした加工液25が入れられ、表面に被膜を形成しようとする被加工物22が置かれる。放電表面処理用電極21は、上述した図14の工程で作製された電極であり、被加工物22の上部に対向して配置される。放電表面処理用電極21と被加工物22とは、抵抗26、電源27およびスイッチング素子28を介して接続されている。スイッチング素子28は、放電表面処理用電極21と被加工物22に印加する電圧および電流のスイッチングを行う素子であり、このスイッチング素子28には、スイッチング素子28のオンとオフを制御する制御回路29が接続されている。なお、図示していないが、被加工物22の表面上に形成される被膜の位置を制御するために、放電表面処理用電極21と加工槽24に駆動機構が設けられている。
このような放電表面処理装置の放電表面処理用電極21と被加工物22との間にパルス状の放電を発生させると、その熱エネルギによって放電表面処理用電極21を構成する材料が加工部分の加工液中に浮遊する。この浮遊した電極構成材料、または電極構成材料が熱エネルギによって反応した物質が、被加工物22の表面に付着し、被膜23が形成される。このようにして、被加工物22の表面に被膜23が形成される。
なお、本発明をいくつかの好ましい実施例により説明したが、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施例に限定されないことが理解されよう。反対に、本発明の権利範囲は、添付の請求の範囲に含まれるすべての改良、修正及び均等物を含むものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温環境下で他の部材と接触する擦動面に、高温硬質材(4)、または高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物の圧粉体の放電処理用電極を使用して、前記擦動面との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより前記放電表面処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質の皮膜を前記擦動面に形成することを特徴とする高温部材の擦動面のコーティング方法。
【請求項2】
高温環境下で他の部材と接触する擦動面Aに高温硬質材(4)、または高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を放電表面処理(電気絶縁性の加工液中または気中で、放電表面処理用電極と被加工物との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより前記放電表面処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質が、前記被加工物の表面に皮膜を形成する放電表面処理方法)し、それに当接する擦動面Bに高温で潤滑性を有する材料(6)を溶接、溶射または放電表面処理する、ことを特徴とする擦動部のコーティング方法。
【請求項3】
高温環境下で他の部材と接触する擦動面Aに、高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を、擦動面Aに当接する擦動面Bに、コーティングなし、高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を、放電表面処理する、ことを特徴とする擦動部のコーティング方法。
【請求項4】
高温環境下で他の部材と接触する擦動面に、高温で潤滑性を有する材料(6)、をポーラスに放電表面処理し、その気孔に固体潤滑材(7)を充填することを特徴とする、擦動面のコーティング方法。
【請求項5】
4項に記載の固体潤滑材(7)の充填方法は、固体潤滑材を揮発性溶液に混ぜて刷け塗り、または、軟質のラバーに混ぜて擦りつけて充填することを特徴とする擦動面のコーティング方法。
【請求項6】
前記固体潤滑材(7)は、酸化クロム(Cr)又は酸化クロム(Cr)と珪素の混合物である、ことを特徴とする請求項4に記載の高温部材の擦動面のコーティング方法。
【請求項7】
前記高温で潤滑性を有する材料(6)を放電表面処理した後で、加熱処理することを特徴とする請求項1、2、3または4に記載のコーティング方法。
【請求項8】
前記高温硬質材(4)は、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Al、のいずれかまたはこれらの混合物である、ことを特徴とする請求項1、2または3に記載のコーティング方法。
【請求項9】
前記高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロム、及び/又は酸化クロム(Cr)、及び/又はhBNを含有する、ことを特徴とする請求項1、2、3、4または7に記載のコーティング方法。
【請求項10】
前記高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロムを10%以上含有し、ニッケルを20%以上含有しない、ことを特徴とする請求項1乃4または7に記載のコーティング方法。
【請求項11】
高温環境下で他の部材と接触する擦動面に、高温硬質材(4)、または高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物の圧粉体の放電処理用電極を使用して、前記擦動面との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより前記放電表面処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質の皮膜を形成したことを特徴とする高温部材。
【請求項12】
高温環境下で他の部材と接触する片方の擦動面に高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を放電表面処理し、片方の擦動面に高温で潤滑性を有する材料(6)を溶接、または溶射または放電表面処理した、ことを特徴とする高温部材。
【請求項13】
高温環境下で他の部材と接触する片方の擦動面に、高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を、片方の擦動面に、コーティングなし、高温硬質材(4)、高温で潤滑性を有する材料(6)、または高温硬質材(4)と高温で潤滑性を有する材料(6)の混合物を放電表面処理した、ことを特徴とする高温部材。
【請求項14】
高温環境下で他の部材と接触する擦動面に、高温で潤滑性を有する材料(6)をポーラスに放電表面処理され、その気孔に固体潤滑材(7)が充填されている、ことを特徴とする高温部材。
【請求項15】
14項に記載の固体潤滑材(7)は、酸化クロム(Cr),又は酸化クロム(Cr)と珪素(SiO)の混合物である、ことを特徴とする請求項14に記載の高温部材。
【請求項16】
前記高温で潤滑性を有する材料(6)が放電表面処理された後で、加熱処理されて引張り強度が40MPa以上である、ことを特徴とする請求項11、12、13または14に記載の高温部材。
【請求項17】
前記高温硬質材(4)は、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Alのいずれかまたはこれらの混合物である、ことを特徴とする請求項11、12または13に記載の高温部材。
【請求項18】
前記高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロム、及び/又は酸化クロム(Cr)、及び/又はhBNを含有する、ことを特徴とする請求項11、12、13、又は14に記載の高温部材。
【請求項19】
前記高温で潤滑性を有する材料(6)は、クロムを10%以上含有し、ニッケルを20%以上含有しない、ことを特徴とする請求項11、12、13、14または16に記載の高温部材。
【請求項20】
請求項11乃至19に記載の高温部材が、タービン動翼、静翼セグメント、圧縮機静翼セグメント、またはガスタービンの燃焼器、タービンまたはアフターバーナーの静止部品であることを特徴とする、ガスタービン部品または軸流コンプレッサー部品。
【請求項21】
加工油中で、放電表面処理用電極と被加工物との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより、前記放電処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質が、前記被加工物の表面に皮膜を形成する放電表面処理方法に使用される放電表面処理用電極において、
高温で高い硬度を有する高温硬質材の微粉末と、高温で酸化し潤滑性を持つようになる高温潤滑材の微粉末の混合物の圧粉体によって形成されることを特徴とする放電表面処理用電極。
【請求項22】
電気絶縁性加工液中または気中で、放電表面処理用電極と被加工物との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーより、前記放電表面処理用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質が、前記被加工物の表面に皮膜を形成する放電表面処理方法に使用される放電表面処理用電極において、
高温で酸化し潤滑性を持つようになる高温潤滑材によって形成されることを特徴とする放電表面処理用電極。
【請求項23】
前記高温硬質材は、cBN,TiC,TiN,TiAlN,TiB,WC,Cr,SiC,ZrC,VC,BC,Si,ZrO,Alのうち少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項21に記載の放電表面処理用電極。
【請求項24】
高温で酸化し潤滑性を持つようになる前記高温潤滑材は、クロムを含むことを特徴とする請求項21および22に記載の放電表面処理用電極。

【国際公開番号】WO2004/029329
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501949(P2005−501949)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012088
【国際出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】