説明

(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物およびその製造方法

【課題】レジスト材料、封止材料、積層材料、接着剤、粉体塗料等に好適な(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物およびその製造方法の提供する。
【解決手段】下式(I)で表される篭状シルセスキオキサン化合物を、末端二重結合を有するエポキシ化合物に10〜200℃で付加反応させ、次いで導入されたエポキシ基に(メタ)アクリル酸を60〜150℃で反応させることにより得られる(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物。


(式中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物およびその製造方法に関する。さらに、該(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物を含むレジスト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シルセスキオキサン化合物は、耐熱性、耐候性や耐薬品性を有する無機材料の特性と、柔軟性や加工性を有する有機材料の特性を併せ持つ素材として注目されている。特許文献1および特許文献2には、反応性官能基を導入したシルセスキオキサン化合物と、感光剤とを含む硬化性樹脂組成物が開示されている。該硬化性樹脂組成物から形成された硬化物は、表面硬度が改善されており、コーティング剤として好適である。
【0003】
また、特許文献3の例14には、篭状シルセスキオキサン化合物にメタクリル酸メチルエステルを反応させて得られる化合物が記載されているが、最終生成物はイソ酪酸残基を有するものでありメタクリロイルオキシ基を有さない。
【0004】
また、半導体レジスト材料として硬化特性等充分な特性を有する篭状シルセスキオキサン化合物は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−29640号公報
【特許文献2】特開平11−116682号公報
【特許文献3】特開平2−67290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体レジストの生産性を上げるためにインプリント工程における時間の短縮が要求されている。したがって、半導体レジストには、硬化速度の速い材料を用いることが好適である。半導体レジスト材料として、篭状シルセスキオキサン化合物を用いる場合、硬化速度を速くするため、反応性官能基として(メタ)アクリロイルオキシ基を導入することが好ましい。しかしながら、特許文献1〜3には、反応性官能基として(メタ)アクリロイルオキシ基が導入された篭状シルセスキオキサン化合物は記載されていない。
【0007】
また、反応性官能基としてメタクリロイルオキシ基が導入された化合物よりも、アクリロイルオキシ基が導入された化合物の方が、より硬化速度が速くなるため好ましい。しかしながら、従来の反応性官能基を導入する方法(例えばヒドロシリル化)では、アクリロイルオキシ基を導入することは難しい。
【0008】
また、半導体レジスト材料だけでなく、封止材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等としては、硬化速度が速いものを用いることが好ましい。
【0009】
本発明はレジスト材料、封止材料、積層材料、接着剤、粉体塗料等に好適な、(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、反応性官能基として、メタクリロイルオキシ基だけでなく、アクリロイルオキシ基をも導入することができる(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法を見出し、また、この製造方法により得られる新規の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物を見出した。本発明は、たとえば以下の[1]〜[10]に関する。
【0011】
[1]
以下の一般式(I)で表される篭状シルセスキオキサン化合物に、
以下の(i)〜(iii)式のいずれかで表される二重結合を有するエポキシ化合物を10〜200℃で反応させて、次いでさらに、(メタ)アクリル酸を60〜150℃で反応させて得られることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物。
【0012】
【化1】

【0013】
(式(I)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示す。)
【0014】
【化2】

【0015】
(式(i)中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、式(ii)中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、炭素原子数1
〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。)
[2]
以下の一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と、(メタ)アクリル酸とを60〜150℃で反応させて得られることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物。
【0016】
【化3】

【0017】
(式(II)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示し、8個の
−SiR12Xは、以下の(iv)〜(vi)式のいずれかで表される。
【0018】
【化4】

【0019】
(上記(iv)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル
基を示し、上記(v)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6の
アルキル基、または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、
炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。))
[3]
以下の一般式(III)で表されることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有
篭状シルセスキオキサン化合物。
【0020】
【化5】

【0021】
(式(III)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示し、−SiR12Yのうち少なくとも1つは、以下の(vii)〜(xii)式のいずれかで表される。
【0022】
【化6】

【0023】
(上記(vii)〜(xii)式中、R0はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、
上記(vii)および(viii)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、上記(ix)および(x)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素
原子、炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキ
ルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。))
[4]
前記R1がメチル基またはエチル基である[1]〜[3]のいずれか一に記載の(メタ)ア
クリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物。
【0024】
[5]
前記R2〜R7がそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、前記R8が水素原子
、メチル基またはフェニル基である[1]〜[4]のいずれか一に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物。
【0025】
[6]
[1]〜[3]のいずれか一に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法であって、
以下の一般式(I)で表される篭状シルセスキオキサン化合物に、
以下の(i)〜(iii)式のいずれかで表される二重結合を有するエポキシ化合物を10〜200℃で反応させて、次いでさらに、(メタ)アクリル酸を60〜150℃で反応させることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法。
【0026】
【化7】

【0027】
(式(I)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示す。)
【0028】
【化8】

【0029】
(式(i)中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、式(ii)中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、炭素原子数1
〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。)
[7]
[2]に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法であって、
以下の一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と、(メタ)アクリル酸とを60〜150℃で反応させることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法。
【0030】
【化9】

【0031】
(式(II)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示し、8個の
−SiR12Xは、以下の(iv)〜(vi)式のいずれかで表される。
【0032】
【化10】

【0033】
(上記(iv)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル
基を示し、上記(v)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6の
アルキル基、または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、
炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。))
[8]
前記R1がメチル基またはエチル基である[6]または[7]に記載の(メタ)アクリ
ロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法。
【0034】
[9]
前記R2〜R7がそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、前記R8が水素原子
、メチル基またはフェニル基である[6]〜[8]のいずれか一に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法。
【0035】
[10]
[1]〜[5]のいずれか一に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物とラジカル重合開始剤とを含むレジスト組成物。
【発明の効果】
【0036】
本発明の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物は、硬化特性、エッチング選択性などの特性が非常に優れているため、レジスト材料、封止材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等などの幅広い分野において有用である。また、本発明の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物は、特にエッチング速度の選択性が高いため、例えば半導体製造プロセスまたはパターンドメディア等の磁気記録媒体製造プロセスなどに使用するレジスト材料として有用である。ここで、エッチング選択性とは、エッチングのガスの種類によりエッチング速度が異なることをいう。そして、エッチング速度が大きく異なることをエッチング選択性が高いという。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1におけるDSC結果を示す図である。
【図2】実施例2におけるDSC結果を示す図である。
【図3】参考例1におけるDSC結果を示す図である。
【図4】実施例1、2および参考例1におけるDSC結果、ならびにそれらの微分曲線を示す図である。
【図5】実施例2および3のおけるDSC結果、ならびにそれらの微分曲線を示す図である。
【図6】実施例2で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の1H−NMRである。
【図7】実施例2で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の13C−NMRである。
【図8】実施例2で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の29Si−NMRである。
【図9】実施例1で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の1H−NMRである。
【図10−1】実施例1で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の13C−NMRである。
【図10−2】実施例1で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の13C−NMRである。
【図11】実施例1で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の29Si−NMRである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0039】
本発明の第一の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物は、以下の一般式(I)で表される篭状シルセスキオキサン化合物(以下単に「篭状シルセス
キオキサン化合物」とも記す。)に、以下の(i)〜(iii)式のいずれかで表される二重結合を有するエポキシ化合物(以下単に「エポキシ化合物」とも記す。)を10〜200℃で反応させて、次いでさらに、その反応生成物に(メタ)アクリル酸を60〜150℃で反応させて得られることを特徴としている。
【0040】
【化11】

【0041】
(式(I)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示す。)
【0042】
【化12】

【0043】
(式(i)中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、式(ii)中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基
または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、炭素原子数1
〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。)
該(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物は、硬化特性およびエッチング選択性などの特性が非常に優れているため、レジスト材料、封止材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等などの幅広い分野において有用である。
【0044】
上記一般式(I)におけるR1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびペンチル基等が挙げられるが、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。また、上記一般式(I)において、R1は全て同じ基であることが好ましい。
【0045】
上記(i)式中、R2の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基またはヘキシル基等が挙げられるが、水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0046】
上記(ii)式中、R3〜R7の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基またはターシャリーブチルジメチルシリル基等が挙げられるが、より好ましくは水素原子、メチル基、トリメチルシリル基またはターシャリーブチルジメチルシリル基であり、さらに好ましくは、水素原子またはメチル基である。
【0047】
上記(ii)式中、R8の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基
、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ターシャリーブチルジメチルシリル基またはアリール基(例えば、フェニル基)等が挙げられるが、より好ましくは、水素原子、メチル基、トリメチルシリル基、ターシャリーブチルジメチルシリル基またはフェニル基であり、さらに好ましくは、水素原子、メチル基またはフェニル基である。
【0048】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物とを反応させる温度については、室温程度であっても充分に反応は進行するが、場合によっては温度を変えてもよい。該温度は、好ましくは10〜200℃、より好ましくは15〜50℃である。該温度が上記下限値未満であると反応速度が低下し、反応が進行しない場合、もしくは実用的な工程時間内に反応が完結しない場合がある。また、該温度が上記上限値を超えると、反応速度は向上するが、エポキシ基の開環重合が生じる場合がある。
【0049】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物との反応は、操作性および経済性の点から大気圧下で行うことができ、必要に応じて、加圧下で行ってもよい。
【0050】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物との反応を行う際の雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガスであるのが好ましい。水分(もしくは水分を含んだ空気)の混入は反応への悪影響を及ぼすだけでなく、上記篭状シルセスキオキサン化合物が加水分解して、最終生成物の収率を低下させるおそれがある。なお、後述する触媒の活性を高める目的で、反応雰囲気中へ乾燥空気または酸素含有の不活性ガス等を導入するという公知技術を適用してもよい。
【0051】
当該反応の時間に関しては、温度、圧力、触媒濃度、または原料の濃度によって変動し得るが、通常、0.1〜100時間であり、上記範囲内で時間を任意に選択することがで
きる。
【0052】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物とを反応させる際に、これらの配合比は、特に限定されないが、上記エポキシ化合物中のエチレン性二重結合1当量に対して、上記篭状シルセスキオキサン化合物中の−SiH基が、通常0.7〜1.5倍の当量で配合され、好ましくは0.9〜1.1倍の当量で配合される。これらの配合量が上記範囲外であると、一方の化合物が未反応のまま多く残存するため、経済的に不利になる場合がある。
【0053】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物との反応の際に用いる触媒としては、白金、ロジウム、パラジウム、ニッケル、イリジウム、ルテニウムなどの遷移金属類またはその化合物からなる触媒を選択することができる。具体的には、塩化白金酸、白金の各種錯体(例えば白金とビニルシロキサンの錯体の一種であるKarsted触媒)、白金化合物の各種溶液(アルコール、ケトン、エーテル、エステル、芳香族炭化水素等に溶解もしくは分散したもの)、Speier触媒、各種固体(シリカゲル、活性炭等)に担持した触媒、Wilkinson錯体等のRh触媒、パラジウムの各種錯体触媒が挙げられ、特にその種類または形態に制限はない。
【0054】
たとえば、白金触媒を用いる場合、その使用量は、特に限定されないが、上記篭状シルセスキオキサン化合物1モルに対して、白金原子が通常8×10-2〜8×10-8倍モル、好ましくは8×10-3〜8×10-6倍モルの量である。白金原子が上記下限値未満であると、反応速度が極度に低下する場合があり、上記上限値を超えると、反応速度は向上するが、エポキシ基の開環重合が生じるおそれがあり、経済的にも不利となる場合がある。
【0055】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物との反応においては、必ずしも溶媒を用いる必要はないが、必要に応じて溶媒として、または触媒溶液の媒体として溶媒を用いてもよい。たとえば、上記篭状シルセスキオキサン化合物または上記エポキシ化合物を溶解もしくは希釈させるため、反応温度を制御するため、撹拌に必要な容積を確保するため、または触媒の添加をしやすくするため等の必要性に応じて、溶媒を用いることができる。このような溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、イソオクタン、デカン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、デカリン、テトラリン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、THF等のエーテル類、エステル類またはポリジメチルシロキサン類等の各種シリコーン類等が挙げられ、これらの中から任意に選択することができ、その使用量も任意に決定してもよい。なお、これらの溶媒は、一種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0056】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物とを反応させる際に、通常、まず窒素ガスのような乾燥した不活性なガスを充分に充満させた反応器に、上記エポキシ化合物および上記触媒を仕込む。この際、必要に応じて溶媒類を仕込んでもよい。次いで、撹拌しながら、所定温度に昇温した後、上記篭状シルセスキオキサン化合物を上記混合物中に滴下して反応させ、滴下終了後は上記所定時間熟成を行う。
【0057】
なお、まず上記篭状シルセスキオキサン化合物を仕込み、次いで上記エポキシ化合物を加える方法でもよい。また、触媒および/または溶媒に、上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物との混合液を加える方法でもよく、全ての原料を一括して仕込んだ後に昇温する方法でもよい。また、当該反応は回分式、連続式、半連続式のいずれの方法においても適用可能である。
【0058】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物との反応後、得られる反応物の精製には、一般的な方法のいずれをも用いることができる。たとえば、吸着分離方法が
挙げられ、具体的には活性炭、酸性白土、活性白土等の吸着剤を用いる方法である。そのほか、不純物や着色物質の吸着除去方法、またはカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーが挙げられる。具体的にはシリカゲル、含水シリカゲル、アルミナ、活性炭、チタニア、ジルコニアを用いた吸着除去方法、またはこれらシリカゲル、含水シリカゲル、アルミナを充填剤として用いたカラムクロマトグラフィーである。また、減圧蒸留、分子蒸留などの蒸留によって精製することもできる。蒸留時には蒸留の前に反応液と共に、アミン類や硫黄含有化合物類等を少量添加して、蒸留中、エポキシ基の開環重合を抑制する公知の手段を実施してもよい。また、必ずしも精製する必要はなく、得られる状態のまま用いてもよい。
【0059】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物とを反応させる際の容器には、特に制限はないが、撹拌装置、温度計、還流冷却器、滴下装置等の装置を具備していることが好ましい。
【0060】
上記篭状シルセスキオキサン化合物と上記エポキシ化合物とを10〜200℃で反応させると、ヒドロシリル化反応により、下記一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物が生成すると本発明者らは推定している。
【0061】
【化13】

【0062】
(式(II)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示し、8個の
−SiR12Xは、以下の(iv)〜(vi)式のいずれかで表される。
【0063】
【化14】

【0064】
(上記(iv)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル
基を示し、上記(v)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6の
アルキル基、または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、
炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。))
ただし、上記一般式(II)中、−SiR12Xのうち少なくとも1つは、上記(iv)〜(
vi)式でいずれかで表される基であるが、−SiR12Xは、原料の篭状シルセスキオキサン化合物に由来する−SiR12H、または原料のエポキシ化合物に由来する基(例えば(iii)式のエポキシ化合物を使用した場合は−SiR12CH2CH2CH3等)である場合があると推定される。
【0065】
上記篭状シルセスキオキサン化合物とエポキシ化合物との反応後、次いでさらに、(メタ)アクリル酸を60〜150℃で反応させることにより、本発明の第一の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物を得ることができる。(メタ)アクリル酸を反応させる条件については、上記篭状シルセスキオキサン化合物とエポキシ化合物との反応後、得られる反応物が、上記一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物であると仮定して以下説明する。
【0066】
上記一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と、(メタ)アクリル酸とを反応させる際に、これらの配合比は、特に限定されないが、一般的には、(メタ)アクリル酸8モルに対して、上記一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物が0.7〜1.5モルであり、特に0.9〜1.1モルであることが好ましい。この範囲を外れると一方の原料が使われずに大量に残るため、経済的に不利になる場合がある。
【0067】
上記一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と(メタ)アクリル酸とのエステル化反応に用いる触媒としては、公知のエステル化触媒を用いることができる。このようなエステル化触媒としては、トリフェニルホスフィン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、イミダゾールまたは2−メチルイミダゾールなどが挙げられる。前記エステル化触媒の添加量は、特に限定されないが、上記一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と(メタ)アクリル酸との合計100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であり、好ましくは0.05〜5質量部の範囲である。前記エステル化触媒の添加量が、前記下限よりも少ないと、反応の進行が遅く、経済的に不利になるおそれがある。また、前記上限よりも多いと、反応が急激に進行し、発熱の制御が困難になるおそれがある。
【0068】
また、上記エステル化反応において、(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の硬化性官能基となる官能基の重合反応を防止するために、重合禁止剤を添加することができる。このような重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、トルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジン、t−ブチルカテコール、ピロガロール等を挙げられるが、目的において使い分けることができる。
【0069】
また、上記エステル化反応において、溶媒は、本質的に用いなくても構わないが、必要に応じて反応溶媒として、もしくは触媒溶液の媒体として用いても特に問題はない。その目的が、原料を溶解・希釈・均一化させるため、反応系の温度を制御するため、撹拌に必要な容積を確保するため、触媒の添加をしやすくするため等の必要性に応じるものであれば、以下の具体例の中から任意に選んで、任意の量で使用しても構わない。このような溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、イソオクタン、デカン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、デカリン、テトラリン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、エステル類又はポリジメチルシロキサン類等の各種シリコーン類等が挙げられる。なお、これらの溶媒は、一種単独でもよく、二種以上混合してもよい。
【0070】
上記エステル化反応の一般的な手順は、以下のとおりである。まず、空気中で、開放系の反応容器に、一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物、
(メタ)アクリル酸、エステル化触媒および重合禁止剤を仕込む。この際、必要に応じて溶媒類を仕込んでもよい。次いで、撹拌しながら、反応温度まで昇温し、反応が完了するまで熟成を行うというプロセスをとる。また、本発明においては、回分式、連続式、半連続式のいずれの反応方法も適用可能である。
【0071】
上記エステル化反応の反応温度は、60〜150℃の範囲、特に80〜120℃が好ましい。60℃未満では反応速度が遅くなり、実用的な工程時間内で反応が完結しない場合がある。また、150℃を超えると、反応速度は速くなるが、発熱の制御が困難になるおそれがある。
【0072】
上記エステル化反応は、操作性・経済性の点から一般的には大気圧下条件で行うことが好ましいが、必要に応じて、加圧下で行っても構わない。
【0073】
上記エステル化反応の反応器内の雰囲気は、大気雰囲気下で構わない。水分の混入は反応への悪影響を及ぼすだけでなく、上記エステル化反応生成物のシルセスキオキサン骨格が加水分解するため、生成物の収率が低下するおそれがある。乾燥した空気雰囲気下で反応を実施することで、水分の混入を防止することができる。
【0074】
上記エステル化反応の反応時間に関しては、反応温度、圧力条件、触媒濃度および原料の反応系中濃度の如何によって、0.1〜100時間の範囲で任意に変えることができる。
【0075】
生成物の精製方法としては、特に限定されず一般的な精製方法を用いることができる。たとえば、吸着分離、クロマトグラフィーまたは蒸留などが挙げられる。吸着分離の具体例としては、活性炭、酸性白土、活性白土等の吸着剤を用いて、不純物もしくは着色物質を吸着除去する方法が挙げられる。また、クロマトグラフィーの具体例としては、カラムクロマトグラフィーまたは薄層クロマトグラフィーなどが挙げられる。また、クロマトグラフィーの担体としては、シリカゲル、含水シリカゲル、アルミナ、活性炭、チタニアまたはジルコニアなどが挙げられる。シリカゲル、含水シリカゲルまたはアルミナなどは、カラムクロマトグラフィーの充填剤として用いる。また、蒸留の具体例としては、減圧蒸留または分子蒸留などが挙げられる。また、本発明の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の使用目的によっては必ずしも精製する必要はなく、反応生成物のまま用いてもよい。
【0076】
本発明における反応容器には、特に制限はないが、撹拌装置、温度計、還流冷却器、滴下装置等の装置を具備していることが好ましい。
【0077】
本発明の第二の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物は、以下の一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と、(メタ)アクリル酸とを60〜150℃で反応させて得られることを特徴としている。
【0078】
【化15】

【0079】
(式(II)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示し、8個の
−SiR12Xは、以下の(iv)〜(vi)式のいずれかで表される。
【0080】
【化16】

【0081】
(上記(iv)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル
基を示し、上記(v)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6の
アルキル基、または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、
炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。))
該(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物は、硬化特性およびエッチング選択性などの特性が非常に優れているため、レジスト材料、封止材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等などの幅広い分野において有用である。
【0082】
上記一般式(II)中、R1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソ
プロピル基、ブチル基またはペンチル基等の炭素原子数が1〜5のアルキル基が挙げられるが、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0083】
上記(iv)式中、R2の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基
、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基またはヘキシル基等が挙げられるが、水素原子またはメチル基であるとより好ましい。
【0084】
上記(v)式中、R3〜R7の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピ
ル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基またはターシャリーブチルジメチルシリル基等が挙げられるが、より好ましくは水素原子、メチル基、トリメチルシリル基またはターシャリーブチルジメチルシリル基であり、さらに好ましくは、水素原子またはメチル基である。
【0085】
上記(v)式中、R8の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ターシャリーブチルジメチルシリル基またはアリール基(たとえば、フェニル基)等が挙げられるが、より好ましくは水素原子、メチル基、トリメチルシリル基、ターシャリーブチルジメチルシリル基またはフェニル基であり、さらに好ましくは水素原子、メチル基またはフェニル基である。
【0086】
上記一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と、(メタ)アクリル酸との反応条件は、本発明の第一の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シ
ルセスキオキサン化合物を得る際の、上記一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と、(メタ)アクリル酸との反応条件と同様である。
【0087】
本発明の第二の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造原料である上記一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。また、市販のエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物を用いてもよい。
【0088】
また、本発明の第三の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物は、以下の一般式(III)で表されることを特徴とする。
【0089】
【化17】

【0090】
(式(III)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示し、−SiR12Yのうち少なくとも1つは、以下の(i)〜(vi)式のいずれかで表される。
【0091】
【化18】

【0092】
(上記(vii)〜(xii)式中、R0はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、
上記(vii)および(viii)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、上記(ix)および(x)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素
原子、炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を
示し、R8は水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキ
ルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。))
上記一般式(III)において、−SiR12Yのうち少なくとも1つは、上記(vii)〜(xii)式のいずれかである。
【0093】
上記一般式(III)におけるR1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびペンチル基等が挙げられるが、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。また、上記一般式(III)において、R1は全て同じ基であることが好ましい。
【0094】
上記(vii)〜(xii)式中、R0は水素原子またはメチル基であり、より好ましくは水
素原子である。
【0095】
上記(vii)および(viii)式中、R2の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基またはヘキシル基等が挙げられるが、水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0096】
上記(ix)および(x)式中、R3〜R7の具体例としては、水素原子、メチル基、エチ
ル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基またはターシャリーブチルジメチルシリル基等が挙げられるが、より好ましくは水素原子、メチル基、トリメチルシリル基またはターシャリーブチルジメチルシリル基であり、さらに好ましくは、水素原子またはメチル基である。
【0097】
上記(ix)および(x)式中、R8の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ターシャリーブチルジメチルシリル基またはアリール基(フェニル基)等が挙げられるが、より好ましくは、水素原子、メチル基、トリメチルシリル基、ターシャリーブチルジメチルシリル基またはフェニル基であり、さらに好ましくは、水素原子、メチル基またはフェニル基である。
【0098】
上記一般式(III)で表される(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキ
サン化合物を得る方法としては、上述した第一または第二の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物を得る方法が挙げられる。
【0099】
上記一般式(III)において、8つの−SiR12Yのうちn個(nは1〜8の整数)は
、上記(vii)〜(xii)式のいずれかで表される。残りの(8−n)個の−SiR12Yは、上記合成原料に由来する、−SiR12H、下記(i)〜(iii)式のいずれか、あるいは下記(iv)〜(vi)式のいずれかで表される二重結合を有するエポキシ化合物に由来する基(例えば(iii)式のエポキシ化合物を使用した場合は−SiR12CH2CH2CH3等)である。
【0100】
【化19】

【0101】
(式(i)中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、式(ii)中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、炭素原子数1
〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。)
【0102】
【化20】

【0103】
(上記(iv)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル
基を示し、上記(v)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6の
アルキル基、または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、
炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。)
本発明の第一〜三の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物は、レジスト材料、封止材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等などの幅広い分野において有用である。
【0104】
本発明のレジスト組成物は、上記第一〜三の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物とラジカル重合開始剤とを含む。
【0105】
ラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤または光ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0106】
熱ラジカル重合開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセテートパーオキサイド、アセチルアセテートパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブ
タン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−
3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロ
ドデカン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイ
ドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α'−ビス(t−ブチル
パーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパ
ーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシ
ン−3、イソブチリルパーオキサイド、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、m−トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−S−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、α,α'−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1,1
,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブ
チルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,
1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−
3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボ
ネート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−m−トルイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシアセテート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3',4,4'−テトラ
(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,3−ジメチル−2,3−ジフ
ェニルブタンなどの、有機過酸化物、または、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2
,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒ
ドロクロリド、2,2−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオ
ンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[N−(4−ヒドロフェニル)−2
−メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−メチル−N
−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[N
−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]ジヒドロク
ロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロ
クロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒド
ロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プ
ロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)
−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2
−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジ
ンー2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(5−ヒドロキ
シ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス{2−メチル
−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル
]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピ
オネート)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2'−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]などの、アゾ化合物などが挙げられる。
【0107】
光ラジカル重合開始剤としては、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブ
チル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキ
シアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−フェニル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1などの、アセトフェノン系光ラジカル重合開始剤や、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルメチルケタールなどの、ベンゾイン系光ラジカル重合開始剤や、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、3,3'−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4,4'−ジメチルアミノベンゾフェノン、
4,4'−ジエチルアミノベンゾフェノン、3,3',4,4'−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどの、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤や、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンなどの、チオキサントン系光ラジカル重合開始剤、α−アシロキシムエステル、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアントラキノン、4'
,4''−ジエチルイソフタロフェノンなどの、ケトン系光ラジカル重合開始剤や、2,2'−ビス(2−クロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニル−1,2'−イミダゾールなどの、イミダゾール系光ラジカル重合開始剤や、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤や、カルバゾール系光ラジカル重合開始剤や、トリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−鉄−ヘキサフルオロホスフェートなどの、ルイス酸のオニウム塩などの光ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0108】
本発明のレジスト組成物は、上記以外に(メタ)アクリロイルオキシ基と反応する官能基を有する化合物および表面調整剤、粘度調整剤、界面活性剤、内部離型剤、溶剤などを必要に応じて含有することができる。
【0109】
上記(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物は、非常に優れたエッチング選択性を示すため、該化合物を含むレジスト組成物は、例えば半導体製造プロセスまたはパターンドメディア等の磁気記録媒体製造プロセスなどに使用するレジスト材料として特に有用である。
【実施例】
【0110】
以下、参考例、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0111】
[実施例1]
(1)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−1)の合成
還流冷却器、温度計、攪拌装置およびセラムキャップを備えた500ml三ツ口フラスコに、オクタキスジメチルシリルオキシシルセスキオキサン(アルドリッチ製:PSS−Octakis(dimethylsilyloxy)substituted)10.0g(9.8mmol)、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル14.32g(78.4mmol)、およびトルエン50mlを加え、アルゴン気流下、室温で攪拌した。その混合溶液に2%ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体キシレン溶液0.0093g(白金量:1.86×10-4g)を、シリンジを用いてゆっくり滴下し、室温で攪拌した。2時間室温で攪拌した後、減圧下でトルエン溶媒を除去し、液状物(a−1)を得た。
【0112】
次に、還流冷却器、温度計、攪拌装置およびセラムキャップを備えた50ml三ツ口フラスコに、液状物(a−1)5.0g(2.02mmol)、アクリル酸1.164g(1
6.2mmol)、トリフェニルホスフィン0.054g(0.28mol)、4−メト
キシフェノール0.028g(0.23mmol)、およびトルエン10mlを加え、空気雰囲気下、120℃で攪拌した。6時間120℃で攪拌した後、減圧下でトルエン溶媒を除去し、アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−1)を得た。
【0113】
なお、液状物(a−1)のモル数は、液状物(a−1)を下記(IV)で表される化合物であると仮定して算出した値である。
【0114】
【化21】

【0115】
得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−1)のNMRを図9〜11に示す。
【0116】
図9(1H−NMR)において、3.1ppm付近のピークが未反応エポキシ基の2つ
のHであり、5.8〜6.5ppm付近のピークが、反応したアクリル基(CH2=CH
CO2)および未反応のアクリル基(CH2=CHCO2)の3つのHである。これらのピ
ーク強度から、(未反応エポキシ基ピーク強度/2)/(反応したアクリル基(CH2
CHCO2)および未反応のアクリル基(CH2=CHCO2)のピーク強度/3)×10
0=35を算出し、未反応エポキシ基の割合は35%であることがわかった。つまり、35%の未反応物が残存していたと考えられる。
【0117】
図10−1(13C−NMR)において、51〜53ppm付近のピークがエポキシ基のOに隣接する2つの炭素であり、66〜68ppm付近のピークがエポキシ基にアクリル酸が付加した際に発生するOH基に隣接する炭素であり、73〜75ppm付近のピークがエポキシ基に付加したアクリル酸に隣接する炭素であり、未反応エポキシ基およびアクリル酸の付加体が確認できた。
【0118】
ここで、「エポキシ基にアクリル酸が付加した際に発生するOH基に隣接する炭素」とは、下記式(1)の場合を例にとると、シクロヘキサン骨格中の炭素のうち、OH基が結合している炭素のことであり、「エポキシ基に付加したアクリル酸に隣接する炭素」とは、下記式(1)の場合を例にとると、丸囲みした炭素のことである。
【0119】
【化22】

【0120】
図11(29Si−NMR)において、Siの主ピークは2本であり、篭状骨格を有していることがわかった。また、0ppm付近のピーク強度から、不純物として残存している未反応の−Si(CH32Hは、僅かであることが確認された。
【0121】
(3)示差走査熱量(DSC)分析
上記(2)で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−1)100質量部に対し、光ラジカル重合開始剤2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(IRGACURE 369:チバ・ス
ペシャルティ・ケミカルズ製)を3質量部添加し、これらを50質量%になるようにジエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させ、UV照射しながら示差走査熱量(DSC)分析を実施した。図1に当該DSC分析結果を示す。
【0122】
(DSC測定条件)
機器:示差走査熱量計 EXSTAR6000 DSC (SII製)
UV照射機:UV−1(SII製)
UV照度:6.0mw/cm2
UV照射時間:20分
【0123】
(4)エッチング速度測定
上記(2)で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−1)を、濃度10質量%になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解し、溶液(a)を調製した。溶液(a)に光ラジカル重合開始剤2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(IRGACURE 369:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を前記化合物(b−1)100質
量部に対し、3質量部添加し溶解させ、溶液(b)を調製した。その後、溶液(b)を孔径0.2μmのフィルター(シリンジフィルター(ワットマンジャパン(株)製))でろ過し、0.5mlをスピンコーター内にセットしたガラス基板上に滴下した。ガラス基板を500rpmで5秒間回転、次いで3000rpmで2秒間、さらに5000rpmで20秒間回転させることによりガラス基板上に薄膜を形成した。このようにして生成物を塗布したガラス基板を窒素気流下、紫外線を照射した。得られた薄膜のCF4ガスまたは
酸素ガスによる反応性イオンエッチング速度を、以下に示す方法により測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0124】
(エッチング速度測定方法)
硬化した薄膜上にガラス小片を貼り付け、薄膜に対して、反応性イオンエッチング装置を用いて以下の条件下でエッチング処理を実施した。ガラス小片を取り外し、薄膜のガラス小片に保護された部分とエッチングされた部分との段差を測定した。
【0125】
エッチング速度(nm/sec)=段差(nm)÷処理時間(sec)
反応性イオンエッチングの条件
(フッ素系ガス)
エッチングガス : 四フッ化炭素
圧力 : 0.5Pa
ガス流量 : 40sccm
プラズマ電圧 : 200W
バイアス電圧 : 20W
処理時間 : 30sec
(酸素ガス)
エッチングガス : 酸素
圧力 : 0.5Pa
ガス流量 : 40sccm
プラズマ電圧 : 200W
バイアス電圧 : 20W
処理時間 : 600sec
【0126】
[実施例2]
(1)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−2)の合成
還流冷却器、温度計、攪拌装置およびセラムキャップを備えた500ml三ツ口フラスコに、オクタキスジメチルシリルオキシシルセスキオキサン(アルドリッチ製:PSS−Octakis(dimethylsilyloxy)substituted)10.0g(9.8mmol)、1−ビニルー3,4−エポキシシクロヘキサン9.759g(7
8.4mmol)、およびトルエン50mlを加え、アルゴン気流下、室温で攪拌した。
その混合溶液に2%ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体キシレン溶液0.0093g(白金量:1.86×10-4g)を、シリンジを用いてゆっくり滴下し、室温で攪拌した。2時間室温で攪拌した後、減圧下でトルエン溶媒を除去し、固体粉末(a−2)を得た。
【0127】
次に、還流冷却器、温度計、攪拌装置およびセラムキャップを備えた50ml三ツ口フラスコに、上記固体粉末(a−2)5.0g(2.49mmol)、アクリル酸1.43g
(19.9mmol)、トリフェニルホスフィン0.089g(0.34mol)、4−メトキシフェノール0.035g(0.28mmol)、トルエン10mlを加え、空気雰囲気下、120℃で攪拌した。6時間120℃で攪拌した後、減圧下でトルエン溶媒を除去し、アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−2)を得た。
【0128】
なお、固体粉末(a−2)のモル数は、固体粉末(a−2)を下記式(V)で表される化合物であると仮定して算出した値である。
【0129】
【化23】

【0130】
得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−2)のNMRを図6〜8に示す。
【0131】
図6において、3.1ppm付近のピークが未反応エポキシ基であり、3.7-3.9ppmが反応物のCH-OH、4.8-4.9ppmが反応物のCH0C0由来である(反応物で2本のピークがあるのは置換位置の違いによると考えられる。)これらのピーク強度から、未反応エポキシ基のHと反応し
開環したHとの比率は25:75であることがわかった。つまり、25%のエポキシ基が未反応の
まま残存していたと考えられる。
【0132】
図7において、51〜53ppm付近のピークがエポキシ基のOに隣接する2つの炭素であり、68ppm付近のピークがエポキシ基にアクリル酸が付加した際に発生するOH基に隣接する炭素であり、73ppm付近のピークがエポキシ基に付加したアクリル酸に隣接する炭素であり、未反応エポキシ基およびアクリル酸の付加体が確認できた。
【0133】
ここで、「エポキシ基にアクリル酸が付加した際に発生するOH基に隣接する炭素」とは、下記式(1)の場合を例にとると、シクロヘキサン骨格中の炭素のうち、OH基が結合している炭素のことであり、「エポキシ基に付加したアクリル酸に隣接する炭素」とは、下記式(1)の場合を例にとると、丸囲みした炭素のことである。
【0134】
【化24】

【0135】
図8において、29Si-NMRではSiの主ピークは2本であり、篭状骨格を有していることが
わかった。
【0136】
(2)示差走査熱量(DSC)分析
上記(1)で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−2)について、実施例1と同様にして、UV照射しながら示差走査熱量(DSC)分析を実施した。図2に当該DSC分析結果を示す。
【0137】
(3)エッチング速度測定
上記(1)で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−2)について、実施例1と同様にして、エッチング速度を測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0138】
[実施例3]
(1)メタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−3)の合成
還流冷却器、温度計、攪拌装置およびセラムキャップを備えた50ml三ツ口フラスコに、実施例2(1)で得られた固体粉末(a−2)5.0g(2.02mmol)、メタクリル酸1.712g(19.9mmol)、トリフェニルホスフィン0.134g(0.51mol)、4−メトキシフェノール0.069g(0.56mmol)、およびトルエン15mlを加え、空気中下、120℃で攪拌した。6時間120℃で攪拌した後、減圧下でトルエン溶媒を除去し、メタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−3)を得た。
【0139】
(2)示差走査熱量(DSC)分析
上記(1)で得られたメタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−3)について、実施例1と同様にして、UV照射しながら示差走査熱量(DSC)分析を実施した。図5に当該DSC分析結果を示す。
【0140】
(3)エッチング速度測定
上記(1)で得られたメタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(b−3)について、実施例1と同様にして、エッチング速度を測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0141】
[参考例1]
(1)メタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(c−1)の合成
温度計および冷却管を取り付けた3口フラスコに、オクタキスジメチルシリルオキシシルセスキオキサン(アルドリッチ製:PSS−Octakis(dimethylsilyloxy)substituted)1.0g(0.98mmol)、メタクリル酸アリル1.98g(15.7mmol、Si−H基基準2.0倍)、およびトルエン30mlを加えて、Ar気流下、室温で撹拌した。さらに2%ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体キシレン溶液(GELEST INC.製)0.093g(白金金属の重量は原料仕込みの1000ppm)を少しずつ添加し、2時間室温で撹拌した。撹拌後、減圧でトルエン溶媒を留去し、メタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(c−1)を得た。
【0142】
(2)示差走査熱量(DSC)分析
上記(1)で得られたメタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(c−1)について、実施例1と同様にして、UV照射しながら示差走査熱量(DSC)分析を実施した。図3に当該DSC分析結果を示す。
【0143】
(3)エッチング速度測定
上記(1)で得られたメタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物(c−1)について、実施例1と同様にして、エッチング速度を測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0144】
【表1】

【0145】
[実施例1〜3および参考例1の対比]
(1)DSC測定結果について
また、図4は、実施例1、実施例2および参考例1で得られたDSC測定結果を、重ね合わせた図である。
【0146】
これらの結果から、DSCの場合、実施例1および実施例2で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物のDSC曲線の方が、参考例1で得られたメタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物のDSC曲線よりも発熱ピークの終点が速く、アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の方がより早く重合反応が終了していることがわかった。また、DDSCの場合、実施例1および実施例2で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物のDDSC曲線の方が、参考例1で得られたメタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物のDDSC曲線よりも、発熱変化の終点が速く、このことによってもアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の方がより早く重合反応が終了していることがわかった。
【0147】
すなわち、アクリロイルオキシ基を有する篭状シルセスキオキサン化合物の方が、メタクリロイルオキシ基を有する篭状シルセスキオキサン化合物よりも、UVによる硬化が速いことを示している。
【0148】
また、図5は、実施例2および3で得られたDSC測定結果をまとめて示した図である。これらの結果から、実施例2で得られたアクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物のDSC曲線の発熱ピーク頂点(2.22min)、終点(6.18min)の方が、実施例3で得られたメタクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物のDSC曲線の発熱ピーク頂点(2.32min)、終点(7.72min)よりも速く、アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の方がより早く重合反応が開始・終了していることがわかった。
【0149】
(2)エッチング速度測定結果について
また、実施例1〜3で得られた生成物を用いると、酸素ガスに非常に耐性を有し、CF4ガスに素早くエッチングされた。当該エッチング速度測定結果より、実施例1〜3の生
成物は選択的なエッチング性能を有していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)で表される篭状シルセスキオキサン化合物に、
以下の(i)〜(iii)式のいずれかで表される二重結合を有するエポキシ化合物を10〜200℃で反応させて、次いでさらに、(メタ)アクリル酸を60〜150℃で反応させて得られることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物。
【化1】

(式(I)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示す。)
【化2】

(式(i)中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、式(ii)中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、炭素原子数1
〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。)
【請求項2】
以下の一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と、(メタ)アクリル酸とを60〜150℃で反応させて得られることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物。
【化3】

(式(II)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示し、8個の
−SiR12Xは、以下の(iv)〜(vi)式のいずれかで表される。
【化4】

(上記(iv)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル
基を示し、上記(v)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6の
アルキル基、または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、
炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。))
【請求項3】
以下の一般式(III)で表されることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有
篭状シルセスキオキサン化合物。
【化5】

(式(III)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示し、−SiR12Yのうち少なくとも1つは、以下の(vii)〜(xii)式のいずれかで表される。
【化6】

(上記(vii)〜(xii)式中、R0はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、
上記(vii)および(viii)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、上記(ix)および(x)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素
原子、炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキ
ルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。))
【請求項4】
前記R1がメチル基またはエチル基である請求項1〜3のいずれか一に記載の(メタ)
アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物。
【請求項5】
前記R2〜R7がそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、前記R8が水素原子
、メチル基またはフェニル基である請求項1〜4のいずれか一に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法であって、
以下の一般式(I)で表される篭状シルセスキオキサン化合物に、
以下の(i)〜(iii)式のいずれかで表される二重結合を有するエポキシ化合物を10〜200℃で反応させて、次いでさらに、(メタ)アクリル酸を60〜150℃で反応させることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法。
【化7】

(式(I)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示す。)
【化8】

(式(i)中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、式(ii)中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、炭素原子数1
〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。)
【請求項7】
請求項2に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法であって、
以下の一般式(II)で表されるエポキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物と、(メタ)アクリル酸とを60〜150℃で反応させることを特徴とする(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法。
【化9】

(式(II)中、R1はそれぞれ独立して炭素原子数が1〜5のアルキル基を示し、8個の
−SiR12Xは、以下の(iv)〜(vi)式のいずれかで表される。
【化10】

(上記(iv)式中、R2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル
基を示し、上記(v)式中、R3〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6の
アルキル基、または炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基を示し、R8は水素原子、
炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数3〜8のトリアルキルシリル基または炭素原子数6〜14のアリール基を示す。))
【請求項8】
前記R1がメチル基またはエチル基である請求項6または7に記載の(メタ)アクリロ
イルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法。
【請求項9】
前記R2〜R7がそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、前記R8が水素原子
、メチル基またはフェニル基である請求項6〜8のいずれか一に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一に記載の(メタ)アクリロイルオキシ基含有篭状シルセスキオキサン化合物とラジカル重合開始剤とを含むレジスト組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−24229(P2010−24229A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145503(P2009−145503)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】