説明

2層のインナーライナーを備えたタイヤ

【課題】タイヤの空気室内での空気の振動によって発生するノイズを低減する。
【解決手段】タイヤ10は、カーカス12と、インナーライナー14とを有する。インナーライナー14は、カーカス12に隣接している、非発泡ゴムからなる第1のインナーライナー層16と、タイヤ10の最も内側の表面19を形成する、発泡多孔ゴムからなる第2のインナーライナー層18とを有する。第2のインナーライナー層18は、硬化によって分解して窒素ガスを放出する窒素放出発泡剤を有する化合物を硬化させたものである。第2のインナーライナー層18は、最も内側の表面19に物理的に形成された、平均直径が50〜250μmの複数の空洞を有している開放セル構造を持っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズを低減する2層のインナーライナーが設けられた空気入りタイヤ、およびノイズを低減するように構成された2層のインナーライナーを有しているタイヤの製造方法に関する。
【0002】
(定義)
「カーカス」は、ベルト構造、トレッド、アンダートレッド、およびプライの上のサイドウォールラバーを除くが、ビードを含むタイヤ構造を意味する。
【0003】
「インナーライナー」は、チューブレスタイヤの内面を形成し、タイヤ内に膨張用の流体を収容するエラストマまたは他の材料の1つまたは複数の層を意味する。
【0004】
「空気入りタイヤ」は、ビードとトレッドを有していて、ゴム、化学物質、織物、および鋼材またはその他の材料でできている、概ねドーナツ状、通常は開いた円環体の、積層された機械的デバイスを意味する。自動車のホイールに取り付けられた場合、タイヤは、そのトレッドによってトラクションを発生し、乗り物の荷重を支持する流体を含んでいる。
【0005】
「トレッド」は、タイヤが普通に膨らまされ標準の荷重下にあるときに道路に接触するタイヤの部分を含む、タイヤケーシングに接合された成形ゴム部品、言い換えればフットプリントを意味する。
【0006】
用語「硬化」および「加硫」は、ことわりがない限り、置き換え可能な用語を表している。
【0007】
用語「グリーン」および「非硬化」は、ことわりがない限り、置き換え可能な用語を表している。
【背景技術】
【0008】
政府規則は、乗用車のタイヤから発生する許容ノイズレベルを低減し続けている。ロードノイズの1つの原因は、タイヤおよびリムの最も内側の表面で囲まれた空気室内での共鳴である。タイヤノイズを低減する試みの1つの類型は、空気室内の空気の振動から音を減衰させることであり、その試みは主に、タイヤカーカスに隣接している、タイヤの最も内側の層として配置されるインナーライナーを変更することに集中している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ノイズ低減についての新たなより厳しい規則だけでなく、これらのこれまでの試みもまた、空気室内での振動による音の伝達を低減するための、インナーライナーに対するさらなる改善が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、タイヤの空気室の内部の空気の振動によって発生するノイズを低減する、タイヤカーカスの内面に接合された2層のインナーライナー構造を備えた空気入りタイヤを提供する。2層構造は、カーカスに隣接している、非発泡ゴムからなる第1のインナーライナー層と、タイヤの最も内側の表面を形成する、多孔性発泡ゴムからなる第2のインナーライナー層と、を含んでいる。多孔性発泡ゴムは、硬化によって分解して窒素ガスを放出する窒素放出発泡剤が分散されたゴム化合物から硬化させられている。第2のインナーライナー層は、最も内側の表面に物理的に形成された複数の空洞を持つ開放セル構造をさらに有している。
【0011】
本発明はさらに、最も内側の開放セル発泡ゴム層を持つ2層のインナーライナーを有している空気入りタイヤの製造方法を提供する。その方法は、グリーンタイヤカーカス上に第1のグリーンゴムインナーライナー層を組み立て、かつ第1のグリーンゴムインナーライナー層上に第2のグリーンゴムインナーライナー層を組み立てて、グリーンタイヤアセンブリを形成することを含んでおり、第1のグリーンゴムインナーライナー層はその中に発泡剤を含んでおらず、第2のグリーンゴムライナー層はその中に分散された窒素放出発泡剤を含んでいる。グリーンタイヤアセンブリは、第2のグリーンゴムインナーライナー層と一緒に硬化金型内に、硬化金型の表面から最も遠くに配置され、加硫温度を加えて硬化したタイヤアセンブリを形成しながら、硬化ブラダが第2のグリーンインナーライナー層に向けて膨張させられてグリーンタイヤアセンブリを金型表面へ押す。加硫温度での硬化中、発泡剤の分解によって窒素ガスが放出される。結果として得られた硬化したタイヤは、タイヤカーカスに隣接している非発泡の第1のインナーライナー層と、タイヤの最も内側の表面にある発泡した第2のインナーライナー層と、を含んでいる。硬化後、硬化ブラダは収縮させられ、発泡した第2のインナーライナー層から剥がされる。最後に、最も内側の表面を物理的に改変して複数の開放した空洞を形成することによって、発泡した第2のインナーライナー層に開放セル構造が形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明によれば、空気入りタイヤには、タイヤカーカスに隣接している非発泡ゴム層と、タイヤの空気室に隣接している最も内側の発泡ゴム層と、を含んでいる2層構造を有しているインナーライナーが設けられている。発泡ゴム層は、空気室内での空気の振動によって発生するノイズを減衰する。本発明によれば、発泡ゴム層は、その中に分散された、硬化中に分解して窒素ガスを放出しゴムを発泡させる窒素放出発泡剤を含むゴム化合物から硬化した多孔性ゴムである。さらに、発泡した多孔性ゴムは、後で詳細に述べるように、表面をナイフで切断したり、表面にレーザで穴を開けたりすることなどによって、最も内側の表面に物理的に形成された、開放した複数の空洞を有する開放セル構造を有している。
【0013】
図1は、本発明によるタイヤ10を断面で表している。タイヤ10は、タイヤ10の稼働中に接地するタイヤ10の部分である、最も外側の表面上に配置されたトレッド13を有しているカーカス12を含んでいる。従来知られているように、カーカス12は、コードからなる1つまたは2つ以上のプライを含んでいてもよく、カーカス12はタイヤ10のビード部を包む(不図示)。インナーライナー14が、空気室20に面するように、カーカス12の内側に配置されている。インナーライナー14は、カーカス12に隣接して配置された第1のインナーライナー層16と、第1のインナーライナー層16に隣接して配置され、タイヤ10の空気室20と接している最も内側の表面19を形成している第2のインナーライナー層18と、を含む2層構造である。第1のインナーライナー層16は、非発泡ゴムから作られており、空気室20内の空気が抜けるのを防止する働きをし、それによってタイヤ10の気密を維持している。
【0014】
限定ではなく一例として、第1のインナーライナー層16は、0.8〜2.0mmの厚さ(最も厚い点で)を有していてもよい。第1のインナーライナー層16は、ブチルゴム、ハロゲンゴムなどのような、柔いゴム化合物から作られていてもよい。代表的な実施形態では、第1のインナーライナー層16は、ブロモブチルゴムから作られている。従来知られているように、ゴム化合物は、フィラー、可塑剤、および硬化剤系成分などの様々な添加剤を含んでいてもよい。
【0015】
第2のインナーライナー層18は、発泡剤と、開放した多数の穴をあけるために最も内側の表面19を物理的に変えることと、によって形成された開放セル構造を有している発泡多孔性ゴムである。ゴム化合物は、第1のインナーライナー層16を構成するゴム化合物と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、公知の種々の添加剤を含んでいるブロモブチルゴム化合物であってもよい。発泡剤がグリーン(生)の状態のゴム化合物に分散されている。発泡剤は、グリーンゴム化合物を加硫温度に加熱することによって分解して窒素を放出し、多孔性発泡構造を生成する窒素放出発泡剤である。限定ではなく一例として、第2のインナーライナー層18は、1〜5mmの厚さ(最も厚い点で)を有していてもよい。さらに、限定ではなく一例として、発泡剤は、グリーンゴム化合物内に、1〜30phr(parts per hundred parts of rubber)の量で存在していてもよい。代表的な実施形態では、発泡剤は、1〜8phrの量で存在している。窒素放出発泡剤の例としては、アゾジカルボニック酸ジアミド(活性または非活性)、p−トルエンスルホンヒドラジン(TSH)のようなスルホンヒドラジン、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)、トリアゾール誘導体、およびアゾイソブチルジニトリル、または同様の化合物が挙げられる。市販されている発泡剤の例としては、バイエル・ケミカルズ社(Bayer Chemicals)のPOROFOR(登録商標)TSH、AMCO・プラスチック・マテリアルズ社(AMCO Plastic Materials, Inc.,)のSAFOAM(商標)、フェニックス・プラスチック社(Phoenix Plastics Co.,)のCEL−SPAN(商標)、およびスタンダード・ケミカル・インダストリーズ社(Standard Chemical Industries)のDNPTが挙げられる。
【0016】
タイヤ10を形成するため、本発明の方法は、第1のインナーライナー層をグリーンの状態、すなわち硬化していない状態で、グリーンタイヤカーカスに隣接して組み立てることと、第2のインナーライナー層をグリーンの状態で第1のインナーライナー層上に組み立てることと、を含んでいる。グリーントレッドストリップが、グリーンタイヤカーカスの最も外側の表面に隣接して組み立てられる。これらの層は、所望のどんな順番で組み立てられてもよい。このグリーンタイヤアセンブリは、グリーントレッドストリップが金型表面に接して位置し、かつ、第2のインナーライナー層が最も内側の層を形成するために金型表面から最も遠くにあるように、硬化金型内に設置される。膨張可能な硬化ブラダが、第2のインナーライナー層に接して膨張させられて、グリーンタイヤアセンブリを金型表面に押し付けて、グリーンタイヤストリップを金型表面内のトレッドパターンに押し付ける。タイヤアセンブリが、硬化するのに十分な時間、膨張した硬化ブラダから圧力を受けている間、加硫温度が硬化金型に加えられる。加硫温度での硬化プロセスの間、第2のインナーライナー層18の発泡剤は分解して窒素ガスを放出し、これによって、ゴムが硬化するにつれて発泡し、その結果、硬化したタイヤ10内の第2のインナーライナー層18は発泡ゴムである。カーカス12に隣接している第1のインナーライナー層16は、その中に発泡剤を含んでおらず、よって非発泡ゴム層である。
【0017】
硬化の完了後、硬化ブラダは収縮させられ、発泡した第2のインナーライナー層18から剥がされる。発泡による第2のインナーライナー層18寸法変化のため、インナーライナー14から硬化ブラダが剥離するのは、非発泡ゴム層から硬化ブラダが剥離するよりも容易である。このことは、本発明の追加の利点である。硬化ブラダの除去後、第2のインナーライナー層18にいくつかの開放セル構造が観察されるが、どの開放セルも寸法は平均直径が10μオーダーまたはそれ以下と極めて小さく、振動を抑制する度合いは、この構造が現行のノイズ低減要求を十分に満足していることによって達成される。このようにして、本発明によれば、第2のインナーライナー層18は、処理されて最も内側の表面19を物理的に変えて、図2に示すように、開放した複数の空洞を形成する。この物理的改変(physical alternation)によって、より多数の開放した空洞が得られ、開放した空洞の寸法は、単に発泡プロセスによって生成されるいかなる開放セルよりも極めて大きい。本発明の一実施形態では、最も内側の表面19の物理的改変の後、開放した複数の空洞の平均直径は約50〜250μmである。本発明の他の実施形態では、開放した複数の空洞の平均直径は焼く130〜200μmである。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、最も内側の表面19の物理的改変は、発泡した第2のインナーライナー層18表面を切ったり、または引っ掻いたりして、セル構造を開くナイフの切断作用によって行われる。本発明の他の実施形態によれば、セルを開く方法は、レーザを用いたホールバーニング(hole-burning)である。最も内側の表面19を走査して表面19に一定または不定の間隔で穴をあけるのにパルスレーザが用いられてもよい。例えば、パルスレーザは、20kHzのパルス比で作動させられてもよい。一実施形態では、パルス比は、実質的に連続である程度まで高くされてもよく、それによって、最も内側の表面19は管理された深さへ実質的に消耗、すなわち取り除かれ、そのため、空気室20に最も近いセル構造に穴があく。タイヤインナーライナーに用いられるゴム化合物の性質は、発泡ゴム構造に開いたセルが形成されるのを防止または大幅に制限する。したがって、いかなる物理的処理も施さない発泡ゴムのインナーライナーによって与えられるノイズ減衰は制限される。しかしながら、本発明によれば、セル構造を開くのに物理的なステップが実施され、その構造は発泡剤によっては単独では達成できない。最も内側の表面19に多数の大きな開放した空洞が存在している結果、空気室20内での空気の振動がもたらすノイズのより顕著な低減が達成される。
【実施例】
【0019】
以下のテスト化合物N1〜N4を、本発明のタイヤ10の第2のインナーライナー層18として用いるのに用意した。
【0020】
【表1】

【0021】
使用した発泡剤であるp−トルエンスルホンヒドラジデは、120℃で分解し始める、生産的混合ステップ中に放出温度が100〜120℃を越えないように気を付けなければならないようなものである。8phrの発泡剤を含有しているN4テスト化合物は、特に良く発泡した化合物を示した。次に、硬化した化合物をナイフで物理的に引っ掻くことによって、開放セル構造を得た。その結果の平均直径が164.2μm(±30.2)の開放した複数の空洞を有するインナーライナー層を図2の顕微鏡写真に示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態による、発泡したインナーライナー層の開放セル構造を表す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0023】
10 タイヤ
12 カーカス
13 トレッド
14 インナーライナー
16 第1のインナーライナー層
18 第2のインナーライナー層
19 最も内側の表面
20 空気室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスと、前記カーカスの内面に接合されたインナーライナーと、を有し、前記インナーライナーは、前記カーカスに隣接している、非発泡ゴムからなる第1のインナーライナー層と、タイヤの最も内側の表面を形成する、発泡多孔ゴムからなる第2のインナーライナー層と、を含む2層構造を有し、発泡多孔ゴムからなる前記第2のインナーライナー層は、硬化によって分解して窒素ガスを放出する窒素放出発泡剤を有する化合物から硬化させられ、前記第2のインナーライナー層は、前記最も内側の表面に物理的に形成された、平均直径が50〜250μmの複数の空洞を有している開放セル構造を持っている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
空気入りタイヤを製造する方法であって、
発泡剤を含有せずに第1のゴム化合物を有している第1のグリーンインナーライナー層をグリーンタイヤカーカス上に組み立て、かつ、第2のゴム化合物および分散させられた窒素放出発泡剤を有している第2のグリーンインナーライナー層を前記第1のグリーンインナーライナー層上に組み立てて、グリーンタイヤアセンブリを形成することと、
前記グリーンタイヤアセンブリを硬化金型内に、前記第2のグリーンインナーライナー層を前記硬化金型の表面から最も遠くにして配置することと、
硬化ブラダを前記第2のグリーンインナーライナー層に向かって膨張させ、前記硬化金型に加硫温度を加えながら前記グリーンタイヤアセンブリを前記硬化金型の表面に押し付け、前記第2のグリーンインナーライナー層内の前記発泡剤の分解によって窒素ガスが放出されて、タイヤカーカスに隣接している非発泡の第1のインナーライナー層と、前記タイヤの最も内側の表面にある発泡した第2のインナーライナー層と、を有している硬化したタイヤアセンブリを形成することと、
前記硬化ブラダを収縮させ、かつ前記硬化ブラダを前記発泡した第2のインナーライナー層から剥がすことと、
最も内側の表面を物理的に部分的に改変して開いた複数の空洞を形成することによって、前記発泡した第2のインナーライナー層に開いたセル構造を形成することと、
を含む、空気入りタイヤを製造する方法。
【請求項3】
前記改変を、最も内側の表面をナイフで切って前記発泡した第2のインナーライナー層セル構造を開くこと、またはレーザで前記最も内側の表面に穴をあけることによって行う、請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−188218(P2006−188218A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374270(P2005−374270)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(590002976)ザ・グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー (256)
【氏名又は名称原語表記】THE GOODYEAR TIRE & RUBBER COMPANY
【住所又は居所原語表記】1144 East Market Street,Akron,Ohio 44316−0001,U.S.A.
【Fターム(参考)】