説明

Bi系ガラス及び超伝導材料の製造方法

【課題】配向性の良好な超伝導結晶を連続的に形成できるBi系ガラス材料及び及び超伝導材料の製造方法を提案する。
【解決手段】Bi系ガラスのガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、Bi10〜50%、SrO30〜60%、CaO5〜30%、CuO0〜10%を含有することを特徴とする。また、超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金の表面に、上記のBi系ガラスを接触させた状態で熱処理し、超伝導結晶を析出させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bi系ガラス及び超伝導材料の製造方法に関し、具体的にはBiSrCaCu結晶等の超伝導結晶の形成に好適なBi系ガラス及び超伝導材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カマリン・オンネスが、水銀により電気抵抗がゼロになる超伝導現象を発見して以来、強磁場を発生させるコイル、ロスの小さな送電線、SQUID等の電子素子等の用途に使用すべく、超伝導材料について、様々な研究がなされている。特に、銅酸化物系超伝導材料は、超伝導状態になる温度Tc(臨界温度)が液体窒素の沸点(77K)より高いため、有望視されている。
【0003】
銅酸化物系超伝導材料の中には、イットリウム系(Y系)、ビスマス系(Bi系)、タリウム系(Tl系)、水銀系(Hg系)等があるが、環境的観点から、Y系とBi系が注目を集めている。
【0004】
更に、Bi系は、BiSrCuO(Bi−2201)、BiSrCaCu(Bi−2212)、BiSrCaCu10(Bi−2223)の3種類に大別される。その中でもBi−2212、Bi−2223は、液体窒素の沸点よりTcが高い。
【0005】
これらの結晶は、図1に示すように、CuO層が平面方向(ab軸方向)に形成され、CuO層の中間にCaO層、CuO層の外側にSrO層、SrO層の外側にBiO層が形成された層状構造を有している。ここで、CuO層は超伝導層、それ以外の層はブロック層と呼ばれている。このような層状構造であれば、電流はab軸方向に流れ易く、c軸方向には流れ難くなる。そして、各結晶粒のab軸平面が揃っている程、つまりab軸の配向性が良好である程、電流が流れ易くなる。
【0006】
従来、Bi系の超伝導結晶を配向させる方法として、パウダーインチューブ(PIT)法(例えば、特許文献1参照)、レーザーペデスタル法(例えば、特許文献2参照)、セラミック同士で所定成分を相互拡散させる方法(例えば、特許文献3参照)、電気泳動、CVD、スパッタ等のPVD等により、所定の元素を含む薄膜を形成した後に結晶化する方法(例えば、特許文献4参照)、超伝導結晶の組成に相当する融液を結晶化させる方法(例えば、特許文献5参照)、金属有機化合物溶液を基板に塗布した後、金属有機化合物を500℃付近で仮焼きして熱分解させ、得られた熱分解物を更に800℃付近の高温で熱処理する方法、つまりMOD法(例えば、特許文献6参照)等が検討されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03−263715号公報
【特許文献2】特開平03−174327号公報
【特許文献3】特開平02−038359号公報
【特許文献4】特開平02−014825号公報
【特許文献5】特開平07−021855号公報
【特許文献6】特開2010−049891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Bi系の場合、PIT法が一般的である。しかし、PIT法は、粉末材料を充填した金属管を機械的に延伸して線状化するため、延伸時にボイドが発生して断線したり、配向性が不十分になり易い。また、特許文献2〜6に記載の方法は、以下の課題を有している。
【0009】
特許文献2に記載の方法は、棒状に成形した超伝導材料の前駆体の一部をレーザーやヒーター等で部分加熱することにより、結晶自体を成長させる方法であるが、せいぜい1時間当たりにcm単位しか結晶を成長させることができず、線材の大量生産に不向きである。
【0010】
特許文献3に記載の方法は、超伝導結晶を構成する一部の成分を含むセラミックとその残りの成分を含むセラミックを用い、各セラミック中の成分の相互拡散により、超伝導結晶を析出させる方法である。しかし、この方法は、拡散成分の反応速度が遅く、超伝導結晶の形成に長時間を要する。この原因は、セラミックの拡散成分が結晶格子内に閉じ込められていることにある。
【0011】
特許文献4に記載の方法は、成膜コストが高く、また単位時間当たりの成膜面積(長さ)が小さく、大量生産に不向きである。
【0012】
特許文献5に記載の方法では、結晶化させる際に、超伝導結晶が無秩序に析出するため、超伝導結晶の配向性を制御することが極めて困難である。
【0013】
特許文献6に記載の方法では、MgO、SrTiO等の単結晶を析出させる必要があるため、超伝導材料の作製コストが高騰してしまう。
【0014】
本発明は、配向性の良好な超伝導結晶を連続的に形成できる材料及び超伝導材料の製造方法を創案することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、鋭意検討の結果、Bi系ガラスを採用し、且つBi系ガラスのガラス組成範囲を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、第一の発明として、提案するものである。すなわち、第一の発明に係るBi系ガラスは、ガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、Bi 10〜50%、SrO 30〜60%、CaO 5〜30%、CuO 0〜10%を含有することを特徴とする。
【0016】
超伝導結晶の形成に際してガラス材料を用いると、各成分の拡散速度が速くなるため、特にCuの拡散速度が速くなるため、超伝導結晶を効率良く形成することができる。また、ガラス材料を用いると、超伝導結晶の析出状態を均一化し易くなる。
【0017】
第一の発明に係るBi系ガラスは、上記のように、ガラス組成範囲を規制している。このようにすれば、Bi系ガラスを熱的に安定化できると共に、Bi系ガラス中にCuを拡散させることにより、配向性の良好な超伝導結晶を連続的に形成することができる。
【0018】
第二に、第一の発明に係るBi系ガラスは、Bi+SrO+CaO+CuO(Bi、SrO、CaO、CuOの合量)の含有量が95%以上であることが好ましい。
【0019】
第三に、第一の発明に係るBi系ガラスは、粉末形状であることが好ましい。
【0020】
第四に、第一の発明に係るBi系ガラスは、ペースト化されることが好ましい。
【0021】
第五に、第一の発明に係るBi系ガラスは、超伝導結晶の構成成分となることが好ましい。なお、「超伝導結晶」として、Bi−2201結晶、Bi−2212結晶、Bi−2223結晶等が挙げられる。
【0022】
第六に、第一の発明に係るBi系ガラスは、Bi−2212結晶の形成に用いることが好ましい。なお、Bi−2212結晶は、Tcが液体窒素の沸点より高い特徴を有する。
【0023】
第七に、第一の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金の表面に、第一の発明に係るBi系ガラスを接触させた状態で熱処理し、超伝導結晶を析出させることを特徴とする。このようにすれば、銅又は銅合金中のCuとBi系ガラス中のBi、Sr、Caが相互拡散することにより、両者の界面に沿って超伝導層を形成できるため、超伝導結晶の配向性を高めることができる。また、このようにすれば、超伝導結晶の形成に際し、特殊な装置、操作等が不要になり、超伝導材料の製造コストを低廉化することができる。ここで、「銅合金」には、銅とニッケルの合金である白銅、銅とスズの合金である青銅、銅と亜鉛の合金である黄銅等が含まれる。
【0024】
第八に、第一の発明に係る超伝導材料の製造方法は、700〜900℃の温度で熱処理することが好ましい。このようにすれば、異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)の析出を防止した上で、所望の超伝導結晶、特にBi−2212結晶が析出し易くなる。
【0025】
第九に、第一の発明に係る超伝導材料の製造方法は、熱処理時に、Bi系ガラスを押圧することが好ましい。
【0026】
第十に、第一の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金の表面に、ペースト化されたBi系ガラスをスクリーン印刷した後に、熱処理することが好ましい。
【0027】
第十一に、第一の発明に係る超伝導材料の製造方法は、線形状の銅又は銅合金を用いることが好ましい。
【0028】
第十二に、第一の発明に係る超伝導材料は、第一の発明に係る超伝導材料の製造方法により作製されてなることを特徴とする。
【0029】
また、本発明者等は、鋭意検討の結果、銅又は銅合金と、所定のBi系ガラス融液とを接触させることにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、第二の発明として、提案するものである。すなわち、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金の表面に、ガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、Bi 10〜50%、SrO 30〜60%、CaO 5〜30%、CuO 0〜10%を含有するBi系ガラス融液を接触させる接触工程を有することを特徴とする。ここで、「銅合金」には、銅とニッケルの合金である白銅、銅とスズの合金である青銅、銅と亜鉛の合金である黄銅等が含まれる。
【0030】
超伝導結晶の形成に際してBi系ガラス融液を用いると、各成分の拡散速度が速くなるため、特に銅又は銅合金中のCuの拡散速度が速くなるため、超伝導結晶を効率良く形成することができる。また、Bi系ガラス融液を用いると、超伝導結晶の析出状態を均一化し易くなる。
【0031】
第二の発明に係るBi系ガラス融液は、上記のように、ガラス組成範囲が規制されている。このようにすれば、Bi系ガラス融液の熱的安定性が向上すると共に、銅又は銅合金中のCuとBi系ガラス融液中のBi、Sr、Caの相互拡散により、超伝導結晶が析出し易くなる。
【0032】
また、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金と、所定のBi系ガラス融液とを接触させることを特徴とする。このようにすれば、銅又は銅合金中のCuとBi系ガラス融液中のBi、Sr、Caが相互拡散することにより、両者の界面に沿って超伝導層を形成できるため、超伝導結晶の配向性を高めることができる。また、このようにすれば、超伝導結晶の形成に際し、特殊な装置、操作等が不要になり、超伝導材料の製造コストを低廉化することができる。
【0033】
第二に、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、Bi系ガラス融液中のBi+SrO+CaO+CuO(Bi、SrO、CaO、CuOの合量)の含有量が95%以上であることが好ましい。
【0034】
第三に、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金をBi系ガラス融液中に浸漬させることが好ましい。
【0035】
第四に、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、接触工程後に、更に700〜900℃の熱処理工程を有することが好ましい。このようにすれば、異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)の析出を防止した上で、所望の超伝導結晶、特にBi−2212結晶が適正に析出し易くなる。特に、接触工程において、超伝導結晶の析出量が少ない場合に好ましい。
【0036】
第五に、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、線形状の銅又は銅合金を用いることが好ましい。
【0037】
第六に、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、接触工程及び/又は熱処理工程で、超伝導結晶を析出させることが好ましい。なお、「超伝導結晶」として、Bi−2201結晶、Bi−2212結晶、Bi−2223結晶等が挙げられる。
【0038】
第七に、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、接触工程及び/又は熱処理工程で、BiSrCaCu結晶を析出させることが好ましい。なお、Bi−2212結晶は、Tcが液体窒素の沸点よりも高い特徴を有する。
【0039】
第八に、第二の発明に係る超伝導材料は、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法により作製されてなることを特徴とする。
【0040】
さらに、本発明者等は、鋭意検討の結果、銅又は銅合金と、所定の溶液とを接触させた後、熱処理し、超伝導結晶を析出させることにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、第三の発明として、提案するものである。すなわち、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金をBi、Sr及びCaを含む溶液に接触させた後、熱処理して、超伝導結晶を析出させることを特徴とする。ここで、「接触させた後、熱処理」には、接触後に、別途、熱処理する態様のみならず、接触と同時又は接触直後に連続して、熱処理する態様も含む。また、「銅合金」には、銅とニッケルの合金である白銅、銅とスズの合金である青銅、銅と亜鉛の合金である黄銅等が含まれる。また、「超伝導結晶」として、Bi−2201結晶、Bi−2212結晶、Bi−2223結晶等が挙げられる。さらに、「Bi、Sr及びCa」は、イオンの形態で導入してもよいし、固体酸化物の形態で導入してもよい。
【0041】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金と、Bi、Sr及びCaを含む溶液とを接触させた後、熱処理することを特徴とする。このようにすれば、銅又は銅合金中のCuと溶液中のBi、Sr及びCaが相互拡散することにより、両者の界面に沿って、超伝導層を短時間に形成できると共に、超伝導結晶の配向性を高めることができる。また、このようにすれば、超伝導結晶の形成に際し、特殊な装置、操作等が不要になり、超伝導材料の製造コストを低廉化することができる。
【0042】
第二に、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金をBiイオン、Srイオン及びCaイオンを含む溶液に接触させた後、熱処理して、超伝導結晶を析出させることが好ましい。
【0043】
第三に、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、溶液が、Biイオン、Srイオン及びCaイオンのカウンターイオンに、酸由来の陰イオンを含むことが好ましい。
【0044】
第四に、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、酸が、トリフルオロ酢酸又はクエン酸であることが好ましい。
【0045】
第五に、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金を溶液中に浸漬させた後、熱処理することが好ましい。
【0046】
第六に、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、700〜900℃で熱処理することが好ましい。このようにすれば、異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)の析出を防止した上で、所望の超伝導結晶、特にBi−2212結晶が適正に析出し易くなる。
【0047】
第七に、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、溶液が、更に増粘剤及び/又は界面活性剤を含むことが好ましい。
【0048】
第八に、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、溶液の強熱残渣が、下記酸化物換算のモル%で、Bi 10〜50%、SrO 30〜60%、CaO 5〜30%、CuO 0〜10%を含有することが好ましい。なお、溶液の強熱残渣は、拡散反応に寄与する成分組成に相当する。
【0049】
第九に、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、線形状の銅又は銅合金を用いることが好ましい。
【0050】
第十に、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、熱処理して、BiSrCaCu結晶(Bi−2212結晶)を析出させることが好ましい。なお、Bi−2212結晶は、Tcが液体窒素の沸点よりも高い特徴を有する。
【0051】
第十一に、第三の発明に係る超伝導材料は、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法により作製されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
第一の発明に係るBi系ガラスは、Bi系超伝導結晶の構成成分であるBi、Sr、Caを含むため、ガラス中にCuが拡散し易い効果を有する。第一の発明に係るBi系ガラス中にCuを拡散させると、超伝導結晶の形成に際し、特殊な装置や操作等が不要になると共に、配向性の良好な超伝導結晶を短時間で形成することができる。結果として、超伝導材料の特性向上や低廉化を図ることができる。
【0053】
第二の発明に係る超伝導材料の製造方法によれば、Bi系ガラス融液が有する熱量により、銅又は銅合金中のCuとBi系ガラス融液中のBi、Sr、Caが相互拡散し、超伝導結晶が形成される。さらに、第二の発明に係る超伝導材料の製造方法によれば、特殊な装置や操作等が不要になると共に、配向性の良好な超伝導結晶を短時間で形成でき、結果として、超伝導材料の特性向上や低廉化を図ることができる。
【0054】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法によれば、熱処理により、銅又は銅合金中のCuと溶液中のBi、Sr及びCaが相互拡散し、超伝導結晶が形成される。さらに、第三の発明に係る超伝導材料の製造方法によれば、特殊な装置や操作等が不要になると共に、配向性の良好な超伝導結晶を短時間で形成でき、結果として、超伝導材料の特性向上や低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】Bi系超伝導結晶の構造を示す模式図であり、(a)はBi−2212結晶、(b)はBi−2223結晶を示す模式図である。
【図2】Bi−2212結晶の配向状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】第一の発明に係る超伝導材料の製造方法について、実施形態の一例を示す断面概念図である。
【図4】Bi−2212結晶の配向状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】Bi−2212結晶の配向状態を示す電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0056】
1 SUS430の板
2 銅線
3 ペースト
【発明を実施するための形態】
【0057】
最初に、第一の発明を具体的に説明する。
【0058】
第一の発明に係るBi系ガラスは、ガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、Bi 10〜50%、SrO 30〜60%、CaO 5〜30%、CuO 0〜10%を含有することを特徴とする。上記のように、Bi系ガラスの成分を限定した理由を以下に説明する。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は、モル%を指している。
【0059】
Biは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は10〜50%、好ましくは12〜40%、より好ましくは13〜35%である。Biの含有量が10%より少ないと、ガラス化し難くなると共に、Bi系ガラス中にCuを拡散させる際に、超伝導結晶を形成し難くなる。一方、Biの含有量が50%より多いと、銅又は銅合金の表面に接触させた状態で熱処理した時に、Cu−Bi系の化合物が析出し易いと共に、他の成分が少なくなるため、超伝導結晶が析出し難くなる。
【0060】
SrOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は30〜60%、好ましくは35〜55%、より好ましくは40〜53%である。SrOの含有量が30%より少ないと、Bi系ガラス中にCuを拡散させても、超伝導結晶が析出し難くなる。一方、SrOの含有量が60%より多いと、ガラス化し難くなる。
【0061】
CaOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は5〜30%、好ましくは7〜25%、より好ましくは8〜20%である。CaOの含有量が5%より少ないと、Bi系ガラス中にCuを拡散させても、超伝導結晶が析出し難くなる。一方、CaOの含有量が30%より多いと、ガラス化し難くなる。
【0062】
CuOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%である。CuOの含有量が10%より多いと、Bi系ガラス中にCuが十分に存在した状態になるため、熱処理時に無秩序に結晶化してしまい、超伝導結晶の配向性を制御し難くなる。
【0063】
Bi+SrO+CaO+CuOの含有量が95%以上、特に97%以上が好ましい。このようにすれば、熱処理により、Bi−2212等が析出し易くなる。
【0064】
必要に応じて、以下の成分を添加することができる。
【0065】
PbOは、超伝導結晶の臨界温度を低下させる成分である。特に、Biの一部をPbOに置換すると、超伝導結晶の臨界温度が低下する傾向がある。しかし、置換量が多過ぎると、均質なガラスを作製し難くなる。よって、モル比PbO/(Bi+PbO)の値は0.2以下、0.15以下、特に0.005〜0.1が好ましい。
【0066】
LiO、NaO、KOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、SrO又はCaOの一部をLiO、NaO、KOのいずれかに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、ガラスが不安定になって、溶融ガラスが分相し易くなる。よって、モル比(LiO+NaO+KO)/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、0.05以下、特に0.0005〜0.02が好ましい。ここで、「LiO+NaO+KO」はLiO、NaO、KOの合量を指しており、「SrO+CaO」はSrO、CaOの合量を指している。なお、モル比LiO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に00005〜0.02が好ましい。モル比NaO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。モル比KO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。
【0067】
TiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をTiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、均質なガラスを作製し難くなる。よって、モル比TiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.005〜0.1が好ましい。
【0068】
SiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をSiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、均質なガラスを作製し難くなる。よって、モル比SiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.1以下が好ましい。
【0069】
SrO又はCaOの一部をMgO、BaO、ZnOのいずれかに置換することができる。但し、置換量が多過ぎると、超伝導結晶に置換成分を固溶させることが困難になる。よって、モル比(MgO+BaO+ZnO)/(SrO+CaO)の値は0.5以下、0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。ここで、「MgO+BaO+ZnO」は、MgO、BaO、ZnOの合量を指す。なお、モル比MgO/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比BaO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比ZnO/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。
【0070】
は、Bi系ガラスの安定性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Bの含有量が多過ぎると、所望の超伝導結晶が析出し難くなる。
【0071】
上記成分以外にも、ガラスの熱的安定性を高める目的や超伝導結晶を析出し易くする目的のために、他の成分を10%以下、5%以下、特に2%以下の範囲で添加してもよい。
【0072】
第一の発明に係るBi系ガラスは、バルク形状よりも粉末形状が好ましく、平均粒径D50が20μm以下の粉末形状がより好ましい。このようにすれば、ガラスの表面積が大きくなるため、Bi系ガラス中にCuを拡散させ易くなると共に、ビークルを添加し、ペースト化することにより、塗布作業性等を飛躍的に高めることができる。
【0073】
第一の発明に係るBi系ガラスに対して、ビークルを添加し、ペースト化することが好ましい。このようにすれば、塗布作業性等を飛躍的に高めることができる。
【0074】
ビークルは、主に溶媒と樹脂バインダーとからなり、樹脂バインダーはペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて対象物に塗布された後、脱バインダー処理に供される。
【0075】
樹脂バインダーとしては、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、
ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレン
カーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。
【0076】
溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高
級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセ
テート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエ
チレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−
メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエ
チレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプ
ロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル
、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルス
ルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−
ターピネオールは、高粘性であり、樹脂バインダー等の溶解性も良好であるため、好まし
い。
【0077】
第一の発明に係るBi系ガラスの作製方法は、例えば、以下の通りである。まずBi、Sr、Ca等を含むガラス原料を所定割合になるように、調合、混合し、ガラスバッチを作製する。次に、ガラスバッチを坩堝等に充填した後、700〜900℃に設定した電気炉内に坩堝を5〜30時間投入し、仮焼きする。続いて、1100〜1300℃でガラスバッチを加熱して、均質な溶融ガラスを作製した後、この溶融ガラスを急冷する。このようにして、Bi系ガラスを作製することができる。
【0078】
坩堝材質として、アルミナ、石英ガラス等の無機酸化物、白金等の耐熱金属が使用可能である。特に、白金は、熱衝撃や耐食性に優れるため、好ましい。
【0079】
溶融ガラスの急冷方法として、ツインローラー間に溶融ガラスを流し出し、強制的に急冷する方法、金属板の間で溶融ガラスをプレスする方法等が挙げられる。特に、前者の方法は、多量の溶融ガラスを連続的に急冷できるため、好ましい。
【0080】
第一の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金の表面に、第一の発明に係るBi系ガラスを接触させた状態で熱処理し、超伝導結晶を析出させることを特徴とする。このようにすれば、銅又は銅合金中のCuとBi系ガラス中のBi、Sr、Caが相互拡散することにより、両者の界面に沿って超伝導層を形成できるため、超伝導結晶の配向性を高めることができる。また、このようにすれば、超伝導結晶の形成に際し、特殊な装置や操作等が不要になると共に、短時間で超伝導結晶を形成することができる。結果として、超伝導材料の特性向上や低廉化を図ることができる。
【0081】
第一の発明に係る超伝導材料の製造方法において、熱処理温度は700〜900℃、750〜850℃、特に780〜830℃が好ましい。熱処理温度が低過ぎると、Bi系ガラスから異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)が析出し易くなるため、Bi系ガラス中にCuを拡散し難くなる。一方、熱処理温度が高過ぎると、熱処理時にBi系ガラスが融解して、銅又は銅合金を腐食させるおそれがある。なお、熱処理時間は1〜90分、特に5〜40分が好ましい。また、熱処理は大気中で行なってもよいが、不活性ガス(N、Ar、He等)と酸素の混合ガスを用い、そのガス比を熱処理温度、熱処理時間に応じて調節してもよい。
【0082】
銅又は銅合金とBi系ガラスを接触させる方法として、銅又は銅合金の上に、バルク形状のBi系ガラスを配置するだけでも良いが、粉末形状のBi系ガラスを配置すれば、接触面積が大きくなるため、Bi系ガラス中にCuを拡散させ易くなる。また、Bi系ガラスをペースト化し、銅又は銅合金の表面に塗布したり、銅又は銅合金の表面に接着剤等を付着させた状態で、粉末形状のBi系ガラスを振り掛ける等の方法を採用することもできる。特に、銅又は銅合金とBi系ガラスを接触させる方法として、ペースト化したBi系ガラスを銅又は銅合金の表面にスクリーン印刷することが好ましい。このようにすれば、Bi系ガラスの接触量(塗布量)等を均一化し易くなる。
【0083】
第一の発明に係る超伝導材料の製造方法において、接触面積を拡大するために、Bi系ガラスを押圧した状態で熱処理することが好ましい。また、Bi系ガラスを押圧すれば、熱処理時にBi系ガラスが流動し易くなると共に、超伝導結晶の成長方向が界面に垂直な方向であっても、界面に水平な方向に傾けることができ、結果として、超伝導結晶の配向性を高め易くなる。
【0084】
第一の発明に係る超伝導材料の製造方法において、銅又は銅合金の形状は、丸線材、テープ線材、撚り線材等の線形状、平板形状、筒形状が好ましい。特に、送電線等の用途に用いる場合、線形状が好ましい。銅又は銅合金が線形状の場合、ペースト化したBi系ガラス中に、銅又は銅合金を通過させることにより、銅又は銅合金の表面にBi系ガラスを連続的に塗布することができる。
【0085】
次に、第二の発明を具体的に説明する。
【0086】
第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、銅又は銅合金の表面に、Bi系ガラス融液を接触させる接触工程を有することを特徴とする。Bi系ガラス溶融物を接触させる方法として、例えば、銅又は銅合金をBi系ガラス融液中に浸漬させる方法、銅又は銅合金の表面にBi系ガラス融液を流し出す方法が挙げられる。前者の方法は、銅又は銅合金中のCuとBi系ガラス融液中のBi、Sr、Caが相互拡散し易いため、好ましい。なお、前者の方法の場合、Bi系ガラス融液を坩堝等に入れると、銅又は銅合金をBi系ガラス融液中に浸漬し易くなる。また、後者の方法は、Bi系ガラス融液を流し出した後に、ローラー等によりBi系ガラスの付着量を均一化し易いため、好ましい。
【0087】
第二の発明に係るBi系ガラス融液は、例えば、以下の方法で作製することができる。まずBi、Sr、Ca等を含むガラス原料を所定割合になるように、調合、混合し、ガラスバッチを作製する。次に、ガラスバッチを坩堝等に充填した後、700〜900℃に設定した電気炉内に坩堝を5〜30時間投入し、仮焼きする。続いて、1100〜1300℃でガラスバッチを10〜120分間加熱する。このようにして、Bi系ガラス融液を作製することができる。
【0088】
坩堝材質として、アルミナ、石英ガラス等の無機酸化物、白金等の耐熱金属が使用可能である。特に、白金は、熱衝撃や耐食性に優れるため、好ましい。
【0089】
第二の発明に係る超伝導材料の製造方法において、接触工程後に、銅又は銅合金の表面におけるBi系ガラスの付着量を均一化する均一化工程を有することが好ましい。このようにすれば、超伝導結晶の析出量を均一化し易くなる。Bi系ガラスの付着量を調整する方法として、研磨、研削、延伸、圧延等の方法を採用することができる。なお、Bi系ガラスの付着量(或いは超伝導結晶の析出量)を少なくすると、超伝導材料に可撓性を付与し易くなる。
【0090】
第二の発明に係るBi系ガラス融液は、ガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、Bi 10〜50%、SrO 30〜60%、CaO 5〜30%、CuO 0〜10%を含有する。上記のように、Bi系ガラス融液の成分組成を限定した理由を以下に説明する。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は、モル%を指している。
【0091】
Biは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は10〜50%、好ましくは12〜40%、より好ましくは13〜35%である。Biの含有量が10%より少ないと、ガラス化し難くなると共に、Bi系ガラス融液中にCuを拡散させる際に、超伝導結晶を形成し難くなる。一方、Biの含有量が50%より多いと、ガラスが失透し易くなる。
【0092】
SrOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は30〜60%、好ましくは35〜55%、より好ましくは40〜53%である。SrOの含有量が30%より少ないと、Bi系ガラス融液中にCuを拡散させても、超伝導結晶を形成し難くなる。一方、SrOの含有量が60%より多いと、ガラス化し難くなる。
【0093】
CaOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は5〜30%、好ましくは7〜25%、より好ましくは8〜20%である。CaOの含有量が5%より少ないと、Bi系ガラス融液中にCuを拡散させても、超伝導結晶を形成し難くなる。一方、CaOの含有量が30%より多いと、ガラス化し難くなる。
【0094】
CuOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%である。CuOの含有量が10%より多いと、Bi系ガラス融液中にCuが過剰に存在した状態になるため、接触工程及び/又は熱処理工程で無秩序に結晶化してしまい、超伝導結晶の配向性を制御し難くなる。
【0095】
Bi+SrO+CaO+CuOの含有量が95%以上、特に97%以上が好ましい。このようにすれば、接触工程及び/又は熱処理工程で、Bi−2212等が析出し易くなる。
【0096】
必要に応じて、以下の成分を添加することができる。
【0097】
PbOは、超伝導結晶の臨界温度を低下させる成分である。特に、Biの一部をPbOに置換すると、超伝導結晶の臨界温度が低下する傾向がある。しかし、置換量が多過ぎると、均質なガラスを作製し難くなる。よって、モル比PbO/(Bi+PbO)の値は0.2以下、0.15以下、特に0.005〜0.1が好ましい。
【0098】
LiO、NaO、KOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、SrO又はCaOの一部をLiO、NaO、KOのいずれかに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、ガラスが不安定になって、Biガラス融液が分相し易くなる。よって、モル比(LiO+NaO+KO)/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、0.05以下、特に0.0005〜0.02が好ましい。ここで、「LiO+NaO+KO」はLiO、NaO、KOの合量を指しており、「SrO+CaO」はSrO、CaOの合量を指している。なお、モル比LiO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に00005〜0.02が好ましい。モル比NaO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。モル比KO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。
【0099】
TiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をTiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、均質なガラスを作製し難くなる。よって、モル比TiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.005〜0.1が好ましい。
【0100】
SiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をSiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、均質なガラスを作製し難くなる。よって、モル比SiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.1以下が好ましい。
【0101】
SrO又はCaOの一部をMgO、BaO、ZnOのいずれかに置換することができる。但し、置換量が多過ぎると、超伝導結晶に置換成分を固溶させることが困難になる。よって、モル比(MgO+BaO+ZnO)/(SrO+CaO)の値は0.5以下、0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。ここで、「MgO+BaO+ZnO」は、MgO、BaO、ZnOの合量を指す。なお、モル比MgO/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比BaO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比ZnO/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。
【0102】
は、Bi系ガラスの安定性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Bの含有量が多過ぎると、所望の超伝導結晶が析出し難くなる。
【0103】
上記成分以外にも、ガラスの熱的安定性を高める目的や超伝導結晶を析出し易くする目的のために、他の成分を10%以下、5%以下、特に2%以下の範囲で添加してもよい。
【0104】
第二の発明に係る超伝導材料の製造方法において、接触工程後に、更に700〜900℃の熱処理工程を有することが好ましい。このようにすれば、所望の超伝導結晶、特にBi−2212結晶が適正に析出し易くなる。また、異種結晶(超伝導特性を有しない結晶)の析出を防止し易くなる。特に、接触工程において超伝導結晶の析出量が少ない場合、熱処理工程を有することが好ましい。
【0105】
また、熱処理温度は700〜900℃、750〜850℃、特に780〜830℃が好ましい。熱処理温度が低過ぎると、Bi系ガラスから異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)が析出し易くなる。一方、熱処理温度が高過ぎると、熱処理時にBi系ガラスが融解して、銅又は銅合金を腐食させるおそれがある。なお、熱処理時間は1〜90分、特に10〜40分が好ましい。
【0106】
第二の発明に係る超伝導材料の製造方法において、銅又は銅合金の形状は、丸線材、テープ線材、撚り線材等の線形状、平板形状、筒形状が好ましい。特に、送電線等の用途に用いる場合、線形状が好ましい。
【0107】
最後に、第三の発明を具体的に説明する。
【0108】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、Bi、Sr及びCaを含む溶液を用いることを特徴とする。このようにすれば、溶液中のBi、Sr及びCaと銅又は銅合金中のCuの相互拡散が可能になる。
【0109】
第三の発明に係る溶液は、例えば、Bi、SrCO、CaCO等の原料を調合、混合し、次に得られた混合原料をナスフラスコ等の容器に投入し、更にそのナスフラスコにエタノール等の溶媒を注入し、攪拌しながらトリフルオロ酢酸(TFA)等の有機酸を懸濁液が透明になるまで滴下することにより、作製することができる。
【0110】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法において、溶媒として、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、アセトン、エチルメチルケトン等のカルボニル化合物、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等が使用可能である。
【0111】
溶液の粘性を高めて、接触量(塗布量)を調整し易くする目的で、アガロースゲル、エチルセルロース、アミロペクチン等の糖類の増粘剤等を溶液に添加してもよい。さらに、銅又は銅合金との濡れ性を高める目的で、溶液に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸等の陰イオン界面活性剤、アルキルアミン等の陽性界面活性剤、ベタイン等の両性イオン界面活性剤、ポリエチレングリコール(PEG)やポリプロピレングリコール(PPG)等の非イオン性界面活性剤が使用可能である。なお、脂肪酸ナトリウム等は、脂肪酸カルシウムが析出し易くなるため、できるだけ使用を控えた方がよい。
【0112】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法において、銅又は銅合金をBiイオン、Srイオン及びCaイオンを含む溶液に接触させた後、熱処理して、超伝導結晶を析出させることが好ましい。これらのイオンは結晶格子内に取り込まれていない。このため、各成分の拡散反応が進行し易くなり、短時間で超伝導結晶が析出し易くなる。
【0113】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法において、溶液は、Biイオン、Srイオン及びCaイオンのカウンターイオンとして、酸由来の陰イオンを含むことが好ましく、溶解度が高く、熱処理後に残渣が残存しない有機酸を含むことがより好ましい。このような無機酸由来の陰イオンとして、例えば、Cl、NO等の無機塩、有機酸由来の陰イオンとして、酢酸、トリフルオロ酢酸(TFA)、安息香酸、フェノール、蟻酸、マレイン酸、フタル酸等のカルボン酸、フェノールの誘導体を挙げることができる。特に、TFAやクエン酸は、溶解度が高く、残渣が残り難いため、好ましい。
【0114】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法において、溶液の接触方法として、溶液のスピンコート、溶液の塗布、溶液のスプレー噴霧、溶液への浸漬(ディップ)等を採用することができる。特に、溶液への浸漬が、接触量(塗布量)を均一化し易いため、好ましい。
【0115】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法において、熱処理温度は700〜900℃、750〜850℃、特に780〜830℃が好ましい。熱処理温度が低過ぎると、Cuの拡散が抑制され易いため、超伝導を示さない結晶が析出し易くなる。一方、熱処理温度が高過ぎると、銅又は銅合金が酸化され易い。なお、熱処理時間は1〜90分、特に10〜40分が好ましい。
【0116】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法において、超伝導結晶を析出させる前に、別途、溶媒を揮発させる工程を有することが好ましい。このようにすれば、各成分の拡散反応を制御し易くなる。溶媒を揮発させる方法として、減圧乾燥、加熱乾燥等が、簡便さの観点から、好ましい。
【0117】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法において、溶液の強熱残渣は、下記酸化物換算のモル%で、Bi 10〜50%、SrO 30〜60%、CaO 5〜30%、CuO 0〜10%を含有することが好ましい。つまり、溶液の強熱残渣が上記の範囲になるように、溶液の成分組成を調製することが好ましい。上記のように、溶液の強熱残渣の成分組成を限定した理由を以下に説明する。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は、モル%を指している。
【0118】
Biは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は10〜50%、好ましくは12〜40%、より好ましくは13〜35%である。Biの含有量が10%より少ないと、銅又は銅合金からCuを拡散させても、超伝導結晶が析出し難くなる。一方、Biの含有量が50%より多いと、ビスマイト等の異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)が析出し易くなる。
【0119】
SrOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は30〜60%、好ましくは35〜55%、より好ましくは40〜53%である。SrOの含有量が30%より少ないと、銅又は銅合金からCuを拡散させても、超伝導結晶が析出し難くなる。一方、SrOの含有量が60%より多いと、熱処理によりSr−Ca−Cu系酸化物の結晶が析出し易くなる。
【0120】
CaOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は5〜30%、好ましくは7〜25%、より好ましくは8〜20%である。CaOの含有量が5%より少ないと、銅又は銅合金からCuを拡散させても、超伝導結晶が析出し難くなる。一方、CaOの含有量が30%より多いと、Caイオンの溶解度が低い傾向にあるため、多量の溶媒が必要になってしまう。
【0121】
CuOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%である。CuOの含有量が10%より多いと、溶液中にCuが十分に存在した状態になるため、熱処理により、無秩序に結晶化してしまい、超伝導結晶の配向性を制御し難くなる。
【0122】
Bi+SrO+CaO+CuO(Bi、SrO、CaO、CuOの合量)の含有量が95%以上、特に97%以上が好ましい。このようにすれば、熱処理により、Bi−2212等が析出し易くなる。
【0123】
必要に応じて、以下の成分を添加することができる。
【0124】
PbOは、超伝導結晶の臨界温度を低下させる成分である。特に、Biの一部をPbOに置換すると、超伝導結晶の臨界温度が低下する傾向がある。しかし、置換量が多過ぎると、超伝導結晶が連続して析出し難くなる。よって、モル比PbO/(Bi+PbO)の値は0.2以下、0.15以下、特に0.005〜0.1が好ましい。
【0125】
Sbは、超伝導結晶の臨界温度を低下させる成分である。特に、Biの一部をSbに置換すると、超伝導結晶の臨界温度が低下する傾向がある。しかし、置換量が多過ぎると、超伝導結晶が連続して析出し難くなる。よって、モル比Sb/(Bi+Sb)の値は0.2以下、0.15以下、特に0.1以下が好ましい。
【0126】
LiO、NaO、KOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、SrO又はCaOの一部をLiO、NaO、KOのいずれかに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、超伝導結晶が連続して析出し難くなる。よって、モル比(LiO+NaO+KO)/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、0.05以下、特に0.0005〜0.02が好ましい。ここで、「LiO+NaO+KO」はLiO、NaO、KOの合量を指しており、「SrO+CaO」はSrO、CaOの合量を指している。なお、モル比LiO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に00005〜0.02が好ましい。モル比NaO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。モル比KO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。
【0127】
TiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をTiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、超伝導結晶が連続して析出し難くなる。よって、モル比TiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.005〜0.1が好ましい。
【0128】
SiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をSiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、超伝導結晶が連続して析出し難くなる。よって、モル比SiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.1以下が好ましい。
【0129】
SrO又はCaOの一部をMgO、BaO、ZnOのいずれかに置換することができる。但し、置換量が多過ぎると、超伝導結晶に置換成分を固溶させることが困難になる。特に、BaOは、イオン半径が大きいため、超伝導結晶に固溶させることが困難である。よって、モル比(MgO+BaO+ZnO)/(SrO+CaO)の値は0.5以下、0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。ここで、「MgO+BaO+ZnO」は、MgO、BaO、ZnOの合量を指す。なお、モル比MgO/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比BaO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比ZnO/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。
【0130】
上記成分以外にも、超伝導結晶を析出し易くする目的のために、他の成分を10%以下、5%以下、特に2%以下の範囲で添加してもよい。
【0131】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法において、銅又は銅合金の形状は、丸線材、テープ線材、撚り線材等の線形状、平板形状、筒形状が好ましい。特に、送電線等の用途に用いる場合、線形状が好ましい。
【実施例1】
【0132】
以下、実施例に基づき、第一の発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。第一の発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0133】
表1、2は、第一の発明に係る実施例(No.1〜6、8〜11)、比較例(No.7)を示している。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
まず、表1、2に記載のガラス組成になるように、Bi、SrCO、CaCO等の原料を調合、混合し、ガラスバッチを作製した。なお、SiO、TiO、Alの導入原料として、特級試薬を使用し、LiO、NaO、KOの導入原料として、特級試薬の炭酸塩を用いた。次に、白金坩堝にガラスバッチを充填した後、800℃に設定した電気炉内に白金坩堝を15時間投入した。続いて、1150℃に設定した電気炉内に白金坩堝を移し、10分静置した。ガラスバッチが融液化したことを確認した上で、溶融ガラスをツインローラーに流し出し、厚さ約0.3mmのフィルム状のBi系ガラスを得た。このガラスフィルムを乳鉢で粉砕し、ガラス粉末に加工した。このガラス粉末につき、XRD測定を行ったところ、結晶に起因するピークは確認されず、非晶質(ガラス)であることが確認された。なお、XRDの測定装置としてリガク製RINT2100を用い、電圧40kV、電流40mA、測定範囲2θ=4〜60°、スキャン速度2°/分で測定を行った。
【0137】
得られたガラス粉末0.5gを銅板(25×25×0.1mm)の表面上に均一に分散するように散布した。次に、820℃に設定した電気炉(大気雰囲気)にこの銅板を投入し、30分後に取り出した。各熱処理試料につき、超伝導結晶の析出及びその配向性を評価した。その結果を表1に示す。
【0138】
各熱処理試料の表面をXRDで測定することにより、析出した超伝導結晶を同定した。
【0139】
次のようにして、配向性を評価した。電子顕微鏡により、各熱処理試料の表面を観察して、配向状態が良好であったもの、例えば図2に示すような配向状態であったものを「○」、それ以外を「×」とした。
【0140】
表1から明らかなように、試料No.1〜11は、熱処理後にBi−2212結晶が析出していた。また、銅板の表面は、大気による酸化やBi系ガラスとの反応により変質していた。しかし、熱処理試料の内部は金属銅の状態であるため、屈曲しても、Bi−2212結晶が剥がれず、また熱処理試料が破損しなかった。
【0141】
さらに、試料No.1〜6及び8〜11は、配向性の評価が良好であった。一方、試料No.7は、ガラス粉末中のCuOの含有量が多かったため、配向性の評価が不良であった。
【実施例2】
【0142】
まず、表1の試料No.1〜6に記載のガラス組成になるように、Bi、SrCO、CaCO等の原料を調合、混合し、ガラスバッチを作製した。次に、白金坩堝にガラスバッチを充填した後、800℃に設定した電気炉内に白金坩堝を15時間投入した。さらに、1150℃に設定した電気炉内に白金坩堝を移し、10分静置した。ガラスバッチが融液化したことを確認した上で、溶融ガラスをツインローラーに流し出し、厚さ約0.3mmのフィルム状のBi系ガラスを得た。続いて、フィルム状のガラスを乳鉢で粉砕し、目開き37μmの篩を通過させて、ガラス粉末を得た。このガラス粉末につき、XRD測定を行ったところ、結晶に起因するピークは確認されず、非晶質(ガラス)であることが確認された。なお、XRDの測定装置としてリガク製RINT2100を用い、電圧40kV、電流40mA、測定範囲2θ=4〜60°、スキャン速度2°/分で測定を行った。
【0143】
得られたガラス粉末5gとビークル(エチルセルロースをα−タ−ピネオールに溶解させたもの)を混合、混練して、ペースト化した。銅板(30×70×0.1mm)の表面に、得られたペーストを寸法20×50mmにスクリーン印刷した後、120℃に設定した電気炉で溶媒を揮発させた。乾燥膜の厚さは約10μmであった。続いて、820℃に設定された電気炉(大気雰囲気中)にこの銅板を投入し、30分後に取り出した。各熱処理試料の表面をXRDで測定したところ、Bi−2212結晶の存在が確認され、且つBi−2212結晶の配向性も良好であった。また、銅板の表面は、大気による酸化やガラスとの反応により変質していた。しかし、熱処理試料の内部は金属銅の状態であるため、屈曲しても、Bi−2212結晶が剥がれず、また熱処理試料が破損しなかった。なお、[実施例1]の場合よりも、少量のガラス粉末でBi−2212結晶を作製することができた。
【実施例3】
【0144】
まず、表1の試料No.1〜6に記載のガラス組成になるように、Bi、SrCO、CaCO等の原料を調合、混合し、ガラスバッチを作製した。次に、白金坩堝にガラスバッチを充填した後、800℃に設定した電気炉内に白金坩堝を15時間投入した。さらに、1150℃に設定した電気炉内に白金坩堝を移し、10分静置した。ガラスバッチが融液化したことを確認した上で、溶融ガラスをツインローラーに流し出し、厚さ約0.4mmのフィルム状のBi系ガラスを得た。続いて、フィルム状のガラスを乳鉢で粉砕し、400メッシュの篩を通過させて、ガラス粉末を得た。このガラス粉末につき、XRD測定を行ったところ、結晶に起因するピークは確認されず、非晶質(ガラス)であることが確認された。なお、XRDの測定装置としてリガク製RINT2100を用い、電圧40kV、電流40mA、測定範囲2θ=4〜60°、スキャン速度2°/分で測定を行った。
【0145】
得られたガラス粉末0.5gを青銅板(30×30×0.1mm)の表面上に均一に分散させた上で、アルミナ板(20×20×1mm)を載置し、更にアルミナ板の上にアルミナ耐火物(約100g)を載せた。次に、このような押圧状態で、800℃に設定した電気炉で20分間熱処理した。各熱処理試料の表面をXRDで測定したところ、Bi−2212結晶の存在が確認され、且つBi−2212結晶の配向性も良好であった。また、青銅板の表面は、大気による酸化やガラスとの反応により変質していた。しかし、青銅板の内部は酸化、変質していなかったため、屈曲しても、Bi−2212結晶が剥がれず、また熱処理試料が破損しなかった。なお、[実施例1]の場合よりも、少量のガラス粉末でBi−2212結晶を作製でき、且つ配向性も良好であった。
【実施例4】
【0146】
図3に示すように、SUS430の板1(10mm×30mm×0.1mm厚)の長さ方向に0.1mmφの銅線2を配接し、その上から[実施例2]で作製した試料No.1のペースト3を乾燥厚さ0.2mmになるようにスクリーン印刷し、[実施例2]と同様の条件で熱処理した。その後、熱処理試料の表面をXRDで測定したところ、Bi−2212結晶の存在が確認され、且つBi−2212結晶の配向性も良好であった。
【実施例5】
【0147】
以下、実施例に基づき、第二の発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。第二の発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0148】
表3は、第二の発明に係る実施例(No.12〜17)、比較例(No.18)を示している。
【0149】
【表3】

【0150】
まず、表3に記載のガラス組成になるように、Bi、SrCO、CaCO等の原料を調合、混合し、ガラスバッチを作製した。次に、白金坩堝にガラスバッチを充填した後、800℃に設定した電気炉内に白金坩堝を15時間投入した。続いて、1150℃に設定した電気炉内に白金坩堝を移し、10分静置した。ガラスバッチが融液化したことを確認した上で、Bi系ガラス融液中に銅箔(300mm×5mm×0.1mm厚)を10秒間浸漬した後、銅箔を引き上げた。なお、2本のアルミナ棒を用いて、Bi系ガラスの付着量を均一化した。各浸漬試料につき、超伝導結晶の析出及びその配向性を評価した。その結果を表3に示す。
【0151】
各浸漬試料の表面をXRDで測定することにより、超伝導結晶の析出を評価した。なお、XRDの測定装置としてリガク製RINT2100を用い、電圧40kV、電流40mA、測定範囲2θ=4〜60°、スキャン速度2°/分で測定を行った。
【0152】
また、各浸漬試料の表面を電子顕微鏡で観察して、配向状態が良好であったもの、例えば図4に示すような配向状態であったものを「○」、それ以外を「×」とした。
【0153】
表3から明らかなように、試料No.12〜18は、浸漬後にBi−2212結晶が析出していた。また、各浸漬試料の内部は、金属銅の状態であり、屈曲しても、Bi−2212結晶が剥がれず、また浸漬試料が破損しなかった。
【0154】
さらに、試料No.12〜17は、配向性の評価が良好であった。一方、試料No.18は、Bi系ガラス融液中のCuOの含有量が多かったため、配向性の評価が不良であった。
【実施例6】
【0155】
[実施例5]で作製した各浸漬試料(試料No.12〜17)に対し、更に820℃で20分間熱処理を行った。各熱処理試料の表面をXRDで測定したところ、Bi−2212結晶に起因するピークが確認された。なお、ピーク強度は、[実施例5]の場合よりも大きかった。また、各熱処理試料の表面を電子顕微鏡で観察したところ、配向状態も良好であった。さらに、各熱処理試料の内部が金属銅の状態であるため、屈曲しても、熱処理試料が破損せず、Bi−2212結晶が剥がれなかった。
【実施例7】
【0156】
まず、[実施例5]に係るガラス組成(試料No.12〜17)になるように、Bi、SrCO、CaCO等の原料を調合、混合し、ガラスバッチを作製した。次に、白金坩堝にガラスバッチを充填した後、800℃に設定した電気炉内に白金坩堝を15時間投入した。続いて、1150℃に設定した電気炉内に白金坩堝を移し、10分静置した。ガラスバッチが融液化したことを確認した上で、Bi系ガラス融液を銅板(200mm×200mm×1mm厚)上に10mL程度流し出すことにより、Bi系ガラス融液を銅板の表面に接触させた。なお、流し出す過程において、ステンレス製のローラーにより、銅板上のBi系ガラスの厚みを均一化した。
【0157】
各接触試料の表面をXRDで測定したところ、Bi−2212結晶に起因するピークが確認された。また、各接触試料の表面を電子顕微鏡で観察したところ、配向状態も良好であった。さらに、各接触試料の内部が金属銅の状態であるため、屈曲しても、接触試料が破損せず、Bi−2212結晶が剥がれなかった。
【実施例8】
【0158】
以下、実施例に基づき、第三の発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。第三の発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0159】
表4は、第三の発明に係る実施例(No.19〜24)を示している。
【0160】
【表4】

【0161】
表4に記載の強熱残渣になるように、溶液を作製した。具体的に述べると、Bi、SrCO、CaCO等の原料を調合、混合した。次に、得られた混合原料を300mLのメスフラスコに投入し、更にそのメスフラスコにエタノールを注入し、攪拌しながらトリフルオロ酢酸(TFA)を懸濁液が透明になるまで滴下して、溶液を作製した。続いて、得られた溶液を脱脂綿に染み込ませた後、この脱脂綿により、銅板(25mm×60mm×0.1mm厚)に溶液を塗布した。さらに、120℃に設定した電気炉(大気雰囲気)に銅板を30分間投入して、溶媒を揮発させた。さらに、820℃に設定した電気炉(大気雰囲気)に銅板を30分間投入した。最後に、各熱処理試料につき、超伝導結晶の析出及びその配向性を評価した。その結果を表4に示す。
【0162】
各熱処理試料の表面をXRDで測定することにより、超伝導結晶の析出を評価した。なお、XRDの測定装置としてリガク製RINT2100を用い、電圧40kV、電流40mA、測定範囲2θ=4〜60°、スキャン速度2°/分で測定を行った。
【0163】
また、各熱処理試料の表面を電子顕微鏡で観察して、配向状態が良好であったもの、例えば図5に示すような配向状態であったものを「○」、それ以外を「×」とした。
【0164】
表4から明らかなように、試料No.19〜24は、熱処理によりBi−2212結晶が析出していた。また、試料No.19〜24は、配向性の評価が良好であった。さらに、各熱処理試料の内部は、金属銅の状態であり、屈曲しても、熱処理試料が破損せず、Bi−2212結晶が剥がれなかった。
【実施例9】
【0165】
表4に記載の強熱残渣(試料No.19〜24)になるように、溶液を作製した。具体的に述べると、Bi、SrCO、CaCO等の原料を調合、混合した。次に、得られた混合原料を300mLのメスフラスコに投入し、更にそのメスフラスコにエタノールを注入し、攪拌しながらトリフルオロ酢酸(TFA)を懸濁液が透明になるまで滴下し、更にエチルセルロースを添加した。次に、得られた溶液中に銅板(25mm×60mm×0.1mm厚)を浸漬した。続いて、120℃に設定した電気炉(大気雰囲気)に銅板を30分間投入して、溶媒を揮発させた。さらに、820℃に設定した電気炉(大気雰囲気)に銅板を30分間投入した。各熱処理試料の表面をXRDで測定したところ、Bi−2212結晶に起因するピークが確認された。なお、Bi−2212結晶に起因するピーク強度は、[実施例8]の場合よりも大きかった。また、各熱処理試料の表面を電子顕微鏡で観察したところ、配向状態も良好であった。さらに、各熱処理試料の内部が金属銅の状態であるため、屈曲しても、熱処理試料が破損せず、Bi−2212結晶が剥がれなかった。
【実施例10】
【0166】
表4に記載の強熱残渣(試料No.19〜24)になるように、溶液を作製した。具体的に述べると、Bi、SrCO、CaCO等の原料を調合、混合した。次に、得られた混合原料を300mLのメスフラスコに投入し、更にそのメスフラスコに蒸留水を注入し、攪拌しながらクエン酸水溶液を懸濁液が透明になるまで滴下し、更にポリエチレングリコールを添加した。次に、得られた溶液中に銅板(25mm×60mm×0.1mm厚)を浸漬した。続いて、120℃に設定した電気炉(大気雰囲気)に銅板を30分間投入して、溶媒を揮発させた。さらに、820℃に設定した電気炉(大気雰囲気)に銅板を30分間投入した。各熱処理試料の表面をXRDで測定したところ、Bi−2212結晶に起因するピークが確認された。なお、Bi−2212結晶に起因するピーク強度は、[実施例8]の場合よりも大きかった。また、各熱処理試料の表面を電子顕微鏡で観察したところ、配向状態も良好であった。さらに、各熱処理試料の内部が金属銅の状態であるため、屈曲しても、熱処理試料が破損せず、Bi−2212結晶が剥がれなかった。
【産業上の利用可能性】
【0167】
第一の発明に係るBi系ガラス及びそれを用いた超伝導材料の製造方法は、強磁場を発生させるコイル、ロスの小さな送電線、SQUID等の電子素子等の用途に好適である。
【0168】
第二の発明に係る超伝導材料の製造方法は、強磁場を発生させるコイル、ロスの小さな送電線、SQUID等の電子素子等の用途に好適である。
【0169】
第三の発明に係る超伝導材料の製造方法は、強磁場を発生させるコイル、ロスの小さな送電線、SQUID等の電子素子等の用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、Bi 10〜50%、SrO 30〜60%、CaO 5〜30%、CuO 0〜10%を含有することを特徴とするBi系ガラス。
【請求項2】
Bi+SrO+CaO+CuOの含有量が95%以上であることを特徴とする請求項1に記載のBi系ガラス。
【請求項3】
粉末形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のBi系ガラス。
【請求項4】
ペースト化されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のBi系ガラス。
【請求項5】
超伝導結晶の形成に用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のBi系ガラス。
【請求項6】
BiSrCaCu結晶の形成に用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のBi系ガラス。
【請求項7】
銅又は銅合金の表面に、請求項1〜6のいずれかに記載のBi系ガラスを接触させた状態で熱処理し、超伝導結晶を析出させることを特徴とする超伝導材料の製造方法。
【請求項8】
700〜900℃の温度で熱処理することを特徴とする請求項7に記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項9】
熱処理時に、Bi系ガラスを押圧することを特徴とする請求項7又は8に記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項10】
銅又は銅合金の表面に、ペースト化されたBi系ガラスをスクリーン印刷した後に、熱処理することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項11】
線形状の銅又は銅合金を用いることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載の製造方法により作製されてなることを特徴とする超伝導材料。
【請求項13】
銅又は銅合金の表面に、
ガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、Bi 10〜50%、SrO 30〜60%、CaO 5〜30%、CuO 0〜10%を含有するBi系ガラス融液を接触させる接触工程を有することを特徴とする超伝導材料の製造方法。
【請求項14】
Bi系ガラス融液中のBi+SrO+CaO+CuOの含有量が95%以上であることを特徴とする請求項13に記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項15】
銅又は銅合金をBi系ガラス融液中に浸漬させることを特徴とする請求項13又は14に記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項16】
接触工程後に、更に700〜900℃の熱処理工程を有することを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項17】
線形状の銅又は銅合金を用いることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項18】
接触工程及び/又は熱処理工程で、超伝導結晶を析出させることを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項19】
接触工程及び/又は熱処理工程で、BiSrCaCu結晶を析出させることを特徴とする請求項13〜18のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項20】
請求項13〜19のいずれかに記載の製造方法により作製されてなることを特徴とする超電導材料。
【請求項21】
銅又は銅合金をBi、Sr及びCaを含む溶液に接触させた後、熱処理して、超伝導結晶を析出させることを特徴とする超伝導材料の製造方法。
【請求項22】
銅又は銅合金をBiイオン、Srイオン及びCaイオンを含む溶液に接触させた後、熱処理して、超伝導結晶を析出させることを特徴とする請求項21に記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項23】
溶液が、Biイオン、Srイオン及びCaイオンのカウンターイオンに、酸由来の陰イオンを含むことを特徴とする請求項22に記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項24】
酸が、トリフルオロ酢酸又はクエン酸であることを特徴とする請求項23に記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項25】
銅又は銅合金を溶液中に浸漬させた後、熱処理することを特徴とする請求項21〜24のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項26】
700〜900℃で熱処理することを特徴とする請求項21〜25のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項27】
溶液が、更に増粘剤及び/又は界面活性剤を含むことを特徴とする請求項21〜26のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項28】
溶液の強熱残渣が、下記酸化物換算のモル%で、Bi 10〜50%、SrO 30〜60%、CaO 5〜30%、CuO 0〜10%を含有することを特徴とする請求項21〜27のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項29】
線形状の銅又は銅合金を用いることを特徴とする請求項21〜28のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項30】
熱処理して、BiSrCaCu結晶を析出させることを特徴とする請求項21〜29のいずれかに記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項31】
請求項21〜30のいずれかに記載の製造方法により作製されてなることを特徴とする超電導材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−231001(P2011−231001A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81364(P2011−81364)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】