説明

Bi12XO20粉末の製造方法およびBi12XO20粉末、並びに放射線光導電体、放射線検出器および放射線撮像パネル

【課題】凝集しにくい平均粒子径を有するBi12XO20粉末を製造ロット間および同一製造ロット内の組成ばらつきを抑制して製造する。
【解決手段】Bi12XO20粉末(但し、XはSi、Ge、Tiからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む元素である)を、Bi元素を有する溶液とX元素を有する溶液とを用意する工程(A)と、反応容器21にあらかじめ供給された母液に対して両溶液を添加して混合液を調製する工程(B)と、混合液の温度を、添加開始時の温度より上昇させる工程(C)とを有し、工程(B)において、混合液中のBi元素とX元素の双方の物質量が、添加開始時から並行して増加するように両溶液を添加することにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bi12XO20粉末の製造方法およびこの製造方法により製造されるBi12XO20粉末、並びにBi12XO20粉末を用いて得られる放射線光導電体、この放射線光導電体を用いた放射線検出器および放射線撮像パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、医療診断等を目的とするX線をはじめとする放射線撮影において、放射線画像情報記録手段として放射線固体検出器が用いられており、この固体検出器により被写体を透過した放射線を検出して被写体に関する放射線画像を表す画像信号を得る放射線撮影装置が各種提案、実用化されている。
【0003】
この装置に使用される固体検出器としても、種々の方式が提案されている。例えば、放射線を電荷に変換する電荷生成プロセスの面からは、放射線が照射されることにより蛍光体から発せられた蛍光を光導電層で検出して得た信号電荷を蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を画像信号(電気信号)に変換して出力する光変換方式(間接変換方式)の固体検出器、或いは、放射線が照射されることにより放射線光導電層内で発生した信号電荷を電荷収集電極で集めて蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を電気信号に変換して出力する直接変換方式の固体検出器等がある。
【0004】
上記のうち、直接変換方式は放射線を光に一旦変換するためのシンチレータ層を介することがないため、画像の鮮鋭度に優れるという利点を有している。一方、蓄積された電荷を外部に読み出す電荷読出プロセスの面からは、読取光(読取用の電磁波)を検出器に照射して読み出す光読出方式のものや、蓄電部と接続されたTFT(薄膜トランジスタ:thin film transistor)を走査駆動して読み出すTFT読出方式のもの等がある。
直接変換方式の放射線光導電層としては、高い暗抵抗を有し、応答速度が優れているという利点からアモルファス−Se(a−Se)が主に用いられており、医療用診断機器に広く利用されている。
【0005】
しかし、a−Seは元素の原子番号が小さく、かつ密度が低い(4.3g/cm3)ために放射線の吸収能が低く、かなりの厚膜(例えばX線の吸収に対しては1mm厚程度)にしても充分な吸収量が得られないという問題がある。放射線吸収を稼ぐためにはさらに厚膜にすればよいが、厚膜にすると、電界を維持するために印加電圧が高くなり、高圧のためにショートが起きやすくなって、安全性の確保が困難になるという問題がある。またa−Seは50℃以上では結晶化が起こりやすく熱安定性が十分でないため、感度が低下するという問題があり、保管・輸送および使用に際しては制約条件を伴う。
【0006】
このような問題に鑑み、a−Seに代わるものとして、CdTe(密度5.9g/cm3)やHgI2(密度6.4g/cm3)、PbI2(密度6.2g/cm3)、PbO(密度9.8g/cm3)など主元素が高原子番号を有し、かつ密度の高い放射線光導電性材料を用いることが検討されている。しかしながら上述したこれらの材料は、何れも毒性が高いことに加え、化学的に不安定であることから、実用上の観点から好ましい材料とは言い難い。
【0007】
そこで、近年、化学安定性が良好で、毒性が低く、且つ高密度な放射線光導電体の材料として、組成式Bi12XO20(ただし、XはGe、Si、Ti中の少なくとも1種を主成分とする元素)で表されるBi含有酸化物が検討されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2)。特許文献1には、Bi12XO20において、Bi12のモル量に対するX元素のモル量の比が1となる組成が、放射線光導電体として好適であることが記載されている(段落[0041]〜[0042]を参照)。
【0008】
Bi12XO20は高密度であることからX線吸収率が大きく、毒性が低く、化学的安定性が高いことから、放射線光導電体の材料として好適であり、Bi12XO20の多結晶体として、あるいはBi12XO20粒子が樹脂バインダ等に分散された塗布膜等の態様で用いられている(特許文献2,特許文献3)。
【0009】
特許文献3には、Bi12XO20からなる多結晶体を使用した放射線撮像パネルが開示されており、放射線光導電体を多結晶体とすれば、低コストで大面積化が可能となり、かつ発生電荷の捕集効率が高まり感度を向上させることが可能であることが記載されている。また、特許文献2には、Bi12XO20酸化物を含む塗布膜を放射線光導電体とする放射線撮像パネルが開示されており、放射線撮像パネルの製造コストの低減が可能であることが記載されている。
【0010】
Bi12XO20の多結晶体の製造方法としては、例えば、Bi12XO20粉末をキャリアガスで巻き上げてエアロゾル化し、それを支持体に吹き付け堆積させて製膜するエアロゾルデポジション法(AD法)、Bi12XO20粉末をプレス機にて高圧力でプレス成型して焼結させるプレス焼結法、Bi12XO20粉末のグリーンシート(バインダを含んだ膜)を作製し、このグリーンシートの脱バインダ化および粉末の焼結化を行うグリーンシート法などがある。また、Bi12XO20の塗布膜は、Bi12XO20粉末とバインダと溶剤とを混合して調製したスラリーを塗布成膜して作製する。多結晶体、塗布膜のいずれの態様においても、その製造にはBi12XO20粉末が用いられており、均一且つ良好な性能を有する多結晶体又は塗布膜を得るためには、Bi12XO20粉末は、粒子組成のばらつきが小さく、粒子形状および粒子サイズが均一であり、さらに個々の粒子サイズが凝集しにくい大きさであることが好ましい。
【0011】
Bi12XO20粉末の製造方法としては、構成元素の単独酸化物を混合して焼成・粉砕するという固相法(非特許文献3)もしくはBi12XO20単結晶の粉砕による方法(特許文献4)が、従来知られている。しかしながら、これらの方法で得られるBi12XO20粉末は、粒子形状や粒子サイズが不均一であり、特に固相法により得られるBi12XO20粉末は粒子組成のばらつきが大きくなりやすい。また、粉砕工程の際に使用する容器・媒体(セラミックスボール、乳棒・乳鉢など)から不純物が混入することが避けられず、充分な性能をもった完成品を得ることは難しい。
【0012】
一方、液相法によりBi12XO20粉末を製造する方法が知られている。例えば非特許文献4には、Si源としてのNa2O・XSiO2や、Ge源としてのGeO2をアルカリ性水溶液に溶解させて調製した母液中に、Bi(NO33を溶解させた酸性のBi溶液を添加して沈殿を形成し、反応液のpHを調整後、適当な温度にしてBi12XO20を合成する方法が記載されている。
【0013】
また、特許文献5には、アルカリ可溶性ケイ素化合物またはアルカリ可溶性ゲルマニウム化合物のアルカリ性溶液と、水溶解性ビスマス化合物溶液とを80℃以上でせん断型撹拌機により撹拌混合して反応させることによりBi12XO20粉末を合成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−237478号公報
【特許文献2】特開2000−249769号公報
【特許文献3】特開2005−274257号公報
【特許文献4】特開昭59−55440号公報
【特許文献5】特開2006−248820号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】S.L. Hou, R.B. Lauer, R.E.Aldrich ;J.Appl.Phys., Vol.44, No.6, June 1973, p.2652〜p.2658.
【非特許文献2】B.C.Grabmaiter, R.Oberschmid ;phys. stat. sol.(a)96, p.199〜p.210(1986).
【非特許文献3】Matjaz Valant and Danilo Suvorov ;“J.Am.Ceram.Soc”84(12)、 p2900(2001).
【非特許文献4】H.S.Horowitz, A.J.JacoBson, J.M.Mewsam ;“Solid State Ionics ”32/33, p678-690(1989).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
非特許文献4に記載の方法では、同じ製造ロット内においては粒子形状と粒子サイズが均一なBi12XO20粉末を得ることができるが、非特許文献4のTable1に示されているように、製造ロット間でのばらつきが0.9≦X/Bi12≦1.2(式中、X/Bi12は、Bi元素12モルに対するX元素の物質量である。)と大きく、放射線光導電体として良好な性能を発現する組成範囲のBi12XO20粉末を再現良く製造することは難しい。
【0017】
また、非特許文献4では反応容器中にあらかじめSi源となるケイ酸カリウムの全量を供給し、その中にBi源となる硝酸ビスマスを全量添加することにより製造しているが、このような方法で製造すると、得られる酸化物の組成はSiリッチとなったり、Biリッチとなったりする(非特許文献4のTable1等)。加えて、添加開始時は混合液中のX源となる元素が大過剰であるが、Bi溶液の添加に伴って、Siに対するBiの割合が徐々に変化し、結果として得られるBi12XO20粉末は、添加開始時の沈殿物に由来する粒子と、添加終了時の沈殿物に由来する粒子の組成が大きく異なることが予想される。つまり、みかけ上の平均組成は、好ましい組成範囲のBi12XO20粉末であっても、実質上は組成ばらつきが大きく、これを放射線光導電体として用いても良好な性能が得られない。
【0018】
一方、特許文献5に記載の製造方法においては、同じ製造ロット内の組成および製造ロット間での平均組成のばらつきを抑制することはできるものの、Bi12XO20粉末の平均粒子径は0.5〜2μmと小さく、凝集しやすい。このような凝集しやすい粒子径のBi12XO20粉末を用いてBi12XO20から成る多結晶体を製造すると、より均一性の高い充填密度の放射線光導電体を容易に得ることは難しい。またBi12XO20粉末を用いて塗布膜を製造する場合も、凝集しやすい粒子径のBi12XO20粉末を用いると均一性の高いスラリーを得ることが難しく、均一性の高い充填密度の放射線光導電体を容易に得ることは難しい。特に、塗布膜においては、粒子径が小さいと粒子―粒子間、粒子―分散媒間の界面が増加することとなり、発生したキャリアの伝導が阻害されやすくなるという問題も生じることが懸念される。
【0019】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、Bi12XO20粉末を製造ロット間および同一製造ロット内の組成ばらつきを抑制して製造することを目的とするものである。また、Bi12XO20粉末を製造ロット間および同一製造ロット内の組成ばらつきを抑制しつつ、より好ましくは、凝集しにくい平均粒子径を有するBi12XO20粉末を製造することを目的とするものである。また、このBi12XO20粉末を用いて得られた放射線光導電体、並びに放射線検出器、および放射線撮像パネルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のBi12XO20粉末(但し、XはSi、Ge、Tiからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む元素である。以下、この記載は省略する。)の製造方法は、Bi元素を有する溶液とX元素を有する溶液とを用意する工程(A)と、反応容器にあらかじめ供給された母液に対して前記両溶液を添加して混合液を調製する工程(B)と、前記混合液の温度を、前記添加開始時の温度より上昇させる工程(C)とを有し、前記工程(B)において、混合液中の前記Bi元素と前記X元素の双方の物質量が前記添加開始時から並行して増加するように前記両溶液を添加することを特徴とするものである。
【0021】
本発明において「混合」とは、Bi元素を有する溶液とX元素を有する溶液の双方を母液に対して添加して混合液を調製することを意味している。この場合、両溶液の添加を開始した時点で混合が開始され、両溶液全ての添加を完了した時点で混合が終了したものとする。
【0022】
本発明において「母液」とは、添加開始前に反応容器中にあらかじめ供給されている液体のことを意味する。母液に対してBi元素を有する溶液とX元素を有する溶液を添加することによって、混合液を調製することができる。母液中には、Bi元素またはX元素の一部をあらかじめ存在させておいてもよい。
【0023】
本発明において「並行して増加するように添加する」とは、添加開始直前の混合液中のBi元素とX元素の物質量と比較して、添加中および添加完了時における混合液中のBi元素とX元素の物質量が何れもが増加するように添加することを意味する。従って、例えばBi元素とX元素を有さない母液に対してBi元素を有する溶液とX元素を有する溶液とを添加してもよい。この場合、Bi元素とX元素の物質量が何れもが増加するように添加するのであれば、添加するBi元素とX元素それぞれの物質量が変動してもよく、添加の途中で混合液中のBi元素とX元素の量論比が変動してもよい。また、Bi元素またはX元素の一部を含む母液に対して原料溶液を添加してもよい。
【0024】
これらの場合、双方の溶液を連続的に添加してもよいし、断続的に添加してもよい。ただし、Bi元素(X元素)のみの全量を先行して母液に添加した場合は、母液中にBi元素(X元素)の全量をあらかじめ存在させておいた場合と同様であって、添加によってBi元素(X元素)の物質量が増加したとはみなさない。従って、この場合は本発明における「並行して増加するように添加する」の範疇から除外される。
【0025】
本発明の前記工程(B)においては、前記添加開始時から添加終了時までの間、前記母液に添加される前記Bi元素と前記X元素の物質量の比を、実質上一定とすることが好ましい。
本発明において、「物質量」とはモル量を意味する。また、「実質上一定である」とは、母液に添加される前記Bi元素と前記X元素の物質量の比が一定となる条件で添加を行うことを意味する。ここで、Bi元素とX元素の物質量の比が、原料溶液の調製時における秤量誤差や添加装置の添加精度内の添加量バラツキなど、制御困難なファクターによってのみ変動する場合は、「実質上一定である」の範疇に入るものとする。
【0026】
本発明の前記工程(B)においては、前記Bi元素を有する溶液と前記X元素を有する溶液の供給方式がダブルジェット方式であることが好ましい。
本発明において「ダブルジェット方式」とは、前記Bi元素を有する溶液と前記X元素を有する溶液の送液流路の末端を母液中に位置させて、両溶液を母液中に直接添加して混合液を調製する方式のことを意味する。
【0027】
本発明の前記工程(B)において、前記混合液の調製は、該混合液の温度が25℃より高く75℃より低くなる範囲で実施することが好ましい。また、本発明の前記工程(C)においては、前記温度の上昇を65℃より高く100℃より低くなる範囲で実施することが好ましい。
前記混合液のpHは13.5以下であること、または14以上であることが好ましい。
【0028】
本発明のBi12XO20粉末は、上記本発明のBi12XO20粉末の製造方法によって製造されたものであって、平均粒径が2μmより大きく20μmより小さく、下記式(1)を満足する組成を有することを特徴とするものである。より好ましくは、下記式(2)を満足する組成を有することが望ましい。
0.91≦X/Bi12≦1.09・・・(1)
0.94≦X/Bi12≦0.99・・・(2)
(式中、X/Bi12は、Bi元素12モルに対するX元素の物質量である。以下、この記載は省略する。)
【0029】
本発明の第1の放射線光導電体は、上記本発明のBi12XO20粉末を用いて製造されることを特徴とするものである。また、本発明の第2の放射線光導電体は、Bi12XO20多結晶体からなる(但し、不可避不純物を含んでもよい)放射線光導電体であって、前記多結晶体の組成が、上記式(2)を満足することを特徴とするものである。また本発明の第3の放射線光導電体は、Bi12XO20粒子がバインダを介して結合された放射線光導電体であって、前記Bi12XO20粒子が、上記式(2)を満足する組成を有することを特徴とするものである。
【0030】
本発明の放射線検出器は、上記本発明の放射線光導電体と、該放射線光導電体に電界を印加する電極とを備えたことを特徴とするものである。
【0031】
本発明の第1の放射線撮像パネルは、放射線曝射によって放射線光導電体に発生したキャリアを、前記放射線光導電体に電界を印加することによって電荷として読み出す放射線撮像パネルであって、上記本発明の放射線光導電体からなる放射線光導電層と、該放射線光導電層に対して電界を印加する電極と、前記放射線光導電層に発生したキャリアを検出する電流検出手段とを有することを特徴とするものである。
【0032】
本発明の第2の放射線撮像パネルは、放射線曝射によって放射線光導電層に発生したキャリアを、前記放射線光導電層に電界を印加することによって電荷として読み出す放射線撮像パネルであって、前記放射線光導電層に電界を印加する第1の電極と、上記本発明の放射線光導電体からなる放射線光導電層と、前記キャリアを電荷として蓄積する電荷輸送層と、前記光照射により該電荷輸送層に蓄積された電荷を取り出す読取用光導電層と、前記放射線光導電層に対して電界を印加する第2の電極と、前記読取用光導電層に取り出された電荷を検出する電流検出手段とを順次備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明のBi12XO20粉末の製造方法は、Bi元素を有する溶液とX元素を有する溶液とを、混合液中のBi元素とX元素の双方の物質量が並行して増加するように母液に対して添加して混合液を調製した後に、この混合液の温度を、混合開始時の温度より上昇させることを特徴としており、母液に対して、Bi元素およびX元素の物質量が並行して増加するように原料液が添加されるため、反応容器中の両元素の含有量の比率がBi12XO20の組成から大きくずれることなく反応を進行させることができ、また、反応を比較的低い温度で開始させてから昇温させて結晶化させるので、生成する核の数を十分に少なくし、粒子サイズを大きくすることができる。従って、本発明によれば、凝集しにくい平均粒子径を有するBi12XO20粉末を、製造ロット間および同一製造ロット内の組成ばらつきを小さく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の製造方法に使用できる製造装置の一実施の形態を示す模式概略図である。
【図2】本発明の製造方法に使用できる製造装置の別の実施の形態を示す模式概略図である。
【図3】本発明の製造方法に使用できる製造装置のさらに別の実施の形態を示す模式概略図である。
【図4】本発明の製造方法に使用できる製造装置のさらに別の実施の形態を示す模式概略図である。
【図5】本発明のBi12XO20粉末を用いて得られた放射線光導電体を備えた放射線検出器の概略断面図である。
【図6】本発明の放射線光導電体の製造に用いられるAD法を行う製膜装置の概略模式図である。
【図7】放射線検出部とAMA基板が接合された構造を示す概略模式図である。
【図8】放射線検出部とAMA基板の画素部分を示す概略断面図である。
【図9】AMA基板の等価回路を示す電気回路図である。
【図10】本発明の放射線光導電体を有する放射線撮像パネルの一実施の形態を示す概略断面図である。
【図11】放射線撮像パネルを用いた記録読取システムの概略模式図である。
【図12】静電潜像記録過程について電荷モデルを表す図である。
【図13】静電潜像読取過程について電荷モデルを表す図である。
【図14】実施例1の混合液内のBi元素とSi元素の量論関係を示す図である。
【図15】実施例1のBi12XO20粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図16】実施例1のBi12XO20粉末の粒度分布を示す図である。
【図17】実施例1および3のBi12XO20粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図18】実施例10の混合液内のBi元素とSi元素の量論関係を示す図である。
【図19】実施例11の混合液内のBi元素とSi元素の量論関係を示す図である。
【図20】添加元素量比と粉末組成比の関係を示すグラフである。
【図21】比較例4のBi12XO20粉末の粒度分布を示す図である。
【図22】放射線撮像パネル検出部の作製に使用した圧縮装置の概略断面図である。
【図23】放射線光電特性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[Bi12XO20粉末の製造方法]
本発明のBi12XO20粉末の製造方法は、Bi元素を有する溶液とX元素を有する溶液とを用意する工程(A)と、反応容器にあらかじめ供給された母液に対して両溶液を添加して混合液を調製する工程(B)と、混合液の温度を、添加開始時の温度より上昇させる工程(C)とを有し、工程(B)において、混合液中のBi元素とX元素の双方の物質量が、添加開始時から並行して増加するように両溶液を添加することを特徴とするものである。
【0036】
各工程について順に説明する。工程(A)は、Bi元素を有する溶液とX元素を有する溶液とを用意する工程である。本発明において主成分元素であるBiとXに対して、その他の添加元素や不純物等が含まれていてもよい。
【0037】
工程(A)において、Bi元素を有する溶液は、Bi源となるBi含有化合物を溶媒に溶解させて調製する。Bi源としては、硝酸ビスマス、炭酸ビスマス、酢酸ビスマス、リン酸ビスマス、三フッ化ビスマス、三塩化ビスマス、三臭化ビスマス、三ヨウ化ビスマス、水酸化ビスマス、オキシ炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、トリ-i-プロポキシビスマス(Bi(O-i-C373)、トリエトキシビスマス(Bi(OC253)、トリ-t-アミロキシビスマス(Bi(O-t-C5113)、トリフェニルビスマス(Bi(C653)、トリス(ジピバロイルメタナト)ビスマス(Bi(C111923)、酸化ビスマスなどの化合物を用いることができる。低コストであることから、硝酸ビスマス、炭酸ビスマス、酢酸ビスマス、リン酸ビスマス、三フッ化ビスマス、三塩化ビスマス、三臭化ビスマス、三ヨウ化ビスマス、水酸化ビスマス、オキシ炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、酸化ビスマスであることが好ましく、Bi含有量の変動が少ないことから、酸化ビスマスが特に好ましい。
【0038】
工程(A)において、X元素を有する溶液の調製は、Bi元素と同様に、X源となるX元素含有化合物を溶媒に溶解させて調製する。X元素がSiである場合、Si源としては、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素、酢酸ケイ素、シュウ酸ケイ素、オルトケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム、二ケイ酸ナトリウム、二ケイ酸カリウム、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸カリウム、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素(結晶性)、二酸化ケイ素(アモルファス)、コロイダルシリカ、テトラメトキシシラン(Si(OCH34)、テトラエトキシシラン(Si(OC254)、テトラ-i-プロポキシシラン(Si(O-i-C374)、テトラ-n-プロポキシシラン(Si(O-n-C374)、テトラ-i-ブトキシシラン(Si(O-i-C494)、テトラ-n-ブトキシシラン(Si(O-n-C494)、テトラ-sec-ブトキシシラン(Si(O-sec-C494)、テトラ-t-ブトキシシラン(Si(O-t-C494)、SiH[N(CH323、SiH[N(C2523、などの化合物を用いることができる。
【0039】
また、X元素がGeである場合、Ge源としては、四塩化ゲルマニウム、四臭化ゲルマニウム、四ヨウ化ゲルマニウム、酢酸ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、オルトゲルマニウム酸ナトリウム、オルトゲルマニウム酸カリウム、メタゲルマニウム酸ナトリウム、メタゲルマニウム酸カリウム、ゲルマニウム酸ナトリウム、ゲルマニウム酸カリウム、ゲルマニウム酸カルシウム、二ゲルマニウム酸ナトリウム、二ゲルマニウム酸カリウム、ヘキサフルオロゲルマニウム酸、ヘキサフルオロゲルマニウム酸アンモニウム、ヘキサフルオロゲルマニウム酸ナトリウム、ヘキサフルオロゲルマニウム酸カリウム、二酸化ゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム(Ge(OCH34)、テトラエトキシゲルマニウム(Ge(OC254)、テトラ-i-プロポキシゲルマニウム(Ge(O-i-C374)、テトラ-n-プロポキシゲルマニウム(Ge(O-n-C374)、テトラ-i-ブトキシゲルマニウム(Ge(O-i-C494)、テトラ-n-ブトキシゲルマニウム(Ge(O-n-C494)、テトラ-sec-ブトキシゲルマニウム(Ge(O-sec-C494)、テトラ-t-ブトキシゲルマニウム(Ge(O-t-C494)、などの化合物を用いることができる。
【0040】
また、X元素がTiである場合、Ti源としては、四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン、酢酸チタン、シュウ酸チタン、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、ヘキサフルオロチタン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、二酸化チタン、テトラメトキシチタン(Ti(OCH34)、テトラエトキシチタン(Ti(OC254)、テトラ-i-プロポキシチタン(Ti(O-i-C374)、テトラ-n-プロポキシチタン(Ti(O-n-C374)、テトラ-i-ブトキシチタン(Ti(O-i-C494)、テトラ−n−ブトキシチタン(Ti(O-n-C494)、テトラ-sec-ブトキシチタン(Ti(O-sec-C494)、テトラ-t-ブトキシチタン(Si(O-t-C494)、Ti[N(CH324、Ti[N(C2524、などの化合物を用いることができる。
【0041】
上記のBi源およびX源を溶解させる溶媒としては、水、もしくはアルコールをはじめとする有機溶媒を用いることが好ましいが、低コストであることから水を用いることが好ましい。またBi元素はアルカリ性領域では水にほとんど溶解しないことから、得られた溶液が酸性になっていることが好ましい。ここで、溶液を酸性にするために酸を用いる場合は、いかなる酸を用いてもよいが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、フッ化水素酸などといった無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸などといった有機酸を用いることができる。
【0042】
一方、本発明の製造方法においては、最終的にBi12XO20を沈殿として得るために、混合液はBiの溶解度が低いアルカリ性となっていることが好ましい。従って、X源を溶解した溶液はアルカリ性になっていることが好ましい。ここで、溶液をアルカリ性にするためにアルカリ性の化合物を用いる場合は、いかなるアルカリ性の化合物を用いてもよいが、例えば、LiOH、KOH、NaOH、RbOH、アンモニア、NR4OH(Rはアルキル基)などといった化合物を用いることができる。
【0043】
次に、工程(B)と工程(C)の実施態様の例を、図面を参照して説明する。
図1〜図4は、本発明のBi12XO20粉末の製造方法に好適な反応装置1〜4の構成を示す概略断面図である。図1〜4に示すように、反応装置1〜4は、混合液を加熱・撹拌して反応させる反応容器21、反応容器を加熱するための温度制御部22、反応液を撹拌するためのモーター23と撹拌部11,12,14、Bi元素を有する溶液を装填する溶液槽24aとこの溶液を反応容器21へと供給するための送液流路25a、X元素を有する溶液を装填する溶液槽24bとこの溶液を反応容器21へと供給するための送液流路25bとを具備している。反応装置1〜4では、撹拌部11の構成又は送液径路25a,25bの構成等がそれぞれ異なっている。
【0044】
まず、反応装置1〜4の何れかを用意し、次に、工程(A)にて調製したBi元素を有する溶液とX元素を有する溶液とをそれぞれ溶液槽24a,24bに装填し、反応容器21には撹拌部11,12,14がひたる程度以上の量の母液を装填する。ここで母液中には、Bi元素およびX元素が含まれていなくてもよいし、必要に応じてBi元素もしくはX元素の総供給量の一部が含まれていてもよい。母液としては水、もしくはアルコールをはじめとする有機溶媒を用いることができるが、低コストであることから水を用いることが好ましい。本発明の製造方法においては、最終的にBi12XO20を沈殿として得るために、混合液はBiの溶解度が低いアルカリ性となっていることが好ましい。従って、母液はアルカリ性になっていることが好ましい。ここで、溶液をアルカリ性にするためにアルカリ性の化合物を用いる場合は、いかなるアルカリ性の化合物を用いてもよいが、例えば、LiOH、KOH、NaOH、RbOH、アンモニア、NR4OH(Rはアルキル基)などといった化合物を用いることができる。
【0045】
混合液のpHは13.5以下、あるいは14以上であることが好ましく、このpHに調整するためには、上記X源、Bi源を溶解した溶液および母液のpHを調整することにより行う。混合液のpHを13.5以下、より詳細にはpHを10以上13.5以下(pHが10未満であるとBi12XO20粉末が得られにくくなる)に調整することにより、仕込み組成と粒子組成がリニアに変化するため、所望とする組成の粒子を作製することができる。一方、混合液のpHを14以上に調整すると、所望とする組成の粒子を作製することは難しくなるが、仕込み組成の影響を受けることが少なくなり、得られるBi12XO20粉末の組成がふらつきにくくなるという利点がある。従って、pHを適宜調整することにより組成制御がしやすいため、用途に応じたBi12XO20粉末を得ることができる。
【0046】
続いて、温度制御部22を作用させて、反応容器21中の母液を所望の温度とする。調製する混合液の温度は、25℃より高く75℃より低いことが好ましいので(好ましい理由については後記する。)、母液の温度もこの温度範囲内とすることが好ましい。
【0047】
次に、Bi元素を有する溶液とX元素を有する溶液を反応容器21内へと添加する(工程(B))。この時に、原料溶液を添加することによって反応容器21内の温度が変化しないように、溶液槽24a,24bおよび送液流路25a,25bを所望の温度としておくことが好ましい。ただし、原料溶液の添加量に対して温度制御部22の熱容量が十分大きく、原料溶液の添加による反応容器21内の温度変化が粒子形成反応に影響を与えない程度に小さい場合には、溶液槽24a,24bおよび送液流路25a,25bの温度制御は必ずしも必要ではない。
【0048】
工程(B)において、反応容器21への両溶液の添加は、混合液中のBiおよびX元素の双方の物質量が、添加開始時から並行して増加するように実施する。製造ロット間および同一製造ロット内の組成のばらつきは、結晶格子中においてBi元素またはX元素が抜けること、あるいは、反応容器中においてX元素リッチの条件となった場合など、X元素が結晶格子中の所定のサイト以外の位置に入り込みやすいこと等が原因であると考えられる。
【0049】
従って、反応容器21中の両元素の含有量の比率がBi12XO20の組成から大きくずれないように、即ち、双方の物質量が添加開始時から並行して増加するように添加を実施することにより、製造ロット間および同一製造ロット内の組成のばらつきを抑制することができる。
【0050】
工程(B)においては、双方の物質量が添加開始時から並行して増加するように添加を実施すれば、その添加方法に特に制限されない。非特許文献4等のように、あらかじめどちらかの元素が全量供給された反応容器中に他方の元素を添加するのでなければ、例えば、あらかじめどちらかの元素の一部が供給された反応容器中に、BiおよびX元素の双方の物質量が添加開始時から並行して増加するように添加するだけでも、組成のずれの抑制効果を得ることができる。
【0051】
より効果的に組成のずれを抑制するには、添加開始時から添加終了時までの間、母液に添加されるBi元素とX元素の物質量の比を実質上一定とすることが好ましい。例えば、添加開始時から添加終了時までの間を通して、添加したBi元素とX元素の物質量の比が12:1近傍で一定になるように、即ち、混合液中において、下記式(1)を満足するように、より好ましくは下記式(2)を満足するように両元素を添加することが好ましい。この場合、添加を開始する前の母液中には、添加する分とは別にBi元素もしくはX元素の一部が予め含まれていてもよいが、何れも含まれていないことが好ましい。このように添加を実施することにより、添加開始時から添加終了時までを通して化学反応を均一に進行させることが可能となるため、Bi12XO20粉末の組成のばらつきを効果的に抑制することができる。
0.91≦X/Bi12≦1.09・・・(1)
0.94≦X/Bi12≦0.99・・・(2)
【0052】
また、原料溶液の添加が終了した時点での混合液内のBi元素とX元素の物質量の比は、作製したいBi12XO20粉末の物質量の比と同じであることが好ましい。具体的には、混合液内において、0.91≦X/Bi12≦1.09であることが好ましく、0.94≦X/Bi12≦0.99であることがより好ましい。
【0053】
上記のように、工程(B)の混合液中において上記式(1)を満足するように両元素を添加することにより、製造ロットによらず、Bi12XO20粉末の組成を、上記式(1)を満足するものとすることが可能である。また、混合液中において上記式(2)を満足するように両元素を添加することにより、製造ロットによらず、Bi12XO20粉末の組成を、上記式(2)を満足するものとすることが可能である。
【0054】
また、工程(B)において、混合液の調製を実施する温度は25℃より高く75℃より低いことが好ましい。この温度範囲で混合液の調製を実施する場合は、数時間の反応でBi12XO20粉末を得ることが可能である。混合液の調製をこの温度範囲以外の条件とした場合は、Bi12XO20が得られるまでに長い反応時間が必要となってしまう。なお、Bi12XO20粒子の形成は、混合液の温度にもよっては混合開始直後に既に進行している。
【0055】
続く、工程(C)では混合液の温度を添加開始時の温度より上昇させる。混合液の温度上昇は、添加開始後直ちに開始してもよいし、添加の途中もしくは添加完了後に開始してもよい。ただし、添加してすぐに生成する沈殿物の化学状態を均一にするためには、添加が完了するまでは温度を一定に保ち、添加完了後に温度上昇の実施を開始するほうが好ましい。例えば、工程(C)において、温度上昇の実施は、上記した混合液の温度範囲(25℃より高く75℃より低い温度)から開始し、65℃より高く100℃より低い温度で終了することが好ましい。このように、反応を比較的低い温度で開始することによって、生成する核の数を十分に少なくすることができ、その後昇温させることによって充分に結晶化させることが可能となり、粒子サイズが2μmより大きく20μmより小さいBi12XO20粉末を製造することが可能となる。
【0056】
また、この温度範囲で温度上昇を行った場合は、数時間の反応でBi12XO20粉末を得ることが可能である。混合液の温度を上記温度範囲以外の条件とした場合は、Bi12XO20粉末が得られるまでに長い反応時間が必要となってしまう。また、温度上昇を100℃以上で行うには、水系の反応溶媒を用いた場合は耐圧容器を用いる必要が生じることから、コストが高くなってしまう。なお、Bi12XO20粒子が形成される反応は、混合液の温度によっては昇温前に進行している。
【0057】
工程(B)および工程(C)において、混合液の撹拌は必ずしも必要ではないが、混合の促進、反応の促進、反応溶液の循環による均一化などを目的として撹拌を行うことが好ましい。撹拌を行う場合、いかなる態様の撹拌方式を用いてもよく、撹拌部11の構成は特に制限されない。例えば、モーターを用いて撹拌羽根を回転させて撹拌してもよいし、マグネチックスターラーを用いて磁気撹拌子を回転させて撹拌させてもよいし、せん断型撹拌装置を用いてもよい。
【0058】
また、撹拌の代わりに、反応容器21もしくは反応装置全体を振とう・回転させてもよい。図1〜3に例示しているのは、撹拌羽根を用いる撹拌方式であり、図4に例示しているのはせん断型撹拌装置を用いる撹拌方式である。
【0059】
ここで、撹拌羽根の形状としては、プロペラ型、ファン型、U字型、十字型、トンボ型、バタフライ型、アンカー型、タービン型、半月型、こね器型、遠心力型、溶解型、などといったものを用いてよい。磁気式撹拌子としては、ピボット型、オクタゴン型、三角柱型、平小判型、星型、十字切込型、フットボール型、バーベル型、歯車型、十字型、車輪型、ドーナツ型、などといったものを用いてよい。せん断型の撹拌装置としては、ホモジナイザーなどを用いて良く、例えば商品名オムニミキサー(ヤマト科学)を用いてよい。
撹拌を行う場合、撹拌速度は特に制限されないが、撹拌・混合効率を向上させるために、500rpm以上とすることが好ましい。
【0060】
Bi元素を有する溶液とX元素を有する溶液との母液への添加方法としては、母液の上部に送液流路25a,25bの末端をセットして、それぞれの原料容液を母液の上部から添加してもよいし(上面添加方式、図3)、母液中に送液流路25a,25bの末端をセットして、それぞれの原料容液を母液中に添加してもよいが(ダブルジェット方式、図1,2,4)、均一な混合を実現するためには、ダブルジェット方式の方が好ましい。ダブルジェット方式の場合、撹拌羽根、磁気式撹拌子、せん断型撹拌装置のジェネレータなどといった撹拌部11,12,14の近傍に送液流路25a,25bの末端をセットして、添加した原料溶液が直ちに均一に混合されることが好ましい。ダブルジェット方式においては、均一な混合をより促進するために、図1に示すように撹拌部の近傍に衝立が設置されており、混合の効率を向上させることができるように、送液流路25a,25bの末端が衝立の内部であって撹拌部のごく近傍に位置していることがより好ましい。ダブルジェット方式で添加することによって、混合液内でBi元素とX元素を速やかに反応させることが可能となる。
【0061】
上述の工程(A)(B)(C)の後に、液体成分の除去と洗浄を行い、最終的に乾燥することで目的とするBi12XO20粉末を得ることができる。液体成分の除去としては、常圧もしくは減圧下でのろ別法、遠心分離法などを用いることができる。洗浄には、水、温水、アルコール類などを用いることができる。乾燥は、加熱、減圧、風乾などの手法を用いることができる。
【0062】
以上のように、本発明のBi12XO20粉末の製造方法は、母液に対して、Bi元素およびX元素の物質量が並行して増加するように原料液が添加されるため、反応容器中の両元素の含有量の比率がBi12XO20の組成から大きくずれることなく反応を進行させることができ、また、反応を比較的低い温度で開始させてから昇温させて結晶化させることにより、生成する核の数を十分に少なくし、粒子サイズを大きくすることができる。従って、本発明によれば、凝集しにくい平均粒子径を有するBi12XO20粉末を、製造ロット間および同一製造ロット内の組成ばらつきを小さく製造することができる。
【0063】
[Bi12XO20粉末]
本発明の製造方法により製造されるBi12XO20粉末は平均粒径が2μmより大きく20μmより小さく、下記式(1)または(2)を満足する組成を有するものとなる。
0.91≦X/Bi12≦1.09・・・(1)
0.94≦X/Bi12≦0.99・・・(2)
【0064】
特許文献5のように反応温度を一定温度とするのではなく、反応を比較的低い温度で開始させることにより生成する核の数を十分に少なくすることができ、その後昇温させることによって充分に結晶化させることが可能となり、平均粒径を2μmより大きく20μmより小さい範囲とすることができる。凝集を抑制するためには、平均粒径は2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【0065】
また、グリーンシート法による多結晶膜の製造や、塗布膜の製造のように、バインダ等に粉末を分散させた塗布液を用いる場合には、塗布液中でBi12XO20粒子が凝集しにくく、且つ、沈降しにくい大きさであることが好ましい。Bi12XO20粒子および分散させるバインダ等の密度等にもよるが、Bi12XO20粉末を塗布液内で沈降しにくくするためには、Bi12XO20粉末の平均粒径は、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0066】
本発明において、得られたBi12XO20粉末の評価は下記の手法によって行う。
結晶相の同定は粉末X線回折法を用いて行う。例えば、リガク社製のX線回折装置UltimaIIIを用いて、θ/2θ測定を行って得られたプロファイルを、ICDDカード(International Centre for Diffraction Data)中のBi12XO20化合物のプロファイルと比較することによって同定することができる。
【0067】
平均粒径の評価は、レーザー回折法による粒度分布測定装置を用いて行うことができる。例えば、日機装社製のマイクロトラック(Microtrac)粒度分布測定装置MT3100IIを用いて体積球相当粒子径を測定し、質量基準平均粒子径を算出することもできるし、もしくは二次電子走査型顕微鏡(SEM)にて得られた画像情報から、画像処理を行うことで円相当粒子径を測定し、質量基準平均粒子径を算出することもできる。本発明の平均粒径は、レーザー回折法による粒度分布測定により規定される。
【0068】
組成の分析は、プラズマ発光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)、もしくは蛍光X線分析法によって行う。本発明では、特に断りのない限り、プラズマ発光分析法にて組成分析を行っている。プラズマ発光分析法においては、下記の手順にて分析を行う。
1.試料を希硝酸で加熱溶解し、純水を加えてろ別する
2.不溶解物は炭酸ナトリウムで融解し、純水で加温溶解して硝酸で酸性とした後、「1」のろ液と合わせて定溶とする
3.「2」の溶液を希硝酸で適宜希釈した後、プラズマ発光分析にて試料中のBi元素とX元素の含有量および相対値を求める
[放射線光導電体]
本発明の第1の放射線光導電体は、上記本発明のBi12XO20粉末を用いて製造されることを特徴とするものである。また、本発明の第2の放射線光導電体は、Bi12XO20多結晶体からなる放射線光導電体であって、多結晶体の組成が、下記式(2)を満足することを特徴とするものである。さらに、本発明の第3の放射線光導電体は、Bi12XO20粒子がバインダを介して結合された放射線光導電体であって、Bi12XO20粒子が、下記式(2)を満足する組成を有するものである。
0.94≦X/Bi12≦0.99・・・(2)
【0069】
背景技術に記載した特許文献1には、Bi12XO20において、Bi12のモル量に対するX元素のモル量の比が1となる組成、つまり化学量論比を有する組成である場合に、放射線光導電体として最も好適であることが記載されている。しかし本発明者は、放射線光導電体としての用途においては、Bi12XO20の組成は、化学量論比に比してBiが少し多くなる組成、具体的には、上記式(2)を満足する組成が最も好ましいということを見いだした。つまり、上記式(2)を満足する組成を有するBi12XO20含有放射線光導電体は新規なものであり、かかる放射線光導電体は、従来のものに比して収集電荷特性に優れるものである。
【0070】
Bi12XO20粉末を用いて放射線光導電体を作製する具体的な方法としては、下記のものが挙げられる。
第1に、Bi12XO20粉末をプレス機にて成型して膜化し、得られた膜を焼結させるプレス焼結法が挙げられる。
【0071】
第2にBi12XO20粉末をバインダと溶剤とともに混練してスラリーを調製した後に塗布・乾燥してグリーンシート(バインダを含んだ膜)を作製し、このグリーンシートを焼成して脱バインダ化および粉末の焼結化を行う方法(以下、グリーンシート法)などの方法があげられる。なお、グリーンシート法ではバインダを用いるが、このバインダは焼結によって完全に消失し、焼結後のBi12XO20焼結体には残存することはない。グリーンシート法で用いられるバインダとしては、セルロースアセテート、ポリアルキルメタアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を好ましくあげることができる。
【0072】
第3にBi12XO20粉末をキャリアガスで巻き上げて、そのBi12XO20粉末の混じったキャリアガスを真空中で支持体に吹き付けてBi12XO20粉末を堆積させるエアロゾルデポジション法(AD法)が挙げられる。AD法は、あらかじめ準備された粒子をキャリアガスと混合してエアロゾル化し、ノズルを通して基板に噴射して被膜を形成する技術である。この方法の詳細について図6を用いて説明する。図6は本発明の放射線光導電体の製造に用いられるAD法を行う製膜装置の概略模式図である。
【0073】
製造装置50は、Bi12XO20粉末51とキャリアガスが攪拌・混合されるエアロゾル化チャンバー52と、製膜が行われる製膜チャンバー53と、キャリアガスを貯留する高圧ガスボンベ54からなり、さらに製膜チャンバー53には、Bi12XO20粉末51が堆積される基板55と、基板55を保持するホルダー56と、ホルダー56をXYZθで3次元に作動させるステージ57と、基板55にBi12XO20粉末51を噴出させる細い開口を備えたノズル58とが備えられ、さらにノズル58とエアロゾル化チャンバー52とをつなぐ第1配管59と、エアロゾル化チャンバー52と高圧ガスボンベ54とをつなぐ第2配管60と、製膜チャンバー53内を減圧する真空ポンプ61とによって構成されてなる。
【0074】
エアロゾル化チャンバー52内のBi12XO20粉末51は、次のような手順によって基板55上に製膜形成される。エアロゾル化チャンバー52内に充填されたBi12XO20粉末51は、キャリア52に導入されるキャリアガスとともに、振動・撹拌されてエアロゾル化される。エアロゾル化されたBi12XO20粉末51は第1配管59を通り、製膜チャンバー53内の細い開口を備えたノズル58から基板55にキャリアガスとともに吹き付けられ、膜が形成される。製膜チャンバー53は真空ポンプ61で排気され、製膜チャンバー53内の真空度は必要に応じて調整される。さらに、基板55のホルダーはXYZθステージ57により3次元に動くことができるため、基板55の所定の部分に必要な厚みのBi12XO20膜が形成される。
【0075】
エアロゾル化された原料粒子は、6mm2以下の微小開口のノズルを通すことによって流速2〜300m/secまで容易に加速され、キャリアガスによって基板に衝突させることで基板上に堆積させることができる。キャリアガスにより衝突した粒子は、互いに衝突の衝撃によって接合し膜を形成するので、緻密な膜が製膜される。原料粉末を堆積させる際の基板の温度は室温であってもよいが、100℃〜300℃に調整することによってより緻密な膜を製膜することが可能である。
上記第1〜第3の方法によって、本発明の第2の放射線光導電体を得ることができる。
【0076】
第4にBi12XO20粉末と有機バインダもしくは無機バインダと適当な溶剤とを混合してスラリーを調製し、スラリーを塗布もしくは型に充填したのちに、乾燥処理によって溶剤を留去して、Bi12XO20粉末が有機バインダもしくは無機バインダを介して結合されている放射線光導電体を作製する方法が挙げられる。ここで用いる有機バインダとしては、例えば、ポリスチレン、ポリイミド、ポリエステル樹脂(例えば、東洋紡製バイロン200)などを用いることができる。また、ここで用いる無機バインダとしては、例えば、アモルファスシリカ,コロイダルシリカ,アルキルシリケート,金属アルコラート,マイカ,シリコーン,ガラスなどを用いることができる。
この第4の方法によって、本発明の第3の放射線光導電体を得ることができる。
【0077】
[放射線検出器]
図5を参照して、本発明の放射線検出器の構成例について説明する。図5は放射線検出器の概略構成断面図である。図5に示す放射線検出器100は、放射線光導電体104の両側に電界を印加する電極103、105を備えたものであり、電極103、105の面に照射された放射線を放射線光導電体104によって検出するものである。
電極103、105の種類は、例えばITO(インジウム錫酸化物)や、AuあるいはPtなどの導電材料からなる。印加電界は、0.1〜20V/μmであり、好ましくは、2〜10V/μmである。
【0078】
放射線光導電体104は、本発明のBi12XO20粉末の製造方法により製造されたBi12XO20粉末を用いて得られたものであり、Bi12XO20粉末の組成は下記式(1)、より好ましくは下記式(2)を満足するものであることが好ましい。
0.91≦X/Bi12≦1.09・・・(1)
0.94≦X/Bi12≦0.99・・・(2)
放射線光導電体104の厚さは、検出する放射線の種類により適宜決めることができ、例えば医療診断用X線であれば、50〜1000μmの厚さが好ましい。
【0079】
[放射線撮像パネル]
上記本発明の放射線光導電体は、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタなどの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取るTFT方式の放射線撮像パネルや、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した放射線画像検出器により読み取る、いわゆる光読取方式の放射線撮像パネルにも用いることができる。
【0080】
まず、前者のTFT方式の放射線撮像パネルについて、図7、8を参照して説明する。この放射線撮像パネル90は、図7に示すように放射線検出部100とアクティブマトリックスアレイ基板(以下AMA基板)(電流検出手段)200が接合された構造となっている。図8に示すように放射線検出部100は大きく分けて放射線入射側から順に、バイアス電圧印加用の共通電極103と、検出対象の放射線に感応して電子−正孔対であるキャリアを生成する放射線光導電層104と、キャリア収集用の検出電極107とが積層形成された構成となっている。共通電極の上層には放射線検出部支持体102を有していてもよい。
【0081】
放射線光導電層104は本発明の放射線光導電体である。共通電極103や検出電極107は、例えばITO(インジウム錫酸化物)や、AuあるいはPtなどの導電材料からなる。バイアス電圧の極性に応じて、正孔注入阻止層、電子注入阻止層が共通電極103や検出電極107に付設されていてもよい。
【0082】
AMA基板200の各部の構成について簡単に説明する。AMA基板200は図9に示すように、画素相当分の放射線検出部100の各々に対して電荷蓄積容量であるコンデンサ210とスイッチング素子としてTFT220とが各1個ずつ設けられている。支持体102においては、必要画素に応じて縦1000〜3000×横1000〜3000程度のマトリックス構成で画素相当分の放射線検出部105が2次元配列されており、また、AMA基板200においても、画素数と同じ数のコンデンサ210およびTFT220が、同様のマトリックス構成で2次元配列されている。放射線光導電層で発生した電荷はコンデンサ210に蓄積され静電潜像となる。本発明のTFT方式においては、放射線で発生した静電潜像は電荷蓄積容量に保持される。
【0083】
AMA基板200におけるコンデンサ210およびTFT220の具体的構成は、図8に示す通りである。すなわち、AMA基板支持体230は絶縁体であり、その表面に形成されたコンデンサ210の接地側電極210aとTFT220のゲート電極220aの上に絶縁膜240を介してコンデンサ210の接続側電極210bとTFT220のソース電極220bおよびドレイン電極220cが積層形成されているのに加え、最表面側が保護用の絶縁膜250で覆われた状態となっている。また接続側電極210bとソース電極220bはひとつに繋がっており同時形成されている。コンデンサ210の容量絶縁膜およびTFT220のゲート絶縁膜の両方を構成している絶縁膜240としては、例えば、プラズマSiN膜が用いられる。このAMA基板200は、液晶表示用基板の作製に用いられるような薄膜形成技術や微細加工技術を用いて製造される。
【0084】
続いて放射線検出部100とAMA基板200の接合について説明する。検出電極107とコンデンサ210の接続側電極210bを位置合わせした状態で、両基板100、200を銀粒子などの導電性粒子を含み厚み方向のみに導電性を有する異方導電性フィルム(ACF)を間にして加熱・加圧接着して貼り合わせることで、両基板100、200が機械的に合体されると同時に、検出電極107と接続側電極210bが介在導体部140によって電気的に接続される。
【0085】
さらに、AMA基板200には、読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とが設けられている。読み出し駆動回路260は、図9に示すように、列が同一のTFT220のドレイン電極を結ぶ縦(Y)方向の読み出し配線(読み出しアドレス線)280に接続されており、ゲート駆動回路270は行が同一のTFT220のゲート電極を結ぶ横(X)方向の読み出し線(ゲートアドレス線)290に接続されている。なお、図示しないが、読み出し駆動回路260内では、1本の読み出し配線280に対してプリアンプ(電荷−電圧変換器)が1個それぞれ接続されている。このように、AMA基板200には、読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とが接続されている。ただし、AMA基板200内に読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とを一体成型し、集積化を図ったものも用いられる。
なお、上述の放射線検出器100とAMA基板200とを接合合体させた放射線撮像装置による放射線検出動作については例えば特開平11-287862号などに記載されている。
【0086】
次に、後者の光読取方式に用いられる放射線撮像パネルについて、図10を参照して説明する。図10は本発明の放射線光導電体を有する放射線撮像パネルの一実施の形態を示す断面図を示すものである。
【0087】
この放射線撮像パネル330は、後述する記録用の放射線L1に対して透過性を有する第1の導電層331、この導電層331を透過した放射線L1の照射を受けることにより導電性を呈する記録用放射線導電層332、導電層331に帯電される電荷(潜像極性電荷;例えば負電荷)に対しては略絶縁体として作用し、かつ、電荷と逆極性の電荷(輸送極性電荷;上述の例においては正電荷)に対しては略導電体として作用する電荷輸送層333、後述する読取用の読取光L2の照射を受けることにより導電性を呈する読取用光導電層334、読取光L2に対して透過性を有する第2の導電層335を、この順に積層してなるものである。
【0088】
ここで、導電層331および335としては、例えば、透明ガラス板上に導電性物質を一様に塗布したもの(ネサ皮膜等)が適当である。電荷輸送層333としては、導電層331に帯電される負電荷の移動度と、その逆極性となる正電荷の移動度の差が大きい程良く、ポリN−ビニルカルバゾール(PVK)、N、N'−ジフェニル−N、N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1、1'−ビフェニル〕−4、4'−ジアミン(TPD)やディスコティック液晶等の有機系化合物、或いはTPDのポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレン、PVK)分散物、Clを10〜200ppmドープしたa−Se等の半導体物質が適当である。特に、有機系化合物(PVK、TPD、ディスコティック液晶等)は光不感性を有するため好ましく、また、誘電率が一般に小さいため電荷輸送層333と読取用光導電層334の容量が小さくなり読み取り時の信号取り出し効率を大きくすることができる。
【0089】
読取用光導電層334には、a−Se、Se−Te、Se−As−Te、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン、MgPc( Magnesium phtalocyanine)、VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine)、CuPc(Cupper phtalocyanine)等のうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質が好適である。
記録用放射線導電層332には、上記本発明の放射線光導電体を使用する。すなわち、本発明の放射線光導電体は記録用放射線導電層である。
【0090】
続いて、静電潜像を読み取るために光を用いる方式について簡単に説明する。図11は放射線撮像パネル330を用いた記録読取システム(静電潜像記録装置と静電潜像読取装置を一体にしたもの)の概略構成図を示すものである。この記録読取システムは、放射線撮像パネル330、記録用照射手段390、電源350、電流検出手段370、読取用露光手段392並びに接続手段S1、S2とからなり、静電潜像記録装置部分は放射線撮像パネル330、電源350、記録用照射手段390、接続手段S1とからなり、静電潜像読取装置部分は放射線撮像パネル330、電流検出手段370、接続手段S2とからなる。
【0091】
放射線撮像パネル330の導電層331は接続手段S1を介して電源350の負極に接続されるとともに、接続手段S2の一端にも接続されている。接続手段S2の他端の一方は電流検出手段370に接続され、放射線撮像パネル330の導電層335、電源350の正極並びに接続手段S2の他端の他方は接地されている。電流検出手段370はオペアンプからなる検出アンプ370aと帰還抵抗370B とからなり、いわゆる電流電圧変換回路を構成している。
【0092】
導電層331の上面には被写体329が配設されており、被写体329は放射線L1に対して透過性を有する部分329aと透過性を有しない遮断部(遮光部)329Bが存在する。記録用照射手段390は放射線L1を被写体329に一様に曝射するものであり、読取用露光手段392は赤外線レーザ光やLED、EL等の読取光L2を図11中の矢印方向へ走査露光するものであり、読取光L2は細径に収束されたビーム形状をしていることが望ましい。
【0093】
以下、上記構成の記録読取システムにおける静電潜像記録過程について電荷モデル(図12)を参照しながら説明する。図11において接続手段S2を開放状態(接地、電流検出手段370の何れにも接続させない)にして、接続手段S1をオンし導電層331と導電層335との間に電源350による直流電圧Edを印加し、電源350から負の電荷を導電層331に、正の電荷を導電層335に帯電させる(図12(A)参照)。これにより、放射線撮像パネル310には導電層331と335との間に平行な電場が形成される。
【0094】
次に記録用照射手段390から放射線L1を被写体329に向けて一様に曝射する。放射線L1は被写体329の透過部329aを透過し、さらに導電層331をも透過する。放射線導電層332はこの透過した放射線L1を受け導電性を呈するようになる。これは放射線L1の線量に応じて可変の抵抗値を示す可変抵抗器として作用することで理解され、抵抗値は放射線L1によって電子(負電荷)とホール(正電荷)の電荷対が生じることに依存し、被写体329を透過した放射線L1の線量が少なければ大きな抵抗値を示すものである(図12(B)参照)。なお、放射線L1によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0095】
放射線導電層332中に生じた正電荷は放射線導電層332中を導電層331に向かって高速に移動し、導電層331と放射線導電層332との界面で導電層331に帯電している負電荷と電荷再結合して消滅する(図12(C)、(D)を参照)。一方、放射線導電層332中に生じた負電荷は放射線導電層332中を電荷転送層333に向かって移動する。電荷転送層333は導電層331に帯電した電荷と同じ極性の電荷(本例では負電荷)に対して絶縁体として作用するものであるから、放射線導電層332中を移動してきた負電荷は放射線導電層332と電荷転送層333との界面で停止し、この界面に蓄積されることになる(図12(C)、(D)を参照)。蓄積される電荷量は放射線導電層332中に生じる負電荷の量、即ち、放射線L1の被写体329を透過した線量によって定まるものである。
【0096】
一方、放射線L1は被写体329の遮光部329Bを透過しないから、放射線撮像パネル330の遮光部329Bの下部にあたる部分は何ら変化を生じない( 図12(B)〜(D)を参照)。このようにして、被写体329に放射線L1を曝射することにより、被写体像に応じた電荷を放射線導電層332と電荷転送層333との界面に蓄積することができるようになる。なお、この蓄積せしめられた電荷による被写体像を静電潜像という。
【0097】
次に静電潜像読取過程について電荷モデル(図13)を参照しつつ説明する。接続手段S1を開放し電源供給を停止すると共に、S2を一旦接地側に接続し、静電潜像が記録された放射線撮像パネル330の導電層331および335を同電位に帯電させて電荷の再配列を行った後に(図13(A)参照)、接続手段S2を電流検出手段370側に接続する。
【0098】
読取用露光手段392により読取光L2を放射線撮像パネル330の導電層335側に走査露光すると、読取光L2は導電層335を透過し、この透過した読取光L2が照射された光導電層334は走査露光に応じて導電性を呈するようになる。これは上記放射線導電層332が放射線L1の照射を受けて正負の電荷対が生じることにより導電性を呈するのと同様に、読取光L2の照射を受けて正負の電荷対が生じることに依存するものである(図13(B)参照)。なお、記録過程と同様に、読取光L2によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0099】
電荷輸送層333は正電荷に対しては導電体として作用するものであるから、光導電層334に生じた正電荷は蓄積電荷に引きつけられるように電荷輸送層333の中を急速に移動し、放射線導電層332と電荷輸送層333との界面で蓄積電荷と電荷再結合をし消滅する(図13(C)参照)。一方、光導電層334に生じた負電荷は導電層335の正電荷と電荷再結合をし消滅する(図13(C)参照)。光導電層334は読取光L2により十分な光量でもって走査露光されており、放射線導電層332と電荷輸送層333との界面に蓄積されている蓄積電荷、即ち静電潜像が全て電荷再結合により消滅せしめられる。このように、放射線撮像パネル330に蓄積されていた電荷が消滅するということは、放射線撮像パネル330に電荷の移動による電流Iが流れたことを意味するものであり、この状態は放射線撮像パネル330を電流量が蓄積電荷量に依存する電流源で表した図13(D)のような等価回路でもって示すことができる。
【0100】
このように、読取光L2を走査露光しながら、放射線撮像パネル330から流れ出す電流を検出することにより、走査露光された各部(画素に対応する)の蓄積電荷量を順次読み取ることができ、これにより静電潜像を読み取ることができる。なお、本放射線検出部動作については特開2000-105297号等に記載されている。
以下に本発明のBi12XO20粉末の製造方法およびBi12XO20粉末、並びにBi12XO20粉末を用いた放射線光導電体などの実施例を示す。
【実施例】
【0101】
(実施例1)
酸化ビスマス(高純度化学製、純度5N)279.6gを、474.4gの硝酸(和光純薬製、濃度61.1wt%)と純水とを用いて溶解し、1.2mol/Lの濃度でBi元素を有する溶液(Bi溶液:B-1)を1L調製した。別に、ケイ酸カリウム溶液(和光純薬製、モル比率:SiO2/K2O=3.9、濃度28.0%)30.1gと水酸化カリウム溶液(和光純薬製、8N)700mLと純水とを混合し、0.1mol/Lの濃度でSi元素を有する溶液(Si溶液:S-1)を1L調製した。また、水酸化カリウム溶液(和光純薬製、8N)62.5mLと純水を用いて、500mLのアルカリ性母液(母液:M-1)を調製した。上記で調製した溶液を用いて、図1に示す反応装置1にてBi12SiO20粉末の合成を行った。
【0102】
テフロン(登録商標)コーティングした反応容器21中に母液(M-1)500mLを加え、テフロン(登録商標)コーティングした撹拌部11を母液中(M-1)で1000rpmにて稼動させながら、母液(M-1)の温度を50℃に昇温した。ここで用いた撹拌部11は、反応容器21下部中央に位置する筒の内部にプロペラ式の撹拌羽根を有し、筒の内部にBi溶液とSi溶液とを直接添加できる態様のものである。次に、溶液槽24a中のBi溶液(B-1、50mL)と溶液槽24b中のSi溶液(S-1、50mL)とを、それぞれ送液流路25aと送液流路25bとを経由して、10mL/分の速度で5分間かけて、同時に撹拌部11の筒の内部へと添加した。添加中、反応容器21内の混合液の温度は50℃に保たれていた。添加終了後、混合液の温度を2.5℃/分の速度で10分間かけて75℃へと昇温した。昇温終了後、75℃にて120分間撹拌を継続した。原料溶液の添加中および反応初期に混合液内に存在する、Bi元素とSi元素の物質量の関係を図14に示す。図14に示すように、Bi元素とSi元素の物質量の比は実質上一定となっている。
【0103】
撹拌終了後、反応系全体を室温へと冷却し、得られた沈殿物をろ別し、純水で十分に洗浄した。得られた固形物を100℃にて12時間乾燥させることにより、12.5gのBi12SiO20粉末を得た(収率88%)。製造したBi12SiO20粉末の結晶相の同定は、粉末X線回折法を用いて行い(X線回折装置:リガク製、Ultima III)、図15に示すようにBi12SiO20単相であることを確認した(PDF37−0485と一致)。得られた粉末中の粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって行い(粒度分布測定装置:日機装社製、マイクロトラック(Microtrac)MT3100II)、平均粒径が5.2μmであることを確認した。その結果を図16に示す。図16から明らかなように粒度分布が非常にシャープであり均一性の高いBi12SiO20粉末が得られていることがわかる。さらに電子顕微鏡像の観察を行い(電子顕微鏡装置:日立製、S3400)、やはり平均粒径が5μm程度であることを確認した。得られた粉末の組成分析は、ICP発光分析法を用いて行い、Si/Bi12=0.96であることを確認した。
【0104】
(実施例2)
実施例1と同様の実験を追加で2回行うことにより、実施例1の製造の再現性を確認した。得られた粉末の平均粒径は5.0μm、5.4μmであり、Si/Bi12は0.97、0.96であった。
実施例1および実施例2の2回の実験から、本発明のBi12SiO20粉末の製造方法は製造ロット間の組成のばらつきが小さいBi12SiO20粉末が得られることがわかる。
【0105】
(実施例3)
実施例1において表1に示すようにSi溶液中の水酸化カリウム濃度と、母液中の水酸化カリウム濃度を変更して、反応系中の水酸化カリウム濃度を変更した以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。用いたSi溶液および母液の調製条件およびpH値を表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
実施例3−1〜3−5は表1に示すようにpH値を変更したものである。ここで得られた各Bi12SiO20粉末および実施例1で得られたBi12SiO20粉末のX線回折の測定結果を図17に示す(310面、メインピーク、2θ=27.9°近傍)。図17から、pH12〜pH13.5までの範囲においては、回折ピーク強度が小さくなるとともに回折幅が大きくなっていく傾向にあるが、pH14以上ではその傾向から外れており、pH13.5以下での反応モードとpH14以上での反応モードは異なることが示唆される。
【0108】
(実施例4)
硝酸ビスマス・五水塩(Bi(NO3)3・5H2O、高純度化学製、純度3N))582.1gと硝酸(和光純薬製、濃度61.1wt%)474.4gと純水とを用いて1LのBi溶液(B-4)を調製した。Bi溶液としてB-4を用いる以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0109】
(実施例5)
水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(和光純薬、25wt%)2033gに対してテトラエトキシシラン(高純度化学製、純度6N)20.83gとエタノール40gとの混合物を添加し、80℃で1時間撹拌した。続いて減圧にてエタノールを留去した後に、純水を適宜加えることによって、1LのSi溶液(S-5)を調製した。Si溶液としてS-5を用いる以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0110】
(実施例6)
水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(和光純薬、25wt%)2033gに対して、酸化ゲルマニウム粉末(高純度化学製、4N)10.46gを加え、60℃にて3時間かけて溶解した。得られた溶液に対して、純水を加えて1LのGe溶液(G-6)を調製した。Si溶液の代わりに、Ge溶液としてG-6を用いた以外は、実施例1と同様にしてBi12GeO20粉末を製造した。
【0111】
実施例1、4〜6の原料の詳細と平均粒子サイズ、Si/Bi12を表2に示す。表2に示すように、実施例4〜6は、実施例1においてBi溶液およびSi溶液の原料を変更したものであるが、いずれの実施例においても本発明の製造方法で製造したBi12XO20粉末は、組成が均一であり凝集しにくい平均粒子径を有していることがわかる。
【0112】
【表2】

【0113】
(実施例7)
テフロン(登録商標)製のプロペラ羽根式撹拌部12を有する反応装置2(図2)を用い、Bi溶液(B-1)とSi溶液(S-1)の双方を、それぞれテフロン(登録商標)性のチューブからなる送液流路25aと25bとを経由して撹拌部12の近傍に添加したこと以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0114】
(実施例8)
テフロン(登録商標)製のプロペラ羽根式撹拌部12を有する反応装置3(図3)を用い、Bi溶液(B-1)とSi溶液(S-1)の双方を、それぞれ送液流路25aと25bとを経由して母液の上面から添加したことと、反応容器21中の混合液の温度を75℃に昇温させた後の撹拌時間を48時間にしたこと以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0115】
(実施例9)
せん断型撹拌部14を有する反応装置4(図4)を用い、Bi溶液(B-1)とSi溶液(S-1)の双方を、それぞれテフロン(登録商標)性のチューブからなる送液流路25aと25bとを経由してせん断型撹拌部14の近傍に添加したこと以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0116】
実施例1、7〜9の平均粒子サイズ、Si/Bi12を表3に示す。表3に示すように、実施例7〜9は、実施例1において反応装置を変更したものであるが、いずれの反応装置においても本発明の製造方法で製造したBi12XO20粉末は、組成が均一であり凝集しにくい平均粒子径を有していることがわかる。なお、添加した原料溶液が直ちに均一に混合されるダブルジェット方式の実施例1、7および9に比べると、実施例8は原料容液を母液の上部から添加する上面添加方式であって、母液中で原料溶液が直ちに均一とならないためにSi/Bi12は大きくなった。
【0117】
【表3】

【0118】
(実施例10)
母液(M−1)500mLにSi元素が1mmol含まれるようにケイ酸カリウム溶液を添加して調整した母液(M−10)を用いたことと、Si溶液(S-1、40mL)を8mL/分の速度で5分間かけて添加したこと以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。原料溶液の添加中および反応初期に混合液内に存在するBi元素とSi元素の物質量の関係を図18に示す。
【0119】
(実施例11)
Si溶液(S-1、50mL)を10mL/分の速度で5分間かけて添加したこと以外は、実施例10と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。原料溶液の添加中および反応初期に混合液内に存在するBi元素とSi元素の物質量の関係を図19に示す。
【0120】
実施例10、11はSi元素が含まれる母液に対して、Bi元素とSi元素の物質量の比を変動させて添加したものであるが、添加中のBi元素とSi元素の物質量の比が変動しているために実用上は問題ない程度ではあるが、実施例1よりも、より好ましい組成領域から若干はずれた結果となった。
【0121】
【表4】

【0122】
(実施例12)
Bi溶液(B-1)とSi溶液(S-1)を添加する前の母液(M-1)の温度を25℃とし、Bi溶液(B-1)とSi溶液(S-1)とを25℃にて添加した後に、2.5℃/分の速度で20分間かけて75℃へと昇温したこと、反応容器21中の混合液の温度を75℃に昇温させた後の撹拌時間を48時間にしたこと以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0123】
(実施例13)
Bi溶液(B-1)とSi溶液(S-1)を添加する前の母液(M-1)の温度を75℃とし、Bi溶液(B-1)とSi溶液(S-1)とを添加した後に、2.5℃/分の速度で2分間かけて80℃へと昇温したこと、反応容器21中の混合液の温度を80℃に昇温させた後の撹拌時間を48時間にしたこと以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0124】
(実施例14)
Bi溶液(B-1)とSi溶液(S-1)とを50℃にて母液(M-1)に添加した後に、2.5℃/分の速度で6分間かけて65℃へと昇温したこと、反応容器21中の混合液の温度を65℃に昇温させた後の撹拌時間を48時間にしたこと以外は、実施例1と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0125】
(実施例15)
Bi溶液(B-1)とSi溶液(S-1)とを50℃にて母液(M-1)に添加した後に、2.5℃/分の速度で14分間かけて85℃へと昇温した以外は、実施例1と同様にBi12SiO20粉末を製造した。
【0126】
実施例1、実施例12〜15の平均粒子サイズ、Si/Bi12を表5に示す。表5に示すように、実施例12〜15は混合温度、反応温度を変更したものであるが、いずれの実施例においても本発明の製造方法で製造したBi12XO20粉末は、組成が均一であり凝集しにくい平均粒子径を有していることがわかる。なお、混合温度が低い実施例12、および混合温度が高い実施例13、反応温度が低い実施例14では、反応時間が48時間と遅かった。
【0127】
【表5】

【0128】
(実施例16)
Si溶液中のSi濃度およびSi元素の添加量を表6に示すように変更した以外は、実施例3−3(pH13)と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0129】
(実施例17)
Si溶液中のSi濃度およびSi元素の添加量を表6に示すように変更した以外は、実施例3−1(pH12)と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
【0130】
(実施例18)
Si溶液中のSi濃度およびSi元素の添加量を表6に示すように変更した以外は、実施例1(pH14)と同様にしてBi12SiO20粉末を製造した。
実施例16〜18において用いたSi溶液のSi濃度およびSi元素とBi元素の添加量と測定した平均粒子サイズおよびSi/Bi12をまとめたものを表6に、添加元素量比と粉末組成比の関係を示すグラフを図20に示す。
【0131】
【表6】

【0132】
上記実施例3のBi12SiO20粉末では図17に示すようにpH13.5以下での反応モードとpH14以上での反応モードは異なることが示唆されたが、図20のグラフに示すように、pH12および13の場合には添加元素量比(Si/Bi12)に対してBi12SiO20粉末組成比(Si/Bi12)が線形的に変化するが、pH14においては添加元素量比に対してBi12SiO20粉末組成比は大きく変化していないことがわかる。つまり、pH12および13の場合には仕込み組成を厳密に制御することにより所望とする組成の粒子を作製することができるという利点がある。一方、pH14の場合には、得られるBi12XO20粉末の組成がふらつきにくくなることから、製造安定性に優れているという利点がある。
【0133】
そして、上記の結果および図17に示されるX線回折の結果を総合すれば、混合液のpHを13.5以下に調整することにより仕込み組成と粒子組成がリニアに変化するため、所望とする組成の粒子を作製することができ、一方、混合液のpHを14以上に調整すれば、得られるBi12XO20粉末の組成がふらつきにくくなるという利点があるということができる。
【0134】
(比較例1)
非特許文献4に記載されている方法と同様の方法によりBi12SiO20粉末を製造した。すなわち、ケイ酸カリウム溶液(和光純薬製、モル比率:SiO2/K2O=3.9、濃度28.0%)1.213mLと水酸化カリウム溶液(和光純薬製、8N)と純水とを混合して550mLとした母液中に、Bi溶液(B-1、50mL)のみを常温で添加した。得られた混合液のpHを14に調整した後、75℃に昇温させて2日間反応させた。添加・昇温・反応の各工程を通して、テフロン(登録商標)製のプロペラ羽根を用いて撹拌を継続した。
【0135】
反応終了後、反応系全体を室温へと冷却し、得られた沈殿物をろ別し、純水で十分に洗浄した。得られた固形物を、100℃にて12時間乾燥させることにより、Bi12SiO20粉末を得た。得られたBi12SiO20粒子の結晶相の同定は、粉末X線回折法を用いて行い、Bi12SiO20単相であることを確認した。得られた粉末中の粒子の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって行い、平均粒径が5.6μmであることを確認した。得られた粉末の組成は、ICP発光分析法を用いて行い、Si/Bi12=0.90であることを確認した。
【0136】
(比較例2)
非特許文献4に記載されている方法と同様の方法によりBi12SiO20粉末を製造した。すなわち、母液にBi溶液(B-1)を添加した後に、pHを13に調整したことと、昇温後の反応時間を3時間としたこと以外は、比較例1と同様の方法でBi12SiO20粒子を製造した。得られた粉末中の粒子の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって行い、平均粒径が5.4μmであることを確認した。得られた粒子の組成は、ICP発光分析法を用いて行い、Si/Bi12=1.15であることを確認した。
【0137】
(比較例3)
特許文献5に記載されている方法と同様の方法によりBi12SiO20粉末を製造した。硝酸ビスマス・五水塩(Bi(NO33・5H2O:純度99.9%)482gを、1N硝酸水溶液800mLに溶解し、これに純水を加えて1LとしてBi溶液(B-C3)を調整した。別に、メタケイ酸カリウム12.9gと水酸化カリウム325gを水に溶解し1Lとし、Si溶液(S-C3)を調整した。また、メタケイ酸カリウム7.7gと水酸化カリウム281gを水に溶解して5Lとし母液(M−C3)を調整した。
【0138】
せん断型撹拌部14を有する反応装置4を用いて、Bi12SiO20粉末の合成を行った。テフロン(登録商標)コーティングした反応容器21に母液(M-C3)を加え、回転速度を毎分4000回転に設定したせん断型撹拌部14を作動させながら母液(M-C3)を加熱して、温度を90℃とした。このときの攪拌羽根の周速度は3.5m/秒であった。この状態を維持して、溶液槽24a中のBi溶液(B-C3)と溶液槽24b中のSi溶液(S-C3)とを、それぞれ送液流路25aと送液流路25bとを経由して、毎分20mLの速度で同時にせん断型撹拌部14近傍に添加した。添加終了後、90℃にて更に30分間攪拌を継続した後、常温まで冷却し生成した薄黄色の分散物をろ別した。ろ別後、0.1Nの水酸化カリウム溶液で3回、さらに水で数回洗浄した後、エタノール洗浄してBi12SiO20粉末を得た。
【0139】
製造したBi12SiO20粉末の結晶相の同定は、粉末X線回折法を用いて行い、Bi12SiO20単相であることを確認した。得られた粉末中の粒子の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって行い、平均粒径が1μmであることを確認した。得られた粒子の組成分析は、ICP発光分析法を用いて行い、Si/Bi12=1.00であることを確認した。
この比較例3で得られたBi12SiO20粉末の平均粒径は、昇温工程を有している実施例12〜15の平均粒径に比べて、非常に小さかった。比較例3では母液の温度が90℃と高く、ここにBi溶液とSi溶液を添加しているために、反応初期に生成する核の数が多くなり、粒子サイズが小さくなったものと考えられる。
【0140】
(比較例4)固相法
酸化ビスマス(高純度化学製、純度5N)279.6gとSiO2粉末(純度6N)6.00gをエタノール200mLに分散しアルミナ製ボールミルを用いて混合、粉砕した。エタノールを蒸発させた後、アルミナ坩堝中に入れ800℃で8時間仮焼成した。これをアルミナ乳鉢で粉砕し、さらにアルミナ製ボールミルにて粉砕しBi12SiO20粉末を得た。得られたBi12SiO20粉末の結晶相の同定は、粉末X線回折法を用いて行い、Bi12SiO20単相であることを確認した。得られた粉末中の粒径は、電子顕微鏡像の観察によって行い、1μm以下の粒子から最大では10μmの破砕片を含んでおり、また、図21に示すようにレーザー回折式粒度分布測定装置からも1μm以下の粒子から最大20μmに亘る広い粒子径分布を示すことが確認された。得られた粉末の組成は、ICP発光分析法を用いて行い、Si/Bi12=1.00であることを確認した。
【0141】
(比較例5)
比較例1と同様の方法によりBi12SiO20粉末を製造した。得られた粉末中の粒子の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって行い、平均粒径が5.4μmであることを確認した。得られた粒子の組成は、ICP発光分析法を用いて行い、Si/Bi12=0.97であることを確認した。この比較例5と比較例1のSi/Bi12の比較から非特許文献4の製造方法では製造ロット間の組成のばらつきが大きいことが示された。
【0142】
(放射線撮像パネル検出部の作製)
実施例1〜11,13,16〜18、比較例1,2および5で作製したBi12XO20粉末を、水溶性無機バインダ(GRANDEX FJ294)と混合した。得られた混合物は均一であり、Bi12XO20粉末と無機バインダ(乾燥時)の重量比は2:1であった。石英ガラス基板上に蒸着によりAu/Ti電極を作製し、さらに電極上部にはディップ塗布法により、0.5μm未満の厚さの接着層(Humiseal 1B12)を設けた。続いて、図22に示す圧縮装置を用い、接着層とAu/Ti電極とを有する石英ガラス基板74をモールド71に設置し、上記で調整した混合物を、接着層の上面に堆積させ、ダイ−プレス装置70を作用させることにより、最終的に約150μmの厚さの光導電体75を作製した。光導電体75の厚さは、ダイ−プレス装置70に設置するスペーサーによって調節することができる。光導電体を堆積させた石英基板をモールド71から取り出し、室温にて乾燥した。乾燥した光導電体の上部にAu電極を蒸着して、電極で挟まれた光導電体を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0143】
(評価方法および評価結果)
上記、実施例1〜11,13,16〜18、比較例1,2および5のBi12XO20粉末を用いて作製した放射線撮像パネルの検出部の両電極間に、500Vの電圧を印加した後に10mR相当のX線(タングステン菅球、80kV圧)を0.1秒間で露光した。この時に電極間にながれた光電流を電流増幅器で電圧に変換し、デジタルオシロスコープで測定した。得られた電流・時間カーブより、X線照射時間の範囲において積分し、サンプルの面積当たりの収集電荷量として換算した。
結果を表7および元素組成比(X/Bi20)と収集電荷の関係を図23に示す。なお、図23の◆は実施例1〜11,13,16〜18を、■は比較例5を示している。
【0144】
【表7】

【0145】
実施例で得られたBi12XO20粉末を用いて製造した放射線撮像パネルは、Bi12XO20粉末が凝集しにくい粒径を有することから良好な製膜が可能であり、均一な組成であることから表7に示されるように良好な収集電荷特性を得ることができた。また、図23に示されるように、Bi12XO20粉末の組成が0.91≦X/Bi12≦1.09の範囲において収集電荷特性を確認することができ、とりわけ0.94≦X/Bi12≦0.99の範囲においてより良好な収集電荷特性となることが確認された。
【0146】
一方、比較例では収集電荷が得られなかったり(比較例1および2)、非常に収集電荷が低かった(比較例5)。なお、表7および図23では実施例1の収集電荷を100とした相対値で示しているため、実施例によっては収集電荷が一見低く見えるものもあるが、比較例との相対的比較から明らかなように、実施例で得られたBi12XO20粉末を用いて製造した放射線撮像パネルは良好な収集電荷得られていることがわかる。
【符号の説明】
【0147】
1,2,3,4 反応装置
21 反応容器
90,330 放射線撮像パネル
100 放射線検出器
104 放射線光導電体(放射線光導電層)
103,105 電極
200,370 電流検出手段
331 第一の導電層
332 放射線光導電体(記録用放射線導電層)
333 電荷輸送層
334 読取用光導電層
335 第二の導電層
370 電流検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi元素を有する溶液とX元素を有する溶液とを用意する工程(A)と、
反応容器にあらかじめ供給された母液に対して前記両溶液を添加して混合液を調製する工程(B)と、
該混合液の温度を、前記添加開始時の温度より上昇させる工程(C)とを有し、
前記工程(B)において、前記混合液中の前記Bi元素と前記X元素の双方の物質量が、前記添加開始時から並行して増加するように前記両溶液を添加することを特徴とするBi12XO20粉末(但し、XはSi、Ge、Tiからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む元素である)の製造方法。
【請求項2】
前記工程(B)において、前記添加開始時から添加終了時までの間、前記母液に添加される前記Bi元素と前記X元素の物質量の比を、実質上一定とすることを特徴とする請求項1記載のBi12XO20粉末の製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)において、ダブルジェット方式にて添加して前記混合液を調製することを特徴とする請求項1または2記載のBi12XO20粉末の製造方法。
【請求項4】
前記工程(B)において、前記混合液の調製を、該混合液の温度が25℃より高く75℃より低くなる範囲で実施することを特徴とする請求項1、2または3記載のBi12XO20粉末の製造方法。
【請求項5】
前記工程(C)において、前記温度の上昇を65℃より高く100℃より低くなる範囲で実施することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のBi12XO20粉末の製造方法。
【請求項6】
前記混合液のpHが13.5以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のBi12XO20粉末の製造方法。
【請求項7】
前記混合液のpHが14以上であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のBi12XO20粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項記載の製造方法によって製造されたBi12XO20粉末であって、該粉末の平均粒径が2μmより大きく20μmより小さく、下記式(1)を満足する組成を有することを特徴とするBi12XO20粉末。
0.91≦X/Bi12≦1.09・・・(1)
(式中、X/Bi12は、Bi元素12モルに対するX元素の物質量である。)
【請求項9】
下記式(2)を満足する組成を有することを特徴とする請求項8記載のBi12XO20粉末。
0.94≦X/Bi12≦0.99・・・(2)
【請求項10】
請求項8または9記載のBi12XO20粉末を用いて製造されることを特徴とする放射線光導電体。
【請求項11】
Bi12XO20多結晶体(但し、XはSi、Ge、Tiからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む元素である)からなる(但し、不可避不純物を含んでもよい)放射線光導電体であって、前記多結晶体の組成が、下記式(2)を満足することを特徴とする放射線光導電体。
0.94≦X/Bi12≦0.99・・・(2)
(式中、X/Bi12は、Bi元素12モルに対するX元素の物質量である。)
【請求項12】
Bi12XO20粒子(但し、XはSi、Ge、Tiからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む元素である)がバインダを介して結合された放射線光導電体であって、前記Bi12XO20粒子が、下記式(2)を満足する組成を有することを特徴とする放射線光導電体。
0.94≦X/Bi12≦0.99・・・(2)
(式中、X/Bi12は、Bi元素12モルに対するX元素の物質量である。)
【請求項13】
請求項10〜12いずれか1項記載の放射線光導電体と、該放射線光導電体に電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする放射線検出器。
【請求項14】
放射線曝射によって放射線光導電層に発生したキャリアを、前記放射線光導電層に電界を印加することによって電荷として読み出す放射線撮像パネルであって、
請求項10〜12いずれか1項記載の放射線光導電体からなる放射線光導電層と、
該放射線光導電層に対して電界を印加する一対の電極と、
前記放射線光導電層に発生したキャリアを検出する電流検出手段とを、
有することを特徴とする放射線撮像パネル。
【請求項15】
放射線曝射によって放射線光導電層に発生したキャリアを電荷として蓄積して静電潜像を形成し、前記電荷を光照射によって読み出す放射線撮像パネルであって、
前記放射線光導電層に電界を印加する第1の電極と、
請求項10〜12いずれか1項記載の放射線光導電体からなる放射線光導電層と、
前記キャリアを電荷として蓄積する電荷輸送層と、
前記光照射により該電荷輸送層に蓄積された電荷を取り出す読取用光導電層と、
前記放射線光導電層に対して電界を印加する第2の電極と、
前記読取用光導電層に取り出された電荷を検出する電流検出手段とを順次備えたことを特徴とする放射線撮像パネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2010−37186(P2010−37186A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154843(P2009−154843)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】