説明

CBD成膜装置

【課題】CBD成膜装置を、CBD溶液に溶解してしまうような部分を含む基板であっても基板を溶解させることなくCBD成膜を実施可能なものとする。
【解決手段】CBD成膜装置1を、長尺基板2を密着支持するドラム3と、長尺基板2を密着支持するドラムの一部を浸漬するCBD反応液4で満たされた反応槽5と、ドラム3に密着支持された長尺基板2の短手方向端部と、ドラム3のうち長尺基板2が密着しない部分とをオーバーラップしてCBD反応液4から保護する保護部材6と、ドラム3の周速に合わせてドラム3に密着させた長尺基板2と保護部材6をCBD反応液中で共走行させる駆動部とを有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CI(G)S系太陽電池のバッファ層の形成などに好適に用いることが可能なCBD成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換層とこれに導通する電極とを備えた光電変換素子が、太陽電池等の用途に使用されている。従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Siまたは多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発がなされている。化合物半導体系太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCISあるいはCIGS系等の薄膜系とが知られている。CI(G)Sは、一般式Cu1-zIn1-xGaxSe2-yy(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)で表される化合物半導体であり、x=0のときがCIS系、x>0のときがCIGS系である。以下、CISとCIGSとを合わせて「CI(G)S」と表記する。
【0003】
CI(G)S系等の従来の薄膜系光電変換素子においては一般に、光電変換層とその上に形成される透光性導電層(透明電極)との間にCdSバッファ層や、環境負荷を考慮してCdを含まないZnSバッファ層が設けられている。バッファ層は、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、および(4)光電変換層の表面凹凸のカバレッジ等の役割を担っており、CI(G)S系等では光電変換層の表面凹凸が比較的大きく、特に上記(4)の条件を良好に充たす必要性から、液相法であるCBD(Chemical Bath Deposition)法による成膜が好ましい。
【0004】
CBD法ではバッファ層の原料化合物を含む反応液に基板を浸漬する、いわゆるバッチ式の成膜方法が知られている。例えば特許文献1には成膜の均一性を向上させ、反応槽の小型化等が可能なCBD成膜装置として、CBD成膜形成対象表面を反応槽に対し水平上向きに保持し、振動子を駆動させる装置が記載されている。また、特許文献2には反応槽の壁面に等間隔で配置された振動子を備え、反応槽に対しCBD成膜形成対象物を鉛直に保持する装置が記載されている。
【0005】
一方、連続的に成膜を行う方法も知られており、長尺な可撓性基板をロール状に巻回してなる供給ロールと、成膜済の基板をロール状に巻回する巻取りロールとを用いるいわゆるロール・トゥ・ロール(Roll to Roll)の成膜方法が知られている。この方法は、供給ロールからの基板の送り出しと、巻取りロールによる成膜済基板の巻取りとを同期して行いつつ、反応槽において、搬送される基板に対し連続的に、あるいはストップ・アンド・ゴー方式で成膜を行なうことが可能である。例えば、特許文献3には反応槽壁面等への膜析出により、バッファ層形成用材料(反応溶液)のロスを抑制するために、反応溶液を回収する態様が記載されており、また、特許文献4においても同様の態様が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4443645号公報
【特許文献2】特許4080061号公報
【特許文献3】米国特許出願公開2009/0246908号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開2009/0255461号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3や4に記載のロール・トゥ・ロールの成膜方法は生産性向上の観点からは好ましいものの、CBD溶液に溶解してしまうような部分を含む基板(例えば、基板端面や基板裏面など溶解しうる成分が露出している場合を含む)の場合、基板の端面や裏面の保護を行った上で連続的にCBD法を実施することはできない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、CBD溶液に溶解してしまうような部分を含む基板であっても基板を溶解させることなく、CBD成膜を実施可能なCBD成膜装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のCBD成膜装置は、長尺基板を密着支持するドラムと、前記長尺基板を密着支持するドラムの一部を浸漬するCBD反応液で満たされた反応槽と、前記ドラムに密着支持された前記長尺基板の短手方向端部と、前記ドラムのうち前記長尺基板が密着しない部分とをオーバーラップして前記CBD反応液から保護する保護部材と、前記ドラムの周速に合わせて前記ドラムに密着させた前記長尺基板と前記保護部材を前記CBD反応液中で共走行させる駆動部とを有することを特徴とするものである。
【0010】
前記ドラムは、密着支持した前記長尺基板を加熱する加熱手段を備えていることが好ましい。
前記ドラムは、前記長尺基板を前記ドラムに磁気により密着支持することが可能ものであることが好ましい。
前記反応槽内の前記CBD反応液の液面が、前記長尺基板と該長尺基板をオーバーラップする前記保護部材とが接触し始める位置よりも低い位置に設けられていることが好ましい。
【0011】
前記長尺基板は水酸化物イオンと錯イオンを形成しうる金属を含むものであってもよい。
前記長尺基板は、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、およびFeを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板のうちいずれか1つの陽極酸化基板であってもよい。
【0012】
前記長尺基板は、下部電極と光吸収により電流を発生する光電変換半導体層とを備えて構成されていることが好ましい。
【0013】
本発明の光電変換素子の製造方法は、下部電極と光吸収により電流を発生する光電変換半導体層とを備えてなる長尺基板の、前記光電変換半導体層上にバッファ層と透光性導電層との積層構造を有する光電変換素子の製造方法において、前記バッファ層を、前記長尺基板を前記光電変換半導体層面を表側となるようにドラムに密着支持し、該ドラムに密着支持された前記長尺基板の短手方向端部と、前記ドラムのうち前記長尺基板が密着しない部分とを保護部材によりオーバーラップし、前記長尺基板を密着支持するドラムの一部を反応槽内の前記バッファ層形成用反応液に浸漬して形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のCBD成膜装置は、長尺基板を密着支持するドラムと、長尺基板を密着支持するドラムの一部を浸漬するCBD反応液で満たされた反応槽と、ドラムに密着支持された長尺基板の短手方向端部と、ドラムのうち長尺基板が密着しない部分とをオーバーラップしてCBD反応液から保護する保護部材と、ドラムの周速に合わせてドラムに密着させた長尺基板と保護部材をCBD反応液中で共走行させる駆動部とを備えているので、基板がCBD反応液に溶解してしまう成分を含むものであっても、基板からこのような成分を溶出させることなくCBD成膜を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のCBD成膜装置の一実施の形態を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示すCBD成膜装置の概略断面図である。
【図3】長尺基板を保護する保護部材の一実施の形態を示す概略断面図である。
【図4】長尺基板を保護する保護部材の別の実施の形態を示す概略断面図である。
【図5】長尺基板を保護する保護部材のさらに別の実施の形態を示す概略断面図である。
【図6】長尺基板を保護する保護部材のさらに別の実施の形態を示す概略断面図である。
【図7】長尺基板を保護する保護部材のさらに別の実施の形態を示す概略断面図である。
【図8】長尺基板を保護する保護部材のさらに別の実施の形態を示す概略断面図である。
【図9】長尺基板を保護する保護部材のさらに別の実施の形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明のCBD成膜装置を説明する。図1は本発明のCBD成膜装置の一実施の形態を示す概略斜視図、図2は図1に示すCBD成膜装置の概略断面図である。なお、図1において反応槽は透明なものとして図示している。図1および図2に示すCBD成膜装置1は、長尺基板2を密着支持するドラム3と、長尺基板2を密着支持するドラム3の一部を浸漬するCBD反応液4で満たされた反応槽5と、ドラム3に密着支持された長尺基板2の短手方向端部と、ドラム3のうち長尺基板2が密着しない部分とをオーバーラップしてCBD反応液4から保護する保護部材6と、ドラム3の周速に合わせてドラム3に密着させた長尺基板2と保護部材6をCBD反応液4中で共走行させる駆動部(図示せず)とを備えてなる。
【0017】
さらに、ドラム3の上流側には長尺基板2をロール状に巻回する巻出しロール11が、下流側にはドラム3から送りだされた長尺基板2の片面にCBD薄膜が形成された後の長尺基板2を巻き取る巻取りロール12が設けられ、巻出しロール11とドラム3の間、巻取りロール12とドラム3の間には、それぞれ送出しロール13および14が設けられている。また、ドラム3と送出しロール13の間には、保護部材6をロール状に巻回する巻出しロール15が、ドラム3と送出しロール14の間には、保護部材6を巻き取る巻取りロール16がそれぞれ設けられている。そして、巻出しロール15から送りだされた保護部材6によって、長尺基板2の短手方向端部と、ドラム3のうち長尺基板2が密着しない部分とをオーバーラップできるようになっている。巻取りロール12および16にはそれぞれ駆動部(図示せず)が設けられており、ドラム3の周速に合わせて(同期させて)ドラム3に密着させた長尺基板2と保護部材6をCBD反応液4中で共走行させることができるようになっている。
【0018】
なお、ここでは巻取りロール12および16に設けられた駆動部が巻取りロール12および16のそれぞれを駆動して、CBD薄膜形成後の長尺基板2および保護部材6が巻取りロール12および16にそれぞれ巻取られる態様について説明しているが、巻取りロール12および16は単に回転自在な構成で、長尺基板2および保護部材6を送り出すだけの機能を有し、その下流にそれぞれ別の駆動部で制御された巻取りロールが配置されている構成であってもよい。また、ドラム3そのものは単に回転自在な構成となっており、上記で説明した駆動部を駆動することによってドラム3は、長尺基板2の一方の面のみをCBD反応液4に浸漬した状態で搬送するようになっているが、ドラム3に駆動源が設けられていてそれ自身が回転するものであってもよい。
【0019】
図3は長尺基板を保護する保護部材の一実施の形態を示す概略断面図である。図3に示すように、保護部材6は長尺基板2の短手方向端部と、ドラム3のうち長尺基板2が密着しない部分とをオーバーラップできるようになっている。このようにオーバーラップすることにより長尺基板2の裏面(ドラム3に密着している側)および端面にはCBD反応液4が侵入、接触することがなく、仮に長尺基板2がCBD反応液に溶解してしまう成分を含むものであっても、長尺基板2からこのような成分を溶出させることなくCBD薄膜を形成することが可能である。
【0020】
保護部材6は長尺基板2に対する密着性を確保するために、バイトンゴムやシリコンゴムのような素材からなることが好ましい。あるいは保護部材6全体がそのような材質からなるものでなくても、少なくとも長尺基板2に密着する側に粘着性を有する材質が塗布された態様としてもよい。
【0021】
長尺基板2とオーバーラップさせる保護部材6との水密性をより向上させるために、ドラム3は、長尺基板2を磁気によりドラム3に密着支持することが可能なように構成されていることが好ましい。例えば、それ自身が磁石の性質を持ち、鉄などの磁性体をひきつけることが可能な永久磁石をドラム3の内部であって長尺基板2が密着する部分に配置すれば、長尺基板2が磁性体であれば、長尺基板2をドラム3に磁気により密着支持することができる。
【0022】
また、長尺基板2が磁性体でない場合であっても、図4に示すように、保護部材6の上に磁性体である金属板7(磁性を有する金属板、例えばSUS316等)をさらにオーバーラップすれば、同様に長尺基板2をドラム3に磁気により密着支持することができる(なお、図4において図3と同じ構成要素には同じ番号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、他の図面においても同様))。この場合、図5に示すように金属板7を押さえバネ8により固定するようにしてもよい。なお、この押さえバネ8はドラム3の全周に亘って複数箇所に設けられているが、ドラム3が反応液に浸漬している部分においては図5の上図に示すように金属板7を上から押さえ、反応液から離脱した後には、図5の下図に示すように金属板7から離れるように制御されるものである。
【0023】
さらに、別の態様として、図6に示すように、保護部材6をドラム3に圧接させるような加圧ドラム9が設けられている態様としてもよい。この加圧ドラム9は反応液に浸漬しているドラム3の対向する部分に、複数箇所設けられていることが好ましい。
【0024】
ドラム3は、密着支持した長尺基板2を裏面から加熱する加熱手段を備えていることが好ましい。通常、CBD用反応液は加温をして反応を行うが、長尺基板2を背面から加熱することによって、より膜厚のばらつきがない成膜を行うことができる。この際、基板の温度をCBD用反応液の液温と同じか、それ以上にしておくことが好ましい。基板の温度をCBD用反応液の液温以上にしておくことにより、基板上での析出を優先的に進行させることが可能になる。また、そのときに反応液の温度を低くしても基板上での析出が進行する場合には、反応液中でのコロイド状固形物の発生が抑えられる方向になるので、反応液を長時間使用し続けたりすることが可能となる。加熱手段としてはドラム3内にヒーターを備える態様、ドラム内に加熱した媒体(例えば、水やオイル)を循環させる態様等を好ましく挙げることができる。
【0025】
なお、上記では反応液4に浸漬する前に巻出しロール15から巻き出された保護部材6によって長尺基板2が保護され、反応液4から離脱した後には、保護部材6は巻取りロール16によって巻き取られる態様を例にとって説明したが、巻出しロール11にロール状に巻回されている長尺基板2に予め保護部材6が設けられている態様としてもよい。例えば、図7や8に示すように保護部材6は長尺基板2の短手方向端部を両面から保護するようなものであってもよい。この場合には、長尺基板2とオーバーラップさせる保護部材6との水密性を確保するために、図7に示すようにドラム3の長尺基板2が密着する部分を凸部としたり、あるいは図8に示すように長尺基板2が密着する部分を凸部にするとともに、長尺基板2を蛇行させないようにするために保護部材6が走行するドラム3の一部にあらかじめ凹部を設けておいてもよい。
【0026】
また、巻出しロール11にロール状に巻回されている長尺基板2に最初から図9に示すような保護部材6を長尺基板2の全長にわたって複数配置してもよい。なお、図では保護部材6の配置を視認しやすくするために保護部材6を1枚配置した状態を示している。この場合、L1<長尺基板の幅<L2であり、L2≦ドラムの幅である。なお、この場合の保護部材6のL3はドラム回転方向の円周以下の長さとすることが好ましい。
【0027】
続いて、本発明のCBD成膜装置の動作について図1および図2を参照して説明する。なお、ここでは長尺基板が、下部電極と光吸収により電流を発生する光電変換半導体層とを備えてなるもので、光電変換半導体層上にCBD法によりバッファ層を成膜する場合を例にとって説明する。まず、巻出しロール11からロール状に巻回された長尺基板2を送り出して、ドラム3に密着支持させた後、巻取りロール12に巻回する。このとき、長尺基板2は光電変換半導体層を表にして巻回する。同様に、巻出しロール15からロール状に巻回された保護部材6を送りだして、巻取りロール16に巻回する。
【0028】
ドラム3に密着支持された長尺基板2の短手方向端部と、ドラム3のうち長尺基板2が密着しない部分とを、保護部材6によって長尺基板2の裏面および端面へのCBD反応液4の接触を阻止することができるようにオーバーラップさせる。この状態としたところで、反応槽5内のCBD反応液4にドラム3の一部、例えばドラム中心までを浸漬させる。このとき、反応槽5内のCBD反応液4の液面が、長尺基板2と長尺基板2をオーバーラップする保護部材6とが接触し始める位置よりも低い位置とする。
【0029】
ここで駆動部を駆動し、ドラム3の周速に同期させてドラム3に密着させた長尺基板2と保護部材6をCBD反応液4中で共走行させ、長尺基板2のドラム3に密着していない片表面、すなわち光電変換半導体層表面にバッファ層を形成させる。反応液は、バッファ層が析出する長尺基板2の光電変換半導体層表面にしか接触しないため、基板がCBD用反応液に溶解してしまう成分を含むものであっても、基板からこのような成分を溶出させることなくバッファ層を形成することが可能である。また、長尺基板2の裏面(ドラム3に密着している側)にはCBD反応液4が侵入することがないので、長尺基板2の裏面にバッファ層が形成することを抑制することもできる。
【0030】
バッファ層の成膜時にはバッファ層の表面にコロイド状固形物が付着する場合がある。このコロイド状固形物をそのままの状態にしておくと、バッファ層被覆部での高抵抗を保持し、太陽電池の変換効率を向上させることができなくなるため、通常はこれを洗浄処理等により除去する必要がある。このため、通常、バッファ層を成膜した後は洗浄、水洗、乾燥を実施する必要がある。図1ではバッファ層が成膜された基板を巻取りロール12によって巻き取る態様で示しているが、バッファ層の成膜後の洗浄、水洗、乾燥工程までをインラインにて実施する態様としてもよい。さらに、後述するバッファ層形成後の加熱工程もインラインで行うように構成してもよい。
【0031】
なお、バッファ層を形成する前の基板は予めプレ加熱されているものを用いることが好ましい。プレ加熱としては基板を温風ドライエアーで温めたり、あるいはヒーターを用いて温める方法であってもよい。例えば、巻出しロール11からドラム3に搬送される間に基板を温風ドライエアーで温める加熱部を別途設けてもよい。もちろん、バッファ層形成前には、通常光電変換半導体層表面に付着する付着物を洗浄して除去するが、この場合には先に洗浄工程を実施してから基板を温風ドライエアーで温めたり、あるいはヒーターを用いて温める方がよい。一方、巻出しロール11に巻回される前の基板に対して、この付着物を除去するための溶液(純水、アンモニア水、又は低級アミン溶液等)を加温して、付着物の除去工程と基板予備加熱工程を同時に実施するようにしてもよい。
【0032】
以上のようにしてバッファ層を成膜することができる。なお、本発明のCBD成膜装置は上記で説明したバッファ層の成膜だけでなく、金属酸化物や金属酸化物に特定の元素をドープしたような薄膜等のCBD成膜にも好適に用いることができる。
【0033】
バッファ層が後述するZnS、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)の場合には、バッファ層の形成後、150℃〜230℃の温度、好ましくは170℃〜210℃の温度で、5分〜60分、後加熱を行う。加熱手段としては特に限定されないが、市販のオーブン、電気炉、真空オーブン等を利用した加熱が好ましい。もちろん、インライン化した加熱設備を用いて加熱してもよい。このように加熱処理を行うことによって光電変換素子の変換効率等の特性を向上させることができる。
【0034】
CBD法は、一般式 [M(L)i] m+ ⇔Mn++iL(式中、MはCdまたはZnの金属元素、Lは配位子、m,n,i:正数を各々示す。)で表されるような平衡によって過飽和条件となる濃度とpHを有する金属イオン溶液を反応液として用い、金属イオンMの錯体を形成させることで、安定した環境で適当な速度で基板上に結晶を析出させる方法である。
【0035】
本発明のCBD成膜装置に用いられる反応液としては、例えばCdまたはZnの金属(M)源と硫黄源を含むものを挙げることができる。これによって、CdS、ZnS、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)のバッファ層を形成することができる。硫黄源としては硫黄を含有する化合物、例えばチオ尿素(CS(NH22、チオアセトアミド(C25NS)等を用いることができる。
【0036】
CdSバッファ層の場合には、上記硫黄源と、Cd化合物(例えば硫酸カドミウム、酢酸カドミウム、硝酸カドミウム、クエン酸カドミウムおよびこれらの水和物等)と、アンモニア水あるいはアンモニウム塩(例えばCH3COONH4、NH4Cl、NH4Iおよび(NH42SO4等)との混合溶液を反応液として用いることができる。ZnS、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)などのZn化合物層からなるバッファ層の場合には、上記硫黄源と、Zn化合物(例えば硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、クエン酸亜鉛およびこれらの水和物等)と、アンモニア水あるいはアンモニウム塩(上記と同様)との混合溶液を反応液として用いることができる。
【0037】
なお、Zn化合物層からなるバッファ層を形成する場合には、反応液にはクエン酸化合物(クエン酸三ナトリウムおよび/またはその水和物)を含有させることが好ましい。クエン酸化合物を含有させることによって錯体が形成されやすく、CBD反応による結晶成長が良好に制御され、膜を安定的に成膜することができる。
【0038】
本発明のCBD成膜装置は、どのような基板であっても適用することが可能であるが、基板がCBD用反応液に溶解してしまう成分を含むものであっても、基板からこのような成分を溶出させることがないという本発明の効果からすれば、基板が水酸化物イオンと錯イオンを形成しうる金属を含むものである場合にその効果を得ることができ、より詳細にはAlを含む基板に効果的に適用できる。
【0039】
具体的には、基板は、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、および、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板のうちいずれか1つの陽極酸化基板であることが好ましい。
【0040】
光電変換半導体層の主成分としては特に制限されず、高い変換効率が得られることから、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることが好ましく、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることがより好ましい。
【0041】
光電変換半導体層の主成分としては、
CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,およびTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
【0042】
上記化合物半導体としては、
CuAlS2,CuGaS2,CuInS2
CuAlSe2,CuGaSe2
AgAlS2,AgGaS2,AgInS2
AgAlSe2,AgGaSe2,AgInSe2
AgAlTe2,AgGaTe2,AgInTe2
Cu(In,Al)Se2,Cu(In,Ga)(S,Se)2
Cu1-zIn1-xGaxSe2-yy(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)(CI(G)S),
Ag(In,Ga)Se2,およびAg(In,Ga)(S,Se)2等が挙げられる。
光電変換半導体層の膜厚は特に制限されず、1.0μm〜3.0μmが好ましく、1.5μm〜2.0μmが特に好ましい。
【0043】
バッファ層上には、光を取り込むと共に、下部電極と対になって、光電変換半導体層で生成された電流が流れる電極として機能する層である透光性導電層(例えばZnO:Al等のn−ZnO等)、上部電極(Al等)を形成すれば光電変換素子が完成する。光電変換素子は、太陽電池等に好ましく使用することができ、光電変換素子に対して必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けて、太陽電池とすることができる。
以下、本発明のCBD成膜装置を用いてバッファ層を形成する場合を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0044】
(基板〜光電変換層の製造)
30cm幅で長手方向の長さが90mのステンレス鋼(SUS)に、高純度Al(アルミ純度:4N)を冷間圧延法により加圧接合、減圧することにより、ステンレス鋼厚さ100μm、Al層厚さ30μmの2層クラッド材を作製し、金属基板とした。この金属基板上にアルミニウム陽極酸化膜(AAO)を10μm厚で形成し、さらにその上にスパッタ法によりソーダライムガラス(SLG)層を0.2μm厚で、Mo下部電極を0.8μm厚で成膜した。この基板上にCIGS層の成膜法の一つとして知られている3段階法を用いて膜厚1.8μmのCu(In0.7Ga0.3)Se2層を成膜した。
【0045】
(反応液の調製)
水中にZnSO4が0.03M、チオ尿素が0.05M、クエン酸三ナトリウム濃度が0.03M、アンモニア濃度が0.15Mとなるように添加・混合して反応液を調製した。
【0046】
(実施例1)
準備した長尺基板を図1に示すCBD反応装置にセットし、CBD反応液を90℃に加温して長尺基板の全長90mに対し、トータルで150分間かけてバッファ層の析出を行った。
【0047】
(実施例2)
実施例1において、長尺基板の全長90mに対し、トータルで600分間かけてバッファ層の析出を行った以外は実施例1と同様にしてバッファ層の析出を行った。
【0048】
(比較例1)
図1に示すCBD反応装置において、保護部材をとりはずした状態でバッファ層の析出を行った以外は、実施例1と同様にしてバッファ層の析出を行った。
【0049】
(評価)
上記実施例1、2および比較例1のバッファ層析出後、CBD反応液2.5mLを25mLメスフラスコでメスアップ(10倍希釈)し、SPS3000 ICP発光分光分析装置を用いてAl濃度を測定した(定量下限値:Al(<1ppm))。なお、測定結果は各サンプルについて2回ずつ測定を行い、得られた値の平均値で算出した。
実施例1、2および比較例1の反応条件等とともに評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、本発明の製造装置を用いた実施例は基板に含まれるAlを溶出させることなくバッファ層を形成することができた。一方で、基板の端面が反応液に接触する比較例1ではAlの溶出が確認された。従って、本発明のCBD成膜装置によれば、基板がCBD用反応液に溶解してしまう成分を含むものであっても、基板からこのような成分を溶出させることなく膜形成することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 CBD成膜装置
2 長尺基板
3 ドラム
4 CBD反応液
5 反応槽
6 保護部材
7 金属板
8 押さえバネ
9 加圧ドラム
11,15 巻出しロール
12,16 巻取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺基板を密着支持するドラムと、
前記長尺基板を密着支持するドラムの一部を浸漬するCBD反応液で満たされた反応槽と、
前記ドラムに密着支持された前記長尺基板の短手方向端部と、前記ドラムのうち前記長尺基板が密着しない部分とをオーバーラップして前記CBD反応液から保護する保護部材と、
前記ドラムの周速に合わせて前記ドラムに密着させた前記長尺基板と前記保護部材を前記CBD反応液中で共走行させる駆動部と、
を有することを特徴とするCBD成膜装置。
【請求項2】
前記ドラムが、密着支持した前記長尺基板を加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする請求項1記載のCBD成膜装置。
【請求項3】
前記ドラムが、前記長尺基板を前記ドラムに磁気により密着支持することが可能ものであることを特徴とする請求項1または2記載のCBD成膜装置。
【請求項4】
前記反応槽内の前記CBD反応液の液面が、前記長尺基板と該長尺基板をオーバーラップする前記保護部材とが接触し始める位置よりも低い位置に設けられていることを特徴とする請求項1、2または3記載のCBD成膜装置。
【請求項5】
前記長尺基板が水酸化物イオンと錯イオンを形成しうる金属を含むものであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のCBD成膜装置。
【請求項6】
前記長尺基板が、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
およびFeを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板のうちいずれか1つの陽極酸化基板であることを特徴とする請求項5記載のCBD成膜装置。
【請求項7】
前記長尺基板が、下部電極と光吸収により電流を発生する光電変換半導体層とを備えて構成されていることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載のCBD成膜装置。
【請求項8】
下部電極と光吸収により電流を発生する光電変換半導体層とを備えてなる長尺基板の、前記光電変換半導体層上にバッファ層と透光性導電層との積層構造を有する光電変換素子の製造方法において、前記バッファ層を、
前記長尺基板を前記光電変換半導体層面を表側となるようにドラムに密着支持し、該ドラムに密着支持された前記長尺基板の短手方向端部と、前記ドラムのうち前記長尺基板が密着しない部分とを保護部材によりオーバーラップし、前記長尺基板を密着支持するドラムの一部を反応槽内の前記バッファ層形成用反応液に浸漬して形成することを特徴とする光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−84679(P2012−84679A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229252(P2010−229252)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】