説明

EGRバルブ

【課題】シールリングが縮径状態のままデポジットにより固着する不具合がなく、且つ排気圧によりシールリングが環状溝から飛び出す不具合のないEGRバルブを提供する。
【解決手段】環状溝6とシールリング8との全周に亘る隙間にシリコンゲルよりなる高分子配合素性材9を封入配置する。これにより、デポジットXがシールリング8を内径方向に押し込むことがなく、デポジットXが固まっても、全閉時にシールリング8の外周縁がノズル4の内壁に全周に亘って当接して、EGRガスが漏れる不具合が生じない。また、高分子配合素性材9によりシールリング8の内径の隙間に排気圧が流入しないため、排気圧が高くてもシールリング8を拡径させず、シールリング8が飛び出す不具合が生じない。さらに、シールリング8のバネ定数を下げることが可能になり、弁体5を薄く設けることで通気抵抗を小さくでき、EGRバルブを小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン(燃料の燃焼により動力を発生させる内燃機関)の吸気側へ戻されるEGRガス(排気ガスの一部)の量を調整するEGRバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
車両に搭載されるエンジンは、EGRガスを吸気側へ戻すEGR装置(排気ガス還流装置)を搭載する。
EGR装置は、
・エンジンの排気通路から排気ガスの一部を吸気通路へ導くためのEGR流路と、
・このEGR流路の開度を調整することで吸気側へ戻されるEGRガス量をコントロールするEGRバルブと、
・このEGRバルブの開度制御(具体的には、EGRバルブに搭載される電動アクチュエータの通電制御)を行なうECU(エンジン・コントロール・ユニットの略)と、
を備える。
【0003】
従来技術におけるEGRバルブの要部を、図5を参照して説明する。なお、後述する[発明を実施するための形態]および[実施例]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
図5はEGRバルブの要部を示す図であり、EGRバルブは、EGR流路内に固定されたノズル4(ハウジング内に組付けられてEGR流路の一部を成す筒状部材)内を開閉可能な弁体5を備える。
この弁体5の外周縁には、全周に亘る環状溝6が形成されており、この環状溝6の内部にシールリング8が嵌め入れられ、全閉時にシールリング8が弁体5とノズル4の隙間をシールする。
【0004】
ゴム製のOリングとは異なり、径方向へ弾性変形できないシールリング8(金属など硬質な材料よりなる)は、線膨張の差分を吸収するための合口7(周方向の分離部)が設けられる(図4、図6参照)。
具体的に合口7は、シールリング8の自由長(無負荷状態)において、合口7が少量離間するように設けられており、シールリング8の外周縁がノズル4の内壁に押し付けられて組付けられる(シールリング8が縮径した状態で組付けられる)。これにより、ノズル4、シールリング8のそれぞれに熱膨張変化が生じても、全閉時においてシールリング8の外周縁が常にノズル4の内壁に接する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
(従来技術の問題点1)
従来技術の問題点1を、図5を参照して説明する。
図5(a)に示すように、環状溝6にデポジットX(排気ガスに含まれる煤や、未燃焼ガス等のオイル成分)が堆積していない状態(例えば、EGRバルブが新品の状態など)では、環状溝6に嵌め入れられたシールリング8は、自己の復元力(バネ力)によって、外周縁がノズル4の内壁に押し付けられ、全閉時にシールリング8とノズル4の間の隙間を塞ぐ。
【0006】
しかるに、EGRガスに触れる部分には、デポジットXが付着する。そして、弁体5の周囲にデポジットXが堆積し、弁体5の開閉時に、図5(b)に示すように、弁体5の周囲に堆積したデポジットXが、シールリング8の張力(復元力)を上回ってシールリング8を内径方向に押し込む懸念がある。この状態で熱履歴を受けるなどしてデポジットXが固まると(デポジットXの硬化が進むと)、シールリング8が縮径状態のままでデポジットXがノズル4に固着する可能性がある。
【0007】
上述したデポジットXの固着状態{図5(b)に示す状態}で、電動アクチュエータが作動し、電動アクチュエータの出力がデポジットXの固着力を上回るトルクで弁体5を駆動すると、弁体5の周囲のデポジットXが脱落して、弁体5は正常に開閉動作する。
しかし、シールリング8の縮径状態の固着は解除できない。このため、図5(c)に示すように、弁体5を全閉位置へ戻すと、シールリング8の周囲の隙間からEGRガスが漏れる不具合が発生する。
その結果、弁体5が全閉位置へ戻されて、EGRガスを吸気側へ戻さない運転状態(例えば、エンジン負荷が大きい運転状態など)であっても、シールリング8の周囲の隙間からEGRガスが吸気側へ戻されてしまい、エンジンの出力低下を招いたり、排気ガスのエミッションの悪化が懸念される。
【0008】
(従来技術の問題点2)
合口7を有する既存のシールリング8は、小さな張力(バネ力)に設けられており、弁体5への組付が容易で、且つノズル4に対してシールリング8の外周縁が軽く圧接するものであった。
しかし、エコロジーが叫ばれる近年では、小型、高出力を目指してエンジンがターボチャージャ等を用いた高出力化へ向かいだしている。
エンジンの高出力化に伴い排気圧が高まることで、シールリング8に大きな拡径力が加わり、既存のシールリング8のバネ定数では、開弁時に合口7の近傍のシールリング8が環状溝6から飛び出し、シールリング8が環状溝6から外れる懸念が生じるようになった。
【0009】
排気圧の上昇に伴うシールリング8の拡径を防ぐ手段として、シールリング8のバネ定数を高めることが考えられる。
しかし、シールリング8のバネ定数を高めることでシールリング8を太く設けると、弁体5が厚くなり、全開時におけるEGR流路の通気抵抗の増大を招いてRGRガスに最大流量の不足を招いてしまう。
この最大流量の不足を解消するために、弁体5の直径を大きく設けると、EGRバルブの大型化を招いてしまう。
【0010】
ここで、シールリング8が飛び出す不具合を、図6、図7を参照して説明する。
先ず、図6(a)を参照して、モデル例を説明する。
シールリング8の径方向の全幅寸法をa、
閉弁時において環状溝6の外側に配されるシールリング8のシール寸法をb、
閉弁時における環状溝6の内側に配されるシールリング8の係合寸法をcとする。
なお、シールリング8が環状溝6に組み付けられてシールリング8が自由状態(無負荷状態)であっても、シールリング8が環状溝6に嵌め入れられた状態が維持されるように、弁体5の外径寸法より、自由状態のシールリング8の内径寸法が小さく設けられ、無負荷状態においてシールリング8の全周に亘って係合寸法cが確保されるように設けられている。
【0011】
また、シールリング8と環状溝6との間には、
(i)シールリング8の内周面と、環状溝6の底との間に、シールリング8の径方向の変化を吸収する径方向隙間αが形成されるとともに、
(ii)シールリング8のリング平面と、環状溝6の溝側面との間に、シールリング8の組付を可能にする板厚方向隙間βが形成される。
【0012】
環状溝6にデポジットXが堆積していない状態(例えば、EGRバルブが新品の状態や、環状溝6内のデポジットXが脱落した状態など)において、環状溝6に嵌め入れられたシールリング8は、図6(b)に示すように、吸気側からの吸気圧jと、排気側からの排気圧qとを受ける。
図6(b)に示すように、シールリング8の図示左側面が、環状溝6の図示左側面に密接する状態で排気圧qが加わると、径方向隙間αに流入した排気圧qが、シールリング8を径方向の外側へ付勢する力(拡径力)を与える。そして、エンジンの高出力化に伴って排気圧qが上昇することにより、シールリング8に与えられる拡径力が大きくなる。
この状態(閉弁状態)から徐々に弁体5を開弁すると、シールリング8には、排気圧qによって拡径力が与えられた状態で、シールリング8がノズル4に内壁に摺接する(A)。
【0013】
ここで、シールリング8の外周縁は、全閉時においてノズル4の内壁に全周に亘って密接する。しかし、開度が大きくなると、図7に示すように、EGR流路の通路方向から見て、シールリング8とノズル4の接触箇所は、シャフトの軸方向(図7の上下方向)の2箇所の支点のみとなる。
即ち、閉弁状態から開弁状態に弁体5が回動するに従い、シールリング8の周囲の接触箇所は、ノズル4の内壁に全周に亘って接触する状態から、2箇所の支点のみでノズル4に接触する状態に変化する。
そして、開弁時には、支点から合口7までの範囲Lのシールリング8が自由状態(無負荷状態)になる。
【0014】
弁体5が開弁する際(上記Aの続き)、シールリング8に排気圧qによる大きな拡径力が与えられたままの状態で閉弁状態から開弁状態に移行すると、ある開度以上において、合口7側のシールリング8の係合寸法cが0(ゼロ)を越える。
すると、図6(c)に示すように、吸気圧jと排気圧qの荷重差によってシールリング8が環状溝6から飛び出す。さらに、その状態で弁体5がさらに回動することで、シールリング8とノズル4の摺接負荷によって、合口7側のシールリング8が環状溝6から外れ出てしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−285311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、デポジットによってシールリングが縮径状態のまま固着する不具合がなく、且つ排気圧によりシールリングが環状溝から外れる不具合のないEGRバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段は、環状溝の内部に封入配置された高分子配合素性材(EGRガスから受熱しても長期に亘り軟性を維持する材料)によって、デポジットが環状溝に入らなくなるため、デポジットがシールリングを内径方向へ押し込んで、デポジットがシールリングを縮径状態のまま固着させる不具合が生じない。
また、環状溝の内部に封入配置された高分子配合素性材によって、排気圧や吸気圧がシールリングの内側の空間(径方向隙間)に入らなくなるため、排気圧や吸気圧による拡径力(シールリングを拡径させる力)が発生せず、シールリングが環状溝の外部へ飛び出す不具合が生じない。
【0018】
なお、排気圧や吸気圧によるシールリングの飛び出しを防ぐことができるため、シールリングのバネ定数を下げることが可能になり、シールリングを細く設けることができ、弁体を薄く設けることが可能になる。これにより、全開時におけるEGR流路の通気抵抗を小さくでき、EGRバルブの小型化が可能になる。
【0019】
〔請求項2の手段〕
請求項2の高分子配合素性材は、ゼリー状ないしゲル状素材である。
高分子配合素性材に、ゼリー状ないしゲル状素材を用いることで、高分子配合素性材が非常に柔らかく、小さい荷重や圧力によって高分子配合素性材が容易に変形するので、シールリングのバネ定数および張力に高分子配合素性材が影響を与えない。
即ち、高分子配合素性材がシールリングのバネ定数および張力に影響を与えないため、シールリングのシール性能に影響が生じない。
【0020】
〔請求項3の手段〕
請求項3のゼリー状ないしゲル状素材は、架橋密度が低く(無架橋のゲル素材を含む)、粘着性でかつ接着性に優れた素材である。
架橋密度が低く、粘着性でかつ接着性に優れたゼリー状ないしゲル状素材を環状溝の内部に封入配置することによって、デポジットが環状溝に入らなくなるため、デポジットがシールリングを内径方向へ押し込んで、デポジットがシールリングを縮径状態のまま固着させる不具合が発生しない。
また、架橋密度が低く、粘着性でかつ接着性に優れたゼリー状ないしゲル状素材を環状溝の内部に封入配置することによって、排気圧や吸気圧がシールリングの内側の空間(径方向隙間)に入らなくなるため、排気圧や吸気圧によってシールリングが環状溝の外部へ飛び出す不具合が発生しない。
【0021】
〔請求項4の手段〕
請求項4の手段は、環状溝内に封入配置されたゼリー状ないしゲル状素材よりなる高分子配合素性材の表面に、撥油性(油分を弾く性質)のコーティング(例えば、シリコンパウダー等によるコーディング)が施されるものである。
これにより、粘着性や接着性によってデポジットが高分子配合素性材に付着堆積する不具合を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】シールリングの組付部位における作動説明図である(実施例)。
【図2】シールリングの組付部位における作動説明図である(実施例)。
【図3】EGRバルブの断面図である(実施例)。
【図4】シールリングにおける合口の説明図である(実施例)。
【図5】シールリングの組付部位における作動説明図である(問題点1)。
【図6】シールリングの組付部位における作動説明図である(問題点2)。
【図7】開弁時におけるシールリングの支持箇所の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
EGRバルブ1は、
・エンジンの排気通路から吸気通路へ排気ガスの一部であるEGRガスを戻すEGR流路2が形成されるハウジング3と、
・EGR流路2に固定されたノズル4内を開閉可能な弁体5と、
・この弁体5の外周縁に形成された環状溝6の内部に嵌め入れられ、弁体5がノズル4(EGR流路2)を閉塞する際に弁体5の周囲の隙間を塞ぐもので、周方向の1箇所に合口7が設けられるシールリング8と、
・環状溝6とシールリング8との全周に亘る隙間に封入配置され、EGRガスから受熱しても長期に亘り軟性を維持するゼリー状ないしゲル状素材(例えば、架橋密度が低く、粘着性でかつ接着性に優れた素材)の高分子配合素性材9と、
を具備する。
なお、高分子配合素性材9に「粘着性でかつ接着性を有する素材」を用いる場合、高分子配合素性材9の表面に、撥油性のコーティング10(例えば、シリコンパウダー等)を施し、粘着性や接着性によってデポジットXが高分子配合素性材9に付着堆積する不具合を回避するものである。
【実施例】
【0024】
以下において本発明が適用された具体的な一例(実施例)を、図1〜図4を参照して説明する。実施例は、具体的な一例を開示するものであって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。なお、以下の実施例において、上記[発明を実施するための形態]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
【0025】
(実施例の具体的な構成)
EGR装置は、エンジンの排出した排気ガスの一部をEGRガスとしてエンジンの吸気側に戻すことで、吸気の一部に不燃ガスであるEGRガスを混入させる周知の技術である。
EGR装置は、排気通路を流れる排気ガスの一部を吸気通路へ戻すEGR流路2と、このEGR流路2の開閉および開度調整を行なうEGRバルブ1とを少なくとも備え、このEGRバルブ1の開度が車両の走行状態に応じてECUによって制御される。
【0026】
EGRバルブ1は、吸気通路におけるスロットルバルブの吸気下流側へEGRガスを戻す高圧EGR装置に搭載される高圧EGRバルブであっても良いし、吸気通路におけるスロットルバルブの吸気上流側(例えばターボチャージャ搭載車両であればコンプレッサの吸気上流側)へEGRガスを戻す低圧EGR装置に搭載される低圧EGRバルブであっても良い。
【0027】
EGRバルブ1の具体的な一例を、図3を参照して説明する。
なお、以下では、図3の図示上側を上、図示下側を下と称して説明するが、この上下は実施例の説明のための方向であり、限定されるものではない。
EGRバルブ1は、
・内部にEGR流路2の一部を形成するハウジング3と、
・このEGR流路2中に配置される弁体5と、
・ハウジング3に対して弁体5を回転可能に支持するシャフト11と、
・シャフト11に開弁方向の駆動力を与える電動アクチュエータ12と、
を具備する。
【0028】
ハウジング3は、アルミニウム製であり、ハウジング3の内部にはEGR流路2の一部が形成されている。
ハウジング3におけるEGR流路2の内壁には、耐熱性、耐腐食性に優れた部材(例えば、ステンレスなど)よりなる円筒形状を呈したノズル4が圧入等により固定配置されている。このノズル4の内部(円筒形の穴の内壁)は、EGR流路2の一部を成すものである。
【0029】
弁体5は、ノズル4の内部に配置され、ノズル4の内部の開度制御を行なうことで、EGR流路2の開度調整を行い、吸気通路へ戻されるEGRガス量の調整を行なうものである。
この弁体5は、略円盤形状を呈し、耐熱性、耐腐食性に優れた部材(例えば、ステンレスなど)によって設けられる。
また、弁体5は、シャフト11の下端に溶接等の結合技術によって固定されて、シャフト11によって片持ち支持されるものである。なお、弁体5は、シャフト11に片持ち支持されるものに限定されるものではない。
【0030】
弁体5の外周縁には、全閉時において弁体5とノズル4の内周壁の隙間を閉塞するシールリング8が設けられている。
シールリング8は、弁体5の外周縁に全周に亘って形成された環状溝6に嵌め入れられている。このシールリング8は、ステンレス等の金属材料によって形成された断面が四角形状の線材を円環状に設けたものであり、周方向の1箇所に、線膨張の差分を吸収するための合口7(周方向の分離部)が設けられている。
なお、シールリング8は、金属材料に限定されるものではなく、耐熱性、耐油性、耐摩耗性に優れた材料によって設けても良い。
【0031】
合口7は、図3に示すように、シールリング8の自由長において、合口7における周方向の隙間距離が、少量離間するように設けられており、シールリング8の外周縁がノズル4の内壁に押し付けられて組付けられる。これにより、弁体5、ノズル4およびシールリング8に膨張変化が生じても、全閉時においてシールリング8の外周縁が常にノズル4の内壁に接する状態に保たれる。
【0032】
ここで、シールリング8の内周面と、環状溝6の底との間には、シールリング8の径方向の変化を吸収する径方向隙間αが存在する。
また、シールリング8のリング平面と、環状溝6の溝側面との間には、シールリング8の組付を可能にする板厚方向隙間βが存在する。
【0033】
そして、この実施例では、図1(a)および図2(a)に示すように、環状溝6とシールリング8との全周に亘る隙間(径方向隙間αと板厚方向隙間β)に、EGRガスから受熱しても長期に亘り軟性を維持する高分子配合素性材9が封入配置されている。
この高分子配合素性材9は、非常に柔らかく、小さい荷重や圧力によって容易に変形するゼリー状ないしゲル状素材であり、且つ、粘着性と接着性を有して排気圧qを受けても環状溝6の外部へ流れ出さない素材で設けられている。
【0034】
高分子配合素性材9の具体的な一例を開示すると、この実施例では、高分子配合素性材9としてシリコンゲルを用いている。シリコンゲルは、シリコン特有の性質と、低架橋密度(鎖状高分子の相互間を化学的に結合させた網目構造の密度が低い)から生じる特性を併せ持つ素材である。
このシリコンゲルの特徴を具体的に説明すると、シリコンゲルは、
・粘着性、密着性に優れ、長期に亘りシール性、耐湿性を有し、
・柔らかく、小さい荷重や圧力により容易に変形する特性を有し、
・低弾性率を有し、熱膨張などによる応力を緩和し、
・振動吸収性に優れ、
・耐熱性(例えば、EGRクーラで冷却されたEGRガス温度より高い温度に対する耐熱性)に優れ、
・耐寒性に優れ、
・反応副生成物がなく、腐食性がないものである。
【0035】
一方、上述した特性を有するシリコンゲルを高分子配合素性材9を環状溝6に封入配置することで、シリコンゲルが有する粘着性や接着性によってデポジットXが高分子配合素性材9の表面に付着堆積する懸念がある。
そこで、この実施例では、環状溝6内に封入配置された高分子配合素性材9の表面に、撥油性のコーティング10の一例として、シリコンパウダーをコーティングしたものであり、高分子配合素性材9の表面にデポジットXが付着堆積するのを防ぐように設けられている。
具体的には、環状溝6の底の全周にゲル状の高分子配合素性材9を入れ、次に高分子配合素性材9が配された環状溝6にシールリング8を組付け、その後にシリコンパウダーを塗布して高分子配合素性材9の表面に撥油性のコーティング10を形成するものである。
【0036】
シャフト11は、EGR流路2の内部とハウジング3の上部とを貫通した穴(シャフトの組付穴)の内部において軸受13を介して回転自在に支持される。このシャフト11は、耐熱性、耐腐食性に優れた部材(例えば、ステンレスなど)よりなる略円柱棒状体であり、弁体5はシャフト11の軸線に対して傾斜配置される。なお、弁体5がシャフト11の軸線に対して平行配置されるものであっても良い。
【0037】
この実施例におけるシャフト11は、弁体5を片持ち支持するものであるため、シャフト11の傾斜を極力抑える目的で、軸方向に離れた2つの軸受13(例えば、メタルブッシュとボールベアリング)を用いて回転自在に支持される。
ハウジング3の内部には、昇温を抑える冷却水循環路14が設けられている。この冷却水循環路14は、エンジンの冷却水(例えば、80℃程の温水)の一部が循環供給されるものであり、シャフト11の周囲(具体的には、EGR流路2に近い側の軸受13の周囲)を囲むようにハウジング3に形成されている。
【0038】
また、シャフト11とハウジング3との間には、EGRガスが電動アクチュエータ12の内部(ギヤやモータ等が収容される空間)へ漏れるのを防ぐシール部材15(例えば、断面L字形のリップシールなど)が配置される。なお、図1では、独立したシール部材15を配置しているが、シール機能を有する軸受13を用いることで、独立したシール部材15を廃止しても良い。
【0039】
電動アクチュエータ12は、ハウジング3の上部に固定されて、シャフト11を回動駆動するものであり、
・通電により回転動力を発生する電動モータ(例えば、通電量に応じた回転トルクを発生する周知の直流モータ)と、
・この電動モータの回転トルクを増幅してシャフト11に伝達する減速装置16(例えば、複数のギヤを組み合わせた歯車式減速機)と、
・弁体5を全閉側へ戻す力をシャフト11に付与するリターンスプリング17と、
・シャフト11の開度から弁体5の開度を検出する回転角センサ18(例えば、シャフト11の角度を非接触で検出する磁気回転角センサ)と、
を備える。
【0040】
そして、電動モータがECUによって通電制御されることで、シャフト11を介して弁体5の開度制御が行なわれ、エンジンに戻されるEGRガス量の調整が行なわれる。
具体的にECUは、マイクロコンピュータを搭載した周知の電子制御装置であり、回転角センサ18によって検出される実際の弁体5(シャフト11)の開度が、車両走行状態に応じて算出された目標開度となるように、ECUが電動モータを通電制御するものである。
【0041】
(実施例の作動効果1)
実施例の効果1を、図1を参照して説明する。
この実施例のEGRバルブ1は、上述したように、環状溝6とシールリング8との全周に亘る隙間に高分子配合素性材9が封入配置されている{図1(a)参照}。
EGRバルブ1の使用に伴い、図1(b)に示すように、弁体5周囲にデポジットXが堆積する可能性がある。この状態であっても、環状溝6の内部に高分子配合素性材9が封入配置されているため、弁体5周囲に堆積したデポジットXがシールリング8を内径方向に押し込むことがない。
この状態で熱履歴を受けるなどしてデポジットXが固まる可能性がある。
【0042】
弁体5の周囲でデポジットXが固着した状態{図1(b)に示す状態}において、電動アクチュエータ12が作動し、電動アクチュエータ12の出力がデポジットXの固着力を上回るトルクで弁体5を駆動すると、弁体5の周囲のデポジットXが脱落して、弁体5は正常に開閉動作する。
この時、シールリング8は内径側へ押し込まれていないため、弁体5が全閉位置へ戻された際に、図1(c)に示すように、シールリング8の外周縁がノズル4の内壁に全周に亘って当接し、シールリング8の周囲からEGRガスが漏れる不具合が生じない。
【0043】
このように、この実施例のEGRバルブ1は、デポジットXによってシールリング8が内径方向に押し込まれて固着する不具合が発生せず、長期に亘って全閉時にEGRガスの漏れの発生を抑えることができる。即ち、EGRガスの漏れによって、エンジンの出力低下を招いたり、排気ガスのエミッションの悪化を招く不具合がなく、EGRバルブ1の信頼性を高めることができる。
【0044】
(実施例の作動効果2)
実施例の効果2を、図2を参照して説明する。
この実施例のEGRバルブ1は、上述したように、環状溝6とシールリング8との全周に亘る隙間に高分子配合素性材9が封入配置されている{図2(a)参照}。
環状溝6に嵌め入れられたシールリング8は、図2(a)に示すように、吸気側からの吸気圧jと、排気側からの排気圧qとを受ける。
【0045】
しかるに、環状溝6には、高分子配合素性材9が封入されている。即ち、径方向隙間αには、高分子配合素性材9が封入されている。このため、排気圧qは径方向隙間αに流入することがなく、排気圧qがシールリング8に拡径力を与えない。
このように、排気圧qがシールリング8に拡径力を与えないため、図2(b)に示すように、弁体5が開弁しても、排気圧qによってシールリング8が環状溝6の外部へ飛び出す不具合が生じない。
これにより、EGRバルブ1の信頼性を高めることができる。
【0046】
また、エンジンの高出力化等により排気圧qが高まったとしても、排気圧qがシールリング8に拡径力を与えないため、シールリング8のバネ定数を大きく設ける必要がなく、既存のバネ定数と同じシールリング8を採用するか、既存のバネ定数より小さいシールリング8を採用することが可能になる。
そして、シールリング8のバネ定数を下げることで、シールリング8を細く設けることができ、弁体5を薄く設けることが可能になる。その結果、全開時におけるEGR流路2の通気抵抗を小さくでき、EGRバルブ1を小型化することが可能になる。
【符号の説明】
【0047】
1 EGRバルブ
2 EGR流路
3 ハウジング
4 ノズル
5 弁体
6 環状溝
7 合口
8 シールリング
9 高分子配合素性材
10 撥油性のコーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路から吸気通路へ排気ガスの一部であるEGRガスを戻すEGR流路(2)が形成されるハウジング(3)と、
前記EGR流路(2)の開閉および開度調整を行なう弁体(5)と、
この弁体(5)の外周縁に形成された環状溝(6)の内部に嵌め入れられ、前記弁体(5)が前記EGR流路(2)を閉塞する際に前記弁体(5)の周囲の隙間を塞ぐもので、周方向の1箇所に合口(7)が設けられるシールリング(8)と、
前記環状溝(6)と前記シールリング(8)との全周に亘る隙間に封入配置され、EGRガスから受熱しても長期に亘り軟性を維持する高分子配合素性材(9)と、
を具備するEGRバルブ。
【請求項2】
請求項1に記載のEGRバルブ(1)において、
前記高分子配合素性材(9)は、小さい荷重や圧力によって容易に変形するゼリー状ないしゲル状素材であることを特徴とするEGRバルブ。
【請求項3】
請求項2に記載のEGRバルブ(1)において、
前記ゼリー状ないしゲル状素材は、架橋密度が低く、粘着性でかつ接着性に優れた素材であることを特徴とするEGRバルブ。
【請求項4】
請求項3に記載のEGRバルブ(1)において、
前記環状溝(6)と前記シールリング(8)との全周に亘る隙間に封入配置された前記高分子配合素性材(9)の表面には、撥油性のコーティング(10)が施されていることを特徴とするEGRバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−117470(P2012−117470A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269207(P2010−269207)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】