説明

EL発光層形成用スパッタリングターゲットとその製造方法

【課題】Oの含有量が十分に低く、かつ、高密度であるEL発光層形成用スパッタリングターゲットと、その製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも2価金属と、3価金属と、発光中心金属とからなる金属原料を溶解して合金を得る合金化工程と、得られた合金を粉砕して合金粉末を得る粉砕工程と、得られた合金粉末を用いて成形物を得る成形工程と、得られた成形物を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを主要工程として含むものであり、合金化工程を真空中もしくは不活性雰囲気中で行い、かつ、合金化工程において前記金属原料の溶解に際して、水冷銅製坩堝を用いることにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界発光(Electro Luminescence、以下、「EL」と記す。)素子に用いられる電界発光層(以下、「EL発光層」と記す。)を形成するためのスパッタリングターゲット(以下、特別な記載がない限り、「ターゲット」と記す)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機EL素子のEL発光層に用いられる青色発光用の蛍光体としては、母材と発光中心金属として、CaGa24:Ce、BaAl24:Euなど(特許文献1)のチオガレート系またはチオアルミネート系などの硫化物材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これらをはじめとする蛍光体材料を用いてEL素子のEL発光層を形成するには、通常、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法が用いられる。スパッタリング法は、電子ビーム蒸着法と比較して生産効率が高く、安定性および再現性がよい。このため、EL発光層の量産性という観点から好ましい。
【0004】
このスパッタリング法は、原則として、蛍光体と同じ組成を有する焼結体であるターゲットの表面に、プラズマ状態にしたイオンを叩きつけることにより、そのターゲット表面から分子あるいは原子を飛び出させて、基板上に堆積させて蛍光体薄膜を形成する方法である。
【0005】
従来、EL発光層形成用のターゲットの母材には、金属硫化物が用いられている。具体的には、母材として、2価の硫化物と、3価の硫化物と、発光中心金属の硫化物とを混合してターゲットを得ている。しかしながら、母材として金属硫化物を用いて得たターゲットを用いて、スパッタリング法によりEL発光層を形成すると、得られるEL発光層中に含有されるS(硫黄)の割合が、ターゲット中のSの割合に比べて少なくなり、EL発光層の組成がターゲットの組成と異なる結果となってしまう。すなわち、従来のターゲットは、母材として用いられている金属硫化物は、主にターゲット製造時において、雰囲気中のH2Oと反応して、金属酸化物となりやすく、結果的にターゲット中にO(酸素)が取り込まれやすいという問題がある。
【0006】
一方、金属硫化物の硫黄は、前記の反応でH2Sとなり易く、生成したH2Sはターゲットより揮発してしまうという問題がある。
【0007】
したがって、所望のEL発光層の組成と同じ組成のターゲットを用いてスパッタリング法によりEL発光層を形成すると、所望の膜組成とはならず、Sの割合の乏しいもの、即ちSの不足したものしか得られない。このSの不足は、EL素子の輝度寿命(発光寿命)あるいは発光輝度等の各種発光特性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0008】
このS不足を解消するために、例えば、非特許文献1では、H2Sガス共存下でスパッタリングを導入する方法や、母材としての前記金属硫化物にZnSを添加することによりEL発光層中の硫黄を補填する方法が提案されている。
【0009】
また、母材として2価金属の硫化物と、3価金属(非硫化物)と、発光中心金属の硫化物とZnSとを混合してターゲットを得て、このターゲットを用いてEL発光層を得る方法が提案されている(特許文献2)。
【0010】
しかしながら、前記した2価金属の硫化物と、3価金属と、発光中心金属の硫化物とを用い、これらを混合し、また、これらに加えてZnSを混合してターゲットを得たとしても、前記硫化物の酸化は防止できず、その結果、十分な焼結密度を有するターゲットは得られないという問題がある。例えば、特許文献2の実施例1のターゲットには、Oが1.57質量%含まれている。
【0011】
さらに、硫化物ターゲットを使用せずに、合金ターゲットを用い、H2S雰囲気中で反応性スパッタによりEL膜を製造する方法が提案されている(特許文献3)。
【0012】
しかしながら、硫化物を用いずに、原料として2価金属、3価金属および発光中心金属を用いて合金ターゲットを作製する場合でも、合金化工程の溶解時に、酸化物系の坩堝を使用した場合、得られた合金鋳塊には酸素が多く含まれ、十分な焼結密度は得られないという問題がある。
【特許文献1】特開平8−134440号公報
【特許文献2】特開2005−63813号公報
【特許文献3】WO2005/085493
【非特許文献1】SID 94 DIGEST p129
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来の製造方法により得られるスパッタリングターゲットに比べて、Oの含有量が十分に低く、かつ、高密度であるスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。また、このような優れた高密度であるスパッタリングターゲットの製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るEL発光層形成用スパッタリングターゲットは、EL素子を構成するEL発光層の形成に用いられるスパッタリングターゲットであり、少なくとも2価金属と、3価金属と、発光中心金属とを含み、かつ、Oの含有割合が1質量%以下であることを特徴とする。
【0015】
前記2価金属が、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種であり、前記3価金属が、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
前記発光中心金属が、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Lu、Sm、Eu、Pm、DyもしくはYbから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
前記2価金属がBaであり、前記3価金属がAlであり、前記発光中心金属がEuであることが特に好ましい。
【0018】
これらのターゲットの相対密度が95%以上であることが好ましい。
【0019】
本発明に係るEL素子を構成するEL発光層の形成に用いられるスパッタリングターゲットは、以下の方法により製造される。すなわち、本発明に係るEL発光層形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、少なくとも2価金属と、3価金属と、発光中心金属とからなる金属原料を溶解して合金を得る合金化工程と、得られた合金を粉砕して合金粉を得る粉砕工程と、得られた合金粉を用いて成形物を得る成形工程と、得られた成形物を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを主要工程として含むものであり、合金化工程を真空中もしくは不活性雰囲気中で行い、かつ、合金化工程において、前記金属原料に溶解に水冷銅製坩堝を用いることを特徴とする。
【0020】
前記合金化工程において、真空中で水冷銅製坩堝中の前記金属原料を加熱し脱ガスを行い、その後不活性雰囲気中で前記合金原料を溶解して合金化することが好ましい。
【0021】
前記粉砕工程で得られる合金粉末の平均粒径を10〜500μmとすることが好ましい。
【0022】
前記焼結工程、あるいは、前記成形工程と前記焼結工程とを非酸化性雰囲気中で行うことを特徴とするが好ましい。
【0023】
具体的には、前記成形工程と前記焼結工程とを同時に行うことを特徴とするが好ましい。
【0024】
具体的には、成形用型枠としてカーボン製の型枠を用いた熱間プレス法を用い、5〜60MPaの圧力、温度500〜900℃、焼成時間10〜300分間として前記成形工程と前記焼結工程とを同時に行う。
【0025】
または、熱間静水圧プレス法を用い、5〜200MPaの圧力、温度500〜900℃、焼成時間10〜300分間として前記成形工程と前記焼結工程とを同時に行う。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、Oの含有量が十分に低く、ターゲットの高密度化を達成することができ、機械的強度も著しく高く、取り扱いやスパッタリングに際して、極めて安定なEL発光層形成用スパッタリングターゲットを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係るEL発光層形成用スパッタリングターゲットは、EL素子を構成するEL発光層の形成に用いられるスパッタリングターゲットであり、少なくとも2価金属と、3価金属と、発光中心金属とを含み、かつ、Oの含有割合が1質量%以下であることを特徴とする。
【0028】
(ターゲット中のOの含有量)
ターゲット中にOが多く含有されていると、その焼結密度は小さくなってしまうため、成形体としての強度が弱くなり、ハンドリング時に割れや欠けの欠陥が生じる可能性が大きくなってしまう。このため、本発明のターゲットでは、ターゲット中のOの含有割合を1質量%以下とする。
【0029】
(母材と発光中心金属)
本発明において、「2価金属」、および、「3価金属」は、次のように定義される。すなわち、EL発光層が2価金属、3価金属、SおよびOから構成され、かつ、EL発光層が完全なイオン結晶であると仮定した場合に、標準状態において当該イオン結晶中で2価の陽イオンとして化学的に安定に存在しうる金属のことを「2価金属」といい、具体的には、Mg、Ca、Sr、Baがあげられ、また、標準状態において当該イオン結晶中で3価の陽イオンとして化学的に安定に存在しうる金属のことを「3価金属」といい、具体的には、Al、Ga、Inがあげられる。
【0030】
高い色純度および発光輝度のEL素子を得る観点から、2価金属としては、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の金属とすることが好ましい。また、色純度の高い青色の発光を得る観点からは、Baとすることが望ましい。
【0031】
3価金属としては、高い色純度および発光輝度のEL素子を得る観点から、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも1種の金属とすることが好ましい。色純度の高い青色の発光を得る観点からは、Alとすることが望ましい。
【0032】
一方、発光中心金属としては、無機EL素子のEL発光層に含有されて発光中心として機能する金属種であれば特に限定はされないが、発光効率などの観点から、希土類元素に属する金属であると好ましい。該希土類元素に属する金属としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Lu、Sm、Eu、Pm、DyもしくはYbなどが挙げられる。
【0033】
発光輝度および色純度の高い青色発光を得る観点からは、2価金属としてBa、3価金属としてAl、発光中心金属としてEuを組み合わせて用いることが好ましい。
【0034】
(相対密度、形状等)
本発明によるターゲットの相対密度を95%以上とすることが好ましい。これにより、高い強度と安定性を有する好適なターゲットとなる。また、ハンドリング時ないし発光体成膜時における強度の向上とともに、雰囲気との反応による酸化の抑制にも有効である。
【0035】
ターゲットの形状としては、一般的な板状でよいが、より大面積の基板にEL発光層をスパッタリング法で設ける際には、複数の板状ターゲットを組み合わせて用いることができる。
【0036】
(ターゲットの製造方法)
次に本発明のターゲットの製造方法について説明する。
【0037】
本発明のEL発光層製造用ターゲットを作成するに際し、少なくとも、2価金属と、3価金属と、発光中心金属とを溶解して合金を得る合金化工程と、得られた合金を粉砕して粉末とする粉砕工程と、得られた合金粉末を用いて成形物を得る成形工程と、得られた成形物を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを主要工程として含むものである。得られた焼結体は、そのまま、あるいは必要に応じて外形加工してバッキングプレート等に貼り付けられて本発明のターゲットとなる。なお、前記合金粉末に関して、本発明の合金化工程、あるいは合金化工程と粉砕工程を経由せずに、別途同様の合金や合金粉末を入手できるのであれば、入手した合金や合金粉を用いて粉砕し、成形し、焼結、あるいは成形し、焼結させることができる。
【0038】
(合金化工程)
本発明の合金化工程では、水冷銅坩堝を用いたコールドクルーシブル溶解を行うことに特徴がある。これにより、単に母材を発光中心金属と混合するのと異なって、母材と発光中心金属とを溶解する際に、活性な金属を含む溶体と坩堝との間で発生する浸食反応を防止すると共に、坩堝の溶損による不純物の合金への混入を防止することができる。コールドクルーシブル溶解では、水冷銅坩堝の溶体接触面に固化層(スカル)が生じ、このスカルが坩堝の溶体による浸食反応を防ぐ。このため、高純度を保ったまま、母材の合金化が可能となる。
【0039】
溶解方法としては、通常の真空溶解や不活性雰囲気中での溶解を適用することができるが、酸素や水分を効率的に除去するためには、真空中で加熱し、その後、炉内にArなどの不活性ガスを導入し、不活性雰囲気中で溶解して合金化を完全に行う方法が、母材、発光中心金属等の揮発蒸散を防止できることから好ましい。合金化の終了後は、水冷銅坩堝内で凝固させても、鋳型に流し込んでもよい。
【0040】
また、合金化後、不活性ガスによるアトマイズ法を用いて、直接合金粉末を得ても構わない。
【0041】
本発明において、合金化工程を設けるのは、本発明の母材として用いる2価金属は極めて活性で、そのままで粉砕とすると非常に酸化しやすいが、予め合金化すれば粉砕時の酸化反応を抑制することができ、合金粉末へのOの増加を抑制することができるからである。すなわち、粉砕により生じた新鮮な金属面は、酸化しやすく、少量のOの含有量の増加は防止できないが、粒子表面に比較的安定な酸化皮膜を形成するので、酸化を最小限に抑制することができるからである。
【0042】
(粉砕工程)
本発明では、このようにして得られた合金を粉砕して合金粉末を得ている。合金粉末を得る装置としては、一般的な粉砕装置を適用することができる。例えば、スタンプミル、クラッシャーなどの既存の粉砕装置である。ただし、合金の酸化を防止するためには、粉砕を不活性ガス気流中などで行うことが望ましいので、雰囲気調整できる粉砕設備中で使用することが好ましい。
【0043】
合金粉末の粒径は、取り扱い上、10〜500μmとすることが好ましいが、より高密度のターゲットを得るという視点から、50〜200μmとするのが好ましい。微細な粉末にすると、焼結性が向上し、得られるターゲットの密度が上昇するが、酸素の含有量が増えるほか、成形時に粉末が装置に入り込むなどの支障が発生しやすい。しかし、500μmを超えると、粉末の酸素の量を抑制することはできるが、焼結性が低下し、高密度のターゲットが得られにくくなる。
【0044】
(成形工程、焼結工程)
粉砕して得られた合金粉末は、所望の形状に成形され、焼結され、外形加工されてターゲットになる。このために用いる成形方法や焼結方法は、ターゲットを得るための通常の方法であれば、特に限定されない。
【0045】
成形工程と焼結工程とをそれぞれ別個に行ってもよいが、成形工程と焼結工程とを同時に加圧下で行うことが簡便であり、好ましい。その方法としては、例えば、熱間プレス法または熱間静水圧プレス法を適用することである。これらの中では、特に、熱間静水圧プレス法が好ましい。
【0046】
なお、成形時や焼結時の具体的な条件、例えば、圧力下限、温度条件および焼成時間等は、用いる装置や粉体の粒径、母材を構成する金属種により異なるため、一義的に限定できないので、緻密な焼結体が得られるように適宜調整するか、予め求めておくことが好ましい。
【0047】
例えば、熱間プレス法による場合、成形時の加圧力に特に上限を設けないが、成形用型枠として一般的なカーボン製の型枠を用いる場合には、通常、60MPa以下とすることが好ましい。また、熱間静水圧プレス法による場合には、加圧力を200MPa以下とすることが好ましい。
【0048】
熱間プレス法や熱間静水圧プレス法を用いる場合には、通常、圧力を5MPa以上とし、温度は500〜900℃、焼成時間は10〜300分とすることが好ましい。圧力が5MPaよりも低く、あるいは温度が500℃よりも低く、あるいは焼成時間が10分よりも短いと、緻密な焼結体が得られにくい傾向となる。
【0049】
また、温度が900℃よりも高いと、融液相が出現する傾向となる。熱間プレス法において、融液相が出現すると、カーボン型の隙間から漏れ出し、カーボン型の隙間の外で固着してしまうため、焼結することができなくなる。一方、焼成時間が300分間よりも長いと、ターゲット中の酸素の含有量が多くなりすぎる傾向となる。
【0050】
さらに、焼結時、あるいは、成形および焼結時の雰囲気は、その際の焼結体の過剰な酸化を防ぐため、好ましくは焼結体中の酸素を積極的に減少させるため、非酸化性であることが好ましい。非酸化性雰囲気としては、真空、希ガスやN2等の不活性ガスなど、いずれの雰囲気であってもよい。
【0051】
上記の本発明の製造方法によれば、得られる焼結体は、O含有量の少ない合金粉末を原料として用いているので、非常に緻密で安定した焼結体となりやすく、容易に相対密度が95%以上の高密度化を達成することができる。さらに、個々の成分の粉末を混合する従来の方法と異なり、溶解により合金化するため、得られる焼結体の組成の均一性が極めて高く、焼結体の酸化も最小限にすることができる。
【0052】
なお、別の実施形態において、粉末を成形した後に焼結を行う通常の方法を用いてもよい。具体的には、静水圧プレス法により、10MPaの圧力で、5分間加圧し、成形した後、得られた成形物を、温度500〜900℃、焼成時間30〜120分の条件で焼結させればよい。
【0053】
本発明のターゲットを用いて、H2S雰囲気中でスパッタリング法により、硫化物蛍光体からなるEL発光層を形成することができる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
Al(住友化学株式会社製)、Ba(株式会社高純度化学製)、Eu(フルウチ化学株式会社製)のいずれも純度が99%以上の金属原料を、Ba:67.5質量%、Al:29.2質量%、Eu:3.3質量%の割合で、全量で1kgとなるようにした。それぞれを水冷銅坩堝が装着された高周波誘導加熱炉(神鋼電機株式会社製)の中に入れ、溶解した。溶解に先立ち、拡散ポンプを用いて炉内を5×10-2Paまで真空引きし、予備加熱を行った後、炉内に高純度のArガス(純度:6N)を導入した。溶解後、5分間、炉内に保持して溶体の合金化を行った。その後、坩堝内で放冷して溶体を凝固した。
【0055】
得られた合金をArガス中でスタンプミル(日陶科学株式会社製、型式ANS143L)を用いて粉砕し、分級し、粉末を回収した。平均粒度範囲は、10〜150μmを示した。結果を表1に示す。
【0056】
得られた粉末を、真空ホットプレス装置(最高温度2300℃、最大荷重10tF、大亜真空株式会社製)を用いて、Ar雰囲気下で、圧力:5MPa、温度:900℃、保持時間:40minの条件で熱間プレスを行った。その結果、直径60mmの円板状ターゲットが得られた。条件を表2に示す。
【0057】
得られたターゲット中の各成分の組成を酸素以外は、ICP質量分析法を用いて分析し、酸素は、酸素・窒素分析装置(LECO社製、TC600)を用いて分析した。得られた分析値は、Al:29.3質量%、Ba:Bal.、Eu:3.3質量%、O:0.71質量%を示した。また、比重計(株式会社東洋精機製作所製、DENSIMETER-H)を用い、鉱物油中で密度を測定した。得られた密度は、3.76g/cm3を示した。結果を表1に併せて示す。
【0058】
(実施例2)
金属原料を、Al:36.3質量%、Ba:60.4質量%、Eu:3.3質量%の割合にした以外、実施例1と同様して、合金化を行った。
【0059】
同様に、得られた合金をArガス中でスタンプミルを用いて粉砕し、分級し、粉末を回収した。平均粒度範囲は、20〜212μmを示した。結果を表1に示す。
【0060】
実施例1と同様の装置を用いて、熱間プレスをAr雰囲気下で、圧力:15MPa、温度:850℃、保持時間:60minの条件で行い、ターゲットを得た。条件を表2に示す。
【0061】
得られたターゲット中の各成分の組成の分析および密度の測定を実施例1と同様に行った。得られた分析値は、Al:36.4質量%、Ba:Bal.、Eu:3.3質量%、O:0.65質量%を示した。得られた密度は、3.60g/cm3を示した。結果を表1に併せて示す。
【0062】
(実施例3)
金属原料を、Al:38.5質量%、Ba:58.2質量%、Eu:3.3質量%の割合にした以外、実施例1と同様して、合金化を行った。
【0063】
同様に、得られた合金をArガス中でスタンプミルを用いて粉砕し、分級し、粉末を回収した。平均粒度範囲は、150〜300μmを示した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例1と同様の装置を用いて、熱間プレスをAr雰囲気下で、圧力:25MPa、温度:700℃、保持時間:80minの条件で行い、ターゲットを得た。条件を表2に示す。
【0065】
得られたターゲット中の各成分の組成の分析および密度の測定を実施例1と同様に行った。得られた分析値は、Al:38.7質量%、Ba:Bal.、Eu:3.3質量%、O:0.76質量%を示した。得られた密度は、3.46g/cm3を示した。結果を表1に併せて示す。
【0066】
(実施例4)
金属材料は、Al:40.4質量%、Ba:56.3質量%、Eu:3.3質量%の割合にした以外、実施例1と同様にして、合金化を行った。
【0067】
同様に、得られた合金をArガス中でスタンプミルを用いて粉砕し、分級し、粉末を回収した。平均粒度範囲は、212〜315μmを示した。結果を表1に示す。
【0068】
実施例1と同様の装置を用いて、熱間プレスをAr雰囲気下で、圧力:40MPa、温度:600℃、保持時間:100minの条件で行い、ターゲットを得た。条件を表2に示す。
【0069】
得られたターゲット中の各成分の組成の分析および密度の測定を実施例1と同様に行った。得られた分析値は、Al:41.8質量%、Ba:Bal.、Eu:3.3質量%、O:0.58質量%を示した。得られた密度は、3.42g/cm3を示した。結果を表1に併せて示す。
【0070】
(実施例5)
金属原料を、Al:41.8質量%、Ba:54.9質量%、Eu:3.3質量%の割合にした以外、実施例1と同様して合金化を行った。
【0071】
同様に、得られた合金をArガス中でスタンプミルを用いて粉砕し、分級し、粉末を回収した。平均粒度範囲は、355〜500μmを示した。結果を表1に示した。
【0072】
実施例1と同様の装置を用いて、熱間プレスをAr雰囲気下で、圧力:60MPa、温度:550℃、保持時間:200minの条件で行い、ターゲットを得た。条件を表2に示す。
【0073】
得られたターゲット中の各成分の組成の分析を実施例1と同様に行った。得られた分析値は、Al:42.0質量%、Ba:Bal.、Eu:3.3質量%、O:0.92質量%を示した。得られた密度は、3.35g/cm3を示した。結果を表1に併せて示す。
【表1】

【0074】
実施例1〜5の結果から、酸素の含有量は、0.58〜0.92質量%と従来技術の1.5%に比べて、著しく低いことが分かる。
【表2】

【0075】
(実施例6)
ターゲット作製時に、熱間静水圧プレス法を用いた以外は、実施例1と同様に、ターゲットを作製した。熱間静水圧プレスの条件は、圧力:100MPa、温度:800℃、保持時間:30minの条件とした。得られたターゲットは、酸素量:0.69重量%、密度:3.81g/cm3を示した。結果を表3に併せて示す。
【0076】
(実施例7)
ターゲット作製時に、実施例6と同様に、熱間静水圧プレス法を用いた以外は、実施例5と同様に、ターゲットを作製した。熱間静水圧プレスの条件は、圧力:100MPa、温度:800℃、保持時間:30minとした。得られたターゲットは、酸素量:0.88質量%、密度:3.39g/cm3を示した。結果を表3に併せて示す。
【表3】

【0077】
(比較例1〜5)
合金として、実施例2で作製した鋳塊と同様のものを使用した。粉末の平均粒度範囲を5〜9μm、熱間プレス条件を圧力:15MPa、温度:850℃、保持時間:60min(比較例1)、粉末の平均粒度範囲を500〜600μm、熱間プレス条件を圧力:70MPa、温度:480℃、保持時間:60min(比較例2)、粉末の平均粒度範囲を150〜300μm、熱間プレス条件を圧力:70MPa、温度:400℃、保持時間:60min(比較例3)、粉末の平均粒度範囲を150〜300μm、熱間プレス条件を圧力:3MPa、温度:850℃、保持時間:60min(比較例4)、粉末の平均粒度範囲を150〜300μm、熱間プレス条件を圧力:3MPa、温度:1000℃、保持時間:60min(比較例5)の条件とした以外、それぞれ実施例1と同様に行い、ターゲットを作製した。粉末の平均粒度範囲を表4、熱間プレス条件を表5にそれぞれ示す。
【表4】

【表5】

【0078】
微粉末を用いた比較例1は、黒鉛型への給粉時に、一部の粉末が発火したため、熱間プレスできなかった。
【0079】
粉末粒径の大きな比較例2、熱間プレス温度の低い比較例2および3、圧力の低い比較例4は、得られた焼結体ターゲットの強度が低いため、表面研削時のハンドリング中に、ターゲットが破損してしまった。
【0080】
焼結温度の高い比較例5は、黒鉛型と反応して取り出すことができなかった。この原因として、融液相が出現したと思われる。
【0081】
(比較例6〜8)
溶解時の坩堝材質をアルミナ(比較例6)、マグネシア(比較例7)およびカルシア(比較例8)とし、合金化後、金型に鋳込んだ以外は、それぞれ、実施例2と同様の方法を用い、ターゲットを作製し、実施例1と同様の方法を用い、成分分析、密度測定を行なった。得られた分析値は、Al:36.3質量%、Ba:Bal.、Eu:2.9質量%、O:2.3質量%を示した。得られた密度は、3.21g/cm3であった。得られた結果を表6に併せて示す。
【表6】

【0082】
比較例6〜8では、溶解時に水冷銅坩堝を使用せず、酸化物系坩堝を用いることにより、得られたターゲットの酸素量は、1.8から2.3%と大きくなっており、密度も実施例2に比べて小さかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EL素子を構成するEL発光層の形成に用いられるスパッタリングターゲットであり、少なくとも2価金属と、3価金属と、発光中心金属とを含み、かつ、Oの含有割合が1質量%以下であることを特徴とするEL発光層形成用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記2価金属が、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種であり、前記3価金属が、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のEL発光層形成用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記発光中心金属が、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Lu、Sm、Eu、Pm、DyもしくはYbから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のEL発光層形成用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記2価金属がBaであり、前記3価金属がAlであり、前記発光中心金属がEuであることを特徴とする請求項1に記載のEL発光層形成用スパッタリングターゲット。
【請求項5】
ターゲットの相対密度が95%以上であることを特徴とする請求項1〜4に記載のEL発光層形成用スパッタリングターゲット。
【請求項6】
EL素子を構成するEL発光層の形成に用いられるスパッタリングターゲットの製造方法であり、少なくとも2価金属と、3価金属と、発光中心金属とからなる金属原料を溶解して合金を得る合金化工程と、得られた合金を粉砕して合金粉末を得る粉砕工程と、得られた合金粉末を用いて成形物を得る成形工程と、得られた成形物を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを主要工程として含むものであり、合金化工程を真空中もしくは不活性雰囲気中で行い、かつ、合金化工程において前記金属原料の溶解に際して、水冷銅製坩堝を用いることを特徴とするEL発光層形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
前記合金化工程において、真空中で水冷銅製坩堝中の金属原料を加熱し脱ガスを行い、その後、不活性雰囲気中で前記金属原料を溶解して合金化することを特徴とする請求項6に記載のEL発光層形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
前記粉砕工程で得られる合金粉末の平均粒径を10〜500μmとすることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のEL発光層形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
前記焼結工程、あるいは、前記成形工程と前記焼結工程とを非酸化成雰囲気中で行うことを特徴とする請求項6〜8に記載のいずれかのEL発光層形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
成形工程と焼結工程とを同時に行うことを特徴とする請求項6〜9に記載のいずれかのEL発光層形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
成形用型枠としてカーボン製の型枠を用いた熱間プレス法を用い、5〜60MPaの圧力、温度500〜900℃、焼成時間10〜300分間として、前記成形工程と前記焼結工程とを同時に行うことを特徴とする請求項10に記載のEL発光層形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項12】
熱間静水圧プレス法を用い、5〜200MPaの圧力、温度500〜900℃、焼成時間10〜300分間として、前記成形工程と前記焼結工程とを同時に行うことを特徴とする請求項10に記載のEL発光層形成用スパッタリングターゲットの製造方法。

【公開番号】特開2008−121044(P2008−121044A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304463(P2006−304463)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】