説明

Fe−Co−Zr系合金ターゲット材

【課題】 軟磁性膜を安定してスパッタリング可能なFe−Co系合金スパッタリングターゲット材を提供する。
【解決手段】 原子比における組成式が(Fe−Co100−X100−YZr、5≦X≦95、3≦Y≦10で表されるFe−Co−Zr系合金ターゲット材であって、該ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下であるFe−Co−Zr系合金ターゲット材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性膜を形成するためのFe−Co−Zr系合金ターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められている。しかしながら、現在広く世の中で使用されている面内磁気記録方式の磁気記録媒体では、高記録密度化を実現しようとすると、記録ビットが微細化し、記録ヘッドで記録できないほどの高保磁力が要求される。そこで、これらの問題を解決し、記録密度を向上させる手段として垂直磁気記録方式が検討されている。
垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜を媒体面に対して磁化容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、記録密度を上げて行ってもビット内の反磁界が小さく、記録再生特性の低下が少ない高記録密度に適した方法である。そして、垂直磁気記録方式においては、記録感度を高めた磁気記録膜層と軟磁性膜層とを有する記録媒体が開発されている。
【0003】
このような磁気記録媒体の軟磁性膜としては、優れた軟磁気特性が要求されることから、アモルファス軟磁性合金が採用されている。代表的な軟磁性膜用アモルファス合金として、Fe−Co−B合金膜(例えば、特許文献1参照)、Co−Zr−Nb合金膜(例えば、非特許文献1参照)などが既に実用化されている。しかしながら、Fe−Co−B合金膜は耐食性が低い問題があり、Co−Zr−Nb合金膜は飽和磁束密度が低い問題が指摘されている。このため、最近では、上記合金膜の以外にFe−Co合金にZr、Hf、Ta、Nb等を添加したFe−Co系合金膜を用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−030740号公報
【特許文献2】特開2007−109378号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D.H.Hong,S.H.Park and T.D.Lee,“Effects of CoZrNb Surface Morphology on Magnetic Properties and Grain Isolation of CoCrPt Perpendicular Recording Media”,IEEE Trans.Magn.,Vol.41,No.10,P.3148−3150,Oct.,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが、特許文献2に記載されている多量の添加元素を含むFe−Co系合金軟磁性膜用スパッタリングターゲット材を作製しスパッタ成膜を行ったところ、スパッタ成膜条件によっては、スパッタ成膜時にパーティクルの発生が顕著になるという問題が確認された。
本発明の目的は、上記の問題を解決し、軟磁性膜を安定してスパッタリング可能なFe−Co系合金スパッタリングターゲット材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、Fe−Co系合金スパッタリングターゲット材の金属組織に着目して検討したところ、スパッタリングターゲット材の主相となるFe−Co合金相に対して、高い硬度を有する添加物元素の化合物相との硬度差に基づく、機械加工時の微細な加工欠陥が原因であることを突き止め、添加元素の化合物相を微細分散させることで、上記に問題を大きく改善できることを見いだし本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、原子比における組成式が(Fe−Co100−X100−YZr、5≦X≦95、3≦Y≦10で表されるFe−Co−Zr系合金ターゲット材であって、該ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下であるFe−Co−Zr系合金ターゲット材である。
また、好ましくは、原子比における組成式が(Fe−Co100−X100−(Y+Z)−Zr−M、5≦X≦95、3≦Y≦10、0<Z≦20で表され、前記組成式のM元素が(V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ni、Ru、Rh、Pd、B、Al、Ti)から選ばれる1種または2種以上の元素であるFe−Co−Zr系合金ターゲット材である。
また、好ましくは、原子比における組成式が(Fe−Co100−X100−(Y+a+Z)−Zr−Ni−M、5≦X≦95、3≦Y≦10、0<a+Z≦20で表され、前記組成式のM元素が(V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ru、Rh、Pd、B、Al、Ti)から選ばれる1種または2種以上の元素であるFe−Co−Zr系合金ターゲット材である。
さらに、好ましくは、スパッタ面に研磨加工を施してなるFe−Co−Zr系合金ターゲット材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安定したマグネトロンスパッタリングが行なえる垂直磁気記録媒体の軟磁性膜を形成するためのFe−Co−Zr系合金スパッタリングターゲットを提供でき、垂直磁気記録媒体を製造する上で極めて有効な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径測定方法を示す模式図である。
【図2】試料1の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】試料2の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】試料3の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】試料4の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】試料5の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】試料6の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における最大の特徴は、Fe−Co−Zr系合金ターゲット材において、断面ミクロ組織中に存在するZr化合物相を均一微細に分散させることで、ターゲット材を製造する際の機械加工時の微細な加工欠陥を低減し、安定したスパッタ成膜が可能となることを見出した点にある。
【0012】
本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材は、原子比における組成式が(Fe−Co100−X100−YZr、5≦X≦95、3≦Y≦10で表される合金組成を有する。
FeとCoとの組成比Xを5≦X≦95としたのは、Fe−Co二元系合金膜において、Co含有量を原子比で5〜95%にすることで高い飽和磁化を持ち軟磁気特性に優れた薄膜を生成できるためである。なお、本発明において、FeとCoとの組成比は、飽和磁化を最大化する必要がある場合には、Feの原子比Xを50〜95%とすることが好ましく、また、薄膜としての磁歪を下げようとする場合には、Feの原子比Xを5〜50%とすることが好ましい。
また、Zrの組成比Yを3≦Y≦10としたのは、Zrをこの範囲で含有させることで、薄膜のアモルファス化を促進させる効果が得られるためであり、Zrが原子比で10%を超えるとFe−Co合金をベースとした高い飽和磁化が低下し望ましくないためである。
【0013】
上記の組成におけるFe−Co−Zr系合金の一般的な溶解凝固組織は、Zrが10原子%以下であるため、初晶部はFeあるいはCoを主体としたFe−Co固溶体相となり易く、ZrはFeやCoとの間でZr化合物を形成し、FeあるいはCoを主体としたFe−Co固溶体相と共晶部を構成する。このように、ZrはFeあるいはCoとの間でZr化合物を形成しFeやCoを主体とするFe−Co固溶体相であるマトリックス中に存在する。このZr化合物相(例えば、FeZr、CoZr、CoZr等)は、Fe−Co固溶体相に比べ硬度が高く、ターゲット材の製造方法によってその形態や分散が大きく変化し、Fe−Co−Zr系合金材料の機械加工性に影響を与える。微細なZr化合物相をマトリックスのFe−Co固溶体相に均一に分散させることにより、Zr化合物相とマトリックスのFe−Co固溶体相との切削や研磨等の機械加工における加工性のギャップを抑制することが可能となる。そこで、断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下とすることでFe−Co−Zr系合金ターゲット材の加工性を向上できる。より好ましくは、断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域の最大内接円の直径が3μm以下であり、さらに好ましくは、1μm以下である。
【0014】
また、本発明においては、添加元素として(V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ni、Ru、Rh、Pd、B、Al、Ti)から選ばれる1種または2種以上のM元素が添加されてもよい。垂直磁気記録媒体用の軟磁性膜としては、Fe−Co合金をベースとした高い磁気モーメントとアモルファス化を促進させる元素であるZrに加えて、さらにアモルファス化を促進する元素や耐食性を向上させる元素として、上記のM元素を20原子%迄の範囲で添加することが、軟磁性膜の特性向上の上で望ましいためである。
【0015】
また、本発明においては、Fe−Co合金の一部をNiで置換してもよい。Fe−Co合金の20%迄の範囲をNiで置換させることで、飽和磁化を大きく低減させることなく磁歪が低減でき、薄膜の軟磁気特性を向上させる効果があるためである。また、NiとM元素の総和で含有量を20原子%以下とすることが、磁歪の低減と耐食性の向上を得る上で望ましい。
【0016】
本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材の製造方法としては、例えば以下の方法が適用できる。
上記の微細な組織は、例えば、所定の組成比に調整したFe−Co−Zr系合金の母合金をガスアトマイズ法等のアトマイズ法に代表される溶湯急冷法を用いて粉末とし、粉末粒径の平均粒径を250μm以下にした上で、加圧焼結することによって得ることができる。溶湯急冷法の適用により、溶湯を急冷凝固させることでZr化合物相の存在しない初晶の晶出を抑制でき、さらに、Zr化合物相の粗大化を抑制できるため、Zr化合物相が均一微細に分散された組織を持つ粉末が得られるのである。また、粉末の平均粒径を250μm以下に制御することで、Zr化合物相の相対的な粒径も制御可能となる。
【0017】
急冷凝固粉末を焼結すると、本願発明で規定する組織のターゲット材が得られる。特に、熱間静水圧プレス法を用いるとZr化合物相の成長を著しく抑制した状態で焼結を行なうことが可能となり、本発明のターゲット材を得るのに有利である。
【0018】
また、本発明のターゲット材は、急冷凝固させたFe−Co−Zr合金粉末やFe−Co−Zr−M合金粉末等を所定の組成比で混合した混合粉末を使用することにより実現できる。組成的もしくは組織的にバラツキの少ないターゲット材を得るためには、所定の組成比に調整したFe−Co−Zr系合金の母合金を急冷凝固し原料粉末として使用することがより好ましい。
【0019】
また、Fe−Co−Zr系合金の加圧焼結では典型的には800℃以上1200℃以下で焼結する。800℃未満では、焼結が進行しにくく、1200℃を越えると焼結素材が溶解する危険があるためである。加圧焼結は、空隙のない緻密な焼結体とするために、50MPa以上の圧力で行なう方が好ましい。この焼結時に空隙が残留することは、スパッタリング中にターゲット材表面にノジュールが発生する原因やパーティクルやスプラッシュの原因となるため、可能な限り避けなければならない。特に焼結体の相対密度(ターゲット材の密度/理論密度×100で表した数値、但し、理論密度は各元素の比重と組成より計算で求めたものである。)は97%以上である事が好ましい。より好ましい焼結体の相対密度は99%以上である。
【0020】
本発明のターゲット材はスパッタ面に研磨加工を施してなるものが望ましい。本発明のターゲット材は、比較的硬度が高いZr化合物相をマトリックスのFe−Co固溶体相に均一に分散しており加工欠陥を低減できる。そして、ターゲット材のスパッタ面の仕上加工を砥石や研磨紙を用いた加工時の応力発生の少ない研磨加工を適用すれば加工欠陥をより低減できる。
【実施例1】
【0021】
ガスアトマイズ法によってFe−Co−Zr合金粉末((Fe31.6−Co68.495−Zr(原子%))を作製し、得られたアトマイズ粉末を250μmのふるいで分級した。作製したアトマイズ粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、圧力100MPa、温度900℃、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス法により直径200mm×10mmの焼結体を作製した。次いで焼結体をワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0022】
比較例としてFe−Co−Zr合金((Fe31.6−Co68.495−Zr(原子%))を溶解鋳造によりインゴットを作製し、上記と同様にインゴットをワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0023】
また、走査型電子顕微鏡を用いてミクロ組織観察を行い、上記で作製したスパッタリング用ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径を測定した。最大内接円の直径測定は、上記で作製したターゲット材から10mm×10mmの試験片を採取し、試料調整した後に、走査型電子顕微鏡により1000倍に拡大したミクロ組織を観察して行った。なお、Zr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径とは、図1に示すターゲット材のミクロ組織の模式図において、マトリクッスのFe−Co固溶体相1中に存在するZr化合物相2が存在しない領域に描ける最大内接円3の直径をいう。測定結果を表1に示す。
次に、スパッタ面の表面粗さを測定した。尚、測定はJIS B 0601−2001に準じ最大高さ[Rz]を計測した。測定結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材の断面ミクロ組織の代表例として図2に試料1の走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織の観察例を示す。また、比較例として試料2の走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織の観察例を図3に示す。
表1および図2から、断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下となるFe−Co−Zr系合金ターゲット材を確認でき、本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材はスパッタ面の最大高さが小さく、微細な加工欠陥が低減されていることが確認される。
なお、図3では、濃灰色部が初晶部のFe−Co固溶体相、薄灰色部が共晶部のZr化合物相を含む領域である。
【実施例2】
【0026】
ガスアトマイズ法によってFe−Co−Zr−Ni−Nb合金粉末((Fe28−Co7281−Zr−Ni−Nb(原子%))を作製し、得られたアトマイズ粉末を250μmのふるいで分級した。作製したアトマイズ粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、圧力100MPa、温度900℃、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス法により直径200mm×10mmの焼結体を作製した。次いで焼結体をワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0027】
比較例としてFe−Co−Zr−Ni−Nb合金((Fe28−Co7281−Zr−Ni−Nb(原子%))を溶解鋳造によりインゴットを作製し、上記と同様にインゴットをワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0028】
また、実施例1と同様に走査型電子顕微鏡を用いてミクロ組織観察を行い、上記で作製したスパッタリング用ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径を測定した。さらに、実施例1と同様に各ターゲット材のスパッタ面の表面粗さ(最大高さ[Rz])を測定した。以上の測定結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材の断面ミクロ組織の代表例として図4に試料3の走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織の観察例を示す。また、比較例として試料4の走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織の観察例を図5に示す。
表2および図4から、断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下となるFe−Co−Zr系合金ターゲット材を確認でき、本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材はスパッタ面の最大高さが小さく、微細な加工欠陥が低減されていることが確認される。
なお、図5では、濃灰色部が初晶部のFe−Co固溶体相、薄灰色部が共晶部のZr化合物相を含む領域である。
【実施例3】
【0031】
ガスアトマイズ法によってFe−Co−Zr−Ta−Al−Cr合金粉末((Fe40−Co6090−Zr−(Ta66.8−Cr16.6−Al16.6(原子%))を作製し、得られたアトマイズ粉末を250μmのふるいで分級した。作製したアトマイズ粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、圧力100MPa、温度900℃、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス法により直径200mm×10mmの焼結体を作製した。次いで焼結体をワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0032】
比較例としてFe−Co−Zr−Ta−Al−Cr合金((Fe40−Co6090−Zr−(Ta66.8−Cr16.6−Al16.6(原子%))を溶解鋳造によりインゴットを作製し、上記と同様にインゴットをワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0033】
また、実施例1と同様に走査型電子顕微鏡を用いてミクロ組織観察を行い、上記で作製したスパッタリング用ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径を測定した。さらに、実施例1と同様に各ターゲット材のスパッタ面の表面粗さ(最大高さ[Rz])を測定した。以上の測定結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材の断面ミクロ組織の代表例として図6に試料5の走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織の観察例を示す。また、比較例として試料6の走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織の観察例を図7に示す。
表3および図6から、断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下となるFe−Co−Zr系合金ターゲット材を確認でき、本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材はスパッタ面の最大高さが小さく、微細な加工欠陥が低減されていることが確認される。
なお、図7では、濃灰色部が初晶部のFe−Co固溶体相、薄灰色部が共晶部のZr化合物相を含む領域である。
【実施例4】
【0036】
ガスアトマイズ法によってFe−Co−Zr−Ta−Ti合金粉末((Fe30−Co7090−Zr−(Ta60−Ti40(原子%))を作製し、得られたアトマイズ粉末を250μmのふるいで分級した。作製したアトマイズ粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、圧力100MPa、温度900℃、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス法により直径200mm×10mmの焼結体を作製した。次いで焼結体をワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0037】
比較例としてFe−Co−Zr−Ta−Ti合金((Fe30−Co7090−Zr−(Ta60−Ti40(原子%))を溶解鋳造によりインゴットを作製し、上記と同様にインゴットをワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0038】
また、実施例1と同様に走査型電子顕微鏡を用いてミクロ組織観察を行い、上記で作製したスパッタリング用ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径を測定した。さらに、実施例1と同様に各ターゲット材のスパッタ面の表面粗さ(最大高さ[Rz])を測定した。以上の測定結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
表4から、断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下となるFe−Co−Zr系合金ターゲット材を確認でき、本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材はスパッタ面の最大高さが小さく、微細な加工欠陥が低減されていることが確認される。
【実施例5】
【0041】
ガスアトマイズ法によってFe−Co−Zr−Nb−Al合金粉末((Fe40−Co6090−Zr−(Nb66.7−Al33.3(原子%))を作製し、得られたアトマイズ粉末を250μmのふるいで分級した。作製したアトマイズ粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、圧力100MPa、温度900℃、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス法により直径200mm×10mmの焼結体を作製した。次いで焼結体をワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0042】
比較例としてFe−Co−Zr−Nb−Al合金((Fe40−Co6090−Zr−(Nb66.7−Al33.3(原子%))を溶解鋳造によりインゴットを作製し、上記と同様にインゴットをワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0043】
また、実施例1と同様に走査型電子顕微鏡を用いてミクロ組織観察を行い、上記で作製したスパッタリング用ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径を測定した。さらに、実施例1と同様に各ターゲット材のスパッタ面の表面粗さ(最大高さ[Rz])を測定した。以上の測定結果を表5に示す。
【0044】
【表5】

【0045】
表5から、断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下となるFe−Co−Zr系合金ターゲット材を確認でき、本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材はスパッタ面の最大高さが小さく、微細な加工欠陥が低減されていることが確認される。
【実施例6】
【0046】
ガスアトマイズ法によってFe−Co−Zr−Ta合金粉末((Fe40−Co6090−Zr−Ta(原子%))を作製し、得られたアトマイズ粉末を250μmのふるいで分級した。作製したアトマイズ粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、圧力100MPa、温度900℃、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス法により直径200mm×10mmの焼結体を作製した。次いで焼結体をワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0047】
比較例としてFe−Co−Zr−Ta合金((Fe40−Co6090−Zr−Ta(原子%))を溶解鋳造によりインゴットを作製し、上記と同様にインゴットをワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0048】
また、実施例1と同様に走査型電子顕微鏡を用いてミクロ組織観察を行い、上記で作製したスパッタリング用ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径を測定した。さらに、実施例1と同様に各ターゲット材のスパッタ面の表面粗さ(最大高さ[Rz])を測定した。以上の測定結果を表6に示す。
【0049】
【表6】

【0050】
表6から、断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下となるFe−Co−Zr系合金ターゲット材を確認でき、本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材はスパッタ面の最大高さが小さく、微細な加工欠陥が低減されていることが確認される。
【実施例7】
【0051】
ガスアトマイズ法によってFe−Co−Zr−Ta合金粉末((Fe60−Co4090−Zr−Ta(原子%))を作製し、得られたアトマイズ粉末を250μmのふるいで分級した。作製したアトマイズ粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、圧力100MPa、温度900℃、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス法により直径200mm×10mmの焼結体を作製した。次いで焼結体をワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0052】
比較例としてFe−Co−Zr−Ta合金((Fe60−Co4090−Zr−Ta(原子%))を溶解鋳造によりインゴットを作製し、上記と同様にインゴットをワイヤーカットにより切断し、研磨加工によって直径180mm×7mmのターゲット材を得た。但し、スパッタ面の仕上研磨は、#60研磨紙で行った。
【0053】
また、実施例1と同様に走査型電子顕微鏡を用いてミクロ組織観察を行い、上記で作製したスパッタリング用ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径を測定した。さらに、実施例1と同様に各ターゲット材のスパッタ面の表面粗さ(最大高さ[Rz])を測定した。以上の測定結果を表7に示す。
【0054】
【表7】

【0055】
表7から、断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下となるFe−Co−Zr系合金ターゲット材を確認でき、本発明のFe−Co−Zr系合金ターゲット材はスパッタ面の最大高さが小さく、微細な加工欠陥が低減されていることが確認される。
【符号の説明】
【0056】
1 Fe−Co固溶体相
2 Zr化合物相
3 最大内接円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子比における組成式が(Fe−Co100−X100−YZr、5≦X≦95、3≦Y≦10で表されるFe−Co−Zr系合金ターゲット材であって、該ターゲット材の断面ミクロ組織においてZr化合物相の存在しない領域に描ける最大内接円の直径が5μm以下であることを特徴とするFe−Co−Zr系合金ターゲット材。
【請求項2】
原子比における組成式が(Fe−Co100−X100−(Y+Z)−Zr−M、5≦X≦95、3≦Y≦10、0<Z≦20で表され、前記組成式のM元素が(V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ni、Ru、Rh、Pd、B、Al、Ti)から選ばれる1種または2種以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載のFe−Co−Zr系合金ターゲット材。
【請求項3】
原子比における組成式が(Fe−Co100−X100−(Y+a+Z)−Zr−Ni−M、5≦X≦95、3≦Y≦10、0<a+Z≦20で表され、前記組成式のM元素が(V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ru、Rh、Pd、B、Al、Ti)から選ばれる1種または2種以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載のFe−Co−Zr系合金ターゲット材。
【請求項4】
スパッタ面に研磨加工を施してなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のFe−Co−Zr系合金ターゲット材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−191359(P2009−191359A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4792(P2009−4792)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】