説明

GPS機器用の非常に精密で温度に依存しない基準周波数を生成するためのシステム及び方法

【課題】 二連式水晶発振器を組み込んだ、水晶振動子を用いたクロック発振器において温度を補償するための機器及び方法である。
【解決手段】 二つの発振器の同期を担当するプロセッサの効率的な使用によって、最小限の電力消費が達成される。この発明は、特に、携帯式無線位置測定機器に精密な基準クロックを供給するのに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温度変化にも関わらず高い安定度の基準周波数を提供する問題に対処するための低電力による管理システムに関する。この発明は、性能の改善及び製品耐用年数の延長のためのクロック精度と他のアプリケーション(例えば、所謂GPS支援アプリケーション)と組み合わせる際の使い易さの両方を必要とするGPS(衛星利用測位システム)機器内に組み込むことを意図している。
【0002】
より詳しくは、ここに記載する発明は、二連式水晶発振器を組み込んだ、水晶振動子を用いたクロック発振器における温度補償方法に関する。二つの発振器の同期を担当するプロセッサの効率的な使用によって、最小限の電力消費が達成される。
【背景技術】
【0003】
通常GPS機器や衛星無線位置測定機器などの極めて精確なクロック精度を必要とする機器に関しては、効果的な温度補償を実現しなければならない。そのために、多くの場合TCXO(温度補償式水晶発振器)が用いられている。しかし、使用可能なTCXO機器の費用及び電力消費量は大きい。従って、より安価でより小さい所要電力の高精度なクロックを提供する代替方法に対するニーズが存在する。
【0004】
相異なる温度係数を有する熱的に連結された二つの水晶振動子を使用する、精確な時間基準を提供する機器が知られている。そのような機器では、温度係数を最小化する形態にカットされた一方の水晶は、通常「基準」発振器として使用される一方、他方の水晶は、温度係数が温度に対して非常に線形的である「温度発振器」として看做される。このようにして、二つの水晶によって生成される周波数の差は、明らかにこれらの水晶に共通の温度を決定するとともに、周知の校正関数にもとづき基準周波数を補正するために使用することができる。
【0005】
そのような水晶振動子の例は、CDXO(校正式二連水晶発振器)として知られている。そのような機器の魅力は、例えば、「基準」発振器の偏差を二つの振動子間の周波数差の関数として表す高次多項式関数の係数として個々の校正関数をコーディングする形で工場でプログラミングされたメモリを備えていることに有る。
【0006】
通常温度による周波数偏差の補償は、校正関数と第二の発振器の入力にもとづき「基準」発振器の周波数偏差を測定するデジタル信号プロセッサ(DSP)によって実行される。そのプロセッサは、この周波数偏差を、数値制御により基準周波数を生成する、例えば、1msの精確なクロックに対して1KHzを生成する数値制御発振器(NCO)に伝えている。
【0007】
校正関数は、本来極めて非線形的である。そのため、これらのシステムは、大きな温度範囲に渡ってリアルタイムで非常に精確な補正を必要とする、計算能力が制限されている携帯式GPS受信機に組み込むことが難しい。
【特許文献1】米国特許第6933788号明細書
【特許文献2】米国特許第4345221号明細書
【特許文献3】米国特許公開第2005007205号明細書
【特許文献4】米国特許第6831525号明細書
【特許文献5】国際特許公開第93/15555号明細書
【特許文献6】米国特許第6933788号明細書
【特許文献7】特開昭55−138626号明細書
【特許文献8】欧州特許公開第1087530号明細書
【特許文献9】欧州特許公開第1475885号明細書
【特許文献10】欧州特許公開第0283529号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の課題は、最小限の処理能力消費を実現するとともに、基準発振器の温度に依存する周波数ドリフトの補償を実行することである。
【0009】
この発明の別の課題は、周波数補償方法の工程を実行する最適なコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題は、基準発振器の温度変化による周波数偏差を補正するために、メモリ手段内に保存された、区分的線形補間法にもとづき見積もられた、温度では無く、専ら周波数と関連する校正関数を使用するアーキテクチャを採用することによって達成される。そのためには、温度に依存する周波数ドリフトを決定する役割を果たすデジタル信号プロセッサ(DSP)の僅かなサイクルしか必要とせず、それにより補正を実行するための処理能力を低減することが可能となる。このことは、低電力で管理するとの特徴を厳密に必要とするGPS機器にとって非常に有用な特徴である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明は、添付図面により、より良く理解される。
【0012】
図1では、この発明は、二つの水晶発振器を採用している。
【0013】
・主基準周波数を供給する第一の基準発振器14。この基準発振器は、例えば、所望の周波数で共振するようにカットされた水晶振動子である。典型的には、この共振器は、周知の5次の周波数・温度特性と、動作領域で大きく変動する約15ppm/度の温度係数とを示す標準的なATカット式水晶発振器である。
【0014】
・基準発振器と熱的に連結された第二の温度に敏感な発振器16。この水晶は、例えば、動作温度領域でほぼ一定な90ppm/度の温度係数を有するYカット式水晶振動子である。
【0015】
共振器14と16は、同じ機器10内に収容され、熱的に連結されている。ここで、両方の水晶の温度は同じであると看做すことができる。また、機器10は、校正関数により、例えば、基準発振器14の周波数偏差を基準発振器14と温度に敏感な発振器16間の周波数差の関数として表す5次多項式の係数によりプログラミングされたメモリエリア12、例えば、EEPROM又はROMを有する。これらの校正係数は、製造業者によって機器内に保存される。メモリ12の内容は、相応のバス13、例えば、シリアルバスを介して読み出すことが可能である。
【0016】
任意選択として、メモリエリア12がユーザーにより書込み可能(例えば、フラッシュメモリ)である場合、例えば、水晶振動子の経年変化に対処するために、ホストシステム40によって校正係数を更新することができる。このことは、GPS時間基準との比較によって、共振器14と16の温度校正を精密に検査することができる位置測定機器において有用である。
【0017】
温度に依存した唸り周波数(その温度に関する特性がメモリ手段12内に保存されている)を得るために、二つの発振器14と16の二つの出力が、周波数比較器80で比較される。
【0018】
また、無線位置測定受信機は、デジタルプロセッサ40と共に周知の無線位置測定機能を実行するGPSのコア部分を有する。ここで記載した例では、同じデジタルプロセッサ40が、二連式水晶機器10から精確な周波数基準を得るためにも使用されている。しかし、この発明は、周波数基準が別個のプロセッサ又は専用の回路によって供給される場合も含むものと理解されたい。
【0019】
基準発振器14により生成された信号は、出力にクロック信号65を供給する数値制御発振器60に対する時間基準として使用される。クロック信号の所望の周波数、典型的にはGPSユニットの場合1kHzが得られるように、DSPユニット40によって供給される増分値62を設定しなければならない。
【0020】
クロック信号65は、二つの発振器14と16の周波数間の関係を示す制御信号85を生成する周波数比較器80にも適用される。この発明の枠組み内において、周波数比較器80は、幾つかの形態で動作することができるものと理解されたい。例えば、比較器80は、発振器14と16の周波数差に等しい唸り周波数を抽出するためのミクサーと場合によってはローパスフィルター、並びに1ミリ秒で二つの発振器の唸りを計数するためのカウンタを備えることができる。それに代わって、比較器80は、クロック信号65によって決定される時間間隔で温度に敏感な発振器16の出力を単純に計数して、それからDSP40内のソフトウェアにより唸り周波数を導き出すことができる。技術思想を定めるために、制御信号85は、基準発振器14と温度に敏感な発振器16間の唸り周波数を表すものと仮定するが、この発明は、例えば、制御信号が同周波数間の比率を表すような他の変化形態も含むことを理解されたい。
【0021】
機器10の考え得る全ての温度に対して精確に所望の周波数を有するクロック信号65を得るために、DSP40は、制御信号85にもとづき、前述した通り、メモリ12からの校正係数を用いて、NCO60に対する増分値62を周期的及びリアルタイムに計算する。
【0022】
そのような二連式水晶システムは、非常に精密な分解能を提供する一方、周波数に関連する校正関数だけを採用することが可能である。更に、そのことを非常に高い周期のサンプリング時間で実現するために、デジタルプロセッサ40は、速く過負荷となる可能性が有る。従って、瞬間的な補正係数を校正多項式の補間として計算することが好ましい。そのために、例えば、DSPは、制御信号85の各値に対して補間関数を速く計算するために、制御信号85の予想される範囲を有限数の区分に分割するとともに、事前に補間テーブルに相応の値を記入している。補間手法は、ニーズに応じて変更することができる。好ましくは、区分的線形補間法が用いられる。
【0023】
好ましい実施形態では、この発明の低電力での管理方針に準拠するとともに、厳密に低電力特性を特徴とするGPS機器の要件に適合させるために、ソフトウェアプログラムは、使用するレジスタのサイズに従って整数及び非浮動小数を扱えるように、スケーリング関数を用いて前述した周波数制御方法を実行する。
【0024】
図2は、DSPユニット40によって実行される、この発明の周波数制御方法の工程をフローチャートで図示している。工程101では、DSPは、機器10のメモリエリア12から校正係数を取得する。工程102は、補間された増分値62を計算するために必要なテーブルの事前計算に対応する。
【0025】
この発明の図3にフローチャートを図示した代替実施形態では、補間テーブルを計算するために、追加プロセッサを使用することができる。この場合、追加プロセッサは、シリアル接続リンク又はその他の通信方法を用いてDSPと接続される。そのためには、新しい工程101aと102aの導入が必要であり、工程101aでは、DSPから追加プロセッサに係数データを渡し、工程102aでは、工程102で得た事前計算テーブル用データを追加プロセッサからDSPに渡している。この場合、工程102は、DSPではなく、追加プロセッサによって実行される。
【0026】
工程103で、DSPは、比較器80から唸り周波数又は制御信号85を読み出し、工程104で、DSP40は、制御信号85及び工程102で事前計算した値にもとづきNCO60用の増分値62を更新する。工程103及び104は、所望の時間間隔で、例えば、DSP40の周期的な割込みに応じて繰り返される。
【0027】
ここで、この発明の例を更に数学的に詳細に考察する。
【0028】
基準発振器14から生成される周波数Fref の偏差の精確な指標を、その公称値から得るために、次の通り、5次多項式を適用する。
【0029】
【数1】

【0030】
n は、EEPROM12から得られる多項式の校正関数の係数であり、必要であれば適宜調整、拡大/縮小される。ΔFbeatは、1秒間に対して正規化された、公称周波数Fref と標準的な動作温度、例えば、25°Cにおける唸り周波数85と見込まれる唸り周波数FBeat_nom との偏差である。
【0031】
【数2】

【0032】
Gatemsは、測定を実施しているms単位の期間である。
【0033】
【数3】

【0034】
TempCount _nom は、公称周波数及び25°Cにおける温度に依存する発振器16によって生成されるXTemp信号の予測される計数である。FRefCount_nom は、公称周波数及び25°Cにおける基準発振器14によって生成されるXRef 信号の予測される計数である。
【0035】
【数4】

【0036】
FXTempは、25°Cでの温度に敏感な発振器のXTemp信号の公称周波数(Hz)である。Foffsetは、EEPROM12のデータから得られるXTemp信号に対する補正用周波数オフセットである。GateCountは、測定期間におけるXRef 信号のカウント数である。
【0037】
【数5】

【0038】
FXRef は、25°Cでの基準発振器のXRef 信号の公称周波数(Hz)であるが、項FXRef /1000は、実際には1msのクロック信号を得るために適用される係数であることに留意されたい。
【0039】
【数6】

【0040】
ここで、式(3)を書き換えると、次の通りとなる。
【0041】
【数7】

【0042】
Beatに関して、システムが、唸り周波数の計数を測定するように構成されているか、或いはXTempから計数を測定するように構成されているかに依存して、二つの選択肢が有る。
【0043】
唸り周波数を計数する場合には、次の通りとなる。
【0044】
【数8】

【0045】
そうではなく、XTempから計数を測定する場合には、次の通りとなる。
【0046】
【数9】

【0047】
ここに示した例では、NCOは、39ビットのカウンタと28ビットの増分レジスタを使用している。しかし、その他の構成も可能であることは明らかである。
【0048】
【数10】

【0049】
ここで、Freg は、所望の周波数である。
【0050】
ref は、入力周波数である。
【0051】
Incrは、増分値である。
【0052】
整理することによって、次の式が得られる。
【0053】
【数11】

【0054】
初期及びデフォルト設定において、NCOは、式(11)を適用することによって1KHz信号を生成するように、XRef (XRef _nom )の公称周波数から得られる公称値Incrnom を用いてプログラミングされている。
【0055】
制御ループが動作している場合、システムは、XRef に関する周波数誤差を周期的に供給する。XRef の周波数ドリフトを補正するように、NCO60を調整しなければならない。このことは、式(11)を適用することによって行われ、Fref は、XRef の公称周波数に式(1)から得られる周波数変動ΔFref を加えたものとなる。従って、次の式となる。
【0056】
【数12】

【0057】
Incrの更新値を得るために必要な計算規模を低減するために、ΔFRef 値にもとづきIncr値を拡大・縮小することが可能である。そこで、次の通りとなる。
【0058】
【数13】

【0059】
Incrnom は、公称周波数XRef を用いて計算したIncr値である。
【0060】
Slope256 は、XRef の変動範囲に渡って予め計算され、256倍に拡大されたスロープ係数である。
【0061】
Slope256 は、次の式により計算される。
【0062】
【数14】

【0063】
ここで、IncrXrefmax は、Xref _max を用いて計算したIncr値である。
【0064】
IncrXrefmin は、Xref _min を用いて計算したIncr値である。
【0065】
ref _max は、Xref の最大許容周波数である。
【0066】
ref _min は、Xref の最小許容周波数である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】この発明による周波数基準を有する無線位置測定機器の模式図
【図2】この発明による周波数補正方法の例を示すフローチャート図
【図3】この発明の代替実施形態による追加プロセッサを用いて補間テーブルの計算を実行するフローチャート図
【符号の説明】
【0068】
10 二連式水晶機器
12 メモリ(EEPROM)
13 バス
14 基準発振器
16 温度に敏感な発振器
40 DSPユニット
60 数値制御発振器(NCO)
62 増分値
65 クロック信号
80 周波数比較器
85 制御信号
101 工程
101a 工程
102 工程
102a 工程
103 工程
104 工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基準発振器(14)と、
(b)基準発振器と熱的に連結された温度に敏感な発振器(16)と、
(c)上記の発振器(14)と(16)の出力を混合・測定する処理手段(80)と、
(d)発振周波数の温度に関する特性を保存するメモリ手段(12)と、
(e)基準発振器の周波数偏差を計算するデジタルプロセッサ(40)と、
(f)数値制御発振器(60)と、
を備えた、GPS機器用の非常に精密で温度に依存しない基準周波数を生成するためのシステムであって、
処理手段(80)によって提供される基準発振器と温度に敏感な発振器の出力を組み合わせることにより、メモリ手段(12)に特性が保存されている、温度に依存した唸り周波数を生成し、
デジタルプロセッサ(40)が、区分的線形補間法により、メモリ手段(12)に保存された所定値にもとづき校正関数を適用することによって、処理手段(80)の出力から基準発振器(14)の信号Xref の温度に依存した周波数偏差を導き出し、
数値制御発振器(60)は、その出力が温度に関して安定するように、デジタルプロセッサ(40)の出力に依存して、基準発振器(14)の信号Xref を補正する、
システム。
【請求項2】
GPS機器用の非常に精密で温度に依存しない基準周波数を生成するための方法であって、
特性が周知である、メモリ手段(12)内に保存された、温度に依存する唸り周波数BT を得るために、基準発振器(14)と別の温度に敏感な発振器(16)の出力を混合する工程と、
区分的線形補間法により、メモリ手段(12)内に保存された所定値にもとづき校正関数を適用することによって、唸り周波数BT から基準発振器(14)の信号Xref の温度に依存した周波数偏差DF(t)を導き出す工程と、
温度に関して安定した最終的な出力周波数を得るために、周波数偏差DF(t)を加算することによって、基準発振器(14)の周波数F(t)を補正する工程と、
で構成される方法。
【請求項3】
処理手段(80)が、ソフトウェア処理のみによって、温度に敏感な発振器(16)の信号XTempの値から、二つの発振器(14)と(16)の唸りを導き出す請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
請求項2に記載の方法の工程を実行するためのコンピュータプログラム。
【請求項5】
使用するレジスタのサイズに依存して整数及び非浮動小数を操作するために、スケーリング関数を使用することを特徴とする請求項2に記載の方法の工程を実行するためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−72709(P2008−72709A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229601(P2007−229601)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(506422261)ネメリクス・ソシエテ・アノニム (10)
【Fターム(参考)】