説明

III族元素窒化物結晶の製造方法、III族元素窒化物結晶、半導体装置形成用基板および半導体装置

【課題】アルカリ金属の酸素および水との反応を防止可能であり、かつ成長レートが向上した3族元素窒化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】3族元素、アルカリ金属および3族元素窒化物の種結晶基板20を結晶成長容器18に入れ、窒素含有ガス雰囲気下において、結晶成長容器18内を加圧加熱し、種結晶基板20を核として3族元素窒化物結晶を成長させる3族元素窒化物結晶の製造方法であって、さらに、第1の炭化水素および第1の炭化水素よりも沸点が高い第2の炭化水素を準備し、結晶成長容器18内の加圧加熱に先立ち、アルカリ金属を、第1の炭化水素および第2の炭化水素の少なくとも第1の炭化水素により被覆した状態で結晶成長容器18に入れ、アルカリ金属の被覆に使用した第1の炭化水素を結晶成長容器18内から除去した後、第2の炭化水素の存在下、結晶成長容器18内を加圧加熱して3族元素窒化物結晶を成長させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族元素窒化物結晶の製造方法、それにより得られたIII族元素窒化物結晶、半導体装置形成用基板および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)などのIII族元素窒化物化合半導体は、青色や紫外光を発光する半導体素子の材料として注目されている。青色レーザダイオード(LD)は、高密度光ディスクやディスプレイに応用されており、青色発光ダイオード(LED)は、ディスプレイや照明などに応用されている。また、紫外線LDは、バイオテクノロジーなどへの応用が期待され、紫外線LEDは、蛍光灯の紫外光の光源として期待されている。
【0003】
LDやLED用のIII族元素窒化物化合半導体の基板は、通常、サファイア基板上に、気相において、III族元素窒化物結晶をヘテロエピタキシャル成長させることによって形成されており、この成長法を気相エピタキシャル成長法という。気相エピタキシャル成長法としては、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、水素化物気相成長法(HVPE法)、分子線エピタキシー(MBE法)などがある。通常、この気相エピタキシャル成長法で得られる窒化ガリウム結晶の転位密度は、108cm-2〜109cm-2であるため、得られる結晶の品質に問題がある。この問題を解決する方法として、例えば、ELOG(Epitaxial lateral overgrowth)法が開発されている。この方法によれば、転位密度を105cm-2〜106cm-2程度まで下げることができる。しかし、ELOG法は、工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
一方、気相エピタキシャル成長ではなく、液相で結晶成長を行う液相成長法も検討されている。窒化ガリウムや窒化アルミニウムなどのIII族元素窒化物単結晶の融点における窒素平衡蒸気圧は1万気圧以上であるため、従来、窒化ガリウム結晶や窒化アルミニウム結晶などのIII族元素窒化物結晶を液相で成長させるためには、1200℃で8000atm(8000×1.013×105Pa)という過酷な条件にする必要があった。この問題を解決するために、近年、ナトリウム(Na)などのアルカリ金属をフラックスとして用いる方法が開発されている。この方法によれば、比較的穏やかな条件で窒化ガリウム結晶や窒化アルミニウム結晶などのIII族元素窒化物結晶を得ることができる。例えば、アンモニアを含む窒素ガス雰囲気下において、アルカリ金属であるナトリウムとIII族元素であるガリウムとを加圧加熱して溶融させ、この融液(ナトリウムフラックス)を用いて96時間育成することにより、1.2mm程度の最大結晶サイズの窒化ガリウム結晶が得られている(例えば、特許文献1参照)。また、反応容器と結晶成長容器とを分離し、自然核発生を抑えて大型の結晶を成長させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、フラックスとして用いられるナトリウムの酸化防止を行うことで、高品質なIII族窒化物結晶を成長させる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
前記液相成長法は、気相エピタキシャル法に比較して、得られる窒化ガリウム結晶の転位密度が低いという利点がある。しかし、前記液相成長法は、成長レートが低く、生産性が悪いという課題がある。また、フラックスに用いるナトリウムなどのアルカリ金属は、還元作用が強く、雰囲気中の酸素や水と反応し易い。酸素や水と反応したアルカリ金属がフラックスに混入すると、結晶成長が開始できなくなる恐れがあり、結晶成長できたとしても、得られる結晶中には、酸素が高濃度で存在し、品質に問題がある。この点に関し、前述のように、フラックスとして用いられるナトリウムなどのアルカリ金属の酸化を防止して液相成長させる方法もあるが、より効果的に酸化防止して液相成長させる技術の開発が求められている。
【特許文献1】特開2002−293696号公報
【特許文献2】特開2003−300798号公報
【特許文献3】特開2005−119893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、液相成長法において、フラックスであるアルカリ金属の酸素および水との反応を防止可能であり、かつ成長レートが向上したIII族元素窒化物結晶の製造方法、これにより得られたIII族元素窒化物結晶、半導体装置用基板および半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の製造方法は、
III族元素、アルカリ金属およびIII族元素窒化物の種結晶を結晶成長容器に入れ、窒素含有ガス雰囲気下において、前記結晶成長容器内を加圧加熱し、前記III族元素、前記アルカリ金属および前記窒素を含む融液中で前記III族元素および前記窒素を反応させ、前記種結晶を核としてIII族元素窒化物結晶を成長させるIII族元素窒化物結晶の製造方法であって、
前記アルカリ金属は、前記結晶成長容器内の加圧加熱に先立ち、第1の炭化水素により、または前記第1の炭化水素および前記第1の炭化水素よりも沸点が高い第2の炭化水素の混合物により被覆した状態で前記結晶成長容器に入れられること、および
前記III族元素窒化物結晶の成長は、
前記アルカリ金属の被覆に使用した第1の炭化水素を前記結晶成長容器内から除去した後に、前記第2の炭化水素の存在下で、行われること
を特徴とする。
【0008】
本発明のIII属元素窒化物結晶は、前記本発明の製造方法により得られたIII族元素窒化物結晶であって、波長400nm以上620nm以下の領域にある光の光吸収係数が、10cm-1以下であり、および転位密度が5×105cm-2以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の半導体装置形成用基板は、前記本発明のIII族元素窒化物結晶を含むことを特徴とする。
本発明の半導体装置は、基板上に半導体層が形成されている半導体装置であって、前記基板が、前記本発明の基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
前述のように、本発明の製造方法では、少なくとも前記第1の炭化水素を用いて前記アルカリ金属を被覆して前記結晶成長容器に入れるため、従来よりも効果的に前記アルカリ金属の酸化を防止でき、その結果、高品質のIII族元素窒化物結晶を得ることができる。また、従来の液相成長法では、アルカリ金属フラックス(融液)中の気液界面において、窒素の過飽和度が上昇し、その結果、不均一な核発生が生じ、前記核を基にして雑晶が成長する。これに対し、本発明の製造方法では、前記第2の炭化水素の存在下で結晶成長させるため、雑晶の発生を防止することが可能であり、この結果、結晶成長レートが向上する。
【0011】
さらに、前記アルカリ金属の被覆に用いた第1の炭化水素が前記アルカリ金属フラックス中に残存すると、前記種結晶のメルトバックなどの影響があるが、本発明では、前記結晶成長容器の加圧加熱に先立って、前記第1の炭化水素を除去するため、前記第1の炭化水素の残存による影響を防止することが可能である。しかも、本発明の製造方法では、前記第1の炭化水素の沸点は、前記第2の炭化水素よりも低いため、例えば、加熱による蒸発除去により、前記第1の炭化水素のみを除去し、前記第2の炭化水素を確実に適量の範囲で前記結晶成長容器に残存させることが容易に実現可能である。
【0012】
このため、本発明の製造方法では、前記アルカリ金属の酸化防止、雑晶の発生防止および前記第1の炭化水素の残存の影響の防止という三点が容易に実現可能であり、その結果、高品質のIII族元素窒化物結晶を高い成長レートで製造可能である。また、高い成長レートでの製造が可能であることから、本発明の製造方法では、サイズの大きなIII族元素窒化物結晶の製造が可能となる。
【0013】
本発明の製造方法は、III族元素窒化物結晶全般に有効な方法であるが、アルカリ金属がナトリウムで、III族元素窒化物結晶が窒化ガリウム結晶の場合に、特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製造方法は、前述のように、第1の炭化水素および前記第1の炭化水素よりも沸点が高い第2の炭化水素を使用する方法である。本発明の製造方法としては、例えば、下記に示すように、第1の製造方法および第2の製造方法がある。
【0015】
本発明の第1の製造方法は、
前記結晶成長容器内の加圧加熱に先立ち、
前記第1の炭化水素は、前記アルカリ金属の被覆に使用した状態で前記結晶成長容器に入れられること、および
前記第2の炭化水素は、前記アルカリ金属の被覆とは別に前記結晶成長容器に入れられること、
を特徴とする。
【0016】
なお、本明細書中、「加圧加熱」とは、加圧と加熱との組み合わせを意味し、加圧のみ、または加熱のみ、とは区別して用いられる。
一方、本発明の第2の製造方法は、
前記結晶成長容器内の加圧加熱に先立ち、
前記アルカリ金属は、前記第1の炭化水素および前記第2の炭化水素の混合物により被覆した状態で前記結晶成長容器に入れられること
を特徴とする。
【0017】
本発明において、前記第2の炭化水素の沸点は、前記アルカリ金属の融点よりも高いことが好ましい。また、本発明において、前記第1の炭化水素の沸点は、50℃〜300℃の範囲内にあり、および前記第2の炭化水素の沸点は、300℃以上であることが好ましい。
【0018】
ここで、前記第1の炭化水素が混合物である場合、前記第1の炭化水素の沸点とは、当該混合物中で、もっとも沸点が高い炭化水素の沸点を意味する。
一方、前記第2の炭化水素が混合物である場合、前記第2の炭化水素の沸点とは、当該混合物中で、もっとも沸点が低い炭化水素の沸点を意味する。
【0019】
また、前記第1の炭化水素が混合物である場合、前記第1の炭化水素の分解点とは、当該混合物中で、もっとも分解点が低い炭化水素の分解点を意味する。
また、前記アルカリ金属が混合物である場合、前記アルカリ金属の融点とは、当該混合物中で、もっとも融点が高いアルカリ金属の分解点を意味する。例えば、当該混合物中で、もっとも融点が高いアルカリ金属がナトリウムである場合、前記アルカリ金属の融点は、98℃である。
【0020】
なお、特に断りのない限りにおいて、本明細書中、沸点とは、常圧における沸点を意味する。
本発明において、前記第1の炭化水素および前記第2の炭化水素は、それぞれ、常温において、固体または液体の状態であることが好ましい。なお、本発明において、常温とは、例えば、10〜30℃の範囲をいう。
【0021】
本発明において、前記第1の炭化水素および前記第2の炭化水素は、それぞれ、鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、脂環式炭化水素、および芳香族炭化水素からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0022】
すなわち、これらの炭化水素は、単独で用いられてもよく、組み合わせて用いられてもよい。
本発明において、前記第2の炭化水素に代えて、または前記第2の炭化水素に加えて炭素を用いてもよい。
【0023】
本発明において、前記結晶成長容器への前記第2の炭化水素の添加割合は、前記アルカリ金属100質量部に対し、前記第2の炭化水素0.03質量部以上であることが好ましい。
【0024】
本発明において、前記種結晶が、III族元素窒化物の単結晶である場合、前記結晶成長容器への前記第2の炭化水素の添加割合は、前記アルカリ金属100質量部に対し、前記第2の炭化水素1.0質量部以下であることが好ましい。
【0025】
本発明において、前記種結晶が、基板の上に形成されたIII族元素窒化物の薄膜である場合、前記結晶成長容器への前記第2の炭化水素の添加割合は、前記アルカリ金属100質量部に対し、前記第2の炭化水素0.8質量部以下であることが好ましい。
【0026】
本発明において、前記III族元素は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、およびインジウム(In)から選択される少なくとも一つである。なかでも、ガリウム(Ga)が特に好ましい。
【0027】
これらの元素は、単独で用いられてもよく、組み合わせて用いられてもよい。当該「組み合わせ」には、混合物および合金が包含される。
本発明において、前記III族元素窒化物は、好ましくは、AlsGatIn(1-s-t)N(ただし、0≦s≦1、0≦t≦1、s+t≦1)で表わされる化合物である。なかでも、窒化ガリウム(GaN)が特に望ましい。
【0028】
前記「III族元素」および前記「III族元素窒化物」中のIII族元素は、好ましくは、同一の元素である。
【0029】
本発明において、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)であるが、この中で、ナトリウム(Na)が好ましい。また、これらアルカリ金属は単独で使用してもよいが、二種類以上のアルカリ金属を混合して用いてもよい。混合して用いる場合のアルカリ金属の主たる成分は、ナトリウムが望ましい。また、フラックス成分として、アルカリ土類金属を併用してもよい。アルカリ土類金属としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Baがある。また、フラックス中には、ドーパントを添加してもよい。n型ドーパントとしては、例えば、Si、Ge、Sn、Oが挙げられる。p型ドーパントとしては、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Znが挙げられる。ドーパントの量は、得られる結晶中において、例えば、1×1017〜1×1019cm-3の範囲である。
【0030】
本明細書中、主たる成分とは、混合物中で最も量比が高い成分を意味する。
本発明において、
前記III族元素は、Gaであり、
前記III族元素窒化物は、GaNであり、および
前記アルカリ金属は、主たる成分がNaであることが望ましい。
【0031】
ここで、「主たる成分」とは、アルカリ金属中もっともNaの量比(ここでは、モル濃度を意味する。)が高いことを意味する。
つぎに、アルカリ金属としてナトリウム(Na)を使用し、窒化ガリウム(GaN)結晶を製造した2つの実施形態(実施形態1および2)を用いて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、本発明において、窒化ガリウム以外のIII族元素窒化物結晶、および窒化ガリウム以外のIII族元素窒化物を用いる場合等であっても、下記の記載を参考にして同様に製造することが可能である。
【0032】
(実施形態1)
本実施形態は、前記第1の製造方法において、ナトリウムをフラックスとして用い、窒化ガリウム結晶を成長させた例である。すなわち、本実施形態では、前記結晶成長容器に、前記種結晶と、前記第1の炭化水素で被覆されたナトリウムと、ガリウムと、前記第2の炭化水素とを入れ、ついで、前記第1の炭化水素を除去し、その後、前記結晶成長容器を加圧加熱してナトリウムフラックス中で、前記種結晶を核として窒化ガリウム結晶を成長させる。
【0033】
本発明の製造方法に用いる製造装置の構成の一例を、図1(a)に示す。また、本発明の製造方法に用いる密閉耐圧耐熱容器の一例を図1(b)に示す。前記両図において、同一部分には同一符号を付している。
【0034】
図1(a)に示すように、前記製造装置は、ガス供給装置1と、圧力調整器3と、密閉耐圧耐熱容器15と、反応容器17と、加熱装置16と、排気装置14とを、主要構成要素として備えている。ガス供給装置1には、原料ガスとして窒素含有ガスが充填されており、パイプ2を介して圧力調整器3に接続されている。圧力調整器3は、原料ガスを最適なガス圧に調整する機能を有し、パイプ4およびバルブ5を介して脱着可能な継手7に接続されている。また、パイプ4の一部(同図において波線で示す部分)は、耐圧フレキシブルホースで形成されており、継手7の位置や向きを自由に変えることが可能である。さらに、パイプ4は途中でパイプ11に分岐し、パイプ11はバルブ13およびパイプ12を介して排気装置14に接続されている。反応容器17の内部には、密閉耐圧耐熱容器15が収容可能である。反応容器17は、加熱装置16によって加熱可能である。反応容器17は、継手7と脱着できる構造となっている。一方、ゲージポート8は、パイプ4の継手7の近傍に接続されており、真空計、圧力計、露点計、酸素計などを必要に応じて接続できる。加熱装置16としては、例えば、断熱材およびヒータから構成される電気炉などを用いることができる。また、加熱装置16は、特に、ナトリウムフラックスの凝集を防止する観点から、密閉耐圧耐熱容器15および加熱装置16内の耐熱パイプ10の部分は、温度が均一に保持されるように温度管理をすることが好ましい。加熱装置16によって、反応容器17内の温度を、例えば、600℃(873K)〜1100℃(1373K)に制御できる。圧力調整器3によって、反応容器17内の窒素含有ガス圧力を、100気圧(100×1.013×105Pa)以下の範囲で制御できる。さらに、加熱装置16は揺動機能を有していてもよく、この場合は、反応容器17および密閉耐圧耐熱容器15を揺動可能となる。
【0035】
つぎに、図1(b)に示すように、密閉耐圧耐熱容器15の中には、結晶成長容器18が配置される。前記結晶成長容器18の中には、種結晶基板20、ガリウムおよびナトリウムを入れることができる。同図に示すように、種結晶基板20は、立てた状態で結晶成長容器18内に配置することが好ましいが、本発明ではこれに限定されず、例えば、結晶成長面を上にし、かつ横に寝かせた状態で種結晶基板20を配置してもよい。同図において、21は、加熱溶融して生成したナトリウムフラックスを示す。
【0036】
結晶成長容器18に使用する材質は、特に制限されないが、例えば、アルミナ(Al23)、イットリア(Y23)、BN、PBN、MgO、CaO、W、SiC、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンなどの炭素系材料などが使用できる。特に、アルミナまたはイットリアは、高温下でもフラックスへの酸素、アルミニウムまたはイットリウムの融解が少ないため、不純物の少ない窒化ガリウム結晶を成長させることができ、さらに、耐久性が高く再利用が可能なため好ましい。
【0037】
また、密閉耐圧耐熱容器15に使用する材質は、例えば、SUS316などのSUS系材料、インコネル、ハステロイもしくはインコロイなどのニッケル系合金などの高温に耐性のある材料が使用できる。特に、インコネル、ハステロイもしくはインコロイなどの材料は、高温高圧化における酸化に対しても耐性があり、不活性ガス以外の雰囲気でも利用でき、再利用、耐久性の点から好ましい。
【0038】
前記製造装置を用いた窒化ガリウム結晶の製造は、例えば、つぎのようにして実施する。
まず、準備工程について説明する。
【0039】
準備工程は、ナトリウムの酸化や水酸化を防止するために、酸素濃度と水分含有量が管理された窒素ガスやアルゴンなどの不活性ガス雰囲気を有するグローブボックス中で作業することが好ましい。不活性ガスの酸素濃度(容積比)は、5ppm以下が好ましく、さらには1ppm以下が好ましい。また、不活性ガスの水分含有量(容積比)は、3ppm以下が好ましく、さらには、0.5ppm以下が好ましい。不活性ガスにおいて、特に、酸素濃度が1ppm以下かつ、水分含有量(容積比)が0.5ppm以下であれば、ナトリウム表面の酸化や水酸化が数時間程度では進行しないため、より好ましい。
【0040】
準備工程の作業は、まず、結晶成長容器18内に、ガリウム、種結晶基板20、第1の炭化水素で被覆されたナトリウムを入れる。第1の炭化水素は、常温(例えば、25℃)で、液体、固体、または液体と固体の混合状態であるものが好ましい。なかでも、常温(例えば、25℃)で、液体であるものがより好ましい。液体の第1の炭化水素が、常温で固体である場合、加熱して液状化させて用いる。第1の炭化水素によるナトリウムの被覆方法は、例えば、つぎのようにして実施する。すなわち、まず、ナトリウムの酸化や水酸化した部分を除去し、さらに、ガリウム(Ga)との質量比が適量になるように秤量する。その後、ナトリウムを液体の第1の炭化水素に浸漬した後、引き上げることにより被覆する。この場合、所望により、液体の第1の炭化水素に浸漬した後、酸化や水酸化した部分のナトリウムを除去し、その後、液体の第1の炭化水素から引き上げて被覆する方法などがある。
【0041】
本発明において、ナトリウムは、不均一な核発生の抑制および結晶品質の確保の点から高純度のものが望ましく、具体的には、純度は99%以上、さらには99.95%以上が好ましい。ガリウムの純度も同様に、99%以上が好ましく、さらには99.9%以上が好ましい。ナトリウム(Na)とガリウム(Ga)との質量比(Na:Ga)は、窒素の溶解度との関係で、Na:Ga=4:1〜1:4の範囲が好ましく、さらには、Na:Ga=2:1〜1:2の範囲が好ましい。ナトリウムとガリウムの合計質量は、結晶成長容器18内において、フラックス21の液面から下に種結晶基板20が位置するように設定することが好ましい。結晶成長容器18内において、種結晶基板20の最も高い位置は、前記フラックス21の液面から0mm〜40mmの範囲で下に位置することが好ましく、さらに好ましくは、2mm〜20mmの範囲で下に位置することが好ましい。
【0042】
本発明において、種結晶は、単結晶、多結晶、非晶質(アモルファス)のいずれであってもよいが、単結晶もしくは非晶質が望ましい。また、種結晶の形態は、特に制限されないが、種結晶基板が好ましい。種結晶基板としては、例えば、窒化ガリウムの単結晶基板、もしくは窒化ガリウムの薄膜基板の形態が望ましい。窒化ガリウムの薄膜基板は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)、ハイドライド気相成長法(HVPE法)、分子線エピタキシー法(MBE法)などにより、サファイアなどの基板上に窒化ガリウム薄膜を形成したものである。温度上昇時に、フラックスの温度が700℃を超えると、急激に、窒素を溶解できる量が増加するため、窒化ガリウム薄膜が薄いと、雰囲気ガスからの窒素の供給が追いつかず、フラックスが極端な窒素不足の状態になり、そのため、種結晶基板の窒化ガリウムが溶解(メルトバック)する恐れがある。従って、窒化ガリウム薄膜は、厚い方がよい。具体的には、窒化ガリウム薄膜の厚みは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
【0043】
本発明において、被覆に用いる第1の炭化水素は、例えば、鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、および、これらの組み合わせ、ならびに、これらの混合物が挙げられる。常温において、ナトリウムの酸化や水酸化を防止する効果を維持する観点から、炭化水素は、水分および酸素を含まないことが好ましい。また、第1の炭化水素の沸点の下限は、常温より高いことが好ましく、より好ましくは50℃以上である。また、第1の炭化水素は、結晶成長工程の前工程での蒸発除去の観点から、その沸点がその分解点よりも低いものが好ましい。したがって、例えば、第1の炭化水素が鎖式構造の炭化水素を含有する場合、第1の炭化水素の沸点は、鎖式構造の炭化水素の分解温度である300℃より低い温度が好ましい。第1の炭化水素としては、炭素数6〜14の鎖式炭化水素が好ましく、具体的には例えば、ヘキサン(C614:沸点69℃)、ヘプタン(C716:沸点98℃)、オクタン(C818:沸点126℃)、ノナン(C920:150.8℃)、デカン(C1022:沸点174℃)、ウンデカン(C1124:196℃)、ドデカン(C1226:沸点216.3℃)、テトラデカン(C1430:沸点253.5℃)など、および、これらの混合物等のパラフィンが挙げられる。この他の好ましい例としては、前記下限および上限の範囲の沸点を有する第1の炭化水素としては、工業用材料である軽ケロシン(沸点120℃〜150℃)が挙げられる。これらの炭化水素は、単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。これらの中で、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、軽ケロシンがより好ましい。
【0044】
つぎに、結晶成長容器18に、第2の炭化水素を入れる。第2の炭化水素は、常温(例えば、25℃)で、液体、固体または液体と固体の混合状態が好ましい。
本発明において、第2の炭化水素として、沸点が第1の炭化水素の沸点より高い炭化水素を用いる。これは、不均一な核発生による雑晶を抑制する観点から、結晶成長を開始する前に、アルカリ金属を被覆している第1の炭化水素を蒸発除去した後においても、第2の炭化水素は、結晶成長容器18に残存する必要があるからである。前記第2の炭化水素としては、例えば、鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、および、これらの混合物が挙げられる。また、結晶成長温度において、アルカリ金属の融液(フラックス)中に、炭化水素が、精度良く(すなわち、雑晶を抑制し、かつ種結晶基板の窒化ガリウム薄膜のメルトバックが生じない量で)残存する必要性があるため、第2の炭化水素の沸点は、第1の炭化水素の鎖式構造の炭化水素の分解温度である300℃より高い温度が好ましい。このような沸点を有する第2の炭化水素は、結晶成長容器内の加圧加熱時に、分解される。このような沸点を有する炭化水素としては、例えば、沸点300℃以上のパラフィンが挙げられ、このようなパラフィンとしては、例えば、ペプタデカン(沸点302℃)、オクタデカン(沸点317℃)、ノナデカン(沸点330度)、イコサン(沸点342℃)、トリアコタン(沸点449.8℃)、ワセリン(沸点302℃)、流動パラフィン(沸点170〜340℃)、固体パラフィン(沸点300℃以上)などが挙げられ、これらは、単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。これらの中で、常温で固体のものは、オクタデカン、ナノデカン、イコサン、トリアコタン、固体パラフィンである。また、常温で液体ものは、沸点300℃以上のペプタデカン、流動パラフィンである。これらの中で、好ましいのは、常温で蒸気圧が低く、液体で秤量しやすい流動パラフィンである。
【0045】
前述のように、本発明において、第2の炭化水素に代えて、もしくは第2の炭化水素に加え(併用して)、炭素を結晶成長容器に添加しもよい。前記炭素は、例えば、カルビン、グラファイト、ダイヤモンド、および、これらの混合物が挙げられる。特に、秤量のしやすさ、物質の安定性、純度の面からグラファイト性の炭素が好ましく、具体的には、微粒子状態のカーボンブラックや固体状の等方性高純度グラファイトなどが好ましい。炭素の添加量は、例えば、下記第2の炭化水素の添加量と同じとすればよい。
【0046】
第2の炭化水素の使用量の下限は、ナトリウム100質量部に対し、0.03質量部(%)以上が好ましく、より好ましくは、0.05質量部(%)以上である。
一方、第2の炭化水素の添加量の上限は、下記のように、種結晶として窒化ガリウム単結晶の自立基板(単独基板)を用いる場合と、窒化ガリウムの薄膜基板を用いる場合とに分けて、適宜決定することが好ましい。
【0047】
種結晶として窒化ガリウム単結晶の自立基板(単独基板)を用いる場合、第2の炭化水素の添加量上限は、ナトリウム100質量部に対し、1質量部(%)以下が好ましい。1%を超えると、得られる窒化ガリウム結晶において、欠陥の増加や着色などの品質低下の原因となるおそれがあるからである。
【0048】
一方、種結晶として窒化ガリウムの薄膜基板(例えば、窒化ガリウム薄膜の厚みが10μm程度)を用いる場合、第2の炭化水素の添加量上限は、ナトリウム100質量部に対し、0.8質量部(%)以下が好ましく、より好ましくは、0.4質量部(%)以下である。これは、第2の炭化水素による窒化ガリウム薄膜のメルトバックを防止するためである。なお、「メルトバック」とは、前述のように、結晶成長初期にナトリウムフラックスの温度が上昇すると、ナトリウムフラックス中に溶解できる窒素量が急激に上昇する反面、ナトリウムフラックスへの窒素の溶け込みが遅れ、そのため種結晶の窒化ガリウムを溶解することである。この溶解量が多いと、例えば、窒化ガリウムの薄膜基板を種結晶として用いる場合、窒化ガリウム薄膜が溶解してなくなる(過剰溶解または過剰メルトバックする)場合がある。メルトバックの発生メカニズムは、例えば、つぎのように推測される。窒化ガリウムの薄膜基板に結晶成長させる場合、添加量上限を超える第2の炭化水素を添加すると、ナトリウムフラックス中の窒素(N)の一部が第2の炭化水素中の炭素(C)の一部と結合し、シアン化物イオン(CN-)を生成する。このため、結晶成長初期にナトリウムフラックス中の窒素が不足する時間が長くなり、その結果、種結晶の窒化ガリウムが溶解しやすくなる。従って、種結晶として窒化ガリウムの薄膜基板を用いる場合は、炭化水素の添加量を上述の範囲にすることが好ましい。なお、窒化ガリウム薄膜の厚みが10μmより厚い場合は、薄膜の厚みにほぼ比例して添加量の上限を増やすことが好ましく、窒化ガリウムの厚みが10μmより薄い場合は、厚みに比例して上限を下げることが好ましい。また、前記メルトバックの発生メカニズムは推測であり、本発明を何ら限定しない。
【0049】
つぎに、各種原料を入れた結晶成長容器18を、密閉耐圧耐熱容器15内に配置する。その後、前記密閉耐圧耐熱容器15の上部に、バルブ9が取り付けられたパイプ10の一端を連結して反応容器17を組み立てる。ついで、パイプ10の他端を継手7と接続する。その後、雰囲気ガスが混入しないようにバルブ9を閉める。ここまでを準備工程とする。
【0050】
つぎに、反応容器17を不活性ガス雰囲気のグローブボックスから取り出し、密閉耐圧耐熱容器15を加熱装置16内に配置し、継手7をパイプ4に接続する。その後、バルブ13を開いて、排気装置14により、パイプ4から密閉耐圧耐熱容器15の中の不活性ガスを排気する。
【0051】
つぎに、加熱装置16により密閉耐圧耐熱容器15を加熱して第1の炭化水素を沸騰させ、その蒸気を排気することで、第1の炭化水素の除去を行う。密閉耐圧耐熱容器15の加熱温度は、第1の炭化水素の常圧時の沸点より高くすることが望ましい。一方、炭化水素が加熱分解して炭素などを生成しないことが望ましく、そのためには、前記加熱温度は、第1の炭化水素の分解点よりも低いものが好ましい。したがって、例えば、第1の炭化水素が鎖式構造の炭化水素を含有する場合、前記加熱温度は、鎖式構造の炭化水素の分解温度である300℃より低い温度が好ましい。また、第1の炭化水素の沸点が、排気による減圧で常圧時の沸点より下がっている場合は、密閉耐圧耐熱容器15の加熱温度を減圧下の沸点まで下げてもよい。ここで、第1の炭化水素が完全に除去するまでの時間は、第1の炭化水素の種類により異なるため、予め、加熱温度、排気時間および結晶成長容器18内の炭化水素の残量を計測することで決定してもよい。この他、ゲージポート8に真空計を接続し、予め第1の炭化水素を除いた状態で測定した真空度とほぼ同じ値になった時点で、第1の炭化水素の除去が完了したと判断してもよい。
【0052】
つぎに、ガス供給装置1から窒素含有ガスを密閉耐圧耐熱容器15内に導入して加圧し、さらに、加熱装置16により密閉耐圧耐熱容器15を結晶成長温度まで加熱することで、第2の炭化水素の存在下、窒化ガリウム結晶を成長させる。そして、原料として投入したガリウムの約70%〜95%が窒化ガリウム結晶として析出する時点で、結晶成長を終了し、結晶成長容器18から種結晶基板20を取り出す。種結晶基板20の結晶成長面上に、目的とする窒化ガリウム結晶が成長している。
【0053】
本発明の製造方法に用いる製造装置の構成のその他の例を、図4に示す。以下、図4について特に言及しない事項は、前述の図1に示す製造装置と同じである。
図4に示すように、前記製造装置は、チャンバー60と、反応容器80と、結晶成長容器(坩堝)82と、チャンバー蓋61と、ガス流量調節器62と、圧力調整器68と、加熱装置(ヒータ)70と、断熱材72とを主要構成要素として備えている。チャンバー60の内部は、反応容器80、坩堝82、ヒータ70および断熱材72を収容可能である。前記ガス流量調節器62は、一端がガス供給装置(図示せず)に接続され、他端が継手64およびバルブ65を介して反応容器80に接続されている。反応容器80の内部には、坩堝82を収容可能である。反応容器80は、ヒータ70によって加熱可能である。反応容器80は、継手64と脱着できる構造となっている。
【0054】
前記製造装置を用いた窒化ガリウム結晶の製造は、例えば、つぎのようにして実施する。
すなわち、まず、グローブボックス内部(図示せず)に反応容器80、坩堝82、ガリウム86、ナトリウム84を入れて原料チャージを行う。具体的には、まず、坩堝82の中に種結晶基板88をセットする。つぎに、ナトリウム84、ガリウム86を、秤量して坩堝82内に配置する。さらに、ナトリウム86は、前述の図1に示す製造装置を用いた場合と同様に、表面の酸化物、不純物を除去した後、第1の炭化水素(例えば、軽ケロシン)でコーティングし、坩堝82の内部に設置する。また、第2の炭化水素(例えば、炭素または固体パラフィン)を適量添加する。さらにグローブボックス内で原料セットした坩堝82を反応容器80にセットする。ここで、グローブボックス内でガス導入口側のバルブ65とガス放出側のバルブ66を閉じ、大気中に反応容器80を取り出しても坩堝82内のナトリウム84の酸化のないようにする。さらに、チャンバー蓋61をあけ、継手64を介して反応容器80を製造装置にセットする。この後、ガス流量調節器62を介して、原料ガス(ここでは窒素ガス)を流す。このとき、バルブ65とバルブ66を開き、反応容器80内部に窒素ガスをフローさせる。この状態で、チャンバー蓋61をとじ、チャンバー60内部を真空排気する。所定の真空度に到達した時、ガス流量調節器62を一度閉じ、チャンバー60内部を高真空に排気する。その後、原料ガスを再度流しながら真空排気を行い、反応容器80の坩堝82内にある第1の炭化水素(例えば、軽ケロシン)を除去する。
【0055】
第1の炭化水素が軽ケロシンのように沸点が低いものである場合には、室温においてもガスフローや真空引きを行うことにより排除可能であるが、時間を短縮するために、例えば、100〜200℃で30分〜2時間程度保持し、かつ窒素ガスフローを行いながら第1の炭化水素を蒸発させることが好ましい。また、第1の炭化水素がドデカンやテトラデカンなどのように沸点が150℃を超えるものである場合には、常温で窒素ガスをフローしながら真空置換した場合では短時間で十分に除去できない場合がある。その場合には、一度200℃〜300℃に反応容器80を加熱保持し(例えば1時間〜2時間)、さらに窒素ガスフローを続けることで、坩堝82内部の第1の炭化水素を除去することができる。
【0056】
つぎに、第2の炭化水素を適度に残し、結晶成長容器内を加圧加熱して、所望の結晶成長温度と成長圧力に調整する。結晶成長条件(加圧加熱条件)は、例えば、成長温度800〜900℃、成長圧力2.5〜4.5MPa、好ましくは、成長温度850〜870℃、成長圧力3.4〜3.8MPaである。
【0057】
(実施形態2)
本実施形態は、前記第2の製造方法において、ナトリウムをフラックスとして用い、窒化ガリウム結晶を成長させた例である。すなわち、本実施形態では、前記結晶成長容器に、前記種結晶と、前記第1の炭化水素および前記第2の炭化水素の混合物で被覆されたナトリウムと、ガリウムとを入れ、ついで、前記第1の炭化水素を除去し、その後、前記第2の炭化水素の存在下、前記結晶成長容器を加圧加熱してナトリウムフラックス中で、前記種結晶を核として窒化ガリウム結晶を成長させる。以下、本実施形態で特に言及しない事項は、前述の実施形態1と同じである。
【0058】
本発明の前記第2の製造方法において、アルカリ金属の被覆に用いる第1の炭化水素と第2の炭化水素の混合物の量を調整することが好ましい。例えば、被覆に用いる前記混合物の量は、アルカリ金属の形状や被覆の状態で異なる場合があるため、準備工程では、被覆に用いた前記混合物の量を測定し、第2の炭化水素の量が適切な範囲になるように調整してもよい。第2の炭化水素の量の調整は、例えば、前記混合物の質量を計測し、その結果から、第2の炭化水素を除去または追加することによって実施できる。また、前記第2の製造方法は、第1の炭化水素と第2の炭化水素の混合物をアルカリ金属の被覆に用いるため、被覆に用いる第1の炭化水素の量を削減することが可能となる。そのため、第1の炭化水素の除去時間の短縮や結晶成長中の第1の炭化水素の残渣の影響を抑制することが可能となるという利点がある。
【0059】
本実施形態の製造方法では、例えば、前述の実施形態1と同様に、図1(a)および(b)に示す製造装置および結晶成長容器を使用することができる。以下、図1(a)および(b)に示す製造装置および結晶成長容器を用いた本実施形態の窒化ガリウム結晶の製造方法の一例について説明する。
【0060】
すなわち、まず、ナトリウムの被覆に用いる第1の炭化水素と第2の炭化水素の混合物を準備する。この混合物を用いてナトリウムを被覆する。ナトリウムの被覆方法は、例えば、ナトリウムを液体の前記混合物に浸漬したのち引き上げ被覆する方法、および、液体の前記混合物に浸漬し、ナトリウムの酸化部分および水酸化部分を除去し、ついで、引き上げて被覆する方法などがある。ここで、前記混合物に固体が存在する場合は、加熱より、液体化してから用いることができる。つぎに、結晶成長容器18内に、ガリウム、種結晶基板20、および第1の炭化水素と第2の炭化水素の混合物で被覆されたナトリウムを入れる。
【0061】
本実施形態において、第1の炭化水素および第2の炭化水素については、前述の実施形態1で記載したものと同様のものが用いることができる。第1の炭化水素と第2の炭化水素との混合比は、ナトリウムに付着し被覆する混合物において、第2の炭化水素の質量が適量になるように調整することが好ましい。例えば、予め、第1の炭化水素と第2の炭化水素の質量比が異なる混合物を数種類準備し、被覆するナトリウムとほぼ同量のナトリウムに被覆し、被覆前と被覆後のナトリウムの質量の差を計測することで、第2の炭化水素の質量が適量になる混合比を求めることができる。この他、第2の炭化水素の質量比を低めに設定しておき、ナトリウムの被覆前と被覆後の質量差を計測することで第2の炭化水素の質量を求め、第2の炭化水素の不足分を追加することもできる。
【0062】
種結晶として窒化ガリウム単結晶の自立基板(単独基板)を用いる場合、前記混合物における第2の炭化水素の添加量上限は、ナトリウム100質量部に対し、1質量部(%)以下が好ましい。1%を超えると、得られる窒化ガリウム結晶において、欠陥の増加や着色などの品質低下の原因となるおそれがあるからである。
【0063】
一方、種結晶として窒化ガリウムの薄膜基板(例えば、窒化ガリウム薄膜の厚みが10μm程度)を用いる場合、前記混合物における第2の炭化水素の添加量上限は、ナトリウム100質量部に対し、0.8質量部(%)以下が好ましく、より好ましくは、0.4質量部(%)以下である。これは、第2の炭化水素による窒化ガリウム薄膜のメルトバックを防止するためである。なお、窒化ガリウム薄膜の厚みが10μmより厚い場合は、薄膜の厚みにほぼ比例して添加量の上限を増やすことが好ましく、窒化ガリウムの厚みが10μmより薄い場合は、厚みに比例して上限を下げることが好ましい。
【0064】
つぎに、各種原料を入れた結晶成長容器18を、密閉耐圧耐熱容器15内に配置する。その後、前記密閉耐圧耐熱容器15の上部に、バルブ9が取り付けられたパイプ10の一端を連結して反応容器17を組み立てる。ついで、パイプ10の他端を継手7と接続する。その後、雰囲気ガスが混入しないようにバルブ9を閉める。ここまでの準備工程は、ナトリウムの酸化や水酸化を防止するために、酸素濃度と水分含有量が管理された窒素ガスやアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で作業することが好ましい。不活性ガスの酸素濃度(容積比)は、5ppm以下が好ましく、さらには1ppm以下が好ましい。また、不活性ガスの水分含有量(容積比)は、3ppm以下が好ましく、さらには、0.5ppm以下が好ましい。不活性ガスにおいて、特に、酸素濃度が1ppm以下かつ、水分含有量(容積比)が0.5ppm以下であれば、ナトリウム表面の酸化や水酸化が数時間程度では進行しないため、より好ましい。
【0065】
つぎに、反応容器17を不活性ガス雰囲気から取り出し、密閉耐圧耐熱容器15を加熱装置16内に配置し、継手7をパイプ4に接続する。その後、バルブ13を開いて、排気装置14により、パイプ4から密閉耐圧耐熱容器15の中の不活性ガスを排気する。
【0066】
つぎに、加熱装置16により密閉耐圧耐熱容器15を加熱して第1の炭化水素を沸騰させ、その蒸気を排気することで、第1の炭化水素の除去を行う。密閉耐圧耐熱容器15の加熱温度は、第1の炭化水素の常圧時の沸点より高く、かつ第2の炭化水素の常圧時の沸点より低くすることが望ましい。一方、炭化水素が加熱分解して炭素などを生成しないことが望ましく、そのためには、前記加熱温度は、第1の炭化水素の分解点よりも低いものが好ましい。したがって、例えば、第1の炭化水素が鎖式構造の炭化水素を含有する場合、前記加熱温度は、鎖式構造の炭化水素の分解温度である300℃より低い温度が好ましい。また、第1の炭化水素の沸点が、排気による減圧で常圧時の沸点より下がっている場合は、密閉耐圧耐熱容器15の加熱温度を減圧下の沸点まで下げてもよい。ここで、第1の炭化水素が完全に除去するまでの時間は、第1の炭化水素の種類により異なるため、予め、加熱温度、排気時間および結晶成長容器18内の炭化水素の残量を計測することで決定してもよい。この他、ゲージポート8に真空計を接続し、予め第1の炭化水素を除いた状態で測定した真空度とほぼ同じ値になった時点で、第1の炭化水素の除去が完了したと判断してもよい。
【0067】
つぎに、ガス供給装置1から窒素含有ガスを密閉耐圧耐熱容器15内に導入して加圧し、さらに、加熱装置16により密閉耐圧耐熱容器15を結晶成長温度まで加熱することで、第2の炭化水素の存在下、窒化ガリウム結晶を成長させる。そして、原料として投入したガリウムの約70%〜95%が窒化ガリウム結晶として析出する時点で、結晶成長を終了し、結晶成長容器18から種結晶基板20を取り出す。種結晶基板20の結晶成長面上に、目的とする窒化ガリウム結晶が成長している。
【0068】
(実施形態3)
つぎに、本発明のIII族元素窒化物結晶について、説明する。本発明のIII族元素窒化物結晶は、前述のように、本発明の製造方法により製造されたものである。本発明のIII族元素窒化物結晶は、波長400nm以上620nm以下の光の光吸収係数が、10cm-1以下である。光吸収係数は、好ましくは、5cm-1以下である。なお、光吸収係数の下限は、0を超える値(例、0.01cm-1)である。本発明のIII族元素窒化物結晶は、転位密度が5×105cm-2以下である。また、本発明の製造方法により製造されたIII族元素窒化物結晶は、炭素を含んでいてもよい。例えば、本発明のIII族元素窒化物結晶は、SIMS分析において、5×1017(cm-3)以下の炭素を含んでいてもよい。本発明のIII族元素窒化物結晶において、III族元素は、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも一つの元素であり、III族元素窒化物は、AlsGatIn(1-s-t)N(ただし、0≦s≦1、0≦t≦1、s+t≦1)で表される化合物であることが好ましい。本発明III族元素窒化物結晶は、窒化ガリウム結晶であることが好ましい。
【0069】
(実施形態4)
本発明の半導体装置形成用基板は、本発明のIII族元素窒化物結晶を含む。本発明の半導体装置は、本発明の半導体装置形成用基板上に半導体層が形成されている構成を有する。前記半導体層としては、特に限定されるものではなく、例えば、AlsGatIn(1-s-t)Nで表わされる化合物半導体から形成された層であってもよい。前記半導体層は、単層または積層構造のいずれであってもよい。本発明の半導体装置の種類は、特に制限されず、例えば、レーザダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)などが挙げられる。
【0070】
図5を用いて、本発明の半導体装置形成用基板の一例について説明する。本例の半導体装置形成用基板は、自立窒化ガリウム基板である。この自立窒化ガリウム基板は、つぎのようにして製造したものである。すなわち、まず、図5(a)に示すように、サファイア基板100上に気相成長した約10μmの厚みの窒化ガリウム結晶102をもつ種結晶基板を準備する。ついで、図5(b)に示すように、前記種結晶基板上に、本発明の製造方法により窒化ガリウム結晶104を成長させる。つぎに、図5(c)に示すように、前記種結晶基板を研磨除去した後、成長結晶104の成長面を機械研磨やケミカルメカニカル研磨することにより、自立窒化ガリウム基板106を得る。
【0071】
図6を用いて、本発明の半導体装置形成用基板のその他の例について説明する。本例の半導体装置形成用基板は、図5(c)に示す自立窒化ガリウム基板106を種結晶基板として得た多数枚の自立窒化ガリウム基板である。この自立窒化ガリウム基板は、つぎのようにして製造したものである。すなわち、まず、図6(a)に示すように、自立窒化ガリウム基板106を準備する。ついで、図6(b)に示すように、前記自立窒化ガリウム基板106上に、本発明の製造方法により窒化ガリウム結晶108を成長させる。つぎに、図6(c)に示すように、前記自立窒化ガリウム基板106を除去し、ワイアソーで所望の厚みにスライスして、裏面研磨、表面研磨を行うことで、多数枚(本例では3枚)の自立窒化ガリウム基板110を得る。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例について説明する。実施例1、比較例1および実施例2における各種特性および物性は、下記の方法により評価若しくは測定した。
(1)窒化ガリウムの生成確認
窒化ガリウムの生成確認は、元素分析(EDX)およびフォトルミネッセンス測定(PL)により行った。元素分析は、電子顕微鏡より試料の位置を確認しながら、加速電圧15kVの電子照射により行った。また、フォトルミネッセンス測定は、常温でヘリウム・カドミウムレーザ光照射により行った。
【0073】
(2)生成量
生成量は、結晶生成量と雑晶生成量とに区分し、以下の方法で測定した。結晶生成量は、結晶成長後の種結晶(結晶成長部分を含む)の質量から予め測定しておいた種結晶基板単体の質量を減算して求めた。また、雑晶生成量は、結晶成長容器の内面に付着した結晶を集めて質量を測定して求めた。
【0074】
(3)窒化ガリウム(GaN)の収率
窒化ガリウム(GaN)の収率は、投入したガリウムの質量に対する、種結晶基板上に成長した量(=結晶生成量)のガリウムに相当する質量の割合を求めた。
【0075】
(4)不純物面積比
不純物面積比は、結晶成長部分の中央の7mm角を評価した。不純物が混入している面積を画像処理にて求め、前記7mm角の面積に対する割合として求めた。
【0076】
(実施例1、比較例1)
図1に示す製造装置および結晶成長容器を用い、前述の実施形態1と同じ手法により、5つの条件(実施例1−1〜2、比較例1−1〜3)で窒化ガリウム結晶を製造した。共通の製造条件を、下記に示す。
【0077】
(共通製造条件)
種結晶 :窒化ガリウムの薄膜基板
寸法 :14mm×15mm窒化ガリウム薄膜(膜厚:10μm)
原料ガス種 :窒素ガス(N2)、純度99.999%
ナトリウム :質量2.3g、純度99.9〜99.99%
ガリウム :質量2.0g、純度99.999〜99.99999%
第1の炭化水素における軽ケロシン:
比重0.8g/cm3、沸点120〜150℃
第2の炭化水素における固体パラフィン:
比重0.9g/cm3、沸点300℃以上
第2の炭化水素における炭素:
比重1.0g/cm3(黒鉛)、沸点4000℃
結晶成長容器の材質:Al23(アルミナ)、純度99.9〜99.99%
成長温度 :865℃
成長圧力 :3.6MPa
成長時間 :144時間
種結晶基板設置方向:縦置き(立てた状態)
【0078】
前記共通製造条件以外の製造条件を、下記表1のようにして、実施例1−1〜2、比較例1−1〜3の窒化ガリウム結晶を得た。なお、下記表1において、HC1は、第1の炭化水素を、HC2は、第2の炭化水素を、HC2/Naは、ナトリウム100質量部に対する第2の炭化水素の質量部(%)を示す。下記表2に、実施例1−1〜2、比較例1−1〜3における各種特性および物性の評価若しくは測定結果を示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

前記表2に示すように、実施例1−1〜2、比較例1−1〜3の全てにおいて、窒化ガリウム結晶の生成を確認した。第1の炭化水素および第2の炭化水素を添加した実施例1−1〜2では、雑晶生成量が少ないことから、不均一な核発生の抑制効果を確認できた。また、実施例1−1〜2では、不純物面積比が低く、不純物の混入が少ない、すなわち高品質な窒化ガリウム結晶が得られた。一方、第2の炭化水素を添加しなかった比較例1−1〜2では、不均一な核発生によると思われる雑晶が結晶成長容器内に多く成長した。そのため、GaN収率も減少した。同様に、第2の炭化水素を添加しなかった比較例1−3でも、不均一な核発生によると思われる雑晶が結晶成長容器内に多く成長した。そのため、GaN収率も減少した。
【0081】
図2(a)、図2(b)および図2(c)に、実施例1―2、比較例1−1および比較例1−2の窒化ガリウム結晶30の写真を示す。図2(a)に示すように、第1の炭化水素でナトリウムを被覆し、さらに、第2の炭化水素として炭素を添加した実施例1−2では、窒化ガリウム結晶30の不純物面積比が極めて低く、透明な部分が多くなっており、窒化ガリウム結晶30が高品質であった。また、図2(b)に示すように、第2の炭化水素(固体パラフィン)を添加した比較例1−1では、雑晶31の発生が抑制されたが、実施例1−2には及ばなかった。さらに、図2(c)に示すように、第1の炭化水素および第2の炭化水素を添加していない比較例1−2では、雑晶31が非常に多く発生し、窒化ガリウム結晶30があまり成長しなかった。
【0082】
(実施例2)
図1に示す製造装置および結晶成長容器を用いて、前述の実施形態1と同じ手法により、3つの条件(実施例2−1〜3)で窒化ガリウム結晶を製造した。共通の製造条件を、下記に示す。
【0083】
(共通製造条件)
種結晶 :窒化ガリウムの薄膜基板
寸法 :14mm×15mm窒化ガリウム薄膜(膜厚:10μm)
原料ガス種 :窒素ガス(N2)、純度99.999%
ナトリウム :質量2.3g、純度99.9〜99.99%
ガリウム :質量2.0g、純度99.999〜99.99999%
第1の炭化水素における軽ケロシン:
比重0.8g/cm3、沸点120〜150℃
第2の炭化水素における固体パラフィン:
比重0.9g/cm3、沸点300℃以上
第2の炭化水素における炭素:
比重1.0g/cm3(黒鉛)、沸点4000℃
結晶成長容器の材質:Al23(アルミナ)、純度99.9〜99.99%
成長温度 :865℃
成長圧力 :3.6MPa
成長時間 :144時間
種結晶基板設置方向:縦置き(立てた状態)
【0084】
前記共通製造条件以外の製造条件を、下記表3のようにして、実施例2−1〜3の窒化ガリウム結晶を得た。なお、下記表3において、HC1は、第1の炭化水素を、HC2は、第2の炭化水素を、HC2/Naは、ナトリウム100質量部に対する第2の炭化水素の質量部(%)を示す。下記表4に、実施例2−1〜3における各種特性および物性の評価若しくは測定結果を示す。下記表4において、成長面積比は、種結晶基板の窒化ガリウム薄膜の面積に対する窒化ガリウム結晶が成長した割合を示す。
【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

前記表4に示すように、実施例2−1〜3の全てにおいて、窒化ガリウム結晶の生成を確認した。また、実施例2−1〜3において、比較例1−1〜3と比較して第2の炭化水素添加による雑晶生成抑制効果の向上を確認した。一方、成長面積比は、実施例2−1〜3全てにおいて、成長面積比が95%以上で結晶成長初期の窒素ガリウム薄膜の溶解(過剰メルトバック)が抑制されており、良好な結果が得られた。実施例2−1〜3の第2の炭化水素の添加量は、ナトリウムに対する質量比で、0.03%〜0.8%であり、この質量比の範囲は好ましいといえた。
【0087】
図3に、実施例2−1の窒化ガリウム結晶32の写真を示す。図3に示すように、第2の炭化水素を0.1%添加した実施例2−1では、窒化ガリウムが種結晶基板のほぼ全面に成長しており、窒化ガリウム薄膜の過剰メルトバックはほとんどなかった。また、成長した結晶は、透明度が高く不純物の噛み込みも少なかった。成長面積比は100%程度で、不純物面積比は、18%であった。
【0088】
実施例2−1の窒化ガリウム結晶の光吸収係数を計測した。まず、光吸収係数の測定にあたり、研削により窒化ガリウム結晶の裏面の種結晶(サファイア基板)を完全に除去し、表面側も研削し厚みを500μmとした。さらに、仕上げとして、表裏両面を0.25μmのダイヤの研磨で仕上げた。その後、分光器を用いて、窒化ガリウム結晶の透過光のスペクトルを測定し、窒化ガリウム結晶の表面のフレネル反射の、効果を差し引いて吸収係数を求めた。結果を表5に示す。
【0089】
【表5】

表5に示すように、窒化ガリウム結晶の光吸収係数は、波長400nm以上600nm以下の領域において10cm−1以下であった。
【0090】
次に、実施例2−1の窒化ガリウム結晶に関してEPD(転位密度、エッチピット密度)測定とCL(カソードルミネッセンス)測定をおこなった。エッチング条件は以下のようである。
エッチング剤:NaOH、
エッチング温度:500〜550℃
エッチング時間:30分〜1時間
【0091】
エッチピット数の計測は、光学顕微鏡と電子顕微鏡の2つの方法で行った。光学顕微鏡を用いる方法では、倍率100倍〜500倍で、電子顕微鏡の場合は100〜5000倍で観測をおこなった。任意の5点(2mm間隔)に関して、80μm角エリア内の転位密度をカウントし、その最大値を転位密度とした。結果を表6に示す。
【0092】
【表6】

表6より、光学顕微鏡および電子顕微鏡ともEPDは5×105cm-2以下であった。
【0093】
次に上記と同じ実施例2−1結晶に関して、転位密度をさらに確認するために、実施例2−1のエッチング前のGaN結晶から切り出したサンプルに関して、CL(カソードルミネッセンス)測定を行った。測定エリアは任意の5箇所(2mm間隔)に関して、80μm角エリア内としCL像の暗点の数を測定した。エッチングの場合と同様、5箇所での暗点数の最大値を転位密度とした。その結果、暗点の数(転位密度)は4.5×105(cm-2)であり、エッチングで評価した転位密度とほぼ同じ値を示した。
以上の結果より、実施例2−1のGaN結晶は、転位密度5×105(cm-2)以下の、低転位の結晶であることが確認できた。
【0094】
(実施例3)
図4に示す製造装置および結晶成長容器を用い、前述の実施形態1と同じ手法により、3つの条件(実施例3−1、比較例3−1〜2)で窒化ガリウム結晶を製造した。共通の製造条件を、下記に示す。
【0095】
(共通製造条件)
種結晶基板 :図5(a)に示す2インチφ(50.8mmφ)のサファイア基板
100上に気相成長した約10μmの窒化ガリウム薄膜102を持
つ窒化ガリウムの薄膜基板
原料ガス種 :窒素ガス(N2)、純度99.999%
ナトリウム :純度99.9〜99.99%
ガリウム :純度99.999〜99.99999%
第1の炭化水素における軽ケロシン:
比重0.8g/cm3、沸点120〜150℃
第2の炭化水素における固体パラフィン:
比重0.9g/cm3、沸点300℃以上
第2の炭化水素における炭素:
比重1.0g/cm3(黒鉛)、沸点4000℃
結晶成長容器の材質:Al23(アルミナ)、純度99.9〜99.99%
成長温度 :865℃
成長圧力 :3.6MPa
成長時間 :144時間
種結晶基板設置方向:結晶成長容器底固定(結晶成長面を上にし、かつ横に寝かせた状
態)
【0096】
下記表7に、前記共通製造条件以外の製造条件および実施例3−1、比較例3−1〜2における各種特性および物性の評価若しくは測定結果を示す。ここで、比較例3−2は、第1の炭化水素を除去せずに結晶成長させた場合の例である。
【0097】
【表7】

前記表7に示すように、第1の炭化水素および第2の炭化水素を添加した実施例3−1では、種結晶基板上に液相成長した厚み2〜2.5mm程度のGaN結晶104を再現性よく成長することが可能であった。このように、ナトリウムを第1の炭化水素で被覆し、さらに、第2の炭化水素を添加した場合は、雑晶の発生が少ないばかりでなく、結晶成長の歩留まり向上や透明性の高い結晶を再現性よく成長することが可能であった。その結果、2平方インチφ(50.8mmφ)の種結晶基板全面にGaN結晶を成長することが可能であった。一方、第1の炭化水素および第2の炭化水素を全く用いない比較例3−1では、結晶成長できる確率(歩留まり)は、実施例3−1より小さく、また成長できる結晶膜厚も1〜1.5mmと薄いものであった。これは、同一条件で成長しても、種結晶基板以外の結晶成長容器壁などに不均一な核発生(いわゆる雑晶発生)してしまうことが主な原因と考えられた。また、比較例3−1では、継手64とバルブ65に残る配管内などのわずかの残留不純物などの影響で、ナトリウム84が酸素や水分と反応する場合があった。また、第1の炭化水素を除去せずに結晶成長させた比較例3−2では、結晶成長時にメルトバックが発生したため、種結晶である窒化ガリウムの薄膜基板の全体および一部が成長しておらず、その結果、歩留まりが低下した。
【0098】
ついで、図5に示すように、液相成長したGaN結晶において、種結晶基板を研磨除去した後、GaN結晶104の成長面を機械研磨やケミカルメカニカル研磨することにより、2インチφ(50.8mmφ)の自立窒化ガリウム基板106を得ることができた。
【0099】
(実施例4)
実施例3で得られた自立窒化ガリウム基板106を、さらに種結晶基板として多数枚の自立GaN基板を製造した。図6(a)および(b)に示すように、実施例3と同一の成長条件で、成長時間を2倍として約4mmのGaN結晶108を種結晶基板(自立窒化ガリウム基板)106の上に成長することが可能であった。ここで、実施例3と同様に炭化水素を添加することで、288時間と成長時間は長いにもかかわらず、雑晶の発生のほとんどない条件で成長することが可能であった。
【0100】
得られた図6(b)の結晶の種結晶基板部を除去し、ワイアソーで厚み約1mmにスライスして、裏面研磨、表面研磨を行い、約2インチφ(50.8mmφ)で厚み400μmの自立窒化ガリウム基板110(図6(c))を取り出すことが可能であった。これらの結晶は、液晶成長した結晶を種結晶基板として用いた結晶であり、結晶性に優れ、EPD密度も1×104〜5×105cm-2の低転位なGaN自立結晶基板を得ることが可能であった。また、結晶の透明性も良好で、結晶の着色もほとんど観測されなかった。このとき、波長400nm〜620nmの光吸収係数を10cm-1とすることが可能であった。これらのことから、ナトリウムを第1の炭化水素で被覆し、さらに、第2の炭化水素を添加することにより、第1の炭化水素によりナトリウムの酸化または水酸化を防止することで、結晶の歩留や透明性の再現性を向上させ、さらに、第2の炭化水素による雑晶の発生を抑制する効果が確認された。雑晶の発生の抑制効果は、特に長時間成長が必要な、厚膜やバルク成長の時にいっそう有利である。
【0101】
前記実施例1〜4では、ドーパントを添加した例は示していないが、前述のように、n型ドーパント(Si、O、Ge、Sn)やp型ドーパント(Mg、Sr、Ba、Zn)などを適度に含んだ場合にも、前記実施例1〜4を使用することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、液相成長法によるIII族元素窒化物結晶の製造おいて、フラックスであるアルカリ金属の酸素および水との反応を防止し、かつ成長レートを向上させることができる。本発明のIII族元素窒化物結晶、それを用いた半導体装置形成用基板および半導体装置の用途は、例えば、レーザダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)などがあげられ、その用途は限定されず、広い分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1(a)は、本発明の製造方法に用いる製造装置の構成の一例を示す図であり、図1(b)は、本発明の製造方法に用いる密閉耐圧耐熱容器の一例を示す断面図である。
【図2】図2(a)は、実施例1−2の窒化ガリウム結晶の写真であり、図2(b)は、比較例1−1の窒化ガリウム結晶の写真であり、図2(c)は、比較例1−2の窒化ガリウム結晶の写真である。
【図3】図3は、実施例2−1の窒化ガリウム結晶の写真である。
【図4】実施例3で用いた製造装置の構成の一例を示す図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、実施例3における基板および結晶の状態の一例を示す模式図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、実施例4における基板および結晶の状態の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0104】
1 ガス供給装置
2、4、11、12 パイプ
3、62 圧力調整器
5、6、9、13 バルブ
7、64 継手
8 ゲージポート
10 耐熱パイプ
14 排気装置
15 密閉耐圧耐熱容器
16 加熱装置
17、80 反応容器
18、82 結晶成長容器
20、88 種結晶基板
21 フラックス
30、32、104、108 窒化ガリウム結晶
31 雑晶
60 チャンバー
61 チャンバー蓋
62 ガス流量調節器
65 ガス導入側バルブ
66 ガス放出側バルブ
70 ヒータ
72 断熱材
84 ナトリウム
86 ガリウム
100 サファイア基板
102 窒化ガリウム薄膜
104 GaN結晶
106、110 自立窒化ガリウム基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族元素、アルカリ金属およびIII族元素窒化物の種結晶を結晶成長容器に入れ、窒素含有ガス雰囲気下において、前記結晶成長容器内を加圧加熱し、前記III族元素、前記アルカリ金属および前記窒素を含む融液中で前記III族元素および前記窒素を反応させ、前記種結晶を核としてIII族元素窒化物結晶を成長させるIII族元素窒化物結晶の製造方法であって、
前記アルカリ金属は、前記結晶成長容器内の加圧加熱に先立ち、第1の炭化水素により、または前記第1の炭化水素および前記第1の炭化水素よりも沸点が高い第2の炭化水素の混合物により被覆した状態で前記結晶成長容器に入れられること、および
前記III族元素窒化物結晶の成長は、
前記アルカリ金属の被覆に使用した第1の炭化水素を前記結晶成長容器内から除去した後に、前記第2の炭化水素の存在下で、行われること
を特徴とする、III族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記結晶成長容器内の加圧加熱に先立ち、
前記第1の炭化水素は、前記アルカリ金属の被覆に使用した状態で前記結晶成長容器に入れられること、および
前記第2の炭化水素は、前記アルカリ金属の被覆とは別に前記結晶成長容器に入れられること、
を特徴とする請求項1記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記結晶成長容器内の加圧加熱に先立ち、
前記アルカリ金属は、前記第1の炭化水素および前記第2の炭化水素の混合物により被覆した状態で前記結晶成長容器に入れられること
を特徴とする請求項1記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記第2の炭化水素の沸点が、前記アルカリ金属の融点よりも高いこと
を特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記第1の炭化水素の沸点は、50℃〜300℃の範囲内にあり、および
前記第2の炭化水素の沸点は、300℃以上であること
を特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記第1の炭化水素および前記第2の炭化水素は、それぞれ、常温において、固体または液体の状態であること
を特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記第1の炭化水素および前記第2の炭化水素は、それぞれ、鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、脂環式炭化水素、および芳香族炭化水素からなる群から選択される少なくとも一つであること
を特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記第2の炭化水素に代えて、または前記第2の炭化水素に加えて炭素を用いること
を特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
前記結晶成長容器への前記第2の炭化水素の添加割合は、前記アルカリ金属100質量部に対し、前記第2の炭化水素0.03質量部以上であること
を特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項10】
前記種結晶が、III族元素窒化物の単結晶であり、かつ
前記結晶成長容器への前記第2の炭化水素の添加割合は、前記アルカリ金属100質量部に対し、前記第2の炭化水素1.0質量部以下であること
を特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項11】
前記種結晶が、基板の上に形成されたIII族元素窒化物の薄膜であり、かつ
前記結晶成長容器への前記第2の炭化水素の添加割合は、前記アルカリ金属100質量部に対し、前記第2の炭化水素0.8質量部以下であること
を特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項12】
前記III族元素は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、およびインジウム(In)から選択される少なくとも一つであり、および
前記III族元素窒化物は、AlsGatIn(1-s-t)N(ただし、0≦s≦1、0≦t≦1、s+t≦1)で表わされる化合物であること
を特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項13】
前記III族元素は、Gaであり、
前記III族元素窒化物は、GaNであり、および
前記アルカリ金属は、Naを含むこと
を特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の製造方法により得られ、
波長400nm以上620nm以下の領域にある光の光吸収係数が、10cm-1以下であり、および
転位密度が5×105cm-2以下であること
を特徴とするIII族元素窒化物結晶。
【請求項15】
請求項14記載のIII族元素窒化物結晶を含むことを特徴とする半導体装置形成用基板。
【請求項16】
基板および前記基板上に形成された半導体層を含む半導体装置であって、前記基板が、請求項14記載の基板であることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−105850(P2010−105850A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279321(P2008−279321)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】