説明

MEMS光スキャナ

【課題】可動部の機械振れ角に応じて出力が変化する受光素子を備えながらも、小型化を図れ且つ可動部の機械振れ角を大きくできるMEMS光スキャナを提供する。
【解決手段】SOI基板(半導体基板)100を用いて形成され、外側フレーム部10、ミラー面21が設けられた可動部20、一対の捩りばね部30,30を有する可動部形成基板1と、可動部形成基板1の一表面側に接合された第1のカバー基板2と、可動部形成基板1の他表面側に接合された第2のカバー基板3とを備える。可動部形成基板1の可動部20のミラー面21側に回折格子5が形成されている。第1のカバー基板2は、入射光を透過させる入射光透過部203、および、0次の回折光である反射光からなる走査光を透過させる走査光透過部204が形成されるとともに、0次以外の規定次数の回折光を受光する受光素子6が可動部形成基板1側に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS光スキャナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシニング技術などを利用して形成されるMEMS(micro electro mechanical systems)デバイスの一種として、マイクロマシニング技術などを利用して形成されて、光を反射する可動部と、可動部を駆動する駆動手段とを備え、可動部に入射する光を走査するMEMS光スキャナが各所で研究開発されている(例えば、特許文献1参照)。なお、この種のMEMS光スキャナは、例えば、レーザプロジェクタ、レーザビームプリンタ、バーコードリーダ、内視鏡、距離画像センサなどの種々の光学機器への応用が考えられている。
【0003】
ここにおいて、上記特許文献1には、図14に示すように、シリコン基板110’を用いて形成され一表面側に回折格子5’が設けられた可動部20’を有する可動部形成基板1’と、可動部形成基板1’の他表面側に接合された支持基板4’とを備えた構成のものが提案されている。ここで、可動部形成基板1’は、矩形枠状の外側フレーム部10’と、外側フレーム部10’の内側に配置されミラー面(反射面)21’に回折格子5’が設けられた矩形板状の可動部20’と、外側フレーム部10’の内側で可動部20’を挟む形で配置され外側フレーム部10’と可動部20’とを連結する一対の梁部31’,31’とを備えたMEMS光スキャナが提案されている。
【0004】
また、上記特許文献1には、図15に示すように、MEMS光スキャナの回折格子5’により互いに異なる方向に反射された第1の出射光および第2の出射光のうち第1の出射光を画像形成用の画像光(走査光)として利用し、第2の出射光をビームディテクタ600により検出して可動部20’の揺動位置を検出することにより、第1の出射光の走査位置を検出するようにした画像形成装置が提案されている。なお、第1の出射光の走査位置は、可動部20’の機械振れ角により決まるので、第2の出射光をビームディテクタ600により検出すれば、ビームディテクタ600の出力に基づいて可動部20’の機械振れ角を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−272066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図14に示した構成のMEMS光スキャナを用いた画像形成装置では、図15に示すように、MEMS光スキャナとは別にビームディテクタ600を配置する必要があるので、生産時に、光源を駆動してMEMS光スキャナとビームディテクタ600との光軸調整(アクティブアライメント)を行う必要があり、生産性が低くなってしまう。また、MEMS光スキャナの回折格子5’とビームディテクタ600との間の距離が長いので、ビームディテクタ600の受光面のサイズを大きくする必要があり、ビームディテクタ600が大型化するとともにコストが高くなってしまう。また、ビームディテクタ600が大型化すること、回折格子5’とビームディテクタ600のような受光素子との距離が長くなること、などに起因して、MEMS光スキャナを用いたシステム全体の要求サイズによっては、可動部20’の機械振れ角を制限して用いる必要が生じることも考えられる。
【0007】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、可動部の機械振れ角に応じて出力が変化する受光素子を備えながらも、小型化を図れ且つ可動部の機械振れ角を大きくできるMEMS光スキャナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、半導体基板を用いて形成され、外側フレーム部、外側フレーム部の内側に配置され一表面側にミラー面が設けられた可動部、および外側フレーム部の内側で可動部を挟む形で配置され外側フレーム部と可動部とを連結し捩れ変形が可能な一対の捩りばね部を有する可動部形成基板と、可動部形成基板においてミラー面が設けられた一表面側に接合された第1のカバー基板と、可動部形成基板の他表面側に接合された第2のカバー基板と、可動部を駆動する駆動手段とを備え、可動部形成基板の可動部のミラー面側に回折格子が形成されてなり、第1のカバー基板は、入射光を透過させる入射光透過部、および、0次の回折光である反射光からなる走査光を透過させる走査光透過部が形成されるとともに、0次以外の規定次数の回折光を受光する受光素子が可動部形成基板側に設けられてなることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、可動部形成基板の可動部のミラー面側に回折格子が形成されてなり、第1のカバー基板は、入射光を透過させる入射光透過部、および、0次の回折光である反射光からなる走査光を透過させる走査光透過部が形成されるとともに、0次以外の規定次数の回折光を受光する受光素子が可動部形成基板側に設けられているので、可動部の機械振れ角に応じて出力が変化する受光素子を備えながらも、小型化を図れ且つ可動部の機械振れ角を大きくできる。また、回折格子の0次の回折光である反射光を走査光として走査光透過部から出射させるので、可動部の機械振れ角を光学振れ角に略一致させることができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記回折格子は、平面視において格子周期方向に直交する方向を、前記各捩りばね部の並設方向に対して非平行としてあることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、前記回折格子は、平面視において格子周期方向に直交する方向を、前記各捩りばね部の並設方向に対して非平行としてあるので、前記入射光と前記走査光を含む平面から前記規定次数の回折光を分離することができ、前記規定次数の回折光を前記走査光とは分離して前記受光素子へ入射させることができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記回折格子は、前記可動部における前記ミラー面側に周期的な溝を設けることにより形成されてなることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、高い回折効率を得ることができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記回折格子は、溝形状が鋸歯状であることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、前記回折格子の回折効率を高めることができる。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記回折格子は、溝形状が矩形状であることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、請求項4の発明に比べて、前記回折格子を容易に形成することができる。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記回折格子は、相対的に反射率の高い材料からなるライン状の高反射率膜と相対的に反射率の低い材料からなるライン状の低反射率膜とが前記ミラー面に沿って交互に配列されてなることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、前記回折格子を容易に形成することができる。
【0020】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記低反射率膜がSiO膜からなり、前記高反射率膜が金属膜であることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、前記回折格子を一般的なMEMSプロセスとの整合性の良いプロセスで形成することができる。
【0022】
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7の発明において、前記規定次数が−1であることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、前記受光素子において−1次の回折光を受光するので、−2次以上の回折光を前記受光素子にて受光する場合に比べて、前記受光素子が大きくなりすぎて前記第1のカバー基板の平面サイズが大きくなって小型化が制限されるのを防止することができるとともに、前記受光素子での受光量を増加させることができる。
【0024】
請求項9の発明は、請求項1ないし請求項8の発明において、前記第1のカバー基板は、前記走査光以外の回折光が外部へ出射するのを遮光する遮光膜が形成されてなることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、前記第1のカバー基板から不要な光が出射されるのを防止することができる。
【0026】
請求項10の発明は、請求項1ないし請求項9の発明において、前記外側フレーム部と前記第1のカバー基板と前記第2のカバー基板とで囲まれた空間が真空雰囲気であることを特徴とする。
【0027】
この発明によれば、前記外側フレーム部と前記第1のカバー基板と前記第2のカバー基板とで囲まれた空間が真空雰囲気であることにより、駆動電圧の低電圧化を図りながらも前記可動部の機械振れ角を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明では、可動部の機械振れ角に応じて出力が変化する受光素子を備えながらも、小型化を図れ且つ可動部の機械振れ角を大きくできるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態1のMEMS光スキャナの概略分解斜視図である。
【図2】同上のMEMS光スキャナを示し、(a)は概略平面図、(b)は(a)のA−A’概略断面図である。
【図3】同上のMEMS光スキャナの動作説明図である。
【図4】同上のMEMS光スキャナの動作説明図である。
【図5】同上のMEMS光スキャナの要部概略断面図である。
【図6】同上のMEMS光スキャナの製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図7】同上のMEMS光スキャナの他の構成例の要部概略断面図である。
【図8】同上のMEMS光スキャナの別の構成例の要部概略断面図である。
【図9】実施形態2のMEMS光スキャナの概略分解斜視図である。
【図10】実施形態3のMEMS光スキャナの概略分解斜視図である。
【図11】同上のMEMS光スキャナの動作説明図である。
【図12】実施形態4のMEMS光スキャナの概略分解斜視図である。
【図13】同上のMEMS光スキャナの動作説明図である。
【図14】従来例のMEMS光スキャナを示し、(a)は概略斜視図、(b)は概略分解斜視図である。
【図15】同上のMEMS光スキャナを利用した画像形成装置の要部概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施形態1)
以下、本実施形態のMEMS光スキャナについて図1〜図5を参照しながら説明する。
【0031】
本実施形態のMEMS光スキャナは、半導体基板であるSOI基板100を用いて形成され、外周形状が矩形状の枠状(ここでは、矩形枠状)の外側フレーム部(固定フレーム部)10、外側フレーム部10の内側に配置され平面視矩形状のミラー面21が設けられた平面視矩形状の可動部20、および外側フレーム部10の内側で可動部20を挟む形で配置され外側フレーム部10と可動部20とを連結し捩れ変形が可能な一対の捩りばね部30,30を有する可動部形成基板(可動部形成基板)1と、第1のガラス基板200を用いて形成され可動部形成基板1においてミラー面21が設けられた一表面側に接合された第1のカバー基板2と、第2のガラス基板300を用いて形成され可動部形成基板1の他表面側に接合された第2のカバー基板3とを備えている。また、本実施形態のMEMS光スキャナは、可動部形成基板1の可動部20のミラー面21側に回折格子5が形成されている。また、第1のカバー基板2は、光源(例えば、レーザ光源など)からの入射光を透過させる入射光透過部203、および、0次の回折光である反射光からなる走査光を透過させる走査光透過部204が形成されるとともに、0次以外の規定次数(ここでは、−1)の回折光を受光する受光素子6が可動部形成基板1側に設けられている。
【0032】
上述の可動部形成基板1および各カバー基板2,3の外周形状は矩形状であり、各カバー基板2,3は可動部形成基板1と同じ外形寸法に形成されている。
【0033】
ここにおいて、可動部形成基板1は、導電性を有する第1のシリコン層(活性層)100aと第2のシリコン層(シリコン基板)100bとの間に絶縁層(SiO層)100cが介在する上述のSOI基板100をバルクマイクロマシニング技術などにより加工することによって形成してある。また、第1のカバー基板2は、それぞれパイレックス(登録商標)ガラスなどからなる2枚のガラス板を厚み方向に重ねて接合した第1のガラス基板200を用いて形成してあり、第2のカバー基板3は、パイレックス(登録商標)ガラスなどからなる第2のガラス基板300を加工することにより形成してある。なお、SOI基板100は、第1のシリコン層100aの厚さを30μm、第2のシリコン層100bの厚さを400μmに設定し、第1のガラス基板200および第2のガラス基板300の厚さは、0.5mm〜1.5mm程度の範囲で設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではない。また、半導体基板たるSOI基板100の一表面である第1のシリコン層10cの表面は(100)面としてある。
【0034】
可動部形成基板1の外側フレーム部10は、SOI基板100の第1のシリコン層100a、絶縁層100c、第2のシリコン層100bそれぞれを利用して形成してあり、外側フレーム部10のうち第1のシリコン層100aにより形成された部位が第1のカバー基板2の外周部と全周に亘って接合され、外側フレーム部10のうち第2のシリコン層100cにより形成された部位が第2のカバー基板3の外周部と全周に亘って接合されており、上記一表面側において外側フレーム部10に、可動部20を駆動する後述の駆動手段に電気的に接続される2つのパッド13,13が形成されている。各パッド13,13は平面視形状が円形状であり、第1の金属膜(例えば、Al膜など)により構成されている。なお、本実施形態では、各パッド13,13の膜厚を500nmに設定してあるが、この数値は一例であり、特に限定するものではない。
【0035】
また、可動部形成基板1の可動部20および各捩りばね部30,30は、SOI基板100の第1のシリコン層100aを用いて形成されており、外側フレーム部10よりも十分に薄肉となっている。また、可動部20に設けられたミラー面21は、可動部20において第1のシリコン層100aの表面により構成されているが、これに限らず、可動部20において第1のシリコン層100aにより形成された部位の表面に第2の金属膜(例えば、Al膜など)からなる反射膜を形成して、当該反射膜の表面が、ミラー面21を構成するようにしてもよい。なお、反射膜を構成する第2の金属膜の材料は、Alに限らず、走査対象(スキャン対象)の光(入射光)の波長や波長帯に応じて、例えば、Ag、Al−Si、Auなどを採用してもよい。
【0036】
以下では、図2(a),(b)それぞれの左下に示すように、平面視において一対の捩りばね部30,30の並設方向に直交する方向をx軸方向、一対の捩りばね部30,30の並設方向をy軸方向、x軸方向およびy軸方向に直交する方向をz軸方向とする直交座標を利用して説明する。なお、当該直交座標の原点は、平面視における回折格子5の中心O(図4参照)としている。
【0037】
上述の可動部形成基板1は、一対の捩りばね部30,30がy軸方向に並設されており、可動部20が、外側フレーム部10に対して一対の捩りばね部30,30の回りで変位可能となっている(y軸の軸回りで回動可能となっている)。つまり、一対の捩りばね部30,30は、外側フレーム部10に対して可動部20が揺動自在となるように外側フレーム部10と可動部20とを連結している。言い換えれば、外側フレーム部10の内側に配置される可動部20は、可動部20から相反する2方向へ連続一体に延長された2つの捩りばね部30,30を介して外側フレーム部10に揺動自在に支持されている。ここで、一対の捩りばね部30,30は、両者のy軸に沿った中心線同士を結ぶ直線が、平面視で可動部20の重心を通るように形成されている。なお、各捩りばね部30,30は、厚み寸法(z軸に沿った方向の寸法)を30μm、幅寸法(x軸に沿った方向の寸法)を、5μmに設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではない。また、可動部20およびミラー面21の平面視形状は、矩形状に限らず、例えば、円形状でもよい。また、外側フレーム部10の内周形状も矩形状に限らず、例えば、円形状でもよい。
【0038】
上述の可動部形成基板1は、可動部20において一対の捩りばね部30,30を結ぶ方向(一対の捩りばね部30,30の並設方向)に直交する方向(つまり、x軸方向)の両側に形成された櫛形状の可動電極22と、外側フレーム部10に形成され可動電極22の複数の可動櫛歯片22bに対向する複数の固定櫛歯片12bを有する櫛形状の固定電極12とで構成され静電力により可動部20を駆動する静電駆動式の駆動手段を備えている。なお、本実施形態では、駆動手段が、静電力により可動部20を駆動するものであるが、静電力によって可動部20を駆動する静電駆動式に限らず、電磁力によって可動部20を駆動する電磁駆動式でもよいし、圧電素子によって可動部20を駆動する圧電駆動式でもよい。
【0039】
上述の固定電極12,12は、平面視形状が櫛形状であり、櫛骨部12aが外側フレーム部10のうちy軸に沿った枠片部において第1のシリコン層100aにより形成された部位の一部により構成されており、櫛骨部12aにおける可動部20との対向面(外側フレーム部10におけるy軸に沿った内側面)には、第1のシリコン層100aの一部からなる多数の固定櫛歯片12bが一対の捩りばね部30,30の並設方向に沿って列設されている。一方、可動電極22,22は、可動部20における固定電極12の櫛骨部12a側の櫛骨部22a,22aの側面(可動部20におけるy軸に沿った側面)において、第1のシリコン層100aの一部により構成され固定櫛歯片12bにそれぞれ対向する多数の可動櫛歯片22bが上記並設方向に列設されている。ここで、櫛形状の固定電極12と櫛形状の可動電極22とは、櫛骨部12a,22aが互いに対向し、固定電極12の各固定櫛歯片12bが可動電極22の櫛溝に入り組んでおり、固定櫛歯片12bと可動櫛歯片22bとが、y軸方向において互いに離間しており、固定電極12と可動電極22との間に電圧が印加されることにより、固定電極12と可動電極22との間に互いに引き合う方向に作用する静電力が発生する。なお、y軸方向における固定櫛歯片12bと可動櫛歯片22bとの間の隙間は、例えば、5μm〜20μm程度の範囲で適宜設定すればよい。
【0040】
可動部形成基板1の外側フレーム部10において第1のシリコン層100aにより形成された部位には、一方のパッド13(図1における右側のパッド13b)が固定電極12,12に電気的に接続されるとともに他方のパッド13(図1における左側のパッド13a)が可動電極22,22に電気的に接続され、且つ、固定電極12,12と可動電極22,22とが電気的に絶縁されるように、複数のスリット10a,10a,10aが絶縁層100cに達する深さで形成されている。ここで、本実施形態では、各スリット10a,10a,10aをトレンチとし、各スリット10a,10a,10aの平面視形状を外側フレーム部10の外側面側に開放されない形状とすることで、外側フレーム部10にスリット10a,10a,10aを形成した構造を採用しながらも、外側フレーム部10と第1のカバー基板2との接合性が低下するのを防止し、外側フレーム部10と各カバー基板2,3とで囲まれる空間の気密性を確保している。
【0041】
ここで、外側フレーム部10において第1のシリコン層100aにより形成された部分は、上述のスリット10a,10a,10aを形成することにより、一端部が可動部20の外側面に連続一体に連結された各捩りばね部30,30それぞれの他端部が内側面に連続一体に連結された2つのアンカー部11a,11bと、一方のアンカー部11aaと一方のパッド13aが形成された矩形状の島部11cと、上記一方のアンカー部11abと島部11acとをつなぐ平面視L字状の導電部11adとで構成される第1の導電性構造体11aが、可動部20の可動電極22,22と同電位になり、残りの部分からなり他方のパッド13bが形成された第2の導電性構造体11bが固定電極12,12と同電位になる。
【0042】
第1のカバー基板2は、上述のように第1のガラス基板200を用いており、第1のガラス基板200の厚み方向に貫通して各パッド13,13それぞれを全周に亘って露出させる2つの貫通孔202,202が形成されている。ここにおいて、第1のガラス基板200の各貫通孔202,202は、可動部形成基板1から離れるにつれて開口面積が徐々に大きくなるテーパ状に形成されている。ここで、第1のカバー基板2の各貫通孔202,202は、サンドブラスト法により形成してあるが、サンドブラスト法に限定するものではなく、貫通孔202,202の形状によってはドリル加工法やエッチング法などを適宜採用してもよい。
【0043】
本実施形態のMEMS光スキャナでは、各パッド13,13の平面視形状を直径が0.5mmの円形状としてあり、各貫通孔202,202の第1の可動部形成基板1側での開口径が0.5mmよりも大きくなるようにしてあるが、各パッド13,13の直径は特に限定するものではなく、また、必ずしも円形状とする必要はなく、例えば、正方形状としてもよいが、貫通孔202,202の開口径を小さくするうえでは円形状の方が正方形状よりも好ましい。
【0044】
ここにおいて、各パッド13,13の一部が厚み方向において第1のカバー基板2に重なる場合には、パッド13,13の厚みの影響で接合性や気密性が損なわれて製造時の歩留まり低下や、動作安定性の低下、経時安定性の低下の原因となる懸念があり、外側フレーム部10の幅寸法(外側フレーム部10の外側面と内側面との距離)を増大させる必要が生じてMEMS光スキャナの小型化が制限されてしまうことが考えられる。
【0045】
これに対して、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第1のカバー基板2が各パッド13,13と重なることがなく、第1のカバー基板2と外側フレーム部10との間にパッド13,13の一部が介在することもないので、第1のカバー基板2と可動部形成基板1の外側フレーム部10との接合が各パッド13,13により妨げられるのを防止することができるから、パッド13,13の厚みの影響で接合性や気密性が損なわれるのを防止することができ、外側フレーム部10の幅寸法を増大させずに歩留まりの向上による低コスト化を図れるとともに、動作安定性の低下、経時安定性の低下を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動部形成基板1の外側フレーム部10と各カバー基板2,3とで囲まれる気密空間を真空とすることで、低消費電力化を図りつつ可動部20の機械振れ角を大きくすることが可能となるので、上記気密空間を真空とするとともに、第2のカバー基板3における可動部形成基板1との対向面において外側フレーム部10に接合される部位よりも内側の適宜部位に非蒸発型ゲッタ(図示せず)を設けてある。なお、非蒸発型ゲッタは、例えば、Zrを主成分とする合金やTiを主成分とする合金などにより形成すればよい。
【0047】
ところで、第1のガラス基板200は、可動部形成基板1との対向面に可動部20の変位空間を確保する変位空間形成用凹部(以下、第1の変位空間形成用凹部と称する)201を有しているが、上述のように2枚のガラス板を接合して形成されており、可動部形成基板1に近い側に配置するガラス板(以下、第1のガラス板と称する)において第1の変位空間形成用凹部201に対応する部位に厚み方向に貫通する開孔部を形成するとともに可動部形成基板1から遠い側に配置するガラス板(以下、第2のガラス板と称する)を平板状としてあるので、1枚のガラス基板を用いて当該ガラス基板にサンドブラスト加工などにより第1の変位空間形成用凹部201を形成する場合に比べて、第1の変位空間形成用凹部201の内底面を滑らかな表面とすることができ、第1の変位空間形成用凹部201の内底面での拡散反射、光拡散、散乱損失などを低減できる。
【0048】
第2のカバー基板3は、第2のガラス基板300を用いて形成されており、厚み方向の両面を平面状としてあるが、可動部20の厚みや、半導体基板を構成するSOI基板100の第2のシリコン層100bの厚みなどによっては、第2のガラス基板300における可動部形成基板1側の一表面に、可動部20の変位空間を確保するための凹部(以下、第2の変位空間形成用凹部と称する)を形成してもよい。ここにおいて、第2のガラス基板300の上記一表面に第2の変位空間形成用凹部を形成する場合は、例えば、サンドブラスト法などにより形成すればよい。なお、第2のカバー基板3は、光を透過させる必要がないので、第2のガラス基板300に限らず、例えば、シリコン基板を用いて形成してもよく、この場合の第2の変位空間形成用凹部は、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して形成すればよい。
【0049】
なお、上述の各ガラス基板200,300のガラス材料としては、ソーダガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどを用いることもできるが、シリコン材料を用いて形成した可動部形成基板1との接合性の観点から、硼珪酸ガラスであるパイレックス(登録商標)やテンパックス(登録商標)などが好ましい。また、本実施形態では、各カバー基板2,3の厚さを0.5mm〜1.5mm程度の範囲で設定し、第1の変位空間形成用凹部201の深さを0.3mm程度に設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではない。
【0050】
次に、本実施形態のMEMS光スキャナの基本的な動作について簡単に説明する。
【0051】
本実施形態のMEMS光スキャナでは、一対のパッド13,13を通して、対向する可動電極22と固定電極12との間に可動部20を駆動するためのパルス電圧を与えることにより、可動電極22・固定電極12間に静電力が発生し、可動部20がy軸方向の軸回りで回動する。しかして、本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動電極22・固定電極12間に所定の駆動周波数のパルス電圧を印加することにより、周期的に静電力を発生させることができ、可動部20を揺動させることができる。
【0052】
ここで、上述の可動部20は、内部応力に起因して、静止状態でも水平姿勢(xy平面に平行な姿勢)ではなく、きわめて僅かであるが傾いているので、例えば、可動電極22・固定電極12間にパルス電圧が印加されると、静止状態からであっても、可動部20に略垂直な方向(z軸方向)の駆動力が加わり、可動部20が一対の捩りばね部30,30を回動軸として当該一対の捩りばね部30,30を捩りながら回動する。そして、可動電極22・固定電極12間の駆動力を、可動櫛歯片22bと固定櫛歯片12bとが完全に重なりあうような姿勢となったときに解除すると、可動部20は、慣性力により、一対の捩りばね部30,30を捩りながら回動し続ける。そして、可動部20の回動方向への慣性力と、一対の捩りばね部30,30の復元力とが等しくなったとき、当該回動方向への可動部20の回動が停止する。このとき、可動電極22・固定電極12間に再びパルス電圧が印加されて静電力が発生すると、可動部20は、一対の捩りばね部30,30の復元力と可動電極22および固定電極12により構成される駆動手段の駆動力により、それまでとは逆の方向への回動を開始する。可動部20は、駆動手段の駆動力と一対の捩りばね部30,30の復元力とによる回動を繰り返して、一対の捩りばね部30,30を回動軸として揺動する。
【0053】
本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動部20と一対の捩りばね部30,30とにより構成される振動系の共振周波数の略2倍の周波数のパルス電圧を印加することにより、可動部20が共振現象を伴って駆動され、機械振れ角(xy平面に平行な水平面を基準としたときの傾き)が大きくなる。なお、可動電極22・固定電極12間への電圧(駆動電圧)の印加形態や周波数は特に限定するものではなく、例えば、可動電極22・固定電極12間に印加する電圧を正弦波電圧としてもよい。
【0054】
ところで、本実施形態のMEMS光スキャナは、上述のように、可動部形成基板1の可動部20のミラー面21上に回折格子5が形成されている。なお、本実施形態の回折格子5は、ミラー面21上に金属膜(例えば、Al膜など)を成膜した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して当該金属膜を等間隔で平行配置される複数のライン状の金属膜5a(図5参照)にパターニングすることで形成されている。言い換えれば、回折格子5は、可動部20における第1のカバー基板2側に周期的な溝5b(図5参照)を設けることにより形成されており、高い回折効率を得ることができる。また、本実施形態では、回折格子5の溝5bの形状(溝形状)を矩形状(断面矩形状)としてあるので、回折格子5を容易に形成することができる。なお、本実施形態では、回折格子5の格子周期をd(図5参照)とすると、走査対象(スキャン対象)の光の波長や入射角に基づいて、格子周期dを例えば2μm〜20μm程度の範囲で適宜設定すればよい。
【0055】
ところで、図3に示すように、回折格子5に入射光が入射すると、回折格子5からは各次数(回折の次数)の回折光が出射される。図3には、0次の回折光(反射光)、1次の回折光、2次の回折光、−1次の回折光、−2次の回折光、−3次の回折光のみ図示してあるが、本実施形態では、0次の回折光である反射光を走査光として第1のカバー基板2から出射させるようにし、−1次の回折光を第1のカバー基板2の受光素子6に入射させるようにしてある。具体的には、第1のカバー基板2には、入射光を透過させる入射光透過部203と、0次の回折光である反射光からなる走査光を透過させる走査光透過部204と−1次の回折光を入射させる受光素子6とが各別に設けられている。ここで、第1のカバー基板2は、第1のガラス基板200における可動部形成基板1側とは反対側の表面のうち、入射光透過部203および走査光透過部204それぞれに対応する部位以外の領域の適宜範囲に、金属膜などからなる遮光膜(図示せず)を、蒸着法やスパッタ法やめっき法などを利用して形成してある。言い換えれば、第1のカバー基板2は、走査光以外の回折光が外部へ出射するのを遮光する上記遮光膜が形成されているので、第1のカバー基板2から不要な光が出射されるのを防止することができる。なお、上記遮光膜の材料としては、光の吸収率の高い材料を採用する方が光の多重反射に起因した迷光を低減する点で好ましく、金属以外の材料により形成してもよい。また、本実施形態では、上記遮光膜が、外部からの光が受光素子6へ入射するのを防止する機能も有しているので、受光素子6の出力が外部からの光に起因して変化するのを防止することができる。
【0056】
本実施形態では、入射透過部203および走査光透過部204を、第1のガラス基板200の一部により構成しているが、入射透過部203および走査光透過部204は、それぞれ第1のガラス基板200の厚み方向に貫通する透孔を形成してから当該透孔に走査対象の光に対して透明な材料を充填して形成してもよい。なお、第1のカバー基板2は、第1のガラス基板200に限らず、例えば、アクリル基板や金属板を用いて形成してもよく、アクリル基板を用いて形成する場合には、第1のガラス基板200を用いて形成する場合と同様に上記遮光膜を設けることで入射透過部203および走査光透過部204を形成してもよいし、入射透過部203および走査光透過部204それぞれに対応する部位に透孔を形成してから当該透孔に走査対象の光に対して透明な材料を充填して形成してもよく、また、金属板を用いて形成する場合には、入射透過部203および走査光透過部204それぞれに対応する部位に透孔を形成してから当該透孔に走査対象の光に対して透明な材料を充填して形成してもよい。
【0057】
ところで、0次の回折光である反射光は、入射光と等しい角度で出射されるのに対して、0次以外の回折光は、入射光よりも大きい角度あるいは小さい角度で出射されることとなる。本実施形態では、反射光(主光線)を走査光として第1のカバー基板2の走査光透過部203から出射させ、負の次数の回折光のうち規定次数(ここでは、−1)の回折光(副光線)を振れ角検出光として受光素子6へ入射させる。
【0058】
ここで、回折格子5の溝5bの延長方向(格子周期方向に直交する方向)が一対の捩りばね部30,30の並設方向に平行な場合、一対の捩りばね部30,30の並設方向に直交する平面(xz平面)に沿って回折格子5に入射光を入射させると、全ての回折光が同一平面(xz平面)上に存在することとなり、MEMS光スキャナの走査光として必要な光のみを出射させることが困難となる。つまり、可動部20が一対の捩りばね部30,30を回動軸として回動したときに、主光線が描く走査線からなる主走査線と、副光線が描く副走査線とが重なってしまう。
【0059】
これに対して、本実施形態のMEMS光スキャナでは、図4に示すように、可動部20の機械振れ角が0°の状態で当該回折格子5の中心に立てた法線がz軸上にある一方で、一対の捩りばね部30,30がy軸上にあり、回折格子5の溝5b(図5参照)の延長方向(回折格子5の格子周期方向に直交する方向)を、xy平面においてy軸に対して反時計周り方向に所定角φだけ傾けてある。なお、所定角φはxy平面においてy軸に対して反時計周り方向を正としてあるが、所定角φは負でもよい(つまり、溝5bの延長方向はxy平面においてy軸に対して時計回り方向に傾けてもよい)。
【0060】
要するに、本実施形態における回折格子5は、平面視において格子周期方向に直交する方向を、一対の捩りばね部30,30の並設方向に対して非平行としてある。また、本実施形態では、一対の捩りばね部30,30の並設方向に直交する方向に、入射光透過部203と走査光透過部204とを並設するとともに、細長の長方形状の走査光透過部204の長手方向を一致させてあり、平面視において、一対の捩りばね部30,30の並設方向に沿って走査光透過部204と受光素子6とが並ぶように受光素子6を配置してある。しかして、一対の捩りばね部30,30の並設方向に直交する平面に沿って回折格子5に入射光を入射させて用いる場合に、回折格子5からの0次の回折光である反射光を当該平面に沿って進行させて第1のカバー基板2の走査光透過部204から出射させる一方で、上記規定次数(−1)の回折光を当該平面から傾いた面に沿って進行させ受光素子6に入射させることができる。なお、所定角φは、上記規定次数の回折光と他の回折光とを分離でき主走査線と副走査線とが分離されるように適宜設定すればよい。
【0061】
第1のカバー基板2の受光素子6は、上記規定次数の回折光(副光線)を受光できる位置に配置されている。受光素子6としては、フォトダイオードや、PSDのような半導体位置検出素子(光位置センサ)などが、レーザ光源のような光源からの光による回折光に対する波長選択性や応答性の観点で好ましい。ここで、受光素子6としてフォトダイオードを採用する場合には、可動部20が一対の捩りばね部30,30を回動軸として回動したときに副光線が描く走査線からなる副走査線を全て受光できるようにアレイ化し、副光線の到達位置の全てで検出するようにしてもよいし、副走査線上の数箇所の位置で検出して可動部20の機械振れ角を内挿あるいは外挿して求めるようにしてもよい。これに対して、受光素子6として、PSDを用いると受光素子6上に形成される副走査線の全長に亘って副光線の到達位置を連続的に検出することができるので、受光素子6の出力に基づいて可動部20の機械振れ角を求める際の精度を高めることが可能となる。なお、第1のカバー基板2には、受光素子6の出力用の貫通孔配線(図示せず)が形成されており、上記遮光膜とは絶縁膜(図示せず)などにより適宜絶縁されている。
【0062】
以下、本実施形態のMEMS光スキャナの製造方法について図6を参照しながら説明するが、(a)〜(d)は図2(a)のA−B’断面に対応する部分の概略断面を示している。
【0063】
まず、半導体基板であるSOI基板100の上記一表面側に所定膜厚(例えば、500nm)の金属膜(例えば、Al膜など)をスパッタ法や蒸着法などにより成膜する金属膜形成工程を行い、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して金属膜をパターニングすることにより各パッド13,13および回折格子5を形成する金属膜パターニング工程を行うことによって、図6(a)に示す構造を得る。なお、本実施形態では、各パッド13,13と回折格子5のライン状の金属膜5a(図5参照)との材料および膜厚を同じに設定してあるので、各パッド13,13と回折格子5とを同時に形成しているが、各パッド13,13と回折格子5の金属膜5aとの材料や膜厚が相違する場合には、各パッド13,13を形成するパッド形成工程と回折格子5を形成する回折格子形成工程とを別々に設ければよく、パッド形成工程と回折格子形成工程との順序はどちらが先でもよい。
【0064】
上述の各パッド13,13および回折格子5を形成した後、SOI基板100の上記一表面側で、第1のシリコン層100aのうち可動部20、一対の捩りばね部30,30、外側フレーム部10、固定電極12,12、可動電極22,22に対応する部位を覆うようにパターニングされた第1のレジスト層130をマスクとして、第1のシリコン層100aを絶縁層100cに達する深さ(第1の所定深さ)までエッチングすることにより第1のシリコン層100aをパターニングする第1のシリコン層パターニング工程(表面側パターニング工程)を行うことによって、図6(b)に示す構造を得る。要するに、第1のシリコン層パターニング工程は、半導体基板であるSOI基板100を上記一表面から第1の所定深さまでエッチングする表面側パターニング工程を構成している。第1のシリコン層パターニング工程での第1のシリコン層100aのエッチングは、誘導結合プラズマ(ICP)型のエッチング装置などの異方性の高いエッチングが可能なドライエッチング装置により行えばよい。また、第1のシリコン層パターニング工程では、絶縁層100cをエッチングストッパ層として利用している。
【0065】
上述の第1のシリコン層パターニング工程の後、SOI基板100の上記一表面側の第1のレジスト層130を除去してから、SOI基板100の上記一表面側の全面に第2のレジスト層131を形成し、続いて、SOI基板100の他表面側で、第2のシリコン層100bのうち外側フレーム部10に対応する部位以外を露出させるようにパターニングされた第3のレジスト層132をマスクとして、第2のシリコン層100bを絶縁層100cに達する深さ(第2の所定深さ)までエッチングすることにより第2のシリコン層100bをパターニングする第2のシリコン層パターニング工程を行うことによって、図6(c)に示す構造を得る。要するに、第2のシリコン層パターニング工程は、半導体基板であるSOI基板100を上記他表面から第2の所定深さまでエッチングする裏面側パターニング工程を構成している。第2のシリコン層パターニング工程での第2のシリコン層100bのエッチングは、誘導結合プラズマ(ICP)型のエッチング装置などの異方性が高く垂直深堀が可能なドライエッチング装置により行えばよい。また、第2のシリコン層パターニング工程では、絶縁層100cをエッチングストッパ層として利用している。
【0066】
上述の第2のシリコン層パターニング工程の後、SOI基板100の絶縁層100cにおいて外側フレーム部10と可動部20との間の部位、可動電極22,22と固定電極12,12との間の部位を、SOI基板100の上記他表面側からエッチングする絶縁層パターニング工程を行うことで可動部形成基板1を形成してから、第2のレジスト層131および第3のレジスト層132を除去し、その後、可動部形成基板1と、第1のカバー基板2および第2のカバー基板3とを陽極接合などにより接合する接合工程を行うことによって、図6(d)に示す構造のMEMS光スキャナを得る。
【0067】
ここにおいて、接合工程では、可動部形成基板1のミラー面21を保護する観点から、第1のカバー基板2と可動部形成基板1とを接合する第1の接合過程を行ってから、可動部形成基板1と第2のカバー基板3とを接合する第2の接合過程を行うことが好ましい。ここで、第1の接合過程では、先ず、第1のガラス基板200に第1の変位空間形成用凹部201や各貫通孔202,202を形成した第1のカバー基板2と可動部形成基板1とを重ねた積層体を、所定真空度(例えば、10Pa以下)の真空中で所定の接合温度(例えば、300℃〜400℃程度)に加熱した状態で、第1のシリコン層100aと第1のカバー基板2との間に第1のカバー基板2側を低電位側として所定電圧(例えば、400V〜800V程度)を印加し、この状態を所定の接合時間(例えば、20分〜60分程度)だけ保持すればよい。また、第2の接合過程では、上述の第1の接合過程に準じて、第2のシリコン層100bと第2のカバー基板3との陽極接合を行う。なお、可動部形成基板1と各カバー基板2,3を接合する接合方法は、陽極接合に限らず、例えば、常温接合法などでもよい。また、第1のシリコン層パターニング工程の後に、SOI基板100と第1のカバー基板2とを接合し、その後、第2のシリコン層パターニング工程、絶縁層パターニング工程を行うことで可動部形成基板1を形成し、その後、可動部形成基板1と第2のカバー基板3とを接合するようにしてもよい。
【0068】
ところで、本実施形態のMEMS光スキャナの製造方法では、接合工程が終了するまでの全工程を可動部形成基板1および各カバー基板2,3それぞれについてウェハレベルで行うことでMEMS光スキャナを複数備えたウェハレベルパッケージ構造体を形成するようにし、当該ウェハレベルパッケージ構造体から個々のMEMS光スキャナに分割する分割工程を行うようにしている。要するに、本実施形態のMEMS光スキャナの製造方法では、可動部形成基板1を複数形成した第1のウェハと、第1のカバー基板2を複数形成した第2のウェハおよび第2のカバー基板3を複数形成した第3のウェハとを接合することでウェハレベルパッケージ構造体を形成した後、ウェハレベルパッケージ構造体から可動部形成基板1の外形サイズに分割するようにしているので、各カバー基板2,3の平面サイズを可動部形成基板1の外形サイズに合わせることができるから、受光素子6を備え、小型で且つ機械振れ角が大きなMEMS光スキャナを簡易なプロセスで製造することができ、また、量産性を高めることができる。
【0069】
以上説明した本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動部形成基板1の可動部20のミラー面21側に回折格子5が形成されてなり、第1のカバー基板2は、入射光を透過させる入射光透過部203、および、0次の回折光である反射光からなる走査光を透過させる走査光透過部204が形成されるとともに、0次以外の規定次数の回折光を受光する受光素子6が可動部形成基板1側に設けられているので、可動部20の機械振れ角に応じて出力が変化する受光素子6を備えながらも、小型化を図れ且つ可動部20の機械振れ角を大きくできる。また、回折格子5の0次の回折光である反射光を走査光として走査光透過部203から出射させるので、可動部20の機械振れ角を光学振れ角に略一致させることができる。
【0070】
ところで、図14に示した従来構成のMEMS光スキャナでは、可動部形成基板1’の上記一表面側が開放されており、可動部20’と一対の梁部31’,31’とで構成される振動系が空気雰囲気にあるので、空気抵抗の影響で機械振れ角が小さくなってしまい、また、回折格子5’の酸化により回折格子5’の回折特性が経時変化してしまう懸念がある。
【0071】
これに対して、本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動部形成基板1の外側フレーム部10と第1のカバー基板2と第2のカバー基板3とで囲まれた空間が真空雰囲気であることにより、駆動電圧の低電圧化を図りながらも可動部20の機械振れ角を大きくすることができる。ただし、外側フレーム部10と第1のカバー基板2と第2のカバー基板3とで囲まれた空間を不活性ガス雰囲気(例えば、ドライ窒素ガス雰囲気など)としてもよく、真空雰囲気とした場合、不活性ガス雰囲気とした場合のいずれも、回折格子5の酸化を防止できるから、回折格子5の材料の選択肢が多くなるとともに、回折格子5の回折特性の経時変化を抑制することができる。
【0072】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、回折格子5は、平面視において格子周期方向に直交する方向を、各捩りばね部30,30の並設方向に対して非平行としてあるので、入射光と走査光を含む平面から規定次数の回折光を分離することができるので、規定次数の回折光を走査光とは分離して受光素子6に入射させることができる。
【0073】
また、本実施形態では、上記規定次数を−1としてあるので、受光素子6において−1次の回折光を受光するから、−2次以上の回折光を受光素子6にて受光する場合に比べて、受光素子6が大きくなりすぎて第1のカバー基板2の平面サイズが大きくなって小型化が制限されるのを防止することができるとともに、受光素子6での受光量を増加させることができる。
【0074】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、回折格子5は、可動部20のミラー面21側に周期的な溝5bを設けることにより形成されているので、高い回折効率を得ることができる。
【0075】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、SOI基板100の第1のシリコン層100aにより各捩りばね部30,30を形成してあるので、半導体基板としてシリコン基板を用いる場合に比べて各捩りばね部30,30の厚み寸法の精度を高めることができ、可動部20と一対の捩りばね部30,30とで構成される振動系の共振周波数の精度を高めることができる。
【0076】
ところで、回折格子5の溝5bの形状である溝形状を矩形状としてあるが、図7に示すように、溝5bの形状である溝形状を鋸歯状とすれば、回折格子5の回折効率をより高めることができる。ここで、溝5bの周期(格子周期)dおよび鋸歯面の角度γは、走査対象の光の波長や入射角に基づいて適宜設定すればよい。ただし、図5に示したように、溝5bの溝形状を矩形状とした方が、鋸歯状の場合に比べて、回折格子5を容易に形成することができる。ここで、溝形状が鋸歯状の溝5bを形成するには、例えば、インプリント法を利用して鋸歯状の溝形状に対応する断面形状のエッチングマスク層を形成してから、エッチングを行うようにしたり、フォトリソグラフィ工程とエッチング工程とを繰り返し行うことで所定レベル(階調数)の階段構造を形成するようにしてもよい(例えば、16レベルの階段構造を有する回折格子5を形成するようにしてもよい)。なお、回折格子5の溝5bの形状は特に矩形状や鋸歯状に限らず、周期的に溝5bが形成されていればよい。また、回折格子5は、可動部20に直接形成してもよい(第1のシリコン層100aに溝5bを形成することで形成してもよい)。
【0077】
また、回折格子5は、図8に示すように、相対的に反射率の高い材料からなるライン状(直線状)の高反射率膜たる金属膜5aと相対的に反射率の低い材料からなるライン状(直線状)の低反射率膜たるSiO膜5cとがミラー面21に沿って交互に配列された構成としてもよく、この場合も、回折格子5を容易に形成することができる。ここで、低反射率膜がSiO膜5cからなり、高反射率膜が金属膜5aであることにより、回折格子5を一般的なMEMSプロセスとの整合性の良いプロセスで形成することができる。なお、高反射率膜として用いる金属膜としては、Al−Si膜、Al膜、Au膜などを採用すれば、反射率が高く且つ膜質のよい薄膜を得ることができるが、低反射率膜と高反射率膜との材料の組み合わせは、走査対象の光の波長に応じて適宜決定すればよい。
【0078】
(実施形態2)
本実施形態のMEMS光スキャナの基本構成は実施形態1と略同じであって、図9に示すように、第1のカバー基板2において、入射光透過部203、走査光透過部204、受光素子6の配置が相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0079】
本実施形態では、一対の捩りばね部30,30の並設方向に沿って入射光透過部203と走査光透過部204とを並設してあり、可動部20の回転軸を含む平面(yz平面)に沿って入射光を入射させれば、0次の回折光である反射光(主光線)を走査光として走査光透過部204から出射させることができ、規定次数(ここでは、−1)の回折光(副光線)を受光素子6に入射させることができる。本実施形態では、細長の走査光透過部204の長手方向を一対の捩りばね部30,30の並設方向に直交する方向に合わせることができるので、より大きな機械振れ角に対応することができる。
【0080】
(実施形態3)
本実施形態のMEMS光スキャナの基本構成は実施形態2と略同じであって、図10に示すように、回折格子5の格子周期方向を、一対の捩りばね部30,30の並設方向に一致させてある点(つまり、図4のφを90°としてある点)が相違するだけである。なお、実施形態2と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0081】
本実施形態では、図11に示すように、回折格子5の縞方向が一対の捩りばね部30,30の並設方向に直交しており、反射光である主光線が描く主走査線と、規定次数(図示例では、−1)の回折光である副光線が描く副走査線とをずらすことができ、φ=90°としたことで、主走査線と副走査線とを最も離すことができる。さらに、本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動部20の回転軸を含む平面(yz平面)に沿って入射光を入射させるようにすれば、主走査線の中心および副走査線の中心が、入射光および回転軸と同一平面(yz平面)上に揃うので、受光素子6の中心を副走査線の中心に一致させることにより、実施形態1で説明した上記駆動手段を制御する制御装置のマイクロコンピュータなどの演算部による受光素子6の出力の取り扱いが容易になる(演算部において受光素子6の出力に基づいて可動部20の機械振れ角を求める演算が容易になる)。
【0082】
(実施形態4)
本実施形態のMEMS光スキャナの基本構成は実施形態1と略同じであって、図12に示すように、回折格子5の格子周期方向を、一対の捩りばね部30,30の並設方向に一致させてある点(つまり、図4のφを90°としてある点)が相違するだけである。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0083】
本実施形態では、図13に示すように、回折格子5の縞方向が一対の捩りばね部30,30の並設方向に直交しており、反射光である主光線が描く主走査線と、規定次数(図示例では、−1)の回折光である副光線が描く副走査線とを一対の捩りばね部30,30の並設方向に平行な方向にずらすことができ、φ=90°としたことで、主走査線と副走査線とを最も離すことができる。さらに、本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動部20の回転軸を含む平面(yz平面)に沿って入射光を入射させるようにすれば、主走査線の中心および副走査線の中心が、入射光および回転軸と同一平面(xy平面)上に揃うので、受光素子6の中心を副走査線の中心に一致させることにより、実施形態1で説明した上記駆動手段を制御する制御装置のマイクロコンピュータなどの演算部による受光素子6の出力の取り扱いが容易になる(演算部において受光素子6の出力に基づいて可動部20の機械振れ角を求める演算が容易になる)。
【0084】
ところで、上記各本実施形態のMEMS光スキャナにおいて、各パッド13それぞれの代わりに、例えば、第1のカバー基板2の外表面と可動部形成基板1における外側フレーム部10の表面と貫通孔202の内側面とに跨って形成された貫通配線を外部接続電極として形成してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 可動部形成基板
2 第1のカバー基板
3 第2のカバー基板
5 回折格子
5a 金属膜(高反射率膜)
5b 溝
5c SiO膜(低反射率膜)
6 受光素子
10 外側フレーム部
12 固定電極
20 可動部
21 ミラー面
22 可動電極
30 捩りばね部
100 SOI基板(半導体基板)
203 入射光透過部
204 走査光透過部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板を用いて形成され、外側フレーム部、外側フレーム部の内側に配置され一表面側にミラー面が設けられた可動部、および外側フレーム部の内側で可動部を挟む形で配置され外側フレーム部と可動部とを連結し捩れ変形が可能な一対の捩りばね部を有する可動部形成基板と、可動部形成基板においてミラー面が設けられた一表面側に接合された第1のカバー基板と、可動部形成基板の他表面側に接合された第2のカバー基板と、可動部を駆動する駆動手段とを備え、可動部形成基板の可動部のミラー面側に回折格子が形成されてなり、第1のカバー基板は、入射光を透過させる入射光透過部、および、0次の回折光である反射光からなる走査光を透過させる走査光透過部が形成されるとともに、0次以外の規定次数の回折光を受光する受光素子が可動部形成基板側に設けられてなることを特徴とするMEMS光スキャナ。
【請求項2】
前記回折格子は、平面視において格子周期方向に直交する方向を、前記各捩りばね部の並設方向に対して非平行としてあることを特徴とする請求項1記載のMEMS光スキャナ。
【請求項3】
前記回折格子は、前記可動部における前記ミラー面側に周期的な溝を設けることにより形成されてなることを特徴とする請求項1または請求項2記載のMEMS光スキャナ。
【請求項4】
前記回折格子は、溝形状が鋸歯状であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のMEMS光スキャナ。
【請求項5】
前記回折格子は、前記回折格子は、溝形状が矩形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のMEMS光スキャナ。
【請求項6】
前記回折格子は、相対的に反射率の高い材料からなるライン状の高反射率膜と相対的に反射率の低い材料からなるライン状の低反射率膜とが前記ミラー面に沿って交互に配列されてなることを特徴とする請求項1または請求項2記載のMEMS光スキャナ。
【請求項7】
前記低反射率膜がSiO膜からなり、前記高反射率膜が金属膜であることを特徴とする請求項6記載のMEMS光スキャナ。
【請求項8】
前記規定次数が−1であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のMEMS光スキャナ。
【請求項9】
前記第1のカバー基板は、前記走査光以外の回折光が外部へ出射するのを遮光する遮光膜が形成されてなることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のMEMS光スキャナ。
【請求項10】
前記外側フレーム部と前記第1のカバー基板と前記第2のカバー基板とで囲まれた空間が真空雰囲気であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のMEMS光スキャナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−118178(P2011−118178A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275849(P2009−275849)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】