説明

X線発生器

【課題】 高輝度化及び小型化できるX線発生器を提供する。
【解決手段】 電子を発生する電子発生手段(カーボンナノチューブ20、引き出し電極24)及び支持部材14に支持されたX線ターゲット12を真空管18内に備え、前記電子発生手段から前記X線ターゲット12へ電子を照射することにより生じるX線を所定位置へ導く管状のX線ガイド手段(X線ガイドチューブ)30を真空管18外に備えるX線発生器において、真空管18に設けた凹部28にX線ガイド手段30を挿入した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子を発生する電子発生手段及び支持部材に支持されたX線ターゲットが真空管内に配置され、前記電子発生手段から前記X線ターゲットへ電子を照射することにより生じるX線を所定位置へ導くX線ガイド手段が真空管外に配置されているX線発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動植物もしくは鉱物の分析、又は、電子部品の解析もしくは品質管理などにX線分析装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。X線分析装置は、試料にX線を照射するためのX線発生器を備える。図5はX線発生器の例を示す図である。X線発生器は、電子を発生するフィラメント70と、X線ターゲット62と、フィラメント70からX線ターゲット62へ電子を照射することにより生じるX線を試料に導くX線ガイドチューブ(X線ガイド手段)80とを備える。
【特許文献1】特開2000−221299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
X線ターゲット62及びフィラメント70は真空管68内に配置され、X線ガイドチューブ80は、ベリリウム窓72を挟んで真空管68外に配置されている。X線ガイドチューブ80の直径は0.1mm程度であり、X線ターゲット62からX線ガイドチューブ80までの距離は30mm程度である。そのため、X線ガイドチューブ80によって試料に導かれるのは、X線ターゲット62で生じたX線の一部だけであり、生じたX線は有効に使用されていないという問題がある。
【0004】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、真空管に内側へ凹んだ凹部を設け、該凹部にX線ガイド手段を挿入した構成とすることにより、X線ターゲットで発生したX線を効率良くX線ガイド手段で集光又は絞って(以下、集光等という)、輝度を向上させることができるX線発生器を提供することを目的とする。
【0005】
また、本発明は、支持部材の突起部に記X線ターゲットを取付けた構成にすることにより、電子をX線ターゲットに集束し、衝突させ、X線ターゲットで発生したX線を効率良くX線ガイド手段で集光等し、輝度を向上させることができるX線発生器を提供することを他の目的とする。
【0006】
また、本発明は、表面が球面状の突起部にX線ターゲットを取付けた構成とすることにより、電子をX線ターゲットにより良好に集束し、衝突させ、X線ターゲットで発生したX線をさらに効率良くX線ガイド手段で集光等して、より良好に輝度を向上させることができるX線発生器を提供することを他の目的とする。
【0007】
また、本発明は、支持部材の突起部にダイヤモンドを挟んでX線ターゲットを取付けることにより、X線ターゲットの放熱を効率的に行うことができるX線発生器を提供することを他の目的とする。
【0008】
また、本発明は、X線ガイド手段及び電子発生手段を、支持部材の突起部と向き合うように配置したことにより、X線発生器を小型化することができるX線発生器を提供することを他の目的とする。
【0009】
また、本発明は、電子発生手段として、コールドエミッタと、該コールドエミッタから電子を発生させる電極とを用いることにより、小型化できるX線発生器を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係るX線発生器は、電子を発生する電子発生手段及び支持部材に支持されたX線ターゲットが真空管内に配置され、前記電子発生手段から前記X線ターゲットへ電子を照射することにより生じるX線を所定位置へ導くX線ガイド手段が真空管外に配置されているX線発生器において、前記真空管は、内側へ凹んだ凹部を備え、該凹部に前記X線ガイド手段が挿入されていることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係るX線発生器は、第1発明において、前記支持部材は突起部を有し、該突起部に前記X線ターゲットが取付けられていることを特徴とする。
【0012】
第3発明に係るX線発生器は、第2発明において、前記突起部の表面は球面状であることを特徴とする。
【0013】
第4発明に係るX線発生器は、第2又は第3発明において、前記X線ターゲットは、ダイヤモンドを挟んで前記突起部に取付けられていることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係るX線発生器は、第1〜第4発明の何れかにおいて、前記X線ガイド手段及び前記電子発生手段は、前記X線ターゲットと向き合うように配置されていることを特徴とする。
【0015】
第6発明に係るX線発生器は、第1〜第5発明の何れかにおいて、前記電子発生手段は、コールドエミッタと、該コールドエミッタから電子を発生させる電極とを備えることを特徴とする。
【0016】
第7発明に係るX線発生器は、電子を発生する電子発生手段及び支持部材に支持されたX線ターゲットが真空管内に配置され、前記電子発生手段から前記X線ターゲットへ電子を照射することにより生じるX線を所定位置へ導くX線ガイド手段が真空管外に配置されているX線発生器において、前記X線ガイド手段及び前記電子発生手段は、前記X線ターゲットと向き合うように配置され、前記電子発生手段は、前記X線ガイド手段のX線ターゲット側の端部周辺に配置されたコールドエミッタと、該コールドエミッタから電子を発生させる電極とを備えていることを特徴とする。
【0017】
第1発明においては、真空管が備える内側へ凹んだ凹部にX線ガイド手段を挿入しているため、X線ターゲットとX線ガイド手段との距離が縮まり、立体角を大きくし、X線ターゲットで発生したX線を効率良くX線ガイド手段で集光等することが可能になり、輝度を向上させることができる。なお、X線ガイド手段とは、X線ガイドチューブのようなX線を集光等して照射領域に導くもの、コリメータのように立体角を制限してX線を照射領域に導くものなどを含む。
【0018】
第2、第3発明においては、支持部材は突起部を有し、該突起部にX線ターゲットを取付けている。突起部の周辺の電気力線の分布は突起部の形状に応じたほぼ同心状の分布となり、電子発生手段から照射された電子は前記分布の中心方向に集束する。例えば突起部の表面を球面状とした場合、前記突起部の周辺の電気力線の分布は同心球面状の分布となり、電子発生手段から照射された電子は前記同心球面の中心方向に集束する。X線ターゲットに照射する電子を集束し、X線ターゲットで発生したX線を効率良くガイドすることが可能になり、X線ビーム径を容易に微小化することができる。また、電子の照射スポットを集束することにより、電流量を減少することができ、電源ユニット小型化できる。そのため、発生器全体の小型化が容易になる。さらに、突起部は真空管内側に突出しているため、X線ターゲットは真空管の内側に配置されることになり、X線ガイド手段との距離が縮まる。そのため、X線ターゲットで発生したX線を効率良くX線ガイド手段で集光等することが可能になり、輝度を向上させることができる。
【0019】
第4発明においては、X線ターゲットを、熱伝導率の高いダイヤモンドを挟んで支持部材の突起部に取付けているため、X線ターゲットで生じた熱を効率的に支持部材に逃がすことができる。X線ターゲットの放熱を効率的に行うことができる。
【0020】
第5、第7発明においては、生じたX線を所定位置に導くX線ガイド手段及び電子発生手段を、支持部材の突起部と向き合うように配置する場合、電子発生手段をX線ガイド手段近傍で支持することが可能になる。電子発生手段をX線ガイド手段の近傍で支持することにより、X線発生器を小型化することができる。
【0021】
第6、第7発明においては、電子発生手段として、コールドエミッタ(冷陰極)と、該コールドエミッタから電子を発生させる電極とを用いているため、タングステンフィラメントを用いる場合とは異なり、熱を加える必要がない。熱を加えないため、冷却ファンなどは不要であり、X線発生器を小型化できる。また、コールドエミッタを用いることにより、高輝度化できる。
【発明の効果】
【0022】
第1発明によれば、X線ターゲットで発生したX線を効率良くX線ガイド手段で集光等し、輝度を向上させることができる。
【0023】
第2,3発明によれば、X線ターゲットに照射する電子を集束し、X線ターゲットで発生したX線を効率良くX線ガイド手段で集光等し、輝度を向上させることができる。
【0024】
第4発明によれば、X線ターゲットの放熱を効率的に行うことができる。
【0025】
第5、第6、第7発明によれば、X線発生器を小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明のX線発生器をX線分析装置に用いた場合を例にして説明を行う。なお、本発明のX線発生器は、X線分析装置に限定はされず、X線を発生させる任意の装置に用いることが可能である。
【0027】
図1は、本発明に係るX線発生器の構成例を示す部分断面図である。X線発生器10は、試料ステージ36上方に配置されており、試料ステージ36上に載置された試料38にX線を照射する。30はシリカガラス製のX線ガイドチューブ(X線ガイド手段)であり、先端側の開口部は試料ステージ36上方に配置されている。X線ガイドチューブ30は、直径が0.1mm程度の円筒などの管状のものであるが、例えば半円筒状のものを用いることも可能である。なお、図示してないが、試料ステージ36に臨むように、試料38にX線を照射したことにより生じる蛍光X線を検出するための半導体検出器が設けられている。
【0028】
X線ガイドチューブ30の根元側は、真空管18の内側に突出した凹部28に挿入されている。真空管18は、ゲッターポンプ19により高真空に保たれる。図2は凹部28の底部分の部分断面図である。凹部28の底部分にはベリリウム窓22が設けられており、X線ガイドチューブ30の根元側の開口部は、ベリリウム窓22と対面している。ベリリウム窓22の上側(真空管18内側)の中心及び外周周辺には、カーボンナノチューブ(コールドエミッタ:冷陰極)20が配置され、さらに上側(X線ターゲット12側)に引き出し電極24が配置され、電子発生手段が構成されている。なお、カーボンナノチューブ20は、ベリリウム窓22の上側の中心には配置せず、外周周辺のみに配置することも可能である。この場合、X線ガイドチューブ30に入射されるX線が、中心に配置されたカーボンナノチューブ20によって遮られないため、効率的にX線が入射される。
【0029】
引き出し電極24の上方には、図1に示すように、X線ターゲット12が配置されている。X線ターゲット12は、棒状の銅製の支持部材14の先端(突起部)に取付けられている。支持部材14の先端側は、真空管18内に配置され、支持部材14の根元側は、油浴16に挿入されている。図3は、支持部材14の先端部分の部分断面図である。支持部材14の先端表面は球面状である。
【0030】
X線ターゲット12は、ダイヤモンド40を介して、銅製の支持部材14の先端に取付けられている。X線ターゲット12は、緩衝層42を介して、蒸着法又はスパッタ法によりダイヤモンド40に固着される。緩衝層42としては、例えばX線ターゲット12がロジウムの場合はタンタルを用い、X線ターゲット12がタングステンの場合は緩衝層42を設けないことも可能である。ダイヤモンド40は、真空中での銀ロウ付けにより、銅製の支持部材14に固着される。支持部材14とダイヤモンド40との間には、熱膨張差の緩衝層44として、チタンなどの薄膜を設けることが好ましい。X線ターゲット12の熱は、高熱伝導性のダイヤモンド40及び銅製の支持部材14を通して油浴16へ逃がされる。
【0031】
引き出し電極24には電源E1が接続されており、また、引き出し電極24とX線ターゲット12との間には、カーボンナノチューブ20から発生された電子を加速するための高電圧が電源E2により印加されている。引き出し電極24にかけられた電圧によってカーボンナノチューブ20から発生された電子26は、X線ターゲット12と引き出し電極24との間にかけられた電界によって加速され、X線ターゲット12に衝突する。その際、支持部材14の先端は半球形状であり、図1又は3の破線に示すように、先端周辺の電気力線は先端と同心の球面状となり、加速された電子は前記球面の中心方向へ集束するため、X線ターゲット12に例えば直径1μm等のスポットで容易に集束することができる。また、電子の集束が容易なため、電源E2を小型化することが可能となる。
【0032】
X線ターゲット12に電子が衝突することによりX線が発生し、発生したX線はX線ガイドチューブ30に進み、X線ガイドチューブ30の内面に対する入射角度が全反射の臨界角よりも小さい場合、内面と全反射することによって集光され、試料ステージ36上の試料38に照射される。その際、電子がX線ターゲット12上に小さな径で集束されている方が、高エネルギのX線が効率よく集光される。また、X線ガイドチューブ30は真空管18の凹部28に挿入されているため、X線ターゲット12からX線ガイドチューブ30までの距離は7mm程度に縮まり、X線を効率良く集光することができる。よって、高輝度微小径のX線ビームを実現できる。X線の輝度が高まるため、直径1μmにX線を集光しても十分な強度を得ることができ、2次元測定における空間分解能を、現在の10μmから1μmに飛躍的に改善することができる。試料38にX線を照射することにより生じる蛍光X線は、上述した図示しない半導体検出器によって検出される。そして、半導体検出器の信号を図示しない分析装置で分析することにより、試料38の組成を得ることができる。
【0033】
また、X線ガイドチューブ30を真空管18の凹部28に挿入することにより、X線発生器を小型化することができる。さらに、X線ガイドチューブ30の根元側の開口部付近にカーボンナノチューブ20及び引き出し電極24を配置することにより、X線発生器を小型化することができる。X線発生器が小型化されるため、X線発生器自体を移動させて走査を行うことができる。そのため、大きなサンプル又は生体サンプルに対して測定が可能になる。特に、医療分野で今まで不可能であった人体に対する蛍光X線分析を行うことが可能になる。
【0034】
上述した実施の形態において、コールドエミッタ(20)としては、カーボンナノチューブの代わりに、LaB6 結晶を用いることが可能である。また、コールドエミッタ(20)とX線ターゲット12との間で加速された電子は、支持部材14の先端形状に応じた電界によってX線ターゲット12上に集束されるが、この集束のために電磁レンズを用いることも可能である。また、X線ターゲット12はタングステン又はロジウムなどを用い、熱伝導性の良い銅又は銀などの金属にインブラント又は機械的に接着することが可能である。また、ファンを用いて油浴16を空冷したり、油浴16を用いずに銅又は銀自体を空冷して熱を逃がすことも可能である。さらに、放熱が良好な場合は、X線ターゲット12と銅又は銀との間にダイヤモンドを用いないことも可能である。
【0035】
また、上述した実施の形態において、カーボンナノチューブの代わりに、負バイアスにしたフィラメントを用いることも勿論可能である。また、当該構造の場合は、油浴16を用いずに、水冷により熱を逃がすことも可能である。図4は、本発明に係るX線発生器の構成例を示す部分断面図である。支持部材15は水冷用のパイプ50を備えている。また、凹部28の底部分のベリリウム窓22の上側にはフィラメント21が配置され、さらに上側には引き出し電極25が配置されている。また、X線ガイド手段は、X線ガイドチューブのようなX線集光手段が好適であるが、それに代えてコリメータ等の適宜のX線ガイド部材を用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るX線発生器の構成例を示す部分断面図である。
【図2】X線発生器の凹部の底部分の部分断面図である。
【図3】X線発生器の支持部材の先端部分の部分断面図である。
【図4】本発明に係るX線発生器の構成例を示す部分断面図である。
【図5】従来のX線発生器の例を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10 X線発生器
12 X線ターゲット
14 支持部材
16 油浴
18 真空管
20 カーボンナノチューブ
21 フィラメント
22 ベリリウム窓
24、25 引き出し電極
26 電子
30 X線ガイドチューブ
36 試料ステージ
38 試料
40 ダイヤモンド
42、44 緩衝層
50 水冷パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を発生する電子発生手段及び支持部材に支持されたX線ターゲットが真空管内に配置され、前記電子発生手段から前記X線ターゲットへ電子を照射することにより生じるX線を所定位置へ導くX線ガイド手段が真空管外に配置されているX線発生器において、
前記真空管は、内側へ凹んだ凹部を備え、
該凹部に前記X線ガイド手段が挿入されていることを特徴とするX線発生器。
【請求項2】
前記支持部材は突起部を有し、該突起部に前記X線ターゲットが取付けられていることを特徴とする請求項1記載のX線発生器。
【請求項3】
前記突起部の表面は球面状であることを特徴とする請求項2記載のX線発生器。
【請求項4】
前記X線ターゲットは、ダイヤモンドを挟んで前記突起部に取付けられていることを特徴とする請求項2又は3記載のX線発生器。
【請求項5】
前記X線ガイド手段及び前記電子発生手段は、前記X線ターゲットと向き合うように配置されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のX線発生器。
【請求項6】
前記電子発生手段は、コールドエミッタと、該コールドエミッタから電子を発生させる電極とを備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のX線発生器。
【請求項7】
電子を発生する電子発生手段及び支持部材に支持されたX線ターゲットが真空管内に配置され、前記電子発生手段から前記X線ターゲットへ電子を照射することにより生じるX線を所定位置へ導くX線ガイド手段が真空管外に配置されているX線発生器において、
前記X線ガイド手段及び前記電子発生手段は、前記X線ターゲットと向き合うように配置され、
前記電子発生手段は、前記X線ガイド手段のX線ターゲット側の端部周辺に配置されたコールドエミッタと、該コールドエミッタから電子を発生させる電極とを備えていることを特徴とするX線発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−125881(P2006−125881A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311379(P2004−311379)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】