説明

p型SiC半導体

【課題】低抵抗なp型SiC半導体を提供する。
【解決手段】SiC結晶中に不純物としてAlとTiを含み、原子比でTi濃度≦Al濃度であるp型SiC半導体。Al濃度≧5×1018/cmであり、かつ、0.01%≦〔Ti濃度/Al濃度〕≦20%であることが望ましい。Al濃度≧5×1018/cmであり、かつ、1×1017/cm≦〔Ti濃度〕≦1×1018/cmであることが更に望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC半導体に関し、特に低抵抗なp型SiC半導体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低抵抗なp型SiC半導体を得ることは困難であった。例えば、特許文献1には、高濃度の内因性の深い順位と、深い順位のアクセプタ(Ti、B)とを組み合わせて、高い抵抗率の半絶縁性SiC単結晶を得ることが記載されている。非特許文献1には、Alドーピング改良レリー法(昇華法)によるp型SiC単結晶の製造方法が記載されているが、高濃度のAlドーピング成長によって、結晶性が悪化する。特許文献2には、液相成長法によるSiC単結晶の成長において、液相の合金がSi−Al−M合金(MはTiなど)からなることを特徴とする製造方法が記載されている。しかし、高品質なSiC単結晶を得るためにAlとTiを用いており、これら元素が作製した結晶中へ混入する量の制御方法は記載されておらず、特性についても記載が無い。
【0003】
p型SiC半導体を製造することが困難な理由として下記が挙げられる。
【0004】
SiC中において、p型用キャリアであるホールはn型用キャリアである電子に比べて移動度が小さいため、低抵抗n型SiC基板に比べて、低抵抗p型SiC基板を得ることは困難である。
【0005】
p型SiC用アクセプタとしてはAlやBが代表的であるが、n型SiC用ドナーであるNに比べてイオン化エネルギーが大きいため、低抵抗なp型SiC基板を得ることが困難である。
【0006】
低抵抗化のためには、Alドーピング量を増加させる手法が考えられるが、トレードオフとして移動度が低下する上、SiC単結晶の結晶性が低下する。
【0007】
SiC単結晶中へのAlとTiとの導入量をそれぞれ制御する手法が必要である。
【0008】
SiC単結晶中にAlとTiを導入することは、特許文献3〜7に記載されているが、いずれも低抵抗化については何ら配慮がない。
【0009】
【特許文献1】特表2005−507360号公報
【特許文献2】特開2008−100890号公報
【特許文献3】特開2007−13154号公報
【特許文献4】特表2008−505833号公報
【特許文献5】WO2004/090969
【特許文献6】特開平10−70273号公報
【特許文献7】特開2006−237319号公報
【非特許文献1】T. L. Staubinger, et al. Mat. Sci. Forum 389-393 (2002) p.131
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、低抵抗なp型SiC半導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、SiC結晶中に不純物としてAlとTiを含み、原子比でTi濃度≦Al濃度であることを特徴とするp型SiC半導体が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、SiC単結晶中にアクセプタとしてAlと同時にTiを含有させ、原子比でTi濃度≦Al濃度としたことにより、Al単独添加に比べて比抵抗を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明においては、Al濃度≧5×1018/cmであり、かつ、0.01%≦〔Ti濃度/Al濃度〕≦20%とすることが望ましい。
【0014】
更に、Al濃度≧5×1018/cmであり、かつ、1×1017/cm≦〔Ti濃度〕≦1×1018/cmとすることが望ましい。
【0015】
AlとTiの導入方法は、特に限定する必要は無く、例えば気相成長法(昇華法、CVDなど)、エピタキシャル成長法、溶液成長法、イオン注入法などを用いることができる。
【実施例】
【0016】
下記条件にて、SiC単結晶にイオン共注入法にてAlとTiを導入した試料を作製した。また、比較のために、Alのみを導入した試料も作製した。
【0017】
<注入用試料>
n型エピタキシャル層(ドーピング量:約5×1015/cm)付き4H−SiC(0001)n型8°オフ基板
<イオン注入条件>
注入深さ:200nm
傾き角:0°
注入角:0°
注入基板温度:500℃
<注入後高温アニール>
加熱温度:1750℃
加熱時間:20分
イオン注入した各試料について、Al濃度およびTi濃度を二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。また、van der Pauw法によるHall効果測定を行なって、各試料の比抵抗を求めた。結果を表1にまとめて示す。なお、表1中には、下記式により求めた比抵抗改善率も併せて示した。
【0018】
改善率(%)={1−(ρ2/ρ1)}×100
ρ1:Alのみを導入した試料の比抵抗(Ωcm)
ρ2:AlとTiを導入した試料の比抵抗(Ωcm)
【0019】
【表1】

【0020】
表2に、Al濃度とTi濃度に対する比抵抗改善率を示す。表中、網掛け枠内はAl濃度≧5×1018/cmであり、かつ、0.01%≦〔Ti濃度/Al濃度〕≦20%である範囲、太枠内はAl濃度≧5×1018/cmであり、かつ、1×1017/cm≦〔Ti濃度〕≦1×1018/cmである範囲を示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表3にAl濃度に対するTi濃度の比率(%)を、表4に各比率と試料No.の対応を、それぞれ示す。
【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
図1に、Al濃度がそれぞれ1×1020/cmおよび5×1020/cmである場合の、Ti濃度に対する比抵抗の変化を示す。Al濃度1×1020/cmの場合、Ti濃度の増加に伴い比抵抗は単調に減少していることが明瞭に観察される。Al濃度5×1020/cmの場合は、Al濃度が高いため比抵抗の絶対値がTi無添加の状態で既にかなり低いため、Ti濃度の増加による比抵抗の減少はかなり小さいが、全体としては漸減傾向が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、AlとTiを共に添加したことにより、Al単独添加に比べて低抵抗化したp型SiC半導体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明により、AlとTiを添加したSiC単結晶について、各Al濃度に対するTi濃度の変化に対する比抵抗の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC結晶中に不純物としてAlとTiを含み、原子比でTi濃度≦Al濃度であることを特徴とするp型SiC半導体。
【請求項2】
請求項1において、Al濃度≧5×1018/cmであり、かつ、0.01%≦〔Ti濃度/Al濃度〕≦20%であることを特徴とするp型SiC半導体。
【請求項3】
請求項1において、Al濃度≧5×1018/cmであり、かつ、1×1017/cm≦〔Ti濃度〕≦1×1018/cmであることを特徴とするp型SiC半導体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−123794(P2010−123794A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296814(P2008−296814)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】