説明

アクチュエータのストローク制御装置

【課題】作動流体によって駆動されるアクチュエータストロークのフィードバック制御装置において、作動流体を制御する流量制御弁の経年変化等を補償し、簡易な手段によりストロークの正確な制御を実行する。
【解決手段】アクチュエータ110のストローク制御装置には、作動流体の供給及び排出を制御する単一の流量制御弁1が設置され、これを操作してストロークのフィードバック制御が実行される。流量制御弁1は、作動流体の供給及び排出を停止する中立位置を備えており、流量制御弁制御装置9には、この中立位置の変動を学習する学習装置91が設けられる。フィードバック制御においては、PID演算部94の出力するフィードバック操作量に、学習装置91で得られた中立位置の学習値を加算して流量制御弁1を操作し、経年変化等による流量特性の変化を補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両に装備されたクラッチをクラッチアクチュエータにより自動的に断接するクラッチ制御装置のように、流量制御弁を用いて流体圧で駆動されるアクチュエータのストロークを制御するストローク制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の運転の容易化あるいは運転者の疲労軽減のために、近年、イージードライブを目的とする各種の車両用動力伝達装置の普及が進んでいる。トルクコンバータと遊星歯車装置とを組み合わせたいわゆる自動変速機(AT)がその代表的なものであるが、自動的な車両用動力伝達装置の中には、いわゆるマニュアル車の変速機(MT)と同様な平行軸歯車機構式変速機を使用して、これと自動クラッチとを組み合わせた動力伝達装置がある。この動力伝達装置では、エンジンと変速機との間に配置されるクラッチがクラッチアクチュエータを備えており、運転者が変速レバーで変速段を切り替える変速時や車両の発進時に、自動的にクラッチを断接するようにして、運転者のクラッチペタルの操作を省略している。運転者が変速レバーを操作する代わりに、電子制御装置を用い車両の走行状態に応じて自動的に変速段を切り替える動力伝達装置も存在する。
【0003】
エンジンと変速機との間に設置されるクラッチ(乾式単板クラッチ)は、図4に示すように、周辺部に摩擦板が固着されたクラッチディスク101を備えており、これは、エンジンのクランクシャフト102に回転可能に支持される変速機入力軸103に摺動可能にスプライン嵌合されている。クラッチディスク101の摩擦板の背後には、摩擦板をクランクシャフト102の後端部のフライホイール104に対して圧接するプレッシャプレート105が設けられる。また、フライホイール104に固着されるクラッチカバー106にはダイヤフラムスプリング107が取り付けてある。車両の通常走行時においては、ダイヤフラムスプリング107が、プレッシャプレート105を介してクラッチディスク101をフライホイール104に対して圧接することにより、エンジンの動力は、クラッチディスク101を経由して変速機入力軸103に伝達される。
【0004】
クラッチには、動力の伝達を断接する操作機構が備えられており、この操作機構は、変速機入力軸103に嵌め込まれたレリーズベアリング108、レリーズフォーク109及びクラッチアクチュエータ110等により構成されている。クラッチアクチュエータ110は、空気圧又は油圧で作動する流体圧シリンダであって、そのピストンはレリーズフォーク109の一端に連結される。なお、ピストンの過大な移動によってクラッチアクチュエータ110等に損傷が生じるのを防止するよう、移動量を機械的に制限するストッパ111が設けてある。
【0005】
車両の変速時において変速段を切り替えるためエンジン動力を遮断するときは、クラッチアクチュエータ110に作動流体を供給し、レリーズフォーク109の一端を図の右方に変位させる。レリーズフォーク109の他端は反対方向に変位し、これに当接するレリーズベアリング108を左方に摺動して、ダイヤフラムスプリング107を図の2点鎖線のように移動させる。これにより、プレッシャプレート105を圧接するスプリング力は解除され、エンジン動力の変速機入力軸103への伝達が遮断される。変速が終了しクラッチを再び接続するときは、クラッチアクチュエータ110の作動流体を排出して、リターンスプリング112等でレリーズフォーク109を左方に移動させる。クラッチの接続状態(接続量)は、クラッチアクチュエータ110のピストンの移動量、すなわちアクチュエータのストロークで決定される。
【0006】
車両の変速時には、迅速なしかも変速ショックのないクラッチの断続を実行する必要がある。そのため、一旦切断したクラッチを変速段の切り替え後(ギヤイン後)に再び接続するときは、図5におけるストロークの変化のグラフに示すように、実質的にトルク伝達の生じない無効領域を速やかに通過させるよう、まずクラッチアクチュエータ110のピストンを接方向に急速に移動させるとともに、トルク伝達が開始されるいわゆる半クラッチ領域では、急速な接続量の増加に伴う変速ショックを避けるよう徐々に接続量を増加させる。こうした制御は、ストロークを正確に制御するよう、クラッチアクチュエータ110の実際の変位である実ストロークをストロークセンサ7で検出し、目標とするストロークとの偏差に応じてクラッチアクチュエータ110内の作動流体の量を変更するフィードバック制御により実行されることが多い。
【0007】
変速時等に自動的にクラッチを断接するクラッチ制御装置では、作動流体を供給するエアタンク等の作動流体圧力源、クラッチアクチュエータのピストンの移動量を検出するストロークセンサ、そしてクラッチアクチュエータ内の作動流体量を制御する制御弁が設けられ、変速時等におけるクラッチの制御が実行される。通常、制御弁は作動流体の供給管路と排出管路とにそれぞれ配置され、これらの2個の制御弁を開閉することにより、クラッチの接続量の制御が行われる。これに対し、1個の流量制御弁を用いてクラッチアクチュエータ内の作動流体の供給及び排出を行うクラッチ制御装置も知られており、一例として特許第3417823号公報に記載されている。
【0008】
単一の流量制御弁を使用するクラッチ制御装置においては、図6の回路図に示すとおり、流量制御弁1には、クラッチアクチュエータ110に連なる連通通路2と、エアタンク等の作動流体圧力源3に連なる圧力源通路4と、クラッチアクチュエータ110から作動流体を排出する排出通路5とが接続され、それぞれの通路に開口する連通ポート2p、圧力源ポート4p、排出ポート5pの3個のポートが形成される。
図6の流量制御弁1は、弁体6を操作する弁アクチュエータとして電磁ソレノイド式の駆動装置を備えた、スライドバルブ形式の比例制御弁である。つまり、流量制御弁1を通過する作動流体の流量が弁体6の位置に応じて変化する流量特性を有し、電磁ソレノイドへの通電量が流量を変更するための操作量となっている。クラッチのストロークを制御するため、流量制御弁1には、ストロークセンサ7の検出される実ストロークと目標とする目標ストロークとの偏差に応じてコイル8への通電量を制御し、弁体6の位置を設定する流量制御弁制御装置9が接続される。
【0009】
流量制御弁1の弁体6は、図7の詳細作動図に示すとおり、中間に2個のランドを有し、弁体6の一端は、電磁ソレノイドの可動ヨーク10に連結されている。弁体6の他端にはばね11が配置してあり、弁体1は、可動ヨーク10に作用する磁力とばね11のばね力とのバランスによってその位置が決定される。コイル8への通電を停止したとき(通電量0%)は、弁体6は、ばね11に押されて図7(b)の位置となり、連通ポート2pと排出ポート5pとが連通し、クラッチアクチュエータ110内の作動流体は外部に排出されてクラッチが接続状態となる。コイル8に流れる電流を最大値(100%)とすると、弁体6は、ばね11を圧縮して図7(c)の位置となり、連通ポート2pと圧力源ポート4pとが連通する。これにより、圧力源3の作動流体が連通ポート2pからクラッチアクチュエータ110内に導入され、クラッチは切断される。コイル8に50%の電流を流したときは、弁体6が図7(a)の位置、すなわち中立位置となるよう設計されており、このときは連通ポート2pが圧力源ポート4p及び排出ポート5pと遮断され、クラッチのストロークはその位置に保持される。
【0010】
流量制御弁1の弁体の位置と流量の関係についてみると、弁体が図7(a)の中立位置にある場合、ランドの長さLと連通ポート2pの巾の長さWとが一致している流量制御弁では、弁体が中立位置から左右に外れると直ちに作動流体の流れが生じる。この流量制御弁では、流量特性、つまりコイル8に流れる電流に対する作動流体の流量は、図8の実線の特性となり、流量が0となる中立位置は、コイル8の通電量が50%となる1点に限られる。このような流量制御弁により、図5に示される変速時のクラッチのストローク制御を実施するときには、コイルへの通電量は、同図の下方に示すパターンに従って変化する。なお、流量制御弁の中には、ランドの長さLが連通ポート2pの巾の長さWよりも少量だけ大きなものもあり、この場合は、流量特性が図7の2点鎖線で表される特性となって、通電量、すなわち操作量が変化しても流量が変化しないいわば不感帯DZが存在する。こうした流量制御弁を使用するときは、コイルへの通電量は、不感帯DZの巾の半分に相当する量だけ増減することとなる。
【0011】
ちなみに、単一の流量制御弁により流体圧シリンダ等のアクチュエータのストロークを制御する制御装置は、車両に搭載されるクラッチを断接するクラッチ制御装置に限られるものではない。一例として、トラックの荷台に貨物の積み降ろしを行う目的で荷台後端に設けられたテールゲートは、やはり流体圧シリンダを用いて昇降させるものであり、その制御のために単一の流量制御弁によるストローク制御が実施される場合がある。
【特許文献1】特許第3417823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般的に、アクチュエータのストローク制御では、迅速でしかも正確な制御が求められ、例えば、クラッチの接続量を正確に制御するためには、流量制御弁によるクラッチアクチュエータ内の作動流体量の迅速かつ正確な制御が要求される。クラッチアクチュエータのストロークをフィードバック制御によって制御するときには、図5のように変化するストロークが目標ストロークとなり、ストロークセンサで検出される実ストロークを目標ストロークに追従させる制御が実行される。このようなクラッチアクチュエータのストロークのフィードバック制御を行う際のブロック線図を図9に示す。
【0013】
制御装置には目標ストロークstdが入力され、比較部においては、ストロークセンサで検出しフィードバックされた実ストロークstrが減算されて、両者の偏差eが算出される。偏差eはPID演算部に入力され、ここでは、偏差eに比例する量がフィードバック操作量として求められる。フィードバック操作量には、偏差eを時間積分した量及び偏差eを時間微分した量を加えることもある。
PID演算部におけるフィードバック操作量の演算は、所定時間経過後に目標ストロークstdとなるような流量Qに対応する通電量Iを、図8の流量特性から求めることに相当する。フィードバック操作量は、流量が0となる中立位置の通電量50%を基準としてそれとの差の通電量を算出したものであり、このフィードバック操作量に中立位置の基準通電量をフィードフォワード量として加算した操作量が、弁アクチュエータの電磁ソレノイドに通電するドライバに入力される。ドライバは、この操作量に対応する通電量を電磁ソレノイドに供給し、これにより、流量制御弁の弁体の位置が変化し、クラッチアクチュエータ内の作動流体量が制御されて、実ストロークstrが目標ストロークstdに一致するようになる。
【0014】
ところで、流量制御弁は、その通電量と流量の関係である流量特性が、弁機種に対応して一定の特性となり、中立位置となる通電量は一定値となるよう設計されるが、個々の流量制御弁には製造上の僅かな相違等に起因する個体差が多少なりとも存在するから、流量特性は、個々の流量制御弁に応じて設計上の特性とは僅かながら相違する。また、同一の流量制御弁であっても経年変化に伴い流量特性の変化が生じることがある。例えば、経年変化により電磁ソレノイドの磁力とばねのバランスが変化し、磁力が低下したときは図10の実線の流量特性が右方に移動し(破線X)、ばね力が低下したときは左方に移動して(破線Y)、流量制御弁の中立位置の通電量も、設計上の通電量(この例では50%)から同様に移動する。このように流量特性が変化すると、同一の通電量であっても流量が異なる結果となり、フィードバック制御においては、フィードバック操作量に対応するストロークの変化量が変動する。この変動は、ストロークの追従制御の制御特性に悪影響を与え、応答性が悪化して迅速な追従が困難となり、あるいは、制御の安定性を損ねることとなる。そのため、クラッチ接続量を迅速かつ正確に目標値とすることができず、変速ショックが現れる事態も発生する。
本発明の課題は、クラッチ制御装置等、中立位置を備えた流量制御弁を用いてアクチュエータのストロークを制御する場合に生じる上述の問題を、簡易な手段により解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題に鑑み、本発明は、アクチュエータストロークのフィードバック制御装置において、流量制御弁制御装置に流量制御弁の中立位置の変動を学習する学習装置を設け、学習した中立位置の操作量をフィードバック操作量に加算して流量制御弁を制御し、流量特性の相違を補償することにより、簡易な手段によってアクチュエータストロークの正確な制御を実行するようにしたものである。すなわち、本発明は、
「作動流体により駆動されるアクチュエータのストロークを制御するストローク制御装置であって、
前記ストローク制御装置は、前記アクチュエータ内の作動流体の量を制御する流量制御弁と、前記流量制御弁の弁体を操作する弁アクチュエータと、前記アクチュエータの実際のストロークを検出するストロークセンサと、前記アクチュエータの目標とするストロークを設定する目標ストローク設定手段と、前記アクチュエータの実際のストロークと目標とするストロークとの偏差に基づき演算されたフィードバック操作量に応じて前記弁アクチュエータを制御する流量制御弁制御装置とを備え、
前記流量制御弁には、前記アクチュエータに連なる連通通路と、作動流体の圧力源に連なる圧力源通路と、前記アクチュエータから作動流体を排出する排出通路とが接続され、かつ、前記弁体の中立位置では、前記連通通路が前記圧力源通路及び前記排出通路と遮断されるよう構成され、さらに、
前記流量制御弁制御装置は、前記ストロークセンサの検出信号の変化速度が所定値以下となったときの前記弁アクチュエータの操作量を中立位置操作量として学習するとともに、学習した中立位置操作量により前記フィードバック操作量を補正して前記弁アクチュエータを制御する」
ことを特徴とするストローク制御装置となっている。
【0016】
請求項2に記載のように、前記フィードバック操作量が、前記アクチュエータの実際のストロークと目標とするストロークとの偏差に比例する量として演算されることが好ましい。
【0017】
請求項3に記載のように、本発明は、車両用動力伝達装置において、エンジンと変速機との間に設置されたクラッチを操作するクラッチアクチュエータのストローク制御装置として好適なものである。そして、クラッチアクチュエータにストッパが設置され、そのストロークに機械的に制限される限界ストロークが存在する場合には、請求項4に記載のように、前記中立位置学習装置は、前記クラッチアクチュエータのストロークが所定ストローク以上かつ前記限界ストローク未満であるときに、学習を実行するよう構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
流体圧シリンダ等のアクチュエータに単一の流量制御弁を設置し、この流量制御弁によりアクチュエータ内の作動流体を供給又は排出してストローク制御を行うときは、流量制御弁の弁体を、中立位置から一方に変位させて作動流体を供給し、他方に変位させて作動流体を排出する。本発明の流量制御弁制御装置は、アクチュエータのストロークのフィードバック制御を実行するものであって、中立位置の学習装置を備え、中立位置となる流量制御弁の操作量(例えば電磁ソレノイドのコイルへの通電量)を常時学習する。そのため、流量制御弁の個体差や経年変化に伴い中立位置が変化しても、学習装置に記憶された中立位置をフィードバック操作量に加算して流量制御弁の操作量を補正し、流量制御弁の弁体の位置を、目標とする流量となるよう正確に制御することができる。つまり、中立位置学習値をいわゆるフィードフォワード値として制御系に加えることにより、流量特性が変化したときもこれを補償しているので、ストロークの追従制御における応答性等の悪化が回避され、迅速かつ正確なストローク制御が可能となる。
【0019】
また、本発明の中立位置の学習装置では、ストロークセンサの検出信号の変化速度が所定値以下となったときに中立位置と判定する。流量制御弁の中立位置においては、アクチュエータ内の作動流体の供給と排出が停止されて、アクチュエータのストロークは変化しないから、ストロークセンサの検出信号の変化速度が所定値以下となったことを検出することにより中立位置を検知できる。アクチュエータのストロークの変化速度がゼロであることを検知するよう、この所定値は0に近い小さい値であって、ストロークセンサ検出信号の外乱等を考慮して設定されるものである。
学習装置で使用されるストロークセンサは、アクチュエータのストローク制御を行うために、もともと制御装置に備えられた部品であって、本発明の学習装置は、特別な部品を設置する必要なく中立位置の学習が可能である。そして、ストローク制御装置の流量制御弁は単一のものであるから、制御装置の全体的な構成を簡易でコンパクトなものとすることができる。
【0020】
請求項2の発明は、PID演算部の出力するフィードバック操作量が、偏差に比例する量であること、すなわち、PID演算部において比例動作(P動作)を行わせるようにしたものである。比例動作のみのフィードバック操作量による制御を行わせたときは、PID演算部の構成が簡易なものとなる。
【0021】
請求項3の発明は、本発明を、車両用動力伝達装置において、エンジンと変速機との間に設置されたクラッチを操作するクラッチアクチュエータのストローク制御装置に適用したものである。車両用クラッチの接続量の制御は、変速時等の僅かな時間内に正確に実行する必要があり、特に応答性の優れた安定した制御が要求される。クラッチアクチュエータの制御装置に本発明を適用したときは、流量制御弁の経年変化等にかかわらず、クラッチの接続量の迅速かつ正確な変更が可能となり、変速ショックのないクラッチ制御が達成される。
【0022】
ところで、本発明の中立位置の学習装置では、ストロークセンサの検出信号の変化速度が所定値以下となったときに中立位置と判定する。車両のクラッチの操作では、クラッチの断位置においてストロークの変化速度が0となる状態が一定時間安定して継続するので、このときに流量制御弁の中立位置を判定すると精度のよい判定が可能となる。クラッチの断状態を判別するには、クラッチアクチュエータのストロークが断位置に近い所定ストローク以上であることを検出すればよいが、変速時には、クラッチアクチュエータが急速に断位置とされるため、ストロークを機械的に制限するストッパに衝接することがあり、このときにも限界ストロークで変化速度がゼロとなる。そのため、本発明をクラッチアクチュエータのストローク制御装置に適用したときは、請求項4の発明のように、ストロークが所定ストローク以上かつ限界ストローク未満であるときに、学習を実行するよう構成することが好ましく、こうすると、流量制御弁の中立位置を正確に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づいて、本発明を車両用クラッチのストローク制御装置に適用した実施例について説明するが、本発明が適用される車両用クラッチ及びストローク制御装置を構成する機器は、図4等に示す従来の装置と格別異なるものではない。すなわち、本発明のストローク制御装置により操作される車両用クラッチは、図4のクラッチと基本的に同一のものであり、クラッチ接続量を変更するクラッチアクチュエータ110を備えている。クラッチアクチュエータ110には流体圧力源から作動流体が供給され、クラッチの接続量は、クラッチアクチュエータ110のピストンの移動量であるアクチュエータのストロークで決定される。車両用クラッチには、移動量を機械的に制限するストッパ111が設けてあり、アクチュエータのストロークには限界ストロークが存在している。
【0024】
クラッチのストローク制御装置の回路構成を図1に示す。図1の回路を構成する機器も、いわゆるハードの面では図6の従来のものと同一であって、対応する部品等には同一の符号を付してある。ストローク制御装置は、電磁ソレノイドにより駆動される単一の流量制御弁1を備え、流量制御弁1には、エアタンク等の流体圧力源3、クラッチアクチュエータ110及び排出通路5が接続される。流量制御弁制御装置9は、実際のストロークを目標とするストロークに追従させるフィードバック制御を実行するよう構成されており、電磁ソレノイドのコイル8への通電量を変更して弁体6の位置を変え、クラッチアクチュエータ110内の作動流体の供給、排出を行ってストロークを制御する。クラッチアクチュエータ110の実際のストローク、つまり実ストロークがストロークセンサ7で検出され、その信号が流量制御弁制御装置9に入力される。
【0025】
この実施例のストローク制御装置においては、流量制御弁制御装置9には中立位置学習装置91が設置されている。中立位置学習装置91は、クラッチアクチュエータ110のストロークの信号を用いて、流量制御弁1の中立位置、つまり流量制御弁1を通過する作動流体の流れが遮断される位置、に対応するコイル8の通電量を学習し記憶するものである。そして、本発明では、ストロークの変化速度が実質的にゼロである場合に、流量制御弁1が中立位置にあると判定し学習を行う。
【0026】
中立位置学習装置91の作動について、図2のフローチャートによって説明する。この実施例の学習装置は、中立位置の学習を一定演算周期で実施するものである。ステップS1では、ストロークセンサ7の検出信号から現在のストロークst(n)を読み込み、ステップS11において、ストロークst(n)が所定ストローク(stA)以上、かつ、ストッパにより規制される機械的限界ストローク(stM)未満であるか否かを判断する(図5参照)。この判断は、次の理由により行われるものである。
実際のクラッチ操作では、図5から分かるように、クラッチの完断位置においてストロークの変化速度が0となる状態が継続し、流量制御弁1が安定して中立位置に保持されるので、この実施例では、中立位置の通電量の学習をクラッチの完断位置で実行する。ただし、変速時におけるクラッチの切断は急速に行われる関係上、クラッチアクチュエータの移動量が完断位置を通過してストッパにより規制される機械的限界ストローク(stM)まで達する場合がある。このときもストロークの変化速度は0となるが、流量制御弁1は中立位置にあるとは限らない。そのため、ステップS11の条件が満たされ流量制御弁1が中立位置にあることを確認して、以降の演算処理ステップを実行する。
【0027】
ステップS11の条件が満足されているときは、ステップ2に進んでストロークの変化速度を求める。学習装置91には前回に検出したストロークst(n−1)が記憶されており、ステップS2では、ストロークの変化速度である微分値D、
D=(st(n)−st(n−1))/演算周期
が計算される。次いでステップS3において、D(絶対値)が所定値以下であるか否かが判定される。所定値は小さい値に設定されており、これによって、検出信号が外乱等により多少変動しても、ストロークの変化速度が0であることの検出が可能となる。
【0028】
ステップS3でD(絶対値)が所定値以上であるときは、流量制御弁1が中立位置にはないとして演算を終了する。所定値以下であると判定されるとステップS4に進み、中立位置学習装置91は、そのとき電磁ソレノイドのコイル8に流れる電流量を中立位置の通電量として学習する。このように中立位置が学習されると、中立位置学習装置91では、それまでの学習値の補正等が行われ(例えば、今までの学習値と今回の学習値の平均値を新たな学習値とする)、更新された学習値は、流量制御弁制御装置9において流量制御弁1の制御を実行する際に使用される。
【0029】
図2のフローチャートでは、ステップS3で演算される微分値Dが所定値以下であると直ちに、そのときの電流量を中立位置の電流量として検出する。これに対し、微分値Dが複数回連続して所定値以下となるとき、つまり、ストロークの変化速度がゼロである状態が所定時間継続したときに、通電量を学習するという条件を付加することによって、外乱等の影響を排除し学習精度を向上させることが可能である。また、この実施例の中立位置の学習は車両の変速時に実行するものであるが、変速時に限らず、車両が停車中であるときに、短時間変速機をニュートラルとしてエンジン動力の伝達を遮断し、クラッチのストロークを操作して実行するよう構成してもよい。ちなみに、本発明のストローク制御装置を、例えばテールゲートの昇降用アクチュエータに適用した場合であっても、貨物の積み降ろしのためテールゲートを一旦停止するときなどに、流量制御弁の中立位置の学習を実施することができる。
【0030】
流量制御弁の中には、ランドの長さLが連通ポート2pの巾の長さWよりも大きく、流量特性に不感帯DZが存在し、図8の2点鎖線で表される特性となるものがある。この流量制御弁では、ストロークが増加しながらその変化速度が0となる(作動流体がアクチュエータに供給された後供給が停止される)ときの弁体の中立位置と、減少しながら変化速度が0となる(作動流体が排出された後排出が停止される)ときの弁体の中立位置とは異なり、両方の中立位置に対応する通電量は、不感帯DZの両端の通電量となる。こうした流量制御弁を使用するストローク制御装置の場合には、ストロークの増加時で変化速度が0となるときの通電量と、減少時で変化速度が0となるときの通電量とを別々に検知し、これらを平均して中立位置中央点を求め、これを上述の中立位置として学習すればよい。
【0031】
図3には、本発明の中立位置学習装置を備えた流量制御弁制御装置によりクラッチアクチュエータのストローク制御を実行するときのブロック線図の一例を示す。
車両の変速時のクラッチ操作では、ストローク(クラッチの接続量)が、時間経過とともに図5のパターンに従って変化するような制御が行われる。流量制御弁制御装置9の流量制御弁制御部は、アクチュエータの目標とするストロークを設定する目標ストローク設定手段92を備えており、ここでは、変速時の経過時間に対応したストロークを目標ストロークstdとして設定する。目標ストロークstdは、比較部93に入力される。比較部93には、ストロークセンサ7で検出された実際のストロークである実ストロークstrがフィードバック量として同時に入力され、目標ストロークstdと実ストロークstrとの偏差eが算出される。
【0032】
流量制御弁制御部は、PID演算部94を備え、PID演算部94では、入力された偏差eに基づき弁アクチュエータ(電磁ソレノイド)を操作するためのフィードバック操作量の演算を行う。PID演算部94は、比例動作+積分動作+微分動作の演算を実行するよう構成されており、それぞれ、偏差eについてこれに比例する操作量、時間積分に比例する操作量及び時間微分に比例する操作量を演算し、これらを加え合わせてフィードバック操作量を算出する。なお、時間積分に比例する操作量は、制御工学の分野でよく知られているように、比例動作のみの制御では残存する定常偏差を除去するために加えられるものであり、また、時間微分に比例する操作量は、制御特性の応答性を向上させるために加えられるものである。こうした点の配慮が必要のない制御系においては、PID演算部を比例動作のみで構成することにより演算部が簡易なものとなる。
【0033】
本発明の流量制御弁制御装置9には、中立位置学習装置91が設けられており、上述のとおり、ここでは、流量制御弁1の中立位置の変動を常時学習している。そして、この中立位置学習値が、ブロック線図のAD点において、PID演算部94の出力値であるフィードバック操作量にフィードフォワード値として加算される。中立位置学習値は、経年変化等に伴い生じた中立位置のずれを反映したものであり、これをフィードフォワード値として操作量に加えることにより、図10に示されるとおり、同一流量Qに対して特性が変化したときの通電量I(X)、I(Y)が求められる。つまり、流量制御弁の流量特性の変化を補償し、目標とする流量を達成するために適正な操作量を得ることができる。
【0034】
中立位置学習値の加算されたフィードバック操作量は、弁アクチュエータの電磁ソレノイドに通電するドライバに入力され、ドライバは、加算された操作量に対応する通電量を電磁ソレノイドに供給する。これにより、流量制御弁1の弁体は、中立位置の変動分を補正しながらフィードバック操作量に対応する位置となり、クラッチアクチュエータ110内の作動流体量及びストロークが適正に変更される。その結果、実ストロークstrを目標ストロークstdに追従させる制御が、安定して迅速に行われることとなる。変更されたストロークはストロークセンサ7で実ストロークstrとして検出され、比較部93にフィードバックされる。
【0035】
以上詳述したように、本発明は、単一の流量制御弁を用いるアクチュエータストロークのフィードバック制御装置において、流量制御弁の中立位置の変動を学習する学習装置を設け、学習した中立位置の操作量をフィードバック操作量に加算して流量制御弁を制御することにより、アクチュエータストロークの正確な制御を実行するようにしたものである。したがって、本発明は、クラッチ制御装置のクラッチアクチュエータに限らず、空気圧あるいは油圧シリンダ等のアクチュエータ一般について、そのストローク制御に適用可能である。また、上記実施例では、電磁ソレノイドを用いコイルへの通電量を変更して流量制御弁を制御するものについて説明したが、例えば、パルスモータを使用しパルス数(操作量)を変更して流量制御弁を制御するよう構成する、特許文献1に記載のような流体圧シリンダを用いて制御するよう構成するなど、実施例に対して種々の変形が可能であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のアクチュエータストローク制御装置の回路図である。
【図2】本発明の中立位置変動量学習装置におけるフローチャートである。
【図3】本発明のアクチュエータストローク制御装置のブロック線図である。
【図4】車両用クラッチの構成を示す図である。
【図5】クラッチアクチュエータのストローク制御の態様等を示す図である。
【図6】従来のアクチュエータストローク制御装置の回路図である。
【図7】アクチュエータ制御装置における流量制御弁の詳細作動図である。
【図8】流量制御弁の流量特性を示す図である。
【図9】従来のアクチュエータストローク制御装置のブロック線図である。
【図10】流量制御弁の流量特性の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 流量制御弁
2 連通通路
4 圧力源通路
5 排出通路
6 弁体
7 ストロークセンサ
8 コイル
9 流量制御弁制御装置
91 中立位置学習装置
92 目標ストローク設定手段
94 PID演算部
110 クラッチアクチュエータ
111 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体により駆動されるアクチュエータのストロークを制御するストローク制御装置であって、
前記ストローク制御装置は、前記アクチュエータ内の作動流体の量を制御する流量制御弁と、前記流量制御弁の弁体を操作する弁アクチュエータと、前記アクチュエータの実際のストロークを検出するストロークセンサと、前記アクチュエータの目標とするストロークを設定する目標ストローク設定手段と、前記アクチュエータの実際のストロークと目標とするストロークとの偏差に基づき演算されたフィードバック操作量に応じて前記弁アクチュエータを制御する流量制御弁制御装置とを備え、
前記流量制御弁には、前記アクチュエータに連なる連通通路と、作動流体の圧力源に連なる圧力源通路と、前記アクチュエータから作動流体を排出する排出通路とが接続され、かつ、前記弁体の中立位置では、前記連通通路が前記圧力源通路及び前記排出通路と遮断されるよう構成され、さらに、
前記流量制御弁制御装置は、前記ストロークセンサの検出信号の変化速度が所定値以下となったときの前記弁アクチュエータの操作量を中立位置操作量として学習するとともに、学習した中立位置操作量により前記フィードバック操作量を補正して前記弁アクチュエータを制御することを特徴とするストローク制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック操作量が、前記アクチュエータの実際のストロークと目標とするストロークとの偏差に比例する量である請求項1に記載のストローク制御装置。
【請求項3】
前記アクチュエータが、車両用動力伝達装置においてエンジンと変速機との間に設置されたクラッチを操作するクラッチアクチュエータである請求項1又は請求項2に記載のストローク制御装置。
【請求項4】
前記クラッチアクチュエータのストロークには、機械的に制限される限界ストロークが存在しており、前記中立位置学習装置は、前記クラッチアクチュエータのストロークが所定ストローク以上かつ前記限界ストローク未満であるときに、学習を実行する請求項3に記載のストローク制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−71414(P2010−71414A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240949(P2008−240949)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】