説明

アナログ信号選択回路

【課題】アナログ信号選択回路において、アナログスイッチの寄生容量や寄生抵抗を介して信号経路に漏れ込む雑音を低減するとともに、増幅器の雑音に対するノイズゲインを小さくすること。
【解決手段】複数のアナログ信号のそれぞれを入力信号として選択するか否かを切り換える第1のスイッチ手段24、アナログ信号の基準電圧を入力信号として選択するか否かを切り換える第2のスイッチ手段25、および第1のスイッチ手段24の出力信号と第2のスイッチ手段25の出力信号を差動加算する差動入力増幅器27を備える。第1のスイッチ手段24の各信号経路の増幅度と第2のスイッチ手段25の各信号経路の増幅度が概ね同じである。また、第1のスイッチ手段24の導通状態となるスイッチの数と第2のスイッチ手段25の導通状態となるスイッチの数が同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のアナログ信号の中から1または2以上の信号を選択し、選択した信号が2以上である場合にはそれらの信号を加算して出力するアナログ信号選択回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来のアナログ信号選択回路の構成を示す図である。ここでは、入力アナログ信号が3つであるとする。図5に示すように、従来のアナログ信号選択回路は、3つのアナログ入力端子(IN1、IN2およびIN3)1,2,3と、3つのスイッチ10,11,12からなる第1のスイッチ群4と、3つのスイッチ13,14,15からなる第2のスイッチ群5と、差動入力増幅器7と、差動入力増幅器7の3つの入力抵抗16,17,18からなる入力抵抗群6と、差動入力増幅器7の帰還抵抗8と、出力端子(OUT)9を有する。
【0003】
第1の入力端子(IN1)1は、第1のスイッチ群4の第1のスイッチ10を介して第1の入力抵抗16に接続され、さらにこの第1の入力抵抗16を介して差動入力増幅器7の反転入力端子に接続されている。第1のスイッチ10と第1の入力抵抗16の間の第1の信号経路は、第2のスイッチ群5の第4のスイッチ13を介してアナログ基準電圧源SGに接続されている。第1のスイッチ10の開閉は、第1の選択信号S1により制御され、第4のスイッチ13の開閉は、第1の選択信号S1の反転信号XS1により制御される。第1のスイッチ10と第4のスイッチ13は、排他的に閉状態、すなわち導通状態となる。
【0004】
第2の入力端子(IN2)2と差動入力増幅器7の反転入力端子の間の第2の信号経路には、第1のスイッチ群4の第2のスイッチ11、第2のスイッチ群5の第5のスイッチ14および第2の入力抵抗17が同様に接続されている。また、第3の入力端子(IN3)3と差動入力増幅器7の反転入力端子の間の第3の信号経路には、第1のスイッチ群4の第3のスイッチ12、第2のスイッチ群5の第6のスイッチ15および第3の入力抵抗18が同様に接続されている。
【0005】
差動入力増幅器7の出力端子は、アナログ信号選択回路の出力端子(OUT)9に接続されている。帰還抵抗8は、差動入力増幅器7の出力端子と反転入力端子の間に接続されている。
【0006】
図5に示すように、第1のスイッチ10、第5のスイッチ14および第6のスイッチ15が導通状態であり、第4のスイッチ13、第2のスイッチ11および第3のスイッチ12が開放状態であるとする。この場合、このアナログ信号選択回路により、第1の入力端子(IN1)1に入力するアナログ信号sv1のみが選択される。このアナログ信号sv1は、第1の信号経路を経由し、第1の入力抵抗16と帰還抵抗8により決まる増幅度で反転増幅されて出力端子(OUT)9から出力される。
【0007】
一方、第2の信号経路と第3の信号経路は、雑音源のインピーダンスに比べて十分低い導通抵抗でアナログ基準電圧源SGに接続される。それによって、第2のスイッチ11および第3のスイッチ12のそれぞれの寄生素子を経由して第2の信号経路および第3の信号経路に漏れ込む雑音は、低インピーダンスのシグナルグランドに流れ込む。従って、それらの雑音がアナログ信号選択回路の出力信号に影響を及ぼすのを回避することができる。
【0008】
ところで、増幅器への入力信号の波形を歪ませることなく、複数のアナログ信号のいずれかを任意に選択して増幅出力するアナログ信号選択回路が公知である(例えば、特許文献1参照。)。このアナログ信号選択回路は、複数のアナログ信号のそれぞれに対応して設けられ、対応する前記アナログ信号を通過させるか否かを切り換える複数の第1スイッチ手段と、これら第1スイッチ手段を通過した前記アナログ信号を増幅する増幅回路とを備えたアナログ信号選択回路において、前記増幅回路の入力電圧を基準電圧に基づき所望の値に調整するバイアス回路を備え、前記バイアス回路を前記複数の第1スイッチ手段の各入力端に接続したことを特徴とする。
【0009】
【特許文献1】特開平10−303656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図5に示す従来のアナログ信号選択回路では、第2のスイッチ群5があるため、次のような問題点がある。第1の入力抵抗16、第2の入力抵抗17、第3の入力抵抗18および帰還抵抗8の抵抗値は、すべてR1であるとする。この場合、差動入力増幅器7の増幅度は1倍であり、入力信号sv1は1倍の増幅度で出力される。それに対して、差動入力増幅器7の反転入力端子から入力側を見ると、R1の抵抗が3つ並列に接続されていることになるので、差動入力増幅器7の反転入力端子に対する入力抵抗値は、R1の3分の1(R1/3)となる。
【0011】
そのため、差動入力増幅器7が有する入力換算雑音をnvaとし、その入力換算雑音nvaが差動入力増幅器7の非反転入力側にあると考えると、アナログ信号選択回路の出力端子(OUT)9には、次の(1)式で表される信号V(OUT)が現われる。つまり、入力信号sv1に対する増幅度が1倍であるのに対して、差動入力増幅器7の雑音に対するノイズゲイン(以下、単にノイズゲインとする)は4倍になる。従って、信号対雑音性能が劣化するという問題点がある。
【0012】
【数1】

【0013】
そこで、第2のスイッチ群5をなくして、信号対雑音性能の劣化を抑えることが考えられる。しかし、その場合には、第1のスイッチ群4の中の開放状態にあるスイッチに漏れ込む雑音をシグナルグランドに逃がすことができなくなってしまうので、開放状態にあるスイッチに漏れ込む雑音をできるだけ低く抑える必要がある。
【0014】
従来、第1のスイッチ群4の各スイッチ、入力抵抗群6の各入力抵抗、差動入力増幅器7および帰還抵抗8は、同一の半導体基板上に形成される。そして、各スイッチは、MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタにより構成される。MOSトランジスタは、電源またはグランドに接続されるウェル領域内に作られる。
【0015】
従って、信号源とアナログ信号選択回路が同一の半導体基板上に形成される場合、ウェル電位に雑音が重畳すると、この雑音がオフ状態のMOSトランジスタのソース、ドレインおよびゲートの各電極とウェル領域の間の寄生抵抗や寄生容量を経由してスイッチに漏れ込むことがある。これが、開放状態のスイッチに漏れ込む雑音の主要因である。
【0016】
MOSトランジスタのサイズを小さくすると、寄生抵抗は大きくなり、また寄生容量は小さくなるので、これらの寄生素子を経由して信号経路に漏れ込む雑音を下げることができる。しかし、この場合には、MOSトランジスタの導通抵抗が大きくなり、その導通抵抗の値が、このMOSトランジスタに直列に接続される入力抵抗群6の各抵抗の値に対して無視できなくなる。
【0017】
MOSトランジスタの導通抵抗の値は、ゲートとソースの間の電圧に依存して変化するため、差動入力増幅器7の入力抵抗の値がMOSトランジスタのゲート−ソース間電圧に依存して変化することになり、差動入力増幅器7の出力信号の振幅が変化したり、増幅する信号の波形がひずむなどの不具合を生じる。つまり、アナログ信号選択回路の入出力ゲインが信号レベルにより変化するため、信号品質が劣化してしまう。
【0018】
従って、スイッチを構成するMOSトランジスタのサイズを小さくして、スイッチに漏れ込む雑音を下げることには限界がある。このように、従来は、信号経路に漏れ込む雑音を少なくすることと、出力信号に現われる増幅器自身の雑音を少なくすることを両立させることは、困難であった。
【0019】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、アナログスイッチの寄生容量や寄生抵抗を介して信号経路に漏れ込む雑音を低減するとともに、増幅器自体のノイズゲインが小さいアナログ信号選択回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかるアナログ信号選択回路は、第1のスイッチ手段、第2のスイッチ手段および増幅器を備える。第1のスイッチ手段は、複数のアナログ信号のそれぞれを入力信号として選択するか否かを切り換える。第2のスイッチ手段は、アナログ信号の基準電圧を入力信号として選択するか否かを切り換える。増幅器は、第1のスイッチ手段の出力信号と第2のスイッチ手段の出力信号を差動加算する。
【0021】
この発明において、第1のスイッチ手段の各信号経路の増幅度と第2のスイッチ手段の各信号経路の増幅度が概ね同じであるとよい。この場合、第1のスイッチ手段の導通状態となるスイッチの数と第2のスイッチ手段の導通状態となるスイッチの数が同じであるとよい。あるいは、Nを正の実数とするとき、第2のスイッチ手段のアナログスイッチを構成するMOSトランジスタのサイズが、第1のスイッチ手段のアナログスイッチを構成するMOSトランジスタのサイズの1/Nであってもよい。この場合、第2のスイッチ手段の各信号経路の増幅度は、第1のスイッチ手段の各信号経路の増幅度の概ねN倍であるとよい。
【0022】
また、この発明において、第1のスイッチ手段を構成するMOSトランジスタおよび抵抗、第2のスイッチ手段を構成するMOSトランジスタおよび抵抗、並びに増幅器が同一の半導体基板上に形成されていてもよい。MOSトランジスタは、Nチャネル型のみでもよいし、Pチャネル型のみでもよいし、Nチャネル型とPチャネル型の相補型でもよい。そして、同じチャネル型のMOSトランジスタは、同一のウェル内に形成されているとよい。
【0023】
この発明によれば、第1のスイッチ手段に漏れ込む雑音と第2のスイッチ手段に漏れ込む雑音が増幅器により差動加算されるので、これらの雑音がアナログ信号選択回路の出力に現れるのが軽減される。第1のスイッチ手段と第2のスイッチ手段において、増幅度が概ね同じであり、導通状態となるスイッチの数が同じであれば、それぞれのスイッチ手段において開放状態のスイッチの寄生素子を経由して信号経路に漏れ込むノイズが同じになる。従って、増幅器において、第1のスイッチ手段の信号経路に漏れ込むノイズと第2のスイッチ手段の信号経路に漏れ込むノイズが相殺される。
【0024】
また、第1のスイッチ手段と第2のスイッチ手段でMOSトランジスタのサイズが異なっていても、それぞれの増幅度を調整することによって、それぞれのスイッチ手段において開放状態のスイッチの寄生素子を経由して信号経路に漏れ込むノイズが同じになる。従って、第1のスイッチ手段と第2のスイッチ手段でMOSトランジスタのサイズが異なる場合でも、増幅器において、第1のスイッチ手段の信号経路に漏れ込むノイズと第2のスイッチ手段の信号経路に漏れ込むノイズが相殺される。また、第1のスイッチ手段と第2のスイッチ手段で一方のMOSトランジスタのサイズを他方の1/Nにすることによって、アナログ信号選択回路の占有面積が小さくなる。
【0025】
また、第1のスイッチ手段により選択されるアナログ信号が1つであるときの信号ゲインが1である場合、増幅器の入力換算雑音に対するノイズゲインが2になる。つまり、アナログ信号選択回路に入力する信号の数がいくつであっても、第1のスイッチ手段により選択される信号の数が1つであれば、ノイズゲインは、常に信号ゲインの2倍になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかるアナログ信号選択回路によれば、アナログスイッチの寄生容量や寄生抵抗を介して信号経路に漏れ込む雑音を低減することができるとともに、増幅器自体のノイズゲインを小さくすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるアナログ信号選択回路の好適な実施の形態を詳細に説明する。ここでは、入力アナログ信号が3つである場合について説明するが、本発明は、入力アナログ信号が4つ以上である場合にも同様に適用できる。なお、以下の説明において、同様の構成には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0028】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1にかかるアナログ信号選択回路の構成を示す図である。図1に示すように、アナログ信号選択回路は、3つのアナログ入力端子(IN1、IN2およびIN3)21,22,23と、3つのスイッチ30,31,32および3つの入力抵抗36,37,38からなる第1のスイッチ手段24と、3つのスイッチ33,34,35および3つの入力抵抗39,40,41からなる第2のスイッチ手段25と、差動入力増幅器27と、差動入力増幅器27の帰還抵抗28と、抵抗42と、出力端子(OUT)29を有する。
【0029】
第1の入力端子(IN1)21は、第1のスイッチ手段24の第1のスイッチ30を介して第1の入力抵抗36の一端に接続されている。第1の入力抵抗36の他端は、差動入力増幅器27の反転入力端子に接続されている。第2の入力端子(IN2)22は、第1のスイッチ手段24の第2のスイッチ31を介して第2の入力抵抗37の一端に接続されている。第2の入力抵抗37の他端は、差動入力増幅器27の反転入力端子に接続されている。
【0030】
第3の入力端子(IN3)23は、第1のスイッチ手段24の第3のスイッチ32を介して第3の入力抵抗38の一端に接続されている。第3の入力抵抗38の他端は、差動入力増幅器27の反転入力端子に接続されている。便宜上、第1のスイッチ手段24の3つの信号経路を順に第1、第2および第3の信号経路とする。
【0031】
第4の入力抵抗39の一端は、第2のスイッチ手段25の第4のスイッチ33を介してアナログ基準電圧源SGに接続されている。第4の入力抵抗39の他端は、差動入力増幅器27の非反転入力端子に接続されている。第5の入力抵抗40の一端は、第2のスイッチ手段25の第5のスイッチ34を介してアナログ基準電圧源SGに接続されている。第5の入力抵抗40の他端は、差動入力増幅器27の非反転入力端子に接続されている。
【0032】
第6の入力抵抗41の一端は、第2のスイッチ手段25の第6のスイッチ35を介してアナログ基準電圧源SGに接続されている。第6の入力抵抗41の他端は、差動入力増幅器27の非反転入力端子に接続されている。便宜上、第2のスイッチ手段25の3つの信号経路を順に第4、第5および第6の信号経路とする。
【0033】
第1のスイッチ30と第4のスイッチ33は、第1の選択信号S1により開閉が制御され、常に一緒に導通状態または開放状態となる。第2のスイッチ31と第5のスイッチ34は、第2の選択信号S2により開閉が制御され、常に一緒に導通状態または開放状態となる。第3のスイッチ32と第6のスイッチ35は、第3の選択信号S3により開閉が制御され、常に一緒に導通状態または開放状態となる。第1のスイッチ30と第4のスイッチ33の組、第2のスイッチ31と第5のスイッチ34の組、および第3のスイッチ32と第6のスイッチ35の組のうち、いずれか1組または2組以上が導通状態となる。
【0034】
差動入力増幅器27の出力端子は、アナログ信号選択回路の出力端子(OUT)29に接続されている。帰還抵抗28は、差動入力増幅器27の出力端子と反転入力端子の間に接続されている。抵抗42は、差動入力増幅器27の非反転入力端子とアナログ基準電圧源SGの間に接続されている。この抵抗42は、第4〜第6の入力抵抗39,40,41との組み合わせによって、差動入力増幅器27の非反転入力端子への入力信号を分圧する抵抗である。
【0035】
第1の入力抵抗36、第2の入力抵抗37、第3の入力抵抗38、第4の入力抵抗39、第5の入力抵抗40、第6の入力抵抗41、帰還抵抗28および抵抗42の抵抗値は、すべてR1である。また、第1のスイッチ30と第4のスイッチ33、第2のスイッチ31と第5のスイッチ34、および第3のスイッチ32と第6のスイッチ35は、それぞれ、後述するように、同じサイズのMOSトランジスタで構成されている。
【0036】
図1に示すように、第1のスイッチ30および第4のスイッチ33が導通状態であり、第2のスイッチ31、第3のスイッチ32、第5のスイッチ34および第6のスイッチ35が開放状態であるとする。この場合、第1の入力端子(IN1)21に入力するアナログ信号sv1のみが選択される。このアナログ信号sv1は、第1の信号経路を経由し、差動入力増幅器27において増幅度1で反転増幅されて出力端子(OUT)29から出力される。
【0037】
図2は、この発明の実施の形態1にかかるアナログ信号選択回路のスイッチを構成する半導体素子の等価回路を示す図である。また、図3は、その半導体素子の平面レイアウトを示す図である。図2および図3には、第1のスイッチ30と第4のスイッチ33の組の構成が示されている。第2のスイッチ31と第5のスイッチ34の組の構成、および第3のスイッチ32と第6のスイッチ35の組の構成も、同様である。
【0038】
図2に示すように、第1のスイッチ30と第4のスイッチ33の組は、第1のスイッチ30のスイッチ部51と、第4のスイッチ33のスイッチ部52と、インバータ53により構成されている。第1のスイッチ30のスイッチ部51において、Pチャネル型MOSトランジスタ54とNチャネル型MOSトランジスタ55は、第1のスイッチ30の入力端子(N1)61と出力端子(N2)62の間に並列に接続されている。第4のスイッチ33のスイッチ部52において、Pチャネル型MOSトランジスタ56とNチャネル型MOSトランジスタ57は、第4のスイッチ33の入力端子(N3)63と出力端子(N4)64の間に並列に接続されている。
【0039】
第1のスイッチ30のスイッチ部51および第4のスイッチ33のスイッチ部52において、各Nチャネル型MOSトランジスタ55,57のゲート端子は、第1の選択信号S1の入力端子(N5)65に接続されている。第1のスイッチ30のスイッチ部51および第4のスイッチ33のスイッチ部52において、各Pチャネル型MOSトランジスタ54,56のゲート端子は、インバータ53の出力端子に接続されている。インバータ53の入力端子は、第1の選択信号S1の入力端子(N5)65に接続されている。
【0040】
従って、第1の選択信号S1が相対的に電位の高いHレベルであるときに、第1のスイッチ30および第4のスイッチ33の各MOSトランジスタ54,55,56,57がオン状態となるので、第1のスイッチ30および第4のスイッチ33は導通状態となる。第1の選択信号S1が相対的に電位の低いLレベルであるときには、第1のスイッチ30および第4のスイッチ33は開放状態となる。なお、図2において、VDDおよびVSSは、それぞれ、電源およびグランドを表す。
【0041】
図3に示すように、第1のスイッチ30のスイッチ部51および第4のスイッチ33のスイッチ部52の各Pチャネル型MOSトランジスタ54,56は、半導体基板71に形成された同一のN型ウェル領域72内に形成される。第1のスイッチ30のスイッチ部51および第4のスイッチ33のスイッチ部52の各Nチャネル型MOSトランジスタ55,57は、半導体基板71に形成された同一のP型ウェル領域73内に形成される。
【0042】
また、第1のスイッチ30の出力端子(N2)62と第4のスイッチ33の出力端子(N4)64は、近接して配置される。このような配置によって、N型ウェル領域72およびP型ウェル領域73を介して第1のスイッチ30および第4のスイッチ33に漏れ込む電源からの雑音の量が等しくなる。
【0043】
インバータ53のPチャネル型MOSトランジスタ58は、半導体基板71の、前記N型ウェル領域72とは異なる領域に形成されたN型ウェル領域74内に形成される。インバータ53のNチャネル型MOSトランジスタ59は、半導体基板71の、前記P型ウェル領域73とは異なる領域に形成されたP型ウェル領域75内に形成される。N型ウェル領域72,74は、コンタクト領域を介して電源VDDにバイアスされている。P型ウェル領域73,75は、コンタクト領域を介してグランドVSSにバイアスされている。
【0044】
半導体基板71の図示しない領域には、第1〜第6の前記入力抵抗36,37,38,39,40,41、差動入力増幅器27、帰還抵抗28および抵抗42が形成されている。すなわち、実施の形態1にかかるアナログ信号選択回路は、同一の半導体基板71上に形成されている。なお、図2および図3において、「S」、「G」、「D」、「NW」および「PW」は、それぞれ、ソース端子(ソース電極)、ゲート端子(ゲート電極)、ドレイン端子(ドレイン電極)、N型のウェルおよびP型のウェルを表す。
【0045】
図1において、nv12、nv13、nv22およびnv23は、それぞれ、第2の信号経路、第3の信号経路、第5の信号経路および第6の信号経路のそれぞれの開放状態のスイッチに漏れ込む雑音を示す。また、図2において、nv4、nv5およびnv6は、それぞれ、電源VDDに重畳された雑音、第1のスイッチ30のスイッチ部51が開放状態のときに漏れ出す電源の雑音nv4に起因する雑音、および第4のスイッチ33のスイッチ部52が開放状態のときに漏れ出す電源の雑音nv4に起因する雑音である。図2のnv5およびnv6の雑音が、それぞれ、図1の第2のスイッチ31と第5のスイッチ34の組ではnv12およびnv22の雑音となり、第3のスイッチ32と第6のスイッチ35の組ではnv13およびnv23の雑音となる。
【0046】
図1において、第1のスイッチ手段24と第2のスイッチ手段25の各スイッチの開閉が第1の選択信号S1、第2の選択信号S2および第3の選択信号S3により制御されるので、第1のスイッチ手段24および第2のスイッチ手段25において、開放状態となるスイッチの数が同じになる。また、上述したように、第1のスイッチ手段24および第2のスイッチ手段25の各MOSトランジスタのサイズが同じである。
【0047】
さらに、図2に示すような配置となっていることによって、第2のスイッチ31に漏れ込む雑音nv12の量と第5のスイッチ34に漏れ込む雑音nv22の量は等しくなる。また、第3のスイッチ32に漏れ込む雑音nv13の量と第6のスイッチ35に漏れ込む雑音nv23の量も等しくなる。これらの雑音が差動入力増幅器27により差動加算されて相殺されるので、これらの雑音は、アナログ信号選択回路の出力端子(OUT)29には現れない。つまり、スイッチの寄生素子経由の雑音が原因で信号対雑音性能が劣化するのを抑えることができる。
【0048】
差動入力増幅器27が有する入力換算雑音nvaの影響は、以下に説明する通りである。図1において、第1のスイッチ手段24の出力ノードAおよび第2のスイッチ手段25の出力ノードBの電圧を、それぞれ、V(A)およびV(B)とすると、V(A)およびV(B)は、次の(2)式で表される。従って、アナログ信号選択回路の出力端子(OUT)29には、次の(3)式で表される信号V(OUT)が現われる。これより、入力信号sv1に対する増幅度が1倍であるのに対して、差動入力増幅器27のノイズゲインが2倍であることがわかる。
【0049】
【数2】

【数3】

【0050】
このように、実施の形態1では、差動入力増幅器27のノイズゲインが従来の半分になる。これは、3入力のアナログ信号のうちの1つが選択された場合のノイズゲインであるが、ノイズゲイン自体は、選択されるアナログ信号の数によって変化する。例えば、第1のスイッチ30と第4のスイッチ33の組、および第2のスイッチ31と第5のスイッチ34の組がともに導通状態になる場合には、第1の入力端子(IN1)21および第2の入力端子(IN2)22のそれぞれに入力するアナログ信号に対する増幅度は1倍であるが、ノイズゲインは3倍になる。
【0051】
さらに、第1のスイッチ30と第4のスイッチ33の組、第2のスイッチ31と第5のスイッチ34の組、および第3のスイッチ32と第6のスイッチ35の組がともに導通状態になる場合には、入力信号に対する増幅度は1倍であるが、ノイズゲインは4倍になる。つまり、選択されるアナログ信号の数をMとすると、ノイズゲインは[M+1]倍となる。Mの値が4以上の場合も同様である。複数のアナログ信号が選択された場合には、その選択された複数のアナログ信号を差動入力増幅器27により加算した信号が出力端子(OUT)29から出力される。
【0052】
(実施の形態2)
図4は、この発明の実施の形態2にかかるアナログ信号選択回路の構成を示す図である。図4に示すように、実施の形態2は、実施の形態1のアナログ信号選択回路において、第1のスイッチ手段24に含まれる第1〜第3のスイッチ30,31,32と第2のスイッチ手段25に含まれる第4〜第6のスイッチ33,34,35とで、スイッチ部のMOSトランジスタのサイズが異なるようにしたものである。特に限定しないが、ここでは、第4〜第6のスイッチ33,34,35が第1〜第3のスイッチ30,31,32の概ね2/3程度のサイズであるとする。
【0053】
この場合、差動入力増幅器27の非反転入力端子とアナログ基準電圧源SGの間の抵抗値が実施の形態1の場合の3倍となる。これを表すため、図4では、差動入力増幅器27の非反転入力端子とアナログ基準電圧源SGの間の抵抗42に抵抗43と抵抗44が直列に接続されている。この3つの抵抗42,43,44の抵抗値は、すべてR1である。このようにすると、アナログ信号選択回路の出力端子(OUT)29で見ると、第1のスイッチ手段24に漏れ込む雑音と第2のスイッチ手段25に漏れ込む雑音は、その大きさが同じで逆の極性になる。
【0054】
従って、これらの雑音は、アナログ信号選択回路の出力端子(OUT)29には現れない。実施の形態2では、半導体チップ上のアナログスイッチの占有面積が小さくなるという利点がある。なお、実施の形態2では、各スイッチの導通抵抗が大きくなるが、第2のスイッチ手段25の各スイッチの入力信号が大振幅では変動せず、一定の直流電圧であるので、問題はない。
【0055】
差動入力増幅器27が有する入力換算雑音nvaの影響は、以下に説明する通りである。図4において、第1のスイッチ手段24の出力ノードAおよび第2のスイッチ手段25の出力ノードBの電圧を、それぞれ、V(A)およびV(B)とすると、V(A)およびV(B)は、次の(4)式で表される。従って、アナログ信号選択回路の出力端子(OUT)29には、次の(5)式で表される信号V(OUT)が現われる。これより、実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、入力信号sv1に対する増幅度が1倍であるのに対して、差動入力増幅器27のノイズゲインが2倍であることがわかる。
【0056】
【数4】

【数5】

【0057】
以上説明したように、実施の形態1、2によれば、アナログスイッチの寄生容量や寄生抵抗を介してスイッチに漏れ込む雑音を低減することができる。また、増幅器自体のノイズゲインを小さくすることができる。さらに、複数のアナログ入力信号の中から2以上の信号を選択し、それらの信号を加算して出力させることができる。
【0058】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、種々変更可能である。例えば、第1のスイッチ手段24および第2のスイッチ手段25の各スイッチを、Pチャネル型MOSトランジスタのみ、またはNチャネル型MOSトランジスタのみで構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明にかかるアナログ信号選択回路は、オーディオ機器やビデオ機器のように複数のアナログのオーディオ信号の中から所望の信号を選択して出力する機器に有用であり、特に、音楽再生機能を有する携帯電話機に適している。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の実施の形態1にかかるアナログ信号選択回路の構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1にかかるアナログ信号選択回路のスイッチを構成する半導体素子の等価回路を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1にかかるアナログ信号選択回路のスイッチを構成する半導体素子の平面レイアウトを示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2にかかるアナログ信号選択回路の構成を示す図である。
【図5】従来のアナログ信号選択回路の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
SG アナログ基準電圧源
sv1 アナログ入力信号
24 第1のスイッチ手段
25 第2のスイッチ手段
27 差動入力増幅器
30,31,32,33,34,35 スイッチ
36,37,38,39,40,41 入力抵抗
54,56 Pチャネル型MOSトランジスタ
55,57 Nチャネル型MOSトランジスタ
71 半導体基板
72 N型ウェル領域
73 P型ウェル領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアナログ信号のそれぞれを入力信号として選択するか否かを切り換える第1のスイッチ手段と、
アナログ信号の基準電圧を入力信号として選択するか否かを切り換える第2のスイッチ手段と、
前記第1のスイッチ手段の出力信号と前記第2のスイッチ手段の出力信号を差動加算する増幅器と、
を備えることを特徴とするアナログ信号選択回路。
【請求項2】
前記第1のスイッチ手段は、複数のアナログ信号のそれぞれについて信号経路を有し、
前記第2のスイッチ手段は、前記第1のスイッチ手段の信号経路と同数の信号経路を有し、
前記第1のスイッチ手段の各信号経路の増幅度と前記第2のスイッチ手段の各信号経路の増幅度が概ね同じであることを特徴とする請求項1に記載のアナログ信号選択回路。
【請求項3】
前記第1のスイッチ手段は、同第1のスイッチ手段の各信号経路に該信号経路を導通状態または開放状態とするスイッチを有し、
前記第2のスイッチ手段は、同第2のスイッチ手段の各信号経路に該信号経路を導通状態または開放状態とするスイッチを有し、
前記第1のスイッチ手段の導通状態となるスイッチの数と前記第2のスイッチ手段の導通状態となるスイッチの数が同じであることを特徴とする請求項2に記載のアナログ信号選択回路。
【請求項4】
前記第1のスイッチ手段は、Nチャネル型MOSトランジスタまたはPチャネル型MOSトランジスタにより構成されたアナログスイッチと、該アナログスイッチに直列に接続された抵抗と、を有し、該抵抗、前記MOSトランジスタおよび前記増幅器が同一の半導体基板上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアナログ信号選択回路。
【請求項5】
前記第2のスイッチ手段は、前記第1のスイッチ手段と同じ構成のアナログスイッチと、該アナログスイッチに直列に接続された抵抗と、を有し、前記第1のスイッチ手段と同じ半導体基板上に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のアナログ信号選択回路。
【請求項6】
前記第1のスイッチ手段は、Nチャネル型MOSトランジスタおよびPチャネル型MOSトランジスタからなる相補型MOSトランジスタにより構成されたアナログスイッチと、該アナログスイッチに直列に接続された抵抗と、を有し、該抵抗、前記MOSトランジスタおよび前記増幅器が同一の半導体基板上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアナログ信号選択回路。
【請求項7】
前記第2のスイッチ手段は、前記第1のスイッチ手段と同じ構成のアナログスイッチと、該アナログスイッチに直列に接続された抵抗と、を有し、前記第1のスイッチ手段と同じ半導体基板上に形成されていることを特徴とする請求項6に記載のアナログ信号選択回路。
【請求項8】
前記第1のスイッチ手段のアナログスイッチを構成するMOSトランジスタおよび前記第2のスイッチ手段のアナログスイッチを構成するMOSトランジスタのうち、チャネルの極性が同じMOSトランジスタ同士が同一のウェル内に形成されていることを特徴とする請求項7に記載のアナログ信号選択回路。
【請求項9】
前記第1のスイッチ手段は、複数のアナログ信号のそれぞれについて信号経路を有し、
前記第2のスイッチ手段は、前記第1のスイッチ手段の信号経路と同数の信号経路を有し、
Nを正の実数とするとき、前記第2のスイッチ手段のアナログスイッチを構成するMOSトランジスタのサイズが前記第1のスイッチ手段のアナログスイッチを構成するMOSトランジスタのサイズの1/Nであり、前記第2のスイッチ手段の各信号経路の増幅度が前記第1のスイッチ手段の各信号経路の増幅度の概ねN倍であることを特徴とする請求項5または7に記載のアナログ信号選択回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−278298(P2008−278298A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120805(P2007−120805)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(308014341)富士通マイクロエレクトロニクス株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】