説明

アルミニウム材料

【課題】アルミニウムが有する特長(優れた導電性・加工性・軽量性・リサイクル性等)を損なうことなく外部環境に対する耐食性・耐久性を付与するとともに内部における局部電池腐食を抑制することにより、電気化学的に厳しい環境下においても電極材料として有用な優れた耐食性と耐久性とを併せ持つアルミニウム材料を提供する。
【解決手段】アルミニウム材料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材1の外層に防食層3と導電層5とが形成されたアルミニウム材料であって、前記基材1と前記防食層3との間にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなり平均厚さが10nm以上200nm以下の接着層2が形成され、前記防食層3は、その自然電位が前記接着層2の自然電位よりも-0.1V乃至1.2V大きく、かつ大気中で不動態被膜を形成しやすい材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材料に関し、特に、電気化学的に厳しい環境下においても電極材料として有用な優れた耐食性と耐久性とを併せ持つアルミニウム材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材料は、軽量で加工性に優れ、電気抵抗率が低いことから電極材料として最も期待される材料の1つである。また、安価でリサイクル性に優れる特長もある。しかしながら、アルミニウムは両性金属であり、外部環境によって腐食しやすい(耐食性が低い)ことから電極材料としての利用に制約があった。
【0003】
これに対し、高導電性であって耐食性に優れたカーボンや金・銀等の貴金属の皮膜をアルミニウム材の表面上に形成することで、基材となるアルミニウムが有する優れた導電性・加工性・軽量性・リサイクル性等の特長を損なうことなく、該アルミニウム材に耐食性を付与することが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、アルミニウム等のベース金属上に金や白金等の貴金属をクラッドしたクラッド材からなる電気二重層キャパシタ用の電極材料が開示されている。また、特許文献2では、アルミニウム材の表面にカーボン皮膜や貴金属皮膜などの導電性皮膜が形成され、該導電性皮膜の欠陥が熱水処理または水蒸気処理により実質的に封止されている耐食アルミ導電性材料が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−373830号公報
【特許文献2】再公表2005−35829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電極材料は、クラッド加工により製造されることから外層である貴金属層にピンホールなどの欠陥が少なく耐食性に優れる利点を有すると考えられるが、貴金属の量が多いことからコスト高となる大きな欠点がある。一方、特許文献2に記載の耐食アルミ導電性材料は、耐食導電性皮膜の厚さを薄くしてコストを低減するとともに、薄い皮膜において不可避的に生じるピンホールやクラック等の欠陥部分を酸化アルミニウム水和物で封止することで耐食性が確保できるとされている。
【0007】
上述したように、特許文献1や特許文献2に記載のアルミニウム材料は、アルミニウムの基材上に貴金属層が直接形成されている。ここにおいて、アルミニウムは、自然電位が-1.68 Vと負の電位が大きい卑金属であり、正の自然電位を有する貴金属との電位差が大きい。すなわち、アルミニウムと貴金属との直接接合は局部電池を構成し、局部電池腐食を生じさせる可能性が高い。上述した従来技術のアルミニウム材料は、この観点における考慮がなされておらず、電気化学的に厳しい環境下における耐食性および耐久性に問題がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、アルミニウムが有する特長を損なうことなく外部環境に対する耐食性・耐久性を付与するとともに内部における局部電池腐食を抑制し、電気化学的に厳しい環境下においても電極材料として有用な優れた耐食性と耐久性とを併せ持つアルミニウム材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の外層に防食層と導電層とが形成された耐食性アルミニウム材料であって、
前記基材と前記防食層との間にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなり平均厚さが10 nm以上200 nm以下の接着層が形成され、前記防食層は、その自然電位が前記接着層の自然電位よりも-0.1 V乃至1.2 V大きく、かつ大気中で不動態被膜を形成しやすい材料であることを特徴とするアルミニウム材料を提供する。なお、本明細書において、自然電位とは「塩化ナトリウム3.5質量%の水溶液中における自然電位」と定義する。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記の本発明に係るアルミニウム材料において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記防食層は、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)から選ばれる1種または前記選ばれる1種を主成分とする合金からなり、平均厚さが10 nm以上200 nm以下である。
(2)前記防食層は、クロム(Cr)またはクロムを主成分とする合金からなり、平均厚さが20 nm以上2000 nm以下である。
(3)前記防食層は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)から選ばれる少なくとも1種を0.1質量%以上1質量%以下含有する合金である。
(4)前記防食層と前記導電層との間にパラジウム、白金、コバルト、ニッケルのいずれかからなり平均厚さが0.1 nm以上1nm以下の添加層が更に形成されている。
(5)前記接着層と前記防食層との接合、前記防食層と前記導電層との接合、前記防食層と前記添加層との接合、および/または前記添加層と前記導電層との接合が金属接合になっている。
(6)前記接着層、前記防食層、前記導電層、および/または前記添加層に存在する被覆が不完全な部分の内周面に酸化膜が形成されている。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金から基材の外層に接着層と防食層と導電層とが形成され、前記接着層はアルミニウムまたはアルミニウム合金からなり平均厚さが10 nm以上200 nm以下であり、前記防食層はその自然電位が前記接着層の自然電位よりも-0.1 V乃至1.2 V大きく、かつ大気中で不動態被膜を形成しやすい材料であるアルミニウム材料の製造方法であって、
前記基材の表面上に前記防食層と前記電気接点層とをこの順に同一の気密チャンバー内にて連続して成膜することを特徴とする錫被覆アルミニウム材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミニウムが有する特長(優れた導電性・加工性・軽量性・リサイクル性等)を損なうことなく外部環境に対する耐食性・耐久性を付与するとともに内部における局部電池腐食を抑制することにより、電気化学的に厳しい環境下においても電極材料として有用な優れた耐食性と耐久性とを併せ持つアルミニウム材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図を参照しながら本発明に係る実施形態を説明する。なお、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本明細書の図面中で同義の部分には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0014】
〔本発明の第1の実施形態〕
(アルミニウム材料の構造)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るアルミニウム材料の1例を示す断面模式図である。アルミニウム材料10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材1の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる接着層2を介して防食層3が形成され、防食層3の外層に導電層5が形成されている。なお、図1においては、基材1の片面のみに接着層2〜導電層5が形成されているが、基材1の両面に形成されることはもちろん好ましい。
【0015】
基材1としては、JISのA1000番台・A2000番台・A3000番台・A5000番台・A6000番台・A7000番台のアルミニウムまたはアルミニウム合金の基材を用いることができる。基材1の表層領域に形成されている化合物層(例えば、自然酸化膜)や炭素を含む吸着層(それぞれ厚さにして数nm程度)は、接着層2を形成する前に除去することが好ましいが、除去しなくてもよい。
【0016】
接着層2は、基材1と同様にJISのA1000番台・A2000番台・A3000番台・A5000番台・A6000番台・A7000番台のアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されるが、平均厚さが10 nm以上200 nm以下であることが望ましい。平均厚さが10 nmよりも薄いと接着層としての機能(接着力)が不十分となり、200 nmよりも厚いと接着層2の内部歪みが大きくなり表面形状が荒れることから好ましくない。より望ましくは平均厚さが20 nm以上100 nm以下ある。また、接着層2の結晶粒表面に自然酸化膜が形成される前に後述する防食層3を形成することが望ましい。言い換えると、接着層2の結晶粒と防食層3の結晶粒とが金属接合していることが望ましい。
【0017】
防食層3は、その自然電位が接着層2の自然電位よりも-0.1 V乃至1.2 V大きく、かつ大気中で不動態被膜を形成しやすい材料である。これは、防食層3の自然電位と純アルミニウムの自然電位(-1.68 V)との電位差を小さくする(特に、酸素還元反応の電位1.23 Vよりも小さくする)ことで局部電池腐食を抑制し、防食性と耐久性を向上させるためである。より望ましくは、接着層2の自然電位よりも-0.1 V乃至1.0 V大きい材料である。
【0018】
防食層3の材料として、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびクロム(Cr)から選ばれる1種またはこれらから選ばれる1種を主成分とする合金を用いることは好ましい。前記選ばれる1種を主成分とする合金として、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)から選ばれる少なくとも1種を0.1〜1質量%含有する合金であることは特に好ましい。なお、それぞれの自然電位は、Hfが-1.70 V、Tiが-1.63 V、Zrが-1.54 V、Taが-1.12 V、Nbが-1.10 V、Crが-0.74 Vであり、Alのそれとの差が-0.1〜1.2 Vの範囲内である。また、これらはいずれも大気中で不動態被膜を形成しやすい金属である。Pd,Pt,CoまたはNiを含有させる(添加する)作用効果は後述する。
【0019】
防食層3を構成する主元素がTa,Nb,Hf,TiまたはZrの場合、平均厚さが10 nm以上200 nm以下であることが望ましい。また、防食層3を構成する主元素がCrの場合、平均厚さが20 nm以上2000 nm以下であることが望ましい。平均厚さがそれぞれ上記範囲よりも薄いと防食効果が不十分となる。一方、平均厚さの上限は、防食層3における水素吸収のし易さ(単位体積あたりの水素吸収量)に関係していると考えられる。
【0020】
腐食環境下で発生した水素は、防食層3に吸収される可能性がある。水素を過剰に吸収すると防食層が大きく体積膨張し、皮膜の表面形状が荒れたりクラックが発生したりすることが懸念される。Ta,Nb,Hf,TiおよびZrは水素を吸収しやすい材料であることから、平均厚さの上限を200 nmとする。一方、Crは水素を吸収しにくい材料であることから、平均厚さの上限が2000 nmとなる。なお、防食層3の結晶粒表面に不動態皮膜が形成される前に後述する導電層5を形成することが望ましい。言い換えると、防食層3の結晶粒と導電層5の結晶粒とが金属接合していることが望ましい。
【0021】
導電層5は、その自然電位が-0.3 Vよりも大きい卑金属または貴金属材料から構成され、平均厚さが5nm以上100 nm以下であることが望ましい。平均厚さが5nmよりも薄いと導電層としての機能(導電性)が不十分となり、100 nmよりも厚いと材料コストが高くなることから好ましくない。
【0022】
前述したように、薄い皮膜においてはピンホールや微小クラックのように被覆が不完全な部分が不可避的に生じやすい。本発明に係るアルミニウム材料も接着層2・防食層3・導電層5の平均厚さが薄いことから、各皮膜層による被覆が不完全な部分6(例えば、ピンホールや空隙、微小クラック等)を有する可能性が高い。この観点において、本発明に係る耐食性アルミニウム材料は、接着層2および防食層3が大気中において不動態皮膜を形成しやすい材料であることから、被覆が不完全な部分の内周面に該不動態皮膜が形成され耐食性を確保することができる。また、それら被覆が不完全な部分の内周面に酸化膜7を積極的に形成し、ピンホールや微小クラック等を封印することはもちろん好ましい。
【0023】
(アルミニウム材料の製造方法)
次に、本発明に係るアルミニウム材料の製造方法の1例について説明する。本発明に係るアルミニウム材料の製造では、自然電位の負数が大きい卑金属を積層することから、製造途中で該金属の結晶粒表面に酸化膜が形成されないように気密チャンバー(いわゆる真空チャンバー)を用いた物理的気相成長法(Physical Vapor Deposition、例えば、スパッター法や真空蒸着法)を利用することが好ましい。
【0024】
始めに、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材1を用意する。基材1は、表層領域に形成されている酸化物層(例えば、自然酸化膜)や炭素を含む吸着層(それぞれ厚さにして数nm程度)を酸洗処理(エッチング処理)等の前処理によって除去しないで用いることが好ましい。ただし、酸化物層が10 nm以上の厚さで形成されている場合や表層に油分などの著しい汚れがある場合は、それらを除去する処理(例えば、10 nm未満の厚さになるようにする基板前処理工程)を行ってもよい。該処理の手法として特に限定されるものではないが、ドライプロセス(例えば、逆スパッタ処理、プラズマ処理、イオンボンバードメント処理等)で行われることが好ましい。
【0025】
次に、真空チャンバーを用いた物理的気相成長法により基材1の表面上に接着層2を成膜する接着層成膜工程を行う。成長粒子が高いエネルギーを有する物理的気相成長を利用することにより、基材1の表層領域に形成されている化合物層や吸着層を突き破って接着層2の結晶粒と基材1とが直接接合する。なお、基材前処理工程を行った場合、基材前処理工程と接着層成膜工程は、酸素および/または窒素を実質的に含まない雰囲気中(例えば、アルゴン雰囲気中)で連続して行われることが望ましい。
【0026】
次に、真空チャンバーを用いた物理的気相成長法により接着層2の表面上に防食層3を成膜する防食層成膜工程を行う。成長粒子が高いエネルギーを有する物理的気相成長を利用することにより、接着層2の結晶粒と防食層3の結晶粒とが金属接合する(部分的な合金化を含む)。また、接着層2の結晶粒表面に自然酸化膜等が形成される前に防食層3を形成することが望ましい。言い換えると、接着層成膜工程と防食層成膜工程は、酸素および/または窒素を実質的に含まない雰囲気中(例えば、アルゴン雰囲気中)で連続して行われることが望ましい。
【0027】
次に、真空チャンバーを用いた物理的気相成長法により防食層3の表面上に導電層5を成膜する導電層成膜工程を行う。成長粒子が高いエネルギーを有する物理的気相成長を利用することにより、防食層3の結晶粒と導電層5の結晶粒とが金属接合する(部分的な合金化を含む)。また、防食層3の結晶粒表面に自然酸化膜等が形成される前に導電層5を形成することが望ましい。言い換えると、防食層成膜工程と導電層成膜工程は、酸素および/または窒素を実質的に含まない雰囲気中(例えば、アルゴン雰囲気中)で連続して行われることが望ましい。
【0028】
最後に、酸素ガスを含む雰囲気中でのプラズマ処理や大気中での熱処理等により、接着層2〜導電層5における被覆が不完全な部分6(例えば、ピンホールや微小クラック等)を封印する酸化膜7を形成する酸化膜形成工程を行う。本工程は、前工程に引き続いて同一の真空チャンバーを用い雰囲気を制御した環境下で行われることが好ましいが、それに限定されるわけではない(例えば、真空チャンバーから取り出した後の大気中熱処理でもよい)。
【0029】
〔本発明の第2の実施形態〕
(アルミニウム材料の構造)
図2は、本発明の第2の実施形態に係るアルミニウム材料の1例を示す断面模式図である。アルミニウム材料20は、防食層3と導電層5との間に添加層4が形成されている点において第1の実施形態に係るアルミニウム材料10と異なり、他はアルミニウム材料10と同様の構造を有する。なお、図2においては、基材1の片面のみに接着層2〜導電層5が形成されているが、基材1の両面に形成されることはもちろん好ましい。
【0030】
添加層4は、材料としてPd,Pt,Co,Niから選ばれる1種を用いることが望ましく、平均厚さが0.1 nm以上1nm以下であることが望ましい。また、添加層4は、防食層3の結晶粒表面に自然酸化膜等が形成される前に形成し、防食層3の結晶粒と添加層4の結晶粒とが金属接合していることが望ましい。添加層4を形成することにより、防食層3における孔食防止・水素吸収の抑制・導電層5との密着性向上が期待できる。これらはアルミニウム材料20の耐久性を向上させる。
【0031】
添加層4の平均厚さが0.1 nmよりも薄いと上述の作用効果が得られない。一方、平均厚さを1nmよりも厚くすると作用効果が低下する場合がある。よって、添加層4の平均厚さは0.1 nm以上1nm以下であることが望ましい。なお、第1の実施形態において記述した防食層3への添加(Pd,Pt,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)は、添加層4の形成と同じ作用効果を有する。言い換えると、防食層3へ該元素を添加した場合は、添加層4を重複して形成しない方がよい。
【0032】
(アルミニウム材料の製造方法)
第2の実施形態に係るアルミニウム材料20の製造は、第1の実施形態に係るアルミニウム材料10の場合と同様の工程で行うことができる。
【0033】
なお、添加層4の形成は、真空チャンバーを用いた物理的気相成長法により防食層3の表面上に添加層4を成膜する添加層成膜工程により行う。成長粒子が高いエネルギーを有する物理的気相成長を利用することにより、防食層3の結晶粒と添加層4の結晶粒とが金属接合する(部分的な合金化を含む)。また、防食層3の結晶粒表面に自然酸化膜等が形成される前に添加層4を形成することが望ましい。言い換えると、防食層成膜工程と添加層成膜工程は、酸素および/または窒素を実質的に含まない雰囲気中(例えば、アルゴン雰囲気中)で連続して行われることが望ましい。
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
〔アルミニウム材料の導電性評価〕
導電性評価としては、次の2種類の環境試験を行い、これら環境試験前後におけるアルミニウム材料試料の面接触抵抗を測定し、その変化により耐久性を評価した。
環境試験A:酢酸と純水によりpH=4.5に調整された水溶液を作製し、この水溶液にアルミニウム材料の試料を浸漬(約25℃で24時間)した。本環境試験は、アルミニウム材料において従来の耐食処理が施されていれば耐食性を有すると考えられる環境である。なお、供試材の端部は耐食処理が施されておらず基材が露出した状態であるため、ビニールマスキングテープにより封止処理を行って液に漬ける条件とした。
環境試験B:硫酸と純水によりpH=2に調整された水溶液に、さらに塩化ナトリウムを1200 ppm添加した水溶液を作製し、この水溶液にアルミニウム材料の試料を浸漬(約25℃で24時間)した。本環境試験は、非常に厳しい腐食環境を模擬したものである。なお、供試材の端部は耐食処理が施されておらず基材が露出した状態であるため、ビニールマスキングテープにより封止処理を行って液に漬ける条件とした。
【0036】
図3は、供試材のアルミニウム材料における面接触抵抗の測定方法を示した模式図である。図3に示すように、面接触抵抗はカーボンペーパ(東レ株式会社、品番:TGP-H-060)と板状供試材との接触抵抗を測定した。具体的には、Auめっきを施したCu(銅)ブロックの間に、カーボンペーパ(面積:1.95×1.95 cm2)を介して用意した板状供試材(面積:2.05×2.05 cm2)を挟み、油圧プレス機で加重(10 kg/cm2)を掛けながら板状供試材とカーボンペーパとの間の抵抗R(単位:mΩ)を4端子測定方式(アデックス株式会社、型番:AX-125A)で測定した。このときの測定値を接触面積4cm2で規格化した(4倍した)値を面接触抵抗(mΩ・cm2)とし、10 mΩ・cm2以下の場合を十分な導電性(および十分な耐久性)と、10 mΩ・cm2より大きい場合を不十分な耐久性と評価した。
【0037】
〔供試材1-1〜1-55〕
基材1として板厚0.3 mmのアルミニウム合金板(JIS A3004)を用意し、RFスパッタ装置(株式会社アルバック、型式:SH-350)の中にセットした。その後、基材1上に接着層2・防食層3・添加層4・導電層5を同一チャンバー内にて順次スパッタ成膜して、アルミニウム材料(供試材1-1〜1-55)を製造した。各皮膜層(接着層2〜導電層5)は基材1の両面に形成した。成膜時の雰囲気はアルゴン(Ar)で圧力は7Paとし、RF出力は成膜する金属の種類により適宜調整した。各層の厚さ制御は、金属種ごとに予め平均成膜速度を測量した上で、成膜時間を調整して行った。なお、本シリーズ(実施例1のシリーズと称す)では、導電層5として金(Au)を選択し厚さを5nmで統一した。また、基材前処理工程と酸化膜形成工程とを行わなかった。各種評価のための試料切断は全皮膜層の成膜後に行った。各供試材における各層の構成材料、膜厚および環境試験前後の面接触抵抗の値を表1に示す。
【0038】
〔供試材2-1〜2-48〕
前述した実施例1のシリーズと同様の手順で各皮膜層(接着層2〜導電層5)を基材1の両面に形成した。その後、引き続き同一チャンバー内にて酸素ガスを含む雰囲気中でのプラズマ処理(酸化膜形成工程)を行いアルミニウム材料(供試材2-1〜2-48)を製造した。該プラズマ処理の条件は、酸素分圧が0.1 Pa、アルゴン分圧が7Paで、1000 W相当のプラズマを5秒間の照射とした。なお、本シリーズ(実施例2のシリーズと称す)では、導電層5として金(Au)を選択し厚さを5nmで統一した。また、基材前処理工程を行わなかった。各供試材における各層の構成材料、膜厚および環境試験前後の面接触抵抗の値を表2に示す。
【0039】
〔供試材3-1〜3-48〕
前述した実施例1のシリーズと同様の手順で各皮膜層(接着層2〜導電層5)を基材1の両面に形成した。その後、各供試材を真空チャンバーから取り出し、170℃で30分間の大気中熱処理(酸化膜形成工程)を行いアルミニウム材料(供試材3-1〜3-48)を製造した。なお、本シリーズ(実施例3のシリーズと称す)では、導電層5として金(Au)を選択し厚さを5nmで統一した。また、基材前処理工程を行わなかった。各供試材における各層の構成材料、膜厚および環境試験前後の面接触抵抗の値を表3に示す。
【0040】
〔供試材4-1〜4-48〕
RFスパッタ装置の中に基材1として板厚0.3 mmの純アルミニウム板(JIS A1050)をセットした後、プラズマ処理(スパッタクリーニング)を行うことにより基材1の表層領域を除去する基材前処理工程を行った。その後、前述した実施例1のシリーズと同様の手順で各皮膜層(接着層2〜導電層5)を基材1の両面に形成し、実施例3のシリーズと同様の手順で酸化膜形成工程を行いアルミニウム材料(供試材4-1〜4-48)を製造した。なお、本シリーズ(実施例4のシリーズと称す)では、導電層5として金(Au)を選択し厚さを5nmで統一した。各供試材における各層の構成材料、膜厚および環境試験前後の面接触抵抗の値を表4に示す。
【0041】
〔供試材5-1〜5-2〕
基材1として板厚0.3 mmのアルミニウム合金板(JIS A3004)を用意した。基材1の表面を脱脂処理し、次いでジンケート処理した後、電解ニッケルめっき処理により厚さ2μmのNi皮膜(第1導電層)を形成した。その後、さらに電解金めっき処理により厚さ1μmのAu皮膜(第2導電層)を形成してアルミニウム材料(供試材5-1)を製造した。また、供試材5-1に対し、120℃の水蒸気中で30分間保持する水蒸気処理を行い、Ni皮膜やAu皮膜の欠陥部分を酸化アルミニウム水和物で封止したアルミニウム材料(供試材5-2)を製造した。これらはいずれも従来の耐食アルミニウム材料である。本シリーズ(実施例5のシリーズと称す)における各層の構成材料、膜厚および環境試験前後の面接触抵抗の値を表5に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
表5に示したように、従来の耐食アルミニウム材料は、環境試験Bの後の面接触抵抗が大きく増大しており(導電性が大きく低下しており)、厳しい腐食環境に対する耐食性・耐久性が不十分であることが判る。これに対し表1に示したように、実施例1のシリーズにおける供試材1-8,1-9,1-11,1-12,1-14〜1-17,1-19,1-21〜1-25,1-27,1-29,1-30,1-32〜1-48,1-50〜1-55は、本発明に係るアルミニウム材料の規定の範囲に含まれており、厳しい腐食環境である環境試験Bの後においても面接触抵抗がほとんど増加せず、高い耐久性を有することが確認された。一方、本発明の規定の範囲から外れる供試材1-1〜1-7,1-10,1-13,1-18,1-20,1-26,1-28,1-31,1-49は、少なくとも環境試験Bの後の面接触抵抗が大きく増大していた。
【0048】
なお、供試材1-3および1-4は、防食層が無く、導電層が非常に薄く(5nm)、酸化膜形成工程が行われていないにもかかわらず、環境試験Aに対する耐久性を有していた。このことから、平均厚さが10 nm以上200 nm以下の接着層は、耐久性においてある程度の効果を有すると言える。また、供試材1-54および1-55の結果から、接着層としてアルミニウム合金が適用可能であることが判る。
【0049】
防食層としては、Ti,Zr,Hf,Nb,Taの場合において平均厚さ10 nm以上200 nm以下の範囲が適用可能であった。この範囲から外れると(供試材1-7,1-10,1-13,1-18,1-28,1-31)耐久性が低下した。また、防食層がCrの場合は、平均厚さ20 nm以上2000 nm以下の範囲が適用可能であったが、その範囲から外れると(供試材1-20,1-26)耐久性が低下した。防食層として上記元素の合金やPd,Pt,Co,Niを添加した合金も適用可能であった。また、合金の状態で成膜する代わりに添加層を形成しても良いことが確認された。ただし、添加層としてPdを用いた場合、平均厚さが1nmを超えると耐久性が低下した(供試材1-49)。
【0050】
実施例2のシリーズは実施例1のシリーズに酸化膜形成処理を施したものであるが、表2に示したように、本発明に係るアルミニウム材料の規定の範囲に含まれる供試材2-2,2-3,2-5,2-6,2-8,2-9,2-12,2-13,2-16,2-17,2-20,2-21,2-24,2-25,2-27〜2-43,2-45〜2-48は、厳しい腐食環境である環境試験Bの後においても面接触抵抗がほとんど増加せず、高い耐久性を有することが確認された。一方、本発明の規定の範囲から外れる供試材2-1,2-4,2-7,2-10,2-11,2-14,2-15,2-18,2-19,2-22,2-23,2-26,2-44は、環境試験Aおよび環境試験Bの後で面接触抵抗が増大していた。
【0051】
実施例3のシリーズは実施例2のシリーズの酸化膜形成処理を大気中熱処理により行ったものであるが、表3に示したように、実施例2のシリーズと同様の結果が得られた。すなわち、酸化膜形成処理として大気中熱処理でも良いことが確認された。
【0052】
実施例4のシリーズは実施例3のシリーズに対しアルミニウム基材の基材前処理を施したものであるが、表4に示したように、全ての供試材において環境試験前の面接触抵抗が低下していた。これは、基材と接着層の接合性が向上したためと考えられる。環境試験後の導電性評価においては、実施例3のシリーズと同様の結果が得られた。
【0053】
以上示したように、本発明に係るアルミニウム材料は、従来の耐食アルミニウム材料よりも高い耐久性を有することが確認された。さらに、アルミニウム基材を覆う被覆層が従来技術のそれよりも非常に薄いことから、低コスト化に寄与することができる。すなわち、本発明に係るアルミニウム材料は、優れた導電性と耐食性とが要求される種々の電極材料等の多くの用途に有用であり、その工業的価値は高いものと言える。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るアルミニウム材料の1例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るアルミニウム材料の1例を示す断面模式図である。
【図3】供試材のアルミニウム材料における面接触抵抗の測定方法を示した模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1…基材、2…接着層、3…防食層、4…添加層、5…導電層、
6被覆が不完全な部分、7…酸化膜、10,20…耐食性アルミニウム材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の外層に防食層と導電層とが形成されたアルミニウム材料であって、
前記基材と前記防食層との間にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなり平均厚さが10 nm以上200 nm以下の接着層が形成され、
前記防食層は、その自然電位が前記接着層の自然電位よりも-0.1 V乃至1.2 V大きく、かつ大気中で不動態被膜を形成しやすい材料であることを特徴とするアルミニウム材料。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム材料において、
前記防食層は、タンタル、ニオブ、ハフニウム、チタン、ジルコニウムから選ばれる1種または前記選ばれる1種を主成分とする合金からなり、平均厚さが10 nm以上200 nm以下であることを特徴とするアルミニウム材料。
【請求項3】
請求項1に記載のアルミニウム材料において、
前記防食層は、クロムまたはクロムを主成分とする合金からなり、平均厚さが20 nm以上2000 nm以下であることを特徴とするアルミニウム材料。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のアルミニウム材料において、
前記防食層は、パラジウム、白金、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種を0.1質量%以上1質量%以下含有する合金であることを特徴とするアルミニウム材料。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のアルミニウム材料において、
前記防食層と前記導電層との間にパラジウム、白金、コバルト、ニッケルのいずれかからなり平均厚さが0.1 nm以上1nm以下の添加層が更に形成されていることを特徴とするアルミニウム材料。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のアルミニウム材料において、
前記接着層と前記防食層との接合、前記防食層と前記導電層との接合、前記防食層と前記添加層との接合、および/または前記添加層と前記導電層との接合が金属接合になっていることを特徴とするアルミニウム材料。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のアルミニウム材料において、
前記接着層、前記防食層、前記導電層、および/または前記添加層に存在する皮膜が不完全な部分の内周面に酸化膜が形成されていることを特徴とするアルミニウム材料。
【請求項8】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の外層に接着層と防食層と導電層とが形成され、
前記接着層はアルミニウムまたはアルミニウム合金からなり平均厚さが10 nm以上200 nm以下であり、
前記防食層はその自然電位が前記接着層の自然電位よりも-0.1 V乃至1.2 V大きく、かつ大気中で不動態被膜を形成しやすい材料であるアルミニウム材料の製造方法であって、
前記基材の表面上に前記防食層と前記電気接点層とをこの順に同一の気密チャンバー内にて連続して成膜することを特徴とする錫被覆アルミニウム材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−126800(P2010−126800A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305816(P2008−305816)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】