説明

イオン注入装置

【課題】 従来のイオン注入装置では、基板表面に滞留する正電荷を、中和装置を用いて中和し、良好なイオン注入を可能にしているが、これでは、コスト高を招く。
【解決手段】 所定の基板を保持する基板保持手段4と、基板保持手段で保持された基板に対し真空中でイオンビームを照射し、X、Y方向に走査するイオン照射手段21、22とを備える。基板保持手段は、静電気によって基板を吸着する静電チャック用の電極42a乃至42dを設けた基板保持部41aを有し、この基板保持部に基板を吸着すると基板裏面に面接触する少なくとも1個のアース接地の導電性の板ばね6を設け、イオン照射手段によって、基板の外周から外側に延出した板ばね表面にイオンビームが照射されるように前記イオンビームの走査を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中で被処理基板に対しイオンビームを照射してイオン注入を行うイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置は、加速することでエネルギを持ったイオンを半導体ウェーハなどの基板に照射し、このエネルギに応じた深さで基板にイオンを打ち込むためのものであり、例えば、半導体の製造工程において、P、As、In、Sbなどイオンをシリコンウェハーに形成されたデバイス構造各部に適切な量で不純物導入するために用いられ、近年では、超低損失のSiCパワーデバイスの製造工程で、デバイスの伝導性などの特性制御を再現性良く行うためにも用いられている。尚、イオン注入に際しては、プロセスに応じてウェハーを所定温度に適宜加熱しながらイオン注入を行うこともある。
【0003】
従来のイオン注入装置では、イオン注入の際に基板が汚染されることを防止する目的で、装置内部で基板を保持する基板保持手段を静電チャックで構成することが知られている。一般に、静電チャックの表面は絶縁材料から構成され、また、基板の裏面には樹脂製の粘着フィルム(保護フィルム)が貼付されている場合が多いことから、基板はその周囲から絶縁されている。このため、基板にイオンビームを照射すると、基板表面に正電荷が滞留し、例えばイオン注入ができない等の不具合が発生する。
【0004】
このことから、電子またはプラズマの生成を可能とする中和装置(例えば、エレクトロンシャワー)を設け、発生させた電子を、静電チャックに保持された基板の近傍またはこの基板に照射されるイオンビームの近傍に供給して、イオンビームの照射に伴う基板表面の正電荷を中和することが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−167593号公報(例えば、図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のものでは、プラズマを生成するためのプラズマ生成装置や電子(熱電子)発生用のフィラメント及び加熱用フィラメント電源装置などの別個の装置が必要となり、部品点数が増加してコスト高を招くと共に、装置構成が複雑になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記点に鑑み、簡単な構造で基板のチャージアップを防止して良好なイオン注入が可能であり、その上、低コストなイオン注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のイオン注入装置は、所定の基板を保持する基板保持手段と、基板保持手段で保持された基板に対し真空中でイオンビームを照射し、X、Y方向に走査するイオン照射手段とを備えたイオン注入装置において、前記基板保持手段は、静電気によって基板を吸着する静電チャック用の電極を設けた基板保持部を有し、この基板保持部に基板を吸着すると基板裏面に面接触する少なくとも1個のアース接地の導電性の板ばねを設け、イオン照射手段によって、基板の外周から外側に延出した板ばね表面にイオンビームが照射されるように前記イオンビームの走査を行うことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、静電チャックによって保持された基板に、加速することでエネルギを持ったイオンビームを照射し、X、Y方向に走査しながら、エネルギに応じた深さで所定のイオンを基板の全面に亘って打ち込む。このイオン注入の際に、周囲から絶縁された基板表面に正電荷が滞留する場合があるが、基板保持部に基板を吸着すると、処理基板の裏面に面接触するアース接地の板ばねを設け、X、Y方向に走査させているイオンビームが板ばね表面に照射されるようにしたため、イオンビームが板ばね表面に照射されたとき、それに伴って基板表面の正電荷が瞬時に板ばねに流れ、アースへと導かれる。その結果、基板のチャージアップの滞留を防止して良好なイオン注入が可能になる。この場合、正電荷を中和するための別個の中和装置は不要であり、部品点数の増加が抑制されて低コストであり、装置構成も簡単である。
【0009】
前記基板保持手段は、円筒形状の本体を有し、この本体上面の基板保持部の面積を基板の面積より小さく設定すると共に、本体の下端部に、外側に向かって延出させた延出部を設け、前記板ばねを、略L字状に屈曲させて延出部の上面に配置し、板ばねの屈曲させた屈曲部が、基板の基板保持部から外側に突出した部分に面接触するものであれば、静電チャックによって基板載置部に基板の略中央部がその全面に亘って一様な力で吸着されるため、例えば基板の周方向に複数の板ばねを配置している場合でも、板ばねの表面と処理基板の裏面とを確実に面接触させることができてよい。
【0010】
前記基板保持手段に加熱手段を内蔵したものであることが好ましい。この場合、静電チャックによって基板の略中央部がその全面に亘って一様な力で吸着されるため、イオン注入すべき基板相互の間で加熱温度のばらつきが発生することが防止でき、また、基板加熱によって基板が熱膨張しても、上記のように板ばねを配置しておけば、板ばねの屈曲部と処理基板の裏面とが面接触した状態を保持できる。
【0011】
ところで、静電チャックや加熱手段を基板保持手段に設ける場合、基板保持手段の裏側から静電チャックや加熱手段への電力供給用の配線を接続する必要があるが、基板保持手段に加熱手段を内蔵して加熱すると、熱で配線が損傷する虞がある。このため、回転及び旋回の少なくとも一方が自在なホルダにスペサーを介して取付けておけば、基板保持手段の基板保持部と背向する側の空間の放熱ができてよい。
【0012】
この場合、前記ホルダの基板保持部と背向する面の一側に、電源からの配線の一端が接続可能な中継部を設け、静電チャック用の電極及び加熱手段と中継部との間を、ホルダに形成した貫通孔を挿通させたブスバーによって接続しておけば、上記空間の放熱が不十分であり、高い温度に保持されても、静電チャックや加熱手段に安定して電力供給できる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のイオン注入装置は、簡単な構造で基板のチャージアップを防止して良好なイオン注入が可能であり、その上、低コストであるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1乃至図4を参照して説明すれば、1は、本発明のイオン注入装置である。イオン注入装置1は、公知の構造の高電圧ターミナル11を有し、高電圧ターミナル11は、所定の印加電圧に対して十分な耐電圧を有する間隔を置いて遮蔽箱12内に収納されている。高電圧ターミナル11内には公知の構造のイオン源13が設けられ、このイオン源13は、真空配管14aを介して、多種類のイオンの中から必要なイオンを取出す質量分析マグネット15に接続されている。この質量分析マグネット15は、高電圧ターミナル11の外側まで延出する他の真空配管14bを介して、遮蔽箱13内に位置する加速管16に接続されている。
【0015】
高電圧を印加してイオンを加速し、必要なエネルギを与える加速管16の他端は、遮蔽箱12の壁面を貫通して、X−Y走査チャンバ2に接続されている。X−Y走査チャンバ2にはクライオポンプなどの真空排気手段P1が接続され、X−Y走査チャンバ2内にはまた、その上流側からイオンビームの整形を行う四極子レンズ21と、例えば高周波を印加してイオンビームをX、Y方向にそれぞれ走査する一対の偏向電極(スキャンプレート)22とが配設され、基板Sに対するイオンビームの照射を制御するイオン照射手段を構成する。X−Y走査チャンバ2の下流側にはイオン注入チャンバ3が接続され、イオン注入チャンバ3にはクライオポンプなどの真空排気手段P2が接続され、イオン注入チャンバ3内にはまた、イオンビームが照射される半導体ウェハなどの基板Sを保持する基板保持手段4が設けられている。
【0016】
図2に示すように、基板保持手段4は次のようにイオン注入チャンバ3に設られている。即ち、イオン注入チャンバ3の外周面には開口が形成され、この開口に装着した磁気シール51を介してイオン注入チャンバ3内まで突出させて、モータなどの駆動手段52の回転軸52aが設けられ、回転軸52aの先端部に、断面視で略L字状のホルダ53が取付けられている。そして、ホルダ53に、ホルダ53との間で所定容積の空間を形成するようにスペサー54を介して基板保持手段4が取付けられている。これにより、モータ52を駆動させて回転軸52aを回転させると、イオンビームに対し基板Sが直角となるイオン注入位置とは異なる位置まで基板保持手段4を回転でき、例えばイオン注入チャンバ3の外周面の他の開口に設けたゲートバルブを開閉して、基板保持手段4への基板Sの受渡しができるようになっている。
【0017】
図2及び図3に示すように、基板保持手段4は、略円筒形状の本体41を有し、その上面には、静電気によって基板Sを吸着する公知の構造の静電チャック用の電極42a乃至42dが設けられ、基板保持部41aを構成する。また、本体41には、例えば、抵抗加熱式のヒータ(図示せず)が内蔵され、イオン注入のプロセスに応じて基板Sを所定温度に加熱して保持できる加熱手段を構成する。
【0018】
次に、本発明のイオン注入装置1の作動を説明する。電極42a乃至42dに通電して基板保持部41aで基板Sを保持した後、各真空排気手段P1及びP2を作動させてX−Y走査チャンバ2及びイオン注入チャンバ3を所定の真空圧まで真空排気する。次いで、真空状態のイオン源13に、図示しないガス源からイオン注入処理に応じて適宜選択されるプロセスガスと、図示しない電源から所定の電力とを供給し、イオン源13中でプラズマを生成し、イオン源13から高電圧ターミナル11の電位までイオンを加速する。次いで、イオン源13からのイオンを、真空配管14aを介して質量分離マグネット15に入射し、この内部で発生している磁場とイオンの持つ速度によるローレンツ力によってイオンの軌道を曲げる。この場合、質量分離電マグネット15への入力電流を適宜調節すれば、所望のイオンが導き出すことができ、下流側の加速管16へと導入できる。
【0019】
次いで、加速管16内に導入されたイオンを、高電圧ターミナル11に印加される電圧によって高電圧とイオンの値数との積のエネルギを持ってグランド電位まで加速し、X−Y走査チャンバ2に導する。X−Y走査チャンバ2に導入されたイオンは、四極子レンズ21によってイオンビームに整形されて所定の軌跡にのせられる。そして、一対の偏向電極22に所定の周波数の電圧を印加することで、基板S表面にイオンビームが一様に照射されてイオンが注入され、イオンビームをX、Y方向にそれぞれ走査することで、基板S表面全体に亘ってイオン注入が行われる。
【0020】
ところで、上記のように基板保持部41aに静電チャック用の電極42a乃至42dを設けた場合、その周囲は絶縁材料から構成される。他方、基板Sの裏面には、樹脂製の粘着フィルム(保護フィルム)が貼付されている場合が多い。このため、イオン注入チャンバ3内の基板Sはその周囲から絶縁されている。この場合、基板Sにイオンビームを照射すると、基板S表面に正電荷が滞留する場合があり、基板S表面に正電荷が滞留し、例えば基板Sがイオンビームの持つエネルギに相当する高い電位まで充電されると、この電位によってイオンビームの飛来が妨げられる。このため、基板S表面に正電荷が滞留しないようにする必要がある。
【0021】
本実施の形態では、静電チャック用の電極42a乃至42dを設けた基板保持部41aの面積を基板Sの面積より小さく設定すると共に、本体41の下端部に、その外周面全体に亘って外側に向かって延出させた環状の延出部41bを形成した。そして、延出部4bの上面に、所定の間隔を置いて2個の略L字状に屈曲させた板ばね6を配置し、板ばね6をアース接地することとした。
【0022】
板ばね6としては、後述するようにイオンビームが照射されたとき、スパッタリングされ難くかつイオン注入処理に悪影響を及ぼさないTiなどの導電性の材料から構成される。また、板ばね6の板厚は、基板保持部41aに基板Sが吸着されたとき、撓んで基板S裏面と確実に面接触すると共に、板ばね6の付勢力によって基板保持部41aに吸着された基板Sが外れず、かつ、本体41に内蔵した加熱手段で基板Sを加熱したときに基板が熱膨張しても、基板S裏面と面接触した状態が保持されるように基板S裏面に対し付勢力が加わるように設定されている。他方、板ばね6の横幅は、イオンビーム径より大きな幅に設定することが好ましい。これにより、電極42a乃至42dに通電して基板保持部41aに基板Sを吸着するとき、基板Sの略中央部がその全面に亘って一様な力で吸着されることと相俟って、基板S裏面と、基板Sに略平行に配置された板ばね6の屈曲部61の上面とを確実に面接触させることができる。
【0023】
そして、この状態でイオン注入の際に偏向電極22を制御してイオンビームをX−Y方向の走査するときに、適宜イオンビームが板ばね6の屈曲部61の上面にも照射されるように制御する。これにより、基板S表面に正電荷が滞留しても、X、Y方向に走査させているイオンビームが板ばね6の屈曲部61の上面に照射されたとき、それに伴って基板S表面の正電荷が瞬時に板ばね6に流れ、アースへと導かれる。その結果、基板Sの正電荷が不必要な滞留することが防止され、良好なイオン注入が可能になる。この場合、正電荷を中和するための別個の中和装置は不要であり、部品点数の増加が抑制されて低コストであり、装置構成も簡単である。また、板ばね6を延出部41bに配置することで、加熱手段で基板Sを加熱するとき、板ばね6自体が加熱される。これにより、接触時の板ばね6と基板Sとの温度差が軽減され、ヒートショックの発生を防止できる。
【0024】
ところで、基板保持手段4に内蔵した加熱手段によって基板Sを所定温度に加熱し、イオン注入処理する場合を考慮して、所定容積の空間を形成するようにスペサー54を介してホルダ53に基板保持手段4を取付け、この空間に熱がこもらないようにしているが、基板Sの加熱温度によっては、この空間の放熱が不十分で高い温度に保持される場合がある。他方で、この空間には、静電チャック用の電極42a乃至42d及び加熱手段への電力供給用の配線が配置されることになるが、金属製導線の周囲に合成樹脂製の絶縁被覆を設けた配線を用いると、熱で配線が損傷する虞がある。
【0025】
このため、図4に示すように、ホルダ53の背面(基板保持部41aと背向する面)の一側に金属製の中継部7を設け、静電チャック用の電極42a乃至42b及び加熱手段と、中継部7との間を、Cu、Au、Agやアルミ合金製の複数本のブスバー8a乃至8dによって、碍子81で中継しつつホルダ53に形成した貫通孔53aを挿通させて接続した。この場合、一対のブスバー8a、8bが加熱手段用のものであり、他の一対のブスバー8c、8dが電極42a乃至42d用のものである。そして、図示しない電源から中継部7までを、金属製導線の周囲に合成樹脂製の絶縁被覆を設けた配線9によって接続した。これにより、空間の放熱が不十分で高い温度に加熱されても、静電チャック用の電極42a乃至42dや加熱手段に安定して電力供給することが可能になる。
【0026】
尚、本実施の形態では、イオンビームに対して直角に基板が位置するもの(注入角が0°)について説明したが、モータなどの他の駆動手段を介して基板保持手段4をホルダ53に取付け、この駆動手段によってイオンビームの走査方向に対し基板Sを所定の角度で傾けるようにしたものにも本発明は適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のイオン注入装置を模式的に説明する図。
【図2】基板保持手段を説明する図。
【図3】基板保持手段で保持された基板上でのイオンビームの走査を説明する図。
【図4】静電チャック用の電極及び加熱手段への配線を説明する図。
【符号の説明】
【0028】
1 イオン注入装置
2 X−Y走査チャンバ
3 イオン注入チャンバ
4 基板保持手段
41b 延出部
42a乃至42d 静電チャック用の電極
6 板ばね
S 基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基板を保持する基板保持手段と、基板保持手段で保持された基板に対し真空中でイオンビームを照射し、X、Y方向に走査するイオン照射手段とを備えたイオン注入装置において、前記基板保持手段は、静電気によって基板を吸着する静電チャック用の電極を設けた基板保持部を有し、この基板保持部に基板を吸着すると基板裏面に面接触する少なくとも1個のアース接地の導電性の板ばねを設け、イオン照射手段によって、基板の外周から外側に延出した板ばね表面にイオンビームが照射されるように前記イオンビームの走査を行うことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記基板保持手段は、円筒形状の本体を有し、この本体上面の基板保持部の面積を基板の面積より小さく設定すると共に、本体の下端部に、外側に向かって延出させた延出部を設け、前記板ばねを、略L字状に屈曲させて延出部の上面に配置し、板ばねの屈曲させた屈曲部が、基板の基板保持部から外側に突出した部分に面接触することを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記基板保持手段に加熱手段を内蔵したことを特徴とする請求項1または請求項2記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記基板保持手段を、回転及び旋回の少なくとも一方が自在なホルダにスペサーを介して取付けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記ホルダの基板保持部と背向する面の一側に、電源からの配線の一端が接続可能な中継部を設け、静電チャック用の電極及び加熱手段と中継部との間を、ホルダに形成した貫通孔を挿通させたブスバーによって接続したことを特徴とする請求項4記載のイオン注入装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−147142(P2008−147142A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336129(P2006−336129)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】