説明

インシュレータ、電機子及びモータ

【課題】集中巻方式を採用する回転電機において電機子巻線温度検出の信頼性を高める。
【解決手段】インシュレータ20のコイル絶縁部22にティース12とは反対側に開口する溝26を設け、溝26と連通する孔28を径方向R外側のコイル押さえ部24aに設ける。孔28から温度センサを挿入して溝26に載置し、導線を巻回して電機子巻線を整形することにより導線のテンションによって温度センサを固定する。電機子コイルが温度センサを溝26へ付勢しても溝26において分散されるため、温度センサの破損を免れやすい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インシュレータ及び電機子に関し、モータに適用できる。
【背景技術】
【0002】
モータに適用される電機子コイルの温度保護を目的として、当該電機子コイルの近傍に温度センサを取付ける技術が下掲の特許文献1〜3に開示されている。
【0003】
電機子コイルが分布巻方式で巻回される場合には、コイルエンド部に温度センサを取付けることは容易である。具体例を挙げれば、巻線加工の最終工程において、コイルエンドの一部をヘラ等で押し開けて変形させ、そこに温度センサを挿入できる。又は、コイルエンドの整形前に温度センサのダミーを固定子コアに外接させた状態で巻線加工を施し、巻線加工終了後にダミーの代わりに温度センサを挿入できる。
【0004】
しかしながら、電機子コイルが集中巻方式で巻回される場合には、コイルエンドが固定子コアに密着するために、上述のようにコイルエンドを変形させて温度センサを挿入することができない。また、ダミーを固定子コアに外接させた状態で集中巻方式で巻回するのは非効率的である。
【0005】
そこで、集中巻方式を採用する場合には、巻回する電線表面に温度センサを接着剤等で貼り付けたり、巻線の周辺に温度センサを取付けて間接的に巻線温度を検出したりしていた。
【0006】
【特許文献1】特開2007−082344号公報
【特許文献2】特開2008−029127号公報
【特許文献3】特許第3447702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電線表面に接着剤で温度センサを取付ける場合には、接着作業の如何によりその信頼性に不安がある。また、巻線周辺の温度から間接的に巻線温度を検出する場合には、急激な温度変化が起こったときに当該温度変化を検出するまでに時間が掛かり、しかも信頼性も低い。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、集中巻方式を採用する回転電機において電機子巻線温度検出の信頼性を高める技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、第1の発明は、周囲に電機子コイル(16)が設けられるティース(12)上に載置される第1部(22)と、前記第1部から略垂直で一方向に延在する第2部(24;24a,24b)を有するインシュレータ(20)であって、前記第2部は、その厚さ方向に貫通する孔(28)を呈し、前記第1部は、前記一方側に開口し、かつ前記孔と連通する溝(26)を呈する。
【0010】
第2の発明は、第1の発明であって、前記溝(26)は、前記一方向とは反対側にも開口する。
【0011】
第3の発明は、第2の発明であって、前記第2部(24;24a,24b)は、前記溝(26)の延在方向に沿って相互に対向して複数設けられ、前記複数の前記第2部のそれぞれが有する前記孔(28)は、前記溝を介して連通する。
【0012】
第4の発明は、ティース(12)と、前記ティースの周囲に設けられる電機子コイル(16)と、前記ティース上に載置される第1部(22)と、前記第1部から略垂直で一方向に延在する第2部(24;24a,24b)を有するインシュレータ(20)とを備える電機子(10)であって、前記第2部は、その厚さ方向に貫通する孔(28)を呈し、前記第1部は、前記一方側に開口し、かつ前記孔と連通する溝(26)を呈し、前記溝及び前記孔に収容する温度センサ(52)を更に備える。
【0013】
第5の発明は、第4の発明であって、前記溝(26)は、前記温度センサ(52)の外径と整合する形状を呈する。
【0014】
第6の発明は、第4又は第5の発明であって、前記溝(26)は、前記一方向とは反対側にも開口する。
【0015】
第7の発明は、第6の発明であって、前記第2部(24;24a,24b)は、前記溝(26)の延在方向に沿って相互に対向して複数設けられ、前記複数の前記第2部のそれぞれが有する前記孔(28)は、前記溝を介して連通する。
【0016】
第8の発明は、第4ないし第7のいずれかの発明を備える、モータ(100)である。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、ティースを有する電機子が構成するモータの回転軸方向におけるティースの端部において、第2部をティースと反対側に配置しつつ第1部をティースに載置し、第1部を介してティースに電機子コイルを設けることによって、ティースの回転軸方向の端部における電機子コイルとティースとの間を効果的に絶縁する。
【0018】
溝には、電機子コイルを設ける前に、例えば温度センサを配設することができる。しかも電機子コイルを集中巻によってインシュレータを介してティースに巻回すれば、コイルのテンションによって当該温度センサを溝へ向けて付勢して固定できる。このとき、温度センサに付勢されることにより温度センサと第1部との間に発生する力は、溝において分散されるため、温度センサの破損を免れやすい。また、当該温度センサの一部を当該コイルに接触させることができるので、温度検出能力の向上に資する。
【0019】
第2の発明によれば、溝に例えば温度センサを配設した場合に、コイル又はティースの温度のうちいずれか高温となっている部位の温度を計測できる。
【0020】
第3の発明によれば、孔が溝の両端に設けられているので、当該インシュレータを採用した電機子をラジアルギャップ型モータに採用した場合、一の孔はロータ側に開口することになるので、ロータの温度、ひいてはロータに配設された磁石の温度を間接的に検出できる。
【0021】
第4の発明によれば、温度センサを破損させることなく配設することができ、しかも当該温度センサをコイルのテンションによって固定できる。また、当該温度センサの一部を当該コイルに接触させることができるので、温度検出能力の向上に資する。
【0022】
第5の発明によれば、温度センサに対して、過剰な機械的ストレスが加えられることを回避又は抑制できる。
【0023】
第6の発明によれば、コイル又はティースの温度のうちいずれか高温となっている部位の温度を計測できる。
【0024】
第7の発明によれば、孔が溝の両端に設けられているので、当該電機子をラジアルギャップ型モータに採用した場合、一の孔はロータ側に開口することになるので、ロータの温度、ひいてはロータに配設された磁石の温度を間接的に検出できる。
【0025】
第8の発明によれば、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な態様について図面を参照しながら説明する。なお、図2を初めとする以下の図には、本発明に関係する要素のみを示す。
【0027】
〈第1実施形態〉
図1は本発明の第1実施形態に係るインシュレータ20を搭載した回転電機100の平面図であり、回転軸Q方向から俯瞰した図を示している。また、図2は回転電機100が備えるティース12の一部とインシュレータ20とを示す斜視図である。
【0028】
図1に示す如く回転電機100は、回転電機100の回転軸Qを中心に回転する回転子30と、回転軸Qを中心とする径方向RにエアギャップAGを介して回転子30と対向する電機子10とを備えている。
【0029】
回転子30は略円柱形を呈しており、その内部で磁石32が磁極面32N,32Sを径方向Rに向けて磁極を交番させながら環状に埋設されている。ここで、磁石32の磁極面32N,32Sの中心は径方向Rと直交する。
【0030】
電機子10は回転子30と同心環状を呈するヨーク18の内壁から回転子30へと向けて径方向Rと略平行に突出する複数のティース12を備えている。本実施形態では、一のヨーク18と一のティース12とが一対で形成され、これらを環状に並べて電機子10を形成している。また、本実施形態では、ヨーク18とティース12とは、回転軸Q方向を法線とする面内に延在する鋼板を打抜いて回転軸Q方向に積層して形成する。つまり、ヨーク18とティース12とは一対一で一体に成形されていると把握できる。
【0031】
電機子10はまたインシュレータ20と電機子コイル16とを備えている。
【0032】
図2に示す如く、インシュレータ20は複数のティース12のそれぞれに対して、回転軸Q方向の端面上に設けられる。なお、図2ではティース12及びヨーク18の回転軸Q方向の高さの一方側の端面からしか図示していないが、他方側の端面にもインシュレータ20を備えている。
【0033】
インシュレータ20はティース12上に載置されるコイル絶縁部(課題を解決する手段の第1部)22と、コイル絶縁部22の径方向R端部から略垂直に屹立するコイル押さえ部24(課題を解決する手段の第2部)とに分けて把握できる。コイル押さえ部24は径方向R外側で電機子コイル16を押さえるコイル押さえ部24aと、径方向R内側で電機子コイル16を押さえるコイル押さえ部24bとを有している。
【0034】
図3は電機子10の部分拡大図であり、回転軸Qから径方向Rに見た図を示している。なお、径方向R内側のコイル押さえ部24bは想像線(二点鎖線)で示している。
【0035】
図3に示す如く、コイル絶縁部22は径方向Rの断面視で略半楕円形を呈しており、当該半楕円の弦がティース12の端面と接していることが望ましい。コイル絶縁部22の表面のうち、ティース12と接していない表面が滑らかに連続していることによって電機子コイル16のテンションはコイル絶縁部22全体に均一に掛かる。
【0036】
また、当該弦の長さとティース12の端面の幅(回転軸Q及び径方向Rのいずれにも直交する方向の長さ)とは略等しいことが望ましい。当該弦の長さがティース12の端面の幅よりも大きい場合には、ティース12と電機子コイル16とを効率的に絶縁するのが困難になる。また、当該弦の長さがティース12の端面の幅よりも小さい場合には、電機子コイル16に掛かるテンションが不均一になり、破損の原因となる。
【0037】
コイル絶縁部22は、径方向Rに沿って当該楕円弧から当該弦へと向けて凹んだ溝26を呈している。また、径方向外側のコイル押さえ部24aは、溝26の延在方向に沿って滑らかに溝26と連通し、径方向外側に開口する孔28を呈している。
【0038】
換言すれば、径方向外側のコイル押さえ部24aは、その厚み方向たる径方向Rに貫通する孔28を呈し、コイル絶縁部22は、回転軸Q方向のティース12とは反対側で開口し、かつ孔28と連通する溝26を呈する。
【0039】
電機子コイル16は、ティース12及びインシュレータ20の周囲で径方向Rを巻回軸として導線14を集中巻方式で巻回して整形される。
【0040】
回転軸Q方向におけるティース12の端部において、コイル絶縁部22をティース12上に載置しつつコイル押さえ部24aをティース12と反対側に配置する。コイル絶縁部22を介してティース12に電機子コイル16が設けられることによって、電機子コイル16とティース12との間を効果的に絶縁する。
【0041】
溝26には、導線14を巻回して電機子コイル16を設ける前に、例えば温度センサ52(図1,図3参照)を配設することができる。しかも電機子コイル16を集中巻によってインシュレータ20を介してティース12に巻回すれば、電機子コイル16のテンションによって温度センサ52を溝26へ向けて付勢して固定できる。いま、コイル絶縁部22の表面のうちティース12と接していない表面は滑らかに連続している(具体的には略半楕円形を呈している)ので、溝26に配設される温度センサ52を確実に溝26へ向けて付勢できる。温度センサ52が付勢されることによって温度センサ52とコイル絶縁部22との間に発生する力は、溝26において分散されるため、温度センサ52の破損を免れやすい。また、温度センサ52の一部を電機子コイル16に接触させることができるので、温度検出能力の向上に資する。したがって、溝26は温度センサ52の外形と整合する形状を呈していることが望ましい。
【0042】
なお、図1では一の回転電機100に温度センサ52を1つしか配設していないが、各ティース12に配設しても良い。
【0043】
温度センサ52を配設するには例えば以下のような手法が有効である。すなわち、溝26に温度センサ52を載置し、その後にティース12及びインシュレータ20の周囲に導線14を巻回して電機子コイル16を整形する。このような手法を採用することによって、温度センサ52を破損させることなく配設することができる。
【0044】
このように、溝26に温度センサ52を設ける場合、すなわち、電機子10の温度を検出したい場合には、例えば以下のようにしても良い。
【0045】
〈第2実施形態〉
図4は本発明の第2実施形態に係るインシュレータ20Aを搭載した電機子の部分拡大図であり、回転軸Qから径方向Rに見た図を示している。なお、径方向R内側のコイル押さえ部24bは想像線(二点鎖線)で示している。なお、上記実施形態と同様の機能を有する構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0046】
溝26Aはティース12と反対側だけでなく、ティース12側にも開口している。溝26Aがティース12側にも開口することによって、温度センサ52は電機子コイル16を構成する導線14及びティース12の双方に接することができるので、いずれか高温となっている部位の温度を計測でき、電機子コイル16の温度保護に資する。
【0047】
〈第3実施形態〉
図5は本発明の第3実施形態に係るインシュレータ20Bとティース12の一部とを示す斜視図である。
【0048】
インシュレータ20Bには上記第1実施形態で示した溝26が径方向R全体に亘って延在する溝26Bが形成されている。また、径方向R内側のコイル押さえ部24bは溝26Bと連通して径方向Rに貫通する孔28Bを呈している。
【0049】
このように孔28,28Bがコイル押さえ部24a,24bの双方に設けられ、両孔28,28B同士の間に溝26Bが延在していれば、孔28Bは回転子30側に開口することになるので、回転子30の温度、ひいては回転子30に埋設されている磁石32の温度を間接的に検出できる。
【0050】
以上、本発明の好適な態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上記第2実施形態と上記第3実施形態とを組合せて、溝26が回転軸Q方向のいずれにも開口していて、かつ2つのコイル押さえ部24a,24bの双方が溝26に連通して貫通する孔を呈していても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインシュレータを搭載した回転電機の平面図である。
【図2】回転電機が備えるティースの一部とインシュレータとを示す斜視図である。
【図3】電機子の部分拡大図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るインシュレータを搭載した電機子の部分拡大図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るインシュレータとティースの一部とを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
100 回転電機
10 電機子
12 ティース
14 導線
16 電機子コイル
18 ヨーク
20,20A,20B インシュレータ
22,22A,22B コイル絶縁部
24,24a,24b コイル押さえ部
26,26A,26B 溝
28,28B 孔
52 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲に電機子コイル(16)が設けられるティース(12)上に載置される第1部(22)と、
前記第1部から略垂直で一方向に延在する第2部(24;24a,24b)を有するインシュレータ(20)であって、
前記第2部は、その厚さ方向に貫通する孔(28)を呈し、
前記第1部は、前記一方側に開口し、かつ前記孔と連通する溝(26)を呈する、インシュレータ。
【請求項2】
請求項1記載のインシュレータ(20)であって、
前記溝(26)は、前記一方向とは反対側にも開口する、インシュレータ。
【請求項3】
請求項2記載のインシュレータ(20)であって、
前記第2部(24;24a,24b)は、前記溝(26)の延在方向に沿って相互に対向して複数設けられ、
前記複数の前記第2部のそれぞれが有する前記孔(28)は、前記溝を介して連通する、インシュレータ。
【請求項4】
ティース(12)と、
前記ティースの周囲に設けられる電機子コイル(16)と、
前記ティース上に載置される第1部(22)と、前記第1部から略垂直で一方向に延在する第2部(24;24a,24b)を有するインシュレータ(20)と
を備える電機子(10)であって、
前記第2部は、その厚さ方向に貫通する孔(28)を呈し、
前記第1部は、前記一方側に開口し、かつ前記孔と連通する溝(26)を呈し、
前記溝及び前記孔に収容する温度センサ(52)を更に備える、電機子。
【請求項5】
請求項4記載の電機子(10)であって、
前記溝(26)は、前記温度センサ(52)の外径と整合する形状を呈する、電機子。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載の電機子(10)であって、
前記溝(26)は、前記一方向とは反対側にも開口する、電機子。
【請求項7】
請求項6記載の電機子(10)であって、
前記第2部(24;24a,24b)は、前記溝(26)の延在方向に沿って相互に対向して複数設けられ、
前記複数の前記第2部のそれぞれが有する前記孔(28)は、前記溝を介して連通する、電機子。
【請求項8】
請求項4ないし請求項7のいずれか記載の電機子(10)を備えるモータ(100)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−4637(P2010−4637A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160301(P2008−160301)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】