インバータ一体型電動圧縮機
【課題】スイッチング素子の締結力を大きくできるとともに、制御基板までをハウジングに組み付けた後にでも、スイッチング素子の取り外しが容易で、さらにスイッチング素子の冷却性能が高いインバータ装置を一体的に備えた電動圧縮機を提供する。
【解決手段】 複数の端子22が延出される電力用半導体スイッチング素子モジュール21と、端子22が嵌め込まれる複数の接続孔を有し、モジュール21を動作させる回路が実装されるパワー基板23と、を備える。モジュール21は、保持面14とモジュール21に亘って設けられ、保持面14に固定される金属製あるいは樹脂製の押え片25によりインバータ収容部10に保持面14に接して保持される。
【解決手段】 複数の端子22が延出される電力用半導体スイッチング素子モジュール21と、端子22が嵌め込まれる複数の接続孔を有し、モジュール21を動作させる回路が実装されるパワー基板23と、を備える。モジュール21は、保持面14とモジュール21に亘って設けられ、保持面14に固定される金属製あるいは樹脂製の押え片25によりインバータ収容部10に保持面14に接して保持される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車両用空調装置に用いるのが好適なインバータ一体型電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近ごろ、エネルギー環境への対応から、ハイブリッド自動車や電気自動車、あるいは燃料電池自動車のように、電気の動力を利用して走行する車両の開発および市場への投入が急ピッチで進められている。
これらの車両には、従来の空調装置とは異なり、電気を動力とする電動モータによって駆動される電動圧縮機を備えた空調装置が搭載される。圧縮機と電動モータを密閉ハウジング内に内蔵するこの電動圧縮機は、インバータ装置を介して三相交流に変換された電力を電動モータに給電し、空調負荷に応じて圧縮機の回転数を可変制御する。
これまでに、インバータ装置を電動圧縮機のハウジングに組み込んで一体化した構成のインバータ一体型電動圧縮機が多数提案されている。このインバータ一体型電動圧縮機は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、)、パワーMOSトランジスタ等の電力用半導体スイッチング素子(以下、単にスイッチング素子ということがある)を、ハウジング外周面に設置する。さらにこのスイッチング素子の上方には、スイッチング素子を動作させる回路が実装される制御基板が配置される。
【0003】
スイッチング素子は、単体又はモジュールとして、ハウジング外周面にねじ止めにより固定される。ところが、電動圧縮機の小型化に伴う小型のスイッチング素子に標準的に形成されるねじ止め用の孔は小さく、大きいねじが使用できないのでスイッチング素子を締結する力が弱い。自動車のように高振動環境においては締結力が弱いとねじが緩む虞があり、インバータ装置の信頼性低下が懸念される。モジュール・タイプのスイッチング素子の場合、素子重量が大きいため、ねじの緩みが特に懸念される。
【0004】
また、スイッチング素子の上方に配置される制御基板には、制御基板の設置後にスイッチング素子を固定するねじを回転させる必要があることから、工具を通す挿通孔が設けられる。例えば、特許文献1には、図17に示すように、ヒートシンク100の表面にねじ101により取付けられた主回路用のスイッチング素子モジュール102と、このモジュール102の駆動回路及びこの回路を制御する制御回路が実装される制御基板103と、制御基板103におけるねじ101の上方位置にねじ101を回す工具を通す挿通孔104とを備えるスイッチング素子の取り付け構造が開示されている。モジュール102と制御基板103とはピン−コネクタ接合され、制御基板103はモジュール102を覆って設けられる。
しかし、制御基板103に挿通孔104を空けると、部品実装が可能な面積(以下、有効面積という)が少なくなる。特に、基板中央に孔を空ける場合、回路の配線が寸断されないようにするため、孔の周囲についても有効面積を失うことがある。
【0005】
挿通孔の回避策として、特許文献2、特許文献3には、図18、図19に示すように、金属プレート200にスイッチング素子201をねじ止めした後、制御基板203とスイッチング素子201の端子202をはんだ付けするインバータ装置が開示されている。このインバータ装置は、スイッチング素子201及び制御基板203を載せた金属プレート200がハウジング外周面にねじ止めにより固定される。金属プレート200は、制御基板203と同等の表面積を有している。
しかし、金属プレート200を用いたスイッチング素子201の取り付け構造は、金属プレートの厚みの分だけスイッチング素子201の下面からの冷却面となるハウジング外周面までの距離が長くなるので、熱伝導性が低下してしまい、スイッチング素子の冷却性能が不足する。また、金属プレートの分だけコスト増となる。
また、この取り付け構造において、金属プレートを省略してスイッチング素子をハウジングにねじで直接固定することも考えられるが、制御基板203とスイッチング素子201の端子202とのはんだ付けを除去しなければ、制御基板203はもちろん、スイッチング素子201をハウジングから取り外すことができないので、メンテナンス性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−245171号公報
【特許文献2】特開2008−128142号公報
【特許文献3】特開2008−215089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上説明した技術的課題に基づいてなされたもので、スイッチング素子の締結力を大きくできるとともに、スイッチング素子上に制御基板を組み付けた後にでも、スイッチング素子の取り外しが容易で、さらにスイッチング素子の冷却性能が高いインバータ装置を一体的に備えた電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
スイッチング素子を押え片でハウジングに固定することにすれば、用いるねじの大きさを任意に設定できるので、スイッチング素子の締結力を大きくできる。また、押え片をハウジングにねじを用いて固定する場合、制御基板の投影面の領域外にねじ止めする部分を設けることができる。そうすれば、制御基板にねじを回す工具が通る孔を制御基板に空けることによって有効面積を減らすことがない。さらに、押え片でスイッチング素子をハウジングに固定する場合、冷却面となるハウジングの表面にスイッチング素子の放熱面を直接接触できるので、スイッチング素子の冷却性能は、金属プレートを介在させる場合に比べて高い。
【0009】
本発明は、このような知見に基づくものであり、電動圧縮機が収容されるハウジング外周に保持面を備えるインバータ収容部が設けられ、該インバータ収容部に、直流電力を三相交流電力に変換して電動モータに給電するインバータ装置が組み込まれるインバータ一体型電動圧縮機において、インバータ装置は、複数の端子が延出される電力用半導体スイッチング素子と、端子が嵌め込まれる複数の接続孔を有し、電力用半導体スイッチング素子を動作させる回路が実装される制御基板と、を備えている。本発明における特徴は、保持面とスイッチング素子に亘って設けられ、保持面に固定される押え片によりスイッチング素子が保持されるところにある。スイッチング素子は、保持面に接しながらインバータ収容部に保持される。
【0010】
本発明による押え片は、固定部と押え部とから構成できる。固定部は、長さ方向の両端部に一対設けられ、保持面に適宜の手段で固定される。押え部は、固定部に連なり、スイッチング素子を保持面に向けて押圧する。
【0011】
上記押え片は、固定部が押え部よりも幅広に形成されていることが好ましい。後述するように、押え片は、スイッチング素子からの放熱を助ける機能を有しており、ハウジングの保持面と接する固定部の面積が大きいほど放熱機能が向上するからである。
【0012】
本発明による固定部は、制御基板の投影面の領域外で保持面に固定されることが好ましい。制御基板組付け後にも、ねじ止めされた押え片を取り外すことができるので、メンテナンス性に優れる。
本発明において、制御基板に切り欠きを設けることにより、制御基板の投影面の領域外で保持面に固定部を固定させることができる。切り欠きは、制御基板の周縁に形成されるものであるから、有効面積にはほとんど影響を与えない。
【0013】
本発明において押え片は、制御基板とともに、ねじ止めにより保持面に固定されることが好ましい。押え片及び制御基板を各々個別のねじでねじ止めするのに比べて、ねじ止めの作業工数及び使用するねじの本数を減らすことができる。
【0014】
本発明におけるスイッチング素子は、複数のスイッチング要素を含み構造的に一体化されたスイッチング素子モジュールであることが好ましい。本発明は、ディスクリート・タイプのIGBT等をもスイッチング素子として用いることができるが、モジュール化されたスイッチング素子は、一つの押え片で多数のスイッチング素子を含むモジュールを固定できるので有利である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、押え片によりスイッチング素子を保持するが、この押え片に空けるネジ孔、つまり用いるネジのサイズを任意にできるので、スイッチング素子の締結力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態によるインバータ一体型電動圧縮機を示す斜視図である。
【図2】第1−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す断面図である。
【図3】第1−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図4】第1−2実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図5】第1−3実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図6】第1−4実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図7】第1−5実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す断面図である。
【図8】第2−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す断面図である。
【図9】第2−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図10】第2−2実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図11】第3実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す断面図である。
【図12】第3実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図13】第4−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図14】第4−2実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図15】第4−3実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図16】第4−4実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図17】特許文献1に開示されるスイッチング素子の取り付け構造を示す斜視図である。
【図18】特許文献2に開示されるインバータ装置をパワー基板側から見た斜視図である。
【図19】特許文献2に開示されるインバータ装置を構成する金属プレート上にIGBTおよびガイド部材を実装した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
<第1−1実施形態>
本実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機(以下、単に圧縮機)1は、その外殻を構成するハウジング2を有する。ハウジング2は、図示省略の電動モータが収容されるモータハウジング3と、図示省略の圧縮機が収容される圧縮機ハウジング4とが図示省略のボルトを介して一体に締め付け固定されることにより構成される。このモータハウジング3および圧縮機ハウジング4は、アルミダイカスト製とされている。
【0018】
モータハウジング3および圧縮機ハウジング4内に収容設置される図示省略の電動モータおよび圧縮機は、モータ軸を介して連結され、電動モータの回転によって圧縮機が駆動される。モータハウジング3の後端側には吸入ポート5が設けられており、この吸入ポート5からモータハウジング3内に吸入された低圧冷媒ガスは、電動モータの周りを流れた後、圧縮機に吸い込まれて圧縮される。圧縮機により圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、圧縮機ハウジング4内に吐出された後、圧縮機ハウジング4の前端側に設けられている吐出ポート6から外部である冷凍サイクルへと吐出される。
【0019】
モータハウジング3の上部外周面には、その上部にインバータ収容部10が一体成形される。インバータ収容部10は、上面が開放された所定高さの周囲壁11により囲われたボックス構造を有する。周囲壁11の一部には、電源ケーブル取り出し口12が設けられるとともに、インバータ収容部10の内部には、モータ端子取付孔13、電力用半導体スイッチング素子保持面(以下、単に保持面)14が設けられる。また、インバータ収容部10には、インバータ装置20のほかに、モータ端子取付孔13に取り付けられるモータ端子、ヘッドキャパシタ、インダクタ等(いずれも図示省略)が収容設置され、その上面は図示省略の蓋部材をネジ止め固定することによって覆われる構成とされる。
【0020】
保持面14は、後述する電力用半導体スイッチング素子モジュール(以下、単にモジュール)21の発熱を、モータハウジング3内を流れる低温の冷媒ガスに放熱する放熱面としても機能する。インバータ収容部10における他の内表面の大部分は、ダイカスト鋳造の鋳肌面のままとされているのに対して、この保持面14は表面が機械加工仕上げされた加工面とされる。モジュール21、押え片25との接触面積を増やして、保持面14からの放熱効率を上げるためである。
【0021】
インバータ装置20は、電力用半導体スイッチング素子を含むモジュール21と、モジュール21を動作させるパワー系制御回路が実装され、モジュール21の上方に設置されるパワー基板(制御基板)23とを備える。
モジュール21は、三相インバータの各相の上アーム側スイッチング素子と下アーム側スイッチング素子とを構成する例えば6個のIGBTを含む。モジュール21は、これらスイッチング素子の他に、外部との信号送受信及び内部における信号送受信のための配線、電力用半導体スイッチング素子の動作により生じる熱を外部に向けて放熱する金属製の放熱板(図示省略)、パワー基板23との信号送受信のための複数の端子22を含む。モジュール21は、これらの要素を樹脂モールドすることにより構成される。放熱板はモジュール21の下面側に露出して設けられ、この放熱板の表面は平坦に加工されており、保持面14と密に接触する。
インバータ装置20は、他に配線をなす複数のバスバーを絶縁材である樹脂でインサート成形により一体化されるバスバーアセンブリと、CPU等の低電圧で動作する素子を有する回路が実装されるCPU基板等を備えるが、これらは図示を省略している。
【0022】
インバータ装置20は、モジュール21が押え片25により保持面14に固定され、モジュール21の上方にパワー基板23が配置される。モジュール21の端子22がパワー基板23の接続孔24に挿入されるとともに、周囲の導電パターンにはんだ付けされることにより、パワー基板23はモジュール21に電気的に接続される。パワー基板23は、はんだ付けによりモジュール21に対して固定するのに替えて又は加えて、インバータ収容部10にパワー基板23の固定用ボスを設け、このボスにねじ止めすることもできる。
以下、押え片25によるモジュール21の取り付け構造を図2、3に基づいて説明する。
【0023】
まずモータハウジング3の上部外周面に設けられるインバータ収容部10の保持面14上にモジュール21が設置される。
保持面14とモジュール21に亘って設けられ、モジュール21を保持面14に固定する押え片25は、帯状の金属板により構成される。押え片25は、パワー基板23の長さ(図3において水平方向)よりも全長が長く設定されており、長さ方向の両端部に保持面14に固定される一対の固定部26と、モジュール21を押圧する押え部27とを備えている。また、押え片25は、モジュール21の幅(図3において上下方向)よりも幅が十分に狭く設定されており、パワー基板23の幅方向の中央部を押え部27が押圧する。押え片25を構成する金属の材質は限定されるものではないが、熱伝導性、押え片25として要求される弾性、耐食性、コスト等の観点から、銅、アルミニウム又はこれらの合金を用いることが好ましい。ただし、押え片25を金属以外、例えば樹脂から構成することを本発明は許容する。
固定部26には、ねじSが貫通されるねじ孔SHが空けられている。ねじ孔SHは、モジュール21、パワー基板23が所定の位置に配置された状態で、パワー基板23の投影面の領域(図3に点線で示す領域)外に位置する。
【0024】
押え部27は、一対の固定部26に連なって長さ方向の中央部に配置される。押え部27は、モジュール21が配置されるスペースを確保するために、固定部26よりも上側に突出して形成されている。固定部26に連なる押え部27は、固定部26がねじSにより保持面14に固定されることにより、モジュール21を保持面14に向けて押圧する。なお、押え部27は、幅が均等である必要はない。
【0025】
以上の構成において、ねじ孔SHは押え片25に形成されるので、押え片25の幅未満の範囲において径の制約はない。したがって、本実施形態によると、それに応じてねじS自体も大きくできるので、ねじSによる締結力が向上し、ねじSの緩みを抑制できる。
また、本実施形態は、ねじSがねじ孔SHを貫通して固定部26を保持面14に固定する位置が、パワー基板23の投影面の領域外となるので、インバータ装置20を組み付けた後にも、ねじSを操作することにより、パワー基板23とともにモジュール21を保持面14から容易に取り外すことができる。
また、本実施形態は、パワー基板23にねじSを操作するための孔を空ける必要がないので、パワー基板23の全表面を部品実装可能な有効面積として利用できる。
さらに本実施形態によれば放熱面として機能する保持面14にモジュール21の放熱面を直接接触させることができるので、特許文献2、3に開示される金属プレートを用いるのに比べて冷却性を向上できる。特に、本実施形態は、押え片25が、押え部27がモジュール21の上面と接触し、さらに押え部27に連なる固定部26が保持面14に接触するので、図2の白抜き矢印で示すように、モジュール21の下面に加えて、モジュール21上面からの熱を保持面14に伝達される経路が新たに形成され、モジュール21の冷却性能向上に寄与する。
さらにまた、押え片25は、特許文献2、3で使用される金属プレートと比べ小さく、形状も単純であるため、特許文献2、3に比べて、インバータ一体型電動圧縮機のコストダウンにも寄与する。
以上の効果は、後述の実施形態にもあてはまる。
【0026】
<第1−2,第1−3実施形態>
第1−1実施形態による押え片25は全長にわたって幅の等しい金属板で構成したが、本発明による押え片は以下に示すようにこの形態に限らない。
第1−2実施形態による押え片35(図4参照)は、押え部37の両端にフランジ状に延びる固定部36が設けられ、H型の平面形状をなしている。このように固定部36が押え部37よりも幅広に形成され、複数のねじSで固定部36を保持面14に固定できるので、押え片35の保持面14への締結力を大きくできる。また、保持面14と固定部36の接触面積が大きくなるので、押え片35を介する保持面14への放熱効率を向上できる。
第1−3実施形態による押え片45(図5参照)は、押え片45の保持面14への締結力及び押え片45を介する保持面14への放熱の最大化を図ったものであり、帯状の押え部47と、これを取り囲む矩形リング状の固定部46とから構成される。
【0027】
<第1−4実施形態>
第1−1〜1−3実施形態は、押え部27,37,47が、モジュール21の長手方向に対向する両縁部を貫通してモジュール21を押圧するが、押え片55(図6参照)を短くして、対向するモジュール21の各縁から所定の範囲までを押え部57にてモジュール21を保持面14に向けて押圧することもできる。押え部57に連なる固定部56をねじSによりねじ止めすることで、押え片55を保持面14に固定する。押え片55は、コストをより低減する場合に有効である。
【0028】
<第1−5実施形態>
以上の実施形態は、固定部26,36,46,56が、モジュール21の設置面と同一平面上に固定されているが、図7に示すように、モジュール21の設置面に対して傾斜している面上に固定部66を固定することもできる。この押え片65は、押え部67に対して固定部66がテーパをなして構成される。
このような押え片66を用いることにより、平面上に限らず種々の形態の保持面14にモジュール21を設置できるので、モジュール21の設置面の形状自由度を向上できる。
【0029】
<第2−1,2−2実施形態>
次に、サイズの小さいインバータ収容部10に対応できる第2−1実施形態による構造を図8、図9を参照して説明する。なお、図8、図9において、第1−1実施形態と同じ構成要素には図2、図3と同じ符号を付して、説明を省略することがある。
【0030】
インバータ一体型電動圧縮機1について小型化が要求されており、この場合、インバータ収容部10の幅を小さくすることが求められる。一方で、パワー基板23はその機能を発揮させるために小面積化に限界があるので、周囲壁11の内壁面で規定されるインバータ収容部10の幅一杯をパワー基板23が占めることがある。この場合、第1−1実施形態のように、パワー基板23より押え片25の固定部26がはみ出す構造を採用することができない。そこで第2−1実施形態によるパワー基板23は、切り欠き23cを設ける。この切り欠き23cは、押え片25を固定するねじSに対応する位置に設けられる。また切り欠き23cは、ねじSに対応してパワー基板23の周縁に設けられる。パワー基板23に切り欠き23cを設けると、パワー基板23の表面積は小さくなるが、基板中央部に比べて周縁部は部品実装に用いられることが少ないので、有効面積の減少を極力抑えることができる。したがって、ねじ孔を基板中央部に設ける特許文献1に比べて、有効面積を広くできる。このことはまた、インバータ一体型電動圧縮機1としての幅を小さくできることを意味する。
【0031】
切り欠き23cを設けながら、有効面積の減少を最小限に抑えることのできる第2−2実施形態は、図10に示すように、切り欠き23cをパワー基板23の四隅に設ける。パワー基板23の四隅は、部品実装にほとんど用いられることがないので、有効面積が減少しないか、減少したとしても最小限に抑えることができる。この第2−2実施形態では、第1−2実施形態と同様にH型の押え片35を用い、固定部36の両端部をねじSで固定する構造を採用する。
【0032】
<第3実施形態>
パワー基板23をインバータ収容部10にねじ止めできることは前述したとおりであるが、第3実施形態は、図11、図12に示すように、パワー基板23を固定するねじSで、押え片75も固定する構造を提案する。
【0033】
第3実施形態のインバータ収容部10は、周囲壁11に沿って対向する位置に保持面14から突出するボス部14bを備えるなか、ボス部14bの上面も保持面14をなす。
押え片75は、ボス部14bの上面(保持面14)に接して固定される一対の固定部76と、固定部76の間に配置され、モジュール21を保持面14に向けて押える押え部77を備える。固定部76は、ボス14bの上面に載るために、屈曲部を介して押え部77よりも上方に位置される。固定部76には、ねじSが挿入されるねじ孔SHが空けられている。
パワー基板23は、押え片75の固定部76の上に載せられる。パワー基板23には、固定部76のねじ孔SHに対応する位置にねじ孔SHが空けられている。
【0034】
押え片75とパワー基板23が積層され、お互いのねじ孔SHが鉛直方向に揃った状態で、押え片75とパワー基板23は、ねじSによりボス部14bにねじ止めされる。そうすると、押え部77がモジュール21を保持面14に向けて押圧することで、モジュール21はインバータ収容部10に固定される。
【0035】
第3実施形態は、パワー基板23と押え片75を同じねじSでねじ止めするので、各々を個別にねじ止めするのに比べて、ねじ止め又はねじ抜き取りの工数を半減できるとともに、ねじSの数も半減できる。また、第3実施形態は共通のねじSでパワー基板23の上から押え片75をねじ止めしているので、パワー基板23を組付けた後であっても、ねじSを取り外すことでパワー基板23はもちろん、モジュール21も取り外すことができる。
さらに、第3実施形態は、インバータ収容部10の幅一杯をパワー基板23が占める場合であっても、パワー基板23の周縁にねじ孔SHを設ければよいので、パワー基板23の有効面積の減少を極力抑えることができる。
【0036】
<第4−1〜第4−4実施形態>
以上の実施形態では、スイッチング素子としてモジュール・タイプのIGBTを用いたが、本発明はディスクリート・タイプのIGBTを用いることもできる。
例えば、6つのディスクリート・タイプのIGBT30を電力用半導体スイッチング素子として用いる場合、図13(第4−1実施形態)に示すように、3つのIGBT30を1列に並べた組を2列に配列する。そして、1組ずつ押え片25でIGBT30を保持面14に対して固定することができる。
【0037】
また、図14(第4−2実施形態)に示すように、ディスクリート・タイプのIGBT30を用いる場合にも、インバータ収容部10の幅一杯をパワー基板23が占める場合であっても、切り欠き23cを周縁に設けることで、パワー基板23の有効面積の減少を極力抑えることができる。
同様に、図15(第4−3実施形態)に示すように、ディスクリート・タイプのIGBT30を用いる場合にも、ボス部14bを設け、パワー基板23と押え片25を同じねじSでねじ止めすることができる。したがって、第3実施形態と同様の効果を享受できる。
【0038】
さらに、図16に示すように、端子位置決め孔29を備えた位置決め板28と押え片25とを一体化させる。IGBT30の端子31を端子位置決め孔29に挿入することにより、ディスクリート・タイプのIGBT30を精度よく整列できる。
【0039】
なお、上記実施の形態では押え片をねじ止めしているが、本発明は接着剤などの他の固定手段を用いることができる。
押え片は、打ち抜き、プレス加工により作製できるが、溶接その他の接合方法により作製してもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…インバータ一体型電動圧縮機
2…ハウジング、3…モータハウジング、4…圧縮機ハウジング
10…インバータ収容部、14…保持面,14b…ボス
20…インバータ装置
21…モジュール、22…端子、23…パワー基板(制御基板)、24…接続孔
25,35,45,55,65,75…押え片
26,36,46,56,66,76…固定部
27,37,47,57,67,77…押え部
S…ねじ,SH…ねじ孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車両用空調装置に用いるのが好適なインバータ一体型電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近ごろ、エネルギー環境への対応から、ハイブリッド自動車や電気自動車、あるいは燃料電池自動車のように、電気の動力を利用して走行する車両の開発および市場への投入が急ピッチで進められている。
これらの車両には、従来の空調装置とは異なり、電気を動力とする電動モータによって駆動される電動圧縮機を備えた空調装置が搭載される。圧縮機と電動モータを密閉ハウジング内に内蔵するこの電動圧縮機は、インバータ装置を介して三相交流に変換された電力を電動モータに給電し、空調負荷に応じて圧縮機の回転数を可変制御する。
これまでに、インバータ装置を電動圧縮機のハウジングに組み込んで一体化した構成のインバータ一体型電動圧縮機が多数提案されている。このインバータ一体型電動圧縮機は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、)、パワーMOSトランジスタ等の電力用半導体スイッチング素子(以下、単にスイッチング素子ということがある)を、ハウジング外周面に設置する。さらにこのスイッチング素子の上方には、スイッチング素子を動作させる回路が実装される制御基板が配置される。
【0003】
スイッチング素子は、単体又はモジュールとして、ハウジング外周面にねじ止めにより固定される。ところが、電動圧縮機の小型化に伴う小型のスイッチング素子に標準的に形成されるねじ止め用の孔は小さく、大きいねじが使用できないのでスイッチング素子を締結する力が弱い。自動車のように高振動環境においては締結力が弱いとねじが緩む虞があり、インバータ装置の信頼性低下が懸念される。モジュール・タイプのスイッチング素子の場合、素子重量が大きいため、ねじの緩みが特に懸念される。
【0004】
また、スイッチング素子の上方に配置される制御基板には、制御基板の設置後にスイッチング素子を固定するねじを回転させる必要があることから、工具を通す挿通孔が設けられる。例えば、特許文献1には、図17に示すように、ヒートシンク100の表面にねじ101により取付けられた主回路用のスイッチング素子モジュール102と、このモジュール102の駆動回路及びこの回路を制御する制御回路が実装される制御基板103と、制御基板103におけるねじ101の上方位置にねじ101を回す工具を通す挿通孔104とを備えるスイッチング素子の取り付け構造が開示されている。モジュール102と制御基板103とはピン−コネクタ接合され、制御基板103はモジュール102を覆って設けられる。
しかし、制御基板103に挿通孔104を空けると、部品実装が可能な面積(以下、有効面積という)が少なくなる。特に、基板中央に孔を空ける場合、回路の配線が寸断されないようにするため、孔の周囲についても有効面積を失うことがある。
【0005】
挿通孔の回避策として、特許文献2、特許文献3には、図18、図19に示すように、金属プレート200にスイッチング素子201をねじ止めした後、制御基板203とスイッチング素子201の端子202をはんだ付けするインバータ装置が開示されている。このインバータ装置は、スイッチング素子201及び制御基板203を載せた金属プレート200がハウジング外周面にねじ止めにより固定される。金属プレート200は、制御基板203と同等の表面積を有している。
しかし、金属プレート200を用いたスイッチング素子201の取り付け構造は、金属プレートの厚みの分だけスイッチング素子201の下面からの冷却面となるハウジング外周面までの距離が長くなるので、熱伝導性が低下してしまい、スイッチング素子の冷却性能が不足する。また、金属プレートの分だけコスト増となる。
また、この取り付け構造において、金属プレートを省略してスイッチング素子をハウジングにねじで直接固定することも考えられるが、制御基板203とスイッチング素子201の端子202とのはんだ付けを除去しなければ、制御基板203はもちろん、スイッチング素子201をハウジングから取り外すことができないので、メンテナンス性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−245171号公報
【特許文献2】特開2008−128142号公報
【特許文献3】特開2008−215089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上説明した技術的課題に基づいてなされたもので、スイッチング素子の締結力を大きくできるとともに、スイッチング素子上に制御基板を組み付けた後にでも、スイッチング素子の取り外しが容易で、さらにスイッチング素子の冷却性能が高いインバータ装置を一体的に備えた電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
スイッチング素子を押え片でハウジングに固定することにすれば、用いるねじの大きさを任意に設定できるので、スイッチング素子の締結力を大きくできる。また、押え片をハウジングにねじを用いて固定する場合、制御基板の投影面の領域外にねじ止めする部分を設けることができる。そうすれば、制御基板にねじを回す工具が通る孔を制御基板に空けることによって有効面積を減らすことがない。さらに、押え片でスイッチング素子をハウジングに固定する場合、冷却面となるハウジングの表面にスイッチング素子の放熱面を直接接触できるので、スイッチング素子の冷却性能は、金属プレートを介在させる場合に比べて高い。
【0009】
本発明は、このような知見に基づくものであり、電動圧縮機が収容されるハウジング外周に保持面を備えるインバータ収容部が設けられ、該インバータ収容部に、直流電力を三相交流電力に変換して電動モータに給電するインバータ装置が組み込まれるインバータ一体型電動圧縮機において、インバータ装置は、複数の端子が延出される電力用半導体スイッチング素子と、端子が嵌め込まれる複数の接続孔を有し、電力用半導体スイッチング素子を動作させる回路が実装される制御基板と、を備えている。本発明における特徴は、保持面とスイッチング素子に亘って設けられ、保持面に固定される押え片によりスイッチング素子が保持されるところにある。スイッチング素子は、保持面に接しながらインバータ収容部に保持される。
【0010】
本発明による押え片は、固定部と押え部とから構成できる。固定部は、長さ方向の両端部に一対設けられ、保持面に適宜の手段で固定される。押え部は、固定部に連なり、スイッチング素子を保持面に向けて押圧する。
【0011】
上記押え片は、固定部が押え部よりも幅広に形成されていることが好ましい。後述するように、押え片は、スイッチング素子からの放熱を助ける機能を有しており、ハウジングの保持面と接する固定部の面積が大きいほど放熱機能が向上するからである。
【0012】
本発明による固定部は、制御基板の投影面の領域外で保持面に固定されることが好ましい。制御基板組付け後にも、ねじ止めされた押え片を取り外すことができるので、メンテナンス性に優れる。
本発明において、制御基板に切り欠きを設けることにより、制御基板の投影面の領域外で保持面に固定部を固定させることができる。切り欠きは、制御基板の周縁に形成されるものであるから、有効面積にはほとんど影響を与えない。
【0013】
本発明において押え片は、制御基板とともに、ねじ止めにより保持面に固定されることが好ましい。押え片及び制御基板を各々個別のねじでねじ止めするのに比べて、ねじ止めの作業工数及び使用するねじの本数を減らすことができる。
【0014】
本発明におけるスイッチング素子は、複数のスイッチング要素を含み構造的に一体化されたスイッチング素子モジュールであることが好ましい。本発明は、ディスクリート・タイプのIGBT等をもスイッチング素子として用いることができるが、モジュール化されたスイッチング素子は、一つの押え片で多数のスイッチング素子を含むモジュールを固定できるので有利である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、押え片によりスイッチング素子を保持するが、この押え片に空けるネジ孔、つまり用いるネジのサイズを任意にできるので、スイッチング素子の締結力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態によるインバータ一体型電動圧縮機を示す斜視図である。
【図2】第1−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す断面図である。
【図3】第1−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図4】第1−2実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図5】第1−3実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図6】第1−4実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図7】第1−5実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す断面図である。
【図8】第2−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す断面図である。
【図9】第2−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図10】第2−2実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図11】第3実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す断面図である。
【図12】第3実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図13】第4−1実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図14】第4−2実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図15】第4−3実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図16】第4−4実施形態によるスイッチング素子モジュールの取付け構造を示す平面図である。
【図17】特許文献1に開示されるスイッチング素子の取り付け構造を示す斜視図である。
【図18】特許文献2に開示されるインバータ装置をパワー基板側から見た斜視図である。
【図19】特許文献2に開示されるインバータ装置を構成する金属プレート上にIGBTおよびガイド部材を実装した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
<第1−1実施形態>
本実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機(以下、単に圧縮機)1は、その外殻を構成するハウジング2を有する。ハウジング2は、図示省略の電動モータが収容されるモータハウジング3と、図示省略の圧縮機が収容される圧縮機ハウジング4とが図示省略のボルトを介して一体に締め付け固定されることにより構成される。このモータハウジング3および圧縮機ハウジング4は、アルミダイカスト製とされている。
【0018】
モータハウジング3および圧縮機ハウジング4内に収容設置される図示省略の電動モータおよび圧縮機は、モータ軸を介して連結され、電動モータの回転によって圧縮機が駆動される。モータハウジング3の後端側には吸入ポート5が設けられており、この吸入ポート5からモータハウジング3内に吸入された低圧冷媒ガスは、電動モータの周りを流れた後、圧縮機に吸い込まれて圧縮される。圧縮機により圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、圧縮機ハウジング4内に吐出された後、圧縮機ハウジング4の前端側に設けられている吐出ポート6から外部である冷凍サイクルへと吐出される。
【0019】
モータハウジング3の上部外周面には、その上部にインバータ収容部10が一体成形される。インバータ収容部10は、上面が開放された所定高さの周囲壁11により囲われたボックス構造を有する。周囲壁11の一部には、電源ケーブル取り出し口12が設けられるとともに、インバータ収容部10の内部には、モータ端子取付孔13、電力用半導体スイッチング素子保持面(以下、単に保持面)14が設けられる。また、インバータ収容部10には、インバータ装置20のほかに、モータ端子取付孔13に取り付けられるモータ端子、ヘッドキャパシタ、インダクタ等(いずれも図示省略)が収容設置され、その上面は図示省略の蓋部材をネジ止め固定することによって覆われる構成とされる。
【0020】
保持面14は、後述する電力用半導体スイッチング素子モジュール(以下、単にモジュール)21の発熱を、モータハウジング3内を流れる低温の冷媒ガスに放熱する放熱面としても機能する。インバータ収容部10における他の内表面の大部分は、ダイカスト鋳造の鋳肌面のままとされているのに対して、この保持面14は表面が機械加工仕上げされた加工面とされる。モジュール21、押え片25との接触面積を増やして、保持面14からの放熱効率を上げるためである。
【0021】
インバータ装置20は、電力用半導体スイッチング素子を含むモジュール21と、モジュール21を動作させるパワー系制御回路が実装され、モジュール21の上方に設置されるパワー基板(制御基板)23とを備える。
モジュール21は、三相インバータの各相の上アーム側スイッチング素子と下アーム側スイッチング素子とを構成する例えば6個のIGBTを含む。モジュール21は、これらスイッチング素子の他に、外部との信号送受信及び内部における信号送受信のための配線、電力用半導体スイッチング素子の動作により生じる熱を外部に向けて放熱する金属製の放熱板(図示省略)、パワー基板23との信号送受信のための複数の端子22を含む。モジュール21は、これらの要素を樹脂モールドすることにより構成される。放熱板はモジュール21の下面側に露出して設けられ、この放熱板の表面は平坦に加工されており、保持面14と密に接触する。
インバータ装置20は、他に配線をなす複数のバスバーを絶縁材である樹脂でインサート成形により一体化されるバスバーアセンブリと、CPU等の低電圧で動作する素子を有する回路が実装されるCPU基板等を備えるが、これらは図示を省略している。
【0022】
インバータ装置20は、モジュール21が押え片25により保持面14に固定され、モジュール21の上方にパワー基板23が配置される。モジュール21の端子22がパワー基板23の接続孔24に挿入されるとともに、周囲の導電パターンにはんだ付けされることにより、パワー基板23はモジュール21に電気的に接続される。パワー基板23は、はんだ付けによりモジュール21に対して固定するのに替えて又は加えて、インバータ収容部10にパワー基板23の固定用ボスを設け、このボスにねじ止めすることもできる。
以下、押え片25によるモジュール21の取り付け構造を図2、3に基づいて説明する。
【0023】
まずモータハウジング3の上部外周面に設けられるインバータ収容部10の保持面14上にモジュール21が設置される。
保持面14とモジュール21に亘って設けられ、モジュール21を保持面14に固定する押え片25は、帯状の金属板により構成される。押え片25は、パワー基板23の長さ(図3において水平方向)よりも全長が長く設定されており、長さ方向の両端部に保持面14に固定される一対の固定部26と、モジュール21を押圧する押え部27とを備えている。また、押え片25は、モジュール21の幅(図3において上下方向)よりも幅が十分に狭く設定されており、パワー基板23の幅方向の中央部を押え部27が押圧する。押え片25を構成する金属の材質は限定されるものではないが、熱伝導性、押え片25として要求される弾性、耐食性、コスト等の観点から、銅、アルミニウム又はこれらの合金を用いることが好ましい。ただし、押え片25を金属以外、例えば樹脂から構成することを本発明は許容する。
固定部26には、ねじSが貫通されるねじ孔SHが空けられている。ねじ孔SHは、モジュール21、パワー基板23が所定の位置に配置された状態で、パワー基板23の投影面の領域(図3に点線で示す領域)外に位置する。
【0024】
押え部27は、一対の固定部26に連なって長さ方向の中央部に配置される。押え部27は、モジュール21が配置されるスペースを確保するために、固定部26よりも上側に突出して形成されている。固定部26に連なる押え部27は、固定部26がねじSにより保持面14に固定されることにより、モジュール21を保持面14に向けて押圧する。なお、押え部27は、幅が均等である必要はない。
【0025】
以上の構成において、ねじ孔SHは押え片25に形成されるので、押え片25の幅未満の範囲において径の制約はない。したがって、本実施形態によると、それに応じてねじS自体も大きくできるので、ねじSによる締結力が向上し、ねじSの緩みを抑制できる。
また、本実施形態は、ねじSがねじ孔SHを貫通して固定部26を保持面14に固定する位置が、パワー基板23の投影面の領域外となるので、インバータ装置20を組み付けた後にも、ねじSを操作することにより、パワー基板23とともにモジュール21を保持面14から容易に取り外すことができる。
また、本実施形態は、パワー基板23にねじSを操作するための孔を空ける必要がないので、パワー基板23の全表面を部品実装可能な有効面積として利用できる。
さらに本実施形態によれば放熱面として機能する保持面14にモジュール21の放熱面を直接接触させることができるので、特許文献2、3に開示される金属プレートを用いるのに比べて冷却性を向上できる。特に、本実施形態は、押え片25が、押え部27がモジュール21の上面と接触し、さらに押え部27に連なる固定部26が保持面14に接触するので、図2の白抜き矢印で示すように、モジュール21の下面に加えて、モジュール21上面からの熱を保持面14に伝達される経路が新たに形成され、モジュール21の冷却性能向上に寄与する。
さらにまた、押え片25は、特許文献2、3で使用される金属プレートと比べ小さく、形状も単純であるため、特許文献2、3に比べて、インバータ一体型電動圧縮機のコストダウンにも寄与する。
以上の効果は、後述の実施形態にもあてはまる。
【0026】
<第1−2,第1−3実施形態>
第1−1実施形態による押え片25は全長にわたって幅の等しい金属板で構成したが、本発明による押え片は以下に示すようにこの形態に限らない。
第1−2実施形態による押え片35(図4参照)は、押え部37の両端にフランジ状に延びる固定部36が設けられ、H型の平面形状をなしている。このように固定部36が押え部37よりも幅広に形成され、複数のねじSで固定部36を保持面14に固定できるので、押え片35の保持面14への締結力を大きくできる。また、保持面14と固定部36の接触面積が大きくなるので、押え片35を介する保持面14への放熱効率を向上できる。
第1−3実施形態による押え片45(図5参照)は、押え片45の保持面14への締結力及び押え片45を介する保持面14への放熱の最大化を図ったものであり、帯状の押え部47と、これを取り囲む矩形リング状の固定部46とから構成される。
【0027】
<第1−4実施形態>
第1−1〜1−3実施形態は、押え部27,37,47が、モジュール21の長手方向に対向する両縁部を貫通してモジュール21を押圧するが、押え片55(図6参照)を短くして、対向するモジュール21の各縁から所定の範囲までを押え部57にてモジュール21を保持面14に向けて押圧することもできる。押え部57に連なる固定部56をねじSによりねじ止めすることで、押え片55を保持面14に固定する。押え片55は、コストをより低減する場合に有効である。
【0028】
<第1−5実施形態>
以上の実施形態は、固定部26,36,46,56が、モジュール21の設置面と同一平面上に固定されているが、図7に示すように、モジュール21の設置面に対して傾斜している面上に固定部66を固定することもできる。この押え片65は、押え部67に対して固定部66がテーパをなして構成される。
このような押え片66を用いることにより、平面上に限らず種々の形態の保持面14にモジュール21を設置できるので、モジュール21の設置面の形状自由度を向上できる。
【0029】
<第2−1,2−2実施形態>
次に、サイズの小さいインバータ収容部10に対応できる第2−1実施形態による構造を図8、図9を参照して説明する。なお、図8、図9において、第1−1実施形態と同じ構成要素には図2、図3と同じ符号を付して、説明を省略することがある。
【0030】
インバータ一体型電動圧縮機1について小型化が要求されており、この場合、インバータ収容部10の幅を小さくすることが求められる。一方で、パワー基板23はその機能を発揮させるために小面積化に限界があるので、周囲壁11の内壁面で規定されるインバータ収容部10の幅一杯をパワー基板23が占めることがある。この場合、第1−1実施形態のように、パワー基板23より押え片25の固定部26がはみ出す構造を採用することができない。そこで第2−1実施形態によるパワー基板23は、切り欠き23cを設ける。この切り欠き23cは、押え片25を固定するねじSに対応する位置に設けられる。また切り欠き23cは、ねじSに対応してパワー基板23の周縁に設けられる。パワー基板23に切り欠き23cを設けると、パワー基板23の表面積は小さくなるが、基板中央部に比べて周縁部は部品実装に用いられることが少ないので、有効面積の減少を極力抑えることができる。したがって、ねじ孔を基板中央部に設ける特許文献1に比べて、有効面積を広くできる。このことはまた、インバータ一体型電動圧縮機1としての幅を小さくできることを意味する。
【0031】
切り欠き23cを設けながら、有効面積の減少を最小限に抑えることのできる第2−2実施形態は、図10に示すように、切り欠き23cをパワー基板23の四隅に設ける。パワー基板23の四隅は、部品実装にほとんど用いられることがないので、有効面積が減少しないか、減少したとしても最小限に抑えることができる。この第2−2実施形態では、第1−2実施形態と同様にH型の押え片35を用い、固定部36の両端部をねじSで固定する構造を採用する。
【0032】
<第3実施形態>
パワー基板23をインバータ収容部10にねじ止めできることは前述したとおりであるが、第3実施形態は、図11、図12に示すように、パワー基板23を固定するねじSで、押え片75も固定する構造を提案する。
【0033】
第3実施形態のインバータ収容部10は、周囲壁11に沿って対向する位置に保持面14から突出するボス部14bを備えるなか、ボス部14bの上面も保持面14をなす。
押え片75は、ボス部14bの上面(保持面14)に接して固定される一対の固定部76と、固定部76の間に配置され、モジュール21を保持面14に向けて押える押え部77を備える。固定部76は、ボス14bの上面に載るために、屈曲部を介して押え部77よりも上方に位置される。固定部76には、ねじSが挿入されるねじ孔SHが空けられている。
パワー基板23は、押え片75の固定部76の上に載せられる。パワー基板23には、固定部76のねじ孔SHに対応する位置にねじ孔SHが空けられている。
【0034】
押え片75とパワー基板23が積層され、お互いのねじ孔SHが鉛直方向に揃った状態で、押え片75とパワー基板23は、ねじSによりボス部14bにねじ止めされる。そうすると、押え部77がモジュール21を保持面14に向けて押圧することで、モジュール21はインバータ収容部10に固定される。
【0035】
第3実施形態は、パワー基板23と押え片75を同じねじSでねじ止めするので、各々を個別にねじ止めするのに比べて、ねじ止め又はねじ抜き取りの工数を半減できるとともに、ねじSの数も半減できる。また、第3実施形態は共通のねじSでパワー基板23の上から押え片75をねじ止めしているので、パワー基板23を組付けた後であっても、ねじSを取り外すことでパワー基板23はもちろん、モジュール21も取り外すことができる。
さらに、第3実施形態は、インバータ収容部10の幅一杯をパワー基板23が占める場合であっても、パワー基板23の周縁にねじ孔SHを設ければよいので、パワー基板23の有効面積の減少を極力抑えることができる。
【0036】
<第4−1〜第4−4実施形態>
以上の実施形態では、スイッチング素子としてモジュール・タイプのIGBTを用いたが、本発明はディスクリート・タイプのIGBTを用いることもできる。
例えば、6つのディスクリート・タイプのIGBT30を電力用半導体スイッチング素子として用いる場合、図13(第4−1実施形態)に示すように、3つのIGBT30を1列に並べた組を2列に配列する。そして、1組ずつ押え片25でIGBT30を保持面14に対して固定することができる。
【0037】
また、図14(第4−2実施形態)に示すように、ディスクリート・タイプのIGBT30を用いる場合にも、インバータ収容部10の幅一杯をパワー基板23が占める場合であっても、切り欠き23cを周縁に設けることで、パワー基板23の有効面積の減少を極力抑えることができる。
同様に、図15(第4−3実施形態)に示すように、ディスクリート・タイプのIGBT30を用いる場合にも、ボス部14bを設け、パワー基板23と押え片25を同じねじSでねじ止めすることができる。したがって、第3実施形態と同様の効果を享受できる。
【0038】
さらに、図16に示すように、端子位置決め孔29を備えた位置決め板28と押え片25とを一体化させる。IGBT30の端子31を端子位置決め孔29に挿入することにより、ディスクリート・タイプのIGBT30を精度よく整列できる。
【0039】
なお、上記実施の形態では押え片をねじ止めしているが、本発明は接着剤などの他の固定手段を用いることができる。
押え片は、打ち抜き、プレス加工により作製できるが、溶接その他の接合方法により作製してもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…インバータ一体型電動圧縮機
2…ハウジング、3…モータハウジング、4…圧縮機ハウジング
10…インバータ収容部、14…保持面,14b…ボス
20…インバータ装置
21…モジュール、22…端子、23…パワー基板(制御基板)、24…接続孔
25,35,45,55,65,75…押え片
26,36,46,56,66,76…固定部
27,37,47,57,67,77…押え部
S…ねじ,SH…ねじ孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動圧縮機が収容されるハウジング外周に保持面を備えるインバータ収容部が設けられ、該インバータ収容部に、直流電力を三相交流電力に変換して電動モータに給電するインバータ装置が組み込まれるインバータ一体型電動圧縮機において、
前記インバータ装置は、
前記複数の端子が延出される電力用半導体スイッチング素子と、
前記端子が嵌め込まれる複数の接続孔を有し、前記スイッチング素子を動作させる回路が実装される制御基板と、を備え、
前記スイッチング素子は、
前記保持面と前記スイッチング素子に亘って設けられ、前記保持面に固定される押え片により、前記保持面に接しながら前記インバータ収容部に保持されることを特徴とするインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項2】
前記押え片は、
長さ方向の両端部に設けられ、前記保持面に固定される一対の固定部と、
前記固定部に連なり、前記電力用半導体スイッチング素子を前記保持面に向けて押圧する押え部と、
を備える請求項1に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項3】
前記押え片は、
前記固定部が前記押え部よりも幅広に形成されている請求項2に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項4】
前記固定部は、
前記制御基板の投影面の領域外で前記保持面に固定される請求項1〜3のいずれか一項に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項5】
前記押え片は、
前記制御基板に切り欠きを設けることにより、前記制御基板の投影面の領域外で前記保持面に固定される請求項4に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項6】
前記押え片は、
前記制御基板とともに、ねじ止めにより前記保持面に固定される請求項1〜5のいずれか一項に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項7】
前記スイッチング素子は、
複数のスイッチング要素を含み構造的に一体化されたスイッチング素子モジュールである請求項1〜6のいずれか一項に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項1】
電動圧縮機が収容されるハウジング外周に保持面を備えるインバータ収容部が設けられ、該インバータ収容部に、直流電力を三相交流電力に変換して電動モータに給電するインバータ装置が組み込まれるインバータ一体型電動圧縮機において、
前記インバータ装置は、
前記複数の端子が延出される電力用半導体スイッチング素子と、
前記端子が嵌め込まれる複数の接続孔を有し、前記スイッチング素子を動作させる回路が実装される制御基板と、を備え、
前記スイッチング素子は、
前記保持面と前記スイッチング素子に亘って設けられ、前記保持面に固定される押え片により、前記保持面に接しながら前記インバータ収容部に保持されることを特徴とするインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項2】
前記押え片は、
長さ方向の両端部に設けられ、前記保持面に固定される一対の固定部と、
前記固定部に連なり、前記電力用半導体スイッチング素子を前記保持面に向けて押圧する押え部と、
を備える請求項1に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項3】
前記押え片は、
前記固定部が前記押え部よりも幅広に形成されている請求項2に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項4】
前記固定部は、
前記制御基板の投影面の領域外で前記保持面に固定される請求項1〜3のいずれか一項に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項5】
前記押え片は、
前記制御基板に切り欠きを設けることにより、前記制御基板の投影面の領域外で前記保持面に固定される請求項4に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項6】
前記押え片は、
前記制御基板とともに、ねじ止めにより前記保持面に固定される請求項1〜5のいずれか一項に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項7】
前記スイッチング素子は、
複数のスイッチング要素を含み構造的に一体化されたスイッチング素子モジュールである請求項1〜6のいずれか一項に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−67064(P2011−67064A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217572(P2009−217572)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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