説明

インバータ装置

【課題】 ローサイドのスイッチ素子を駆動しない時間が長い場合があっても、コンデンサ容量を小さくできるインバータ装置を提供すること。
【解決手段】 ローサイドのスイッチ動作により充電され、ハイサイドのスイッチ駆動回路31〜33の駆動電源を供給するブートストラップコンデンサ41〜43と、ブートストラップコンデンサ41〜43の電圧を検出する電圧検出器OP1〜OP3と、スイッチ駆動回路31〜36を制御する制御部2と、制御部2に設けられ、ブートストラップコンデンサ41〜43の検出電圧に基づいて、PWM周波数を低い周波数に変更する基準値比較部21及びPWM周波数制御部22を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来では、交流モータを駆動するようインバータ装置に設けられて駆動されるスイッチ素子に対して、ハイサイドにブートストラップコンデンサを設け、ローサイドの通電時に、このブートストラップコンデンサを充電し、ハイサイドのスイッチ素子の駆動回路をこの充電電圧により駆動している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−348880号公報(第2−5頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来にあっては、ローサイドのスイッチ素子を駆動しない時間が長くなると、ハイサイドのスイッチ素子の駆動電圧が低下するため、コンデンサ容量が大容量化しなければならなかった。
【0004】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、ローサイドのスイッチ素子を駆動しない時間が長い場合があっても、コンデンサ容量を小さくできるインバータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、ハイサイドとローサイドによるブリッジ構成により、少なくともハイサイドでPWMスイッチング動作を行い、負荷を駆動するインバータ装置において、ハイサイドとローサイドのブリッジ回路を構成するよう設けられたスイッチ素子と、スイッチ素子を駆動するスイッチ駆動手段と、ローサイドのスイッチ動作により充電され、ハイサイドのスイッチ駆動手段の駆動電源を供給するブートストラップコンデンサと、ブートストラップコンデンサの電圧を検出する電圧検出手段と、前記スイッチ駆動手段を制御する制御手段と、制御手段に設けられ、ブートストラップコンデンサの検出電圧に基づいて、PWM周波数を低い周波数に変更する周波数変更手段と、を備えた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、ローサイドのスイッチ素子を駆動しない時間が長い場合があっても、コンデンサ容量を小さくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のインバータ装置を実現する実施の形態を、請求項1に係る発明に対応する実施例1と、請求項1,2に係る発明に対応する実施例2と、請求項1,2,3に係る発明に対応する実施例3に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1のインバータ装置の回路構成を示す図である。
実施例1のインバータ装置1は、制御部2、スイッチ駆動回路31〜36、スイッチ素子Qu1〜Qw2、ダイオードDu1〜Dw2、ブートストラップコンデンサ41〜43、電圧検出器OP1〜OP3、コンデンサ6、ダイオード71〜73、コンデンサ8、電源9、抵抗10〜12を備え、モータ5を駆動制御している。
【0009】
制御部2は、入力端子をローサイドでのスイッチ素子Qu2,Qv2,Qw2のエミッタ(又はドレイン)と抵抗10〜12の間に接続し、各相の電流を検出する。また、電圧検出器OP1〜OP3からの入力により、ハイサイドの各相のブートストラップコンデンサ41〜43の電圧を検出する。そして、各相の電流とブートストラップコンデンサ41〜43の電圧に基づいて、ハイサイドとローサイドのスイッチ駆動回路31〜36へのPWM駆動パルス指令値を演算し、出力する。制御部2の出力端子は、スイッチ駆動回路31〜36へ接続されている。
【0010】
スイッチ駆動回路31〜36は、入力端子を制御部2からの出力に接続し、出力端子をスイッチ素子Qu1〜Qw2のベース(又はゲート)に接続する。さらに、電源入力となるプラス端子及びマイナス端子は、ハイサイドのスイッチ駆動回路31〜33では、ブートストラップコンデンサ41〜43の上下流に接続し、ローサイドのスイッチ駆動回路34〜36では、コンデンサ6の上下流に接続する。そして、制御部2からのPWM駆動パルス指令値に従って、PWM駆動パルスまたは駆動パルスを成形し、スイッチ素子Qu1〜Qw2へ出力する。
スイッチ駆動回路31〜36の具体例として、制御部2からのPWMパルス信号又はパルス信号のレベルシフトを行うシフト回路とバッファの組合せたものを挙げておく。
【0011】
スイッチ素子Qu1〜Qw2は、ハイサイドのスイッチ素子Qu1,Qv1,Qw1のコレクタ(又はソース)をコンデンサ8のプラス端子に接続し、エミッタ(又はドレイン)をローサイドのスイッチ素子Qu2,Qv2,Qw2のそれぞれのコレクタ(又はソース)へ接続する。ローサイドのスイッチ素子Qu2,Qv2,Qw2のエミッタ(又はドレイン)は、それぞれ抵抗10〜12を介してコンデンサ8のマイナス端子へ接続する。これにより、ハーフブリッジを構成する。そして、それぞれハイサイドとローサイドの間をモータ5の各相へ接続する。また、スイッチ素子Qu1〜Qw2の各ベース(又はゲート)は、それぞれスイッチ駆動回路31〜36の出力に接続する回路構成である。そして、スイッチ素子Qu1〜Qw2は、PWM駆動パルスによりモータ5を駆動する。
ダイオードDu1〜Dw2は、ダイオードDu1,Dv1,Dw1,Du2,Dv2,Dw2からなり、それぞれカソードを各スイッチ素子Qu1〜Qw2のコレクタ(又はソース)に接続し、アノードをエミッタ(又はドレイン)に接続する。そして、スイッチ素子Qu1〜Qw2のコレクタ(又はソース)・エミッタ(又はドレイン)間の電流を還流するフライホイールダイオードとして機能する。
【0012】
ブートストラップコンデンサ41〜43は、ハイサイドのスイッチ素子Qu1,Qv1,Qw1に対応して設けられ、そのプラス端子をダイオード71〜73のそれぞれのカソードに接続する。また、プラス端子は、それぞれスイッチ駆動回路31〜33のプラス端子にも接続される。そして、マイナス端子は、スイッチ素子Qu1,Qv1,Qw1のエミッタ(又はドレイン)に接続する。また、マイナス端子はスイッチ駆動回路31〜33のマイナス端子にも接続する。そして、ブートストラップコンデンサ41〜43は、ハイサイドのスイッチ駆動回路31〜33の電源供給を行う。
【0013】
電圧検出器OP1〜OP3は、入力端子をそれぞれのブートストラップコンデンサ41〜43のプラス端子とマイナス端子に接続し、出力端子を制御部2へ接続する。そして、ブートストラップコンデンサ41〜43の電圧を検出する。
【0014】
コンデンサ6は、プラス端子をダイオード71〜73のアノードへ接続し、マイナス端子をコンデンサ8のマイナス端子へ接続する。なお、プラス端子及びマイナス端子は、ローサイドのスイッチ駆動回路34〜36のプラス端子及びマイナス端子にも接続される。そして、コンデンサ6は、ローサイドのスイッチ駆動回路34〜36の電源供給を行う。
ダイオード71〜73は、カソードをブートストラップコンデンサ41〜43のプラス端子及びハイサイドのスイッチ駆動回路31〜33のプラス端子へ接続し、アノードをコンデンサ6のプラス端子及びローサイドのスイッチ駆動回路34〜36のプラス端子へ接続する。そして、コンデンサ6からブートストラップコンデンサ41〜43のプラス端子及びハイサイドのスイッチ駆動回路31〜33のプラス端子へ電流の流れを整流する。
【0015】
コンデンサ8はプラス端子を電源9のプラス端子及びハイサイドのスイッチ素子Qu1,Qv1,Qw1のコレクタ(又はソース)へ接続し、マイナス端子を電源9のマイナス端子及び抵抗10〜12を介してローサイドのスイッチ素子Qu2,Qv2,Qw2のエミッタ(又はドレイン)へ接続する。そして、コンデンサ8は電源9により充電され、スイッチ素子Qu1〜Qw2へのコレクタ・エミッタ間(又はソース・ドレイン間)への電圧供給を行う。
電源9は、プラス端子をコンデンサ8のプラス端子へ接続し、マイナス端子をコンデンサ8のマイナス端子へ接続し、コンデンサ8を充電する電源供給を行う。
また、実施例1において、インバータ装置1が駆動するモータ5は、コイル5u,5v,5wをスター結線した3相交流ブラシレスモータである。
【0016】
次に実施例1のインバータ装置1が備える制御部2のPWM周波数制御に関する一部について説明する。
図2は実施例1のインバータ装置1の制御部2の一部のブロック構成を示す説明図である。なお、図2には、説明上、1相の回路部分の一部と電圧検出器OP1を示すが、3相それぞれの入力に対して処理を行う。
制御部2は、基準値比較部21、PWM周波数制御部22、駆動パルス演算部23を備えている。
【0017】
基準値比較部21は、予め設定された基準値と、電圧検出器OP1〜OP3から入力されるブートストラップコンデンサ41〜43の検出電圧を比較し、検出電圧が基準値を下回るかどうかを判断し、判断結果をPWM周波数制御部22へ出力する。なお、基準値は、ブートストラップコンデンサ41〜43の電圧を電源として用いるハイサイドのスイッチ駆動回路31〜33が、充分にスイッチ素子Qu1,Qv1,Qw1を駆動できる範囲で設定する。
PWM周波数制御部22は、検出電圧が基準値を下回ると、PWMパルスの周波数を低くする指令を出力する。なお、基準値及び低下させる周波数は予め設定しておくものとする。検出電圧が基準値以上の場合には、高いPWMパルスの周波数を維持する指令を出力する。
駆動パルス演算部23は、PWM周波数制御部22からの指令に基づいた駆動周波数で、制御部2の制御に従って、駆動パルスの指令値を演算し、スイッチ駆動回路31〜36へ出力する。
【0018】
作用を説明する。
[PWM周波数変更処理]
図3に示すのは、実施例1のインバータ装置1の制御部2で実行するPWM周波数変更処理の流れを示すフローチャートで、以下各ステップについて説明する。
【0019】
ステップS1では、基準値比較部21が、電圧検出器OP1〜OP3からブートストラップコンデンサ41〜43の検出電圧を入力する。
【0020】
ステップS2では、基準値比較部21が、検出電圧と基準電圧を比較し、検出電圧が基準電圧以上ならばステップS3へ進み、検出電圧が基準電圧より低い場合はステップS4へ進む。
【0021】
ステップS3では、PWM周波数制御部22が、高いPWMパルスの周波数を維持する。
【0022】
ステップS4では、PWM周波数制御部22が、PWMパルスの周波数を低く変更する。
【0023】
ステップS5では、駆動パルス演算部23が、ステップS3又はステップS4で設定した周波数で、駆動パルスの指令値を演算し、出力する。
【0024】
[コンデンサ容量を抑制する作用]
図4は実施例1のインバータ装置の通電パターンを説明する図である。
インバータ装置1では、図4に示すように、ハイサイドのスイッチ素子Qu1,Qv1,Qw1をPWMパルス駆動し、ローサイドのスイッチ素子Qu2,Qv2,Qw2をパルス駆動する。
例えば、U相のハイサイドをPWMパルス駆動すると、やや遅れてW相のローサイドをパルス駆動し、コイル5u,5wに通電する状態にし、次にV相のハイサイドをパルス駆動し、これにやや遅れてU相のローサイドをパルス駆動し、コイル5v,5uに通電する状態にする。このように通電パターンを120度毎に切り替えるようにして、モータ5を駆動する。
【0025】
次にブートストラップコンデンサ41〜43への充電状態について説明する。
U相を例に説明する。実施例1のインバータ装置では、上記のような通電パターンの際に、U相のローサイドのスイッチ素子Qu2がオンとなった際に、図2に符号100で示す電流経路により、ブートストラップコンデンサ41への充電を行う。つまり、コンデンサ6からダイオード71、ブートストラップコンデンサ41、スイッチ素子Qu2、抵抗10を流れる経路である。
そして、ローサイドのスイッチ素子Qu2がオフになると、ブートストラップコンデンサ41電圧が降下し始める。これはスイッチ駆動回路31の静止電流によるものである。
【0026】
通電パターンの切り替えによりハイサイドのスイッチ素子Qu1をオンにし、PWM駆動する際には、ブートストラップコンデンサ41に蓄えた電荷が消費されることになる。ハイサイドのスイッチ素子Qu1がオン、オフする際に消費される電荷量をq1とすると、n回のスイッチングにより放電する電荷量はn×q1となる。このnはPWM変調周波数に比例するので、消費する電荷量もPWM変調周波数に比例することになる。この際の消費電流は、静止電流より十分に大きいものである。そのため、図4(c)に示すブートストラップコンデンサ41の電圧低下に寄与するのは、ほとんどスイッチング時の消費電流によるものである。また、V相、W相のハイサイドについても同様にスイッチ動作に伴い、ブートストラップコンデンサ42,43の電圧が低下する。
ブートストラップコンデンサ41〜43では、このように充電と放電が繰り返されることになる。
【0027】
実施例1において、ローサイドのスイッチ素子Qu2,Qv2,Qw2がオフとなっている期間は次の2つである。それは、第1にハイサイドのみがPWM動作を行っている期間であり、第2にモータ5の巻線電圧検出のためにハイサイドとローサイドを共にオフにする期間である。
図5は実施例1のインバータ装置の通電パターンを変更した状態を説明する図である。
実施例1では、このような期間による影響で、ブートストラップコンデンサ41〜43の電荷量が低下することを、ブートストラップコンデンサ41〜43の電圧として、電圧検出器OP1〜OP3が検出する(ステップS1)。そして、この検出電圧が低下し、基準値より低下したかどうかを基準値比較部21のステップS2で判断し、基準値より低下すると、PWM周波数制御部22がPWM周波数を低下させる(図5の符号101で示す部分参照)。なお、基準値より低下したものが1相分でもあると、全体のPWM周波数を低下させるものとする。
【0028】
すると、図5(c)に示すように、ブートストラップコンデンサ41〜43の電圧低下が抑制される(図5の符号102で示す部分参照)。これにより、ブートストラップコンデンサ41〜43を大容量化しなくても、ローサイドのスイッチオフ期間が長い場合に対応でき、コストを抑制する。また、このような確実な動作を確保する機能は、インバータ装置1の正常な動作の確保に有用である。
【0029】
実施例1の作用を明確にするために、以下に説明を加える。
図6はインバータ装置の回路構成例を示す説明図である。図6には1相の部分を示すが、他の相も同様の構成である。なお、説明上、図6には実施例1と同様の符号を示す。
ハイサイドの駆動電源をローサイドのスイッチング動作で供給するには、図6のような構成にすることが考えられる。
このような構成において、ブートストラップコンデンサによりハイサイドの駆動電源を供給する場合には、ハイサイドの動作に伴って、この駆動電源電圧が低下する。
上記説明したようなローサイドのスイッチオフ期間が長い場合にも、ハイサイドのスイッチングができなくなることを避けるためには、ブートストラップコンデンサの容量を大きくしなければならなくなる。また、インバータ装置1における最低周波数時には、スイッチオフ期間が長くなるため、さらにブートストラップコンデンサの容量を大きくしなければならない。このような大容量化は、コストの増加、回路の大型化を生じることになる。
これに対して実施例1では、ブートストラップコンデンサの容量を大きくせずに、ローサイドのスイッチオフ期間が長い場合に対応し、コスト低減、回路小型化、信頼性向上を行う点が有利である。
【0030】
次に、効果を説明する。
実施例1のインバータ装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0031】
(1)ハイサイドとローサイドによるブリッジ構成により、少なくともハイサイドでPWMスイッチング動作を行い、負荷を駆動するインバータ装置1において、ハイサイドとローサイドのブリッジ回路を構成するよう設けられたスイッチ素子Qu1〜Qw2と、スイッチ素子Qu1〜Qw2を駆動するスイッチ駆動回路31〜36と、ローサイドのスイッチ動作により充電され、ハイサイドのスイッチ駆動回路31〜33の駆動電源を供給するブートストラップコンデンサ41〜43と、ブートストラップコンデンサ41〜43の電圧を検出する電圧検出器OP1〜OP3と、スイッチ駆動回路31〜36を制御する制御部2と、制御部2に設けられ、ブートストラップコンデンサ41〜43の検出電圧に基づいて、PWM周波数を低い周波数に変更する基準値比較部21及びPWM周波数制御部22を備えたため、ローサイドのスイッチ素子を駆動しない時間が長い場合があっても、コンデンサ容量を小さくできる。
【実施例2】
【0032】
実施例2では、ブートストラップコンデンサの電圧低下を予測して周波数変更を行う例である。
構成を説明する。
図7は実施例2のインバータ装置1の制御部2の一部のブロック構成を示す説明図である。
実施例2の制御部2は、電圧低下率演算部24、電圧予測部25、基準値比較部26を備えている。
電圧低下率演算部24は、ブートストラップコンデンサ41〜43の検出電圧を入力とし、単位時間あたりの電圧減少率を電圧低下率として演算する。そして、最も早い低下率のものを記憶し、電圧予測部25へ出力する。
【0033】
電圧予測部25は、電圧低下率演算部24からの電圧低下率と、駆動パルス演算部23からの駆動指令値を入力とし、駆動指令値に含まれるローサイドのスイッチ素子Qu2,Qv2,Qw2がオフする時間と電圧低下率からブートストラップコンデンサ41〜43の電圧が最も低くなる値、つまりローサイドがオンになる直前の値を演算し、基準値比較部26へ出力する。
基準値比較部26は、予め設定された基準値と電圧予測部25からの予測値を比較し、比較結果をPWM周波数制御部22へ出力する。
その他構成は、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0034】
作用を説明する。
[電圧低下率算出処理]
図8に示すのは、実施例2のインバータ装置1の制御部2で実行する電圧低下率算出処理の流れを示すフローチャートで、以下各ステップについて説明する。
【0035】
ステップS11では、電圧低下率演算部24が、電圧検出器OP1〜OP3の検出電圧を入力する。
【0036】
ステップS12では、電圧低下率演算部24が、単位時間当たりの検出電圧の変化から電圧低下率を演算する。この処理では、各相、各時間での電圧低下率を演算し、最も速い低下率のもので演算する。または各相で演算し、各相の最も速い低下率のもので演算する。
【0037】
ステップS13では、電圧低下率演算部24が、演算した電圧低下率を記憶、更新する。更新を行うことにより、経時的な変化に対応する。
[PWM周波数変更処理]
図9に示すのは、実施例2のインバータ装置1の制御部2で実行するPWM周波数変更処理の流れを示すフローチャートで、以下各ステップについて説明する。
なお、図3に示すフローチャートと同様の処理については、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0038】
ステップS14では、電圧予測部25が、電圧検出器OP1〜OP3の検出電圧と、駆動パルス演算部23の出力する駆動パルス指令値を入力する。
【0039】
ステップS15では、電圧予測部25が、電圧低下率演算部24からの電圧低下率を入力する。
【0040】
ステップS16では、電圧予測部25が、検出電圧と駆動パルス指令値に含まれるローサイドのスイッチオフ時間、及び電圧低下率から、ローサイドのスイッチがオンとなる時間の直前のブートストラップコンデンサ41〜43の電圧予測値を演算する。
【0041】
ステップS17では、基準値比較部26が、電圧予測値と予め設定した基準電圧を比較し、電圧予測値が基準電圧以上ならばステップS3へ進み、電圧予測値が基準電圧より低い場合はステップS4へ進む。
【0042】
[コンデンサ容量を抑制する作用]
実施例2では、ブートストラップコンデンサ41〜43の両端電圧を電圧検出器OP1〜OP3で検出し、電圧低下率(単位あたりの電圧減少率)を算出する(電圧低下率演算部24によるステップS11〜S13の処理)。この電圧低下率とローサイドのオフ期間を用いて、ブートストラップコンデンサ41〜43の電圧が低下した最低値、つまりローサイドのスイッチがオンする直前のブートストラップコンデンサ41〜43の電圧を予測する(電圧予測部25によるステップS14〜S16の処理)。
【0043】
このように実施例2では、予測値が基準値より低くなると、その予測を行った時点でPWM周波数を低下させる。そのため、より速い時期から行うことで、確実にハイサイドのスイッチ駆動回路31〜33の駆動電源を、充分に確保することができる。よって、コンデンサ容量を抑制する。
なお、駆動パルス演算部23からの駆動指令値に含まれるローサイドのスイッチ素子Qu2,Qv2,Qw2がオフする時間は、このパルス信号のエッジ抽出等により検出すればよい。
【0044】
効果を説明する。
実施例2のインバータ装置にあっては、上記(1)に加えて、以下の効果を有する。
(2)上記(1)において、周波数を変更する手段は、ブートストラップコンデンサ41〜43の検出電圧の変化からブートストラップコンデンサ41〜43の電圧低下率を演算する電圧低下率演算部24と、制御部2で演算されるスイッチ駆動回路31〜36への制御指令から抽出するローサイドのスイッチオフ時間、電圧低下率、及びブートストラップコンデンサ41〜43の検出電圧に基づいて最も低下したブートストラップコンデンサ41〜43の電圧予測値を演算する電圧予測部25と、予め設定した基準値とブートストラップコンデンサ41〜43の電圧予測値を比較する基準値比較部26を備え、ブートストラップコンデンサ41〜43の電圧予測値が基準値より低くなるとPWM周波数を低い周波数に変更するため、コンデンサ容量を大きくすることなく、スイッチ駆動回路31〜33の作動に充分な電源供給を行うことができる。
その他作用効果は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0045】
実施例3はPWM周波数を変更する際に、上限値と下限値を設定した例である。
構成を説明する。
図10は実施例3のインバータ装置1の制御部2の一部のブロック構成を示す説明図である。
上限値出力部221は、予め設定されたPWM周波数の上限値を記憶し、出力する。このPWM周波数の上限値は、制御部2の処理能力とスイッチ発熱、EMC(電磁適合性)などの条件により決定する。
【0046】
下限値出力部222は、予め設定されたPWM周波数の下限値を記憶し、出力する。このPWM周波数の下限値は、インバータ装置1のモータ5への出力制御の劣化が許容される最低の周波数(例えばモータ5を停止させない範囲など)により決めるようにする。
そして、実施例3において、PWM周波数制御部22は、PWM周波数を変更する際、通常の動作を行う高いPWM周波数を上限値とし、PWM周波数を低くする際の値を下限値とする。
その他構成は実施例2と同様であるので説明を省略する。
【0047】
作用を説明する。
[制御の精度を確保する作用]
実施例3では、PWM周波数制御部22が、PWM周波数を変更する際、通常の状態を上限値とし、低い周波数へ変更する際の周波数を下限値とする。
そして、例えば、ブートストラップコンデンサ41〜43の電圧予測値と比較する基準値を2段階にして、考慮するバラツキ等の見込み量による余裕分の大小のものにする。そして、PWM周波数を低減すると制御が粗くなることへの制御部2の制御内容が許容するような条件の場合には、下限値にし、制御内容が制御を細かくしたい要求が高い場合には、下限値よりわずかに高い周波数にする。
このようにして、PWM周波数を低下させることが制御部2のモータ制御に影響を与えないよう配慮する。
【0048】
効果を説明する。実施例3のインバータ装置にあっては、上記(1),(2)に加えて、以下の効果を有する。
(3)上記(1)又は(2)において、予め設定したPWM周波数の上限値を記憶・出力する上限値出力部221と、予め設定したPWM周波数の下限値を記憶・出力する下限値出力部222を設け、PWM周波数制御部22は、予め設定したPWM周波数の上限値とPWM周波数の下限値の間でPWM周波数を低い周波数に変更するため、PWM周波数を低下させ、制御が粗くなることが、制御部2のモータ制御に影響を与えないよう配慮することができる。
その他作用効果は、実施例2と同様であるので説明を省略する。
【0049】
以上、本発明のインバータ装置を実施例1〜実施例3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0050】
例えば、実施例1では、負荷としてモータを説明したが、例えばLED照明などであってもよい。
また、実施例3では、下限値と下限値よりわずかに高い周波数の2段階に変更するものを説明したが、上限値と下限値の間で別の制御を行うようにしてもよい。例えば、制御部2から得る情報により上限値の周波数よりわずかに低い周波数を用いるようにすれば、スイッチ駆動回路31〜33の電源消費量を低下させ、下限値へ切り替えることが生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1のインバータ装置の回路構成を示す図である。
【図2】実施例1のインバータ装置の制御部の一部のブロック構成を示す説明図である。
【図3】実施例1のインバータ装置の制御部で実行するPWM周波数変更処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1のインバータ装置の通電パターンを説明する図である。
【図5】実施例1のインバータ装置の通電パターンを変更した状態を説明する図である。
【図6】インバータ装置の回路構成例を示す説明図である。
【図7】実施例2のインバータ装置の制御部の一部のブロック構成を示す説明図である。
【図8】実施例2のインバータ装置の制御部で実行する電圧低下率算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施例2のインバータ装置1の制御部2で実行するPWM周波数変更処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】実施例3のインバータ装置の制御部の一部のブロック構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 インバータ装置
2 制御部
21 基準値比較部
22 周波数制御部
221 上限値出力部
222 下限値出力部
23 駆動パルス演算部
24 電圧低下率演算部
25 電圧予測部
26 基準値比較部
31〜36 スイッチ駆動回路
41〜43 ブートストラップコンデンサ
5 モータ
5u,5v,5w コイル
6 コンデンサ
71〜73 ダイオード
8 コンデンサ
9 電源
10〜12 抵抗
Du1〜Dw2 ダイオード
Qu1〜Qw2 スイッチ素子
OP1〜OP3 電圧検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイサイドとローサイドによるブリッジ構成により、少なくともハイサイドでPWMスイッチング動作を行い、負荷を駆動するインバータ装置において、
ハイサイドとローサイドのブリッジ回路を構成するよう設けられたスイッチ素子と、
スイッチ素子を駆動するスイッチ駆動手段と、
ローサイドのスイッチ動作により充電され、ハイサイドのスイッチ駆動手段の駆動電源を供給するブートストラップコンデンサと、
ブートストラップコンデンサの電圧を検出する電圧検出手段と、
前記スイッチ駆動手段を制御する制御手段と、
制御手段に設けられ、ブートストラップコンデンサの検出電圧に基づいて、PWM周波数を低い周波数に変更する周波数変更手段と、
を備えた、
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ装置において、
前記周波数変更手段は、
前記ブートストラップコンデンサの検出電圧の変化から前記ブートストラップコンデンサの電圧低下率を演算する電圧低下率演算手段と、
前記制御手段で演算される前記スイッチ駆動手段への制御指令から抽出するローサイドのスイッチオフ時間、前記電圧低下率、及び前記ブートストラップコンデンサの検出電圧に基づいて最も低下した前記ブートストラップコンデンサの電圧予測値を演算する電圧予測手段と、
予め設定した基準値と前記ブートストラップコンデンサの電圧予測値を比較する基準値比較手段と、
を備え、前記ブートストラップコンデンサの電圧予測値が前記基準値より低くなるとPWM周波数を低い周波数に変更することを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のインバータ装置において、
前記周波数変更手段は、予め設定したPWM周波数の上限値とPWM周波数の下限値の間でPWM周波数を低い周波数に変更することを特徴とするインバータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−158117(P2010−158117A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335411(P2008−335411)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】