説明

インホイールモータ

【課題】エネルギーの損失を低減できるインホイールモータを提供すること。
【解決手段】電動車両駆動装置10は、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、減速機構40と、減速機構40とを含む。減速機構40は、第3サンギア41と、第4ピニオンギア42と、第3キャリア43と、第3リングギア44と、玉軸受101と、塞ぎ部材106とを含む。第3キャリア43の一端部には、軸方向に伸びる溝105が設けられている。塞ぎ部材106は、溝105の少なくとも一部を塞ぐ。電動車両駆動装置10は、減速機構40での摩擦損失が低減されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両を駆動するインホイールモータに関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両駆動装置のうち、特にホイールを直接駆動するものをインホイールモータという。ここでいうインホイールモータとは、電動車両が備えるホイールの近傍に設けられる駆動装置である。なお、インホイールモータは、必ずしもホイールの内部に収納されていなくてもよい。インホイールモータは、ホイールの内部又はホイール近傍に配置される必要がある。しかしながら、ホイールの内部やホイール近傍は、比較的狭い空間である。よって、インホイールモータは、小型化が要求される。
【0003】
インホイールモータには、減速機構を備える方式のものと、減速機構を備えないダイレクトドライブ方式のものとがある。減速機構を備える方式のインホイールモータは、電動車両の発進時や登坂時(坂道を登る時)に、電動車両を駆動するために十分な回転力を確保しやすい。しかしながら、減速機構を備える方式のインホイールモータは、減速機構を介して回転力をホイールに伝えるため、減速機構での摩擦損失が生じる。減速機構を備えるインホイールモータは、モータの出力軸の回転速度がホイールの回転速度よりも常に速い。よって、減速機構を備える方式のインホイールモータは、特に、電動車両が高速で走行する時に、減速機構での摩擦損失によってエネルギーの損失が増大する。
【0004】
例えば、特許文献1には、インホイールモータではないが、遊星歯車機構を含む減速機構と、2つのモータとを備える技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−081932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている技術は、動力循環経路を有する。特許文献1に記載されている技術は、動力循環経路内で回転力をまず電力に変換し、その電力を再度回転力に変換している。したがって、特許文献1に記載されている技術は、動力循環経路に発電機及びモータを含む必要がある。しかしながら、上述のように、インホイールモータは、電動車両駆動装置の小型化が要求されており、発電機及びモータを設置するためのスペースをホイール近傍に確保することが困難である。また、特許文献1に記載されている技術は、動力を電力に変換し、さらに電力を動力に変換する。よって、特許文献1に記載されている技術は、エネルギーの変換時にエネルギーの損失が生じる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、エネルギーの損失を低減できるインホイールモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1モータと、第2モータと、変速機構と、減速機構と、を含み、前記変速機構は、前記第1モータと連結される第1サンギアと、前記第1サンギアと噛み合う第1ピニオンギアと、前記第1ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第1ピニオンギアが前記第1サンギアを中心に公転できるように前記第1ピニオンギアを保持する第1キャリアと、前記第1キャリアの回転を規制できるクラッチ装置と、前記第1ピニオンギアと噛み合い、かつ、前記第2モータと連結される第1リングギアと、前記第1モータと連結される第2サンギアと、前記第2サンギアと噛み合う第2ピニオンギアと、前記第2ピニオンギアと噛み合う第3ピニオンギアと、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアがそれぞれ自転できるように、かつ、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアが前記第2サンギアを中心に公転できるように前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアを保持するとともに、前記第1リングギアと連結される第2キャリアと、前記第3ピニオンギアと噛み合う第2リングギアとを含む変速機構とを含み、前記減速機構は、前記第2リングギアと連結される第3サンギアと、前記第3サンギアと噛み合い、シャフトによって回転可能に支持される第4ピニオンギアと、前記第4ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第4ピニオンギアが前記第3サンギアを中心に公転できるように前記第4ピニオンギアを保持するとともに、前記第4ピニオンギアの前記シャフトが前記第4ピニオンギアに挿入される経路として軸方向に伸びる溝が一端部に設けられて、電動車両の車輪と連結される第3キャリアと、前記第4ピニオンギアと噛み合い、かつ、静止系に固定される第3リングギアと、前記第3サンギアを、前記第3キャリアに対して、前記第3キャリアと同軸に回転可能に支持し、前記第3キャリアの前記一端部に収納され、外輪と内輪とを含む軸受と、前記第3キャリアに設けられた前記溝の少なくとも一部を塞ぐ塞ぎ部材と、を含み、前記第1モータと前記第2モータとは、回転力の大きさが等しく、かつ回転力の向きが反対になる第1変速状態と、回転力の大きさと回転力の向きとが等しくなる第2変速状態とを切り替えて運転できることを特徴とするインホイールモータである。
【0009】
上記構成により、このインホイールモータは、第1変速状態及び第2変速状態の2つの変速状態を実現できる。第1変速状態では、第1モータ及び第2モータが作動し、かつクラッチ装置は係合状態である。第1変速状態で、このインホイールモータは、第2キャリアから第1リングギアに回転力の一部が戻り、さらに第1リングギアに伝わった回転力が第1サンギアを介して第2サンギアに伝わる。すなわち、このインホイールモータは、回転力が循環する。このような構造により、このインホイールモータは、より大きな変速比を実現できる。すなわち、このインホイールモータは、第1変速状態の時に、第1モータが出力する回転力よりも大きな回転力をホイールに伝達できる。
【0010】
第2変速状態では、第1モータ及び第2モータは作動し、かつクラッチ装置は非係合状態である。このインホイールモータは、第2変速状態の際、第2モータの角速度が変化することで、変速比を連続的に変更できる。このようにすることで、このインホイールモータは、第1モータの角速度と、出力軸となる第2リングギアの角速度との差を低減できるので、摩擦損失を低減でき、結果としてエネルギーの損失を低減できる。
【0011】
また、このインホイールモータは、第1変速状態において、第1モータ及び第2モータの両方が作動するので、第1モータ及び第2モータの両方を有効に利用できる。また、このインホイールモータは、第1変速状態においては、第1モータ及び第2モータの両方から動力を得ることができるので、必要な動力を得るにあたり、モータ1個あたりの出力を小さくすることができる。このため、無闇に出力が大きいモータを用いる必要はなく、また、モータ効率がよい領域で第1モータ及び第2モータを作動させやすくなる。その結果、このインホイールモータはエネルギーの損失を低減できる。
【0012】
また、このインホイールモータは、減速機構により第1モータ及び第2モータの回転力を増幅することができるので、第1モータ及び第2モータに要求される回転力を低減できる。その結果、第1モータ及び第2モータの小型化及び軽量化をすることができるので、このインホイールモータを小型化及び軽量化することができる。
【0013】
また、このインホイールモータは、塞ぎ部材により、第3キャリアに設けられた溝へ潤滑油が流入することが低減できるので、効率よく軸受の潤滑を行うことができる。その結果、減速機構での摩擦損失を低減でき、エネルギーの損失を低減できる。
【0014】
本発明は、第1モータと、第2モータと、変速機構と、減速機構と、を含み、前記変速機構は、前記第1モータと連結される第1サンギアと、前記第1サンギアと噛み合う第1ピニオンギアと、前記第1ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第1ピニオンギアが前記第1サンギアを中心に公転できるように前記第1ピニオンギアを保持する第1キャリアと、前記第1ピニオンギアと噛み合う第1リングギアと、前記第1モータと連結される第2サンギアと、前記第2サンギアと噛み合う第2ピニオンギアと、前記第2ピニオンギアと噛み合う第3ピニオンギアと、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアがそれぞれ自転できるように、かつ、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアが前記第2サンギアを中心に公転できるように前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアを保持する第2キャリアと、前記第2キャリアの回転を規制できるクラッチ装置と、前記第3ピニオンギアと噛み合い、かつ、前記第1キャリアと連結され、かつ、前記第2モータと連結される第2リングギアと、を含み、前記減速機構は、前記第1リングギアと連結される第3サンギアと、前記第3サンギアと噛み合い、シャフトによって回転可能に支持される第4ピニオンギアと、前記第4ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第4ピニオンギアが前記第3サンギアを中心に公転できるように前記第4ピニオンギアを保持するとともに、前記第4ピニオンギアの前記シャフトが挿入される経路として軸方向に伸びる溝が一端部に設けられて、電動車両の車輪と連結される第3キャリアと、前記第4ピニオンギアと噛み合い、かつ、静止系に固定される第3リングギアと、前記第3サンギアを、前記第3キャリアに対して、前記第3キャリアと同軸に回転可能に支持し、前記第3キャリアの前記一端部に収納され、外輪と内輪とを含む軸受と、前記第3キャリアに設けられた前記溝の少なくとも一部を塞ぐ塞ぎ部材と、を含み、前記第1モータと前記第2モータとは、回転力の大きさが等しく、かつ回転力の向きが反対になる第1変速状態と、回転力の大きさと回転力の向きとが等しくなる第2変速状態とを切り替えて運転できることを特徴とするインホイールモータである。
【0015】
上記構成により、このインホイールモータは、第1変速状態及び第2変速状態の2つの変速状態を実現できる。第1変速状態では、第1モータ及び第2モータが作動し、かつクラッチ装置は係合状態である。第1変速状態で、このインホイールモータは、第2キャリアから第1リングギアに回転力の一部が戻り、さらに第1リングギアに伝わった回転力が第1サンギアを介して第2サンギアに伝わる。すなわち、このインホイールモータは、回転力が循環する。このような構造により、このインホイールモータは、より大きな変速比を実現できる。すなわち、このインホイールモータは、第1変速状態の時に、第1モータが出力する回転力よりも大きな回転力をホイールに伝達できる。
【0016】
第2変速状態では、第1モータ及び第2モータは作動し、かつクラッチ装置は非係合状態である。このインホイールモータは、第2変速状態の際、第2モータの角速度が変化することで、変速比を連続的に変更できる。このようにすることで、このインホイールモータは、第1モータの角速度と、出力軸となる第2リングギアの角速度との差を低減できるので、摩擦損失を低減でき、結果としてエネルギーの損失を低減できる。
【0017】
また、このインホイールモータは、第1変速状態において、第1モータ及び第2モータの両方が作動するので、第1モータ及び第2モータの両方を有効に利用できる。また、このインホイールモータは、第1変速状態においては、第1モータ及び第2モータの両方から動力を得ることができるので、必要な動力を得るにあたり、モータ1個あたりの出力を小さくすることができる。このため、無闇に出力が大きいモータを用いる必要はなく、また、モータ効率がよい領域で第1モータ及び第2モータを作動させやすくなる。その結果、このインホイールモータはエネルギーの損失を低減できる。
【0018】
また、このインホイールモータは、減速機構により第1モータ及び第2モータの回転力を増幅することができるので、第1モータ及び第2モータに要求される回転力を低減できる。その結果、第1モータ及び第2モータの小型化及び軽量化をすることができるので、このインホイールモータを小型化及び軽量化することができる。
【0019】
また、このインホイールモータは、塞ぎ部材により、第3キャリアに設けられた溝へ潤滑油が流入することを低減できるので、効率よく軸受の潤滑を行うことができる。その結果、減速機構での摩擦損失を低減でき、エネルギーの損失が低減できる。
【0020】
また、本発明において、前記塞ぎ部材は、前記第3キャリアの前記溝を埋め、端部に前記第4ピニオンギアの前記シャフト端面と前記外輪端面とに挟まれる突起を有することが好ましい。これにより、塞ぎ部材は、軸受における軸方向の移動が規制される。すなわち、突起は、塞ぎ部材の抜け止めとして機能する。
【0021】
また、本発明において、前記塞ぎ部材は、前記第4ピニオンギアと前記軸受との間に配置され、前記第3キャリアに設けられた前記溝と対応する位置に突起を有し、内径が前記内輪の外径よりも大きい円環状の部材であることが好ましい。塞ぎ部材がこのような構成であることで、第3サンギアの回転に伴って軸受の内輪が回転するときに、内輪に塞ぎ部材が接触することが低減され、異音、振動の発生が減少する。
【0022】
本発明において、前記クラッチ装置は、前記第1変速状態で係合し、前記第2変速状態で非係合となることが好ましい。このようにすれば、第1変速状態を、いわゆるローギアとし、第2変速状態を、いわゆるハイギアとすることができる。
【0023】
本発明において、前記第2サンギア、前記第2ピニオンギア、前記第3ピニオンギア、前記第2キャリア及び前記第2リングギアを有するダブルピニオン遊星歯車の減速比をα、前記第1サンギア、前記第1ピニオンギア、前記第1キャリア及び前記第1リングギアを有するシングルピニオン遊星歯車装置の減速比をβとしたとき、1.90≦α≦2.10かつ2.80≦β≦3.20であることが好ましい。このようにすれば、第1変速状態と第2変速状態の段間比2を実現できるので、電動車両に適したインホイールモータを提供できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、エネルギーの損失を低減できるインホイールモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本実施形態の電動車両駆動装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る電動車両駆動装置が第1変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る電動車両駆動装置が第2変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。
【図4】図4は、本実施形態のクラッチ装置を示す説明図である。
【図5】図5は、本実施形態に係るクラッチ装置のカムを拡大して示す説明図である。
【図6−1】図6−1は、本実施形態に係る電動車両駆動装置の内部構造を示す図である。
【図6−2】図6−2は、本実施形態に係る減速機構の概略図である。
【図6−3】図6−3は、本実施形態に係る減速機構の組み立て図である。
【図6−4】図6−4は、本実施形態に係る塞ぎ部材を示す斜視図である。
【図6−5】図6−5は、本実施形態に係る減速機構の分解略図である。
【図6−6】図6−6は、本実施形態に係る塞ぎ部材の変形例を示す正面図である。
【図6−7】図6−7は、本実施形態に係る塞ぎ部材の変形例を示す側面図である。
【図7−1】図7−1は、第1磁気パターンリング及び第2磁気パターンリングを示す斜視図である。
【図7−2】図7−2は、図7−2のA−A断面図である。
【図7−3】図7−3は、磁気検出器の配置を示す斜視図である。
【図8】図8は、車両を走行させるモータに要求される回転力(トルク)と角速度(回転速度)との関係を示す図である。
【図9】図9は、本実施形態の変形例に係る電動車両駆動装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0027】
図1は、本実施形態の電動車両駆動装置の構成を示す図である。インホイールモータである電動車両駆動装置10は、ケーシングGと、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、減速機構40と、ホイール軸受50とを含む。ケーシングGは、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、減速機構40とを収納する。
【0028】
第1モータ11は、第1回転力TAを出力できる。第2モータ12は、第2回転力TBを出力できる。変速機構13は、第1モータ11と連結される。このような構造により、変速機構13は、第1モータ11が作動すると、第1モータ11から第1回転力TAが伝えられる(入力される)。また、変速機構13は、第2モータ12と連結される。このような構造により、変速機構13は、第2モータ12が作動すると、第2回転力TBが伝えられる(入力される)。ここでいうモータの作動とは、第1モータ11(第2モータ12)に電力が供給されて第1モータ11(第2モータ12)の入出力軸が回転することをいう。
【0029】
変速機構13は、減速比(変速機構13への入力回転速度ωiと出力回転速度ωoとの比ωi/ωo)を変更できる。変速機構13は、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30と、クラッチ装置60とを含む。第1遊星歯車機構20は、シングルピニオン式の遊星歯車機構である。第1遊星歯車機構20は、第1サンギア21と、第1ピニオンギア22と、第1キャリア23と、第1リングギア24とを含む。第2遊星歯車機構30は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。第2遊星歯車機構30は、第2サンギア31と、第2ピニオンギア32aと、第3ピニオンギア32bと、第2キャリア33と、第2リングギア34とを含む。
【0030】
第1サンギア21は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第1サンギア21は、第1モータ11と連結される。このような構造により、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、第1回転力TAが伝えられる。そして、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。第1ピニオンギア22は、第1サンギア21と噛み合う。第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1ピニオン回転軸Rp1を中心に回転(自転)できるように第1ピニオンギア22を保持する。第1ピニオン回転軸Rp1は、例えば、回転軸Rと平行である。
【0031】
第1キャリア23は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。このような構造により、第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1サンギア21を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第1ピニオンギア22を保持する。第1リングギア24は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第1リングギア24は、第1ピニオンギア22と噛み合う。また、第1リングギア24は、第2モータ12と連結される。このような構造により、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると第2回転力TBが伝えられる。そして、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。
【0032】
クラッチ装置60は、ケーシングGと第1キャリア23との間に配置される。クラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を規制できる。具体的には、クラッチ装置60は、回転軸Rを中心とした第1キャリア23の回転を規制(制動)する場合と、前記回転を許容する場合とを切り替えできる。以下、クラッチ装置60は、前記回転を規制(制動)する状態を係合状態といい、前記回転を許容する状態を非係合状態という。クラッチ装置60の詳細については後述する。
【0033】
このように、第1キャリア23は、クラッチ装置60によってケーシングGと係合と分離とが可能となっている。すなわち、クラッチ装置60は、ケーシングGに対して第1キャリア23を回転自在としたり、ケーシングGに対して第1キャリア23を回転不能にしたりすることができる。
【0034】
第2サンギア31は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第2サンギア31は、第1サンギア21を介して第1モータ11と連結される。具体的には、第1サンギア21と第2サンギア31とは、それぞれが同軸(回転軸R)で回転できるようにサンギアシャフト14に一体で形成される。そして、サンギアシャフト14は、第1モータ11と連結される。このような構造により、第2サンギア31は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。
【0035】
第2ピニオンギア32aは、第2サンギア31と噛み合う。第3ピニオンギア32bは、第2ピニオンギア32aと噛み合う。第2キャリア33は、第2ピニオンギア32aが第2ピニオン回転軸Rp2を中心に回転(自転)できるように第2ピニオンギア32aを保持する。また、第2キャリア33は、第3ピニオンギア32bが第3ピニオン回転軸Rp3を中心に回転(自転)できるように第3ピニオンギア32bを保持する。第2ピニオン回転軸Rp2及び第3ピニオン回転軸Rp3は、例えば、回転軸Rと平行である。
【0036】
第2キャリア33は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。このような構造により、第2キャリア33は、第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bが第2サンギア31を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bを保持することになる。また、第2キャリア33は、第1リングギア24と連結される。このような構造により、第2キャリア33は、第1リングギア24が回転(自転)すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。第2リングギア34は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第2リングギア34は、第3ピニオンギア32bと噛み合う。また、第2リングギア34は、変速機構13の入出力軸(変速機構入出力軸)15と連結される。このような構造により、第2リングギア34が回転(自転)すると、変速機構入出力軸15は回転する。
【0037】
減速機構40は、変速機構13と電動車両の車輪Hとの間に配置される。そして、減速機構40は、変速機構入出力軸15の回転速度を減速して、入出力軸(減速機構入出力軸)16へ出力する。減速機構入出力軸16は、電動車両の車輪Hに連結されており、減速機構40と車輪Hとの間で動力を伝達する。このような構造により、第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方が発生した動力は、変速機構13と減速機構40とを介して車輪Hへ伝達されてこれを駆動する。また、車輪Hからの入力は、減速機構40と変速機構13とを介して第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方に伝達される。この場合、第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方は、車輪Hに駆動されて電力を発生することができる(回生)。
【0038】
減速機構40は、第3サンギア41と、第4ピニオンギア42と、第3キャリア43と、第3リングギア44とを含む。第3サンギア41は、変速機構入出力軸15が取り付けられている。このような構造により、第3サンギア41と変速機構13の第2リングギア34とが変速機構入出力軸15を介して連結される。第4ピニオンギア42は、第3サンギア41と噛み合っている。第3キャリア43は、第4ピニオンギア42が第4ピニオン回転軸Rp4を中心として自転できるように、かつ、第4ピニオンギア42が第3サンギア41を中心に公転できるように第4ピニオンギア42を保持する。第3リングギア44は、第4ピニオンギア42と噛み合い、かつ、静止系(本実施形態ではケーシングG)に固定される。第3キャリア43は、減速機構入出力軸16を介して車輪Hに連結されている。また、第3キャリア43は、ホイール軸受50によって回転可能に支持される。減速機構40については、後で詳述する。
【0039】
電動車両駆動装置10は、変速機構13と車輪Hとの間に減速機構40を介在させて、変速機構13の変速機構入出力軸15の回転速度を減速して車輪Hを駆動する。このため、第1モータ11及び第2モータ12は、最大回転力が小さいものでも電動車両に必要な駆動力を得ることができる。その結果、第1モータ11及び第2モータ12の駆動電流が小さくて済むともに、これらを小型化及び軽量化することができる。そして、電動車両駆動装置10の製造コスト低減及び軽量化を実現できる。
【0040】
制御装置1は、電動車両駆動装置10の動作を制御する。より具体的には、制御装置1は、第1モータ11及び第2モータ12の回転速度、回転方向及び出力を制御する。制御装置1は、例えば、マイクロコンピュータである。次に、電動車両駆動装置10における回転力の伝達経路について説明する。
【0041】
図2は、本実施形態に係る電動車両駆動装置が第1変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。電動車両駆動装置10は、第1変速状態と第2変速状態との2つの変速状態を実現できる。まずは、第1変速状態を電動車両駆動装置10が実現する場合を説明する。
【0042】
第1変速状態は、いわゆるローギア状態の状態であり、減速比を大きくとることができる。すなわち、変速機構入出力軸15のトルクを大きくすることができる。第1変速状態は、主に、電動車両が走行時に大きな駆動力を必要とする場合、例えば、坂道を発進するとき又は登坂時(坂道を登る時)等に用いられる。第1変速状態では、第1モータ11と第2モータ12とはともに動作するが、発生するトルクの大きさが等しく、かつトルクの向きが反対になる。第1モータ11の動力は、第1サンギア21に入力され、第2モータ12の動力は、第1リングギア24に入力される。第1変速状態において、クラッチ装置60は係合状態である。すなわち、第1変速状態において、第1ピニオンギア22は、ケーシングGに対して回転できない状態となる。
【0043】
第1変速状態の時に、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T1とし、第2モータ12が出力する回転力を第2回転力T5とする。図1に示す第1回転力T1、循環回転力T3、合成回転力T2、第1分配回転力T6及び第2分配回転力T4の各回転力は、各部位に作用するトルクを示し、単位はNmである。
【0044】
第1モータ11から出力された第1回転力T1は、第1サンギア21に入力される。そして、第1回転力T1は、第1サンギア21で循環回転力T3と合流して、合成回転力T2となる。合成回転力T2は、第1サンギア21から出力される。循環回転力T3は、第1リングギア24から第1サンギア21に伝えられた回転力である。循環回転力T3の詳細については後述する。
【0045】
第1サンギア21と第2サンギア31とは、サンギアシャフト14で連結されている。このため、第1変速状態において、第1回転力T1と循環回転力T3とが合成され、第1サンギア21から出力された合成回転力T2は、サンギアシャフト14を介してサンギアシャフト14に伝えられる。合成回転力T2は、第2遊星歯車機構30によって増幅される。また、合成回転力T2は、第2遊星歯車機構30によって第1分配回転力T6と第2分配回転力T4とに分配される。第1分配回転力T6は、合成回転力T2が第2リングギア34に分配されて増幅された回転力であり、変速機構入出力軸15から出力される。第2分配回転力T4は、合成回転力T2が第2キャリア33に分配されて増幅された回転力である。
【0046】
第1分配回転力T6は、変速機構入出力軸15から減速機構40に出力される。そして、第1分配回転力T6は、減速機構40で増幅されて、図1に示す減速機構入出力軸16を介して車輪Hに出力されて、これを駆動する。その結果、電動車両は走行する。
【0047】
第2キャリア33と第1リングギア24とが一体で回転しているため、第2キャリア33に分配された第2分配回転力T4は、第1リングギア24の循環回転力となる。そして、第2分配回転力T4は、第1リングギア24で、第2モータ12の第2回転力T5と合成されて、第1遊星歯車機構20に向かう。第2回転力T5、すなわち、第2モータ12の回転力の向きは、第1モータ11の回転力の向きとは反対である。
【0048】
第1遊星歯車機構20に戻ってきた第1リングギア24における第2分配回転力T4及び第2回転力T5は、第1遊星歯車機構20によってその大きさが減少されるとともに、力の向きを逆転させられて、第1サンギア21における循環回転力T3となる。このようにして、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間で動力(回転力)の循環が発生するので、変速機構13は、減速比を大きくすることができる。すなわち、電動車両駆動装置10は、第1変速状態のときに、大きなトルクを発生することができる。次に、合成回転力T2、循環回転力T3、第2分配回転力T4及び第1分配回転力T6の値の一例を説明する。
【0049】
第2サンギア31の歯数をZ1とし、第2リングギア34の歯数をZ4とし、第1サンギア21の歯数をZ5とし、第1リングギア24の歯数をZ7とする。式(1)から式(4)に、電動車両駆動装置10の各部に作用する回転力(図2に示す合成回転力T2、循環回転力T3、第2分配回転力T4及び第1分配回転力T6)示す。なお、下記の式(1)〜式(4)で負の値となるものは、第1回転力T1とは逆方向の回転力である。
【0050】
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【0051】
一例として、歯数Z1を47、歯数Z4を97、歯数Z5を24、歯数Z7を76とする。また、第1回転力T1を50Nmとし、第2回転力T5を50Nmとする。すると、合成回転力T2は99.1Nm、循環回転力T3は49.1Nm、第2分配回転力T4は−105.4Nm、第1分配回転力T6は204.5Nmとなる。このように、電動車両駆動装置10は、一例として第1モータ11が出力する第1回転力T1を約4倍に増幅して車輪Hに出力できる。次に、第2変速状態を電動車両駆動装置10が実現する場合を説明する。
【0052】
図3は、本実施形態に係る電動車両駆動装置が第2変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。第2変速状態は、いわゆるハイギア状態の状態であり、減速比を小さくとることができる。すなわち、変速機構入出力軸15のトルクは小さくなるが、変速機構13の摩擦損失を小さくすることができる。第2変速状態では、第1モータ11と第2モータ12とはともに動作する。そして、第1モータ11及び第2モータ12が発生するトルクの大きさとトルクの向きとは等しくなる。第2変速状態のときに、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T7とし、第2モータ12が出力する回転力を第2回転力T8とする。
【0053】
第2変速状態において、第1モータ11の動力は、第1サンギア21に入力され、第2モータ12の動力は、第1リングギア24に入力される。第2変速状態において、クラッチ装置60は非係合状態である。すなわち、第1変速状態において、第1ピニオンギア22は、ケーシングGに対して回転できる状態となる。その結果、第2変速状態では、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間における回転力の循環が遮断される。また、第2変速状態では、第1キャリア23が自由に公転(回転)できるため、第1サンギア21と第1リングギア24とは相対的に自由に回転(自転)できる。なお、図3に示す合成回転力T9は、変速機構入出力軸15から出力されて減速機構40に伝えられるトルクを示し、単位はNmである。
【0054】
第2変速状態では、第1回転力T7と第2回転力T8との比は、第2サンギア31の歯数Z1と第2リングギア34の歯数Z4との比で定まる。第1回転力T7は、第2キャリア33で第2回転力T8と合流する。その結果、第2リングギア34に合成回転力T9が伝わる。第1回転力T7と、第2回転力T8と、合成回転力T9とは、下記の式(5)を満たす。
【0055】
【数5】

【0056】
変速機構入出力軸15の角速度(回転速度)は、第1モータ11によって駆動される第2サンギア31の角速度と、第2モータ12によって駆動される第2キャリア33の角速度とによって決定される。したがって、変速機構入出力軸15の角速度を一定としていても、第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度との組み合わせを変化させることができる。
【0057】
このように、変速機構入出力軸15の角速度と第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度との組み合わせは一意に決定されないので、上述した第1変速状態から第2変速状態へ、あるいは第2変速状態から第1変速状態へ連続して移行させることができる。したがって、制御装置1は、第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度と回転力とを連続して滑らかに制御すると、第1変速状態と第2変速状態との間で変速機構13の状態が変化した場合でも、いわゆる変速ショックを小さくすることができる。
【0058】
変速機構13は、第1サンギア21と第1リングギア24とは、互いに同方向に回転(自転)するため、第2サンギア31と第2キャリア33とも、互いに同方向に回転(自転)する。第2サンギア31の角速度を一定とした場合、第2キャリア33の角速度が速くなるほど、第2リングギア34の角速度は遅くなる。また、第2キャリア33の角速度遅くなるほど、第2リングギア34の角速度は速くなる。このように、第2リングギア34の角速度は、第2サンギア31の角速度と、第2キャリア33の角速度とによって連続的に変化する。すなわち、電動車両駆動装置10は、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、変速比を連続的に変更できる。
【0059】
また、電動車両駆動装置10は、第2リングギア34の角速度を一定にしようとする際に、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度と、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度との組み合わせを複数有する。すなわち、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度が変化しても、第2リングギア34の角速度を一定に維持できる。このため、電動車両駆動装置10は、第1変速状態から第2変速状態に切り替わる際に、第2リングギア34の角速度の変化量を低減できる。結果として、電動車両駆動装置10は、変速ショックを低減できる。
【0060】
次に、第2モータ12が出力する第2回転力T8について説明する。第2モータ12は、式(6)を満たす第2回転力T8以上の回転力を出力する必要がある。なお、式(6)中の、1−(Z4/Z1)は、第2サンギア31と第2リングギア34との間の回転力比を示す。
【0061】
【数6】

【0062】
したがって、第1モータ11が任意に回転する際に第2リングギア34の回転力及び角速度を調節するためには、第1回転力TAと、第2回転力TBと、歯数Z1と、歯数Z4とは、下記の式(7)を満たせばよい。なお、第1回転力TAは第1モータ11の任意の角速度での回転力であり、第2回転力TBは第2モータ12の任意の角速度での回転力である。
【0063】
【数7】

【0064】
次に、クラッチ装置60について説明する。クラッチ装置60は、例えば、ワンウェイクラッチ装置である。ワンウェイクラッチ装置は、第1方向の回転力のみを伝達し、第1方向とは逆方向である第2方向の回転力を伝達しない。すなわち、ワンウェイクラッチ装置は、図1から図3に示す第1キャリア23が第1方向に回転しようとする際に係合状態となり、第1キャリア23が第2方向に回転しようとする際に非係合状態となる。ワンウェイクラッチ装置は、例えば、カムクラッチ装置又はローラクラッチ装置である。以下において、クラッチ装置60はカムクラッチ装置であるものとして、クラッチ装置60の構成を説明する。
【0065】
図4は、本実施形態のクラッチ装置を示す説明図である。図5は、実施形態1のクラッチ装置のカムを拡大して示す説明図である。図4に示すように、クラッチ装置60は、第2部材としての内輪61と、第1部材としての外輪62と、係合部材としてのカム63とを含む。なお、内輪61が第1部材として機能し、外輪62が第2部材として機能してもよい。内輪61及び外輪62は、筒状部材である。内輪61は、外輪62の内側に配置される。内輪61と外輪62とのうちの一方は、第1キャリア23に連結され、他方はケーシングGに連結される。本実施形態では、内輪61は第1キャリア23に連結され、外輪62はケーシングGに連結される。カム63は、略円柱状の棒状部材である。ただし、棒状部材の中心軸に直交する仮想平面で切ったカム63の断面形状は、真円ではなく歪な形状である。カム63は、内輪61の外周部と外輪62の内周部との間に、内輪61及び外輪62の周方向に沿って複数設けられる。
【0066】
図5に示すように、クラッチ装置60は、ワイヤゲージ64と、ガータスプリング65とを含む。ワイヤゲージ64は、弾性部材である。ワイヤゲージ64は、複数のカム63が分散しないようにまとめる。ガータスプリング65は、カム63が内輪61及び外輪62に常に接触するようにカム63に力を与える。これにより、内輪61又は外輪62に回転力が作用した際に、カム63は迅速に内輪61及び外輪62と噛み合うことができる。よって、クラッチ装置60は、非係合状態から係合状態に切り替わる際に要する時間を低減できる。なお、非係合状態では、内輪61と外輪62との間で力は伝達されていない。また、係合状態では、内輪61と外輪62との間で力は伝達されている。
【0067】
クラッチ装置60は、内輪61に第1方向の回転力が作用すると、カム63が内輪61及び外輪62と噛み合う。これにより、内輪61と外輪62との間で回転力が伝達され、第1キャリア23は、ケーシングGから反力を受ける。その結果、クラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を規制できる。また、クラッチ装置60は、内輪61に第2方向の回転力が作用すると、カム63が内輪61及び外輪62と噛み合わない。これにより、内輪61と外輪62との間で回転力が伝達されず、第1キャリア23は、ケーシングGから反力を受けない。このため、クラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を規制しない。このようにして、クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置としての機能を実現する。
【0068】
本実施形態の場合、クラッチ装置60は、第1変速状態、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動している状態であって、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力する場合に、図1に示す第1キャリア23が回転(自転)する方向に内輪61が回転すると係合状態となる。すなわち、上述の第1方向は、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力し、かつ、第2モータが作動していない際に第2部材としての内輪61が回転する方向である。この状態で、第2モータ12が第1モータ11の回転方向とは反対方向に回転して、第1モータ11の回転力とは反対向きの回転力を出力している場合に、変速機構13は、第1変速状態となる。
【0069】
また、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力している状態で、第2モータ12が作動して、第1モータ11の回転方向と同じ方向に回転して、第1モータ11の回転力と同じ向きの回転力を出力している場合に、第2キャリア33の回転方向は逆転する。その結果、クラッチ装置60は、第2変速状態の場合、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動して同じ方向に回転力を出力し、かつ、電動車両を前進させるように第1モータ11及び第2モータ12が回転力を出力する場合に非係合状態となる。このように、クラッチ装置60は、第1モータ11の回転力の方向と第2モータ12の回転力の方向とによって、受動的に係合状態と非係合状態とを切り替えできる。
【0070】
クラッチ装置60は、ローラクラッチ装置でもよい。ただし、カムクラッチ装置は、回転力(トルク)容量がローラクラッチ装置よりも大きい。すなわち、カムクラッチ装置は、内輪61と外輪62との間で伝達できる力の大きさがローラクラッチ装置よりも大きい。このため、クラッチ装置60は、カムクラッチ装置である方が、より大きな回転力を伝達できる。さらに、クラッチ装置60は、カムクラッチ装置である方が、カム63が内輪61及び外輪62から分離する際の空転摩擦をローラクラッチ装置よりも小さくすることができる。このため。電動車両駆動装置10全体の摩擦損失を低減し、効率を向上させることができる。第1変速状態と第2変速状態とは、制御装置1が第1モータ11及び第2モータ12の回転力と回転方向とを制御することにより切り替えられる。
【0071】
クラッチ装置60は、スプラグ式ワンウェイクラッチ装置であってもよい。スプラグ式ワンウェイクラッチは、摩擦係合部材としてスプラグが用いられているので、円に類似した底面を持つカムの数よりも多数のスプラグをクラッチ装置60に配置することができる。その結果、クラッチ装置60と同一の取り付け寸法を持つカムクラッチ装置のトルク容量よりも、クラッチ装置60のトルク容量を大きくすることができる。クラッチ装置60のトルク容量を大きくすることができるので、車輪Hに出力される第1分配回転力T6の最大値を大きくすることができる。
【0072】
また、クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置ではなく、シリンダ内のピストンを作動流体によって移動させることで2つの回転部材を係合させたり、電磁アクチュエータによって2つの回転部材を係合させたりする方式のクラッチ装置でもよい。ただし、このようなクラッチ装置は、ピストンを移動させるための機構が必要となったり、電磁アクチュエータを作動させるための電力が必要となったりする。しかし、クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置ならば、ピストンを移動させるための機構を必要とせず、電磁アクチュエータを作動させるための電力も必要としない。クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置ならば、内輪61又は外輪62(本実施形態では内輪61)に作用する回転力の方向が切り替えられることで、係合状態と非係合状態とを切り替えできる。よって、クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置である方が、部品点数を低減でき、かつ、自身(クラッチ装置60)を小型化できる。
【0073】
次に、電動車両駆動装置10の構造の一例を説明する。
【0074】
図6−1は、本実施形態に係る電動車両駆動装置の内部構造を示す図である。次の説明において、上述した構成要素については重複する説明は省略し、図中において同一の符号で示す。図6−1に示すように、ケーシングGは、第1ケーシングG1と、第2ケーシングG2と、第3ケーシングG3と、第4ケーシングG4とを含む。第1ケーシングG1と、第2ケーシングG2と、第4ケーシングG4とは、筒状の部材である。第2ケーシングG2は、第1ケーシングG1よりも車輪H側に設けられる。第1ケーシングG1と第2ケーシングG2とは、例えば複数のボルトで締結される。
【0075】
第3ケーシングG3は、第1ケーシングG1の2つの開口端のうち第2ケーシングG2とは反対側の開口端、すなわち、第1ケーシングG1の電動車両の車体側の開口端に設けられる。第1ケーシングG1と第3ケーシングG3とは、例えば複数のボルト52で締結される。このようにすることで、第3ケーシングG3は、第1ケーシングG1の開口を塞ぐ。第4ケーシングG4は、第1ケーシングG1の内部に設けられる。第1ケーシングG1と第4ケーシングG4とは、例えば複数のボルトで締結される。
【0076】
図6−1に示すように、第1モータ11は、第1ステータコア11aと、第1コイル11bと、第1ロータ11cと、第1磁気パターンリング11dと、第1モータ出力軸11eとを含む。第1ステータコア11aは、筒状の部材である。第1ステータコア11aは、図6−1に示すように、第1ケーシングG1に嵌め込まれるとともに、第1ケーシングG1と第3ケーシングG3とに挟み込まれて位置決め(固定)される。第1コイル11bは、第1ステータコア11aの複数個所に設けられる。第1コイル11bは、インシュレータを介して第1ステータコア11aに巻きつけられる。
【0077】
第1ロータ11cは、第1ステータコア11aの径方向内側に配置される。第1ロータ11cは、第1ロータコア11c1と、第1マグネット11c2とを含む。第1ロータコア11c1は、筒状の部材である。第1マグネット11c2は、第1ロータコア11c1の内部又は外周部に複数設けられる。第1モータ出力軸11eは、棒状の部材である。第1モータ出力軸11eは、第1ロータコア11c1と連結される。第1磁気パターンリング11dは、第1ロータコア11c1に設けられて、第1ロータコア11c1と同軸で回転する。第1磁気パターンリング11dは、第1ロータコア11c1の回転角度を検出する際に用いられる。
【0078】
第2モータ12は、第2ステータコア12aと、第2コイル12bと、第2ロータ12cと、第2磁気パターンリング12dとを含む。第2ステータコア12aは、筒状の部材である。第2ステータコア12aは、第1ケーシングG1と第2ケーシングG2とに挟み込まれて位置決め(固定)される。第2コイル12bは、第2ステータコア12aの複数個所に設けられる。第2コイル12bは、インシュレータを介して第2ステータコア12aに巻きつけられる。
【0079】
第2ロータ12cは、第2ステータコア12aの径方向内側に設けられる。第2ロータ12cは、クラッチ装置60とともに、回転軸Rを中心に回転できるように、第4ケーシングG4によって支持される。第2ロータ12cは、第2ロータコア12c1と、第2マグネット12c2とを含む。第2ロータコア12c1は、筒状の部材である。第2マグネット12c2は、第2ロータコア12c1の内部又は外周部に複数設けられる。第2磁気パターンリング12dは、第2ロータコア12c1に設けられて、第2ロータコア12c1と同軸で回転する。第2磁気パターンリング12dは、第2ロータコア12c1の回転角度を検出する際に用いられる。
【0080】
図6−1に示すように、減速機構40は、例えば複数のボルト54で第2ケーシングG2に締結されて取り付けられる。本実施形態では、減速機構40が有する第3リングギア44が第2ケーシングG2に取り付けられる。減速機構40の第3キャリア43の一端部には、外輪45が取り付けられている。外輪45と第3リングギア44との間には、ホイール軸受50の転動体が介在している。このような構造により、第3キャリア43は、第3リングギア44の外周部に、外輪45を介して回転可能に支持される。
【0081】
第3キャリア43は、車輪HのホイールHwが取り付けられる。ホイールHwは、スタッドボルト51Bとナット51Nとによって、第3キャリア43の回転軸と直交する面に締結される。ホイールHwにはタイヤHtが取り付けられる。電動車両の車輪Hは、ホイールHwとタイヤHtとで構成される。この例において、車輪Hは、第3キャリア43に直接取り付けられている。このため、第3キャリア43は、図1に示す減速機構入出力軸16を兼ねている。
【0082】
懸架装置取付部53は、第2ケーシングG2に設けられる。具体的には、懸架装置取付部53は、第2ケーシングG2のうち、電動車両駆動装置10が電動車両の車体に取り付けられた際に鉛直方向上側及び下側となる部分に設けられる。鉛直方向上側の懸架装置取付部53は、上部ナックル53Naを含み、鉛直方向下側の懸架装置取付部53は、下部ナックル53Nbを含む。上部ナックル53Naと下部ナックル53Nbとに、懸架装置のアームが取り付けられて、電動車両駆動装置10は、電動車両の車体に支持される。
【0083】
第1モータ出力軸11eとサンギアシャフト14とは、第1嵌合部56Aで連結される。このような構造により、第1モータ11とサンギアシャフト14との間で動力が伝達される。第1嵌合部56Aは、例えば、第1モータ出力軸11eの内周面に形成されたスプラインと、サンギアシャフト14の第1モータ11側における端部に形成されて、前記スプラインと嵌合するスプラインとで構成される。このような構造により、回転軸R方向における第1モータ出力軸11eとサンギアシャフト14との熱伸び等が吸収される。
【0084】
変速機構入出力軸15は、変速機構13が有する第2リングギア34と、減速機構40が有する第3サンギア41のシャフト(第3サンギアシャフト)41Sとを連結する。このような構造により、変速機構13の第2遊星歯車機構30と減速機構40の第3サンギアシャフト41Sとの間で動力が伝達される。変速機構入出力軸15と第3サンギアシャフト41Sとは、第2嵌合部56Bで連結される。第2嵌合部56Bは、例えば、変速機構入出力軸15の内周面に形成されたスプラインと、第3サンギアシャフト41Sの第2モータ12側における端部に形成されて、前記スプラインと嵌合するスプラインとで構成される。このような構造により、回転軸R方向における変速機構入出力軸15と第3サンギアシャフト41Sとの熱伸び等が吸収される。
【0085】
上述した構造により、電動車両駆動装置10は、車輪Hを保持し、かつ、第1モータ11及び第2モータ12から出力された回転力を車輪Hに伝達することで、電動車両を走行させることができる。なお、本実施形態では、第1モータ11と、第2モータ12と、第1サンギア21と、第1キャリア23と、第1リングギア24と、第2サンギア31と、第2キャリア33と、第2リングギア34と、第3サンギア41と、第3キャリア43と、第3リングギア44とがすべて同軸上に配置されているが、電動車両駆動装置10は、必ずしもこれらの構成要素が同軸上に配置されなくてもよい。
【0086】
次に、減速機構40についてさらに詳しく説明する。図6−2は、減速機構40の概略図である。上述したように、減速機構40は、第3サンギア41を含む。第3サンギア41は、ラジアルニードルベアリング100および玉軸受101(軸受)により、第3キャリア43に対して、第3キャリア43と同軸に回転可能に支持されている。ラジアルニードルベアリング100は、第3キャリア43のホイールHwが取り付けられる側に配置されて第3サンギア41を支持する。玉軸受101は、第3キャリア43のホイールHwが取り付けられる側とは逆側に配置されて、第3サンギア41を支持する。玉軸受101は、外輪102と内輪103とを有する。
【0087】
第3キャリア43には、ホイールHwが取り付けられる側とは逆側の端部に、玉軸受101を収納する円筒状の軸受収納部104を有する。第4ピニオンギア42は、第4ピニオン回転軸Rp4を第4ピニオンギアシャフト42aにより貫かれている。本実施形態では、第4ピニオンギア42および第4ピニオンギアシャフト42aは、4個設けられている。軸受収納部104の内周には、第4ピニオンギアシャフト42aの本数(すなわち第4ピニオンギア42の個数)と同数の溝105が形成されている。溝105は互いに等間隔に軸受収納部104の内周に配置されている。溝105は、軸受収納部104の軸方向に伸びている。溝105は、円柱をその軸と平行な平面で切断して得られる立体における曲面を包囲するような形状に形成されている。
【0088】
図6−3は、減速機構の組み立て図である。減速機構40を組み立てるのに際して、第3キャリア43に第4ピニオンギア42を配置し、第3キャリア43の軸受収納部104側から第4ピニオンギアシャフト42aを第4ピニオンギア42に挿入する。第4ピニオンギアシャフト42aのピッチ円直径42aPCDと第4ピニオンギアシャフト42aDの直径42aDとの和は、軸受収納部104の内径IDよりも大きい。そのため、軸受収納部104の溝105が形成されていない位置からは、第4ピニオンギアシャフト42aを第4ピニオンギア42に挿入できない。そこで軸受収納部104の内周に形成された溝105に沿って、第4ピニオンギアシャフト42aが、第3キャリア43に配置された第4ピニオンギア42に挿入される。すなわち溝105は、第4ピニオンギアシャフト42aが第4ピニオンギア42に挿入される経路ROとなる。
【0089】
本実施形態では、第4ピニオンギアシャフト42aを第4ピニオンギア42に挿入した後、溝105を塞ぎ部材により埋めて塞ぐ。図6−4は、本実施形態に係る塞ぎ部材の斜視図である。図6−5は、本実施形態に係る減速機構40の分解略図である。塞ぎ部材106は、円柱をその軸と平行な平面で切断して得られる形状を概ねしており、溝105を鋳型とした場合に得られる形状である。溝105に配置されたときに玉軸受101と対向する塞ぎ部材106の面は、玉軸受101の外周面に沿った曲面である。塞ぎ部材106は、端部に突起107を有している。塞ぎ部材106が溝105に配置された後、軸受収納部104に玉軸受101が収納されると、突起107は第4ピニオンギアシャフト42aの端面と玉軸受101外輪102端面とに挟まれる。すなわち、突起107は、玉軸受101の外径よりも玉軸受101の半径方向内側に突出している。塞ぎ部材106が突起107を有していることで、塞ぎ部材106は、玉軸受101における軸方向の移動が規制される。すなわち、突起107は、塞ぎ部材106の抜け止めとして機能する。
【0090】
次に、本実施形態の減速機構40が塞ぎ部材106を有していることによる効果を説明する。図6−2に示すように、第3サンギア41には、軸心を通り、第3キャリア43のキャッチャ108に向かう給油通路41Pが設けられている。潤滑油は、この給油通路41Pを経由し、第3キャリア43のキャッチャ108内部の給油通路108Pを通って、玉軸受101の外輪102と内輪103との間にある転動体110の軌道に供給される。玉軸受101の外周と溝105とで形成される隙間は、塞ぎ部材106により埋められることにより塞がれているので、キャッチャ108から供給された潤滑油の大部分またはすべては、隙間を通ることなく転動体110の軌道に供給される。したがって、給油通路108Pから供給された潤滑油により、効率よく玉軸受101の潤滑が行われる。
【0091】
塞ぎ部材106は、いずれの材料により形成されていてもよいが、軽量である材料により形成されていることが好ましく、特に樹脂により形成されていることが好ましい。本実施形態においては、第4ピニオンギアシャフト42aと塞ぎ部材106とは、別体として構成されているが、同一の部材として構成されていてもよい。
【0092】
[塞ぎ部材の変形例]
図6−6は、本実施形態に係る塞ぎ部材106の変形例を説明する正面図である。図6−7は、本実施形態に係る塞ぎ部材106の変形例を説明する側面図である。図6−7では、塞ぎ部材106aに加えて玉軸受101も示してある。塞ぎ部材106aは、ワッシャ状、円環状の部材であり、例えば板状の材料から打ち抜かれることにより形成される。塞ぎ部材106aの内径106aIDは、玉軸受101の内輪外径103ODよりも大きい。これにより、第3サンギア41の回転に伴って玉軸受101の内輪103が回転するときに、内輪103に塞ぎ部材106aが接触することが低減され、異音、振動の発生が減少する。
【0093】
塞ぎ部材106aは、第4ピニオンギア42と玉軸受101との間に配置される。塞ぎ部材106aは、第4ピニオンギア42と玉軸受101との間に配置されたときに、第3キャリア43に設けられた溝105の端部を塞ぐように径方向外側に突出する突起111を有する。突起111は、溝105と対応する位置に形成されている。突起111は、半月形状であるが、これに限定されず、溝105の端部を塞ぐことができる形状であればよい。隣り合う突起111同士の距離は、隣り合う溝105同士の距離と同じである。
【0094】
塞ぎ部材106aは、第4ピニオンギア42と玉軸受101との間に配置されると、溝105の端部を塞ぐように構成されているので、第3キャリア43のキャッチャ108から供給された潤滑油は、塞ぎ部材106aに形成された突起111に阻まれて、玉軸受101の外周と溝とで形成される隙間に流入することが低減される。そのため、効率よく玉軸受101の潤滑が行われる。また突起111は、第4ピニオンギアシャフト42aが玉軸受101における軸方向に移動することを規制する。
【0095】
塞ぎ部材106aは、いずれの材料により形成されていてもよいが、軽量である材料により形成されていることが好ましく、特に樹脂により形成されていることが好ましい。
【0096】
次に、第1モータ11及び第2モータ12の角速度(回転速度)を検出する構造を説明する。
【0097】
第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、第1モータ11と第2モータ12との間に介在するケーシングG1の仕切り壁G1Wを隔てて、互いに対向して配置される。すなわち、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、それぞれ仕切り壁G1Wに対向している。
【0098】
図7−1は、第1磁気パターンリング及び第2磁気パターンリングを示す斜視図である。図7−2は、図7−2のA−A断面図である。図7−3は、磁気検出器の配置を示す斜視図である。図7−1に示すように、第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、円環状の部材であり、中央部に開口部MHを有する。開口部MHを、図6−1に示すサンギアシャフト14が貫通する。
【0099】
図1、図6−1に示す電動車両駆動装置10は、第1モータ11の第1ロータ11c及び第2モータ12の第2ロータ12cの径方向内側に第1遊星歯車機構20及び第2遊星歯車機構30が配置されている。このため、特に車輪H側のモータ(第2モータ12)については、回転角検出センサとして、小径のレゾルバを用いることは困難である。大径のレゾルバを用いると、質量が増加するため、好ましくない。
【0100】
図7−2に示すように、第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、円環状の薄い金属板BMの表面に、薄い磁石層MPが形成されたものである。金属板BMは、例えば、アルミニウム合金等である。磁石層MPは、例えば、磁粉が混合されたプラスチック又はゴム等の樹脂である。磁石層MPに磁気パターンが着磁されている。このような構造により、第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、大径であっても、レゾルバと比較して大幅に軽量化することができる。
【0101】
図7−3に示す磁気検出器(磁気ピックアップセンサ)2は、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとに対して1個ずつ用意されて、ケーシングGの第1ケーシングG1の内側に取り付けられる。磁気検出器2は、第1ケーシングG1の仕切り壁G1Wの両側、かつ仕切り壁G1Wが有する貫通孔GHの外側に配置される。貫通孔GHは、図6−1に示すサンギアシャフト14が貫通する。このような構造により、それぞれの磁気検出器2は、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとに対向して配置される。図7−3は、一つの磁気検出器2のみ示されるが、仕切り壁G1Wの裏側に、もう一つの磁気検出器2が配置されている。
【0102】
それぞれの磁気検出器2は、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとの磁束を検出して、第1モータ11の第1ロータ11cと第2ロータ12cとの絶対角度を算出する。例えば、第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、磁束密度が正弦波状に変化するように着磁されている。第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、1周での正弦波の周期数が、それぞれ、第1モータ11と第2モータとの極対数と一致している。すなわち、1極対に対して正弦波パターンの1周期が対応している。
【0103】
磁気検出器2内には、例えば、2個のリニアホールセンサが設けられており、1周期の正弦波パターンに対して90度位相がずれた位置に、それぞれのリニアホールセンサが配置されている。2個のリニアホールセンサにより第1磁気パターンリング11d又は第2磁気パターンリング12dの磁束密度検出し、演算することで、1周期の正弦波パターンにおける絶対角度を検出することができる。図1に示す制御装置1は、磁気検出器2が検出した第1モータ11の第1ロータ11c及び第2モータ12の第2ロータ12cの絶対角度(1極対における絶対電気角)に基づき、第1コイル11b及び第2コイル12bに流す電流を制御する。
【0104】
第1モータ11及び第2モータ12からの漏れ磁束による影響を低減するため、次のような手法を用いてもよい。第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dには、連続した磁気パターンとは別に、矩形波状の磁束密度分布である着磁パターンを形成する。この矩形波状の着磁パターンの周期は十分に細かくなっている。また、磁気検出器2は、リニアホールセンサとは別に、矩形波状パターンの磁極方向を検出してパルスを出力する磁気センサを有する。
【0105】
まず、第1モータ11及び第2モータ12の非通電時(例えば、電動車両の始動時)に、磁気検出器2は、連続した磁気パターンによって第1ロータ11c及び第2ロータ12cの絶対角度を検出する。以後は、磁気検出器2は、矩形波状の着磁パターンから検出した第1ロータ11c及び第2ロータ12cの相対回転を積算することによって、第1ロータ11c及び第2ロータ12cの絶対角度を計算する。矩形波状の着磁パターンによる第1ロータ11c及び第2ロータ12cの相対角度の検出は、リニアホールセンサを用いた絶対角度の計測よりも磁気ノイズに対して信頼性が高い。このため、上述した手法を用いれば、磁気検出器2が、第1ロータ11c及び第2ロータ12cの絶対角度を検出する際の信頼性を向上させることができる。次に、電動車両駆動装置10を電動車両に用いた場合の制御を説明する。
【0106】
図8は、車両を走行させるモータに要求される回転力(トルク)と角速度(回転速度)との関係を示す図である。一般的に、モータの回転力(トルク)と角速度(回転速度)の関係は、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比は、1:2程度である。また、最大の回転力と、最高回転速度における最大の回転力との比は、2:1程度である。これに対して、車両を走行させる場合、図8の実線で示す車両の走行特性曲線Caから、一定の回転力の領域における上限回転速度N1と最高回転速度N2との比は1:4程度である。また、車両を走行させる場合、最大の回転力T1と、最高回転速度における最大の回転力との比T2は、4:1程度である。
【0107】
したがって、モータで車両を走行させる場合、一段目の変速比と二段目の変速比との比率(段間比)が2程度の変速を行うことが好ましい。このようにすることで、モータのNT特性(回転速度と回転力との関係)の全領域で、過不足なく車両の走行特性曲線Caをカバーすることができ、必要最小限の出力を有するモータで、車両に必要な動力性能を確保できる。
【0108】
図8の点線で示すNT特性曲線CLは、電動車両駆動装置10の第1変速状態(ローギア)であり、一点鎖線で示すNT特性曲線CHは、電動車両駆動装置10の第2変速状態(ハイギア)である。このように、第1変速状態と第2変速状態とを用いることにより、車両の走行特性曲線Caを過不足なくカバーすることができる。二点鎖線で示すNT特性曲線Cbは、変速を行わないで車両の走行特性曲線Caをカバーしようとした場合に必要なNT特性を示している。一般に、モータは、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比が1:2程度であるため、一つのモータで走行特性曲線Caをカバーする場合、モータにはNT特性曲線Cbのような特性が要求される。その結果、モータに過剰な性能が必要になり、無駄が多くなるとともにコスト及び質量の増加を招く。
【0109】
モータの効率に注目すると、モータの効率が高い領域は、最大回転力から最高回転速度に向かって推移する定出力領域(NT特性曲線CL又はNT特性曲線CHの曲線部分)の中間部分AL、AHにある。電動車両駆動装置10は、変速により、この中間部分AL、AHを積極的に活用して、効率を向上させることができる。変速を行わない場合、NT特性曲線Cbのようなモータが必要になるが、この場合、走行特性曲線Caにおいて使用頻度の低い領域(例えば、低速で高い回転力が必要な領域又は最高速に近い領域)でモータの効率が最も高くなってしまう。このため、モータを効率よく使用する観点からは、電動車両駆動装置10のように、減速比を変更して用いることが好ましい。
【0110】
電動車両駆動装置10で、第1モータ11と第2モータ12との両方が動作する場合、変速機構13の総合減速比RR=(α+β−1)/(α−β−1)である。これは、第1変速状態のみであり、第2変速状態ではR=1である。αは、第2遊星歯車機構30の遊星比であり、βは、第1遊星歯車機構20の遊星比である。遊星比は、リングギアの歯数をサンギアの歯数で除した値である。したがって、第2遊星歯車機構30の遊星比αは、第2リングギア34の歯数/第2サンギア31の歯数であり、第1遊星歯車機構20の遊星比βは、第1リングギア24の歯数/第1サンギア21の歯数である。図1に示す電動車両駆動装置10で、段間比2を実現するためには、第2遊星歯車機構30の遊星比α(>1)を1.90以上2.10以下の範囲とし、第1遊星歯車機構20の遊星比β(>1)を2.80以上3.20以下の範囲とすることが好ましい。
【0111】
電動車両駆動装置10は、電動車両のばね下に配置されるので、できる限り軽量であることが好ましい。電動車両駆動装置10を軽量化するために、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線(第1コイル11b及び第2コイル12b)にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を用いる手法がある。アルミニウムの比重は銅の比重の30%程度なので、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線を銅からアルミニウムに置き換えると、巻き線の質量を70%低下させることができる。このため、第1モータ11、第2モータ12及び電動車両駆動装置10を軽量化することができる。しかし、アルミニウムの導電率は、一般に巻き線に用いられる銅の導電率の60%程度であるので、銅線を単にアルミニウム線に置き換えるのみでは、性能低下及び発熱量の増加を招くおそれがある。
【0112】
電動車両駆動装置10は、減速機構40を用いるとともに、変速機構13で減速比を変更する。このため、第1モータ11及び第2モータ12に必要とされる回転力が比較的小さくて済むので、第1モータ11及び第2モータ12に流れる電流も比較的小さくなる。このため、本実施形態において、第1モータ11の第1コイル11b及び第2モータ12の第2コイル12bに、銅線の代わりにアルミニウム線を用いたとしても、性能低下及び発熱量の増加はほとんど発生しない。したがって、本実施形態において、電動車両駆動装置10は、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線(第1コイル11b及び第2コイル12b)にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を用いて軽量化を実現する。
【0113】
第1モータ11及び第2モータ12の巻き線にアルミニウムを用いる場合、銅クラッドアルミニウム線を用いることが好ましい。銅クラッドアルミニウム線は、アルミニウム線の外側に銅を一様に被覆し、銅とアルミニウムとの境界を強固に金属結合させたものである。銅クラッドアルミニウム線は、アルミニウム線と比較して、はんだ付けしやすく、端子との接続部の信頼性も高い。銅クラッドアルミニウムの比重は銅の比重の40%程度なので、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線を銅からアルミニウムに置き換えると、巻き線の質量を60%低下させることができる。その結果、第1モータ11、第2モータ12及び電動車両駆動装置10を軽量化することができる。
【0114】
図9は、本実施形態の変形例に係る電動車両駆動装置の構成を示す説明図である。図9に示す電動車両駆動装置10aは、上述した実施形態の電動車両駆動装置10と変速機構の構成が異なる。次においては、電動車両駆動装置10が有する構成要素と同様の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。電動車両駆動装置10aは、変速機構13aを含む。変速機構13aは、第1モータ11と連結されて第1モータ11が出力した回転力が伝えられる(入力される)。また、変速機構13aは、第2モータ12と連結されて第2モータ12が出力した回転力が伝えられる(入力される)。そして、変速機構13aは、変速機構入出力軸15によって減速機構40と連結され、変速された回転力を減速機構40に伝える(出力する)。減速機構40は、電動車両駆動装置10が有するものと同様である。
【0115】
変速機構13aは、第1遊星歯車機構70と、第2遊星歯車機構80と、クラッチ装置90とを含む。第1遊星歯車機構70は、シングルピニオン式の遊星歯車機構である。第1遊星歯車機構70は、第1サンギア71と、第1ピニオンギア72と、第1キャリア73と、第1リングギア74とを含む。第2遊星歯車機構80は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。第2遊星歯車機構80は、第2サンギア81と、第2ピニオンギア82aと、第3ピニオンギア82bと、第2キャリア83と、第2リングギア84とを含む。第2遊星歯車機構80は、第1遊星歯車機構70よりも第1モータ11及び第2モータ12側に配置される。
【0116】
第2サンギア81は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第2サンギア81は、第1モータ11と連結される。よって、第1モータ11が作動すると、第2サンギア81は、第1回転力TAが伝えられる。これにより、第2サンギア81は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。第2ピニオンギア82aは、第2サンギア81と噛み合う。第3ピニオンギア82bは、第2ピニオンギア82aと噛み合う。第2キャリア83は、第2ピニオンギア82aが第2ピニオン回転軸Rp2を中心に回転(自転)できるように第2ピニオンギア82aを保持する。第2キャリア83は、第3ピニオンギア82bが第3ピニオン回転軸Rp3を中心に回転(自転)できるように第3ピニオンギア82bを保持する。第2ピニオン回転軸Rp2は、例えば、回転軸Rと平行である。第3ピニオン回転軸Rp3は、例えば、回転軸Rと平行である。
【0117】
第2キャリア83は、回転軸Rを中心に回転できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第2キャリア83は、第2ピニオンギア82a及び第3ピニオンギア82bが第2サンギア81を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第2ピニオンギア82a及び第3ピニオンギア82bを保持することになる。第2リングギア84は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第2リングギア84は、第3ピニオンギア82bと噛み合う。また、第2リングギア84は、第2モータ12と連結される。よって、第2モータ12が作動すると、第2リングギア84は、第2回転力TBが伝えられる。これにより、第2リングギア84は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。
【0118】
第1サンギア71は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第1サンギア71は、第2サンギア81を介して第1モータ11と連結される。具体的には、第1サンギア71と第2サンギア81とは、同軸(回転軸R)で回転できるようにサンギアシャフト94に一体で形成される。そして、サンギアシャフト94は、第1モータ11と連結される。これにより、第1サンギア71は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。
【0119】
第1ピニオンギア72は、第1サンギア71と噛み合う。第1キャリア73は、第1ピニオンギア72が第1ピニオン回転軸Rp1を中心に回転(自転)できるように第1ピニオンギア72を保持する。第1ピニオン回転軸Rp1は、例えば、回転軸Rと平行である。第1キャリア73は、回転軸Rを中心に回転できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第1キャリア73は、第1ピニオンギア72が第1サンギア71を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第1ピニオンギア72を保持することになる。
【0120】
また、第1キャリア73は、第2リングギア84と連結される。これにより、第1キャリア73は、第2リングギア84が回転(自転)すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。第1リングギア74は、第1ピニオンギア72と噛み合う。また、第1リングギア74は、減速機構40の第3サンギア41(図1参照)と連結される。このような構造により、第1リングギア74が回転(自転)すると、減速機構40の第3サンギア41が回転する。クラッチ装置90は、図1に示す電動車両駆動装置10が有するクラッチ装置60と同様に、第2キャリア83の回転を規制できる。具体的には、クラッチ装置90は、回転軸Rを中心とした第2キャリア83の回転を規制(制動)する場合と、前記回転を許容する場合とを切り替えできる。電動車両駆動装置10aは、上述した電動車両駆動装置10と同様の原理により、電動車両駆動装置10が奏する効果と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0121】
1 制御装置
2 磁気検出器
10、10a 電動車両駆動装置
11 第1モータ
12 第2モータ
13、13a 変速機構
14、94 サンギアシャフト
15 変速機構入出力軸
16 減速機構入出力軸
20、70 第1遊星歯車機構
21、71 第1サンギア
22、72 第1ピニオンギア
23、73 第1キャリア
24、74 第1リングギア
30、80 第2遊星歯車機構
31、81 第2サンギア
32a、82a 第2ピニオンギア
32b、82b 第3ピニオンギア
33、83 第2キャリア
34、84 第2リングギア
40 減速機構
41 第3サンギア
41S 第3サンギアシャフト
42 第4ピニオンギア
43 第3キャリア
44 第3リングギア
45 外輪
60、90 クラッチ装置
61 内輪
62 外輪
100 ラジアルニードルベアリング
101 玉軸受(軸受)
102 外輪
103 内輪
103OD 内輪外径
104 軸受収納部
105 溝
106 塞ぎ部材
106a 塞ぎ部材
106aID 塞ぎ部材106aの内径
107 突起
108 キャッチャ
110 転動体
111 突起
42aPCD (第4ピニオンギアシャフトの)ピッチ円直径
42aD (第4ピニオンギアシャフトの)直径
41P (第3サンギアの)給油通路
108P (キャッチャの)給油通路
G ケーシング
H 車輪
ID 軸受け収納部104の内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モータと、第2モータと、変速機構と、減速機構と、を含み、
前記変速機構は、
前記第1モータと連結される第1サンギアと、
前記第1サンギアと噛み合う第1ピニオンギアと、
前記第1ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第1ピニオンギアが前記第1サンギアを中心に公転できるように前記第1ピニオンギアを保持する第1キャリアと、
前記第1キャリアの回転を規制できるクラッチ装置と、
前記第1ピニオンギアと噛み合い、かつ、前記第2モータと連結される第1リングギアと、
前記第1モータと連結される第2サンギアと、
前記第2サンギアと噛み合う第2ピニオンギアと、
前記第2ピニオンギアと噛み合う第3ピニオンギアと、
前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアがそれぞれ自転できるように、かつ、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアが前記第2サンギアを中心に公転できるように前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアを保持するとともに、前記第1リングギアと連結される第2キャリアと、
前記第3ピニオンギアと噛み合う第2リングギアとを含む変速機構とを含み、
前記減速機構は、
前記第2リングギアと連結される第3サンギアと、
前記第3サンギアと噛み合い、シャフトによって回転可能に支持される第4ピニオンギアと、
前記第4ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第4ピニオンギアが前記第3サンギアを中心に公転できるように前記第4ピニオンギアを保持するとともに、前記第4ピニオンギアの前記シャフトが前記第4ピニオンギアに挿入される経路として軸方向に伸びる溝が一端部に設けられて、電動車両の車輪と連結される第3キャリアと、
前記第4ピニオンギアと噛み合い、かつ、静止系に固定される第3リングギアと、
前記第3サンギアを、前記第3キャリアに対して、前記第3キャリアと同軸に回転可能に支持し、前記第3キャリアの前記一端部に収納され、外輪と内輪とを含む軸受と、
前記第3キャリアに設けられた前記溝の少なくとも一部を塞ぐ塞ぎ部材と、を含み、
前記第1モータと前記第2モータとは、回転力の大きさが等しく、かつ回転力の向きが反対になる第1変速状態と、回転力の大きさと回転力の向きとが等しくなる第2変速状態とを切り替えて運転できることを特徴とするインホイールモータ。
【請求項2】
第1モータと、第2モータと、変速機構と、減速機構と、を含み、
前記変速機構は、
前記第1モータと連結される第1サンギアと、
前記第1サンギアと噛み合う第1ピニオンギアと、
前記第1ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第1ピニオンギアが前記第1サンギアを中心に公転できるように前記第1ピニオンギアを保持する第1キャリアと、
前記第1ピニオンギアと噛み合う第1リングギアと、
前記第1モータと連結される第2サンギアと、
前記第2サンギアと噛み合う第2ピニオンギアと、
前記第2ピニオンギアと噛み合う第3ピニオンギアと、
前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアがそれぞれ自転できるように、かつ、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアが前記第2サンギアを中心に公転できるように前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアを保持する第2キャリアと、
前記第2キャリアの回転を規制できるクラッチ装置と、
前記第3ピニオンギアと噛み合い、かつ、前記第1キャリアと連結され、かつ、前記第2モータと連結される第2リングギアと、を含み、
前記減速機構は、
前記第1リングギアと連結される第3サンギアと、
前記第3サンギアと噛み合い、シャフトによって回転可能に支持される第4ピニオンギアと、
前記第4ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第4ピニオンギアが前記第3サンギアを中心に公転できるように前記第4ピニオンギアを保持するとともに、前記第4ピニオンギアの前記シャフトが挿入される経路として軸方向に伸びる溝が一端部に設けられて、電動車両の車輪と連結される第3キャリアと、
前記第4ピニオンギアと噛み合い、かつ、静止系に固定される第3リングギアと、
前記第3サンギアを、前記第3キャリアに対して、前記第3キャリアと同軸に回転可能に支持し、前記第3キャリアの前記一端部に収納され、外輪と内輪とを含む軸受と、
前記第3キャリアに設けられた前記溝の少なくとも一部を塞ぐ塞ぎ部材と、を含み、
前記第1モータと前記第2モータとは、回転力の大きさが等しく、かつ回転力の向きが反対になる第1変速状態と、回転力の大きさと回転力の向きとが等しくなる第2変速状態とを切り替えて運転できることを特徴とするインホイールモータ。
【請求項3】
前記塞ぎ部材は、前記第3キャリアの前記溝を埋め、端部に前記第4ピニオンギアの前記シャフト端面と前記外輪端面とに挟まれる突起を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のインホイールモータ。
【請求項4】
前記塞ぎ部材は、前記第4ピニオンギアと前記軸受との間に配置され、前記第3キャリアに設けられた前記溝と対応する位置に突起を有し、内径が前記内輪の外径よりも大きい円環状の部材であることを特徴とする、請求項1または2に記載のインホイールモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図6−5】
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【図6−6】
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【図6−7】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−44424(P2013−44424A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185141(P2011−185141)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】