説明

インホイール型の車輪駆動装置

【課題】より小型・軽量化を図ることのできるインホイール型の車輪駆動装置を提供する。
【解決手段】ホイールハブ19cに結合される内輪ハブ21とモータ11の間を減速機12を介して連結する。内輪ハブ21とモータ11の出力軸11aを同軸に配置する。減速機12は、出力軸11aに同軸に結合される入力太陽歯車26と、内輪ハブ21に同軸に結合される出力太陽歯車27と、入力側ピニオン28aが入力太陽歯車26に噛合され出力側ピニオン28bが出力太陽歯車27に噛合される複数の2連ピニオン遊星歯車28と、を備えた構成とする。複数の2連ピニオン遊星歯車28は公転を規制した状態で設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の車幅方向内側に配置されて、車輪をモータの動力で駆動するインホイール型の車輪駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車輪の車幅方向内側に個別にモータユニットを設置したインホイール型の車輪駆動装置が知られている。
このインホイール型の車輪駆動装置は、例えば、四輪車両に用いることでエンジンルームの廃止によるキャビン空間の拡大や、駆動ユニットの低重心配置による車両運動性能の向上等の多くのメリットがある。また、前輪駆動車両の従動輪(後輪)に適用すれば、FF車両のプラットフォームで容易に四輪駆動車を開発することができる等、車両開発投資の面でも大きくメリットがある。
【0003】
ところで、このインホイール型の車輪駆動装置を車両に採用するにあたっては、車輪の車幅方向内側がモータユニット(モータと減速機構)によってスペースを占有されるため、車体側の設置部品との干渉を避けるように車体各部を設計しなければならない。このため、この種の車輪駆動装置においてはコンパクトであることが望まれ、装置のコンパクト化のための各種の工夫がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のインホイール型の車輪駆動装置は、車輪のホイールハブに車幅方向内側で結合される内輪ハブと、駆動力を発生するモータとが同軸に配置され、モータのインナロータの内側の内輪ハブ側に臨む面に凹状部が設けられ、その凹状部内に一部が入り込むように減速機が配置されている。モータと減速機を支持するハウジングと、内輪ハブを軸受を介して支持する外輪ハブとは車体側のサスペンション部品に取り付けられている。そして、減速機は、モータの出力軸に結合された入力太陽歯車と、ハウジング内に固定されたリングギヤと、一つのピニオンが入力太陽歯車に噛合され残余の一つのピニオンがリングギヤに噛合される複数の2連ピニオン遊星歯車と、この複数の2連ピニオン遊星歯車を回転自在に支持し、内輪ハブと一体回転可能に結合されるキャリアと、を備え、モータの駆動力が、入力太陽歯車から2連ピニオン遊星歯車とキャリアを介して内輪ハブに伝達されるようになっている。
このインホイール型の車輪駆動装置では、モータのインナロータの内側に凹状部が設けられ、その凹状部内に一部が入り込むように減速機が設置されているため、軸方向の寸法を短縮化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−99106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この従来のインホイール型の車輪駆動装置は、減速機の大型のリングギヤをその支持部材とともにハウジングに設置しなければならないため、装置全体が大型化し、外径のほぼ2乗に比例する装置の重量が大幅に増加してしまう。
そして、インホイール型の車輪駆動装置の場合、装置重量の増加は車両のばね下重量の増加に直結するため、車両の運動性能や乗り心地を高めるうえではできる限り軽量化することが望まれる。
【0007】
そこでこの発明は、より小型・軽量化を図ることのできるインホイール型の車輪駆動装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るインホイール型の車輪駆動装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、車輪のホイールハブ(例えば、実施形態のホイールハブ19c)に車幅方向内側で結合されるとともに車体側に軸受(例えば、実施形態の軸受23)を介して回転自在に支持される内輪ハブ(例えば、実施形態の内輪ハブ21)と、この内輪ハブの車幅方向内側に配置されて駆動力を発生するモータ(例えば、実施形態のモータ11)と、このモータと前記内輪ハブの間に介装され、このモータの回転を減速して前記内輪ハブに伝達する減速機(例えば、実施形態の減速機12)と、を備えたインホイール型の車輪駆動装置であって、前記モータの出力軸(例えば、実施形態の出力軸11a)と前記内輪ハブとが同軸に配置され、前記減速機は、前記モータの出力軸に同軸に結合される入力太陽歯車(例えば、実施形態の入力太陽歯車26)と、前記内輪ハブに同軸に結合される出力太陽歯車(例えば、実施形態の出力太陽歯車27)と、一つのピニオン(例えば、実施形態の入力側ピニオン28a)が前記入力太陽歯車に噛合され残余の一つピニオン(例えば、実施形態の出力側ピニオン28b)が前記出力太陽歯車に噛合される複数の2連ピニオン遊星歯車(例えば、実施形態の2連ピニオン遊星歯車28)と、を備え、前記複数の2連ピニオン遊星歯車が公転を規制された状態で設置されていることを特徴とするものである。
これにより、モータが駆動されると、モータの出力軸の回転が入力太陽歯車から各2連ピニオン遊星歯車の一つのピニオン(28a)に伝達される。このとき、各2連ピニオン遊星歯車は公転を規制されているため、各2連ピニオン遊星歯車に伝達された回転は残余の一つのピニオン(28b)を介して内輪ハブに伝達される。これにより、ホイールは内輪ハブと一体に回転する。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係るインホイール型の車輪駆動装置において、前記内輪ハブには、ドラム式ブレーキ装置のブレーキドラム(例えば、実施形態のブレーキドラム20)が結合され、前記2連ピニオン遊星歯車は、入力側ピニオン(例えば、実施形態の入力側ピニオン28a)と出力側ピニオン(例えば、実施形態の出力側ピニオン28b)とを備え、この出力側ピニオンの少なくとも一部が前記ブレーキドラムの内周面の内側に配置されていることを特徴とするものである。
これにより、2連ピニオン遊星歯車の一部が、ドラム式ブレーキ装置のブレーキドラムの内側において、そのブレーキドラムと軸方向でオーバーラップして配置されることになる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1に係るインホイール型の車輪駆動装置において、前記内輪ハブには、ディスク式ブレーキ装置のブレーキディスク(例えば、実施形態のブレーキディスク40)が結合され、このブレーキディスクを制動操作するキャリパ(例えば、実施形態のキャリパ41)は、前記複数の2連ピニオン遊星歯車のうちの円周方向で隣り合うものの間に配置されていることを特徴とするものである。
これにより、ディスク式ブレーキ装置のキャリパが、2連ピニオン遊星歯車と軸方向でオーバーラップして配置されることになる。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に係るインホイール型の車輪駆動装置において、前記内輪ハブを軸受を介して支持する車体側固定の外輪ハブ(例えば、実施形態の外輪ハブ22)が設けられ、前記複数の2連ピニオン遊星歯車が、前記外輪ハブによって公転を規制した状態で回転自在に支持されていることを特徴とするものである。
これにより、内輪ハブをその外周側で支持する剛性の高い外輪ハブが、複数の2連ピニオン遊星歯車の支持部を兼ねることになる。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に係るインホイール型の車輪駆動装置において、前記減速機とモータを覆うハウジング(例えば、実施形態の減速機ケース30及びモータケース29)の内側下方には潤滑オイル(例えば、実施形態の潤滑オイルOi)が貯留され、前記複数の2連ピニオン遊星歯車の少なくとも一つは、前記潤滑オイル内に浸かるように配置されていることを特徴とするものである。
これにより、モータの駆動によって複数の2連ピニオン遊星歯車が回転すると、ハウジング内の潤滑オイルに浸かっている2連ピニオン遊星歯車が潤滑オイルを上方に掻き上げ、減速機内の機械接触部に潤滑オイルを供給するようになる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、減速機が、モータの出力軸に同軸に結合される入力太陽歯車と、内輪ハブに同軸に結合される出力太陽歯車と、一つのピニオンが前記入力太陽歯車に噛合され残余の一つピニオンが出力太陽歯車に噛合される複数の2連ピニオン遊星歯車と、を備え、複数の2連ピニオン遊星歯車が公転を規制された状態で設置される構成とされているため、2連ピニオン遊星歯車の外周側に大型のリングギヤを設置しない分、装置の小型化と軽量化を図ることができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、2連ピニオン遊星歯車の一部が、ドラム式ブレーキ装置のブレーキドラムの内側で、そのブレーキドラムと軸方向でオーバーラップして配置されるため、装置全体の軸長の短縮化を図ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、ディスク式ブレーキ装置のキャリパが、2連ピニオン遊星歯車と軸方向でオーバーラップして配置されるため、装置全体の軸長の短縮化を図ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、剛性の高い外輪ハブが、複数の2連ピニオン遊星歯車の支持部を兼ねるため、装置全体のさらなる小型化と軽量化を図ることができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、ハウジング内の潤滑オイルに浸かっている2連ピニオン遊星歯車が潤滑オイルを上方に掻き上げ、減速機内の機械接触部に潤滑オイルを供給することができるため、潤滑のための専用のオイルポンプを廃止し、装置全体のさらなる小型・軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施形態の車輪駆動装置が適用される車両の概略構成図である。
【図2】この発明の実施形態の車輪駆動装置が適用される車両を裏面側から見た斜視図である。
【図3】この発明の実施形態の車輪駆動装置の配置を説明するためのホイール部分の概略断面図である。
【図4】この発明の一実施形態の車輪駆動装置とホイールの図6のA−A断面に対応する模式的な断面図である。
【図5】この発明の一実施形態の車輪駆動装置の図6のA−A断面に対応する詳細な断面図である。
【図6】この発明の一実施形態の車輪駆動装置の図5のB−B断面に対応する断面図である。
【図7】この発明の他の実施形態の車輪駆動装置とホイールの図9のC−C断面に対応する模式的な断面図である。
【図8】この発明の他の実施形態の車輪駆動装置の図9のC−C断面に対応する詳細な断面図である。
【図9】この発明の他の実施形態の車輪駆動装置の図8のD−D断面に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、モータを動力源とする四輪駆動の電気自動車1の概略構成を示すものであり、この電気自動車1の左右の前輪Wfは、キャビンの前方に配置されているメインモータユニット2によって駆動されるようになっている。メインモータユニット2のモータ3は、PDU4(パワー・ドライブ・ユニット)を介して車両後部に配置された高圧バッテリ5に接続されている。左右の各後輪Wr(車輪)の車幅方向内側の後輪支持部には、それぞれインホイール型の車輪駆動装置10が設置されている。各車輪駆動装置10は、後に詳述するように駆動源であるモータ11と減速機12とを主要な構成要素とされている。各車輪駆動装置10のモータ11はそれぞれPDU13(パワー・ドライブ・ユニット)を介して高圧バッテリ5に接続されている。
なお、左右の後輪Wrの各車輪駆動装置10は同様の構成であるため、以下では一方の車輪駆動装置10についてのみ説明する。また、メインモータユニット2のモータ3と各車輪駆動装置10のモータ11は、高圧バッテリ5の電力を受けて駆動を行うだけでなく、車両の制動時等には適宜回生発電も行う。
【0020】
図2は、車両後部を背面側から見た図である。
図1,図2に示すように、この電気自動車1では、後輪Wr側のサスペンションとしてトレーリングアーム式のものが用いられ、車幅方向に亙って延出するトーションビーム14の左右の端部の車両前方側がピボット軸15を介して車体に取り付けられるとともに、トーションビーム14の左右の端部にピボット軸15から車体後方側に延出するトレーリングアーム16が連結されている。各トレーリングアーム16と車体の間には、サスペンションスプリング17と図示しないショックアブソーバが介装されている。車輪駆動装置10と後輪Wrは、左右のトレーリングアーム16に取り付けられている。
また、車両の図示しないトランクルームの下方位置には、PDU13やその他の電装装置を収容する電装収容室18が、図2に示すように、車体の下方側に膨出して設けられている。左右の各トレーリングアーム16と後輪Wrは、この電装収容室18の車幅方向外側に隣接して配置されている。
【0021】
図3は、トレーリングアーム16と後輪Wrと車輪駆動装置10の配置関係を示すために、これらを略水平方向で切ったときの概略断面図である。
後輪Wrのホイール19は、外周面でタイヤTを保持するホイールリム19aと、ホイールリム19aの車外側の端面に設けられたホイールディスク19bと、ホイールディスク19bの径方向内側に設けられたホイールハブ19cと、を備え、このホイールハブ19cの車幅方向内側に車輪駆動装置10の減速機12とモータ11が配置されている。
【0022】
図4は、後輪Wrのホイール19と車輪駆動装置10の模式的な断面図であり、図5,図6は、ホイール19と車輪駆動装置10の詳細な断面図である。
車輪駆動装置10は、ホイールハブ19cの車幅方向内側にドラム式ブレーキ装置の有底円筒状のブレーキドラム20とともに内輪ハブ21が一体に結合されている。内輪ハブ21は、車体側固定の(トレーリングアーム16に固定された)外輪ハブ22の内側に軸受23を介して回転自在に支持されている。また、モータ11は、円環状のステータ24の内側にロータ25が配置されたインナロータ型のモータであるが、この実施形態の場合、後輪Wrが非駆動のときの引き摺りを低減するために、誘導機やリダクタンスモータ等の永久磁石を持たないタイプのモータが採用されている。
モータ11の出力軸11aは内輪ハブ21と同軸線上に配置されており、出力軸11aと内輪ハブ21とは、遊星歯車機構を用いた減速機12を介して相互に連結されている。
【0023】
減速機12は、モータ11の出力軸11aに同軸に結合された小径の入力太陽歯車26と、内輪ハブ21に同軸に結合された大径の出力太陽歯車27と、入力太陽歯車26と出力太陽歯車27の外周側に跨って配置された3つの2連ピニオン遊星歯車28と、を備えている。各2連ピニオン遊星歯車28は、大径の入力側ピニオン28aと小径の出力側ピニオン28bとを同軸上に一体に有し、入力側ピニオン28aが入力太陽歯車26に噛合され、出力側ピニオン28bが出力太陽歯車27に噛合されている。3つの2連ピニオン遊星歯車28は、後に詳述するようにモータ11の出力軸11aの軸線回りに等間隔に配置され、それぞれが固定位置において回転可能に保持されている。
【0024】
具体的には、図5に示すように、モータ11を収容するモータケース29の前端部には、略円筒状の減速機ケース30が取り付けられ、減速機ケース30の前端部には、ドラム式ブレーキ装置のブレーキシュー31や操作シリンダ32等の制動部品を取り付けるための円環状の固定プレート33が取り付けられている。
上記の3つの2連ピニオン遊星歯車28は、共通のキャリアフレーム34上の設定位置にそれぞれ回転可能に保持されている。そして、キャリアフレーム34の前端部は、固定プレート33の内側の開口を貫通して外輪ハブ22に結合され、キャリアフレーム34の後端部は、モータケース29の前面に結合されている。各2連ピニオン遊星歯車28は、こうしてキャリアフレーム34に公転を規制された状態において、減速機ケース30内に設置されている。また、こうしてキャリアフレーム34を介して減速機ケース30内に設置された各2連ピニオン遊星歯車28は、小径の出力側ピニオン28bの一部がブレーキドラム20の内周面の内側方向に入り込んでいる。つまり、各2連ピニオン遊星歯車28は、出力側ピニオン28b部分がブレーキドラム20に対して軸方向でオーバーラップしている。
なお、この実施形態の場合、モータケース29と変速機ケース30が対応するトレーリングアーム16に取り付けられ、外輪ハブ22は、これらのケース29,30を介してトレーリングアーム16に結合されている。また、図4,図5中35は、モータ11の出力軸11a(ロータ25)をモータケース29内に回転可能に支持させるための軸受である。
【0025】
また、減速機12とモータ11を覆うハウジング(減速機ケース30及びモータケース29)の内部は潤滑オイルOiの貯留室とされ、その貯留室には、モータ11の作動中にロータ25が潤滑オイルOi内に浸からない程度の潤滑オイルOiが貯留されている。なお、この潤滑オイルOiは、モータ11や減速機12の冷却を兼ねるようになっている。
【0026】
ところで、キャリアフレーム34を介して減速機ケース30内に設置される3つの2連ピニオン遊星歯車28は、図6に示すように少なくとも一つが入力太陽歯車よりも鉛直下方側に配置され、その下方に配置された2連ピニオン遊星歯車28の入力側ピニオン28aと出力側ピニオン28bの一部が貯留室内の潤滑オイルOiに常時浸かるようになっている。
【0027】
以上の構成において、車輪駆動装置10によって後輪Wrを駆動する場合には、PDU13による電力制御によってモータ11を駆動し、その回転を減速機12で減速して内輪ハブ21に伝達する。これにより、後輪Wrのホイール19は内輪ハブ21と一体に回転する。
このとき、減速機12では、モータ11の出力軸11aの回転が入力太陽歯車26から3つの2連ピニオン遊星歯車28の入力側ピニオン28aに伝達され、さらにその回転が各出力側ピニオン28bを介して出力太陽歯車27に伝達される。
【0028】
この車輪駆動装置10は、減速機12に、遊星歯車に噛合する大径のリングギヤを持つ遊星歯車機構を採用せず、入力太陽歯車26の回転を、公転を規制された複数の2連ピニオン遊星歯車28を介して出力太陽歯車27に伝達する遊星歯車機構を採用しているため、大径のリングギヤを用いない分、装置の小型化と軽量化を図ることができる。
【0029】
また、この車輪駆動装置10は、内輪ハブ21に一体に結合されるブレーキドラム20の径方向内側に、2連ピニオン遊星歯車28の小径の出力側ピニオン28bが一部入り込むように配置されているため、2連ピニオン遊星歯車28がブレーキドラム20の内側で軸方向で一部オーバーラップする分、装置全体の軸長を短縮することができ、その結果、後輪Wrと車体側の電装収容室18との間の狭いスペースに余裕をもって配置することが可能になる。
【0030】
また、この車輪駆動装置10においては、複数の2連ピニオン遊星歯車28を保持するキャリアフレーム34の前端部が、内輪ハブ21を軸受23を介して支持する剛性の高い外輪ハブ22に結合されているため、剛性の高い外輪ハブ22が複数の2連ピニオン遊星歯車28の前端側の支持部を兼ねることになり、専用の補強部材の追加の必要がない分、装置のさらなる小型化と軽量化を図ることができる。
【0031】
さらに、この車輪駆動装置10の場合、3つの2連ピニオン遊星歯車28のうちの一つをロータ25よりも下方に設置し、その2連ピニオン遊星歯車28がハウジング内に貯留した潤滑オイルOiに一部が浸かるように設定されているため、モータ11の駆動時に、2連ピニオン遊星歯車28のピニオン28a,28bによって潤滑オイルOiを上方に掻き揚げ、ハウジング内の各機械接触部に潤滑オイルを供給することができる。したがって、ハウジング内の各機械接触部に潤滑オイルOiを供給するための専用のオイルポンプを廃止し、装置全体のさらなる小型化と軽量化を図ることができる。
【0032】
また、この車輪駆動装置10では、モータ11から入力太陽歯車26に入力されたトルクを、キャリアフレーム34上の3つの2連ピニオン遊星歯車28に分散させて出力太陽歯車27に伝達する機構とされているため、1歯車ユニット(2連ピニオン遊星歯車28)あたりの分担トルクが少なくて済み、その結果、歯車ユニットを小型・軽量化することが可能になる。したがって、この車輪駆動装置10の場合、装置全体の小型化と軽量化を図るうえでより有利となっている。
【0033】
また、この車輪駆動装置10は、3つの2連ピニオン遊星歯車28が、キャリアフレーム34に円周方向で均等になるように配置されているため、2連ピニオン遊星歯車28から入力太陽歯車26や出力太陽歯車27に作用する径方向の荷重を各2連ピニオン遊星歯車28で打ち消しあうことができる。したがって、入力太陽歯車26や出力太陽歯車27に径方向の振動が生じにくくなり、また、モータ11の出力軸11aや内輪ハブ21を支持する軸受35,23の小容量化を図ることができる。
【0034】
さらに、この車輪駆動装置10では、入力側ピニオン28aと出力側ピニオン28bが同軸に設けられた2連ピニオン遊星歯車28を介して、入力太陽歯車26から出力太陽歯車27に回転を伝達する構造とされているため、入力太陽歯車26と入力側ピニオン28aの間に設定する歯面の捩れと、出力側ピニオン28bと出力太陽歯車27の間に設定する歯面の捩れを同じ向きに設定すれば、2連ピニオン遊星歯車28に作用するスラスト力を相殺することができる。これにより、ハウジングに不要な荷重が作用しにくくなるため、ハウジングの肉薄化によってさらに装置の小型・軽量化を図ることができる。
【0035】
つづいて、図7〜図9に示す他の実施形態について説明する。なお、上記の実施形態と同一部分には同一符号を付して重複する説明を省略するものとする。
図7は、後輪Wrのホイール19と車輪駆動装置110の模式的な断面図であり、図8,図9は、ホイール19と車輪駆動装置110の詳細な断面図である。
この車両用駆動装置110は、基本的な構成は上記の実施形態のものとほぼ同様であるが、ホイール19の内側に設置するブレーキ装置がディスク式のブレーキ装置である点が上記の実施形態のものと大きく異なっている。
【0036】
即ち、内輪ハブ21とホイールハブ19cには、有底円筒状のブレーキドラムではなく、外周縁部に径方向外側に延出する制動面40aを有するブレーキディスク40が取り付けられている。このブレーキディスク40の制動面40aは、減速機ケース30に固定設置されたキャリパ41の摩擦材42によって挟持されるようになっている。キャリパ41は、油圧機構等を内蔵する本体部41aが減速機ケース30の内側に大きく膨出して設置されている。図9に示すように、キャリパ41は、キャリアフレーム34を介して円周方向に等間隔に配置されている3つの2連ピニオン遊星歯車28のうちの円周方向で隣り合うものの間に配置されている。このため、キャリパ41の本体部41は、減速機ケース30の内側に大きく膨出しているものの、2連ピニオン遊星歯車28と干渉することがない。
【0037】
この実施形態の車輪駆動装置110は、上記の実施形態とほぼ同様の基本的な効果を得ることができるが、上記の実施形態とは別に以下の効果を得ることができる。
即ち、この車輪駆動装置110においては、ディスク式ブレーキ装置のキャリパ41が、円周方向で隣り合う二つの2連ピニオン遊星歯車28の間に配置されているため、減速機ケース30内の2連ピニオン遊星歯車28と干渉することなく、キャリパ41を減速機12と軸方向でオーバーラップさせることができる。したがって、この車輪駆動装置110においては、ブレーキディスク40の制動面40aと対向する部位からキャリパ41が軸方向に沿って延出するディスク式ブレーキ装置を採用しながらも、装置全体の軸長の増大を充分に抑えることができる。
【0038】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
10,110…車輪駆動装置
11…モータ
11a…出力軸
12…減速機
19c…ホイールハブ
20…ブレーキドラム
21…内輪ハブ
22…外輪ハブ
23…軸受
26…入力太陽歯車
27…出力太陽歯車
28…2連ピニオン遊星歯車
28a…入力側ピニオン
28b…出力側ピニオン
29…モータケース(ハウジング)
30…減速機ケース(ハウジング)
Oi…潤滑オイル
40…ブレーキディスク
41…キャリパ
Wr…後輪(車輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪のホイールハブに車幅方向内側で結合されるとともに車体側に軸受を介して回転自在に支持される内輪ハブと、
この内輪ハブの車幅方向内側に配置されて駆動力を発生するモータと、
このモータと前記内輪ハブの間に介装され、このモータの回転を減速して前記内輪ハブに伝達する減速機と、を備えたインホイール型の車輪駆動装置であって、
前記モータの出力軸と前記内輪ハブとが同軸に配置され、
前記減速機は、
前記モータの出力軸に同軸に結合される入力太陽歯車と、
前記内輪ハブに同軸に結合される出力太陽歯車と、
一つのピニオンが前記入力太陽歯車に噛合され残余の一つピニオンが前記出力太陽歯車に噛合される複数の2連ピニオン遊星歯車と、
を備え、
前記複数の2連ピニオン遊星歯車が公転を規制された状態で設置されていることを特徴とするインホイール型の車輪駆動装置。
【請求項2】
前記内輪ハブには、ドラム式ブレーキ装置のブレーキドラムが結合され、
前記2連ピニオン遊星歯車は、入力側ピニオンと出力側ピニオンとを備え、この出力側ピニオンの少なくとも一部が前記ブレーキドラムの内周面の内側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインホイール型の車輪駆動装置。
【請求項3】
前記内輪ハブには、ディスク式ブレーキ装置のブレーキディスクが結合され、
このブレーキディスクを制動操作するキャリパは、前記複数の2連ピニオン遊星歯車のうちの円周方向で隣り合うものの間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインホイール型の車輪駆動装置。
【請求項4】
前記内輪ハブを軸受を介して支持する車体側固定の外輪ハブが設けられ、前記複数の2連ピニオン遊星歯車が、前記外輪ハブによって公転を規制した状態で回転自在に支持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインホイール型の車輪駆動装置。
【請求項5】
前記減速機とモータを覆うハウジングの内側下方には潤滑オイルが貯留され、
前記複数の2連ピニオン遊星歯車の少なくとも一つは、前記潤滑オイル内に浸かるように配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインホイール型の車輪駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−183980(P2012−183980A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50263(P2011−50263)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】