説明

ウェーハ収納装置、ウェーハ収納方法、及びウェーハ研磨装置

【課題】研磨後にウェーハを水没させて搬送する工程において、ウェーハの表面にウォータマークが形成されたり傷がついたりすることのないようなウェーハ収納装置を提供する。
【解決手段】先ず、水槽5の水面より上部に置かれたカセット4を水平にして、研磨後のウェーハ3を一枚ずつカセット4に収納する。次に、全てのウェーハ3がカセット4に収納されたら、傾斜手段8によってカセット4を1°〜20°の範囲で傾斜させながら、カセット昇降機構7によって、カセット4を水槽5の内部の水中へウェーハ1枚分の間隔で沈める。セット4を水槽5から引き上げるときも、傾斜手段8によってカセット4を傾斜させながら引き上げる。これによって、ウェーハ3が浮き上がることなく、且つ上部のウェーハ3の水滴が下部のウェーハ3にたれることがなくなるので、ウェーハ3が傷ついたりウォータマークが形成されたりするおそれはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程で用いられるウェーハ収納装置等に関し、特に、研磨後の半導体ウェーハ(以下、単にウェーハという)を一枚ずつ収納するためのウェーハ収納装置、ウェーハ収納方法、及びそのウェーハ収納装置を備えたウェーハ研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体製造工程において、ウェーハをカセットに収納して水没させながら搬送又は洗浄する技術が広く知られている。例えば、ウェーハの洗浄から乾燥までを行う自動洗浄装置において、デバイス形成面を所定の角度だけ傾斜させて洗浄乾燥を行い、所定の角度だけ傾斜させた状態で処理槽間を搬送する技術が開示されている(特許文献1参照)。また、ウェーハのパターン面を水平方向に対して所定の角度だけ保持した状態で処理槽から引き上げる搬送装置も開示されている(特許文献2参照)。さらに、洗浄時においてウェーハとカセットが接触するのを防止するために、ウェーハを傾けて浸漬させる技術も開示されている(特許文献3参照)。また、ウェーハを傾斜させながらエッチングや純水洗浄やIPA乾燥などを行う技術も開示されている。このようにしてウェーハを傾斜させることにより、ウェーハの裏面からのダストの回り込みやウォータマークの発生を抑止することができる(特許文献4参照)。また、ウェーハの洗浄・乾燥時において、ウェーハを垂直姿勢から水平姿勢に変換する機構に関する技術も開示されている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特許第3167765号公報
【特許文献2】特開平6−314677号公報
【特許文献3】特開平8−64570号公報
【特許文献4】特開平10−177988号公報
【特許文献5】特許第3066986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された自動洗浄装置は、ウェーハのデバイス形成面がウェーハ収納治具と接触するのを防ぐためになされたものであり、一枚ごとに研磨したウェーハを順次カセット内に収納して、それらを水没させるようなカセット機構に使用することはできない。さらに、一枚一枚研磨されてきたウェーハをカセット内に収納する場合を想定できたとしても、毎回カセットを全て水中に浸漬したり、水から持ち上げたりとする必要があり、カセットを動作する工程も一つ一つのウェーハ収納に対して、無駄に動作することが多くなる。その結果、余分なパーティクルなどを水中に持ち込むことが多くなり、水槽内が汚れるほか、スループットも非常に悪くなる。
【0004】
また、特許文献2に開示された搬送装置は、ウェーハのパターン面を所定の角度だけ傾けて処理槽から引き上げるため、ウォータマークの発生を抑止することはできるが、一枚ずつ処理されたウェーハをロボット搬送して収納することはできない。さらにウェーハを傾斜させて引き上げたとしても、ウェーハをほぼ鉛直に立てた状態で水没させるため、水の力によってウェーハのパターン形成面がスロットに当たりウェーハ収納治具と接触するおそれがある。また、複雑な内部機構を有するため、研磨したウェーハをカセット内に収納するときウェーハがウェーハ収納治具の部品に接触するおそれがある。
【0005】
また、特許文献3に開示された技術は、ウェーハを傾斜させることでカセット内のウェーハの姿勢を安定化させることはできるが、研磨後のウェーハを簡単に収納できるカセットの機構とはなっていない。さらに、特許文献4の技術においては、ウォータマークの発生を抑止することはできるが、研磨後のウェーハを簡単に省スペースで収納したり、スラリーを完全に洗い流したり、別に設けられた搬送機構からウェーハを取り出して簡単にカセットに収納するなどにおいて、構造上の難点がある。また、特許文献5の技術においては、ウェーハを垂直姿勢から水平姿勢に変換する機構が複雑になったり、ウェーハを姿勢変換させるためのスペースが多くなってスペース利用率が悪くなったり、ウェーハの姿勢変換において大きく稼動する部分が多いために槽内が汚れやすくなるなどの問題がある。また、一枚ずつ処理されて搬送されるウェーハに対して、少ない移動量で安全かつ効率的に水没させる構造になっていない。さらに、ウェーハ上に存在する水がどのような状態で後退していくかについての考慮もなされていない。
【0006】
すなわち、従来のウェーハ収納装置は、研磨後のウェーハを湿潤状態で保管する場合の機構において、以下に述べるようなさまざまな問題がある。すなわち、カセットを垂直に立てて水槽から持ち上げる場合、ウェーハがスロット内でそれぞれ前後に傾いたり、隣り合うウェーハ同士の傾きが逆になったりして、水の張力によって隣り合うウェーハがこすれ合うことがある。また、カセットを水槽から持ち上げる際に、水がウェーハから流れ落ちるときにライン状の縞をつくって流れ落ちるため、ウェーハに縞状のラインができる。ウェーハを少し傾けて略垂直にした場合でも、同様に、水が流れ落ちるラインが縞状にでき、それがウォータマークとして残るために、後工程の洗浄でも取り除くことができず、ウェーハの表面に汚れが残る場合がある。
【0007】
また、カセットを垂直に立てた状態でロボットによってウェーハをカセット内に収納する場合はウェーハが様々な方向に傾いてしまい、カセット内に収納されたウェーハの間隔を十分にとることができない。そのため、ウェーハを挿入する際にロボットのアームが隣のウェーハに当たってしまうおそれがある。また、カセットを略垂直に立てた場合は、一枚のウェーハを挿入してから次のウェーハを挿入するまでの間、ウェーハを水槽内に水没させなければならないが、ウェーハの径が300mm程度ある場合、ウェーハを水没させるために毎回ウェーハを300mm近く昇降させる必要がある。このときのウェーハの昇降距離が長いために作業時間のロスとなる。また、全てのウェーハが繰り返し水槽から上げ下げされるため、そのたびにウェーハ上に水の流れ落ちるラインが形成され、結果的に、非常に多くのウォータマークが形成されるおそれがある。
【0008】
また、ウェーハの収納されたカセットを水平にして持ち上げる場合、水の表面張力によってウェーハがスロット内を泳いでしまい、ウェーハ表面がカセットの案内溝に擦れてウェーハに傷がつくおそれがある。さらに、カセットを水平にして、ウェーハを水槽の中にそのまま沈める場合、ウェーハ上に水が浸入する方向がウェーハごとに様々な方向となるためにウェーハがカセットの案内溝で泳ぐおそれがある。また、ウェーハ表面がカセットと擦れて粉末が蔓延して水槽の水が汚れるおそれがある。さらに、ウェーハ上に存在する水の切れ方が、どの部分から水が流れ落ちるか定まらないため、ウェーハによってウォータマークが様々な状態となる。特にカセットの案内溝とウェーハとの間に水が溜まる部分ができ、そこにウォータマークが形成されることがある。また、ウェーハを引き上げた際に、ウェーハの裏面に付着した水が下側に存在するウェーハ上に流れ落ちて、その水が下側に存在するウェーハにウォータマークを形成するおそれがある。
【0009】
従って、研磨後にウェーハを水没させて搬送する工程において、ウェーハの表面にウォータマークが形成されたり傷がついたりすることのないようにするために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決するウェーハ収納装置、ウェーハ収納方法、及びそのウェーハ収納装置を備えたウェーハ研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、研磨後のウェーハを収納するウェーハ収納装置において、ウェーハを収納するための収納治具と、ウェーハを一枚ずつ前記収納治具に挿入する搬送機構と、ウェーハが挿入された収納治具を所定の角度だけ傾斜させる傾斜手段と、収納治具に収納されたウェーハを水没させるための水槽と、傾斜手段によって傾斜された収納治具を水槽内の水に対して相対的に昇降させる昇降手段とを備える構成を採っている。
【0011】
このような構成によれば、搬送収納時においては、一枚一枚搬送されてくる研磨後のウェーハをコンパクトかつ省スペースで収納することが可能となる。また、収納の際のウェーハの搬送機構が、簡単な水平搬送機構でウェーハを搬送し、効率よくウェーハを収納することができる。収納したウェーハを随時水中に浸漬して保管できるとともに、先のウェーハを水中に保管した状態で、次のウェーハの収納を準備することが可能となる。
【0012】
次に、ウェーハ浸漬保管時においては、収納治具を微小に傾斜させることで、ウェーハ上に水を緩やかに侵入させることが可能となる。水平に浸漬する場合、浸漬時に水の表面張力によって、初期に浸漬せず、急に水がウェーハ表面に浸入することによって、ウェーハが浮き上がり、ウェーハ表面が収納治具の縁と衝突する。こうした事態はなくなる。ウェーハを浸漬する場合においても、収納治具全体を浸漬することなく、ウェーハが収納された部分を部分的に浸漬することで、無駄な収納治具の昇降動作を必要最小限に削減でき、効率的にウェーハを浸漬することができる。ウェーハ浸漬保管中は、ウェーハ表面に固着していた研磨剤などが傾斜したウェーハ表面に沿って滑り落ち、ウェーハが多少清浄になる。
【0013】
ウェーハを浸漬状態から上昇する際には、ウェーハ表面から水が緩やかに後退する。これにより、ウェーハとウェーハの間に水が残ることはなく、水切れよくウェーハを取り出すことができる。また、収納治具上昇時、ウェーハが開口部の方へ泳ぎ出し、収納治具からウェーハがこぼれて落ち出すこともない。
【0014】
また、たとえウェーハ表面が揮発性であっても、収納治具を微小に傾斜させたまま持ち上げることで、ウェーハ上を後退していく水際が緩やかに一団となって後退する。そのため、水滴がウェーハ表面を滑り落ちて、滑り落ちた部分に対応してストリークラインが形成されるといったことは起こらない。ウェーハと収納治具の間に存在する水滴も、同様に緩やかな傾斜により、後退する水槽の水の表面に引きずられて後退する。その結果、ウェーハと収納治具の間に過剰な水は残らない。その結果、ウェーハと収納治具の間に水が残り、その水の表面張力によって、ウェーハが収納治具に密着することはない。
【0015】
ウェーハを上昇したカセットから取り出す際には水中保管後、水が切られたウェーハを一枚一枚収納治具にアクセス可能な搬送機構によってウェーハを取り出すことが可能となる。また、ウェーハを取り出す際も、収納治具に収められた全てのウェーハを水中から引上げることなく、一枚一枚次に取り出す必要のあるウェーハだけを水中から持ち上げて、ウェーハを取り出すことが可能となる。
【0016】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、搬送機構がウェーハを搬送して収納治具内の所定部分に水平に収納した後、傾斜手段が収納治具の前部のウェーハ収納開口部を高い位置にして収納治具を所定の角度だけ傾斜させ、昇降手段が収納治具を水槽内の水に対して相対的に下降させて所定量だけ浸漬させることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、収納治具のウェーハ収納開口部を高くして、収納治具を所定の角度だけ傾斜させて水槽内に水没させている。従って、ウェーハを効率的に水没させることができ、ウェーハ表面を傷つけるおそれもない。
【0018】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、搬送機構がウェーハを搬送して収納治具内の所定部分に水平に収納した後、傾斜手段が収納治具の任意の位置を高くして収納治具を所定の角度だけ傾斜させ、昇降手段が収納治具を水槽内の水に対して相対的に下降させて所定量だけ浸漬させることを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、収納治具の任意の位置を高くして、収納治具を所定の角度だけ傾斜させて水槽内に水没させている。従って、ウェーハを効率的に水没させることができ、ウェーハ表面を傷つけるおそれもない。
【0020】
また、請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載の発明において、所定量はウェーハのほぼ一枚分の間隔であることを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、昇降手段が収納治具を水槽内の水に対して相対的に下降させてウェーハのほぼ一枚分の間隔だけ浸漬させている。従って、ウェーハが浮き上がることがないのでウェーハの表面が傷つくおそれもなくなる。
【0022】
また、請求項5記載の発明は、請求項1,2,3又は4記載の発明において、傾斜手段が収納治具を傾斜させる所定の角度は、1°から20°の範囲であることを特徴とする。
【0023】
このような構成によれば、ウェーハを水没させるときの傾斜角は水平面に対して1°から20°の範囲である。従って、上側のウェーハから下側のウェーハへ水滴をたらすこともないので、ウォータマークが発生するおそれはなくなる。
【0024】
また、請求項6記載の発明は、請求項2,3,4又は5記載の発明において、搬送機構が収納治具内の上記ウェーハを取り出すときは、収納治具を傾斜させた状態で水槽から上昇させてウェーハの表面の水を流した後、収納治具を水平にして該ウェーハを取り出すことを特徴とする。
【0025】
このような構成によれば、ウェーハを水槽から取り出すときに、収納治具を傾斜させた状態で水槽から上昇させるので、ウェーハ表面に水滴が付着するおそれがない。
【0026】
また、請求項7記載の発明は、請求項1,2,3,4,5又は6記載のウェーハ収納装置を備えることを特徴とするウェーハ研磨装置である。
【0027】
このような構成によれば、ウェーハを収納する収納治具に所定の傾斜角を持たせて水槽に水没させるウェーハ収納装置を備えたウェーハ研磨装置を実現しているので、ウェーハの研磨から水没搬送までを一貫した工程で行うことができる。
【0028】
また、請求項8記載の発明は、研磨後のウェーハを収納するウェーハ収納方法において、搬送機構が、ウェーハを一枚ずつ収納治具に挿入する第1の工程と、傾斜手段が、ウェーハの収納された収納治具を所定の角度だけ傾斜させる第2の工程と、昇降手段が、傾斜された収納治具を水槽内の水に対して相対的に昇降させる第3の工程と、昇降手段が、収納治具に収納されたウェーハを水槽に水没させる第4の工程とを含むことを特徴とする。
【0029】
このようなウェーハ収納方法によれば、搬送機構がウェーハを一枚ずつ収納治具に挿入すると、傾斜手段がウェーハの収納された収納治具を所定の角度だけ傾斜させ、昇降手段が傾斜した収納治具を水槽内の水に対して相対的に昇降させる。これによって、収納治具に収納されたウェーハを傷つけることなく効果的に水槽に水没させることができる。
【0030】
また、請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、さらに、収納治具内のウェーハを取り出すときに、収納治具を傾斜させた状態で上昇させてウェーハの表面の水を流す第5の工程と、収納治具を水平にして搬送機構によってウェーハを取り出す第6の工程とを含むことを特徴とする。
【0031】
このようなウェーハ収納方法によれば、水槽からウェーハを取り出すときに、収納治具を傾斜させた状態で上昇させてウェーハの表面の水を流すことができるので、ウェーハの表面に水滴が溜まるおそれがなくなる。
【発明の効果】
【0032】
請求項1記載の発明によれば、研磨されて一定間隔で搬送されるウェーハを効率よく収納することができる。また、ウェーハを収納した後に大きく稼動することなく効率的にウェーハを水没させることができ、ウェーハの姿勢が安定しているので水槽内でウェーハがカセットと擦れるおそれはない。
【0033】
請求項2記載の発明によれば、収納治具のウェーハ収納開口部を高くするように収納治具を傾斜させて水槽内に水没させているので、ウェーハを効率的に水没させることができ、ウェーハ表面を傷つけるおそれもない。
【0034】
請求項3記載の発明によれば、収納治具の任意の位置を高くするように収納治具を傾斜させて水槽内に水没させているので、ウェーハを効率的に水没させることができ、ウェーハ表面を傷つけるおそれもない。
【0035】
請求項4記載の発明によれば、収納治具を傾斜させて水槽内に水没させるとき、ウェーハのほぼ一枚分の間隔だけ浸漬させているので、ウェーハが浮き上がることがないためウェーハの表面が傷つくおそれもなくなる。
【0036】
請求項5記載の発明によれば、上部のウェーハが下部のウェーハへ液滴をたらすことがないので、ウェーハの表面にウォータマークが形成されるおそれはない。
【0037】
請求項6記載の発明によれば、ウェーハを水槽から取り出すときに収納治具を傾斜させた状態で水槽から上昇させるので、ウェーハ表面に水滴が付着するおそれがない。
【0038】
請求項7記載の発明によれば、傾斜角を持たせて水槽に水没させるウェーハ収納装置を備えたウェーハ研磨装置を実現しているので、ウェーハの研磨から水没搬送までを一貫した工程で行うことができる。
【0039】
請求項8記載の発明によれば、ウェーハを効率よく収納して浸漬及び洗浄を行うことができ、その後、順に搬送機構にウェーハを送り出すことができるので、搬送の際にウェーハを水槽から頻繁に出し入れすることがなくなり、安定した状態で浸漬及び洗浄を行うことができる。
【0040】
請求項9記載の発明によれば、水槽からウェーハを取り出すときに、収納治具を傾斜させた状態で上昇させてウェーハの表面の水を流すことができるので、ウェーハの表面に水滴が溜まるおそれがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、ウェーハの研磨後に該ウェーハを水没させて搬送する工程において、ウェーハの表面にウォータマークや傷がつかないようにすると云う目的を達成するために、研磨後のウェーハを収納するウェーハ収納装置において、ウェーハを収納するための収納治具と、ウェーハを一枚ずつ収納治具に挿入する搬送機構と、ウェーハが挿入された収納治具を所定の角度だけ傾斜させる傾斜手段と、収納治具に収納されたウェーハを水没させるための水槽と、傾斜手段によって傾斜された収納治具を水槽内の水に対して相対的に昇降させる昇降手段とを備えたウェーハ収納装置を提供することによって実現した。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の好適な実施例を図1乃至図7に従って詳述する。図1に於いて、符号1はウェットカセットステーションを示し、同図(a)は平面図、同図(b)は側面図である。
【0043】
図1に於いて、ウェットカセットステーション1は2組のウェーハ収納装置2が備え付けられており、何れのウェーハ収納装置2も同じ構成である。ウェーハ収納装置2は、研磨後のウェーハ3を収納するためのカセット(ウェーハ収納治具)4と、カセット4に収納されたウェーハ3を水没させるための水槽5と、ウェーハ3を一枚ずつカセット4に収納するための搬送機構6と、カセット4を水槽5の水に対して昇降させるカセット昇降機構(昇降手段)7と、カセット4を所定の角度だけ傾斜させる傾斜手段8とを有する。
【0044】
こうしたカセット4は、水に浸漬しても浮くことがない安定したカセット4が使用され、例えば、PTFEやPFA等でできたテフロン(登録商標)製のカセット4などが望ましい。
【0045】
尚、カセット昇降機構7は、サーボモータとボールネジの機構によってカセット4の昇降を行うが、このときの昇降スピードは5〜30mm/secの速さで可変することができる。また、傾斜手段8は、エアシリンダの機構によってカセット4を所定の角度だけ傾斜させることができるが、サーボモータによってカセット4を傾斜させることもできる。
【0046】
また、図1には図示されてないが、ウェーハ収納装置2は、水槽5の水を排水するためのドレイルバルブや、該ドレイルバルブの飛び出し防止手段に取り付けられたパブリング機能や、密閉容器にして不活性ガスやIPAガスを充満させる機能などを備えている。さらに、ウェーハ収納装置2は、ノズルバー(図示せず)を備えてウェーハ3が前方へ泳ぎ出すのを防止したり、ノズルバーから水を流してウェーハ3の表面のスラリーを洗い流したりする機能を備えている。また、ウェーハ収納装置2は、ノズルバーのストッパー機能を果たしたり、水槽5の水位を流水洗浄部分よりウェーハ3の一枚分だけ下に設定したりするように構成されている。
【0047】
次に、ウェーハ収納装置2を傾けながら水槽5に水没させる仕組みについて説明する。図2は、図1に示すウェーハ収納装置2において研磨後のウェーハ3をウェーハ収納装置2のカセット4に収納する状態を示す解説図である。また、図3は、ウェーハ3が収納されたウェーハ収納装置2を傾斜させて水槽5内に水没させる状態を示す解説図である。尚、図2及び図3において、図の左方がウェーハ3の出し入れを行うカセット4のウェーハ収納開口部である。
【0048】
図2に示すように、カセット台4aの内部にはカセット4が収納されているが、研磨後のウェーハ3をカセット4に収納するときはカセット台4a及びカセット4は水平状態に置かれている。このときは、カセット台4a及びカセット4は水槽5の内部にある水5aの水面より上部に置かれている。このような状態において、搬送機構6によって研磨後のウェーハ3をカセット4の内部に一枚ずつ収納する。
【0049】
そして、全てのウェーハ3がカセット4へ収納されたら、図3に示すように、傾斜手段8(図1参照)によってカセット台4a及びカセット4を傾斜させてからカセット昇降機構7(図1参照)によってカセット台4a及びカセット4を水槽5の内部の水5aの中へ沈める。尚、カセット台4a及びカセット4を水槽5に沈めた状態でウェーハ3の洗浄を行ってもよい。また、カセット台4a及びカセット4を水槽5から引き上げるときも、傾斜手段8によってカセット台4a及びカセット4を傾斜させた状態で引き上げる。
【0050】
このとき、傾斜手段8がカセット台4a及びカセット4を傾斜させる傾斜角度は、水槽5内にある水5aの水面の垂直軸に対して1°〜20°の傾斜範囲であることが望ましい。
【0051】
すなわち、図2に示すように、研磨後のウェーハ3が搬送機構6によってカセット4内の所定の部分に水平な状態で収納され、ウェーハ3の収納後、カセット4のウェーハ収納開口部を前面とし、傾斜手段8によって、その前面を高くして所定の角度(1°〜20°)カセット台4a及びカセット4を傾斜させる。そして、カセット昇降機構7(図1参照)によって、カセット台4a及びカセット4を水槽5内の水5aの内部に下降させて所定量(例えば、ウェーハ3の1枚分の間隔)だけ浸漬させてウェーハ3の洗浄を行う。
【0052】
次に、研磨後のウェーハ3をロボット搬送してからウェーハ収納装置の水槽に水没させるまでの処理の流れを図4のフローチャート及び図5の(a)〜(d)を用いて説明する。図4は本発明のウェーハ収納装置において、ウェーハのロボット搬送から水没までの処理の流れを示すフローチャート、図5の(a)〜(d)は水没の際のウェーハに対する水等の挙動を説明するための図である。
【0053】
先ず、カセット4が水槽5の上で水平に待機する(ステップS1)。次に、ロボット(搬送機構6)によって、ウェーハ3をカセット4のスロットに挿入する(ステップS2)。さらに、カセット4の前面開口部(ウェーハ収納開口部)をやや高くして後へ傾斜させる(ステップS3)。そして、カセット4内のウェーハ3をゆっくりと水槽5に浸漬させる(ステップS4)。このようにして1スロット分ずつカセット4を水槽5内に降下させていく。
【0054】
すなわち、ウェーハ3を水平状態で水中に浸漬させると(図5(a))、水の浮力によってウェーハ3が浮き上がり、ウェーハ3の表面がカセット4の周囲に接触してウェーハ3を傷つけるおそれがある。また、水の表面張力によってウェーハ3の外周部で水が盛り上がり、その水がいっきにウェーハ3の表面へランダムな方向から浸入するおそれがある(図5(b))。
【0055】
そこで、このような不具合を無くすため、ウェーハ3を傾斜させながら水槽5に水没させることにより(図5(c))、水がウェーハ3へ浸入する方向が、カセット4の前面開口部側から後面への一定方向となる。さらに、ウェーハ3の傾斜角度が1°〜20°と緩やかであるため、水がウェーハ3の表面部分に緩やかに浸入するため、ウェーハ3が浮き上がるおそれはない(図5(d))。また、カセット4の溝に沿って水位が上昇するため、ウェーハ3上へ滑らかに水が上がってくる。これによって、ウェーハ3を傷つけることなく表面をきれいに洗浄することができる。
【0056】
次いで、ウェーハ3を水中に保管している状態から引き上げて該ウェーハ3を取り出す際の処理の流れを図6のフローチャート及び図7の(a)〜(e)を用いて説明する。図6は本発明のウェーハ収納装置において、水没状態からウェーハを引き上げて取り出すまでの処理の流れを示すフローチャート、図7の(a)〜(d)は水没状態から引き上げる際のウェーハに対する水等の挙動を説明するための図である。
【0057】
図6のフローチャートにおいて、ウェーハ3は水中で傾斜状態で洗浄され保管されている(ステップS11)。カセット昇降機構7によりカセット4を傾斜状態でゆっくり上昇させる(ステップS12)。上昇過程においてウェーハ3の表面上の水はカセット4の前側から後側に緩やかに滑り落ちる(ステップS13)。ウェーハ3が水から上がると傾斜手段8によりカセット4を水平にする。このとき、取り出す予定のウェーハ3のみを水より高い位置として次のウェーハ3は水中に保管されたままとする(ステップS14)。水の上に出されたウェーハ3をロボット(搬送機構6)でつかむ(ステップS15)。ロボットでつかんだウェーハ3をそのまま次工程へ搬送する(ステップS16)。
【0058】
上記のように、ウェーハ3を水没状態から引き上げる際は、該ウェーハ3を緩やかな傾斜状態とすることで(図7(a))、ウェーハ3表面上の水は、後退する水槽5の水の表面に引きずられるように緩やかに一団となって滑り落ちる(図7(b))。これにより、ウェーハ3表面にウォータマークが形成されない。また、ウェーハ3の引き上げに大きな力が必要とされない。そして、水の上に引き上げ後に、ウェーハ3を水平状態にすることで、ロボットが取り出しやすく次の工程への搬送も容易になる。
【0059】
これに対し、ウェーハ3を水没状態から引き上げる際に該ウェーハ3を水平状態にすると(図7(c))、ウェーハ3上にのった水の流れ落ちる方向が定まらないため、ウェーハ3表面にウォータマークが様々な状態で形成されるおそれがある。また、ウェーハ3上に水がのるとともに上下のウェーハ3の間に水が溜まるので(図7(d))、ウェーハ3の引き上げに大きな力が必要となる。
【0060】
また、図7(e)に示すように、ウェーハ3を水没状態から引き上げる際に該ウェーハ3を急傾斜させると、ウェーハ3表面上を水が一団となって後退する力が働きにくくなる。そして、水が流れ落ちたウェーハ3の表面部にストリークラインが形成されるおそれがある。さらに、ウェーハ3の引き上げに非常に長い稼動範囲が必要となることからも、ウェーハ3を一枚一枚引き上げるには、不向きな態様である。
【0061】
なお、ウェーハ3が収納されたカセット4を水から相対的に持ち上げる方法は、カセット昇降機構7による場合に限らず、水槽5内の水をドレインする等の方法でもよい。
【0062】
以上述べたように、本発明のウェーハ収納装置は、研磨されて一定間隔で搬送されるウェーハを効率よく収納することができる。また、本発明のウェーハ収納装置は複雑な機構を使用していないので他の搬送機構とアクセスしやすい。さらに、本発明のウェーハ収納装置によれば、ウェーハを収納した後に大きく稼動することなく効率的にウェーハを水没させることができる。このとき、ウェーハの姿勢が安定しているのでウェーハがカセットと擦れるおそれがない。
【0063】
また、ウェーハ収納装置によれば、省スペースでウェーハを順次ストックすることができ、上部のウェーハが下部のウェーハへ液滴をもたらすことがないので、ウェーハの表面にウォータマークが形成されるおそれはない。さらに、ウェーハを効率よく収納して浸漬及び洗浄を行うことができ、その後、順に搬送機構にウェーハを送り出すことができるので、搬送の際にウェーハを水槽から頻繁に出し入れすることがなくなり、安定した状態で浸漬及び洗浄を行うことができる。
【0064】
また、カセット内に略鉛直にウェーハを格納する際、水切りのときに撥水面である場合に、水が流れ落ちることによって顕著にできるストリークラインやウォータマークをなくすことができる。さらに、カセット内にウェーハを格納するとき、それぞれのウェーハの間隔がばらついたりウェーハ同士が擦れたりすることを防止することができる。また、繰り返しウェーハを水槽から出し入れすることなく、順にウェーハをカセットに格納して水没させることができる。このとき、ウェーハを浸漬する際にウェーハ表面がカセットに当たることなく、静かに浸漬を行うことができる。また、浸漬状態からウェーハを取り出す際に、水がウェーハ表面を緩やかに後退するのでウォータマークが形成されるおそれはない。
【0065】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】ウェットカセットステーションに構成された本発明の実施例に係るウェーハ収納装置を示し、(a)は平面図、(b)は側面図。
【図2】図1に示すウェーハ収納装置において研磨後のウェーハをウェーハ収納装置のカセットに収納する状態を示す解説図。
【図3】ウェーハが収納されたウェーハ収納装置を傾斜させて水槽内に水没させる状態を示す解説図。
【図4】本発明のウェーハ収納装置において、ウェーハのロボット搬送から水没までの処理の流れを示すフローチャート。
【図5】水没の際のウェーハに対する水等の挙動を説明するための図であり、(a)はウェーハを水平状態で水中に浸漬させる態様を示す図、(b)はウェーハを(a)の状態で水中に浸漬させたとき水の表面張力によってウェーハの外周部で水が盛り上がる状態を示す図、(c)はウェーハを傾斜させながら水没させる状態を示す図、(d)はウェーハを(c)の状態で水中に浸漬させたとき水がウェーハの表面部分に緩やかに浸入することを示す図。
【図6】本発明のウェーハ収納装置において、水没状態からウェーハを引き上げて取り出すまでの処理の流れを示すフローチャート。
【図7】水没状態から引き上げる際のウェーハに対する水等の挙動を説明するための図であり、(a)はウェーハを傾斜状態で引き上げる態様を示す図、(b)はウェーハを(a)の状態で引き上げるとき水がウェーハ表面上を緩やかに滑り落ちることを示す図、(c)はウェーハを水平状態で引き上げる態様を示す図、(d)はウェーハを(c)の状態で引き上げたときウェーハ上に水がのるとともに上下のウェーハ間に水が溜まることを示す図、(e)はウェーハを急傾斜状態で引き上げる態様を示す図。
【符号の説明】
【0067】
1 ウェットカセットステーション
2 ウェーハ収納装置
3 ウェーハ
4 カセット(収納治具)
4a カセット台
5 水槽
6 搬送機構
7 カセット昇降機構(昇降手段)
8 傾斜手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨後のウェーハを収納するウェーハ収納装置において、
前記ウェーハを収納するための収納治具と、
前記ウェーハを一枚ずつ前記収納治具に挿入する搬送機構と、
前記ウェーハが挿入された前記収納治具を所定の角度だけ傾斜させる傾斜手段と、
前記収納治具に収納された前記ウェーハを水没させるための水槽と、
前記傾斜手段によって傾斜された前記収納治具を前記水槽内の水に対して相対的に昇降させる昇降手段と、
を備えることを特徴とするウェーハ収納装置。
【請求項2】
上記搬送機構が、上記ウェーハを搬送して上記収納治具内の所定部分に水平に収納した後、上記傾斜手段が、上記収納治具の前部のウェーハ収納開口部を高い位置にして該収納治具を所定の角度だけ傾斜させ、上記昇降手段が、上記収納治具を上記水槽内の水に対して相対的に下降させて所定量だけ浸漬させることを特徴とする請求項1記載のウェーハ収納装置。
【請求項3】
上記搬送機構が、上記ウェーハを搬送して上記収納治具内の所定部分に水平に収納した後、上記傾斜手段が、上記収納治具の任意の位置を高くして該収納治具を所定の角度だけ傾斜させ、上記昇降手段が、上記収納治具を上記水槽内の水に対して相対的に下降させて所定量だけ浸漬させることを特徴とする請求項1記載のウェーハ収納装置。
【請求項4】
上記所定量は上記ウェーハのほぼ一枚分の間隔であることを特徴とする請求項2又は3記載のウェーハ収納装置。
【請求項5】
上記傾斜手段が上記収納治具を傾斜させる所定の角度は、1°から20°の範囲であることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載のウェーハ収納装置。
【請求項6】
上記搬送機構が上記収納治具内の上記ウェーハを取り出すときは、該収納治具を傾斜させた状態で上記水槽から上昇させて該ウェーハの表面の水を流した後、該収納治具を水平にして該ウェーハを取り出すことを特徴とする請求項2,3,4又は5記載のウェーハ収納装置。
【請求項7】
請求項1,2,3,4,5又は6記載のウェーハ収納装置を備えることを特徴とするウェーハ研磨装置。
【請求項8】
研磨後のウェーハを収納するウェーハ収納方法において、
搬送機構が、前記ウェーハを一枚ずつ収納治具に挿入する第1の工程と、
傾斜手段が、前記ウェーハの収納された前記収納治具を所定の角度だけ傾斜させる第2の工程と、
昇降手段が、傾斜された前記収納治具を前記水槽内の水に対して相対的に昇降させる第3の工程と、
前記昇降手段が、前記収納治具に収納された前記ウェーハを前記水槽に水没させる第4の工程と
を含むことを特徴とするウェーハ収納方法。
【請求項9】
さらに、上記収納治具内の上記ウェーハを取り出すときに、該収納治具を傾斜させた状態で上昇させて該ウェーハの表面の水を流す第5の工程と、
上記収納治具を水平にして上記搬送機構によって該ウェーハを取り出す第6の工程と
を含むことを特徴とする請求項8記載のウェーハ収納方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−283869(P2009−283869A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137119(P2008−137119)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】