説明

エポキシ系接着剤、カバーレイ、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線基板

【課題】 優れた耐マイグレーション性と高い接着強度とを併せ持つエポキシ系接着剤、および、このエポキシ系接着剤を用いた可撓性を有するカバーレイ、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線基板を提供する。
【解決手段】 エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなるエポキシ系接着剤において、前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下とする。ベース樹脂を、さらに、エラストマーと、硬化剤とを含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気特性・耐熱性に優れたエポキシ系接着剤、および、このエポキシ系接着剤を用いた可撓性を有するカバーレイ、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化および高密度化に伴い、可撓性を有するフレキシブルプリント基板(FPC=Flexible Printed Circuit)上に形成される回路の高精度化が進み、回路間隔が益々狭くなってきている。また、このフレキシブルプリント基板を備えた電子機器の使用環境が厳しくなり、高温・高湿下における信頼性も要求されている。
【0003】
前述した、FPCは、例えば、ポリイミド等の絶縁性樹脂からなり可撓性を有する絶縁層が銅箔に積層されてなる銅張積層板(CCL:Copper−Clad Laminate)を材料として用い、銅張積層板の銅箔をエッチングして回路や配線を形成し、その上に、可撓性を有するカバーレイ(CL:Cover Lay)を接着して前記CCLの回路を覆うことにより製造されている。
【0004】
従来、FPCに使用される接着剤としては、硬化後の接着剤層の柔軟性や、金属層(例えば銅箔)との密着性を向上するために、エポキシ樹脂と硬化剤とからなるエポキシ系接着剤にエラストマー(ゴム成分)を添加したものが用いられている。
エラストマーとしては、カルボキシ化NBR(なおNBRはアクリロニトリルブタジエンゴムを表す。)やアクリルゴム等が用いられている。
【0005】
このようなエポキシ系接着剤の中でも、特に接着強度を向上させるためにカルボキシ化NBRを添加したエポキシ系接着剤は、接着強度、耐熱性、絶縁性等の特性のバランスがとれた良好な接着剤であるため、好適に用いられている。
また、カルボキシ化NBRを添加したエポキシ系接着剤は、耐マイグレーション性に劣ることが知られているが、従来のようにプリント基板に設ける配線間隔が広い場合には実用上問題なかった。しかしながら、近年、配線間隔が急速に狭ピッチ化(100μmピッチ以下)するに伴って、耐マイグレーション性の問題が顕在化している。
【0006】
ここで、マイグレーションとは、プリント基板に電圧を印加した状態において、配線を構成する金属(銅)が接着剤中をプラス側からマイナス側に移行し、樹木状析出物(デンドライト)として析出することにより、配線間の絶縁抵抗が著しく低下してしまう現象のことをいう。さらに、マイグレーションは高温、高湿下で促進されるので、使用環境が過酷になるにしたがって、耐マイグレーション性を確保することが求められる。
このマイグレーションが発現する原因は、NBRの重合反応に使用される乳化剤、重合開始剤、pH調製剤、重合停止剤等に由来するNa、K、Cl等が接着剤中に存在することによるものと考えられている。
【0007】
このようなマイグレーションの問題を解決するために、いくつかの技術が提案されており、例えば、以下のようなものが挙げられる。
(1)接着剤塗膜の凝集力を高め、これによりマイグレーションを抑制するもの(例えば、特許文献1、2参照。)。
(2)Na、K、Cl等のイオン性不純物が少ないラジカル重合により合成されるアクリルゴムのエラストマーを使用することにより、マイグレーションを抑制するもの(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特許第2679316号公報
【特許文献2】特許第1985201号公報
【特許文献3】特開平7−235767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、(1)、(2)の技術はともに、アクリルゴムのエラストマーを用いているため、エポキシ系接着剤の接着強度の低下を招くという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、優れた耐マイグレーション性と高い接着強度とを併せ持つエポキシ系接着剤、および、このエポキシ系接着剤を用いた可撓性を有するカバーレイ、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係るエポキシ系接着剤は、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなるエポキシ系接着剤であって、前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたことを特徴とする。
本発明の請求項2に係るエポキシ系接着剤は、請求項1において、前記ベース樹脂は、さらに、エラストマーと、硬化剤とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3に係るカバーレイは、絶縁フィルムの片面に接着剤層を設けてなるカバーレイにおいて、前記接着剤層を構成する接着剤が、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなり、前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4に係るプリプレグは、ガラスクロスにエポキシ系接着剤を含浸させてなるプリプレグにおいて、前記エポキシ系接着剤が、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなり、前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5に係る金属張積層板は、ベースフィルムと金属箔との間に接着剤層を設けてなる金属張積層板において、前記接着剤層を構成する接着剤が、ガラスクロスにエポキシ系接着剤を含浸させてなるプリプレグであって、前記エポキシ系接着剤が、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなり、前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたことを特徴とする。
本発明の請求項6に係るプリント配線基板は、本発明の請求項3に係るカバーレイを、本発明の請求項5に係る金属張積層板の金属箔面に貼着してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエポキシ系接着剤によれば、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなるエポキシ系接着剤であって、前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたので、このエポキシ系接着剤を電子機器用プリント配線基板に適用した場合、ベース樹脂に含まれる成分により、銅回路から溶出した銅イオンが、スチレン−マレイン酸共重合体により捕捉されて安定なキレート化合物を形成するから、マイグレーションの発生が抑制される。その際、アクリルゴムを使用していないので、高い接着強度を維持できる。
したがって、本発明のエポキシ系接着剤によれば、狭ピッチの配線を要するFPCなどのプリント配線基板を提供することができるので、その結果として、各種電子機器の小型化、高機能化および長寿命化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
マイグレーションは、回路腐食促進物質の存在により、回路間の絶縁性接着剤中へ銅イオンなどの金属イオンが溶出し、これが還元されることによりデンドライトが成長し、このデンドライトが回路間を短絡させることにより起こるものと推定される。
そこで、本発明では、金属イオンを捕捉し、安定な錯イオンを形成するキレート剤として、スチレン−マレイン酸共重合体を適量含有することにより、溶出した金属イオンが還元されて金属になり、デンドライトを生成することを妨げ、その結果、耐マイグレーション性を大幅に向上させることを可能にしたものである。
【0017】
本発明のエポキシ系接着剤は、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなり、この構成物の総量を1とした際に、その総量1に対して、スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたものである。
【0018】
ベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体の総量を1とした際に、この総量1に対して、スチレン−マレイン酸共重合体が10ppm未満では、回路をなす金属の腐食により溶出した金属イオンを全て捕捉して、安定な錯イオンを形成するには不十分であり、マイグレーションを抑制することができない。一方、ベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体の総量を1とした際に、この総量1に対して、スチレン−マレイン酸共重合体が50000ppmを超えると、スチレン−マレイン酸共重合体の含有量が多すぎて、スチレン−マレイン酸共重合体によりエポキシ系接着剤の酸性度が高くなり過ぎて、金属イオンの捕捉効果以上に、銅回路の溶解を促進する作用が大きくなってしまう。
【0019】
ベース樹脂は、エポキシ樹脂に加えて、さらに、エラストマーと、硬化剤とを含む構成としてもよい。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、アクリル酸変性エポキシ樹脂(エポキシアクリレート)、リン含有エポキシ樹脂、およびこれらのハロゲン化物(臭素化エポキシ樹脂等)や水素添加物等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。臭素化エポキシ樹脂等は、接着剤に難燃性が要求される場合に、特に有効である。また、アクリル酸変性エポキシ樹脂(エポキシアクリレート)は、感光性を有するので、エポキシ系樹脂組成物に光硬化性を付与するために有効である。また、これらのエポキシ樹脂は、架橋反応するノボラック型フェノール樹脂、ビニルフェノール樹脂、臭素化ビニルフェノール樹脂等と共に用いることもできる。
【0020】
硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化に用い得るものであれば、特に制限なく使用することが可能であるが、例えば、脂肪族アミン系硬化剤、脂環式アミン系硬化剤、第2級もしくは第3級アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ジシアンジアミド、三フッ化ホウ素アミン錯塩、イミダゾール化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂に応じて定められるとともに、硬化剤が通常使用される範囲内において成形条件や特性等に応じて適宜調整される。
【0021】
エラストマーとしては、エポキシ樹脂中に分散し、エポキシ樹脂に柔軟性を付与するものであれば特に限定されないが、NBRが一般的に用いられる。特にNBRをカルボキシ化したカルボキシ化NBRは好適である。カルボキシ化NBRとは、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合体であるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を変性してカルボキシ基を導入したものである。カルボキシ基の導入方法としては、(1)アクリロニトリルとブタジエンとを共重合する際に、さらにカルボキシ基を有するモノマーを共重合する方法、(2)アクリロニトリルとブタジエンとを共重合したのち、カルボキシ基を有するモノマーをグラフト反応させる方法等が挙げられる。
【0022】
また、本発明のエポキシ系接着剤には、必要に応じて充填剤、難燃剤、その他の添加剤等を配合してもよい。
充填剤としては、例えば、シリカ、マイカ、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0023】
難燃剤としては、一般的に知られているものが制限無く用いられるが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン等の無機水酸化物、無機酸化物、リン酸エステル系難燃剤、含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤、無機臭素系難燃剤、有機臭素系難燃剤、有機塩素系難燃剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
その他の添加剤としては、回路との接着力を向上させるために用いられる、シランカップリング剤、イミダゾール等が挙げられる。
【0025】
スチレン−マレイン酸共重合体は、下記の式(1)で表され、2価の金属イオンとの配位結合によって、安定なキレート化合物(錯イオン)を形成するキレート剤である。
【0026】
【化1】

【0027】
このスチレン−マレイン酸共重合体は、回路から溶出した銅イオンを捕捉することによって、マイグレーションを抑制すると考えられる。
【0028】
次に、本発明のエポキシ系接着剤の使用方法を説明する。
本発明のエポキシ系接着剤の使用方法としては、エポキシ樹脂、硬化剤、エラストマー等の構成材料と、有機溶剤とを所定量配合し、ポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミル等を用いて攪拌混合することにより接着剤溶液を調製し、この接着剤溶液を対象物に塗布する方法が用いられる。
【0029】
本発明のエポキシ系接着剤は、上記の接着剤溶液を対象物に塗布し、乾燥および硬化させることで、対象物の接着や封止等を行うために用いることができる。この接着剤組成物の乾燥および硬化に際しては、例えば20〜200℃程度の温度下で行うことができる。
【0030】
接着剤溶液の調製に用いられる有機溶剤としては、例えば、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、ジメチルホルムアミド、2−メトキシエタノール等が挙げられる。接着剤溶液中の固形分濃度は、塗工むらの抑制と接着剤の溶解性とを考慮して、好ましくは5〜70質量%の範囲内であり、より好ましくは10〜50質量%の範囲内である。
【0031】
本発明のエポキシ系接着剤は、種々の用途に好適に用いることができるが、とりわけ、フレキシブルプリント基板(FPC)に用いられる各種材料に適用することによって優れた効果を発揮する。FPC用材料としては、カバーレイ(CL)、プリプレグ、銅箔張積層板(CCL)等の金属張積層板、プリント配線基板等が挙げられる。
【0032】
図1は、本発明のカバーレイの一実施形態を示す概略断面図である。
この実施形態のカバーレイ1は、絶縁フィルム(フィルム基材)2の片面2aに、本発明のエポキシ系接着剤からなる接着剤層3が設けられてなるものであり、フレキシブルプリント基板において、CCLに形成した回路等の上に積層して、この回路等を絶縁保護するために用いられる。
【0033】
絶縁フィルム2としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等からなる厚み10μm〜150μm程度のフィルム等を用いることができる。
接着剤層3の厚み(乾燥後)は、例えば1μm〜100μm程度とすることができる。
本発明のエポキシ系接着剤から接着剤層を形成する方法は、上述したように、塗布等の方法によることができる。
【0034】
なお、本発明のカバーレイが適用されるCCLとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリイミド等からなるベースフィルムに銅箔(金属箔)を接着剤で接着してなる3層CCLや、銅箔(金属箔)の片面にポリイミドワニスを塗布して乾燥してなる2層CCL(接着剤層を有しないCCL)等を用いることができる。
【0035】
本発明のカバーレイによれば、本発明のエポキシ系接着剤により接着剤層を形成したものであるので、電子機器用プリント配線基板に適用した場合にマイグレーションの発生が抑制される。
したがって、本発明のカバーレイによれば、狭ピッチの配線を要するFPCなどのプリント配線基板を提供することができるので、その結果として、各種電子機器の小型化、高機能化および長寿命化に寄与することができる。また、本発明のカバーレイは、可撓性を有するから、これをプリント配線基板に適用すれば、プリント配線基板も可撓性を有するものとなる。
【0036】
本発明のプリプレグは、ガラスクロスに、本発明のエポキシ系接着剤を含浸させてなるものであり、金属張積層板において、ベースフィルムと金属箔との間に設けられ、両者を接着する接着剤層を構成する接着剤として用いられる。
【0037】
ガラスクロスとしては、特に限定されるものではなく、例えば、旭シュエーベル製MSクロス等が挙げられる。
【0038】
本発明のプリプレグによれば、ガラスクロスに、本発明のエポキシ系接着剤を含浸させてなるものであるので、マイグレーションの発生が抑制される。
したがって、本発明のプリプレグによれば、狭ピッチの配線を要するFPCなどのプリント配線基板を提供することができるので、その結果として、各種電子機器の小型化、高機能化および長寿命化に寄与することができる。また、本発明のプリプレグは、可撓性を有するから、これをプリント配線基板に適用すれば、プリント配線基板も可撓性を有するものとなる。
【0039】
図2は、本発明の金属張積層板の一実施形態を示す概略断面図である。
この実施形態の金属張積層板4は、本発明のプリプレグからなる接着剤層6が、ベースフィルム5と金属箔7との間に設けられてなるものである。
【0040】
ベースフィルム5としては、電気絶縁性と可撓性を有する樹脂フィルムが用いられ、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン等の樹脂からなるフィルムが挙げられる。
金属箔7は、銅箔等からなり、所定の回路パターンをなしている。
【0041】
本発明の金属張積層板によれば、本発明のプリプレグからなる接着剤層が、ベースフィルムと金属箔との間に設けられてなるものであるので、マイグレーションの発生が抑制される。
したがって、本発明の金属張積層板によれば、狭ピッチの配線を要するFPCなどのプリント配線基板を提供することができるので、その結果として、各種電子機器の小型化、高機能化および長寿命化に寄与することができる。また、本発明の金属張積層板は、可撓性を有するから、これをプリント配線基板に適用すれば、プリント配線基板も可撓性を有するものとなる。
【0042】
図3は、本発明のプリント配線基板の一実施形態を示す概略断面図である。
この実施形態のプリント配線基板10は、カバーレイ1を、金属張積層板4の金属箔7が設けられている面(金属箔面)に貼着し、カバーレイ1と金属張積層板4とを積層一体化したものである。
【0043】
このプリント配線基板10の製造は、金属張積層板4の金属箔7に対してエッチング等を施して配線を形成したのち、金属箔面にカバーレイ1を貼着する方法などによって行うことができる。
カバーレイ1の貼着は、カバーレイ1の接着剤層3と金属張積層板4の金属箔面とが向かい合うように重ね合わせ、熱プレスなどにより一体化させる。熱プレス条件としては、例えば、加熱温度を140〜200℃程度、加熱時間を0.1〜3時間程度とすることができる。
【0044】
本発明のプリント配線基板によれば、本発明のカバーレイを、本発明の金属張積層板の金属箔7が設けられている面に貼着し、本発明のカバーレイと本発明の金属張積層板とを積層一体化したものであるので、カバーレイと金属張積層板を貼り合わせる際のマイグレーションの発生が抑制される。
したがって、本発明のプリント配線基板によれば、狭ピッチの配線を要するFPCなどのプリント配線基板を提供することができるので、その結果として、各種電子機器の小型化、高機能化および長寿命化に寄与することができる。また、本発明のプリント配線基板は、可撓性を有するカバーレイと金属張積層板を積層一体化したものであるから、可撓性を有する。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0046】
(エポキシ系接着剤の調製)
表1および表2に示す配合により、実施例および比較例に係るエポキシ系接着剤を調製した。なお、各表において配合比は、エポキシ樹脂を100質量部とした質量部で表し、スチレン−マレイン酸共重合体の配合割合については、ppmによっても表す。
エポキシ樹脂、エラストマーおよび硬化剤をメチルエチルケトンに溶解、分散させて溶液Aを調製した。
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名:エピコート828EL)、エラストマーとしてカルボキシル化NBR(日本ゼオン株式会社製、商品名:ニポール1072)、硬化剤として4,4′−ジアミノジフェニルスルホン(試薬特級)を用いた。
また、スチレン−マレイン酸共重合体をメチルエチルケトンに溶解し、5質量%の水溶液Bを調製した。
スチレン−マレイン酸共重合体として、荒川化学社製、商品名:アラスター700を用いた。
固形分(エポキシ樹脂、硬化剤、エラストマー)に対して所定の濃度になるように、溶液Aと水溶液Bを配合し、攪拌混合して、固形分濃度30質量%の接着剤溶液を調製した。
【0047】
(プリント配線基板の作製)
厚み25μmのポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名:K−100V)に乾燥後の厚みが25μmとなるように接着剤溶液を塗布し、さらに150℃にて20分間乾燥することによりカバーレイを得た。
次いで、このカバーレイと、ラインピッチ80μmの櫛形の銅回路パターンを形成した2層銅箔張積層板(有沢製作所社製、商品名:PKW1018RA)とを重ね合わせて、160℃、圧力5MPaにて60分間プレスすることにより、耐マイグレーション性評価用のプリント配線基板を作製した。
【0048】
(耐マイグレーション性の評価)
上記のようにして作製したプリント配線基板を用いて、耐マイグレーション性を評価した。
試験条件としては、85℃、85%RH(相対湿度)の雰囲気下において電極間に50Vの直流電圧を印可し、電極間の絶縁抵抗を測定した。
耐マイグレーション性の評価は、絶縁抵抗値により行い、試験開始後1000時間経過後、絶縁抵抗値が10Ω以上の場合を合格(○)、1000時間未満で絶縁抵抗値が10Ω未満になった場合を不合格(×)と評価した。
結果を表1および表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1の結果から、実施例1〜5では、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体の総量を1とした際に、この総量1に対して、スチレン−マレイン酸共重合体が10ppm以上、50000ppm以下であるから、耐マイグレーション性に優れることが確認された。
一方、表2の結果から、比較例1では、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体の総量を1とした際に、この総量1に対して、スチレン−マレイン酸共重合体が5ppmであるから、スチレン−マレイン酸共重合体の添加効果が見られず、プリント配線基板に設けられた銅回路の短絡時間は、無添加の場合とほぼ同等であった。一方、比較例2では、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体の総量を1とした際に、この総量1に対して、スチレン−マレイン酸共重合体が60000ppmであるから、絶縁抵抗の低下が認められた。
【0052】
実施例1〜5と、比較例1および2とにおいて、このような差が認められた理由については以下のように考えられる。
すなわち、実施例1〜5においては、ベース樹脂に含まれる何らかの成分により銅回路から溶出した銅イオンが、エポキシ系接着剤中のスチレン−マレイン酸共重合体により捕捉されて安定なキレート化合物を形成し、陰極側での銅の析出(デンドライトの生成)が抑えられたと考えられる。
しかしながら、比較例1においては、スチレン−マレイン酸共重合体の含有量が少なすぎて、スチレン−マレイン酸共重合体による銅イオンの捕捉効果が十分に発揮されないと考えられる。一方、比較例2においては、スチレン−マレイン酸共重合体の含有量が多すぎて、スチレン−マレイン酸共重合体によりエポキシ系接着剤の酸性度が高くなり過ぎて、銅イオンの捕捉効果以上に、銅回路の溶解を促進する作用が大きくなってしまったためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のエポキシ系接着剤は、カバーレイ、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線基板にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のカバーレイの一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の金属張積層板の一実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明のプリント配線基板の一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1・・・カバーレイ、2・・・絶縁フィルム、3・・・接着剤層、4・・・金属張積層板、5・・・ベースフィルム、6・・・接着剤層、7・・・金属箔、10・・・プリント配線基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなるエポキシ系接着剤であって、
前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたことを特徴とするエポキシ系接着剤。
【請求項2】
前記ベース樹脂は、さらに、エラストマーと、硬化剤とを含むことを特徴とする請求項1に記載のエポキシ系接着剤。
【請求項3】
絶縁フィルムの片面に接着剤層を設けてなるカバーレイにおいて、
前記接着剤層を構成する接着剤が、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなり、前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたことを特徴とするカバーレイ。
【請求項4】
ガラスクロスにエポキシ系接着剤を含浸させてなるプリプレグにおいて、
前記エポキシ系接着剤が、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなり、前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたことを特徴とするプリプレグ。
【請求項5】
ベースフィルムと金属箔との間に接着剤層を設けてなる金属張積層板において、
前記接着剤層を構成する接着剤が、ガラスクロスにエポキシ系接着剤を含浸させてなるプリプレグであって、前記エポキシ系接着剤が、エポキシ樹脂を含有するベース樹脂とスチレン−マレイン酸共重合体を構成物としてなり、前記構成物の総量を1とした際に、該総量1に対して、前記スチレン−マレイン酸共重合体を10ppm以上、50000ppm以下としたことを特徴とする金属張積層板。
【請求項6】
請求項3に記載のカバーレイを、請求項5に記載の金属張積層板の金属箔面に貼着してなることを特徴とするプリント配線基板。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−2121(P2007−2121A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184712(P2005−184712)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】