説明

エンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニット

【課題】パックシールの製造コスト及び形状(大きさ)を増大させることなく、スリンガと内輪との嵌合面から水分が軸受内部に浸入する事を防止し、軸受性能を長期に亙って維持することが可能なエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットを提供する。
【解決手段】スリンガ38は、内輪6の軸方向内端部外周面に締り嵌めにより外嵌固定されるスリンガ円筒部39と、このスリンガ円筒部39の軸方向内端縁から、外輪2の内周面に向け、径方向に折れ曲がったスリンガ円輪部40とを備え、スリンガ円輪部40の軸方向内側面に支持固定されるエンコーダ15aは、その内径側部分に、スリンガ38の内径よりもさらに内径方向に向けて突出した延出部50を形成し、内輪6の軸方向内端面の外周側に形成された段部51の軸方向内側面に延出部50を磁力により吸着させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両(自動車)の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットに関し、車輪の回転速度検出用の磁気エンコーダが一体化されたシール装置を備えたエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輪の回転支持部に、玉軸受、円すいころ軸受等の転がり軸受を組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニットが知られている。そして、この車輪支持用転がり軸受ユニットに、アンチロックプレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)を制御すべく、車輪の回転速度を検出する為の磁気エンコーダが一体化されたシール装置を組み込んだ、エンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットも知られている。図3は、この様なエンコーダ付シール装置を備えた、エンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットの1例として、車両の駆動輪を懸架装置に回転自在に支持する為の構造を示している。
【0003】
エンコーダ付車軸支持用転がり軸受ユニット1は、静止輪である外輪2と、回転輪であるハブ4と、複数個の転動体11、11とから成る。このうちのハブ4は、ハブ本体5と内輪6とを組み合わせて成り、ハブ本体5に形成した小径段部16に内輪6を圧入し、かしめ部17によりハブ本体5と内輪6を一体構造としている。又、各転動体11、11は、外輪2の内周面に形成した複列の外輪軌道9、9と、ハブ4の外周面に形成した複列の内輪軌道10、10との間に、それぞれ複数個ずつ、保持器12によって転動自在に設けている。そして、懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する為に、外輪2の外周面に設けた取付部3を懸架装置を構成するナックル18に固定すると共に、ハブ本体5に設けた回転フランジ8に車輪(不図示)を結合固定する。又、図3に示す構造は、駆動輪を支持する為の構造であるので、ハブ本体5の中心部に設けたスプライン孔7に、等速ジョイントに付属のスプライン軸(不図示)を係合させている。
【0004】
上述の様なエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニット1のうちで、外輪2の内周面とハブ4の外周面との間部分に存在する、各転動体11、11を設置した内部空間には、グリースを封入して、これら各転動体11、11の転動面と、各外輪軌道9、9及び内輪軌道10、10との転がり接触部を潤滑する様にしている。又、外輪2の軸方向外端部内周面とハブ本体5の軸方向中間部外周との間には、シール装置13を設け、さらに、外輪2の軸方向内端部内周面と内輪2の軸方向内端部外周面との間には、パックシール14を設けて、軸受内部空間の軸方向両端開口部を塞いでいる。尚、本明細書中で、軸方向に関して内とは、車両への組み付け状態で車両の幅方向中寄りとなる側を言い、各図の右側を言う。これに対して、各図の左側で、車両の幅方向外寄りとなる側を、軸方向に関して外と言う。
【0005】
外輪2の軸方向内端側の開口部を塞ぐパックシール14は、図4に示す様に、外輪2の軸方向内端部に内嵌固定するシールリング30と、鋼板或いはステンレス鋼板等の磁性金属板製で、内輪6の軸方向内端部に外嵌固定するスリンガ38と、このスリンガ38に支持固定されるエンコーダ15とを備える。このうちのシールリング30は、芯金31とシール材32とから成り、この芯金31は、外輪2の軸方向内端部内周面に内嵌固定可能なシール円筒部33と、このシール円筒部33の軸方向外端縁から径方向内方に折れ曲がったシール円輪部34とを備えた、断面略L字形で全体を円環状としている。又、シール材32は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材により造られ、芯金31に対し焼き付け或いは加硫接着等により結合しており、芯金31に基端部を持つ3本のシールリップ35〜37を備えている。
【0006】
又、スリンガ38は、内輪6の軸方向内端部外周面に外嵌固定可能なスリンガ円筒部39と、このスリンガ円筒都39の軸方向内端縁から径方向外方に折れ曲がったスリンガ円輪部40とを備えた、断面L字形で全体を円環状としている。そして、前記シールリング30を構成する3本のシールリップのうちで、最も外径側に、軸方向内方に突出する状態で設けられた、サイドリップ35の先端縁を、スリンガ38を構成するスリンガ円輪部40の軸方向外側面に全周に亙り摺接させている。これに対して、残り2本の、メインリップ36及びグリースリップ37の先端縁を、スリンガ38を構成するスリンガ円筒部39の外周面に全周に亙り摺接させている。
【0007】
又、エンコーダ15は、円周方向に亙って、S極とN極とを交互に配置したゴム磁石製(永久磁石製)である。即ち、エンコーダ15は、ゴム中にフエライト粉末を混入したゴム磁石を円輪状に形成したもので、軸方向に亙って着磁している。着磁方向は、円周方向に亙って交互に且つ等問編で変化させている。従って、工ンコーダ15の軸方向側面には、S極とN極とが、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で配置されている。この様なエンコーダ15は、前記スリンガ円輪部40の軸方向内側面に支持されている。そして、非回転部品であるナックル18に支持した回転速度検出用のセンサ20の検出部を、エンコーダ15の軸方向内側面である、被検出面に対向させている。
【0008】
又、前記エンコーダ15の外周縁部、及び、前記スリンガ円輪部40の外周縁部を、前記シール円筒部33の軸方向内端部内周面に全周に亙り近接対向させている。これにより、当該部分に、外部空問に存在する雨水、泥水、塵等の異物の侵入を防止する為のラビリンスシールを構成している。
【0009】
上述した様な従来構造のエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニット1の場合、軸受内部空間の軸方向両端開口部を、前記シール装置13及ぴ前記パックシール14で塞ぐ事により、軸受内部空間内に泥水等の異物が入り込む事を防止すると共に、この内部空間内に封入したグリースが外部に漏洩する事を防止する。更に、車輪の回転に伴って内輪6に外嵌固定したスリンガ38が回転すると、このスリンガ38と共に回転するエンコーダ15に対向したセンサ20の出力が変化する。このセンサ20の出力が変化する周波数は、車輪の回転速度に比例する。従って、このセンサ20の出力信号を図示しない制御器に入力すれば、車輪の回転速度を求め、ABSやTCSを適切に制御できる。
【0010】
但し、図4に示した様な従来構造のパックシール15には、シール性能の更なる向上を図る面から、未だ改良の余地がある。即ち、前述した様に、スリンガ38を構成するスリンガ円筒部39は内輪6の軸方向内端部に外嵌固定されている。しかしながら、軸受鋼から成る内輪6と鋼板から成るスリンガ38とは金属同士の嵌合であり、スリンガ38を内輪6に圧入する時に発生するキズ等、その嵌合面において微小な隙間の存在を回避することは困難である。この為、この嵌合面から軸受内部空間内に水分が侵入する虞があり、シール性能の改善が必要であった。
【0011】
この部分の改善の先行技術としては、特許文献1には、スリンガに取付けられたエンコーダの内径側にリップを設け、このリップを内輪の外周面に弾性的に当接させることにより、嵌合部の密封性を向上させたエンコーダ付パックシールが記載されている。また、特許文献2には、スリンガの内径側に弾性部材からなる遮蔽リップを一体接合し、この遮蔽リップを内輪の端部に接触させることにより、スリンガと内輪の嵌合部から雨水などが軸受内部に浸入するのを防止した、エンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットが記載されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−340979号公報
【特許文献2】特開2006−125483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、エンコーダを形成する磁性ゴムは、80〜90wt%のフェライトなどの磁性材粉末と残部10〜20wt%のゴム材料(NBR(ニトリルゴム)或いはACM(アクリルゴム))の混合物であり、磁性材を多く含むために一般のゴムに比べて伸びや弾性に劣る脆い材料である。そのため、特許文献1の様に、エンコーダの内径部に設けられた磁性ゴムのリップには、浸水を防止するのに十分な緊迫力(ゴム弾性と締め代)を与えることが難しいという問題がある。また、特許文献2の様に、エンコーダとは別にシール材を設けることは、製造コストが増大するので好ましくない。
又、車輪支持用軸受ユニットは苛酷な泥水環境の中で使用される為、エンコーダに傷がつきやすい、或は摩耗しやすいという問題がある。この対策として、熱可塑性樹脂をバインダとして磁性粉末を混合して成るプラスチックマグネットを使用したエンコーダが使用される場合がある。プラスチックマグネットは、磁性ゴムよりも硬く、柔軟性が低いので、そのリップによりシールすることはさらに困難である。
【0014】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、パックシールの製造コスト及び形状(大きさ)を増大させることなく、スリンガと内輪との嵌合面から水分が軸受内部に浸入する事を防止し、軸受性能を長期に亙って維持することが可能なエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットは、車輪取付け用の回転フランジを形成して回転側周面に回転側軌道を有する回転輪と、静止側周面に静止側軌道を有する静止輪と、これら回転側軌道と静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備える。前記回転側周面と前記静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐと共に、前記回転軌道輸の回転速度を検出する為に、前記静止側周面に固定されるシールリングと、前記回転側周面に固定されるスリンガと、このスリンガに支持固定されるエンコーダとを備えている。前記スリンガは、金属板を曲げ加工する事により断面L字形で全体を円環状に構成し、前記回転側周面に結合固定される円筒部と、この円筒部の軸方向内端緑から前記静止側周面に向けて折れ曲がった円輪部とを備え、前記エンコーダは、円周方向に亙ってS極とN極とを交互に着磁された磁石で、前記円輪部の軸方向内側面に支持固定されている。
特に、本発明のエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、前記エンコーダの全面が着磁されており、前記エンコーダのうちで前記スリンガよりも内径側に延在させた延出部が、前記回転輪の軸方向内側面に磁力により吸着している。
【0016】
又、本発明のエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットは、前記回転輪の軸方向内側面に段部が形成されており、この段部に前記延出部が吸着している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パックシールの製造コスト及び形状(大きさ)を増大させることなく、スリンガと内輪との嵌合面から水分が軸受内部に浸入する事を防止し、軸受性能を長期に亙って維持することができる。
即ち、本発明のエンコーダ付車輪支持用軸受ユニットの場合には、エンコーダのうちでスリンガよりも内径側に延在させた延出部が、内輪の軸方向内側面に磁力により吸着している。従って、スリンガと内輪との嵌合面をエンコーダにより覆うことにより、外部の泥水は嵌合面まで到達しないので、嵌合面を通じて水分が軸受内部に侵入することを防止できる。
又、エンコーダの内径部分を延長する(エンコーダの被検出面の面積拡大)ことによる新たな製造工程の追加は必要無いので、製造コストが増大することもない。そして、パックシールのシールリング及びスリンガは、従来と同様の構造が使用可能であり、形状(大きさ)を変更する必要も無い。
更に、エンコーダの延出部により非検出面の面積が拡大したことにより、磁力が増大し、センサによる車輪の回転検出精度が向上・安定することが出来る。
又、エンコーダの延出部は、内輪に対して磁力により吸着して密着することにより軸受内部を密封しており、シール性能はエンコーダの緊迫力(弾性と締め代)には依存していない。従って、弾力性に劣る磁性ゴム又はプラスチックマグネットでも十分なシール性能を得る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図4に相当する図。
【図2】同じく第2例を示す、図1と同様の図。
【図3】従来構造のエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図。
【図4】図3に組み付けられているパックシールの部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態の第1例)
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のエンコーダ付車輪支持用軸受ユニットを構成するパックシール14aは、前記図3及び4に示した様な、互いに相対回転する回転輪であるハブ4と静止輪である外輪2との間に装着され、ハブ4の外周面と外輪2の内周面との間部分に存在する内部空問のうちの軸方向内端開口部を塞いでいる。この内部空問の軸方向外端開口部を塞ぐシール装置13を含め、前記パックシール14a以外の部分の構成及び作用・効果に就いては、前記図3に示した従来構造のエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットの場合と同様である。この為、重複する部分の図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、パックシール14aを中心に説明する。
【0020】
本例のパックシール14aも、シールリング30と、スリンガ38と、エンコーダ15aとを備える。このうちのシールリング30は芯金31と、シール材32とから成る。この芯金31は、軟鋼板等の金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成したもので、外輪2の軸方向内端部内周面に締り嵌めにより内嵌固定されるシール円筒部33と、このシール円筒部33の軸方向外端縁から、内輪6の内周面に向け、径方向内方に折れ曲がったシール円輪部34とを有する。
又、シール材32は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製であり、それぞれの基端部を芯金31に全周に亙って添着支持された3本のシールリップ(サイドリップ35、メインリップ36、グリースリップ37)を有する。
【0021】
又、前記スリンガ38は、金属板を曲げ成形する事により断面L字形で全体を円環状に構成したもので、内輪6の軸方向内端部外周面に締り嵌めにより外嵌固定されるスリンガ円筒部39と、このスリンガ円筒部39の軸方向内端縁から、外輪2の内周面に向け、径方向に折れ曲がったスリンガ円輪部40とを備える。そして、前記3本のシールリップ(サイドリップ35、メインリップ36、グリースリップ37)を、スリンガ円筒部39の外周面及びスリンガ円輪部40の軸方向外側面に摺接させている。
【0022】
又、前記エンコーダ15aは、ゴム中にフェライト粉末を混入した磁性ゴムを円輪状に形成したもので、軸方向に亙って着磁している。着磁方向は、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で変化させている。従って、エンコーダ15aの軸方向側面には、S極とN極とが、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で配置されている。そして、このエンコーダ15aを、前記スリンガ円輪部40の軸方向内側面に支持固定している。
さらに、本例の場合、この様なエンコーダ15aの内径側部分に、スリンガ38の内径よりもさらに内径方向に向けて突出した延出部50を全周に亙り形成している。
【0023】
一方、スリンガ38が嵌合固定される内輪6の軸方向内端面の外周側には、段部51が全周に亙って形成されており、この段部51の軸方向内側面に前記エンコーダ15aの延出部50を磁力により吸着させている。段部51の軸方向寸法(深さ)は、延出部50の幅(軸方向寸法)と同一或いは僅かに大きくし、延出部50を段部51内に収容する構造としている。従って、延出部50の軸方向外側面は、内輪6の軸方向内端面より突出していない。そして、段部51の径方向寸法は、延出部50の内径よりも若干小径とし、延出部50の内周面と段部51の外周面との間に隙間が存在する様にしている。
更に、段部51の軸方向内側面で延出部50が吸着する部分は、良好な面粗さを有しており、さらに、フォームバイト等で仕上げ、切削加工の送り目が無い、さらに良好な面とすることもできる。
【0024】
又、本発明のエンコーダ15aをスリンガ38に支持固定する場合、エンコーダ15aをスリンガ38と一体に加硫接着してもよいし、別途に加硫成形したエンコーダ15aを、スリンガー38に接着固定することも出来る。
さらに、エンコーダ15aを着磁する場合、内輪6に圧入固定前(スリンガ38に固定された状態)に着磁してもよいし、スリンガ38に固定された状態で内輪6に圧入固定後に着磁することも出来る。なお、エンコーダ15aを単独で着磁する場合には、延出部50のスリンガー38側に、仮のバックヨークを当接させることで、延出部50の磁力をエンコーダ15aと同様に強力に着磁することが出来る。また、内輪6に圧入固定後に着磁する場合には、内輪6自体がバックヨークになるため上記のような手段は不要であるが、着磁により内輪6に残留磁気が残るので、エンコーダ15aを単独で着磁をすることが望ましい。
【0025】
以上のような構成を有する本例の場合には、パックシール14aの製造コスト及び形状(大きさ)を増大させることなく、スリンガ38と内輪6との嵌合面から水分が軸受内部に浸入する事を防止し、軸受性能を長期に亙って維持することができる
即ち、本発明の場合、エンコーダ15aは、スリンガ38よりも内径側に、スリンガ38と内輪6との嵌合面を覆う様に延長された延出部50を形成し、この延出部50が内輪6の軸方向内側面に磁力により吸着している。従って、回転輪6に吸着した延出部50により嵌合面は密封されているので、外部の泥水等はスリンガ38と内輪6との嵌合面まで到達しないので、嵌合面を通じて水分が軸受内部に侵入することは無い。
【0026】
又、延出部50は、エンコーダ15aの内径部分を延長して、エンコーダ15aと同一の材料により形成されているので、従来と同じ製造方法により製作可能でり、新たな製造工程の追加も必要無いので、製造コストが増大することもない。そして、パックシール14aのシールリング30及びスリンガ38も、従来と同様の構造が使用可能であり、形状(大きさ)を変更したり、設計変更する必要も無い。
【0027】
更に、エンコーダ15aの延出部50により、回転速度を計測する非検出面の面積が拡大すると共に、延出部50が吸着している内輪6がバックヨークとしても機能しているので、エンコーダ15aが発生する磁力が増大し、センサの出力が高まる事により、車輪の回転速度の検出精度が向上・安定する。そして、ABSやTCSを高精度に制御できる様になるので、車両をより安定した状態に保つ事が出来る。
【0028】
又、段部51の延出部50が吸着する軸方向内側面は、良好な面粗さに加工しているので、延出部50が密着した状態で吸着(粗さの頂点のみに吸着してしまい、隙間が有る状態ではない)することにより、密封(防水)性能を得ている。さらに、フォームバイトなどで仕上げて、切削加工の送り目を消せば、更に密封(防水)性能が向上すると共に、上記した内輪6のバックヨークとしての効果も向上する。
更に、延出部50の内周面と段部51の外周面との間には、製造及び組立てにおける不可避な誤差が発生しても、延出部50の内周面と段部51の外周面とが接触しない様な僅かな隙間が存在しているので、安定して延出部50を段部51の軸方向内側面に吸着させる事が出来る(延出部50が段部51の外周面と干渉しない)。また、この隙間がラビリンスシールを構成しており、飛び散った泥水等が、延出部50と段部51との吸着面を直撃することを防止している。
【0029】
しかも、エンコーダ15aの延出部50は、内輪6に対して磁力により吸着して密着することにより軸受内部を密封しており、シール性能はエンコーダ15aの緊迫力(弾性と締め代)には依存していない。従って、弾力性に劣る磁性ゴム又はプラスチックマグネットで製造されたエンコーダ15aでも、十分なシール性能を得る事ができる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した従来構造の揚合と同様である。
【0030】
(実施の形態の第2例)
図2は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、エンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットを構成するパックシール14bのエンコーダ15bの形状を、前述した実施の形態の第1例の場合とは異ならせている。即ち、本例の場合には、エンコーダ15bを支持固定するスリンガ円輪部40の内径端縁で、スリンガ円筒部39に折れ曲がる部分から立ち上がる肉盗みとして、エンコーダ15bの軸方向外側面(延出部50bの基端部の軸方向外側)に凹部52を全周に亙り形成している。さらに、エンコーダ15b軸方向内側面にも、凹部52よりも外径側部分に、肉盗みとして凹部53を全周に亙り形成している。
【0031】
これにより、エンコーダ15bをスリンガ38に支持固定する場合、容易にエンコーダ15bとスリンガ38を一体に加硫接着することが出来る。さらに、磁性材としてプラスチックマグネットを適用し、エンコーダ15bを接着成形(インサート成形)により製造することが可能となる。
エンコーダ15bの成形時においては、溶融したゴム素材はさらさらの液体であり、成形時に径方向の金型の合わせにより溶融ゴムの流れを止めることは困難である。本例では、スリンガ38の内径側への溶融ゴムの流れを防止する為、金型をスリンガ円輪部40の内径端縁で、スリンガ円筒部39に折れ曲がる部分に突き当てる事で溶融ゴムの流れを防止すると伴に、金型を軸方向に無理抜きしやすくするために、スリンガ円輪部40の内径端縁で、スリンガ円筒部39に折れ曲がる部分から立ち上がる肉盗みとして凹部52を設けている。さらに、エンコーダ15bの軸方向内側面にも肉盗みとして凹部53を設ければ、更に無理抜きが容易となる。
但し、凹部52及び凹部53の形成により薄肉となった部分は、他の部分と比較して強度が低下するので、非磁性かつ柔軟で耐熱性がゴムの融点以上である補強材(例えば金属や高融点の樹脂製(例えばポリイミドや4弗化エチレン樹脂など)の網)を鋳込み、部分的に補強をすることが好ましい。
【0032】
以上のような構成を有する本例の場合には、エンコーダ15bをスリンガ38と一体に成形可能であり、エンコーダ15bとスリンガ38を別々に製造して接着する場合よりも、廉価に製作可能である。即ち、エンコーダ15bが磁性ゴムの場合には加硫接着、エンコーダ15bがプラスチックマグネットの場合には接着成形(インサート成形)により製造する。
【0033】
本発明を実施する場合には、シール材に設けるシールリップの数は1本でも良いし、2本或いは前記各例の揚合の様に3本、又はそれ以上でも良い。又、前述した実施の形態の各例では、内輪回転型の工ンニーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットに就いて示したが、外輪回転型のエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットにも、本発明を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係るエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットは、静止輪(外輪)と回転輪(ハブ)との間に形成された環状空間の開口部にシールが装着された車輪支持用軸受ユニットに適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 エンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニット
2 外輪
3 取付部
4 ハブ
5 ハブ本体
6 内輪
7 スプライン孔
8 回転フランジ
9 外輪軌道
10 内輪軌道
11 転動体
12 保持器
13 シール装置
14、14a、14b パックシール
15、15a、15b エンコーダ
16 小径段部
17 かしめ部
18 ナックル
20 センサ
30 シールリング
31 シール芯金
32 シール材
33 シール円筒部
34 シール円輪部
35 サイドリップ
36 メインリップ
37 グリースリップ
38 スリンガ
39 スリンガ円筒部
40 スリンガ円輪部
50、50b 延出部
51 段部
52、53 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪取付け用の回転フランジを形成して回転側周面に回転側軌道を有する回転輪と、静止側周面に静止側軌道を有する静止輪と、これら回転側軌道と静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備え、
前記回転側周面と前記静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐと共に、前記回転軌道輸の回転速度を検出する為に、前記静止側周面に固定されるシールリングと、前記回転側周面に固定されるスリンガと、このスリンガに支持固定されるエンコーダとを備え、
前記スリンガは、金属板を曲げ加工する事により断面L字形で全体を円環状に構成し、前記回転側周面に結合固定される円筒部と、この円筒部の軸方向内端緑から前記静止側周面に向けて折れ曲がった円輪部とを備え、
前記エンコーダは、円周方向に亙ってS極とN極とを交互に着磁された磁石で、前記円輪部の軸方向内側面に支持固定されている、
エンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットに於いて、
前記エンコーダの全面が着磁されており、前記エンコーダのうちで前記スリンガよりも内径側に延在させた延出部が、前記回転輪の軸方向内側面に磁力により吸着していることを特徴とするエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記回転輪の軸方向内側面に段部が形成されており、この段部に前記延出部が吸着している請求項1に記載のエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−61052(P2013−61052A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201454(P2011−201454)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】