説明

エンジンの潤滑装置

【課題】蓋を省くことができるエンジンの潤滑装置を提供することを課題とする。
【解決手段】潤滑装置30では、オイルポンプ40に隣接して設けられた玉軸受18の内輪55の外径が、オイルポンプ40の外径より大径とされ、内輪55と内輪55に挿入されるバランサ軸13の一端面68とで、オイルポンプ40を塞ぐ蓋の役割をさせる。
【効果】オイルポンプ40と玉軸受18の間にシール用の蓋を設ける必要がない。すなわち、シール用の蓋が不要になる。したがって、クランクケース11の小型化が図られ、エンジンの小型化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルポンプでエンジンの各部へ潤滑油を送るようにしたエンジンの潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの潤滑対象部に潤滑油を供給する方式として、オイルポンプで潤滑油を潤滑対象部へ圧送する圧送式のエンジンの潤滑装置が知られている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図8は従来の技術の基本構成を説明する図であり、エンジンの潤滑装置100は、クランクケース101の側壁102に連結されるポンプケーシング103と、このポンプケーシング103に形成される吸入部104及び吐出部105と、吸入部104及び吐出部105に隣接してポンプケーシング103に取付けられるオイルポンプ106と、このオイルポンプ106に隣接してポンプケーシング103に取付けられる蓋107と、この蓋107にポンプ軸108側へ向けて開けられる油路109と、ポンプケーシング103に軸受111を介して支持されたバランサ軸112に形成される油路113と、この油路113に直交してバランサ軸112に形成される油噴出口114とを備える。
【0004】
クランク軸の駆動力でバランサ軸112が回転すると、オイルポンプ106のインナーロータ115も回転するので、潤滑油は、オイル溜まり部から吸入部104を通じてオイルポンプ106に吸込まれ、オイルポンプ106から吐出される。吐出された潤滑油は、吐出部105から油路109、113を通って、エンジンの潤滑対象部へ送られる。
【0005】
ところで、潤滑装置100では、蓋107でオイルポンプ106をシールしているので、蓋107の厚さの分だけ、オイルポンプ106が外側へ移動する。結果、クランクケース101が大型化する。エンジンの小型化を図ることを考えると、蓋107を省くことが望まれる。
【0006】
そこで、蓋を省くことができるエンジンの潤滑装置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平5−14505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、蓋を省くことができるエンジンの潤滑装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、クランクケース内に配置されたクランク軸又はバランサ軸の一端にオイルポンプが設けられ、このオイルポンプでエンジンの各部へ潤滑油を送るようにしたエンジンの潤滑装置において、前記オイルポンプは、前記クランク軸の一端部を支える軸受又は前記バランサ軸の一端部を支える軸受に隣接して設けられ、この軸受は、内輪の外径が、前記オイルポンプの外径より大径とされ、前記内輪とこの内輪に挿入される前記クランク軸又はバランサ軸の一端面とで、前記オイルポンプを塞ぐ蓋の役割をさせることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、クランクケース内に配置されたクランク軸又はバランサ軸の一端にオイルポンプが設けられ、このオイルポンプでエンジンの各部へ潤滑油を送るようにしたエンジンの潤滑装置において、前記オイルポンプは、前記クランク軸又はバランサ軸で駆動されるインナーロータと、このインナーロータを収納する内歯が設けられているアウターロータとからなるトロコイドポンプであって、前記クランク軸の一端部を支える軸受又は前記バランサ軸の一端部を支える軸受に隣接して設けられ、この軸受は、内輪の外径が、前記アウターロータの内歯の歯底円を覆う大きさに設定され、前記内輪とこの内輪に挿入される前記クランク軸又はバランサ軸の一端面とで、前記オイルポンプを塞ぐ蓋の役割をさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、オイルポンプに隣接して設けられた軸受の内輪の外径が、オイルポンプの外径より大径とされ、内輪とこの内輪に挿入されるクランク軸又はバランサ軸の一端面とで、オイルポンプを塞ぐ蓋の役割をさせるので、オイルポンプと軸受の間にシール用の蓋を設ける必要がない。すなわち、シール用の蓋が不要になる。請求項1によれば、クランクケースの小型化が図られ、エンジンの小型化を図ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、オイルポンプはトロコイドポンプであって、トロコイドポンプに隣接して設けられた軸受の内輪の外径が、アウターロータの内歯の歯底円を覆う大きさに設定され、内輪とこの内輪に挿入されるクランク軸又はバランサ軸の一端面とで、トロコイドポンプを塞ぐ蓋の役割をさせるので、トロコイドポンプと軸受の間にシール用の蓋を設ける必要がない。請求項2では、軸受の内輪の外径をアウターロータの歯底円より大きく設定すればよいから、軸受を請求項1より小径にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るエンジンの要部断面図である。
【図2】図1の2部拡大図である。
【図3】オイルポンプの構造及び作用を説明する図である。
【図4】オイルポンプのアウターロータと軸受の内輪の寸法関係を説明する図である。
【図5】図2の5−5線断面図である。
【図6】潤滑装置の実施例と比較例の対比図である。
【図7】図4の変更例を説明する図である。
【図8】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。また、以下ではオイルポンプに連結された軸は、バランサ軸を例にして説明する。
【実施例】
【0015】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、エンジン10のクランクケース11に、クランク軸12とバランサ軸13とが互いに平行となるようにして設けられている。なお、エンジン10は、OHV型の汎用エンジンである。
【0016】
クランク軸12は、クランクケース11を閉じるケースリッド14に設けられている玉軸受15と、クランクケース11に設けられている平軸受16とで、両端支持されている。玉軸受は、ころがり軸受であればよく、ころ軸受であってもよい。
【0017】
また、バランサ軸13は、クランク軸12のアンバランス要素を相殺することができるように想像線で示すようなアンバランスな形状とされた回転部品であり、ケースリッド14に設けられている玉軸受17と、クランクケース11に設けられている玉軸受18とで、両端支持されている。ケースリッド14は、ボルト19を緩めることでクランクケース11から外すことができる。
【0018】
クランク軸12には、玉軸受15の近傍に、大径の第1駆動ギヤ21と小径の第2駆動ギヤ22とが一体形成されている。
また、バランサ軸13に第1従動ギヤ23が一体形成されており、この第1従動ギヤ23が第1駆動ギヤ21により駆動される。
【0019】
そして、バランサ軸13の一端(ケースリッド14から遠い方の端)に、エンジン10の各部へ潤滑油を送るようにした潤滑装置30(詳細後述)が設けられている。
【0020】
クランク軸12とクランクケース11はオイルシール61でシールされ、クランク軸12とケースリッド14はオイルシール62でシールされているため、潤滑油が外へ漏れる心配はない。
【0021】
クランク軸12の一端にフライホイール63が取付けられ、バランサ軸13と共にフライホイール63によりクランク軸12の円滑回転を図ることができる。次に潤滑装置30の詳細構造を説明する。
【0022】
図2に示されるように、潤滑装置30は、バランサ軸13の一端部31を支える玉軸受18に隣接して設けられ、バランサ軸13の一端に連結されているオイルポンプ40(詳細後述)を備える。
【0023】
オイルポンプ40の吸入側(左下)には、クランクケース11に形成された油吸入部41が隣接し、この油吸入部41には、クランクケース11に上下方向に形成されオイルポンプ40の運転時にオイル溜まり部(図1の符号64)から吸込まれた潤滑油が矢印(1)のように通る吸入油路42が接続されている。
【0024】
一方、オイルポンプ40の吐出側(左上)には、クランクケース11に形成された油吐出部43が隣接し、この油吐出部43には、クランクケース11に斜め方向に形成され
オイルポンプ40から吐出された潤滑油が矢印(2)のように通る吐出油路44が接続されている。
【0025】
加えて、オイルポンプ40のポンプ軸45は、バランサ軸13の一端に嵌っていると共にバランサ軸13の軸線46上に配置されているので、エンジン(図1の符号10)の運転を開始してバランサ軸13がクランク軸(図1の符号12)と同時に回転すると、オイルポンプ40が運転状態になる。
【0026】
その結果、オイルポンプ40は、吐出油路44を通じて、平軸受(図1の符号16)に設けた環状溝(図1の符号66)及びコンロッド(図1の符号67)の大端部が連結されるクランク軸受(図1の符号65)に潤滑油を強制的に供給する。次にオイルポンプ40の構造及び作用を説明する。
【0027】
図3(a)に示されるように、オイルポンプ40は、ポンプ軸45と、ポンプ軸45で図反時計方向に回され複数(この例では4個)の歯47を有するインナーロータ48と、このインナーロータ48より多い複数(この例では5個)の内歯49を有し内歯49にインナーロータ48を収納させると共にインナーロータ48で回されるアウターロータ51と、このアウターロータ51を回転自在に収納しクランクケース(図1の符号11)の一部であるポンプハウジング部52とからなる、トロコイドポンプである。
【0028】
インナーロータ48とアウターロータ51とで歯数が異なるため、(a)に斜線で示すようなポンプ空間53ができる。このポンプ空間53は(b)では、増大する。この容積増大により、吸引作用が起こり、油吸入部41を介して潤滑油がポンプ空間53に導かれる。
【0029】
(c)でポンプ空間53が油吸入部41から油吐出部43へ移り、(d)でポンプ空間53から潤滑油が油吐出部43へ吐出される。
すなわち、ポンプ空間53が容積変化し、容積が増大する過程では潤滑油が吸引され、容積が減少する過程では潤滑油が吐出される。次にアウターロータ51と玉軸受の内輪の寸法関係を説明する。
【0030】
図4(a)に示されるように、アウターロータ51の外径をDp1とする。次に(b)に示されるように、玉軸受18の内輪55の外径をDi1とする。また、内輪55に嵌っているのはバランサ軸13である。なお、アウターロータ51と、玉軸受18は、エンジン(図1の符号10)に組込まれたときに高さ寸法Hだけずれて配置される。
【0031】
(a)及び(b)を参照すると、玉軸受18の内輪55の外径をDi1は、アウターロータ51の外径Dp1よりも大きくなっている。すなわち、玉軸受18は、内輪55の外径が、アウターロータ51の外径より大径とされている。次にアウターロータ51と、内輪55及びバランサ軸13の関係を説明する。
【0032】
図5に示されるように、破線で示したアウターロータ51の内歯49で形成される開口56は、内輪55とこの内輪55に挿入されるバランサ軸13の一端面(図2の符号68)とで、塞がれている。すなわち、内輪55とバランサ軸13の一端面とで、オイルポンプ40を塞ぐ蓋の役割をさせている。次に本発明の潤滑装置と従来の潤滑装置の対比を説明する。
【0033】
図6(a)は比較例であり、潤滑装置200では、オイルポンプ201と玉軸受202の間に、シール用の蓋203が設けられている。蓋203の厚さをT、オイルポンプ201の奥行き寸法をTとすれば、玉軸受202の端面からクランクケース204の内壁205までの距離は、Tとなる。
【0034】
(b)は実施例であり、潤滑装置30では、オイルポンプ40と玉軸受18の間に、シール用の蓋がないので、玉軸受18からクランクケース11の内壁69までの距離は、オイルポンプ40の奥行き寸法Tそのものとなる。したがって、(a)の距離Tと(b)の距離Tの大小関係は、T>Tとなるため、(b)の潤滑装置30は(a)の潤滑装置200に比べて小型になる。
【0035】
(b)に示されるように、潤滑装置30では、オイルポンプ40に隣接して設けられた玉軸受18の内輪55の外径が、オイルポンプ40の外径より大径とされ、内輪55とこの内輪55に挿入されるバランサ軸13の一端面68とで、オイルポンプ40を塞ぐ蓋の役割をさせるので、オイルポンプ40と玉軸受18の間にシール用の蓋を設ける必要がない。すなわち、シール用の蓋が不要になる。したがって、クランクケース11の小型化が図られ、エンジン(図1の符号10)の小型化を図ることができる。
【0036】
これまでに説明した潤滑装置では、オイルポンプを軸受の内輪及びバランサ軸の端面で塞ぐ構造としたが、オイルポンプ及び軸受が取付けられるクランクケースはより小型化されることが好ましい。そこで、クランクケースをより小型化できる例を次図で説明する。
【0037】
図7において、図4と共通の構造は符号を流用して説明を省略する。
(a)に示されるように、アウターロータ51の内歯49の歯底円54の外径をDp2とする。次に(b)において、玉軸受18Bの内輪76の外径をDi2とする。また、内輪76に嵌っているのはバランサ軸13Bである。なお、アウターロータ51と、玉軸受18Bは、エンジン(図1の符号10)に組込まれたときに高さ寸法Hだけずれて配置される。
【0038】
(a)及び(b)を参照すると、玉軸受18Bの内輪76の外径Di2は、アウターロータ51の内歯49の歯底円54の外径Dp2よりも大きくなっている。すなわち、玉軸受18Bは、内輪76の外径が、アウターロータ51の内歯49の歯底円54を覆う大きさに設定されている。
【0039】
オイルポンプ40はトロコイドポンプであって、トロコイドポンプに隣接して設けられる玉軸受18Bの内輪76の外径Di2が、アウターロータ51の内歯49の歯底円54を覆う大きさに設定され、内輪76とこの内輪76に挿入されるバランサ軸13Bの一端面とで、トロコイドポンプを塞ぐ蓋の役割をさせるので、トロコイドポンプと玉軸受18Bの間にシール用の蓋を設ける必要がない。
【0040】
したがって、玉軸受18Bの内輪76の外径をアウターロータ51の歯底円54より大きく設定すればよいから、玉軸受18Bを軸受18(図4参照)より小径にすることができる。さらに、軸受を小径化できるので、クランクケースがより小型になり、エンジンの更なる小型化を図ることができる。
【0041】
尚、本発明に係るオイルポンプは、実施の形態ではトロコイドポンプを適用したが、ギヤポンプやベーンポンプであってもよく、オイルポンプの形式は任意である。
また、本発明に係る潤滑装置は、エンジンに広く採用可能であるが、軽量化、小型化が厳しく求められる小型の汎用エンジンに好適である。
【0042】
加えて、本発明に係るオイルポンプに連結される軸は、実施の形態ではバランサ軸を適用したが、クランク軸を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のエンジンの潤滑装置は、小型の汎用エンジンに好適である。
【符号の説明】
【0044】
10…エンジン、12…クランク軸、13、13B…バランサ軸、18、18B…玉軸受(軸受)、30…潤滑装置、31…一端部、40…オイルポンプ、48…インナーロータ、49…内歯、51…アウターロータ、54…歯底円、55、76…内輪、68…一端面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケース内に配置されたクランク軸又はバランサ軸の一端にオイルポンプが設けられ、このオイルポンプでエンジンの各部へ潤滑油を送るようにしたエンジンの潤滑装置において、
前記オイルポンプは、前記クランク軸の一端部を支える軸受又は前記バランサ軸の一端部を支える軸受に隣接して設けられ、
この軸受は、内輪の外径が、前記オイルポンプの外径より大径とされ、前記内輪とこの内輪に挿入される前記クランク軸又はバランサ軸の一端面とで、前記オイルポンプを塞ぐ蓋の役割をさせることを特徴とするエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
クランクケース内に配置されたクランク軸又はバランサ軸の一端にオイルポンプが設けられ、このオイルポンプでエンジンの各部へ潤滑油を送るようにしたエンジンの潤滑装置において、
前記オイルポンプは、前記クランク軸又はバランサ軸で駆動されるインナーロータと、このインナーロータを収納する内歯が設けられているアウターロータとからなるトロコイドポンプであって、前記クランク軸の一端部を支える軸受又は前記バランサ軸の一端部を支える軸受に隣接して設けられ、
この軸受は、内輪の外径が、前記アウターロータの内歯の歯底円を覆う大きさに設定され、前記内輪とこの内輪に挿入される前記クランク軸又はバランサ軸の一端面とで、前記オイルポンプを塞ぐ蓋の役割をさせることを特徴とするエンジンの潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−144703(P2011−144703A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4034(P2010−4034)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】