説明

エンジン制御装置

【課題】1型式のエンジン70に対するECU11の汎用性を向上させたエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】本願発明のエンジン制御装置は、エンジン70と、エンジン70に燃料を噴射する燃料噴射装置117と、エンジン70の駆動状態を検出する検出手段12〜19と、検出手段12〜19の検出情報及びエンジン70固有の出力特性データMに基づき燃料噴射装置117の作動を制御するECU11とを備える。出力特性データMを修正するための修正特性データRLが格納されたデータ格納手段21を有する。ECU11は、データ格納手段21から修正特性データRLを受信している間、修正特性データRLに基づき出力特性データMを修正し、修正後の出力特性データMと検出手段12〜19の検出情報とに基づき前記燃料噴射装置117を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えばトラクタのような作業車両に搭載されるエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のエンジンにおいては、コモンレール式燃料噴射装置を利用して、各気筒に対するインジェクタに高圧燃料を供給し、各インジェクタからの燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)を電子制御することによって、エンジンから排出される窒素酸化物(NOx)の低減や、エンジンの騒音振動の低減を図るという技術が知られている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−9033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のエンジンを搭載し、エンジン出力特性のトルクライズ部分を用いるトラクタ等の作業車両では、ECUが例えばマップ形式や関数表形式等の出力特性データ、回転速度及びトルクに基づいてコモンレール式燃料噴射装置の作動を制御することにより、変速レバー等の操作量に応じた燃料噴射量にてエンジン出力を調節している。出力特性データとは、エンジンが搭載される車両に対応したものであり、通常、ECUに1種類又は限られた種類だけ記憶させている。このため、前記従来の構成では、エンジンの型式が同じであっても、例えばトラクタ用エンジンのECUを、バックホウ用エンジンのECUとして適用し難い(すなわち、ECUの汎用性が低い)という問題があった。また、同一の作業車両においても、作業の種類によっては異なったトルクライズ特性が好まれる場合も想定される。なお、かかる問題は、コモンレール式の燃料噴射装置だけでなく、電子ガバナ式の場合も存在していた。
【0005】
そこで、本願発明は、上記の問題点を解消したエンジン制御装置を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、作業車両に搭載されるエンジンと、前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンの駆動状態を検出する検出手段と、前記検出手段の検出情報及び前記エンジン固有の出力特性データに基づき前記燃料噴射装置の作動を制御するECUとを備えているエンジン制御装置であって、前記出力特性データを修正するための修正特性データが格納されたデータ格納手段を有しており、前記ECUは、前記データ格納手段から前記修正特性データを受信している間、前記修正特性データに基づき前記出力特性データを修正し、修正後の出力特性データと前記検出手段の検出情報とに基づき前記燃料噴射装置を作動させるというものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記ECUは、前記データ格納手段から前記修正特性データを受信していない場合に、前記出力特性データと前記検出手段の検出情報とに基づき前記燃料噴射装置を作動させるというものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載したエンジン制御装置において、前記データ格納手段には、前記修正特性データとして、前記出力特性データの最大特性線に比べて所定回転速度に対する燃料噴射量を減少させた制限噴射量値が複数格納されており、前記ECUは、前記複数の制限噴射量値に基づき、任意の回転速度に対する燃料噴射量が減少する方向に前記出力特性データの前記最大特性線を修正するというものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3に記載したエンジン制御装置において、前記複数の制限噴射量値は、低速回転速度に対する噴射量値、最大トルク発生時の回転速度に対する噴射量値、並びに、定格回転速度に対する噴射量値の3点を1組としているというものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、作業車両に搭載されるエンジンと、前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンの駆動状態を検出する検出手段と、前記検出手段の検出情報及び前記エンジン固有の出力特性データに基づき前記燃料噴射装置の作動を制御するECUとを備えているエンジン制御装置であって、前記出力特性データを修正するための修正特性データが格納されたデータ格納手段を有しており、前記ECUは、前記データ格納手段から前記修正特性データを受信している間、前記修正特性データに基づき前記出力特性データを修正し、修正後の出力特性データと前記検出手段の検出情報とに基づき前記燃料噴射装置を作動させるから、エンジン製造メーカは、前記エンジンの型式が同じであれば、前記ECUに記憶させる前記出力特性データを共通にできる。エンジン購入メーカは、前記修正特性データを用いることによって、前記出力特性データを自社仕様の特性データに置き換えることなく、自社仕様に最適な燃料噴射制御を実行することが可能になる。従って、前記ECUの汎用性向上というエンジン製造メーカの利点と、前記ECUの作業車両に対する適合性確保というエンジン購入メーカの利点とを両立できるという効果を奏する。
【0011】
請求項2の発明によると、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記ECUは、前記データ格納手段から前記修正特性データを受信していない場合に、前記出力特性データと前記検出手段の検出情報とに基づき前記燃料噴射装置を作動させるから、細かい設定操作等をしなくても、例えば作業機の装着の有無や作業車両の使用状況等に応じて、効率よい燃料噴射制御を簡単に実行できるという効果を奏する。
【0012】
請求項3の発明によると、請求項1又は2に記載したエンジン制御装置において、前記データ格納手段には、前記修正特性データとして、前記出力特性データの最大特性線に比べて所定回転速度に対する燃料噴射量を減少させた制限噴射量値が複数格納されており、前記ECUは、前記複数の制限噴射量値に基づき、任意の回転速度に対する燃料噴射量が減少する方向に前記出力特性データの前記最大特性線を修正するから、前記修正後の出力特性データのドループ特性を、前記修正前の出力特性データのドループ特性に近い状態に維持することが可能になる。従って、エンジン製造メーカの設計思想に近く、且つ、エンジン購入メーカの仕様に適合する状態で、燃料噴射制御を実行できるという効果を奏する。また、前記制限噴射量値を基にしたドループ特性のバリエーションを簡単に設定でき、種々の燃料噴射制御の設定に対処し易くなるという利点もある。
【0013】
請求項4の発明によると、請求項3に記載したエンジン制御装置において、前記複数の制限噴射量値は、低速回転速度に対する噴射量値、最大トルク発生時の回転速度に対する噴射量値、並びに、定格回転速度に対する噴射量値の3点を1組としているから、少ないポイント数で効率よく前記最大特性線の下方修正が可能になるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明の実施形態を要約した概念説明図である。
【図2】エンジンの燃料系統説明図である。
【図3】出力特性マップの説明図である。
【図4】修正後の出力特性マップの説明図である。
【図5】燃料噴射制御のフローチャートである。
【図6】ディーゼルエンジンの外観斜視図である。
【図7】トラクタの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を、作業車両としてのトラクタに搭載されるエンジンに適用した場合の図面に基づいて説明する。
【0016】
(1).コモンレール装置及びエンジンの燃料系統構造
まず始めに、図2を参照しながら、コモンレール装置117(コモンレール式の燃料噴射装置)及びエンジン70の燃料系統構造について説明する。エンジン70は4気筒型のディーゼルエンジンである。図2に示すように、エンジン70に設けられた4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレール装置117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118が接続されている。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレール装置117は円筒状のコモンレール120を備えている。
【0017】
図2に示すように、燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続される。燃料タンク118内の燃料が燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料供給ポンプ116に吸い込まれる。実施形態の燃料供給ポンプ116は吸気マニホールド73の近傍に配置されている(図*参照)。具体的には、シリンダブロック75の右側面側(吸気マニホールド73設置側)で且つ吸気マニホールド73の下方に設けられている。一方、燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続される。また、コモンレール120には、4本の燃料噴射管126を介して4気筒分の各インジェクタ115がそれぞれ接続されている。
【0018】
上記の構成により、燃料タンク118の燃料が燃料供給ポンプ116によってコモンレール120に圧送され、高圧の燃料がコモンレール120に蓄えられる。各燃料噴射バルブ119がそれぞれ開閉制御されることによって、コモンレール120内の高圧の燃料が各インジェクタ115からエンジン70の各気筒に噴射される。すなわち、各燃料噴射バルブ119を電子制御することによって、各インジェクタ115から供給される燃料の噴射圧、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。従って、エンジン70からの窒素酸化物(NOx)を低減できると共に、エンジン70の騒音振動を低減できる。
【0019】
なお、図2に示すように、燃料タンク118には、燃料戻り管129を介して燃料供給ポンプ116が接続されている。円筒状のコモンレール120の長手方向の端部に、コモンレール120内の燃料の圧力を制限する戻り管コネクタ130を介して、コモンレール戻り管131が接続されている。すなわち、燃料供給ポンプ116の余剰燃料とコモンレール120の余剰燃料とが、燃料戻り管129及びコモンレール戻り管131を介して燃料タンク118に回収されることになる。
【0020】
(2).コモンレール装置の燃料噴射制御
次に、図1〜図5を参照しながら、コモンレール装置117の燃料噴射制御について説明する。図2に示す如く、エンジン70における各気筒の燃料噴射バルブ119を作動させるECU11を備えている。詳細は図示しないが、ECU11は、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるEEPROM、フラッシュメモリ、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるRAM、CANコントローラ及び入出力インターフェイス等を備えており、エンジン70又はその近傍に配置されている。
【0021】
ECU11の入力側には、少なくともコモンレール120内の燃料圧力を検出するレール圧センサ12と、燃料ポンプ116を回転又は停止させる電磁クラッチ13と、エンジン70の回転速度(クランク軸74のカムシャフト位置)を検出するエンジン速度センサ14と、各インジェクタ115の燃料噴射回数(1行程の燃料噴射期間中の燃料噴射回数)を検出及び設定する噴射設定器15と、スロットルレバーやアクセルペダルといったアクセル操作具(図示省略)の操作位置を検出するスロットル位置センサ16と、ターボ過給機100の圧力を検出するターボ昇圧センサ17と、吸気マニホールド73の吸気温度を検出する吸気温度センサ18と、エンジン70の冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ19とが接続されている。これらセンサ類12〜19がエンジン70の駆動状態を検出する検出手段を構成している。
【0022】
ECU11の出力側には、少なくとも4気筒分の各燃料噴射バルブ119の電磁ソレノイドがそれぞれ接続されている。すなわち、コモンレール120に蓄えた高圧燃料が燃料噴射圧力、噴射時期及び噴射期間等を制御しながら、1行程中に複数回に分けて燃料噴射バルブ119から噴射されることによって、窒素酸化物(NOx)の発生を抑えると共に、すすや二酸化炭素等の発生も低減した完全燃焼を実行し、燃費を向上させるように構成されている。
【0023】
ECU11に設けられた記憶手段(フラッシュメモリやEEPROM)には、エンジン70の回転速度NとトルクT(燃料噴射量又は負荷といってもよい)との関係を示す出力特性データとしての出力特性マップM(図3参照)が予め記憶されている。この種の出力特性マップMは実験等にて求められる。なお、出力特性データとしては、実施形態のようなマップ形式に限らず、例えば関数表やセットデータ(データテーブル)等でも差し支えない。図3に示す出力特性マップMでは、回転速度Nを横軸に、トルクT(燃料噴射量)を縦軸に採っている。出力特性マップMにおいて、上向き凸湾曲状に描かれた実線Tmxが各回転速度Nに対する最大トルクを表した最大特性線(最大トルク線といってもよい)である。この場合、エンジン70の型式が同じであれば、ECU11に記憶される出力特性マップMはいずれも同一(共通)のものになる。
【0024】
ECU11は基本的に、エンジン速度センサ14にて検出される回転速度Nと各インジェクタ115の噴射圧・噴射期間とからトルクTを求め、トルクTと出力特性マップMとを用いて目標燃料噴射量Roを演算し、当該演算結果に基づいてコモンレール装置117を作動させるという燃料噴射制御を実行するように構成されている。ここで、燃料噴射量は、各燃料噴射バルブ119の開弁期間を調節して、各インジェクタ115への噴射期間を変更することによって調節される。
【0025】
ECU11には、データ格納手段としての作業機ECU21がCAN通信バス23を介して電気的に接続されている(図2参照)。作業機ECU21は、作業車両に装着される作業機(耕耘機やプラウ、バケット等)の駆動を制御する機能を有している。作業機ECU21は、ECU11と同様に、CPU、EEPROM、フラッシュメモリ、RAM、CANコントローラ及び入出力インターフェイス等を備えており、作業機の任意の箇所に配置できる。もちろん、ECU11と共に、エンジン70又は作業車両の本体側に配置することも可能である。
【0026】
CAN通信バス23は、CAN(コントローラ・エリア・ネットワーク)プロトコルによるデータ通信のための通信ラインである。この点からも明らかなように、ECU11と作業機ECU21とには、CAN通信環境が適用されている。CAN通信プロトコルによるデータ通信はLAN通信環境を発展させたものであり、CAN通信プロトコルは、共通のリターン(サブルーチンや割込ルーチンに移ったプログラムをメインルーチンに戻す命令)を有する差動の2ワイヤバスラインを用いて、分散リアルタイム制御及び多重化を保つシリアル通信プロトコルである。
【0027】
作業機ECU21の記憶手段(フラッシュメモリやEEPROM)には、コモンレール装置117の作動を修正するための修正特性データとして、出力特性マップMの最大特性線Tmxに比べて所定回転速度Nに対する燃料噴射量を減少させる制限噴射量値RLが複数格納されている。図1、図2及び図4に示すように、制限噴射量値RLは、例えばローアイドル回転速度のような低速回転速度N1に対する第1噴射量値RL1、最大トルク発生時の回転速度N2に対応した第2噴射量値RL2、並びに、定格回転速度N3に対する噴射量値RL3という3点を1組として、作業機ECU21の記憶手段に記憶されている。実施形態の第1噴射量値RL1は、元の出力特性マップMにおいて、低速回転速度N1に対する噴射量値と同程度の値に設定される。第2噴射量値RL2は、元の出力特性マップMにおいて、最大トルク発生時の回転速度N2に対する噴射量値の80%程度の値に設定される。また、第3噴射量値RL3も、元の出力特性マップMにおいて、定格回転速度N3に対する噴射量値の80%程度の値に設定される。
【0028】
作業機ECU21が接続されたECU11は、制限噴射量値RLに基づき、任意の回転速度Nに対する燃料噴射量が減少する方向に出力特性マップMの最大特性線Tmxを修正するように構成されている(修正後の最大特性線Tmx′、図4参照)。この場合、修正後の最大特性線Tmx′は、第1〜第3噴射量値RL1〜RL3をつないで形成される線になっている。そして、ECU11は、回転速度N及び各インジェクタ115の噴射圧・噴射期間と、修正後の出力特性マップM(最大特性線Tmx′)とに基づき、トルクTを演算して目標燃料噴射量Roを求め、該演算結果に基づき、所定回転速度Nに対する燃料噴射量を制限するように、コモンレール装置117を作動させることになる。
【0029】
修正後の最大特性線Tmx′(図4では実線で示す)は、修正前の最大特性線Tmx(図4では破線で示す)と比較して、所定回転速度Nに対する燃料噴射量を制限するようなドループ特性を呈している。すなわち、同一回転速度Nでの最大トルクは修正前の出力特性マップMから求めた場合より修正後の出力特性マップMから求めた場合の方が小さくなっている(修正前の最大特性線Tmxの内側(下側)に修正後の最大特性線Tmx′が位置している)。
【0030】
制限噴射量値RLの設定としては様々なものを採用できる。例えば負荷変動が大きい作業に対してエンストを抑制するため、広範囲の回転速度域にわたって高トルクを得る最大特性線Tmx′となるような制限噴射量値RLにしたり、負荷変動が小さい作業に対して作業能率を高めるため、負荷変動による回転変動を小さくする最大特性線Tmx′となるような制限噴射量値RLにしたり、クラッチの接続作業に対して接続の衝撃を緩和するため、接続前に回転速度を低下させる最大特性線Tmx′となるような制限噴射量値RLにしたりできる。
【0031】
実施形態では、作業機ECU21から制限噴射量値RLを受信している間は、ECU11が出力特性マップMを修正して、該修正された出力特性マップMを用いてコモンレール装置117を作動させる一方、受信しない場合は、元のままの出力特性マップMを用いてコモンレール装置117を作動させる。制限噴射量値RLを受信しない状態としては、例えば作業車両に作業機を未装着の場合、ECU11に作業機ECU21を繋いでいない場合、作業機ECU21に制限噴射量値RLを格納していない場合、並びに、通信不能な場合等が挙げられる。
【0032】
図1及び図2に示すように、実施形態のエンジン制御装置は、ECU11には出力特性マップMを書き込んだ状態で、エンジン製造メーカから出荷される。エンジン購入メーカは、エンジン70を作業車両に搭載するに際して、ECU11に、CAN通信バス23を介して制限噴射量値RLを格納した作業機ECU21を接続することになる。
【0033】
修正特性データとしての制限噴射量値RLは、エンジン70が搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機(耕耘機やプラウ、バケット等)毎に対応して複数組記憶させることが可能である。この場合、各組の制限噴射量値RLの選択は、例えばECU11に設けられたジャンパピンや、作業車両のキャビン内に設けられた選択スイッチにて行えばよい。また、作業機ECU21からの制御信号にて、各組の制限噴射量値RLを選択する構成も可能である。
【0034】
詳細は省略するが、実施形態では、作業車両に作業機を装着することによって、該作業機に対応した制限噴射量値RLを選択する構成になっている。例えば、作業車両の後部に設けられた車両側ヒッチに作業機毎の判別ボタンを配置し、作業機側ヒッチを車両側ヒッチに連結したときに、作業機に対応した判別ボタンが連結によってセットされるように構成すればよい。ここで、1組の制限噴射量値RLが耕耘機用のものであり、もう1組の制限噴射量値RLがプラウ用のものであるとすると、作業車両に耕耘機を装着すれば、耕耘機用判別ボタンがセットされ、出力特性マップMの修正のために、ECU11は耕耘機用である1組の制限噴射量値RLを参照する。プラウを装着すれば、プラウ用判別ボタンがセットされ、ECU11はプラウ用であるもう1組の制限噴射量値RLを参照することになる。
【0035】
以下に、図5のフローチャートを参照しながら、実施形態における燃料噴射制御の一例を説明する。図5のフローチャートに示すように、ECU11は、作業機ECU21から制限噴射量値RLを受信中か否かを判別する(S1)。制限噴射量値RLを受信していなければ(S1:NO)、回転速度N及び各インジェクタ115の噴射圧・噴射期間を所定タイミング(適宜時間毎)にて読み込み(S2)、次いで、ECU11が、自身の有する出力特性マップMを参照して、先ほど読み込んだ回転速度N及び各インジェクタ115の噴射圧・噴射期間からトルクTを求めて目標燃料噴射量Roを演算する(S3)。そして、目標燃料噴射量Rに基づいてコモンレール装置117を作動させる(S4)。その後、電源印加用のキースイッチ(図示省略)が入り状態であれば(S5:YES)、ステップS1に戻って燃料噴射制御を続行する。
【0036】
ステップS1において、制限噴射量値RLを受信していれば(S1:YES)、回転速度N及び各インジェクタ115の噴射圧・噴射期間を所定のタイミング(適宜時間毎)にて読み込み(S6)、次いで、ECU11が、制限噴射量値RLに基づき、任意の回転速度Nに対する燃料噴射量が減少する方向に出力特性マップMの最大特性線Tmxを修正し、最大特性線をTmx′とする(S7)。そして、先ほど読み込んだ回転速度N及び各インジェクタ115の噴射圧・噴射期間からトルクTを求め、修正後の出力特性マップM(最大特性線Tmx′)を参照して、トルク制限された目標燃料噴射量Roを演算する(S8)。それから、トルク制限された目標燃料噴射量Roに基づいてコモンレール装置117を作動させる(S9)。その後、電源印加用のキースイッチ(図示省略)が入り状態であれば(S10:YES)、ステップS1に戻って燃料噴射制御を続行するのである。
【0037】
上記の記載並びに図1〜図5から明らかなように、作業車両に搭載されるエンジン70と、前記エンジン70に燃料を噴射する燃料噴射装置117と、前記エンジン70の駆動状態を検出する検出手段12〜19と、前記検出手段12〜19の検出情報及び前記エンジン70固有の出力特性データMに基づき前記燃料噴射装置117の作動を制御するECU11とを備えているエンジン制御装置であって、前記出力特性データMを修正するための修正特性データRLが格納されたデータ格納手段21を有しており、前記ECU11は、前記データ格納手段21から前記修正特性データRLを受信している間、前記修正特性データRLに基づき前記出力特性データMを修正し、修正後の出力特性データMと前記検出手段12〜19の検出情報とに基づき前記燃料噴射装置117を作動させるから、エンジン製造メーカは、前記エンジン70の型式が同じであれば、前記ECU11に記憶させる前記出力特性データMを共通にできる。エンジン購入メーカは、前記修正特性データRLを用いることによって、前記出力特性データMを自社仕様の特性データに置き換えることなく、自社仕様に最適な燃料噴射制御を実行することが可能になる。前記ECU11の汎用性向上というエンジン製造メーカの利点と、前記ECU11の作業車両に対する適合性確保というエンジン購入メーカの利点とを両立できるという効果を奏する。
【0038】
上記の記載並びに図1〜図5から明らかなように、前記ECU11は、前記データ格納手段21から前記修正特性データRLを受信していない場合に、前記出力特性データMと前記検出手段12〜19の検出情報とに基づき前記燃料噴射装置117を作動させるから、細かい設定操作等をしなくても、例えば作業機の装着の有無や作業車両の使用状況等に応じて、効率よい燃料噴射制御を簡単に実行できるという効果を奏する。
【0039】
上記の記載並びに図1〜図5から明らかなように、前記データ格納手段21には、前記修正特性データとして、前記出力特性データMの最大特性線Tmxに比べて所定回転速度Nに対する燃料噴射量を減少させた制限噴射量値RLが複数格納されており、前記ECU11は、前記複数の制限噴射量値RLに基づき、任意の回転速度Nに対する燃料噴射量が減少する方向に前記出力特性データMの前記最大特性線Tmxを修正するから、修正後の出力特性データMのドループ特性(Tmx′)を、修正前の出力特性データMのドループ特性(Tmx)に近い状態に維持することが可能になる。従って、エンジン製造メーカの設計思想に近く、且つ、エンジン購入メーカの仕様に適合する状態で、燃料噴射制御を実行できるという効果を奏する。また、前記制限噴射量値RLを基にしたドループ特性のバリエーションを簡単に設定でき、種々の燃料噴射制御の設定に対処し易くなるという利点もある。
【0040】
上記の記載並びに図1〜図5から明らかなように、前記複数の制限噴射量値RLは、低速回転速度N1に対する噴射量値RL1、最大トルク発生時の回転速度N2に対する噴射量値RL2、並びに、定格回転速度N3に対する噴射量値RL3の3点を1組としているから、少ないポイント数で効率よく最大特性線の下方修正(Tmx→Tmx′)が可能になるのである。
【0041】
(3).ディーゼルエンジンの全体構造
次に、図6を参照して、エンジン70の全体構造について説明する。実施形態のエンジン70は4気筒型のものであり、エンジン70におけるシリンダヘッド72の左側面に排気マニホールド(図示省略)が配置されている。シリンダヘッド72の右側面には吸気マニホールド73が配置されている。シリンダヘッド72は、クランク軸及びピストン(図示省略)が内蔵されたシリンダブロック75上に搭載されている。シリンダブロック75の前後両側面からクランク軸の前後先端部をそれぞれ突出させている。シリンダブロック75の前面側に冷却ファン76が設けられている。クランク軸の前端側からVベルト77を介して冷却ファン76に回転力を伝達するように構成されている。
【0042】
シリンダブロック75の後面にフライホイールハウジング78が固着されている。フライホイールハウジング78内にフライホイール(図示省略)が配置されている。フライホイールはクランク軸の後端側に軸支されていて、クランク軸と一体的に回転するように構成されている。作業車両の駆動部に、フライホイールを介してエンジン70の動力を取り出すように構成されている。シリンダブロック75の下面にはオイルパン81が配置されている。シリンダブロック75の左右側面とフライホイールハウジング78の左右側面とには、機関脚取付部82がそれぞれ設けられている。各機関脚取付部82には、防振ゴムを有する機関脚体(図示省略)がボルト締結される。エンジン70は、各機関脚体を介して、トラクタ201のエンジン支持シャーシ84に防振支持される。
【0043】
吸気マニホールド73の入口側には、EGR装置91(排気ガス再循環装置)を構成するコレクタ92を介して、エアクリーナ(図示省略)が連結される。エアクリーナにて除塵・浄化された外気は、EGR装置91のコレクタ92を介して、吸気マニホールド73に送られ、そして、エンジン70の各気筒に供給される。EGR装置91は、エンジン70の再循環排気ガス(排気マニホールド71からのEGRガス)と新気(エアクリーナからの外部空気)とを混合させて吸気マニホールド73に供給するコレクタ(EGR本体ケース)92と、排気マニホールド71にEGRクーラ94を介して接続する再循環排気ガス管95と、再循環排気ガス管95にコレクタ92を連通させるEGRバルブ96とを備えている。
【0044】
上記の構成により、エアクリーナからコレクタ92内に外部空気を供給する一方、排気マニホールド71からEGRバルブ96を介してコレクタ92内にEGRガス(排気マニホールド71から排出される排気ガスの一部)を供給する。エアクリーナからの外部空気と、排気マニホールド71からのEGRガスとが、コレクタ92内で混合された後、コレクタ92内の混合ガスが吸気マニホールド73に供給される。すなわち、エンジン70から排気マニホールド71に排出された排気ガスの一部が、吸気マニホールド73からエンジン70に還流されることによって、高負荷運転時の最高燃焼温度が下がり、エンジン70からのNOx(窒素酸化物)の排出量が低減される。
【0045】
シリンダヘッド72の左側面には、ターボ過給機100が取り付けられている。ターボ過給機100は、タービンホイール(図示省略)を内蔵したタービンケース101と、ブロアホイール(図示省略)を内蔵したコンプレッサケース102とを備えている。タービンケース101の排気ガス取入れ管105に排気マニホールドが接続される。図示は省略するが、タービンケース101の排気ガス排出管103には、マフラー又はディーゼルパティキュレートフィルタ等を介してテールパイプが接続される。すなわち、エンジン70の各気筒から排気マニホールド71に排出された排気ガスは、ターボ過給機100等を経由して、テールパイプから外部に放出される。
【0046】
一方、コンプレッサケース102の給気取入れ側には、給気管104を介してエアクリーナの給気排出側が接続される。コンプレッサケース102の給気排出側には、過給管108を介して吸気マニホールド73が接続される。すなわち、エアクリーナによって除塵された外気は、コンプレッサケース102から過給管108を介してエンジン70の各気筒に供給される。
【0047】
エンジン70に設けられた4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレール装置117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118(図2参照)が接続される。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレール装置117は円筒状のコモンレール120を備えている。燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118(図2参照)が接続される。燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続される。
【0048】
(5).トラクタの概略
次に、図7を参照しながら、エンジン70が搭載される作業車両としてのトラクタ201の概略について説明する。トラクタ201は、走行機体202を左右一対の前車輪203と同じく左右一対の後車輪204とで支持し、走行機体202の前部に搭載されたエンジン70にて後車輪204及び前車輪203を駆動することにより、前後進走行するように構成される。
【0049】
走行機体202の前部に搭載されたエンジン70はボンネット206にて覆われている。走行機体202の上面にはキャビン207が設置され、キャビン207の内部には、オペレータが着座する操縦座席208と、操縦座席208の前方に位置する操向手段としての丸ハンドル形状の操縦ハンドル209が設けられている。操縦座席208に着座したオペレータが操縦ハンドル209を回動操作することにより、その操作量に応じて左右前車輪203のかじ取り角(操向角度)が変わるように構成されている。キャビン207の底部には、オペレータが搭乗するためのステップ210が設けられている。キャビン207のフロントコラム内にECU11が配置されている。
【0050】
走行機体202は、前バンパ212及び前車軸ケース213を有するエンジンフレーム214と、エンジンフレーム214の後部にボルトの締結にて着脱可能に連結する左右の機体フレーム216とにより構成される。前車輪203は、エンジンフレーム214の外側面から外向きに突出するように装着された前車軸ケース213を介して取り付けられている。また、機体フレーム216の後部には、エンジン70からの出力を適宜変速して後車輪204(前車輪203)に伝達するためのミッションケース217が連結されている。後車輪204は、ミッションケース217に対して、当該ミッションケース217の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース(図示省略)を介して取り付けられている。
【0051】
ミッションケース217の後部上面には、耕耘機やプラウ等の作業機(図示省略)を昇降動するための油圧式の作業機用昇降機構220が着脱可能に取り付けられている。作業機は、ミッションケース217の後部にロワーリンク(図示省略)及びトップリンク222を介して昇降動可能に連結される。更に、ミッションケース217の後側面に、作業機を駆動するPTO軸223が設けられている。
【0052】
図示は省略するが、エンジン70の後面側からクランク軸及びフライホイール等を介して、ミッションケース217の前面側にエンジン70の回転動力を伝達するように構成している。エンジン70の回転動力をミッションケース217に伝達し、次いで、ミッションケース217の油圧無段変速機や走行副変速ギヤ機構にてエンジン70の回転動力を適宜変速して、差動ギヤ機構等を介してミッションケース217から後車輪204に駆動力を伝達するように構成している。また、走行副変速ギヤ機構にて適宜変速したエンジン70の回転を、前車軸ケース213の差動ギヤ機構等を介してミッションケース217から前車輪203に伝達するように構成している。
【0053】
(6).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明はトラクタに搭載されるエンジンのエンジン制御装置に限らず、コンバインや田植機等の農作業機や、ホイルローダ等の特殊作業用車両に搭載されるエンジンのエンジン制御装置としても適用可能である。燃料噴射装置はコモンレール式のものに限らず、電子ガバナ式のものであってもよい。通信バスはCAN通信バスに限らず、LAN通信バスといった他の通信バスであってもよい。データ格納手段は、ECU11と別体のものであれば、フラッシュメモリやハードディスク等の外部記憶手段であってもよい。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
M 出力特性マップ(出力特性データ)
RL 制限噴射量値(修正特性データ)
Tmx 修正前の最大特性線
Tmx′修正後の最大特性線
N 回転速度
T トルク
11 ECU
12 レール圧センサ
13 電磁クラッチ
14 エンジン速度センサ
15 噴射設定器
16 スロットル位置センサ
17 ターボ昇圧センサ
18 吸気温度センサ
19 冷却水温度センサ
21 作業機ECU(データ格納手段)
23 CAN通信バス
70 エンジン
115 インジェクタ
117 コモンレール装置
120 コモンレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両に搭載されるエンジンと、前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンの駆動状態を検出する検出手段と、前記検出手段の検出情報及び前記エンジン固有の出力特性データに基づき前記燃料噴射装置の作動を制御するECUとを備えているエンジン制御装置であって、
前記出力特性データを修正するための修正特性データが格納されたデータ格納手段を有しており、前記ECUは、前記データ格納手段から前記修正特性データを受信している間、前記修正特性データに基づき前記出力特性データを修正し、修正後の出力特性データと前記検出手段の検出情報とに基づき前記燃料噴射装置を作動させる、
エンジン制御装置。
【請求項2】
前記ECUは、前記データ格納手段から前記修正特性データを受信しない場合に、前記出力特性データと前記検出手段の検出情報とに基づき前記燃料噴射装置を作動させる、
請求項1に記載したエンジン制御装置。
【請求項3】
前記データ格納手段には、前記修正特性データとして、前記出力特性データの最大特性線に比べて所定回転速度に対する燃料噴射量を減少させた制限噴射量値が複数格納されており、前記ECUは、前記複数の制限噴射量値に基づき、任意の回転速度に対する燃料噴射量が減少する方向に前記出力特性データの前記最大特性線を修正する、
請求項1又は2に記載したエンジン制御装置。
【請求項4】
前記複数の制限噴射量値は、低速回転速度に対する噴射量値、最大トルク発生時の回転速度に対する噴射量値、並びに、定格回転速度に対する噴射量値の3点を1組としている、
請求項3に記載したエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−62836(P2012−62836A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208411(P2010−208411)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】