説明

エンジン自動停止始動制御装置

【課題】エンジンの自動停止によるエンジン回転降下期間中に再始動要求が発生したときに、スムーズにエンジンの再始動を行うことができるようにする。
【解決手段】エンジン回転速度Ne が第1の領域(Ne >N1 )で再始動要求が発生したときには、スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開し、第2の領域(N1 ≧Ne >N2 )で再始動要求が発生したときには、ピニオンとリングギヤの回転速度を同期させた後にピニオンをリングギヤに噛み合わせてクランキングを開始し、第3の領域(N3 ≧Ne )で再始動要求が発生したときには、ピニオンをリングギヤに噛み合わせた後にピニオンを回転させてクランキングを開始する。一方、待機領域(N2 ≧Ne >N3 )で再始動要求が発生したときには、エンジン回転速度が第3の領域まで低下してからピニオンをリングギヤに噛み合わせた後にピニオンを回転させてクランキングを開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン自動停止要求が発生したときにエンジンを自動停止させ、エンジン再始動要求が発生したときにエンジンを再始動させるエンジン自動停止始動制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン(内燃機関)を搭載した車両においては、燃費節減、排気エミッション低減等を目的として、エンジン自動停止始動制御システム(いわゆるアイドルストップ制御システム)を採用したものがある。このエンジン自動停止始動制御システムは、例えば、運転者が車両を停車させたときにエンジンを自動的に停止させ、その後、運転者が車両を発進させようとする操作を行ったときに自動的にスタータでエンジンをクランキングして再始動させるようにしている。
【0003】
一般に、スタータは、モータでピニオンを回転させると共に、アクチュエータでピニオンを押し出して該ピニオンをエンジンのクランク軸に連結されたリングギヤに噛み合わせてリングギヤを回転駆動することで、エンジンをクランキングするようになっているが、ピニオンとリングギヤの回転速度の差が大きい状態でピニオンをリングギヤに噛み合わせようとすると、ピニオンがリングギヤにスムーズに噛み合わずに騒音が発生する可能性がある。
【0004】
そこで、特許文献1(特開2002−122059号公報)に記載されているように、エンジン自動停止要求が発生した直後でエンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下するエンジン回転降下期間中にエンジン再始動要求が発生した場合には、その後、エンジン回転(リングギヤの回転)がほぼ停止してから、スタータのピニオンをリングギヤに噛み合わせた後にピニオンを回転させて、スタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させるようにしたものがある。
【0005】
しかし、上記特許文献1の技術では、エンジンの自動停止によるエンジン回転降下期間中にエンジン再始動要求が発生した場合に、その後、エンジン回転がほぼ停止するまで待ってから、スタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させるため、エンジン再始動要求からエンジンを再始動させるまでの遅れが大きくなってしまい、運転者にエンジンの再始動が遅いと感じさせてしまう可能性がある。
【0006】
この対策として、特許文献2(特開2005−330813号公報)や特許文献3(特開2002−70699号公報)に記載されているように、エンジンの自動停止によるエンジン回転降下期間中にエンジン再始動要求が発生したときに、ピニオンの回転速度をリングギヤの回転速度に同期させて両者の回転速度の差を小さくした後にピニオンをリングギヤに噛み合わせて、スタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させるようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−122059号公報
【特許文献2】特開2005−330813号公報
【特許文献3】特開2002−70699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2や上記特許文献3の技術では、単に、ピニオンとリングギヤの回転速度を同期した時点でピニオンとリングギヤを噛み合わせるとの記載のみであり、この噛み合せタイミングに関する記載が非常に少なく、良好な噛み合せの実現には、いまだ実用化に達していないといわざるをえない状況である。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、エンジンの自動停止によるエンジン回転降下期間中にエンジン再始動要求が発生したとしても、スムーズにエンジンの再始動を行うことができるエンジン自動停止始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ピニオンを回転駆動するモータと、このピニオンをエンジンのクランク軸に連結されたリングギヤに噛み合わせるアクチュエータとを個別に作動可能なスタータを備え、エンジン自動停止要求が発生したときにエンジンを自動停止させ、エンジン再始動要求が発生したときにエンジンを再始動させるエンジン自動停止始動制御装置において、エンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下するエンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第1の回転速度よりも高い第1の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときに、スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開してエンジンを再始動させる第1の再始動制御手段と、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第1の回転速度以下で第2の回転速度よりも高い第2の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときに、モータによりピニオンの回転速度をリングギヤの回転速度に同期させた後にアクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させる第2の再始動制御手段と、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第2の回転速度以下で第3の回転速度よりも高い待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときに、スタータによるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度が第3の回転速度以下の第3の回転速度領域になったときに、アクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータによりピニオンを回転させてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させる待機再始動制御手段と、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第3の回転速度以下の第3の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときに、アクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータによりピニオンを回転させてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させる第3の再始動制御手段とを備えた構成としたものである。
【0011】
この構成では、エンジンの自動停止によるエンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が比較的高い第1の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、スタータによるクランキングを行わなくてもエンジンを再始動できると判断して、スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開してエンジンを再始動させることができる。これにより、エンジン再始動要求が発生したときに、直ちにエンジンの燃焼を再開してエンジンを速やかに再始動させることができる。しかも、スタータによるクランキングを行わないため、スタータの電力消費量を0にすることができると共に、ピニオンとリングギヤの回転速度の差が大きい状態でピニオンをリングギヤに噛み合わせることを回避して、騒音の発生を防止することができる。
【0012】
また、エンジンの自動停止によるエンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第2の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、リングギヤの回転速度が比較的高いため、ピニオンの回転速度をリングギヤの回転速度に同期させないと、ピニオンをリングギヤにスムーズに噛み合わせることができないと判断して、モータによりピニオンの回転速度をリングギヤの回転速度に同期させて両者の回転速度の差を小さくした後にアクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させることができる。これにより、ピニオンをリングギヤにスムーズに噛み合わせて騒音の発生を防止しながら、エンジン再始動要求からエンジンを再始動させるまでの遅れを小さくすることができる。
【0013】
更に、エンジンの自動停止によるエンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が比較的低い第3の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、リングギヤの回転速度が比較的低いため、ピニオンの回転速度をリングギヤの回転速度に同期させなくても、ピニオンをリングギヤにスムーズに噛み合わせることができると判断して、アクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータによりピニオンを回転させてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させることができる。これにより、ピニオンをリングギヤにスムーズに噛み合わせて騒音の発生を防止しながら、ピニオンの回転速度をリングギヤの回転速度に同期させる処理を省略することができるため、その分、スタータによるクランキングの開始を早くしてエンジンを速やかに再始動させることができると共に、スタータの電力消費量を低減することができる。
【0014】
また、本発明者らの研究によると、第2の回転速度領域と第3の回転速度領域との間に待機回転速度領域を設けずに、第2の回転速度領域と第3の回転速度領域とを隣接させるように設定した場合には、次のような問題が発生することが判明した。図9に示すように、一般にエンジンの自動停止によるエンジン回転降下期間中にエンジン回転速度は脈動しながら降下するため、第2の回転速度領域と第3の回転速度領域とを隣接させた場合には、エンジン回転速度が第2の回転速度領域と第3の回転速度領域とを行き来しながら低下する。このため、第2の回転速度領域と第3の回転速度領域との境界付近では、エンジン回転速度が第2の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生しても、その後すぐにエンジン回転速度が第3の回転速度領域に入ったり、或は、エンジン回転速度が第3の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生しても、その後すぐにエンジン回転速度が第2の回転速度領域に戻ったりする可能性がある。これにより、エンジン回転速度の予測を必要とする複雑な再始動制御を行わなければ、適正な再始動制御を行うことが困難となり、スムーズにエンジンの再始動を行うことができない。
【0015】
そこで、本発明は、第2の回転速度領域と第3の回転速度領域との間に待機回転速度領域を設定し、この待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、スタータによるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度が第3の回転速度領域になったときに、アクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータによりピニオンを回転させてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させる。これにより、第2の回転速度領域と第3の回転速度領域との間の領域(待機回転速度領域)でエンジン再始動要求が発生した場合でも、エンジン回転速度の予測を必要とする複雑な再始動制御を行うことなく、スムーズにエンジンの再始動を行うことができる。この場合、エンジン回転速度が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生しても、その後、エンジン回転速度が第3の回転速度領域になってから、スタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させることになるが、エンジン回転速度が待機回転速度領域を通過する時間は比較的短いため、エンジン再始動要求からエンジンを再始動させるまでの遅れを許容範囲内に抑えることができる。
【0016】
尚、本発明は、第1の再始動制御手段(スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開してエンジンを再始動させる手段)を備えた構成に限定されず、上記請求項1の構成から第1の再始動制御手段を省略した構成(請求項2の構成)としても良い。
【0017】
更に、請求項3のように、第2の再始動制御手段は、リングギヤの回転速度とピニオンの回転速度との回転速度差が±200rpmの範囲内になったときにピニオンの回転速度がリングギヤの回転速度に同期したと判断するようにすると良い。このようにすれば、ピニオンの回転速度がリングギヤの回転速度に同期したと判断してピニオンをリングギヤに噛み合わせる際の騒音の発生を防止することができる。ここで、リングギヤの回転速度とピニオンの回転速度との回転速度差における「回転速度差」とは、「クランク軸に換算した回転速度差」を意味する(以下、同様)。
【0018】
或は、請求項4のように、第2の再始動制御手段は、リングギヤのピッチ円上の周速度とピニオンのピッチ円上の周速度との周速度差が±3.1m/秒の範囲内になったときにピニオンの回転速度がリングギヤの回転速度に同期したと判断するようにしても良い。このようにしても、前記請求項3とほぼ同じ効果を得ることができる。
【0019】
また、請求項5のように、スタータに、エンジン回転方向においてピニオンからモータへ動力を伝達しないワンウエイクラッチが設けられたシステムの場合には、第2の再始動制御手段は、リングギヤの回転速度がピニオンの回転速度よりも高く且つリングギヤの回転速度とピニオンの回転速度との回転速度差が所定値以下になったときにピニオンの回転速度がリングギヤの回転速度に同期したと判断するようにしても良い。このようにすれば、ピニオンの回転速度がリングギヤの回転速度に同期したと判断してピニオンをリングギヤに噛み合わせる際に、リングギヤの回転速度がピニオンの回転速度よりも高いときにピニオンをリングギヤに噛み合わせるが、ワンウエイクラッチが空転してスタータに加わる衝撃を緩和することができ、その後、フリクションによるエンジン回転速度(リングギヤの回転速度)の低下とモータの回転速度(ピニオンの回転速度)の上昇に伴って、リングギヤの回転速度とピニオンの回転速度との回転速度差が0になったときに、ワンウエイクラッチがロックしてモータからピニオンへ動力が伝達され始める。このような挙動により、ピニオンをリングギヤに比較的スムーズに噛み合わせることができ、スタータの構成部品への衝撃も少なく、強度的に余裕を持たせることができる。
【0020】
この場合、請求項6のように、所定値は、300rpm以下の値に設定すると良く、具体的には、請求項7のように、所定値は、200rpmに設定すると良い。このようにすれば、リングギヤの回転速度とピニオンの回転速度との同期を判断する際の回転速度の検出精度をあまり高くする必要がないため、リングギヤの回転速度を精度良く検出できる高価なクランク角センサやピニオンの回転速度を精度良く検出できる高価な回転速度センサを設ける必要がなく、近年の重要な技術的課題である低コスト化の要求を満たすことができる。
【0021】
或は、請求項8のように、スタータにワンウエイクラッチが設けられたシステムの場合に、第2の再始動制御手段は、リングギヤのピッチ円上の周速度がピニオンのピッチ円上の周速度よりも高く且つリングギヤのピッチ円上の周速度とピニオンのピッチ円上の周速度との周速度差が3.1m/秒の範囲内になったときにピニオンの回転速度がリングギヤの回転速度に同期したと判断するようにしても良い。このようにしても、前記請求項5とほぼ同じ効果を得ることができる。
【0022】
また、請求項9のように、エンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下するエンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第1の回転速度よりも高い第1の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときに、スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開してエンジンを再始動させる第1の再始動制御手段と、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第1の回転速度以下で第2の回転速度よりも高い待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときに、スタータによるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度が第2の回転速度以下で第3の回転速度よりも高い第2の回転速度領域になったときに、モータによりピニオンの回転速度をリングギヤの回転速度に同期させた後にアクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させる待機再始動制御手段とを備えた構成としても良い。
【0023】
このようにすれば、第1の回転速度領域と第2の回転速度領域との間の領域(待機回転速度領域)でエンジン再始動要求が発生した場合でも、エンジン回転速度の予測を必要とする複雑な再始動制御を行うことなく、スムーズにエンジンの再始動を行うことができる。この場合、エンジン回転速度が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生しても、その後、エンジン回転速度が第2の回転速度領域になってから、スタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させることになるが、エンジン回転速度が待機回転速度領域を通過する時間は比較的短いため、エンジン再始動要求からエンジンを再始動させるまでの遅れを許容範囲内に抑えることができる。
【0024】
また、請求項10のように、第1の回転速度は、300〜700rpmの範囲内に設定するようにすると良い。要するに、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第1の回転速度(300〜700rpm)よりも高いときには、スタータによるクランキングを行わなくてもエンジンを再始動できるため、第1の回転速度を300〜700rpmの範囲内に設定すれば、第1の回転速度(300〜700rpm)よりも高い第1の回転速度領域が、スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開してエンジンを再始動できる領域となる。
【0025】
更に、請求項11のように、第3の回転速度は、50〜450rpmの範囲内に設定するようにすると良い。要するに、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第3の回転速度(50〜450rpm)以下に低下すると、ピニオンの回転速度をリングギヤの回転速度に同期させなくても、ピニオンをリングギヤにスムーズに噛み合わせることができるため、第3の回転速度を50〜450rpmの範囲内に設定すれば、第3の回転速度(50〜450rpm)以下の第3の回転速度領域が、ピニオンの回転速度をリングギヤの回転速度に同期させなくても、ピニオンをリングギヤにスムーズに噛み合わせることができる領域となる。
【0026】
また、請求項12のように、第2の回転速度は、第3の回転速度よりも50〜150rpm高い回転速度に設定するようにすると良い。このようにすれば、第2の回転速度以下で第3の回転速度よりも高い待機回転速度領域(又は第1の回転速度以下で第2の回転速度よりも高い待機回転速度領域)を適正に設定することができる。
【0027】
また、請求項13のように、エンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下するエンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第1の回転速度よりも高い第1の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときに、スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開してエンジンを再始動させる第1の再始動制御手段と、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が第1の回転速度以下で第3の回転速度よりも高い待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときに、スタータによるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度が第3の回転速度以下の第3の回転速度領域になったときに、アクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータによりピニオンを回転させてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させる待機再始動制御手段とを備えた構成としても良い。
【0028】
このようにすれば、第1の回転速度領域と第3の回転速度領域との間の領域(待機回転速度領域)でエンジン再始動要求が発生した場合でも、エンジン回転速度の予測を必要とする複雑な再始動制御を行うことなく、スムーズにエンジンの再始動を行うことができる。この場合、エンジン回転速度が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生しても、その後、エンジン回転速度が第3の回転速度領域になってから、スタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させることになるが、エンジン回転速度が待機回転速度領域を通過する時間は比較的短いため、エンジン再始動要求からエンジンを再始動させるまでの遅れを許容範囲内に抑えることができる。
【0029】
この場合も、請求項14のように、第1の回転速度は、300〜700rpmの範囲内に設定すると良く、更に、請求項15のように、第3の回転速度は、50〜450rpmの範囲内に設定すると良い。
【0030】
ところで、エンジン回転が停止する間際に、圧縮上死点(TDC)の直前で圧縮圧によってエンジンの回転方向が逆転する現象が発生して、エンジンの逆回転と正回転を交互に繰り返した後にエンジン回転が停止することがある。このようにエンジンの逆回転と正回転を交互に繰り返すエンジン揺動期間中に、ピニオンをリングギヤに噛み合わせようとすると、エンジンの逆回転中(リングギヤの逆回転中)にピニオンがリングギヤに衝突して、ピニオンに過大な衝撃が加わってスタータが破損する可能性があると共に、大きな騒音が発生するという問題がある。
【0031】
この対策として、エンジン回転が停止する間際にエンジン再始動要求が発生したときには、エンジン揺動期間が過ぎてエンジン回転がほぼ停止するまで待ってから、ピニオンをリングギヤに噛み合わせて、スタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させるようにすることが考えられるが、このようにすると、エンジン再始動要求からエンジンを再始動させるまでの遅れが大きくなってしまう。
【0032】
そこで、請求項16のように、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が0となる直前の所定回転速度まで低下したときに、アクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせて、その後、エンジン再始動要求が発生したときに、モータによりピニオンを回転させてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させる第4の再始動制御手段を備えた構成としても良い。このようにすれば、エンジン回転が停止する間際のエンジン揺動期間よりも前に、ピニオンをリングギヤに噛み合わせておくことができるので、エンジン揺動期間中にピニオンをリングギヤに噛み合わせることを回避して、スタータの破損や騒音の発生を防止することができる。そして、エンジン回転速度が所定回転速度以下に低下した後にエンジン再始動要求が発生したときに、その時点で、スタータによるクランキングを開始してエンジンを速やかに再始動させることができる。
【0033】
この場合、請求項17のように、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が0となる直前の所定回転速度まで低下したときに、アクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせるようにアクチュエータの通電をオンし、該アクチュエータの通電をオンしてから所定時間が経過したとき又はピニオンとリングギヤとの噛合を確認したときに、アクチュエータの通電をオフにするようにしても良い。このようにすれば、アクチュエータの通電をオンしてから所定時間(例えばピニオンとリングギヤとの噛合が完了するのに必要な時間)が経過したとき又はセンサ等によって実際にピニオンとリングギヤとの噛合を確認したときに、アクチュエータの通電をオフしてもピニオンとリングギヤとを噛合状態に保持できると判断して、アクチュエータの通電をオフすることができ、その後、エンジン再始動要求が発生してスタータによるクランキングを開始するまで、アクチュエータの通電をオフに維持することができ、スタータの電力消費量を低減することができる。
【0034】
また、本発明は、エンジンの再始動制御の際にエンジンに設けられたクランク角センサの出力信号に基づいてエンジン回転速度を検出するようにしても良いが、一般的なクランク角センサは、エンジン回転降下期間のエンジン回転速度(つまりアイドル回転速度よりも低いエンジン回転速度)を精度良く検出できないため、エンジンの再始動制御の際にクランク角センサでエンジン回転速度を検出するには、エンジン回転降下期間のエンジン回転速度を精度良く検出できる高価なクランク角センサを設ける必要がある。
【0035】
そこで、請求項18のように、エンジン自動停止要求の発生又はエンジンの燃焼停止(燃料噴射や点火の停止)からの経過時間に基づいてエンジン回転速度を推定するようにしても良い。一般に、エンジン自動停止要求が発生してエンジンの燃焼が停止されてからの時間経過に伴ってエンジン回転速度が降下するため、エンジン自動停止要求の発生又はエンジンの燃焼停止(燃料噴射や点火の停止)からの経過時間からエンジン回転速度を推定することができる。このようにすれば、エンジン回転降下期間のエンジン回転速度を精度良く検出できる高価なクランク角センサを設ける必要がなく、近年の重要な技術的課題である低コスト化の要求を満たすことができる。
【0036】
更に、エンジンの再始動制御の際に、モータの回転速度(ピニオンの回転速度)を検出するセンサの出力信号に基づいてピニオンの回転速度を検出するようにしても良いが、請求項19のように、モータの通電時間と通電電流のうちの少なくとも一方に基づいてピニオンの回転速度を推定するようにしても良い。一般に、モータの通電開始後の時間経過に伴ってモータの回転速度が上昇してピニオンの回転速度が上昇し、その際、モータの通電電流(例えばデューティ比)が大きいほどモータの回転速度が速くなってピニオンの回転速度が速くなるため、モータの通電時間(通電開始後の経過時間)や通電電流からピニオンの回転速度を推定することができる。この場合、モータの回転速度(ピニオンの回転速度)を検出するセンサを省略した構成にすることができ、近年の重要な技術的課題である低コスト化の要求を満たすことができる。
【0037】
また、請求項20のように、エンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下する軌道(以下「エンジン回転降下軌道」という)を予測する回転降下軌道予測手段と、この回転降下軌道予測手段によるエンジン回転降下軌道の予測データ(エンジン回転速度の予測値)に基づいて待機回転速度領域を判定すると共にピニオンの駆動タイミングとモータの駆動タイミングを決定する制御手段とを備えた構成としても良い。このようにすれば、エンジンを自動停止させる際に、エンジン回転速度が脈動しながら降下する軌道を予測できるため、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が脈動しても、ピニオンをリングギヤに飛び込ませて噛み合わせる際のピニオンの駆動タイミング(押し出しタイミング)やモータの駆動タイミングを精度良く制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン始動制御システムの概略構成図である。
【図2】図2は実施例1のエンジン再始動制御を説明するタイムチャートである。
【図3】図3は第2の再始動制御を説明するタイムチャートである。
【図4】図4はピニオンとリングギヤの噛み合い時の音圧を測定した結果を示す図である。
【図5】図5は第3の再始動制御を説明するタイムチャートである。
【図6】図6は実施例1のエンジン再始動制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図7】図7は実施例2のエンジン再始動制御を説明するタイムチャートである。
【図8】図8は実施例2のエンジン再始動制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図9】図9は第2の回転速度領域と第3の回転速度領域とを隣接させた場合の問題を説明するタイムチャートである。
【図10】図10は実施例3のエンジン再始動制御を説明するタイムチャートである。
【図11】図11は実施例3のエンジン再始動制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図12】図12は実施例4のエンジン再始動制御を説明するタイムチャートである。
【図13】図13は実施例4のエンジン再始動制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図14】図14はエンジン回転降下軌道の予測結果を示す図である。
【図15】図15はエンジン回転降下軌道の予測演算方法を説明する図である。
【図16】図16は実施例5のエンジン回転降下軌道予測ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0040】
本発明の実施例1を図1乃至図6に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン始動制御システムの概略構成を説明する。
スタータ11は、いわゆるピニオン押し出し式スタータであり、モータ12と、このモータ12によって回転駆動されるピニオン13と、このピニオン13を押し出す電磁アクチュエータ14等を備えた構成となっている。ピニオン13は、軸方向に移動可能に設けられている。電磁アクチュエータ14には、プランジャ15と、このプランジャ15を駆動するソレノイド16が設けられ、プランジャ15の駆動力がレバー17等を介してピニオン13に伝達されるようになっている。
【0041】
また、バッテリ18と電磁アクチュエータ14との間には、リレー19が設けられ、ECU20(エンジン制御回路)によってリレー19をオンして電磁アクチュエータ14の通電をオンすることで、プランジャ15をピニオン押出方向に移動させてピニオン13を押し出して、該ピニオン13をエンジン21のクランク軸22に連結されたリングギヤ23に噛み合わせるようになっている。
【0042】
更に、バッテリ18とモータ12との間には、機械式のリレー25と、このリレー25をオン/オフするためのスイッチング素子24が設けられ、ECU20によってスイッチング素子24をオンしてリレー25をオンすることで、モータ12の通電をオンしてピニオン13を回転駆動するようになっている。
【0043】
ECU20は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じてエンジン21の燃料噴射量や点火時期を制御する。
【0044】
また、ECU20は、図示しないエンジン自動停止始動制御ルーチンを実行することで、エンジン自動停止始動制御(いわゆるアイドルストップ制御)を実行する。このエンジン自動停止始動制御では、車両の走行中に運転者が減速操作(アクセル全閉、ブレーキ操作等)を行って減速要求が発生したときや、車両を停車させたときにエンジン自動停止要求が発生したと判断して、エンジン21の燃焼(燃料噴射及び/又は点火)を停止させてエンジン21を自動的に停止させる。その後、車両の走行中に減速要求が解除されたときや、車両の停止中に運転者が車両発進のための準備操作(ブレーキ解除、シフトレバー操作等)や発進操作(アクセル踏み込み等)を行ったときにエンジン再始動要求が発生したと判断して、エンジン21を再始動させる。
【0045】
その際、本実施例1では、ECU20により後述する図6のエンジン再始動制御ルーチンを実行することで、エンジン21の再始動制御を次のようにして行う。
図2のタイムチャートに示すように、エンジン運転中にエンジン自動停止要求が発生すると、エンジン21の燃焼が停止されてエンジン21が自動停止される。
【0046】
(1) エンジン21の自動停止によりエンジン回転速度Ne が降下するエンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 (例えば500rpm)よりも高い第1の回転速度領域(Ne >N1 )でエンジン再始動要求が発生したときには、スタータ11によるクランキングを行わなくてもエンジン21を再始動できると判断して、第1の再始動制御を実行する。この第1の再始動制御では、スタータ11によるクランキングを行わずに燃料噴射及び点火を再開してエンジン21を再始動させる。
【0047】
これにより、エンジン再始動要求が発生したときに、直ちにエンジン21の燃焼を再開してエンジン21を速やかに再始動させることができる。しかも、スタータ11によるクランキングを行わないため、スタータ11の電力消費量を0にすることができると共に、ピニオン13とリングギヤ23の回転速度の差が大きい状態でピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせることを回避して、騒音の発生を防止することができる。
【0048】
(2) エンジン21の自動停止によるエンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 以下で第2の回転速度N2 (例えば350rpm)よりも高い第2の回転速度領域(N1 ≧Ne >N2 )でエンジン再始動要求が発生したときには、リングギヤ23の回転速度が比較的高いため、ピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させないと、ピニオン13をリングギヤ23にスムーズに噛み合わせることができないと判断して、第2の再始動制御を実行する。この第2の再始動制御では、モータ12によりピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させて両者の回転速度の差を小さくした後に、電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。
【0049】
具体的には、図3に示すように、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した時点t1 で、モータ12の通電をオンしてモータ12によりピニオン13を回転させ、リングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差が±200rpmの範囲内になった時点t2 で、ピニオン13の回転速度がリングギヤ23の回転速度に同期したと判断して、電磁アクチュエータ14の通電をオンしてピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。ここで、リングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差における「回転速度差」とは、「クランク軸22に換算した回転速度差」を意味する(以下、同様)。
【0050】
このようにすれば、ピニオン13をリングギヤ23にスムーズに噛み合わせて騒音の発生を防止しながら、エンジン再始動要求からエンジン21を再始動させるまでの遅れを少なくすることができる。しかも、リングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との同期を判断する際の回転速度の検出精度をあまり高くする必要がないため、例えば、リングギヤ23の回転速度を精度良く検出できる高価なクランク角センサやピニオン13の回転速度を精度良く検出できる高価な回転速度センサを設ける必要がなく、近年の重要な技術的課題である低コスト化の要求を満たすことができる。
【0051】
本実施例1では、リングギヤ23の直径(歯先の外径)が300mmで、ピニオン13の直径(歯先の外径)が30mmである。この場合、例えば、リングギヤ23の回転速度が300rpmで、ピニオン13の回転速度が1000rpmのときに、リングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差(クランク軸22に換算した回転速度差)が200rpmになる。このとき、リングギヤ23の直径が300mmで回転速度が300rpmであるため、リングギヤ23のピッチ円上(ピニオン13の歯車ところがり接触する仮想の円上)の周速度は約4.7m/秒となる。また、ピニオン13の直径が30mmで回転速度が1000rpmであるため、ピニオン13のピッチ円上(リングギヤ23の歯車ところがり接触する仮想の円上)の周速度は約1.6m/秒となる。これにより、リングギヤ23のピッチ円上の周速度とピニオン13のピッチ円上の周速度との周速度差は約3.1m/秒となる。従って、リングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差が±200rpmの範囲内になるとは、リングギヤ23のピッチ円上の周速度とピニオン13のピッチ円上の周速度との周速度差が±3.1m/秒の範囲内になることである。
【0052】
本発明者は、ピニオン13とリングギヤ23の噛み合い時の音圧を測定する試験を行ったので、その試験結果を図4に示す。この試験は、直径300mmのリングギヤ23と直径30mmのピニオン13を用いて、ピニオン13とリングギヤ23を噛み合わせる際のリングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差を変化させて、回転速度差毎にピニオン13とリングギヤ23の噛み合い時の音圧を測定した。また、ピニオン13とリングギヤ23の噛み合い時の音圧は、噛み合い位置から15cm離れた位置にマイクを設置して測定した。
【0053】
図4に示す試験結果より、リングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差が±250rpmの範囲内の場合、好ましくはリングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差が±200rpmの範囲内(つまりリングギヤ23のピッチ円上の周速度とピニオン13のピッチ円上の周速度との周速度差が±3.1m/秒の範囲内)の場合に、ピニオン13とリングギヤ23の噛み合い時の音圧を十分に低減できることが確認された。
【0054】
尚、スタータ11に、エンジン回転方向においてモータ12からピニオン13へ動力を伝達するが、ピニオン13からモータ12へ動力を伝達しないワンウエイクラッチが設けられたシステムの場合には、第2の再始動制御の際に、リングギヤ23の回転速度がピニオン13の回転速度よりも高く且つリングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差が所定値以下になったときにピニオン13の回転速度がリングギヤ23の回転速度に同期したと判断するようにしても良い。この場合、所定値は、300rpm以下の値(例えば200rpm)に設定すると良い。ここで、リングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差が200rpm以下になるとは、リングギヤ23のピッチ円上の周速度とピニオン13のピッチ円上の周速度との周速度差が3.1m/秒以下になることである。
【0055】
このようにすれば、ピニオン13の回転速度がリングギヤ23の回転速度に同期したと判断してピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせる際に、リングギヤ23の回転速度がピニオン13の回転速度よりも高いときにピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせるが、ワンウエイクラッチが空転してスタータ11に加わる衝撃を緩和することができ、その後、フリクションによるエンジン回転速度(リングギヤ23の回転速度)の低下とモータ12の回転速度(ピニオン13の回転速度)の上昇に伴って、リングギヤ23の回転速度とピニオン13の回転速度との回転速度差が0になったときに、ワンウエイクラッチがロックしてモータ12からピニオン13へ動力が伝達され始める。このような挙動により、ピニオン13をリングギヤ23に比較的スムーズに噛み合わせることができ、スタータ11の構成部品への衝撃も少なく、強度的に余裕を持たせることができる。
【0056】
(3) エンジン21の自動停止によるエンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 よりも低い第3の回転速度N3 (例えば250rpm)以下の第3の回転速度領域(N3 ≧Ne )でエンジン再始動要求が発生したときには、リングギヤ23の回転速度が比較的低いため、ピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させなくても、ピニオン13をリングギヤ23にスムーズに噛み合わせることができると判断して、第3の再始動制御を実行する。この第3の再始動制御では、電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。
【0057】
具体的には、図5に示すように、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した時点t3 で、電磁アクチュエータ14の通電をオンしてピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせ、ピニオン13とリングギヤ23の噛み合わせが完了した時点t4 又はその噛み合わせの途中の時点で、モータ12の通電をオンしてモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。
【0058】
このようにすれば、ピニオン13をリングギヤ23にスムーズに噛み合わせて騒音の発生を防止しながら、ピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させる処理を省略することができるため、その分、スタータ11によるクランキングの開始を早くしてエンジン21を速やかに再始動させることができると共に、スタータ11の電力消費量を低減することができる。
【0059】
(4) エンジン21の自動停止によるエンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域と第3の回転速度領域との間に設定された領域、つまり第2の回転速度N2 以下で第3の回転速度N3 よりも高い待機回転速度領域(N2 ≧Ne >N3 )でエンジン再始動要求が発生したときには、待機再始動制御を実行する。この待機再始動制御では、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下の第3の回転速度領域になったときに、第3の再始動制御と同じように電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。
【0060】
これにより、第2の回転速度領域と第3の回転速度領域との間の領域(待機回転速度領域)でエンジン再始動要求が発生した場合でも、エンジン回転速度Ne の予測を必要とする複雑な再始動制御を行うことなく、スムーズにエンジン21の再始動を行うことができる。この場合、エンジン回転速度Ne が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生しても、その後、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域になってから、スタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させることになるが、エンジン回転速度Ne が待機回転速度領域を通過する時間は比較的短いため、エンジン再始動要求からエンジン21を再始動させるまでの遅れを許容範囲内に抑えることができる。
【0061】
尚、エンジン21の再始動制御の際に、エンジン回転速度Ne (リングギヤ23の回転速度)は、例えば、エンジン自動停止要求の発生(又はエンジン21の燃焼停止)からの経過時間をパラメータとするエンジン回転速度Ne のマップを参照して、エンジン自動停止要求の発生(又はエンジン21の燃焼停止)からの経過時間に応じたエンジン回転速度Ne を推定(算出)する。エンジン回転速度Ne のマップは、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU20のROMに記憶されている。一般に、エンジン自動停止要求が発生してエンジン21の燃焼が停止されてからの時間経過に伴ってエンジン回転速度Ne が低下するため、エンジン自動停止要求の発生(又はエンジン21の燃焼停止)からの経過時間からエンジン回転速度Ne を推定することができる。
【0062】
また、ピニオン13の回転速度は、例えば、モータ12の通電時間(通電開始後の経過時間)と通電電流(例えばデューティ比)とをパラメータとするピニオン13の回転速度のマップを参照して、モータ12の通電時間と通電電流とに応じたピニオン13の回転速度を推定(算出)する。ピニオン13の回転速度のマップは、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU20のROMに記憶されている。一般に、モータ12の通電開始後の時間経過に伴ってモータ12の回転速度が上昇してピニオン13の回転速度が上昇し、その際、モータ12の通電電流が大きいほどモータ12の回転速度が速くなってピニオン13の回転速度が速くなるため、モータ12の通電時間や通電電流からピニオン13の回転速度を推定することができる。
【0063】
以上説明した本実施例1のエンジン21の再始動制御は、ECU20によって図6のエンジン再始動制御ルーチンに従って実行される。以下、図6のエンジン再始動制御ルーチンの処理内容を説明する。
【0064】
図6に示すエンジン再始動制御ルーチンは、ECU20の電源オン中に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、エンジン自動停止制御中(例えば、エンジン21の燃焼停止から再始動制御が開始されるまでの期間)であるか否かを判定し、エンジン自動停止制御中ではないと判定されれば、ステップ102以降の再始動制御に関する処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0065】
一方、上記ステップ101で、エンジン自動停止制御中であると判定された場合には、ステップ102以降の再始動制御に関する処理を次のようにして実行する。まず、ステップ102で、エンジン再始動要求が発生したか否かを判定し、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点で、ステップ103に進み、現在のエンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 よりも高いか否かによって、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度領域(Ne >N1 )であるか否かを判定する。
【0066】
ここで、第1の回転速度N1 は、例えば300〜700rpmの範囲内(本実施例1では500rpm)に設定されている。エンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 (300〜700rpm)よりも高いときには、スタータ11によるクランキングを行わなくても燃焼(燃料噴射・点火)を再開するだけでエンジン21を再始動できるため、第1の回転速度N1 を300〜700rpmの範囲内に設定すれば、第1の回転速度N1 (300〜700rpm)よりも高い第1の回転速度領域が、スタータ11によるクランキングを行わずに燃料噴射及び点火を再開してエンジン21を再始動できる領域となる。
【0067】
エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、ステップ103で、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第1の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、スタータ11によるクランキングを行わなくてもエンジン21を再始動できると判断して、ステップ104に進み、第1の再始動制御を実行する。この第1の再始動制御では、スタータ11によるクランキングを行わずに燃料噴射及び点火を再開してエンジン21を再始動させる。このステップ104の処理が特許請求の範囲でいう第1の再始動制御手段としての役割を果たす。
【0068】
この後、ステップ105に進み、エンジン21の始動が完了したか否かを、例えばエンジン回転速度Ne が始動完了判定値を越えたか否かによって判定し、エンジン21の始動が完了していないと判定された場合には、上記ステップ103に戻り、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度領域であれば、第1の再始動制御を継続する(ステップ103、104)。その後、ステップ105で、エンジン21の始動が完了したと判定されれば、本ルーチンを終了する。
【0069】
一方、上記ステップ103で、現在のエンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 以下であると判定された場合には、ステップ106に進み、現在のエンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 よりも高いか否かによって、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域(N1 ≧Ne >N2 )であるか否かを判定する。ここで、第2の回転速度N2 は、第3の回転速度N3 よりも例えば50〜150rpm高い回転速度(本実施例1では350rpm)に設定されている。
【0070】
エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、ステップ106で、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、リングギヤ23の回転速度が比較的高いため、ピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させないと、ピニオン13をリングギヤ23にスムーズに噛み合わせることができないと判断して、ステップ107に進み、第2の再始動制御を実行する。この第2の再始動制御では、モータ12によりピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させて両者の回転速度の差を小さくした後に電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。このステップ107の処理が特許請求の範囲でいう第2の再始動制御手段としての役割を果たす。
【0071】
この後、ステップ108に進み、エンジン21の始動が完了したか否かを判定し、エンジン21の始動が完了したと判定されれば、本ルーチンを終了するが、エンジン21の始動が完了していないと判定されれば、ステップ110に進む。
【0072】
一方、上記ステップ106で、現在のエンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 以下であると判定された場合には、ステップ109に進み、現在のエンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下であるか否かによって、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域(N3 ≧Ne )であるか待機回転速度領域(N2 ≧Ne >N3 )であるかを判定する。
【0073】
ここで、第3の回転速度N3 は、例えば50〜450rpmの範囲内(本実施例1では250rpm)に設定されている。エンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N2 (50〜450rpm)以下に低下すれば、ピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させなくても、ピニオン13をリングギヤ23にスムーズに噛み合わせることができるため、第3の回転速度N3 を50〜450rpmの範囲内に設定すれば、第3の回転速度N3 (50〜450rpm)以下の第3の回転速度領域が、ピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させなくても、ピニオン13をリングギヤ23にスムーズに噛み合わせることができる領域となる。
【0074】
エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、ステップ109で、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下であると判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、リングギヤ23の回転速度が比較的低いため、ピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させなくても、ピニオン13をリングギヤ23にスムーズに噛み合わせることができると判断して、ステップ110に進み、第3の再始動制御を実行する。この第3の再始動制御では、電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。このステップ110の処理が特許請求の範囲でいう第3の再始動制御手段としての役割を果たす。
【0075】
これに対して、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、上記ステップ109で、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、ステップ109で、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下になったと判定されたとき(つまりエンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域まで低下したとき)に、ステップ110に進み、待機再始動制御を実行する。この待機再始動制御では、第3の再始動制御と同じように電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。このステップ110の処理が特許請求の範囲でいう待機再始動制御手段としての役割を果たす。
【0076】
この後、ステップ111に進み、エンジン21の始動が完了したか否かを判定し、エンジン21の始動が完了していないと判定された場合には、上記ステップ110に戻り、第3の再始動制御又は待機再始動制御を継続する。その後、ステップ111で、エンジン21の始動が完了したと判定されれば、本ルーチンを終了する。
【0077】
以上説明した本実施例1では、エンジン21の自動停止によるエンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、スタータ11によるクランキングを行わずに燃料噴射及び点火を再開してエンジン21を再始動させる第1の再始動制御を実行し、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、ピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させた後にピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる第2の再始動制御を実行する。また、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、ピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる第3の再始動制御を実行し、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域と第3の回転速度領域との間に設定された待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域になったときに、ピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる待機再始動制御を実行する。これにより、エンジン回転降下期間中にエンジン再始動要求が発生したときに、そのときのエンジン回転速度Ne に応じた適正なエンジン再始動制御を行うことができて、スムーズにエンジン21の再始動を行うことができ、エンジン21の再始動の遅れや騒音の発生を防止できると共に、スタータ11の電力消費量を低減することができる。
【0078】
また、本実施例1では、エンジン再始動制御の際に、エンジン自動停止要求の発生(又はエンジン21の燃焼停止)からの経過時間に基づいてエンジン回転速度を推定するようにしたので、例えば、エンジン回転降下期間のエンジン回転速度を精度良く検出できる高価なクランク角センサを設ける必要がなく、更に、モータ12の通電時間と通電電流とに基づいてピニオン13の回転速度を推定するようにしたので、モータ12の回転速度(ピニオン13の回転速度)を検出するセンサを省略した構成にすることができ、近年の重要な技術的課題である低コスト化の要求を満たすことができる。
【0079】
尚、上記実施例1では、第1〜第3の再始動制御と待機再始動制御を実行可能な構成としたが、第1の再始動制御を実行する機能を省略して、第2及び第3の再始動制御と待機再始動制御を実行可能な構成としても良い。
【実施例2】
【0080】
次に、図7及び図8を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0081】
本実施例2では、ECU20により後述する図8のエンジン再始動制御ルーチンを実行することで、図7のタイムチャートに示すように、エンジン21の自動停止によるエンジン回転降下期間中に、エンジン再始動要求が発生せずにエンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 (エンジン回転速度Ne が0となる直前の回転速度であり、例えば100rpm)まで低下したときには、第4の再始動制御を実行する。この第4の再始動制御では、エンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 まで低下したときに、電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせて、その後、エンジン再始動要求が発生したときに、モータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させるようにしている。
【0082】
具体的には、エンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 まで低下した時点t5 で、電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせるように電磁アクチュエータ14の通電をオンし、該電磁アクチュエータ14の通電をオンしてから所定時間(例えばピニオン13とリングギヤ23との噛合が完了するのに必要な時間)が経過した時点t6 で、電磁アクチュエータ14の通電をオフしてもピニオン13とリングギヤ23とを噛合状態に保持できると判断して、電磁アクチュエータ14の通電をオフにする。その後、エンジン再始動要求が発生した時点で、電磁アクチュエータ14の通電をオンすると共に、モータ12の通電をオンしてピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。
【0083】
このようにすれば、エンジン回転が停止する間際のエンジン揺動期間(エンジン21の逆回転と正回転を交互に繰り返す期間)よりも前に、ピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせておくことができるので、エンジン揺動期間中にピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせることを回避して、スタータ11の破損や騒音の発生を防止することができる。そして、エンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 以下に低下した後にエンジン再始動要求が発生したときに、その時点で、スタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を速やかに再始動させることができる。
【0084】
以下、本実施例2でECU20が実行する図8のエンジン再始動制御ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンでは、まず、ステップ101で、エンジン自動停止制御中であるか否かを判定し、エンジン自動停止制御中であると判定されれば、ステップ101aに進み、エンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 よりも高いか否かを判定する。ここで、第4の回転速度N4 は、エンジン回転速度Ne が0となる直前の回転速度であり、例えば100rpmに設定されている。
【0085】
このステップ101aで、エンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 よりも高いと判定された場合には、ステップ102に進み、エンジン再始動要求が発生したか否かを判定する。
【0086】
この後、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、ステップ103で、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第1の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、第1の再始動制御を実行してエンジン21を再始動させる(ステップ104、105)。
【0087】
また、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、ステップ106で、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、第2の再始動制御を実行してエンジン21を再始動させる(ステップ107、108)。
【0088】
また、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、ステップ109で、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下であると判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、第3の再始動制御を実行してエンジン21を再始動させる(ステップ110、111)。
【0089】
一方、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、上記ステップ109で、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、ステップ109でエンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下になったと判定されたとき(つまりエンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域まで低下したとき)に、待機再始動制御を実行してエンジン21を再始動させる(ステップ110、111)。
【0090】
これに対して、上記ステップ101aで、エンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 以下であると判定された場合(つまりエンジン再始動要求が発生せずにエンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 以下に低下した場合)には、ステップ112に進み、第4の再始動制御を実行する。この第4の再始動制御では、エンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 まで低下したときに、電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせて、その後、エンジン再始動要求が発生したときに、モータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。
【0091】
以上説明した本実施例2では、第4の再始動制御により、エンジン21の自動停止によるエンジン回転降下期間中にエンジン再始動要求が発生せずにエンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 まで低下したときに、ピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせるようにしたので、エンジン回転が停止する間際のエンジン揺動期間(エンジン21の逆回転と正回転を交互に繰り返す期間)よりも前に、ピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせておくことができ、エンジン揺動期間中にピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせることを回避して、スタータ11の破損や騒音の発生を防止できる。そして、その後、エンジン再始動要求が発生したときに、ピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させるようにしたので、エンジン21を速やかに再始動させることができる。
【0092】
また、本実施例2では、第4の再始動制御により、エンジン回転速度Ne が第4の回転速度N4 まで低下した時点で電磁アクチュエータ14の通電をオンし、該電磁アクチュエータ14の通電をオンしてから所定時間が経過した時点で電磁アクチュエータ14の通電をオフにするようにしたので、その後、エンジン再始動要求が発生してスタータ11によるクランキングを開始するまで、電磁アクチュエータ14の通電をオフに維持することができ、スタータ11の電力消費量を低減することができる。
【0093】
尚、上記実施例2では、第4の再始動制御の際に、電磁アクチュエータ14の通電をオンした後に、電磁アクチュエータ14の通電をオンしてから所定時間が経過した時点で電磁アクチュエータ14の通電をオフするようにしたが、例えば、ピニオン13とリングギヤ23との噛合を確認可能なセンサを設け、このセンサで実際にピニオン13とリングギヤ23との噛合を確認した時点で電磁アクチュエータ14の通電をオフするようにしても良い。
【0094】
また、上記実施例2では、第1〜第4の再始動制御と待機再始動制御を実行可能な構成としたが、第1の再始動制御を実行する機能を省略して、第2〜第4の再始動制御と待機再始動制御を実行可能な構成としても良い。
【実施例3】
【0095】
次に、図10及び図11を用いて本発明の実施例3を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0096】
本実施例3では、ECU20により後述する図11のエンジン再始動制御ルーチンを実行することで、図10のタイムチャートに示すように、エンジン21の自動停止によるエンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度領域と第2の回転速度領域との間に設定された領域、つまり第1の回転速度N1 以下で第2の回転速度N2 (例えば400rpm)よりも高い待機回転速度領域(N1 ≧Ne >N2 )でエンジン再始動要求が発生したときには、待機再始動制御を実行する。この待機再始動制御では、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 以下で第3の回転速度N3 よりも高い第2の回転速度領域(N2 ≧Ne >N3 )になったときに、第2の再始動制御と同じようにモータ12によりピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させて両者の回転速度の差を小さくした後に、電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。
【0097】
以下、本実施例3でECU20が実行する図11のエンジン再始動制御ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンでは、まず、ステップ201で、エンジン自動停止制御中であるか否かを判定し、エンジン自動停止制御中であると判定されれば、ステップ202に進み、エンジン再始動要求が発生したか否かを判定し、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点で、ステップ203に進み、現在のエンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 よりも高いか否かを判定する。
【0098】
エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、ステップ203で、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第1の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、第1の再始動制御を実行して、スタータ11によるクランキングを行わずに燃料噴射及び点火を再開してエンジン21を再始動させる(ステップ204、205)。
【0099】
一方、上記ステップ203で、現在のエンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 以下であると判定された場合には、ステップ206に進み、現在のエンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 以下であるか否かを判定し、第2の回転速度N2 以下であると判定されれば、ステップ207に進み、現在のエンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 よりも高いか否かを判定する。
【0100】
エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、上記ステップ206でエンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 以下であると判定され、且つ、上記ステップ207でエンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、第2の再始動制御を実行して、モータ12によりピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させて両者の回転速度の差を小さくした後に電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる(ステップ208、209)。
【0101】
これに対して、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、上記ステップ206で、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、ステップ206で、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度N2 以下になったと判定されたとき(つまりエンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域まで低下したとき)に、待機再始動制御を実行して、第2の再始動制御と同じようにモータ12によりピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させて両者の回転速度の差を小さくした後に電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる(ステップ208、209)。
【0102】
一方、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、上記ステップ207で、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下であると判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、第3の再始動制御を実行して、電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる(210、211)。
【0103】
以上説明した本実施例3では、第1の回転速度領域と第2の回転速度領域との間に待機回転速度領域を設定し、この待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域になったときに、第2の再始動制御と同じようにモータ12によりピニオン13の回転速度をリングギヤ23の回転速度に同期させて両者の回転速度の差を小さくした後に電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる待機再始動制御を実行するようにしたので、第1の回転速度領域と第2の回転速度領域との間の領域(待機回転速度領域)でエンジン再始動要求が発生した場合でも、エンジン回転速度Ne の予測を必要とする複雑な再始動制御を行うことなく、スムーズにエンジン21の再始動を行うことができる。この場合、エンジン回転速度Ne が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生しても、その後、エンジン回転速度Ne が第2の回転速度領域になってから、スタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させることになるが、エンジン回転速度Ne が待機回転速度領域を通過する時間は比較的短いため、エンジン再始動要求からエンジン21を再始動させるまでの遅れを許容範囲内に抑えることができる。
【0104】
尚、上記実施例3では、第1〜第3の再始動制御と待機再始動制御を実行可能な構成としたが、更に、上記実施例2で説明した第4の再始動制御を実行可能な構成としても良い。
【実施例4】
【0105】
次に、図12及び図13を用いて本発明の実施例4を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0106】
本実施例4では、ECU20により後述する図13のエンジン再始動制御ルーチンを実行することで、図12のタイムチャートに示すように、エンジン21の自動停止によるエンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度領域と第3の回転速度領域との間に設定された領域、つまり第1の回転速度N1 以下で第3の回転速度N3 よりも高い待機回転速度領域(N1 ≧Ne >N3 )でエンジン再始動要求が発生したときには、待機再始動制御を実行する。この待機再始動制御では、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下の第3の回転速度領域になったときに、第3の再始動制御と同じように電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる。
【0107】
以下、本実施例4でECU20が実行する図13のエンジン再始動制御ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンでは、まず、ステップ301で、エンジン自動停止制御中であるか否かを判定し、エンジン自動停止制御中であると判定されれば、ステップ302に進み、エンジン再始動要求が発生したか否かを判定し、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点で、ステップ303に進み、現在のエンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 よりも高いか否かを判定する。
【0108】
エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、ステップ303で、エンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第1の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、第1の再始動制御を実行して、スタータ11によるクランキングを行わずに燃料噴射及び点火を再開してエンジン21を再始動させる(ステップ304、305)。
【0109】
一方、上記ステップ303で、現在のエンジン回転速度Ne が第1の回転速度N1 以下であると判定された場合には、ステップ306に進み、現在のエンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下であるか否かを判定する。
【0110】
エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、上記ステップ306で、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下であると判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、第3の再始動制御を実行して、電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる(307、308)。
【0111】
これに対して、エンジン再始動要求が発生したと判定された時点において、上記ステップ306で、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 よりも高いと判定された場合(つまりエンジン回転速度Ne が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生した場合)には、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、ステップ306で、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度N3 以下になったと判定されたとき(つまりエンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域まで低下したとき)に、待機再始動制御を実行して、第3の再始動制御と同じように電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる(307、308)。
【0112】
以上説明した本実施例4では、第1の回転速度領域と第3の回転速度領域との間に待機回転速度領域を設定し、この待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生したときには、スタータ11によるクランキングを行わずに、その後、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域になったときに、第3の再始動制御と同じように電磁アクチュエータ14によりピニオン13をリングギヤ23に噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中にモータ12によりピニオン13を回転させてスタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させる待機再始動制御を実行するようにしたので、第1の回転速度領域と第3の回転速度領域との間の領域(待機回転速度領域)でエンジン再始動要求が発生した場合でも、エンジン回転速度Ne の予測を必要とする複雑な再始動制御を行うことなく、スムーズにエンジン21の再始動を行うことができる。この場合、エンジン回転速度Ne が待機回転速度領域でエンジン再始動要求が発生しても、その後、エンジン回転速度Ne が第3の回転速度領域になってから、スタータ11によるクランキングを開始してエンジン21を再始動させることになるが、エンジン回転速度Ne が待機回転速度領域を通過する時間は比較的短いため、エンジン再始動要求からエンジン21を再始動させるまでの遅れを許容範囲内に抑えることができる。
【0113】
尚、上記実施例4では、第1及び第3の再始動制御と待機再始動制御を実行可能な構成としたが、更に、上記実施例2で説明した第4の再始動制御を実行可能な構成としても良い。
【0114】
また、上記各実施例1〜4では、エンジン21の再始動制御の際に、エンジン自動停止要求の発生(又はエンジン21の燃焼停止)からの経過時間に基づいてエンジン回転速度Ne を推定(算出)し、モータ12の通電時間と通電電流に基づいてピニオン13の回転速度を推定(算出)するようにしたが、これに限定されず、例えば、クランク角センサの出力信号に基づいてエンジン回転速度を検出するようにしたり、モータの回転速度(ピニオン13の回転速度)を検出するセンサの出力信号に基づいてピニオン13の回転速度を検出するようにしても良い。
【実施例5】
【0115】
次に、図14乃至図16を用いて本発明の実施例5を説明する。
本実施例5では、上記各実施例1〜4のいずれかのエンジン21の再始動制御を実行するシステムにおいて、ECU20は、エンジン21の自動停止によりエンジン回転速度が降下する軌道(以下「エンジン回転降下軌道」という)を予測する回転降下軌道予測手段として機能し、更に、そのエンジン回転降下軌道の予測データ(エンジン回転速度の予測値)に基づいて第1〜第4の回転速度領域や待機回転速度領域を判定すると共にピニオン13の駆動タイミングとモータ12の駆動タイミングを決定する制御手段としても機能する。
【0116】
ここで、本実施例5のエンジン回転降下軌道の予測方法を説明する。
以下の説明では、クランクパルスが30℃A毎に出力されるクランク角センサ(図示せず)を用いた例を説明する。これにより、エンジン自動停止時に、エンジン回転速度が降下する期間に、クランク角センサからクランクパルスがECU20に入力される30℃A毎に次式により角速度ω[rad/sec]を算出する。
ω=30×2π/(360×tp )
tp :クランクパルス間隔[sec]
【0117】
上式により、前回の180℃A区間[i-1] のTDC後のクランク角0℃Aの角速度ω[0,i-1] 、クランク角30℃Aの角速度ω[30,i-1]、クランク角60℃Aの角速度ω[60,i-1]、クランク角90℃Aの角速度ω[90,i-1]、クランク角120℃Aの角速度ω[120,i-1] 、クランク角150℃Aの角速度ω[150,i-1] 、今回の180℃A区間[i] のTDC後のクランク角0℃Aの角速度ω[0,i] を算出する。
【0118】
更に、前回の180℃A区間[i-1] のTDC後のクランク角0℃Aから30℃AまでのロストルクT[0-30,i-1]、クランク角30℃Aから60℃AまでのロストルクT[30-60,i-1] 、クランク角60℃Aから90℃AまでのロストルクT[60-90,i-1] 、クランク角90℃Aから120℃AまでのロストルクT[90-120,i-1]、クランク角120℃Aから150℃AまでのロストルクT[120-150,i-1] 、クランク角150℃Aから今回の180℃A区間[i] のTDC後の0℃AまでのロストルクT[150-0,i-1] を算出する。
【0119】
T[0-30,i-1]=−J・(ω[30,i-1]2 −ω[0,i-1] 2 )/2
T[30-60,i-1] =−J・(ω[60,i-1]2 −ω[30,i-1]2 )/2
T[60-90,i-1] =−J・(ω[90,i-1]2 −ω[60,i-1]2 )/2
T[90-120,i-1]=−J・(ω[120,i-1] 2 −ω[90,i-1]2 )/2
T[120-150,i-1] =−J・(ω[150,i-1] 2 −ω[120,i-1] 2 )/2
T[150-0,i-1] =−J・(ω[0,i] 2 −ω[150,i-1] 2 )/2
【0120】
ここで、Jはエンジン21のイナーシャである。これらのロストルクT[0-30,i-1]〜T[150-0,i-1] の算出値は、それぞれレジスタに更新記憶される(図15参照)。
そして、今回の180℃A区間[i] のTDC後の30℃A(現時点)で、角速度ω[30,i]を算出すると共に、ロストルクT[0-30,i]を同様に算出し、このロストルクT[0-30,i]をレジスタに更新記憶する。
【0121】
その後、図15に示すように、前回の180℃A区間[i-1] のクランク角30℃Aから60℃AまでのロストルクT[30-60,i-1] を用いて、今回の180℃A区間[i] のTDC後のクランク角60℃Aの予測角速度ω'[60,i] を演算すると共に、クランク角30℃Aから60℃Aに到達するまでの予測到達時間t[30-60,i] を演算し、更に、前回の180℃A区間[i-1] のクランク角60℃Aから90℃AまでのロストルクT[60-90,i-1] と上記予測角速度ω'[60,i] を用いて、今回の180℃A区間[i] のTDC後のクランク角90℃Aの予測角速度ω'[90,i] を演算すると共に、クランク角60℃Aから90℃Aに到達するまでの予測到達時間t[60-90,i] を演算し、更に、前回の180℃A区間[i-1] のクランク角90℃Aから120℃AまでのロストルクT[90-120,i-1]と上記予測角速度ω'[90,i] を用いて、今回の180℃A区間[i] のTDC後のクランク角120℃Aの予測角速度ω'[120,i]を演算すると共に、クランク角90℃Aから120℃Aに到達するまでの予測到達時間t[90-120,i]を演算するという処理を何回も繰り返すことで、エンジン回転降下軌道を予測する(図14参照)。
【0122】
この予測演算は、クランクパルス入力毎(30℃A毎)に次のクランクパルスが入力されるまでの時間を利用して実行され、その都度、エンジン回転降下軌道の予測データが更新される。次のクランクパルスが入力されるまでの演算時間に余裕があれば、エンジン回転が停止するまでのエンジン回転降下軌道を予測するが、演算時間が足りない場合は、予測演算を途中で打ち切って、次のクランク角での実角速度を用いた新たな予測演算に移行する。尚、角速度をエンジン回転速度に換算して予測演算を行うようにしても良いことは言うまでもない。
【0123】
以上説明した本実施例5のエンジン回転降下軌道の予測は、ECU20によって図16のエンジン回転降下軌道予測ルーチンに従って実行される。以下、図16のルーチンの処理内容を説明する。
【0124】
図16のエンジン回転降下軌道予測ルーチンは、エンジン運転中(ECU20の電源オン期間中)に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう回転降下軌道予測手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ401で、自動停止要求(燃料噴射停止)が発生したか否かを判定し、自動停止要求が発生していなければ、そのまま本ルーチンを終了する。
【0125】
その後、自動停止要求が発生した時点で、ステップ402に進み、クランク角センサからクランクパルスがECU20に入力されたか否かを判定し、クランクパルスが入力されるまで待機する。そして、クランクパルスが入力される毎に、ステップ403に進み、今回のクランクパルス入力時の角速度ωを算出する。
ω=30×2π/(360×tp )
tp :クランクパルス間隔[sec]
【0126】
この後、ステップ404に進み、レジスタに記憶されたエンジン21のロストルクを読み込む。このロストルクは、150℃A前のクランクパルス入力時に算出してレジスタに記憶したロストルクを用いる。この後、ステップ405に進み、ロストルクを用いて、次のクランクパルスの入力タイミングでの予測角速度ω' を算出すると共に、次のクランクパルスの入力タイミングまでの予測到達時間tを算出する。
【0127】
この後、ステップ406に進み、次のクランクパルスの入力タイミングでの予測角速度ω' が0以下であるか否かで、エンジン回転停止に至るまでのエンジン回転降下軌道を予測し終えたか否かを判定する。このステップ406で、予測角速度ω' が0以下でないと判定されれば、ステップ407に進み、エンジン21のロストルクを算出してレジスタに記憶して、前述したステップ404、405の処理を繰り返して、ロストルクと上記予測角速度ω' を用いて、更にその次のクランクパルスの入力タイミングでの予測角速度ω' と予測到達時間tを算出する処理を繰り返す。
【0128】
このような30℃A毎の予測角速度ω' と予測到達時間tを何回も繰り返して、予測角速度ω' が0以下になった時点で、エンジン回転停止に至るまでのエンジン回転降下軌道を予測し終えたと判断して、前記ステップ402に戻り、次のクランクパルスが入力されるまで待機する。これにより、クランクパルスが入力される毎に、エンジン回転停止に至るまでのエンジン回転降下軌道の予測演算が行われる。
【0129】
尚、次のクランクパルスが入力されるまでの演算時間が、エンジン回転停止に至るまでのエンジン回転降下軌道の予測演算に必要な時間よりも短い場合は、予測演算を途中で打ち切って、次のクランク角での実角速度ωを用いた新たな予測演算に移行する。
【0130】
以上説明した本実施例5によれば、エンジン21を自動停止させる際に、エンジン回転速度が脈動しながら降下する軌道を予測できるため、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が脈動しても、ピニオン13をリングギヤ23に飛び込ませて噛み合わせる際のピニオン13の駆動タイミング(押し出しタイミング)やモータ12の駆動タイミングを精度良く制御することができる。
【0131】
尚、エンジン回転降下軌道を予測する方法は、上記実施例5で説明した方法に限定されず、適宜変更しても良い。
その他、本発明は、エンジン始動制御システムの構成を適宜変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。
【符号の説明】
【0132】
11…スタータ、12…モータ、13…ピニオン、14…電磁アクチュエータ、18…バッテリ、19…リレー、20…ECU(第1〜第4の再始動制御手段,待機再始動制御手段,回転降下軌道予測手段,制御手段)、21…エンジン、22…クランク軸、23…リングギヤ、24…スイッチング素子、25…リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンを回転駆動するモータと、前記ピニオンをエンジンのクランク軸に連結されたリングギヤに噛み合わせるアクチュエータとを個別に作動可能なスタータを備え、エンジン自動停止要求が発生したときにエンジンを自動停止させ、エンジン再始動要求が発生したときにエンジンを再始動させるエンジン自動停止始動制御装置において、
前記エンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下するエンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が第1の回転速度よりも高い第1の回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開して前記エンジンを再始動させる第1の再始動制御手段と、
前記エンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が前記第1の回転速度以下で第2の回転速度よりも高い第2の回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記モータにより前記ピニオンの回転速度を前記リングギヤの回転速度に同期させた後に前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせて前記スタータによるクランキングを開始して前記エンジンを再始動させる第2の再始動制御手段と、
前記エンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が前記第2の回転速度以下で第3の回転速度よりも高い待機回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記スタータによるクランキングを行わずに、その後、前記エンジン回転速度が前記第3の回転速度以下の第3の回転速度領域になったときに、前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中に前記モータにより前記ピニオンを回転させて前記スタータによるクランキングを開始して前記エンジンを再始動させる待機再始動制御手段と、
前記エンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が前記第3の回転速度以下の第3の回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中に前記モータにより前記ピニオンを回転させて前記スタータによるクランキングを開始して前記エンジンを再始動させる第3の再始動制御手段と
を備えていることを特徴とするエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項2】
ピニオンを回転駆動するモータと、前記ピニオンをエンジンのクランク軸に連結されたリングギヤに噛み合わせるアクチュエータとを個別に作動可能なスタータを備え、エンジン自動停止要求が発生したときにエンジンを自動停止させ、エンジン再始動要求が発生したときにエンジンを再始動させるエンジン自動停止始動制御装置において、
前記エンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下するエンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が第1の回転速度以下で第2の回転速度よりも高い第2の回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記モータにより前記ピニオンの回転速度を前記リングギヤの回転速度に同期させた後に前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせて前記スタータによるクランキングを開始して前記エンジンを再始動させる第2の再始動制御手段と、
前記エンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が前記第2の回転速度以下で第3の回転速度よりも高い待機回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記スタータによるクランキングを行わずに、その後、前記エンジン回転速度が前記第3の回転速度以下の第3の回転速度領域になったときに、前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中に前記モータにより前記ピニオンを回転させて前記スタータによるクランキングを開始して前記エンジンを再始動させる待機再始動制御手段と、
前記エンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が前記第3の回転速度以下の第3の回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中に前記モータにより前記ピニオンを回転させて前記スタータによるクランキングを開始して前記エンジンを再始動させる第3の再始動制御手段と
を備えていることを特徴とするエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項3】
前記第2の再始動制御手段は、前記リングギヤの回転速度と前記ピニオンの回転速度との回転速度差が±200rpmの範囲内になったときに前記ピニオンの回転速度が前記リングギヤの回転速度に同期したと判断する手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項4】
前記第2の再始動制御手段は、前記リングギヤのピッチ円上の周速度と前記ピニオンのピッチ円上の周速度との周速度差が±3.1m/秒の範囲内になったときに前記ピニオンの回転速度が前記リングギヤの回転速度に同期したと判断する手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項5】
前記スタータには、エンジン回転方向において前記ピニオンから前記モータへ動力を伝達しないワンウエイクラッチが設けられ、
前記第2の再始動制御手段は、前記リングギヤの回転速度が前記ピニオンの回転速度よりも高く且つ前記リングギヤの回転速度と前記ピニオンの回転速度との回転速度差が所定値以下になったときに前記ピニオンの回転速度が前記リングギヤの回転速度に同期したと判断する手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項6】
前記所定値は、300rpm以下の値に設定されていることを特徴とする請求項5に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項7】
前記所定値は、200rpmに設定されていることを特徴とする請求項6に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項8】
前記スタータには、エンジン回転方向において前記ピニオンから前記モータへ動力を伝達しないワンウエイクラッチが設けられ、
前記第2の再始動制御手段は、前記リングギヤのピッチ円上の周速度が前記ピニオンのピッチ円上の周速度よりも高く且つ前記リングギヤのピッチ円上の周速度と前記ピニオンのピッチ円上の周速度との周速度差が3.1m/秒の範囲内になったときに前記ピニオンの回転速度が前記リングギヤの回転速度に同期したと判断する手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項9】
ピニオンを回転駆動するモータと、前記ピニオンをエンジンのクランク軸に連結されたリングギヤに噛み合わせるアクチュエータとを個別に作動可能なスタータを備え、エンジン自動停止要求が発生したときにエンジンを自動停止させ、エンジン再始動要求が発生したときにエンジンを再始動させるエンジン自動停止始動制御装置において、
前記エンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下するエンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が第1の回転速度よりも高い第1の回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開して前記エンジンを再始動させる第1の再始動制御手段と、
前記エンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が前記第1の回転速度以下で第2の回転速度よりも高い待機回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記スタータによるクランキングを行わずに、その後、前記エンジン回転速度が前記第2の回転速度以下で第3の回転速度よりも高い第2の回転速度領域になったときに、前記モータにより前記ピニオンの回転速度を前記リングギヤの回転速度に同期させた後に前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせて前記スタータによるクランキングを開始して前記エンジンを再始動させる待機再始動制御手段と
を備えていることを特徴とするエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項10】
前記第1の回転速度は、300〜700rpmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項11】
前記第3の回転速度は、50〜450rpmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項12】
前記第2の回転速度は、前記第3の回転速度よりも50〜150rpm高い回転速度に設定されていることを特徴とする請求項11に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項13】
ピニオンを回転駆動するモータと、前記ピニオンをエンジンのクランク軸に連結されたリングギヤに噛み合わせるアクチュエータとを個別に作動可能なスタータを備え、エンジン自動停止要求が発生したときにエンジンを自動停止させ、エンジン再始動要求が発生したときにエンジンを再始動させるエンジン自動停止始動制御装置において、
前記エンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下するエンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が第1の回転速度よりも高い第1の回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記スタータによるクランキングを行わずに燃料噴射を再開して前記エンジンを再始動させる第1の再始動制御手段と、
前記エンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が前記第1の回転速度以下で第3の回転速度よりも高い待機回転速度領域で前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記スタータによるクランキングを行わずに、その後、前記エンジン回転速度が前記第3の回転速度以下の第3の回転速度領域になったときに、前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせた後又はその噛み合わせの途中に前記モータにより前記ピニオンを回転させて前記スタータによるクランキングを開始して前記エンジンを再始動させる待機再始動制御手段と
を備えていることを特徴とするエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項14】
前記第1の回転速度は、300〜700rpmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項13に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項15】
前記第3の回転速度は、50〜450rpmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項13又は14に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項16】
前記エンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が0となる直前の所定回転速度まで低下したときに、前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせて、その後、前記エンジン再始動要求が発生したときに、前記モータにより前記ピニオンを回転させて前記スタータによるクランキングを開始して前記エンジンを再始動させる第4の再始動制御手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項17】
前記第4の再始動制御手段は、前記エンジン回転降下期間中に前記エンジン回転速度が0となる直前の所定回転速度まで低下したときに、前記アクチュエータにより前記ピニオンを前記リングギヤに噛み合わせるように前記アクチュエータの通電をオンし、該アクチュエータの通電をオンしてから所定時間が経過したとき又は前記ピニオンと前記リングギヤとの噛合を確認したときに、前記アクチュエータの通電をオフにする手段を有することを特徴とする請求項16に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項18】
前記エンジン自動停止要求の発生又は前記エンジンの燃焼停止からの経過時間に基づいて前記エンジン回転速度を推定する手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項19】
前記モータの通電時間と通電電流のうちの少なくとも一方に基づいて前記ピニオンの回転速度を推定する手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項20】
前記エンジンの自動停止によりエンジン回転速度が降下する軌道(以下「エンジン回転降下軌道」という)を予測する回転降下軌道予測手段と、
前記回転降下軌道予測手段によるエンジン回転降下軌道の予測データに基づいて前記待機回転速度領域を判定すると共に前記ピニオンの駆動タイミングと前記モータの駆動タイミングを決定する制御手段と
を備えていることを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載のエンジン自動停止始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−157958(P2011−157958A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265000(P2010−265000)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】