説明

オキシトシン産生促進剤

【課題】副作用の少ない抗不安薬を提供することであり、同時に不安などの心理的要因が関与する不調部位にも作用する薬剤を提供することである。
【解決手段】ローズ油、エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール、メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール、及びヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピランを含有するオキシトシン産生促進剤を提供する。本発明のオキシトシン産生促進剤は、生体内のオキシトシンの産生を促進する。抗不安薬、IGF−1産生促進薬、老化防止用皮膚外用剤、フレグランス製品に配合ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体におけるオキシトシンの産生を促進するオキシトシン産生促進剤に関する。また、オキシトシン産生促進剤を含有することを特徴とする抗不安薬、IGF−1産生促進薬、皮膚外用剤、及びフレグランス製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我々は、社会生活を送るために、様々なコミュニケーション手段を通じて、他人との関係を築かなくてはならないが、現代の急速な環境変化は、その適応に困難を伴うことが多く、それがストレスとして心身にしばしば歪みをもたらしている。多くの人々はうまく適応してストレスを解消しているが、一部の人々は心身に異常をきたし、うつ状態などに陥ることが社会問題となっている。近年、精神科領域に加え、他科領域においてもそれらの患者が増加している。その治療について、精神療法による心理学的アプローチと共に、薬物療法による生物学的アプローチも現在では非常に重要なものとなってきている。これまでに開発されてきた抗不安薬は、優れた抗不安作用を示すことが判っているが、同時に、鎮静、筋弛緩、催眠、及びアルコールによる増強など種々の作用を持っており、それが眠気、ふらつき、注意力散漫、アルコール併用による障害等の副作用として現れ、さらに長期使用の場合には、薬物中断時の身体依存に基づく退薬症候群や乱用の問題も生じてきた(特許文献1)。そのため、副作用の少ない、これまでにない抗不安薬の開発が望まれていた。また、心身症のように、不安などの心理的要因が関与して体調に影響することが知られており、精神面に作用するだけでなく、体の不調部位にも作用する薬剤の開発が望まれていた。
【0003】
生体内のホルモンが、感情変化を引き起こすことは、よく知られている。そのようなホルモンの一つに、オキシトシンがある。オキシトシンは、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から分泌されるホルモンであり、9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである。主な作用として、平滑筋の収縮に関与し、分娩時の子宮収縮、及び乳腺の筋線維を収縮させて乳汁分泌を促すなどの働きを持つ。オキシトシンは、ホルモンとしての作用以外にも、中枢神経における神経伝達物質としての作用が知られており、視床下部の室傍核や視索上核にあるニューロンから分泌され、下垂体後葉をはじめ様々な脳の部位に作用し機能を調節している(非特許文献2)。神経伝達物質として作用する場合は、社会行動に影響することが知られている。例えば、動物では、げっ歯類の性行動、育児行動などに影響する。ヒトにおいては、信頼、愛情といった感情に影響し、それに伴う社会行動を調節することが示されている(非特許文献1、2)。
【0004】
さらに、オキシトシンの細胞に対する直接的な作用として、細胞の遊走能を高める効果が明らかとなっている。このオキシトシンによる細胞の遊走能を促進させる効果は、組織の再生や恒常性維持にも重要である(非特許文献3)。
【0005】
オキシトシンのヒトへの投与は、主に分娩を促進するために、妊婦に対して使用されるが、過剰投与は、ショック、過強陣痛、子宮破裂、頸管裂傷、羊水塞栓症、微弱陣痛、弛緩出血、胎児仮死を引き起こす。その他の症例においても、一過性の血圧下降、血圧上昇などが知られており(非特許文献4)、望ましくない作用を引き起こす。これらの症状は、オキシトシン投与の推奨を妨げるものであり、また治療を妨害する原因であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−123655
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Kosfeld, et al., Nature 435, p.673−676.(2005)
【非特許文献2】C.S. Carter, Psychoneuro−endocrinology 23, p.779−818.(1998)
【非特許文献3】Cattaneo MG, et al., Br. J. Pharmacol. 153, p.728−736.(2008)
【非特許文献4】M. Gonser, Arch Gynecol Obstet. 256, p.63−66.(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち、本発明の目的は、副作用の少ない抗不安薬を提供することであり、同時に不安などの心理的要因が関与する不調部位にも作用する薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために、ヒトの感情変化を引き起こす作用を有するホルモンであるオキシトシンの産生を高める技術を検討した結果、生体にオキシトシンの産生を誘導する新しい組成物を発見し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)ローズ油、エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール、メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール、及びヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピランを含有するオキシトシン産生促進剤、
(2)1記載のオキシトシン産生促進剤を含有することを特徴とする抗不安薬、
(3)吸入薬であることを特徴とする2記載の抗不安薬、
(4)1記載のオキシトシン産生促進剤を含有することを特徴とするIGF−1産生促進薬、
(5)1記載のオキシトシン産生促進剤を含有することを特徴とする老化防止用の皮膚外用剤及び/又はフレグランス製品、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオキシトシン産生促進剤は、不安を軽減させる感情変化を引き起こし、生体の組織の再生を促進する、オキシトシンの産生を高める作用を有する。本発明のオキシトシン産生促進剤は、抗不安薬、IGF−1産生促進薬、老化防止用の皮膚外用剤、及び老化防止用のフレグランス製品として、利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試料暴露前後のMMS感情因子の変化
【図2】MMSの敵意、親和のポイントとオキシトシン変化量との相関
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における「オキシトシン」は、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から分泌される、9個のアミノ酸からなるペプチドである。
【0014】
本発明の「オキシトシン産生促進剤」は、エタノールや、ジイソブチルアジベート、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、クエン酸トリエチル、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの溶剤に溶解して液状組成物として使用することができる。
【0015】
本発明の「ローズ油」は、Rosa Centifolia又はRosa Damascenaから、水蒸気蒸留法又は溶剤抽出法で製造されたものである。ローズオイル、ローズアブソリュートとも呼ばれる。
【0016】
本発明の「エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール」は、サンダルウッド香の無色液体であり、カンホレンアルデヒドから合成される。2−Ethyl−4−(2,2,3−trimethyl−3−cyclopenten−1−yl)−2−buten−1−olとも呼ばれる。商品名「Bacdanol」(IFF社)などが市販されている。
【0017】
本発明の「メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール」は、強いサンダルウッド香の無色〜淡黄色液体である。カンホレンアルデヒドから合成される。3−Methyl−5−(2,2,3−trimethyl cyclopent−3−en−1−yl)−pentan−2−olとも呼ばれる。商品名「Sandalore」(Givaudan社)が市販されている。
【0018】
本発明の「ヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピラン」は、合成多環状ムスクの一種で、α−メチルスチレンと2−メチルブタノール−2又は2−メチルブテン−2から合成される。1,3,4,6,7,8−Hexahydro−4,6,6,7,8,8−hexamethyl cyclopenta−γ−2−benzopyranとも呼ばれる。商品名「Galaxolide」(IFF社)などが市販されている。
【0019】
本発明において、オキシトシン産生促進剤の好ましい態様は、ローズ油、エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール、メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール、及びヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピランを含有する混合物として構成されるものである。本発明における、オキシトシン産生促進剤の成分の質量比は、ローズ油:0.001〜50重量部、エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール:0.001〜50重量部、メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール:0.001〜50重量部、ヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピラン:0.001〜50重量部である。このように構成した組成物は、医薬品、皮膚外用剤、フレグランス製品に配合できる。
【0020】
本発明の「抗不安薬」とは、使用者の不安な感情を軽減する医薬品である。すなわち、不安、倦怠、敵意、驚愕などのネガティブな感情を抑制し、親和、集中、活動的快、非活動的快などの穏やかで安定した感情を高める心理変化を誘導するものである。このような感情変化は、表1に記載の多面的感情状態尺度(MMS)にて定義される感情因子にて評価ができる(寺崎正治、多面的感情状態尺度・短縮版の作成 日本臨床心理学会第55回大会発表論文集(1991))。すなわち、ネガティブな感情を表す感情因子である、不安、倦怠、敵意、及び驚愕のいずれかのポイントが減少していた場合、又は、ポジティブな感情因子である、親和、集中、活動的快、及び非活動的快のいずれかのポイントが増加していた場合、感情が穏やかで、安定した心理状態であり、不安が解消された抗不安状態を示す心理状態である。抗不安薬へのオキシトシン産生促進剤の配合量は特に限定されないが、好ましくは0.001〜10.0重量部である。好ましくは、吸入薬の形態として用いることがよい。
【0021】
【表1】

【0022】
本発明の「IGF-1産生促進薬」とは、生体におけるIGF−1の産生を促進する医薬品である。IGF−1は、インスリン様成長因子(insulin−like growth factor)であり、幹細胞の増殖、遊走、分化を活性化し、組織の再生を促進する作用が報告されている(Edomondson SR, et al.,Endocr. Rex. 24, p.737−764.(2003))。IGF-1産生促進薬へのオキシトシン産生促進剤の配合量は特に限定されないが、好ましくは0.001〜10.0重量部である。好ましくは、吸入薬の形態として用いることがよい。
【0023】
本発明のオキシトシン産生促進剤が利用可能な「皮膚外用剤」及び「フレグランス製品」の具体例としては、化粧水、乳液、クリーム等の基礎化粧品、メイクアップ化粧品、身体洗浄剤、ボディケア製品、入浴剤、制汗デオドラントなどを含むスキンケア製品、香水、オードパルファム、ボディコロンなどのフレグランス製品、シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアトリートメント、ヘアトニック、育毛剤、ヘアカラーリング剤、ヘアスタイリング剤、パーマ剤などを含むヘアケア化粧品、などが挙げられる。最も好ましい態様としては、基礎化粧品、メイクアップ化粧品、香水、コロン、入浴剤、スキンローション、ボディローション等の製品であり、オキシトシン産生促進剤を香料として配合したものがよい。皮膚外用剤及びフレグランス製品のオキシトシン産生促進剤配合量は、特に限定されないが、皮膚外用剤の場合、好ましくは0.001〜3.0重量部、より好ましくは、0.05〜1.0重量部、フレグランス製品の場合、0.001〜100.0重量部、より好ましくは0.01〜30重量部である。
【実施例1】
【0024】
次に本発明を詳細に説明するため、本発明のオキシトシン産生促進剤の製造例を挙げる。本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
本発明のオキシトシン産生促進剤の一実施形態として、製造例を下記に示した。
製造例1
[処方] 配合量(重量部)
ローズ油 20.0
エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール 20.0
メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール 20.0
ヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピラン 40.0
【0026】
製造例2
[処方] 配合量(重量部)

ローズ油 5.0
エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール 5.0
メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール 5.0
ヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピラン 10.0
シトロネロール 15.0
ゲラニオール 15.0
リナロール 15.0
β−ダマスコン 10.0
β−ダマセノン 10.0
マグノラン 10.0
【0027】
本発明のオキシトシン産生促進剤に対する比較例を下記に示した。
比較例1
[処方] 配合量(重量部)
ローズ油 20.0
ジイソブチルアジペート 80.0
【0028】
本発明のオキシトシン産生促進剤を配合した抗不安薬、フレグランス製品及び皮膚外用剤として、処方例を下記に示した。
【0029】
処方例1 噴霧形吸入薬(抗不安薬)
[処方] 配合量(重量部)
製造例1 1.0
95%エタノール 89.0
精製水 10.0
【0030】
処方例2 噴霧形吸入薬(抗不安薬)
[処方] 配合量(重量部)
製造例2 1.0
95%エタノール 89.0
精製水 10.0
【0031】
比較例2 噴霧形吸入薬
[処方] 配合量(重量部)
比較例1 1.0
95%エタノール 89.0
精製水 10.0
【0032】
処方例3 オーデトワレ(フレグランス製品)
[処方] 配合量(重量部)
製造例1 10.0
95%エタノール 85.0
精製水 5.0
【0033】
処方例4 クリーム(皮膚外用剤)
[処方] 配合量(重量部)
1.製造例1 0.1
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.1,3−ブチレングリコール 8.5
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13.精製水にて全量を100とする。
[製造方法]成分2〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分10〜13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加え、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分1を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【実施例2】
【0034】
以下に、本発明のオキシトシン産生促進剤により、生体内のオキシトシン産生が促進され、不安を軽減させるような感情変化を引き起こし、生体の再生にかかわるIGF−1の産生を高め、生体の老化を防止する作用を示す実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
実験例1
平均年齢28歳の健常成人15名(男性4名、女性11名)を2群に分け、製造例1及び比較例1の組成物について、MMSに基づいた、感情の評価、及び生体内のオキシトシン量の測定を以下に説明するように行った。
【0036】
人工気象室(温度25.0℃、湿度50%)にて、被験者を椅子にかけさせ、10分間安静状態にした後に、MMS(表1)を用いて、その時の感情について回答させ、コットンを用いて唾液を採取した。次に、5分間の試料の暴露を行った。暴露には、不織布マスクに試料を滴下し、5分間装着させた。暴露後、再度、MMSに回答させ、暴露から20分後に唾液採取を行った。
【0037】
(唾液中のオキシトシン量の定量)
血中のオキシシン量と唾液中のオキシトシン量には、相関があることが報告されているため、唾液中のオキシトシン量を生体内のオキシトシン量の指標として測定した(C. Sue Carter, et. al. : Ann. N Y. Acad. Sci. 1098, 312−322 (2007))。コットンにて回収した唾液は、15,000rpm、10分間の遠心分離を行い、その上清を、ミリポア社製マイクロコン(Cat.No.YM−3)を用いて濃縮した。Assay Design社製Oxytocin EIA Kit(Cat. No. 900−153)を用いてオキシトシン濃度を測定した。表2に示すように、製造例1を暴露した群において、使用前後において有意な唾液中のオキシトシン量の増加がみられた(p=0.036)。比較例1を暴露した群においては、使用前後における唾液中のオキシトシン量の減少がみられた(p=0.179)。また、製造例1の組成物を暴露した群と比較例1を暴露した群との間で、唾液中のオキシトシン変化量を比較したところ、製造例1の群において有意な増加がみられた(p=0.012)。
【0038】
【表2】

【0039】
(感情状態の測定)
試料暴露前後の感情状態は、MMSの短縮版(寺崎ら,1991)を用いて評価した。8個の感情因子を用い、各項目n=5からなる合計40項目を使用し、4段階で回答を求めた。各項目に応答したポイント(ポイント:全く感じない=1,あまり感じない=2,少し感じる=3,はっきり感じる=4)を加算し、平均値を求めた。その結果、製造例1を暴露した場合、比較例1を暴露した場合に対して、敵意、及び驚愕のポイントが減少し、集中、活動的快、及び親和のポイントが増加した(図1)。製造例1の適用により、ポジティブな感情因子が増加し、ネガティブな感情因子が減少したことから、被験者の不安な心理状態が軽減された。これらの結果から、本発明のオキシトシン産生促進剤には、抗不安作用があることが示された。
【0040】
各被験者の試料暴露前後におけるオキシトシン変化量とMMSの各感情因子のポイントとの相関を調べた結果、オキシトシン変化量が増加すると敵意のポイントが有意に減少した(図2、p=0.01)。また、同様に親和のポイントが有意に増加することが判った(図2、p=0.02)。すなわち、生体内のオキシトシン量が増加した被験者には、「敵意」における心理ポイントが減少し、「親和」における心理ポイントが増加し、不安な心理状態の軽減が認められた。
【0041】
実験例2
平均年齢18.2歳の健常人72名を3群に分け、処方例1(n=24)、処方例2(n=24)、比較例1(n=24)の噴霧形吸入薬について、唾液中のオキシトシン量の測定を以下に説明するように行った。
【0042】
講義室(室温)にて、被験者を椅子にかけさせ、20分間安静状態にした後に、コットンを用いて唾液を採取した。次に、5分間の噴霧形吸入薬への暴露を行った。暴露には、試料0.1mlを噴霧し、被験者に5分間吸入させた。暴露から20分後に唾液採取を行った。オキシトシン量は、実験例1に従い定量した。
【0043】
唾液中のオキシトシン量は、処方例1及び2の暴露後に増加した。比較例1においては、暴露後の変化はみられなかった(表3)。これらの結果から、本発明のオキシトシン産生促進剤を含む吸入薬により、生体内のオキシトシンの産生が促進されることが示された。
【0044】
【表3】

【0045】
実験例3
本発明のフレグランス製品の老化防止効果を評価するため、生体内におけるIGF−1量の指標として、唾液中のIGF−1量を測定した。
【0046】
平均年齢40.3歳の健常女性被験者10名に、処方例3のフレグランス製品を3ヶ月間連用させる試験を行った。そして連用開始前、開始1、3ヶ月後の計3回、コットンにて唾液を回収した。回収した唾液は、15,000rpm、10分間の遠心分離を行い、その上清を、ミリポア社製マイクロコン(Cat.No.YM−3)を用いて濃縮した。RayBiotech,Inc.社製Human IGF−1 ELISA Kit(Cat. No.ELH−IGFI−001)を用いてIGF−1濃度を測定した。表4に示すように、処方例3のフレグランス製品を使用し、3ヶ月後において、IGF−1産生が増加した。
【0047】
【表4】

【0048】
実験例4
本発明の皮膚外用剤の老化防止効果を評価するため、平均年齢46.5歳の健常女性被験者15名を対象に、処方例4のクリームを1日1回、夜のスキンケアの最後に使用させる試験を3ヶ月間行った。そして、シワ及び皮膚の柔軟性について連用開始前、開始1、2、3ヶ月後の計4回測定した。
【0049】
(連用によるシワ面積の測定)
レプリカ剤SILFLO(アミックグループ社製)を用いて左右目尻、及び鼻唇溝のレプリカを採取し、実体顕微鏡画像解析によるシワ量評価を日本香粧品学会のガイドライン(日本香粧品学会誌,32,No.2.(2008))に則り行い、左右の平均値を算出した。その結果、目尻のシワ面積は、3ヶ月後には有意な減少が確認できた。また、鼻唇溝のシワ面積についても、2ヶ月後には減少傾向を示し、3ヶ月後には有意な減少が確認できた。すなわち、処方例4のクリームの使用により、目尻及び鼻唇溝のシワの大きさが減少し、シワの改善効果が認められた。
【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
(連用による皮膚の柔軟性の測定)
cutometer MPA580(Courage+Khazaka製)を用いて頬部を左右各3回、合計6回測定し柔軟性を示すR0値について、平均値を算出した。R0値は、数値が大きいほど皮膚の柔軟性が高いことを示す。その結果、2ヶ月目にはR0値の有意な増加を示した。すなわち、処方例4のクリームの使用により、皮膚の柔軟性の改善効果が認められた。
【0053】
【表7】

【0054】
以上の結果より、本発明のオキシトシン産生促進剤を含むフレグランス製品に、組織の再生に大きく関与しているとされる成長因子であるIGF−1の産生を促進することを確認した。さらに、当該オキシトシン産生促進剤を含有するクリームの使用により、シワ及び皮膚柔軟性の改善がみられ、オキシトシン産生促進剤を含有する皮膚外用剤による生体組織の老化防止効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のオキシトシン産生促進剤は、生体におけるオキシトシンの産生を高め、使用者の不安感を軽減する作用を有する。また、生体内のIGF−1の産生を促進することにより、皮膚の修復能力を高め、皮膚の老化防止効果を有する。本発明のオキシトシン産生促進剤は、抗不安薬、IGF−1産生促進薬、老化防止用の皮膚外用剤、及び老化防止用のフレグランス製品に配合が可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズ油、エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール、メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール、及びヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピランを含有するオキシトシン産生促進剤。
【請求項2】
請求項1記載のオキシトシン産生促進剤を含有することを特徴とする抗不安薬。
【請求項3】
吸入薬であることを特徴とする請求項2記載の抗不安薬。
【請求項4】
請求項1記載のオキシトシン産生促進剤を含有することを特徴とするIGF−1産生促進薬。
【請求項5】
請求項1記載のオキシトシン産生促進剤を含有することを特徴とする老化防止用の皮膚外用剤及び/又はフレグランス製品。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−98898(P2011−98898A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253563(P2009−253563)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】