説明

カルボン酸誘導体、カルボン酸誘導体の製造方法

【課題】含フッ素ポリマーの乳化重合における乳化剤として好適に使用することができるカルボン酸誘導体、及び、その製造方法を提供し、また、上記カルボン酸誘導体からなる界面活性剤、水性分散体、及び、含フッ素ポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】
下記一般式(I)
【化1】


(式中Rfは、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Mは、H、NH、Li、Na又はKを示す。)で表されるカルボン酸誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸誘導体、カルボン酸誘導体の製造方法、界面活性剤、水性分散体、及び、含フッ素ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素重合体の製造方法として、水性媒体中に、直鎖又は部分的に分岐鎖を有するフッ素置換カルボン酸を界面活性剤として用いることにより、テトラフルオロエチレン[TFE]を重合する方法が知られている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0003】
また、近年、含フッ素重合体の製造方法として、フッ素化されたポリオキシアルキレン基を有するカルボン酸を界面活性剤として用いる方法も開示されている(特許文献4参照)。
【0004】
しかしながら、これらの界面活性剤は、熱的、化学的に非常に安定で、重合の際には、連鎖移動等の副反応を抑制できる点で有用であるが、重合により得られた樹脂から除去するためには、洗浄、加熱等の条件が狭く限定される問題があった。
【0005】
上記の問題に鑑みて、特許文献5では、重合時の安定性を損なうことなく、凝集等の加工処理後における含フッ素重合体粒子中の残存量が少ない界面活性剤を用いて水性媒体中で含フッ素重合体を製造する方法、及び、含フッ素重合体の分散安定性に優れ、凝集等の加工処理後における含フッ素重合体粒子中の残存量が少ない界面活性剤を用いた含フッ素重合体水性分散液が検討されている。
【0006】
しかしながら、特許文献5に記載されている2−アシルオキシカルボン酸は、合成経路が複雑であり、収率が低い。また、特許文献5に記載されているハーフエステル化合物は、フッ素系単量体の乳化重合の乳化剤として使用した場合、分子中に存在する水素原子が連鎖移動反応を引き起こし、重合速度が低下し、高分子量の重合体が得られないという問題もあった。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−207413号公報
【特許文献2】特開昭61−228008号公報
【特許文献3】特開平10−212261号公報
【特許文献4】米国特許第6429258号明細書
【特許文献5】特開2005−48178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、含フッ素ポリマーの乳化重合における乳化剤として好適に使用することができるカルボン酸誘導体、及び、その製造方法を提供し、また、上記カルボン酸誘導体からなる界面活性剤、水性分散体、及び、含フッ素ポリマーの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(I)下記一般式(I)
【化1】

(式中Rfは、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Mは、H、NH、Li、Na又はKを示す。)で表されるカルボン酸誘導体である。
【0010】
本発明はまた、下記一般式(II)
【化2】

(式中Rfは、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示す。)で表される化合物を、二酸化炭素存在下で電解酸化する工程を含むことを特徴とする上記のカルボン酸誘導体の製造方法でもある。
【0011】
本発明はまた、上記のカルボン酸誘導体からなることを特徴とする界面活性剤でもある。
本発明はまた、上記のカルボン酸誘導体を含む水性媒体中で、含フッ素モノマーの重合を行う工程を含むことを特徴とする含フッ素ポリマーの製造方法でもある。
【0012】
本発明はまた、上記のカルボン酸誘導体、及び、含フッ素ポリマーを含有する水性分散体であって、含フッ素ポリマーの平均粒子径は、50〜500nmである
ことを特徴とする水性分散体でもある。
【0013】
本発明はまた、上記の水性分散体を、ノニオン界面活性剤の存在下に、陰イオン交換樹脂と接触させる工程(I)と、工程(I)で得られた水性分散体を、水性分散体中の固形分濃度が水性分散体100質量%に対して30〜70質量%となるように濃縮する工程(II)を含むことを特徴とする精製水性分散体の製造方法でもある。
本発明はまた、上記の水性分散体を凝析することにより製造されるファインパウダーでもある。
【0014】
本発明はまた、上記の凝析により発生した排水、洗浄により発生した排水、及び、乾燥工程で発生するオフガスから選択される少なくとも一の成分から、下記一般式(I)
【化3】

(式中Rfは、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Mは、H、NH、Li、Na又はKを示す。)で表されるカルボン酸誘導体を回収し、精製する工程を含むことを特徴とする再生カルボン酸誘導体の製造方法でもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のカルボン酸誘導体は、界面活性剤として優れた性能を示すものである。特に含フッ素ポリマーの重合に用いた場合、連鎖移動反応に影響する水素原子を実質的に有しないために、高分子量の含フッ素ポリマーを得ることができる。
【0016】
本発明のカルボン酸誘導体は、下記一般式(I)
【化4】

で表されるものである。上記一般式(I)において、Mは、H、NH、Li、Na又はKを示す。生成した含フッ素ポリマーから加熱処理により容易に除去し得る点でNHが好ましく、乳化や分散力の点でLi、Na又はKが好ましい。
【0017】
上記Rf1は、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基であり、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基である。上記Rfは、(1)ベンゼン環での置換位置が、メタ位、又は、パラ位であるものが好ましく、(2)ベンゼン環に1又は2以上置換するものであってもよい。ベンゼン環に2以上置換する場合には、上記Rfは、それぞれが異なるものであってもよい。また、上記Rfは、安定性の点からFであることが好ましい。また、上記Rf及びRfは、界面活性の点から炭素数が1〜3であることが好ましい。また、C、F、Oからなることが好ましい。
【0018】
上記カルボン酸誘導体は、下記一般式(II)
【化5】

で表される化合物を、二酸化炭素存在下で水性媒体中で電解酸化することにより製造することができる。このような製造方法も本発明の1つである。上記Rf及びRfは、上述したものと同じである。上記一般式(II)で表される化合物を製造する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
【0019】
上記電解酸化を行う方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができ、例えば、特開2001−081066号公報に記載された方法を用いることができる。
【0020】
上記製造方法は、上記電解酸化によって得られた下記一般式(III)
【化6】

(式中Rf及びRfは、上述したものと同じ。)で表されるカルボン酸を、アンモニア、LiOH、NaOH、又は、KOHで中和する工程を含むものであってもよい。上記中和反応は、アンモニア、LiOH、NaOH、又は、KOHなどの中和剤を、0.1〜20%の水溶液として、好ましくは1〜5%の水溶液として、5〜30℃の温度範囲で攪拌下に除々に滴下し、pHが8を超えない、好ましくは7を超えない、さらに好ましくは6を超えないように調整することが好ましい。
中和された塩は、目的に応じて0.1〜30%の濃度の水溶液状態として使用することもできるし、凍結乾燥などの工程を経て粉末、あるいはワックス状の固体状で使用することもできる。
【0021】
本発明のカルボン酸誘導体は、界面活性剤として好適に用いることができる。上記カルボン酸誘導体からなる界面活性剤もまた、本発明の1つである。本発明の界面活性剤は、上記一般式(I)で表されるカルボン酸誘導体を少なくとも1種含有するものであれば、界面活性剤として用いることができるが、カルボン酸誘導体を2種以上含有するものであってもよい。
【0022】
本発明の界面活性剤は、上記カルボン酸誘導体からなるものであるので、各種用途において、適度な界面活性能を発揮することができる。本発明の界面活性剤は、含フッ素ポリマーの製造等の用途に使用することができる。
【0023】
本発明はまた、上記記載のカルボン酸誘導体を含む水性媒体中で、含フッ素モノマーの重合を行う工程を含むことを特徴とする含フッ素ポリマーの製造方法でもある。
【0024】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法は、界面活性剤として、上記カルボン酸誘導体を少なくとも1種用いれば、含フッ素ポリマーを効率よく製造することが可能である。また、本発明の含フッ素ポリマーの製造方法において、界面活性剤として、上記カルボン酸誘導体を2種以上同時に用いてもよいし、揮発性を有するもの又は含フッ素ポリマーからなる成形体等に残存してもよいものであれば、上記カルボン酸誘導体以外のその他の界面活性能を有する化合物を同時に使用してもよい。上記その他の界面活性能を有する化合物としては、上述したものを用いることができる。
また、本発明の含フッ素ポリマーの製造方法において、上記カルボン酸誘導体と、所望により用いるその他の界面活性能を有する化合物に加え、各化合物を安定化するため添加剤を使用することができる。上記添加剤としては上述したものを用いることができる。
【0025】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法において、重合は、重合反応器に、水性媒体、上記カルボン酸誘導体、モノマー及び必要に応じて他の添加剤を仕込み、反応器の内容物を撹拌し、そして反応器を所定の重合温度に保持し、次に所定量の重合開始剤を加え、重合反応を開始することにより行う。重合反応開始後に、目的に応じて、モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤及び上記カルボン酸誘導体等を追加添加してもよい。
上記重合において、通常、重合温度は、5〜120℃であり、重合圧力は、0.05〜10MPaGである。重合温度、重合圧力は、使用するモノマーの種類、目的とする含フッ素ポリマーの分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0026】
上記カルボン酸誘導体は、合計添加量で、水性媒体100質量%に対して0.0001〜2質量%の量を添加することが好ましい。より好ましい下限は0.001質量%であり、より好ましい上限は1質量%である。0.0001質量%未満であると、分散力が不充分となるおそれがあり、2質量%を超えると、添加量に見合った効果が得られず、却って重合速度の低下や反応停止が起こるおそれがある。上記化合物の添加量は、使用するモノマーの種類、目的とする含フッ素ポリマーの分子量等によって適宜決定される。
【0027】
上記重合開始剤としては、上記重合温度範囲でラジカルを発生しうるものであれば特に限定されず、公知の油溶性及び/又は水溶性の重合開始剤を使用することができる。更に、還元剤等と組み合わせてレドックスとして重合を開始することもできる。上記重合開始剤の濃度は、モノマーの種類、目的とする含フッ素ポリマーの分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0028】
上記水性媒体は、重合を行わせる反応媒体であって、水を含む液体を意味する。上記水性媒体は、水を含むものであれば特に限定されず、水と、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等のフッ素非含有有機溶媒、及び/又は、沸点が40℃以下であるフッ素含有有機溶媒とを含むものであってもよい。例えば、懸濁重合を行うとき、C318等のフッ素含有有機溶媒を用いることができる。
上記重合において、更に、目的に応じて、公知の連鎖移動剤、ラジカル捕捉剤を添加し、重合速度、分子量の調整を行うこともできる。
【0029】
上記含フッ素ポリマーは、フッ素含有モノマーを重合することにより得られるものであり、目的に応じて、フッ素非含有モノマーを共重合させるものであってもよい。
【0030】
上記含フッ素モノマーとしては、フルオロオレフィン、好ましくは炭素原子2〜10個を有するフルオロオレフィン;環式のフッ素化された単量体;式CY2=CYOR又はCY2=CYOROR(Yは、H又はFであり、R及びRは、水素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換されている炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは水素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換されている炭素数1〜8のアルキレン基である。)で表されるフッ素化アルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0031】
上記フルオロオレフィンは、好ましくは、炭素原子2〜6個を有するものである。上記炭素原子2〜6個を有するフルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン[TFE]、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]、クロロトリフルオロエチレン[CTFE]、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン[VDF]、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン及びパーフルオロブチルエチレン等が挙げられる。上記環式のフッ素化されたモノマーとしては、好ましくは、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール[PDD]、パーフルオロ-2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン[PMD]等が挙げられる。
上記フッ素化アルキルビニルエーテルにおいて、上記R及びRは、好ましくは、炭素原子1〜4個を有するものであり、より好ましくは水素原子の全てがフッ素によって置換されているものであり、上記Rは、好ましくは、炭素原子2〜4個を有するものであり、より好ましくは、水素原子の全てがフッ素原子によって置換されているものである。
【0032】
上記フッ素非含有モノマーとしては、上記フッ素含有モノマーと反応性を有する炭化水素系モノマー等が挙げられる。上記炭化水素系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類;エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、モノクロル酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル、ウンデシレン酸ビニル、ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシプロピオイン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸ビニル等のビニルエステル類;エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル類;エチルアリルエステル、プロピルアリルエステル、ブチルアリルエステル、イソブチルアリルエステル、シクロヘキシルアリルエステル等のアルキルアリルエステル類等が挙げられる。
【0033】
上記フッ素非含有モノマーとしては、また、官能基含有炭化水素系モノマーであってもよい。上記官能基含有炭化水素系モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;イタコン酸、コハク酸、無水コハク酸、フマル酸、無水フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、パーフルオロブテン酸等のカルボキシル基を有するフッ素非含有モノマー;グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル等のグリシジル基を有するフッ素非含有モノマー;アミノアルキルビニルエーテル、アミノアルキルアリルエーテル等のアミノ基を有するフッ素非含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、メチロールアクリルアミド等のアミド基を有するフッ素非含有モノマー等が挙げられる。
【0034】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法により好適に製造される含フッ素ポリマーとして、ポリマーにおけるモノマーのモル分率が最も多いモノマー(以下、「最多単量体」)がTFEであるTFE重合体、最多単量体がVDFであるVDF重合体、及び、最多単量体がCTFEであるCTFE重合体等が挙げられる。
【0035】
TFE重合体としては、好適には、TFE単独重合体であってもよいし、(1)TFE、(2)炭素原子2〜8個を有する1つ又は2つ以上のTFE以外のフッ素含有モノマー、特にHFP若しくはCTFE、及び、(3)その他のモノマーからなる共重合体であってもよい。上記(3)その他のモノマーとしては、例えば、炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール;パーフルオロアルキルエチレン;ω―ヒドロパーフルオロオレフィン等が挙げられる。
TFE重合体としては、また、TFEと、1つ又は2つ以上のフッ素非含有モノマーとの共重合体であってもよい。上記フッ素非含有モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン等のアルケン類;ビニルエステル類;ビニルエーテル類が挙げられる。TFE重合体としては、また、TFEと、炭素原子2〜8個を有する1つ又は2つ以上のフッ素含有モノマーと、1つ又は2つ以上のフッ素非含有モノマーとの共重合体であってもよい。
【0036】
VDF重合体としては、好適には、VDF単独重合体[PVDF]であってもよいし、(1)VDF、(2)炭素原子2〜8個を有する1つ又は2つ以上のVDF以外のフルオロオレフィン、特にTFE、HFP若しくはCTFE、及び、(3)炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる共重合体等であってもよい。
【0037】
CTFE重合体としては、好適には、CTFE単独重合体であってもよいし、(1)CTFE、(2)炭素原子2〜8個を有する1つ又は2つ以上のCTFE以外のフルオロオレフィン、特にTFE若しくはHFP、及び、(3)炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる共重合体であってもよい。
CTFE重合体としては、また、CTFEと、1つ又は2つ以上のフッ素非含有モノマーとの共重合体であってもよく、上記フッ素非含有モノマーとしては、エチレン、プロピレン等のアルケン類;ビニルエステル類;ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0038】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法により製造される含フッ素ポリマーは、ガラス状、可塑性又はエラストマー性であり得る。これらのものは非晶性又は部分的に結晶性であり、圧縮焼成加工、溶融加工又は非溶融加工に供することができる。
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法では、例えば、(I)非溶融加工性樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン重合体[PTFE重合体]が、(II)溶融加工性樹脂として、エチレン/TFE共重合体[ETFE]、TFE/HFP共重合体[FEP]及びTFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体[PFA、MFA等]が、(III)エラストマー性共重合体として、TFE/プロピレン共重合体、TFE/プロピレン共重合体/第3モノマー共重合体(上記第3モノマーは、VDF、HFP、CTFE、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類等)、TFEとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類とからなる共重合体;HFP/エチレン共重合体、HFP/エチレン/TFE共重合体;PVDF;VDF/HFP共重合体、HFP/エチレン共重合体、VDF/TFE/HFP共重合体等の熱可塑性エラストマー;及び、特公昭61−49327号公報に記載の含フッ素セグメント化ポリマー等が好適に製造されうる。
上記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、式:
Rf(OCFQCFk1(OCRCFCFk2(OCFk3OCF=CF
(式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表す。k1、k2及びk3は、同一又は異なっていてもよい0〜5の整数である。Q、Q及びRは、同一又は異なって、F若しくはCFである。)で表されるものである。
【0039】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法により好適に製造される上述の(I)非溶融加工性樹脂、(II)溶融加工性樹脂及び(III)エラストマー性重合体は、以下の態様で製造することが好ましい。
【0040】
(I)非溶融加工性樹脂
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法において、PTFE重合体の重合は、通常、重合温度10〜100℃、重合圧力0.05〜5MPaGにて行われる。
上記重合は、攪拌機を備えた耐圧の反応容器に純水及び上記カルボン酸誘導体を仕込み、脱酸素後、TFEを仕込み、所定の温度にし、重合開始剤を添加して反応を開始する。反応の進行とともに圧力が低下するので、初期圧力を維持するように、追加のTFEを連続的又は間欠的に追加供給する。所定量のTFEを供給した時点で、供給を停止し、反応容器内のTFEをパージし、温度を室温に戻して反応を終了する。
【0041】
上記PTFE重合体の製造において、知られている各種変性モノマーを併用することもできる。本明細書において、ポリテトラフルオロエチレン重合体[PTFE重合体]は、TFE単独重合体のみならず、TFEと変性モノマーとの共重合体であって、非溶融加工性であるもの(以下、「変性PTFE」という。)をも含む概念である。
上記変性モノマーとしては、例えば、HFP、CTFE等のパーハロオレフィン;炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール等の環式のフッ素化された単量体;パーハロアルキルエチレン;ω―ヒドロパーハロオレフィン等が挙げられる。変性モノマーの供給は、目的や、TFEの供給に応じて、初期一括添加、又は、連続的若しくは間欠的に分割添加を行うことができる。
変性PTFE中の変性モノマー含有率は、通常、0.001〜2モル%の範囲である。
【0042】
上記PTFE重合体の製造において、上述のカルボン酸誘導体は、上述した本発明の含フッ素ポリマーの製造方法における使用範囲で用いることができるが、通常、水性媒体の0.0001〜2質量%の量を添加する。上記カルボン酸誘導体の濃度は、上記範囲であれば特に限定されないが、通常、重合開始時に臨界ミセル濃度(CMC)以下で添加される。添加量が多いとアスペクト比の大きい針状粒子が生成し、水性分散体がゲル状となり安定性が損なわれる。
【0043】
上記PTFE重合体の製造において、重合開始剤としては、過硫酸塩(例えば、過硫酸アンモニウム)や、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタル酸パーオキシド等の有機過酸化物を、単独で又はこれらの混合物の形で使用することができる。また、亜硫酸ナトリウム等の還元剤と共用し、レドックス系にして用いてもよい。更に、重合中に、ヒドロキノン、カテコール等のラジカル捕捉剤を添加したり、亜硫酸アンモニウム等のパーオキサイドの分解剤を添加し、系内のラジカル濃度を調整することもできる。
【0044】
上記PTFE重合体の製造において、連鎖移動剤としては、公知のものが使用できるが、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、クロロメタン、ジクロロメタン、ジフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール等のアルコール類、水素等が挙げられるが、常温常圧で気体状態のものが好ましい。
上記連鎖移動剤の使用量は、通常、供給されるTFE全量に対して、1〜1000ppmであり、好ましくは1〜500ppmである。
【0045】
上記PTFE重合体の製造において、更に、反応系の分散安定剤として、実質的に反応に不活性であって、上記反応条件で液状となる炭素数が12以上の飽和炭化水素を、水性媒体100質量部に対して2〜10質量部で使用することもできる。また、反応中のpHを調整するための緩衝剤として、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等を添加してもよい。
【0046】
上記PTFE重合体の重合が終了した時点で、固形分濃度が30〜70質量%、平均粒子径が50〜500nm、の水性分散体を得ることができる。このような、上記カルボン酸誘導体、及び、含フッ素ポリマーを含有し、含フッ素ポリマーの平均粒子径は50〜500nmである水性分散体も、本発明の1つである。また、上記カルボン酸誘導体を使用することによって0.3μm以下の微小粒子径のPTFE重合体からなる粒子を有する水性分散体を得ることができる。上記重合終了時のPTFE重合体は、数平均分子量1,000〜10,000,000のものである。
【0047】
上記PTFE重合体の水性分散体は、凝析、洗浄、乾燥を経てファインパウダーとして各種用途に使用することができる。このような、上記水性分散体を、凝析することにより製造されるファインパウダーも本発明の1つである。上記PTFE重合体の水性分散液に対して凝析を行う場合、通常、ポリマーラテックス等の乳化重合により得た水性分散体を、水を用いて10〜20質量%のポリマー濃度になるように希釈し、場合によっては、pHを中性又はアルカリ性に調整した後、撹拌機付きの容器中で反応中の撹拌よりも激しく撹拌して行う。上記凝析は、メタノール、アセトン等の水溶性有機化合物、硝酸カリウム、炭酸アンモニウム等の無機塩や、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸等を凝析剤として添加しながら撹拌を行ってもよい。上記凝析は、また、インラインミキサー等を使用して連続的に行ってもよい。
【0048】
上記凝析前や凝析中に、着色のための顔料や機械的性質を改良するための各種充填剤を添加することにより、顔料や充填剤が均一に混合した顔料入り又は充填剤入りのPTFE重合体ファインパウダーを得ることができる。
【0049】
上記PTFE重合体の水性分散体を凝析して得られた湿潤粉末の乾燥は、通常、上記湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置の状態を保ちながら、真空、高周波、熱風等の手段を用いて行う。粉末同士の、特に高温での摩擦は、一般にファインパウダー型のPTFE重合体に好ましくない影響を与える。これは、この種のPTFE重合体からなる粒子が小さな剪断力によっても簡単にフィブリル化して、元の安定な粒子構造の状態を失う性質を持っているからである。
上記乾燥は、10〜250℃、好ましくは100〜200℃の乾燥温度で行う。
【0050】
得られるPTFE重合体ファインパウダーは、成形用として好ましく、好適な用途としては、航空機及び自動車等の油圧系、燃料系のチューブ等が挙げられ、薬液、蒸気等のフレキシブルホース、電線被覆用途等が挙げられる。
【0051】
上記重合により得られたPTFE重合体の水性分散体は、また、ノニオン性界面活性剤を加えることにより、安定化して更に濃縮し、目的に応じ、有機又は無機の充填剤を加えた組成物として各種用途に使用することも好ましい。上記組成物は、金属又はセラッミクスからなる基材上に被覆することにより、非粘着性と低摩擦係数を有し、光沢や平滑性、耐摩耗性、耐候性及び耐熱性に優れた塗膜表面とすることができ、ロールや調理器具等の塗装、ガラスクロスの含浸加工等に適している。
【0052】
本発明のカルボン酸誘導体の製造方法は、上記凝析、または、洗浄により発生した排水、及び/又は、乾燥工程で発生するオフガスから、下記一般式(I)
【化7】

(式中Rfは、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Mは、H、NH、Li、Na又はKを示す。)で表されるカルボン酸誘導体を回収し、精製する工程を含むものであってもよい。このような再生カルボン酸誘導体の製造方法も本発明の1つである。上記回収、及び、精製を行う方法としては特に限定されるものではないが、公知の方法により行うことができる。
【0053】
(II)溶融加工性樹脂
(1)本発明の含フッ素ポリマーの製造方法において、FEPの重合は、通常、重合温度60〜100℃、重合圧力0.7〜4.5MpaGにて行うことが好ましい。
FEPの好ましい単量体組成(質量%)は、TFE:HFP=(60〜95):(5〜40)、より好ましくは(85〜90):(10〜15)である。上記FEPとしては、また、更に第3成分としてパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類を用い、全単量体の0.5〜2質量%である範囲内で変性させたものであってもよい。
上記FEPの重合において、上記カルボン酸誘導体は、本発明の含フッ素ポリマーの製造方法における使用範囲で用いることができるが、通常、水性媒体100質量%に対して0.0001〜2質量%の量を添加する。
上記FEPの重合において、連鎖移動剤としては、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等を使用することが好ましく、pH緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、燐酸水素二ナトリウム等を使用することが好ましい。
【0054】
(2)本発明の含フッ素ポリマーの製造方法において、PFA、MFA等のTFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体の重合は、通常、重合温度60〜100℃、重合圧力0.7〜2.5MpaGで行うことが好ましい。
TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体の好ましい単量体組成(モル%)は、TFE:パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)=(95〜99.7):(0.3〜5)、より好ましくは(98〜99.5):(0.5〜2)である。上記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、式:CF2=CFORf(式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基)で表されるものを使用することが好ましい。
上記TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体の重合において、上述のカルボン酸誘導体は、本発明の含フッ素ポリマーの製造方法における使用範囲で用いることができるが、通常、水性媒体100質量%に対して0.0001〜2質量%の量で添加することが好ましい。
上記TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体の重合において、連鎖移動剤としてシクロヘキサン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル、メタン、エタン等を使用することが好ましく、pH緩衝剤として、炭酸アンモニウム、燐酸水素二ナトリウム等を使用することが好ましい。
【0055】
(3)本発明の含フッ素ポリマーの製造方法において、ETFEの重合は、通常、重合温度20〜100℃、重合圧力0.5〜0.8MPaGで行うことが好ましい。
ETFEの好ましい単量体組成(モル%)は、TFE:エチレン=(50〜99):(50〜1)である。上記ETFEとしては、また、更に第3モノマーを用い、全単量体の0〜20質量%である範囲内で変性させたものであってもよい。好ましくは、TFE:エチレン:第3モノマー=(70〜98):(30〜2):(4〜10)である。上記第3モノマーとしては、パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロブチルエチレン、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH=CFCFCFCFH)、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロプロペン((CFC=CH)が好ましい。
上記ETFEの重合において、上述のカルボン酸誘導体は、本発明の含フッ素ポリマーの製造方法における使用範囲で用いることができるが、通常、水性媒体100質量%に対して0.0001〜2質量%の量で添加する。
上記ETFEの重合において、連鎖移動剤として、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等を使用することが好ましい。
【0056】
(III)エラストマー性重合体
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法において、エラストマー性重合体の重合は、攪拌機を備えた耐圧の反応容器に純水及び上記カルボン酸誘導体を仕込み、脱酸素後、モノマーを仕込み、所定の温度にし、重合開始剤を添加して、反応を開始する。反応の進行とともに圧力が低下するので、初期圧力を維持するように、追加のモノマーを連続的又は間欠的に追加供給する。所定量のモノマーを供給した時点で、供給を停止し、反応容器内のモノマーをパージし、温度を室温に戻して反応を終了する。乳化重合する場合、ポリマーラテックスを連続的に反応容器より取り出すことが好ましい。
特に、熱可塑性エラストマーを製造する場合、WO00/01741号パンフレットに開示されているように、一旦含フッ素ポリマー微粒子を高い上記濃度で合成してから希釈して更に重合を行うことで、通常の重合に比べて、最終的な重合速度を速くできる方法を使用することも可能である。
【0057】
上記エラストマー性重合体の重合は、目的とするポリマーの物性、重合速度制御の観点から適宜条件を選択するが、重合温度は通常−20〜200℃、好ましくは5〜150℃、重合圧力は通常0.5〜10MPaG、好ましくは1〜7MPaGにて行われる。また、重合媒体中のpHは、公知の方法等により、後述するpH調整剤等を用いて、通常2.5〜9に維持することが好ましい。
【0058】
上記エラストマー性重合体の重合に用いるモノマーとしては、フッ化ビニリデンの他に、炭素原子と少なくとも同数のフッ素原子を有しフッ化ビニリデンと共重合し得る含フッ素エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。上記含フッ素エチレン性不飽和モノマーとしては、トリフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、へキサフルオロブテン、オクタフルオロブテンが挙げられる。なかでも、へキサフルオロプロペンは、それが重合体の結晶成長を遮断した場合に得られるエラストマーの特性のために特に好適である。上記含フッ素エチレン性不飽和モノマーとしては、また、トリフルオロエチレン、TFE及びCTFE等が挙げられるし、1種若しくは2種以上の塩素及び/又は臭素置換基をもった含フッ素モノマーを用いることもできる。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、例えばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)も用いることができる。TFE及びHFPは、エラストマー性重合体を製造するのに好ましい。
エラストマー性重合体の好ましい単量体組成(質量%)は、フッ化ビニリデン:HFP:TFE=(20〜70):(20〜60):(0〜40)である。この組成のエラストマー性重合体は、良好なエラストマー特性、耐薬品性、及び、熱的安定性を示す。
【0059】
上記エラストマー性重合体の重合において、上述のカルボン酸誘導体は、本発明の含フッ素ポリマーの製造方法における使用範囲で用いることができるが、通常、水性媒体100質量%に対して0.0001〜2質量%の量で添加する。
【0060】
上記エラストマー性重合体の重合において、重合開始剤としては、公知の無機ラジカル重合開始剤を使用することができる。上記無機ラジカル重合開始剤としては、従来公知の水溶性無機過酸化物、例えば、ナトリウム、カリウム及びアンモニウムの過硫酸塩、過リン酸塩、過硼酸塩、過炭素塩又は過マンガン酸塩が特に有用である。上記ラジカル重合開始剤は、更に、還元剤、例えば、ナトリウム、カリウム又はアンモニウムの亜硫酸塩、重亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、ハイポ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、亜リン酸塩若しくはハイポ亜リン酸塩により、又は、容易に酸化される金属化合物、例えば第一鉄塩、第一銅塩若しくは銀塩により、更に活性化することができる。好適な無機ラジカル重合開始剤は、過硫酸アンモニウムであり、過硫酸アンモニウムと重亜硫酸ナトリウムと共にレドックス系において使用することが、より好ましい。
上記重合開始剤の添加濃度は、目的とする含フッ素ポリマーの分子量や、重合反応速度によって適宜決定されるが、モノマー全量100質量%に対して0.0001〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%の量に設定する。
【0061】
上記エラストマー性重合体の重合において、連鎖移動剤としては、公知のものを使用することができるが、PVDFの重合では、炭化水素、エステル、エーテル、アルコール、ケトン、塩素化合物、カーボネート等を用いることができ、熱可塑性エラストマーでは、炭化水素、エステル、エーテル、アルコール、塩素化合物、ヨウ素化合物等を用いることができる。なかでも、PVDFの重合では、アセトン、イソプロピルアルコールが好ましく、熱可塑性エラストマーの重合では、イソペンタン、マロン酸ジエチル及び酢酸エチルは、反応速度が低下しにくいという観点から好ましく、I(CFI、I(CFI、ICHI等のジヨウ素化合物は、ポリマー末端のヨウ素化が可能で、反応性ポリマーとして使用できる観点から好ましい。
上記連鎖移動剤の使用量は、供給されるモノマー全量に対して、通常0.5×10−3〜5×10−3モル%、好ましくは1.0×10−3〜3.5×10−3モル%であることが好ましい。
【0062】
上記エラストマー性重合体の重合において、PVDFの重合では、乳化安定剤としてパラフィンワックス等を好ましく用いることができ、熱可塑性エラストマーの重合では、pH調整剤として、リン酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を好ましく用いることができる。
【0063】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法によって得られるエラストマー性重合体は、重合が終了した時点で、固形分濃度が10〜40質量%、平均粒子径が0.03〜1μm、好ましくは0.05〜0.5μm、数平均分子量が1,000〜2,000,000のものである。
【0064】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法によって得られるエラストマー性重合体は、必要に応じて、炭化水素系界面活性剤等の分散安定剤の添加、濃縮等をすることにより、ゴム成形加工に適したディスパージョンにすることができる。上記ディスパージョンは、pH調節、凝固、加熱等を行い処理される。各処理は次のように行われる。
【0065】
上記pH調節は、硝酸、硫酸、塩酸若しくはリン酸等の鉱酸、及び/又は、炭素数5以下でpK=4.2以下のカルボン酸等を加え、pHを2以下とすることからなる。
上記凝固は、アルカリ土類金属塩を添加することにより行われる。上記アルカリ土類金属塩としては、カルシウム又はマグネシウムの硝酸塩、塩素酸塩及び酢酸塩が挙げられる。
上記pH調節及び上記凝固は、いずれを先に行ってもよいが、先にpH調節を行うことが好ましい。
各操作の後、エラストマーと同容量の水で洗浄を行い、エラストマー内に存在する少量の緩衝液や塩等の不純物を除去し、乾燥を行う。乾燥は、通常、乾燥炉内で、高温下、空気を循環させながら、約70〜200℃で行われる。
【0066】
上記含フッ素ポリマーは、通常、上記重合を行うことにより得られる水性分散体の10〜50質量%の濃度である。上記水性分散体中において、含フッ素ポリマーの濃度の好ましい下限は10質量%、より好ましい下限は15質量%、好ましい上限は40質量%、より好ましい上限は35質量%、更に好ましい上限は30質量%である。
【0067】
上記重合を行うことにより得られる水性分散体は、濃縮するか又は分散安定化処理してディスパージョンとしてもよいし、凝析又は凝集に供して回収し乾燥して得られる粉末その他の固形物としてもよい。
【0068】
上記カルボン酸誘導体は、重合により得られた含フッ素ポリマーを水性媒体に分散させるための分散剤としても、好適に用いることができる。
【0069】
本発明の水性分散体は、含フッ素ポリマーからなる粒子と、上記カルボン酸誘導体と、水性媒体を含有するものである。上記水性分散体は、上記カルボン酸誘導体の存在下、含フッ素ポリマーからなる粒子が水性媒体中に分散しているものである。
【0070】
上記カルボン酸誘導体は、本発明の水性分散体の0.0001〜15質量%であることが好ましい。0.0001質量%未満であると、分散安定性に劣る場合があり、15質量%を超えると、存在量に見合った分散効果がなく実用的でない。上記カルボン酸誘導体のより好ましい下限は0.001質量%であり、より好ましい上限は10質量%であり、更に好ましい上限は2質量%である。
【0071】
本発明の水性分散体は、上述した重合を行うことにより得られる水性分散体、この水性分散体を濃縮するか又は分散安定化処理して得られるディスパージョン、及び、含フッ素ポリマーからなる粉末を、上記カルボン酸誘導体の存在下に水性媒体に分散させたものの何れであってもよい。
【0072】
本発明の水性分散体を製造する方法としてはまた、上記重合により得られた水性分散体を、ノニオン界面活性剤の存在下に、陰イオン交換樹脂と接触させる工程(I)と、工程(I)で得られた水性分散体を、固形分濃度が水性分散体100質量%に対して30〜70質量%となるように濃縮する工程(II)により製造することができる。このような精製水性分散体の製造方法も本発明の1つである。ノニオン界面活性剤は、特に限定されるものではないが、上記のものを挙げることができる。上記陰イオンは、特に限定されるものではないが、公知のものを用いることができる。また、上記陰イオン交換樹脂と接触させる方法は、公知の方法を用いることができる。
【0073】
上記濃縮の方法としては公知の方法が採用され、例えば相分離、電気濃縮、限外ろ過等が挙げられる。上記濃縮は、用途に応じて、含フッ素ポリマー濃度を30〜70質量%に濃縮することができる。濃縮によりディスパージョンの安定性が損なわれることがあるが、その場合は更に分散安定剤を添加してもよい。上記分散安定剤としては、上記カルボン酸誘導体や、その他の各種の界面活性剤を添加してもよい。上記各種の分散安定剤としては、例えば、ポリオキシアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤、特に、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えばローム&ハース社製のトライトンX−100(商品名))、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル(例えば第一工業製薬社製のノイゲンTDS80C(商品名)、ライオン社製のレオコールTD90D(商品名)、クラリアント社製のゲナポールX080(商品名))、ポリオキシエチレンエーテル類が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0074】
上記分散安定剤の総量は、上記ディスパージョンの固形分に対し0.5〜20質量%の濃度である。0.5質量%未満であると、分散安定性に劣る場合があり、20質量%を超えると、存在量に見合った分散効果がなく実用的でない。上記分散安定剤のより好ましい下限は2質量%であり、より好ましい上限は12質量%である。
【0075】
上記重合を行うことにより得られた水性分散液は、また、用途によっては濃縮せずに分散安定化処理して、ポットライフの長い水性分散体に調製することもできる。使用する分散安定剤としては上記と同じものを挙げることができる。
【0076】
本発明の水性分散体の用途としては特に限定されず、水性分散体のまま適用するものとして、基材上に塗布し乾燥した後必要に応じて焼成することよりなる塗装;不織布、樹脂成形品等の多孔性支持体を含浸させ乾燥した後、好ましくは焼成することよりなる含浸;ガラス等の基材上に塗布し乾燥した後、必要に応じて水中に浸漬し、基材を剥離して薄膜を得ることよりなるキャスト製膜等が挙げられ、これら適用例としては、水性分散型塗料、電極用結着剤、電極用撥水剤等が挙げられる。
【0077】
本発明の水性分散体は、公知の顔料、増粘剤、分散剤、消泡剤、凍結防止剤、成膜助剤等の配合剤を配合することにより、又は、更に他の高分子化合物を複合して、コーティング用水性塗料として用いることができる。
【0078】
本発明はまた、上記記載の凝析により発生した排水、洗浄により発生した排水、及び、乾燥工程で発生するオフガスから選択される少なくとも一の成分から、下記一般式(I)
【化8】

(式中Rfは、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Mは、H、NH、Li、Na又はKを示す。)で表されるカルボン酸誘導体を回収し、精製する工程を含むことを特徴とする再生カルボン酸誘導体の製造方法でもある。
【0079】
上記凝析により発生した排水、洗浄により発生した排水、及び、乾燥工程で発生するオフガスから、上記カルボン酸誘導体を回収し、精製する方法としては特に限定されるものではないが、従来公知の方法をそのまま採用することができる。
【発明の効果】
【0080】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法は、上述の構成よりなるので、樹脂中での界面活性剤残存量が極めて少なく、着色が少なく物性のよい含フッ素ポリマーを効率よく製造することができる。また、本発明の水性分散体は、上述の構成よりなるので、含フッ素ポリマーを安定に存在させることができ、また、着色が少なく物性のよい含フッ素ポリマーの成形体及び塗膜等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0081】
次に本発明を製造例及び実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる製造例及び実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
合成例1
下記式(IV)
【化9】

で表されるカルボン酸誘導体の製造:白金陰極(2×3cm)、マグネシウム陽極(3mmφ)およびバブラーを取り付けた一室型セルに0.1M BuNBF(494mg)のDMF溶液(15ml)を加え、下記式(V)
【化10】

で表される化合物230mg(1.00mmol)を溶解した後、0℃において二酸化炭素を15分間バブリングした。その後、電流密度10mA/cm、通電量2.8F/molで2時間、定電流電解を行った。反応終了後、反応液を2N塩酸に注ぎ、エーテルで3回抽出を行った。エーテル層を水で3回洗浄した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回洗浄し、カルボン酸を抽出した。エーテル層を水および飽和食塩水で洗浄した後、乾燥して溶媒を留去することにより、出発物質である下記式(V)
【化11】

で表される化合物92mgが回収された(回収率40%)。飽和炭酸水素ナトリウム層を6N塩酸で酸性とした後、エーテルで3回抽出した。エーテル層を水および飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去することにより、得られた化合物140mg(収率55%)を、アンモニア水で中和し、50℃で減圧乾燥して下記式(IV)
【化12】

で表されるカルボン酸誘導体の白色の針状結晶を得た。
【0083】
実施例1 PTFEラテックスの調製[1]
内容量3Lの攪拌翼付きステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水1.5L、パラフィンワックス60g(融点60℃)、及び、合成例1で得られた乳化剤1.5gを仕込み、系内をTFEで置換した。内温を70℃にし、内圧が0.78MPaになるようにTFEを圧入し、1質量%の過硫酸アンモニウム[APS]水溶液3.75gを仕込み、反応を開始した。重合の進行に伴って重合系内の圧力が低下するので、連続的にTFEを追加して、内圧を0.78MPaに保ち、反応を継続した。重合開始9.5時間後にTFEをパージして重合を停止した。この水性分散液の固形分濃度は、19.5質量%、標準比重は2.218、含フッ素重合体の平均一次粒子径は、245nmであった。
【0084】
固形分濃度:得られた水性分散液を150℃で1時間乾燥した時の質量減少より求めた。
標準比重(SSG):ASTM D−1457−69に従い測定した。
平均一次粒子径(PTFE):固形分濃度を約0.02質量%に希釈し、単位長さに対する550nmの投射光の透過率と電子顕微鏡写真によって決定された平均粒子径との検量線を基にして、上記透過率から間接的に求めた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のカルボン酸誘導体は、含フッ素ポリマーの乳化重合における界面活性剤として好適に使用することができる。また、本発明は、上記カルボン酸誘導体を好適に製造することができる製造方法を提供し、上記カルボン酸誘導体からなる界面活性剤、含フッ素ポリマーの製造方法、水性分散体、精製水性分散体の製造方法、ファインパウダー、及び、再生カルボン酸誘導体の製造方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中Rfは、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Mは、H、NH、Li、Na又はKを示す。)で表されるカルボン酸誘導体。
【請求項2】
Rf及びRfの炭素数が、1〜3である請求項1記載のカルボン酸誘導体。
【請求項3】
下記一般式(II)
【化2】

(式中Rfは、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示す。)で表される化合物を、二酸化炭素存在下で電解酸化する工程を含む
ことを特徴とする請求項1又は2記載のカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のカルボン酸誘導体からなることを特徴とする界面活性剤。
【請求項5】
請求項1又は2記載のカルボン酸誘導体を含む水性媒体中で、含フッ素モノマーの重合を行う工程を含む
ことを特徴とする含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記カルボン酸誘導体の含有量が、水性媒体100質量%に対して0.0001〜2質量%である請求項5記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載のカルボン酸誘導体、及び、含フッ素ポリマーを含有する水性分散体であって、
含フッ素ポリマーの平均粒子径は、50〜500nmである
ことを特徴とする水性分散体。
【請求項8】
請求項7記載の水性分散体を、ノニオン界面活性剤の存在下に、陰イオン交換樹脂と接触させる工程(I)と、工程(I)で得られた水性分散体を、水性分散体中の固形分濃度が水性分散体100質量%に対して30〜70質量%となるように濃縮する工程(II)を含む
ことを特徴とする精製水性分散体の製造方法。
【請求項9】
請求項7記載の水性分散体を凝析することにより製造されるファインパウダー。
【請求項10】
請求項9記載の凝析により発生した排水、洗浄により発生した排水、及び、乾燥工程で発生するオフガスから選択される少なくとも一の成分から、下記一般式(I)
【化3】

(式中Rfは、H、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Rfは、F、フルオロアルキル基、又は、フルオロアルコキシ基を示し、Mは、H、NH、Li、Na又はKを示す。)で表されるカルボン酸誘導体を回収し、精製する工程を含むことを特徴とする再生カルボン酸誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−29724(P2009−29724A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192593(P2007−192593)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】