説明

ガスバリア積層体およびガスバリア積層体の製造方法

【課題】 ガスバリア性のみならず耐久性にも優れる、有機/無機酸化物のガスバリア積層体を提供する。
【解決手段】 有機化合物層と、その上の珪素原子含有化合物層と、その上の酸化物無機化合物層とを有することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の膜を積層してなるガスバリア積層体に関するものであり、詳しくは、ガスバリア性に優れ、かつ、低コストなガスバリア積層体、および、このガスバリア積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池等の各種の装置における防湿性を要求される部位や部品、食品、衣料品、電子部品等の包装に用いられる包装材料に、ガスバリア膜が形成されている。また、PET等のプラスチックフィルムにガスバリア膜を成膜してなるガスバリアフィルムが、前記用途を含め、各種の用途に利用されている。
このようなガスバリア膜としては、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素、酸化アルミニウム等の各種の物質からなる膜が知られている。
【0003】
また、より高いガスバリア性を得ることを目的として、有機化合物層と無機化合物層など、前記複数の膜を積層してなるガスバリア積層体(積層型ガスバリア膜)も知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材フィルムの上に珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ等の金属酸化物からなる少なくとも1層の無機層と、この無機層の上に形成される少なくとも1層のポリシルセスキオキサンを含有する層とを有するガスバリア積層体(ガスバリア性積層フィルム)が記載されている。
この特許文献1においては、無機層の欠陥を、ポリシルセスキオキサンによって補填することにより、ガスバリア性に加え、優れた耐屈曲性および耐熱性を有するガスバリア積層体を実現している。
【0005】
また、特許文献2には、プラスチックフィルムの上に、ポリ(オルガノ)シルセスキオキサンを含有する樹脂層を形成し、この層の上に、酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、炭化珪素、窒化珪素、および、二酸化珪素の何れかの無機化合物層を形成してなるガスバリア積層体(ガスバリア性積層体)が記載されている。
この特許文献2においては、このような樹脂層の上に珪素系の無機化合物層を形成することにより、両層の界面で緻密な層を構成して、酸素や水蒸気に対するバリア性を向上したガスバリア積層体を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−104025号公報
【特許文献2】特開2006−123307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、有機ELや太陽電池の封止膜など、高いガスバリア性(水蒸気・酸素バリア性)を要求される用途では、基板の上に平滑層を設け、表面を平滑にし、その上に主にガスバリア性を発現する無機化合物層を形成する方法が、多く用いられてる。
この平滑層には有機化合物層が主に用いられ、その上に、無機化合物層を積層したガスバリア積層体は、高い水蒸気および酸素バリア性を示すことが知られている。
【0008】
他方、優れたガスバリア性を発揮する無機化合物として、窒化珪素が知られている。窒化珪素膜は、密度が高いため、優れたバリア性を発現する。その反面、窒化珪素膜は、プラズマCVDで形成される場合が多いが、この際には、原料ガスとしてシランガスやアンモニアガス(あるいは、液体シランや液体アンモニアを気化して)が用いられており、安全性の面で懸念が残る。
また、ガスバリア性を発揮する無機化合物としては、酸化珪素や酸化アルミニウム等の酸化物無機化合物も知られている。酸化物無機化合物からなる膜を形成する際には、成膜時に酸素を導入することで、安全に成膜を行なうことができるので、その点では、窒化珪素膜よりも有利である。
【0009】
ところが、前述のように、有機化合物層の上に無機化合物層を形成するガスバリア積層体において、無機化合物層として酸化物無機化合物層を形成すると、平滑な有機化合物層を形成したにも関わらず、所定のガスバリア性を得られない場合が生じる場合が、多々、有る。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、有機化合物層の上に、無機化合物層として酸化物無機化合物層を形成してなるガスバリア積層体において、良好なガスバリア性を発現するガスバリア積層体を安定して得ることができ、しかも、有機化合物層と無機化合物層との密着性にも優れ、かつ、低コストなガスバリア積層体、および、このガスバリア積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明のガスバリア積層体は、厚さが0.1〜3μmの有機化合物層と、前記有機化合物層の上に形成された厚さが0.005〜0.3μmの珪素原子含有化合物層と、前記珪素原子含有化合物層の上に形成された酸化物無機化合物層との組み合わせを、1以上有することを特徴とするガスバリア積層体を提供する。
【0012】
このような本発明のガスバリア積層体において、前記珪素原子含有化合物層が、ポリシルセスキオキサンを含有する層であるのが好ましく、また、前記ポリシルセスキオキサンが、(メタ)アクリル基を含むのが好ましく、また、前記ポリシルセスキオキサンが、籠型、はしご型、ランダム構造、および、開裂構造の1以上の構造を含むのが好ましい。
もしくは、前記珪素原子含有化合物層が、SiOxで示される化合物を含有する、不純物の含有量が原子組成比で10%以下である層であるのが好ましい。
【0013】
また、本発明のガスバリア積層体の製造方法は、基板の上に、厚さが0.1〜3μmの有機化合物層を形成し、この有機化合物層の上に厚さが0.005〜0.3μmの珪素原子含有化合物層を形成し、この珪素原子含有化合物層の上に酸化物無機化合物層を形成することを特徴とするガスバリア積層体の製造方法を提供する。
【0014】
このような本発明のガスバリア積層体の製造方法において、前記珪素原子含有化合物層が、ポリシルセスキオキサンを含有する層であるのが好ましく、もしくは、前記珪素原子含有化合物層が、SiOxで示される化合物を含有する、不純物の含有量が原子組成比で10%以下である層であるのが好ましい。
また、前記酸化物無機化合物層を、少なくとも、不活性ガスと、酸素ガスと、テトラエトキシシランもしくはヘキサメチルジシロキサンとを原料ガスとして用いるCVDで形成するのが好ましく、この際において、前記CVDが大気圧CVDであるのが好ましく、もしくは、前記酸化物無機化合物層を、ターゲットとして珪素もしくは珪素化合物を用い、酸素ガスの導入を伴うスパッタリングで形成するのが好ましい。
また、前記珪素原子含有化合物層を、珪素原子含有化合物を含有する液体を前記有機化合物層の上に塗布し、紫外線照射、放射線照射および加熱のいずれか1以上によって前記珪素原子含有化合物を硬化させることによって形成するのが好ましく、また、長尺な基板を円筒状のドラムの側面に巻き掛けた状態で、前記基板を長手方向に搬送しつつ、前記ドラムの周面に対面して設けられた有機化合物層形成手段、前記有機化合物層形成手段の下流に設けられた珪素原子含有化合物層形成手段、および、前記珪素原子含有化合物層形成手段の下流に設けられた気相成膜法による成膜手段によって、前記有機化合物層の形成、珪素原子含有化合物層の形成、および、酸化物無機化合物層の形成を、順次、行なうのが好ましく、さらに、前記有機化合物層の形成を、フラッシュ蒸着によって行なうのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
このような本発明によれば、安全な製造が可能な酸化物無機化合物層を有するガスバリア積層体において、基板の凹凸や歪みを補償して無機化合物層の形成面を平坦化するための有機化合物層の上に、ポリシルセスキオキサン等の珪素原子含有化合物層を有するので、酸化物無機化合物層の形成の際に、酸化物無機化合物層の形成面(成膜面)を損傷することを防止できる。
そのため、本発明のガスバリア積層体は、有機化合物層と無機化合物層とを有するガスバリア積層体において、平滑性の高い成膜面に酸化物無機化合物層を形成することができるので、成膜面の粗面化に起因するガスバリア性(水蒸気・酸素バリア性)の低下を防止でき、有機化合物層および無機化合物層が、共に、目的とする性能を十分に発現させることが可能となり、すなわち、優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体を、安定して製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のガスバリア積層体の一例を概念的に示す図である。
【図2】本発明のガスバリア積層体に利用される基板の一例の構成を概念的に示す図である。
【図3】本発明のガスバリア積層体の製造方法を実施する製造装置の一例を概念的に示す図である。
【図4】図1に示す製造装置における有機化合物層の形成部の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のガスバリア積層体の製造方法、および、ガスバリア積層体について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0018】
図1に、本発明のガスバリア積層体の一例を概念的に示す。
図1に示すガスバリア積層体は、基板Zの上に有機化合物層20を形成し、この有機化合物層20の上に珪素原子含有化合物層24を形成し、この珪素原子含有化合物層24の上に、酸化物無機化合物層26を形成してなるものである。
なお、以下の説明では、便宜的に、有機化合物層20を有機層20、珪素原子含有化合物層をシリコン含有層24、酸化物無機化合物層26を酸化物層26ともいう。
【0019】
本発明において、ガスバリア積層体を形成する基板Zは、後述する図3に示すような、可撓性を有する長尺なシート状の基板Zが好適に例示される。
しかしながら、本発明は、これに限定はされず、長尺なシート状の基板Z以外にも、所定長に切断されたシート状物(カットシート)、レンズや光学フィルタなどの光学素子、有機ELや太陽電池などの光電変換素子、液晶ディスプレイや電子ペーパーなどのディスプレイパネル等、各種の物品(部材/基材)も、基板として好適に利用可能である。
【0020】
また、基板の材料にも、特に限定はなく、有機層20の形成が可能なものであれば、各種の材料が利用可能であり、プラスチックフィルム(樹脂フィルム)等の有機物からなる基板でも、金属やセラミック等の無機物からなる基板でもよい。
ここで、本発明は、図示例のようなガスバリアフィルムの製造に好適であり、従って、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの有機物からなるシート状の基板(プラスチックフィルム)を用いるのが、好適である。
【0021】
また、本発明においては、プラスチックフィルムやレンズ等を基材として、その上に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が形成されている物を基板Zとして用いてもよい。
この際においては、基材の上に1層のみの層が形成された物を基板Zとして用いてもよく、あるいは、図2に概念的に示すように、基材Bの上に、層a〜層fのような複数の膜を形成した物を基板Zとして用いてもよい。
【0022】
ここで、基材Bの上に複数層の膜が形成されている基板Zにおいては、その中の連続する3層の幾つかが、本発明のガスバリア積層体であってもよい。言い換えれば、基板Zが有する複数層中の連続する3層が、本発明のガスバリア積層体を形成していてもよい。
具体的には、図3であれば、例えば、層a〜cが、それぞれ、有機層20、シリコン含有層24および酸化物層26であってもよく、あるいは、層d〜層fが、それぞれ、有機層20、シリコン含有層24および酸化物層26であってもよく、あるいは、層c〜層eが、それぞれ、有機層20、シリコン含有層24および酸化物層26であってもよい。もしくは、図3において、層a〜層cが、有機層20、シリコン含有層24および酸化物層26であり、さらに、層d〜層fも、有機層20、シリコン含有層24および酸化物層26であってもよい。
すなわち、本発明の製造方法は、本発明のガスバリア積層体が形成された基板Zに、さらに、本発明のガスバリア積層体を形成してもよい。
【0023】
本発明のガスバリア積層体において、有機層(有機化合物層)20は、基板Zの表面の凹凸、歪みやウネリ等を補償(吸収)して、酸化物層26の形成面(成膜面)を平坦化するための層(いわゆる平坦化層)である。
なお、有機層20は、このような平坦化層としての機能以外にも、保護層、接着層、光反射層、遮光層、緩衝層、応力緩和層等、各種の機能を有する層であってもよい。
【0024】
本発明において、有機層20の形成材料には特に限定はなく、基板Zの表面の凹凸等を補償して、十分に平滑な表面(シリコン含有層24の成膜面)を得ることができる物であれば、各種の有機化合物が利用可能であり、適宜、選択して使用すればよい。
一例として、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、メタクリル酸―マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル等の高分子化合物が例示される。このような高分子化合物すなわちモノマー混合物の重合体は、モノマー混合物を重合することによって得られる。
有機層20の好ましい高分子化合物は、アクリレートおよび/またはメタクリレートモノマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂あるいはメタクリル樹脂である。
【0025】
以下に、本発明の有機層20に好ましく用いられるアクリレート、メタクリレートの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0026】
【化1】


【0027】
【化2】


【0028】
【化3】

【0029】
【化4】


【0030】
【化5】

【0031】
本発明において、有機層20の厚さは、0.1〜3μmである。
有機層20の厚さが0.1μm未満では、基板Zの表面の凹凸等を補償することができず、十分に平坦な表面を得ることができない等の不都合を生じる。
逆に、有機層20の厚さが3μmを超えると、膜厚が不必要に大きくなる、可撓性が低下する、光透過率が低下する等の不都合を生じる。
【0032】
好ましくは、有機層20の厚さは、0.4〜0.8μmである。
有機層20の厚さを上記範囲とすることにより、良好な機械特性や光学特性を維持しつつ、優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体を得ることができる等の点で、より好ましい結果を得る。
【0033】
また、有機層20の表面粗さには特に限定は無いが、平滑性が高いほど良好なガスバリア性を得ることができるので、好ましくは、平均表面粗さRaで1nm以下、特に、0.5nm以下とするのが好ましい。
有機層20の表面粗さを上記範囲とすることにより、優れたガスバリア性を安定して得ることができる等の点で好ましい結果を得る。
【0034】
本発明において、有機層20の形成方法には、特に限定はなく、公知の有機化合物からなる層(膜)の形成方法が、全て、利用可能である。
好ましくは、塗布による方法が利用され、例えば、有機層20を構成する有機化合物を溶解してなる塗料を調整して、基板Zの表面に塗布し、乾燥する方法; 有機層20となるモノマーと重合開始剤等とを溶解してなる塗料を調整して、基板Zの表面に塗布/乾燥して、UV(紫外線)照射や電子線照射、加熱等によってモノマーを重合する方法; 有機層20となる有機化合物やモノマーを溶解した塗料を調整して蒸発させ、その上記を基板Zに付着させて、冷却/凝縮して液体状の膜を形成し、この膜を紫外線や電子線によって硬化する、いわゆるフラッシュ蒸着を利用する方法; 等が例示される。
中でも、フラッシュ蒸着は、好適に利用される。
【0035】
本発明のガスバリア積層体において、有機層20の上(表面)には、シリコン含有層(珪素原子含有化合物層)24が形成される。
シリコン含有層24は、シリコン原子を含む化合物を含有する層であり、具体的には、SiOxy、SiOx、SiOCxy、SiCx、SiNxy、SiNx、SiOxy、RSiO3/2などの一般式で表される、シリコン原子を含有する化合物を主成分とする層である。例えば、これらの化合物の微粒子を分散あるいは溶解してなる塗料を調整し、この塗料を有機層20の表面に塗布し、乾燥/硬化してなる層である。
【0036】
シリコン含有層24の好ましい一例として、SiOx(シリカ)を主成分とする層が例示される。
このようなシリコン含有層24は、一例として、PHPS(パーヒドロポリシラザン)を用いて形成するのが好ましい。PHPSは、基本構造として「−(SiH2NH)−」をユニットとする粘性オリゴマーである。PHPSを、必要に応じて溶媒に溶解して、塗布した後、加熱(〜100℃程度)することで、NとHが加熱によって抜けていき、かわりにO原子が空気中からとりこまれてシロキサン結合(Si−O結合)を形成する。これにより、SiOxを主成分とする層を形成することができる。
あるいは、SiOxの微粒子を分散してなる塗料を調整し、この塗料を有機層20の表面に塗布し、乾燥/硬化して、SiOxを主成分とする層を形成してもよい。
なお、SiOxの微粒子の直径は、50nm以下が好ましく、特に、ガスバリア積層体における光散乱の影響を軽減できる等の点で、15nm以下が好ましい。なお、この点に関しては、SiOx以外のシリコン原子を含有する化合物に関しても、同様である。
【0037】
なお、このようなSiOxを主成分とするシリコン含有層24においては、C、H、およびN等の不純物が原子組成比で10%以下であるのが好ましい。
SiOxを主成分とするシリコン含有層24において、不純物の含有量を原子組成比で10%以下とすることにより、膜密度を上昇させ、空孔が少ない層を形成できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0038】
シリコン含有層24のより好ましい例として、ポリシルセスキオキサンを含有する層が例示され、特に、ポリシルセスキオキサンを主成分とする層が例示される。
【0039】
ポリ(オルガノ)シルセスキオキサンは、シルセスキオキサンを構造単位に含む化合物である。
「シルセスキオキサン」とは、一般式RSiO3/2で表される化合物で、通常、一般式RSiX3(Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラアルキル基、(メタ)アクリル基((メタ)アクリロイル基)等であり、Xは、ハロゲン、アルコキシ基等である)で示される化合物が、加水分解−重縮合して合成されるポリシロキサンである。
【0040】
シルセスキオキサンの分子配列の形状としては、代表的には無定形構造、ラダー状構造、籠型構造、籠型構造の部分開裂構造体(籠型構造からケイ素原子が一原子欠けた構造や籠状構造の一部ケイ素−酸素結合が切断された構造)等が知られている。
無定形構造およびラダー状構造を有するポリシルセスキオキサンの場合は、シルセスキオキサンをモノマー単位として、ポリマーの形でシリコン含有層24に存在する。また、籠型構造、および、その部分開裂構造を有するポリシルセスキオキサンの場合は、1つの構造を有するシルセスキオキサンを複数個含む形で、シリコン含有層24に存在する。
本発明では、上記シルセスキオキサンの中でも特に、籠型ポリシルセスキオキサン、および、籠型ポリシルセスキオキサンの部分開裂構造体を好ましく用いることができる。
【0041】
籠型シルセスキオキサンの例としては、[RSiO3/2]8の化学式で表される下記一般式(1)のシルセスキオキサン、[RSiO3/2]10の化学式で表される下記一般式(2)のシルセスキオキサン、[RSiO3/2]12の化学式で表される下記一般式(3)のシルセスキオキサン、[RSiO3/2]14の化学式で表される下記一般式(4)のシルセスキオキサン、[RSiO3/2]16の化学式で表される下記一般式(5)のシルセスキオキサンが挙げられる。
【0042】
【化6】

【0043】
[RSiO3/2]nで表される籠型シルセスキオキサンにおけるnの値としては、6〜20の整数であり、好ましくは8、10または12であり、特に好ましくは8または8、10および12の混合物である。
【0044】
また、籠型シルセスキオキサンの一部のケイ素−酸素結合が部分的に開裂した[RSiO3/2]n-m(O1/2H)2+m(nは6〜20の整数であり、mは0または1である)で表される籠型シルセスキオキサンの好ましい例としては、一般式(1)の一部が開裂したトリシラノール体、[RSiO3/2]7(O1/2H)3で表わされる下記一般式(6)のシルセスキオキサン、[RSiO3/2]8(O1/2H)2の化学式で表される下記一般式(7)のシルセスキオキサン、[RSiO3/2]8(O1/2H)2の化学式で表される下記一般式(8)のシルセスキオキサンが挙げられる。
【0045】
【化7】

【0046】
シルセスキオキサン、特に、上記一般式(1)〜(8)におけるRは、水素原子、(メタ)アクリル基、炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数7〜20のアラアルキル基、炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。中でもRは重合反応が可能な重合性官能基であることが好ましい。
【0047】
炭素数1〜20の飽和炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、ブチル基(n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基等)、ペンチル基(n−ペンチル基、i−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基等)、ヘキシル基(n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、シクロヘキシル基等)、ヘプチル基(n−ヘプチル基、i−ヘプチル基等)、オクチル基(n−オクチル基、i−オクチル基、t−オクチル基等)、ノニル基(n−ノニル基、i−ノニル基等)、デシル基(n−デシル基、i−デシル基等)、ウンデシル基(n−ウンデシル基、i−ウンデシル基等)、ドデシル基(n−ドデシル基、i−ドデシル基等)などが挙げられる。
シリコン含有層24形成時の溶融流動性、難燃性および操作性のバランスを考慮すると、好ましくは炭素数1〜16の飽和炭化水素であり、特に好ましくは炭素数1〜12の飽和炭化水素である。
【0048】
炭素数2〜20のアルケニル基としては、非環式アルケニル基および環式アルケニル基が挙げられる。その例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキセニルエチル基、ノルボルネニルエチル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基などが挙げられる。
シリコン含有層24形成時の溶融流動性、難燃性および操作性のバランスを考慮すると、好ましくは炭素数2〜16のアルケニル基であり、特に好ましくは炭素数2〜12のアルケニル基である。
【0049】
炭素数7〜20のアラアルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基または炭素数1〜13、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基のうち1置換または複数置換されたベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0050】
炭素数6〜20のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基または炭素数1〜14、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基で置換されたフェニル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
【0051】
上記の籠型シルセスキオキサン類は、Aldrich社、Hybrid Plastic社、チッソ株式会社、アヅマックス社等から市販されている化合物をそのまま用いてもよく、また、Journal of American Chemical Society誌、第111巻、1741頁(1989年)等に基づいて合成された化合物を用いてもよい。
また、シルセスキオキサン類としては、東亜合成株式会社から市販されているSQシリーズも好適に利用可能である。ここで、本発明においては、紫外線照射によって簡便に膜を硬化でき、かつ、その硬度も調節可能である等の点で、Rとして(メタ)アクリル基を含むシルセスキオキサン類も、好適に利用可能である。この点で、前記SQシリーズの中でも、AC−SQは、好適に利用可能である。
【0052】
ポリシルセスキオキサンの籠型構造の部分開裂構造体とは、[RSiO3/2]8の化学式で表される1つの籠型ユニットからSi−O−Si結合が開裂して生成したSi−OHが3個以下の化合物、または[RSiO3/2]8の化学式で表される閉じた籠型構造の中からSi原子の欠損が一つ以下の化合物を示す。
【0053】
ポリシルセスキオキサンは、官能基Rと反応可能なバインダーと混合して用いることが好ましい。反応可能なバインダーとしては、熱硬化性樹脂や放射線硬化性樹脂が挙げられる。
【0054】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂が挙げられる。
エポキシ系樹脂としては、ポリフェノ−ル型、ビスフェノール型、ハロゲン化ビスフェノール型、ノボラック型のものが挙げられる。
エポキシ系樹脂を硬化させるための硬化剤は、公知の硬化剤を用いることができる。例えば、アミン系、ポリアミノアミド系、酸および酸無水物、イミダゾール、メルカプタン、フェノール樹脂等の硬化剤が挙げられる。中でも耐溶剤性、光学特性、熱特性等の観点から、酸無水物および酸無水物構造を含むポリマーまたは脂肪族アミン類が好ましく用いられ、酸無水物および酸無水物構造を含むポリマーが特に好ましく用いられる。さらに、公知の第三アミン類やイミダゾール類等の硬化触媒を適量加えることが好ましい。
【0055】
放射線硬化性樹脂は、紫外線や電子線等の放射線を照射することにより硬化が進行する樹脂であり、具体的には分子または単体構造内に(メタ)アクリル基、ビニル基等の不飽和二重結合を含む樹脂である。これらの中でも特に、アクリル基を含むアクリル系樹脂が好ましい。
放射線硬化性樹脂は、一種類の樹脂を用いても、数種の樹脂を混合して用いてもよいが、分子または単位構造内に2個以上のアクリル基を有するアクリル系樹脂を用いることが好ましい。こうした多官能アクリレート樹脂としては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ウレタンアクリレート、エステルアクリレート、エポキシアクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
これらの放射線硬化性樹脂には、紫外線硬化法を用いる場合には、前述の放射線硬化性樹脂に公知の光反応開始剤を適量添加する。
【0057】
本発明のガスバリア積層体において、シリコン含有層24がシルセスキオキサンを含む層である場合には、上記シルセスキオキサンとバインダーとの組み合わせは、重合性官能基を有するシルセスキオキサンと多官能モノマーとの共重合体からなる層であることが好ましい。
シルセスキオキサンの重合性官能基Rと共重合可能なバインダーとの組み合わせは、Rがアクリル基であり、反応可能なバインダーが多官能アクリレートである態様が好ましい。また、Rがエポキシ基であり、反応可能なバインダーが多官能エポキシである態様も好ましい。
【0058】
上記エポキシ系樹脂および放射線硬化性樹脂には、さらにシルセスキオキサンとの相互作用を強めるために、アルコキシシランの加水分解物やシランカップリング剤を混合してもよい。
シランカップリング剤としては、一方にメトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基等の加水分解可能な反応基を持ち、もう一方にはエポキシ基、ビニル基、アミノ基、ハロゲン基、メルカプト基を有するものが好ましい。この場合、特に好ましくは、主成分樹脂に固定するため、同じ反応基を持つビニル基を有するものであり、例えば、信越化学工業(株)のKBM−503、KBM−803、日本ユニカー(株)製のA−187などが用いられる。これらの添加量は0.2〜3質量%が好ましい。
【0059】
本発明のガスバリア積層体において、シリコン含有層24がポリシルセスキオキサンを含む層である場合には、シリコン含有層24中におけるポリシルセスキオキサンの含有率は、50〜100重量%が好ましく、特に、60〜90重量%が好ましい。
ポリシルセスキオキサンの含有率が50〜100質量%であれば、良好な耐熱性およびガスバリア性を有するガスバリア積層体得られる。
また、好ましくは、上記範囲内において、ポリビニルアルコール等の他の化合物と、ポリシルセスキオキサンとを混合して、シリコン含有層24を形成してもよい。
【0060】
本発明のガスバリア積層体において、シリコン含有層24がポリシルセスキオキサンを含む層である場合には、シリコン含有層24の形成方法としては、蒸着やプラズマCVD等の気相堆積法も利用可能であるが、シリコン含有層24の形成速度やコスト等の点で塗布や前述のフラッシュ蒸着を利用して形成するのが好ましく、後述する酸化物層26を真空成膜によって形成する場合には、真空下のフラッシュ蒸着と一貫成膜する方法が好ましく例示される。
一例として、シルセスキオキサンや前述のバインダー等を含有する塗料を調整し、この塗料をフラッシュ蒸着や後述する塗布方法によって有機層20に塗布し、さらに乾燥し、紫外線照射、電子線照射、加熱等によってシルセスキオキサンを重合/硬化して、シリコン含有層24を形成すればよい。なお、重合は、複数の手段を併用してもよい。
【0061】
なお、シルセスキオキサンの重合(架橋)方法には、特に限定は無いが、活性エネルギー線照射による電子線や紫外線等による重合が、重合による高分子量化が迅速である点で望ましい。この活性エネルギー線は、紫外線、X線、電子線、赤外線、マイクロ波等の照射することによりエネルギーを伝播し得る放射線を意味し、その種類とエネルギーは、用途に応じて任意に選択すればよい。
塗布方式は、従来、塗膜の形成に用いられる種々の方法、例えば、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、カーテンフローコート、スプレーコート、バーコート、スピンコート等の方法を用いることができる。
【0062】
本発明のガスバリア積層体において、シリコン含有層24の層厚は、0.005〜0.3μmである。
後に詳述するが、シリコン含有層24は、上層となる酸化物層26の形成時における有機層20の表面の損傷(荒れ)を防止するために設けられる。シリコン含有層24の厚さが0.005μm未満では、酸化物層26の形成時における有機層20の損傷を防止することができない等の不都合を生じる。
逆に、シリコン含有層24の厚さが0.3μmを超えると、ガスバリア積層体のコストが高くなってしまう(特に、シルセスキオキサンを含むシリコン含有層24)、可撓性が悪くなってしまう等の不都合を生じる。
【0063】
好ましくは、シリコン含有層24の厚さは、0.005〜0.05μmであり、特に、0.005〜0.015μmが好ましい。
シリコン含有層24の厚さを上記範囲とすることにより、良好な可撓性を有するガスバリア積層体が得られる、可視光線の透過特性が良好なガスバリア積層体が得られる等の点で、より好ましい結果を得る。
【0064】
また、シリコン含有層24の表面粗さには特に限定は無いが、有機層20と同様、平滑性が高いほど良好なガスバリア性を得ることができるので、好ましくは、平均表面粗さRaで、1nm以下、特に、0.5nm以下とするのが好ましい。
シリコン含有層24の表面粗さを上記範囲とすることにより、優れたガスバリア性を安定して得ることができる等の点で好ましい結果を得る。
【0065】
ここで、本発明の製造方法においては、有機層20とシリコン含有層24の形成を塗布によって行なう場合には、有機層20となる塗料と、シリコン含有層24となる塗料との2層を同時に塗布し、その後、乾燥/硬化する、いわゆる同時重層で形成してもよい。
前述のように、有機層20およびシリコン含有層24には、高い表面平滑性を有するのが好ましい。一方で、塗布によって成膜を行なう場合には、塗膜が厚い方が、良好な表面平滑性を得ることができる。
従って、有機層20とシリコン含有層24とを同時重層で行なうことにより、両層の表面平滑性、特に、シリコン含有層24の表面平滑性の点で、有利である。
【0066】
本発明のガスバリア積層体において、シリコン含有層24の上(表面)には、SiOx層やAlxy層等の酸化物層(酸化物無機化合物層)26が形成される。
本発明は、有機層(有機化合物層)20と、無機化合物層としての酸化物層26とを積層してなるガスバリア積層体において、有機層20と酸化物層26との間に、シリコン含有層24を有することにより、優れたガスバリア性に加え、密着性および耐熱性にも優れるガスバリア積層体を実現したものである。
【0067】
前述のように、有機ELや太陽電池の封止膜など、高いガスバリア性を要求される用途では、基板の上に有機化合物からなる平滑層を設け、無機化合物層を形成する構成が利用されている。
ここで、このような有機/無機の積層構造を有するガスバリア積層体においては、無機化合物層が、窒化珪素膜等である場合には、シランガスの使用による安全性等の問題は有するが、目的とする性能を有するガスバリア積層体を比較的安定して得ることができる。
これに対し、有機/無機の積層構造を有するガスバリア積層体において、無機化合物層が酸化珪素膜や酸化アルミニウム膜などの酸化物無機化合物層である場合には、安全性に問題は無いが、目的とする性能を有するガスバリア積層体を得られない場合が、多々、生じた。
【0068】
本発明者らは、この原因について、鋭意検討を重ねた結果、有機/無機の積層構造を有するガスバリア積層体において、無機化合物層が酸化物である場合には、無機化合物層の成膜中に生成する酸素ラジカルが、有機化合物層に突入してエッチングを行なったような状態になってしまい、有機化合物層の表面が荒れ、平滑性が、著しく低下してしまうことを見出した。
【0069】
無機化合物のガスバリア膜の形成は、一般的に、プラズマCVDやスパッタリング等の気相成膜によって行なわれる。これらの成膜方法において、酸化物の成膜時には、通常、成膜中に原料ガスとして酸素ガスを導入する。
この酸素ガスが、酸素ラジカルとなって有機化合物層の表面をエッチングしてしまい、その結果、有機化合物層の表面を粗面化してしまう。
また、酸素ガスの導入を行なわないで成膜を行なっても、酸化膜を形成する際には、雰囲気中に酸素ラジカルが発生することは避けられない。従って、同様に、酸素ラジカルによるエッチングを生じてしまう。
【0070】
前述のように、有機化合物層は、無機化合物層の形成面を平滑にすることにより、無機化合物層のガスバリア性を最大限に発揮させるために形成する層である。
従って、無機化合物層の形成時に、酸素ラジカルによって有機化合物層の表面を粗面化してしまったのでは、有機化合物層を形成せずに、表面平滑性の低い基板に、直接的に、無機化合物層を形成したのと、同様の状態となってしまい、甚だしい場合には、逆に、基板よりも表面が荒い成膜面に、無機化合物層を形成した状態となってしまう。
そのため、ガスバリア積層体のガスバリア性が、著しく低下してしまう。
【0071】
これに対し、本発明のガスバリア積層体は、有機層20の上に、厚さ0.005〜0.3μmのシリコン含有層24を形成し、その上に、主にガスバリア性を発現する酸化物層26を形成する。
本発明者らの検討によれば、シリコン含有層24(珪素原子含有化合物を含む層)、特に前記SiOxを含む層、中でも特に前記ポリシルセスキオキサンを含む層は、酸素ラジカルに対するエッチング耐性が非常に高く、かつ、酸化物層26(酸化物無機化合物からなる層)との密着性も、非常に高い。
従って、本発明のガスバリア積層体は、良好な平滑性を有する成膜面に、高い密着性で酸化物層26を形成することができ、その結果、層間の密着性(すなわち耐久性)に優れ、かつ、5×10-3g/[m2・day]以下の優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体を、安定して得ることができる。しかも、シリコン含有層24として、高価であるポリシルセスキオキサンを用いた場合であっても、その層厚は、0.005〜0.3μmと薄いのでコストの点でも、有利である。
【0072】
本発明のガスバリア積層体において、酸化物層26は、ガスバリア性(水蒸気バリア性・酸素バリア性)を発現する酸化物無機化合物からなる層が、各種、利用可能であり、具体的には、一般式、SiOx、SiOxy、SiOCxy、SiOxy、Alxy等で示される酸化物無機化合物(無機酸化物)からなる層が例示される。
【0073】
酸化物層26の厚さには、特に限定はなく、ガスバリア積層体に要求されるガスバリア性、酸化物層26の種類(形成材料)、ガスバリア積層体が形成されるガスバリアフィルム等の層構成、ガスバリア積層体が形成される製品の用途等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0074】
酸化物層26の形成方法(成膜方法)には、特に限定はなく、形成する酸化物層26に応じて、CVDやスパッタリング等の公知の気相成膜法で形成すればよい。また、成膜条件も、形成する酸化物層26の種類や膜厚等に応じて、適宜、設定すればよい。
すなわち、CVDは、CCP(Capacitively Coupled Plasma)−CVD、ICP(Inductively Coupled Plasma)−CVD、マイクロ波CVD、ECR(Electron Cyclotron Resonance)−CVD、低圧や大気圧でのバリア放電CVD、Cat(Catalytic)−CVD等、公知のCVDが、全て、利用可能である。
【0075】
これらのCVDで酸化物層26を形成する際には、原料ガスとして、少なくとも不活性ガス(希ガス、窒素ガス)、酸素ガス、および、テトラエトキシシラン(TEOS)もしくはヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を原料として用いるCVDは好適である。
このような原料ガスを用いるCVDを利用することにより、安全に酸化物層26を形成することができる、原料の入手が容易である等の点で好ましい結果を得る。
【0076】
また、CVDで酸化物層26を形成する際には、大気圧近傍(例えば、90〜110kPa程度)の圧力で成膜を行なう、いわゆる大気圧CVDが好適である。
大気圧CVDを利用することにより、装置コストを低減できる、簡易な装置で酸化物層26を形成できる等の点で、好ましい結果を得る。
【0077】
また、スパッタリングも、マグネトロンスパッタリング、反応性スパッタリング、高周波(RF)スパッタリング等の公知のスパッタリングが、全て、利用可能である。
酸化物層26をスパッタリングで形成する際には、ターゲットとして珪素もしくは珪素化合物を用い、酸素ガスの導入を伴うスパッタリングを用いるのが好ましい。
このようなスパッタリングを利用することにより、蒸着による成膜方法に比して、ガスバリア性が飛躍的に向上したガスバリア積層体が得られる等の点で好ましい結果を得る。
【0078】
図3に、本発明の製造方法を利用して、本発明のガスバリア積層体を製造する製造装置の一例の概念図を示す。
図3に示す製造装置10は、長尺な基板Z(フィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この基板Zの表面に有機層(有機化合物層)20を形成し、次いで、この有機層20の上にシリコン含有層(珪素原子含有化合物層)24を形成し、さらに、このシリコン含有層24の上にプラズマCVDによって酸化物層(酸化物無機化合物層)26を形成して、図1に示すような、有機層20と、シリコン含有層24と、酸化物層26とを有するガスバリア積層体を形成してなるガスバリアフィルム(あるいは、ガスバリアフィルムの原料や中間製品)を製造するものである。
この製造装置10は、長尺な基板Zをロール状に巻回してなる基板ロール30から基板Zを送り出し、長手方向に搬送しつつ、順次、有機層20、シリコン含有層24、および酸化物層26を形成してガスバリア積層体を作製し、ガスバリア積層体を形成した基板Z(すなわち、ガスバリアフィルム)をロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
【0079】
このような製造装置10は、供給室12と、成膜室14と、巻取り室16とを有する。
なお、製造装置10は、図示した部材以外にも、各種のセンサ、搬送ローラ対や基板Zの幅方向の位置を規制するガイド部材など、基板Zを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)等、プラズマCVDによる成膜を行なう装置が有する各種の部材を有してもよい。
【0080】
供給室12は、回転軸32と、ガイドローラ34と、真空排気手段35とを有する。
長尺な基板Zを巻回した基板ロール30は、供給室12の回転軸32に装填される。
回転軸32に基板ロール30が装填されると、基板Zは、供給室12から、成膜室14を通り、巻取り室16の巻取り軸36に至る所定の搬送経路を通される(送通される)。
製造装置10においては、基板ロール30からの基板Zの送り出しと、巻取り室16の巻取り軸36における基板Zの巻き取りとを同期して行なって、長尺な基板Zを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室14において、基板Zに、有機層20、シリコン含有層24、および酸化物層26の形成を、順次、行なう。
【0081】
図示例の製造装置10においては、好ましい態様として、供給室12に真空排気手段35を、巻取り室16に真空排気手段106を、それぞれ設けている。これらの室に真空排気手段を設け、必要に応じて、成膜中は、後述する成膜室14と同じ真空度(圧力)とすることにより、隣接する室の圧力が、成膜室14の真空度(ガスバリア膜の成膜)に影響を与えることを防止している。なお、後述する成膜室14の酸化物層形成部48が、大気圧CVDのみを行なう部位である場合には、真空排気手段35および真空排気手段106は、設けなくてもよい。
真空排気手段35には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ロータリーポンプ、ドライポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する他の真空排気手段も、全て、同様である。
【0082】
なお、本発明においては、全ての室に真空排気手段を設けるのに限定はされず、処理として真空排気が不要な供給室12および巻取り室16には、真空排気手段は設けなくてもよい。但し、これらの室の圧力が成膜室14の真空度に与える影響を小さくするために、スリット38a等の基板Zが通過する部分を可能な限り小さくし、あるいは、室と室との間にサブチャンバを設け、このサブチャンバ内を減圧してもよい。
また、全室に真空排気手段を有する図示例の製造装置10においても、スリット38a等の基板Zが通過する部分を可能な限り小さくするのが好ましい。
【0083】
基板Zは、ガイドローラ34によって案内され、隔壁38によって供給室12と隔てられる成膜室14に搬送される。前述のように、成膜室14は、搬送される基板Zに、有機層20の形成、リコン含有層24の形成、および、酸化物層26の形成を、順次、行なう室である。
このような成膜室14は、ガイドローラ40と、有機層形成部42と、シリコン含有層形成部46と、酸化物層形成部48と、ガイドローラ50と、ドラム52とを有して構成される。また、有機層形成部42は隔壁54aおよび54bによって、シリコン含有層形成部46は隔壁54bおよび54cによって、それぞれ、他の領域と、略機密に隔離される。
【0084】
成膜室14のドラム52は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材で、ガイドローラ40によって所定の経路に案内された基板Zを、周面の所定領域に掛け回して、所定位置に保持しつつ長手方向に搬送して、有機層形成部42、シリコン含有層形成部46、および、酸化物層形成部48に、順次、搬送して、ガイドローラ50に送る。
【0085】
ここで、ドラム52は、後述する酸化物層形成部48におけるシャワー電極94の対向電極としても作用(すなわち、ドラム52とシャワー電極94とで電極対を形成)する。そのため、ドラム52には、バイアス電源が接続され、あるいは、接地(アース)されている(共に、図示省略)。もしくは、ドラム52は、バイアス電源の接続と接地とが切り換え可能であってもよい。
また、ドラム52は、有機層形成部42において、噴霧された有機化合物の液体の凝集のためや、成膜中の基板温度上昇の抑制など、基板Zの温度調整手段も兼ねる。そのため、ドラム52は、温度調整手段を内蔵する。ドラム52の温度調節手段には、特に限定はなく、冷媒等を循環する温度調節手段、ピエゾ素子等を用いる冷却手段等、各種の温度調節手段が、全て利用可能である。
【0086】
有機層形成部42は、基板Zの表面に、フラッシュ蒸着によって有機層20を形成(成膜)する部位であり、有機層原料蒸着部58と、硬化手段60と、有機層原料供給部62と、真空排気手段64とを有して構成される。
真空排気手段64は、有機層形成部42内を排気して、有機層形成部42内の圧力を、有機層形成部48におけるフラッシュ蒸着に対応する圧力とするものである。
【0087】
有機層原料供給部62は、有機層20の原料となる、液体状の有機化合物のモノマーを(あるいは、有機化合物のモノマーを溶媒に溶解してなる塗料)を蒸発させて、その有機化合物蒸気を配管58aを通して有機層原料蒸着部58に供給するものである。
この有機層原料供給部62は、図4に概念的に示すように、液体状の有機化合物が貯留され、所定の減圧された圧力に保たれるとともに、内部を所定の圧力に減圧する排気手段と攪拌手段が設けられたタンク68と、このタンク68に接続されたシリンジポンプ70と、このタンク68に配管72aを介して接続された液体噴射部(加熱チャンバ)72とを有する。
【0088】
タンク68内の液体状の有機化合物は、減圧下で攪拌手段により攪拌されて、脱泡されることで余分なガスが取り除かれる。この有機化合物が、シリンジポンプ70により、タンク68から液体噴射部72に圧送される。このシリンジポンプ70によるシリンジポンプ圧と送液量は、形成する有機層20の厚さや形成する有機層20の種類等により、適宜、設定されればよいが、シリンジポンプ圧が50〜300PSI、送液量が0.1〜10ml/minであるのが好ましい。
【0089】
図示例において、液体噴射部72は、中空の円柱状の構成を有し、内部に加熱板74が設けられている。また、図示は省略するが、液体噴射部72には、内部を真空にする排気手段、および加熱板74を加熱する加熱手段が設けられている。
また、液体噴射部72は、配管72aとの接続部に液滴噴射口72bが設けられている。図示は省略するが、この液滴噴射口72bには、超音波印加手段および冷却手段が設けられている。
【0090】
液体噴射部72では、内部を真空にした状態で、シリンジポンプ70により圧送された液体状の有機化合物が、超音波が印加された液滴噴射口72bで微小な液滴状態にされて、加熱板74に向かって噴射される。なお、この超音波の出力には、特に限定はないが、有機化合物を好適な微細液滴状態にできる等の点で、1〜10Wとするのが好ましい。
微小な液滴状態の有機化合物は、加熱板74に接触すると蒸発し、蒸発体となる。この蒸発体となった有機化合物は、配管58aを通り、有機層原料蒸着部58に供給される。
【0091】
なお、超音波を印加して、液体状の有機化合物を微粒子化することにより、有機化合物の蒸発効率を向上させることができる。また、噴射口72bに超音波が印加されることによる急激な温度上昇によって、有機化合物が熱硬化してしまうのを防ぐため、冷却手段で、例えば、噴射口72bを温度5〜50℃にするのが好ましい。
さらに、加熱板74は、液体状の有機化合物の蒸発効率を考慮し、温度150〜300℃にするのが好ましい。さらに、蒸発体を効率良く有機層原料蒸着部58に供給する目的で、液体噴射部72内の圧力は、2×10-3〜1×10-2Paとするのが好ましい。
【0092】
有機層原料蒸着部58は、有機層原料供給部62から供給された有機層20となる有機化合物のモノマーの蒸気体を、ドラム52に巻き掛けられた基板Zの表面に噴射して、凝集させるものである。
なお、液体噴射部72から有機層原料蒸着部58への蒸気体の移送、および、有機層原料蒸着部58からの蒸気体の噴射は、液体噴射部72と有機層形成部42内との差圧によって行なわれる。
【0093】
図示は省略するが、有機層原料蒸着部58は加熱制御手段を備え、周囲が凝集温度以上蒸発温度以下の温度に加熱される加熱ノズル58bを有する。
有機層原料供給部62から供給されたモノマーの蒸発体が、加熱ノズル58bを通過し、基板Z上に一定量凝集される。この場合、加熱ノズル58bの温度を150〜300℃に保持するのが好ましい。
また、凝集効率を向上させるために、ドラム52を冷却して,基板Zを、例えば、−15〜25℃に保持するのが好ましい。
【0094】
硬化手段60は、基板Z上に凝集された有機化合物を硬化して、有機層20とする。この硬化手段60は、例えば、UV光(紫外線)60a(図4参照)を照射するUV照射手段が用いられる。このUV照射手段においては、UV照度は10〜100mW/cm2であることが好ましい。
なお、硬化手段60としては、電子線を照射する電子線照射手段、またはマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段を用いてもよい。
【0095】
シリコン含有層形成部46は、有機層20の表面に、シリコン含有層24を形成する部位であり、塗布手段76、乾燥手段78、硬化手段80、シリコン(Si)含有層原料供給部90、および、圧力調整手段92を有して構成される。
【0096】
圧力調整手段92は、真空ポンプ、圧力調整弁、送気手段等の手段を用いて、シリコン含有層形成部46内の圧力を、適正に保つものである。
【0097】
シリコン含有層原料供給部90は、定量ポンプ等の公知の手段で、シリコン含有層24となる珪素原子含有化合物を含有する塗料、例えば、前記シルセスキオキサンと、熱硬化性樹脂や放射線硬化性樹脂などのバインダ等とを溶媒に溶解してなる塗料を、塗布手段76に供給する部位である。
塗布手段76は、前述のロールコート、グラビアコート、スプレーコート等の公知の塗布手段で、乾燥/硬化後のシリコン含有層24の厚さが所定厚さとなるように、シリコン含有層原料供給部90から供給された塗料を、基板Z(有機層20)の表面に塗布するものである。なお、シリコン含有層24は、有機層20と同様に、フラッシュ蒸着によって形成するのも好ましいのは、前述のとおりである。
【0098】
乾燥手段78は、ヒータによる加熱、温風の吹き付け等の公知の手段によって、塗布手段76が塗布した塗料を乾燥するものである。
硬化手段80は、乾燥手段78によって乾燥された塗料に、例えば、放射線、電子線、紫外線等を照射することにより、前記シルセスキオキサンの重合等を行なって硬化させ、シリコン含有層24とするものである。あるいは、加熱によって、前記シルセスキオキサンの重合等を行なってもよい。
【0099】
酸化物層形成部48は、気相成膜法によってシリコン含有層24の表面に、酸化物層26を形成する部位である。
図示例において、酸化物層形成部48は、CCP−CVDによって、酸化物層26を形成(成膜)するものであり、シャワー電極94と、原料ガス供給部96と、高周波電源98と、真空排気手段100とを有する。なお、酸化物層形成部48が、大気圧CVDのみを行なう部位である場合には、真空排気手段100は、無くてもよい。
【0100】
シャワー電極94は、CCP−CVDによる成膜に利用される、公知のシャワー電極である。
図示例において、シャワー電極94は、一例として、中空の略直方体状であり、1つの最大面をドラム52の周面に対面して、この最大面の中心からの垂線がドラム52の法線と一致するように配置される。また、シャワー電極94のドラム52との対向面には、多数の貫通穴が全面的に形成される。さらに、このドラム52との対向面は、好ましい態様として、ドラム52の周面に沿う様に湾曲している。
【0101】
なお、図示例において、酸化物層形成部48には、シャワー電極(CCP−CVDによる成膜手段)が、1個、配置されているが、本発明は、これに限定はされず、基板Zの搬送方向に、複数のシャワー電極を配列してもよい。この点に関しては、CCP−CVD以外のプラズマCVDを利用する際も同様であり、例えば、ICP−CVDによってガスバリア膜を成膜(製造)する際には、誘導電界(誘導磁場)を形成するため(誘導)コイルを、基板Zの搬送方向に、複数、配置してもよい。
また、本発明は、シャワー電極94を用いてICP−CVD法による酸化物層26の形成を行なうのにも限定はされず、通常の板状の電極と、ガス供給ノズルとを用いるものであってもよい。
【0102】
原料ガス供給部96は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる公知のガス供給手段であり、シャワー電極94の内部に、原料ガスを供給する。一例として、前述のように、不活性ガスと、酸素ガスと、TEOSまたはHMDSOとを、原料ガスとしてシャワー電極94に供給する。
前述のように、シャワー電極94のドラム52との対向面には、多数の貫通穴が供給されている。従って、シャワー電極94に供給された原料ガスは、この貫通穴から、シャワー電極94とドラム52との間に導入される。
【0103】
高周波電源98は、シャワー電極94に、プラズマ励起電力を供給する電源である。高周波電源98も、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の高周波電源が、全て利用可能である。
さらに、真空排気手段100は、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜のために、酸化物層形成部48内、すなわち、隔壁54a、隔壁54c,および、ドラム52の周面で形成される閉空間内を排気して、所定の成膜圧力に保つものである。なお、酸化物層形成部48が、大気圧CVDのみを行なう場合には、真空排気手段100は無くてもよいのは、前述のとおりである。
【0104】
ドラム52に巻き掛けられた状態で長手方向に搬送され、有機層形成部42における有機層20の形成、シリコン含有層形成部46におけるシリコン含有層24の形成、および、酸化物層形成部48における酸化物層26の形成を、順次、行なわれた基板Zは、ガイドローラ50に案内されて、巻取り室16に搬送される。
【0105】
以下、成膜室14におけるガスバリア積層体の形成を説明することにより、本発明について、より詳細に説明する。
前述のように、回転軸32に基板ロール30が装填されると、基板Zは、基板ロール30から引き出され、供給室12からガイドローラ34によって案内されて成膜室14に至り、成膜室14において、ガイドローラ40に案内されて、ドラム52の周面の所定領域に掛け回され、ガイドローラ50によって案内されて巻取り室16に至り、ガイドローラ104に案内されて巻取り軸36に至る所定の搬送経路を通される。
【0106】
供給室12から供給され、ガイドローラ40によって所定の経路に案内された基板Zはドラム52に支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送される。
また、有機層形成部42は真空排気手段64によってフラッシュ蒸着による有機層20の形成に対応する所定の真空度に減圧され、シリコン含有層形成部46は、圧力調整手段92によってシリコン含有層24の形成に対応する所定の圧力に調整され、さらに、酸化物層形成部48は真空排気手段100によって酸化物層26の形成に対応する所定の圧力に調整されている。さらに、供給室12は真空排気手段35によって、巻取り室16は真空排気手段96によって、それぞれ所定の真空度に減圧されている。
さらに、酸化物層形成部48のシャワー電極94には、原料ガス供給部96から、成膜する酸化物層26の形成に応じた原料ガスが供給される。
【0107】
原料ガスの供給量および各形成部の圧力が安定したら、有機層形成部42における、有機原料供給部78から有機層原料蒸着部58(加熱ノズル58b)への有機層20となる有機化合物蒸気の噴射、および、硬化手段60からのUV光の照射、シリコン含有層形成部46における、シリコン含有層原料供給部90から塗布手段76への塗料の供給および塗布手段76による塗料の塗布、乾燥手段78および硬化手段80の駆動、ならびに、酸化物層形成部48における、高周波電源98からシャワー電極94へのプラズマ励起電力の供給が、開始される。
【0108】
これにより、ドラム52に巻き掛けられた状態で搬送される基板Zの表面に、有機層形成部42における有機層20の形成、シリコン含有層形成部46におけるシリコン含有層24の形成、および、酸化物層形成部48における酸化物層26の形成が、順次、行なわれ、本発明の製造方法によって、本発明のガスバリア積層体が形成される。
【0109】
成膜室14で有機層20、シリコン含有層24および酸化物層26からなるガスバリア積層体を形成された基板Zは、ガイドローラ50に案内されて、スリット102aから隔壁102で隔てられた巻取り室16に搬送される。図示例において、巻取り室16は、ガイドローラ104と、巻取り軸36と、真空排気手段106とを有する。
巻取り室16に搬送されたガスバリア積層体を形成された基板Zは、ガイドローラ94に案内されて巻取り軸36に搬送され、巻取り軸36によってロール状に巻回され、例えば、ガスバリアフィルムの中間製品として次の工程に供される。
また、先の供給室12と同様、巻取り室16にも真空排気手段96が配置され、ガスバリア積層体の形成中は、巻取り室16も、成膜室14における成膜圧力に応じた真空度に減圧される。
【0110】
以上の例は、本発明のガスバリア積層体の製造方法を、ロール・ツー・ロールによる製造装置に利用した例であるが、本発明は、これに限定はされず、シート状の基板や、レンズやディスプレイ等の光学素子、太陽電池等にガスバリア積層体を成膜してもよいのは、前述のとおりである。すなわち、本発明は、いわゆるバッチ式による、ガスバリア積層体の製造に利用してもよい。
【0111】
以上、本発明のガスバリア積層体、およびガスバリア積層体の製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0112】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
[実施例1]
基板Zとして、厚さ100μmのPENフィルム(帝人デュポンフィルム社製 Q65FA)を用意した。
また、アクリレート系モノマー(ダイセルテック社製 DPHA)を7重量%、光重合開始剤(チバ・ジャパン社製 IRGACURE 907)を1重量%、および、有機溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA))を92重量%で配合した塗料を調整した。
この塗料を、スピンコートによって基板Zに塗布、乾燥した。次いで、乾燥した塗料に紫外線を照射して、基板Zの上に有機層20を形成した。有機層20の膜厚は、0.6μmであった。
【0113】
また、アクリル基を有するポリシルセスキオキサンモノマー(東亜合成社製 AC−SQ)を7重量%、光重合開始剤(チバ・ジャパン社製 IRGACURE 907)を1重量%、および、有機溶剤(PGMEA)を92重量%で配合した塗料を調整した。
この塗料を、スピンコートによって、基板Zに形成した有機層20の表面に塗布、乾燥した。次いで、乾燥した塗料に紫外線を照射して、シリコン含有層24を形成した。シリコン含有層24の膜厚は、0.2μmであった。
【0114】
さらに、この有機層20の上に形成したシリコン含有層24の表面に、大気圧のバリア放電CVDによって、厚さ0.1μmのSiOx膜を酸化物層26として形成し、有機層20、シリコン含有層24、および、酸化物層26からなるガスバリア積層体を形成したガスバリアフィルムを作製した。
原料ガスはTEOSを用いた。流量は2g/hrとした。また、キャリアガスとして窒素ガス(流量20slm)、酸素ガス(流量0.5slm)、および、アルゴンガス(流量0.1slm)を用いた。成膜圧力は、100kPaとした。
また、プラズマ励起電力は、周波数150kHz、500Wとした。
【0115】
[実施例2]
酸化物層26を、RFスパッタリング法による厚さ0.05μmのSiOx膜とした以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
ターゲットはシリコンを用いた。また、キャリアガスは、酸素ガス(流量50sccm)、および、アルゴンガス(流量140sccm)を用いた。
また、プラズマ励起電力は、周波数13.56MHz、2000Wとした。成膜圧力は、0.2Paとした。
【0116】
[実施例3]
シリコン含有層24を厚さ0.05μmのSiOC膜とした以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
なお、SiOC膜は、流量0.1g/hrのTEOSを、流量20slmの窒素ガス、流量0.5slmの酸素ガス、および、流量0.1slmのアルゴンガスからなるキャリアガスと混合させ、有機層20の表面に吹き付けることにより形成した。
【0117】
[実施例4]
シリコン含有層24を厚さ0.05μmのPHPS膜(パーヒドロポリシラザン膜)とした以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
なお、シリコン含有層24は、次のようにして形成した。すなわち、5重量%のPHPSを、95重量%のキシレンに溶解した塗料を調整して、スピンコートによって、有機層20の表面に塗布、乾燥した。次いで、乾燥した塗料を、80℃で15分、熱硬化してシリコン含有層24を形成した。
【0118】
[比較例1]
シリコン含有層24を形成しない以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリア積層体を作製した(すなわち、有機層20および酸化物層26の2層構成)。
【0119】
[比較例2]
シリコン含有層24を形成せず、かつ、有機層20を厚さ0.6μmのDPCA膜とした以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
なお、DPCA膜は、次のようにして形成した。すなわち、アクリレート系モノマー(ダイセルテック社製 DPCA)を7重量%、光重合開始剤(チバ・ジャパン社製 IRGACURE 907)を1重量%、および、有機溶剤(PGMEA)を92重量%で配合した塗料を調整した。この塗料を、スピンコートによって基板Zに塗布、乾燥した。次いで、乾燥した塗料に紫外線を照射することで、有機層20を形成した。
【0120】
[比較例3]
シリコン含有層24を形成せず、かつ、酸化物層26を厚さ0.05μmのAlxy膜とした以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
なお、酸化物層26は、ターゲットをアルミニウムとし、アルゴンガスおよび酸素ガスをキャリアガスとするマグネトロンスパッタリングを用いて形成した。アルゴンガスの流量は140sccm、酸素ガスの流量は50sccm、プラズマ励起電力は2000Wとした。成膜圧力は、0.4Paとした。
【0121】
[比較例4]
酸化物層26に代えて、低圧のCCP−CVDによって厚さ0.05μmのSiNx層を形成した以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
なお、原料ガスは、シランガス(流量250sccm)、アンモニアガス(流量500sccm)、および、窒素ガス(流量500sccm)を用い、成膜圧力を40Pa、プラズマ励起電力は周波数13.56MHz、2000Wとした。
【0122】
このようにして作成した8種のガスバリアフィルムについて、ガスバリア性および安全性を評価し、性能を評価した。
【0123】
[ガスバリア性]
カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、ガスバリアフィルムの水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定した。
水蒸気透過率が1.0×10-1以上のものを×;
水蒸気透過率が1.0×10-1未満1.0×10-3以上のものを△
水蒸気透過率が1.0×10-3未満のものを○; と評価した。
【0124】
[安全性]
全ての層を、一般高圧ガス保安規則により指定を受けず、除害機の設置が義務付けられていないガスのみを使用する製法で形成したものを○;
1層でも、一般高圧ガス保安規則により指定をうけ、除害機の設置が義務付けられているガスを使用して製法で形成したものを×; と評価した。
【0125】
[性能評価]
ガスバリア性および安全性の両方が○のものを○;
ガスバリア性が△で安全性が○のものを△;
ガスバリア性および安全性の何れかが×であるものを×; と評価した。
結果を下記表1に示す。
【0126】
【表1】


上記表に示されるように、有機層20、シリコン含有層24、および、酸化物層26を有する本発明によるガスバリアフィルム(ガスバリア積層体)は、いずれも、優れたガスガリア性を有し、しかも、安全性も高い。
これに対し、シリコン含有層24を有さない比較例1および3、シリコン含有層に代えてTEOS膜を形成した比較例3のガスバリアフィルムは、いずれも、ガスバリア性が不十分である。また、酸化物層26に代えて、SiNx膜を形成した比較例4は、ガスバリア性は良好であるものの、原料ガスとしてシランガスを用いるため、製造に危険を伴ってしまう。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0127】
高いガスバリア性に加え、製造の安全性を要求される、無機/有機のガスバリア積層体を利用する各種の製品の生産に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0128】
10 製造装置
12 供給室
14 成膜室
16 巻取り室
20 有機(化合物)層
24 シリコン含有層(珪素原子含有化合物層)
26 酸化物(無機化合物)層
30 基板ロール
32 回転軸
34,40,50,104 ガイドローラ
35,64,100,106 真空排気手段
36 巻取り軸
38,54a,54b,54c,102 隔壁
42 有機(化合物)層形成部
46 シリコン含有層形成部
48 酸化物層形成部
52 ドラム
58 有機層原料蒸着部
60 硬化手段
62 有機層原料供給部
68 タンク
70 シリンジポンプ
72 液体噴射部
74 加熱板
76 塗布手段
78 乾燥手段
80 硬化手段
90 シリコン含有層原料供給部
92 圧力調整手段
94 シャワー電極
96 原料ガス供給部
98 高周波電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが0.1〜3μmの有機化合物層と、前記有機化合物層の上に形成された厚さが0.005〜0.3μmの珪素原子含有化合物層と、前記珪素原子含有化合物層の上に形成された酸化物無機化合物層との組み合わせを、1以上有することを特徴とするガスバリア積層体。
【請求項2】
前記珪素原子含有化合物層が、ポリシルセスキオキサンを含有する層である請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項3】
前記ポリシルセスキオキサンが、(メタ)アクリル基を含む請求項2に記載のガスバリア積層体。
【請求項4】
前記ポリシルセスキオキサンが、籠型、はしご型、ランダム構造、および、開裂構造の1以上の構造を含む請求項2または3に記載のガスバリア積層体。
【請求項5】
前記珪素原子含有化合物層が、SiOxで示される化合物を含有する、不純物の含有量が原子組成比で10%以下である層である請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項6】
基板の上に、厚さが0.1〜3μmの有機化合物層を形成し、この有機化合物層の上に厚さが0.005〜0.3μmの珪素原子含有化合物層を形成し、この珪素原子含有化合物層の上に酸化物無機化合物層を形成することを特徴とするガスバリア積層体の製造方法。
【請求項7】
前記珪素原子含有化合物層が、ポリシルセスキオキサンを含有する層である請求項6に記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項8】
前記珪素原子含有化合物層が、SiOxで示される化合物を含有する、不純物の含有量が原子組成比で10%以下である層である請求項6に記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項9】
前記酸化物無機化合物層を、少なくとも、不活性ガスと、酸素ガスと、テトラエトキシシランもしくはヘキサメチルジシロキサンとを原料ガスとして用いるCVDで形成する請求項6〜8のいずれかに記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項10】
前記CVDが大気圧CVDである請求項9に記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項11】
前記酸化物無機化合物層を、ターゲットとして珪素もしくは珪素化合物を用い、酸素ガスの導入を伴うスパッタリングで形成する請求項6〜8のいずれかに記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項12】
前記珪素原子含有化合物層を、珪素原子含有化合物を含有する液体を前記有機化合物層の上に塗布し、紫外線照射、放射線照射および加熱のいずれか1以上によって前記珪素原子含有化合物を硬化させることによって形成する請求項6〜11のいずれかに記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項13】
長尺な基板を円筒状のドラムの側面に巻き掛けた状態で、前記基板を長手方向に搬送しつつ、前記ドラムの周面に対面して設けられた有機化合物層形成手段、前記有機化合物層形成手段の下流に設けられた珪素原子含有化合物層形成手段、および、前記珪素原子含有化合物層形成手段の下流に設けられた気相成膜法による成膜手段によって、前記有機化合物層の形成、珪素原子含有化合物層の形成、および、酸化物無機化合物層の形成を、順次、行なう請求項6〜12のいずれかに記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項14】
前記有機化合物層の形成を、フラッシュ蒸着によって行なう請求項6〜13のいずれかに記載のガスバリア積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−274562(P2010−274562A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130277(P2009−130277)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】