説明

ガス燃料内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、水素を燃料として運転可能な水素内燃機関の制御装置に関し、システムのエネルギ効率の向上を図り、航続距離を延ばすことのできるガス燃料内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ガス燃料による運転が可能なガス燃料内燃機関において、燃焼室内に直接ガス燃料を噴射する筒内噴射弁と、吸気ポートにガス燃料を噴射するポート噴射弁と、ガス燃料を貯蔵する複数のタンクと、前記タンクの貯蔵圧力をタンク毎に取得する貯蔵圧力取得手段と、前記貯蔵圧力に基づいて、前記複数のタンクの中から前記筒内噴射弁および/または前記ポート噴射弁にガス燃料を供給するタンクをそれぞれ選択する選択手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス燃料内燃機関の制御装置に関し、特に、水素を燃料として運転可能な水素内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開2005−299525号公報に開示されるように、内燃機関の吸気ポートに配置されたガソリン燃料噴射弁と、吸気ポートおよび筒内にそれぞれ配置された水素燃料噴射弁とを備え、内燃機関の運転状態に応じて、燃料噴射手段を選択する内燃機関の制御装置が知られている。この装置によれば、より具体的には、内燃機関の運転状態が高負荷時、或いは加速時には、吸気ポートのガソリン噴射に加えて、筒内の水素噴射が併用される。水素ガスを燃料として用いると、燃焼速度がガソリンの場合に比して格段に速くなる。このため、ガソリンと共に水素ガスを供給することにより燃焼状態を改善させることができ、安定したリーンバーン運転を実現できる空気過剰率の限界を大幅に高めることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−299525号公報
【特許文献2】特開2004−346841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水素ガスのポート噴射は噴射圧力が低い。このため、水素ガスを高圧に増圧することなく、ポート噴射によるリーンバーン運転を実現することができる。しかしながら、ポート噴射は高負荷域での実現が難しい。つまり、高負荷域では、出力を得るために燃料である水素ガスを増量せざるを得ないが、吸入できる空気量には限界がある。このため、高負荷域にポート噴射を行うと、水素量に対して吸入空気量が不足し、内燃機関の効率が低下することとなる。
【0005】
そこで、かかる場合においては水素ガスの筒内噴射が好適である。筒内噴射では水素ガスが燃焼室内に直接噴射される。このため、水素ガスの拡散燃焼を行うことができ、高負荷要求にも対応することができる。しかしながら、筒内噴射を行うためは、圧縮TDC付近でも十分に噴射できる高圧の水素ガスが必要となる。水素ガスの増圧には多量のエネルギが消費されてしまう。このため、かかるエネルギをできるだけ抑制し、システムのエネルギ効率の向上を図ることが望まれていた。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、システムのエネルギ効率の向上を図り、航続距離を延ばすことのできるガス燃料内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、ガス燃料による運転が可能なガス燃料内燃機関の制御装置であって、
燃焼室内に直接ガス燃料を噴射する筒内噴射弁と、
吸気ポートにガス燃料を噴射するポート噴射弁と、
ガス燃料を貯蔵する複数のタンクと、
前記タンクの貯蔵圧力をタンク毎に取得する貯蔵圧力取得手段と、
前記貯蔵圧力に基づいて、前記複数のタンクの中から前記筒内噴射弁および/または前記ポート噴射弁にガス燃料を供給するタンクをそれぞれ選択する選択手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関は、ガス燃料として、水素ガスを使用する水素内燃機関であることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または2の発明において、
前記複数のタンクの貯蔵圧力を比較する圧力比較手段を更に備え、
前記選択手段は、
前記筒内噴射弁には、前記ポート噴射弁にガス燃料を供給するタンクに比して高圧のタンクを選択することを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1または2の発明において、
前記貯蔵圧力と所定値を比較する比較手段と、
前記比較手段に基づいて、前記内燃機関のガス燃料の噴射モードを設定する噴射モード設定手段と、を更に備え、
前記噴射モード設定手段は、
前記複数のタンクの中に、前記貯蔵圧力が前記所定値よりも大きい高圧タンクと、前記貯蔵圧力が前記所定値よりも小さい低圧タンクとの両方が含まれる場合には、前記筒内噴射弁および前記ポート噴射弁を使用する併用モードに設定し、
前記選択手段は、
前記筒内噴射弁には前記高圧タンク、前記ポート噴射弁には前記低圧タンクをそれぞれ選択することを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1または2の発明において、
前記貯蔵圧力と所定値を比較する比較手段と、
前記比較手段に基づいて、前記内燃機関のガス燃料の噴射モードを設定する噴射モード設定手段と、を更に備え、
前記噴射モード設定手段は、
前記複数のタンクの中に、前記貯蔵圧力が前記所定値よりも大きい高圧タンクのみが含まれる場合には、前記筒内噴射弁のみを使用する筒内噴射モードに設定し、
前記選択手段は、
前記筒内噴射弁には前記高圧タンクの何れか1つを選択することを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第1または2の発明において、
前記貯蔵圧力と所定値を比較する比較手段と、
前記比較手段に基づいて、前記内燃機関のガス燃料の噴射モードを設定する噴射モード設定手段と、を更に備え、
前記噴射モード設定手段は、
前記複数のタンクの中に、前記貯蔵圧力が前記所定値よりも小さい低圧タンクのみが含まれる場合には、前記ポート噴射弁のみを使用するポート噴射モードに設定し、
前記選択手段は、
前記ポート噴射弁には前記低圧タンクの何れか1つを選択することを特徴とする。
【0013】
また、第7の発明は、第4乃至6の何れか1つの発明において、
前記所定値は、圧縮TDC付近において燃焼室内にガス燃料を噴射することのできる圧力値であることを特徴とする。
【0014】
また、第8の発明は、第1乃至7の何れか1つの発明において、
前記複数のタンクを互いに連通させる充填流路と、
前記充填流路を介して、前記タンク内のガス燃料を他のタンクへ充填する充填手段と、
を更に備えることを特徴とする。
【0015】
また、第9の発明は、第8の発明において、
前記充填手段は、
前記充填流路に配置された加圧装置と、
前記タンクから前記ポート噴射弁にガス燃料を供給する供給流路に配置されたエアモータと、を備え、
前記エアモータは、前記供給流路を流れるガス燃料の圧力エネルギにより、前記加圧装置に動力を供給することを特徴とする。
【0016】
また、第10の発明は、第8の発明において、
前記充填手段は、
前記充填流路に配置された加圧装置を備え、
前記内燃機関の動力により、前記加圧装置を駆動することを特徴とする。
【0017】
また、第11の発明は、第10の発明において、
前記内燃機関を搭載した移動体において、
前記充填手段は、
前記移動体の惰行時或いは減速時に、前記加圧装置を駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、ガス燃料による運転が可能なガス燃料内燃機関において、ガス燃料が貯蔵されたタンクを複数備える場合に、タンクの貯蔵圧力に基づいて、筒内噴射弁およびポート噴射弁に使用するガス燃料の供給源を選択することができる。筒内噴射弁には高圧のガス燃料を供給する必要があるのに対し、ポート噴射弁は低圧のガス燃料でよい。このため、本発明によれば、タンクの貯蔵圧力に基づいて、筒内噴射弁およびポート噴射弁に供給するガス燃料のタンクをそれぞれ選択することにより、タンクの貯蔵圧力を有効に利用しシステムのエネルギ効率の向上を図ると共に、航続距離を延ばすことができる。
【0019】
第2の発明によれば、ガス燃料に水素ガスを使用する水素内燃機関により本発明を実行することができる。
【0020】
第3の発明によれば、複数のタンクの貯蔵圧力が比較され、貯蔵圧力の低いタンクのガス燃料がポート噴射弁に使用され、貯蔵圧力の高いタンクのガス燃料が筒内噴射弁に使用される。筒内噴射弁を使用した燃料噴射においては、高圧のガス燃料が必要であるのに対し、ポート噴射弁を使用した燃料噴射においては、低圧のガス燃料でも十分噴射可能である。このため、ポート噴射に低圧のタンクのガス燃料を使用することで、高圧のタンクを筒内噴射のために温存することができる。したがって、本発明によれば、筒内噴射のために別途ポンプ等の加圧装置を駆動する機会を減少させ、システムのエネルギ効率の向上を図ることができる。
【0021】
第4の発明によれば、内燃機関の備える複数のタンクに高圧タンクと低圧タンクとを含む場合には、高圧タンクが筒内噴射に使用され、低圧タンクがポート噴射に使用される。このため、本発明によれば、筒内噴射のために別途ポンプ等の加圧装置を駆動する機会を減少させ、システムのエネルギ効率の向上を図ることができる。
【0022】
第5の発明によれば、内燃機関の備える複数のタンクがすべて高圧タンクである場合には、高圧タンクによる筒内噴射のみが行われる。筒内噴射は燃焼室に直接燃料が噴射されるため、ポート噴射に比して燃焼期間の短縮による燃焼改善が見込まれる。また、高圧タンクによるガス燃料の供給により、筒内噴射に必要な高圧エネルギを確保することができる。このため、本発明によれば、高圧タンクによる筒内噴射のみが行われることで、高圧タンクの圧縮動力を有効に利用することができる。また、燃焼改善により燃費の向上を図り、航続距離を延ばすことができる。
【0023】
第6の発明によれば、内燃機関の備える複数のタンクがすべて低圧タンクである場合には、低圧タンクによるポート噴射のみが行われる。低圧タンクの貯蔵圧力では、筒内噴射を行うことができない。このため、本発明によれば、低圧タンクによるポート噴射のみが行われることで、別途加圧装置を使用せずに利用可能な燃料量を増量し、航続距離を延ばすことができる。
【0024】
第7の発明によれば、所定値は圧縮TDC付近でも十分に燃焼室内にガス燃料を噴射できる圧力値に設定される。このため、本発明によれば、かかる所定値を高圧タンクおよび低圧タンクの閾値にすることで、タンクの貯蔵圧力のみによって、筒内噴射を行うことができるか否かを判断することができる。
【0025】
第8の発明によれば、内燃機関の備える複数のタンクにおいて、タンクを互いに連通させる充填流路を介して、タンクのガス燃料を他のタンクに充填することができる。筒内噴射弁には高圧のガス燃料を供給する必要があるのに対し、ポート噴射弁は低圧のガス燃料でよい。このため、本発明によれば、筒内噴射を行うことのできるガス燃料の量を増量することができる。また、タンクのガス燃焼が消費され、貯蔵圧力がポート噴射を行うことのできない圧力まで低下した場合であっても、残りのガス燃料を他のタンクに充填することにより、ガス燃料を有効に利用し、航続距離を延ばすことができる。
【0026】
第9の発明によれば、充填流路を介して貯蔵圧力の低いタンクのガス燃料を貯蔵圧力の高いタンクに充填するために、充填流路を加圧する加圧装置が使用される。加圧装置は、ポート噴射弁に供給されるガス燃料の圧力エネルギに基づいて回転運動を行うエアモータによって駆動される。このため、本発明によれば、ガス燃料の圧力エネルギを有効に利用して、ガス燃料のタンクへの充填を行うことができる。
【0027】
第10の発明によれば、充填流路を介して貯蔵圧力の低いタンクのガス燃料を貯蔵圧力の高いタンクに充填するために、充填流路を加圧する加圧装置が使用される。加圧装置は、内燃機関の動力に基づいて駆動される。このため、本発明によれば、内燃機関の動力を有効に利用して、ガス燃料のタンクへの充填を行うことができる。
【0028】
第11の発明によれば、充填流路を介して貯蔵圧力の低いタンクのガス燃料を貯蔵圧力の高いタンクに充填するために、充填流路を加圧する加圧装置が使用される。加圧装置の駆動には、移動体の惰行時或いは減速時における内燃機関の動力が使用される。このため、本発明によれば、系の外部に放出されるエネルギを回生エネルギとして有効に利用して、ガス燃料のタンクへの充填を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面に基づいてこの発明のいくつかの実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。なお、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0030】
実施の形態1.
[ハードウェア構成]
図1は、本発明の実施の形態の構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態の装置が備えるガス燃料内燃機関10は、ガス燃料として水素を使用する水素エンジンである。当該水素エンジン10は、内部にピストン12が配置されたシリンダブロック14と、シリンダブロック14に組み付けられたシリンダヘッド16を備えている。シリンダブロック14およびシリンダヘッド16の内壁とピストン12の上面とで囲まれる空間は、燃焼室18を形成している。尚、図1では一つの燃焼室18のみを示しているが、水素エンジン10は複数の燃焼室18を有する多気筒エンジンとして構成されている。燃焼室18には、空気を燃焼室18内に導入するための吸気ポート20、および燃焼室18内の燃焼ガスを排出するための排気ポート22が連通している。また、燃焼室18内には点火プラグ24が配置されている。
【0031】
本発明の実施の形態の装置は、水素ガスを高圧で貯蔵するための水素貯蔵タンク(以下、単に「タンク」とも称す)1、2を備えている。また、タンク1、2には、それぞれ水素供給配管34a、34b(以下、特にこれらを区別しない場合には、単に「水素供給配管34」と称す)が連通している。さらに、タンク1、2には、それぞれタンクの貯蔵圧力を検出する圧力センサ32a、32b(以下、特にこれらを区別しない場合には、単に「圧力センサ32」と称す)が設けられている。
【0032】
水素供給配管34aは、分岐点36aで分岐された後にそれぞれ燃焼室に配置された筒内噴射弁38と吸気ポートに配置されたポート噴射弁40に連通している。また、水素供給配管34aには、分岐点36aと筒内噴射弁38との間、および分岐点36aとポート噴射弁40との間にシャットバルブ42a、44aがそれぞれ配置されている。
【0033】
一方、水素供給配管34bは、分岐点36bで分岐された後にそれぞれ筒内噴射弁38およびポート噴射弁40に連通している。また、水素供給配管34bには、分岐点36bと筒内噴射弁38との間、および分岐点36bとポート噴射弁40との間にシャットバルブ42b、44bが配置されている。したがって、シャットバルブ42a、44a、42b、44bの開閉制御を行うことにより、タンク1或いは2と、筒内噴射弁38或いはポート噴射弁40との連通状態を制御することができる。
【0034】
また、水素供給配管34のシャットバルブ42a、42bの下流には、高圧レギュレータ46が配置されている。高圧レギュレータ46は、水素ガスを貯蔵圧力から圧縮TDC付近でも十分に噴射できる範囲の噴射圧力に減圧する。また、水素供給配管34のシャットバルブ44a、44bの下流には、低圧レギュレータ48が配置されている。吸気ポート20内の圧力は燃焼室18に比して低い。このため、低圧レギュレータ48は、筒内噴射圧力よりも低い圧力に減圧される。
【0035】
本発明の実施の形態の装置は、図1に示すとおり、ECU(Electronic Control Unit)70を備えている。ECU70の出力部には、上述した筒内噴射弁38、ポート噴射弁40、およびシャットバルブ42a、44a、42b、44b等の種々の機器が接続されている。また、ECU70の入力部には、上述した圧力センサ32の他、水素エンジン10の運転状態を把握すべく、スロットル開度、機関回転数、吸入空気量などを検出するための各種センサ(図示せず)が接続されている。ECU70は、各センサの出力に基づいて、所定の制御プログラムに従って各機器を駆動する。
【0036】
[実施の形態1の動作]
次に、本実施の形態1の動作について説明する。本実施の形態の水素エンジン10は、内燃機関の燃料として水素ガスを使用する。水素ガスはその可燃範囲が体積割合で4〜75%とかなり広く、空気過剰率λが4以上程度の極めて薄い混合気でも十分に燃焼させることができる。このため、水素を内燃機関の燃料として利用する場合には、極めてリーンな空燃比でも動力を取り出すことができ、いわゆる超リーンバーン運転が可能となる。
【0037】
超リーンバーン運転によれば、スロットルを略全開にできるのでポンプ損失を低減することができ、また、燃焼温度が低下することから冷却損失も低減することができる。ポンプ損失および冷却損失の低減によって、内燃機関の効率は向上し燃費に優れた高効率での運転が可能となる。さらに、燃焼温度の低下によってNOの発生量を略ゼロまで抑制することができ、また、水素を燃料とすることでCOやCOの発生も無い。したがって、水素を用いた超リーンバーン運転によれば、完全なゼロエミッションの実現も可能となる。
【0038】
しかしながら、上述したとおり、水素を燃料とする超リーンバーン運転は、高負荷域での実現が難しい。高負荷域では、出力を得るために燃料である水素ガスを増量せざるを得ないが、吸入できる空気量には限界がある。このため、高負荷域では水素量に対して吸入空気量が不足し、超リーンバーン空燃比を維持することができなくなる。
【0039】
したがって、このような高負荷領域では筒内噴射が行われる。筒内噴射においては、水素エンジン10の燃焼室18内に筒内噴射弁38から水素ガスが直接噴射される。水素ガスは空気と混合し難く筒内噴射弁38から噴射された水素は噴流を形成する。このため、筒内噴射弁38からの水素の噴射途中に点火プラグ24を点火することで、水素の噴流に直接着火することができる。水素の着火により火炎(火種)が形成され、この火炎に次々と水素を噴射していくことで、水素は空気と拡散混合しながら燃焼することとなる。これにより、筒内噴射弁38を使用して水素ガスの拡散燃焼を行うことができ、高負荷要求にも対応することができる。
【0040】
ここで、上述した水素ガスの筒内噴射を行うためは、圧縮TDC付近でも十分に噴射できる圧力の圧縮水素ガスが必要となる。上述したとおり、タンクの貯蔵圧力が噴射圧力より高い場合には、ポンプ等の加圧装置を利用せずに噴射圧力に減圧された水素ガスを内燃機関に供給することができる。これにより、水素貯蔵容器の貯蔵圧力を有効に利用することができ、システムのエネルギ効率を向上させることができる。
【0041】
一方、上述した水素ガスのポート噴射を行うためは、上記筒内噴射のような高い噴射圧力は要求されない。そこで、タンク内の水素ガスが消費され、貯蔵圧力が筒内噴射圧力より低くなった場合には、筒内噴射に代えてポート噴射を行うことが考えられる。これにより、加圧装置を利用せずに水素貯蔵容器内の水素ガスを有効に使用することができるので、システムのエネルギ効率を向上させることができ、航続距離を延ばすことができる。
【0042】
そこで、本実施の形態においては、タンク1とタンク2の貯蔵圧力を比較し、貯蔵圧力の低いタンクをポート噴射用とし、貯蔵圧力の高いタンクを筒内噴射用とする。これにより、内燃機関の運転状態に基づいて、何れかの燃料噴射手段が選択されたとしても、常に貯蔵圧力の高いタンクを筒内噴射用に割り振ることができ、タンクの圧縮動力を有効に利用することができる。また、加圧装置の使用機会を減少させることができ、機関性能を低下させることなくシステムのエネルギを効率の向上を図り、航続距離を延ばすことができる。
【0043】
[実施の形態1における具体的処理]
次に、図2を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図2は、ECU70が水素エンジン10に水素ガスを供給するための処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【0044】
図2に示すルーチンでは、先ず、タンク1およびタンク2の貯蔵圧力P1、P2が取得される(ステップ100)。ここでは、具体的には、圧力センサ32a、32bの出力信号がECU70に取り込まれる。次に、上記ステップ100において取得された貯蔵圧力P1およびP2の大小が比較される(ステップ102)。
【0045】
上記ステップ102においてP1>P2の成立が認められた場合には、筒内噴射弁38への水素ガスの供給はタンク1が選択され、ポート噴射弁40への水素ガスの供給はタンク2が選択される(ステップ104)。ここでは、具体的には、シャットバルブ42aの開弁制御、およびシャットバルブ42bの閉弁制御が実行される。これにより、水素供給配管34にはタンク1と筒内噴射弁38との連通状態が形成される。同様に、シャットバルブ44aの閉弁制御、およびシャットバルブ44bの開弁制御が実行され、水素供給配管34には、タンク2とポート噴射弁40との連通状態が形成される。
【0046】
一方、上記ステップ102においてP1>P2の成立が認められない場合には、筒内噴射弁38への水素ガスの供給はタンク2が選択され、ポート噴射弁40への水素ガスの供給はタンク1が選択される(ステップ106)。ここでは、具体的には、シャットバルブ44aの閉弁制御、およびシャットバルブ44bの開弁制御が実行される。これにより、水素供給配管34にはタンク2と筒内噴射弁38との連通状態が形成される。同様に、シャットバルブ42aの開弁制御、およびシャットバルブ42bの閉弁制御が実行され、水素供給配管34には、タンク1とポート噴射弁40との連通状態が形成される。
【0047】
以上説明したとおり、本実施の形態の装置によれば、タンク1とタンク2の貯蔵圧力を比較し、貯蔵圧力の低いタンクをポート噴射用とし、貯蔵圧力の高いタンクを筒内噴射用とすることができる。これにより、常に貯蔵圧力の高いタンクを筒内噴射用に割り振ることができ、タンクの圧縮動力を有効に利用することができる。また、加圧装置の使用機会を減少させることができ、機関性能を低下させることなくシステムのエネルギを効率の向上を図り、航続距離を延ばすことができる。
【0048】
ところで、上述した実施の形態1においては、タンク1およびタンク2を備える装置について、貯蔵圧力の大小関係に基づいて、各燃料噴射弁に使用されるタンクを選択することとしているが、使用するタンクの数量はこれに限定されない。すなわち、複数のタンクを備える装置において、貯蔵圧力の高いタンクを筒内噴射用として温存することができるのであれば、3個以上使用することとしてもよい。その際には、貯蔵圧力の最も低いタンクからポート噴射用として選択することで、少しでも貯蔵圧力の高いタンクを筒内噴射用に温存することが可能となる。この点は、以下に説明する他の実施の形態においても同様である。
【0049】
また、上述した実施の形態1においては、ガス燃料内燃機関として水素エンジンを使用しているが、使用されるガス燃料内燃機関はこれに限られない。すなわち、水素ガス以外のガス燃料を利用するガス燃料内燃機関において、本実施の形態を実行することとしてもよい。この点は、以下に説明する他の実施の形態においても同様である。
【0050】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU70が、上記ステップ100の処理を実行することにより、前記第1の発明における「貯蔵圧力取得手段」が、上記ステップ104または106の処理を実行することにより、前記第1の発明における「選択手段」が、それぞれ実現されている。また、上述した実施の形態1においては、ECU70が、上記ステップ102の処理を実行することにより、前記第3の発明における「圧力比較手段」が実現されている。
【0051】
実施の形態2.
[実施の形態2の特徴]
次に、図3を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU70に後述する図3に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0052】
上述した実施の形態1では、タンク1とタンク2の貯蔵圧力を比較し、貯蔵圧力の低い低圧タンクがポート噴射用に使用され、貯蔵圧力の高い高圧タンクが筒内噴射用に使用される。これにより、常に貯蔵圧力の高いタンクを筒内噴射用に割り振ることができ、タンクの圧縮動力を有効に利用することとしている。
【0053】
しかしながら、燃料噴射手段の特定は内燃機関の運転状態に基づいて行われる。このため、高圧タンクの貯蔵圧力が筒内噴射圧力よりも低い場合に筒内噴射が選択され、ポンプ等の駆動が必要になる場合も想定される。また、低圧タンクの貯蔵圧力が筒内噴射圧力よりも高い場合にポート噴射が選択され、筒内噴射も可能な高圧の圧縮動力がポート噴射により消費されてしまう場合も想定される。
【0054】
そこで、本実施の形態2においては、タンクの貯蔵圧力に基づいて、内燃機関の燃焼モードの選択を行うこととする。より具体的には、両タンクの貯蔵圧力が筒内噴射圧力より高い場合には、筒内噴射のみ実行する燃焼モードとし、両タンクの貯蔵圧力が筒内噴射圧力より低い場合には、ポート噴射のみ実行する燃焼モードとする。これにより、加圧装置を使用せず、タンクの圧縮動力を利用して効果的にエネルギを使用することができる。
【0055】
[実施の形態2における具体的処理]
次に、図3を参照して、本実施の形態2において実行する処理の具体的内容について説明する。図3は、ECU70が水素エンジン10に水素ガスを供給するための処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【0056】
図3に示すルーチンでは、先ず、タンク1およびタンク2の貯蔵圧力P1、P2が取得される(ステップ200)。ここでは、具体的には、図2に示すステップ100と同様の処理が実行される。次に、上記ステップ200において取得された貯蔵圧力P1およびP2と筒内噴射基準圧力Phとの大小関係が比較される(ステップ202)。筒内噴射基準圧力Phは、圧縮TDC付近でも燃料噴射が可能な圧力値として特定された基準圧力である。その結果、タンク1の圧力P1と、タンク2の圧力P2が共に筒内噴射基準圧力Ph以上であると認められた場合には、筒内噴射使用モードが設定される(ステップ204)。
【0057】
上記ステップ204において筒内噴射使用モードが設定された場合には、次に、上記ステップ200において取得された貯蔵圧力P1およびP2の大小が比較される(ステップ206)。ここでは、具体的には、図2に示すステップ102と同様の処理が実行される。
【0058】
上記ステップ206においてP1>P2の成立が認められた場合には、筒内噴射弁38への水素ガスの供給はタンク2が選択される(ステップ208)。ここでは、具体的には、シャットバルブ44aの閉弁制御、およびシャットバルブ44bの開弁制御が実行される。これにより、水素供給配管34にはタンク2と筒内噴射弁38との連通状態が形成される。
【0059】
一方、上記ステップ206においてP1>P2の成立が認められない場合には、筒内噴射弁38への水素ガスの供給はタンク1が選択される(ステップ210)。ここでは、具体的には、シャットバルブ42aの開弁制御、およびシャットバルブ42bの閉弁制御が実行される。これにより、水素供給配管34にはタンク1と筒内噴射弁38との連通状態が形成される。
【0060】
以上説明したとおり、上記ステップ204において筒内噴射使用モードが設定された場合には、タンク1とタンク2の貯蔵圧力を比較し、貯蔵圧力の低いタンクの水素が優先的に筒内噴射に使用される。これにより、貯蔵圧力の高いタンクを筒内噴射用に温存することができ、タンクの圧縮動力を有効に利用することができる。また、加圧装置を使用する必要がないため、システムのエネルギを効率の向上を図り、航続距離を延ばすことができる。
【0061】
また、上記ステップ202において、P1≧PhかつP2≧Phの成立が認められない場合には、次に、P1≧PhかつP2<Phが成立するか否かが判断される(ステップ212)。その結果、P1≧PhかつP2<Phの成立が認められた場合には、筒内噴射/ポート噴射併用モードが設定される(ステップ214)。併用モードにおいては、筒内噴射弁38への水素ガスの供給はタンク1が選択され、ポート噴射弁40への水素ガスの供給はタンク2が選択される(ステップ216)。ここでは、具体的には、シャットバルブ42aの開弁制御、およびシャットバルブ42bの閉弁制御が実行される。これにより、水素供給配管34にはタンク1と筒内噴射弁38との連通状態が形成される。同様に、シャットバルブ44aの閉弁制御、およびシャットバルブ44bの開弁制御が実行され、水素供給配管34には、タンク2とポート噴射弁40との連通状態が形成される。
【0062】
一方、上記ステップ212において、P1≧PhかつP2<Phの成立が認められない場合には、P1<PhかつP2≧Phの成立がするか否かが判断される(ステップ218)。その結果、P1<PhかつP2≧Phの成立が認められた場合には、筒内噴射/ポート噴射併用モードが設定される(ステップ220)。上記併用モードが設定されると、筒内噴射弁38への水素ガスの供給はタンク2が選択され、ポート噴射弁40への水素ガスの供給はタンク1が選択される(ステップ222)。ここでは、具体的には、シャットバルブ42bの開弁制御、およびシャットバルブ42aの閉弁制御が実行される。これにより、水素供給配管34にはタンク2と筒内噴射弁38との連通状態が形成される。同様に、シャットバルブ44bの閉弁制御、およびシャットバルブ44aの開弁制御が実行され、水素供給配管34には、タンク2とポート噴射弁40との連通状態が形成される。
【0063】
以上説明したとおり、上記ステップ214および220において筒内噴射/ポート噴射併用モードが設定された場合には、筒内噴射基準圧力Phより圧力の高いタンクの水素が筒内噴射に使用され、貯蔵圧力の低いタンクの水素がポート噴射に使用される。これにより、筒内噴射およびポート噴射を効率よく併用することができ、タンクの圧縮動力を有効に利用することができる。また、加圧装置を使用する必要がないため、システムのエネルギを効率の向上を図り、航続距離を延ばすことができる。
【0064】
また、上記ステップ218において、P1<PhかつP2≧Phの成立が認めらない場合には、ポート噴射使用モードが設定される(ステップ224)。筒内噴射使用モードが設定された場合には、ポート噴射弁40への水素ガスの供給はタンク1または2が選択される(ステップ226)。ここでは、具体的には、シャットバルブ42aおよび42bの閉弁制御、およびシャットバルブ44aあるいは44bの開弁制御が実行される。これにより、水素供給配管34にはタンク1あるいは2とポート噴射弁40との連通状態が形成される。
【0065】
以上説明したとおり、上記ステップ224においてポート噴射使用モードが設定された場合には、タンク1あるいはタンク2の水素ガスを使用してポート噴射が実行される。貯蔵圧力が筒内噴射基準圧力Phよりも低いタンクは、ポンプ等の加圧装置を利用せずに筒内噴射圧力を確保することができない。このため、タンクの水素ガスをポート噴射により有効に使用し、航続距離を延ばすことができる。
【0066】
尚、上述した実施の形態2においては、ECU70が、上記ステップ200の処理を実行することにより、前記第1の発明における「貯蔵圧力取得手段」が、上記ステップ208、210、216、222、または226の処理を実行することにより、前記第1の発明における「選択手段」が、それぞれ実現されている。
【0067】
また、上述した実施の形態2においては、ECU70が、上記ステップ202、212、または218の処理を実行することにより、前記第4の発明における「比較手段」が、上記ステップ214、または220の処理を実行することにより、前記第4の発明における「噴射モード設定手段」が、それぞれ実現されている。
【0068】
また、上述した実施の形態2においては、ECU70が、上記ステップ202の処理を実行することにより、前記第5の発明における「比較手段」が、上記ステップ204の処理を実行することにより、前記第5の発明における「噴射モード設定手段」が、それぞれ実現されている。
【0069】
また、上述した実施の形態2においては、ECU70が、上記ステップ202、212、または218の処理を実行することにより、前記第6の発明における「比較手段」が、上記ステップ224の処理を実行することにより、前記第6の発明における「噴射モード設定手段」が、それぞれ実現されている。
【0070】
実施の形態3.
[実施の形態3の特徴]
次に、図4および5を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態のシステムは、図4に示すハードウェア構成を用いて、ECU70に後述する図5に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0071】
本実施の形態3のガス燃料内燃機関は実施の形態1と同じくガス燃料として水素を使用する水素エンジンである。図4は本実施の形態の水素エンジン50の概略構成を示す図である。図4において、図1に示す水素エンジン10と同一の部位については、同一の符号を付してその詳細な説明を省略あるいは簡略化するものとする。
【0072】
図4に示すとおり、本実施の形態の水素エンジン50は、水素供給配管34aの分岐点52に、タンク1の水素ガスをタンク2へ充填するための水素充填配管54が連通している。水素充填配管54にはポンプ56が介設されている。また、低圧レギュレータ48の上流の水素供給配管34上には、エアモータ58が介設されている。エアモータ58は、水素供給配管34を流れる水素ガスの圧力エネルギを利用して回転運動を行う機器である。エアモータ58とポンプ56は回転軸60で接続されている。このため、エアモータ58の動力に基づいてポンプ56を駆動制御することができる。
【0073】
また、水素充填配管54のポンプ56の上流にはシャットバルブ62が配置されている。シャットバルブ62は水素充填配管54の開閉制御を行うことにより、タンク1とポンプ56との連通状態を制御することができる。
【0074】
[実施の形態3の動作]
上述した実施の形態1では、タンク1とタンク2の貯蔵圧力を比較し、貯蔵圧力の低い低圧タンクがポート噴射用に使用され、貯蔵圧力の高い高圧タンクが筒内噴射用に使用される。これにより、常に貯蔵圧力の高いタンクを筒内噴射用に割り振ることができ、タンクの圧縮動力を有効に利用することができることとしている。
【0075】
しかしながら、燃料噴射手段の特定は内燃機関の運転状態に基づいて行われる。このため、高圧タンクの貯蔵圧力が筒内噴射圧力よりも低い場合に筒内噴射が選択され、ポンプ等の駆動が別途必要になる場合も想定される。
【0076】
そこで、本実施の形態3においては、タンク2の貯蔵圧力が筒内噴射基準圧力Phを下回った場合に、タンク1に貯蔵されている水素ガスを再加圧して、タンク2に充填することとする。これにより、タンク2の充填圧力を再度筒内噴射基準圧力Ph以上の状態にすることができ、別途加圧装置を使用せず、タンクの圧力を利用して効果的に筒内噴射を実行することができる。
【0077】
[実施の形態3における具体的処理]
次に、図5を参照して、本実施の形態3において実行する処理の具体的内容について説明する。図5は、ECU70がタンク1の水素ガスをタンク2に充填するための処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【0078】
図5に示すルーチンでは、先ず、タンク1およびタンク2の貯蔵圧力P1、P2が取得される(ステップ300)。ここでは、具体的には、図2に示すステップ100と同様の処理が実行される。次に、上記ステップ300において取得された貯蔵圧力P2と筒内噴射基準圧力Phとの大小関係が比較される(ステップ302)。筒内噴射基準圧力Phは、圧縮TDC付近でも燃料噴射が可能な圧力値として特定された基準圧力である。その結果、タンク2の貯蔵圧力P2が筒内噴射基準圧力Phを下回ると認められた場合には、次のステップに移行し、水素エンジン50がポート噴射実行中か否かが判断される(ステップ304)。ポート噴射の実行中は、エアモータ58により水素ガスの圧力エネルギを回収することができる。このため、ポート噴射実行中か否かを判断することにより、ポンプ56を駆動可能な状態であるか否かが判断される。
【0079】
上記ステップ304においてポート噴射実行中であると認められた場合には、水素ガスの充填制御が実行される(ステップ306)。ここでは、具体的には、エアモータ58により回収された水素ガスの圧力エネルギを利用してポンプ56が駆動される。また、シャットバルブ62が開弁され、タンク1に貯蔵されていた水素ガスがポンプ56により加圧され、タンク2に充填される。
【0080】
以上説明したとおり、タンク2の貯蔵圧力が筒内噴射基準圧力Phを下回った場合に、タンク1に貯蔵されている水素ガスを再加圧して、タンク2に再充填することができる。これにより、タンク2の充填圧力を再度筒内噴射基準圧力Ph以上の状態にすることができ、別途加圧装置を駆動するエネルギを消費せず、タンクの圧力を利用して効果的に筒内噴射を実行することができる。また、タンク1の貯蔵圧力がポート噴射を実行するための基準圧力を下回った場合においても、上述した水素充填制御によりタンク1の残留水素をタンク2へ再充填することができるため、タンク内の水素をすべて有効に使用することができ、航続距離を延ばすことができる。
【0081】
ところで、上述した実施の形態3においては、エアモータ58を使用することにより、水素供給配管34内を流通する水素ガスの圧力エネルギをポンプ56の駆動に利用することとしているが、圧力エネルギの利用はエアモータ58とポンプ56の組み合わせに限られない。すなわち、ガス燃料の持つ圧力エネルギを利用して駆動する加圧装置であれば、他の加圧装置でもよい。
【0082】
また、上述した実施の形態3においては、タンク1からタンク2へ水素ガスを充填する条件として、貯蔵圧力P2が筒内噴射基準圧力より小さいか否かを判断することにより、筒内噴射が可能となる水素ガスを増量することとしているが、充填条件はこれに限られない。すなわち、タンク1の貯蔵圧力P1がポート噴射を行うことのできる基準圧力より小さいか否かを判断することにより、燃料噴射に使用することができないタンク1の残留水素を有効に使用することとしてもよい。
【0083】
また、上述した実施の形態3においては、貯蔵圧力P2が筒内噴射基準圧力より小さい場合に、タンク1からタンク2へ水素ガスを充填することとしているが、充填されるタンクはタンク1に限られない。すなわち、タンク2の水素供給配管34bからタンク1へ連通する充填配管を備えるシステムにおいて、貯蔵圧力P1が筒内噴射基準圧力より小さい場合に、タンク2からタンク1へ水素ガスを充填することとしてもよい。
【0084】
尚、上述した実施の形態3においては、ECU70が、上記ステップ300の処理を実行することにより、前記第1の発明における「貯蔵圧力取得手段」が、実現されている。また、上述した実施の形態3においては、水素充填配管54が前記第8の発明における「充填流路」に相当していると共に、ECU70が、上記ステップ306の処理を実行することにより、前記第8の発明における「充填手段」が、実現されている。
【0085】
実施の形態4.
[実施の形態4の特徴]
次に、図6および7を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態のシステムは、図6に示すハードウェア構成を用いて、ECU70に後述する図7に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0086】
本実施の形態4のガス燃料内燃機関は実施の形態3と同じくガス燃料として水素を使用する水素エンジンである。図6は本実施の形態の水素エンジン80の概略構成を示す図である。図6において、図4に示す水素エンジン50と同一の部位については、同一の符号を付してその詳細な説明を省略あるいは簡略化するものとする。
【0087】
図6に示すとおり、本実施の形態の水素エンジン80は駆動装置82を備えている。駆動装置82は水素エンジン80の回転軸と連結されており、機関の回転エネルギを利用して回転運動を行う装置である。ポンプ56は回転軸60を介して駆動装置82に接続されている。このため、駆動装置82の動力に基づいてポンプ56を駆動し、タンク1の水素ガスを再加圧して、タンク2に再充填することができる。
【0088】
[実施の形態4における具体的処理]
次に、図7を参照して、本実施の形態4において実行する処理の具体的内容について説明する。図7は、ECU70がタンク1の水素ガスをタンク2に充填するための処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【0089】
図5に示すルーチンでは、先ず、タンク1およびタンク2の貯蔵圧力P1、P2が取得される(ステップ400)。ここでは、具体的には、図2に示すステップ100と同様の処理が実行される。次に、上記ステップ400において取得された貯蔵圧力P2と筒内噴射基準圧力Phとの大小関係が比較される(ステップ402)。筒内噴射基準圧力Phは、圧縮TDC付近でも燃料噴射が可能な圧力値として特定された基準圧力である。その結果、タンク2の貯蔵圧力P2が筒内噴射基準圧力Phを下回ると認められた場合には、次のステップに移行し、水素ガスの充填制御が実行される(ステップ404)。ここでは、具体的には、水素エンジン80の回転エネルギにより駆動装置82が駆動され、回転軸60を介してポンプ56が駆動される。また、シャットバルブ62が開弁され、タンク1に貯蔵されていた水素ガスがポンプ56により加圧され、タンク2に充填される。
【0090】
以上説明したとおり、タンク2の貯蔵圧力が筒内噴射基準圧力Phを下回った場合に、タンク1に貯蔵されている水素ガスをタンク2に充填することができる。これにより、タンク2の充填圧力を再度筒内噴射基準圧力Ph以上の状態にすることができ、別途加圧装置を駆動するエネルギを消費せず、タンクの圧力を利用して効果的に筒内噴射を実行することができる。また、タンク1貯蔵圧力がポート噴射を実行するための基準圧力を下回った場合においても、上述した水素充填制御によりタンク1の残留水素をタンク2へ充填することができるため、タンク内の水素をすべて有効に使用することができ、航続距離を延ばすことができる。
【0091】
ところで、上述した実施の形態4においては、タンク2の貯蔵圧力P2が筒内噴射基準圧力Phを下回った場合に、タンク1に貯蔵されている水素ガスをタンク2に充填することとしているが、充填されるタンクはタンク2に限られない。すなわち、タンク1の貯蔵圧力P1が筒内噴射基準圧力Phを下回った場合に、タンク2に貯蔵されている水素ガスをタンク1に充填することとしてもよい。
【0092】
尚、上述した実施の形態4においては、ECU70が、上記ステップ400の処理を実行することにより、前記第1の発明における「貯蔵圧力取得手段」が、実現されている。また、上述した実施の形態3においては、ECU70が、上記ステップ404の処理を実行することにより、前記第8の発明における「充填手段」が、実現されている。
【0093】
実施の形態5.
[実施の形態5の特徴]
次に、図8および9を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態のシステムは、図8に示すハードウェア構成を用いて、ECU70に後述する図9に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0094】
本実施の形態5のガス燃料内燃機関は、実施の形態4と同じくガス燃料として水素を使用する水素エンジンである。図8は本実施の形態の水素エンジン90の概略構成を示す図である。図8において、図6に示す水素エンジン80と同一の部位については、同一の符号を付してその詳細な説明を省略あるいは簡略化するものとする。
【0095】
本実施の形態5においては、更なるエネルギ効率向上のために、車両の減速時或いは惰行時における機関の動力を利用する。より具体的には、機関の減速のために系の外部に排出されるエネルギを回収してポンプ56を駆動することとする。これにより、外部に放出していたエネルギを有効に使用して、システムのエネルギ効率をより向上させることができる。
【0096】
図8に示すとおり、本実施の形態の水素エンジン90は電磁クラッチ92を備えている。電磁クラッチ92は、入力軸と出力軸を電磁的に結合し、回転動力を伝達するための装置である。電磁クラッチ92の入力軸には、水素エンジン90のクランク軸96と連動した回転軸94が接続されている。また、電磁クラッチ92の出力軸には、回転軸60を介してポンプ56が接続されている。このため、かかる構成によれば、所望のタイミングで電磁クラッチ92を結合し、クランク軸96の動力をポンプ56に伝達することができる。
【0097】
[実施の形態5における具体的処理]
次に、図9を参照して、本実施の形態5において実行する処理の具体的内容について説明する。図9は、ECU70がタンク1の水素ガスをタンク2に充填するための処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【0098】
図9に示すルーチンでは、先ず、タンク1およびタンク2の貯蔵圧力P1、P2が取得される(ステップ500)。ここでは、具体的には、図2に示すステップ100と同様の処理が実行される。次に、上記ステップ500において取得された貯蔵圧力P2と筒内噴射基準圧力Phとの大小関係が比較される(ステップ502)。筒内噴射基準圧力Phは、圧縮TDC付近でも燃料噴射が可能な圧力値として特定された基準圧力である。
【0099】
上記ステップ502において、タンク2の貯蔵圧力P2が筒内噴射基準圧力Phを下回ると認められた場合には、次のステップに移行し、車両が惰行時か否かが判断される(ステップ504)。ここでは、具体的には、アクセル開度、スロットル開度等の信号に基づいて判定される。
【0100】
上記ステップ504において車両が惰行中であると認められた場合には、水素ガスの充填制御が実行される(ステップ506)。ここでは、具体的には、電磁クラッチ92の入力軸と出力軸とが結合され、水素エンジン90の回転エネルギがポンプ56に伝達される。また、シャットバルブ62が開弁され、タンク1に貯蔵されていた水素ガスがポンプ56により加圧され、タンク2に充填される。
【0101】
以上説明したとおり、車両の惰行時あるいは減速時に放出されるエネルギを回生エネルギとして回収することにより、外部に放出されていたエネルギを利用して充填制御を行うことができる。このため、システムのエネルギ効率を向上させることができ、航続距離を延ばすことができる。
【0102】
ところで、上述した実施の形態5においては、ポンプ56が水素エンジン90のクランク軸96と連結され、回生エネルギを効率よく回収することとしているが、ポンプ56の駆動源はクランク軸96に限られない。すなわち、水素エンジン90の動力により駆動するのであれば、他の軸と連結される構成としてもよい。
【0103】
尚、上述した実施の形態5においては、ECU70が、上記ステップ500の処理を実行することにより、前記第1の発明における「貯蔵圧力取得手段」が、実現されている。また、上述した実施の形態5においては、ECU70が、上記ステップ506の処理を実行することにより、前記第8の発明における「充填手段」が、実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態3の構成を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態3において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態4の構成を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態4において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態5の構成を説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態5において実行されるルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0105】
1、2 タンク
10、50、80、90 ガス燃料内燃機関(水素エンジン)
12 ピストン
14 シリンダブロック
16 シリンダヘッド
18 燃焼室
20 吸気ポート
22 排気ポート
24 点火プラグ
32a、32b 圧力センサ
34a、34b 水素供給配管
36a、36b 分岐点
38 筒内噴射弁
40 ポート噴射弁
42a、42b、44a、44b シャットバルブ
46 高圧レギュレータ
48 低圧レギュレータ
52 分岐点
54 水素充填配管
56 ポンプ
58 エアモータ
60 回転軸
62 シャットバルブ
70 ECU(Electronic Control Unit)
82 駆動装置
92 電磁クラッチ
94 回転軸
96 クランク軸
P1、P2 貯蔵圧力
Ph 筒内噴射基準圧力
TDC(Top Dead Center) 上死点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス燃料による運転が可能なガス燃料内燃機関において、
燃焼室内に直接ガス燃料を噴射する筒内噴射弁と、
吸気ポートにガス燃料を噴射するポート噴射弁と、
ガス燃料を貯蔵する複数のタンクと、
前記タンクの貯蔵圧力をタンク毎に取得する貯蔵圧力取得手段と、
前記貯蔵圧力に基づいて、前記複数のタンクの中から前記筒内噴射弁および/または前記ポート噴射弁にガス燃料を供給するタンクをそれぞれ選択する選択手段と、
を備えることを特徴とするガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、ガス燃料として、水素ガスを使用する水素内燃機関であることを特徴とする請求項1記載のガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記複数のタンクの貯蔵圧力を比較する圧力比較手段を更に備え、
前記選択手段は、
前記筒内噴射弁には、前記ポート噴射弁にガス燃料を供給するタンクに比して高圧のタンクを選択することを特徴とする請求項1または2記載のガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記貯蔵圧力と所定値を比較する比較手段と、
前記比較手段に基づいて、前記内燃機関のガス燃料の噴射モードを設定する噴射モード設定手段と、を更に備え、
前記噴射モード設定手段は、
前記複数のタンクの中に、前記貯蔵圧力が前記所定値よりも大きい高圧タンクと、前記貯蔵圧力が前記所定値よりも小さい低圧タンクとの両方が含まれる場合には、前記筒内噴射弁および前記ポート噴射弁を使用する併用モードに設定し、
前記選択手段は、
前記筒内噴射弁には前記高圧タンク、前記ポート噴射弁には前記低圧タンクをそれぞれ選択することを特徴とする請求項1または2記載のガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記貯蔵圧力と所定値を比較する比較手段と、
前記比較手段に基づいて、前記内燃機関のガス燃料の噴射モードを設定する噴射モード設定手段と、を更に備え、
前記噴射モード設定手段は、
前記複数のタンクの中に、前記貯蔵圧力が前記所定値よりも大きい高圧タンクのみが含まれる場合には、前記筒内噴射弁のみを使用する筒内噴射モードに設定し、
前記選択手段は、
前記筒内噴射弁には前記高圧タンクの何れか1つを選択することを特徴とする請求項1または2記載のガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記貯蔵圧力と所定値を比較する比較手段と、
前記比較手段に基づいて、前記内燃機関のガス燃料の噴射モードを設定する噴射モード設定手段と、を更に備え、
前記噴射モード設定手段は、
前記複数のタンクの中に、前記貯蔵圧力が前記所定値よりも小さい低圧タンクのみが含まれる場合には、前記ポート噴射弁のみを使用するポート噴射モードに設定し、
前記選択手段は、
前記ポート噴射弁には前記低圧タンクの何れか1つを選択することを特徴とする請求項1または2記載のガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記所定値は、圧縮TDC付近において燃焼室内にガス燃料を噴射することのできる圧力値であることを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項記載のガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記複数のタンクを互いに連通させる充填流路と、
前記充填流路を介して、前記タンク内のガス燃料を他のタンクへ充填する充填手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載のガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記充填手段は、
前記充填流路に配置された加圧装置と、
前記タンクから前記ポート噴射弁にガス燃料を供給する供給流路に配置されたエアモータと、を備え、
前記エアモータは、前記供給流路を流れるガス燃料の圧力エネルギにより、前記加圧装置に動力を供給することを特徴とする請求項8記載のガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記充填手段は、
前記充填流路に配置された加圧装置を備え、
前記内燃機関の動力により、前記加圧装置を駆動することを特徴とする請求項8記載のガス燃料内燃機関の制御装置。
【請求項11】
前記内燃機関を搭載した移動体において、
前記充填手段は、
前記移動体の惰行時或いは減速時に、前記加圧装置を駆動することを特徴とする請求項10記載のガス燃料内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−38680(P2008−38680A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211777(P2006−211777)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】