説明

ガラス基板のレーザ加工装置

【課題】ガラス基板の分割のための処理時間を短縮することができ、ゴミの発生が防止されたガラス基板のレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ光源から、波長が300〜400nmのパルスレーザ光10を出射し、レーザ光10を矩形(正方形又は長方形)のビーム形状にしてガラス基板2に照射する。このレーザ光10のガラス基板2に対する照射位置を切断予定線に沿って移動させることにより、レーザ光10を間欠的に直線上に照射し、加工痕12を直線上に形成する。光学系は、レーザ光10の焦点位置を、ガラス基板2の厚さ方向の内部とし、焦点深度を前記ガラス基板の厚さよりも短く設定する。これにより、加工痕12はガラス基板2の内部に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面強化ガラス基板をダイシングするのに好適のガラス基板のレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルの製造に際し、ガラス基板上に露光及び現像を繰り返して、所定の画素及び回路からなるパターンを形成する。この場合に、1枚のガラス基板に対し、複数枚のパネル分のパターンを同時に形成し、その後、ガラス基板を分割することにより、個々のパネルを製造している。従来、このガラス基板の分割は、切断予定線を回転刃で線状に研削する機械的なダイシング加工により行っている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−229831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この機械的ダイシング加工においては、ダイシングブレードを低速度で切断予定線に沿って移動させる必要があり、1個のガラス基板当たりの処理時間が長くかかり、製造タクトが悪いという問題点がある。また、ダイシング工程の途中でガラス基板が割れやすく、歩留が低いと共に、回転刃による切削に際し、切削屑が発生するという問題点もある。特に、表面強化ガラスの場合は、上記問題点が更に著しくなる。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ガラス基板の分割のための処理時間を短縮することができ、ゴミの発生が防止されたガラス基板のレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るガラス基板のレーザ加工装置は、波長が300〜400nmのパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光を矩形のビーム形状にしてガラス基板に照射する光学系と、前記光学系と前記ガラス基板とを相対的に移動させて前記レーザ光の前記ガラス基板に対する照射位置を切断予定線に沿って移動させる駆動装置と、前記レーザ光の照射位置が前記切断予定線に沿って点在するように前記レーザ光を間欠的に前記ガラス基板に照射させる制御装置と、を有し、前記光学系は、前記レーザ光の焦点位置を、前記ガラス基板の厚さ方向の内部とし、焦点深度を前記ガラス基板の厚さよりも短く設定することを特徴とする。
【0007】
本発明のガラス基板のレーザ加工装置において、前記光学系は、前記レーザ光のビーム形状を前記切断予定線に沿って細長くなるように成形するシリンドリカルレンズを有することができる。このような切断予定線に沿って細長いビームを使用することにより、レーザダイシングの処理速度がより一層向上する。
【0008】
また、この細長いビーム形状のレーザ光を使用した場合は、前記レーザ光の前記ガラス基板に対する移動方向の後方に配置され、従前のレーザ光の照射による加工痕を検出するカメラと、このカメラにより検出された従前の加工痕の位置を基に、前記レーザ光の次順の照射位置を、レーザ光移動方向に直角方向に関して調節すると共に、照射タイミングを調節する調節部と、を有することが好ましい。これにより、従前のレーザショットによる加工痕の位置を基に、次順のレーザ光のショットの位置(切断予定線の長手方向及びこれに直角の方向)を調節することができる。
【0009】
更に、本発明のガラス基板のレーザ加工装置は、表面強化ガラス基板に適用すると、有益である。表面強化ガラス基板は、表面の性質が硬いため、ダイシング刃を使用した機械的ダイシングにおいてはなおさらのこと、レーザダイシングでもその焦点位置がガラス基板の表面である場合は、加工中に割れてしまう。本発明は、レーザ光の焦点位置を、ガラス基板の厚さ方向の内部であって、前記表面強化ガラス基板の表面強化層よりも深い位置に設定しているので、表面強化ガラス基板でも、加工中に割れることが防止される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、波長が300〜400nmのレーザ光を使用し、光学系が、前記レーザ光の焦点位置を、前記ガラス基板の厚さ方向の内部とし、焦点深度を前記ガラス基板の厚さよりも短く設定し、好ましくは前記ガラス基板の厚さの1/100以下に設定するので、ガラス基板の内部にレーザ光の照射による加工痕を形成することができる。このため、切断予定線に沿って加工痕を形成することにより、例えば、手で、ガラス基板を割断することができる。この加工痕の形成に際し、レーザビームの焦点位置はガラス基板の厚さ方向の内部にあるので、ガラス基板が表面強化ガラスであっても、レーザ光の照射により表面に割れが発生することなく、内部に加工痕を形成して、この加工痕を割断に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態のレーザ加工装置を示す斜視図である。
【図2】同じくそのレーザ加工工程を示す模式図である。
【図3】本発明の第2実施形態のレーザ加工工程を示す模式図である。
【図4】本発明の第3実施形態のレーザ加工工程を示す模式図である。
【図5】表面強化ガラス基板の透過特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係るガラス基板のレーザ加工装置を示す斜視図である。ステージ1上に、被加工物である露光現像処理後の表面強化ガラス基板等のガラス基板2が載置される。このステージ1に対し、このステージ1の幅方向の全域をまたぐ門型の移動部材3が、矢印a方向に往復移動可能に支持されている。そして、この移動部材3には、ステージ1の幅方向(矢印b方向)に往復移動可能に、支持部4が設置されており、この支持部4にパルスレーザ発振器6が指示されている。この発振器6の下方には、対物レンズ5が設けられており、パルスレーザ発振器6からのパルスレーザ光を、ガラス基板に集光させるようになっている。
【0013】
このレーザ加工装置においては、ステージ1上に表面強化ガラス基板等のガラス基板2が載置され、移動部材3が矢印a方向に移動する間に、パルスレーザ発振器6からパルスレーザ光が間欠的に出射され、対物レンズ5により集光されたパルスレーザ光がガラス基板2に照射される。移動部材3が矢印a方向に移動することにより、ガラス基板2に対し、レーザ光による加工痕が矢印a方向に延びる直線上に点在するように形成され、レーザ加工後に例えばガラス基板2に手で曲げ応力を印加することにより、ガラス基板2は加工痕を起点として、割断される。このガラス基板2に対するパルスレーザ光の照射位置は、移動部材3上を支持部4が矢印b方向に移動することにより、調節することができる。また、支持部4には、焦点距離が異なる複数個の対物レンズ5が取り付けられており、これらの対物レンズ5から加工対象のガラス基板2の種類等に応じて最適の対物レンズを選択して、レーザ加工を行うことができるようになっている。
【0014】
図2は、このレーザ加工の工程を示す模式図である。パルスレーザ光10は、波長が300〜400nmであり、対物レンズ5を含む光学系により、その焦点位置が、ガラス基板2の厚さ方向の内部であり、焦点深度が前記ガラス基板の厚さよりも短く設定され、好ましくはガラス基板2の厚さの1/100以下の範囲に設定されている。
【0015】
そして、図2に示す例においては、レーザ光10のビーム形状11は、正方形である。このパルスレーザ光10は、支持部4が矢印a方向に移動している間、切断予定線に沿って移動しつつ、間欠的にガラス基板2に照射される。そうすると、加工痕12がガラス基板2の厚さ方向の内部に、切断予定線に沿って点在するように形成される。この加工痕12は、相互に重ならないようにして可及的に近接するように設定するか、又は、相互に若干重なるように設定する。
【0016】
このパルスレーザ光10の波長は、300〜400nmである。図5は、横軸に波長をとり、縦軸にレーザ光の透過率をとって、表面強化ガラスの透過特性を示すグラフ図である。波長が532nmのレーザ光の場合、ガラス基板に対する透過率が高く、即ち、ガラス基板におけるエネルギの吸収率が悪く、ガラス基板に加工痕を形成しにくい。これに対し、水銀ランプでいうi線(波長365nm)付近で、エネルギの吸収が始まり、加工痕を形成できるようになる。本発明においては、300〜400nmの波長域において、ガラス基板に加工痕を形成することができる。
【0017】
例えば、波長が532nmのレーザ光を使用し、パルス幅を約7nsecとし、照射エネルギ密度を25J/cmとして、表面強化ガラス基板の内部にレーザ光を照射した場合、ガラス基板にクラックが進展し、ガラス基板全体が乱雑に割れてしまう。これに対し、波長が355nmのレーザ光を使用し、パルス幅を約7nsecとし、照射エネルギ密度を10J/cmとして、表面強化ガラス基板の内部にレーザ光を照射した場合、ガラス基板の内部に加工痕が形成され、ガラス基板に手で曲げ応力を印加すると、この加工痕をもとに綺麗に直線状の切断線により割断することができる。
【0018】
また、レーザ光の焦点位置を、ガラス基板2の厚さ方向の内部とし、焦点深度をガラス基板2の厚さよりも短く設定し、好ましくはガラス基板2の厚さの1/100以下に設定することにより、表面強化ガラス基板の表面の改質部を避けて、その内部にレーザ光のエネルギを集中することができる。レーザ光の焦点位置がガラス基板2の内部でないと、表面強化ガラス基板の表面の改質部にレーザエネルギが集中し、ガラス基板に乱雑なクラックが発生し、乱雑に割れてしまう。また、このレーザ光の焦点深度が、ガラス基板の厚さ以上であると、加工痕の位置が深すぎて、ガラス基板に曲げ応力を印加したときに割断しにくく、過大な曲げ応力を印加する必要が生じる。このため、レーザ光の焦点深度は、ガラス基板の厚さよりも短くし、好ましくは、ガラス基板の厚さの1/100以下の範囲とする。
【0019】
次に、本発明の第2実施形態について図3を参照して説明する。図3は、レーザ光20のビーム形状21を、切断予定線の方向に延びる細長い矩形状にしたものである。このようなビーム形状とすることにより、細長い加工痕22を得ることができ、レーザ光の1ショット当たりの加工長さが長くなって、加工効率が向上する。即ち、1ショット当たりの加工痕22の長さが長いので、移動部材3の移動速度を図2の場合より速くすることができ、レーザ加工効率を向上させ、処理のタクトを向上させることができる。なお、本実施形態においても、レーザ光の焦点位置を、ガラス基板2の厚さ方向の内部とし、焦点深度をガラス基板2の厚さよりも短く設定し、好ましくはガラス基板2の厚さの1/100以下に設定することは勿論である。
【0020】
なお、このような細長いビーム形状21を得るためには、光源6からガラス基板2までレーザ光を導く光学系に、シリンドリカルレンズからなる集光レンズを設ければよい。レーザ光をこのシリンドリカルレンズに通すことにより、レーザ光のビーム形状を横長の矩形状にすることができる。
【0021】
次に、本発明の第3実施形態について図4を参照して説明する。本実施形態は、図1に示す実施形態のように、パルスレーザ光源6及び対物レンズ5を移動させてレーザスキャンするのではなく、ガラス基板2を移動させ、パルスレーザ光源6及び対物レンズ5は固定した状態で、レーザスキャンするものである。図4に示すように、固定設置されたパルスレーザ光源6から出射されたレーザ光20は、対物レンズ5により、ガラス基板2に集光される。レーザ光の焦点位置は、ガラス基板2の厚さ方向の内部とし、焦点深度はガラス基板2の厚さよりも短く設定され、好ましくはガラス基板2の厚さの1/100以下に設定される。
【0022】
そして、対物レンズによりガラス基板に集光されるレーザ光20の照射位置の近傍にて、ガラス基板2の上方にライン照明32が設置され、このライン照明32にガラス基板2を挟んで対向する位置のガラス基板2の下方に、高速カメラ31が設置されている。これにより、ライン照明32からの光33をガラス基板2にその上方から照射して加工痕22を照明し、ガラス基板2の下方から、カメラ31により、加工痕22を観察する。ライン照明32は、レーザ光の走査方向(横長加工痕22の長手方向)に偏平した横長のビーム形状の光33を照射するものである。このライン照明32からの光33により、横長の加工痕22を照明し、カメラ31により加工痕22を観察又は撮影することにより、レーザ光20が従前のショットで形成した加工痕22の位置を検出することができる。
【0023】
そこで、この加工痕22の検出位置に合わせて次順のレーザショットの位置を調整することにより、長尺の加工痕22を1直線上に、切断予定線からずれることなく、形成することができる。
【0024】
このように、従前の加工痕22をカメラ31により観察して、次順のレーザショットの位置を調整することにより、加工痕22の位置の直線性を向上させることができ、直線精度を高めて、切断予定線に対する割断位置の精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0025】
1:ステージ
2:ガラス基板
3:移動部材
4:支持部材
5:対物レンズ
6:パルスレーザ光源
10、20:レーザ光
11、21:ビーム形状
12,22:加工痕
31:カメラ
32:ライン照明

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が300〜400nmのパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光を矩形のビーム形状にしてガラス基板に照射する光学系と、前記光学系と前記ガラス基板とを相対的に移動させて前記レーザ光の前記ガラス基板に対する照射位置を切断予定線に沿って移動させる駆動装置と、前記レーザ光の照射位置が前記切断予定線に沿って点在するように前記レーザ光を間欠的に前記ガラス基板に照射させる制御装置と、を有し、前記光学系は、前記レーザ光の焦点位置を、前記ガラス基板の厚さ方向の内部とし、焦点深度を前記ガラス基板の厚さよりも短く設定することを特徴とするガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項2】
前記光学系は、前記レーザ光のビーム形状を前記切断予定線に沿って細長くなるように成形するシリンドリカルレンズを有することを特徴とする請求項1に記載のガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記レーザ光の前記ガラス基板に対する移動方向の後方に配置され、従前のレーザ光の照射による加工痕を検出するカメラと、このカメラにより検出された従前の加工痕の位置を基に、前記レーザ光の次順の照射に関し、その照射位置をレーザ光移動方向に直角方向に関して調節すると共に、その照射タイミングを調節する調節部と、を有することを特徴とする請求項2に記載のガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記ガラス基板は、表面強化ガラス基板であり、前記光学系は、前記レーザ光の焦点位置を、前記表面強化ガラス基板の厚さ方向の内部であって、前記表面強化ガラス基板の表面強化層よりも深い位置に設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のガラス基板のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−187618(P2012−187618A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54642(P2011−54642)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】