説明

キャパシタ素子の製造方法

【課題】誘電体膜の実質的な誘電率を向上すると共に、絶縁特性の劣化を抑制可能なキャパシタ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板11上に下部電極層12、誘電体層13、上部電極層14を順次積層する。誘電体層13は、誘電体材料と導電性材料との複合材料からなる微粒子の微粒子材料を使用してエアロゾルデポジション法により形成される。微粒子材料としては、表面の少なくとも一部が導電性材料に覆われたセラミック粒子、表面の少なくとも一部がセラミック材料に覆われた導電性粒子、導電性粒子とセラミック粒子とが互いに付着してなる微粒子が使用される。誘電体層13は、微粒子が衝撃を受け固化し、誘電体部16a中に導電体部16bがランダムに分散しながら互いに電気的に接続された構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾル化した微粒子材料を吹き付けて衝撃・固化した誘電体膜を備えるキャパシタ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンや、オフコン、携帯電話、PDA等の情報処理関連電子機器、通信関連電子機器および半導体製造装置等の制御機械装置の中に組み込まれている実装用基板・パッケージ、メモリ・ロジック等の半導体、実装用個別電子部品には、記憶・演算等の能動的機能、アンテナ、フィルター、コンデンサ等の受動機能を実現させるための種々の誘電体セラミックが膜状・バルク状で形成されている。これらのデバイス・部品では、誘電体セラミックに、金属や半導体の無機系材料や、ガラスエポキシ樹脂などの有機系材料などを複合化・多層化することによって集積化して構成されている。
【0003】
セラミック微粒子材料を基板等に噴射することにより、衝撃・固化して基板上にセラミック膜を形成可能なエアロゾルデポジション法が提案されている。エアロゾルデポジション法は、振動により舞い上がったセラミック微粒子がエアロゾルを形成し、そのエアロゾルをガスで搬送し、ノズルから基板に高速で噴射する成膜方法である。エアロゾルデポジション法は、室温で成膜可能なため、複合材料を形成可能な方法として注目されている(例えば、特許文献1または2参照。)。
【0004】
特許文献1では、誘電体微粒子材料と導電性微粒子材料とを同時に噴射して形成した誘電体層を有するキャパシタ素子が提案されている。誘電体層は、誘電体微粒子間に導電性微粒子が入り込むことで、多数の微小なキャパシタが電気的に並列に接続されたようになるため、実質的な誘電率が増加すると推察されている。
【特許文献1】特開2005−109017号公報
【特許文献2】特開2005−005645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、誘電体微粒子材料と導電性微粒子材料とを同時に噴射して形成しているため、微視的には誘電体微粒子材料と導電性微粒子材料とが不均一になる領域が形成され易く、このような場合、絶縁特性が劣化してリーク電流が増加するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は上記の懸念に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、誘電体膜の実質的な誘電率を向上すると共に、絶縁特性の劣化を抑制可能なキャパシタ素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、第1の電極層を形成する工程と、該第1の電極層の表面に誘電体層を形成する工程と、該誘電体層上に第2の電極層を形成する工程とを含み、前記誘電体層を形成する工程は、誘電体材料と導電性材料との複合材料からなる微粒子をエアロゾル化し、エアロゾル化された微粒子材料を第1の電極層の表面に吹き付けて堆積させることを特徴とするキャパシタ素子の製造方法が提供される。
【0008】
本発明によれば、誘電体材料と導電性材料との複合材料からなる微粒子をエアロゾル化させて電極層に吹き付けて衝撃・固化させる。そのため、微視的には誘電体部と導電部とが交互に堆積した状態になり、微小なキャパシタが多数接続された構造が形成されていると推定される。さらに、誘電体部および導電部は、それぞれ個々の微粒子の誘電体材料および導電性材料に由来するので、誘電体層中に均一に配置される。したがって、誘電体層の絶縁特性の劣化を抑制できる。よって、誘電体層の実質的な誘電率が増加すると共に、絶縁特性の劣化を抑制可能なキャパシタ素子を形成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電体膜の実質的な誘電率を向上すると共に、絶縁特性の劣化を抑制可能なキャパシタ素子の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明をさらに具体的に説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る製造方法によるキャパシタ素子の断面図である。図1を参照するに、本実施の形態に係る製造方法によるキャパシタ素子10は、基板11と、基板11上に下部電極層12、誘電体層13、上部電極層14が順次積層された構成となっている。
【0012】
本願発明者は、鋭意検討の結果、エアロゾルデポジション法(以下「AD法」と略称する。)を用いて、誘電体材料と導電性材料との複合材料からなる微粒子を使用して、キャパシタ素子の誘電体層を形成すると、誘電体材料だけの微粒子を使用した場合と比較して、静電容量が著しく増大することを見出した。さらに、誘電体微粒子材料と導電性微粒子材料を独立にエアロゾル化して吹き付けて形成した誘電体層と比較して、均質で、より特性が安定した誘電体層が形成できることを見出した。そのメカニズムは以下のように推察される。
【0013】
図2はキャパシタ素子の模式的な要部断面図である。図2を参照するに、誘電体層13は、誘電体材料が固化して形成された誘電体部16a中に、導電性材料が形成する導電体部16bがランダムに分散しながら互いに電気的に接続され、導電体部16bは下部電極層12あるいは上部電極層14に電気的に接続されている構造を有すると推察される。
【0014】
図3は、図2に示すキャパシタ素子の等価回路図である。図3を図2と共に参照するに、誘電体層13中には、多数の微小キャパシタ18が形成されている。導電体部16b(図2に示す。)が微小キャパシタ18の電極および配線18bとして機能し、誘電体部16a(図2に示す。)が微小キャパシタ18の誘電体層18aとして機能する。微小キャパシタ18は互いに電気的に接続され、下部電極層12あるいは上部電極層14に接続される。誘電体層13はこのような構造をとるため、キャパシタ素子は通常のAD法により形成された誘電体材料だけからなる誘電体層を有する場合よりもの静電容量が増加すると推察される。したがって、誘電体層13は、実質的な誘電率がAD法により形成された誘電体材料だけからなる誘電体層よりも増加していることになる。
【0015】
図1に戻り、本発明の第1の実施の形態に係るキャパシタ素子の製造方法は、基板11上に下部電極層12を形成する工程と、下部電極層12の表面に誘電体層13を形成する工程と、誘電体層13上に上部電極層14を形成する工程からなる。
【0016】
基板11は、例えばシリコン基板、ガラスエポキシ基板などであり、基板の代わりに層間絶縁膜であってもよく、キャパシタ素子を形成した後に除去される工程用基板であってもよい。
【0017】
下部電極層12および上部電極層14は、導電性材料、例えばAl、Cu、W、Au、Pt、Mo、Pd、Ir等の金属あるいはこれらの合金材料、導電性酸化物材料よりなり、例えばめっき法、スパッタ法、真空蒸着法、CVD(化学的気相成長)法などにより形成することができる。
【0018】
誘電体層13は、AD法により個々の微粒子が誘電体材料と導電性材料との複合材料からなる微粒子材料を使用して形成された衝撃固化膜である。誘電体層13の厚さは、キャパシタ素子に求められる静電容量や用途に応じて適宜選択されるが、例えば0.3μm〜300μmの範囲から選択される。
【0019】
微粒子材料としては、例えば、(1)表面の少なくとも一部が導電性材料に覆われたセラミック粒子、(2)表面の少なくとも一部がセラミック材料に覆われた導電性粒子、(3)導電性粒子とセラミック粒子とが互いに付着してなる微粒子が挙げられる。
【0020】
上記(1)の微粒子としては、セラミック粒子の表面に、電気めっき法、無電解めっき法、スパッタ法、および真空蒸着法のうちいずれかの方法により導電性材料を形成した微粒子が挙げられる。導電性材料は、セラミック粒子の表面の一部に形成されていてもよく、表面全部に形成されていてもよい。
【0021】
また、上記(2)の微粒子としては、導電性粒子の表面に、スパッタ法、化学的気相成長法、熱酸化法、陽極酸化法、およびパルスレーザアブレーション法のうちいずれかの方法によりセラミック材料を形成した微粒子が挙げられる。セラミック材料は、導電性粒子の表面の一部に形成されていてもよく、表面全部に形成されていてもよい。
【0022】
また、上記(3)の微粒子としては、導電性粒子とセラミック粒子とを機械的に混合し衝撃を印加して複合化された微粒子が挙げられる。かかる微粒子の形成には、例えば、ピンミルや、ディスクミル、遠心分級機等の高速回転式衝撃粉砕方式の装置を用いることができる。高速回転式衝撃粉砕方式では、導電性粒子とセラミック粒子を混合して同時に衝撃を与えることで、導電性粒子あるいはセラミック粒子のいずれか一方を核粒子として、他方が核粒子の表面に付着する。この場合、核粒子の平均粒径を付着させる微粒子よりも大きく設定すると好ましい。
【0023】
上記(1)および(3)のセラミック粒子の具体的な材料としては、TiO2、MgO、SiO2、AlN、Al23などのセラミック粒子が挙げられ、さらに、ペロブスカイト構造を有する酸化物セラミック、例えば、Pb系のPbTiO3、PbZrO3、Pb(Zr1-xTix)O3(0≦x≦1)の一般式で示されるPZT、(Pb1-yLay)(Zr1-xTix)O3(0≦x、y≦1)の一般式で示されるPLZT、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3、Ba系のBaTiO3、BaTi49、Ba2Ti920、Ba(Zn1/3Ta2/3)O3、Ba(Zn1/3Nb2/3)O3、Ba(Mg1/3Ta2/3)O3、Ba(Co1/3Ta2/3)O3、Ba(Co1/3Nb2/3)O3、Ba(Ni1/3Ta2/3)O3、(BaSr)TiO3、Ba(TiZr)O3、その他、CaTiO3、CaZrO3、MgTiO3、MgZrO3、Nd2Ti27、SrTiO3、SrZrO3、ZrSnTiO4が挙げられる。
【0024】
また、上記(1)および(3)のセラミック粒子の材料は、高誘電率かつ高周波における低損失の点から、TiO2、BaTiO3、BaSrTiO3、BaTiZrO3、BaTi49、Ba2Ti920、Ba(Mg1/3Ta2/3)O3、Ba(Zn1/3Ta2/3)O3、Ba(Zn1/3Nb2/3)O3、ZrSnTiO4、PbZrTiO3、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3、及びPb(Ni1/3Nb2/3)O3から選択される1種あるいは2種以上の混合物が好ましい。
【0025】
上記(2)の導電性粒子の表面に形成されるセラミック材料は、上記(1)および(3)のセラミック粒子と同様の材料から選択される。
【0026】
また、上記(2)および(3)の導電性粒子の具体的な材料としては、B、Ge、Si、Bi、Ti、Cr、Pt、Pd、In、Ru、Ni、Mo、Co、W、Ir、Al、Au、Cu、Auなどの金属元素やこれらの金属元素からなる合金が挙げられる。
【0027】
さらに、上記(2)および(3)の導電性粒子の具体的な材料としては、RuO2、IrO2、ReO3、SrVO3、SrRuO3、SrMoO3、CaRuO3、BaRuO3、PbRuO3、BiRuO3、LaTaO3、Bi2Ru27などの導電性酸化物、LaB6等が挙げられる。 上記(1)のセラミック粒子の表面に形成される導電性材料は、上記(2)および(3)の導電性粒子と同様の材料から選択される。
【0028】
導電性粒子は、室温での比抵抗が1×10-2Ω・cm以下であることが好ましく、1×10-3Ω・cm以下であることがさらに好ましい。比抵抗は小さいほどよいが、1×10-7Ω・cm以上に設定される。
【0029】
また、上記(1)の導電性材料、(2)および(3)の導電性粒子は、それぞれ、セラミック粒子およびセラミック材料の体積を基準として、0.01vol%〜20vol%の範囲に設定され、0.1vol%〜5vol%の範囲に設定されることが好ましい。20vol%より多くなると導電性が顕著となり高周波における誘電損失が増加する。
【0030】
また、上記(1)〜(3)の微粒子の平均粒径は、10nm〜10μmの範囲に設定される。10nmより小さいと基板への密着強度が不足し、10μmより大きいと連続膜が形成しにくくなり脆弱な膜になってしまう。
【0031】
次に、AD法による誘電体層13の形成工程を説明する。
【0032】
図4は、本発明に用いられるAD法による成膜装置の概略構成図である。図4を参照するに、AD膜形成装置50は、大略、微粒子材料をエアロゾル化するエアロゾル発生器51と、エアロゾル化された微粒子材料を噴射して基板11やその上に形成された下部電極層上に誘電体層を形成する成膜室52などから構成されている。
【0033】
エアロゾル発生器51には、ガスボンベ53及びマスフローコントローラ54が配管66を介して接続されている。ガスボンベ53に充填された高圧のアルゴン等のキャリアガスをマスフローコントローラ54において制御する。マスフローコントローラ54によりエアロゾル発生器51の容器56内での微粒子の発塵量や成膜室52におけるエアロゾル化された微粒子の噴出量を制御することができる。キャリアガスは、アルゴンガスの他、ヘリウム、ネオン、窒素の不活性ガスを用いることができる。なお、微粒子材料としてペロブスカイト構造を有する酸化物セラミックを用いる場合は、キャリアガスは酸化性のガス、例えば酸素や空気を用いてもよく、不活性ガスにこれらのガスを添加してもよい。成膜の際に酸化物セラミックス微粒子材料の酸素欠損を補うことができる。
【0034】
容器56には、個々の微粒子が誘電体材料と導電性材料との複合材料からなる、上述した(1)〜(3)のいずれかの微粒子材料が充填される。
【0035】
また、エアロゾル発生器51には、容器56に超音波振動や電磁振動、機械的振動により微粒子を一次粒子化する振動機58が設けられている。振動機58により微粒子を一次粒子化させることができ、その結果、緻密かつ均一な層間絶縁層等を形成することができる。
【0036】
成膜室52には、エアロゾル発生器51から配管59を介して接続されたノズル60と、ノズル60と対向して基板11を保持する基板保持台61が設けられ、さらに、基板11の位置を制御するXYZステージ62が基板保持台61に連結されている。また、成膜室52内の圧力を低圧とするためのメカニカルブースタ64とロータリポンプ65が接続されている。XYZステージ62は基板保持台61を定速・繰り返し駆動動作を行うものであってもよい。
【0037】
膜形成材料となる微粒子をエアロゾル発生器51の容器56に充填して、ガスボンベ53から、例えば19.6Pa〜49Pa(2〜5kg/cm2)の圧力のアルゴンガスをキャリアガスとして成膜室52に供給し、微粒子を振動機58により加振してエアロゾル化する。エアロゾル化した微粒子はキャリアガス共に、容器56内の圧力より低圧に設定されている成膜室52に配管59を通じて搬送される。成膜室52においてノズル60からキャリアガスと共に微粒子が噴射され、ジェット流となって微粒子が基板11上の下部電極層(不図示)上に堆積し、誘電体層が形成される。噴射速度は、ノズル60の形状、導入されるキャリアガスの圧力および容器56内と成膜室52内との圧力差により制御することができ、3m/秒〜400m/秒(好ましくは200m/秒〜400m/秒)の範囲に設定される。この範囲に噴射速度を設定することにより、基板11等の下地との密着強度が高い誘電体層を形成することができる。微粒子が基板11との衝突の際に基板11等の表面の汚染層や水分を除去して表面を活性化し、微粒子自体の表面も微粒子相互の衝突により同様に活性化される。その結果、微粒子が基板11等の表面や微粒子同士が結合するので付着強度が高く緻密な誘電体層が形成される。なお、噴射速度が400m/秒より大となると基板11に損傷を与えるおそれがあり、3m/秒より小さいと十分な付着強度を確保することができない。
【0038】
図5(A)〜(D)は誘電体層がAD法により形成される様子を示す図である。ここでは、上記(1)の微粒子を使用する場合を例に説明する。
【0039】
図5(A)に示すように、エアロゾル化した微粒子16が高速度で下部電極層12に吹き付けられる。なお、微粒子16はセラミック粒子16aが金属被膜16bに覆われた構造を有する。
【0040】
次いで、図5(B)に示すように、微粒子16が下部電極層12に衝突し、微粒子16が衝撃により変形してつぶれる。
【0041】
次いで、図5(C)に示すように、微粒子16の変形に伴い金属被膜16bが破壊される。
【0042】
次いで、図5(D)に示すように、他の微粒子16が既に堆積した微粒子16上に、図5(A)〜(C)の過程を経て同様に堆積し、金属被膜16b同士が接触して電気的に接続される。このようにして、先の図2に示した誘電体層13の構造が形成される。
【0043】
第1の実施の形態によれば、キャパシタ素子10は、AD法により微粒子材料を使用して衝突・固化された固化膜からなる誘電体層13を有する。微粒子材料は、個々の微粒子が誘電体材料と導電性材料との複合材料からなる。そのため、微視的には微粒子の誘電体材料に誘電体部と導電部とが交互に堆積した状態になり、誘電体層13は微小なキャパシタが均一に多数接続された構造が形成されていると推定される。したがって、キャパシタ素子10は、誘電体層13の実質的な誘電率が増加可能であると共に、絶縁特性の劣化を抑制できる。
【0044】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る製造方法によるキャパシタ素子の断面図である。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0045】
図6を参照するに、本実施の形態に係る製造方法によるキャパシタ素子20は、基板11と、基板11上に、下部電極層12、第2誘電体層21、第1誘電体層13、第3誘電体層22、上部電極層14が順次積層された構成となっている。本実施の形態のキャパシタ素子20は、下部電極層12と、第1誘電体層13(図1に示すキャパシタ素子の誘電体層13と同一である。)との間、および第1誘電体層13と上部電極層14との間に、それぞれ第2誘電体層21および第3誘電体層22が形成されていることに主な特徴がある。
【0046】
本発明の第2の実施の形態に係るキャパシタ素子の製造方法は、基板11上に下部電極層12を形成する工程と、下部電極層12の表面に第2誘電体層21を形成する工程と、第2誘電体層21の表面に第1誘電体層13を形成する工程と、第1誘電体層13の表面に第3誘電体層22を形成する工程と、第3誘電体層22上に上部電極層14を形成する工程からなる。なお、第2誘電体層21を形成する工程および第3誘電体層22を形成する工程のいずれかは省略してもよい。
【0047】
第2誘電体層21および第3誘電体層22は誘電体材料だけからなり、導電性材料を含んでいない。第2誘電体層21および第3誘電体層22の少なくとも一方を設けることで、キャパシタ素子のリーク電流を大幅に低減できる。第2誘電体層21および第3誘電体層22は、例えば第1の実施の形態において誘電体層13に使用するセラミック粒子を使用してAD法により形成する。また、第2誘電体層21および第3誘電体層22は、スパッタ法、化学的気相成長法、熱酸化法、陽極酸化法、およびパルスレーザアブレーション法のいずれかを用いて形成してもよい。第2誘電体層21および第3誘電体層22の膜厚は適宜選択可能であるが、例えば0.3μm〜300μmの範囲から選択される。
【0048】
第1誘電体層13は、図1に示すキャパシタ素子の誘電体層13に対応する層であり、第1の実施の形態において説明した材料および形成方法により形成される。
【0049】
第2の実施の形態によれば、下部電極層12と、第1誘電体層13(図1に示すキャパシタ素子の誘電体層13と同一である。)との間、および第1誘電体層13と上部電極層14との間に、導電性材料を含まない誘電体材料からなる第2誘電体層21および第3誘電体層22の少なくとも一方を設けることで、キャパシタ素子20のリーク電流を大幅に低減できる。
【0050】
以下、第1および第2の実施の形態の実施例および本発明によらない比較例について説明する。
【0051】
[実施例1]
表面に厚さ約0.1μmのAu膜を有する平均粒径0.5μmのBaTiO粉末(金被膜BaTiO粉末)をエアロゾル発生器の容器に入れ、容器全体に超音波を加え、約150度で加熱しながら、30分真空脱気して、金被膜BaTiO3粉末表面に形成した水分を除去した。
【0052】
なお、金被膜BaTiO粉末は無電解めっきを用いて作製した。無電解めっき浴には以下のような液を用いる。塩化金10g、塩化ナトリウム5gを水で希釈し、全体を800mLとし、金液を作製する。次に、酒石酸22.5g、水酸化ナトリウム300g、アルコール380mL、水600mLの還元液を作る。無電解めっき浴には、金液30mL、還元液70mLを混合して調製する。この無電解めっき浴に、BaTiO3粉末を20分浸し、表面に金を析出させる。この後、水洗し、液体分を150℃で3時間の乾燥を行い、金コーティング粉末を作製した。
【0053】
なお、無電解めっき浴には,金成分としてシアン化金カリウムを用いてもよい。無電解めっき浴は、例えば、シアン化金カリウム2g/L,塩化アンモニウム75g/L、クエン酸ナトリウム50g/L、次亜リン酸ナトリウム10g/Lで調合したものを、pH7〜7.5、温度95℃程度に調整する。
【0054】
次いで、図4に示すAD法による成膜装置50を使用し、圧力19.6Paの高純度窒素ガス(純度99.9%)をキャリアガスとして流量を4L/分に設定して金被膜BaTiO粉末のエアロゾルを形成した。成膜室を5Pa〜10Paに設定して30分間噴射し、下部電極層を形成したガラス基板に厚さ2μmの誘電体層を形成した。さらにその上にスパッタ法により上部電極層を形成した。
【0055】
なお、下部電極層をガラス基板側からCr膜(厚さ0.1μm)/Cu膜(厚さ0.5μm)の積層体、上部電極をCu膜(厚さ0.5μm)とした。
【0056】
[実施例2]
実施例2では、表面に厚さ0.1μmの酸化アルミニウム層が表面に形成された平均粒径1μmのAl粉末(酸化被膜Al粉末)を使用した以外は実施例1と同様にしてキャパシタ素子を形成した。なお、酸化被膜Al粉末は、オーブンを用いて350℃で30時間加熱し、粉末表面に酸化アルミニウム層0.1μmを形成した。
【0057】
[実施例3]
実施例3では、表面に部分的に厚さ約0.1μmのAu膜を有する平均粒径0.5μmのBaTiO3粉末(Au膜付着BaTiO3粉末)を用いた以外は実施例1と同様にしてキャパシタ素子を形成した。
【0058】
なお、Au膜付着BaTiO3粉末は、スパッタ法により、投入電力DC4000W、Arガス供給流量50sccmに設定して、Auターゲットを使用してBaTiO3粉末に1分間のスパッタを行った。なお、Au膜付着BaTiO3粉末全体の体積に対して、Au膜の体積比率を1vol%に設定した。
【0059】
なお、蒸着法の場合、電流80mA、電圧10kVの条件下で1分間のAu蒸着を行うことで、厚さ0.1umのAu膜を形成できる。
【0060】
[実施例4]
実施例4は、図6に示す第2の実施の形態に係るキャパシタ素子の実施例である。実施例4のキャパシタ素子は、ガラス基板側から、Cr膜(厚さ0.1μm)/Cu膜(厚さ0.5μm)の積層体の下部電極層、AD法によって平均粒径0.05μmのアルミナ粒子を堆積させたアルミナ膜(厚さ0.2μm)の第2誘電体層、AD法によって複合化粉末を堆積させた第1誘電体層(厚さ2μm)、AD法によって平均粒径0.05μmのアルミナ粒子を堆積させたアルミナ膜(厚さ0.2μm)の第3誘電体層、Cu膜(厚さ0.5μm)の上部電極層を積層した。第1〜第3誘電体層の成膜条件は実施例1と同様とした。
【0061】
第1誘電体層の複合化粉末は、平均粒径0.5μmのBaTiO3粉末と平均粒径約1μmのAu粉末とをディスクミルを用いて複合化したものである。なお、粉末全体の体積に対して、Au粉末の体積比率を5vol%に設定した。
【0062】
[比較例1]
比較例1では、平均粒径0.5μmのBaTiO3粉末と平均粒径約1μmのAu粉末とをボールミルにより混合した混合粉末を使用した以外は実施例1と同様にしてキャパシタ素子を形成した。なお、粉末全体の体積に対して、Au粉末の体積比率を5vol%に設定した。
【0063】
[比較例2]
平均粒径0.5μmのBaTiO粉末をエアロゾル発生器の容器に入れ、容器全体に超音波を加え、約150度で加熱しながら、30分真空脱気して、BaTiO3粉末表面に形成した水分を除去した。
【0064】
次いで、図4に示すAD法による成膜装置50を使用し、圧力19.6Paの高純度窒素ガス(純度99.9%)をキャリアガスとして流量を4L/分に設定してBaTiO3粉末のエアロゾルを形成した。成膜室を5Pa〜10Paに設定して30分間噴射し、下部電極層を形成したガラス基板上に厚さ2μmの誘電体層を形成した。さらにその上にスパッタ法により上部電極層を形成した。なお、下部電極層および上部電極層の構成は実施例1と同様とした。
【0065】
図7は、実施例および比較例のキャパシタ素子の特性図である。比較例のリーク電流の欄の「測定不能」はリーク電流が過大なため測定できなかったことを示す。
【0066】
図7を参照するに、実施例1〜4は、比較例1と比較すると、リーク電流が極めて低く、絶縁特性が比較例1よりも優れていることが分かる。また、実施例4は、実施例1〜4の中では最もリーク電流が低い。これは、BaTiO3粉末とAu粉末との複合化粉末による第1誘電体層と下部および上部電極層との間に形成されたアルミナ膜により、いっそう絶縁特性が良好になったことが分かる。
【0067】
また、実施例1は、比較例2と比較すると、平均比誘電率が大幅に増加しており、BaTiO3粉末に対して金被膜BaTiO3粉末を用いることで平均比誘電率が大幅に増加することが分かる。その結果、実施例1は比較例2に対して静電容量密度が大幅に増加することが分かる。
【0068】
なお、平均比誘電率はキャパシタの電極に周波数1GHzの高周波電圧を印加して測定した。誘電損失は摂動法を用いて、ネットワークアナライザを使用して測定した。
【0069】
また、静電容量密度は、各実施例および比較例において、層状に形成されているキャパシタの静電容量の総和を求め、回路基板の面積で除したものであり、単位面積あたりの静電容量を表すものである。
【0070】
(第3の実施の形態)
図8は第3の実施の形態に係る回路基板の概略構成を示す断面図である。
【0071】
図8を参照するに、回路基板30は、スルーホール32Aおよび導電体層32Bが形成された両面銅張り板FR−4基板よりなるベース基板31と、ベース基板31の一方の主面上に形成された絶縁層33−1〜33−4と、絶縁層33−1〜33−4間に配置された誘電体層34−1〜34−3を下側電極層36−1〜36−3と上側電極層38−1〜38−3により挟んで形成されたキャパシタ37−1〜37−3と、ベース基板31の他方の主面上に形成された、第1電極層46/誘電体層44/第2電極層48/誘電体層44が交互に繰り返されて形成されたキャパシタ47などから構成されている。さらに回路基板30の表面には、抵抗素子42やLSI40等が形成されている。
【0072】
回路基板30はキャパシタ37−1〜37−3やキャパシタ47が、図1および図6に示す第1および第2の実施の形態に係るキャパシタ素子10、20と同様の構成を有することに特徴がある。それ故、キャパシタ37−1〜37−3,47は高静電容量を有しているので層内方向の大きさ(面積に相当する。)を小型化できる。
【0073】
特に、デカップリング用として用いられるキャパシタ47は、通常、回路基板の比較的大きな面積を占めるが、本実施の形態では小型化が可能となり、ひいては、回路基板30の小型化を図ることができる。
【0074】
また、キャパシタ37−1〜37−3,47は低温プロセスで形成することができるので、寸法ばらつき等を低減することができる。例えばキャパシタ37−1〜37−3の寸法変化に起因する静電容量のばらつきを低減することができる。
【0075】
さらに、回路基板30の熱変形、寸法ばらつき等を低減することができ、キャパシタ37−1〜37−3,47を内蔵した小型で高精度の回路基板を実現することができる。ひいては、小型化された回路基板30を用いることにより、LSI40間などの能動素子間の配線を短縮することができ、伝送速度、動作速度の向上を図ることができる。
【0076】
なお、本実施の形態において、誘電層34−1〜34−3を回路基板に層状に形成した例を示したが、絶縁層33−1〜33−4の一部に誘電体層を形成してキャパシタを設けてもよい。誘電体層をドライエッチング等のパターニングにより形成することができる。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、第1および第2の実施の形態に係る製造方法により形成されるキャパシタ素子は、特に限定されず、例えば積層セラミックコンデンサのような単体のコンデンサでもよい。
【0078】
なお、以上の説明に関してさらに以下の付記を開示する。
(付記1) 第1の電極層を形成する工程と、該第1の電極層の表面に誘電体層を形成する工程と、該誘電体層上に第2の電極層を形成する工程とを含み、
前記誘電体層を形成する工程は、誘電体材料と導電性材料との複合材料からなる微粒子をエアロゾル化し、エアロゾル化された微粒子材料を第1の電極層の表面に吹き付けて堆積させることを特徴とするキャパシタ素子の製造方法。
(付記2) 前記微粒子は、表面の少なくとも一部が導電性材料に覆われたセラミック粒子からなることを特徴とする付記1記載のキャパシタ素子の製造方法。
(付記3) 前記微粒子は、セラミック粒子の表面に、電気めっき法、無電解めっき法、スパッタ法、および真空蒸着法のうちいずれかの方法により導電性材料を形成することを特徴とする付記2記載のキャパシタ素子の製造方法。
(付記4) 前記微粒子は、表面の少なくとも一部がセラミック材料に覆われた導電性粒子からなることを特徴とする付記1記載のキャパシタ素子の製造方法。
(付記5) 前記微粒子は、導電性粒子の表面に、スパッタ法、化学的気相成長法、熱酸化法、陽極酸化法、およびパルスレーザアブレーション法のうちいずれかの方法によりセラミック材料を形成することを特徴とする付記4記載のキャパシタ素子の製造方法。
(付記6) 前記微粒子は、導電性粒子とセラミック粒子とが互いに付着してなることを特徴とする付記1記載のキャパシタ素子の製造方法。
(付記7) 前記微粒子は、導電性粒子とセラミック粒子とを機械的に混合し衝撃を印加して複合化されてなることを特徴とする付記6記載のキャパシタ素子の製造方法。
(付記8) 前記第1の電極層の形成工程と誘電体層の形成工程との間、および前記誘電体層の形成工程と第2の電極層の形成工程との間の少なくともいずれか一方の間に、誘電体材料のみからなる微粒子のエアロゾルを形成し、該エアロゾルを第1の電極層あるいは誘電体層の表面に吹き付ける工程をさらに含むことを特徴とする付記1〜7のうち、いずれか一項記載のキャパシタ素子の製造方法。
(付記9) 配線層と、層間絶縁層が積層されてなり、付記1〜8のうちいずれか一項記載の製造方法により製造されたキャパシタ素子を備えた回路基板。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る製造方法によるキャパシタ素子の断面図である。
【図2】キャパシタ素子の模式的な要部断面図である。
【図3】図2に示すキャパシタ素子の等価回路図である。
【図4】本発明に用いられるAD法による成膜装置の概略構成図である。
【図5】(A)〜(D)は誘電体層が形成される様子を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る製造方法によるキャパシタ素子の断面図である。
【図7】実施例および比較例のキャパシタ素子の特性図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る回路基板の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
10、20 キャパシタ素子
11 基板
12 下部電極層
13 誘電体層(第1誘電体層)
14 上部電極層
16 微粒子
16a 誘電体部
16b 導電体部
18 微小キャパシタ
18a 誘電体層
18b 電極および配線
21 第2誘電体層
22 第3誘電体層
30 回路基板
50 AD膜形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極層を形成する工程と、該第1の電極層の表面に誘電体層を形成する工程と、該誘電体層上に第2の電極層を形成する工程とを含み、
前記誘電体層を形成する工程は、誘電体材料と導電性材料との複合材料からなる微粒子をエアロゾル化し、エアロゾル化された微粒子材料を第1の電極層の表面に吹き付けて堆積させることを特徴とするキャパシタ素子の製造方法。
【請求項2】
前記微粒子は、表面の少なくとも一部が導電性材料に覆われたセラミック粒子からなることを特徴とする請求項1記載のキャパシタ素子の製造方法。
【請求項3】
前記微粒子は、セラミック粒子の表面に、電気めっき法、無電解めっき法、スパッタ法、および真空蒸着法のうちいずれかの方法により導電性材料を形成することを特徴とする請求項2記載のキャパシタ素子の製造方法。
【請求項4】
前記微粒子は、表面の少なくとも一部がセラミック材料に覆われた導電性粒子からなることを特徴とする請求項1記載のキャパシタ素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1の電極層の形成工程と誘電体層の形成工程との間、および前記誘電体層の形成工程と第2の電極層の形成工程との間の少なくともいずれか一方の間に、誘電体材料のみからなる微粒子のエアロゾルを形成し、該エアロゾルを第1の電極層あるいは誘電体層の表面に吹き付ける工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のうち、いずれか一項記載のキャパシタ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−16578(P2008−16578A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185096(P2006−185096)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ナノレベル電子セラミック材料低温成形・集積化技術」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】