説明

クラッチ

【課題】2つのクラッチパーツのより迅速な係合を可能とするクラッチを提供する。
【解決手段】当該クラッチは、トルクの伝達のために適合態様で係合させられ得る2つのクラッチパーツと;当該クラッチパーツを係合から解放するために第1の方向に移動可能でありかつ当該クラッチパーツを係合させるために第2の方向に移動可能である移動部材と、を有する。当該移動部材の第1の方向の移動のためにモータが設けられ、当該移動部材の第2の方向の移動のためにばね要素226が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ、特にドッグクラッチに関し、当該クラッチは、トルク伝達のために適合態様(fitted manner)で係合され得る2つのパーツと、第1の方向に移動させられて当該クラッチパーツの係合を解き得かつ第2の方向に移動させられて当該クラッチパーツを係合させ得るスイッチ要素と、を含む。
【背景技術】
【0002】
このようなクラッチ及び特にドッグクラッチは、一般的に知られており、常時駆動される主アクスル及び時々駆動される二次アクスルを有する原動機付き車両(以下自動車と称する)等において、当該二次アクスルの動作を停止させるために使用されている。周知のクラッチは、油圧もしくは空気圧アクチュエータまたは電気モータによって作動すなわち開閉される。この場合、特に周知の電気モータによって作動させられるドッグクラッチにおいて問題がある。その問題とは、当該クラッチが十分に迅速に閉動作できないことによって、二次アクスルの係合の速度が制限されることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の基本的な目的は、2つのクラッチパーツのより迅速な係合を可能とするクラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1の特徴を有するクラッチが提供され、当該目的が達成される。
【0005】
本発明によるクラッチは、モータ、特に電気モータが、移動部材の第1の方向への移動すなわち開方向への移動のために設けられ、ばね要素が、移動部材の第2方向への移動すなわち閉方向への移動のために設けられることを特に特徴とする。
【0006】
従って、モータは、クラッチパーツの解放のためにのみ通常は設けられるのに対し、クラッチパーツの係合、すなわちクラッチの閉動作はばね力によって生起する。
【0007】
従って、換言すれば、本発明の基本的なアイデアは、モータが移動部材の両方向の移動には作用せず、通常は1方向の力のみを与えることを含む。クラッチを開状態にするために、エンジンは直接的に移動部材に作用し、それによってばね要素が同時に応力を受ける。クラッチを閉状態にするためには、対照的に、移動要素はモータから分離されすなわち引き離され、当該応力を受けていたばね要素が急激に弛緩し得、当該移動要素に荷重を与えてクラッチパーツを迅速に係合させることが可能である。
従って、当該システムは「クロージングデバイス(closing device)」タイプとも称される。
【0008】
通常は、クラッチパーツの係合からの解放には本質的に時間は重要ではない故に、モータの速度は特別な要求を満足する必要はないので、例えば、コストに有利な市販の電気モータを使用することができる。
【0009】
同時に、クラッチの閉動作に電気モータを使用するよりも迅速なクラッチパーツの迅速な係合がばね要素によって達成される。
【0010】
ばね要素によるクラッチの迅速な閉動作は、例えば、自動車の停止されている二次駆動アクスルの迅速な係合に寄与することが可能である。
【0011】
本発明の有利な実施例は、従属請求項、本明細書及び添付の図面から理解されるであろう。
【0012】
第1方向における移動要素の移動は、好ましくは、ばね要素に応力を加える。従って、当該ばね要素は、クラッチの開動作によってエネルギを供給すなわち蓄積(charge)される。ばね要素は、取り込んだエネルギを、クラッチの係合動作が命令されるまで保持し、当該係合動作は、その後に当該ばね要素のエネルギ放出(discharge)によってなされる。従って、モータは、クラッチパーツの解放動作を提供するだけではなく同時にばね要素に応力を加える、すなわちエネルギ蓄積に必要とされるエネルギを供給する点において、2つの機能を満足する。従って、ばね要素は、モータによって供給されかつクラッチの閉動作、特に、クラッチパーツの係合動作の初期に発生するだろう「トゥースオントゥース(tooth-on-tooth )」配置の場合のクラッチの閉動作に必要なエネルギの保持部を形成する。
【0013】
最も単純な形式において、ばね要素は圧縮ばね、特に圧縮コイルばねであり得る。
【0014】
本発明によるクラッチの実施例によれば、ばね要素の動作は、以前にばね要素に応力を加えた回転方向と同一の回転方向におけるエンジンの動作によって生起する。当該ばね要素の動作は、当該ばね要素が弛緩し得て閉方向に移動部材を移動することが可能であるような、応力を受けたばね要素の解放として理解される。モータの逆方向回転は、本実施例におけるクラッチの動作には不必要である。むしろ、クラッチの開動作及び閉動作は、1つの同一の回転方向におけるモータの動作よって生起される。
【0015】
モータと移動部材との間に配された伝達機構は、好ましくは、少なくとも1つの作動傾斜(actuating ramp)と、少なくとも1つの反作用要素(counter element)と、を含み、当該反作用要素は、当該作動傾斜に対して移動可能であり、当該作動傾斜と協働することにより、当該ばね要素の復元力に逆らって当該反作用要素が当該作動傾斜を上って滑る第1の方向に当該移動部材が移動、特に押圧される。
【0016】
反作用要素の数が作動傾斜の数と同一であるのが好ましいことは、容易に理解される。しかし、これは必要条件ではない。すなわち通常は、反作用要素の数は、作動傾斜の数と同一でなくとも良い。
【0017】
当該作動傾斜は、引き延ばして見た場合、好ましくは、クラッチの開動作のための小さい傾斜を有する長い緩勾配傾斜セクション及びクラッチの閉動作のための大きな傾斜を有する短い急勾配傾斜セクションを有する。高いギア比が長い緩勾配傾斜セクションによって達成されるので、比較的小さなトルクを有する電気モータが比較的大きい力を有するスプリングを付勢可能である。この態様において、電気モータ並びに当該電気モータに固定されたモータコントローラ及び/またはワイヤハーネス等のコンポーネントは、さらに小さく製造することが可能である。短い急勾配傾斜セクションの故に、短い距離の移動は、同時にクラッチを迅速に閉じるのに十分である。
【0018】
作動傾斜は、移動部材に直接設けられるのが有利である。例えば、移動部材は、リング形状またはスリーブ形状で形成され得、シャフトを取り囲み得かつ当該シャフトに対して移動可能である。その一方で、作動傾斜は、移動部材の端面であって反作用要素に接する端面に形成される。
【0019】
ばね要素は、移動部材の端面であって当該作動傾斜から離れている端面と当接部(abutment)との間に設けられ得る。
【0020】
反作用要素は、好ましくは、モータによって作動傾斜に沿って移動させられる。
【0021】
1つの実施例において、反作用要素は、作動シャフトから半径方向外側に突出したピンを含み、当該作動シャフトは、モータによって移動部材に対して回転自在である。当該作動シャフトは、例えば、ウォームホイール及びウォームを介してモータによって駆動させられ得る。
【0022】
クラッチを開くために、作動シャフトがモータによって回転させられることによって、長い緩勾配傾斜セクションに沿って、当該作動傾斜の端部に達するまでピンがスライドする。当該移動部材は、このようにして当該作動シャフトにおいてばね要素の復元力に逆らって移動させられる。当該ピンを当該作動傾斜の端部に固定してクラッチを開位置に固定するために、ピンが引っ掛かる(latch)ラッチ凹部が当該作動傾斜の端部に設けられる。クラッチを閉じるために、当該作動シャフトは、同一の方向にさらに回転させられ、当該ピンが解放されて短い急勾配傾斜セクションを「急滑落」し、同時にばね要素は弛緩して移動部材が閉状態方向へ移動する。
【0023】
本発明によるクラッチのさらなる実施例によれば、反作用要素は反作用傾斜を有し、当該反作用傾斜は、シャフトを取り囲むカウンターギアの端面であって移動部材に接する端面に形成される。当該カウンターギアは、例えば、モータによって駆動させられるウォームと係合しているウォームホイールであっても良い。
【0024】
当該反作用傾斜は、上り勾配の第1の傾斜セクションと、第2の傾斜セクションと、を有し得、当該第2の傾斜セクションは、急勾配で下っているかまたは段階的に形成されており、特に、急勾配の第1領域、緩勾配の第2領域及び急勾配の第3領域を含む。
【0025】
実施例によれば、第1の傾斜セクションは、緩勾配で上っておりかつ特に直線状に上っている。
【0026】
しかし、代替的に、第1の傾斜セクションは、非直線状に上ってもよい。この場合、当該第1の傾斜セクションの勾配は反作用傾斜の最高点に向かって好ましく減少する、すなわち当該第1傾斜セクションは、クラッチの開動作の第1のフェーズにおいて、より急勾配に構成されている。これによって、傾斜は全体として小さく維持され得る。同時に、異なった剛性のばねの並列接続、直列接続によってまたは特別な特性を有するばねの使用によって、ばね要素の復元力が当該第1の傾斜セクションの傾きに適合され得る。
【0027】
この態様において、クラッチの開動作に対する勾配及びばね要素のばね係数は、互いに適合させられ得、ストロークに亘ってほぼ一定のトルクがモータにおいて生成される。この場合、通常はばねのばね力がストロークに亘って変化することが有利に考慮される。このことは、一方で、ばねが通常大きな圧縮力において大きな復元力を発生することによって生起する。しかし他方では、ばね力は意図的に選択され得るので、ばね力が同期化点でより高く、閉状態においてより低くなり得る。従って、当該同期化点での力が高くなるように好ましく選択される。なぜならば、同期化デバイスの動作には、より大きな力が必要だからである。対照的に、閉状態またはドッグクラッチの閉動作においては、より小さな力で十分である。さらに、クラッチの閉動作における大きな力は、望まれない大きなショックを発生し得る。
【0028】
可能な限り一様な力分布を達成するために、少なくとも2つの動作傾斜及び少なくとも2つの反作用傾斜が提供されるのが好ましく、それらの各々は、周囲に亘って一様に分布するように有利に配される。
【0029】
従って、この実施例において、2つの傾斜が各々互いに相関的(pair-wise)にスライドし、移動部材の移動を生じさせてばね要素に応力を加えるかまたは弛緩を生じさせる。
【0030】
カウンターギアは、セレクタスリーブを囲み得、当該セレクタスリーブは、シャフト上に設けられ、移動部材に結合されかつ当該移動部材によって当該シャフトに対して移動可能である。
【0031】
通常、クラッチパーツの迅速な係合が求められるが、反作用要素の回転方向が逆にされて、当該反作用要素が長い緩勾配セクションを再度滑り降りて、当該移動部材がばね部材の復元力によって閉動作方向にゆっくり移動することで、クラッチをゆっくり閉じることも通常は可能である。例えば、このクラッチのゆっくりとした閉動作は、クラッチの迅速な閉動作において発生するショック及びノイズを軽減する場合に有利であり得る。
【0032】
本発明によるクラッチのさらなる実施例によれば、ばね要素のトリガは、以前にばねに応力を加えた回転方向と逆方向の回転方向におけるモータの動作によって起きる。この場合、モータの回転方向の反転がクラッチの閉動作に必要である。
【0033】
この場合、電気モータは、停止するまで両方向に駆動させられ得、スピンドルナットの終端位置の各々の認識は、電気モータの消費電力の評価によって可能である。
【0034】
クラッチのゆっくりとした閉動作は、この実施例によっては可能ではない。クラッチの迅速な閉動作の始動は、終端位置にある移動部材すなわち完全に開状態のクラッチによってはできず、ストローク全体の間すなわち例えば半分開状態のクラッチによってもできない。
【0035】
返送機構がモータと移動部材との間に設けられ、当該返送機構が伝達機構デバイスを含み、当該伝達機構が、当該移動部材と係合して当該移動部材をばね要素の復元力とは反対の第1方向すなわち開動作方向に引くことが可能であるのが有利である。
【0036】
当該伝達機構デバイスは、モータによって駆動されるスピンドル及び当該スピンドルに設けられたスピンドルナットを含み、当該スピンドルナットにドライバフィンガ(driver finger)が形成され、当該伝達機構のフィンガが、当該スピンドルナットの所定方向の回転によって当該移動部材の突起部と係合させられ得かつ当該スピンドルナットの当該所定方向と逆方向の回転によって当該突起部から解放され得る。
【0037】
当該返送機構は、好ましく形成されるので、当該伝達機構のフィンガと当該突起部とは、当該スピンドルナットが当該スピンドルナットの領域内へ移動させられることによって互いに係合させられ、当該モータの回転方向が反転されて当該移動部材が当該第1の方向に引かれる。
【0038】
加えて、スピンドルナットが回転させられて伝達機構のフィンガが突起部から解放された場合に、当該スピンドルナットの軸移動を防止することが可能なトリガ機構が提供され得る。当該トリガ機構は、例えば、フリーホイール、戻り止め(detent)、歯止め機構または他の機構であって所定方向に対して作用する機構として適したものであり得る。
【0039】
移動部材との係合のためまたは当該移動部材の解放のため、換言すれば当該スピンドルに沿って軸方向に移動可能であるために、スピンドルナットがスピンドルに対して僅かだけ回転することを保証すべく、回転制限デバイスがスピンドルナットの回転を制限するための設けられるのが有利である。
【0040】
例えば、当該回転スピンドルデバイスは、当該スピンドルと平行に伸長するバーを含み、当該バーは、一端の領域で移動部材に接続され、他端の領域において周辺方向に向かって湾曲している当該スピンドルナットのガイド開口部内に案内されている。当該スピンドルナットの回転角度は、周辺方向からみた当該ガイド開口部の長さによって決められる。
【0041】
本発明によるクラッチが、上述したように、自動車の時々駆動されるだけの二次アクスルの迅速な係合に特に適している故に、本願請求項24によるパワートレインも本発明を構成する。
【0042】
本発明は、さらに、駆動トルクを生成する駆動ユニットを有する自動車のパワートレインの制御方法に関する。常時駆動される主アクスル;当該駆動トルクの可変な部分を自動車の二次アクスルへ伝達するための第1のクラッチ;当該第1のクラッチが開状態の際に、当該パワートレインの当該第1のクラッチと第2のクラッチとの間に設けられたトルク伝達セクションを無効化するための第2のクラッチ;及び当該第1及び第2のクラッチの自動制御のための制御ユニット、を含み、上述のクラッチが当該第2のクラッチに使用される。
【0043】
この方法の有利なさらなる改良によれば、主アクスルにおいてホイールスリップが発生しているかどうかが判定され、トルク伝達セクションの無効化状態から、当該主アクスルのホイールスリップの検知に応じて第2のクラッチが閉じられる。
【0044】
この場合、第2クラッチの閉動作は、主駆動アクスルにおいて検出されたホイールスリップに応じて、二次アクスルのさらに迅速な係合に寄与する。なぜならば、当該二次アクスルの追加的な駆動の需要がホイールスリップの検出によって予測されるからである。これによって第2クラッチの閉動作プロセスがさらに迅速に開始され得る。
【0045】
本発明は、有利な実施例及び添付の図を参照して、単に例示の目的で以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明によるクラッチの作動装置の第1の実施例の側面図であってハウジングが切り取られている図である。
【図2A】本発明によるクラッチの作動装置の第2の実施例の縦断面図である。
【図2B】図2Aの作動装置の傾斜リング機構の拡大断面図である。
【図2C】傾斜リング機構の代替例の拡大断面図である。
【図2D】傾斜リング機構の他の代替例の拡大断面図である。
【図3】本発明によるクラッチの作動装置の第3の実施例の縦断面図である。
【図4A−4F】クラッチの様々な開状態及び閉状態における図3の作動装置の拡大図である。
【図5】第1の実施例に従った本発明によるパワートレインの全体図である。
【図6】図5のパワートレインの二次アクスルの二次的に接続されたドッグクラッチを有する軸作動装置の全体図である。
【図7】本発明によるパワートレインの第2の実施例の全体図である。
【図8】本発明によるパワートレインの第3の実施例の全体図である。
【図9】主アクスル、二次アクスル、主アクスルと二次アクスルを接続しているトルク伝達セクションのスピード、及び二次アクスルの停止状態から二次アクスルの係合中における2次アクスルへ伝達されるトルクの経過のグラフである。
【図10】本発明によるパワートレインの第4の実施例の全体図である。
【図11】本発明によるパワートレインの第5の実施例の全体図である。
【図12】本発明によるパワートレインの第6の実施例の全体図である。
【図13】本発明によるパワートレインの第7の実施例の全体図である。
【図14A】図13のパワートレインに使用される同期化装置を有するドッグクラッチの断面図である。
【図14B】図13のパワートレインに使用される同期化装置を有するドッグクラッチの断面図である。
【図14C】図13のパワートレインに使用される同期化装置を有するドッグクラッチの断面図である。
【図15】主アクスル、二次アクスル、主アクスルと二次アクスルを接続しているトルク伝達セクションのスピード、及び図13に示されるトルク伝達セクションの無効状態から二次アクスルの係合中における2次アクスルへ伝達されるトルクの経過のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明によるクラッチの作動装置の第1の実施例が図1に示されている。当該装置は、図示されていない2つのクラッチパーツを含んでおり、当該クラッチパーツは、適合態様で係合してクラッチを閉状態するかまたは係合を解いてクラッチを開状態にする。例えば、当該クラッチはドッグクラッチであり得る。さらに、当該クラッチは、特に当該クラッチに一体化される同期化デバイスを含み得る。
【0048】
当該クラッチパーツの作動は、周知の態様で、開位置A(図1の右側)と閉位置B(図1の左側)との間を移動可能なセレクタスリーブ110によって本質的に行われる。移動部材114は、スリーブの形態またはリングの形態で形成され、作動シャフト116に移動可能に支持されている。作動シャフト116は、ハウジング118に回転可能に支持されている。作動シャフト116を回転させるために、図示されていない電気モータが設けられてウォーム120を駆動する。当該ウォーム120は、ウォームホイール122と係合状態にあり、ウォームホイール122は、作動シャフト116に取り付けられかつ作動シャフト116と回転固定接続されている。位置センサ124が設けられて、作動シャフト116の回転位置が判定される。
【0049】
作動シャフト116を囲っている圧縮コイルばね126が、移動部材114の第1の端面128とハウジング118の間に設けられ、移動部材114が開位置Aにある際に、圧縮されて復元力を発生するようになされる
移動傾斜132が、移動部材114の端面であって圧縮コイルばね126から離れた第2の端面130に形成される。作動傾斜132は、作動シャフト116の回転方向136においてゆっくり上るので緩勾配傾斜セクションとも称される長い第1の傾斜セクション134と、当該第1の傾斜セクションから急激に降下するので急勾配傾斜セクションとも称される短い第2の傾斜セクション138と、を含む。急勾配傾斜セクション138は、作動傾斜132の開始点と終了点を画定する。
【0050】
移動部材114は、圧縮コイルばね126によって(図1の左側に向かって)作動ピン140に向けて押される。当該作動ピンは、作動シャフト116内に挿入されかつ少なくとも半径方向に突出しており、移動部材114と係合され得る。
【0051】
回転方向136における作動シャフト116の回転は、作動ピン140が作動傾斜132に沿って緩勾配傾斜セクション134を滑り上がる作用を有し、当該作用によって、動作部材114が圧縮コイルばね126の復元力に対抗して開位置Aの方向(図1の右方向)に移動させられる。作動ピン140が作動傾斜132の終端領域すなわち作動傾斜132の最高点に到達させられるとすぐに、移動部材114は、開位置Aに位置してクラッチパーツが完全に解放される。
【0052】
作動ピン114をこの位置に固定するために、緩勾配傾斜セクション134の終端領域内にラッチ凹部142が設けられ、ラッチ凹部142に作動ピン140が図1に示されているようにラッチ(latch)し得る。緩勾配傾斜セクション134の終端部への到達すなわち開位置Aへの到達が位置センサ124によって検知される。
【0053】
クラッチの迅速な閉動作が望まれる場合、作動シャフト116は、回転方向136にさらに僅かな角度だけ回転させられ、それによって動作ピン140が作動傾斜132の終端部を越えて移動させられる。応力を受けている圧縮コイルばね126による駆動によって、移動部材114が左に急激に移動して閉位置B至り、これによってクラッチパーツが非常に短時間に係合状態にされる。
【0054】
「トゥースオントゥース」配置がクラッチパーツの係合において最初に発生する場合、圧縮コイルばね126は、クラッチパーツが適切に係合するまで移動部材114に復元力を与える。従って換言すれば、圧縮コイルばね126は、当該クラッチが完全な閉状態になるまでエネルギ貯蔵部となっている。
【0055】
クラッチの開動作及び迅速な閉動作のために、上述したように、作動シャフト116は、常時一方向すなわち回転方向136にのみ回転させられるべきである。しかし、通常は電気モータの回転方向を反転して作動シャフトの回転方向を反転させて、作動ピン140に図1に示された終端位置から作動ランプ132を滑り下ることを可能とさせることもできる。これによって、移動部材114は、圧縮コイルばね162によって開位置から閉位置Bにゆっくり押し出され、クラッチがゆっくり閉じる。
【0056】
閉位置Bにおいて、移動部材114は、作動傾斜132の開始領域内にある作動ピン140に支持される。代替的または追加的に、移動部材140の支持のために他のコンポーネントも設けられ得る。ショックを最小化するために、緩衝(damping)要素が、閉位置Bにある移動部材114の支持のために追加的に設けられ得る。
【0057】
図2Aには、本発明によるクラッチの作動装置の第2の実施例が示されており、当該装置は、直線に誘導するパーツの周囲に同軸に配されている。図2Aにおいて、自動車の二次アクスル等のスプリットシャフト208が示されている。
【0058】
作動装置は、セレクタスリーブ210を含み、当該スリーブは、スプリットシャフト208を囲み、スプリットシャフト208に対して開位置から閉位置に移動可能である。図2Aの右側の端部領域において、セレクタスリーブ210は、半径方向外向きに折曲している。セレクタスリーブ210の半径方向外向きへの折曲端部セクション212は、リング状移動部材214のリング溝213内に適合態様で係合している。リング状移動部材214は、軸方向からみて少なくとも部分的にセレクタスリーブ210を囲んでいる。
【0059】
圧縮コイルばね226は、移動部材214とハウジングセクション218との間に設けられ、当該コイルばねは、スプリットシャフト208を囲み、セレクタスリーブ210が開位置(図2Aの右側)にあって復元力で移動部材213の第1の端面228に荷重を負荷している場合に応力を受ける。移動部材214は、ハウジングセクション218に対して回転不能である。
【0060】
移動部材214の第1の端面228から離れている第2の端面230において、複数の作動傾斜232が形成され、作動傾斜232は、周辺方向に伸長し、回転方向236において緩い上り勾配の第1の傾斜セクション234と、当該第1の傾斜セクションに隣接して急激に降下する第2の傾斜セクション238と、を各々有する(図2B)。作動傾斜232の各々のより高い端部の領域において、緩い上り勾配の第1の傾斜セクション234に隆起したラッチ部244が形成される。
【0061】
セレクタスリーブ210を開位置にもたらすために、移動部材214は、圧縮コイルばね226の復元力に対向して軸方向すなわち図2の右側方向に移動される必要がある。
【0062】
このために、セレクタスリーブ210を囲むウォームホイール246が設けられる。ウォームホイール246は、その周囲表面において歯状の構造を有し、当該構造は、図2に示されていない電気モータによって駆動されるウォーム248と係合している。当該電気モータ、ウォーム248及びウォームホイール246は、軸方向から見て固定された配置で設けられる。セレクタスリーブ210は、ウォームホイール246内に当該ホイールに対して移動可能に支持されるので、移動部材210は、軸方向に移動させられ得る。
【0063】
移動部材240に面したウォームホイール246の端面250において、複数の反作用傾斜252が形成され、複数の反作用傾斜252は、移動部材214の作動傾斜232の数と一致する(図2B)。ウォームホイール246の反作用傾斜252は、実質的に移動部材214の作動傾斜232と同様に形成されるが、配向が逆方向である。すなわち、反作用傾斜252の第1の傾斜セクション254は、回転方向236に対向して緩く上り、第2の傾斜セクション256は、回転方向236に対向して急激に降下する。
【0064】
緩い上り勾配の第1の傾斜セクション254の各々は、当該セクションの高い端部の領域において、ラッチ凹部258を有し、ラッチ凹部258は、移動部材214の隆起したラッチ部244を受けることができる。
【0065】
移動部材214は、圧縮コイルばね226によって、ウォームホイール246に対して図2Aの左側方向に押圧される。この場合、図2Bに示されているように、移動部材の作動傾斜232は、ウォームホイール214の反作用傾斜252と互いに係合状態にある。
【0066】
移動部材214を移動してセレクタスリーブ210をクラッチの開動作のために圧縮コイルばね226の復元力に対向して(図2Aの右方向に)移動させるために、ウォームホイール246は、電気モータによってウォーム248を介して回転方向236に回転させられるので、ウォームホイール246の反作用傾斜252は、移動部材214の作動傾斜232を滑り上がる。反作用傾斜252及び作動傾斜232の高い端部領域が向かい合って配された場合、移動部材214は、圧縮コイルばね226に対して最大に移動させられてクラッチが開く。
【0067】
ウォームホイール246の相対回転位置の検出のために、位置センサが設けられ、当該センサが相対位置信号を電気モータへ伝送するので、当該電気モータは、停止されてクラッチを開状態に保持し得る。ウォームホイール246をこの位置にさらに固定するために、移動部材214の隆起したラッチ部244がウォームホイール246のラッチ凹部258内に係合する。
【0068】
クラッチの迅速な閉動作が望まれる場合、ウォームホイール246が回転方向236に僅かな角度だけさらに回転させられ、隆起したラッチ部244がラッチ凹部258から解放され、移動部材214が圧縮コイルばねによってウォームホイール246に対して急激に、図2の左側方向に移動させられて、作動傾斜232の急勾配傾斜セクション238が、ウォームホイール246の反作用傾斜252の急勾配傾斜セクション256に沿ってスライドするべきである。
【0069】
上述の第1の実施例と同様に、この第2の実施例でもクラッチのゆっくりとした閉動作が可能である。当該動作は、ウォームホイール246の回転方向が反転され、ウォームホイール246が、移動部材214が圧縮コイルばね226に対して最大に移動させられた位置から回転方向236に対向して回転させられ、反作用傾斜252の緩勾配傾斜セクション254が作動傾斜232の緩勾配傾斜セクション238を滑り下りることによって可能である。
【0070】
クラッチが閉じているとき、すなわち移動部材214及びセレクタスリーブ210が図2Aの左側に最大限に移動されている場合、ウォームホイール246は、移動部材214に対する当接部を形成する。追加的または代替的に、別個の当接部またはダンパが設けられて、クラッチの閉動作における移動部材214のウォームホイール246への衝突が回避または緩衝され得る。
【0071】
図2Cにおいて、図2Aの作動装置の傾斜リング機構の代替実施例が示されている。当該実施例は、移動部材214が傾斜を持たずに複数の細長い作動突起260を有している点において、図2Bに示されている傾斜リング機構とは異なっている。作動突起260は、ウォームホイール246の方向に伸長し、突起260の自由端がウォームホイール246に接している。作動突起260は、周辺方向に均等に分散して設けられており、2つの隣り合う作動突起260の間の空間は、ウォームホイール246の反作用傾斜252の周辺方向から見た長さと適合している。
【0072】
図2Cのウォームホイール246の反作用傾斜252は、その第2の傾斜セクションが各々段階的に形成されている点において図2Bのウォームホイール246の反作用傾斜252とさらに異なる。さらに正確には、第2の傾斜セクション256は、各々が異なった勾配を有する3つの領域262、264、266から構成される。すなわち、回転方向236に向かって、ラッチ凹部258から始まり、急勾配の第1領域262、緩勾配の第2領域264及び急勾配の第3領域266の3つの領域から構成される。
【0073】
クラッチの開状態において、移動部材214の作動突起260は、ウォームホイール246の反作用傾斜252のラッチ凹部258内に嵌め込まれる。
【0074】
ウォームホイール246がクラッチの閉動作のために回転方向236に回転させられた場合、移動部材214は、圧縮コイルばね226によって中間位置内に向かって移動させられ、作動突起260の各々は、反作用傾斜252に付随する急勾配の第1領域262へ下げられ、緩勾配の第2領域264に衝突する。ウォームホイール246のさらなる回転において、当該移動ギアは、作動突起260が緩勾配の領域264を離れて急勾配の第3領域266を下るまで当該移動ギアの中間位置に留まるので、クラッチが急激に完全に閉じる。
【0075】
図2Cに示されている傾斜リングメカニズムの変形例は、図13及び図14に関連して以下で特に詳しく説明されるような一体化された同期化装置を有するドッグクラッチの係合に特に適している。
【0076】
このようなクラッチを使用した場合、クラッチのクラッチリング70の移動のために移動部材214に接続される移動フォークが設けられ、移動部材214の中間位置が、クラッチリング70の同期化位置に対応する(図14B)。当該同期化位置において、第1のクラッチパーツ62と第2のクラッチパーツ64との速度の同期化が行われる。
【0077】
この場合、ウォームホイール246の反作用傾斜の緩勾配の第2領域264の長さは、クラッチパーツ62と64との速度近似または速度同期化を達成して乗員等に感知されずにクラッチギア閉じるのに十分な期間に亘って、作動突起260がウォームホイール246の一定の回転速度において中間位置に維持されるように有利に選択される。
【0078】
図2Dにおいて、図2Aの作動装置の傾斜リングメカニズムの他の代替例が示されている。当該代替例は、第1の傾斜セクション254が直線に上っているように形成されず、非線形勾配を有する点で、図2Cに示された傾斜リングメカニズムと異なっているだけである。さらに詳しくいえば、第1の傾斜セクション254が、その終端領域(図2Dの右側)よりも開始領域(図2Dの左側)で急勾配に構成されている。従って、勾配は、反作用傾斜252の最高点に向かって減少する。
【0079】
図3及び図4において、本発明によるクラッチ装置の作動装置の第3の実施例が示されている。当該動作装置は、移動部材314を含み、移動部材314は、移動フォーク312を介して図示されていないセレクタスリーブに結合されている。当該セレクタスリーブは、ハウジング318内に設けられ、シャフトセクション313に移動可能に支持されている。シャフトセクション313は、ハウジング318の第1の壁セクション319によって保持されかつハウジング318の内側に向かって突出する。
【0080】
圧縮コイルばね326は、移動部材314と第1の壁セクションに対向して配されている第2の壁セクション327との間に設けられているので、移動部材314、移動フォーク312及びそれらに接続されているセレクタスリーブは、図3において右側へ第1の壁セクション319に向かって、クラッチが閉状態になる閉位置Bへ駆動させられる。
【0081】
移動フォーク312をその開位置Aへ、すなわち図3において右へ移動させて圧縮コイルばね326の復元力に対向してクラッチを開くために、返送機構が設けられる。当該返送機構は、電気モータ360と、電気モータ360によって駆動させられかつシャフトセクション313と同軸にハウジング318の内側へ伸長しているスピンドル362と、スピンドル362に設けられたスピンドルナット364と、を含む。
【0082】
ガイドバー366は、移動部材314内に固定的に収容され、移動部材314からスピンドルナット364に向かって伸長し、シャフトセクション313及びスピンドル362の中心軸に対して平行にオフセットしている。ガイド開口部368は、スピンドルナット364内に形成され、ガイドバー366がガイド開口部368を通り抜けて伸長する。ガイド開口部368は、周辺方向に伸長する長穴であり、スピンドルナット364に、当該ナットの中心軸周りにガイドバー366に対して僅かな角度の回転を許容する。スピンドルナット364の回転は、ガイド開口部368の端部において、ガイドバー366の当接部によって制限されるので、ガイドバー366及びガイド開口部368は、スピンドルナット364の回転制限デバイスを形成する。
【0083】
移動部材314を、図3の閉位置Bから開位置Aへ返送するために、スピンドル362は、電気モータ360によって第1の回転方向に駆動させられるので、スピンドルナット364は、回転制限デバイスの影響下で、移動部材314に向かってすなわち図3の右側へ向かって移動する。
【0084】
スピンドルナット364が、移動部材314に当接すると、換言すれば適切な当接部によって移動部材314に向かってのさらなる移動を妨げられるとすぐに、電気モータ360における電力消費の増加が検出される。これは、スピンドルナット364が第1の終端位置にあることの表れである。
【0085】
第1の終端位置において、移動部材314に向いたスピンドルナット364のドライバフィンガ370が、移動部材314に対応して形成されたドライバ開口部372内部に突出する(図4D)。
【0086】
第1の終端位置の検出において、電気モータ360の回転方向が第2の回転方向に反転させられ、それによってスピンドルナット364は、スピンドルスレッド内のいくらかの摩擦の故に、その中心軸に対して回転制限デバイスが許容する僅かな角度だけ回転させられる。スピンドルナット364の回転は、スピンドルナット364のドライバフィンガを、移動部材314のドライバ突出部374の裏側に係合させる作用を有する(図4E及び図4F)。
【0087】
回転制限デバイスによって、スピンドルナット364のさらなる回転が妨げられるので、第2の回転方向におけるスピンドル362の駆動は、スピンドルナット364が、軸方向にハウジング318の第2の壁セクション327に向かって、すなわち図3の左側に向かって移動する結果をもたらし、スピンドルナット364は、ドライバフィンガ370及びドライバドライバ突起374を介して移動部材314を伴って圧縮コイルばね326の復元力に対向して引かれるので、移動フォーク312が開位置Aにもたらされてクラッチが開く。
【0088】
移動フォーク312の開位置Aにおいて、スピンドルナット364は、スピンドルナット364の第2の終端位置を画定する適切な当接部に当接し、このことは、電気モータ360の消費電流の増加によって検出され得る(図4A)。
【0089】
クラッチが再度閉じるべき場合、スピンドルナット364のドライバフィンガ370及び移動部材314のドライバ突出部374の係合が解かれることのみが必要であり、それによって、移動部材314が圧縮コイルばね326の復元力によって閉位置Bに向かって押されることが可能となる。
【0090】
ドライバフィンガ370及びドライバ突出部374の係合の解放は、電気モータ360の回転方向の第1の回転方向への再度の反転によって生起される。ドライバフィンガ370及びドライバ突出部374は、圧縮された圧縮コイルばね326の復元力によって互いに向かって押圧されることが、ここで考慮にされるべきである。
【0091】
ドライバフィンガ370及びドライバ突出部374が、摩擦力の故に係合し続けている場合、スピンドルナット364は、スピンドル362の回転速度に従って、移動部材314とともに閉位置Bへ移動する。このことは、クラッチのゆっくりとした閉動作をもたらす。
【0092】
このことを防止するために、トリガ機構が設けられる。当該トリガ機構は、スピンドルナット364が、その第1の終端位置の方向に、すなわち図3及び図4の右側の方向に移動可能になる前に、ドライバフィンガ370及びドライバ突出部374が係合を解除することを保証する。
【0093】
当該トリガ機構は、スピンドルナット364の周辺表面376から半径方向に突出しているトリガピン378及びハウジング318の第2の壁セクション327に設けられているトリガアーム380を含む。スピンドルナット364に面しているトリガアーム380の端部領域において、凹部382が形成され、スピンドルナット364が第2の終端位置にあるときに、凹部382にトリガピン378が係合する。
【0094】
凹部382が形成され、スピンドル362の第1の回転方向における駆動において、スピンドルナット364の回転が許容されるが、同時に、ドライバフィンガ370がドライバ突出部374から解放されるまで、スピンドルナット364の右方向への実質的な軸移動が防止される。この場合、一方ではドライバフィンガ370とドライバ突出部374とが、他方ではトリガピン378とトリガアーム380が、本質的に同時に係合を解く。
【0095】
上述したように、スピンドルナット364のさらなる回転は、回転制限デバイスによって防止されるので(図4C)、スピンドルナット364は、スピンドル362の第1の回転方向のさらなる駆動において再度右に移動されて(図4D)、移動部材314が閉位置Bから開位置Aに返送されてクラッチが開く。
【0096】
トリガ機構は、クラッチの開動作に亘って、すなわちスピンドルナット364が第1の終端位置から第2の終端位置まで移動する間、円滑に移動させられるように形成される。このために、トリガピン378及び/またはトリガアーム380は、それに応じて面取りされる。
【0097】
図3及び図4に示された実施例において、クラッチの迅速な閉動作は、スピンドルナット364が第2の終端位置にあるときにのみ可能である。
【0098】
しかし、通常は、スピンドルナット364の異なった位置、特にスピンドルナット364の全ての移動経路すなわち全てのストロークに亘る位置からのクラッチの迅速な閉動作の実施も考えられる。最終的には、このことは、フリーホイール、戻り止めまたは歯止め機構等の方向に依存して作動するトリガ機構の適切な構成を必要とする。
【0099】
上述のことから分かるように、第3の実施例に従ったクラッチの閉動作のトリガは、第1及び第2の実施例と対照的に、電気モータの回転方向の反転によって行われる。さらに、第3の実施例において、スピンドルナット364の終端位置の判定のためには位置センサは必要とされない。当該実施例において、スピンドルナット364の終端位置の検出は、電気モータ360の電力消費によってのみ行われる。
【0100】
上述したクラッチの実施例は、自動車の二次的駆動アクスルの迅速な係合に特に適しており、以下でさらに詳細に説明される。
【0101】
図5において、自動車のパワートレインが示されている。当該パワートレインの前部領域に駆動ユニット12が配されており、この例において、燃焼機関は自動車の前後軸に対して横向きに配されている。駆動ユニット12は、変速ギアボックス14を介して、フロントアクスル差動装置22を含む自動車のフロントアクスル16に常時接続されているので、フロントアクスル16に取り付けられたフロントホイール18は、走行中に駆動ユニット12によって常時駆動されている。従って、フロントアクスル16は、主アクスル20とも称される。
【0102】
後部領域において、当該自動車は、リアアクスル差動装置26及びリアホイール28を有するリアアクスル24を有する。リアアクスル24は、二次的な駆動アクスルであり、駆動ユニット12によって需要に応じて駆動され得るので、二次アクスル30とも称される。
【0103】
このために、可制御トルク分配デバイス(パワーリフトオフユニット(power lift-off unit))32が、主アクスル20に設けられ、駆動ユニット12によって提供される駆動トルクの調整可能な部分が当該分配デバイスによって二次アクスル30へ分配され得る。トルク分配デバイス32は、制御ユニット34によって制御されるマルチディスククラッチ33を含む。
【0104】
マルチディスククラッチ33の出力は、トルク伝達セクション36、例えばカルダンシャフトの一端に接続される。他端において、トルク伝達セクション36は、クラウンホイール40と係合しているベベルギア38に接続されており、クラウンホイール40は、リアアクスル差動装置26の差動ケージ(differential cage)42に接続されている(図6)。
【0105】
走行中、マルチディスククラッチ33が開状態の場合、すなわち純粋なフロントホイール駆動の際に、トルク伝達セクション36、及びリアアクスル差動装置26の差動ケージ42が不必要に回転すること及び不必要にエネルギを消費することを防止するために、トルク伝達セクション36及び差動ケージを無効化するべくデバイスが設けられる。
【0106】
図5及び図6に示された実施例において、リアアクスル差動装置26の近傍にあるリアアクスル24のスプリットアクスル(split axle)に配されるドッグクラッチ46によって無効化デバイスが形成される。ドッグクラッチ46は、図1から図4に関して説明されたようなタイプのクラッチである。
【0107】
ドッグクラッチ46も制御ユニット34によって制御可能である。代替的に、ドッグクラッチ46は、マルチディスククラッチ33を制御する制御ユニット34から分離されかつCANバス等で制御ユニット34と接続されている別の制御ユニットによって制御されても良い。
【0108】
図7において、無効化デバイスの代替実施例が示されており、当該無効化デバイスは、制御ユニット34によって制御可能でありかつリアホイール28のハブ内に配されている2つのドッグクラッチを含む。
【0109】
図8において、本発明によるパワートレインの第3の実施例が示されている。当該パワートレインは、自動車の前部領域内に配された燃焼機関等の駆動ユニット12を含む。上述の実施例とは異なり、第3の実施例の駆動ユニット12は、自動車の前後軸に対して横方向に配向されておらず、当該前後軸と平行に配向されている。
【0110】
駆動ユニット12は、変速ギアボックス14を介してトランスファーケース50の入力シャフト48に接続されている。入力シャフト48に剛結合されたトランスファーケース50の主出力シャフト52は、リアアクスル差動装置26を介して自動車のリアアクスル24に常時接続されている。従って、上述された実施例と異なり、第3の実施例においては、リアアクスル24に取り付けられたリアホイール28が常時駆動されるので、この場合はリアアクスル24が主アクスル20と称される。
【0111】
トランスファーケース50は、周知態様のマルチディスククラッチ54を含み、マルチディスククラッチ54の入力は、トランスファーケース50の入力シャフト48に回転固定に接続されており、マルチディスククラッチ54の出力は、チェーンドライブ56または互いに噛合しているギアを介してフロントアクスル16のフロントアクスル差動装置22に通じているトルク伝達セクション36の一端に接続されている。トルク伝達セクション36の他端においては、図6において示されているのと同様の態様で、クラウンホイールと係合されているベベルギアが設けられ、当該クラウンホイールは、フロントアクスル差動装置22の差動ケージに固定的に接続されている。
【0112】
トランスファーケース50のマルチディスククラッチ54は、制御ユニット34に接続されている。需要に応じて、駆動ユニット12によって提供される駆動トルクの一部が、マルチディスククラッチ54の対応する制御によって、トルク伝達セクション36及びフロントアクスル16を介してフロントホイール18に伝達され得る。従って。この場合、フロントアクスル16は、二次アクスル30に相当する。
【0113】
走行中に、マルチディスククラッチ54が開状態の場合、すなわち純粋なリアホイール駆動の際に、トルク伝達セクション36、及びトランスファーケースのチェーンドライブ56またはギアドライブが不必要に駆動及び動作することを防止するために、図8に示された第3の実施例においても、トルク伝達セクション36の無効化デバイスが提供される。
【0114】
図8に示された無効化デバイスは、図5に示された無効化デバイスと同様の態様で形成され、ドッグクラッチを含み、当該ドッグクラッチは、制御ユニット34によって制御されるかまたは制御ユニット34から分離されて制御ユニット34にCANバス等で接続された制御ユニットによって制御され、フロントアクスル差動装置の領域内のフロントアクスル16のスプリットアクスル内に配される。
【0115】
図8内に示された第3の実施例においては、代替の無効化デバイスも考えられ得、当該代替の無効化デバイスは、フロントホイール18のハブ内に収容されかつ制御ユニット34によってかまたは別個の制御ユニットによって制御可能なドッグクラッチによって、図7に示された実施例と同様の態様で形成され得る。
【0116】
上述の3つのパワートレインの動作は、主アクスル20の常時駆動に加えて、需要に応じて、すなわち主アクスル20のホイールにおけるホールスリップ等の所与の走行状態の下で、駆動ユニット12の駆動トルクが、制御ユニット34の制御に基づいて自動的に二次アクスル30に伝達されて二次アクスル30のホイールに伝達される方式で行われる。この場合、駆動トルクの二次アクスル30に伝達される部分は、トルク分配デバイス32内に含まれるマルチディスククラッチ33かまたはトランスファーケース50のマルチディスククラッチ54の対応する係合を介して可変に設定されることが可能であるので、走行状態に対応させることが可能である。二次アクスル30の需要に応じた自動的な係合の故に、本明細書において、この駆動方式を自動四輪駆動方式と称する。
【0117】
当該自動四輪駆動方式に加えて、自動車は、主アクスル20のみを駆動させる常時二輪駆動方式及び/または主アクスル20及び二次アクスル30の両方を常時駆動させる常時四輪駆動方式を追加的に有し得、当該常時四輪作動方式において、主アクスル20及び二次アクスル30への固定的に設定された駆動トルクの伝達が考えられ得るかまたは走行状態に対して可変に調節可能な態様で適合させられる伝達が考えられ得る。
【0118】
自動四輪駆動方式において、駆動トルクが需要に応じて二次アクスル30に可能な限り迅速に伝達されることが可能であるための条件は、ドッグクラッチ46が可能な限り迅速に閉じられることである。特に、トルク伝達セクション36が無効化された状態からの場合、トルク伝達セクション36の動作と二次アクスル30の動作との同期化が要求される。
【0119】
この場合、同期化の継続期間は、二次アクスル30の速度とトルク伝達セクション36の速度の相違、すなわちトルク伝達セクション36が完全に無効化されている場合は、最終的に自動車の速度に依存する。
【0120】
第2アクスル30の係合を可能限り迅速に達成するために、本発明よって、主アクスル20のホイールに対するホイールスリップの監視が行われる。このために、制御ユニット34は、対応するホイールスリップ検出器に接続される。例えば、ホイールスリップ検出器は、主アクスル20のホイールの速度及び二次アクスル30のホイールの速度を監視する回転速度センサ(図示せず)であり得る。
【0121】
主アクスル20のホイールの平均速度(図9の線A)が、二次アクスルのホイールの平均速度(図9の線B)を所与量(操舵角に任意に依存する)だけ越えるとすぐに、制御ユニット34は、主アクスル20でホイールスリップが起きており、四輪駆動の必要性があると仮定する。
【0122】
従って、制御ユニット34は、時間t=0において二次アクスル30の係合を開始させ、その場合、制御ユニット34は、トルク伝達セクション36と二次アクスル30との同期化を命令する。
【0123】
当該同期化は、係合のために制御された態様で係合されるトランスファーケース50のマルチディスククラッチ54を使用してかまたはトルク分配デバイス32のマルチディスククラッチ33を使用して行われる。マルチディスククラッチ54は、実際にトルク伝達セクション36を始動させる前に、リリースクリアランスを通過するために約70ミリ秒から80ミリ秒必要である。
【0124】
トルク伝達セクション36の加速は、固定的に設定された速度勾配に従ってかまたは走行状態に適合した速度勾配に従って行われ得、例えば、参照テーブル(look-up table)から取得され得る速度勾配に従って行われる。
【0125】
図5、7及び8が示しているように、制御ユニット34は、トルク伝達セクション36の速度を監視するために回転速度センサ58に接続されている。回転速度センサ58は、制御ユニット34がトルク伝達セクション36の実際の加速度を測定して、当該加速度を所望の加速度すなわち所望の速度勾配と比較することを可能とする。代替的に、回転速度センサ58の信号は、速度調整のための実測値として使用され得る。換言すれば、マルチディスククラッチ54は、速度制御装置によって、当該速度の実測値が所望の値に近づくように動作させられる。
【0126】
制御ユニット54は、学習ルーチンを有していてもよく、当該学習ルーチンは、最初に設定された同期化トルクを状況に合わせて変化させて、耐用年数に亘って、当該マルチディスククラッチの精度を損ない得る許容範囲効果及び温度効果並びに許容範囲変化及び温度変化を補償する。
【0127】
さらに、当該学習ルーチンは、ドッグクラッチ46が非係合のときに、システムをキャリブレーション及び/またはチェックすべく使用され得る。低いトルク範囲及び低いトルク範囲におけるマルチディスククラッチの精度に対して、特に、検証及び/もしくはチェック並びに/または他の診断が行われ得る。例えば、トルク伝達セクション36の加速度が期待よりも速いかまたは遅い場合、マルチディスククラッチの係合状態に亘って伝達されるトルクが保存されている参照テーブルが状況に応じて変化させられ得る。
【0128】
約230ミリ秒後、トルク伝達セクション36の動きは、二次アクスル30の動きと同期化される。換言すれば、トルク伝達セクション36の速度が二次アクスル30の速度とほぼ一致するので、ドッグクラッチ46が係合可能である。制御ユニット34に接続されている回転速度センサ(図示せず)が設けられて、二次アクスルの速度が判定される。
【0129】
通常は、ドッグクラッチ46の閉動作は、トルク伝達セクション36の速度と二次アクスル30の速度との正確な一致を必要とせず、図9内の×印によって記された時間に相当する速度相違範囲内で係合可能である。
【0130】
ドッグクラッチ46の係合が一定の遅延をもって行われることを考慮すると、ドッグクラッチ46の閉動作は、トルク伝達セクション36の速度が二次アクスル30の速度に達する前の時間において前もって命令されることが可能である。ドッグクラッチ46の正確な起動時間は、トルク伝達セクション36の加速、すなわち設定された所望の速度勾配または回転速度センサ58を使用したトルク伝達セクション36の監視によって測定された速度の正確な速度勾配から容易に判定され得る。
【0131】
さらに、同期化ブロッキング装置(blocking synchronization apparatus)が設けられ得、当該同期化ブロッキング装置が、二次アクスルの速度とトルク伝達セクション36の速度との間の相違が大きすぎる間はドッグクラッチ46の閉動作を防止する。速度相違が許容範囲内に達するとすぐに、当該同期化ブロッキング装置は、ドッグクラッチ46の自動的な係合を許容する。
【0132】
ドッグクラッチ46の閉動作、特にドッグクラッチ46に付随するセレクタスリーブの動作を容易にするために、ドッグクラッチ46の係合中にマルチディスククラッチ54によって提供されるトルク(図9の曲線D)が、ドッグクラッチ46が閉じた後に、最終的に二次アクスル30に伝達されるべき値に一時的に減少及び増加させられる。
【0133】
トルク伝達セクション36の同期化のためにマルチディスククラッチ54を使用することによって、トルク伝達セクション36と二次アクスル30との同期化を非常に短時間に行うことが可能である。
【0134】
その結果、上述の方策は、トルク伝達セクション36の無効化状態からの二次アクスルの係合を短時間、例えば200ミリ秒から300ミリ秒内で行うことを可能とする。
【0135】
トルク伝達セクション36の加速のためのトルクが駆動ユニット12から分配されることで主アクスル20から分配される故に、トルク伝達セクション36の同期化は、トラクションコントロールに加えて、主アクスル20におけるホイールスリップの減少にさらに貢献し、それによって、主アクスル20におけるホイールスリップが低い値に維持され得る。
【0136】
二次アクスル30の係合が行われた後、パワートレインは、制御ユニット34によって四輪駆動方式で動作させられ、一定の時間間隔で、四輪駆動方式がまだ必要であるかのチェックが行われる。もはや必要で無い場合、二輪駆動へ戻すスイッチングが行われ、ドッグクラッチ46とマルチディスククラッチ33または54とが、再度互いに解放される。
【0137】
図10から図13において、本発明によるパワートレインのさらなる実施例が示され、当該実施例において、トルク伝達セクション36は、各々の場合に上述した態様で無効化または係合させられ得る。
【0138】
図10は、図5に示された実施例と異なる第4の実施例を示しており、ドッグクラッチ46が主アクスル20に、実際にはフロントアクスル差動装置22とトルク分配デバイス32との間に配されており、マルチディスククラッチ33が二次アクスル30すなわちリアアクスル24に配されている点で異なっている。さらに正確には、当該マルチディスククラッチは、トルク伝達セクション36のベベルギア38と係合しているクラウンホイール40とリアアクスル差動装置26の差動ケージ42との間に接続されている。この実施例において、ドッグクラッチ46の係合は、トルク伝達セクション36の動作と主アクスル20の動作との同期化を必要とし、当該同期化は、例えば、二次アクスル30におけるマルチディスククラッチ33の少なくとも部分的な閉動作によって達成させられ得る。
【0139】
図11は、第5の実施例を示しており、当該第5の実施例は、リアアクスル24すなわち二次アクスル30に設けられたマルチディスククラッチ33が、リア軸差動装置26のサイドギア60とリアアクスル24のスプリットアクスル44との間に接続されている点のみが図10に示された第4の実施例と異なっている。
【0140】
図12は、第6の実施例を示しており、当該第6の実施例は、リアアクスル差動装置26は設けられていないが、クラウンホイール40とリアアクスル24の一方のスプリットアクスル44との間に接続されているマルチディスククラッチ33に加えて、追加のマルチディスククラッチ33′がクラウンホイール40と他方のスプリットアクスル44′との間に接続されている。従って、リアアクスル差動装置26は、この実施例において、2つのマルチディスククラッチ33、33′の組み合わせによって置き換えられ、マルチディスククラッチ33、33′の各々は、制御ユニット34によって別々に制御可能である。
【0141】
さらに、第7の実施例が図13に示されており、当該第7の実施例は、ドッグクラッチ46が一体化された同期化デバイスとともに設けられている点で図11に示された第5の実施例と異なるのみである。従ってこの場合、トルク伝達セクション36の動きと主アクスル20の動きとの同期化は、マルチディスククラッチ33の代わりにまたはそれに加えて、ドッグクラッチ46の同期化デバイスによっても行われ得る。
【0142】
第7の実施例によるパワートレインのトルク分配デバイス32内に一体化されたドッグクラッチの詳細は、図14に示されている。ドッグクラッチ46は、第1のクラッチパーツ62を含み、第1のクラッチパーツ62は、フロントアクスル差動装置22の差動ケージに回転固定に接続され、図示されているフロントアクスル16のスプリットアクスルに対して回転自在に支持(journal)されている。同様に図示されているフロントアクスル16のスプリットアクスルに対して回転自在に支持されているドッグクラッチ46の第2のクラッチパーツ64は、トルク伝達セクション36のベベルギア68と係合しているクラウンホイール66に回転固定に接続されている。
【0143】
ドッグクラッチ46の係合は、第2のクラッチパーツ64に回転固定に支持されかつ軸方向に移動可能に支持されているクラッチリング70によって行われる。クラッチリング70は、クラッチリング70が第2のクラッチパーツ64のみに係合する第1の位置(図14A)とクラッチリング70が第2のクラッチパーツ64及び第1のクラッチパーツ62の両方と係合して第1のクラッチパーツ62から第2のクラッチパーツ64にトルクを伝達する第2の位置(図14C)との間を軸方向に移動可能である。
【0144】
クラッチリング70の軸方向移動のために、制御ユニット34によって制御されるモータによって移動可能であるシフトフォーク72が設けられる。
【0145】
トルク伝達セクション36が無効化されると、第2のクラッチパーツ64及びそれに従ってクラッチリング70も固定される。
【0146】
クラッチリング70が、第1のクラッチパーツ62と係合され得るので、一定の速度同一性が、クラッチリング70すなわち第2のクラッチパーツ64と第1のクラッチパーツ62との間に必要とされる。クラッチリング70が第1のクラッチパーツ62の方向に移動させられるとすぐに動作状態になる同期化装置は、クラッチリング70の速度と第1のクラッチパーツ62の速度との同期化のためにクラッチ46内に一体化される。
【0147】
当該同期化装置は、複数の同期化フープ(hoop)74を含み、同期化フープ74は、アクスル16及び20の周囲に各々配され、第1のクラッチパーツ62及びクラッチリング70のセクションを覆うように各々突出している。同期化フープ74は、クラッチリング70に回転固定に接続され、結果として第2のクラッチパーツ64と同一の速度で回転する。
【0148】
同期化フープ74の各々は、第1のクラッチパーツ62に面している端部領域の内側に摩擦表面76を有する。対応して、摩擦表面78が、第1のクラッチパーツ62の同期化フープ74に突出しているセクションの外側に形成される。
【0149】
クラッチリング70は、その外側にガイド80を有し、ばねリング82がガイド80内に支持されかつ軸方向の移動に対して固定されている。ばねリング82は、同期化フープ74に対して内方から押圧している。換言すれば、ばねリング82は、半径方向外方への同期化フープ74に対する力を及ぼしている。
【0150】
クラッチリング70上に突出している同期化フープ74の各々のセクション84は、傾斜する態様で形成されて、クラッチリング70が第1のクラッチパーツ62に移動させられてクラッチ46が係合させられるときに、ばねリング82がその復元力に対向して半径方向内方に圧縮される。
【0151】
ばねリング82によって同期化フープ74に与えられる力は、同期化フープ74の摩擦表面76を第1のクラッチパーツの摩擦表面78に対して押圧するという作用を有する。この場合、摩擦表面76、78が互いに対して押圧する力は、ばねリング82が圧縮される力よりも大きい。
【0152】
クラッチ46の非係合状態において(図14A)、ばねリング82によって同期化フープ74に与えられる力は、摩擦表面がちょうど接触しないほどに小さく、摩擦表面76、78は、クラッチリング70が第1のクラッチパーツと係合状態になる僅かに前に(図14B)、所望の加速度で第2のクラッチパーツ64を第1のクラッチパーツ62の速度まで加速するのに十分な力で互いに押し付けられる。
【0153】
図14からわかるように、クラッチ46の同期化装置は、ブロッキング要素無しに形成されている。このことは、第1のクラッチパーツ62と第2のクラッチパーツ64との間で速度同一性が達成させられていない場合でも、すなわちクラッチパーツ62、64の間に特定の速度相違が存在し続けている場合でも、クラッチ46が係合されることを許容する。
【0154】
ここで、図9のパワートレインの二次アクスル30の係合が、図15を参照してトルク伝達セクション36の無効化状態から説明される。
【0155】
主アクスル20のホイールの平均速度(図15の直線A)が二次アクスル30のホイールの平均速度(図15の直線B)を所定量(操舵角に任意に依存する)だけ上回るとすぐに、制御ユニット34は、主アクスル20においてホイールスリップが存在し四輪駆動の需要があると推測する。
【0156】
従って、制御ユニット34は、時間t=0において二次アクスル30の係合を開始させる。ここで、制御ユニット34は、最初に、トルク伝達セクション36を二次アクスル30に同期化させることを命令する。
【0157】
同期化は、トルク分配デバイス32のドッグクラッチを使用して行われ、ここで、クラッチリング70が第1のクラッチパーツ62の方向に移動させられて摩擦表面76、78が互いに制御された態様で押圧される。約30ms後、設定された同期化トルクが第1のクラッチパーツ62から同期化フープ74を介して第2のクラッチパーツ64に伝達され(図15の曲線E)それによって、トルク伝達セクション36の速度が増大させられる(図15の曲線C)。当該設定された同期化トルクは、本実施例において100Nmであり、トルク伝達セクション36の速度が主アクスル20の速度に少なくともほぼ達するまでの間維持される。
【0158】
主アクスル20とトルク伝達セクション36との間の速度相違が、本質的に自動車の乗員には感知できないドッグクラッチ46の閉動作を許容する所与の限界値以下まで下がるとすぐに、クラッチリング70のさらなる移動によって第2のクラッチパーツ64が第1のクラッチパーツ62と係合させられる、すなわちドッグクラッチ46が完全に係合させられる。本発明において、これは、ホイールスリップの検出後約210msで行われる。
【0159】
トルク伝達セクション36(図1の曲線C)が主アクスル20の速度(図15の曲線A)に達する(図15によれば約210ms)前であっても、本実施例においては約190msにおいてマルチディスククラッチ33の係合が開始される。二次アクスル30の速度(図15の曲線B)がトルク伝達セクション36の速度よりも大きい限り、マルチディスククラッチ33の係合がトルク伝達セクション36に制動をかけることは全くない、すなわち、マルチディスククラッチ33の迅速な係合のために、リリースクリアランスが既に通過されてマルチディスククラッチ33のディスクが互いに最小限の接触をさせられている(「キスポイント(kiss point)」と称される)。
【0160】
トルク伝達セクション36が、二次アクスル30の速度に達している場合、マルチディスククラッチ33は、トルク伝達セクション36のさらなる加速または同期化をキスポイントの制御によって明らかに無効化可能である。このことは、二次アクスル30の迅速な係合を全体として実現するために容認される。上述されたドッグクラッチ46の同期化装置がブロッキングデバイス無しに形成されるので、ドッグクラッチ46は、速度の相違にかかわらず接続すなわち閉じられることが可能である。
【0161】
結果として、二次アクスル30の迅速な係合は、この態様で、主アクスル20のホイールスリップの検出から250msで達成され、二次アクスル30へ伝達される駆動トルクは、この時間の間に図15の曲線Fに従って発生する。
【符号の説明】
【0162】
12 駆動シャフト
14 変速ギアボックス
16 フロントアクスル
18 フロントホイール
20 主アクスル
22 フロントアクスル差動装置
24 リアアクスル
26 リアアクスル差動装置
28 リアホイール
30 二次アクスル
32 トルク分配デバイス
33 マルチディスククラッチ
34 制御ユニット
36 トルク伝達セクション
38 ベベルギア
40 クラウンギア
42 差動ケージ
44 スプリットアクスル
46 ドッグクラッチ
48 入力シャフト
50 トランスファーケース
52 主出力シャフト
54 マルチディスククラッチ
56 チェーンドライブ
58 回転速度センサ
60 サイドギア
62 クラッチパーツ
64 クラッチパーツ
66 クラウンホイール
68 ベベルギア
70 クラッチリング
72 移動フォーク
74 同期化フープ
76 摩擦表面
78 摩擦表面
80 ガイド
82 ばねリング
84 セクション
110 セレクタスリーブ
112 移動フォーク
114 移動部材
116 差動シャフト
118 ハウジング
120 ウォーム
122 ウォームホイール
124 位置センサ
126 圧縮コイルばね
128 第1の端面
130 第2の端面
132 作動傾斜
134 緩勾配傾斜セクション
136 回転方向
138 急勾配傾斜セクション
140 作動ピン
142 ラッチ凹部
208 スプリットシャフト
210 セレクタスリーブ
212 端部セクション
213 リング溝
214 移動部材
218 ハウジングセクション
226 圧縮コイルばね
228 第1の端面
230 第2の端面
232 作動傾斜
234 緩勾配傾斜セクション
236 回転方向
238 急勾配傾斜セクション
244 隆起したラッチ部
246 ウォームホイール
248 ウォーム
250 端面
252 反作用傾斜
254 緩勾配傾斜セクション
256 急勾配傾斜セクション
258 ラッチ凹部
260 作動突起
262 傾斜領域
264 傾斜領域
266 傾斜領域
268 移動フォーク
312 移動フォーク
313 シャフトセクション
314 移動部材
318 ハウジング
319 第1の壁セクション
326 圧縮コイルばね
327 第2の壁セクション
360 電気モータ
362 スピンドル
364 スピンドルナット
366 ガイドバー
368 ガイド開口部
370 ドライバフィンガ
372 ドライバ開口部
374 ドライバ突起部
376 周辺表面
378 トリガピン
380 トリガアーム
382 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクの伝達のために適合態様で係合させられ得る2つのクラッチパーツと、
前記クラッチパーツを係合から解放するために第1の方向に移動可能でありかつ前記クラッチパーツを係合させるために第2の方向に移動可能である移動部材(114;214;314)と、を有し、
前記移動部材(114;214;314)の前記第1の方向への移動のためにモータ(360)が設けられ、前記移動部材(114;214;314)の前記第2の方向への移動のためにばね要素(126;226;326)が設けられていることを特徴とするクラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチであって、前記移動部材(114;214;314)の前記第1の方向への移動が前記ばね要素(126;226;326)に応力を加えることを特徴とするクラッチ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクラッチであって、前記ばね要素(126;226)のトリガが、以前に前記ばね要素(126;226)に応力を加えた回転方向と同一の回転方向の前記モータの駆動によって行われることを特徴とするクラッチ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1に記載のクラッチであって、前記モータと前記移動部材(114;214)との間に設けられたギア機構が、少なくとも1つの作動傾斜(132;232)または少なくとも1つの作動突起(260)並びに少なくとも1つの反作用要素(140;252)を含み、前記少なくとも1つの反作用要素(140;252)は、前記作動傾斜(132;232)または前記作動突起(260)に対して移動可能でありかつ前記作動傾斜(132;232)または前記作動突起(260)と協働して、前記反作用要素の前記作動傾斜(132;232)上または前記作動突起(260)上での移動によって、前記移動部材(114;214)が前記第1の方向に前記ばね要素(126;226)の復元力に対向して移動、特に押し込まれることを特徴とするクラッチ。
【請求項5】
請求項4に記載のクラッチであって、前記作動傾斜(132;232)または前記作動突起(260)が、前記移動部材(114;214)に形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項6】
請求項4または5に記載のクラッチであって、前記移動部材(132)に反作用要素(140)に対するラッチ凹部(142)が設けられるかまたは前記反作用要素(252)に作動傾斜(252)もしくは作動突起(262)に対するラッチ凹部(258)が設けられていることを特徴とするクラッチ。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか1に記載のクラッチであって、前記反作用要素(140;252)が前記モータによって前記作動傾斜(132;232)に沿って移動可能であることを特徴とするクラッチ。
【請求項8】
請求項4乃至7のいずれか1に記載のクラッチであって、前記移動部材(114;214)がリング状またはスリーブ状に形成され、シャフト(116;208)を囲みかつ前記シャフトに対して移動可能であり、作動傾斜(132;232)または作動突起(260)が、特に、前記反作用要素(140;252)に面した前記移動部材(114;214)の端面(130;230)に形成されていることを特徴
【請求項9】
請求項4乃至8のいずれか1に記載のクラッチであって、前記ばね要素(126;226)が、前記移動部材(114;214)の端面であって前記作動傾斜(132;232)または前記作動突起(260)から離れた端面(128;228)と当接部との間に設けられていることを特徴とするクラッチ。
【請求項10】
請求項4乃至9のいずれか1に記載のクラッチであって、前記反作用要素が、前記モータによって回転自在な作動シャフト(116)から前記移動部材(114)に対して半径方向に突出したピン(240)を含むことを特徴とするクラッチ。
【請求項11】
請求項4乃至9のいずれか1に記載のクラッチであって、前記反作用要素が、反作用傾斜(252)を含み、前記反作用傾斜(252)は、前記移動部材(114)に面している端面に、前記シャフト(208)を囲む反作用ギアとして形成され、前記反作用傾斜(252)は、特に前記シャフトを囲みかつ好ましくは前記モータによって駆動されるウォーム(248)に係合されているウォームホイールであることを特徴とするクラッチ。
【請求項12】
請求項4乃至9のいずれか1または11に記載のクラッチであって、前記反作用要素が反作用傾斜(252)を含み、前記反作用傾斜は、上り勾配の第1の傾斜セクション(254)と、第2の傾斜セクション(256)と、を含み、前記第2の傾斜セクション(256)は、急勾配で降下するかまたは段階的に形成されて、特に、急勾配の第1領域(262)、緩勾配の第2領域(264)及び急勾配の第3領域(266)を含むことを特徴とするクラッチ。
【請求項13】
請求項12に記載のクラッチであって、前記第1の傾斜セクション(254)が緩勾配で、特に直線状に上っていることを特徴とするクラッチ。
【請求項14】
請求項12に記載のクラッチであって、前記第1の傾斜セクション(254)が、非直線状に上り、前記第1の傾斜セクション(254)の勾配が、好ましくは、前記反作用傾斜(252)の最高点に向かって減少していることを特徴とするクラッチ。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれか1に記載のクラッチであって、少なくとも2つの作動傾斜(232)または作動突起(260)と、少なくとも2つの反作用傾斜(252)と、が設けられることを特徴とするクラッチ。
【請求項16】
請求項11乃至15のいずれか1に記載のクラッチであって、前記反作用ギア(246)は、セレクタスリーブ(210)を囲み、前記セレクタスリーブ(210)は、前記シャフト上に取り付けられ、前記移動部材(214)に結合されて前記移動部材(214)によって前記シャフト(208)に対して移動可能であることを特徴とするクラッチ。
【請求項17】
請求項1または2に記載のクラッチであって、前記ばね要素(326)のトリガが、前動作において前記ばね要素(326)に応力を加えた回転方向に対して反転された回転方向の前記モータ(360)の動作によって生起することを特徴とするクラッチ。
【請求項18】
請求項17に記載のクラッチであって、返送機構が、前記モータ(360)と前記移動部材(314)との間に設けられ、ドライバデバイスを含み、前記ドライバデバイスは、前記移動部材(314)と係合されて前記移動部材(314)を前記ばね要素(326)の復元力に対向して前記第1の方向に引くことが可能であることを特徴とするクラッチ。
【請求項19】
請求項18に記載のクラッチであって、前記ドライバデバイスは、前記モータ(360)によって駆動させられるスピンドル(362)と前記スピンドル(362)に取り付けられたスピンドルナット(364)とを含み、前記スピンドルナット(364)にドライバフィンガ(370)が形成され、前記ドライバフィンガ(370)は、前記スピンドルナット(364)の一の方向の回転によって前記移動部材(314)の突起(374)と係合させられ得かつ前記スピンドルナット(364)の前記一の方向とは反対方向の回転によって前記突起(347)から解放され得ることを特徴とするクラッチ。
【請求項20】
請求項19に記載のクラッチであって、前記スピンドルナット(364)が前記突起(374)から前記ドライバフィンガ(370)を解放するために回転させられた際に、前記トリガ機構(378、380)が前記スピンドルナット(364)の軸方向移動を防止することを特徴とするクラッチ。
【請求項21】
請求項17乃至20のいずれか1に記載のクラッチであって、前記スピンドルナット(364)の回転を制限する回転制限デバイス(366、368)を有することを特徴とするクラッチ。
【請求項22】
請求項21に記載のクラッチであって、前記回転制限デバイスがバー(366)を含み、前記バー(366)は、前記スピンドル(362)と平行に伸長し、前記バーは、一方の端部領域で前記移動部材(314)に接続されかつ他方の端部領域で周辺方向において湾曲している前記スピンドルナット(362)のガイド開口部(368)に案内されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項23】
請求項1乃至22のいずれか1に記載のクラッチであって、前記移動部材(114;214;314)は、前記第1の方向に前記モータ(360)によってのみ移動させられ、前記第2の方向に前記ばね要素(126;226;326)によってのみ移動させられることを特徴とするクラッチ。
【請求項24】
常時駆動の主アクスル(20)を有する自動車のパワートレインであって、
駆動トルクの生成のための駆動ユニット(12)と、
前記駆動トルクの可変な部分を前記自動車の二次アクスル(30)へ伝達するための第1のクラッチ(33;54)と、
前記第1のクラッチが開状態の場合に、前記第1のクラッチ(33;54)と第2のクラッチ(46)との間に設けられた前記パワートレインのトルク伝達セクション(36)を無効化するための第2のクラッチ(46)と、
前記第1のクラッチ(33;54)の自動的な制御のための制御ユニット(34)であって、前記主アクスル(20)におけるホイールスリップの検出のための少なくとも1のセンサに接続されている制御ユニット(34)と、を含み、
前記第2のクラッチ(46)は、請求項1乃至23のいずれか1に記載のクラッチを含むことを特徴とするパワートレイン。
【請求項25】
請求項23に記載のパワートレインであって、前記制御ユニット(34)が、前記トルク伝達セクション(36)の無効化状態から、前記主アクスル(20)におけるホイールスリップの検出に応じて前記第2のクラッチ(46)を閉じるように構成されていることを特徴とするパワートレイン。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A−4F】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−107039(P2010−107039A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−236371(P2009−236371)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(507392853)マグナ パワートレイン アクツィエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (18)
【Fターム(参考)】