説明

クランクシャフトおよびその製造方法

【課題】クランクシャフトの製造において、フェライトの生成を極力抑制して窒化時の時効硬化を円滑に進行させる。
【解決手段】熱間鍛造後に冷却され、金属組織におけるベイナイトの面積率が70%以上であり、下記数1〜数3において、3.80<Kf、Hf<19.5、Hg>18.8を満たす。
[数1]
Kf=5[C%]−0.168[Si%]+1.8[Mn%]+0.4[Cr%]+2.5[Mo%]+1.5[V%]−1
[数2]
Hf=24.96×([C%]−(1/18)[Si%]+(1/12)[Mn%]+(1/6)[Cr%]+0.01+(1/7)[Mo%]+(4/5)[V%])
[数3]
Hg=32.16×([C%]+(3/13)[Si%]+(1/22)[Mn%]+(1/18)[Cr%]+(3/10)[Mo%]+(5/7)[V%])

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトおよびその製造方法に係り、特に、高疲労強度と機械加工性を両立させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のクランクシャフトは、高い耐摩耗性と疲労強度が要求される。クランクシャフトは通常、熱間鍛造で成形される。特許文献1,2には、熱間鍛造後に所定の冷却速度で冷却してベイナイト組織を生成した後、軟窒化処理をすることにより、上記のような要求を満足させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−146232号公報
【特許文献2】特開2008−223083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した先行技術では、溶体化処理後の熱間鍛造、冷却時に工程上の都合や形状などに起因する加工歪や冷却速度のばらつきにより、クランクシャフトの部位によってはフェライトが多く生成してしまうことがあった。フェライトが生成すると、その部位から外部へ拡散した炭素によって合金炭化物が析出してしまい、窒化時の熱による時効硬化が得られず、狙いの疲労強度を得ることができなくなるという問題がある。
【0005】
したがって、本発明は、フェライトの生成を極力抑制して窒化時の時効硬化を円滑に進行させることができ、高い耐摩耗性、疲労強度を得ることができるとともに、高い機械加工性を両立させたクランクシャフトおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、軟窒化処理前の熱間鍛造品のミクロ金属組織をベイナイト主体(70%以上)の組織とし、更に、この熱間鍛造品を550〜650℃の温度条件下で軟窒化することにより、疲労強度等の機械的性質を向上させることができることを見出した。
【0007】
また、本発明者等の検討によれば、C含有量を[C%]、Si含有量を[Si%]、Mn含有量を[Mn%]、Cr含有量を[Cr%]、Mo含有量を[Mo%]、V含有量を[V%]としたときに、Kf=5[C%]−0.168[Si%]+1.8[Mn%]+0.4[Cr%]+2.5[Mo%]+1.5[V%]−1で表されるKfは、ベイナイト生成安定化(フェライトが生成しない)の指標となることが判明している。図1は、Kf値の違う各種鋼材を1000℃以上の温度でクランクシャフトに鍛造して、0.25℃/秒の冷却速度(大気放冷でとりうる冷却速度のうち比較的遅い冷却速度)で冷却したときのKf値とベイナイトの面積率の関係を示すグラフである。図1から判るように、Kf値が3.80を超えるとベイナイトの面積率が70%以上(フェライトの面積率が30%以下)となる。したがって、Kfの値が3.80を超えると、大抵の冷却速度で熱間鍛造品のミクロ組織をベイナイト主体(面積率で70%以上)とすることができる。
【0008】
Mnは、焼入れ性が高いにもかかわらずMo、Vのように熱間鍛造成形性および機械加工性を大きく劣化させない元素である。本発明者等は、鋼材の化学成分中に、Mnを1.0質量%以上添加することにより、熱間鍛造成形性および機械加工性を工業的生産可能に維持したまま、熱間鍛造品のミクロ組織をベイナイト主体(70%以上)にすることができることを見出した。
【0009】
また、本発明者等は、Hf=24.96×([C%]−(1/18)[Si%]+(1/12)[Mn%]+(1/6)[Cr%]+0.01+(1/7)[Mo%]+(4/5)[V%])で表されるHfが熱間鍛造品硬度の指標であることに着目し、Hfの値を19.5未満にすることで、調質及び焼きならし等の熱処理が施されていない熱間鍛造品に対する切削等の機械加工が工業的に可能になることを見出した。
【0010】
さらに、本発明者等は、熱間鍛造品を機械加工した後、従来のクランクシャフト同様に軟窒化を施すことによって高強度化を計ることを検討したが、軟窒化処理と同時に時効硬化によって内部硬度を高め、更なる高強度化を計ることを検討した。そこで、本発明者等は、Hg=32.16×([C%]+(3/13)[Si%]+(1/22)[Mn%]+(1/18)[Cr%]+(3/10)[Mo%]+(5/7)[V%])で表されるHgが軟窒化後の内部硬度の指標となることに着目し、Hgの値を18.8を超えて設定することによって、従来のクランクシャフトより高い強度が得られることを見出した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づきなされたものである。すなわち、本発明のクランクシャフトは、熱間鍛造後に冷却され、金属組織におけるベイナイトの面積率が70%以上であり、質量比で、C:0.1%以上0.4%以下、Si:0.3%以上1.0%以下、Mn:1.0%以上2.4%以下、Cr:0.1%以上1.0%以下、Mo:0.1%以上1.0%以下、V:0.05%以上0.5%以下、S:0.01%以上0.10%以下、P:0.02%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、C含有量を[C%]、Si含有量を[Si%]、Mn含有量を[Mn%]、Cr含有量を[Cr%]、Mo含有量を[Mo%]、V含有量を[V%]としたときに、下記数1〜数3において、3.80<Kf、Hf<19.5、Hg>18.8を満たすことを特徴としている。
[数1]
Kf=5[C%]−0.168[Si%]+1.8[Mn%]+0.4[Cr%]+2.5[Mo%]+1.5[V%]−1
[数2]
Hf=24.96×([C%]−(1/18)[Si%]+(1/12)[Mn%]+(1/6)[Cr%]+0.01+(1/7)[Mo%]+(4/5)[V%])
[数3]
Hg=32.16×([C%]+(3/13)[Si%]+(1/22)[Mn%]+(1/18)[Cr%]+(3/10)[Mo%]+(5/7)[V%])
【0012】
また、本発明のクランクシャフトの製造方法は、質量比で、C:0.1%以上0.4%以下、Si:0.3%以上1.0%以下、Mn:1.0%以上2.4%以下、Cr:0.1%以上1.0%以下、Mo:0.1%以上1.0%以下、V:0.05%以上0.5%以下、S:0.01%以上0.10%以下、P:0.02%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、C含有量を[C%]、Si含有量を[Si%]、Mn含有量を[Mn%]、Cr含有量を[Cr%]、Mo含有量を[Mo%]、V含有量を[V%]としたときに、下記数1〜数3において、3.80<Kf、Hf<19.5、Hg>18.8を満たす鋼材を、1150℃以上で加熱した後、1000℃以上の熱間鍛造で成形し、その後0.25℃/秒〜1.5℃/秒の冷却速度で冷却して、ミクロ金属組織中のベイナイト組織の比率が70%以上の熱間鍛造品を得る工程と、前記熱間鍛造品を機械加工後、550〜650℃で30分以上軟窒化する工程とを有することを特徴としている。
[数1]
Kf=5[C%]−0.168[Si%]+1.8[Mn%]+0.4[Cr%]+2.5[Mo%]+1.5[V%]−1
[数2]
Hf=24.96×([C%]−(1/18)[Si%]+(1/12)[Mn%]+(1/6)[Cr%]+0.01+(1/7)[Mo%]+(4/5)[V%])
[数3]
Hg=32.16×([C%]+(3/13)[Si%]+(1/22)[Mn%]+(1/18)[Cr%]+(3/10)[Mo%]+(5/7)[V%])
【0013】
以下、本発明における数値限定の根拠を本発明の作用とともに説明する。なお、以下の説明において「%」は{質量%」を意味するものとする。
【0014】
C:0.1〜0.4%
Cは、強度を確保すると共に、軟窒化処理中に炭化物を析出して析出強化に寄与する元素である。しかしながら、C含有量が0.1%未満では、これらの効果が得られない。一方、C含有量が0.4%を超えると、熱間鍛造後硬度が過剰となり、機械加工性が劣化する。よって、Cの含有量は0.1〜0.4%とした。
【0015】
Si:0.10〜1.0%
Siは、鋼精錬時には脱酸剤として作用し、また、鋼材の焼入れ性向上にも寄与すると共に、焼戻し軟化抵抗を高めて軟窒化処理後の強度を向上させる効果がある。しかしながら、Si含有量が0.1%未満の場合、その効果が得られない。一方、Si含有量が1.0%を超えると、熱間鍛造品の機械加工性が劣化する。よって、Siの添加量は0.1〜1.0%とした。
【0016】
Mn:1.0〜2.4%
Mnは、鋼材の焼入れ性向上及び熱間鍛造品のミクロ金属組織のベイナイト化に寄与する元素である。しかしながら、Mn含有量が1.0質量%未満の場合、これらの効果が得られない。一方、Mn含有量が2.4%を超えると、熱間鍛造品の機械加工性が劣化する。よって、Mnの添加量は1.0〜2.4%とした。
【0017】
Cr:0.1〜1.0%
Crは、鋼材の焼入れ性向上及び窒化性を高めることで表面硬度を硬くし、疲労強度向上に寄与する元素である。しかしながら、Cr含有量が0.1%未満の場合、これらの効果が得られない。一方、Cr含有量が1.0%を超えると、熱間鍛造品の機械加工性が劣化する。よって、Crの添加量は0.1〜1.0%とした。
【0018】
Mo:0.1〜1.0%
Moは、鋼材の焼入れ性の向上及び熱間鍛造品のミクロ金属組織のベイナイト化に寄与するとともに、析出強化により軟窒化処理後の疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Mo含有量が0.1%未満の場合、これらの効果が得られない。一方、Mo含有量が1.0%を超えると、熱間鍛造成形性かつ熱間鍛造品の機械加工性が劣化する。よって、Moの添加量は0.1〜1.0%とした。
【0019】
V:0.05〜0.5%
VもMoと同様の効果を持つ元素である。0.05%未満では、これらの効果が得られない。一方、0.5%を超えると、熱間鍛造品の機械加工性が劣化する。よって、Vの添加量は0.05〜0.5%とした。
【0020】
S:0.01〜0.1%
Sは、鋼材中で硫化物を形成し、切削加工性を向上させる効果がある。しかしながら、S含有量が0.01%未満の場合、その効果が得られない。一方、S含有量が0.1%を超えると、疲労強度の向上を阻害する。よって、Sの含有量はS:0.01〜0.1%とした。
【0021】
P:0.02%以下
Pは鋼材中に含まれる不可避的不純物であり、P含有量が0.02%を超えると疲労強度が低下する。よって、Pの含有量は0.02%以下とした。
【0022】
Kf>3.80
クランクシャフトは質量の大きい部品であり、寸法や形状、部位によって熱間鍛造時に導入される加工歪量や冷却速度が異なるため、0.25〜1.5℃/secの広い冷却速度範囲でベイナイト組織が得られることが望ましい。クランクシャフトの熱間鍛造は、一般には1200℃程度の温度にて2%前後の歪量で行われる。このような条件において、[数1]で表されるKfが3.80を超える場合には、図2に示すように、フェライト率を30%以下にすることが可能である。よって、Kf>3.80とした。なお、図2における「歪量(%)」は、鍛造CAE解析により算出される。
【0023】
Hf<19.5
熱間鍛造品の硬度が硬くなりすぎないようにし、機械加工性を良好にするためには[数2]で表されるHfの値を制限する必要がある。ベイナイト主体の組織においては、Hfが19.5以上であると、合金元素の過剰添加となり、熱間鍛造品硬度が300Hv以上に高硬度化して機械加工性が著しく低下する。よって、Hf<19.5とした。
【0024】
Hg>18.8
軟窒化後の内部硬度を適度に増加させ、高疲労強度を得るためには、[数3]で表されるHgを所定以上確保する必要がある。ベイナイト主体の組織においては、Hgが18.8以下では軟窒化後の内部硬度が280Hv以下となり、十分な疲労強度が得られない。よって、Hg>18.8とした。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上記した成分の限定とKf、Hf、Hgの限定により、フェライトの生成を極力抑制して窒化時の時効硬化を円滑に進行させることができ、高い耐摩耗性、疲労強度とともに機械加工性を両立させることができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】Kfとベイナイト面積率との関係を示すグラフである。
【図2】熱間鍛造における歪量とフェライト面積率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例で作製した回転曲げ疲労試験片を示す側面図である。
【図4】フェライト面積率と疲労強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明においては、前記組成に加えてTi:0.01%以下、Ni:0.05〜1.5%、Cu:0.01〜0.5%、Al:0.003〜0.1%、N:0.002〜0.02%、Ca:0.001〜0.01%、B:0.001〜0.006%を含有することができる。以下、これら成分の限定の根拠を説明する。
【0028】
Ti:0.01%以下
Tiは、鋼材の焼入れ性の向上に寄与する元素である。しかしながら、鋼中への固溶が不安定な元素でもあるため、0.01%以上含有すると製造工程において溶体化時に完全固溶できないこともある。その場合、未固溶のTiCが旧γ粒径の微細化に寄与し、フェライト生成を助長してしまい、熱間鍛造品のミクロ金属組織の70%以上をベイナイト組織とすることが困難となる。したがって、Tiの添加量は0.01%以下とする。
したがって、Tiの添加量は0.01%以下とする。
【0029】
Ni:0.05〜1.5%
Niは、軟窒化処理後の鋼製軟窒化機械部品の強度を高める効果、及び不可避不純物であるCuにより生じる熱間圧延傷を防止する効果もある。しかしながら、Niの添加量が0.05%未満の場合、これらの効果が得られない。一方、Niの添加量が1.5%を超えると、熱間鍛造品の硬度が高くなりすぎて切削加工性が低下する。よって、Niの添加量は0.05〜1.5%とする。
【0030】
N:0.002〜0.010%
Nは、TiN、NbNおよびAlN等の窒化物を形成して結晶粒を微細化し、鋼材の衝撃特性を向上させる効果がある。しかしながら、Nの含有量が0.002%未満では充分な量の窒化物が生成せず、粗大粒が生成するために鋼材の衝撃特性が低下する。一方、Nの含有量が0.010%を超えると、軟窒化処理の際に炭化物の生成が阻害され、析出強化特性が低下する。よって、Nの含有量は0.002〜0.010%とする。
【0031】
Al:0.003〜0.1%
Alは表面硬さを増加するために添加することができる。ただし、添加量が0.003%未満ではそのような作用が不充分である。一方、Alの添加量が増加するに従って表面硬さが増加するが、軟窒化時における窒素の内部への拡散を阻害し硬化層深さを浅くするため、硬化層深さへの悪影響が小さく、表面硬さの増加のみにその作用が基体できる範囲としてAlの添加量の上限は0.1%とする。
【0032】
Ca:0.001〜0.005%
Caは機械加工における被削性を改善するために用いる元素であり、MnSやCa酸化物、Ca硫化物を素地に分散させることによって、被削性の改善を図る。Caの添加量が0.001未満では被削性改善の効果が充分でなく、0.005%上限値を超えると鋼の靭性低下を招く。よって、Caの添加量は0.001〜0.005%とする。
【0033】
B:0.0005〜0.002%
Bは、鋼材の焼入れ性の向上に寄与する元素である。しかしながら、Bの添加量が0.0005%未満の場合、そのような効果を充分に得ることはできない。一方、Bの添加量が0.003%を超えても上記効果のそれ以上の向上は望めない。よって、Bの含有量は0.0005〜0.002%とする。
【実施例】
【0034】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
表1に示す組成の鋼を真空溶解炉にて溶製した後、熱間圧延して直径が90mmの熱間圧延棒鋼を作製した。次に各熱間圧延棒鋼を1300℃で0.5時間溶体化後、1200℃で熱間鍛造により直径が45mmになるように加工し、0.5℃/秒で冷却した。なお、表1において本発明の範囲を逸脱する数値には下線を付してある。
【0035】
【表1】

【0036】
冷却後の熱間鍛造品についてミクロ組織観察を行い、組織中のベイナイトの面積率、及びビッカース硬さを測定した。ベイナイトの面積率の測定は直径が45mmの丸棒の中心付近から任意に選んだ20視野について、光顕により組織観察を行い、ベイナイトの面積率(%)を求めた。また、ビッカース硬さは、マイクロビッカース硬度計にて測定した。
【0037】
次に冷却後の熱間鍛造品を機械加工して、図3に示す形状の回転曲げ疲労試験片を作製し、この疲労試験片に対して、600℃で2時間の軟窒化処理を行った。その際の窒化雰囲気条件は、N2:49体積%,NH3:49体積%、CO2:2体積%の混合ガスとした。そして、軟窒化処理後の各試料について、回転曲げ疲労試験を実施し、1×107回で破断しない疲労限を疲労強度とし、また、ビッカース硬さで硬度プロファイルを測定した。以上の測定結果を表2に示す。なお、表2において「化合物層」とは窒化層である。また、表2において目標値を逸脱する数値には下線を付してある。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、発明鋼1〜7では熱間鍛造後硬さも300Hv以下と低く、組織、硬度、疲労強度ともに目標値を満足している。比較鋼8,9,11では、Mn量が本発明の範囲を下回るため、Kfが本発明の範囲より低く、ベイナイト率が70%以下である。したがって、軟窒化後内部硬度も目標値より低く、疲労強度も低い結果となった。また、比較鋼8においてMn量が低い分を焼入れ性を高めるMo,Vで補っても、Mn量が1.0質量%以下では、Kfが本発明の範囲を下回ることが分かる。
【0040】
比較鋼12では、C量が本発明の範囲を超えるため、Hfが本発明の範囲を超え、鍛造後硬度(加工性)が目標値を上回った。比較鋼10,13,14では、Mo,V量が本発明の範囲を超えるため、Hfが本発明の範囲を超え、鍛造後硬度(加工性)が目標値を上回った。比較鋼16では、Mn量が本発明の範囲を超えるため、鍛造後硬度が硬くなり、その後の機械加工性に悪影響を及ぼす結果となった。比較鋼15では、Mo量が本発明の範囲を下回る(含有しない)ため、Kfが本発明の範囲より低く、ベイナイト率が70%以下である。したがって、軟窒化後内部硬度も目標値より低く、強度も低い結果となった。比較鋼17では、Mo量およびV量が本発明の範囲を下回る(含有しない)ため、Hgが本発明の範囲を下回り、軟窒化後内部硬度も目標値より低く、疲労強度も低い結果となった。
【0041】
次に、表2に記載した発明鋼1,2に対して回転曲げ疲労試験を実施し、繰返し数と疲労強度(当該繰返し数で破断しない疲労限)を求めた。また、比較のために、フェライト面積率が40%、50%、60%、70%の比較鋼で同じ試験を実施し、疲労強度を求めた。その結果を図5に示す。図5に示すように、本発明では比較鋼に比べて非常に高い疲労強度を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のクランクシャフトおよびその製造方法では、高い耐摩耗性、引張強度および疲労強度を得ることができるとともに、機械加工性を向上させることができるので、自動車およびその他の内燃機関の分野に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間鍛造後に冷却され、金属組織におけるベイナイトの面積率が70%以上であり、質量比で、C:0.1%以上0.4%以下、Si:0.3%以上1.0%以下、Mn:1.0%以上2.4%以下、Cr:0.1%以上1.0%以下、Mo:0.1%以上1.0%以下、V:0.05%以上0.5%以下、S:0.01%以上0.10%以下、P:0.02%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、C含有量を[C%]、Si含有量を[Si%]、Mn含有量を[Mn%]、Cr含有量を[Cr%]、Mo含有量を[Mo%]、V含有量を[V%]としたときに、下記数1〜数3において、3.80<Kf、Hf<19.5、Hg>18.8を満たすことを特徴とするクランクシャフト。
[数1]
Kf=5[C%]−0.168[Si%]+1.8[Mn%]+0.4[Cr%]+2.5[Mo%]+1.5[V%]−1
[数2]
Hf=24.96×([C%]−(1/18)[Si%]+(1/12)[Mn%]+(1/6)[Cr%]+0.01+(1/7)[Mo%]+(4/5)[V%])
[数3]
Hg=32.16×([C%]+(3/13)[Si%]+(1/22)[Mn%]+(1/18)[Cr%]+(3/10)[Mo%]+(5/7)[V%])
【請求項2】
前記組成に加えてTi:0.01質量%以下、Ni:0.05〜1.5質量%、Cu:0.01〜0.5質量%、Al:0.003〜0.1質量%、N:0.002〜0.02質量%、Ca:0.001〜0.01質量%、B:0.001〜0.006質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフト。
【請求項3】
質量比で、C:0.1%以上0.4%以下、Si:0.3%以上1.0%以下、Mn:1.0%以上2.4%以下、Cr:0.1%以上1.0%以下、Mo:0.1%以上1.0%以下、V:0.05%以上0.5%以下、S:0.01%以上0.10%以下、P:0.02%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、C含有量を[C%]、Si含有量を[Si%]、Mn含有量を[Mn%]、Cr含有量を[Cr%]、Mo含有量を[Mo%]、V含有量を[V%]としたときに、下記数1〜数3において、3.80<Kf、Hf<19.5、Hg>18.8を満たす鋼材を、1150℃以上で加熱した後、1000℃以上で熱間鍛造で成形し、その後0.25℃/秒〜1.5℃/秒の冷却速度で冷却して、ミクロ金属組織中のベイナイト組織の比率が70%以上の熱間鍛造品を得る工程と、前記熱間鍛造品を機械加工後、550〜650℃で30分以上軟窒化する工程とを有することを特徴とするクランクシャフトの製造方法。
[数1]
Kf=5[C%]−0.168[Si%]+1.8[Mn%]+0.4[Cr%]+2.5[Mo%]+1.5[V%]−1
[数2]
Hf=24.96×([C%]−(1/18)[Si%]+(1/12)[Mn%]+(1/6)[Cr%]+0.01+(1/7)[Mo%]+(4/5)[V%])
[数3]
Hg=32.16×([C%]+(3/13)[Si%]+(1/22)[Mn%]+(1/18)[Cr%]+(3/10)[Mo%]+(5/7)[V%])


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−153364(P2011−153364A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16615(P2010−16615)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】