説明

グラフト装置および使用方法

本発明は、工業的もしくは医療的に適用可能なデバイスなどのデバイスを被覆する被覆装置および方法を提供する。上記装置は、光活性化可能な化合物および重合可能な化合物を用いて被覆を提供し得る。別の見地において上記装置および方法は、当該デバイスの表面が小さな空隙もしくは開孔を有するというデバイスを被覆するに有用である。上記装置は、被覆されるべき対象物と被覆溶液とを保持し得る各容器と、溶液に対して気体を供給する気体供給源と、被覆プロセスにおいて使用される光を提供する照射ステーションと、上記容器を上記照射ステーションに対し且つ該照射ステーションから導向するコンベア機構とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスの表面の被覆(coating)に関する。特に本発明は、工業的もしくは医療的に適用可能なデバイスなどのデバイスを被覆する装置およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスなどの多くのデバイスは、機能および幾何学形状に関して次第に複雑になりつつある。これらのデバイスは、当該デバイスに対して特定の化学的もしくは物理的な特性を提供するなどの様に所望の機能もしくは特徴を提供する被覆を要することが多い。しかし、浸漬被覆などの襲用の被覆方法は複雑な幾何学形状を被覆する上で不都合なことが多い、と言うのも、被覆溶液がデバイス構造内に捕捉され得るからである。この捕捉された溶液は被覆の網状化もしくは橋絡を引き起こし得ると共に、デバイスの機能を阻害し得る。これらのデバイスに対して被覆を適用するためには、噴霧被覆などの他の方法も使用されてきた。しかし現在における噴霧被覆方法は多くの場合に操作者の誤操作を伴い、被覆の一貫性が減少する結果にも繋がり得る。これに加えて襲用の被覆方法は一般に、高価な試薬を非効率的に使用することから、ユーザにとり不経済である。
【0003】
故にこの分野においては、改良された被覆方法および該方法を実施する装置が必要とされる。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、対象物を被覆する装置および方法を提供する。幾つかの実施形態において上記装置は、複数個の容器と、気体供給源と、照射ステーションと、コンベア機構とを備える。別の実施形態において本発明は、たとえば、対象物を容器内に載置する段階と、非ポリマ性のグラフト開始剤(grafting initiator)の第1溶液を上記容器に充填する段階と、上記容器を照射する段階と、上記容器から上記溶液を除去する段階と、重合可能なモノマもしくはマクロマの第2溶液を上記容器に充填する段階と、上記溶液を通して気体をバブリングさせる段階と、上記容器を照射する段階と、上記容器から上記対象物を取り出す段階とを備えて成る、対象物を被覆するプロセスを提供する。
【0005】
なお、図1乃至図6は、幾つかの実施形態に含まれ得る本発明の態様を示す役割を果たす。但し図1乃至図6は例示的にのみ提供されており、本発明の範囲を制限する役割を果たしてはいない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
一実施例において本発明は、光活性化可能な化合物(photoactivatable compound)および重合可能な化合物(polymerizable compound)によりデバイスを被覆する装置を提供する。“光活性化可能な化合物”としては、同一であるか異なる2個以上の光活性化可能な原子団(photoactivatable group)を有する化合物が挙げられる。光活性化可能な化合物はまた、“グラフト開始剤(grafting initiator)”とも称され得る。上記被覆装置は自動化され、半自動化され、もしくは手動的に操作され得ると共に、光活性化可能な化合物および重合可能な化合物を含む溶液を用いる被覆デバイスに対して安全で効率的な手法を提供し得る。
【0007】
一定の実施例において本発明の上記被覆装置は、紫外線などの電磁放射線を伴う可能的に有害な物質、または、神経毒性の重合可能モノマなどの毒性化合物に対する操作者の露出を減少し得る。
【0008】
一定の実施例において上記被覆装置は、被覆用試薬として使用される化合物もしくは溶液の無駄を少なくする特徴を含めることにより、被覆デバイスに対するコスト効率的な手法を提供し得る。斯かる特徴としては例えば、最適化された容器サイズおよび溶液リサイクル機構が挙げられる。
【0009】
一実施例において本発明は、光活性化可能な化合物および重合可能な化合物によりデバイスを被覆する方法に関する。この方法においては、被覆されるべきデバイスは容器内に載置される。上記容器は、少なくとも2個の光活性化可能な原子団を有する光活性化可能な化合物を含む溶液を収容し得るかまたは該溶液により充填され得る。上記デバイスおよび溶液が備えられた上記容器は、該容器内の上記光活性化可能な化合物に対して電磁放射線を提供する放射線源の近傍にもたらされる。上記電磁放射線によれば上記光活性化可能な化合物の少なくとも一個の光活性化可能な原子団が活性化され、該光活性化可能な化合物は上記デバイスの表面に対して結合し得る。“電磁放射線”としては、光活性化可能な化合物の光原子団(photogroup)を活性化し得る紫外光などの電磁波の形態で伝搬される任意の種類のエネルギが挙げられる。
【0010】
上記デバイスに対する上記光活性化可能な化合物の結合に続き、該光活性化可能な化合物からは一個以上の光活性化可能な原子団が未反応(pendent)のままであり、照射により引き続いて活性化され得る。上記デバイスの表面に対する上記光活性化可能な化合物の結合に続き、上記容器に対しては重合可能な化合物が加えられる。これに加え、上記容器に対しては不活性気体が供給され、上記重合可能な化合物を含む溶液から空気がパージされる。上記重合可能な化合物を含む上記溶液は次に、放射線源の近傍にもたらされる。上記放射線源は、上記デバイスの表面に対して電磁放射線を提供すると共に、結合された上記光活性化可能な化合物からの未反応の少なくとも一個の光活性化可能な原子団を活性化する。“未反応の(pendent)”または“潜在的な(latent)”という語句は、たとえば上記デバイスの表面に対して共有結合を形成すべく、または、上記重合可能な化合物の重合を開始するためのラジカルを提供すべく活性化され得る光活性化可能な原子団を指す。未反応の上記光活性化可能な原子団を活性化すると、結合された光活性化可能な物質の存在下で上記重合可能な化合物の重合が開始されることで、上記デバイスの表面上にポリマ被覆が形成される。
【0011】
本発明の実施例に包含され得る特徴を更に例証するために、上記被覆装置が先ず相当に詳細に記述され、選択的な個々の構成要素がそれに続く。
【0012】
A.被覆装置
多くの場合において、対象物を被覆する装置は、複数個の容器と、上記複数個の容器と連通された気体供給源と、上記各容器の照射のための少なくとも一台の照射ステーションと、上記各容器を上記照射ステーションに向けて且つ該ステーションから導向するコンベア機構とを含む。
【0013】
図1には本発明の一実施例が示されるが、他の実施例もまた本発明の範囲内であることは理解される。図1に例示された実施例において被覆装置10はハウジング12を含み、該ハウジング上にては複数個の容器14がコンベア軌道16に対して連結される。容器14はコンベア軌道16の経路に沿い進行することで、被覆装置10の頂部における任意の特定の領域に対して受け渡され得る。コンベア軌道16によれば容器14は、時計方向もしくは反時計方向のいずれかに進行し得る。コンベア機構17は、コンベア駆動シャフト30を介してコンベア・モータ28により、または他の適切なモータ機構により駆動され得る。コンベア機構17の動作は、コンピュータ式制御ユニット46により制御され得るか、手動的に制御され得る。
【0014】
一定の実施例において上記被覆装置は、該被覆装置上における例えば上記容器の位置などの対象物の位置を検知するセンサも含み得る。図1を再び参照すると、ハウジング12はコンベア軌道16に沿う容器14の位置を検出し得る一個以上のコンベア・センサ15も含み得る。次に、容器14の実施例とコンベア軌道16の一部とを相当に詳細に示す図3を参照すると、容器用プラットフォーム31は、コンベア・センサ15の近傍に来て該コンベア・センサ15を起動し得るコンベア・センサ起動子(conveyor sensor trip)33も有する。コンベア・センサ15の起動は、機械的手段または他の手段により行われ得る。コンベア・センサ15が起動されると、コンベア軌道16の移動を調節するためのメッセージが(不図示の)コンピュータ式制御ユニット46に対して送信され得る。
【0015】
本発明に依れば上記被覆装置は、上記複数個の容器に対して不活性気体を供給すべく機能する気体供給源も含む(すなわち、該気体供給源は各容器と気体連通する)。一実施例において上記気体供給源は、各容器が上記コンベア軌道に対して取付けられている間、および、各容器が上記コンベア軌道により移動されつつあるときにも、一個以上の容器に対して気体の供給源を提供すべく機能する。上記気体供給源は、各容器が上記コンベア機構上を進行している間に各容器に対して気体を連通させる回転可能部材を含み得る。
【0016】
例示的実施例を示す図2を参照すると気体供給源18は、気体タンク20と、気体圧力調整器22と、(不図示の)容器14に対して各々が気体連通する複数本の気体供給ライン24とを含み得る。上記気体供給ラインは、ゴム、プラスチック、金属またはそれらの組み合わせなどの任意の適切な材料から作成されたホース、パイプ、管材、または、ダクトなどの、気体を搬送し得る任意の適切なデバイスとされ得る。気体供給源18は、各容器14がコンベア軌道16により典型的には時計方向もしくは反時計方向に移動されるときに該容器14の移動と同時的に気体供給ライン24が進行するのを許容する回転式気体供給部材26を含み得る。回転式気体供給部材26によれば各気体供給ライン24は、容器14の移動と同時的に進行し得る。典型的に気体タンク20は、静止的であり且つ回転しない。但し他の実施例においては気体供給源18の一部が回転可能とされると共に、気体供給ライン24は容器14の移動と同時的に進行し得る。気体供給源18は、窒素、ヘリウムなどの不活性気体を容器14に対して提供し得る。
【0017】
本発明に依れば、上記被覆装置は少なくとも一台以上の照射ステーションも含む。該照射ステーションは概略的に、被覆されるべき対象物を含む上記容器に対して電磁エネルギを提供すべく機能する。上記電磁エネルギによれば、典型的には上記容器内の溶液内の光活性化可能な化合物であって被覆されるべき対象物を囲繞する光活性化可能な化合物の光活性化可能な原子団が活性化され得る。
【0018】
上記照射ステーションは、上記被覆装置上にて、容器が位置される箇所の近傍である任意の場所に位置決めされ得る。上記照射ステーションは、上記コンベア軌道の内側もしくは外側に、且つ、一定の実施例においては上記被覆装置の上記ハウジングの特性に依存して上記コンベア軌道の上方もしくは下方に載置され得る。
【0019】
一実施例においては図4に示された如く、照射ステーション32は、放射線放出器40と、放射線放出器用ライン42と、放射線電源44とを含み得る。放射線放出器40は、デバイスを被覆するプロセスに対して使用される光活性化可能な化合物を活性化するに十分な波長の電磁エネルギを放出する任意の適切な光源とされ得る。好適な光源は、光活性化可能な化合物の光活性化可能な原子団を活性化する波長にて紫外光を放出する。波長範囲は、260〜400nmとされ得る。照射ステーション32はまた、容器14に対して特定形式の光を送給すべく機能する一個以上の帯域幅フィルタもしくは偏光フィルタも含み得る。
【0020】
一実施例において、放射線放出器40は光ファイバの一端であり、且つ、放射線放出器用ライン42は放射線電源44から放射線放出器40まで光を伝達し得る光ファイバである。別実施例において放射線放出器40は紫外光を放出する電球(bulb)であり、且つ、放射線放出器用ライン42は放射線電源44から放射線放出器40まで電流を伝えるワイヤである。照射ステーション32は、一個以上の放射線放出器40と、協働する放出器用ライン42とを含み得る。
【0021】
照射ステーション32は、任意の所望の様式でデバイスに対して光を提供し得る。たとえばデバイスは、所定の期間に亙り且つ所望の光強度にて照射され得る。照射ステーション32の機能はまた、各容器14がコンベア機構17により移動されるときに該容器14の移動と連携調整され得る。たとえば放射線放出器40は、容器14が照射ステーション32の近傍に在るときにデバイスに対して紫外光を提供すべく起動され得る。照射ステーション32の動作は、(図1に示された)コンピュータ式制御ユニット46により制御され得るか、または、手動的に制御され得る。
【0022】
B.容器
容器14は典型的には、該容器14の移動を引き起こすベルト、レール、ワイヤまたはチェーンの特徴を含み得るコンベア軌道16に対して取付けられる。図3に示された如き一実施例において容器14は、コンベア軌道16に取付けられた容器用プラットフォーム31の頂部上に取付けられ得る。上記容器用プラットフォームは、コンベア軌道16の移動を停止すべく(図1に示された)コンベア・センサ15をトリガし得るコンベア・センサ起動子33を含み得る。コンベア・センサ15は、コンベア軌道16の移動を停止すべく、(図1に示された)ハウジング12上にてコンベア・センサ起動子33の経路における任意の箇所に位置決めされ得る。
【0023】
一定の実施例において上記被覆装置の容器は、上記気体供給源から該容器への気体の流れを調整すべく機能するバルブもしくはスィッチも含み得る。他の実施例において上記容器は、たとえば被覆プロセスにおいて使用される溶液などの液体の流れを調整すべく機能するバルブまたはスィッチを含む。一定の実施例において上記バルブおよびスィッチは、容器へのおよび容器からの液体および溶液の両方の流れを調整する上で有用である。
【0024】
これらの実施例の幾つかは、容器14へのおよび該容器からの気体もしくは液体の流れを調整すべく操作され得るバルブ・スィッチ36を有する容器用バルブ34に取付けられた容器14を示す図3に関して例示される。容器用バルブ34は、気体供給ライン24に取付けられた少なくとも一個の容器用気体供給ポート38を含む。別実施例において容器用バルブ34は、少なくとも一個の容器用液体供給ポート39も含み得る。液体供給ポート39は、容器14に対してまたは該容器から溶液を導向し得るホースもしくは管材に対して取付けられ得る。
【0025】
一実施例においてバルブ・スィッチ36は、気体供給源18からの気体流に対して容器14の開閉を許容すべく調節され得る。気体は、容器14の底部から供給され得る。別実施例においてバルブ・スィッチ36は、容器が気体および液体流の両方に対して閉成され、気体流に対してのみ開成され、液体流に対してのみ開成され、または、気体および液体流の両方に対して開成される如く調節され得る。バルブ・スィッチ36の動作は、(図1に示された)コンピュータ式制御ユニット46により制御され得るか、または手動的に制御され得る。たとえばバルブ・スィッチ36は、容器14がコンベア機構17に沿い進行して一定位置に到達したときに自動的に起動され得る。自動化された起動によれば、被覆装置10の動作の間における任意の時点にて、容器14へのおよび該容器からの気体および溶液の流れが調整され得る。
【0026】
容器14は、放射線放出器40から該容器14内のデバイスに対して例えば紫外線などの光を透過する任意の適切な材料から作成され得る。適切な材料としては、ガラス、Pyrex(登録商標)材料などが挙げられる。概略的に容器14は、引抜き可能な水素イオンを有さない化合物で作成され、または、引抜き可能な水素イオンを備えた化合物を低率で含む化合物から作成される。一実施例において容器14は例えば、02865-4615、ロードアイランド州のリンカーン(Lincoln, RI 02865-4615)におけるポッパー・アンド・サンズ社(Popper and Sons, Inc.)または07417、ニュージャージー州のフランクリン・レークス(Franklin Lakes, NJ 07417)のベクトン・ディキンソン社(Becton Dickinson)から市販されているガラスシリンジ(glass syringe)とされ得るか、その派生物とされ得る。本発明の好適な特徴は、ガラスシリンジは種々のサイズで市販されていると共に、容器用バルブ34から容易に取り外し可能なことである。これによりユーザに対しては、被覆されるべきデバイスを収容する容器サイズを変更するコスト効率的な手法が提供される。適切な容器サイズによれば、被覆プロセスの間においてデバイスを囲繞すべく使用される光活性化可能な化合物もしくは重合可能な化合物のいずれかを含む溶液の量も減少される。
【0027】
別実施例において容器14は、容器蓋部48も含み得る。容器蓋部48は、内圧が所定レベルに到達したときに容器14の内側から気体の離脱を許容すべく調節され得る蓋部用バルブ50を含み得る。容器蓋部48は容器14に対して例えばヒンジにより取付けられることで、容器14に対する容易なアクセスを許容し得る。
【0028】
C.照射ステーション
先に示された如く、上記被覆装置上にて、容器が位置される箇所の近傍である任意の場所には一台以上の照射ステーションが位置され得る。一実施例において上記照射ステーションは遮蔽部材を含むと共に、該遮蔽部材は、放射線からユーザを保護すべく、もしくは、該遮蔽部材内で反射される放射線を増強すべく、または両方を行うべく機能する。別実施例において上記遮蔽部材は移動可能である。概略的に上記遮蔽部材は上記照射ステーション上で移動されることで、容器14の少なくとも一部を包囲し得る。
【0029】
また上記照射ステーションのひとつ以上の部分は、電磁放射線を放出すべく機能し得る。一実施例において上記照射ステーションの放射線放出器部分は、放射線遮蔽材(radiation shield)に対して取付けられて該放射線遮蔽材と共に移動可能である。別実施例において上記照射ステーションの上記放射線放出器部分は、放射線遮蔽材に対して取付けられない。概略的に上記放射線放出器は、上記照射ステーション上の任意の場所であって容器14に対して所望の量の電磁エネルギを提供するに十分な任意の場所に位置決めされ得る。
【0030】
図4に示された実施例を参照すると照射ステーション32は、一本以上の遮蔽材昇降ポスト54に接続された移動可能な放射線遮蔽材52と、昇降用ハウジング(lift housing)56とを含む。放射線遮蔽材52の断面は、容器14を包囲して示される。放射線遮蔽材52はたとえば円筒形状とされ得るが、その場合に放射線遮蔽材52の底部は開放されて容器14の内部載置が許容される。上記放射線遮蔽材の他の形状も企図され;斯かる形状の遮蔽材としては、上記照射ステーション上で揺動移動しくは反転移動され得るカップもしくは半カップ形状の遮蔽材が挙げられる。放射線遮蔽材52はまた、該放射線遮蔽材52内へと光を導向すべく載置された放射線放出器40に対して接続され得る。任意の所望の箇所もしくは角度にて、放射線遮蔽材52に対しては一個以上の放射線放出器40が接続され得る。一定の実施例において、放射線放出器40からの光ファイバが放射線遮蔽材52の内側上に分布され得る。放射線放出器用ライン42は、上記放射線遮蔽材の上下移動を許容するに十分な長さである。
【0031】
放射線遮蔽材52は、単一本もしくは複数本の遮蔽材昇降ポスト54上で垂直に移動し得る。単一本もしくは複数本の遮蔽材昇降ポスト54は、放射線遮蔽材52の上下移動を案内する。昇降用ハウジング56は典型的には、放射線遮蔽材52の移動を引き起こすモータもしくは空気シリンダなどの適切なデバイスを含む。下降位置において放射線遮蔽材52は容器14を包囲すると共に、該容器14に対しては光が提供され得る。上昇位置において容器14は、コンベア軌道16を介して照射ステーション32から離間移動し得る。
【0032】
放射線遮蔽材52は、任意の適切な材料から作製され得る。適切な材料としては、アルミニウムまたは鋼鉄の如き金属などの、紫外光を透過しない材料が挙げられる。斯かる材料の例は、反射性アルミニウムである。また放射線遮蔽材52の内側部もまた例えば被覆もしくは研磨により調製されることで、紫外線に対して高度に反射的な内側部が提供され得る。高度に反射的な内側部は、光活性化可能な化合物および重合可能な化合物の高度に均一な被覆を達成する上で有用であり得ると共に、デバイスを照射する段階の間における光放射の持続時間および強度も減少させ得る。放射線遮蔽材52はまた、照射の段階の間においてユーザに浴びせられる放射線の量を最小化もしくは排除することにより、ユーザに対して高レベルの安全性も提供する。
【0033】
照射ステーション32の動作は自動化され得るか手動的に制御され得ると共に、コンベア軌道16の動作と連携調整され得る。たとえばコンベア軌道16は、放射線遮蔽材52が上昇位置に在るときに、該コンベア軌道16を介して容器14を照射ステーション32の近傍へともたらし得る。容器14が放射線遮蔽材52の下側に適切に載置されたとき、昇降用ハウジング56のモータもしくは空気シリンダが起動されることで、放射線遮蔽材52は単一本もしくは複数本の遮蔽材昇降ポスト54に沿い下降されることで容器14を囲繞し得る。
【0034】
照射ステーション32は、上昇位置および下降位置の夫々における放射線遮蔽材52の箇所を決定する上側センサ55および下側センサ57を含み得る。たとえば上側センサ55および下側センサ57に対しては、近接センサ(proximity sensor)が使用され得る。照射ステーション32の近傍に容器14が位置されるに先立ち、放射線遮蔽材52は典型的に上昇位置に在る。容器14が適切に位置決めされたとき(すなわち上記コンベア用起動子(conveyor trip)によりコンベア・センサがトリガされ且つ上記コンベア軌道の移動が停止されたとき)、放射線遮蔽材52は下側センサ57がトリガされる箇所まで下降される。下側センサ57がトリガされると同時に照射用電源44が起動されることで、放射線遮蔽材52内における容器14に対して光もしくはエネルギが提供され得る。所定量の光が容器14に対して送給された後で放射線遮蔽材52は、照射ステーション32上のレベルであって、上側センサ55が起動され且つ容器14は該放射線遮蔽材52の下方を自由に通過するというレベルまで上昇され得る。
【0035】
D.溶液保守ステーション
本発明の一実施例において上記被覆装置は、一個以上の容器に対して溶液を提供し又は一個以上の容器から溶液を除去する溶液保守ステーションも含み得る。該溶液保守ステーションは概略的に、被覆プロセスに関与する一種類以上の溶液を提供もしくは除去すべく機能する。上記溶液保守ステーションは、上記被覆装置上にて、容器が位置される箇所の近傍である任意の場所に位置決めされ得る。上記溶液保守ステーションは概略的に、容器と、被覆プロセスに関与する溶液を収容する一個以上のリザーバとの間の流体接続を確立すべく機能する。
【0036】
一実施例において上記溶液保守ステーションは、容器に対する液体もしくは気体の流入および流出を調整し得る複数のバルブもしくはスィッチを含む該容器の部分間の流体接続を確立する。たとえば上記溶液保守ステーションの一部分は、容器に対する流体接続であって該容器の下部(すなわち底部)に対して溶液の提供、除去もしくは両方を許容するという流体接続を確立し得る。別実施例において上記溶液保守ステーションは、容器の頂部に対して溶液を提供し得る。
【0037】
これらの実施例の幾つかは図5に示されるが、この図は、溶液保守ステーション60が、一連のラインを介して容器14に対し溶液を供給しまたは該容器から溶液を引出し得るポンプ63を有するハウジング62を含むことを示している。容器14に対する且つ該容器からの溶液の移動は容器用液体供給ライン66を容器ポート・アダプタ68を介して容器用液体供給ポート39に取付けることで達成され得るが、これらの全ては流体接続される。容器14が溶液保守ステーション60に隣接して適切に位置決めされたとき、移動可能な供給ライン挿入機構70は容器ポート・アダプタ68を容器用液体供給ポート39に対して接続し得る。容器14のバルブ・スィッチ36は手動的にもしくは自動的に起動されることで、容器14から容器用液体供給ライン66に対する、または、容器用液体供給ライン66から容器14に対する溶液の流れが許容され得る。
【0038】
容器用液体供給ライン66は、一本以上のリザーバ・ラインと流体接続された溶液保守ステーション用バルブ64と流体接続される。図5に示された如き一実施例において溶液保守ステーション用バルブ64は、第1リザーバ72、第2リザーバ78および第3リザーバ82に対して夫々流体接続された第1リザーバ・ライン74、第2リザーバ・ライン76および第3リザーバ・ライン80と流体接続される。光活性化可能な化合物を含む溶液、重合可能な化合物を含む溶液、または、洗浄溶液は、上記リザーバの内の任意のリザーバ内に配設され得る。溶液保守ステーション用バルブ64は手動的にまたは自動的に起動されることで、液体供給ライン66と、第1リザーバ・ライン74、第2リザーバ・ライン76または第3リザーバ・ライン80のいずれかとの間へと液体流を導向し得る。選択的に溶液保守ステーション用バルブ64は、容器14から引出された流体の廃棄のための位置へと起動され得る。
【0039】
溶液保守ステーション60の動作は自動化され得るかもしくは手動的に制御され得ると共に、コンベア軌道16および(不図示の)気体供給源18の動作と連携調整され得る。たとえばコンベア軌道16は、容器ポート・アダプタ68を縮動位置とした溶液保守ステーション60の近傍へと容器14を搬送し得る。容器14が溶液保守ステーション60に隣接して適切に載置されたとき、供給ライン挿入機構70は容器ポート・アダプタ68を移動して容器用液体供給ポート39内へと挿入し得る。溶液保守ステーション60はたとえば光学センサなどのセンサを含むことで、該溶液保守ステーション60に関する容器14の適切な位置を検出し得る。
【0040】
容器ポート・アダプタ68が容器用液体供給ポート39内へと適切に嵌合され且つバルブ・スィッチ36および溶液保守ステーション用バルブ64が起動されて容器に対する溶液の流入および流出が許容されたとき、ポンプ63が操作されることで、上記各リザーバの内の任意のリザーバから容器14内へと流体が引出される。ポンプ63は、所定量の液体を所望の速度で容器14内に送給すべく操作され得る。もし容器14が(図1に示された)被覆装置10上のたとえば照射ステーション32などの他の箇所へと搬送されるべきであれば、ポンプ63は停止されると共にバルブ・スィッチ36および溶液保守ステーション用バルブ64は閉成されることで、容器からの流体の喪失が防止される。移動可能な供給ライン挿入機構70は、容器用液体供給ポート39から容器ポート・アダプタ68を接続解除して該アダプタを縮動させ得る。容器14は、コンベア軌道16を介して溶液保守ステーション60から離間移動され得る。
【0041】
容器14からの流体の除去は、ポンプ63を逆転モードで動作させて液体を溶液のリサイクルのためにリザーバ内へ又は廃棄吐出口へと吸引することで達成され得る。
【0042】
図6に示された別実施例において溶液保守ステーション60は、頂部供与形態(top-dispensing configuration)で描かれている。容器14のバルブ・スィッチ36が溶液流に対して閉じられたとき、ポンプ63は、任意のリザーバから溶液保守ステーション用バルブ64および容器用液体供給ライン66を介して容器14内へと流体の引出しを許容し得る。溶液保守ステーション用バルブ64は、第1リザーバ72、第2リザーバ78および第3リザーバ82に対して夫々流体接続された第1リザーバ・ライン74、第2リザーバ・ライン76および第3リザーバ・ライン80と流体接続される。光活性化可能な化合物を含む溶液、重合可能な化合物を含む溶液、または、洗浄溶液は、任意のリザーバ内に配設され得る。溶液保守ステーション用バルブ64は手動的にもしくは自動的に起動されることで、液体供給ライン66と、第1リザーバ・ライン74、第2リザーバ・ライン76または第3リザーバ・ライン80のいずれかとの間へと液体流を導向し得る。容器14からの液体の除去は、バルブ・スィッチ36を起動して容器14から廃棄ユニット内への溶液の流れを許容することで達成され得る。
【0043】
E.自動化された制御ユニット
図1を参照すると被覆装置10はまたコンピュータ式制御ユニット46を含むことで、コンベア軌道16、気体供給源18、照射ステーション32、および一定の実施例においては(図5および図6に示された)溶液保守ステーション60の動作に対する自動システムを提供する。コンピュータ式制御ユニット46は、たとえば:時計方向および反時計方向におけるコンベア軌道16の速度、移動および位置決め;気体流の圧力および持続時間、および、気体の流量などの、気体供給源18からの気体の流れ;図4に関しては、照射ステーション32の放射線遮蔽材52の移動、および、放射線電源44の動作による光の放出;且つ、図5に関しては、溶液保守ステーション60のポンプ63を介した容器14に対する及び該容器からの流体の流れ;などの、被覆装置10の各部の動作を調整して連携させ得る。上記コンピュータ式制御ユニットは、コンベア・センサ15から、及び、図4に関しては照射ステーション32の上側センサ55および下側センサ57からの信号を受信して統合し得る。
【0044】
別実施例において上記被覆装置は、たとえば手作業により容器に溶液を充填し且つ容器から溶液を除去することにより、手動的に操作され得る。
【0045】
F.動作の各モード
本発明に依れば、被覆されるべきデバイスは容器14内に載置される。容器14内へのデバイスの載置は、手動的に、または、自動システムまたはロボット・システムにより実施され得る。上記容器内に載置されるデバイスは、本発明において利用される光活性化可能な化合物および重合可能な化合物により被覆されるに適した任意のデバイスとされ得る。斯かるデバイスとしては、身体内でまたは身体上で使用され得るデバイスが挙げられる。長期使用もしくは短期使用のために身体内に永続的に植設される医療デバイスは、適切なデバイスのひとつの包括的な種類である。
【0046】
長期用デバイスとしては、限定的なものとしてで無く、グラフト、ステント、ステント/グラフト組み合わせ、バルブ、心臓補助デバイス、シャントおよび吻合デバイス;中心静脈アクセス用カテーテルなどのカテーテル;関節インプラント、骨折修復デバイスおよび人工腱などの整形外科用デバイス、ならびに、歯科用インプラントおよび歯科用欠損修復デバイス;眼内レンズ;縫合糸およびパッチなどの外科的デバイス;人工プロテーゼ;および、人工の肺、腎臓および心臓用デバイスなどの人工器官;が挙げられる。
【0047】
短期用デバイスとしては、限定的なものとしてで無く、末梢保護デバイスなどの血管用デバイス;急性および慢性の血液透析用カテーテル、冷却/加熱用カテーテル、および、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)用カテーテルなどのカテーテル;コンタクト・レンズおよび緑内障用排液シャントなどの眼科用デバイス;が挙げられる。
【0048】
他の生医学的デバイスもまた、本発明の装置および方法を用いて全体的にもしくは部分的に被覆され得る。これらの他の生医学的デバイスとしては、限定的なものとしてで無く、遺伝子チップ、DNAチップ・アレイ、マイクロアレイ、蛋白質チップ、および、蛍光in situハイブリッド形成法(FISH)用スライドなどの診断用スライド;cDNAアレイおよびオリゴヌクレオチド・アレイなどのアレイ;血液のサンプリングおよび試験用の構成要素;機能化されたミクロスフェア;たとえば透析または血液用の酸素供給機器において使用される管材およびメンブレン;および、血液バッグ、メンブレン、細胞培養デバイス、クロマトグラフ用担体材料、バイオセンサなどが挙げられる。
【0049】
本発明の上記装置および該装置を用いる方法は、たとえば、その開示内容は言及したことにより本明細書中に援用されるという米国特許第6,245,089号に記述された形式の(塞栓捕捉デバイスとも称される)末梢保護デバイスなどのデバイスを被覆するのに特に適している。
【0050】
本発明の上記装置および方法により被覆されるべきデバイスは、光活性化可能な化合物と適切に反応し得る任意の材料で作成され得る。適切なデバイス表面を提供すべく使用される材料の例としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ(アルキル)メタクリレートおよびポリ(アルキル)アクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ塩化ビニルなどの塩素含有ポリマ、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリビニリデン・ジフルオライド(PVDF)、フェノール、アミノ−エポキシ樹脂、ポリエステル、シリコーン、ポリエチレン・テレフタレート(PET)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ-(p-フェニレン・テレフタルアミド)、ポリホスファゼン、ポリプロピレン、パリレン、シラン、および、シリコーン・エラストマ、ならびに、それらのコポリマおよび組み合わせ、ならびに、セルロース系プラスチックおよびゴム状プラスチックが挙げられる。概略的には、その開示内容は言及したことにより本明細書中に援用されるという1990年のジョン・ワイリー・アンド・サンズ社によるクロシュビッツ編、ポリマの科学および工学のコンサイス百科事典の第462〜464頁における“プラスチック”("Plastics," pp. 462-464, in Concise Encyclopedia of Polymer Science and Engineering, Kroschwitz, ed., John Wiley and Sons, 1990)を参照されたい。
【0051】
パリレン(parylene)とは独特のポリマ(ポリ−p−キシリレン)系列の成分に対する包括的名称であり、その幾つかは(ユニオン・カーバイド社[Union Carbide]から例えば“パリレンC”、“パリレンD”および“パリレンN”の形態で)市販されている。たとえば“パリレンC”は、置換塩素原子を含むポリ−パラ−キシリレンであると共に、医療デバイスの表面上に防湿層を生成すべく使用され得る。パリレンCは、それを気体状の重合可能モノマとして低圧の真空環境へと投入することにより被覆され得る。上記モノマは室温にて縮合かつ重合し、医療デバイスの表面上にマトリクスを形成する。被覆の厚みは、不活性で非反応的な障壁層を提供すべく、圧力、温度、および、使用されるモノマもしくはマクロマの量により制御される。これに加え、本発明の方法に従う被覆に対しては、熱分解炭素、およびガラス、セラミクスまたは金属のシリル化表面から形成された如き材料が適切である。
【0052】
本発明の上記方法に依れば、デバイスは光活性化可能な化合物を含む溶液が充填された容器14内に載置され得るか、または、該溶液はデバイスが容器14内に載置された後に加えられ得る。一実施例においてデバイスは容器14内に載置されてから、容器14は光活性化可能な化合物を含む溶液により充填される。代替実施例において上記溶液は、デバイスを覆うに十分な量にて手動的に容器14の頂部へと供与され得る。
【0053】
別実施例において容器14はコンベア軌道16を介して図5に示された如く溶液保守ステーション60の近傍にもたらされ、光活性化可能な化合物を含む溶液により充填される。コンベア軌道16の移動に続いて容器14は、(図3に示された)コンベア・センサ起動子33が(図1に示された)コンベア・センサ15を起動してコンベア軌道16の移動を停止するという箇所にて、溶液保守ステーション60に隣接して適切に位置決めされ得る。容器14が溶液保守ステーション60に隣接して適切に載置されたとき、供給ライン挿入機構70は移動して容器ポート・アダプタ68を容器用液体供給ポート39に挿入し得る。次に容器ポート・アダプタ68は容器用液体供給ポート39内に適切に嵌合すると共に、バルブ・スィッチ36が起動されて容器14内への流体進入が許容される。溶液保守ステーション用バルブ64は、第1リザーバ・ライン74および第1リザーバ72からの光活性化可能な化合物を含む溶液の入力を許容すべく起動される。次にポンプ63が作動され、光活性化可能な化合物を含む溶液は第1リザーバ72から最終的には容器14内へと引出され得る。ポンプ63は、概略的には上記デバイスを覆うに十分な量にて、光活性化可能な化合物を含む溶液の選択量を容器14内へと送給すべく作用し得る。
【0054】
適切な重合可能モノマもしくはマクロマ試薬は、たとえば、その開示内容は言及したことにより本明細書中に援用されると共に“水溶性の被覆剤を担持する開始剤群および被覆プロセス(Water-Soluble Coating Agents Bearing Initiator Groups And Coating Process)”と称されたPCT/US99/21247号に記述されている。斯かる重合可能モノマとしては、負に帯電し、正に帯電し又は電気的に中性の親水性モノマが挙げられる。電気的に中性である親水性構造単位を含む適切なモノマの例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミドが挙げられる(たとえば、N,N-ジメチルアクリルアミドもしくはメタクリルアミド、N-ビニルピロリジノン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートもしくはメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート、および、グリセロールモノアクリレート)。適切なpHレベルにて負に帯電される適切なモノマ的な重合可能分子の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、AMPS(アクリルアミドメチルプロパン・スルホン酸)、ビニル・リン酸、ビニル安息香酸などが挙げられる。適切なpHレベルにて正に帯電される適切なモノマ的分子の例としては、3-アミノプロピルメタクリルアミド(APMA)、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレートなどが挙げられる。
【0055】
代替実施例において本発明の重合可能な化合物は、マクロマ的な重合可能分子を含む。適切なマクロマは、上記された如きモノマから合成され得る。本発明に依れば、マクロマの重合可能な官能要素(たとえばビニル基)は、ランダムなもしくは非ランダムな構造様式にてポリマ鎖の末端にて又はポリマ鎖に沿う一箇所以上に配置され得る。
【0056】
分子当たりのフリーラジカル重合可能原子団の個数は用途に依り変更され得る。たとえば、まさに1個のフリーラジカル重合可能単位を備えたマクロマを採用することが好適であり得る。但し他の場合には、マクロマ当たりで例えば2個以上の様に1個より多い重合可能単位を備えたマクロマを採用することが好適であり得る。付加的に、本発明のマクロマは、(たとえば親水性のポリ(エチレングリコール)材料などの)小寸の分子構造においては典型的に利用できない様式で、水に対する優れた親和力を提供する構造的特徴を含み得る。
【0057】
適切なマクロマ的で重合可能な化合物の例としては、メタクリレート誘導体、モノアクリレート誘導体およびアクリルアミド誘導体が挙げられる。特に好適なマクロマ的で重合可能な化合物としては、ポリ(エチレングリコール)モノメチルアクリレート、メトキシポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)モノアクリレート、モノメチルアクリルアミドポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリルアミド-co-3-メタクリルアミドプロピルアクリルアミド)、ポリ(ビニルアルコール)モノメタクリレート、ポリ(ビニルアルコール)モノアクリレート、ポリ(ビニアルコール)ジメタクリレートなどが挙げられる。
【0058】
斯かるマクロマはたとえば、先ず所望の分子量の親水性ポリマを合成し、次にポリマ改質段階が行われて所望レベルの重合可能な(たとえばビニルなどの)官能単位を導入することで調製され得る。たとえば、アクリルアミドが特定量の3-アミノプロピルメタクリルアミド・コモノマと共重合され得ると共に、結果的なコポリマは次にメタクリル無水物との反応により改質されてメタクリルアミド官能単位が導入されることで、本発明の目的に有用なマクロマが生成され得る。
【0059】
所望の分子量のポリ(エチレングリコール)は合成されるか販売元から購入されると共に(たとえばメタクリル塩化物もしくはメタクリル無水物などとの反応により)改質されることで末端のメタクリレートエステル単位が導入されることから、本発明のプロセスにおいて有用なマクロマが生成され得る。一定の用途ではポリマ鎖の末端もしくはその近傍に配置された重合可能単位を備えたマクロマの使用が有用であり得るが、他の用途では親水性ポリマ鎖の骨格に沿い重合可能単位を配置することが有用であり得る。
【0060】
斯かるモノマ的およびマクロマ的な重合可能分子は、単独で、または、たとえば、マクロマと他のマクロマとの組み合わせ、モノマと他のモノマとの組み合わせ、もしくは、水に対する所望の親和力を備えたポリマ生成物を提供し得る一種類以上の小分子モノマとマクロマとの組み合わせなどの様に相互に組み合わせて使用され得る。更に、上記の重合可能な化合物は両性化合物(たとえば両性イオン)の形態で提供されることで、正電荷および負電荷の両方を提供し得る。
【0061】
上記光活性化可能な化合物は、照射ステーション32により提供される照射により活性化され得る少なくとも一個の第1の光活性化可能な原子団であってデバイスの表面と共有結合を形成する少なくとも一個の第1の光活性化可能な原子団を有する。上記光活性化可能な化合物はまた、重合可能な化合物の重合を開始すべく活性化され得る少なくとも一個の第2の光活性化可能な原子団も有する。該第2の光活性化可能な原子団もまた、上記照射ステーションにより提供される照射により活性化され得る。活性化されることにより、例えばデバイスの表面と共有結合を形成し又は重合可能な化合物の重合を開始するラジカルを提供し得るという光活性化可能な原子団はまた、“未反応の”もしくは“潜在反応的な”基とも称され得る。これはまた、既に活性化された光活性化可能な原子団であるが、基底状態に戻ることで引き続いて活性化され得る光活性化可能な原子団も包含する。
【0062】
本明細書中に記述された上記装置および化合物を用いるひとつの方法に依れば、光活性化可能な化合物に対してデバイスの存在下で照射を行うと同時に、上記第1の光活性化可能な原子団はデバイス表面に対して共有結合し得ると共に、上記表面に対する上記第1の光活性化可能な原子団の結合時に上記第2の光活性化可能な原子団は、i)スペーサもしくはデバイス表面とのいずれかとの反応が制限され、ii)非活性化状態へと復帰可能であり、且つ、iii)その非活性化状態へと復帰した後、重合可能な化合物の重合を後時に開始すべく再活性化されることで上記表面上にポリマを形成し得る。
【0063】
上記第1および第2の光活性化可能な原子団は同一もしくは異なる種類とされ得ると共に、両者間の相違は各条件および使用時点に基づいて決定され得る。概略的に上記第1の光活性化可能な原子団は、光活性化可能な化合物の一個以上の光活性化可能な原子団であってデバイスの表面に結合された一個以上の光活性化可能な原子団として(当初より存在する原子団の中から)定義される。このことは、上記の第2の光活性化可能な原子団を、結合された光活性化可能な化合物の一個以上の光活性化可能な原子団であってデバイスの表面に共有結合的に結合されないことから活性化可能形態に復帰するという一個以上の光活性化可能な原子団として(すなわち未反応のもしくは潜在反応的と)定義する役割を果たす。本発明に依れば、上記第2の光活性化可能な原子団は重合反応に対する光開始剤の役割を果たす上で特に適していることが見出された。理論に拘泥されることを意図しなければ、グラフト(grafting)において使用される斯かる光活性化可能な化合物の有用性は、極性溶媒における溶解性を欠く光活性化可能な化合物によっても改良されると思われる。本発明のこの種類の光活性化可能な化合物もしくはグラフト開始剤は、テトラキス(4-ベンゾイルベンジルエーテル)、ペンタエリトリトールのテトラキス(4-ベンゾイルベンゾエートエステル)、および、テトラフェニルメタンのアシル化誘導体から成る群から選択され得る。
【0064】
上記装置はまた、負帯電した原子団を備える一個以上の置換基と、2個以上の光活性化可能な種とが直接的もしくは間接的に結合された非ポリマ性の核分子を備える光活性化可能な化合物であって上記光活性化可能な種は個別の光活性化可能な原子団として提供されるという光活性化可能な化合物も利用可能である。上記の光活性化可能な種は、上記光活性化可能な化合物を表面に対して結合させ得る一個以上の第1の光活性化可能な原子団と、上記重合可能な化合物の光重合を開始させ得る一個以上の第2の光活性化可能な原子団とを備える。この種類の適切な試薬は、たとえば、その開示内容は言及したことにより本明細書中に援用されると共に“表面被覆物質(Surface Coating Agents)”と称された米国特許第6,278,018号に記述される。
【0065】
上記光活性化可能な化合物は、負電荷の原子団を有する一個以上の置換基が直接的もしくは間接的に結合した共役環状ジケトンであってジケトンの各ケトン基は遊離基を提供するために活性化され得る光活性化可能な部分の役割を果たし得るという共役環状ジケトンを含み得る。該共役環状ジケトンは、置換および非置換のベンゾキノン、カンファキノン、ナフトキノンおよびアントラキノンから選択されたキノンとされ得る。
【0066】
斯かる光活性化可能な化合物は、負電荷の原子団を有する一個以上の置換基と、2個以上の光活性化可能な原子団とが直接的もしくは間接的に結合した非ポリマ性の核分子を含み得る。斯かる光活性化可能な化合物は、4,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1,3-二スルフォン酸二カリウム塩、2,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1,4-二スルフォン酸二カリウム塩、2,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1-スルフォン酸一(もしくは二)ナトリウム塩、ヒドロキノン一スルホン酸誘導体、アントラキノンスルホン酸塩、および、カンファキノン誘導体の群から選択され得る。最適には上記光活性化可能な化合物は、4,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1,3-二スルフォン酸二カリウム塩、2,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1,4-二スルフォン酸二カリウム塩、および、2,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1-スルフォン酸一(もしくは二)ナトリウム塩から選択される。
【0067】
この種類の光活性化可能な化合物は4,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1,3-二スルフォン酸二カリウム塩および2,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1,4-二スルフォン酸二カリウム塩の群から選択され得る。
【0068】
本発明の上記光活性化可能な化合物は、以下の一般式の開始剤(initiator)の形態で提供され得る:
X−Y−X
式中、各Xは独立的に光活性化可能な原子団であり、且つ、Yは一個以上の帯電原子団を有する光活性化可能な化合物の一部である。斯かる開始剤はたとえば、その開示内容は言及したことにより本明細書中に援用される米国特許第5,714,360号に記述される。
【0069】
この種類の開始剤は、一個以上の帯電原子団と、選択的には、上記実験式において“Y”と特定されたラジカルに含まれる一個以上の付加的である光活性化可能な原子団とを含む。“帯電”原子団とは、この意味において使用されたとき、イオン形態で存在する原子団、すなわち、(たとえばpHなどの)使用条件下で電荷を担持する原子団を指す。帯電原子団は部分的に、上記化合物に対して所望の水溶性を提供すべく存在する。
【0070】
好適にはY原子団は非ポリマ性であり、すなわち、それはモノマもしくはマクロマの任意の組合せの重合により形成されてはいない。非ポリマ性の物質が好適である、と言うのも、斯かる物質は低い分子量を有する傾向があり、このことは、光活性化可能な原子団を単位質量当たりで高比率にて有すべく斯かる物質が概略的に調製され得ることを意味するからである。一方、斯かる物質は概略的に、同等の光活性化可能なポリマ性物質よりも高い被覆密度にて光活性化可能な原子団を提供し得る。
【0071】
上記光活性化可能な化合物の帯電原子団の種類および個数は、(室温かつ最適なpHにて)少なくとも約0.1mg/ml、0.5mg/mlまたは5mg/mlまでの水溶性を上記物質に提供するに十分である。表面被覆プロセスの性質が与えられたなら、目標分子の有用な被覆を表面上に提供するためには、光活性化可能な化合物が少なくとも約0.1mg/mlの溶解度を有することが概略的に適切である。
【0072】
適切な帯電原子団の例としては、限定的なものとしてで無く、(スルホネート基、ホスホネート基、およびカルボキシレート基などの)有機酸の塩、(第四アンモニウム基、スルホニウム基およびホスホニウム基などの)オニウム化合物、および、プロトン付加されたアミン、ならびに、それらの組み合わせが挙げられる。第四アンモニウム化合物以外の帯電原子団を採用している物質の例は、その開示内容は言及したことにより本明細書中に援用される米国特許第5,714,360号の表Iの式Xにおいて与えられる。上記に提供された実験式を参照すると、式XにおけるR3は第三アミン基を提供すべく孤立電子対であり、且つ、R2は式-CH2-CH2-SO3Naを有するラジカルにおける帯電スルホネート基を含むことが理解され得る。上記化合物を水溶性とするに十分な全体的電荷は、離間したスルホネート基の負電荷により提供される。
【0073】
本発明の化合物を調製するために使用される適切な帯電原子団は、第四アンモニウム基である。本明細書中で使用される“第四アンモニウム”という語句はNH4+の有機誘導体であり、その場合に水素原子は各々が遊離基により置換されることで、当該遊離基上に正味の正電荷を与える。残りの対イオンは、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンもしくは硫酸イオンなどの任意の適切な陰イオン種により提供され得る。
【0074】
実施例においては、上記光活性化可能な化合物の中央のY部分に結合したX原子団により2個以上の光活性化可能な原子団が提供される。適切な光源に対する露出時に、光活性化可能な原子団の各々は活性化される。本明細書中で使用される“光活性化可能な原子団”という語句は、活性種を生成するために付与された外部の紫外もしくは可視の光源に応答し、(引抜き可能な水素を介して)近傍の化学構造に対する共有結合に帰着するという化学基を指す。
【0075】
この種類の容認可能な試薬は、夫々が上記の'360号特許の化合物II〜Xに対応するエチレンビス(4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)ジブロマイド(Diphoto-Diquat);ヘキサメチレンビス(4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)ジブロマイド(Diphoto-Diquat);1,4-ビス(4-ベンゾイルベンジル)-1,4-ジメチルピペラジンジウム・ジブロマイド(Diphoto-Diquat);ビス(4-ベンゾイルベンジル)ヘキサメチレンテトラミンジウム・ジブロマイド(Diphoto-Diquat);ビス[2-(4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニオ)エチル]-4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)トリブロマイド(Triphoto-Triquat);4,4-ビス(4-ベンゾイルベンジル)モルホリニウム・ブロマイド(Diphoto-Monoquat);エチレンビス[(2-(4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニオ)エチル)-4-ベンゾイルベンジルメチルアンモニウム]テトラブロマイド(Tetraphoto-Tetraquat);1,1,4,4-テトラキス(4-ベンゾイルベンジル)ピペラジンジウム・ジブロマイド(Tetraphoto-Diquat);および、N,N-ビス[2-(4-ベンゾイルベンジルオキシ)エチル]-2-アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩(Diphoto-Monosulfonate)、ならびに、それらの(代替的な対イオンを有するものを含む)類似物、の群から選択される。本明細書中において“Diphoto-Diquat”などの語句は、試薬の分子当たりの(たとえば光活性化可能な原子団[photo group]、第四アンモニウム基[quaternary ammonium group]などの)夫々の原子団の個数を要約すべく用いられる。
【0076】
光活性化可能な原子団は、適用された特定の紫外もしくは可視の外部光源に応答し、たとえば同一のもしくは異なる分子により提供される近傍の化学構造に対する結果的な共有結合となる活性種の生成を行う。光活性化可能な種とは、分子における原子団であって貯蔵条件下では共有結合を不変のまま維持するが、適用された特定の紫外もしくは可視の外部光源により活性化されると同時に他の分子と共有結合を形成するという原子団である。
【0077】
光活性化可能な原子団は電磁エネルギの吸収時に、遊離基の如き、および、特にニトレン、カルベンおよび励起状態のケトンの如き活性種を生成する。光活性化可能な原子団は電磁スペクトルの種々の部分に応ずるべく選択され得ると共に、スペクトルの紫外および可視部分に応答する光活性化可能な種が利用され且つ本明細書中では“光化学的な原子団(photochemical group)”または“光原子団(photogroup)”とも称され得る。
【0078】
アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アントロン、および、アントロン状複素環式化合物(すなわち10位置にN、OもしくはSを有する如きアントロンの複素環式類似物)、または、それらの(たとえば環置換された)置換誘導体などの、光活性化可能なアリールケトンが使用され得る。斯かるアリールケトンの例としては、アクリドン、キサントンおよびチオキサントンなどのアントロンの複素環式誘導体、および、それらの環置換誘導体が挙げられる。一定の実施例においては、約360nmより大きな励起エネルギを有するチオキサントンおよびその誘導体が利用される。
【0079】
斯かるケトン類の官能基は、本明細書中に記述された活性化/非活性化/反応サイクルを容易に受け得る。ベンゾフェノンは代表的な光活性化可能部分である、と言うのも、それは、三重項状態への項間交差を行う励起一重項状態での初期形成により光化学的励起を受け得るからである。励起三重項状態によると、(たとえばデバイス表面からの)水素原子の引抜きにより炭素−水素結合内に挿入が行われることから、遊離基の対が生成され得る。引き続いて遊離基の対が崩壊すると、新たな炭素−炭素結合が形成される。もし(たとえば炭素−水素などの)反応性結合が結合のために利用可能でなければ、紫外光により誘起されたベンゾフェノン基の励起は可逆的であり且つ分子は上記エネルギ源の除去時に基底状態のエネルギ準位に戻る。ベンゾフェノンおよびアセトフェノンなどの光活性化可能なアリールケトンは特に重要である、と言うのも、これらの基は水中で複数回の再活性化に委ねられることから高い被覆効率を提供するからである。
【0080】
上記光活性化可能な化合物は典型的には0.1〜5mg/mlの範囲で使用される。上記光活性化可能な化合物に対する溶媒としては、水、アルコール、他の適切な溶媒およびそれらの混合物が挙げられ、且つ、グラフト/被覆処置に委ねられるデバイスに対して適合するものである。上記光活性化可能な化合物を含む溶液は、デバイスを被覆するに十分な量にて容器14内に加えられ得る。
【0081】
デバイスを覆うに十分な量の光活性化可能な化合物を含む溶液により容器14が充填されたなら、該容器14はコンベア軌道16上で照射ステーション32へと移動され得る。コンベア軌道16は特定速度にて動作され得ることから、上記デバイスは上記光活性化可能な化合物を含む上記溶液内に、放射線源に対する露出に先立ち所定時間に亙り浸漬される。
【0082】
照射ステーション32においては、光活性化可能な化合物の溶液の存在下で上記デバイスの照射が実施される。容器14は、放射線遮蔽材52が上昇位置に在るときに照射ステーション32まで搬送される。たとえば、照射ステーション32におけるセンサであってコンベア軌道16を一時休止させるセンサによる、または、コンベア軌道16が所定距離だけ進行すると共に照射ステーション32と容器14との位置決めを連携調整する様に該コンベア軌道16を設定することによる任意の適切な機構により、容器14は照射ステーション32により適切に載置され得る。次に放射線遮蔽材52は下降されて容器14を囲繞し得る。次に放射線電源44が起動されることで、放射線放出器40を介して光が提供される。
【0083】
容器14内のデバイスは、光活性化可能な化合物を活性化してデバイスに対して共有結合させるに適した時間量に亙り照射され得る。提供される所定量の紫外光は上記光活性化可能な化合物上における少なくとも一個の光活性化可能な原子団を活性化し、活性化された光活性化可能な原子団は上記物質の表面と反応して共有結合を形成する。結合された光活性化可能な化合物の光活性化可能な原子団であって活性化され乍らも反応しない光活性化可能な原子団は基底状態に戻り得ると共に、照射により引き続いて活性化され得る。典型的に、デバイスは1〜3分の期間に亙り1〜3mW/cm2の線量にて照射される。デバイスは典型的に、光出力部から約10.16〜30.48cm(約4〜12 inchs)の距離に維持される。概略的にデバイスは過剰な照射に委ねられるべきでない、と言うのも、デバイスの材料が変質されてその構造が変化し得るからである。
【0084】
照射に続き、容器14は照射ステーション32から移動されまたは其処に維持され得る。一実施例において容器14は照射ステーション32に維持されると共に、放射線放出器40を作動停止位置(off)として、重合可能な化合物を含む溶液が上記容器内に手動的に加えられる。上記重合可能な化合物を加えた後、上記溶液から酸素の大部分をパージするに十分な期間に亙り該溶液を通して不活性気体がバブリングされる。この時間は約10分以上とされ得る。パージの後、放射線放出器40が起動(onに)される。
【0085】
光活性化可能な化合物がデバイスに対して共有結合した後、一定の実施例において溶液は容器14から除去される。上記溶液は、たとえば容器14を上記装置から取り外して該溶液を傾瀉することにより手動的に除去され得るか、または、溶液保守ステーション60を用いて除去され得る。デバイスに対する光活性化可能な化合物の結合に続き、容器14はたとえばコンベア軌道16を介して照射ステーション32から離間して溶液保守ステーション60まで搬送され得ると共に、其処で溶液が除去され得る。容器14は液体供給ポート40に対して接続され得ると共に、上記溶液は第1リザーバ72内へとリサイクルされ得るか又は廃棄され得る。
【0086】
一定の実施例においてデバイスは、該デバイスに対して光活性化可能な化合物を結合した後で洗浄され得る。一実施例においては、容器14が溶液保守ステーション60に対して接続されたとき、第2リザーバ78からは容器14内へと洗浄溶液が圧送され得る。上記洗浄溶液は、デバイスおよび容器14から過剰な未結合の光活性化可能な化合物を除去するに適した任意の液体とされ得る。上記洗浄溶液は次に廃棄され得るか、第2リザーバ78内へとリサイクルされ得る。洗浄プロセスは、1回以上反復され得る。別実施例において上記洗浄段階は手動的に実施され得る。
【0087】
光活性化可能な化合物がデバイスに対して結合された後、該デバイスを含む容器14内へと、重合可能な化合物を含む溶液が加えられ得る。一定の実施例において上記溶液は、たとえば該溶液を容器14に加えると共に該溶液を傾瀉することで手動的に加えられ得る。他の実施例において上記溶液は、容器14が溶液保守ステーション60に対して接続されたときに該溶液保守ステーション60を用いて加えられ得る。重合可能な化合物を含む溶液は、第3リザーバ82から容器14内へと圧送され得る。重合可能な化合物を含む上記溶液は、デバイスを覆うに十分な量にて容器14内に加えられ得る。
【0088】
重合可能な化合物を含む溶液を加えた後で又はその間に、容器14を通して気体がバブリングされ得る。上記溶液を含む容器14内へと気体供給ライン24からの気体が流れるのを許容すべく、バルブ・スィッチ36が作動され得る。本発明に依れば、上記溶液から酸素をパージするに十分な量にて気体が容器14にバブリングされる。上記溶液は、上記重合可能な化合物の重合が阻害されないレベルまで該溶液内の酸素含有量を減少するに十分な時間量だけパージされ得る。容器14は、上記溶液を通して気体がバブリングされている間にコンベア軌道16上で搬送され得る。コンベア軌道16の速度は、デバイスが照射される前に十分な時間量に亙り上記溶液を通して気体がバブリングされる様に制御され得る。
【0089】
照射ステーション32にては、上記重合可能な化合物の溶液の存在下におけるデバイスの照射も実施される。この段階の間においては、上記容器内の溶液を通して気体が連続的にバブリングされ得る。容器14内のデバイスは、結合された光活性化可能な化合物の反応的で光活性化可能な原子団を活性化すると共にデバイスの表面上にて重合可能な材料の重合を引き起こすに十分な時間量に亙り照射され得る。
【0090】
上記重合可能な化合物は、使用されるグラフト開始剤(grafting initiator)に依存して0.1〜100%の範囲の濃度で上記容器に対して提供される。上記溶液に対する溶媒は典型的には水である。重合を促進するために投入されるエネルギの量は典型的には、上記グラフト開始剤をデバイスに対して結合させる段階よりも多い。照射時間は約1〜5分である。
【0091】
重合可能な材料によりデバイスを被覆した後、該重合可能な材料を含む上記溶液は溶液リザーバへとリサイクルされ得るか又は廃棄され得る。
【0092】
当業者であれば、記述された実施例において本発明の範囲から逸脱せずに多くの変更が為され得ることは明らかであろう。故に本発明の範囲は、本出願において記述された実施例に限定されるのではなく、各請求項の文言により記述された実施例および該実施例の均等物によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、本発明の実施形態に従い作成された被覆装置を示す図である。
【図2】図2は、図1の被覆装置の気体供給源を示す図である。
【図3】図3は、図1の被覆装置の容器を示す図である。
【図4】図4は、図1の被覆装置の照射ステーションを示す図である。
【図5】図5は、図1の被覆装置の溶液保守ステーションを示す図である。
【図6】図6は、図1の被覆装置の代替的な溶液保守ステーションを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)各々が、i)対象物および、ii)溶液を保持すべく構成された複数個の容器と、
b)上記複数個の容器と連通されて該複数個の容器に対して気体を供給すべく配置された気体供給源と、
c)上記対象物および溶液を含む上記各容器を照射すべく配置された少なくとも一台の照射ステーションと、
d)コンベア機構とを備え、
上記複数個の容器は上記コンベア機構に取付けられ且つ該コンベア機構は上記各容器を上記照射ステーションに対し且つ該照射ステーションから導向する、
対象物を被覆する装置。
【請求項2】
前記複数個の容器に対して前記溶液を充填し又はそれらから排出すべく配置された少なくとも一台の溶液保守ステーションを更に備えて成る、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記複数個の容器は透光性材料を含む、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記透光性材料はガラスである、請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記容器は、前記気体供給源から該容器内への気体の流れを調整すべく配置されたバルブを備えて成る、請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記バルブは更に、前記容器に対する前記溶液の流入および流出を調整すべく配置される、請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記気体供給源は、気体タンクと、圧力調整器と、当該気体供給ラインの各々が上記気体タンクから夫々の容器に対して気体を提供するという少なくとも一本の気体供給ラインとを備えて成る、請求項1記載の装置。
【請求項8】
前記照射ステーションは紫外光源を備えて成る、請求項1記載の装置。
【請求項9】
前記照射ステーションは放射線遮蔽デバイスを更に備え、且つ、前記紫外光源は上記放射線遮蔽デバイス内の前記容器に対して紫外光を送給すべく配置される、請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記放射線遮蔽デバイスは該放射線遮蔽デバイス内の光を反射して分散させるべく配置された反射的内側部を有する、請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記照射ステーションは、前記容器の回りで前記放射線遮蔽デバイスおよび前記紫外光源が昇降されるのを許容する昇降機構を更に備えて成る、請求項9記載の装置。
【請求項12】
前記コンベア機構は、前記容器が前記照射ステーションもしくは前記流体保守ステーションの近傍である時点を検出すべく配置されたセンサを備えて成る、請求項2記載の装置。
【請求項13】
前記溶液保守ステーションは、前記容器に対して溶液を送給し又は該容器から溶液を引出す少なくとも一本の液体供給ラインを備えて成る、請求項2記載の装置。
【請求項14】
前記液体供給ラインはポンプと溶液貯蔵器とに対して流体接続される、請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記溶液保守ステーションは、前記容器上の液体供給ポートに対して前記液体供給ラインの連結を許容する連結機構を更に備えて成る、請求項13記載の装置。
【請求項16】
前記コンベア機構、前記気体供給源および前記照射ステーションはコンピュータ式制御ユニットにより制御される、請求項1記載の装置。
【請求項17】
前記容器は、圧力バルブを備える取り外し可能な蓋部を備えて成る、請求項1記載の装置。
【請求項18】
前記溶液保守ステーションは、少なくとも一個の光開始剤原子団(photoinitiator group)を備える非ポリマ性のグラフト開始剤を含む第1溶液を収容する第1溶液リザーバを備えて成る、請求項2記載の装置。
【請求項19】
前記非ポリマ性のグラフト開始剤は、
a)テトラキス (4-ベンゾイルベンジルエーテル)、ペンタエリトリトールのテトラキス(4-ベンゾイルベンゾエートエステル)、および、テトラフェニルメタンのアシル化誘導体;
b)4,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1,3-二スルフォン酸二カリウム塩、2,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1,4-二スルフォン酸二カリウム塩、および、2,5-ビス(4-ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン-1-スルフォン酸一(もしくは二)ナトリウム塩;および、
c)エチレンビス(4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)ジブロマイド(Diphoto-Diquat);ヘキサメチレンビス(4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)ジブロマイド(Diphoto-Diquat);1,4-ビス(4-ベンゾイルベンジル)-1,4-ジメチルピペラジンジウム・ジブロマイド(Diphoto-Diquat);ビス(4-ベンゾイルベンジル)ヘキサメチレンテトラミンジウム・ジブロマイド(Diphoto-Diquat);ビス[2-(4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニオ)エチル]-4-ベンゾイルベンジルメチルアンモニウム・トリブロマイド(Triphoto-Triquat);4,4-ビス(4-ベンゾイルベンジル)モルホリニウム・ブロマイド(Diphoto-Monoquat);エチレンビス[(2-(4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニオ)エチル)-4-ベンゾイルベンジルメチルアンモニウム]テトラブロマイド(Tetraphoto-Tetraquat);1,1,4,4-テトラキス(4-ベンゾイルベンジル)ピペラジンジウム・ジブロマイド(Tetraphoto-Diquat);および、N,N-ビス[2-(4-ベンゾイルベンジルオキシ)エチル]-2-アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩(Diphoto-Monoquat)、ならびに、それらの類似物;
から選択される、請求項18記載の装置。
【請求項20】
前記溶液保守ステーションは、重合可能モノマを含む第2溶液を収容する第2溶液リザーバを備えて成る、請求項18記載の装置。
【請求項21】
前記重合可能モノマは、
a)アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-ビニルピロリジノン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートもしくはメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート、および、グリセロールモノアクリレートから選択される中性の親水性モノマ;
b)アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、AMPS(アクリルアミドメチルプロパン・スルホン酸)、ビニル・リン酸、ビニル安息香酸から選択される負に帯電した親水性の機能性モノマ;および、
c)3-アミノプロピルメタクリルアミド(APMA)、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレートから選択される正に帯電したモノマ;および、それらの組み合わせ、
から選択される、請求項20記載の装置。
【請求項22】
前記溶液保守ステーションは、重合可能マクロマを含む第2溶液を収容する第2溶液リザーバを備えて成る、請求項18記載の装置。
【請求項23】
前記重合可能マクロマは、ポリ(エチレングリコール)モノメチルアクリレート、メトキシポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)モノアクリレート、モノメチルアクリルアミドポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリルアミド-co-3-メタクリルアミドプロピルアクリルアミド)、ポリ(ビニルアルコール)モノメタクリレート、ポリ(ビニルアルコール)モノアクリレート、および、ポリ(ビニアルコール)ジメタクリレートから成る群から選択される、請求項22記載の装置。
【請求項24】
前記溶液保守ステーションは、洗浄溶液である第3溶液を含む第3溶液リザーバを備えて成る、請求項18記載の装置。
【請求項25】
1)対象物を容器内に載置する段階と、
2)少なくとも一個の光開始剤原子団(photoinitiator group)を備える非ポリマ性のグラフト開始剤を含む第1溶液を、該第1溶液により上記対象物を囲繞するに十分なだけ、上記容器に充填する段階と、
3)上記第1溶液および上記対象物を含む上記容器を照射する段階であって、該照射は上記対象物に対する上記グラフト開始剤の結合に帰着するという段階と、
4)上記容器から上記溶液を除去する段階と、
5)重合可能モノマを含む第2溶液を、該第2溶液により上記対象物を囲繞するに十分なだけ、上記容器に充填する段階と、
6)上記第2溶液を含む上記容器に対して気体を提供する段階であって、該提供段階は上記容器の底部から上記溶液を通して気体をバブリングさせる段階を備え、且つ、該提供段階は上記溶液内の非不活性気体の大部分を除去するという提供段階と、
7)上記第2溶液および上記対象物を含む上記容器を照射する段階であって該照射は上記対象物上におけるポリマ層の形成に帰着するという段階と、
8)上記容器から上記対象物を取り出す段階とを備えて成る、
対象物を被覆する方法。
【請求項26】
前記対象物を洗浄する少なくともひとつの段階を更に備えて成る、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記容器を第1溶液で充填する前記段階、上記第1溶液を除去する前記段階、および、上記容器を第2溶液で充填する段階は溶液保守ステーションにて実施される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
前記照射段階は紫外光を備える照射ステーションにて実施される、請求項25記載の方法。
【請求項29】
前記照射ステーションは放射線遮蔽デバイスを更に備えて成る、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記照射段階においては前記容器の回りに放射線遮蔽デバイスおよび前記紫外光源が載置され、上記放射線遮蔽デバイス内において上記容器に対し紫外光が送給される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記第2溶液を含む前記容器を照射する前記段階は、上記容器に対して気体を提供する前記段階の間に実施される、請求項25記載の方法。
【請求項32】
前記容器を搬送する段階を更に備えて成る、請求項25記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−518278(P2006−518278A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503609(P2006−503609)
【出願日】平成16年2月17日(2004.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/004486
【国際公開番号】WO2004/073885
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(500064890)サーモディックス,インコーポレイティド (15)
【Fターム(参考)】