説明

グリーンコンポジットの成形方法

【課題】天然繊維強化熱可塑性樹脂であって、かつ強度の高い板状FRTPを工業的に有利に提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を、天然繊維の織布とともに引抜き成形することにより得られる天然繊維強化熱可塑性樹脂板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維を用いた繊維強化熱可塑性樹脂板及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化熱可塑性樹脂(FRTP)は、熱可塑性樹脂を強化用繊維で補強して強度を向上させた複合材であり、熱硬化性樹脂を強化用繊維で補強した繊維強化熱硬化性樹脂では困難なリユース、リサイクル及び2次加工が可能となること等から、近年、種々の用途に用いられている。
一方、近年、ケナフ繊維に代表される天然繊維で熱可塑性樹脂を補強した天然繊維強化熱可塑性樹脂が開発されている(特許文献1〜3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−219812号公報
【特許文献2】特開2005−105245号公報
【特許文献3】国際公開WO2009/072499号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの天然繊維強化熱可塑性樹脂の製造法としては、連続生産ができること、品質が均一であること、樹脂を予め成形しておく必要がないことなどから、加熱成形よりも引抜き成形によるのが望ましい。ところが、従来の天然繊維強化熱可塑性樹脂の引抜き成形においては、引抜き成形装置の樹脂含浸部に強化用繊維を引き込み、強化用繊維に加熱溶融された樹脂を含浸させ、その後加熱された金型内部に引き込みつつ引抜きながら複合材を成形するものであるため、得られる強化樹脂は細い線状である。得られた細い線状の強化樹脂の強度は一方向のみが強化されているだけであるから、これを同方向に複数本積層して板状とし、さらにこの板を3方向以上に積層することにより、あらゆる方向の強度が強化された成形体を得る必要がある。
従って、本発明の課題は、天然繊維強化熱可塑性樹脂であって、かつ強度の高い板状FRTPを工業的に有利に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、かかる課題を解決すべく検討した結果、天然繊維をそのまま用いるのではなく、天然繊維の織布を強化材料として採用して熱可塑性樹脂を引抜き成形すれば、一回の引抜き成形で幅が広く、かつ2方向の強度が高くなった天然繊維強化熱可塑性樹脂板が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂を、天然繊維の織布とともに引抜き成形することにより得られる天然繊維強化熱可塑性樹脂板を提供するものである。
また、本発明は、上記の天然繊維強化熱可塑性樹脂板を積層することにより得られる天然繊維強化熱可塑性樹脂成形体を提供するものである。
さらに本発明は、熱可塑性樹脂を、天然繊維の織布とともに引抜き成形することを特徴とする天然繊維強化熱可塑性樹脂板の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一回の引抜き成形により、2方向の強度が高まった、幅の広い天然繊維強化熱可塑性樹脂板が得られる。また、天然繊維を使用し、かつ熱可塑性樹脂板であることから、リサイクル、リユース、2次加工が可能であるとともに、環境循環型複合材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の引抜き成形装置の一形態を示す図である。
【図2】ケナフ繊維の織物の形態を示す写真である。
【図3】ケナフ繊維織物強化ポリブチレンサクシネート(PBS)板の形態を示す写真である。
【図4】ケナフ繊維の織物強化ポリプロピレン板の形態を示す写真である。
【図5】ポリプロピレン(PP)とポリブチレンサクシネート(PBS)の加熱温度とMFRとの関係を示す図である。
【図6】実施例3で用いた引抜き成形機の概略図である。
【図7】PBS1020(商標)とPBS1050(商標)のMFRを示す図である。
【図8】実施例3で得られたFRTP板の形態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いられる樹脂は、熱可塑性樹脂である。本発明においては、熱硬化性樹脂ではなく、熱可塑性樹脂を用いるため、リサイクル、リユース、2次加工が容易である。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂;ポリスチレン;ポリメタクリレート、ポリアクリレート等のアクリル樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂;ポリアセタール樹脂;ABS樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
このうち、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂がより好ましい。上記ポリオレフィンのなかではポリプロピレンがより好ましい。
【0010】
一方、ポリエステル樹脂のなかでは、生分解性を有するポリエステル樹脂(以下、単に「生分解性樹脂」ともいう)が好ましい。生分解性樹脂としては、(1)乳酸、リンゴ酸、グルコース酸及び3−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体、並びに、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体、などのヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、(2)ポリカプロラクトン、及び、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体、などのカプロラクトン系脂肪族ポリエステル、(3)ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート及びポリブチレンアジペート、などの二塩基酸ポリエステル、等が挙げられる。
これらの生分解性樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、上記乳酸にはL−乳酸及びD−乳酸を含むものとし、これらの乳酸は単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0011】
本発明に用いられる天然繊維としては、植物性繊維が好ましく、植物性繊維として、ケナフ、マニラ麻、サイザル麻、ジュート麻、綿花、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)及び広葉樹などの植物から得られる繊維(木質性及び非木質性を問わず、さらには、採取部位を問わない)が挙げられる。これらの植物性繊維は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0012】
このうち、成長が速い点及び比重が小さく強靭な長繊維が得られる点から、ケナフ繊維が好ましい。ケナフには、紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻、ボンベイ麻が含まれる。
【0013】
本発明に用いられる天然繊維の大きさ及び形状は特に限定されず、単繊維であるが、撚り糸状につなぎ、みかけ状連続繊維であるものが好ましい。
通常、繊維径は1mm以下である。この繊維径は0.1〜1mmが好ましく、0.1〜0.7mmがより好ましく、0.3〜0.5mmが特に好ましい。尚、上記繊維径は平均繊維径である。
【0014】
本発明において天然繊維は、そのまま使用されるのではなく、織布の形態で引抜き成形に使用される。織布構造としては、平織り、綾織り、朱子織り等が挙げられるが、平織りが二方向の強度が高くなる点で好ましい。
【0015】
織布の厚さは、特に制限されないが、1mm以下が好ましい。下限は特に制限されず、0.1mm以上であるのが好ましい。一方、織布の幅は均一な引抜き性を考慮すると30000mm以下、特に1000mm以下であるのが好ましい。
【0016】
本発明の天然繊維強化熱可塑性樹脂板(以下、本発明FRTP板ともいう)における天然繊維と熱可塑性樹脂の割合は、天然繊維の割合が20〜70体積%、さらに25〜65体積%、特に30〜60体積%が好ましい。
【0017】
また、本発明のFRTP板には、剛性向上、耐熱性の点から、無機物粒子を添加することができる。無機物粒子としては、層状の鉱物ケイ酸塩の微粒子が好ましく、特にナノクレイ(層状の鉱物ケイ酸塩のナノ粒子)が好ましい。より具体的には、モンモリロナイト、ベントナイト、カオリナイト、ヘクトライト、ハロイサイト等の微粒子、特にナノ粒子が好ましい。これらの無機物粒子の平均粒子径は10nm〜10,000nmが好ましい。また、これらの無機物微粒子の含有量は、本発明FRTP中に0.5〜10質量%、さらに0.5〜5質量%であるのが好ましい。
【0018】
本発明FRTP板は、引抜き成形により製造される。すなわち、図1のように引抜き成形装置の樹脂含浸部に天然繊維の織布を引き込み、当該織布に樹脂液を含浸させ、加熱された金型内部に引き込みつつ引き抜きながら成形することにより製造される。樹脂は、織布全体に均一に含浸させる必要性から、予め押出し成形装置内で加熱して、織布に供給するのが好ましい。押出成形装置としては二軸押出成形装置が好ましい。引き抜き装置は、織布を均一に引き取ることができるローラー式成形機を用いるのが好ましい。
【0019】
本発明のFRTP板においては、織布を引き抜くという方式を採用するため、含浸の均一性及び引き取りの均一性を十分考慮する必要がある。樹脂液の粘度が高い場合には、含浸及び引き取りが均一にならないため、金型の両側に撚れが生じたり、各所に孔が生じることがある。かかる欠点を克服するためには、供給する樹脂液の粘度を引抜き速度に応じて十分低下させることが好ましい。好ましい樹脂液の粘度は、メルトフローレイト(JIS K7210に準拠したメルトインデクサーを用いてB法で測定)が、40〜400g/10minであるのが好ましく、さらに100〜400g/10minであるのが好ましい。
【0020】
このような低粘度の樹脂液を調製するには、樹脂の種類により異なるが、押出成形装置内で樹脂を200〜500℃程度に加熱するのが好ましい。また、粘度が低下し難い樹脂の場合には、樹脂に水分を供給した後、押出成形装置内で樹脂を200〜500℃に加熱する操作を1〜5回行うのが好ましい。
【0021】
本発明のFRTP板は、原料として天然繊維の織布を使用しているため、二方向の強度が向上しており、かつ幅広い板状体であるため、これを複数方向に積層すれば、全方向の強度が向上した形成体を製造することができる。本発明のFRTP板又は成形体は、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等として用いられる。このうち自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等が挙げられる。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー、スペアタイヤカバー及びカウリング等が挙げられる。さらに、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材が挙げられる。すなわち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
実施例1
図1の引抜き成形機を用い、図2に示したケナフ繊維の織布(幅150mm、厚さ1mm)を用いて、ポリブチレンサクシネート(PBS)を母材とする引抜き成形を行った。引抜き速度は70mm/min、二軸押出機の樹脂温度190℃で引抜きを行った。得られたFRTP板の繊維体積含有率(Vf)は、21〜26%であった。
得られた樹脂板の写真を図3に示す。
(a)は引抜き材全体を撮影した写真である。引取り機により引き取られる繊維と直角方向の横糸が撚れていることを確認できる。この現象は金型壁面近くの横糸が撚れ始め、次第に大きな撚れとなる。樹脂を流さずに成形を行った場合にはこの現象は確認されない。金型壁面近くで生じる抵抗によって金型内で速度分布が生じ、繊維が撚れたものと考えられる。
(b)は引抜き材の繊維体積含有率を増加させるために引抜き材に含浸させる樹脂量を調節しながら成形を行ったものである。引抜き材の表面には各所に孔が見られ、織物表面の樹脂量が不均一であることが観察される。用いたPBS(PBS1020(商標)(昭和電工)製)の溶融粘度が高いために未含浸部分が生じたものと思われる。
【0024】
そこで、PBSの粘度を下げる手法を試みた。具体的には予め水分を吸水させたPBSを用いて二軸押出し成形により高負荷でペレットを作製した。通常の押出し成形に加え、水分を予め吸水させた樹脂を用いることで加水分解を促進させ、より短時間で樹脂粘度を低下させた。PBSは約50時間水に浸漬させることで飽和に達している。ここでは、約72時間浸漬させた吸水ペレットを用いて実験を行った。
二軸押出し機のバレル温度を125℃に設定し、押出機のスクリュー回転数を400rpm、600rpm、800rpmの3つの条件でペレットを作製した。それぞれのペレットの粘度(MFR)はメルトインデクサーを用いて測定した。
PBSのMFRはスクリュー回転数の増加に伴い増加する傾向を示した。スクリュー回転数の違いによる大きな差はないが、最も高く設定した800rpmにおいてMFRは最大となり、高負荷で押出成形を行うことによって樹脂粘度を下げることが可能であることを確認した。
【0025】
実施例2
樹脂としてポリプロピレン(PP)を用い、実施例1と同様にして、ケナフ繊維織物強化ポリプロピレンを製造した。
【0026】
図4にPPを用いて作製した引抜き材の写真を示す。端部の撚れは最小限に抑えられており、また時間の経過に伴い繊維の撚れが助長することもなかった。この引抜き材はバレル温度を300℃に設定して成形を行ったものである。図5より、300℃でのPPのMFRは214〜365g/10minである。
【0027】
実施例3
図6の引抜き成形機(図1に比べて、繊維に対するガイド及びローラーが付加してある)を用い、ポリブチレンサクシネートとしてPBS1050(商標)(昭和電工製)を用いて、実施例1と同様の条件で引抜き成形を行った。得られたFRTP板を4枚重ねてホットプレス成型し、積層型の繊維体積含有率(Vf)38%のFRTP板を得た。用いたPBS1050(商標)とPBS1020(商標)とMFRの比較を図7に示す。また、得られたFRTP板の写真を図8に示す。図8から端部の撚れもないことがわかる。
また実施例1及び3で得られたFRTP板の引張り強度(MPa)、ヤング率(GPa)及び破損強度(%)を表1に示す。なお、実施例1のFRTP板も積層してVfを38%にしたものを用いた。
【0028】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を、天然繊維の織布とともに引抜き成形することにより得られる天然繊維強化熱可塑性樹脂板。
【請求項2】
天然繊維の織布が、植物性繊維の織布である請求項1記載の天然繊維強化熱可塑性樹脂板。
【請求項3】
天然繊維の織布が、ケナフ繊維の織布である請求項1記載の天然繊維強化熱可塑性樹脂板
【請求項4】
引抜き成形機に供給する樹脂液の粘度が100〜400g/10minである請求項1〜3のいずれか1項記載の天然繊維強化熱可塑性樹脂板。
【請求項5】
熱可塑性樹脂を、天然繊維の織布とともに引抜き成形することを特徴とする天然繊維強化熱可塑性樹脂板の製造法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の天然繊維強化熱可塑性樹脂板を積層することにより得られる天然繊維強化熱可塑性樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−6371(P2012−6371A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245803(P2010−245803)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年11月25日「11 th JAPAN INTERNATIONAL SAMPE SYMPOSIUM & EXHIBITION PROGRAM」に発表 2009年11月27日「第11回 SAMPE先端材料技術国際会議・展示会」に文書をもって発表 平成21年12月5日「第42回(平成21年度)日本大学生産工学部学術講演会」に文書をもって発表 平成21年12月5日「第42回(平成21年度)日本大学生産工学部学術講演会 機械部会 講演概要集」に発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】